(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/30 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
H04R1/30 B
(21)【出願番号】P 2021062962
(22)【出願日】2021-04-01
(62)【分割の表示】P 2019561660の分割
【原出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017253091
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄助
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和幸
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-020184(JP,A)
【文献】特表2012-500535(JP,A)
【文献】特開2006-020183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00- 1/08
H04R 1/12- 1/14
H04R 1/20- 1/40
H04R 1/42- 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板の内周側の領域を覆うように配置されたイコライザと、
を備え、
前記イコライザは、前記振動板と対向する面の外周端部に
凸部を有
し、前記凸部の先端部と前記凸部の先端部と対向する前記振動板における部位との面直方向の距離が、前記凸部以外の部位と前記振動板との面直方向の距離よりも短い、
スピーカ。
【請求項2】
ボイスコイルボビンに接続された振動板と、
前記振動板の内周側の領域を覆うように配置されたイコライザと、
を備え、
前記イコライザは、前記振動板と対向する面の外周端部であって、対向する前記振動板における前記ボイスコイルボビンに接続された部位と最外周部との間の中腹部となる位置に、
凸部を有
し、前記凸部の先端部と前記凸部の先端部と対向する前記振動板における部位との面直方向の距離が、前記凸部以外の部位と前記振動板との面直方向の距離よりも短い、
スピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカに係り、特にイコライザを備えたスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
中央が前方に突出するセンターキャップが取り付けられたコーン型の振動板では、センターキャップの周縁部及びその近傍が環状に窪んだ凹部となる。
この振動板を備えたスピーカを動作させると、凹部の直近前方空間において、センターキャップからの出力音と振動板からの出力音とが干渉して特定の周波数にピークやディップが発生し周波数特性が乱れる、いわゆる前室効果(キャビティ効果とも称される)の生じることが知られており、この前室効果を抑制する技術が特許文献1に記載されている。
一方、上述のセンターキャップが取り付けられた振動板を備えたスピーカにおいて、センターキャップの前方側に出力音の周波数特性など調整するためのイコライザを配置する技術が知られており、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-343804号公報
【文献】特開平5-103388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたスピーカは、振動板を薄く(高さを低く)することで前室効果を抑制するものであり、放出された音に対して干渉を抑制するものではない。
特許文献2に記載されたスピーカのイコライザは、出力音の周波数特性などを調整して音質改善するものとして、センターキャップを覆うようにその前方に近接配置されている
。
しかしながら、このイコライザは前室効果を抑制するものではなく、前室効果によって再生周波数特性にピークディップによる乱れが生じている状態では、イコライザによる音質改善には限界があるため、改善が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、前室効果を抑制し高音質が得られるスピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
振動板と、
前記振動板の内周側の領域を覆うように配置されたイコライザと、
を備え、
前記イコライザは、前記振動板と対向する面の外周端部に、前記振動板に接近するよう突出した凸部を有する
スピーカ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前室効果を抑制し高音質が得られる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るスピーカの実施例であるツイータ51を有するコアキシャルスピーカ53を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ツイータ51を前方から見た模式的前面図である。
【
図4】
図4は、ツイータ51が備える振動板5及びイコライザ91を説明するための模式的断面図である。
【
図5】
図5は、イコライザ91を備えたツイータ51及び従来のツイータの再生周波数特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、変形例であるツイータ51Aが備える振動板5A及びイコライザ92を説明するための模式的断面図である。
【
図7】イコライザ91の変形例を示す模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係るスピーカを、実施例のスピーカであるツイータ51によって説明する。
【0010】
(実施例)
実施例のスピーカは、2ウエイのコアキシャルスピーカ53におけるツイータ51である。
図1は、2ウエイのコアキシャルスピーカ53を示す外観斜視図である。コアキシャルスピーカ53は、高音域を再生するツイータ51及び低音域を再生するウーハ52となるスピーカが、それぞれの軸線CL51,CL52を同軸となる軸線CL53上に位置し、前方側に放音するよう配置構成されている。ここで、軸線CL51及び軸線CL52は、ツイータ51及びウーハ52のそれぞれの振動板の放音軸となり、軸線CL53は、コアキシャルスピーカ53の放音軸である。
図2は、
図1におけるS2-S2位置での断面図であり、ツイータ51の縦断面図である。
図1及び
図2において、説明の便宜上、前後方向を矢印で規定する。前方は、軸線CL53に沿い、振動板5に対し磁気回路Mとは反対側である。言い換えると、前方はコアキシャルスピーカ53の放音方向である。
【0011】
ツイータ51は、ウーハ52のヨークの中心部位に連結された軸線CL53上に延びるツイータブラケット52aの先端に、ねじなどによって固定されウーハ52と一体化されている。
ツイータ51は、例えば前方に向かって径が拡大するコーン状の振動板を有する一般的なダイナミック型のスピーカである。振動板の形状は、軸線を含む断面が直線状になるコーン状に限らず、曲線状になる朝顔の花弁状などであってもよい。以下の説明では便宜的にコーン状として説明する。
【0012】
すなわち、
図1及び
図2に示されるように、ツイータ51は、ヨーク1,ヨーク1に固定された環状のマグネット2,及びマグネット2に固定されたプレート3からなる磁気回路Mを有する。
プレート3の前面には、フレーム4が固定されている。
フレーム4は、前方側に向け拡径する形状を呈し最前部には環状の枠部4aを有する。 枠部4aには、コーン状又は朝顔の花弁状の振動板5の外周部位が、エッジ6を介して取り付けられている。
【0013】
振動板5の中央部には円孔である中央孔5cが形成されている。
中央孔5cには、円筒状のボイスコイルボビン7が、その軸線CL7(不図示)を軸線CL53と同軸として後方側に延びるよう接着されている。
また、振動板5の中央部には、前方凸で球面形状に形成されたセンターキャップ8が、ボイスコイルボビン7の前端部を覆うように、接着されている。このときセンターキャップ8と振動板5とは、谷部85を形成し、この谷部85において近接する。このときの谷部85を近接部とする。センターキャップ8と振動板5の構成は限定されない。またセンターキャップ8がボイスコイルボビン7と接着され、振動板5との間に距離を有している場合、センターキャップ8と振動板5の最接近部を近接部とする。センターキャップ8が振動板5と接着されている場合は、接着部が近接部となる。
センターキャップ8と振動板5とが別部品である場合、センターキャップ8と振動板5とを接続する接続箇所は、センターキャップ8と振動板5との高周波数領域における振動態様が変化する境界となる。この点が近接部である。
一方、センターキャップ8と振動板5とが一体物である場合、ボイスコイルボビン7との接合部が、高周波数領域における振動態様が変化する境界であり、近接部となる。 センターキャップ8の形状は、前方に凸形状に限定されず、後方に凸形状であってもよい。
センターキャップ8の曲率中心C8(
図2)は、軸線CL53上に位置している。
【0014】
フレーム4の枠部4aの前面には、イコライザ91を有するイコライザパネル9が取り付けられている。
イコライザパネル9は、例えば樹脂製であり、軸線CL53を中心とする環状フレーム9aを有する。
イコライザ91は、概略、朝顔の花弁の一部に類似する形状に形成されている。イコライザ91は、イコライザパネル9に対し、直径方向に延びる二つの支持腕9b,9bにより連結支持されている。
【0015】
イコライザ91は、軸線CL53を中心軸とする中央孔91aを有する環状部材である。
イコライザ91は、スリットなどを有して周方向に完全に連結していなくてもよいが、以下の説明では完全に連結した環状部材として説明する。
【0016】
次に、イコライザ91と、センターキャップ8を含む振動板5と、の詳細について、
図3及び
図4も参照して説明する。
図3は、センターキャップ8及び振動板5とイコライザ91とを模式的に示した前面図である。
図3にも示されるように、センターキャップの外径D8b<イコライザ91の内径D91a、かつ、イコライザ91の外径D91b<センターキャップ8の外径D8bである。
図4は、スピーカ51のセンターキャップ8,振動板5,及びイコライザ91のみを抽出して記載した模式的断面図である。
【0017】
中央孔91aの中心軸は、軸線CL53と一致し、中央孔91aは、センターキャップ8よりも大きい開口として形成されている。詳しくは、中央孔91aの内径D91aは、谷部85の直径でもあるセンターキャップ8の外径D8bに対しわずかに大きく設定されている。ホーン内径(内径D91a)が谷部85の直上に位置する場合は、キャップ部(センターキャップ8)から放出される音のうち、センターキャップ8の根元部からの出力音が、イコライザ91の一面(前面91b)にて形成されるホーンに導かれない。このため、内径D91aを外径D8bよりわずかに大きくすることで、センターキャップ8から発せられる音響エネルギーを効率よく利用できる。
また、イコライザ91の外径D91bは、振動板5の外径D5bよりも小さく設定されている。
【0018】
より詳しくは、イコライザ91の外径D91bは、振動板5の外径D5bの概ね1/2以下であることが望ましい。
また、イコライザ91の外径D91bは、中央孔91aの内径D91aの2倍以下であることが望ましい。
内径D91aと外径D8bとの最大径差は、例えば直径で外径D8bの概ね1/10であることが望ましい。
【0019】
イコライザ91の一面91b(以降前面91bとする)と他面91c(以降後面91cとする)とは、異なる形状特性の曲面である。
具体的には、前面91bは、センターキャップ8から放音された音に対してホーンの役割を果たすホーン面として形成されている。
一方、後面91cは、対向する振動板5の前面5aに沿った面であって、振動板5の前面5aと距離Laをもつように形成されている。
後面91cの全体が、振動板5の前面5aとの面直方向の距離Laが一定となる定距離対向部Taを形成することが好ましい。
距離Laは、ツイータ51に許容される最大振幅の音声信号が入力した際の振動板5の振動に干渉しない範囲で、できるだけ小さい値が設定される。
【0020】
上述のツイータ51は、イコライザ91の内径D91aが、センターキャップ8の外径D8bよりもわずかに大きくなっている。すなわち、ツイータ51を軸線CL53に沿って前方側から見たときに、センターキャップ8が隠れることなく、その全部が中央孔91aを通して臨めるようになっている。
これにより、一般的に、高音域において振動板5のコーン状の部分よりも大きな音圧が得られるセンターキャップ8からの高音域の出力音を、塞ぎ妨げることなく外部に放出することができ、高音域の出力音圧の低下が防止される。
さらに、イコライザ91の前面91bがホーン面となっているので、センターキャップ8からホーン効果による音が前方に放出される。
ホーン面である前面91bの形状は、例えば、いわゆる指数関数ホーンとされるが、これに限定されず、双曲線ホーン、直円錐形ホーンなど適宜採用できる。
また、後述する振動板5を覆う外周端となるイコライザ91の外径D91bと、ホーンの前端となるイコライザ91の前端91eの径と、は一致しなくともよい。本実施例において、前端91eの径は、外径D91bよりも小さい場合であるが、外径D91bよりも大きくてもよい。
【0021】
一方、イコライザ91の後面91cは、中央孔91aの内径D91aがセンターキャップ8の外径D8bよりもわずかに大きく、かつ内縁部が振動板5の前面5aに近接配置されている。既述のように、後面91cは、振動板5の前面5aに対し面直方向に一定の距離La(例えば1mm以下)で僅かに離隔している。
これにより、イコライザ91の厚さtを、軸線CL53に平行な方向の厚さとすると、イコライザ91の厚さtは、中央孔91aの縁部から径方向外側に向かうに従って連続的に増加する形状に形成されている。
【0022】
図4において、前室効果に特に影響する谷部85の前方空間Vaは、センターキャップ8の頂点8aを通り軸線CL53に直交する面の位置を示す直線LNaと、振動板5及びセンターキャップ8と、に挟まれた環状の空間とする。
図4において前方空間Vaとなる範囲には、理解容易のため網点を付与してある。
また、センターキャップ8が後方に凸状(前方から見て凹状)である場合には、振動板5において、外径D5bに対し1/2~2/3程度の径となる前後方向位置より後方側の、振動板5及びセンターキャップ8との間の空間を前室とする。
ここでは、これらの前室において、センターキャップ8からの出力音と振動板5からの出力音が干渉して特定の周波数にピークやディップが発生し周波数特性が乱れる現象を前室効果と呼ぶ。
センターキャップ8の凹凸形状及び曲面形状に関わらず、センターキャップ8からの音の出力方向は全方位に渡っており、振動板5からの出力音との干渉が発生する。
【0023】
イコライザ91は、その内径側部分である内縁部91dが前方空間Vaに進入し、谷部85に接近した位置にある。
これにより、コーン状の振動板5からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉が、内縁部91dが遮蔽壁として機能することによって防止され、ツイータ51の出力音の周波数特性の乱れが生じ難くなっている。
【0024】
また、イコライザ91は、振動板5の外周縁側領域は開放し、内周側領域の一部を環状に覆うように設けられている。
これにより、振動板5におけるセンターキャップ8に近い内径側から前方に放出される音が、イコライザ91によって塞がれる。イコライザ91が無い場合における振動板5から放出された音が進むべき方向の音が、イコライザ91により塞がれ放出方向が変化し、イコライザ91に覆われた範囲の領域の端から音が放出される。
このように放出位置および方向がずれ、またホーン外周から距離がある位置での放音となるため、前方空間Vaの外側でセンターキャップ8からの出力音との干渉が仮に起きたとしても、その程度は無視できる程度となり、ツイータ51の出力音の周波数特性の乱れは、より生じ難くなっている。
【0025】
また、イコライザ91は、コーン状の振動板5の径方向の一部範囲を近接位置で環状に覆うものであり、振動板5が振動したときに、イコライザ91との間の空間の空気が膨縮される。この抵抗によって振動板5の振動がイコライザ91によって覆われている範囲に渡り抑制され、平滑化されて、振動板5の振動とボイスコイルボビン7の振動との位相が揃うため、振動板5からの放出音のひずみ成分が減少する。
一方で、コーン状の振動板5の径方向外側の部分は、イコライザ91には覆われず開放されている。この開放された部分からの出力音圧は十分確保されるため、振動板5全体として出力音の音圧が過度に低下することはない。
すなわち、ツイータ52は、イコライザ91を備えたことで、振動板5におけるコーン状の振動板5からの出力音の音圧を確保しつつ、センターキャップ8からの出力音と干渉するコーン状の振動板5の内周側からの出力音を抑制し、またひずみ成分を減少させて、高音質を得ることができる。
【0026】
振動板の放音方向ごく近傍に振動板形状に沿うような形状の遮蔽物があると、振動板と遮蔽物の間の空気が少なくなり、遮蔽物が無い場合と比べて振動板が放音方向に移動した際には振動板の放音方向側の空気の圧力が大きく高まって空気が圧縮(コンプレッション)され、振動板が放音方向と反対に移動した際には振動板の放音方向側の空気の圧力がごく低くなり、周囲からの空気の圧力が高まる。
その結果、振動板の振動にとって抵抗となり、振幅が制限される。また、振動板と遮蔽物の間隙は開口が小さいためパスカルの原理を近似的に適用できるので、振動板の遮蔽領域に掛かる圧力が均一となり、その結果、遮蔽領域全体で振動の位相が揃うようになり、かつ、振幅が平滑化される。
ここで振動板上の振幅や位相の平滑化によって、一般にピストン振動と呼ばれる振動に近くなるため、ボイスコイルボビン7の振動との位相が揃うようになる。
【0027】
このように、イコライザ91は、振動板5のコーン状部分による出力音の音質向上及び音圧維持を図り、かつセンターキャップ8からの出力音を、ホーンとして高効率に放出する。
さらに、イコライザ91は、振動板5のコーン状部分からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉を効果的に防止するので、ツイータ51の周波数特性においてピークやディップが生じにくく、出力音の周波数の乱れを抑制して高音質が得られる。
【0028】
イコライザ91の外径D91bと、振動板の外径D5b及び中央孔91aの内径D9aと、の各比率、並びに、イコライザ91の内径D91aとセンターキャップ8の外径D8bとの径差は、用いる磁気回路や振動板の形状及び特性などに応じて自由に設定することができる。
出力音の音圧維持の観点で好適なのは、既述のように、
外径D91b ≦ 0.5×外径D5b
外径D91b ≦ 2×内径D9a
(内径D91a-外径D8b)の最大径差 ≒ 0.1×外径D8bである。
【0029】
図5は、イコライザ91を備えたツイータ51と、比較のためツイータ51からイコライザ91を外したものに相当する従来のツイータとを、同じ入力信号で駆動させたときの、周波数-音圧特性を示すグラフである。測定方向は、軸線CL51上である。
図5において、実線がツイータ51の特性であり、破線が従来のツイータの特性である。
【0030】
図5に示されるように、ツイータ51の特性は、従来のツイータの特性と比べて、概ね9kHz~17kHzの範囲で高い音圧が得られていることがわかる。
これは、イコライザ91の内縁部91dによるコーン状の振動板5からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉防止、及び、イコライザ91とそれが覆う部分の振動板5との近接空間の振動時の空気膨縮による不要な共振の抑制と、の結果であることが推察される。
このように、ツイータ51は、前室効果を抑制し高音質が得られる。
【0031】
以上詳述した実施例は、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形した変形例としてもよい。
【0032】
イコライザ91及び振動板5を備えたツイータ51の変形例として、イコライザ92及び振動板5Aを備えたツイータ51Aを説明する。
図6は、振動板5Aと、それに対応して設けられたイコライザ92と、を示す模式的断面図であり、
図4に対応する図である。
【0033】
イコライザ92は、コーン状の振動板5Aの内径側を覆う部分である環状部93と、センターキャップ8Aの一部を覆うキャップ対向部94と、を有する。
環状部93は、イコライザ91に相当する。すなわち、中央孔93aを有し、前面93bがホーン面とされ、後面93cが振動板5Aの前面5Aaに対しその面直方向の距離LAaが一定の面とされている。
【0034】
キャップ対向部94は、中央孔94aを有し、後面94cがセンターキャップ8Aの前面8Aaに対しその面直方向の距離LAbが一定の面とされる。
キャップ対向部94の前面94bは、軸線CL51Aに平行な方向での厚さtがほぼ一定になるように形成されている。
【0035】
このように、イコライザ92は、センターキャップ8Aに対応して近接配置され、その一部を覆うキャップ対向部94を有している。
この構造は、コーン状の振動板5Aの表面積に対しセンターキャップ8Aが大型でその表面積が比較的大きい場合に有効である。より詳しくは、センターキャップ8Aからの出力音が十分に大きいため、センターキャップ8Aの一部を覆ってその出力音圧を抑制する
ことで、センターキャップ8Aの過剰な振動に伴い生じる不要な共振を低減し、コーン状の振動板5Aからの出力音圧とのバランスが取れる場合である。このように、ツイータ51Aは、イコライザ92が環状部93を備えることで、ツイータ51と同様の効果が得られ、さらにキャップ対向部94を備えることで、センターキャップ8Aの出力音質の改善を図ることができる。
キャップ対向部94は、キャップ対向部94の外周とホーン内径との間に音の放出口となる狭い空間、いわゆるホーンのスロートを形成する。
キャップ中央から放出された音は、通常ホーン効果が得られにくいため、キャップ対向部94を配置してキャップ中央から放出される音の音圧を高め、キャップ対向部とホーン内径との間に形成された音の放出口であるスロートに導かれやすくする。この構造によって、センターキャップ8Aからの出力音を多くホーン面に導き、より高いホーン効果を得ることができる。
【0036】
別の変形例として、イコライザ92は、環状部93の後面93cに、
図6に示されるような窪み93c1を有していてもよい。
この窪み93c1が吸音構造を有することにより、振動板5Aの前面5Aaと環状部93の後面93cとの間で往復反射して定在する音のエネルギを吸収して減衰させることができる。吸音構造として、たとえばイコライザ92の前面方向に向かい孔径が小さくなる、くさび形状であってもよい。
窪み93c1の形状は限定されず、エネルギを吸収して減衰させることができれば、周状の溝でもよいし、ディンプルが多数配置された形状であってもよい。不規則な形状の孔であってもよい。
また、窪み93c1は、もちろん、実施例のツイータ51におけるイコライザ91の後面91cに設けてもよい。
また、エネルギを吸収して減衰させることができるグラスウールなどの多孔質材料による吸音材などを振動板に接触しないように貼付してもよい。
【0037】
図7は、イコライザ91についてのさらに別の変形例を示した模式的断面図である。
図7に示されるように、イコライザ91の後面91cの外周縁部側に、振動板5の前面5aに接近する凸部91fを設けてもよい。
凸部91fは、周縁の全周に設けてもよいし、周方向に部分的に円弧状に設けてもよい。
凸部91fにより、イコライザ91の後面91cと振動板5の前面5aとの間の空気が、ツイータ51の動作時に外径側から外部に逃げ難くなる。
そのため、振動板5の振動に伴う空気の膨縮でより大きな抵抗が生じ、振動板5の振動がより抑制される。これにより、振動板5からの出力音圧も抑制されるが、振動板5に生じる不要な共振もさらに抑制され、ツイータ51の出力音の音質が向上する。
この凸部91fに相当する凸部を、変形例のイコライザ92の環状部93に設けてもよいことは言うまでもない。
この変形例の場合、後面91cにおける凸部91f以外の部分が、振動板5の前面5aとの面直方向の距離Laが一定となる定距離対向部Taとなる。
外周縁部側に凸部91fを設ける事により、凸部91f側からの音の出力が制限され、ホーン内側からの出力を増強させる。また、ホーン内側からの出力の増強により、凸部91fが無い状態の時と比べ、前面91bによって形成されたホーンロードを通過する出力が増え、より高いホーン効果を得る事ができる。
【0038】
イコライザ91を備えたスピーカとしてツイータ51を説明したが、ツイータに限定されず、スコーカやウーハであってもよい。また、フルレンジのスピーカであってもよい。
【0039】
上述のように、センターキャップ8は、前方に凸状のものに限定されず、後方に向かって凸状の形状(前方から見て凹状)を有し、振動板5との間に谷部85を形成しない形状であってもよい。この場合においてもセンターキャップ8と振動板5の出力音の干渉は発生するため、イコライザ91によってセンターキャップ8からの出力音にホーン効果を持たせ、振動板5の内周部からの出力音にコンプレッションをかけることで、干渉を防止し、高音質を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ヨーク
2 マグネット
3 プレート
4 フレーム、 4a 枠部
5,5A 振動板、 5a,5Aa 前面、 5c 中央孔
6 エッジ
7 ボイスコイルボビン
8,8A センターキャップ、 8a 頂点、 8Aa 前面
9 イコライザパネル、 9a 環状フレーム、 9b 支持腕
51,51A ツイータ(スピーカ)
52 ウーハ(スピーカ)、 52a ツイータブラケット
53 コアキシャルスピーカ
85 (近接部)谷部
91,92 イコライザ
91a 中央孔、 91b 前面、 91c 後面、 91d 内縁部
91e 前端、 91f 凸部
93 環状部
93a 中央孔、 93b 前面、 93c 後面、 93c1 窪み
94 キャップ対向部、 94a 中央孔、 94b 前面
C8 曲率中心
CL51,CL52,CL53,CL7,CL51A 軸線
D8b,D91b,D5b 外径、 D91a 内径
La,LAa 距離、 LNa 直線
M 磁気回路
t 厚さ
Ta 定距離対向部
Va 前方空間