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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】設計プログラム、及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20230523BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20230523BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G06F30/10
C30B29/16
C30B29/38 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019154807
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021033768
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】穴澤 俊久
(72)【発明者】
【氏名】今中 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】下川 聡
(72)【発明者】
【氏名】大島 弘敬
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-195603(JP,A)
【文献】特開2015-109084(JP,A)
【文献】国際公開第2007/071095(WO,A1)
【文献】川名 学、島田 和宏、宮崎 道雄,遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算に基づく結晶構造予測における初期構造探索,電気学会論文誌C,日本,2014年12月01日,pp.1834-1839
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
C30B 29/16
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計プログラムであって、
コンピュータに、下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めさせることを含むことを特徴とする設計プログラム。
【数1】
【数2】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数3】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数4】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
【請求項2】
前記Aサイトのイオンの種類、及び前記Bサイトのイオンの種類を、それぞれ、1又は複数の特定のイオンに定めて、前記基底状態探索を実行する、請求項1に記載の設計プログラム。
【請求項3】
前記ABXが、ABO3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)で表される、請求項1から2のいずれかに記載の設計プログラム。
【請求項4】
コンピュータを用いて、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計方法であって、
下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めることを含むことを特徴とする設計方法。
【数5】
【数6】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数7】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数8】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
【請求項5】
前記Aサイトのイオンの種類、及び前記Bサイトのイオンの種類を、それぞれ、1又は複数の特定のイオンに定めて、前記基底状態探索を実行する、請求項4に記載の設計方法。
【請求項6】
前記ABXが、ABO3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)で表される、請求項4から5のいずれかに記載の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、ペロブスカイト型結晶構造の組成の設計プログラム、及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型結晶構造の材料は、組成により、強誘電性を始めとした様々な物性を示す。そこで、ペロブスカイト型結晶構造の材料は、蓄電器、記憶素子などの電子部品に応用されている。また、最近では、ペロブスカイト型結晶構造の材料を用いた光電池なども開発されている。
【0003】
ペロブスカイト型結晶構造では、Aサイト及びBサイトにカチオンが位置し、アニオンサイトにアニオンが位置する(図1)。ここで、結晶が安定して存在するためには、各サイトのイオンの大きさが特定の関係を満たさなければならない。そして、ペロブスカイト型結晶構造の幾何学的歪みを表す量は、以下の許容因子(t)で定義される(非特許文献1参照)。
【数1】
【0004】
ここで、r、r、及びrは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表す(図2A及び図2B)。そして、正方晶の場合は、許容因子(t)が1のときに最安定となることが知られている。
なお、イオン半径は、ほとんどの元素のイオン種について価数と配位数ごとに公知データがあり、それを利用することができる(例えば、非特許文献2、及び3参照)。
【0005】
前述の通り、ペロブスカイト型結晶構造は、組成により物性が大きく変化する材料である。また、ペロブスカイト型結晶構造は、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイト共に様々なイオンと置換可能であり、複数のペロブスカイト材料の固溶体(あるいは混晶)を構成することで物性の調整を行うことができる。具体的には、代表的な強誘電体材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)は、Aサイトが鉛イオンであり、Bサイトがチタンイオンであり、かつアニオンサイトが酸素イオンであるチタン酸鉛のBサイトの一部がジルコンイオンに置換されたものである。こういった固溶体系で許容因子を計算する方法として、一部が置換されたサイトのイオン半径に、組成比で重み付けされた幾何平均を使う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. B. Goodenough and J. M. Longo, Landolt-Bornstein, Mew Series, Group III, Vol. 4a, Springer-Verlag, Berlin, p.126 (1970).
【文献】R.D.Shannon,Acta Crystallographica A32,p.751(1976).
【文献】Y.Q.Jia,Journal of Solid State Chemistry,95,184(1991).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、固溶したい複数のイオン種があって、それを元に許容因子を1にするようなイオン種の組合せと組成とを求める場合は、イオン種と組成とを変えて一つずつ計算していかなければならない。そして、イオン種が増加した場合、固溶比を細かく調整する場合などには、組合せが膨大になり、計算に非常に大きな時間を要する。
【0008】
本件は、安定なペロブスカイト型結晶構造の組成を高速に設計可能なプログラム、及び、安定なペロブスカイト型結晶構造の組成を高速に設計可能な設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
開示の設計プログラムは、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計プログラムであって、
コンピュータに、下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBO(Quadratic unconstrained binary optimization;制約なし二次形式二値最適化)を用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めさせることを含む。
【数2】
【数3】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数4】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数5】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
【0010】
開示の設計方法は、コンピュータを用いて、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計方法であって、
下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めることを含む。
【数6】
【数7】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数8】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数9】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
【発明の効果】
【0011】
開示の設計プログラムによると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安定なペロブスカイト型結晶構造の組成を高速に設計可能な設計プログラムを提供できる。
開示の設計方法によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、安定なペロブスカイト型結晶構造の組成を高速に設計可能な設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ペロブスカイト型結晶構造の原子配置を示す模式図である。
図2A図2Aは、許容因子の式を説明するための図である(その1)。
図2B図2Bは、許容因子の式を説明するための図である(その2)。
図3図3は、開示の設計方法の一例のフローチャートである。
図4図4は、焼き鈍し法に用いる最適化装置(演算部)の概念的構成を示す図である。
図5図5は、遷移制御部の回路レベルのブロック図である。
図6図6は、遷移制御部の動作フローを示す図である。
図7図7は、開示の設計装置の構成例である。
図8図8は、開示の設計装置の他の構成例である。
図9図9は、開示の設計装置の他の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2A及び図2Bに示すペロブスカイト型結晶構造に関し、Aサイト及びBサイトの代表的な元素及び価数は、以下の表1の通りである。
【0014】
【表1】
【0015】
そして、Aサイト、及びBサイトの各元素が1種類のみの場合の簡単な組合せによる、ペロブスカイト型酸化物、ペロブスカイト型酸窒化物のカチオンの組合せ及びその数は、例えば、以下の表2のとおりである。
【0016】
【表2】
【0017】
ここで、表1及び表2において、aは、Aサイトの候補イオン数を表し、bは、Bサイトの候補イオン数を表す。表2及び下記表3において、yは、アニオン(O3-y)におけるyを表す。rは、アニオンサイトのイオン半径を表す。
そして、許容されるカチオンの組合せの総数は、y=0の場合が64、y=1の場合が38、y=2の場合が28、y=3の場合が12であり、それらの総数は、142である。
【0018】
そのため、単純な組成であれば、以下の式において許容因子(t)が1である又は1に使い組合せについて、幾何平均を使う方法でも計算が可能である。
【数10】
【0019】
ここで、r、r、及びrは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表す。なお、最右辺は、r+r=dA-X、及びr+r=dB-Xとしたものである。
【0020】
そうすると、例えば、dA-X、及びdB-Xは、以下の表3の式で表される。
【0021】
【表3】
【0022】
しかし、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイトの少なくともいずれかに複数の元素を導入する場合、並びに固溶比を細かく調整する場合には、組合せが膨大となり、計算に非常に大きな時間を要する。
【0023】
そこで、開示の技術では、許容因子(t)の式の対数をとることにより、ペロブスカイト型結晶構造におけるAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトの安定な組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求める。
そうすることにより、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイトの組合せが膨大な場合でも、幾何平均を使う計算方法よりも、高速に計算を行うことができる。
【0024】
(ペロブスカイト型結晶構造の組成の設計プログラム、及び設計方法)
開示の設計プログラムは、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計プログラムであって、コンピュータに、下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBO(Quadratic unconstrained binary optimization;制約なし二次形式二値最適化)を用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めさせることを含む。
【0025】
開示の設計方法は、コンピュータを用いて、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計方法であって、下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めることを含む。
【0026】
【数11】
【数12】
【0027】
ただし、式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【0028】
【数13】
【0029】
ただし、式(2)、式(3)、及び式(4)中、nは、一般式であるABXにおいて、AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、dA-Xと式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、dB-Xと式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【0030】
【数14】
【0031】
ただし、式(5)、及び式(6)中、nは、式(2)~式(4)中のnと同じである。
【0032】
設計プログラム、及び設計方法においては、例えば、Aサイトのイオンの種類、及びBサイトのイオンの種類を、それぞれ、1又は複数の特定のイオンに定めて、基底状態探索を実行する。
【0033】
ABXにおけるX(アニオン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、O3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)であってもよいし、ハロゲンであってもよい。
Xが、O3-yの場合、ABXは、ABO3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)で表される。
【0034】
一般的に、イジングモデルは、下記のエネルギー関数で表される模型である。
【数15】
【0035】
ここで、σは入力変数を表し、σ∈{-1,+1}である。Jijは、(二体の)相互作用パラメータであり、hは(一体の)パラメータとして磁場と呼ばれる。なお、符号はマイナスを取る場合もある。
ここで、焼き鈍し法による基底状態探索を実行するアニーリングマシンへの入力は、Jij、及びhを与えることにより行われる。これらのパラメータを与えるとマシンがアニーリングを実行し、エネルギーが最小となる組合せσの近似解を出力する。
また、QUBO(Quadratic unconstrained binary optimization;制約なし二次形式二値最適化)は、σ∈{-1,+1}の代わりにビットと相性の良いq∈{0,1}に変数変換したモデルである。
イジングモデルとQUBOとは、単に変数変換〔σ=2q-1、又はq=(σ+1)/2〕しただけで等価である。
【0036】
開示の設計方法の一例について、フローチャートを用いて説明する。
図3は、設計方法の一例のフローチャートである。
設計方法の一例では、まず、許容因子(t)の式の変換を行う(S1)。変換は、式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより行われ、変換後には式(2)が作成される。
次に、式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法(アニーリング法)による基底状態探索を実行することにより求める(S2)。
【0037】
以下に、許容因子(t)の式(1)から式(2)を導く方法の一例を示す。以下の例では、アニオン(X)を「O3-y」としている。
【0038】
許容因子(t)は、以下の式で表される。
【数16】
【0039】
ここで、r、r、及びrは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表す。イオン半径については、ほとんどの元素のイオン種について価数と配位数ごとに公知データがあり、それを利用することができる。例えば、公知データとしては、非特許文献2あるいは3などにより公開されている公知データが挙げられる。
非特許文献2のデータは、http://research.kek.jp/people/hironori/nakao/lab/info/ionradii-ele.html、及びhttp://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~seto/?page_id=51&lang=jaなどにより容易に入手可能である。
非特許文献3のデータは、https://supercon.nims.go.jp/matprop/radion.htmlなどにより容易に入手可能である。
そして、r+r=dA-X、及びr+r=dB-Xとすると、許容因子(t)は、以下の式で表される。
【数17】
【0040】
そして、一般式ABO3-yで表されるペロブスカイト型結晶構造において、AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・On(3-y)ny(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)としたとき、dA-X、及びdB-Xの組成の幾何平均は、それぞれ以下のように表される。
【数18】
【0041】
ただし、Aは、{A,A・・・}から、Aをp個、Aをq個・・・選ぶことを意味する。Bは、{B,B・・・}から、Bをr個、Bをs個・・・選ぶことを意味する。
【0042】
上記を踏まえると、許容因子(t)は、以下の式で表される。
【数19】
【0043】
ここで、安定なペロブスカイト型結晶構造を求めるには、tが1である又は1に近いA及びBの組成を求めることになる。
しかし、イジングモデルで表されるエネルギー関数について基底状態探索を行なうアニーリング方式の計算では、上記式を扱いにくい。
そこで、上記式の対数を取り、以下のようにして、総乗を総和に変換する。
【数20】
【0044】
ここで、下記式(3)、及び式(4)のように定義すると、logtは、下記式(2)で表される。
【数21】
【数22】
【0045】
以上のようにして、許容因子(t)の式(1)から式(2)を導くことができる。
【0046】
そして、A及びBをテーブルにしておき、アニーリング方式の計算により、logtが0となる又は0に近いA及びBの組合せを見つければ、安定なペロブスカイト型結晶構造の組成を求めることができる。
なお、logtが0となる又は0に近い値を求めるため、logの底については、特に問わず、10であってもよいし、eであってもよい。
【0047】
次に、具体例の一つとして、ペロブスカイト型酸化物の安定構造を求める方法について説明する。
前提条件として、求める構造は、ABO型のペロブスカイト型酸化物とする。また、表1におけるAとB5+との組合せの場合とする。この場合、a=4、及びb=4であり、Aサイトの候補イオンの数(a)及びBサイトの候補イオンの数(b)の和(m)は、a+b=8となる。
また、前提条件として、組成を1/10=0.1ずつ変化させる(n=p+q+・・・=r+s+・・・=10)ものとする。そこで、ABOを、A101030とすると、AとB5+との組合せの場合、以下で表すことができる。
【化1】
【0048】
その場合、最適化するためのマトリックスは、各列を各イオン種に対応させ、1~10の行を組成比として、以下の表4で表される。
【0049】
【表4】
【0050】
ここで、xi,j={0,1}に関し、それぞれのイオン(i)の組成(j)を「1」とする。例えば、LiNaNbTa30の場合、表4においてハッチングされている箇所(x1,1、x2,5、x3,4、x5,7、x7,3)のみが「1」となり、他の箇所は「0」となる。
【0051】
一方、表4に、下記式(3)及び式(4)をそれぞれ当てはめると、表5となる。この際、式(2)を考慮して、Bサイトの符号は負にしている。なお、各イオン半径は、非特許文献2の値を用いている。また、この計算では、logの底は、eとしている。
【数23】
【0052】
【表5】
【0053】
そして、目的関数は、以下の式のように表される。
【数24】
【0054】
上記式において、係数のDijはイオン半径の対数から予め計算した数A及びBを並べたものであり、i及びjは表5の行列である。基底状態探索はDの絶対値が0に近づくように行われる。
【0055】
ここで、全体のエネルギー関数には、制約項として、以下の表6で表される各イオン(i列)で、組成(j)を表すビットxi,jは高々1つしか「1」にならないという制約項が加わる。
【0056】
【表6】
【0057】
この制約項Fは、以下の式で表される。
【数25】
【0058】
制約項Fのように定式化することにより、あるイオン種の列で1となるビットが高々1つであることが保証され、そのビットがそのイオン種の組成比を表すと解釈可能となる。
【0059】
更に、全体のエネルギー関数には、制約項として、Aサイト及びBサイトの合計の総カチオン数が既定の値になるという制約項が加わる。
この制約項Gは、以下の式で表される。
【数26】
【0060】
制約項Gのように定式化することにより、Aサイト及びBサイトの合計の総カチオン数がペロブスカイト結晶構造で決まるカチオン数であることを保証される。
【0061】
更に、全体のエネルギー関数には、制約項として、以下の表7で表されるAサイトのカチオン数とBサイトのカチオン数とが等しいという制約項が加わる。
【0062】
【表7】
【0063】
この制約項Hは、以下の式で表される。
【数27】
【0064】
制約項Gにより総カチオン数は保証されるが、Aサイト、及びBサイトそれぞれがペロブスカイト結晶構造で決まるカチオン数であることは保証されない。制約項Hを追加することにより、AサイトとBサイトが同数であることが保証される。
ここで、表7のように、AサイトとBサイトの組成を表す数の符号を逆にした数表を用いることにより、単純にxijが1であるイオン種、及び組成の総和を求め、それが0になる場合にAサイトとBサイトが同数であるという条件を満たすことを保証することが可能となっている。
【0065】
上述した目的関数、及び制約項をまとめると以下のようになる。
【数28】
【0066】
なお、目的関数は、0に近くなるほど好ましい。また、制約項は、0となる。
そして、全体のエネルギー関数(E)は、以下のように表される。
【数29】
【0067】
D、F、G、及びHの各項は全て0以上のため、Eは0以上の値となる。
ここで、α、β、γ、及びδは、制約項と目的関数とのバランスを調整するパラメータであり、適宜設定される。
【0068】
そして、アニーリングによってEの最低値~0となる表4の行列のビットパターンを求めることで、Li、Na、K、及びAgの少なくとも1種以上、並びにNb、Sb、Ta、及びBiの少なくとも1種以上からなる安定な結晶構造のペロブスカイト型酸化物を実現するイオン種とその組成の組合せを高速に設計することが可能となる。
【0069】
なお、具体例では、求める構造について、前提条件として、ABO型のペロブスカイト型酸化物とし、更に、AとB5+との組合せの場合としている。そのため、上記具体例では前提として、電荷がニュートラルとなっている。
一方、前提条件だけでは電荷がニュートラルにはならない場合には、全体のエネルギー関数(E)には、電荷がニュートラルとなるような制約項が追加される。
【0070】
アニーリングマシンとしては、イジングモデルで表されるエネルギー関数について基底状態探索を行なうアニーリング方式を採用するコンピュータであれば、量子アニーリングマシンであっても、半導体技術を用いた半導体アニーリングマシンであっても、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)を用いてソフトウェアにより実行されるシミュレーテッド・アニーリング(Simulated Annealing)の何れであってもよい。
【0071】
以下に、焼き鈍し法、及びアニーリングマシンの一例について説明する。
焼き鈍し法(シミュレーテッド・アニーリング法、SA法)はモンテカルロ法の一種であり、乱数値を用いて確率的に解を求める方法である。以下では最適化したい評価関数の値を最小化する問題を例に説明し、評価関数の値をエネルギーと呼ぶことにする。最大化の場合は、評価関数の符号を変えればよい。
【0072】
各変数に離散値の1つを代入した初期状態からはじめ、現在の状態(変数の値の組み合わせ)から、それに近い状態(例えば1つの変数だけ変化させた状態)を選び、その状態遷移を考える。その状態遷移に対するエネルギーの変化を計算し、その値に応じてその状態遷移を採択して状態を変化させるか、採択せずに元の状態を保つかを確率的に決める。エネルギーが下がる場合の採択確率をエネルギーが上がる場合より大きく選ぶと、平均的にはエネルギーが下がる方向に状態変化が起こり、時間の経過とともにより適切な状態へ状態遷移することが期待できる。そして、最終的には最適解又は最適値に近いエネルギーを与える近似解を得られる可能性がある。もし、これを決定論的にエネルギーが下がる場合に採択とし、上がる場合に不採択とすれば、エネルギーの変化は時間に対して広義単調減少となるが、局所解に到達したらそれ以上変化が起こらなくなってしまう。上記のように離散最適化問題には非常に多数の局所解が存在するために、状態が、ほとんど確実にあまり最適値に近くない局所解に捕まってしまう。したがって、採択するかどうかを確率的に決定することが重要である。
【0073】
焼き鈍し法においては、状態遷移の採択(許容)確率を次のように決めれば、時刻(反復回数)無限大の極限で状態が最適解に到達することが証明されている。
(A)状態遷移に伴うエネルギー変化(エネルギー減少)値(-ΔE)に対して、その状態遷移の許容確率pを次の何れかの関数f()により決める。
【0074】
【数30】
【0075】
【数31】
【0076】
【数32】
【0077】
ここで、Tは、温度値と呼ばれるパラメータで次のように変化させる。
(B)温度値Tを次式で表されるように反復回数tに対数的に減少させる。
【0078】
【数33】
【0079】
ここで、Tは、初期温度値であり問題に応じて十分大きくとることが望ましい。
(A)に記載された式で表される許容確率を用いた場合、十分な反復後に定常状態に達したとすると、各状態の占有確率は熱力学における熱平衡状態に対するボルツマン分布にしたがう。
そして、高い温度から徐々に下げていくとエネルギーの低い状態の占有確率が増加するため、十分温度が下がるとエネルギーの低い状態が得られるはずである。この様子が材料を焼き鈍したときの状態変化とよく似ているため、この方法は焼き鈍し法(または、疑似焼き鈍し法)と呼ばれるのである。このとき、エネルギーが上がる状態遷移が確率的に起こることは、物理学における熱励起に相当する。
【0080】
図4に焼き鈍し法を行う最適化装置(演算部18)の概念的構成を示す。ただし、下記説明では、状態遷移の候補を複数発生させる場合についても述べているが、本来の基本的な焼き鈍し法は遷移候補を1つずつ発生させるものである。
【0081】
最適化装置100には、まず現在の状態S(複数の状態変数の値)を保持する状態保持部111がある。また、複数の状態変数の値の何れかが変化することによる現在の状態Sからの状態遷移が起こった場合の、各状態遷移のエネルギー変化値{-ΔEi}を計算するエネルギー計算部112がある。そして、最適化装置100には、温度値Tを制御する温度制御部113、状態変化を制御するための遷移制御部114がある。
【0082】
遷移制御部114は、温度値Tとエネルギー変化値{-ΔEi}と乱数値とに基づいて、エネルギー変化値{-ΔEi}と熱励起エネルギーとの相対関係によって複数の状態遷移の何れかを受け入れるか否かを確率的に決定するものである。
【0083】
遷移制御部114をさらに細分化すると、遷移制御部114は、状態遷移の候補を発生する候補発生部114a、各候補に対して、そのエネルギー変化値{-ΔEi}と温度値Tとから状態遷移を許可するかどうかを確率的に決定するための可否判定部114bを有する。さらに、可となった候補から採用される候補を決定する遷移決定部114c、及び、確率変数を発生させるための乱数発生部114dを有する。
【0084】
一回の反復における動作は次のようなものである。まず、候補発生部114aは、状態保持部111に保持された現在の状態Sから次の状態への状態遷移の候補(候補番号{Ni})を1つまたは複数発生する。エネルギー計算部112は、現在の状態Sと状態遷移の候補を用いて候補に挙げられた各状態遷移に対するエネルギー変化値{-ΔEi}を計算する。可否判定部114bは、温度制御部113で発生した温度値Tと乱数発生部114dで生成した確率変数(乱数値)を用い、各状態遷移のエネルギー変化値{-ΔEi}に応じて、上記(A)に記載された式の許容確率でその状態遷移を許容する。そして、可否判定部114bは、各状態遷移の可否{fi}を出力する。許容された状態遷移が複数ある場合には、遷移決定部114cは、乱数値を用いてランダムにそのうちの1つを選択する。そして、遷移決定部114cは、選択した状態遷移の遷移番号Nと、遷移可否fを出力する。許容された状態遷移が存在した場合、採択された状態遷移に応じて状態保持部111に記憶された状態変数の値が更新される。
【0085】
初期状態から始めて、温度制御部113で温度値を下げながら上記反復を繰り返し、一定の反復回数に達したり、エネルギーが一定の値を下回る等の終了判定条件が満たされたとき、動作が終了する。最適化装置110が出力する答えは終了時の状態である。
【0086】
図5は、候補を1つずつ発生させる通常の焼き鈍し法における遷移制御部、特に可否判定部のために必要な演算部分の構成例の回路レベルのブロック図である。
遷移制御部114は、乱数発生回路114b1、セレクタ114b2、ノイズテーブル114b3、乗算器114b4、比較器114b5を有する。
【0087】
セレクタ114b2は、各状態遷移の候補に対して計算されたエネルギー変化値{-ΔEi}のうち、乱数発生回路114b1が生成した乱数値である遷移番号Nに対応するものを選択して出力する。
【0088】
ノイズテーブル114b3の機能については後述する。ノイズテーブル114b3として、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等のメモリを用いることができる。
【0089】
乗算器114b4は、ノイズテーブル114b3が出力する値と、温度値Tとを乗算した積(前述した熱励起エネルギーに相当する)を出力する。
比較器114b5は、乗算器114b4が出力した乗算結果と、セレクタ114b2が選択したエネルギー変化値である-ΔEとを比較した比較結果を遷移可否fとして出力する。
【0090】
図5に示されている遷移制御部114は、基本的に前述した機能をそのまま実装するものであるが、(A)に記載された式で表される許容確率で状態遷移を許容するメカニズムについてはこれまで説明していないのでこれを補足する。
【0091】
許容確率pで1を、(1-p)で0を出力する回路は、2つの入力A,Bを持ち、A>Bのとき1を出力し、A<Bのとき0を出力する比較器の入力Aに許容確率pを、入力Bに区間[0,1)の値をとる一様乱数を入力することで実現することができる。したがってこの比較器の入力Aに、エネルギー変化値と温度値Tにより(A)に記載された式を用いて計算される許容確率pの値を入力すれば、上記の機能を実現することができる。
【0092】
即ちfを(A)に記載された式で用いる関数、uを区間[0,1)の値をとる一様乱数とするとき、f(ΔE/T)がuより大きいとき1を出力する回路で、上記の機能を実現できる。
【0093】
このままでもよいのであるが、次のような変形を行っても同じ機能が実現できる。2つの数に同じ単調増加関数を作用させても大小関係は変化しない。したがって比較器の2つの入力に同じ単調増加関数を作用させても出力は変わらない。この単調増加関数としてfの逆関数f-1を採用すると、-ΔE/Tがf-1(u)より大きいとき1を出力する回路でよいことがわかる。さらに温度値Tが正であることから-ΔEがTf-1(u)より大きいとき1を出力する回路でよい。図5中のノイズテーブル114b3はこの逆関数f-1(u)を実現するための変換テーブルであり、区間[0,1)を離散化した入力に対して次の関数の値を出力するテーブルである。
【0094】
【数34】
【0095】
【数35】
【0096】
遷移制御部114には、判定結果等を保持するラッチやそのタイミングを発生するステートマシン等も存在するが、図5では図示を簡単にするため省略されている。
【0097】
図6は、遷移制御部114の動作フローである。動作フローは、1つの状態遷移を候補として選ぶステップ(S0001)、その状態遷移に対するエネルギー変化値と温度値と乱数値の積の比較で状態遷移の可否を決定するステップ(S0002)、状態遷移が可ならばその状態遷移を採用し、否ならば不採用とするステップ(S0003)を有する。
【0098】
プログラムは、使用するコンピュータシステムの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、公知の各種のプログラム言語を用いて作成することができる。
【0099】
プログラムは、内蔵ハードディスク、外付けハードディスクなどの記録媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、MOディスク(Magneto-Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などの記録媒体に記録しておいてもよい。プログラムをCD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどの記録媒体に記録する場合には、必要に応じて随時、コンピュータシステムが有する記録媒体読取装置を通じて、これを直接、又はハードディスクにインストールして使用することができる。また、コンピュータシステムから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータ等)にプログラムを記録しておき、必要に応じて随時、外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じてこれを直接、又はハードディスクにインストールして使用することもできる。
プログラムは、複数の記録媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0100】
(記録媒体)
本件で開示する記録媒体は、本件で開示する設計プログラムを記録してなる。
記録媒体は、コンピュータが読み取り可能である。
本件で開示する記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
また、本件で開示する記録媒体は、本件で開示する設計プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体であってもよい。
記録媒体は、一過性であってもよいし、非一過性であってもよい。
【0101】
(設計装置)
開示の設計装置は、実行部を少なくとも備え、更に必要に応じて、その他の部を備える。
開示の設計装置は、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する。
実行部は、式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めることを行う。
【0102】
図7に、開示の設計装置の構成例を示す。
設計装置10は、例えば、CPU11、メモリ12、記憶部13、表示部14、入力部15、出力部16、I/Oインターフェース部17等がシステムバス18を介して接続されて構成される。
【0103】
CPU(Central Processing Unit)11は、演算(四則演算、比較演算等)、ハードウエア及びソフトウエアの動作制御などを行う。
【0104】
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのメモリである。RAMは、ROM及び記憶部13から読み出されたOS(Operating System)及びアプリケーションプログラムなどを記憶し、CPU11の主メモリ及びワークエリアとして機能する。
【0105】
記憶部13は、各種プログラム及びデータを記憶する装置であり、例えば、ハードディスクである。記憶部13には、CPU11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。
プログラムは、記憶部13に格納され、メモリ12のRAM(主メモリ)にロードされ、CPU11により実行される。
【0106】
表示部14は、表示装置であり、例えば、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置である。
入力部15は、各種データの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス等)などである。
出力部16は、各種データの出力装置であり、例えば、プリンタである。
I/Oインターフェース部17は、各種の外部装置を接続するためのインターフェースである。例えば、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどのデータの入出力を可能にする。
【0107】
図8に、開示の設計装置の他の構成例を示す。
図8の構成例は、クラウド型の構成例であり、CPU11が、記憶部13等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、記憶部13等を格納するコンピュータ30と、CPU11を格納するコンピュータ40とが接続される。
ネットワークインターフェース部19、20は、インターネットを利用して、通信を行うハードウェアである。
【0108】
図9に、開示の設計装置の他の構成例を示す。
図9の構成例は、クラウド型の構成例であり、記憶部13が、CPU11等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、CPU11等を格納するコンピュータ30と、記憶部13を格納するコンピュータ40とが接続される。
【0109】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計プログラムであって、
コンピュータに、下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めさせることを含むことを特徴とする設計プログラム。
【数36】
【数37】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数38】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数39】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
(付記2)
前記Aサイトのイオンの種類、及び前記Bサイトのイオンの種類を、それぞれ、1又は複数の特定のイオンに定めて、前記基底状態探索を実行する、付記1に記載の設計プログラム。
(付記3)
前記ABXが、ABO3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)で表される、付記2から3のいずれかに記載の設計プログラム。
(付記4)
コンピュータを用いて、ペロブスカイト型結晶構造の組成を設計する設計方法であって、
下記式(1)で表される許容因子(t)の式の対数をとることにより作成した下記式(2)中のA及びBの組合せについて、logtが0となる又は0に近い組合せを、イジングモデル又はQUBOを用いた焼き鈍し法による基底状態探索を実行することにより求めることを含むことを特徴とする設計方法。
【数40】
【数41】
ただし、前記式(1)中、r、r、及びrは、それぞれ、ペロブスカイト型結晶構造の一般式をABX(ただし、Aはカチオン、Bはカチオン、及びXはアニオンを表す。)で表した際のAサイト、Bサイト、及びアニオンサイトのイオン半径を表し、dA-X=r+rであり、かつdB-X=r+rである。
前記式(2)中、A及びBは、それぞれ、下記式(3)及び式(4)で表される。
【数42】
ただし、前記式(2)、前記式(3)、及び前記式(4)中、nは、前記一般式である前記ABXにおいて、前記AサイトがイオンA,A,・・・,A(組成比はp:q:・・・)で構成されており、前記BサイトがイオンB,B,・・・,B(組成比はr:s:・・・)で構成されているとした際の組成式であるA ・・・B ・・・X(p+q+・・・=r+s+・・・=n;各数字は整数)のnを意味する。さらに、前記dA-Xと前記式(3)中のdAi-Xとは下記式(5)を満たし、前記dB-Xと前記式(4)中のdBi-Xとは下記式(6)を満たす。
【数43】
ただし、前記式(5)、及び前記式(6)中、nは、前記式(2)~式(4)中のnと同じである。
(付記5)
前記Aサイトのイオンの種類、及び前記Bサイトのイオンの種類を、それぞれ、1又は複数の特定のイオンに定めて、前記基底状態探索を実行する、付記4に記載の設計方法。
(付記6)
前記ABXが、ABO3-y(ただし、yは0~3の整数を表す。)で表される、付記4から5のいずれかに記載の設計方法。
【符号の説明】
【0110】
10 設計装置
11 CPU
12 メモリ
13 記憶部
14 表示部
15 入力部
16 出力部
17 I/Oインターフェース部
18 システムバス
19 ネットワークインターフェース部
20 ネットワークインターフェース部
30 コンピュータ
40 コンピュータ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9