(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】歩行診断システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20230523BHJP
A43B 17/00 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/11 210
A43B17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020038398
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小森 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503660(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164157(WO,A1)
【文献】特開2017-144237(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0035509(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0132758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A43B 1/00-23/30
A43C 1/00-19/00
A43D 1/00-999/00
B29D 35/00-35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行状態を診断する歩行診断システムであって、
片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する測定部と、
前記測定部により測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部と、
取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部とを備え
、
前記情報処理部は、前記特徴量として大腿脛骨角を取得するFTA算出部を備え、
前記判定部は、取得された大腿脛骨角に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することを特徴とする歩行診断システム。
【請求項2】
歩行状態を診断する歩行診断システムであって、
片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する測定部と、
前記測定部により測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部と、
取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部とを備え
、
前記情報処理部は、前記特徴量としてレッグヒール角を取得するLHA算出部を備え、
前記判定部は、取得されたレッグヒール角に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することを特徴とする歩行診断システム。
【請求項3】
歩行状態を診断する歩行診断システムであって、
片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する測定部と、
前記測定部により測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部と、
取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部とを備え
、
前記情報処理部は、
歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割部と、
前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出部と、
同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標P
n
、座標P
n+1
、座標P
n+2
としたとき、座標P
n
から座標P
n+1
への変化量を示すベクトルと座標P
n+1
から座標P
n+2
への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を前記特徴量として算出する振れ値算出部とを備え、
前記判定部は、取得された前記振れ値に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することを特徴とする歩行診断システム。
【請求項4】
前記判定部は、取得された前記特徴量と、医療従事者により被測定者毎に予め設定されたアラート情報との対比に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する請求項
1~3のいずれか一項に記載の歩行診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態である運動器症候群が社会問題となっている。運動器症候群を早期に発見するために、運動器症候群の診断に関する技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、撮影した画像から被験者の身体の所定の複数部位の動きを検出し、得られた検出情報から被験者の部位毎に特徴パラメータを求め、事前に教師データを学習させたニューラルネットワークを用いて特徴パラメータから運動機能を判定する運動機能診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、被測定者の歩行状態の変化を簡易に把握することのできる歩行診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する歩行診断システムは、歩行状態を診断する歩行診断システムであって、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する測定部と、前記測定部により測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部と、取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部と、判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部とを備える。
【0006】
上記構成によれば、被測定者又は保護者等の他者は、被測定者に測定部を装着させて歩行させ、歩行診断システムによるアラート対象の状態であることの報知を確認するのみで、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、被測定者の歩行状態がアラート対象の状態に変化したことを簡易に把握できる。そして、アラート対象の状態であることが報知された場合には、被測定者を医療機関に受診させる等の適切な対応を行うことができる。
【0007】
上記歩行診断システムにおいて、前記判定部は、取得された前記特徴量と、医療従事者により被測定者毎に予め設定されたアラート情報との対比に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、医療従事者による診断時点の被測定者の歩行状態に応じてアラート情報を設定できる。そのため、アラート情報が緩く設定されてしまうことによるアラート対象の状態への変化の発見の遅れ、及びアラート情報が厳しく設定されてしまうことによる必要以上の過剰な報知を抑制できる。
【0009】
上記歩行診断システムにおいて、前記情報処理部は、前記特徴量として大腿脛骨角を取得するFTA算出部を備え、前記判定部は、取得された大腿脛骨角に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することが好ましい。
【0010】
上記構成は、内反足及び外反足が変化した状態をアラート対象の状態として把握したい場合に有効である。
上記歩行診断システムにおいて、前記情報処理部は、前記特徴量としてレッグヒール角を取得するLHA算出部を備え、前記判定部は、取得されたレッグヒール角に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することが好ましい。
【0011】
上記構成は、内反足及び外反足が変化した状態をアラート対象の状態として把握したい場合に有効である。
上記歩行診断システムにおいて、前記情報処理部は、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割部と、前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出部と、同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標Pn、座標Pn+1、座標Pn+2としたとき、座標Pnから座標Pn+1への変化量を示すベクトルと座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を前記特徴量として算出する振れ値算出部とを備え、前記判定部は、取得された前記振れ値に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定することが好ましい。
【0012】
振れ値は、着地から離地に至る一歩の各タイミングにおいて、足圧中心がどの程度、振れているかを定量化した値である。したがって、振れ値に基づいて判定部の判定を行うことにより、着地から離地に至る一歩の滑らかさの変化を伴う歩行状態の変化を把握できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歩行状態が所定のアラート状態に変化したことを簡易に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図10】グループ0に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
【
図11】グループ1に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
【
図12】グループ2に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態の歩行診断システムについて説明する。
図1に示すように、歩行診断システムは、測定部としての測定装置10と、歩行診断装置20とを備えている。
【0016】
図1及び
図2に示すように、測定装置10は、シューズの中敷きとして用いられる基部11を備えている。基部11には、歩行中の足裏にかかる部位毎の圧力を検出する圧力センサ12として、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dの4個の圧力センサが取り付けられている。
【0017】
図2に示すように、基部11において、踵センサ12aは、踵の荷重がかかる部分に配置され、足裏の踵にかかる圧力を検出する。つま先センサ12bは、第2~4足指の足指の荷重がかかる部分のいずれかに配置され、足裏のつま先にかかる圧力を検出する。
【0018】
内側センサ12cは、踵センサ12aとつま先センサ12bを結ぶ線Lよりも内側であって、母指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の内側部分にかかる圧力を検出する。外側センサ12dは、線Lよりも外側であって、小指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の外側部分にかかる圧力を検出する。
【0019】
換言すると、踵センサ12a及びつま先センサ12bは、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置の圧力を検出するように配置されている。内側センサ12c及び外側センサ12dは、第1位置及び前記第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の圧力を検出するように配置されている。
【0020】
各圧力センサ12は、それぞれ独立して、所定時間毎に足裏にかかる部位毎の圧力を検出する。上記所定時間は、例えば、5~30ミリ秒である。本実施形態においては、20ミリ秒毎に圧力を検出するように設定されている。
【0021】
圧力センサ12としては、圧電素子等を用いた公知の感圧センサを用いることができる。特に、足裏に配置されるという使用状況に鑑みると、伸縮性及び耐久性の観点から、誘電エラストマーを利用したエラストマー製の静電容量型センサを用いることが好ましい。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。
【0022】
図1に示すように、測定装置10には、各圧力センサ12により検出された各検出値を歩行診断装置20に送信する送信部13が取り付けられている。各圧力センサ12により検出された各検出値は、静電容量値や電気抵抗値等の圧力センサの検出方式に応じた圧力値に変換可能な検出値である。したがって、以下に記載する「検出値」は、足裏の圧力センサ12が取り付けられている位置における圧力の測定値と読み替えることができる。
【0023】
なお、測定装置10は、左足用及び右足用の両方が用意されており、必要に応じて、左右のいずれかのみ、又は左右両方を使用することができる。
図1に示すように、歩行診断装置20は、測定装置10の送信部13から送信された測定情報を受信する受信部21と、受信した測定情報等を記憶する記憶部22と、測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部23とを備えている。歩行診断装置20は更に、情報処理部23により取得された特徴量に基づいて歩行状態を判定する判定処理部24と、判定処理部24の判定結果等を表示する表示部25と、各種の情報を入力する入力部26とを備えている。
【0024】
歩行診断装置20としては、例えば、携帯端末やタブレット端末等のコンピュータを用いることができる。表示部25としては、例えば、液晶ディスプレイ等の公知の表示デバイスを用いることができる。入力部26としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の公知の入力デバイスを用いることができる。歩行診断装置20の受信部21は、有線又は無線の通信手段を有し、公知の通信方式にて測定装置10の送信部13と通信を行う。
【0025】
記憶部22は、測定装置10から送信された測定情報を記憶するとともに、測定情報に基づく特徴量データを記憶するように構成されている。
図3に示すように、特徴量データには、日時やユーザー名等の識別情報と、歩行状態に関連する特徴量F1~F13とが含まれている。
【0026】
記憶部22には、同じ被験者の過去の特徴量データ、異なる被験者の特徴量データ、医療従事者等の専門家により設定されたモデルデータ等の複数の特徴量データが記憶されている。上記モデルデータとしては、例えば、内反足や外反足等の特定の症状を有する被験者の測定結果から得られた特徴量データが挙げられる。
【0027】
また、記憶部22には、特徴量に関するアラート情報が記憶されている。アラート情報の詳細については後述する。さらに、記憶部22には、情報処理部23及び判定処理部24における各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムが記憶されている。
【0028】
記憶部22としては、例えば、HDD、SSD、半導体メモリ素子が挙げられる。また、記憶部22は、ネットワークを介して歩行診断装置20に接続された記憶装置であってもよい。
【0029】
図4に示すように、情報処理部23は、波形データ作成部31、分割部32、区間最大値取得部33、区間時間取得部34、座標算出部35、滞在比率算出部36、振れ値算出部37、分類部38、FTA算出部39、LHA算出部40、及び第1表示処理部41を備えている。
【0030】
波形データ作成部31は、記憶部22に記憶されている分析対象となる測定情報に基づいて、各圧力センサ12により検出された片足の足裏の部位毎の検出値の時間変化を表す波形データを作成する。波形データ作成部31により作成される波形データの一例を
図6に示す。
図6において、実線は、踵センサ12aの検出値を示し、一点鎖線は、つま先センサ12bの検出値を示し、二点鎖線は、内側センサ12cの検出値を示し、破線は、外側センサ12dの検出値を示す。
【0031】
分割部32は、作成された波形データから、歩行時の足の着地から離地までの特定の一歩分の区間を対象区間として抽出するとともに、抽出した対象区間を更に複数の小区間に分割する。
【0032】
図6に示すように、歩行時の波形データは、圧力値が略一定の区間と検出値が変化する区間とを周期的に繰り返す波形となる。歩行時の波形データにおいて、検出値が略一定の区間が地面から足が離れている区間であり、検出値が変化している区間が地面に足が接している区間である。分割部32は、各部位の検出値が略一定である区間から踵の圧力値が上昇を開始した点を始点t1とし、各部位の検出値が略一定となるそれぞれの開始点のうちの最も遅い開始点を終点t2とする一歩区間Aから診断の対象とする特定の一歩区間Aを抽出する。
【0033】
抽出する一歩区間Aは、予め設定された基準に基づいて分割部32が選択する。上記基準としては、例えば、測定開始から10歩目、20歩目等の予め設定された順番に位置する一歩区間Aを選択すること、前回抽出した一歩区間Aから一定時間経過後の一歩となる一歩区間Aを選択すること、波形データを一定の歩数又は時間で区分けし、区分けした各区間内でランダムに一歩区間Aを選択することが挙げられる。
【0034】
図7に示すように、分割部32は、抽出した一歩区間Aを踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの小区間に分割する。
踵区間Ahは、相対的に踵側に圧力がかかる一歩区間Aの初期の小区間である。本実施形態においては、一歩区間Aの始点t1から踵センサ12aの検出値がピークの頂点となる時点t3までの区間を踵区間Ahとする。
【0035】
つま先区間Atは、相対的につま先側に圧力がかかる一歩区間Aの終期の小区間である。本実施形態においては、4個の圧力センサ12の検出値の中でつま先センサ12bの検出値が最も大きくなる時点t4から一歩区間Aの終点t2までの区間をつま先区間Atとする。なお、歩行の仕方によっては、つま先区間Atが無い場合もある。
【0036】
中間区間Amは、一歩区間Aから踵区間Ah及びつま先区間Atを除いた小区間である。つま先区間Atがある場合には、時点t3から時点t4までの区間を中間区間Amとし、つま先区間Atがない場合には、時点t3から時点t2までの区間を中間区間Amとする。
【0037】
区間最大値取得部33は、踵区間Ahにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、踵区間最大値Ah
maxと記載する。)、及びつま先区間Atにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、つま先区間最大値At
maxと記載する。)を測定情報から取得する。そして、取得した踵区間最大値Ah
max及びつま先区間最大値At
maxを、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F1,F2として記憶部22に記憶させる。
【0038】
区間時間取得部34は、踵区間Ahの長さである区間時間Th、中間区間Amの長さである区間時間Tm、及びつま先区間Atの長さである区間時間Ttを測定情報から取得する。そして、取得した区間時間Th,Tm,Ttを、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F3~F5として記憶部22に記憶させる。なお、各区間時間は、秒数等の時間そのものであってもよいし、該当する区間における測定点の点数等の区間時間に相当するパラメータであってもよい。
【0039】
図8に示すように、座標算出部35は、一歩区間Aの測定情報に基づいて、踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの各小区間における検出時間毎の足圧中心の二次元座標(X(t),Y(t))を算出する。X(t)は、時刻tにおける足圧中心の左右方向座標であり、Y(t)は、時刻tにおける足圧中心の前後方向座標である。足圧中心の二次元座標は、同じ検出時間に検出された4つの圧力センサ12の検出値から求めることができる。なお、
図8に示す二次元座標における点12a~12dはそれぞれ、対応する符号の圧力センサ12の位置を示している。
【0040】
図8に示すように、滞在比率算出部36は、足圧中心の二次元座標系を、予め設定された3つの領域B1,B2,B3に分割する。そして、滞在比率算出部36は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、踵区間Ahにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rh1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rh2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rh3を算出する。そして、算出された滞在比率Rh1,Rh2,Rh3を、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F6として記憶部22に記憶させる。
【0041】
同様に、滞在比率算出部36は、中間区間Amにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rm1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rm2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rm3を算出する。そして、算出された滞在比率Rm1,Rm2,Rm3を、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F7として記憶部22に記憶させる。
【0042】
同様に、滞在比率算出部36は、つま先区間Atにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rt1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rt2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rt3を算出する。そして、算出された滞在比率Rt1,Rt2,Rt3を、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F8として記憶部22に記憶させる。
【0043】
上記の各滞在比率は、対応する領域に滞在する秒数等の滞在時間そのものに基づく数値であってもよいし、二次元座標系において当該領域に位置する測定点の点数等の滞在時間に相当するパラメータに基づく数値であってもよい。
【0044】
振れ値算出部37は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、足圧中心の振れを示す振れ値として、踵区間Ahの振れ値Sh、中間区間Amの振れ値Sm、つま先区間Atの振れ値Stを算出する。踵区間Ahの振れ値Shは、以下のようにして算出される。
【0045】
図9に示すように、踵区間Ah内において、連続する3つの測定点における足圧中心の二次元座標をそれぞれ座標P
n、座標P
n+1、座標P
n+2とするとともに、座標P
nから座標P
n+1への変化量を示すベクトルV1と、座標P
n+1から座標P
n+2への変化量を示すベクトルV2とがなす角を振れ角θとする。
【0046】
振れ値算出部37は、踵区間Ah内における最後の2つを除く全ての足圧中心の二次元座標について、上記の座標P
nとした場合の振れ角θをそれぞれ算出し、これら振れ角θを合算することにより、振れ角θの総和である振れ値Shを算出する。中間区間Amの振れ値Sm及びつま先区間Atの振れ値Stについても同様に算出する。そして、振れ値算出部37は、算出された振れ値Sh,Sm,Stを、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F9~F11として記憶部22に記憶させる。
【0047】
分類部38は、新たに取得した特徴量からなる特徴量データを含めて、記憶部22に記憶されている複数組の特徴量データを対象群として、特徴量データを構成する11個の特徴量F1~F11に基づいて上記対象群を複数の部分集合にクラスタリングする。クラスタリングは、主成分分析により特徴量データを次元圧縮し、k-means法やGMM法等の公知の手法を用いて行う。
【0048】
図10~12は、複数の特徴量データをk-means法でクラスタリングした結果の一例を示している。ここでは、クラスタリングによって、グループ0、グループ1、及びグループ2の3つの部分集合が生成されている。そして、各グループに分類された特徴量データの元になった一歩区間Aの波形データ及び足圧中心の二次元座標データを3組ずつ
図10~12に示している。
図10~12は、測定後の生データを示している。
【0049】
図10に示すグループ0は、平均的な歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ0の特徴として、一歩区間Aの中に踵区間Ah、中間区間Am、つま先区間Atが明確に存在しており、踵から足裏中央部を介してつま先へと荷重が移動している。
【0050】
図11に示すグループ1は、外股歩きの傾向の歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ1の特徴として、一歩区間Aのほとんどが踵区間Ah及び中間区間Amによって占められており、つま先での蹴る動作が含まれていない。
【0051】
図12に示すグループ2は、内股歩きの傾向の歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ2の特徴として、一歩区間Aのほとんどが踵区間Ah及びつま先区間Atによって占められており、地面に対して踵が着いてからつま先が早く着いている。
【0052】
FTA算出部39は、一歩区間Aの測定情報に基づいて被測定者の大腿脛骨角(以下、FTAと記載する。)を算出する。そして、FTA算出部39は、算出されたFTAを、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F12として記憶部22に記憶させる。
【0053】
FTAは、大腿骨の長軸と脛骨の長軸のなす角度であり、内反足及び外反足を判定する基準の一つとして用いられている。FTAは、膝関節の状態を示すパラメータであることから歩行状態と密接な関係を有しており、足裏の圧力分布、具体的には、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dにより検出される荷重のバランスから推定できる。具体的な、FTAの推定方法は後述する。
【0054】
LHA算出部40は、一歩区間Aの測定情報に基づいて被測定者のレッグヒール角(以下、LHAと記載する。)を算出する。そして、LHA算出部40は、算出されたLHAを、
図3に示す特徴量データを構成する特徴量F13として記憶部22に記憶させる。
【0055】
LHAは、下腿長軸と踵骨軸のなす角度であり、内反足及び外反足を判定する基準の一つとして用いられている。LHAは、足と踵の傾きを示すパラメータであることから、歩行状態と密接な関係を有しており、足裏の圧力分布、具体的には、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dにより検出される荷重のバランスから推定できる。具体的な、LHAの推定方法は後述する。
【0056】
第1表示処理部41は、
図3に示す特徴量データ、
図7に示す一歩区間Aの波形データ、
図7に示す足圧中心の二次元座標データ、分類部38により分類された特徴量データのグループ等を表示部25に表示させるための画像等を作成する。そして、第1表示処理部41は、入力部26を通じた所定の操作がなされた場合に、作成された画像等を表示部25に表示させる。
【0057】
LHA及びFTAの推定方法の一例として、角度推定モデルを用いた方法が挙げられる。角度推定モデルを用いた方法では、まず、LHA及びFTAの実際の計測結果、基本データ、歩行データをセットとした教師データを収集する。基本データは、性別や年齢、身長や体重値といった生体情報からなる。歩行データは、左右のバランス、前後のバランス、離着地の加速度、離着地の強さ(荷重値)、振れ幅といった圧力センサ12によって測定される歩行情報からなる。次いで、収集した教師データをニューラルネットワークで機械学習させることにより、入力された基本データ及び歩行データに対して、LHA及びFTAの計測結果を推定して出力する角度推定モデルを構築する。こうした学習済みの角度推定モデルを用いることにより、被測定者の測定情報に基づいてLHA及びFTAを推定することができる。なお、体の揺れる大きさである振れ幅は、運動器の状態変化に影響を受けるLHA及びFTAと関わりが大きい。そのため、振れ幅を歩行情報として学習させることで、角度推定モデルの推定精度を向上させることができる。
【0058】
図5に示すように、判定処理部24は、第1判定部51、第2判定部52、第3判定部53、及び第2表示処理部54を備えている。判定処理部24は、情報処理部23にて取得された特徴量と、記憶部22に記憶されている特徴量に関するアラート情報との比較に基づいて、被測定者の歩行状態が所定のアラート対象の状態にあるか否かを判定する。アラート対象の状態としては、例えば、検査及び診察を促す状態、注意を喚起する状態、休憩を促す状態が挙げられる。以下、アラート対象の状態をアラート状態と記載する。
【0059】
記憶部22には、アラート情報として、FTAに関するアラート情報であるFTAアラート範囲、及びLHAに関するアラート情報であるLHAアラート範囲が記憶されている。アラート情報は、被測定者の歩行状態がアラート状態にあるか否かを、上記特徴量を用いて判定する際の基準となる情報である。
【0060】
アラート情報は、被測定者に対する医療従事者による直近の診断結果に基づいて、医療従事者により被測定者毎に設定され、入力部26を通じて記憶部22に記憶される。なお、医療従事者による設定には、医療従事者の指示に基づいて被測定者、保護者、介助者等の他者が設定する場合も含まれる。
【0061】
FTAアラート範囲は、例えば、直近に診断された被測定者のFTAに対して、判定角度以上に変化した範囲として設定される。上記判定角度は、例えば、5~10度である。一例として、被測定者が内反足傾向であり、被測定者の直近に診断されたFTAの診断値が176度である場合、診断値から判定角度である5度以上大きくなる方向に変化した範囲である181度以上の範囲をFTAアラート範囲に設定する。また、被測定者が外反足傾向であり、被測定者の直近に診断されたFTAの診断値が170度である場合、診断値から判定角度である5度以上小さくなる方向に変化した範囲である165度以下の範囲をFTAアラート範囲に設定する。
【0062】
LHAアラート範囲は、例えば、直近に診断された被測定者のLHAに対して、判定角度以上に変化した範囲として設定される。上記判定角度は、例えば、5~10度である。一例として、被測定者が外反足傾向(回内)であり、アキレス腱が硬い場合、アキレス腱の障害が発生しやすくなる。この傾向にある被測定者の直近に診断されたLHAの診断値から、被験者の活動量を加味して、一定量外反角度が大きくなったところにLHAアラート範囲を設定する。
【0063】
第1判定部51は、情報処理部23のFTA算出部39により算出されたFTAの算出値がFTAアラート範囲に含まれるか否かを判定する。そして、FTAの算出値がLHAアラート範囲に含まれる場合、第1判定部51は、第2表示処理部54にFTAアラート信号を出力する。
【0064】
第2判定部52は、情報処理部23のLHA算出部40により算出されたLHAの算出値がLHAアラート範囲に含まれるか否かを判定する。そして、LHAの算出値がLHAアラート範囲に含まれる場合、第2判定部52は、第2表示処理部54にLHAアラート信号を出力する。
【0065】
第3判定部53は、情報処理部23の分類部38によるクラスタリングの結果、分類された部分集合が、前回抽出した一歩区間Aの特徴量データが分類された部分集合と同じであるか否かを判定する。そして、今回分類された部分集合が、前回分類された部分集合と異なる場合、第3判定部53は、第2表示処理部54に分類アラート信号を出力する。
【0066】
分類された部分集合が前回と異なることは、歩行状態が急激に変化したことを意味する。したがって、第3判定部53の判定においては、歩行状態が急激に変化した状態がアラート状態に該当し、クラスタリングの結果を利用することによって、歩行状態が急激に変化したことを判定している。
【0067】
本実施形態において、第1判定部51、第2判定部52、及び第3判定部53は、取得された特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部に該当する。
【0068】
第2表示処理部54は、第1判定部51から出力されたFTAアラート信号、第2判定部52から出力されたLHAアラート信号、第3判定部53から出力された分類アラート信号に基づく警告文を表示部25に表示させる。例えば、FTAアラート信号が入力された場合には、「FTA(181度)がFTAアラート範囲であるため、医療機関を受診してください。」等の警告文を表示部25に表示させる。本実施形態において、表示部25は、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部に該当する。
【0069】
次に、本実施形態の歩行診断システムを用いた歩行診断について説明する。
まず、医療従事者による被測定者の現時点の歩行状態の診断を行う。医療従事者は、診断結果に基づいて、内反足傾向の悪化等の今後、注意すべき歩行状態をアラート状態に設定し、そのアラート状態に対応するFTAアラート範囲及びLHAアラート範囲を記憶部22に記憶させる。
【0070】
その後、測定ステップとして、被測定者は、靴底に測定装置10を配置した靴を装着するとともに、歩行診断装置20としての携帯端末を身に付けた状態として、屋内歩行及び屋外歩行を含む日常の生活動作を行う。ここでは、左足のみを測定対象とした場合、即ち、左足用の靴の靴底のみに測定装置10を配置した場合について説明する。
【0071】
測定装置10は、生活動作中において、被測定者の左足の足裏にかかる部位毎の圧力を各圧力センサ12により検出し、検出された検出値を測定情報として歩行診断装置20に検出タイミング毎に送信する。測定装置10による足裏にかかる部位毎の圧力の検出、及び歩行診断装置20への測定情報の送信は、測定装置10を配置した靴を装着している間、常に実行される。
【0072】
測定装置10から送信された測定情報は、歩行診断装置20の記憶部22に記憶される。歩行診断装置20は、記憶部22に記憶された測定情報に基づいて、被測定者の歩行診断を行う。
【0073】
以下に、
図13に示すフローチャートに基づいて、歩行診断装置20による歩行診断の詳細について説明する。
記憶部22に新たな測定情報が記憶されると、波形作成ステップS11として、波形データ作成部31は、記憶部22に記憶された測定情報に基づく波形データを作成する。
【0074】
続いて、抽出ステップS12として、分割部32は、作成された波形データから特定の一歩区間Aを抽出し、分割ステップS13として、一歩区間Aを踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの小区間に分割する。なお、分割ステップS13以降の工程は、抽出ステップS12により抽出された一歩区間A単位で実行されるとともに、抽出された全ての一歩区間Aを対象として繰り返し実行される。
【0075】
続いて、区間最大値取得ステップS14として、区間最大値取得部33は、一歩区間Aにおける踵区間最大値Ahmax及びつま先区間最大値Atmaxを取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F1,F2として記憶部22に記憶させる。
【0076】
続いて、区間時間取得ステップS15として、区間時間取得部34は、一歩区間Aにおける踵区間Ahの区間時間Th、中間区間Amの区間時間Tm、及びつま先区間Atの区間時間Ttを取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F3~F5として記憶部22に記憶させる。
【0077】
続いて、座標算出ステップS16として、座標算出部35は、一歩区間Aにおける足圧中心の二次元座標を算出する。その後、滞在比率算出ステップS17として、滞在比率算出部36は、算出された足圧中心の二次元座標に基づいて、踵区間Ahの足圧中心の滞在比率Rh1,Rh2,Rh3、中間区間Amの足圧中心の滞在比率Rm1,Rm2,Rm3、及びつま先区間Atの足圧中心の滞在比率Rt1,Rt2,Rt3を取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F6~F8として記憶部22に記憶させる。
【0078】
続いて、振れ値算出ステップS18として、振れ値算出部37は、振れ値Sh,Sm,Stを算出し、新たな特徴量データを構成する特徴量F9~F11として記憶部22に記憶させる。
【0079】
続いて、分類ステップS19として、分類部38は、新たな特徴量データ及び記憶部22に記憶されている特徴量データを対象群としたクラスタリングを実施し、特徴量データを複数のグループに分類する。また、分類部38は、クラスタリングの結果を記憶部22に記憶させる。
【0080】
続いて、FTA算出ステップS20として、FTA算出部39は、FTAを算出し、FTAの算出値を記憶部22に記憶させる。続いて、LHA算出ステップS21として、LHA算出部40は、LHAを算出し、LHAの算出値を記憶部22に記憶させる。
【0081】
続いて、FTA判定ステップS22として、第1判定部51は、FTA算出部39により算出されたFTAの算出値がFTAアラート範囲に含まれるか否かを判定し、FTAの算出値がLHAアラート範囲に含まれる場合に、第2表示処理部54にFTAアラート信号を出力する。
【0082】
続いて、LHA判定ステップS23として、第2判定部52は、LHA算出部40により算出されたFTAの算出値がFTAアラート範囲に含まれるか否かを判定し、LHAの算出値がLHAアラート範囲に含まれる場合に、第2表示処理部54にLHAアラート信号を出力する。
【0083】
続いて、分類判定ステップS24として、第3判定部53は、情報処理部23の分類部38によるクラスタリングの結果、分類された部分集合が、前回抽出した一歩区間Aの特徴量データが分類された部分集合と同じであるか否かを判定する。そして、今回分類された部分集合が、前回分類された部分集合と異なる場合、第3判定部53は、第2表示処理部54に分類アラート信号を出力する。
【0084】
続いて、報知ステップS25として、第2表示処理部54は、FTAアラート信号、LHAアラート信号、及び分類アラート信号のいずれかのアラート信号が出力されている場合、出力されているアラート信号に応じた警告文を表示部25に表示させることにより、歩行状態がアラート状態であることを報知する。なお、本実施形態において、特徴量取得ステップは、S11~S21の各ステップであり、判定ステップは、S22~S24の各ステップである。
【0085】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の歩行診断システムでは、歩行中に測定された測定情報から歩行状態に関する特徴量が取得されるとともに、取得された特徴量に基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かが判定される。そして、アラート状態であると判定された場合には、被測定者が身に付けている携帯端末の表示部25に、歩行状態がアラート状態であることが表示されるとともに、その表示によって医療機関への受診等が促される。
【0086】
このように、本実施形態の歩行診断システムによれば、日常の生活動作における歩行を対象として、被測定者の歩行状態がアラート状態であるか否かを診断できる。そのため、被測定者は、自覚症状の有無にかかわらず、歩行状態がアラート状態であることを早期に把握でき、医療機関による詳細な診断や治療を受けることができる。また、歩行診断装置20に記憶されている特徴量データ等の情報は、医療従事者が被測定者の症状を適切に把握する助けとなる。特に、被測定者が違和感等の自覚症状はあるが、その症状を言語化できないような場合に有用である。
【0087】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)歩行診断システムは、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定する測定装置10と、歩行診断装置20とを備えている。歩行診断装置20は、測定装置10により測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部23と、取得された特徴量に基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する判定部と、判定部の判定結果に基づいて、歩行状態がアラート状態であることを報知する表示部25とを備えている。
【0088】
上記構成によれば、被測定者は、測定装置10を装着して歩行し、アラート状態であることの報知を確認するのみで、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、被測定者の歩行状態がアラート状態に変化したことを簡易に把握できる。そして、アラート状態であることが報知された場合には、被測定者は、医療機関への受診等の適切な対応を行うことができる。また、上記構成の歩行診断システムは、日常の生活動作における歩行を対象とした歩行診断を可能にし、被測定者の歩行状態がアラート状態に変化したことを早期に把握できる。
【0089】
(2)第1判定部51及び第2判定部52は、取得された特徴量とアラート情報との対比に基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する。アラート情報は、医療従事者の診断結果に基づいて、医療従事者により被測定者毎に設定されている。
【0090】
上記構成によれば、医療従事者による診断時点の被測定者の歩行状態に応じてアラート情報を設定できる。そのため、アラート情報が緩く設定されてしまうことによるアラート状態への変化の発見の遅れ、及びアラート情報が厳しく設定されてしまうことによる必要以上の過剰な報知を抑制できる。
【0091】
(3)第1判定部51は、特徴量として取得されたFTAに基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する。第2判定部52は、特徴量として取得されたLHAに基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する。
【0092】
上記構成は、内反足及び外反足が変化した状態をアラート状態として把握したい場合に有効である。
(4)第3判定部53は、分類された部分集合が、前回抽出した一歩区間Aの特徴量データが分類された部分集合と同じであるか否かに基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する。即ち、同じ被測定者から異なるタイミングで取得された特徴量の比較に基づいて、歩行状態がアラート状態であるか否かを判定する。
【0093】
上記構成によれば、歩行状態の急激な変化を把握できる。
(5)情報処理部23は、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間Ah,Am,Atに分割する分割部32と、一歩区間Aにおける一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出部35と、小区間単位の振れ値Sh,Sm,Stを算出する振れ値算出部37とを備えている。第3判定部53は、振れ値Sh,Sm,Stに基づいて、歩行状態がアラート対象であるか否かを判定する。
【0094】
振れ値Sh,Sm,Stは、着地から離地に至る一歩の各タイミングにおいて、足圧中心がどの程度、振れているかを定量化した値である。したがって、振れ値Sh,Sm,Stに基づいて判定部の判定を行うことにより、着地から離地に至る一歩の滑らかさの変化を伴う歩行状態の変化を把握できる。
【0095】
また、医療従事者が被測定者を診察する際に、振れ値Sh,Sm,Stを確認することによって、着地から離地に至る一歩の滑らかさを定量的に判断することができ、被測定者の症状を適切に把握できる。特に、一歩区間Aを分割した小区間単位に細分化した振れ値Sh,Sm,Stとしたことにより、足圧中心がどのタイミングで振れているか等のより詳細な分析も可能である。
【0096】
また、各小区間における足圧中心の振れは、歩行時の膝から下の足の動きに応じて変化する傾向がある。例えば、被験者が外股歩き又は内股歩きの傾向がある場合には、特徴的な振れ値Sh,Sm,Stが得られやすい。したがって、医療従事者が被測定者を診察する際に、一歩区間Aを分割した小区間単位の振れ値Sh,Sm,Stを確認することにより、被測定者の歩行状態をより詳細に把握できる。
【0097】
(6)分割部32は、足裏にかかる部位毎の圧力の相対的な関係に基づいて、一歩区間Aを、踵側に圧力がかかる踵区間Ahと、つま先側に圧力がかかるつま先区間Atと、一歩区間Aにおける踵区間Ah及びつま先区間Atを除いた中間区間Amとに分割する。
【0098】
上記構成によれば、踵側に圧力がかかる踵区間Ah、及びつま先側に圧力がかかるつま先区間Atをより正確に設定することができる。そのため、分割された小区間に基づいて求められる振れ値等の各特徴量の精度が向上する。
【0099】
(7)測定装置10により測定される測定情報には、足裏において、前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに第1位置及び第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の部位毎の圧力を経時的に検出した検出値が含まれている。
【0100】
上記構成によれば、足裏の圧力分布、及び足圧中心の二次元座標をより正確に取得できる。その結果、測定情報から取得されるFTA、LHA、及び振れ値Sh,Sm,Stの精度が向上する。
【0101】
(8)足圧中心の二次元座標の座標系を複数の領域B1~B3に分割し、各領域B1~B3における足圧中心の二次元座標の滞在比率を小区間単位で算出する滞在比率算出部36を備えている。
【0102】
上記構成により得られる小区間単位の足圧中心の二次元座標の滞在比率は、着地から離地に至る一歩の各タイミングにおいて、足圧中心が振れる方向を示す値とみなすことができる。したがって、上記滞在比率に基づいて判定部の判定を行うことにより、足圧中心が振れる方向の変化を伴う歩行状態の変化を把握できる。また、医療従事者が被測定者を診察する際に、小区間単位の振れ値とともに上記滞在比率を確認することにより、被測定者の歩行状態をより詳細に把握できる。
【0103】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、左足のみを測定対象とした場合について説明したが、右足のみを測定対象としてもよいし、左右両足を測定対象としてもよい。
【0104】
・測定ステップは、日常の生活動作における歩行を対象とするものに限定されない。例えば、測定ステップとして、1日1回等の定期的な歩行試験を行ってもよい。歩行試験としては、例えば、平面の上を10m程度、歩行させることが挙げられる。
【0105】
・歩行診断装置20による歩行診断を行うタイミングを変更してもよい。例えば、上記実施形態では、測定装置10を用いて測定を行う測定ステップと、歩行診断装置20による歩行診断とを同時に進行させていたが、測定ステップが完了してから、歩行診断装置20による歩行診断を行ってもよい。
【0106】
・測定装置10に設けられる圧力センサ12の数及び配置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、取得する特徴量の種類に応じて、適宜、変更してもよい。なお、特徴量として、FTA及びLHAを取得する場合、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに第1位置及び第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置に圧力センサ12を設けることが好ましい。
【0107】
・測定装置10は、測定情報を記憶する記憶部を備えていてもよい。なお、測定装置10の記憶部として、メモリーカード等の取り外し可能な記録媒体を用いた場合には、測定装置10の送信部13及び歩行診断装置20の受信部21を省略してもよい。
【0108】
・判定部における判定に用いる特徴量の種類、及びその組み合わせは、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記実施形態にて取得した各種特徴量から適宜、選択することができる。例えば、FTA及びLHAに代えて、分類部38によるクラスタリングに用いた特徴量F1~F11のいずれかの特徴量と、その特徴量に関するアラート情報とを対比することにより、アラート状態を判定してもよい。
【0109】
また、判定部における判定に用いる特徴量は、上記実施形態にて取得した特徴量以外のその他の特徴量であってもよい。その他の特徴量としては、例えば、歩行速度、歩行時における左右の足の同期性、連続歩行時間、座っている時間等の連続停止時間が挙げられる。
【0110】
・判定部の判定に用いるアラート情報は、医療従事者の診断結果に基づいて、医療従事者により被測定者毎設定された値や範囲に限定されない。例えば、アラート情報は、自己診断に基づいて被測定者本人、保護者、介護者等により設定された値や範囲であってもよいし、性別や年齢等による分類毎に共通の値や範囲であってもよい。
【0111】
・判定部の判定に用いるアラート情報は、特徴量そのものの値や範囲に限定されるものではなく、同じ被測定者から取得されて記憶部22に記憶されている前回又は所定回前の特徴量からの変化率の値や範囲であってもよい。
【0112】
・判定部は、取得された特徴量からAIを用いてアラート状態であるか否かを判定する構成であってもよい。AIを用いた判定は、例えば、歩行速度、歩行時における左右の足の同期性、連続歩行時間、連続停止時間等の一連の歩行動作中に急激に変化し得る特徴量について、その特徴量が急激に変化した状態をアラート状態として把握する場合に特に有用である。この場合、AIは、例えば、同じ被測定者から取得されて記憶部22に記憶されている前回以前の1種類又は複数種類の特徴量を学習することにより平常状態を設定し、今回取得された特徴量が平常状態に含まれない場合をアラート状態と判定する。
【0113】
・上記実施形態では、測定情報から作成された波形データから抽出された特定の一歩区間Aを対象として、分割ステップS13以降の特徴量取得ステップ及び判定ステップを行っていたが、上記波形データに含まれる全ての一歩区間Aを対象として、特徴量取得ステップ及び判定ステップを行ってもよい。
【0114】
・歩行状態がアラート対象であることを報知する報知部は、警告文の表示する表示部25に限定されない。例えば、音、音声、振動、光、及びこれらの組み合わせを発生させることによって歩行状態がアラート対象であることを報知する報知部であってもよい。また、報知部は、測定装置10に設けられていてもよい。
【0115】
・報知部により報知を行うタイミングを変更してもよい。例えば、アラート信号が出力される一歩区間Aが所定回数、連続した場合や、一定期間内において、アラート信号が出力される一歩区間Aの割合が所定値以上になった場合に報知を行う構成としてもよい。
【0116】
・報知部は、被測定者の歩行状態がアラート状態であることを、被測定者以外の他者に対して報知するものであってもよい。この場合、被測定者以外の他者が有する携帯端末等の機器を報知部として利用すればよい。なお、被測定者以外の他者としては、例えば、保護者、介助者、介護者、医療従事者が挙げられる。
【0117】
・一歩区間Aの始点t1及び終点t2の設定方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、各部位の検出値が略一定となってから所定時間経過した点を終点t2としてもよい。
【0118】
・踵区間Ah、中間区間Am、及びつま先区間Atの定義は、上記実施形態に限定されない。例えば、つま先センサ12bの検出値がピークの頂点となる時点から一歩区間Aの終点t2までの区間をつま先区間Atとしてもよい。また、一歩区間Aの始点t1から特定時間後までの区間を踵区間Ahとし、一歩区間Aの終点t2の特定時間前から終点t2までの区間をつま先区間Atとする等して、部位毎の圧力の相対的な関係を用いることなく各小区間を設定してもよい。これらの場合には、つま先区間Atを確実に設けることができる。
【0119】
・一歩区間Aを複数の小区間に分割する方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、中間区間Amを更に分割する等して4以上の小区間に分割してもよい。踵側に圧力がかかる区間及びつま先側に圧力がかかる区間とは無関係に分割された小区間であってもよい。
【0120】
・滞在比率を算出する場合における足圧中心の二次元座標系の分割方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、左右方向に並ぶ複数の領域に分割したが、前後方向に並ぶ複数の領域に分割してもよいし、前後左右に並ぶ複数の領域に分割してもよい。また、足圧中心の二次元座標系の分割数は、2であってもよいし、4以上であってもよい。
【0121】
・上記実施形態では、全ての小区間の振れ値を取得していたが、特定の小区間の振れ値のみを取得する構成であってもよい。
・クラスタリングを行うための特徴量データを構成する特徴量の種類は、上記実施形態に限定されるものではなく、小区間単位の振れ値が含まれていればよい。例えば、振れ値Sh,Sm,St、踵区間最大値Ahmax、つま先区間最大値Atmax、区間時間Th,Tm,Ttのみからなる特徴量データであってもよいし、特定の小区間に関する特徴量のみからなる特徴量データであってもよい。また、上記実施形態に記載した特徴量に加えて、その他の特徴量を含む特徴量データであってもよい。上記その他の特徴量としては、例えば、FTA、LHA、中間区間Amにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値が挙げられる。
【0122】
・情報処理部23は、判定部の判定に用いない特徴量を取得するものであってもよい。判定部の判定に用いない特徴量も、医療従事者が被測定者を診察する際に、被測定者の症状を適切に把握する助けとなる。
【0123】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)歩行状態を診断する歩行診断装置であって、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定して得られた測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部と、取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する判定部と、判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知する報知部とを備えることを特徴とする歩行診断装置。
【0124】
(ロ)コンピュータを歩行診断装置として機能させるプログラムであって、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定した測定値を含む測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得するステップと、取得された前記特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定するステップと、判定部の判定結果に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であることを報知するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【符号の説明】
【0125】
10…測定装置
20…歩行診断装置
23…情報処理部
24…判定処理部
25…表示部
32…分割部
35…座標算出部
37…振れ値算出部
39…FTA算出部
40…LHA算出部
51…第1判定部
52…第2判定部
53…第3判定部