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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】電圧型インバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230523BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022026369
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 康弘
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-141629(JP,A)
【文献】特開2021-069187(JP,A)
【文献】特開2013-255317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相フルブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、直流電圧を三相交流電圧に変換する電圧型インバータの制御装置であって、
電圧指令と位相指令を入力し、(26)式と(27)式(または(28)式)によって6次補正成分の振幅値を求め、(29)式によって補正後電圧指令を求め、前記補正後電圧指令を出力する6次高調波補正部を備え、
前記補正後電圧指令に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする電圧型インバータの制御装置。
【数1】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
VB:飽和電圧
Vdc:直流電圧
Vx6,Vy6:6次補正成分の振幅値
Vcmd:電圧指令
ΔV0:過変調成分
min:()内の要素から最小値を選択する関数
Vx,Vy:補正後電圧指令
θv:位相指令
【請求項2】
三相フルブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、直流電圧を三相交流電圧に変換する電圧型インバータの制御装置であって、
(30)式によってDB飽和電圧を定め、
電圧指令と位相指令を入力し、(31)式、(32)式(または(33)式)によって6次補正成分の振幅値を求め、(29)式によって補正後電圧指令を求め、前記補正後電圧指令を出力する6次高調波補正部を備え、
前記補正後電圧指令に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする電圧型インバータの制御装置。
【数1】
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【数29】
VB:飽和電圧
Vdc:直流電圧
Kv6:補正係数
VDB:DB飽和電圧
ΔVdb:DB電圧余裕幅
Vx6,Vy6:6次補正成分の振幅値
Vcmd:電圧指令
ΔV0:過変調成分
min:()内の要素から最小値を選択する関数
Vx,Vy:補正後電圧指令
θv:位相指令
【請求項3】
零相変調・セクタ切替部を備え、
前記零相変調・セクタ切替部は、二相変調PWM指令、および、三相変調PWM指令、および、一相変調PWM指令を生成し、位相指令に位相進み量を加算した予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、セクタ切替区間の直後の区間に適用する補正量を生成し、前記主成分と前記補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、
前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする請求項2記載の電圧型インバータの制御装置。
【請求項4】
零相変調・セクタ切替部を備え、
前記6次高調波補正部は、(29)式のθvに、位相指令に位相進み量を加算した予測位相を入力して補正後予測電圧指令を求め、
前記零相変調・セクタ切替部は、前記補正後予測電圧指令に基づいて生成した零相変調前の予測PWM指令を入力し、前記零相変調前の予測PWM指令に基づいて、二相変調PWM指令、および、三相変調PWM指令、および、一相変調PWM指令を生成し、前記予測位相に位相進み量を加算した2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、セクタ切替期間の直前のサンプル期間に適用する予測補正量、および、セクタ切替期間の直後のサンプル期間に適用する遅延補正量を生成し、前記主成分と前記予測補正量および前記遅延補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、
前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする請求項2記載の電圧型インバータの制御装置。
【請求項5】
零相変調・セクタ切替部を備え、
前記6次高調波補正部は、(29)式のθvに位相指令を入力して前記補正後電圧指令を求め、(29)式のθvに、位相指令に位相進み量を加算した予測位相を入力して補正後予測電圧指令を求め、
前記零相変調・セクタ切替部は、前記補正後電圧指令に基づいて生成した零相変調前のPWM指令と前記補正後予測電圧指令に基づいて生成した零相変調前の予測PWM指令をそれぞれ入力し、前記零相変調前のPWM指令に基づいて二相変調PWM指令、および、第1三相変調PWM指令、および、第1一相変調PWM指令を生成し、前記零相変調前の予測PWM指令に基づいて第2三相変調PWM指令、および、第2一相変調PWM指令を生成し、前記予測位相に位相進み量を加算した2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記第1三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記第1一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記第1一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、前記第2三相変調PWM指令と前記第2一相変調PWM指令から算出されたセクタ切替期間の直前のサンプル期間に適用する予測補正量、および、前記第1三相変調PWM指令と前記第1一相変調PWM指令から算出されたセクタ切替期間の直後のサンプル期間に適用する遅延補正量を生成し、前記主成分と前記予測補正量および前記遅延補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、
前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする請求項2記載の電圧型インバータの制御装置。
【請求項6】
前記電圧指令が飽和電圧を超過した場合に、その超過した電圧成分に基づいて判定位相幅を設定し、
前記6次高調波補正部は、(24)式と(25)式と(29)式によって、前記補正後電圧指令を設定し、
前記判定位相幅と位相指令と前記予測位相に基づいて、一相変調の挿入期間を設定して、その挿入期間は強制的に一相変調を選択することを特徴とする請求項3~5のうち何れかに記載の電圧型インバータの制御装置。
【数24】
【数25】
【数29】
VC:DB領域上限電圧
VMAX:OVM領域上限電圧
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機(モータ)を駆動するインバータ装置などを対象としており、可変電圧・可変周波数の交流電圧を発生するためのPWM(Pulse Width Modulation)方式に関する内容である。
【背景技術】
【0002】
PWM方式では、直流電源のP・N電位をパルス状に出力しており、このパルス幅を変化させることにより交流電圧を出力している。しかし、電圧指令が大きくなってパルス幅が零になると変調限界に達する。出力電圧をさらに拡大させる方法として、台形波のような正弦波以外の高調波成分を許容させる方法もあり、これは「過変調(方式)」と呼ばれている。
【0003】
本願発明でも台形に近い波形になるが、高調波成分をできるだけ低減した過変調方式である。さらに、半導体スイッチング素子の最小オン時間やデッドタイムなどの制約により生じる「最小パルス幅」の制限も考慮した過変調法を説明する。
【0004】
本願発明は、図34に示す主回路構成の電圧型インバータを対象としており、これに適用するパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)方式に関するものである。図中の逆導通型のスイッチング素子SWu~SWzを6つのゲート信号Gu~Gzにより制御すれば、図35(a)に示す8種類の電圧ベクトルを出力することができる。
【0005】
図34の直流電源DCの直流電圧をVdcとすると、図35(a)に示した長さVdc×√(2/3)の6個の空間ベクトルVu,Vv,Vw,-Vu,-Vv,-Vwおよび2個の零ベクトルV0,V8が出力電圧になる。
【0006】
この6個の空間ベクトルの先頭を結んだ六角形内を「電圧飽和領域」と呼び、この六角形の外側の電圧領域を「電圧過変調領域」と呼ぶことにする。特に六角形の辺を指定したい場合には電圧「領域境界」とし、この内接円の半径「飽和電圧VB」は(1)式になる。電圧軌跡を円状にできれば三相出力の線間電圧は正弦波になり、電圧軌跡が六角形状になると三相の相電圧は台形波状になる。
【0007】
【数1】
【0008】
電圧指令から6本のゲート信号を生成する方法としては、図36のような構成が一般的である。ここでは、電圧指令を回転ベクトルの振幅成分(電圧指令)Vcmdと周波数成分(周波数指令)ωcmdとして与える。積分部2は、周波数指令ωcmdを時間積分して位相指令θvとする。
【0009】
この位相指令θvを利用して回転座標変換部1にて振幅成分である電圧指令Vcmdを二相交流の電圧ベクトルVa,Vbに変換し、さらに二相三相変換部3で三相交流電圧指令Vu,Vv,Vwに変換している。また、除算器4において三相交流電圧指令Vu,Vv,VwをVdc/2で除算して直流電圧との比率(零相変調前のPWM指令)Ku,Kv,Kwに正規化し、零相変調補正部5で零相変調を行い最終的な(零相変調後の)PWM指令Kzu,Kzv,Kzwとしている。
【0010】
キャリア信号出力部7は三角波キャリア信号Cryを出力する。比較器8により、零相変調後のPWM指令Kzu,Kzv、Kzwと三角波キャリア信号Cryとを大小比較してPWMパルス信号Su,Sv,Swを生成し、さらに短絡防止期間生成部9により6個のスイッチング素子SWu,SWx,SWv,SWy,SWw,SWzのゲート信号Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzとして出力する。
【0011】
図36の構成を数式で表すと、次のようになる。
【0012】
電圧指令Vcmdを回転ベクトルの振幅成分とすれば、(2)式のように直交二軸回転座標(XY座標)の電圧ベクトルVXY(要素:Vx,Vy)が定義できる。本明細書では、数式にて「ベクトル・配列」を示す場合、先頭文字を「太字・斜体」とする(「ベクトル・配列」は「XY・ab・uvw・abc」の文字列を含む記号だけである)。
【0013】
【数2】
【0014】
周波数指令ωcmdを積分部2で時間積分して位相指令θvに変換し、この位相指令θvを用いて回転座標変換部1で回転座標変換することにより、(3)式のような直交二軸固定座標(αβ座標)の電圧ベクトルv(要素:Va,Vb)を得る。
【0015】
【数3】
【0016】
さらに、二相三相変換部3により、(4)式のような三相交流電圧指令Vuvw(要素:Vu,Vv,Vw)に変換できる。
【0017】
【数4】
【0018】
通常は三角波キャリア信号Cryの振幅を±Vdc/2に設定するので、(5)式のように除算器4において三相交流電圧指令Vuvwを「キャリア片振幅Vdc/2」で除算して直流電圧との比率(零相変調前のPWM指令)Kuvw(Ku,Kv,Kw)に正規化する。
【0019】
【数5】
【0020】
さらに、零相変調補正部5で後述する零相変調を適用して、出力電圧を約15%拡大できる三相交流の零相変調後のPWM指令Kzuvw(Kzu,Kzv,Kzw)を生成する。ここで、KzuvwとKuvwを区別するために、Kuvwを「零相変調前のPWM指令」、Kzuvwを「零相変調後のPWM指令」として使い分ける。
【0021】
PWM指令を「キャリア片振幅Vdc/2」で正規化すると、最大振幅が「±1」となり飽和を表現しやすくなる。一方、二相交流の電圧ベクトル(二軸固定座標電圧)Vabの方は飽和電圧VBを基準として正規化した方が理解しやすい。異なる基準が混在するとまぎらわしいので、「三相交流成分はPWM指令の正規化表現に統一」し、「二軸交流電圧ベクトル(軌跡)の方は飽和電圧VBを基準とする正規化表現に統一」する。
【0022】
以降の説明では、三角波キャリア波形の両振幅レベルに相当する直流電位VP,VNを多用するので、VP側を「「P電位」、「Pレベル」、KP=+1p.u.」、VN側を「「N電位」、「Nレベル」、KN=-1p.u.」と定義しておく。
【0023】
電圧指令Vcmdが飽和電圧VBを超える場合を「電圧指令の過変調」と呼び、ΔV0=(Vcmd-VB)を「電圧指令の過変調成分」、ΔK0=(Vcmd-VB)/VBを「電圧指令の過変調率[p.u.または%]」と定義する。
【0024】
電圧指令Vcmdが過変調(Vcmd>VB)になると、図37の電圧ベクトルVabの円軌跡が、六角形の電圧飽和領域内に納まらず、外側の電圧過変調領域も通過するようになる。この場合でも、本願発明を適用すれば、(b)図に示した程度であれば、補正電圧ベクトルVabLの軌跡を電圧飽和領域内に制限した軌道に修正できる。この対策方法が本願発明の「過変調制御」に相当する。
【0025】
電圧指令がVcmd=VBのときには、零相変調前のPWM指令Kuvw((5)式)の最大振幅は約±1.15p.u.になりキャリア振幅を超過するので、一般的には零相変調を適用して三相PWM指令の最大振幅を約15%だけ低減する。
【0026】
零相変調には多くの方式があるが、ここでは代表的な2種類の方法を示し、これらを「三相変調(方式)」と「二相変調(方式)」と呼ぶことにする。各方式では、下記のように図36の零相変調部5aで零相変調成分Kz(三相変調ではKz3、二相変調ではKz2)を計算する。
(a)三相変調方式(min-max方式)
【0027】
【数6】
【0028】
ここで、max()は三相要素の最大値を選択する関数,min()は三相要素の最小値を選択する関数である。
(b)二相変調方式(60°区間交互変調)
【0029】
【数7】
【0030】
(6)式または(7)式により得られたKz3またはKz2を零相変調成分(Kzx)とし、(8)式のように加算器6で三相に同一成分を加算(零相補正)すれば零相変調後のPWM指令Kzuvw(Kzu,Kzv,Kzw)が得られる。
【0031】
【数8】
【0032】
この零相変調を適用すると三相の相電圧波形は歪むが、線間電圧は正弦波を維持できる。また、負荷機の零相インピーダンスが十分に大きければ零相電流も零になるので、負荷機への影響も生じない。
【0033】
後述する実施形態では、最大値max(Kuvw)と最小値min(Kuvw)に対応する相を指示するために、前者の最大値である相を「最大相」,後者の最小値である相を「最小相」、そして残りの相を「中間相」と表現する。
【0034】
二相変調では(7)式のように電圧指令の位相指令θvによって2種類の変調方式を切り替えているので、上側の式を「P側変調」、下側の式を「N側変調」とし、(7)式の各位相領域を「セクタ」、また2つの式(変調方向)を切り替えることを「セクタ切替」と表現する。
【0035】
二相変調は、最大相の振幅を直流電源のP電位に一致させるP側セクタと最小相の振幅を直流電源のN側電位に一致させるN側セクタとを、60°区間で交互に切り替える零相変調方式である。
【0036】
三相変調は、二相三相変換後の三相成分に対して、最大相と最小相の各振幅の絶対値を等しくさせるように零相変調する方式である。
【0037】
本明細書で取り扱う変数は多数あるので、よく使う用語をピックアップしておく。
(1)αβ座標:電圧成分(正規化基準=VB)
電圧ベクトル(軌跡)=Vab
補正電圧ベクトル=VabL
飽和電圧=VB(零相変調適用時)
DB電圧余裕幅=ΔVdb
DB飽和電圧=VDB
(2)XY座標:電圧成分(正規化基準=VB)
電圧指令=Vcmd
電圧ベクトルVXY(Vx,Vy)
(3)三相交流:PWM指令成分(正規化基準=Vdc/2)
零相変調後のPWM指令=Kzuvw
零相変調前のPWM指令=Kuvw
キャリア振幅=Cry(±1p.u.)
DB余裕幅=ΔKdb
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【文献】特開平4-79791号公報
【文献】特開2014-39425号公報
【文献】特開2014-226035号公報
【文献】特開2015-156732号公報
【非特許文献】
【0039】
【文献】Smith Lerdudomsak・道木慎二・大熊繁,「電圧飽和領域におけるIPMSMの高トルク応答のための新しい電圧リミッタ」,電気学会論文誌D,Vol.128,No.12,pp.1346-1356(2008)
【文献】高橋健治・大石潔・上町俊幸,「d軸電圧を優先した埋込型永久磁石同期モータの一駆動法」,電気学会論文誌D,Vol.131、No.9,pp.1103-1111(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
(1.電圧飽和時の低次高調波の問題)
電圧指令Vcmdが飽和電圧VBより大きくなると、零相変調を適用してもPWM指令の三相波形はキャリア振幅(±1p.u.)を超える。この超過した区間では、PWMのスイッチングが休止して出力電圧はP電位とN電位に固定され、あたかもPWM指令が±1p.u.に飽和したように動作する。
【0041】
また、出力PWM波形にはこの飽和によって歪が生じ、高調波成分が発生する。以降では、「飽和による歪波形」により生じる、基本波以外の周波数成分を「高調波」と表現する。
【0042】
この高調波成分は銅損や鉄損を増加させるので少ない方が良い。とくに渦電流損などは電圧の二乗で急増するので、電力変換器や負荷機などの冷却能力を考慮して、通常は過変調率の上限を「1.06p.u.程度」にとどめることが多い。本願発明の過変調もこの程度の範囲を対象とする。
【0043】
次に、過変調制御の従来技術について説明する。
【0044】
前述の三相変調方式の零相変調を適用し、電圧指令Vcmdを「(a)0.9p.u. ,(b)1.05p.u. ,(c)1.2p.u.」の3種類に設定した場合の波形例を図37に示す。上段はαβ座標の電圧ベクトルVabの軌跡であり、下段は零相変調後のPWM指令Kzu,Kzy,Kzwの波形である。波形を拡大したいので表示位相を0~120degに限定し、参考として零相変調前のPWM指令のu相成分Kuも追記してある。
【0045】
下段には三角波キャリア信号Cryの例も点線で記載してあり、三角波キャリア信号の上頂点と下頂点のタイミングを「〇,△,□」のマーカーで表示し、上図と下図の対応を示すため4番目のサンプル時刻に相当する電圧成分を「(n=4)」として示してある。
【0046】
各図には下記のような特徴が確認できる。
【0047】
図37(a):「Vcmd=0.9p.u.」では上段の電圧ベクトルVabの軌跡は円となり、キャリア頂点タイミングのマーカーも等間隔に並んでいる。
【0048】
図37(b):「Vcmd=1.05p.u.」は飽和電圧(電圧飽和限界)VBを超えるので、電圧ベクトルVabの軌跡は(小さい〇印)で示したように六角形の外側まで拡大している。また、下段の零相変調後のPWM指令Kzu、Kzv、Kzwもキャリア振幅±1p.u.を超過している。超過部分はP電位やN電位の飽和と等価なので、波形KzuL,KzvL,KzwLのように最大部が平坦になる。
【0049】
この波形KzuL,KzwL,KzwLをαβ座標の電圧成分に逆変換すると、上段の補正電圧ベクトルVabL(□印)のように軌跡が六角形の辺上に制限(移動)されたことになる。この三相PWM波形のうち、「二相成分が同時にキャリア振幅(±1)に制限され残りの1相のみがスイッチングしている状態」を「一相変調」と定義する。言い換えると、一相変調は、三相変調に対してさらに「最大相の振幅を直流電源のP側電位」に、「最小相の振幅を直流電源のN側電位」に強制的に置き換えた零相変調方式である。
【0050】
図37(c):「Vcmd=1.2p.u.」は実際には使用しない過大な電圧指令であるが、飽和の影響を誇張するために描いている。上段の電圧ベクトルVabの軌跡を全円周にわたり六角形を超過させた例であり、下段のPWM指令はほぼ台形波となり、逆変換したαβ座標の補正電圧ベクトルVabLの軌跡は六角形の辺上のみを移動するようになる。電圧ベクトルVabから補正電圧ベクトルVabLへの制限動作は特許文献1に記載されており、三相変調の場合には六角形の辺に対して垂直方向に移動することが示されている。
【0051】
図37と同じ条件にて、今度は二相変調方式を適用したときの特性が図38である。図37と比較すると下記の点に差異がある。
【0052】
図38(a):「Vcmd=0.9p.u.」の場合は、αβ座標の電圧ベクトルVabの軌跡は図37(a)と等しい。しかし、下段の三相PWM指令は、60deg区間ごとにP側変調とN側変調が交互に切り替わっている。
【0053】
図38(b):「Vcmd=1.05p.u.」では、二相変調のセクタ切り替え部に、一相変調つまり二相成分が同時にキャリア振幅(±1)に制限された区間が現れており、さらにP・Nレベルの固定状態は二相変調と連続していることが特徴である。電圧ベクトルVabから補正電圧ベクトルVabLへの移動方向も異なっており、サンプル点間も六角形の辺中央では少し疎に、逆に角部付近では密になっている。
【0054】
図38(c):「Vcmd=1.2p.u.」では、両方ともほぼ全域が一相変調となっており、補正電圧ベクトルVabLのサンプル点間も六角形の辺中央が大幅に拡大し、角部付近に集中している。
【0055】
図37図38とを比較すると、上段図の「電圧ベクトルVab(〇印)から補正電圧ベクトルVabL(□印形)への移動特性」に差異がある。三相変調(図37)ではすべてが平行に移動しているのに対して、二相変調(図38)ではセクタ中間の30deg位相を境として方向が60deg異なっている。上段の六角形辺上のサンプル点(補正電圧ベクトル)VabL(n)については、図37の方はほぼ等間隔であるが、図38では六角形の辺中央では間隔が広く逆に角部付近に集中している。
【0056】
これは電圧ベクトルの「振幅成分の制限」だけでなく、「位相進み遅れ成分の補正」が生じたことを意味している。言い換えれば、電圧飽和時には電圧軌跡は六角形上に限定されるが、辺上の位置(位相)には補正する自由度が残っている。この位相補正を意識した過変調方式には特許文献2などがある。
【0057】
これ以外にも非特許文献1のように飽和処理を工夫したり、特許文献3のように台形波形を適用した過変調方式などがあるが、どれも高調波成分の最小化までは検討されていない。
【0058】
そこで、高調波成分の少ない過変調方式を第一の課題とする。本願では、相電圧の高調波成分を5次と7次(回転座標系では±6次)だけに抑制できる過変調方式を説明する。
【0059】
方形波や台形波を使った過変調方式では、高調波には多数の周波数成分が含まれるが、PWMリプルを除去するフィルタの共振帯域と一致すると大きな外乱を生じさせる。そのため、高調波の実効値(各成分の二乗和)だけでなく、含まれる周波数の帯域ついても考慮する必要がある。
【0060】
(2.PWMの最小パルス幅制限についての課題)
電圧ベクトル軌跡が電圧飽和領域内に収まっていても、PWM指令がキャリア振幅に近づくと、幅の狭いPWMパルスが発生する問題がある。図34の上下アームのゲート信号対には短絡防止期間(デッドタイム)を挿入するが、これよりも幅の狭いパルス(「狭小パルス」)の状態では、出力電流の極性によっては出力PWM波形のパルスが欠けることがあり「電流零クロス付近における電圧誤差の急変」が生じる。
【0061】
この誤差成分を正確に補償することは困難であるため、デッドタイムよりも広い「最小パルス幅」を確保する対策が行われている。この「最小パルス幅」を確保する方法が第二の課題である。
【0062】
PWMパルスを最小パルス幅以上に制限するためには、図10(a)の右図のように、PWM指令の上下限に「DB余裕幅ΔKdb」の禁止帯域を設定することが多い。上下限を±KDB=±(1p.u.-ΔKdb)に制限すれば、位相幅Δθdbより細いパルス幅は発生しなくなる。以降ではこの位相幅Δθdbの代りにPWM振幅に換算したDB余裕幅ΔKdbを使用する。
【0063】
二相変調を適用する場合、P・Nレベル(±1p.u.)に固定するスイッチング休止区間ではパルス自体が発生しないので狭小パルスが発生しない。つまり、最小パルス幅の禁止帯域であるDB余裕幅ΔKdbをスキップし、P・Nレベルにしてもよい。
【0064】
これらを図35(b)のαβ座標で表すと、六角形の周辺部(ハッチング部)の面が禁止帯域である。許容される領域は、「三相変調・二相変調領域」であるハッチング部の内側と、「一相変調」である六角形の辺上の一部、および三相ともスイッチングを休止した「無変調」である六角形の頂点部分になる。
【0065】
以降では、「三相変調・二相変調領域」を「DB電圧飽和領域」、この内接円の半径を「DB飽和電圧VDB」、そして禁止帯域の幅をDB電圧余裕幅ΔVdb=VB-VDBとする。
【0066】
以上のような最小パルス幅を確保するために禁止帯域に対して排他処理することを第二の課題とし、「最小パルス幅対策」と表現する。
【0067】
ここで、同じDB余裕幅ΔKdbを設定していても、三相変調と二相変調とではαβ座標側のDB電圧余裕幅ΔVdbの幅が異なることに注意が必要である。三相変調では最大相と最小相の両方に余裕幅を確保する必要があるが、二相変調では一方はスイッチングが休止しているので余裕幅は片側のみ考慮するだけでよい。そのため、二相変調ではDB電圧余裕幅ΔVdbを三相変調の半分にでき、最小パルス幅対策を適用する場合には二相変調の方が出力可能電圧を大きくできる。
【0068】
(3.二相変調方式のセクタ切替時に生じる極小パルスの課題)
二相変調では電圧位相に応じて、60degのセクタごとに「P側変調とN側変調を変更するセクタ切替」が必要であり、禁止帯域を遵守していても、まだこのときに狭小パルスが発生する問題が残っている。
【0069】
「最小パルス幅対策を考慮しない二相変調のセクタ切替方法」については特許文献4にて記載されており、図13(a)のように二相変調のセクタ切替時(n区間)に三相変調を挿入することが説明されている。しかし、電圧飽和付近でセクタを切り替えると、図中のΔT1やΔT2で示すような細いパルスが生じる。
【0070】
この「二相変調のセクタ切替時における最小パルス幅の確保」が第三の課題である。本願発明は、この対策として三相変調の代りに一相変調を挿入することを説明する。
【0071】
(4.DB飽和領域の制限を維持した条件での出力電圧拡大についての課題)
最小パルス幅対策を考慮した二相変調にて第二の課題と第三の課題を解決できても、まだ出力可能電圧はDB飽和電圧VDBのままである。そこで、さらに出力電圧を拡張することを第四の課題とする。本願発明では、DB電圧飽和領域内の制限を維持しながら、過変調の原理を適用して出力電圧範囲を拡大することを説明し、以降ではこの対策方法を「DB領域の過変調」と表現する。
【0072】
(5.電圧飽和領域での最小パルス幅対策の課題)
第四の課題を解決する方法であるDB領域の過変調を適用しても、VC≒(1.06×VDB)程度が限界である。そこで、これ以上の出力電圧を得る過変調方法を提供することを第五の課題とする。
【0073】
第三の課題を解決する方法では、二相変調のセクタ切替時対策にキャリア半周期間だけ一相変調を挿入したが、この「一相変調」の区間をさらに拡大するものであり、これを以降では「OVM領域の過変調」と表現する。これは、図35(b)の「一相変調」の辺上に位置する区間を拡大するものである。
【0074】
(6.異なる過変調領域のバンプレス切替の課題)
電圧指令が拡大できても、指令の大きさに応じて「DB領域」と「OVM領域」の過変調方式を切り替える必要がある。この異なる過変調方式を切り替える際に、異常なPWMパルスが発生する可能性がある。
【0075】
そこで、異常パルスや負荷電流の波形歪などが生じない過変調方式の切り替え方法を提供することが第六の課題である。
【0076】
(7.非同期PWMの課題)
以上のような6つの課題以外にも、三角波キャリア信号と電圧指令には、周波数の同期・非同期という問題が有る。キャリア周波数を電圧周波数の整数倍に同期させたPWM変調方式は「同期PWM」、同期していないPWM変調方式は「非同期PWM」と呼ばれている。「同期PWM」であれば一周期のパルス数が固定され同じPWMパターンが繰り返されるので、パルス発生位相を予め計算しておいたテーブルとして設定することもできる。この条件での過変調方式は既に多くの方式が報告されている。
【0077】
しかし、電圧指令の周波数が低くなると、反比例してパルス数が増加して膨大なテーブル数が必要になってくる。また、キャリア周波数が電圧周波数に応じて変化するが、電流制御を適用する場合などではキャリア周波数を固定したい。そこで、非同期PWMでも実現できる過変調方式が必要になる。この「非同期PWMへの対応」は上記の6個の課題全てに共通する課題である。
【0078】
上記7つの課題の要点を以下に示す。
(1)高調波の少ない過変調方式。
(2)「DB制限領域」の最小パルス幅対策(PWM指令の禁止帯域処理)。
(3)二相変調のセクタ切替時に生じる極小パルスの抑制。
(4)DB領域の過変調方式。
(5)OVM領域の過変調方式。
(6)過渡外乱の少ない「DB領域の過変調方式」と「OVM領域の過変調方式」との切り替え方法。
(7)非同期PWMにも適用できること。
【0079】
以上示したようなことから、電圧型インバータにおいて、電圧限界以上に出力電圧を拡大し、かつ、高調波の振幅と周波数帯域との両方を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0080】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、三相フルブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、直流電圧を三相交流電圧に変換する電圧型インバータの制御装置であって、電圧指令と位相指令を入力し、(26)式と(27)式(または(28)式)によって6次補正成分の振幅値を求め、(29)式によって補正後電圧指令を求め、前記補正後電圧指令を出力する6次高調波補正部を備え、前記補正後電圧指令に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする。
【0081】
【数1】
【0082】
【数26】
【0083】
【数27】
【0084】
【数28】
【0085】
【数29】
【0086】
VB:飽和電圧
Vdc:直流電圧
Vx6,Vy6:6次補正成分の振幅値
Vcmd:電圧指令
ΔV0:過変調成分
min:()内の要素から最小値を選択する関数
Vx,Vy:補正後電圧指令
θv:位相指令。
【0087】
また、他の態様として、三相フルブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、直流電圧を三相交流電圧に変換する電圧型インバータの制御装置であって、(30)式によってDB飽和電圧を定め、電圧指令と位相指令を入力し、(31)式、(32)式(または(33)式)によって6次補正成分の振幅値を求め、(29)式によって補正後電圧指令を求め、前記補正後電圧指令を出力する6次高調波補正部を備え、前記補正後電圧指令に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする。
【0088】
【数1】
【0089】
【数30】
【0090】
【数31】
【0091】
【数32】
【0092】
【数33】
【0093】
【数29】
【0094】
VB:飽和電圧
Vdc:直流電圧
Kv6:補正係数
VDB:DB飽和電圧
ΔVdb:DB電圧余裕幅
Vx6,Vy6:6次補正成分の振幅値
Vcmd:電圧指令
ΔV0:過変調成分
min:()内の要素から最小値を選択する関数
Vx,Vy:補正後電圧指令
θv:位相指令。
【0095】
また、その一態様として、零相変調・セクタ切替部を備え、前記零相変調・セクタ切替部は、二相変調PWM指令、および、三相変調PWM指令、および、一相変調PWM指令を生成し、位相指令に位相進み量を加算した予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、セクタ切替区間の直後の区間に適用する補正量を生成し、前記主成分と前記補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする。
【0096】
また、他の態様として、零相変調・セクタ切替部を備え、前記6次高調波補正部は、(29)式のθvに、位相指令に位相進み量を加算した予測位相を入力して補正後予測電圧指令を求め、前記零相変調・セクタ切替部は、前記補正後予測電圧指令に基づいて生成した零相変調前の予測PWM指令を入力し、前記零相変調前の予測PWM指令に基づいて、二相変調PWM指令、および、三相変調PWM指令、および、一相変調PWM指令を生成し、前記予測位相に位相進み量を加算した2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、セクタ切替期間の直前のサンプル期間に適用する予測補正量、および、セクタ切替期間の直後のサンプル期間に適用する遅延補正量を生成し、前記主成分と前記予測補正量および前記遅延補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする。
【0097】
また、他の態様として、零相変調・セクタ切替部を備え、前記6次高調波補正部は、(29)式のθvに位相指令を入力して前記補正後電圧指令を求め、(29)式のθvに、位相指令に位相進み量を加算した予測位相を入力して補正後予測電圧指令を求め、前記零相変調・セクタ切替部は、前記補正後電圧指令に基づいて生成した零相変調前のPWM指令と前記補正後予測電圧指令に基づいて生成した零相変調前の予測PWM指令をそれぞれ入力し、前記零相変調前のPWM指令に基づいて二相変調PWM指令、および、第1三相変調PWM指令、および、第1一相変調PWM指令を生成し、前記零相変調前の予測PWM指令に基づいて第2三相変調PWM指令、および、第2一相変調PWM指令を生成し、前記予測位相に位相進み量を加算した2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時以外は前記二相変調PWM指令を主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できる場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記第1三相変調PWM指令を前記主成分とし、前記2サイクル先の予測位相による二相変調のセクタ切替時、かつ、三相変調で最小パルス幅を確保できない場合は、少なくとも三角波キャリア信号の半周期分だけ前記第1一相変調PWM指令を前記主成分とし、前記主成分に前記第1一相変調PWM指令を適用したことにより生ずる電圧の誤差成分に基づいて、前記第2三相変調PWM指令と前記第2一相変調PWM指令から算出されたセクタ切替期間の直前のサンプル期間に適用する予測補正量、および、前記第1三相変調PWM指令と前記第1一相変調PWM指令から算出されたセクタ切替期間の直後のサンプル期間に適用する遅延補正量を生成し、前記主成分と前記予測補正量および前記遅延補正量に基づいて零相変調後のPWM指令を生成し、前記零相変調後のPWM指令と三角波キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のゲート信号を生成することを特徴とする。
【0098】
また、他の態様として、前記電圧指令が飽和電圧を超過した場合に、その超過した電圧成分に基づいて判定位相幅を設定し、前記6次高調波補正部は、(24)式と(25)式と(29)式によって、前記補正後電圧指令を設定し、前記判定位相幅と位相指令と前記予測位相に基づいて、一相変調の挿入期間を設定して、その挿入期間は強制的に一相変調を選択することを特徴とする。
【0099】
【数24】
【0100】
【数25】
【0101】
【数29】
【0102】
VC:DB領域上限電圧
VMAX:OVM領域上限電圧。
【発明の効果】
【0103】
本発明によれば、電圧型インバータにおいて、電圧限界以上に出力電圧を拡大し、かつ、高調波の振幅と周波数帯域との両方を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】実施形態1における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図2】電圧飽和領域での過変調に適用する6次補正成分を示す図。
図3】6次補正成分の大きさに対する電圧ベクトルの軌跡およびPWM指令の比較図。
図4】電圧飽和領域での過変調に適用する6次補正成分を示す図。
図5】6次高調波重畳方式のベクトル移動を示す図(Vcmd=1.06、Kx6=0.06、Ky6=0.29)。
図6】6次高調波重畳方式のベクトル移動を示す図(Vcmd=1.03、Kx6=0.03、Ky6=0)。
図7】6次高調波成分と三相DC利用率の最大値との関係を示す図。
図8】実施形態1における過変調方式の動作例を示す図。
図9】実施形態2における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図10】実施形態2における過変調方式の動作例を示す図。
図11】実施形態3における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図12】実施形態3における零相変調・セクタ切替部を示す図。
図13】実施形態3におけるセクタ切り替えの遷移制御の前後補償対象の原理を示す説明図。
図14】セクタ切り替えの遷移制御の前後補償対象の原理を示す説明図(問題のある条件例)。
図15】実施形態3の零相変調・セクタ切替部の他例を示すブロック図。
図16】実施形態3における過変調方式の動作例を示す図。
図17】実施形態4におけるセクタ切替の遷移制御と前後補償対象の原理を示す説明図。
図18】実施形態4,5における過変調方式の動作例を示す図。
図19】実施形態4における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図20】実施形態4における零相変調・セクタ切替部を示す図。
図21】DB禁止帯処理の特性を示す図。
図22】実施形態4の零相変調・セクタ切替部の他例を示す図。
図23】実施形態5における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図24】実施形態5における零相変調・セクタ切替部を示す図。
図25】実施形態5における零相変調・セクタ切替の動作タイミングを示す図。
図26】DB幅と過変調限界との関係を示す図。
図27】実施形態6における電圧型インバータの制御装置を示す図。
図28】実施形態6における零相変調・セクタ切替部の拡張機能を示す図。
図29】実施形態6における2種類の過変調領域の切替方式(6次補正成分の特性)を示す図。
図30】実施形態6における2種類の過変調領域の切替タイミング例を示す図。
図31】実施形態6における零相変調・セクタ切替部の拡張機能の動作例を示す図。
図32】実施形態6における6次高調波重畳方式によるDB領域と飽和領域の組み合わせ動作例を示す図。
図33】実施形態6における6次高調波重畳方式によるDB領域と飽和領域の組み合わせ動作例を示す図。
図34】電圧型インバータの主回路構成図。
図35】電圧型インバータの電圧ベクトルを示す図。
図36】従来の電圧型インバータの制御装置を示す図。
図37】三相変調の電圧ベクトルとPWM指令を示す図。
図38】二相変調の電圧ベクトルとPWM指令を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0105】
以下、本願発明における電圧型インバータの制御装置の実施形態1~6を図1図33に基づいて詳述する。
【0106】
[実施形態1]
実施形態1~6は、図34に示す三相フルブリッジ接続されたスイッチング素子を有し、直流電圧を三相交流電圧に変換する電圧型インバータを制御対象としている。図34に示すように、直流電源DCの正極Pと負極Nの間にはスイッチング素子SWu,SWxが直列接続される。また、直流電源DCの正極Pと負極Nの間にはスイッチング素子SWv,SWyが直列接続される。また、直流電源DCの正極Pと負極Nの間にはスイッチング素子SWw,SWzが直列接続される。スイッチング素子SWu,SWxの接続点、スイッチング素子SWv,SWyの接続点、スイッチング素子SWw,SWzの接続点はU相、V相、W相として負荷装置に接続される。ここで、直流電圧をVdcとする。制御装置では、スイッチング素子SWu,SWy,SWw,SWx,SWy,SWzのゲート信号Gu,Gv,Gw,Gx,Gy,Gzを生成して電圧型インバータを制御する。
【0107】
(6次高調波を重畳した過変調方式)
実施形態1における電圧型インバータの制御装置の構成図を図1に示す。これは、従来例(図36)を拡張したものであり、電圧指令部に「6次高調波補正部100」を挿入している。「零相変調ブロック200」は図36の零相変調部5aと加算器6を備えた零相変調補正部5と同様のものである。
【0108】
6次高調波補正部100は、飽和関数部10と、減算器11と、加算器16と、「6次補正(1)部17」と、を有する。6次高調波補正部100は電圧指令Vcmdが1.0p.u.(飽和電圧VB相当)を超過するOVM領域にて動作するものである。飽和関数部10は電圧指令Vcmdを±1p.u.に制限した制限値V0を求める。減算器11は電圧指令Vcmdから制限値V0を減算して電圧指令の過変調成分ΔV0=(Vcmd-V0)を出力する。
【0109】
図1では電圧指令Vcmdは正値だけでなく負値が設定されることを考慮しており、飽和関数部10の制限値は正負対称に設定して、ΔV0も正負の値をとる。しかし説明を簡素化したいので、以降では6次高調波補正部100の動作に関連する数式やその特性を示す図(例えば図2)については正領域のみを示してある。電圧指令が負の場合は飽和レベルなどの設定値を負値に変更すればよく、図2の特性例の場合には原点に対して点対称な特性になる。この対称性を利用して、正の領域のみに限定することにした。
【0110】
「6次補正(1)部17」では、入力端子である過変調率ΔK0には過変調成分ΔV0を入力し、入力端子の位相θvには電圧指令の位相指令θvを入力し、出力端子からは6次補正成分としてKx6cとKy6sの2種類の成分を出力する。
【0111】
6次補正成分Kx6cは電圧指令Vcmdと同相のX軸成分、6次補正成分Ky6sは直交したY軸成分である。本実施形態1では(9)式のように、「6次補正(1)部17」の出力である6次補正成分Kx6c,Ky6sをそのまま補正電圧成分Vx6c,Vy6sとして利用するものである。(10)式のように補正電圧成分Vx6cは加算器16で電圧指令Vcmdと加算して補正後電圧指令Vxとする。もう一方の補正電圧成分Vy6sは(10)式のように、そのまま補正後電圧指令Vyとする。これら補正後電圧指令Vx、Vyを回転座標変換部1の入力信号とする。ここで、電圧指令のY軸成分は零であるので、加算器は省略して直接に補正電圧成分Vy6sを回転座標変換のY軸入力としている。以上が、「6次高調波補正部100」の入力と出力付近の主要な構成部である。
【0112】
【数9】
【0113】
【数10】
【0114】
「6次補正(1)部17」の内部構成は図1の下段の別枠に示してある。この中の「6次係数部12」では(11)式と(12)式にて6次補正成分の振幅値Kx6,Ky6を計算する。ここで、電圧はVBにて正規化した値を示しており、(12)式のminは最小値を選択する関数である。最小関数minの代りに、条件分けの形に変形すると(13)式と表現することもできる。
【0115】
【数11】
【0116】
【数12】
【0117】
【数13】
【0118】
6次補正成分の振幅値Kx6,Ky6から6次高調波の正弦波成分を得るために、乗算器13で位相指令θvの6倍の位相6×θvを計算しておく。(14)式に示すように、乗算器14で位相6×θvの余弦波関数cos(6×θv)に6次補正成分の振幅値Kx6を乗算して6次補正成分Kx6cを生成する。同様に、乗算器15で位相6×θvの正弦波関数sin(6×θv)に6次補正成分の振幅値Ky6を乗算して6次補正成分Ky6sを生成する。これらが「6次補正(1)部17」の出力成分である。
【0119】
【数14】
【0120】
(11)式と(12)式で示される6次係数部12の特性をグラフ化したものが図2である。図2の上段は、電圧指令Vcmdを横軸とし、飽和関数部10の出力である制限値V0を縦軸に描いてある。過変調成分ΔV0(=ΔK0)は図中の矢印で示したように、「Vcmd=VBのとき零値でありそれ以上にて(Vcmd-VB)と比例した成分」である。
【0121】
下段の横軸も電圧指令Vcmdであるが、原点をオフセットさせたΔK0(=ΔV0)も併記してある。6次補正成分の振幅値Kx6は過変調率ΔK0と比例した直線(実線)であり、もう一方の6次補正成分の振幅値Ky6は(13)式で示したような折れ点を有する2区間の関数(点線)になる。「Vcmd<VB(ΔV0<0)」のように電圧飽和していない領域では、6次高調波補正は不要なので6次補正成分の振幅値Kx6,Ky6も零にする。
【0122】
本実施形態1に適用する6次補正成分の振幅値Ky6は(12)式の値以外にも設定でき、(15)式の条件を満足する範囲でもよい。この範囲の中から、最も高調波成分が少ない条件を選択したものが(12)式や(13)式に相当する。
【0123】
【数15】
【0124】
本実施形態1の作用を示すため、図37図38と同じように、6次高調波を補正した電圧指令をαβ座標上のベクトル軌跡および三相のPWM指令として示したものが図3である。図3の特徴を示したものが表1であり、表1は6次高調波成分に対する飽和制限超過の有無の調査結果を示し、○は超過無し、×は超過発生を示す。図3では、電圧指令を表1の行要素のように3種類の電圧指令Vcmd=1.0p.u. ,1.03p.u ,1.06p.u.(Kx6=0p.u. ,0.03p.u. ,0.06p.u.)に設定し、これに組み合わせる要素として表1の列要素のようにKy6=(+0.09,0,-0.29)の3レベルに設定した。ここで6次補正成分の振幅値Ky6については、表1にて太枠で示した(12)式で指定される値だけでなくそれ以外についても調べたいので、3種類の値を強制的に設定して差異(〇と×の分布)を比較できるようにした。
【0125】
【表1】
【0126】
図4の下側の図には、表1の設定条件を3種類のマーカーで示してある。Kx6を区別できるように「〇印:Vcmd=1.0p.u.、△印:Vcmd=1.03p.u.、□印:Vcmd=1.06p.u.」のようにマーカー種類を分け、さらに組み合わせるKy6を正・零・負の3レベル(+0.09,0,-0.29)にマーカーを描いた。
【0127】
表1の各条件の特性を描画したものが図3であり、各図の上段はαβ座標上の電圧軌跡(0~90deg付近)であり、軌跡が重ならないように6次補正成分の振幅値Ky6の値によって原点をずらしてある。また下段は三相のPWM指令(0~120deg区間)であり、6次補正成分の振幅値Ky6の値により線種を変えてある。
【0128】
図3(a)はVcmd=1.0p.u.(Kx6=0)の条件であり、上段に示すようにKy6=(+0.09,0,-0.29)の3レベルの電圧軌跡全てが六角形の電圧飽和領域を超過することはない。同様に下段の三相PWM指令も1.0p.u.つまりキャリア振幅を超過しない。
【0129】
図3(b)のようにVcmd=1.03p.u.(Kx6=0.03)つまり3%の過変調状態になると、Ky6=+0.09の条件のみ電圧飽和領域やキャリア振幅を超過するが、残りのKy6=(0,-0.29)では超過していない。
【0130】
図3(c)のようにVcmd=1.06p.u.(Kx6=0.06)つまり6%の過変調の上限付近では、Ky6=(+0.09,0)の2つの条件で電圧飽和領域やキャリア振幅を超過してしまい、超過しないのはKy6=-0.29の条件だけになる。
【0131】
図3(c)のKy6=-0.29の特性に着目すると、上段の電圧ベクトルの軌跡はほとんどの期間で飽和限界である六角形の辺上を移動している。下段のPWM指令も台形状になっており、ほとんどの期間で最大相・最小相が±1に固定されている。これにより、「適切な6次高調波補正成分を重畳するとPWM指令の飽和が防止できる」ことが確認できる。
【0132】
なぜこのような特性になるのかを調べるために、「Vcmd=1.06p.u.(Vx6=0.06p.u.),Ky6=-0.29p.u.」の条件において、αβ座標における各電圧成分の挙動を時間経過として示したものが図5である。ここでは、位相指令θvを0から60degまで10degおきに設定し、各位相における補正後電圧指令Vx,Vyおよび補正電圧成分Vx6c,Vy6sを描いてある。
【0133】
電圧指令Vcmdの成分は波線で示した円上を移動し、これに重畳する補正電圧成分Vx6cとVy6sをベクトル(白抜きの矢印)で、合成した補正後電圧指令Vx,Vyの軌跡を実線で示してある。位相指令θvが0から60degまで変化すると補正電圧成分Vx6c,Vy6sは楕円軌跡上をちょうど1回転するため、この補正効果により補正後電圧指令Vx,Vyの成分は電圧飽和領域内に留まっている。
【0134】
図5(a)と図5(g)では補正電圧成分Vx6cが電圧振幅である補正後電圧指令Vxを増加させ、中間の図5(d)では逆に減少させており、これが振幅を制限する作用として働いている。さらに6次補正成分Ky6sは直交成分の補正後電圧指令Vyを正負に変化させており、図5(b)と図5(c)では位相が遅れ方向に、図5(e)と図5(f)では位相が進み方向に補正した効果が得られる。このように基本波に対して6次成分を加算すると、振幅と位相補正効果により、ちょうど飽和限界の辺上を移動させる凸凹補正が実現できることが判明した。
【0135】
同様に「Vcmd=1.03p.u.(Vx6=0.03p.u.),Vy6=0」の条件にて描いたものが図6である。ここではVy6=Vy6s=0に固定されており、補正電圧成分Vx6cのみが変化するので、楕円軌跡が単振動に変化している。そのため位相補正効果は生じていないが、もともとの過変調成分ΔV0が小さいので、補正電圧成分Vx6cによる振幅補正だけでも電圧飽和領域内に抑制できている。
【0136】
表1の条件で、飽和限界超過の有無を「〇:超過無し、×:超過有り」で示すと、6次補正成分の振幅値Kx6,Ky6の組み合わせにより、表の左下側に電圧飽和が生じない領域があることが分かった。
【0137】
「電圧飽和しない6次補正成分の振幅値Kx6(Vx6)とKy6(Vy6)の条件」について詳細に調べるために、6次補正成分の振幅値Kx6とKy6をさらに細かい刻みで設定し、図3の下段のような「二相変調におけるPWM指令の最大値」を計算して求めた。その結果を、横軸を6次補正成分の振幅値Kx6(=ΔK0)、縦軸を6次補正成分の振幅値Ky6とする空間に等高線として表示したものが図7(a)である。横軸にてKx6>0の範囲が過変調指令(Vcmd>1)の条件であるが、最大振幅≦1.0の等高線内であればPWM指令には飽和が生じない。この最大振幅=1.0の等高線を0≦Kx6≦0.06の範囲だけ抜き出して直線近似すると図7(b)の破線で示したような直線が得られ、これは元の等高線とほぼ一致している。この近似直線を6次補正成分の振幅値Kx6とKy6の特性として描いたものが図4であり、6次補正成分の振幅値Kx6に応じて6次補正成分の振幅値Ky6が斜線部の領域に位置していればPWM指令の飽和が生じない。
【0138】
図4または図7(a)において、最大振幅が1.0の等高線内(≦1.0)であればどの条件でも電圧飽和は発生しないが、できるだけ高調波成分を少なくするほうが好ましい。そこでKy6≧0の範囲では強制的にKy6=0にして、図2のような折れ点特性に修正した。これを数式したものが(12)式または(13)式である。
【0139】
(12)式の係数は上記のように図7(b)のデータから直線近似により求めているので、離散点の粗密や最小二乗法を適用した範囲などにより微小な誤差は含んでいるはずだが、図5図6の電圧ベクトル軌跡を見る限り実用的な精度は得られていることが分かる。
【0140】
本実施形態1の効果を図8に示す。これは、電圧指令Vcmdを次の3種類に設定して、αβ座標上の電圧ベクトルの軌跡と三相のPWM指令の波形として描いたものである。
(a)Vcmd=1.00p.u.(実施形態1の過変調が不要なVcmd=VBの条件)
(b)Vcmd=1.03p.u.(実施形態1の過変調を適用した場合、3%過変調)
(c)Vcmd=1.06p.u.(実施形態1の過変調を適用した場合、6%過変調、図7の直線近似限界付近)。
【0141】
各波形の左側には電圧ベクトルの軌跡(0~90deg区間)を、右側にはPWM指令の波形(0~180deg区間)と三角波キャリア信号を描いた。また、左右の関係が分かりやすいように、両図とも三角波キャリア信号の上下の頂点と同期したタイミングをマーカーで示してある。
【0142】
図8(a)では過変調の効果を比較するための基準としてVcmd=VBの条件とした。補正電圧ベクトルVabLの軌跡は電圧飽和限界に内接する円であり、零相変調後のPWM指令Kzu,Kzv,Kzwの方は二相変調のセクタ切替時の不連続量がちょうど零になるので三相とも滑らかな波形になっている。参考として、6次補正成分を重畳直後(零相変調前)のPWM指令についてU相(Ku)とW相(Kw)を波線で描いている。ここではまだ6次補正成分自体が零であるので、これらは正弦波となっている。
【0143】
図8(b)の左側は3%過変調時の補正電圧ベクトルVabLの軌跡であり、電圧指令Vcmdの円軌跡を波線で示した。6次高調波を重畳した補正電圧ベクトルVabLの軌跡は、六角形の角部で凸状に膨らみ六角形の辺中央付近では凹んで、六角形の辺上を直線的に移動するようになる。右側の零相変調後のPWM指令の方は台形状の平坦部分が広がっており、±1レベルに固定される一相変調区間が広がり、また中間相の傾きが急になっている。平坦部が広い台形状になっているので基本波電圧が拡大できており、+7次/-5次(XY座標:±6次)以外の高調波成分が無いので角部が丸まっている。
【0144】
図8(c)の6%過変調時では、補正電圧ベクトルVabLの軌跡はほぼ六角形の辺上だけを移動するようになる。また、円状のマーカーの間隔も辺中央で疎に角部で密になっており、図38で示したような位相補正効果も作用していることが分かる。右側のPWM指令も±1レベルの平坦部がほぼ120degまで拡大しており、ほとんどの区間で一相変調になっていることから、ほぼ台形変調になっている。
【0145】
(効果)
三相電圧型インバータに適用するPWM方式には、直流電源電圧による出力電圧限界が存在する。三相を基準とする直交二軸固定座標(αβ座標)系において、電圧ベクトルの出力可能な領域は六角形となる。その内接円以上の電圧を出力するために、台形変調などの過変調方式が適用されている。これは、基本波成分以外の高調波成分も許容することにより出力電圧を拡大するものである。しかし、高調波成分は銅損や鉄損の要因になるし、外部のフィルタなどで共振する危険性もある。そのため、高調波成分は振幅も周波数帯域も制限したい。
【0146】
本実施形態1では、出力限界以上の電圧指令であっても、電圧ベクトルに同期した直交二軸回転座標(XY座標)において、その同相軸と直交軸に回転位相の6次高調波の成分を重畳させる過変調方法を適用している。これにより、六角形の電圧領域を超過していた軌跡を六角形の領域内に収めるように作用し、PWM指令を飽和限界に維持したままで出力電圧を拡大できるようになる。
【0147】
本方式の特徴は次の4項目である。
(a)実施形態1の過変調方式により、出力電圧を約1.06倍まで拡大できる。
(b)含まれる高調波の周波数が2種類だけであり、それらの振幅成分も最小に設定できる。ひいては、高調波に起因する銅損や鉄損などが削減できる。
(c)含まれる高調波の周波数が回転座標の±6次(固定座標では+7/-5次)に限定でき、これより高い周波数成分を含まない。これにより、外部フィルタなどでの異常共振を避けることができ、システムの制御品質が向上できフィルタ設計なども容易になる。
(d)本方式は非同期PWMにも適用できる。同期PWMで必要だったテーブルの初期設定が不要であり、簡単な6次成分の演算だけで実装することができる。
【0148】
以上のように、本過変調方式を適用すると、高調波の振幅と周波数帯域の両方を抑制できる効果と、非同期PWMにも適用できるシステム対応性の高さ、および周辺機器の設計も容易にできる副次的な効果も得られる。
【0149】
なお、本実施形態1では図1の零相変調ブロック200で二相変調、三相変調のどちらを適用してもよい。
【0150】
[実施形態2]
(DB領域内に制限する場合の6次高調波重畳による過変調方式)
本実施形態2では、第二の課題である最小パルス幅対策のために、電圧指令の上限を電圧飽和領域よりもDB電圧余裕幅ΔVdbだけ低減させたDB電圧飽和領域に制限する場合の説明である。実施形態1と同様に6次高調波成分を重畳することにより最小パルス幅を確保しながら出力可能な電圧範囲を拡大する。
【0151】
実施形態1のOVM領域の過変調とは飽和させるレベルが異なるので、区別するために本実施形態2の方はDB領域の過変調とする。
【0152】
本実施形態2における電圧型インバータの制御装置の構成図を図9に示す。実施形態1の図1との変更点は、6次高調波補正部110における下記の2点である。
【0153】
(1)過変調の超過量を計算するために設定したリミッタ20の制限値を「VB」から「VDB=VB-ΔVdb」に変更した。減算器21は電圧指令Vcmdからリミッタ20の出力を減算し過変調成分ΔV0を算出する。これにより、過変調成分ΔV0がDB飽和電圧VDBから生じるようになる。
【0154】
(2)実施形態1(図1)の「6次補正(1)部17」および(11)式と(12)式を流用したいので、(16)式のように除算器25で補正係数Kv6を算出する。そして、除算器22で(17)式のように電圧指令VcmdからDB飽和電圧VDBを減算した過変調成分ΔV0(ΔV0=Vcmd-VDB)を補正係数Kv6で除算して電圧指令の過変調率ΔK0に変換する。
【0155】
【数16】
【0156】
【数17】
【0157】
(16)式の補正係数Kv6の範囲は、0<Kv6<1となる。6次補正成分の振幅値Kx6,Ky6は実施形態1と同じように(11)式と(12)式により求め6次高調波の余弦波、正弦波を乗算して6次補正成分Kx6c,Ky6sとする。乗算器23,24で(18)のように6次補正成分Kx6c,Ky6sに補正係数Kv6を乗算して補正電圧成分Vx6c,Vy6sに変換する。補正電圧成分Vx6c,Vy6sは実施形態1と同様に(10)式にて電圧指令に加算補正する。
【0158】
【数18】
【0159】
【数10】
【0160】
上記の「6次補正(1)部17」の前後に除算や乗算を追加した構成は、実施形態1の(11)式と(12)式を流用した形態としているが、もちろん(11)式と(12)式の内部係数に乗除算の係数を集約した形態でもよいし、乗算をcos(6×θv)やsin(6×θv)の乗算より前に移動してもよい。
【0161】
本実施形態2を適用すれば、電圧指令VcmdがDB飽和電圧VDBより大きくても、αβ座標における電圧ベクトルの軌跡をDB電圧飽和領域に制限できるので、最小パルス幅を維持しながらDB飽和電圧VDB以上まで出力電圧を拡大することができる。
【0162】
本実施形態2に流用した過変調の原理は実施形態1と同様であり、リミッタ20の制限値を飽和電圧VBからDB飽和電圧VDBに変更し、さらに6次高調波計算の入出力部に補正係数Kv6を追加しただけである。過変調の動作は実施形態1で説明しているので省略する。
【0163】
本実施形態2の効果を図10に示す。図8との変更点は、DB余裕幅として(ΔKdb=0.1p.u. ,ΔVdb=0.05p.u.)を設定したことであり、その分だけ電圧指令Vcmdも0.05p.u.だけ減少させている。
【0164】
(a)Vcmd=0.95p.u.(実施形態2の過変調が不要な電圧限界Vcmd=VDB)
(b)Vcmd=0.98p.u.(実施形態2の約3%過変調を適用した場合)
(c)Vcmd=1.01p.u.(実施形態2の約6%過変調を適用した場合、図7の直線近似の限界付近)。
【0165】
図10(a)は過変調の効果を比較するための基準波形であり、左図の電圧ベクトルの軌跡は飽和電圧VBよりもΔVdb=0.05p.u.だけ小さい円になる。右図の三相PWM指令の波形にはセクタ切替時に0.1p.u.の零相成分変化(ステップ状の不連続)が生じているが、最大相または最小相が±1レベルに固定させるかまたはKDB以下のレベルに制限されており、最小パルス幅が確保できている。
【0166】
図10(b)はVcmd=1.03×0.95p.u.≒0.98つまり過変調率ΔK0が約3%になる過変調の条件である。左側の補正電圧ベクトルVabLの軌跡はDB電圧飽和領域内に存在しており、六角形の角部分で凸補正が、辺の中間付近で凹補正が働き、円軌跡の超過部分を六角形の辺上に修正できている。
【0167】
右の三相PWM指令の方は、最大相または最小相が±1レベルに固定させる区間は同じだが、中間相の波形は1段下がった±(1-ΔKdb)レベル付近の幅が広くなり、正弦波から台形状に変化している。この台形の肩部の膨らみが出力電圧の基本波成分を増加させる。この条件では、電圧軌跡に追加したキャリア頂点時刻のマーカーの間隔はまだほぼ一定間隔である。
【0168】
図10(c)の過変調率ΔK0が約6%になる過変調の条件では、電圧ベクトル軌跡はほぼDB電圧飽和領域の六角形の辺上を移動するようになり、またキャリア頂点時刻のマーカーについても、角部で間隔が密に、辺中央部で疎になっており位相補正効果が確認できる。
【0169】
また、右のPWM指令の方も、1段下がった±(1-ΔKdb)の付近ではほぼ一定に維持されており、ほとんどの領域にて最大相と最小相は±1または±(1-ΔKdb)付近という2段レベルの台形波状になっている。これも補正成分は+7次/-5次(XY座標:±6次)だけであるので、高調波成分の実効値が少なく周波数帯域幅も狭い過変調方式になっている。
【0170】
(効果)
本実施形態2では、第二の課題である最小パルス幅対策を適用して電圧上限を抑制した場合の過変調方式である。PWM波形の最小パルス幅(PWM指令換算のDB余裕幅ΔKdb)を確保するため、電圧指令を飽和電圧よりもDB電圧余裕幅ΔVdbだけ低減したDB飽和電圧VDBに制限する対策が適用されている。この上限に対して、実施形態1と同様に、電圧指令VcmdがDB飽和電圧VDBを超過した成分に応じて、電圧指令に6次高調波成分を重畳することにより、出力可能な電圧を拡大できる。
【0171】
適用する過変調の原理は実施形態1と同じものであり、同様に下記の効果が得られる。
(a)出力電圧をDB飽和電圧VDBの約1.06倍まで拡大できる。
(b)含まれる高調波の周波数が2種類だけであり、それらの振幅成分も最小に設定できる。ひいては、高調波に起因する銅損や鉄損などが削減できる。
(c)周波数成分が±6次(固定座標では+7/-5次)に限定でき、これ以上の高い周波数成分を含まないので、電磁騒音やPWM除去フィルタなどの共振も抑制できる。
(d)本方式は非同期PWMにも適用できる。同期PWMで必要だったテーブルの初期設定が不要であり、簡単な6次成分の演算だけで実装することができる。
【0172】
また、これ以外の効果として以下の効果を有している。
【0173】
(e)最小パルス幅の制限が維持できており、細いPWMパルスが発生しないのでパルス欠けなどの異常を抑制できる。
【0174】
なお、本実施形態2では、図9の零相変調部210で二相変調が適用される。
【0175】
[実施形態3]
(二相変調方式の電圧飽和近傍でセクタ切替時に生じる狭小パルスの防止方式(1))
本実施形態3は、実施形態2に対して「二相変調のセクタ切替問題(第三の課題)」を対策するものであり、この実施形態3を図11および図12に示す。これは実施形態2と同様なDB領域の過変調に対して、セクタ切替時の最小パルス幅対策を追加したものである。セクタ切替時にてPWM指令のオフセット量が変化する際に最小パルス幅より細い狭小パルスが発生することがある。この場合に、強制的に一相変調の区間を挿入することにより、最小パルス幅を確保することが本実施形態3の要点である。
【0176】
実施形態1と実施形態2では連続系として記載したが、セクタ切替を検討するためには、PWM指令を三角波キャリア信号に同期して更新するサンプル値系として取り扱う必要がある。そこで、以降の過変調補正やPWM指令の演算を「三角波キャリア信号の上下頂点時刻をサンプル時刻とするサンプル値系(離散系)の処理」として取り扱う。このPWM指令の更新を三角波キャリア信号に同期させることはPWM方式をディジタル制御で実現する場合には一般的な方法であり、ここではキャリア半周期間Tsをサンプル周期に採用する例として示す。
【0177】
実施形態2をサンプル値系に変更するため、図11のキャリア発生部33aのように、三角波キャリア信号上下の頂点時刻でサンプル信号Intr(CPUの割込信号)を出力する機能を追加した。このサンプル信号Intrに同期して、入力指令をサンプラSivとSiwによりサンプルホールドして過変調補正やPWM指令の変換処理を行い、演算処理の時間遅れを考慮して、後段のPWM生成部(比較器8)の入力信号にも同様にサンプラSou,Sov,Sowを挿入している。
【0178】
参考として図中に点線で示した「キャリア同期制御ブロック32」は、「同期PWM方式」を実現するための追加機能例である。電圧指令の位相とキャリア割込信号を同期させるPLL(Phase Locked Loop)機能をここに実装すれば、電圧位相の逓倍周期と三角波キャリア信号の周期を同期させることができる。本実施形態3は非同期PWMを想定しているが、このような機能を追加すれば同期PWMにも変更可能であることを示しておく。
【0179】
図11では、「電圧の位相指令θv」を「周波数指令ωcmdの時間積分」により計算している。乗算器30で、周波数指令ωcmdにサンプル間隔の時間(キャリア半周期間)Tsを乗算して位相進み量Δθvに変換する。積算器31は、位相進み量Δθvをサンプル値系の「積算,z/(z-1)」により位相指令θvに変換している。6次高調波補正部120は実施形態2の6次高調波補正部110と同様である。後述するセクタ切替タイミングの判定には、変化検出時の時間遅れを考慮して、加算器34で位相指令θvに位相進み量Δθvを加算した予測位相^θvを利用する。
【0180】
それ以外の実施形態1および実施形態2との差異は、「零相変調・セクタ切替部220」内に集約されている。この「零相変調・セクタ切替部220」の内部構成を図12に示す。
【0181】
この構成の説明には要素や機能を示す用語が必要なので、その定義を兼ねて動作原理である図13を先に説明する。図13(a)は、特許文献4に示されている方式であり、二相変調のセクタ切替時にキャリア半周期間Tsだけ三相変調を挿入している。ここで問題となるのは、図中のΔT1やΔT2のように三相変調の両端のパルス幅が半減して、最小パルス幅を満足できなくなることである。実施形態2を適用しても、この問題までは対策することができない。
【0182】
そこで本実施形態3では、ΔT1やΔT2が最小パルス幅を満足できない場合には、図13(b)のように三相変調の代りに一相変調を挿入することを説明する。さらに、三角波キャリア信号の頂点と変化方向の組み合わせにも遷移制限を適用する。
【0183】
N側変調からP側変調に切り替える場合では、区間(n)の開始時刻のように三角波キャリア信号の下頂点から一相変調を開始する。この遷移制限により、(n-1→n)の下頂点では最小相がNレベル(-1)に固定され続けるのでΔT2のパルスは発生しない。(n→n+1)の上頂点でも最大相がPレベル(+1)に固定され続けるので同様にΔT1のパルスを休止させることができる。これにより、最小パルス幅を確保したセクタ切替が実現できる。この遷移条件(二相変調と一相変調の切替タイミングの制限条件)をまとめたものが表2である。
【0184】
【表2】
【0185】
ここでセクタ切替時に狭小パルスを発生させないために、PN選択信号sel_PNの生成時に、三角波キャリア信号頂点の種類による遷移条件(表2)を付加する。この遷移条件は、「P側セクタの開始または終了」は三角波キャリア信号の上頂点に限定し、「N側セクタの開始または終了」は三角波キャリア信号の下頂点に限定する。
【0186】
しかし、図13(b)の区間(n)を一相変調に変更すると、三相変調(△印と点線の波形)と一相変調(〇印と実線の波形)との誤差として、P側の誤差成分ΔKa(ΔT1相当)とN側の誤差成分ΔKc(ΔT2相当)の電圧誤差が生じてしまう。この誤差成分を次の区間(n+1)で補償したいので、図示したような遅延補正を適用する。
【0187】
N側の誤差成分ΔKcは次の区間(n+1)にて補正することは可能だが、P側の誤差成分ΔKaは既にPレベルに固定されてパルス休止状態であるため、誤差成分ΔKaを次の区間で補正することはできない。そこで、零相変調の原理を適用して誤差成分ΔKaは他の2相に対して負値を補正することで対処する。図13(b)の例では、中間相に(-ΔKa)が、最小相に(ΔKc-ΔKa)が遅延補正されている。これは、ΔT1とΔT2成分を次の区間に移動させること等価である。
【0188】
この遅延補正方法では「相電圧成分としての補正」はできないが、それでも「線間電圧成分としては誤差補正」ができており、負荷電流に生じる誤差も少なくできる。
【0189】
表2に示した遷移条件の必要性を示すため、図13とは正負が反転した三角波キャリア信号を適用した場合が図14であり、この場合は次のような問題が生じる。
【0190】
図14(a)の三相変調の場合なら、セクタ切替時のパルス幅が広くなっているので問題ない。しかし、図14(b)の一相変調を適用した場合には、挿入期間をキャリア周期の1.5倍(3×Ts)まで拡大させないとパルス休止が実現できない。また、誤差成分の遅延補正についても、図のように最大3サンプルの遅延が生じる。このように誤差量が多く補正成分にも大きな遅延時間が含まれると、正確な補正効果が得られなくなる。この問題を回避するために、表2に示した遷移条件を設定した。
【0191】
図13の「実施形態3の動作原理」を実現する構成例が、図11内の「零相変調・セクタ切替部220」の部分であり、図12にその詳細を記載している。図12内では下記のような簡略表記を使用している。
・縦長の四角形ブロックで三相成分と配列・ベクトル信号を変換する。
・配列信号は太線で引出角を45°で明示し、先頭文字を大文字、要素信号は小文字とする。
・配列同士の各要素単位での加減算を、配列信号の加減算で表現する。
・本実施形態3に必須でない要素は、点線や破線で表示する。
・遅延補償量が計算しやすいように、図12の内部では三相成分を大小順に並び替え(ソート)して取り扱っている。
【0192】
図12の入力信号である零相変調前のPWM指令Kuvw(ku,kv,kw)は、XY座標にて過変調補正を適用した電圧成分に対して回転座標と二相三相変換を適用し、さらにキャリア片振幅で正規化した成分である。この三相成分を大小並替部230にて大小順に並び替えして、最大値ka・中間値kb・最小値kcとして出力する。また、元の三相成分に戻すために必要な「ソート前後の相互変換情報」も配列Indxとして出力する。
【0193】
「二相変調部231」では最大値ka・中間値kb・最小値kcに基づいて二相変調を適用した場合の二相変調PWM指令K2abcを出力する。二相変調ではセクタごとに零相変調の方向が異なるので、PN選択信号sel_PNによりP側変調とN側変調を切り替えている。同様に「一相変調部240」と「三相変調部241」でも、それぞれPWM指令相当の一相変調PWM指令K1abcと三相変調PWM指令K3abcを出力する。
【0194】
「セクタ判定部235」では、1サンプル分だけ予測補正した予測位相^θvから60degごとの二相変調のセクタ判定信号^sectを出力する。キャリア頂点信号topbtmの方は、論理反転することにより1サンプル先の予測キャリア頂点信号^topbtmとした。
【0195】
「PN変調遷移制御部236」では、セクタ判定信号^sectの変化より「セクタ切替」を検出し、それに予測キャリア頂点信号^topbtmと表2の切り替え条件を適用して、通常動作の二相変調に使用するPN選択信号sel_PNを出力する。また、PN選択信号sel_PNの切替エッジからキャリア半周期(サンプル期間)のセクタ切替期間の間、二相変調から三相変調または一相変調に切り替えるセクタ切替信号sel_ALTを出力する。
【0196】
1サンプル分だけ予測補正していないセクタ判定信号sectと表2の遷移条件を使用してPN選択信号sel_PNやセクタ切替信号sel_ALTを生成してもよいが、表2の遷移条件が成立しない場合には1サンプル分の遅延が生じる。またセクタ切替のために1相変調を挿入する期間の遅延も考慮するとセクタ切替対策によって「最大2サンプル」の遅延が生じる。
【0197】
これを短くしたいので、予測したセクタ判定信号^sectを使用してPN選択信号sel_PNやセクタ切替信号sel_ALTを生成することにより、切り替えタイミングを1サンプル進めることにした。これにより、遷移制限とセクタ切り替え期間の合計遅延は、「最小で0サンプル」、「最大で1サンプル」に改善できる。
【0198】
「DB判定部242」ではセクタ切替時に三相変調と一相変調のどちらを出力するかを選択する選択信号sel_X1mを出力する。選択信号の判定方法については、まず「三相変調部241」の三相変調PWM指令K3abcより「(+1)-max(K3abc)」または「min(K3abc)-(-1)」を計算し、これが「最小パルス幅判定値である(2×ΔKdb)」よりも小さければ、三相変調では最小パルス幅を確保できないと判定し、「三相変調から一相変調への切替指令」として選択信号sel_X1mを出力する。ここで、図13(a)のように、三相変調との切り替え時にはΔT1とΔT2は通常の半分の幅になるので、PWM指令幅の判定値の方を2倍(2×ΔKdb)に設定してある。
【0199】
以上の3種類の零相変調方式と選択信号を組み合わせて、モード切替時に三相変調または一相変調を挿入する。通常の二相変調状態ではスイッチS1が「=0(K2abc)」側に選択されているが、遷移時にはセクタ切替信号sel_ALTにより「=1(KTabc)」側に切り替え、主成分Kzabc0として出力する。また、三相変調と一相変調の選択は、選択信号sel_X1mによりスイッチS3を「=1(K1abc)」側に切り替えて一相変調の方を選択させることによりこの作用を実現している。逆ソート関数部232は配列Indexにより大小順の主成分Kzabc0を三相順(uvw)のPWM指令の主成分Kzuvw0に変換する。
【0200】
基本的には、PWM指令の主成分Kzuvw0は、零相変調前のPWM指令KuvwにPN選択信号sel_PNにて「P側セクタ」と「N側セクタ」を切り替えた二相変調により計算する。しかし、セクタ切替期間(sel_ALT)だけは三相変調を挿入するが、三相変調を適用してもPWM波形に最初パルス幅よりも細いパルスが生じる場合には、代わりに一相変調を挿入する。
【0201】
以上が狭小パルスを防止するセクタ切替方式であり、これを適用してPWM指令成分の主成分Kzuvw0を得る。
【0202】
上記でまだ説明していない部分では、三相変調を一相変調位相に切り替えたときに生じる電圧誤差の補正を行っている。三相変調の最大振幅k3aと最小振幅k3cを(Vdc/2)で正規化したものとすると、最大相側には(1-k3a)また最小相側には(-1-k3c)の誤差が生じるので、この誤差をセクタ切替期間の次のサンプル期間で補正する。
【0203】
三相変調と一相変調の誤差を補正する成分(図13の誤差成分ΔKa、ΔKc)は減算器244により演算しているが、モード切替時以外は不要なので、「sel_ALT=0」のときはスイッチS2により零にリセットしている。減算器244は、(k3a-k1a,k3b-k1b,k3c-k1c)=(Δka,Δkb,Δkc)を算出する。
【0204】
誤差補正の加算先は遷移方向(N→P、P→N)により異なるので、P→N側補正量設定部250にて補正量ΔKcompPを、N→P側補正量設定部251では補正量ΔKcompNを誤差補正成分として計算しておく。
【0205】
図12に示すように、ΔKcompP=〔Δka-Δkc,-Δkc,0〕、ΔKcompN=〔0,-Δka,Δkc-Δka〕となる。
【0206】
ΔKcompP=〔Δka-Δkc,-Δkc,0〕=〔(k3a-k1a)-(k3c-k1c),-(k3c-k1c),0〕であるが、一相変調は最大値k1a=1、最小値k1c=-1であるため、図12ではΔKcompPは〔(k3a-1)-(1+k3c),-(1+k3c),0〕の構成で表した。
【0207】
同様に、ΔKcompN=〔0,-Δka,Δkc-Δka〕=〔0,-(k3a-k1a),(k3c-k1c)-(k3a-k1a)〕であるが、一相変調は最大値k1a=1、最小値k1c=-1であるため、〔0,(1-k3a),(k3c+1)+(1-k3a)〕の構成で表せる。
【0208】
スイッチS4にて補正量ΔKcompP,ΔKcompNからPN選択信号sel_PNに応じて遅延補正に利用する方を選択する。図13の場合はN→P側補正量設定部251の方が作用している例である。最後に、逆ソート関数部254と配列Indxにより誤差補償成分を大小順から三相順(u,v,w)の遅延補正量ΔKpostに変換する。それが次のサンプル期間で作用するように、遅延部255により遅延させてタイミングを合わせた遅延補正量ΔKpost_zを出力する。
【0209】
加算器256でPWM指令の主成分Kzuvw0に遅延補正量Δkpost_zを加算して補正してKzuvw1を出力する。このKzuvw1は、「計算のまるめ誤差」を配慮してDB禁止帯部234を介して零相変調後のPWM指令Kzuvwとして出力される。なおVDB設定などに余裕を持たせてあれば、DB禁止帯部234は省略して、Kzuvw1をそのまま零相変調後のPWM指令Kzuvwをしてもよい。
【0210】
以上が図11内の「零相変調・セクタ切替部220」の構成内容である。ここでは、原理と対応させて理解しやすくなるように少し冗長な構成としているが、実際にソフトウエアなどで実装する場合には不要な演算を省略でき、論理演算子やスイッチ類も論理合成などにより簡素化できる。
【0211】
図12では、三相変調と一相変調の誤差補正成分の計算に減算器244を使用しているが、三相変調では「P電位と最大相の差分」と「最小相とN電位との差分」は等しくさせることを利用すれば、(19)式のように平均の誤差成分ΔKwを計算してもよい。これを利用した誤差補正の構成例を図15に示す。
【0212】
【数19】
【0213】
ここで、図15ではmax(Kuvw)とmin(Kuvw)には三相変調成分を利用しているが、(19)式では最大相と最小相の差分しか利用していないので、無変調や二相変調の成分を利用してもよい。
【0214】
三相変調と一相変調の誤差成分の計算部243より誤差成分ΔKwを求める。スイッチS2Aは、セクタ切替信号sel_ALTに基づいて、三相変調ならクリアし、一相変調なら誤差成分ΔKwを出力する。スイッチS2Aがクリア状態ではない場合には、P→N側補正量設定部250Aで(20)式より補正量ΔKcompPを、N→P側補正量設定部251Aで(21)式より補正量ΔKcompNを計算する。スイッチS4によりPN選択信号sel_PNに応じた誤差補正量を選択し、最後に逆ソート関数部254により三相成分に変換して遅延補正量ΔKpostを生成する。このスイッチS4の入力までが図15の変更点である。
【0215】
【数20】
【0216】
【数21】
【0217】
その他の構成は図12図15とは等しい。これらには誤差の計算を簡素化した以外に差異はなく、それ以外は同じ動作をする。
【0218】
本実施形態3の基本原理や作用については既に前項にて説明しているので省略し、ここではその効果のみを示す。
【0219】
(作用)
本実施形態3を適用した場合の特性例が図16であり、実施形態2(図10)と比較できるように同じ条件とした。DB余裕幅も同じΔKdb=0.1p.u.に設定している。
【0220】
図16(a)のVcmd=0.95p.u.では、「(1)」で示した部分が図13(b)の「区間n」に相当する一相変調を適用した部分であり、三相変調では(2×ΔKdb)=0.2p.u.の余裕幅が確保できないので一相変調に切り替わっている。「中間相と最大相の(2)」の部分が(1)で生じた誤差成分を遅延補正する区間(n+1)であり、スイッチング可能な2相に補正されている。各相の波形には凹補正が生じているが、線間電圧成分を考えると(1)と(2)の期間の平均値については誤差が抑制されている。
【0221】
この補償動作は、左側のαβ座標の電圧軌跡で表現した方が分かりやすい。二相変調であるので、DB電圧余裕幅ΔVdb=0.05p.u.となり内側の六角形が最小パルス幅を確保できるDB電圧飽和領域になる。(1)の点は一相変調であるので凸状に修正されて電圧飽和領域の辺上に移動する。次回の遅延補正区間(2)では二相変調でかつ凹状に補正されているのでDB電圧飽和領域の内側方向に移動している。(1)と(2)のどちらも禁止帯域外であるので、最小パルス幅が確保できている。
【0222】
図16(a)の(1)および(2)の凸凹量はDB電圧飽和領域の六角形から同じ距離であり、これらの平均をとれば誤差を打ち消すことができ、元の六角形の辺に修正できることが確認できる。
【0223】
図16(b)のVcmd=0.98p.u.は、最小パルス幅を確保しながら過変調制御を適用して出力電圧を拡張した条件である。過変調率はΔK0=(0.98-0.95)/0.95≒0.03p.u.であり、右図のように中間相のDB余裕幅付近の波形が拡大して台形に近づいている。それでも、キャリア振幅に固定されていない相ではDB余裕幅ΔKdb=0.1p.u.を確保できているので、最小パルス幅対策として作用している。
【0224】
実施形態2の過変調制御では、図10(b)のようにDB電圧飽和領域の六角形の辺中央付近では辺上を移動していた。これに対して本実施形態3を適用すると、セクタ切替時に一相変調を挿入したことにより図16(b)の(1)の点に移動し、次の二相変調では誤差補正により(2)の点に移動する。やはり、二点とも図35(b)の禁止帯域を避けることができており、また元の六角形上の軌跡に対して「(1)の凸量」と「(2)の凹量」は等しいので誤差補正効果も確認できる。
【0225】
図16(c)のVcmd=1.03p.u.では、過変調率をΔK0=(1.03-0.95)/0.95≒0.06p.u.として過変調限界付近に設定したものである。右図のように中間相はDB余裕幅付近の肩部の波形が盛り上がってほぼ台形状になっているが、やはりDB余裕幅であるΔKdb=0.1p.u.を確保できおり、禁止帯域を避けることができている。左側の電圧ベクトルの軌跡も同様に、(1)と(2)の振幅方向の移動量が等しいので、2つの平均値成分は誤差補正として正常に動作している。
【0226】
以上より、最小パルス幅対策のためにDB余裕幅の禁止帯域を設定する場合でも、実施形態2の過変調方式に対してさらに本実施形態3で追加したセクタ切替方式を追加することにより、セクタ切替時を含む全動作領域で、最小パルス幅を確保できるようになった。
【0227】
このセクタ切替方式は過変調領域に限定されるものではなく、飽和電圧よりも低い電圧指令での動作にも適用でき、極小パルスが発生する場合には「一相変調を挿入した最小パルス幅対策」として作用する。
【0228】
(効果)
本実施形態3では、実施形態2を機能拡張したものであり、実施形態2に示した(a)~(e)の項目と同じ効果を有している。また、これ以外の効果として以下の(f)、(g)の効果を有している。
【0229】
(f)二相変調のセクタ切替時に狭小パルスが生じる可能性があったが、三相変調または一相変調を挿入し、さらに三角波キャリア信号に同期した遷移条件を追加したことにより、全動作領域で最小パルス幅の制限が実現できる。
【0230】
(g)強制的に一相変調を挿入したときに生じる電圧誤差についても、次の区間で補正する機能を追加したので、電圧精度も維持できる。
【0231】
[実施形態4]
(二相変調方式の電圧飽和近傍でセクタ切替時に生じる狭小パルスの防止方式(2))
実施形態3の特性例として示した図16では、電圧軌跡に(1)と(2)の凸凹の歪が生じている。この2点を平均すると誤差は抑制できるが、発生時間のズレ成分により負荷電流のPWMリプルは過渡的ではあるが増加する。そこで、電圧軌跡の凸凹の振幅をできるだけ小さくすることにより、過渡的な電流リプルを低減することが本実施形態4の目的である。
【0232】
単純に考えると、図17(b)のように、一相変調を挿入したことによる誤差のうち誤差成分ΔKaを区間(n-1)つまり過去に遡って補正することができれば、電圧軌跡も図18(a)のように、(2)と(3)とに1/2に分割して補正したことになる。こうすると、凹側の幅や補償の時間遅れが減少するので、過渡的な電流リプルの増加量も抑制できるようになる。
【0233】
しかし、過去のPWM指令を修正することは不可能であるので、入力である電圧指令を1サンプルだけ予測推定することにより、「等価的な過去の補正効果」を実現させることにする。
【0234】
予測した電圧指令より三相のPWM指令を演算するが、出力前に1サンプル遅延して時間を整合しておき、この遅延後のPWM指令に遅延を含まない現在の予測補正成分を加算すると、(3)に相当する「過去に対する予測補正」のような効果が得られる。
【0235】
実際には、予測した電圧指令から補正後PWM指令の出力までの遅延時間(ムダ時間)が増えているし、予測を適用するためには電圧指令が急変しないという近似条件も必要である。しかし、この条件が許容できれば、本実施形態4を適用することにより「セクタ切替時の過渡的な電流リプル増加量」を抑制できる。
【0236】
以降では実施形態3で適用した図18の(2)側の補正(図17(b)の誤差成分ΔKc)を「遅延補正」とし、新たな図18の(3)側の補正(図17(b)の誤差成分ΔKa)を「予測補正」と呼ぶことにする。
【0237】
本実施形態4の構成例が図19図20である。これは、実施形態3の構成例である図11図12に対して機能拡張したものである。以降では、拡張・変更した部分のみ説明する。
【0238】
図19では、1サンプルだけ予測した電圧指令を得たいので、まず6次補正(2)部17の位相指令θvの入力信号を予測位相^θvに変更する。具体的には、乗算器30で周波数指令ωcmdにサンプル時間(キャリア半周期間)Tsを乗算しておき積算器31にて位相進み量Δθvを積算することは同じだが、その位相指令θvにさらに加算器34において、位相進み量Δθvを加算して予測位相^θvを近似している。これを、「6次補正(2)部17」の位相入力や、回転座標変換部1の位相入力に置き替える。6次高調波補正部120は位相指令θvの代わりに予測位相^θvを入力している以外は実施形態3(図11)の6次高調波補正部120と同様である。
【0239】
これにより、以降の補正後予測電圧指令^Vx,^Vy、^Va,^Vbや^Vu,^Vv,^Vwおよび零相変調前の予測PWM指令^Ku,^Kv,^Kwも1サンプル先の予測量となる。本来は電圧指令Vcmdも予測値を使用するべきだが、ここでは変化が少ないものとみなして現在値≒予測値(Vcmd≒^Vcmd)の近似を適用した。
【0240】
「零相変調/セクタ切替(2)部271」では、セクタ切替タイミングの遅延を抑制するためにさらに1サンプル進んだ位相情報が必要なので、加算器35により予測位相^θvにもう一度位相進み量Δθvを加算して、2サンプル先の予測位相^^θvを計算している。これが、全体構成における変更点であり、残りの変更は「零相変調/セクタ切替(2)部271」内に適用している。
【0241】
図20に示した「零相変調/セクタ切替(2)部271」は、基本的には図12の「零相変調/セクタ切替部220」とほぼ同様な構成であるが、1サンプル先の信号も取り扱うので予測成分には先頭に「^」記号を、2サンプル先の予測成分には「^^」を付加している。例えば、入力信号「^ku,^kv,^kw」は1サンプル先の予測量であり、「^^θv」は2サンプル先の予測値である。
【0242】
それ以外の変更点としては、まず、^^topbtm信号は2回予測(反転の反転)であるのでtopbtmをそのまま使用する。
【0243】
次に、三相変調と一相変調との誤差補正成分を予測補正と遅延補正とに分離したいので、図20の補正量設定部257aでは最大相の誤差成分^Δkaのみを取り出し、補正量設定部258aでは最小相の誤差成分^Δkcのみを取り出す。これをスイッチS5aとS4aにより、セクタ切替時のPN遷移方向であるPN選択信号^sel_PNに応じて、予測補正量^ΔKcomp1と遅延補正量^ΔKcomp2を交互に入れ変えて選択する。
【0244】
セクタ切替後を示すPN選択信号^sel_PNがP側変調の場合には^Δka→^ΔKcomp1、^Δkc→^ΔKcomp2とし、N側変調のときには補償成分を入れ替え、^Δka→^ΔKcomp2、^Δkc→^ΔKcomp1とする。
【0245】
予測補正量^ΔKcomp1と遅延補正量^ΔKcomp2は、それぞれ三相成分(u,v,w)に逆変換するために逆ソート関数部252aと254aの逆ソート関数を使用して、三相の予測補正量^ΔKpreと遅延補正量^ΔKpostに変換する。この時点では、遅延補正量^ΔKpostは、実際に作用する時刻よりも2サンプル進んだ成分である。
【0246】
最後に、誤差補正の時間整合方法と加算方法を説明する。遅延補正量^ΔKpostは遅延部255により遅延補正量ΔKpostとする。加算器256aは、これを予測PWM指令の主成分である逆ソート関数部232aの出力(PWM指令)^Kzuvw0に対して加算する。そして、後段の遅延部233によって、次回のサンプル時刻にて遅延補正後のPWM指令として出力させる。遅延補正量^ΔKpostは2個の遅延を通るので、2サンプル遅延した遅延補正量ΔKpos_zとして作用する。
【0247】
加算器253は、この遅延部233の出力に、予測補正量^ΔKpreをそのまま加算することにより、あたかも過去のPWM指令を補正したように作用させる。これが図20の構成内容である。
【0248】
すなわち、^Kzuvw0を1サンプル遅延させたものを主成分Kzuvw0とし、^ΔKpostを2サンプル遅延させたものを遅延補正量ΔKpost_zとし、^ΔKpreを予測補正量とする。そして、主成分Kzuvw0に対して予測補正量^ΔKpreと遅延補正量ΔKpost_zを加算すれば、セクタ切替前後の誤差補正を適用したPWM指令Kzuvwが得られる。
【0249】
予測補正量^ΔKpreはスイッチング休止相を考慮して設定するものであり、三相成分のPWM指令Kuvwの(最大相,中相相,最小相)の順で示すと、二相変調のセクタ変化に応じて、「P側からN側に変化するとき」は一相変調PWM指令^K1abcのうち最大相を1、最小相を-1とすると(0,0,(^k3c+1))、逆に「N側からP側に変化するとき」は((^k3a-1),0,0)とする。
【0250】
遅延補正量ΔKpost_zについては、2サンプル進んだ成分^ΔKpostとして設定するものであり、これも三相成分のPWM指令Kuvwの(最大相,中相相,最小相)の順で示すと、二相変調のセクタ変化に応じて、「P側からN側に変化するとき」は((^k3a-1),0,0)、逆に「N側からP側に変化するとき」は(0,0,(^k3c+1))とする。
【0251】
図20の出力部には「DB禁止帯部234」を波線のブロックで挿入しているが、これは冗長的な保護機能である。これが無くても最小パルス幅を確保できるはずであるが、有効桁数(bit長)の少ないディジタル演算での丸め誤差などを考慮して、禁止帯域を確実に回避させるために挿入する場所を示している。この「DB禁止帯部234」の特性例は図21であり、禁止帯域内の信号を強制的に帯域外にスキップ(排他処理)させている。
【0252】
図20では、三相変調と一相変調の誤差成分の計算に減算器244aを使用しているが、(19)式で示した平均の誤差成分ΔKwを計算してもよく、これを利用した誤差補正の構成例を図22に示す。三相変調と一相変調の誤差成分の計算部243より誤差成分ΔKwを求め、三相変調ならスイッチS2bによりクリアする。スイッチS2bがクリア状態ではない場合には、補正量設定値257bで(22)式より補正量^ΔKcompPを計算し、補正量設定部258bで(23)式より補正量^ΔKcompNを計算する点が変更点である。
【0253】
【数22】
【0254】
【数23】
【0255】
その他の構成は図20図22とは等しく、また同じ動作をするのでこれらには計算を簡素化した以外に差異はない。図12のDB判定242の入力は三相変調後の成分を利用しているが、零相変調を適用する必要性はないことを示すために、図20図21では変調前の成分を使用する形態としてある。
【0256】
この動作原理については前項(図17)にて説明しているので省略し、ここでは作用の例として図18を示す。この電圧指令の設定は実施形態2(図10)や実施形態3(図16)と共通であり、DB余裕幅ΔKdb=0.1p.u.とDB電圧余裕幅ΔVdb=0.05p.u.も同じ設定である。
【0257】
図18(a)の右図に示した三相PWM指令の波形では、「区間(1)」がP側変調からN側変調に遷移するためのセクタ切替区間であり、ここに一相変調が挿入されている。三相変調から一相変調に変更したことによって生じる誤差成分のうち、最小相の誤差成分ΔKcは「区間(3)」にて、最大相の誤差成分ΔKaについては「区間(2)」にて補正している。
【0258】
図18(a)の左側に示した電圧軌跡では、誤差補正成分を(2)と(3)に分離したので、個々の凹み量は「実施形態3(図16)の区間(2)の凹み量」に比べて1/2に減少している。また、(1)の凸部が発生する前に、逆方向の(3)の凹部を追加したことにより、これらを加算した「誤差の最大振幅」も小さくできている。これにより誤差補償の時間遅れが減少するので、負荷電流に生じる過渡的なリプル成分も小さくすることができる。
【0259】
(効果)
本実施形態4では、実施形態3を機能拡張したものなので、実施形態2および実施形態3の(a)~(g)の効果を全て含んでいる。
【0260】
これ以外の効果としては、以下の(h1)の効果を有している。
【0261】
(h1)(g)の電圧補正機能を拡張して、一相変調の挿入による生じる誤差成分を2種類に分離し、セクタ切替期間の直前と直後に補正区間を分配した。これにより、誤差や補正による出力電圧の変動幅や時間遅れを小さくできる。特に、セクタ切替の直前の区間に誤差とは逆方向に1/2の補正成分を挿入できるので、セクタ切替時の誤差電圧と積算した電圧ベクトルの変動量も抑制する効果が得られる。ひいては、負荷電流の歪も抑制できる。
【0262】
[実施形態5]
(二相変調方式の電圧飽和近傍でセクタ切替時に生じる狭小パルスの防止方式(3))
実施形態4では「予測と遅延」を組み合わせることにより「過去のPWM指令への補正」を疑似的に実現した。しかし、1サンプル先の予測電圧指令からPWM指令や補正量などを演算しているため、予測に適用した近似による誤差成分と遅延によるムダ時間の影響が問題となってくる。
【0263】
セクタ切替による誤差成分である予測補正量^ΔKpreと遅延補正量ΔKpost_zのうち、予測が必須なのは予測補正量^ΔKpreだけでよい。そこで、予測した電圧指令を使用するのは「予測補正量^ΔKpre」だけに限定し、残りの「誤差補正を適用する前のPWM指令の主成分Kzuvw0」と「遅延補正量ΔKpost_z」などは、現在の電圧指令から演算するように変更する。
【0264】
こうすると、予測による誤差やムダ時間の影響は予測補正量^ΔKpreだけとなり、近似誤差の影響も軽減できる。そこで本実施形態5では、主構成は実施形態3を採用し、これに実施形態4の予測補正量^ΔKpreの演算部だけを追加する構成を説明する。
【0265】
本実施形態5の全体構成を図23に、また、この中の「零相変調・セクタ切替(3)部272」の詳細構成を図24に示す。これらは、実施形態3の構成と実施形態4の構成から、必要な部分のみ抽出して組み合わせたものである。
【0266】
図23の全体構成では、遅延補正量ΔKpost_z、主成分Kzuvw0の演算に必要な位相指令θv、および、予測補正量^ΔKpreの演算に必要な予測位相^θvとそれが波及する6次高調波補正や回転座標変換を異なる演算部に分離して、2種類の補正後電圧指令Vx,Vyと補正後予測電圧指令^Vx,^Vyを計算し、それらより零相変調前のPWM指令Ku,Kv,Kwと零相変調後の予測PWM指令^Ku,^Kv,^Kwを生成して、両方とも「零相変調・セクタ切替(3)部272」に入力している。
【0267】
6次高調波補正部120aと実施形態3の6次高調波補正部120の相違点は、6次補正(2)部17が6次補正(2)部17aに変更されており、加算器16bが追加されている点である。
【0268】
変更部分の演算量を抑制したいので、「6次補正(2)部17a」は図23の下段に示す構成にした。基本である「図9の6次高調波補正部110,図1の6次補正(1)部17」に対して、予測位相^θvによる6次高調波の生成部を追加したものである。
【0269】
変更点は、補正係数Kv6の乗算器23,24を前方向に移動して、近似すると共通になる6次補正成分の振幅値Vx6,Vy6を先に計算する。これに乗算器14,15で位相指令θvによる6次の余弦波・正弦波を乗算し、乗算器14b、15bで予測位相^θvによる6次の余弦波・正弦波を乗算し、2種類の補正電圧成分Vx6c,Vy6sと^Vx6c,^Vy6sを出力する。
【0270】
そして、実施形態3と同じように、加算器16において、電圧指令(基本波成分)Vcmdと補正電圧成分Vx6cを加算して補正後電圧指令Vxとする。補正電圧成分Vy6sについてはそのまま補正後電圧指令Vyとする。
【0271】
そして、位相指令θvに基づく回転座標変換部1aと二相三相変換部3aにおける処理および除算器4aによる正規化などにより零相変調前のPWM指令Ku,Kv,Kwを得ている。
【0272】
また、実施形態4と同じように予測成分については、加算器16bにおいて、電圧指令(基本波成分)Vcmdと補正電圧成分^Vx6cを加算して補正後予測電圧指令^Vxとする。補正電圧成分^Vy6sについてはそのまま補正後予測電圧指令^Vyとする。
【0273】
そして、位相指令^θvに基づく回転座標変換部1bと二相三相変換部3bにおける処理および除算器4bによる正規化などにより零相変調前の予測PWM指令^Ku,^Kv,^Kwを得る。
【0274】
これらの零相変調前のPWM指令Ku,Kv,Kwと予測PWM指令^Ku,^Kv,^Kwを「零相変調・セクタ切替(3)部272」に入力する。また、「零相変調・セクタ切替(3)部272」の位相入力には加算器35の出力の2サンプル先を予測した予測位相^^θvを使用するように変更した。
【0275】
次に、「零相変調・セクタ切替(3)部272」の内部構成を図24に示す。図24の構成は大別すると3つに区分できる。上段部では実施形態3の構成を流用しており、現在の零相変調前のPWM指令ku,kv,kwにより主要なセクタ切替制御を構成している。
【0276】
3種類の零相変調部(二相変調部、一相変調部、三相変調部)231,240,241と、セクタ切替制御用のスイッチS1,S3およびUVW相への相順変更により「誤差補正を適用する前のPWM指令の主成分Kzuvw0」を演算している。
【0277】
二相変調部231は、零相変調前のPWM指令Kuvwに基づいて二相変調PWM指令K2abcを出力する。一相変調部240は零相変調前のPWM指令Kuvwに基づいて第1一相変調PWM指令K1abcを出力する。三相変調部241は零相変調前のPWM指令Kuvwに基づいて第1三相変調PWM指令K3abcを出力する。
【0278】
現在のPWM指令から演算する誤差補正は遅延補正だけでよいので、三相変調と一相変調の誤差補正成分の計算用の減算器244、不要時の誤差クリア用のスイッチS2、および、補正量設定部257,258、スイッチS4にて遅延補正量ΔKcomp2を計算し、逆ソート関数部254にてUVW相順の遅延補正量ΔKpostを得る。
【0279】
図24の中段部では実施形態4(図20)の構成を流用している。補正後予測電圧指令^Vx,^Vyより求めた零相変調前の予測PWM指令^ku,^kv,^kwから、一相変調部240aは第2一相変調PWM指令^K1abcを出力し、三相変調部241aは第2三相変調PWM指令^K3abcを出力する。
【0280】
そして、三相変調と一相変調の誤差補正成分計算用の減算器244aと、不要時の誤差クリア用のスイッチS2a、予測の補正量設定部257a,258aとスイッチS5aにて予測補正量^ΔKcomp1を計算し、逆ソート関数部254aにてUVW相順の予測補正量^ΔKpreを得る。
【0281】
図24の下段部は切替タイミングの生成部であり、ここも実施形態4の構成を流用している。2サンプル先の予測位相^^θvを使用してPN選択信号^sel_PNとセクタ切替信号^sel_ALTを生成して、予測補正量^ΔKpreを演算する。
【0282】
また、上段に示したPWM指令の主成分Kzabc0や遅延補正量ΔKcomp2,ΔKpostの演算には、遅延部261でセクタ切替信号^sel_ALTを遅延させたセクタ切替信号sel_ALTと、遅延部262でPN選択信号^sel_PNを遅延させたPN選択信号sel_PNを使用する。零相変調の選択信号sel_X1mも他の信号と整合をとりたいので、中段の「DB判定部242」で生成した予測の零相変調の選択信号^sel_X1mを遅延部260で遅延させた選択信号sel_X1mを使用する。
【0283】
上段部と中段部の時刻の異なる電圧指令から演算したPWM指令や誤差補正成分は、次のように時間の整合を取って合成する。まず、遅延補正量ΔKpostを遅延部255で遅延して遅延補正量ΔKpost_zに変換する。そして、加算器256で三相PWM指令の主成分Kzuvw0に対して、遅延補正量ΔKpost_zを加算することにより1サンプル遅れて作用させる。
【0284】
一方、予測補正量^ΔKpreは遅延なしに直接に加算器253で加算する。このように補正時刻を整合させることにより、あたかもセクタ切替の直前と直後の区間に誤差成分を補正した効果が得られる。
(セクタ切替制御信号と誤差の予測補正成分)
予測セクタ切替期間(^sel_ALT)では、予測三相成分^Kuvwに対して三相変調と一相変調の2種類の零相変調を適用した予測PWM指令を得ておく。そして、三相変調を適用してもPWM波形に最小パルス幅よりも細いパルスが生じる場合には、DB判定部242より一相変調を挿入する選択信号を設定し(^sel_X1=1)、同時に誤差の予測補正量^ΔKpreを計算する。
【0285】
「予測三相成分^Kuvwに対して三相変調を適用した予測PWM指令」の最大振幅(^Ka)と最小振幅(^Kc)は(Vdc/2)で正規化したものなので、一相変調を適用したときには最大相側には(1-^k3a)、最小相側には(-1-^k3c)の誤差が生じる。誤差の予測補正量^ΔKpreは(最大相,中相相,最小相)の順で示すと、二相変調のスイッチング休止相に応じて、「P側からN側に変化するとき」は(0,0,(^k3c+1))、逆に「N側からP側に変化するとき」は((^k3a-1),0,0)に設定する。
【0286】
(PWM指令の主成分と誤差の遅延補正成分)
基本的には、PWM指令の主成分Kzuvw0は、零相変調前の三相成分Kuvwから、PN選択信号sel_PNに応じた「P側セクタ」または「N側セクタ」の二相変調により計算する。しかし、セクタ切替期間(sel_ALT=1)では、一相変調を挿入する選択信号が(sel_X1=0)のときは三相変調を挿入し、また(sel_X1=1)のときは一相変調を挿入する。
【0287】
(sel_X1=1)にて一相変調を挿入した場合には、三相変調の最大振幅(k3a)と最小振幅(k3c)を(Vdc/2)で正規化したものとすると、最大相側には(1-k3a)が、最小相側には(-1-k3c)の誤差が生じる。そこで、「前述の予測補正」では補正できていない残りの誤差成分をセクタ切替期間の次のサンプル期間で加算補正する。
【0288】
次のサンプル期間で作用する遅延補正量ΔKpostを(最大相,中相相,最小相)の順で示すと、二相変調のスイッチング休止相に応じて、「P側からN側に変化するとき」は((k3a-1),0,0)、逆に「N側からP側に変化するとき」は(0,0,(k3c+1))に設定する。
【0289】
(遅延による時間の整合と誤差補正)
PWM指令の主成分Kzuvw0と、セクタ切替に一相変調を挿入した際の予測補正量^ΔKpreおよび遅延補正量ΔKpostは、次のように作用する時間を整合しながら加算する。これらの誤差補正成分は三相成分の大小順で示したが、最終的にはU相、V相、W相に対応させて加算補正する。
【0290】
まず、遅延補正量ΔKpostを1サンプル遅延させたものをΔKpost_zとする。そして、主成分Kzuvw0に対して、予測補正量^ΔKpreと遅延補正量ΔKpost_zを加算すれば、疑似的にセクタ切替前後の誤差補正を適用したPWM指令Kzuvw1が得られる。以上が、二相変調セクタ切替対策と誤差補正成分の演算方法である。
【0291】
本実施形態5(図24)の詳細な動作タイミング例が図25である。原理的には図17に示した3種類の区間(n-1,n,n+1)で作用するが、各信号には生成時刻や作用時刻に時間のずれがあるので、その関係を示してある。
【0292】
本実施形態5とは直接には関係しないが、図25の(n-2)に、「sel_ALTとsel_PNの遷移制限」の例も追記している。2サンプル先の予測位相^^θvより「2サンプル先のセクタ信号^^sect」を予測するが、この時点では「2サンプル先のキャリア頂点情報^^topbtm(=topbtm)」との組み合わせが遷移条件を満足していないため、「^sel_ALTと^sel_PN」信号の遷移は遅延して条件が成立した次の(n-1)で更新されている。以降の説明は、この遅延後の信号により動作する。
【0293】
(a)区間(n-1)
この区間(n-1)はセクタ切替の直前であり、PWM指令の主成分Kzuvw0(n-1)はまだ切替前の二相変調の状態K2(n-1)である。そして、これに対して予測補正量^ΔKpreが作用する。
【0294】
予測補正量^ΔKpreの計算は、予測信号であるセクタ切替信号^sel_ALTとPN選択信号^sel_PNおよび選択信号^sel_X1mにより制御されている。選択信号^sel_X1mが一相変調を選択しているときには、セクタ切替信号^sel_ALTとスイッチS2aおよびPN選択信号^sel_PNとスイッチS5aにより誤差成分の予測補正量^ΔKcomp1を計算し、さらにUVW相順に変換した予測補正量^ΔKpre(n)に変換する。
【0295】
この時点では、スイッチS1やS2およびS3はセクタ切替前の二相変調を選択しており、遅延補正量ΔKpost(n-1)も零に固定されたままである。そして、二相変調であるPWM指令の主成分K2(n-1)に加算器253で予測補正量^ΔKpre(n)が加算されるので、「時刻(n)の予測補正成分」を「時刻(n-1)のPWM指令」に対して作用させる効果が得られる。
【0296】
(b)区間(n)
この区間では、区間(n-1)で生成されたセクタ切替動作の信号が遅延部260,261,262より出力され、選択信号sel_X1m,セクタ切替信号sel_ALT,PN選択信号sel_PNが有効になるので、PWM指令の主成分Kzuvw0(n)であるK1(n)は三相変調または一相変調のどちらかが選択されK3(n)として出力する。
【0297】
もし、一相変調が選択された場合には、「減算器244,スイッチS2,補正量設定部257,258およびスイッチS4」により遅延補正量ΔKcomp2を計算する。それを逆ソート関数部254でUVW相順に変換して遅延補正量ΔKpost(n)を生成し、三相変調が選択された場合には、遅延補正量ΔKpost(n)をクリアする。この時点ではまだ遅延補正は加算補正されていない。
【0298】
(c)区間(n+1)
この区間では、セクタ切替信号sel_ALTやPN選択信号sel_PNが「切替後の状態」になり、PWM指令の主成分Kzuvw0(n+1)であるK2(n+1)には「セクタ切替後の二相変調成分」が出力される。また、前回に計算した遅延補正量ΔKpost(n)が遅延部255で遅延して遅延補正量ΔKpost_z(n)として出力され、この時点で加算器256により遅延補正される。
【0299】
以上のように、選択信号と予測補正およびPWM指令の主成分と遅延補正が異なるタイミングで演算され、各補正成分にも遅延を挿入することにより、適切な時刻に作用させている。
【0300】
この構成により実施形態4とほぼ等価なセクタ切替制御が実現でき、さらに予測補正成分にしか予測電圧指令を適用していないので、ムダ時間の増加も抑制できる。本実施形態5の波形例については、電圧指令の変化が緩やかな条件では実施形態4とほぼ同じであるので省略する。
【0301】
実施形態5では、実施形態2および実施形態3から実施形態4に拡張する方法を変更したものであり、実施形態2および実施形態3の(a)~(g)の効果を全て含んでいる。
【0302】
これ以外に以下の(h2)の効果を有する。
【0303】
(h2)(g)の電圧補正機能を拡張して、一相変調の挿入により生じる誤差成分を2種類に分離し、セクタ切替期間の直前と直後に補正区間を分配した。これにより、誤差や補正による出力電圧の変動幅を小さくできる。特に、セクタ切替の直前の区間に誤差とは逆方向に1/2の補正成分を挿入できるので、セクタ切替時の誤差電圧と積算した電圧ベクトルの変動量も抑制する効果が得られる。ひいては、負荷電流の歪も抑制できる。
【0304】
さらに、一相変調による誤差成分をセクタ切替期間の直前と直後に補正区間を分配することは同じだが、セクタ切替の直前区間への補正を疑似的に実現するために、予測電圧指令を使った演算を予測補正成分のみに限定したことにより、電圧指令からPWM指令までのムダ時間を実施形態3と同じほぼ1サンプルに戻すことができる。これにより、外部のフィードバック制御を組む場合には応答特性を改善できる。
【0305】
[実施形態6]
(上限電圧を拡大するための過変調制御方式とモード切替)
実施形態3~実施形態5で示した「DB領域の過変調」では、キャリア頂点付近の禁止帯域(DB余裕幅ΔKdb)を設定しても、電圧指令の上限をVDBよりも拡大できるものである。6次高調波成分の重畳とセクタ切替対策により、PWM指令の飽和と禁止帯域の通過を避け、狭小パルスも防止している。しかし、出力電圧の拡大範囲(DB領域)はVC(≒1.06×VDB)が限界である。
【0306】
そのため、DB領域の上限電圧であるVC以上の電圧指令に対しては、実施形態1の「OVM領域の過変調」に移行する必要があるが、DB領域からOVM領域に過変調方式を切り替える際に、次のような3つの課題が生じる。
【0307】
一つ目は、OVM領域ではPWM指令がDB余裕幅ΔKdbを通過するようになるため、最小パルス幅を確保するための「禁止帯処理」が必要となる。
【0308】
二つ目は、過変調方式を切り替える際に、6次高調波成分が不連続になる問題である。図2を二種類の領域に拡張すると、図26(a)のように、DB領域上限電圧VCでOVM領域の過変調に切り替わる部分で、6次補正成分の振幅値Vx6,Vy6は不連続になる。
【0309】
三つ目は、図26(b)のようにDB電圧余裕幅ΔVdbが6%を超過している場合には「VC<VB」となり、DB領域にもOVM領域にも属さない空白区間VC~VBが生じることである。
【0310】
なお図26に示すVMAXは、OVM領域における電圧指令Vcmdの最大値(OVM領域上限電圧)である。
本実施形態6では、最初の課題である「OVM領域の禁止帯処理」と、残りの2つの課題である「DB領域とOVM領域の切り替え方法」を対策するものである。ここで示す実施形態6は、「実施形態3に対して拡張した構成例」である図27および図28を使用する。
【0311】
元となるDB領域の過変調方式としては実施形態3や実施形態4および実施形態5のどれでもよいが、最も簡単な「実施形態3」を代表の構成例とし、これに対して下記の4項目を追加した。
【0312】
(1)領域切り替えとDB領域上限電圧VCと6次高調波成分
図26の「6次補正成分の振幅値Vx6,Vy6の不連続」を対策するために、図29のような特性に変更する。6次補正成分の振幅値Vx6の方は図26(a)と同じ不連続のままである。一方、6次補正成分の振幅値Vy6については、DB領域では図26(a)と同じにしておき、OVM領域では「DB領域上限電圧VCにおける値Vy6_Lim」に固定する。
【0313】
また、図26(b)の空白区間(VC~VB)はOVM領域とみなし、図29(b)のように6次補正成分の振幅値Vx6は直線を延長した負値として取り扱う。また、6次補正成分の振幅値Vy6の方は図26(a)と同じようにVy6_Limの値に固定したままとする。これを数式表現すると(24)式と(25)式として表わせる。(25)式では、(25a)にて指令よりVy6を演算しておき、これを(26b)のVy6_Limにて上限を制限している。ここで、max()は要素から値の大きい方を選択する関数である。
【0314】
【数24】
【0315】
【数25】
【0316】
さらに、もし切替時にヒステリシス幅ΔVCのヒステリシス特性を持たせたい場合には、図29のように2つのDB領域上限電圧VCを設定する。6次補正成分の振幅値Vx6はDB領域からOVM領域に移行する場合、高い方のDB領域上限電圧VCを用いる。OVM領域からDB領域に移行する場合は、低い方のDB領域上限電圧VCを用いる。ここで、低い方のDB領域上限電圧VCは、高い方のDB領域上限電圧VCからヒステリシス幅ΔVCを減算した値となる。
また、6次補正成分の振幅値Vy6はヒステリシス幅にかかわらず、Vy6_Limを折れ点とする特性を維持する。
【0317】
図29のように「OVM領域ではVy6_Limの固定化」や「Vx6(=ΔV0)の負値を許容」などを採用した理由は、図7に示した「電圧飽和が生じない高さ1.0の等高線よりも左下の許容範囲」を維持できているからである。この範囲内であれば、高調波成分は増加するものの電圧軌跡を電圧飽和領域内に制限できる。
【0318】
もう一つの理由は、6次補正成分の振幅値Vx6とVy6の両方を連続的にはできないことであり、6次補正成分の振幅値Vy6の特性のみ連続性をもたせておき、Vx6の方は次に示すような切替タイミング(位相)の制約を付加して対応する。
【0319】
(2)6次高調波成分の切替タイミング(電圧位相)の制約
上記の図29では、図中の((2)~(3))と((5)~(6))の切替部分に「Vx6の不連続」が生じているので、切替タイミング(切替位相)に対して制約を追加する。
【0320】
図29(b)にて、(5)から(6)に切り替わるときの波形例を図30に示す。最上段は6次補正成分の振幅値Vx6にcos(6×θv)を乗算した補正電圧成分Vx6c、2段目は6次補正成分の振幅値Vy6にsin(6×θv)を乗算した補正電圧成分Vy6sであり、3段目は、補正電圧成分Vx6cとVy6sを時間積分したものである。
【0321】
図30のように、cos(6×θv)が最大値となるタイミングでDB領域からOVM領域に切り替えると、補正電圧成分Vy6s(t)の方は正弦波の零レベルで反転しているので連続波形になる。もう一方の補正電圧成分Vx6c(t)は正弦波の最大振幅のときに変化(反転)しているので不連続波形になる。しかし、3段目に示すように磁束成分(∫Vx6c(t)・dt)については、正弦波の零レベルで切り替わっており不連続は生じていない。詳細な原理説明は省略するが、このように磁束が零になるタイミングで切り替えると、「切替時に磁束の円軌跡にオフセット異常が発生すること」を防止でき、ひいては過渡的な電流リプルの急変も抑制できる。
【0322】
(3)OVM領域の過変調における簡易最小パルス幅対策
次に、OVM領域(実施形態1)の最小パルス幅対策(禁止帯処理)の対策方法を説明する。
【0323】
実施形態3~実施形態5のセクタ切替対策では、一相変調を挿入したキャリア半周期間だけ、電圧軌跡が電圧飽和領域の六角形の辺上に移動していた。しかし、実施形態1の動作例(図8(b)や図8(c))を参照すると、電圧軌跡はほとんど電圧飽和領域の境界である六角形の辺上を移動している。この比較より、実施形態1では一相変調の適用期間をもっと拡大しなければならない。
【0324】
しかし、表2で示した二相変調と一相変調との遷移条件も考慮しなくてはならず、一相変調の期間は「(N+0.5)キャリア周期(Nは0以上の整数)」という制限も存在する。また、一相変調以外では電圧軌跡が禁止帯域を通過するので、これを強制的に帯域外に移動させる禁止帯処理も必要になる。
【0325】
さらに、一相変調による誤差成分については、挿入期間が長くなるほど誤差は積算され、誤差補正までの遅延時間も大きくなるため正確な補正ができなくなる。そのため、「OVM領域の過変調の正確な電圧補正」はかなり困難であるので、本実施形態6では、電圧精度を追求せず少しの誤差は許容させて、最小パルス幅対策や一相変調の適用期間を下記のような簡単な方法で実装する。
(a)セクタ切替期間は、外部から判定位相幅Δφを設定して検出する(ΔφはΔV0に対するテーブルなどで設定)。
(b)判定位相幅Δφによる位相幅検出に対して、表2で示した遷移条件を適用して最終的な一相変調の挿入期間とする。
(c)OVM領域では、過変調時に挿入するのは一相変調のみとする(飽和電圧近傍では三相変調にはならない)。
【0326】
上記のように簡素化した構成でも、出力電圧が拡大できれば負荷機の容量や速度範囲が拡大できるという利点が得られること、また出力電流を検出したフィードバック制御などにより、電圧指令の基本波力率を制御して負荷電流を調整するシステムに拡張可能なことを考えると、本実施形態6の実用性は高いものと考える。
【0327】
(4)DB領域の過変調とOVM領域の過変調の組み合わせ構成
DB領域の実施形態3の構成例(図11)に対して、上記の3項目を適用した構成例が図27である。ここでは演算量を削減するために、DB領域とOVM領域とで共通部分はまとめてある。基本的にはDB領域の過変調の構成を採用しておき、各選択スイッチの操作信号に修正を加え、OVM領域の過変調としても機能させる構成とした。また、「零相変調・セクタ切替(2)部302」の詳細内容が図28であるが、ここでは図12に対して追加および機能拡張した部分のみを示してある。
【0328】
まず図27においては、図11の構成例に対して下記の4機能を追加した。
【0329】
(a)過変調方式の切替制御部300
ここでは、電圧指令Vcmdに応じて、DB領域とOVM領域との過変調方式切替信号sel_OVMを生成する。Vcmd>VCでsel_ovm=1,それ以外は0とする。この機能は図29に示したように、DB領域上限電圧VCやヒステリシス幅ΔVCの設定により動作する。この領域を切り替えるタイミングは、両方とも一相変調である「DB領域のセクタ切替時」に設定すればよい。
【0330】
(b)飽和位相幅部301
飽和関数部10、減算器11は実施形態1(図1)と同様であり、減算器11の出力を超過電圧成分ΔV0_ovm(=Vx6_0vm)とする。
【0331】
「飽和位相幅部301」では、OVM領域の超過電圧成分ΔV0_ovm(=Vx6_ovm)を入力として、テーブル読み出しなどにより「一相変調の判定位相幅Δφ」を出力する。判定位相幅Δφは一相変調の挿入幅である。簡単な判定位相幅Δφの設定手段としては、予め連続系の三相PWM指令を計算しておき、これに「DB禁止帯(図21)」を適用したときに出力電圧全体の誤差が少なくなる位相を収束演算により求めて、それをテーブル化しておく。
(c)飽和関数部10、減算器11,スイッチSm1
6次高調波補正部130は、実施形態3(図12)の6次高調波補正部120に対応する部分である。スイッチSm1は、Sel_OVMが0の時はVx6_db(=Kx6c×VDB/VB)を出力し、Sel_OVMが1の時はVx6_ovmを出力する。スイッチSm1の出力は加算器16に出力される。
【0332】
(d)零相変調・セクタ切替(2)部302
「零相変調・セクタ切替(2)部302」の詳細構成例は図28であり、図11の「零相変調・セクタ切替部220」の詳細構成例である図12を基本として、これにOVM領域の過変調機能を追加したものである。図28では、図12との共通部分は省略し、本実施形態6に変更するために追加・挿入した部分のみを抽出して描いてある。
【0333】
OVM領域の過変調では、図12における「スイッチS1,S2(図20図24のS2aも含む),S3」の選択信号の機能を書き換える。スイッチS1とS3を強制的に一相変調を選択させ、またS2(S2a)も強制的に誤差補正機能を休止させる。このスイッチの強制設定に使用する信号を、図28に記載した追加機能により生成している。
【0334】
「一相変調の挿入期間」を修正する信号を得るために、まず位相指令θvを6倍部313で6倍してから三角波変換部314で三角波変換する。大小比較部315で6倍のサイクルで変化する三角波と判定位相幅Δφとを大小比較して、一相変調期間の信号q_OVMを生成する。
【0335】
また、図28に示すように、後段の状態遷移制限で遅延が生じる対策を行った信号を一相変調期間の信号q_OVMとしてもよい。具体的には、予測位相^θvを6倍部310で6倍してから三角波変換部311で三角波変換する。大小比較部312で6倍のサイクルで変化する三角波と判定位相幅Δφとを大小比較する。
【0336】
大小比較部312,315の出力を論理和部316で論理和を取り、論理和部316の出力を一相変調期間の信号q_OVMとする。これにより、大小比較部315の出力に対して進み補正と期間の拡大補正も適用してある。
【0337】
この一相変調期間の信号q_OVMは、一相変調遷移制御部320において、キャリア頂点信号topbtmと表2の遷移制限に従ってキャリア頂点タイミングに同期して変化する信号selW1に整形される。さらにOVM領域でない場合には無効にしたいので、論理積部321で信号selW1と過変調方式切替信号sel_OVMと論理積(AND)をとった信号selW1mに変更している。
【0338】
スイッチS3を制御していた元の選択信号sel_X1mは、論理和部322で信号sel_W1mとの論理和(OR)として新たな選択信号sel_WX1に変更することにより、強制設定機能を追加する。スイッチS1を制御していた元のセクタ切替信号sel_ALTも、論理和部323で信号sel_W1mとの論理和(OR)として新たなセクタ切替信号sel_ALT-1に変更することにより、強制設定機能を追加する。また、電圧指令が一相変調と三相変調の境界レベルになることを懸念してOVM領域では三相変調が選択できないようにしたければ、論理積部324でスイッチS2(S2a)を制御していた元のセクタ切替信号sel_ALTと、過変調方式切替信号sel_OVMの反転成分との論理積(AND)として新たなセクタ切替信号sel_ALT-2に変更すればよい。
【0339】
以上が、実施形態3に対してOVM領域での過変調機能を組み込んだ本実施形態6の構成例である。
【0340】
実施形態3に対して、本実施形態6として機能拡張した部分の動作を説明するタイミングチャートが図31である。ここでは、上側にDB領域の過変調に関する信号、下側にOVM領域の過変調に関する信号を示してある。
【0341】
(a)DB領域の過変調の信号
1段目:電圧指令の位相情報(位相指令)θv
2,3段目:図28のセクタ判定信号sectとセクタ判定信号sectを1サンプル予測した信号^sect信号(この変化時が遷移期間)
4段目:三角波キャリア信号例(上頂点タイミング=Top,下頂点タイミング=Btm)
5段目:DB領域の過変調時における二相変調の遷移期間(セクタ切替信号sel_ALT) (図12のPN変調遷移制御部236の出力)
6段目:DB領域の過変調時における二相変調の遷移方向(PN選択信号sel_PN) (図12のPN変調遷移制御部236の出力)
(b)OVM領域の過変調の信号
7段目:位相指令θvと予測位相^θvの6倍サイクルの三角波信号(図28の三角波変換部311と314の出力であり一相変調の挿入期間生成用)
これが判定位相幅Δφ以上である期間は、強制的に一相変調に切り替える
8段目:7段目の2種類の6倍サイクルの三角波信号が判定位相幅Δφ以上である期間を検出し論理和した一相変調期間の信号q_OVM
9段目:一相変調期間の信号q_OVMにキャリア頂点種類による遷移制御(表2)を適用した信号Sel_W1m
DB領域では、上側の信号に示すように、セクタ切替信号sel_ALTにより予測位相^θvの60degごとにセクタ切替期間を生成し、二相変調のPN選択信号sel_PNにより零相変調の選択や誤差補正量の制御が行われている。
【0342】
OVM領域では、下側の信号に示すように、二種類の時間のずれた予想位相^θv,位相指令θvをTri(6×θv)により6倍サイクルの三角波に変換し、これと判定位相幅Δφと比較したのち、二個の信号の論理和により期間を拡張した一相変調期間の信号q_OVMを生成する。そして、一相変調期間の信号q_OVMに表2のキャリア頂点による遷移条件を適用すると、一相変調の挿入期間である信号sel_W1になる。
【0343】
DB領域の一相変調の挿入期間であるセクタ切替信号sel_ALTに対して、OVM領域の一相変調の挿入期間である信号sel_W1は拡大しており、これらにより図28の各スイッチに入力される信号を強制的に変更すれば、スイッチS1,S2(S2a),S3の選択機能をOVM領域の過変調に拡張できる。
【0344】
本実施形態6では、電圧指令Vcmdが飽和電圧VBを超過した場合に、その超過した電圧成分ΔV0_ovmに基づいて判定位相幅Δφを設定する。6次高調波補正部130は、前記(24)式、(25)式、(29)式によって、補正後電圧指令Vx、Vyを設定する。そして、判定位相幅Δφと位相指令θvと予測位相^θvに基づいて、一相変調の挿入期間を設定して、その挿入期間は強制的に一相変調を選択する。
【0345】
次に、本実施形態6を適用した場合の動作波形例を図32図33に示す。
【0346】
図32図29(a)にて6次補正成分の振幅値Vx6が不連続時になる両端((2)と(3))の特性を比較したものであり、図32(a)が(2)側のDB領域の過変調特性であり、図32(b)が(3)側のOVM領域の過変調特性である。これらは一相変調の挿入期間に差異があり、図32(a)ではキャリアの半周期(0.5周期)であるが、図32(b)ではキャリアの2.5周期まで拡大している。これは、左側のαβ座標の電圧軌跡では、電圧過変調領域の六角形の辺上に位置するサンプル点数が1個から5個に増えたことに相当している。図32(a)、(b)とも、三相PWM指令の波形はDB余裕幅(禁止帯域)ΔKdbを通過していないし、電圧軌跡も図35(b)に示した電圧のDB電圧余裕幅(禁止帯域)ΔVdbを避けているので、最小パルス幅は確保できている。
【0347】
図29(b)に示した「VC<VB(V6x<0)」になる条件での効果を示すため、図33ではDB余裕幅(禁止帯域の設定幅)ΔKdbを2倍(ΔKdb=0.2)に拡大した。そのためDB電圧余裕幅ΔVdbの幅も2倍(ΔVdb=0.1)に拡大している。
【0348】
図29(b)にて6次補正成分の振幅値Vx6が不連続時になる両端((5)と(6))の特性を比較しており、図33(a)が(5)側のDB領域の過変調特性であり、図33(b)が(6)側のOVM領域の過変調特性である。さらに、実施形態3の波形例(図16(c))に対しても、禁止帯域の幅を拡大した影響を調べるために、図33(c)に電圧指令をVcmd=1.01p.u.に設定した特性も示している。
【0349】
図33(a)では一相変調の挿入期間が半キャリア周期であることは変わりないが、DB余裕幅ΔKdbが広いため誤差の遅延補正による凹み量も大きくなっている。しかし、禁止帯域やPWM指令の飽和は避けることができている。
【0350】
図33(b)の方も一相変調の切替期間が三角波キャリア信号の2.5周期まで長くなっていること、禁止帯域の幅が広くなっていることには変わりないが、やはり、禁止帯域やPWM指令の飽和は避けることができている。
【0351】
図32(b)との違いは、二相変調を適用した零相変調後のPWM指令(U相)Kzuの波形は、PN固定レベルから中間相に変化する不連続幅が設定したDB余裕幅ΔKdbよりも大きくなっていることである。これは、6次補正成分の振幅値V6xが負値(V6x<0)になっていることが要因であり、6次高調波を重畳した直後の零相変調後のPWM指令(U相)Kuの波形が影響していると考えられる。それでも、禁止帯域は回避できているので、狭小パルスは回避できている。
【0352】
図33(c)では電圧指令がVcmd=1.01p.u.つまり「V6x=0.01>0」に戻るので、二相変調を適用した零相変調後のPWM指令(U相)Kzu波形の不連続幅は図33(a)と同程度のDB余裕幅ΔKdbに戻っている。
【0353】
ここには記載していないが、電圧指令をさらに約1.06×VBまで拡大すると、一相変調の挿入期間がほぼ120deg期間に拡大しほぼ台形変調のようになる。
【0354】
図32図33の結果より、本実施形態6を適用すれば、2種類の過変調方式とも、最小パルス幅は確保しながら電圧指令に相当するPWM波形を出力できており、さらに(VC<VB)の空白期間でも、波形歪は大きくなるが同様に最小パルス幅を確保したPWM波形を生成できる。
【0355】
(効果)
電圧余裕を含んだDB飽和電圧VDBに対して過変調を適用する領域では、実施形態3、実施形態4および実施形態5の過変調方式を流用するので、(a)から(h)の効果が得られる。
【0356】
さらに、実施形態1の過変調方式を組み合わせたことにより、出力電圧を飽和電圧VBの約1.06倍まで拡大することができる。
【0357】
2種類の過変調方式を切り替える場合にも、6次高調波成分の連続性を考慮した特性に変更し、さらにセクタ切替タイミングにも位相による制約を追加したことにより、切替時の負荷電流の歪を抑制でき、電圧の時間積分である磁束成分にオフセットが生じることも抑制できる。
【0358】
さらに、切替時にヒステリシス特性も組み込める構成となっているので、チャタリング対策も適用できる。
【0359】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0360】
なお、図1のKx6をVx6、ΔK0をΔV0とすると、(11)式は(26)式と表すこともできる。
【0361】
【数26】
【0362】
また、図1のKy6をVy6、ΔK0をΔV0とすると、(12)式は(27)式と表すこともできる。
【0363】
【数27】
【0364】
同様に、(15)式は(28)式と表すこともできる。
【0365】
【数28】
【0366】
また、位相指令θvの時の補正後電圧指令Vx(θv)、Vy(θv)は、(9)式、(10)式、(14)式から(29)式と表すこともできる。
【0367】
【数29】
【0368】
また、実施形態2の図9では、ΔV0はVcmd-VDBとなるため、Vx6は以下の(31)式となる。
【0369】
【数31】
【0370】
また、実施形態2のVy6は(18)式から以下の(32)式となる。
【0371】
【数32】
【0372】
また、実施形態2のVy6は以下の(33)式で算出してもよい。
【0373】
【数33】
【符号の説明】
【0374】
1…回転座標変換部
2…積分部
3…二相三相変換部
4…除算器
7…キャリア信号出力部
8…比較器
9…短絡防止期間生成部
10…飽和関数部
11…減算器
12…6次係数部
13…乗算器
14…乗算器
15…乗算器
16…加算器
17…6次補正(1)部
100…6次高調波補正部
200…零相変調ブロック
【要約】
【課題】電圧型インバータにおいて、電圧限界以上に出力電圧を拡大し、かつ、高調波の振幅と周波数帯域幅の両方を抑制する。
【解決手段】6次高調波補正部100は、電圧指令Vcmdと位相指令θvを入力し、電圧指令Vcmdが飽和電圧VBを超過するときに、6次補正成分の振幅値Vx6,Vy6を求める。この6次補正成分の振幅値Vx6,Vy6に基づいて補正後電圧指令Vx、Vyを求める。この補正後電圧指令Vx、Vyに基づいて、スイッチング素子のゲート信号Gu~Gwを生成する。
【選択図】図1
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