(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】合成皮革および被覆物品
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20230523BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230523BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20230523BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
D04H1/4374
(21)【出願番号】P 2020544678
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016835
(87)【国際公開番号】W WO2020218178
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019083666
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-025156(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006807(WO,A1)
【文献】特許第4870412(JP,B2)
【文献】特開平07-227488(JP,A)
【文献】国際公開第2009/081760(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0070465(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0182967(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
D06M 13/00-15/715
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)の方法で測定された高温収縮率が
-5%以上3%以下で、且つ
目付200g/m
2
、JIS L1913(2010)に準拠する方法で測定した厚さが2mm(密度100kg/m
3
)のフェルトを試験体とし、ISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が
0.02W/m・K以上0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aを含むウェブから成る防炎層を少なくとも1層含み、該防炎層が、JIS K-7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上
65以下である熱可塑性繊維Bを含むスクリム層と結合してなる不織布シートを繊維基材層とし、該繊維基材層に樹脂層が形成されて
おり、
前記非溶融繊維Aは、800℃の温度で液化および発火しない繊維であり、かつ、アクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、フェノール系繊維等から選択される繊維を原料として耐炎化処理を行った繊維である耐炎化繊維
熱可塑性繊維Bは、ポリアリーレンスルフィドで構成される繊維であり、
前記繊維基材層において、非溶融繊維Aの含有率が15~70質量%、熱可塑性繊維Bの含有率が30~85質量%であり、
前記繊維基材層を構成するスクリム層が、熱可塑性繊維Bを80質量%以上100質量%以下含有する合成皮革。
(1)原料となる繊維を標準状態(20℃、相対湿度65%)中で12時間放置後、0.1cN/dtexの張力を与えて原長L0を測定し、その繊維に対して荷重を付加せずに290℃の乾熱雰囲気に30分間暴露し、標準状態(20℃、相対湿度65%)中で十分冷却したうえで、さらに繊維に対して0.1cN/dtexの張力を与えて長さL1を測定し、L0およびL1から以下の式で求められる数値を高温収縮率とする。
高温収縮率=〔(L0-L1)/L0〕×100(%)
【請求項2】
前記繊維基材層と前記樹脂層の間に接着層を有する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記合成皮革において、表皮樹脂層または接着層の前記繊維基材層への浸透深さが、0.05~0.40mmである請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記熱可塑性繊維Bは、硫黄原子を15質量%以上含む繊維である請求項1~
3の何れかに記載の合成皮革。
【請求項5】
前記繊維基材層のスクリム層の面に樹脂層が積層されている請求項1~
4の何れかに記載の合成皮革。
【請求項6】
前記合成皮革において、前記繊維基材層の占める質量割合が20~80質量%である請求項1~
5の何れかに記載の合成皮革。
【請求項7】
請求項1~
6の何れかに記載の合成皮革で被覆した被覆物品。
【請求項8】
前記被覆物品が航空機、自動車または、船舶に搭載するシートクッション材である請求項
7に記載の被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革および合成皮革で被覆された被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然皮革の代わりとして、航空機、自動車、鉄道用内装材や建築物、家具用等インテリア資材等幅広い分野で合成皮革が使用されている。航空機や自動車等の車両用内装材や家具用等表皮材に用いられる合成皮革は、風合いが柔らかく、柔軟性があり、機械的強度や耐久性が求められている。これらは燃焼しやすいという欠点があるため、難燃性能が要求されている。
【0003】
例えば、自動車内装材ではFMVSS-302やJIS D-1201、鉄道用内装材では鉄道車両用非金属材料試験法、45度エチルアルコール法、壁装材ではJIS A-1321などがあり、これらの規格に合格するには高い難燃性が求められる。
【0004】
さらに、航空機シート材であれば、12秒または60秒垂直燃焼試験のような合成皮革単体での難燃性に加え、シートクッション材に合成皮革のような表皮材を複合した、シート全体としてのガソリンバーナー試験による難燃性が求められ、さらに高い難燃性が求められる。
【0005】
合成皮革は、織物や編物、不織布等の繊維基材層にポリウレタンやポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の表皮樹脂層を積層して形成される。また、繊維基材層と表皮樹脂層との間に接着層を介する場合もある。
【0006】
合成皮革の難燃化は、繊維基材層、表皮樹脂層および接着層のうち少なくとも1つ以上を難燃化する方法が報告されており、大別すると、繊維基材層を構成する繊維に、難燃性の高い繊維を用いる方法と、後加工によって、難燃化する方法がある。いずれの方法においても、難燃剤をさまざまな方法で付与することが主流であるが、近年、環境保全、燃焼時の発生ガスの有害性の点から、ハロゲン系難燃剤を使用しない難燃化の要望が強くなっており、リン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモン、硫酸アンモニウム、硼砂、ほう酸、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステルなど、リン系や水酸化物などの非ハロゲン系難燃剤が知られている。
【0007】
一般的に上記難燃剤は、難燃効果を出すのに必要な量を添加すると、水溶性難燃剤では、合成樹脂エマルジョンや溶液の増粘、破壊(ガムアップ)が生じたり、樹脂の皮膜強度低下、耐熱性の低下、風合いの低下等の問題がある。耐水性に劣る場合もあり、水と触れることでキワつきが生じたり、難燃性能自体が低下するなどの問題もある。このような問題を解決するために、特定の構造を有するリン系難燃剤が開示されている(特許文献1)。
【0008】
さらに、難燃剤を、繊維基材層を構成する繊維中に練りこみ、繊維自身のLOI値を25以上とすることで、繊維基材層としての難燃性を向上させる方法も開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013-187492号
【文献】特開2010-77554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の難燃合成皮革では、合成皮革単独で自動車内装材向けFMVSS-302やJIS D-1201、鉄道車両用非金属材料試験法、45度エチルアルコール法、壁装材向けJIS A-1321、航空機シート材向けの12秒または60秒垂直燃焼試験のような、難燃試験は合格するものの、これを表皮材とし、シートクッション材と複合してシートとする場合、得られたシートは、全体としてガソリンバーナー試験に耐えうるほどの難燃性能を有しておらず、難燃合成皮革とシートクッション材の間にアラミド系や無機繊維の厚いフェルトを耐火層として配置する必要があった。このように耐火層を配置したシートは、シートとして硬くなってしまううえ、体積は大きくなり、質量も重くなる問題があった。
【0011】
特許文献1記載の方法で、繊維基材層にディッピング加工で難燃剤を付与してウレタン系樹脂層と一体化した後、さらに難燃剤を含む樹脂でバッキング加工を実施した場合、合成皮革単体では、さまざまな用途の難燃規格試験は合格するものの、シートクッション材と一体化した場合には、一定時間のガソリンバーナー加熱によって、内部のシートクッション材に引火するため、アラミド系のフェルトから成る耐火層を配置しないと、航空機シートクッションの規格を満たさなかった。
【0012】
また、特許文献2に記載の方法に基づき、難燃剤を練りこんだ、LOI値25以上の難燃ポリエチレンテレフタレートを用いてLOI値25以上の不織布フェルトを作製し、合成皮革を作製すると、ガソリンバーナーの加熱によって穴があき、シートクッションと一体化した際にクッション材に引火するため、十分な難燃性を有しているとはいえなかった。
【0013】
すなわち、航空機シートの難燃合成皮革として、シートクッション材と一体化した際に、シートクッション材との間に耐火層を設けない、あるいは、耐火層をより薄く、軽量化しても十分な難燃性を有するほどの難燃性に優れた合成皮革は提案されておらず、合成皮革としての難燃性を向上させる余地がある。それによって、航空機シート全体の軽量化、省スペース化が可能となるうえ、クッション性を改善することで乗り心地の改善も可能となる。
【0014】
また、合成皮革を製造する工程において、加工張力がかかるため、繊維基材層の形態安定性が不足すると、合成皮革の樹脂層を積層する工程で、樹脂層に割れが生じたり、合成皮革の表面品位が低下する。そのため、合成皮革の繊維基材層は形態安定性が求められる。不織布を繊維基材層とした場合には、形態安定性に劣るため、スクリムとよばれる織編物などで構成される補強層を繊維基材層と複合するが、繊維基材層としての難燃性を向上させる補強層の構成にも改善の余地があり、本発明により合成皮革の表面品位も改善できる。
【0015】
したがって、本発明は、機械的強度や耐久性に優れるうえに、高い難燃性を有し、風合いに優れ、かつ表面品位も良好な被覆物品を与え得る合成皮革を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、次のような手段を採用する。
(1)高温収縮率が3%以下で、且つISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aを含むウェブから成る防炎層を少なくとも1層含み、該防炎層が、JIS K-7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性繊維Bを含むスクリム層と結合してなる不織布シートを繊維基材層とし、該繊維基材層に樹脂層が形成されている合成皮革。
(2)前記繊維基材層と前記樹脂層の間に接着層を有する(1)に記載の合成皮革。
(3)前記合成皮革において、表皮樹脂層または接着層の前記繊維基材層への浸透深さが、0.05~0.40mmである(1)または(2)に記載の合成皮革。
(4)前記繊維基材層において、非溶融繊維Aの含有率が15~70質量%である(1)~(3)のいずれかに記載の合成皮革。
(5)前記繊維基材層において、熱可塑性繊維Bを30~85質量%含有する(1)~(4)のいずれかに記載の合成皮革。
(6)前記繊維基材層を構成するスクリム層が、熱可塑性繊維Bを80質量%以上含有する(1)~(5)の何れかに記載の合成皮革。
(7)前記非溶融繊維Aが、耐炎化繊維またはメタアラミド系繊維である(1)~(6)の何れかに記載の合成皮革。
(8)前記熱可塑性繊維Bが、難燃性液晶ポリエステル、難燃性ポリ(アルキレンテレフタレート)、難燃性ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される樹脂からなる繊維である(1)~(7)の何れかに記載の合成皮革。
(9)前記熱可塑性繊維Bは、硫黄原子を15質量%以上含む繊維である(1)~(8)に記載の合成皮革。
(10)前記繊維基材層のスクリム層の面に樹脂層が積層されている(1)~(9)に記載の合成皮革。
(11)前記合成皮革において、前記繊維基材層の占める質量割合が20~80質量%である(1)~(10)の何れかに記載の合成皮革。
(12)(1)~(11)の何れかに記載の合成皮革で被覆した被覆物品。
(13)前記被覆物品が航空機、自動車、または船舶に搭載するシートクッション材である(12)に記載の被覆物品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の合成皮革および合成皮革で被覆した被覆物品は、上記の構成を備えることにより、風合いもやわらかく、機械的強度や耐久性に優れるうえ、高い難燃性を備えている。また、繊維基材層の形態安定性に優れるため、合成皮革製造工程の工程通過性に優れ、その結果として合成皮革の表面品位に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】航空機シートクッションの燃焼試験に用いる被覆物品の難燃性を評価するための被覆物品の組み立て方法および同燃焼試験を説明するための説明図である。
【
図2】繊維基材層への樹脂層または接着層の浸透深さを測定するための本発明の合成皮革の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、高温収縮率が3%以下で、且つISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aを含むウェブから成る防炎層を少なくとも1層含み、該防炎層が、JIS K-7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性繊維Bを含むスクリム層と結合してなる不織布シートを繊維基材層とし、該繊維基材層に樹脂層が積層されていることを特徴とする合成皮革である。
【0020】
《高温収縮率》
本発明において高温収縮率とは、不織布シートの原料となる繊維を標準状態(20℃、相対湿度65%)中で12時間放置後、0.1cN/dtexの張力を与えて原長L0を測定し、その繊維に対して荷重を付加せずに290℃の乾熱雰囲気に30分間暴露し、標準状態(20℃、相対湿度65%)中で十分冷却したうえで、さらに繊維に対して0.1cN/dtexの張力を与えて長さL1を測定し、L0およびL1から以下の式で求められる数値である。
高温収縮率=〔(L0-L1)/L0〕×100(%)
炎が近づき、熱が加わると熱可塑性繊維が溶融し、溶融した熱可塑性繊維が非溶融繊維(骨材)の表面に沿って薄膜状に広がる。さらに温度が上がると、やがて、両繊維は炭化するが、非溶融繊維の高温収縮率が3%以下であるから、高温となった接炎部近辺は収縮しにくく、炎の接していない低温部と高温度部の間で生じた熱応力による不織布シートの破断が生じにくいので、長時間炎を遮断することができる。それにより、合皮としての優れた難燃性を達成する。この点で、高温収縮率は低いことが好ましいが、縮まずとも熱によって大幅に膨張しても、熱応力による不織布シートの破断を生じる原因となるので、高温収縮率は-5%以上であることが好ましい。なかでも高温収縮率が0~2%であることが好ましい。
【0021】
《熱伝導率》
熱伝導率とは、熱の伝導のしやすさを数値化したものであり、熱伝導率が小さいとは、一方の面から材料が加熱された際の、加熱されていない部分の温度上昇が小さくなることを意味する。目付200g/m2、JIS L1913(2010)に準拠する方法で測定した厚さが2mm(密度100kg/m3)のフェルトを試験体とし、ISO22007-3(2008年)に準拠する方法で測定した熱伝導率が0.060W/m・K以下である素材は、熱を伝えにくく、不織布シートにして一方の面から加熱した際に、加熱していない反対側の温度上昇を抑制することができ、反対側に可燃物が配されても可燃物が発火する可能性が低くなる。よって、本発明の合成皮革で物品を被覆した場合に、被覆物品の難燃性を維持することができる。熱伝導率は低い方が好ましいが、入手容易な繊維材料では、0.020W/m・K程度が下限である。
【0022】
《LOI値》
LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積百分率であり、LOI値が高いほど燃え難いと言える。そこで、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性繊維は燃えにくく、たとえ、着火しても火源を離せばすぐに消火し、通常わずかに燃え広がった部分に炭化膜を形成し、この炭化部分が延焼を防ぐことができる。LOI値は高い方が好ましいが、現実に入手可能な物質のLOI値の上限は65程度である。
【0023】
《発火温度》
発火温度は、JIS K7193(2010年)に準拠した方法で測定した自然発火温度である。
【0024】
《融点》
融点は、JIS K7121(2012年)に準拠した方法で測定した値である。10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度の値をいう。
【0025】
《防炎層がスクリム層と結合した不織布シートから成る繊維基材層》
後述の非溶融繊維Aを含むウェブからなる防炎層は、スクリム層と結合させることで、不織布シートとする。スクリム層は、防炎層と結合させることでいわゆる補強層として機能する。
【0026】
スクリム層は、織物、または編物で構成されることが好ましい。これにより、繊維がランダムに配向した防炎層に対し、織物、編物等の規則正しい均一な組織とすることで、炎が当たったときの形態安定や防炎層へのダメージ軽減性に優れた不織布シートとなすことができる。形態安定性に優れることで、本発明の合成皮革の製造工程時にかかる加工張力でも不織布シートが過度に伸長することがなく、工程通過性も改善できる。
【0027】
また、スクリムを配置することで、スクリム面には適度な凹凸を設けることができるため、合成皮革の樹脂層を積層する際の樹脂との接着性が向上し、合成皮革としての剥離強度が向上するほか、不織布シートの力学物性が向上することで、合成皮革としての力学物性も向上する。
【0028】
すなわち、スクリム層は、上述したような、炎が当たったときの形態安定や防炎層へのダメージ軽減のほか、炎が当たっていない通常の使用環境下および合成皮革製造時の形態安定層として機能するため、スクリム層を構成する繊維にはLOI値の高さおよび融点の範囲に加えて、機械強度が高いことが好ましい。そのため、本発明においてはスクリム層には少なくとも後述する熱可塑性繊維Bを用いるが、本発明の効果を損なわない範囲、例えばスクリム層中に10質量%以下程度で後述の非溶融繊維Aや繊維Cのような他の繊維を混用してもよい。
【0029】
本発明において、繊維基材層のスクリム層の面に樹脂層が積層されていることが好ましく、さらには繊維基材層のスクリム層と、合成皮革を構成する樹脂層は接触していることが好ましい。すなわち合成皮革が燃焼する際に、樹脂層は溶融する。その際に、スクリム層を構成する熱可塑性繊維Bは、溶融した樹脂層と一体化して樹脂層を炭化させる効果があり、合成皮革としての難燃性をより一層高めることができる。また、スクリム層中に熱可塑性繊維Bを80質量%以上含有することが好ましい。
【0030】
《非溶融繊維A》
本発明において、非溶融繊維Aとは炎にさらされた際に液化せずに繊維形状を保つ繊維をいい、800℃の温度で液化および発火しないものが好ましく、1000℃以上の温度で液化および発火しないものがさらに好ましい。上記高温収縮率が本発明で規定する範囲にある非溶融繊維として、例えば、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維およびガラス繊維を挙げることができる。耐炎化繊維は、アクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、フェノール系繊維等から選択される繊維を原料として耐炎化処理を行った繊維である。これらは単独で使用しても2種類以上を同時に使用してもよい。なかでも、高温収縮率が低くかつ、後述する熱可塑性繊維Bが接炎時に形成する皮膜による酸素遮断効果によって、炭素化が進行し、高温下での耐熱性がさらに向上する耐炎化繊維が好ましく、各種の耐炎化繊維の中で比重が小さく柔軟で難燃性に優れる繊維としてアクリロニトリル系耐炎化繊維がより好ましく用いられ、かかる耐炎化繊維は前駆体としてのアクリル系繊維を高温の空気中で加熱、酸化することによって得られる。市販品としては、後記する実施例および比較例で使用した、Zoltek社製耐炎化繊維PYRON(米国登録商標)の他、東邦テナックス(株)パイロメックス(Pyromex)(登録商標)等が挙げられる。また、一般にメタアラミド系繊維は高温収縮率が高く、本発明で規定する高温収縮率を満たさないが、高温収縮率を抑制処理することにより本発明の高温収縮率の範囲内としたメタアラミド系繊維であれば、好ましく使用することができる。
【0031】
また本発明で好ましく用いられる非溶融繊維は、非溶融繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布シートとすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。
【0032】
また、非溶融繊維の単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0033】
防炎層とスクリム層を含めた繊維基材層における非溶融繊維の含有率が低すぎると、骨材としての機能が不十分となるため、繊維基材層における非溶融繊維Aの混率は、15質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましくい。上限としては繊維基材層の生産性および繊維基材層の強度の点から90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
《熱可塑性繊維B》
本発明で用いる熱可塑性繊維Bとしては、前記LOI値が本発明で規定する範囲にあり、かつ融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点(融点がない場合は溶融する温度)を有するものであるが、具体例としては例えば、難燃性液晶ポリエステル、難燃性ポリ(アルキレンテレフタレート)、難燃性ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される熱可塑性樹脂で構成される繊維を挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。LOI値が本発明で規定する範囲にあることで、空気中での燃焼を抑制し、ポリマーが炭化しやすくなる。また、融点(融点がない場合は溶融する温度)が非溶融繊維Aの発火温度よりも低いことで、溶融したポリマーが非溶融繊維Aの表面および繊維間で皮膜を形成し、さらにそれが炭化されることで酸素を遮断する効果が高くなり、非溶融繊維Aの酸化劣化を抑制でき、また、その炭化膜が優れた遮炎性を発現することで、合成皮革基材として用いたときに、本発明の合成皮革で被覆した被覆物品全体としての難燃性を維持することができる。また、溶融したポリマーは、加熱によって軟化した合成皮革の表皮樹脂および接着材とともに膜化して炭化させることで、合成皮革表面の延焼を抑制することができる。
【0035】
熱可塑性繊維Bの融点(融点がない場合は溶融する温度)は、非溶融繊維Aの発火温度よりも200℃以上低いことが好ましく、300℃以上低いことがさらに好ましい。これらの中で、LOI値の高さおよび融点の範囲および入手の容易さの点から、最も好ましいのはポリフェニレンスルフィド繊維(以下、PPS繊維ともいう)である。また、LOI値が本発明で規定する範囲にないポリマーであっても、難燃剤で処理することによって、処理後のLOI値が本発明で規定する範囲内であれば好ましく用いることができる。
【0036】
ポリマー構造中あるいは、難燃剤中に硫黄原子を含むことにより、ポリマーあるいは難燃剤の熱分解時に硫酸を生成し、ポリマー基材を脱水炭化させる機構を発現するため、PPSは最も好ましく、また、難燃剤を用いる場合には、硫黄系の難燃剤が好ましい。熱可塑性繊維Bとして、硫黄原子を15質量%以上含む繊維を用いることが好ましい。具体的にはPPSや硫黄系難燃剤を付与したポリエステルが挙げられる。上限としては繊維強度の点から50質量%以下であることが好ましい。
【0037】
なお、ここでいう硫黄原子の比率は、熱重量分析装置を用いて、空気気流条件下で室温から800℃まで10℃/分の条件でサンプル約10mgを昇温して熱可塑性繊維を酸化分解させ、分解ガス中の硫黄酸化物をガスクロマトグラフィーで定量分析することで求められる。
【0038】
また本発明で用いられる熱可塑性繊維Bは、上記熱可塑性樹脂単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。
【0039】
また、熱可塑性繊維Bの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0040】
本発明で好ましく用いられるPPS繊維は、ポリマー構成単位が-(C6H4-S)-を主な構造単位とする重合体からなる合成繊維である。これらPPS重合体の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS重合体としては、ポリマーの主要構造単位として、-(C6H4-S)-で表されるp-フェニレン単位を、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。質量の観点からは、p-フェニレン単位を80質量%、さらには90質量%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。
【0041】
また本発明で好ましく用いられるPPS繊維は、PPS繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、フィラメント、ステープルのいずれの形態であってもよい。ステープルを紡績して用いる場合には、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。
【0042】
また、PPSの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0043】
本発明で用いられるPPS繊維の製造方法は、上述のフェニレンサルファイド構造単位を有するポリマーをその融点以上で溶融し、紡糸口金から紡出することにより繊維状にする方法が好ましい。紡出された繊維は、そのままでは未延伸のPPS繊維である。未延伸のPPS繊維は、その大部分が非晶構造であり、破断伸度は高い。一方、このような繊維は熱による寸法安定性が乏しいので、紡出に続いて熱延伸して配向させ、繊維の強力と熱寸法安定性を向上させた延伸糸が市販されている。PPS繊維としては、“トルコン”(登録商標)(東レ製)、“プロコン”(登録商標)(東洋紡績製)など、複数のものが流通している。
【0044】
本発明においては、本発明の範囲を満たす範囲で上記未延伸のPPS繊維と延伸糸を併用することができる。なお、PPS繊維の代わりに本発明の範囲を満たす繊維の延伸糸と未延伸糸を併用することでももちろん構わない。
【0045】
合成皮革の繊維基材層となる不織布シートにおける熱可塑性繊維Bの混率が低すぎると、骨材の非溶融繊維の間に熱可塑性繊維が十分膜状に広がらなくなるため、繊維基材層である不織布シートにおける熱可塑性繊維Bの混率は、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましく、30質量%以上であるのがさらに好ましい。熱可塑性繊維Bの混率が高くなりすぎると、接炎時に炭化部分が脆くなりやすく、繊維基材層部分に穴が開きやすくなるため、上限としては85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
《非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維C》
非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Cを、合成皮革の繊維基材層となる不織布シートに特定の性能をさらに付加するために含有させてもよい。例えば、不織布シートの濡れ性を向上させるために、ビニロン繊維、変性ポリエステル繊維、ナイロン繊維等を用いてもよい。濡れ性を変化させることによって、後述する合成皮革の製造工程における樹脂層の繊維基材層への浸透深さを変えることができる。繊維Cの混率は本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、不織布シート中の前記非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維B以外の繊維Cの混率が20質量%以下であるのが好ましく、15質量%以下であるのがより好ましい。繊維Cを用いる場合の下限としては、任意成分であるので0質量%であるが、繊維Cを使用する場合、その所望の性能が付加されれば特に制限はないが、通常10質量%程度であることが好ましい。
【0047】
《合成皮革を構成する繊維基材層》
本発明の合成皮革を構成する繊維基材層の不織布シートの目付は、50g/m2以上が好ましく、より好ましくは100g/m2以上、さらに好ましくは150g/m2以上であり、450g/m2以下が好ましく、400g/m2以下がより好ましく、350g/m2以下がさらに好ましい。繊維基材層の目付が上記範囲内であれば、機械的特性に優れ、かつ、軽量な航空機シート表皮用合成皮革が得られる。
【0048】
繊維基材層の不織布シートの厚さはJIS L-1913(2010年)に準拠する方法で測定したもので、0.4mm以上であるのが好ましい。不織布シートの厚さが薄すぎると、繊維基材層としての十分な機械特性が得られず、また、十分な難燃性を得ることができないうえ、合成皮革の樹脂層を積層する際に、樹脂層あるいは接着層が繊維基材層の裏側にまで抜けてしまい、合成皮革の品位を損ねてしまう。繊維基材層の厚さの上限は特にはなく、合成皮革の質量や厚さから設定することが好ましい。
【0049】
本発明における繊維基材層の不織布シートに用いる繊維の形態として、繊維同士の絡合性を十分得るために、繊維のけん縮数は7個/2.54cm以上であることが好ましく、さらには12個/2.54cm以上であることが好ましい。なお、本発明のけん縮数とは、JIS L 1015(2010)に準拠して、測定したものである。けん縮数は、原綿の状態で測定することが好ましいが、困難な場合には、繊維基材層を分解して得られたサンプルで測定してもよい。
【0050】
本発明で用いられるスクリム層は、繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、短繊維であっても長繊維であってもよい。
【0051】
短繊維である場合には、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~51mmの範囲内であれば、一般的な紡績工程で紡績糸とすることが容易であり、得られた紡績糸を一般的な方法で製織あるいは編成することで織物あるいは編物とし、スクリムと成す。
【0052】
長繊維の場合には、生糸のまま用いても良いし、一般的に知られた各種糸加工を行ったのち、製織あるいは編成してスクリムと成す。
【0053】
非溶融繊維Aおよび熱可塑性繊維Bの短繊維の長さは、より均一な不織布シートを得るために、同じ長さとすることが好ましい。なお同じ長さは厳密に同じでなくてもよく、非溶融繊維Aの長さに対し±5%程度の差異があってもよい。かかる観点から、非溶融繊維の繊維長も、熱可塑性繊維B、あるいは繊維Cの繊維長も繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0054】
本発明の合成皮革の繊維基材層の不織布シートは、上記短繊維を用いて作製したウェブ、つまり防炎層と、熱可塑性繊維Bを含むスクリムをニードルパンチ法や水流交絡法などで交絡させて製造される。
【0055】
不織布シートの構造は、本発明で規定する範囲内であれば制限されるものではないが、不織布シートの密度が50kg/m3よりも大きく、200kg/m3よりも小さいことが好ましく、55~180kg/m3がより好ましく、70~160kg/m3であることがさらに好ましい。密度が小さすぎる場合には、繊維基材層上に表皮樹脂層あるいは接着層を設ける際に繊維基材層中に染み込みすぎて、合成皮革の風合いが硬くなりすぎたり、引き裂き強度が低下したりする。逆に、密度が大きすぎても、繊維基材層自体が硬くなりすぎ、合成皮革の風合いが硬くなったり、繊維基材層が緻密すぎるために表層樹脂層や接着層との接着力が低下する。密度は、30cm角のサンプル質量をJIS L1913(2010)に準拠する方法で測定した厚さで除すことで算出される。
【0056】
スクリム層と防炎層(フェルト部分)の質量比率は、特に制限されるものではないが、スクリム層と防炎層(フェルト部分)の質量比率は70対30~30対70であることがより好ましい。スクリム層の質量比率が小さすぎる場合は、スクリム層の機械強度が弱くなり、スクリム層の効果である形態安定性や合成皮革としての機械物性改善の効果が小さくなってしまう。一方で、スクリム層の質量比率が大きすぎる場合、すなわち防炎層(フェルト部分)の質量比率が小さすぎる場合は、防炎層(フェルト部分)の機械強度が弱くなり、スクリム層と一体化する工程で防炎層(フェルト部分)の破れが発生してしまう可能性があるうえ、スクリム部分の糸密度を上げざるをえないため、合成皮革の風合いが固くなってしまう。
【0057】
また、スクリム層と防炎層(フェルト部分)での繊維基材層全体に対する非溶融繊維Aの存在比率は、スクリム層:防炎層(フェルト部分)が0:100~50:50の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性繊維Bの存在比率は、スクリム層:防炎層(フェルト部分)が100:0~40:60の範囲であることが好ましい。さらに、その他の繊維Cを用いる場合の存在比率は、スクリム層:防炎層(フェルト部分)が100:0~50:50であることが好ましい。熱可塑性繊維Bは、炎が当たった際に溶融し、合成皮革の樹脂層と混溶して炭化膜を形成し、該炭化膜が非溶融繊維Aの骨材で担持される形になるため、合成皮革の樹脂層が接触するスクリム層に熱可塑性繊維Bが偏在し、かつ、該炭化膜を担持する防炎層(フェルト部分)に高温での形態安定性に優れる非溶融繊維Aが偏在することが合成皮革全体の難燃性能の点から好ましい。また、その他繊維Cは、炎が当たった際に、熱可塑性繊維Aおよび合成皮革の樹脂層とともに混溶して炭化膜を形成する点から、合成皮革の樹脂層が接触するスクリム層に偏在することが合成皮革全体の難燃性能の点から好ましい。
【0058】
得られた繊維基材層は、テンターを用いて熱セットしてもよいし、カレンダー加工をおこなってもよい。当然、生機のまま使用してもよい。セット温度は高温収縮率を抑制する効果が得られる温度がよく、好ましくは160~240℃、より好ましくは190~230℃である。カレンダー加工は、繊維基材層の厚さ、つまりは密度を調整するものである。よって、密度が小さすぎて、繊維基材層上に表皮樹脂層あるいは接着層を設ける際に、繊維基材層中に染み込みすぎて、合成皮革の風合いが硬くなりすぎたり、引き裂き強度が低下したりする場合がある。その場合には、表皮樹脂層あるいは接着層を設ける前にカレンダー加工をおこなってもよい。本発明で規定する範囲内の物性を有する不織布シートが得られれば、カレンダーの速度、圧力、温度は制限されるものではない。
【0059】
《合成皮革の製造方法》
本発明の合成皮革は、通常繊維基材層上に樹脂層を形成することで製造される。樹脂層を形成する方法は特に限定されない。例えば溶剤によって、液状化した合成樹脂を塗布した後に溶剤を乾燥させて樹脂層を形成する方法、液状の樹脂を塗布した後にその樹脂を反応させて形成する方法などの乾式法;合成樹脂からなる樹脂フィルムを貼り付けるラミネート法;液状の樹脂を塗布した後に凝固浴に導き凝固させる湿式法;などが挙げられる。また、合成皮革の表面に必要に応じてエンボス加工やシボ加工を施し、所望の外観を得ることが可能である。なお、表皮樹脂層はこれらの方法を単独で用いて1層構造であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。なお2層以上の多層構造とする場合、樹脂層の形成には、複数の方法を組み合わせてもよい。
【0060】
《樹脂層》
樹脂層を形成する合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合物、SBR(スチレンブタジエンラバー)、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。これらの合成樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリウレタン樹脂が好適である。
【0061】
具体的なポリウレタン樹脂の構成成分としては、一般にポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂と呼ばれるものであり、分子量400から4000のポリアルキレンエーテルグリコールまたは、末端に水酸基を有するポリエステルポリオール、ポリε-カプロラクトンポリオール、またはポリカーボネートポリオールなどの単独あるいは混合物を有機ジイソシアネートと反応させて得られるものであり、必要に応じて2個の活性水素を有する化合物で鎖延長させて得られるものである。
【0062】
前記ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンプロピレンオキシド付加物、末端にエチレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール、ビニルモノマーグラフト化ポリエーテルポリオールが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのアルキレングリコールとコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、フタル酸、トリメリット酸などのカルボン酸類とを末端がヒドロキシル酸となるように反応して与えられるものが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0063】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3-イソシアネートメチルー3,5,5’-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエートなどの脂肪族イソシアネート;が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記鎖延長剤としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、水、ピペラジン、イソホロンジアミン、エチレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなど、あるいはジメチロールプロピオン酸、アミノエタンスルホン酸へのエチレンオキサイド付加物などの親水性向上を可能とするグリコール類、ジアミン類を単独あるいは混合して用いることができる。
【0065】
前記ポリウレタン樹脂としては、耐加水分解性に優れることから、構成成分としてポリカーボネートポリオールを用いたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、特に、合成皮革の最表面に存在する樹脂層には、合成皮革の風合いを向上させるために、シリコーン変性されたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
前記シリコーン変性型ポリカーボネート系ポリウレタンは、分子鎖中にオルガノポリシロキサン骨格を有するか、分子鎖末端にイソシアネート基と非反応性の官能基、例えば、トリアルキルシリル基、トリアリールシリル基等により封止されたオルガノポリシロキサン骨格を有するポリカーボネート系ポリウレタンである。
【0067】
《接着層》
なお、ラミネート法で樹脂層を積層する場合には、樹脂フィルムを貼り付けるために接着剤を用いる。該接着剤としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、ポリ塩化ビニルペースト、ポリウレタン接着剤、エポキシ系接着剤などが用いられる。そのなかでも、樹脂層との接着力および接着剤による過度な風合いの硬化防止を考慮し、ポリウレタン系接着剤を用いるのが好ましい。
【0068】
接着剤を構成するポリウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等や、それらの混合系等であってよく、例えば、平均分子量500~2500程度のポリマージオール、例えばポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステル・エーテルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどから選ばれた少なくとも1種類のジオールと、有機ポリイソシアネート、例えば芳香族ジイソシアネート、芳香族トリイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類以上の有機ポリイソシアネートとから得られる平均分子量10000~40000程度のものであって、ウレタン樹脂として、固形分40~70質量%の溶液として市販されているものが利用できる。特にポリエステル系のウレタン樹脂が好ましい。また、JIS K-6251(2017)に準じて測定した接着剤の硬化物の100%モジュラスが0.5~5MPaであるものが好ましく、耐屈曲性を考慮すると、0.5~3MPaであるものが特に好ましい。
【0069】
この接着剤は、繊維基材面に塗布しても、樹脂シート面に塗布してもよい。溶剤を乾燥せずに繊維基材層と表皮樹脂層とを貼り合わせるウェットラミネート用のものと、溶剤を乾燥させた後、繊維基材層と表皮樹脂層とを貼り合わせるドライラミネート用のものがあるがそのいずれであっても良く、工程負荷の軽減や合成皮革の物性向上のために、ウレタン硬化剤やウレタン化触媒を用いることができる。
【0070】
《難燃剤およびその他の添加剤》
本発明において、さらに難燃性を向上させるために、樹脂層または接着層、あるいはその両方に難燃剤を含んでいてもよい。使用する難燃剤としては特に限定されるものではないが、具体例としては、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、膨張性黒鉛、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、ポリリン酸アンモニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、赤リン等の無機系難燃剤;ポリリン酸、メラミン、メラミンシアヌレート、リン酸エステル系化合物、リン酸エステルアミド系化合物等の有機系難燃剤等が挙げられ、1種または2種以上を混合して用いても良い。
【0071】
前記リン酸エステル系化合物の例としてはトリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、イソプロピルフェニルホスフェート、tert-ブチルフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、ナフチルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0072】
上記難燃剤のなかでも、リン酸エステル系化合物、リン酸エステルアミド系化合物、ジエチルホスフィン酸アルミニウム等の炭化を促進するものが、繊維基材層の炭化作用と相乗する点から好ましい。
【0073】
樹脂層または接着層、あるいはその両方に難燃剤を用いる場合、これらの層に含有する難燃剤の含有量は、樹脂層あるいは接着層の固形分100質量部に対して1~300質量部が好ましく、5~250質量部がより好ましく、10~200質量部であることがさらに好ましい。樹脂層または接着層、あるいはその両方に難燃剤を全く含有せずとも、繊維基材層の優れた難燃性能によって、合成皮革全体としても難燃性能に優れるが、樹脂層または接着層、あるいはその両方に上記範囲で難燃剤を含有することで、合成皮革の難燃性能がさらに向上する。一方で、樹脂層または接着層、あるいはその両方に含まれる難燃剤の含有量が多すぎる場合には、風合いの硬化やきわつきといった外観の変化、耐光性の低下、接着剤の接着力低下による合成皮革の層間剥離発生等の問題が懸念される。ここでいう、「きわつき」は、水、アルコールなどの液滴を落として乾燥させたときに、シミ状に見える外観欠点であり、例えば難燃剤を含む合成皮革に水が付着した際、難燃剤が付着した水に若干溶解しながら乾燥するときに生じるシミ状物である。
【0074】
さらに、本発明の合成皮革には、必要に応じて防菌・防虫剤、帯電防止剤、滑剤、耐光性向上剤、耐熱性向上剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、撥水剤、架橋剤、可塑剤、着色剤、消泡剤、などの各種添加剤;分散剤や浸透剤等の界面活性剤、増粘剤等の安定化剤;クレー、タルク、マイカ、膨張性黒鉛、ワラストナイト、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、セピオライト、ゾノトライト、シリカ等の充填剤を添加してもよい。
【0075】
《合成皮革および樹脂層の目付、厚さ》
合成皮革の厚さは、難燃性能、摩耗耐久性、風合い、シート等被覆物品の省スペース化の点から、0.5~4.0mmであることが好ましく、0.7~3.5mmであることがより好ましく、0.9~3.0mmであることがさらに好ましい。厚さが上記範囲よりも薄い場合には、摩耗耐久性に乏しく、またシートクッション材等物品と一体化した際のシート等被覆物品全体の難燃性が悪化する。一方で、厚さが上記範囲よりも厚い場合には、風合いが硬くなる。
【0076】
合成皮革の目付は、難燃性能、摩耗耐久性、風合い、シート等被覆物品の軽量化の点から150~1000g/m2であることが好ましく、170~800g/m2であることがより好ましく、200~600g/m2であることがさらに好ましい。目付が上記範囲よりも軽い場合には、摩耗耐久性に乏しく、またシートクッション材等物品と一体化した際のシート等被覆物品全体の難燃性が悪化する。一方で、目付が上記範囲よりも目付が重い場合には、シート等被覆物品全体も重くなりすぎてしまい、軽量化のメリットが得られない。
【0077】
また、本発明の合成皮革において、合成皮革全体の質量に対する繊維基材層の質量割合が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。本発明の合成皮革を構成する繊維基材層は、繊維基材層単体で優れた難燃性能を示すため、繊維基材層の質量割合が上記範囲よりも小さい場合には、合成皮革単体、あるいは、シート等被覆物品とした際の難燃性が低下する懸念がある。一方、繊維基材層の質量割合の上限は特にはないが、合成皮革としての表面感や機能性を達成する点から80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0078】
乾式法および湿式法にて樹脂層を繊維基材層に積層する場合は、樹脂層を直接繊維基材層に塗布あるいは転写するため、樹脂層が直接繊維基材層に浸透する。一方で、ラミネート法で樹脂層を積層する場合は、離型紙や離型フィルム上に樹脂層を形成し、それを接着剤を介して繊維基材層と積層するため、接着層が繊維基材層に浸透する。繊維基材層への樹脂層または接着層の合成皮革の厚さ方向への浸透深さは、合成皮革の繊維基材層と樹脂層の層間剥離強度や、合成皮革の風合いに影響する。合成皮革の風合いと、繊維基材層と樹脂層の層間剥離強度の両立の点から、繊維基材層への樹脂層または接着層の浸透深さは0.05~0.40mmであることが好ましく、0.07~0.38mmであることがより好ましく、0.10~0.35mmであることがさらに好ましい。繊維基材層への樹脂層または接着層の浸透深さが上記範囲よりも下限以上とすることで合成皮革の摩耗耐久性や繊維基材層と樹脂層の層間剥離強度が特に優れる。一方、繊維基材層への樹脂層または接着層の浸透深さが上記上限以下とすることで、風合いに特に優れる。繊維基材層への樹脂層または接着層の浸透深さを上記範囲とするために、《樹脂層》あるいは《接着層》に記載した物質の分子量や、溶媒で希釈する濃度、乾式法の場合には、溶媒を乾燥させる温度や速度、湿式法の場合には、凝固浴の温度や、貧溶媒の濃度、ラミネート法の場合には、ラミネート時の温度や圧力を適宜調整することができる。
【0079】
また、樹脂層を積層する繊維基材層の面は、スクリム面とすることが、スクリムによる凹凸と、スクリムの隙間から飛び出したフェルトを構成する繊維の毛羽によるアンカー効果によって、樹脂層が繊維基材層と強固に接着し、合成皮革としての剥離強度に優れる点で好ましい。スクリムの密度は適宜選択してよいが、スクリムのカバーファクターが、織物の場合は600~2000であることが好ましい。また、編物の場合は、500~1700であることが好ましい。上記範囲の下限以上でスクリムとしての十分な補強効果が得られ、剥離強度改善効果に特に優れる、合成皮革としての全体的な機械物性も優れる。一方、上記範囲の上限以下とすることで、合成皮革の風合いが柔らかくなる。なお、ここでカバーファクターは、織物の場合は、スクリムの経糸および緯糸の繊度をそれぞれD1(dTex)、D2(dTex)とし、経糸および緯糸の糸密度をN1(本/25.4mm)、N2(本/25.4mm)としたとき、次式で与えられる。
カバーファクター(織物) = (N1×√D1) + (N2×√D2)
また、編物の場合には、編物を構成する糸の繊度をD3(dtex)、編物のコース方向のループ数をC(個/25.4mm)、ウェール方向のループ数をW(個/25.4mm)としたとき、次式で与えられる。なお、コース方向あるいはウェール方向でそれぞれ繊度の異なる繊維を用いた場合には、コース方向とウェール方向でそれぞれ異なる繊度を用いて計算する。
カバーファクター(編物) = (C×√D3) + (W×√D3)
《合成皮革の用途》
かくして得られる本発明の合成皮革は、優れた難燃性を有し、かつ、風合いや剥離強度などの物性にも優れ、その難燃性能は、合成皮革単独の場合はもちろん、クッションフォーム等の物品などに被覆した場合に、被覆物品全体でも効果を発揮する。よって、天井や壁面の装飾のように直接用いる以外にも、シートクッション材等を被覆する表装材として用いることができる。その中でも特に、高い難燃性を要求される航空機、自動車、鉄道、船舶に搭載されるシートクッション材を被覆する表装材、高層ビルや公共施設内の椅子やソファーなどの表装材に好適に用いることができる。なかでも航空機、自動車、船舶に搭載するシートクッション材を、本発明の合成皮革を表装材として被覆した被覆物品として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0080】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0081】
[繊維基材層の目付]
30cm角のサンプルの質量を測定し、1m2当たりの質量(g/m2)で表した。なお、測定サンプルが合成皮革の状態で、繊維基材層単体で測定が困難な場合は、任意の面積の合成皮革サンプルを用い、樹脂層を剥離除去して繊維基材部分の質量をサンプル面積で除して算出した値でもよいものとする。
【0082】
[合成皮革の目付]
30cm角のサンプルの質量を測定し、1m2当たりの質量(g/m2)で表した。測定サンプルが30cm角よりも小さい場合には、サンプル質量をそのサンプルの面積で除すことで算出した値を用いてもよいものとする。
【0083】
[樹脂層/接着層の目付]
上記[合成皮革の目付]と[繊維基材層の目付]の差分質量(g/m2)とする。
【0084】
[合成皮革全体の質量に対する繊維基材層の質量割合]
上記[繊維基材層の目付]を[合成皮革の目付]で除した割合とする。
【0085】
[繊維基材層の厚さ]
JIS L-1913(2010年)に準拠して、繊維基材層の厚さを測定した。なお、測定サンプルが合成皮革の状態で、繊維基材層単体で測定が困難な場合は、サンプルの断面において、合成皮革全体の厚さ方向の全体が、走査型電子顕微鏡(SEM)の撮像範囲の50~90%程度となる倍率(具体的には30~200倍程度)で撮像し、断面写真の中で任意の5か所について、繊維基材層部分の厚さをスケールで読み取り、その平均値を繊維基材層の厚さとしてもよいものとする。
【0086】
[合成皮革の厚さ]
JIS L-1913(2010年)に準拠して、合成皮革の厚さを測定した。
【0087】
[繊維基材層への樹脂層または接着層の合成皮革の厚さ方向への浸透深さ]
合成皮革の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で30~200倍程度の断面が明確に観察できる倍率で撮像し、断面写真の中で任意の5か所について、樹脂層または接着層が繊維基材層へ浸透している深さをスケールで読み取り、その平均値を繊維基材層への樹脂層または接着層の合成皮革の厚さ方向への浸透深さとする。
図2は、合成皮革の断面写真で、図中の8は樹脂層が積層された状態での、繊維基材層の樹脂層側の界面を、図中の9は浸透した樹脂層の界面をそれぞれ示しており、繊維基材層への樹脂層または接着層の合成皮革の厚さ方向への浸透深さとは、図中の8と9の距離をいう。本発明のように、スクリム面に樹脂を積層した場合、繊維基材層への樹脂層の浸透は、スクリムが繊維基材層の塗工面に露出していない部分で主に起こるため、浸透深さは、スクリムが繊維基材層の塗工面に露出していない部分で測定する。塗工面に露出しているスクリムを構成する糸と糸の中央部分の浸透深さを測定箇所とする。
【0088】
[合成皮革の引張強度]
ASTM D-751(2011)に準拠し、25.4mm(1インチ)巾にサンプルをカットしたものをチャック間距離を152mm、引張速度152mm/分で引張ったときの、サンプルが破断するまでの最大荷重をサンプル巾で除し、25.4mm(1インチ)当たりの破断荷重を引張強度(N/25.4mm)とする。測定はN=3でおこない、その平均値を示す。
【0089】
[合成皮革の引張伸度]
ASTM D-751(2011)に準拠し、100mm巾にサンプルをカットしたものを、チャック間距離を152mm、引張速度152mm/分で引張ったときの、サンプルが破断時点でのサンプルの伸度とし、サンプルの伸び量をサンプルの試験長152mmで除した割合(%)とする。測定はN=3でおこない、その平均値を示す。
【0090】
[合成皮革の引裂強力]
ASTM D-5733(1999)に準拠し、トラぺゾイド法にて引裂強力(N)を測定し、N=3の平均値で示す。
【0091】
[合成皮革の剥離強度]
ASTM D-903(2017)に準拠し、25.4mm(1インチ)巾のサンプルの一端の樹脂層を、繊維基材層から剥離させ、チャックにセットする。その状態で、180度の方向に、300mm/分の速度で樹脂層と繊維基材層を引きはがす。引きはがし始めてから25.4mm(1インチ)の位置から152.4mm(6インチ)までの127mm(5インチ)間の剥離荷重の平均値をサンプル巾で除し、25.4mm(1インチ)当たりの剥離荷重(N/25.4mm)を剥離強度とする。測定はN=3でおこない、その平均値示す。
【0092】
[合成皮革の摩耗耐久性]
ASTM D-4157(2017)に準拠し、荷重1361gf(3Lb)、テンション1814gf(4Lb)、摩擦布は10号帆布を用い、ワイゼンビーク摩耗試験をN=3で実施した。3000回の摩耗サイクル後に、合成皮革の表面に傷や樹脂層の剥離がみられない場合を合格、Aとした。傷や樹脂層の剥離が認められる場合は不合格とし、Fとした。
【0093】
[合成皮革の縫目強さ]
ASTM D-751(2011)の縫目強さグラブ法に準拠し、2枚の合成皮革を縫い合わせ、縫い目を180度の方向に引っ張ったときの縫い目部分の破断強さを、サンプル巾で除しN/25.4mmで表す。N=3で試験を実施し、その平均値を示す。
【0094】
[合成皮革の自動車内装材向け難燃試験]
JIS D 1201(1998年)に規定される、自動車内装材用の水平燃焼試験FMVSSNo.302に準拠し、燃焼速度4インチ(102mm)/分以下を合格とし、4インチ(102mm)/分以下をB、3インチ(76mm)/分以下をA、不合格をFとした。
【0095】
[合成皮革の航空機内装材向け難燃試験]
14CFR Part25 Section25.853(a) and Append x Fto Part25,PartIに規定される12秒垂直燃焼試験を実施し、残炎時間15秒以内、かつ、ドリップ燃焼時間5秒以内、かつ、燃焼長203mm(8インチ)以内を合格としA、それ以外を不合格としFとした。
【0096】
[航空機シートクッションの難燃試験]
14CFR Part25 Section25.853(c) Appendix F Part25,PartIIに規定されるガソリンバーナー試験に準拠して燃焼試験を実施した。
図1は、航空機シートクッションの燃焼試験に用いる被覆物品の難燃性を評価するための被覆物品の組み立て方法および同燃焼試験を説明するための説明図である。富士ゴム産業株式会社から市販されている軟質ウレタンフォームを座面用に450mm×500mm、背面用に450mm×630mmにカットし、それぞれウレタンフォーム(座面)1およびウレタンフォーム(背面)2とする。本発明の合成皮革にポリフェニレンスルフィド製の“ベルクロ(登録商標)”テープ3をメタアラミド糸で縫製により取付けた表皮材(座面)4、表皮材(背面)5を準備する。表皮材(座面)4、表皮材(背面)5でウレタンフォーム(座面)1、ウレタンフォーム(背面)2をそれぞれ被覆し、L字型のフレーム(図示せず)に固定し、被覆物品7を組み立てる。なお、試験前のサンプル質量を計測しておく。セットしたサンプルの側面からバーナー6で2分間加熱するが、バーナーの温度は、バーナー口の根本部分で幅方向に5か所測定した最低温度と最高温度が1000±20℃の範囲であることとする。加熱後、バーナーをサンプルから離し、5分間放置する。5分間放置後にサンプル質量を計測する。5分間放置後にサンプルに着火した炎が完全に消火しており、かつ、背面クッションの前側および後側、座面クッションの底部および上部の燃焼長がいずれも432mm(17インチ)以下であり、かつ、試験後のサンプル質量の減少率が10.0%以下である場合に合格とし、その中でも質量減少率が5.0%以下をA、5.0%よりも大きく、10.0%以下をBとした。5分間放置後にサンプルに着火した炎が消火しなかった場合や、消火しても、燃焼長が432mm(17インチ)を超える、または、サンプルの質量減少率が10.0%よりも大きい場合を不合格とし、Fとした。
【0097】
[合成皮革で被覆したクッションの風合いの官能評価]
上記[航空機シートクッションの難燃試験]のサンプルと同様にウレタンクッションを本発明の合成皮革で被覆し、表装したものを用意する。サンプルの手触りおよび座り心地を5名に5段階(1:硬い、座り心地が悪い - 5:柔らかい、座り心地が良い)で評価してもらい、その平均点を示す。
【0098】
[繊維基材層を構成する繊維]
<非溶融繊維A>
1.7dtexのZoltek社製耐炎化繊維“PYRON”(米国登録商標)、長さ51mm、高温収縮率1.6%、熱伝導率0.033W/m・K(200g/m2、厚さ2mmのニードルパンチフェルトを作製して測定)。けん縮数12(個/25mm)、けん縮率12%。
【0099】
ここでけん縮数、けん縮率とは、JIS L 1015(2010)に準拠して、測定したものである。
【0100】
<熱可塑性繊維B-1>
単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの延伸PPS繊維である東レ(株)製“トルコン”(登録商標)品番S371、LOI値34、融点284℃、ガラス転移温度90℃、けん縮数14(個/25mm)、けん縮率18%。繊維中の硫黄原子の比率は26.2質量%。
【0101】
<熱可塑性繊維B-2>
単繊維繊度6.0dtex(直径23μm)、カット長51mmの未延伸PPS繊維である東レ(株)製“トルコン”(登録商標)品番S311、LOI値34、融点280℃、ガラス転移温度90℃、けん縮数16(個/25mm)、けん縮率22%。繊維中の硫黄原子の比率は26.1質量%。
【0102】
<その他の繊維C-1>
単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維である東レ(株)製“テトロン”(登録商標)品番T9615、LOI値22、融点256℃、けん縮数16(個/25mm)、けん縮率17%。
【0103】
<その他の繊維C-2>
単繊維繊度1.7dtex(直径13μm)、カット長51mmのメタアラミド繊維である東レケミカルコリア社製“アラウィン”(登録商標)、LOI値26、融点428℃、高温収縮率6.7%、けん縮数11(個/25mm)、けん縮率9%。
【0104】
<その他の繊維C-3>
単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの一般に市販されているレーヨン(難燃剤練り込みなし)、LOI値17、融点なし、高温収縮率25.3%、けん縮数13(個/25mm)、けん縮率13%。
【0105】
[樹脂層を構成する合成樹脂]
<ポリウレタン樹脂D-1>
一般に市販されている100%モジュラスが2~10MPaである無黄変ポリカーボネート型ポリウレタンを使用した。
【0106】
<ポリウレタン樹脂D-2>
一般に市販されている100%モジュラスが5~10MPaであるシリコーン変性無黄変ポリカーボネート型ポリウレタンを使用した。
【0107】
[接着層を構成する接着剤]
一般に市販されているポリカーボネート型ポリウレタン系接着剤を使用した。
【0108】
[難燃剤] アークローマジャパン社製ペコフレームSTC(主成分:ジエチルホスフィン酸アルミニウム)を使用した。
【0109】
[実施例1]
(繊維基材層の製造)
(紡績)
延伸PPS繊維を開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いで梳綿機に通じてスライバーとした。得られたスライバーの質量は、30.23g/5.46mであった。次いで練条機でトータルドラフトを8倍に設定して延伸し、28.03g/5.46mのスライバーとした。次いで粗紡機で0 . 55T / 2 . 5 4 c m に加撚して7.4倍に延伸し、323.20g/5.46mの粗糸を得た。次いで精紡機で16.4T / 2 . 5 4 c m に加撚してトータルドラフト30倍に延伸して加撚し、綿番手で20番の紡績糸を得た。20番の紡績糸をスクリムのヨコ糸とする。さらに、得られた紡績糸をダブルツイスターで64.7T/2.54cmで上撚をかけ、20番手双糸とした。20番手双糸をスクリムのタテ糸をする。
【0110】
(製織)
得られた紡績糸を、レピア織機で経142本/10cm、緯49本/10cmの平織りで製織し、103g/m2のスクリムを得た。
【0111】
(繊維基材層の製造)
延伸PPS繊維および耐炎化繊維を延伸PPS繊維と耐炎化繊維の質量混率が20対80になるように、開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いでカード機に通じてウェブを作製した。得られたウェブをクロスラップ機にて積層したのち、ニードルパンチマシンでフェルト化し、上記方法で得られたスクリムと積層し、さらにニードルパンチによってフェルトとスクリムを結合し、目付は195g/m2、厚さは1.5mmの繊維基材層を得た。
【0112】
(合成皮革の製造)
上記方法で得られた繊維基材層を、重合度500、けん化度92%のポリビニルアルコール水溶液をディップした。繊維基材層100質量部に対して、ポリビニルアルコール固形分は12質量部であった。次いで、ポリウレタン樹脂D-1を100質量部に対して難燃剤15質量部を含む溶液を調整し、それをナイフコーターで繊維基材層に塗布する。塗布後の繊維基材層を60℃の温水で洗浄して、先に塗布したポリビニルアルコールと置換した後、120℃のオーブン中で乾燥することで、湿式合成皮革を得た。乾燥後のサンプル質量から算出したポリウレタン樹脂の付着量は230g/m2であった。さらに、離型紙上に溶剤に溶かしたポリウレタン樹脂D-2をコンマコーターで、30g/m2となるよう塗布し、乾燥させてフィルムを作製する。接着剤100質量部と難燃剤15質量部の混合物約20g/m2をフィルム上に塗布して、上記湿式合成皮革と貼り合わせ、エージング処理をおこなった。フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は425g/m2、厚さ1.54mmであった。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.28mmであった。
【0113】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表5のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ60mm、ヨコ58mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、かつ、質量減少率は4.3%と優れていた。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0114】
[実施例2]
(繊維基材層の製造)
実施例1で作製した繊維基材層と同一のものを繊維基材層として用いた。
【0115】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を180g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は375g/m2、厚さ1.27mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.26mmであった。
【0116】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表5のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ59mm、ヨコ52mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、かつ、質量減少率は4.0%と優れていた。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0117】
[実施例3]
(製織)
スクリムの密度を経142本/10cm、緯82本/10cmに変更し、134g/m2のスクリムとした以外は、実施例1と同様に手順でスクリムを作製した。
【0118】
(繊維基材層の製造)
上記で得られたスクリムを用いて、実施例1と同様の手順で、目付226g/m2、厚さ1.7mmの繊維基材層を得た。
【0119】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を182g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は408g/m2、厚さ1.26mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.26mmであった。
【0120】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表5のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ56mm、ヨコ57mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は4.4%と優れていた。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0121】
[実施例4]
(繊維基材層の製造)
スクリムは実施例1と同一のものを使用した。フェルト部は、延伸PPS繊維と耐炎化繊維の質量比率を25対75に変更し、実施例1と同一の手順でフェルトを作製し、スクリムと結合した。スクリムとフェルトを結合した後の繊維基材層の目付は204g/m2、厚さ1.6mmであった。
【0122】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を235g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は439g/m2、厚さ1.54mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.26mmであった。
【0123】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表5のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ67mm、ヨコ66mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は9.2%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0124】
[実施例5]
(繊維基材層の製造)
スクリムを構成する経糸および緯糸の各繊維の質量比率を延伸PPS繊維30対耐炎化繊維70に変更し、実施例1と同様の手順で20番手紡績糸および20番双糸を得た。スクリムの織物組織は実施例1と同様とし、目付109g/m2のスクリムを得た。
【0125】
フェルト部は、延伸PPS繊維20対耐炎化繊維80の質量比率で実施例1と同様の手順でウェブを作製し、スクリムと結合して繊維基材層とした。得られた繊維基材層の目付は201g/m2、厚さ1.6mmであった。
【0126】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を220g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は421g/m2、厚さ1.53mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.27mmであった。
【0127】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表6のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ51mm、ヨコ50mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は8.8%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0128】
[実施例6]
(繊維基材層の製造)
スクリムを構成する経糸および緯糸の各繊維の質量比率を延伸PPS繊維70対耐炎化繊維30に変更し、実施例1と同様の手順で20番手紡績糸および20番双糸を得た。スクリムの織物組織は実施例1と同様とし、目付109g/m2のスクリムを得た。
【0129】
フェルト部は、延伸PPS繊維50対耐炎化繊維50の質量比率で実施例1と同様の手順でウェブを作製し、スクリムと結合して繊維基材層とした。得られた繊維基材層の目付は204g/m2、厚さ1.6mmであった。
【0130】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を223g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は425g/m2、厚さ1.54mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.25mmであった。
【0131】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表6のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ69mm、ヨコ70mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は8.9%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0132】
[実施例7]
(繊維基材層の製造)
繊維基材層は、実施例1と同一のものを用いた。
【0133】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を350g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は545g/m2、厚さ1.63mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.26mmであった。
【0134】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表6のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ63mm、ヨコ69mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は9.7%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0135】
[実施例8]
(繊維基材層の製造)
繊維基材層を構成するスクリムに用いられるPPS繊維を延伸PPS繊維から未延伸PPS繊維に変更し、実施例1と同一同様の手順でスクリムを製造し、フェルトと結合した。フェルトとスクリムを結合した後、180℃の2本のS字ロールにスクリム面を沿わせてスクリム面を平滑化した。
【0136】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を232g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は427g/m2、厚さ1.53mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.03mmであった。
【0137】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表6のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていたが、剥離強度は実施例1と比較して低下した。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ69mm、ヨコ64mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は5.6%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0138】
[実施例9]
(繊維基材層の製造)
繊維基材層は、実施例1と同一のものを用いた。
【0139】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を222g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は417g/m2、厚さ1.52mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.51mmであった。
【0140】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表7のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ62mm、ヨコ65mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は5.8%と合格の範囲内であった。得られたクッションの風合いの評価は平均3.4点と若干硬い評価であった。
【0141】
[実施例10]
(製織)
スクリムの密度を経172本/10cm、緯85本/10cmに変更し、164g/m2のスクリムとした以外は、実施例1と同様に手順でスクリムを作製した。
【0142】
(繊維基材層の製造)
上記で得られたスクリムを用いて、実施例1と同様の手順で、目付224g/m2、厚さ1.6mmの繊維基材層を得た。
【0143】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を225g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は449g/m2、厚さ1.49mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.27mmであった。
【0144】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表7のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ62mm、ヨコ54mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は4.2%と優れていた。得られたクッションの風合いの評価は平均3.6点と若干硬い評価であった。
【0145】
[実施例11]
(製織)
スクリムの密度を経55本/10cm、緯35本/10cmに変更し、40g/m2のスクリムとした以外は、実施例1と同様に手順でスクリムを作製した。
【0146】
(繊維基材層の製造)
上記で得られたスクリムを用いて、実施例1と同様の手順で、目付205g/m2、厚さ1.7mmの繊維基材層を得た。
【0147】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を224g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は429g/m2、厚さ1.55mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.27mmであった。
【0148】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表7のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていたが、スクリムの密度が低い分、実施例1と比較すると機械物性は劣っていた。自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ59mm、ヨコ58mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は4.9%と優れていた。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0149】
[実施例12]
(繊維基材層の製造)
スクリム部の素材質量比を延伸PPS繊維75対PET25に変更し、実施例1と同一の糸密度で105g/m2のスクリムを得た。フェルト部には延伸PPS繊維の代わりにPET繊維を用いて、素材質量比率を耐炎化繊維80対PET繊維20とした。実施例1と同様の手順でスクリムとフェルトを結合し、目付205g/m2、厚さは1.5mmの繊維基材層を得た。
【0150】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を224g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は429g/m2、厚さ1.53mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.27mmであった。
【0151】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表7のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線を超えて燃焼したものの燃焼速度は69mm/分で合格の範囲内であった。航空機内装材向け難燃試験は残炎タテ1.3秒、ヨコ1.0秒、ドリップ燃焼タテ0.9秒、ヨコ1.0秒、燃焼長はタテ100mm、ヨコ95mmで合格の範囲内であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は9.8%と合格の範囲内であった。また、得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0152】
[比較例1]
(繊維基材層の製造)
用いる繊維をメタアラミド繊維のみとし、スクリム部の密度を実施例1と同一として目付107g/m2のスクリムを得た。フェルト部も同じく用いる繊維をメタアラミド繊維のみとし、実施例1と同様の手順でフェルト部とスクリム部を結合させ、目付197g/m2、厚さは1.6mmの繊維基材層を得た。
【0153】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を230g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は427g/m2、厚さ1.55mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.26mmであった。
【0154】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表8のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ5mm、ヨコ54mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長は合格の範囲内であったが、質量減少率は10.7%と不合格であった。得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0155】
[比較例2]
(繊維基材層の製造)
用いる繊維をPET繊維およびレーヨン繊維とし、PET繊維とレーヨン繊維の質量比率は65対35で実施例1と同様の手順で紡績糸を作製し、スクリム部の密度を実施例1と同一として目付112g/m2のスクリムを得た。フェルト部も同じく用いる繊維をPET繊維およびレーヨン繊維とし、PET繊維とレーヨン繊維の質量比率65対35で実施例1と同様の手順でフェルト部とスクリム部を結合させ、目付207g/m2、厚さは1.6mmの繊維基材層を得た。
【0156】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を236g/m2に変更し、上記方法で得られた不織布シートを繊維基材層とし、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は443g/m2、厚さ1.52mmに変更した以外は、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.28mmであった。
【0157】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表8のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていた。また、自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線を超えて燃焼したものの燃焼速度は93mm/分で合格の範囲内であった。航空機内装材向け難燃試験は残炎タテ3.2秒、ヨコ3.2秒、ドリップ燃焼タテ1.9秒、ヨコ1.8秒、燃焼長はタテ169mm、ヨコ170mmで合格の範囲内であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長は不合格であり、質量減少率も26.7%と不合格であった。得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0158】
[参考例1]
(繊維基材層の製造)
繊維基材層は、実施例1と同一のものを用いた。
【0159】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤を塗工する面を繊維基材層のフェルト面に変更し、ポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を222g/m2、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は417g/m2、厚さ1.52mmとして、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.33mmであった。
【0160】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表8のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていたが、剥離強度は実施例1より劣るタテ20.6N/25.4mm、ヨコ19.6N/25.4mmであった。自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ59mm、ヨコ63mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は6.6%と合格の範囲内であった。得られたクッションの風合いは柔らかく、良好であった。
【0161】
[参考例2]
(繊維基材層の製造)
スクリムを構成する経糸および緯糸の各繊維の質量比率を延伸PPS繊維60対耐炎化繊維40に変更し、実施例1と同様の手順で20番手紡績糸および20番双糸を得た。スクリムの織物組織は経20番手紡績糸、緯20番双糸とし、経42本/2.54cm、緯45本/2.54cmの平織でレピア織機にて製織した。得られたスクリムを既知の方法で精練・熱セットを行ったあと、片面を起毛加工した。起毛加工後のスクリムの密度は経54本/2.54cm、緯47本/2.54cmであった。また、目付は200g/m2、厚さ1.0mmであった。
【0162】
(合成皮革の製造)
湿式合成皮革を構成するポリウレタン樹脂D-1および難燃剤を、スクリムの起毛面に塗工した。ポリウレタン樹脂D-1および難燃剤の乾燥後の目付を220g/m2、フィルムと貼り合わせた後の合成皮革の目付は420g/m2、厚さ1.49mmとして、実施例1と同様の手順で合成皮革を作製した。得られた合成皮革の断面のSEM写真から算出した樹脂層および接着層の繊維基材層の浸透深さは0.31mmであった。
【0163】
(各種物性評価)
機械物性、摩耗耐久性は表8のとおりであり、合成皮革として十分な物性を満たしていたが、剥離強度は実施例1より劣るタテ21.6N/25.4mm、ヨコ23.5N/25.4mmであった。自動車内装材向けの難燃試験は38mm標線内で自消、航空機内装材向け難燃試験は残炎、ドリップ燃焼ともに認められず、燃焼長はタテ53mm、ヨコ59mmで良好な結果であった。得られた合成皮革をウレタンクッションに被覆し、シートクッションの難燃試験を実施したところ、燃焼長も合格の範囲内で、質量減少率は5.3%と合格の範囲内であった。得られたクッションの風合いの評価は平均3.6点と若干硬い評価であった。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、優れた難燃性を有し、可燃物に被覆した際に優れた延焼防止効果を発現し、かつ、風合いや剥離強度などの物性にも優れることから、自動車、鉄道、船舶などの内装(座席、ヘッドレスト、トノカバー、サンバイザー、天井など)、高層ビルや公共施設の内装材、家具(椅子、ソファーなど)の表皮材などに好適に用いられる。なかでも航空機、自動車または、船舶に搭載するシートクッション材の表装材として好ましく、さらには高い難燃性が求められる航空機の座席内装に特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0173】
1 ウレタンフォーム(座面)
2 ウレタンフォーム(背面)
3 ベルクロ(登録商標)テープ
4 表皮材(座面)
5 表皮材(背面)
6 バーナー
7 被覆物品
8 樹脂層が積層された状態での繊維基材層の樹脂層側の界面
9 浸透した樹脂層の界面