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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20230523BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230523BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230523BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N3/08 A ZAB
F01N3/20 B
F01N3/20 R
F02D45/00 368Z
F01N3/08 B
B01D53/94 222
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020096953
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021188592
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】住田 浩一
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/092159(WO,A1)
【文献】特開2017-040165(JP,A)
【文献】特開2018-200021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0222401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/08
F02D 45/00
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと接続され、前記エンジン内で発生した排気ガスが流れる排気通路と、
前記排気通路に配設され、前記排気ガスに含まれるNOxを浄化するNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒の少なくとも下流側に存在するNOxを検出するNOx検出部と、
前記NOx浄化触媒の現在の状態に基づいて、前記NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値を算出する第1浄化率算出部と、
前記NOx検出部の検出値に基づいて、前記NOx浄化触媒のNOx浄化率検出値を算出する第2浄化率算出部と、
前記第1浄化率算出部により算出された前記NOx浄化率推定値と前記第2浄化率算出部により算出された前記NOx浄化率検出値との差分を算出し、前記NOx浄化率推定値と前記NOx浄化率検出値との差分が規定時間内に規定値以上となったときに、前記NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定する詰まり判定部とを備えるエンジンシステム。
【請求項2】
前記詰まり判定部により前記NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定されたときに、前記NOx浄化触媒に流入される前記排気ガスを昇温させる排気昇温部を更に備える請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記第1浄化率算出部は、前記NOx浄化触媒に流入される前記排気ガスの温度及び流量と、前記NOx浄化触媒の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量とに基づいて、前記NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値を算出する請求項1または2記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記排気ガスが安定状態であるかどうかを判断し、前記排気ガスが安定状態であるときに、前記詰まり判定部による判定処理の実行を許可する判定適否判断部を更に備える請求項1~3の何れか一項記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記判定適否判断部は、前記排気ガスの安定状態が一定時間継続しているときに、前記詰まり判定部による判定処理の実行を許可する請求項4記載のエンジンシステム。
【請求項6】
前記NOx検出部の数が2つであり、
前記NOx検出部は、前記NOx浄化触媒の上流側及び下流側に存在するNOxを検出する請求項1~5の何れか一項記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンシステムとしては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載のエンジンシステムは、ディーゼルエンジンの排気ガス通路に配設されたNOx吸蔵還元型触媒と、このNOx吸蔵還元型触媒の上流側に配置された空気過剰率センサ及び第1NOxセンサと、NOx吸蔵還元型触媒の下流側に配置された第2NOxセンサと、再生制御装置とを備えている。再生制御装置は、第1NOxセンサ及び第2NOxセンサの検出値を用いてNOx吸蔵還元型触媒のNOx吸蔵量を推定し、NOx吸蔵量が所定の判定量を超えた場合、空気過剰率センサにより検出された酸素濃度が所定の判定範囲内であるときに、NOx吸蔵還元型触媒に吸蔵されたNOxを還元除去することで、NOx再生制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-291715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、NOx吸蔵還元型触媒(NOx浄化触媒)に吸蔵されたNOxを定期的に還元除去する際には、エンジンから多量のPM及び未燃HCが発生する。排気ガスに含まれるPM及び未燃HCによってNOx吸蔵還元型触媒の端面が詰まると、NOx吸蔵還元型触媒のNOx浄化性能が低下すると共に、エミッションの悪化や背圧低下による出力低下が引き起こされる。従って、NOx吸蔵還元型触媒の端面詰まりを生じさせない対策に加え、NOx吸蔵還元型触媒の端面詰まりが生じたこと又は生じそうなことを高精度に検知し、NOx吸蔵還元型触媒の端面詰まりを抑制又は解消するといった対策が必要である。
【0005】
本発明の目的は、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度を向上させることができるエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエンジンシステムは、エンジンと、エンジンと接続され、エンジン内で発生した排気ガスが流れる排気通路と、排気通路に配設され、排気ガスに含まれるNOxを浄化するNOx浄化触媒と、NOx浄化触媒の少なくとも下流側に存在するNOxを検出するNOx検出部と、NOx浄化触媒の現在の状態に基づいて、NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値を算出する第1浄化率算出部と、NOx検出部の検出値に基づいて、NOx浄化触媒のNOx浄化率検出値を算出する第2浄化率算出部と、第1浄化率算出部により算出されたNOx浄化率推定値と第2浄化率算出部により算出されたNOx浄化率検出値との差分を算出し、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が規定時間内に規定値以上となったときに、NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定する詰まり判定部とを備える。
【0007】
このようなエンジンシステムにおいては、NOx浄化触媒の現在の状態に基づいて、NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値が算出されると共に、NOx浄化触媒の少なくとも下流側に存在するNOxを検出するNOx検出部の検出値に基づいて、NOx浄化触媒のNOx浄化率検出値が算出される。そして、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が算出され、その差分が規定時間内に規定値以上となったときに、NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定される。従って、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が想定よりも短期間で大きくなったときは、NOx浄化触媒の劣化ではなく、NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定されることとなる。これにより、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度が向上する。
【0008】
エンジンシステムは、詰まり判定部によりNOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定されたときに、NOx浄化触媒に流入される排気ガスを昇温させる排気昇温部を更に備えてもよい。このような構成では、NOx浄化触媒の端面に詰まりが生じている可能性があると判定されると、NOx浄化触媒に流入される排気ガスが昇温するため、NOx浄化触媒の端面に詰まった物質が燃焼除去される。従って、NOx浄化触媒の端面詰まりが抑制又は解消される。
【0009】
第1浄化率算出部は、NOx浄化触媒に流入される排気ガスの温度及び流量と、NOx浄化触媒の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量とに基づいて、NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値を算出してもよい。このような構成では、NOx浄化触媒の現在の状態が適切に得られるため、NOx浄化触媒のNOx浄化率推定値を精度良く算出することができる。
【0010】
エンジンシステムは、排気ガスが安定状態であるかどうかを判断し、排気ガスが安定状態であるときに、詰まり判定部による判定処理の実行を許可する判定適否判断部を更に備えてもよい。このような構成では、NOx浄化触媒の端面詰まりの判定処理に適した条件の排気ガスが得られるときに、詰まり判定部による判定処理の実行が許可される。従って、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度が更に向上する。
【0011】
判定適否判断部は、排気ガスの安定状態が一定時間継続しているときに、詰まり判定部による判定処理の実行を許可してもよい。このような構成では、詰まり判定部による1回の判定処理期間におけるNOx浄化率推定値及びNOx浄化率検出値のばらつきの影響が少なくなる。従って、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度が一層向上する。
【0012】
NOx検出部の数が2つであり、NOx検出部は、NOx浄化触媒の上流側及び下流側に存在するNOxを検出してもよい。このような構成では、精度が高いNOx浄化率検出値が得られるため、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度が更に向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、NOx浄化触媒の端面詰まりの検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンシステムを概略的に示す構成図である。
図2図1に示されたエンジンシステムの制御系の構成図である。
図3図2に示された第1浄化率算出部により実行される算出処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
図4図2に示された第2浄化率算出部により実行される算出処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
図5図2に示された詰まり判定部により実行される判定処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
図6図2に示された判定適否判断部により実行される判断処理の手順の詳細を示すフローチャートである。
図7】NSR触媒の端面詰まりの検知例を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジンシステムを概略的に示す構成図である。図1において、本実施形態のエンジンシステム1は、車両に搭載されている。エンジンシステム1は、エンジン2と、吸気通路3と、排気通路4と、スロットルバルブ5と、インジェクタ6と、NSR触媒7(NOxStorage-Reduction触媒)とを備えている。
【0017】
エンジン2は、ディーゼルエンジンである。エンジン2は、特に図示はしないが、燃焼室を構成するシリンダを有している。吸気通路3及び排気通路4は、エンジン2に接続されている。吸気通路3は、吸入空気が流れる通路である。排気通路4は、エンジン2の燃焼室内で発生した排気ガスが流れる流路である。
【0018】
スロットルバルブ5は、吸気通路3に配設されている。スロットルバルブ5は、エンジン2に供給される吸入空気の流量を調整する流量調整弁である。インジェクタ6は、エンジン2の燃焼室に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁である。
【0019】
NSR触媒7は、排気通路4に配設されている。NSR触媒7は、排気ガスに含まれるNOxを浄化するNOx浄化触媒である。NSR触媒7は、担持体に触媒貴金属及びNOx吸蔵材を担持させた構造を有している。
【0020】
また、エンジンシステム1は、アクセルセンサ8と、回転数センサ9と、エアフローメータ10と、排気温センサ11と、上流側NOxセンサ12と、下流側NOxセンサ13と、ECU14(enginecontrol unit)とを備えている。
【0021】
アクセルセンサ8は、アクセルペダル(図示せず)の開度をエンジン負荷として検出する。回転数センサ9は、エンジン2の回転数(エンジン回転数)を検出する。エアフローメータ10は、エンジン2への吸入空気量を検出する。排気温センサ11は、排気ガスの温度(排気温)を検出する。
【0022】
上流側NOxセンサ12は、NSR触媒7の上流側に存在するNOxを検出するNOx検出部を構成する。下流側NOxセンサ13は、NSR触媒7の下流側に存在するNOxを検出するNOx検出部を構成する。上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13は、例えばNOx濃度又はNOx量をNOxの状態量として検出する。
【0023】
ECU14は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。ECU14は、アクセルセンサ8、回転数センサ9、エアフローメータ10、排気温センサ11、上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13の検出値を取得し、所定の処理を実行し、スロットルバルブ5及びインジェクタ6を制御する。
【0024】
ECU14は、図2に示されるように、第1浄化率算出部15と、第2浄化率算出部16と、詰まり判定部17と、排気昇温部18と、判定適否判断部19とを有している。
【0025】
第1浄化率算出部15は、NSR触媒7の現在の状態に基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率推定値を算出する。NSR触媒7の現在の状態は、アクセルセンサ8により検出されたエンジン負荷と回転数センサ9により検出されたエンジン回転数とエアフローメータ10により検出された吸入空気量と排気温センサ11により検出された排気温とに基づいて推定される。
【0026】
図3は、第1浄化率算出部15により実行される算出処理の手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、例えばイグニッションスイッチがONされると実行される。図3において、第1浄化率算出部15は、まずアクセルセンサ8、回転数センサ9、エアフローメータ10及び排気温センサ11の検出値を取得する(手順S101)。
【0027】
続いて、第1浄化率算出部15は、アクセルセンサ8、回転数センサ9、エアフローメータ10及び排気温センサ11の検出値に基づいて、NSR触媒7に流入される排気ガス量、NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量(S被毒量)を推定する(手順S102)。
【0028】
具体的には、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて、インジェクタ6からエンジン2への燃料噴射量及び燃料噴射時期が決定される。NSR触媒7に流入される排気ガス量は、エンジン2への吸入空気量及び燃料噴射量に基づいて算出される。NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量は、エンジン負荷、エンジン回転数及び排気温に基づいて算出される。なお、排気ガス量、NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量は、例えばマップ計算により算出される。
【0029】
続いて、第1浄化率算出部15は、排気温、排気ガス量、NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量に基づいて、NSR触媒7の上流側及び下流側のNOx量を推定する(手順S103)。これにより、NSR触媒7の上流側及び下流側のNOx推定値が得られる(図7(b)参照)。
【0030】
NSR触媒7の上流側のNOx推定値(図7(b)中の実線P1参照)は、排気温及び排気ガス量に基づいて算出される。NSR触媒7の下流側のNOx推定値(図7(b)中の実線P2参照)は、排気温、排気ガス量、NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量に基づいて算出される。なお、NSR触媒7の上流側及び下流側のNOx推定値は、例えばマップ計算により算出される。
【0031】
続いて、第1浄化率算出部15は、NSR触媒7の上流側及び下流側のNOx推定値に基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率推定値(図7(d)中の実線P参照)を算出する(手順S104)。NSR触媒7の上流側のNOx量をA1とし、NSR触媒7の下流側のNOx量をA2としたときに、NSR触媒7のNOx浄化率は、(A1-A2)/A1から算出される。
【0032】
第2浄化率算出部16は、上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13により検出されたNOxの状態量に基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率検出値を算出する。
【0033】
図4は、第2浄化率算出部16により実行される算出処理の手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、例えばイグニッションスイッチがONされると実行される。図4において、第2浄化率算出部16は、まず上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13の検出値をNOx検出値として取得する(手順S111)。
【0034】
続いて、第2浄化率算出部16は、上流側NOxセンサ12により取得されたNSR触媒7の上流側のNOx検出値(図7(c)中の実線Q1参照)と下流側NOxセンサ13により取得されたNSR触媒7の下流側のNOx検出値(図7(c)中の実線Q2参照)とに基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率検出値(図7(d)中の実線Q参照)を算出する(手順S112)。NSR触媒7のNOx浄化率検出値の算出式は、図3における手順S104と同様である。
【0035】
詰まり判定部17は、第1浄化率算出部15により算出されたNOx浄化率推定値と第2浄化率算出部16により算出されたNOx浄化率検出値との差分を算出し、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が規定時間内に規定値以上となったときに、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定する。
【0036】
図5は、詰まり判定部17により実行される判定処理の手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、後述する判定許可フラグが1に設定されているときに、実行される。
【0037】
図5において、詰まり判定部17は、まず第1浄化率算出部15により算出されたNOx浄化率推定値と第2浄化率算出部16により算出されたNOx浄化率検出値とを取得する(手順S121)。続いて、詰まり判定部17は、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分をNOx浄化率差分として算出する(手順S122)。
【0038】
続いて、詰まり判定部17は、NOx浄化率差分が予め決められた規定値以上であるかどうかを判断する(手順S123)。詰まり判定部17は、NOx浄化率差分が規定値以上であると判断したときは、前回判定処理が行われた時からの経過時間が予め決められた規定時間内であるかどうかを判断する(手順S124)。NSR触媒7の経年劣化によっても、NOx浄化率差分が規定値以上となり得る。ここでの規定時間は、単にNSR触媒7の経年劣化によってNOx浄化率差分が規定値以上となった場合を除外するための判断値である。
【0039】
詰まり判定部17は、前回判定処理が行われた時からの経過時間が規定時間内であると判断したときは、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定する(手順S125)。
【0040】
詰まり判定部17は、手順S123でNOx浄化率差分が規定値よりも小さいと判断したときは、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じていないと判定する(手順S126)。詰まり判定部17は、手順S124で前回判定処理が行われた時からの経過時間が規定時間を超えていると判断したときも、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じていないと判定する(手順S126)。
【0041】
排気昇温部18は、詰まり判定部17によりNSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定されたときに、NSR触媒7に流入される排気ガスを昇温させるようにインジェクタ6又はスロットルバルブ5を制御する。
【0042】
排気昇温部18は、エンジン2の燃焼状態を変えることで、排気ガスを昇温させる。具体的には、排気昇温部18は、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて決定される燃料噴射時期を遅角させるようにインジェクタ6を制御することにより、排気ガスを昇温させる。また、排気昇温部18は、エンジン2への吸入空気量を減少させるようにスロットルバルブ5を制御することにより、排気ガスを昇温させてもよい。
【0043】
判定適否判断部19は、エンジン2から排出される排気ガスが安定状態であるかどうかを判断し、排気ガスが安定状態であるときに、詰まり判定部17による判定処理の実行を許可する。排気ガスの安定状態は、排気量及び排気温が安定している状態である。ここでは、判定適否判断部19は、アクセルセンサ8により検出されたエンジン負荷と回転数センサ9により検出されたエンジン回転数とに基づいて、エンジン2が定常運転状態であるかどうかを判断することで、排気ガスが安定状態であるかどうかを判断する。
【0044】
図6は、判定適否判断部19により実行される判断処理の手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、例えばイグニッションスイッチがONされると実行される。図6において、判定適否判断部19は、まずアクセルセンサ8及び回転数センサ9の検出値を取得する(手順S131)。
【0045】
続いて、判定適否判断部19は、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて、エンジン2が定常運転状態であるかどうかを判断する(手順S132)。エンジン2の定常運転状態は、アクセルペダルが一定の開度で踏み込まれることで、車両が一定の速度で走行している状態である。この場合には、エンジン2から排出される排気ガスは、NOxを適度に含み、詰まり判定部17によるNSR触媒7の端面詰まりの判定に適した安定状態となる。
【0046】
判定適否判断部19は、エンジン2が定常運転状態であると判断したときは、エンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値t(図7(a)参照)に達したかどうかを判断する(手順S133)。継続時間閾値tは、図5の手順S124における規定時間に比べて十分に短い時間である。つまり、判定適否判断部19は、排気ガスの安定状態が一定時間継続しているかどうかを判断することになる。
【0047】
判定適否判断部19は、エンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値tに達したと判断したときは、判定許可フラグを1に設定する(手順S134)。判定許可フラグは、詰まり判定部17によるNSR触媒7の端面詰まりの判定処理を許可するためのフラグである(図7(e)参照)。判定処理を許可する場合は、判定許可フラグが1に設定される。判定処理を許可しない場合は、判定許可フラグが0に設定される。
【0048】
判定適否判断部19は、手順S132でエンジン2が定常運転状態でないと判断したときは、判定許可フラグを0に設定する(手順S135)。判定適否判断部19は、手順S133でエンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値tに達していないと判断したときも、判定許可フラグを0に設定する(手順S135)。
【0049】
以上のように構成されたエンジンシステム1において、図7(b)に示されるように、NSR触媒7の現在の状態に基づいて、NSR触媒7の上流側のNOx推定値(実線P1参照)及びNSR触媒7の下流側のNOx推定値(実線P2参照)が算出される。そして、図7(d)に示されるように、NSR触媒7のNOx浄化率推定値(実線P参照)が算出される。なお、図7(d)では、エンジン2の定常運転状態が継続しているときのNOx浄化率推定値のみが、端面詰まり判定用NOx浄化率推定値として示されている。
【0050】
また、図7(c),図7(d)に示されるように、上流側NOxセンサ12により取得されたNSR触媒7の上流側のNOx検出値(実線Q1参照)と下流側NOxセンサ13により取得されたNSR触媒7の下流側のNOx検出値(実線Q2参照)とに基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率検出値(実線Q参照)が算出される。なお、図7(d)では、エンジン2の定常運転状態が継続しているときのNOx浄化率検出値のみが、端面詰まり判定用NOx浄化率検出値として示されている。
【0051】
ここで、図7(a),(e)に示されるように、期間T1では、エンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値tに達することで、判定許可フラグが1に設定される。従って、NSR触媒7の端面詰まりの判定処理が許可されるため、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分であるNOx浄化率差分が算出される。このとき、NOx浄化率差分が規定値よりも小さいため、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じていないと判定される。
【0052】
その後、期間T2では、エンジン2が定常運転状態となるが、エンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値tに達しないため、判定許可フラグが0に設定される。このため、NSR触媒7の端面詰まりの判定処理は行われない。
【0053】
その後、期間T3では、エンジン2の定常運転状態の継続時間が継続時間閾値tに達することで、判定許可フラグが1に設定される。従って、NSR触媒7の端面詰まりの判定処理が許可されるため、NOx浄化率差分が算出される。このとき、NOx浄化率差分が規定値以上であると共に、前回判定処理が行われた時からの経過時間が規定時間内である。従って、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定される。
【0054】
この場合には、インジェクタ6又はスロットルバルブ5が制御されることで、NSR触媒7に流入される排気ガスが昇温する。このため、排気ガスによってNSR触媒7の前端面7aの詰まり物質が燃焼除去される。
【0055】
ところで、NSR触媒7の端面詰まりを検知する方法としては、例えばNSR触媒7の前端面7aへの詰まりの生成物質の流入積算量を検出し、その流入積算量から端面詰まりを推定したり、或いはNSR触媒7の上流側及び下流側の前後圧力差を検出し、その圧力差から端面詰まりを推定するといった方法がある。
【0056】
しかし、NSR触媒7の前端面7aへの詰まりの生成物質の流入積算量を検出する方法では、生成物質の流入積算量の検出精度によって誤推定する可能性がある。また、圧力が上昇しないような端面詰まりでも、NSR触媒7の浄化性能が悪化するため、NSR触媒7の前後圧力差を検出する方法では、端面詰まりを推定することができない場合がある。従って、NSR触媒7の端面詰まりによりNSR触媒7の浄化性能が低下する前にNSR触媒7の端面詰まりを解消するためには、余裕を持って端面詰まりを検知して、排気ガスを昇温する必要がある。この場合には、NSR触媒7の端面詰まりの検知頻度が多くなる。その結果、排気ガスを昇温させる頻度が多くなると、燃費悪化を引き起こしてしまう。
【0057】
そのような課題に対し、本実施形態では、NSR触媒7の現在の状態に基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率推定値が算出されると共に、NSR触媒7の上流側及び下流側に存在するNOxを検出する上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13の検出値に基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率検出値が算出される。そして、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が算出され、その差分が規定時間内に規定値以上となったときに、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定される。従って、NOx浄化率推定値とNOx浄化率検出値との差分が想定よりも短期間で大きくなったときは、NSR触媒7の劣化ではなく、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが生じている可能性があると判定されることとなる。これにより、NSR触媒7の端面詰まりの検知精度が向上する。その結果、NSR触媒7の浄化性能が低下する前にNSR触媒7の前端面7aの詰まりを抑制するために、NSR触媒7の端面詰まりを頻繁に検知するといったことが解消される。つまり、NSR触媒7の端面詰まりの検知頻度を少なくすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、NSR触媒7の前端面7aに詰まりが発生している可能性があると判定されると、NSR触媒7に流入される排気ガスが昇温するため、NSR触媒7の前端面7aに詰まった物質が燃焼除去される。従って、NSR触媒7の端面詰まりが抑制される。このとき、上述したようにNSR触媒7の端面詰まりの検知頻度が少なくなるため、排気ガスを昇温させる頻度も少なくなる。従って、燃費悪化を防ぐことができる。
【0059】
また、本実施形態では、NSR触媒7に流入される排気ガスの温度及び流量と、NSR触媒7の劣化度、NOx吸蔵量及び硫黄被毒量とに基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率推定値が算出される。従って、NSR触媒7の現在の状態が適切に得られるため、NSR触媒7のNOx浄化率推定値を精度良く算出することができる。
【0060】
また、本実施形態では、排気ガスが安定状態であるときに、詰まり判定部17による判定処理の実行が許可される。このため、NSR触媒7の端面詰まりの判定処理に適した条件の排気ガスが得られるときに、詰まり判定部17による判定処理の実行が許可される。従って、NSR触媒7の端面詰まりの検知精度が更に向上する。
【0061】
また、本実施形態では、排気ガスの安定状態が一定時間継続しているときに、詰まり判定部17による判定処理の実行が許可される。このため、詰まり判定部17による1回の判定処理期間におけるNOx浄化率推定値及びNOx浄化率検出値のばらつきの影響が少なくなる。従って、NSR触媒7の端面詰まりの検知精度が一層向上する。
【0062】
また、本実施形態では、上流側NOxセンサ12及び下流側NOxセンサ13を用いることにより、精度が高いNOx浄化率検出値が得られるため、NSR触媒7の端面詰まりの検知精度がより一層向上する。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、排気ガスの安定状態が一定時間継続するときに、詰まり判定部17による判定処理の実行が許可されているが、特にその形態には限られず、例えば排気ガスの状態に関わらず、定期的に詰まり判定部17による判定処理の実行を許可してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、NSR触媒7の上流側に存在するNOxを検出する上流側NOxセンサ12と、NSR触媒7の下流側に存在するNOxを検出する下流側NOxセンサ13とが備えられているが、特にその形態に限られず、上流側NOxセンサ12については無くてもよい。この場合には、例えば第1浄化率算出部15により算出されたNSR触媒7の上流側のNOx推定値と下流側NOxセンサ13により取得されたNSR触媒7の下流側のNOx検出値とに基づいて、NSR触媒7のNOx浄化率検出値を算出してもよい。また、下流側NOxセンサ13により取得されたNSR触媒7の下流側のNOx検出値に基づいて、NSR触媒7におけるNOxのすり抜け量を算出することで、NSR触媒7のNOx浄化率検出値を算出してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、排気通路4にNSR触媒7が配設されているが、本発明は、排気通路4にSCR(SelectiveCatalytic Reduction)触媒が配設されたエンジンシステムにも適用可能である。SCR触媒は、排出ガス中に尿素水を噴射することでNOxを浄化するNOx浄化触媒である。
【符号の説明】
【0066】
1…エンジンシステム、2…エンジン、4…排気通路、7…NSR触媒(NOx浄化触媒)、7a…前端面(端面)、12…上流側NOxセンサ(NOx検出部)、13…下流側NOxセンサ(NOx検出部)、15…第1浄化率算出部、16…第2浄化率算出部、17…詰まり判定部、18…排気昇温部、19…判定適否判断部。
図1
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図3
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図7