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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 21/02 20060101AFI20230523BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20230523BHJP
   B32B 7/04 20190101ALI20230523BHJP
   B32B 21/08 20060101ALI20230523BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230523BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230523BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230523BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20230523BHJP
【FI】
B32B21/02
B32B5/24
B32B7/04
B32B21/08
B32B27/12
B32B27/18 Z
C08J7/04 J CEP
D04H1/425
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022052766
(22)【出願日】2022-03-29
(62)【分割の表示】P 2017562543の分割
【原出願日】2017-01-13
(65)【公開番号】P2022089858
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2016008853
(32)【優先日】2016-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016066001
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-23275(JP,A)
【文献】特開2015-172119(JP,A)
【文献】特開2014-79938(JP,A)
【文献】特開2001-105537(JP,A)
【文献】特開2003-336189(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163281(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133564(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/70441(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182438(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176049(WO,A1)
【文献】特開2014-024919(JP,A)
【文献】特開2014-079938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J7/04-7/06
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を形成する工程の後に、密着助剤を含有する樹脂組成物を塗工する工程を含む積層体の製造方法であって、
前記密着助剤がイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含み、
前記繊維層の厚みが20μm以上である、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記密着助剤がイソシアネート化合物であり、
前記イソシアネート化合物の含有量は前記樹脂組成物に含まれる樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記密着助剤がイソシアネート化合物であり、
前記樹脂組成物に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維層の密度は1.0g/cm 以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層を含む複合体が開発されている。微細繊維状セルロースを含有するシートや複合体においては、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。また、繊維幅が可視光の波長より短くなることで、透明度が大きく向上することも知られている。
【0004】
微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層を含む複合体を形成する際には、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層の密着性を高めるために、各層に添加剤等を含有させることが検討されている。例えば、特許文献1では、微細繊維状セルロース含有シートにポリカルボン酸系重合体を添加することが検討されている。また、特許文献2では、微細繊維状セルロース含有シートにポリカーボネートシートを加熱融着して積層体とすることが提案されている。ここでは、予めアクリルプライマー等のプライマー処理液を含ませた微細繊維状セルロース含有シートとポリカーボネートシートを加熱融着して積層体を形成している。さらに特許文献3においては、微細繊維状セルロース含有シート中にシランカップリング剤を配合することで樹脂層と微細繊維状セルロース含有シートの密着性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-223737号公報
【文献】特開2010-023275号公報
【文献】国際公開WO2011/118360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の積層体においては、微細繊維状セルロース含有シート(繊維層)と樹脂層の密着性が十分ではなく、使用態様においてはさらなる改善が求められる場合があった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、より優れた密着性を有する微細繊維状セルロース含有シート(繊維層)と樹脂層の積層体を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層と、繊維層の一方の面に接する樹脂層を有する積層体において、樹脂層に密着助剤を含有させることにより、繊維層と樹脂層の密着性を高め得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層と、繊維層の一方の面に接する樹脂層と、を少なくとも1層ずつ有し、樹脂層は密着助剤を有する積層体。
[2] 樹脂層は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも一方を含む[1]に記載の積層体。
[3] 密着助剤はイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種である[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 密着助剤は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在している[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 密着助剤はイソシアネート化合物であり、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]密着助剤はイソシアネート化合物であり、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] 繊維層の密度は1.0g/cm以上である[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8] (a)繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を形成する工程の後に、密着助剤を含有する樹脂組成物を塗工する工程を含むか、もしくは、(b)密着助剤を含有する樹脂層を形成する工程の後に、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を塗工する工程を含む、積層体の製造方法。
[9] (a)工程を含み、密着助剤がイソシアネート化合物である[8]に記載の積層体の製造方法。
[10] (b)工程を含み、密着助剤が有機ケイ素化合物である[8]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微細繊維状セルロースを含む繊維層と、樹脂層の密着性が高められた積層体を得ることができる。本発明の積層体は、密着性に優れた積層体であるため、様々な用途に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。
図2図2は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。
図3図3は、繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。
図5図5は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。
図6図6は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(積層体)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)を含む繊維層と、繊維層の一方の面に接する樹脂層と、を少なくとも1層ずつ有する積層体に関する。本発明の積層体において、樹脂層は密着助剤を含有する。
本発明の積層体は、上記構成を有するため、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層と樹脂層の密着性に優れたものである。
【0013】
図1は、本発明の積層体の構成を説明する断面図である。図1に示されているように、本発明の積層体10は、繊維層2と樹脂層6を有する。繊維層2と樹脂層6は、いずれか一方の面で接した状態となるように積層されている。
【0014】
本発明の積層体は、繊維層2と樹脂層6を少なくとも1層ずつ有していればよいが、繊維層2を2層以上有していてもよく、樹脂層6を2層以上有するものであってもよい。例えば、図2には、樹脂層6を2層有する積層体10が図示されている。図2に示されているように、2層の樹脂層6は、繊維層2の両面に設けられていてもよい。また樹脂層6に挟まれた繊維層2が多層構成の繊維層であってもよい。
【0015】
本発明の積層体の全体厚みは、特に制限されるものではないが、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。また、積層体の全体厚みは、20mm以下であることが好ましい。積層体の厚みは用途に応じて適宜調整することが好ましい。
【0016】
積層体の繊維層の厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の厚みは、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。ここで、積層体を構成する繊維層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層体の断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。積層体に繊維層が複数層含まれている場合は、合計の繊維層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、積層体の樹脂層の厚みは10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることがよりさらに好ましく、200μm以上であることが特に好ましい。また、樹脂層の厚みは、15000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。ここで、積層体を構成する樹脂層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層体の断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。積層体に樹脂層が複数層含まれている場合は、合計の樹脂層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明の積層体において、樹脂層の厚みは繊維層の厚みの30%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましい。また、積層体が、繊維層及び樹脂層の少なくとも一方を複数有する場合、繊維層の厚さの合計に対する樹脂層の厚さの合計の比(樹脂層の厚さの合計/繊維層の厚さの合計)は、0.5以上が好ましい。繊維層の厚さの合計に対する樹脂層の厚さの合計の比を上記範囲とすることにより、積層体の機械的強度を高めることができる。
【0019】
積層体の全光線透過率は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましい。積層体の全光線透過率を上記範囲とすることにより、従来は透明なガラスが適用されていた用途に本発明の積層体を適用することが容易になる。ここで、全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0020】
積層体のヘーズは、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。ヘーズが低いほど、従来は透明なガラスが適用されていた用途に本発明の積層体を適用することが容易になる。ここで、ヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0021】
積層体の23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、2.5GPa以上であることが好ましく、5.0GPa以上であることがより好ましく、10GPa以上であることがさらに好ましい。また、積層体の23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、30GPa以下であることが好ましく、25GPa以下であることがより好ましく、20GPa以下であることがさらに好ましい。積層体の引張弾性率は、JIS P 8113に準拠して測定される値である。
【0022】
(樹脂層)
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0023】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0024】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0025】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0026】
本発明の積層体において、樹脂層は密着助剤を含有する。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
【0027】
イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物である又はまたはそれ以上の多官能イソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、NCO基中の炭素を除く炭素数が6以上20以下の芳香族ポリイソシアネート、炭素数2以上18以下の脂肪族ポリイソシアネート、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、炭素数8以上15以下のアラルキル型ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの変性物、およびこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。中でも、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、すなわちイソシアヌレートは好ましく用いられる。
【0028】
脂環式ポリイソシアネートの具体例としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
有機ケイ素化合物としては、シロキサン構造を有する化合物、または縮合によりシロキサン構造を形成する化合物を挙げることができる。例えば、シランカップリング剤、またはシランカップリング剤の縮合物を挙げることができる。シランカップリング剤としては、アルコキシシリル基以外の官能基を有するものであってもよいし、それ以外の官能基を有しないものであってもよい。アルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。本発明で用いるシランカップリング剤は、メタクリロキシ基を含有するシランカップリング剤であることが好ましい
【0030】
分子内にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、例えば、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。中でも、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンから選択される少なくとも1種は好ましく用いられる。シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を3つ以上含有するものであることが好ましい。
【0031】
シランカップリング剤においては、加水分解後にシラノール基が生成し、シラノール基の少なくとも一部は繊維層を積層した後にも存在していることが好ましい。シラノール基は親水性基であるため、樹脂層の繊維層側の面の親水性を高めることで、樹脂層と繊維層の密着性を高めることもできる。
【0032】
密着助剤は、樹脂層に均一に分散した状態で含まれていてもよい。ここで、密着助剤が樹脂層中に均一に分散した状態とは、以下の3つの領域((a)~(c))の濃度を測定して、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。
(a)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂層の繊維層側の面とは反対側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
【0033】
また、密着助剤は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。例えば、密着助剤として有機ケイ素化合物が用いられる場合、有機ケイ素化合物は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。
ここで、樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態とは、以下の領域((d)及び(e))の2つの濃度を測定して、これらの濃度に2倍以上の差がでる状態をいう。
(d)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(e)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
ここで、密着助剤の濃度は、X線電子分光装置又は赤外分光光度計によって測定される数値であり、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層体の所定の領域の断面を切り出し、当該断面を当該装置によって測定して得る値である。
【0034】
樹脂層の繊維層側の面上には、有機ケイ素化合物含有層が設けられていてもよく、このような状態も有機ケイ素化合物が樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態に含まれる。有機ケイ素化合物含有層は、有機ケイ素化合物含有塗工液を塗工することで形成された塗工層であってもよい。
なお、樹脂層の繊維層側の面上に有機ケイ素化合物含有層が設けられている場合は、上記領域(d)において、「樹脂層の繊維層側の面」は、「有機ケイ素化合物含有層の露出表面」と読み替えるものとし、「樹脂層全体の厚み」は「樹脂層と有機ケイ素化合物含有層の合計厚み」と読み替えるものとする。
【0035】
密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
密着助剤が有機ケイ素化合物である場合、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、より効果的に、繊維層と樹脂層の密着性を高めることができる。
【0036】
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.8mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。また、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、3.0mmol/g以下であることが好ましく、2.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.0mmol/g以下であることがさらに好ましく、1.5mmol/g以下であることが特に好ましい。
【0037】
樹脂層の繊維層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。中でも、表面処理は、コロナ処理及びプラズマ放電処理から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、プラズマ放電処理は真空プラズマ放電処理であることが好ましい。
【0038】
樹脂層の繊維層側の面は微細凹凸構造を形成してもよい。樹脂層の繊維層側の面が微細凹凸構造を有することにより、繊維層と樹脂層の密着性をより効果的に高めることができる。樹脂層の繊維層側の面が微細凹凸構造を有する場合、このような構造は、例えば、ブラスト加工処理、エンボス加工処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ放電処理等の処理工程により形成されることが好ましい。なお、本明細書において、微細凹凸構造とは、任意箇所に引いた長さ1mmの一本の直線上に存在する凹部の数が10個以上である構造をいう。凹部の数を測定する際には、積層体をイオン交換水中に24時間浸漬した後、樹脂層から繊維層をはく離する。その後樹脂層の繊維層側の面を触針式表面粗さ計(小坂研究所社製、サーフコーダシリーズ)で走査することにより測定ができる。凹凸のピッチがサブミクロン、ナノオーダーの極めて小さいものである場合、走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製、AFM5000II、およびAFM5100N)の観察画像から凹凸の数を測定することができる。
【0039】
樹脂層には合成樹脂以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、フィラー、顔料、染料、紫外線吸収剤等の樹脂フィルム分野で使用される公知成分が挙げられる。
【0040】
(繊維層)
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。繊維層に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、繊維層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
繊維層の密度は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.2g/cm以上であることがより好ましく、1.4g/cm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の密度は、1.7g/cm以下であることが好ましく、1.65g/cm以下であることがより好ましく、1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。積層体に繊維層が2層以上含まれている場合は、各々の繊維層の密度が上記範囲内であることが好ましい。
【0042】
繊維層の密度は、繊維層の坪量と厚さから、JIS P 8118に準拠して算出される。繊維層の坪量は、ウルトラミクロトームUC-7(JEOL社製)によって積層体の繊維層のみが残るように切削し、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。なお、繊維層が微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む場合は、繊維層の密度は、微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む密度である。
【0043】
本発明においては、繊維層は非多孔性の層である点にも特徴がある。ここで、繊維層が非多孔性であるとは、繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であることを意味する。繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であれば、繊維層に含まれる空隙率が、所定値以下に抑えられていることを意味し、多孔性のシートや層とは区別される。
また、繊維層が非多孔性であることは、空隙率が15体積%以下であることからも特徴付けられる。ここでいう繊維層の空隙率は簡易的に下記式(a)により求めるものである。
式(a):空隙率(体積%)={1-B/(M×A×t)}×100
ここで、Aは繊維層の面積(cm)、tは繊維層の厚み(cm)、Bは繊維層の質量(g)、Mはセルロースの密度である。
【0044】
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有する繊維層は高強度が得られる傾向がある。
【0045】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0046】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0047】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0048】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0049】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0050】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0051】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0052】
微細繊維状セルロースは、置換基を有するものであることが好ましく、置換基はアニオン基であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0053】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであることが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0054】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0055】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α(n=1~nの整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0056】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0057】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0058】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0059】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0060】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0061】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0062】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0063】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。
【0064】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0065】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0066】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0067】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0068】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0069】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0070】
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上2.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上2.0mmol/g以下がさらに好ましく、0.2mmol/g以上1.8mmol/g以下よりさらに好ましく、0.4mmol/g以上1.8mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上1.8mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度を適切な範囲に調整することができる。
【0071】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0072】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図3に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図3に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0073】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0074】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0075】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0077】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0078】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0079】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0080】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0081】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
【0082】
<任意成分>
繊維層には、微細繊維状セルロース以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましい。含酸素有機化合物は非繊維状であることが好ましく、このような非繊維状の含酸素有機化合物には、微細繊維状セルロースや熱可塑性樹脂繊維は含まれない。
【0083】
含酸素有機化合物は、親水性の有機化合物であることが好ましい。親水性の含酸素有機化合物は、繊維層の強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。親水性の含酸素有機化合物は、たとえばSP値が9.0以上であることが好ましい。また、親水性の含酸素有機化合物は、たとえば100mlのイオン交換水に含酸素有機化合物が1g以上溶解するものであることが好ましい。
【0084】
含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、繊維層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、グリセリン、ソルビトールが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリエチレングリコールであることがさらに好ましい。
【0085】
含酸素有機化合物は、分子量が5万以上800万以下の有機化合物高分子であることが好ましい。含酸素有機化合物の分子量は、10万以上500万以下であることも好ましいが、例えば分子量が1000未満の低分子であってもよい。
【0086】
繊維層に含まれる含酸素有機化合物の含有量は、繊維層に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。含酸素有機化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、高い透明性と強度を有する積層体を形成することができる。
【0087】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0088】
(積層体の製造方法)
本発明は、下記(a)又は(b)のいずれかの工程を含む積層体の製造方法に関するものでもある。
(a)繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む繊維層を形成する工程の後に、密着助剤を含有する樹脂組成物を塗工する工程。
(b)密着助剤を含有する樹脂層を形成する工程の後に、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を塗工する工程。
【0089】
上記(a)の工程においては、密着助剤はイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましく、イソシアネート化合物であることがより好ましい。また、上記(b)の工程においては、密着助剤はイソシアネート化合物及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましく、有機ケイ素化合物であることがより好ましい。
【0090】
上記(a)の工程は、微細繊維状セルロースを含む繊維層(以下、微細繊維状セルロース含有シートともいう)を形成する工程を含む。微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース含有スラリー)を基材上に塗工する工程又は、微細繊維状セルロース分散液を抄紙する工程を含む。中でも、微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は微細繊維状セルロース分散液を基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。
【0091】
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロース分散液を基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離することにより、シートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。塗工する微細繊維状セルロース分散液の濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0092】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、微細繊維状セルロース分散液に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0093】
塗工工程において、微細繊維状セルロース分散液の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量の微細繊維状セルロース含有シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0094】
微細繊維状セルロース分散液を塗工する塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、バーコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0095】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維状セルロース分散液を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0096】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m以上100g/m以下になるように微細繊維状セルロース分散液を塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れた繊維層が得られる。
【0097】
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、基材上に塗工した微細繊維状セルロース分散液を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0098】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0099】
乾燥後に、得られた微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維状セルロース含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維状セルロース含有シートの使用直前に微細繊維状セルロース含有シートを工程基材から剥離してもよい。
【0100】
<抄紙工程>
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、微細繊維状セルロース分散液を抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0101】
抄紙工程では、微細繊維状セルロース分散液をワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。微細繊維状セルロース分散液の濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。微細繊維状セルロース分散液を濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0102】
微細繊維状セルロース分散液からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロース分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された微細繊維状セルロース分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0103】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0104】
上記(a)の工程は、繊維層を形成する工程の後に、密着助剤を含有する樹脂組成物を塗工する工程を含む。樹脂組成物は、樹脂と、密着助剤を含有するものであればよく、さらに溶剤を含有するものであることが好ましい。樹脂組成物を塗工する塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。
塗工後は樹脂を硬化させる工程を設けることが好ましい。硬化工程では、20℃以上150℃以下なるように加熱することが好ましい。
【0105】
上記(b)の工程は、密着助剤を含有する樹脂層を形成する工程を含む。密着助剤を含有する樹脂層を形成する工程は、密着助剤希釈溶液を樹脂層に付与する工程を含むことが好ましい。この場合、密着助剤希釈溶液中には、有機ケイ素化合物が含まれていることが好ましい。
【0106】
密着助剤希釈溶液を樹脂層に付与する工程においては、樹脂層の少なくとも一方の面に密着助剤希釈溶液を塗工もしくは噴霧してもよい。密着助剤希釈溶液を付与する工程においては、樹脂層を密着助剤希釈溶液に含浸させることが好ましい。さらに、本発明においては、樹脂層を有機ケイ素化合物含有溶液に含浸させることが好ましい。
樹脂層を有機ケイ素化合物含有溶液に含浸させる場合は、有機ケイ素化合物含有溶液の濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、有機ケイ素化合物含有溶液の濃度は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。有機ケイ素化合物含有溶液の濃度を上記範囲内とすることにより、繊維層と樹脂層の密着性をより効果的に高めることができる。
【0107】
上記(b)の工程は、密着助剤を含有する樹脂層を形成する工程の後に、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース含有スラリー)を塗工する工程を含む。上記(b)の工程で形成された繊維層は塗工層である。この場合、微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度は0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度は10質量%以下であることが好ましい。
【0108】
微細繊維状セルロース分散液には、含酸素有機化合物が含有されていることが好ましい。含酸素有機化合物の含有量は、微細繊維状セルロース分散液に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0109】
微細繊維状セルロース分散液を塗工する工程において、微細繊維状セルロース分散液の粘度が低く樹脂層上で意図せず展開してしまう場合は、所定の厚み、坪量の繊維層を得るため、樹脂層上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着する繊維層の端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0110】
微細繊維状セルロース分散液を塗工する塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、バーコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0111】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維状セルロース分散液を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0112】
塗工工程においては、繊維層の仕上がり坪量が10g/m以上100g/m以下になるように微細繊維状セルロース分散液を塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れた繊維層が得られる。
【0113】
繊維層の製造工程では、樹脂層上に塗工した微細繊維状セルロース分散液を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、繊維層を拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0114】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上120℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0115】
上記(b)の工程では、樹脂層の少なくとも一方の面に表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を施すことができる。
また、上記(b)の工程では、微細凹凸構造を形成する工程を含んでもよい。微細凹凸構造を形成する工程としては、ブラスト加工処理、エンボス加工処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ放電処理等を挙げるこことができる。
【0116】
積層体の製造方法としては、上述した方法以外に、繊維層上に樹脂層を載置して熱プレスする方法も挙げられる。また、射出成形用の金型内に繊維層を設置して、当該金型内に加熱されて溶融した樹脂を射出して、繊維層に樹脂層を接合させる方法も挙げられる。
【0117】
(他の層を有する積層体)
本発明の積層体は、さらに無機膜(以下、無機層ともいう)を有していてもよい。無機層は、繊維層側に積層されてもよく、樹脂層側に積層されてもよい。また、無機層は、積層体の両側に積層されてもよい。
【0118】
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
【0119】
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0120】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0121】
無機層の厚みは、特に限定されないが、例えば、防湿性能の発現を目的とする場合は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。無機層の厚みは、透明性、フレキシブル性の観点からは、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましい。
【0122】
本発明の積層体は、密着助剤を含まない樹脂層(以下、密着助剤非含有樹脂層ともいう)をさらに有していてもよい。これにより、積層体の強度をより効果的に向上させることができる。ここで、密着助剤とは、上記に例示したものである。なお、密着助剤を含まないとは、たとえば密着助剤非含有樹脂層を構成する樹脂100質量部に対して密着助剤の含有量が0.1質量部未満である場合を指し、0.01質量部未満であることが好ましく、全く含まないことがより好ましい。
【0123】
密着助剤非含有樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。天然樹脂や合成樹脂としては、たとえば密着助剤を含む樹脂層と同様のものを採用することができる。また、密着助剤非含有樹脂層には、フィラー、顔料、染料、紫外線吸収剤等の樹脂フィルム分野で使用される公知成分がさらに含まれていてもよい。
【0124】
密着助剤非含有樹脂層の厚みは、たとえば10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることがよりさらに好ましく、200μm以上であることが特に好ましい。また、密着助剤非含有樹脂層の厚みは、たとえば15000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。なお、後述するように、密着助剤非含有樹脂層が複数層設けられる場合は、全ての密着助剤非含有樹脂層の合計の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0125】
密着助剤非含有樹脂層は、たとえば密着助剤を含む樹脂層の一方の面上であって、繊維層側の面とは反対側の面上に設けることができる。これにより、積層体全体における層間密着性を向上させつつ、積層体の強度を向上することができる。また、本実施形態においては、たとえば密着助剤非含有樹脂層の一方の面側に密着助剤を含む樹脂層と繊維層が順に積層されており、かつ密着助剤非含有樹脂層の他方の面側に密着助剤を含む樹脂層および繊維層の少なくとも一方がさらに積層されている態様を採用することも可能である。
【0126】
積層体は、密着助剤非含有樹脂層を、一層または二層以上有することができる。たとえば、繊維層の一方の面側において、密着助剤非含有樹脂層が二層以上設けられていてもよい。これらの密着助剤非含有樹脂層は、互いに接していてもよく、他の層を介して積層されていてもよい。当該他の層としては、とくに限定されないが、たとえば密着助剤を含む樹脂層、繊維層、および無機層などが挙げられる。
【0127】
図4は、本発明の積層体の構成を説明する断面図であり、密着助剤非含有樹脂層20を有する積層体10の構成を説明する断面図である。図4(a)に示す例において、積層体10は、繊維層2と、樹脂層6(密着助剤を含む樹脂層6)と、密着助剤非含有樹脂層20と、がこの順に積層されて構成されている。図4(b)に示す例においては、繊維層2の一方の面および他方の面のそれぞれに、樹脂層6と密着助剤非含有樹脂層20が順に積層されている。本実施形態においては、たとえば密着助剤非含有樹脂層20がポリカーボネート樹脂を含む場合を好ましい態様の一例としてあげることができる。
また、本実施形態においては、たとえば図4(c)に示す態様を採用することも可能である。図4(c)では、密着助剤非含有樹脂層20の一方の面および他方の面のそれぞれに、樹脂層6と繊維層2が順に積層される場合が例示されている。
【0128】
図5は、本発明の積層体の構成を説明する断面図であり、密着助剤非含有樹脂層20および密着助剤非含有樹脂層22を有する積層体10の構成を説明する断面図である。
【0129】
図5(a)に示す例において、積層体10は、繊維層2と、密着助剤を含む樹脂層6と、密着助剤非含有樹脂層22と、密着助剤非含有樹脂層20と、がこの順に積層されて構成されている。この場合、密着助剤非含有樹脂層22と密着助剤非含有樹脂層20は、互いに異なる樹脂材料により構成されていてもよく、互いに同じ樹脂材料により構成されていてもよい。本実施形態においては、たとえば密着助剤非含有樹脂層20がポリカーボネート樹脂を含み、密着助剤非含有樹脂層22がポリカーボネート樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも一方を含む場合を好ましい態様の一例として挙げることができる。
【0130】
図5(b)に示す例においては、繊維層2の一方の面および他方の面のそれぞれに、樹脂層6と密着助剤非含有樹脂層22と密着助剤非含有樹脂層20が順に積層されている。図5(b)における密着助剤非含有樹脂層20と密着助剤非含有樹脂層22の構成は、たとえば図5(a)と同様にすることが可能である。
【0131】
図6は、本発明の積層体の構成を説明する断面図であり、密着助剤非含有樹脂層20、密着助剤非含有樹脂層22および密着助剤非含有樹脂層24を有する積層体10の構成を説明する断面図である。
【0132】
図6(a)に示す例において、積層体10は、繊維層2と、密着助剤を含む樹脂層6と、密着助剤非含有樹脂層22と、密着助剤非含有樹脂層24と、密着助剤非含有樹脂層20と、がこの順に積層されて構成されている。この場合、密着助剤非含有樹脂層22と密着助剤非含有樹脂層24と密着助剤非含有樹脂層20は、三層のうちの二層以上が互いに異なる樹脂材料により構成されていてもよく、三層全てが同じ樹脂材料により構成されていてもよい。本実施形態においては、たとえば密着助剤非含有樹脂層20がポリカーボネート樹脂を含み、密着助剤非含有樹脂層22および密着助剤非含有樹脂層24がそれぞれポリカーボネート樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも一方を含む場合を好ましい態様の一例としてあげることができる。とくに密着助剤非含有樹脂層20がポリカーボネート樹脂を含み、密着助剤非含有樹脂層24がアクリル樹脂を含み密着助剤非含有樹脂層22がポリカーボネート樹脂を含む例が好ましい態様として挙げられる。
【0133】
図6(b)に示す例においては、繊維層2の一方の面および他方の面のそれぞれに、樹脂層6と密着助剤非含有樹脂層22と密着助剤非含有樹脂層24と密着助剤非含有樹脂層20が順に積層されている。図6(b)における密着助剤非含有樹脂層20と密着助剤非含有樹脂層22と密着助剤非含有樹脂層24の構成は、たとえば図6(a)と同様にすることが可能である。
【0134】
(用途)
本発明の積層体の好ましい実施形態は、透明で機械的強度が高く、ヘーズの小さい積層体である。優れた光学特性を活かす観点から、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。
【実施例
【0135】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0136】
<実施例1>
[リン酸化]
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙社製のパルプ(固形分93%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素200質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入した。このときのリン酸基の導入量は、0.98mmol/gであった。
【0137】
なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図3に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0138】
[アルカリ処理及び洗浄]
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12以上13以下になるまで少しずつ添加して、パルプ分散液を得た。その後、このパルプ分散液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0139】
[機械処理]
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ分散液とした。このパルプ分散液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製、Panda Plus 2000)を用いて処理し、セルロース分散液を得た。高圧ホモジナイザーを用いた処理においては、操作圧力1200barにてホモジナイジングチャンバーを5回通過させた。さらに、このセルロース分散液を湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液(A)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は4nmであった。
【0140】
[繊維層の形成]
微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース分散液(A)100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO-18)の0.5質量%水溶液を20質量部添加し、微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。次いで、セルロース繊維含有層(微細繊維状セルロース分散液(B)の固形分から構成される層)の仕上がり坪量が50g/mになるように微細繊維状セルロース分散液(B)を計量して、市販のアクリル板に塗工し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。以上の手順により、繊維層(セルロース繊維含有層)を得た。
【0141】
[積層化]
溶媒溶解性を高めた特殊ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製、ユピゼータ2136)15質量部、トルエン57質量部、メチルエチルケトン28質量部を混合し、樹脂組成物を得た。次いで上記樹脂組成物に密着助剤としてイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTPA-100)を2.25質量部添加して混合し、繊維層の一方の面に、バーコーターにて塗布した。さらに100℃で1時間加熱して硬化させ、樹脂層を形成した。次いで、繊維層の反対側の面にも同様の手順で樹脂層を形成した。上記の手順により、繊維層(セルロース繊維含有層)の両面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0142】
<実施例2>
実施例1において、樹脂組成物におけるイソシアネート化合物の添加量を3質量部とした以外は実施例1と同様にし、繊維層の両面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0143】
<実施例3>
実施例1において、樹脂層の積層の際、イソシアネート化合物の添加量を5.25質量部とした以外は実施例1と同様にし、繊維層の両面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0144】
<実施例4>
[樹脂層への密着助剤処理]
密着助剤として、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)であるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、SILQUEST A-174 SILANE)を、濃度が0.5質量%となるようにエタノールで希釈し、密着助剤希釈溶液を得た。次いで、樹脂層としてポリカーボネートフィルム(帝人社製、パンライトPC-2151:厚み300μm)を寸法210mm×297mmに切り出し、上記密着助剤希釈溶液に浸漬させた。次いで、ポリカーボネートフィルムを引き上げ、上端をダブルクリップで挟んで恒温乾燥機内に吊るし、100℃で15分間の加熱処理を行った。さらに、120℃で3時間の加熱処理を行った。上記の処理により、密着助剤を含有する樹脂層を得た。
【0145】
[積層化]
繊維層の仕上がり坪量が50g/mになるように、実施例1で得られた微細繊維状セルロース分散液(B)を計量して、上記表面処理樹脂層に塗工し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるよう樹脂層上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。以上の手順により、繊維層の片面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0146】
<実施例5>
実施例4の樹脂層への密着助剤処理において、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの濃度が5.0%となるようにエタノールで希釈した以外は実施例4と同様にし、繊維層の片面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0147】
<実施例6>
実施例5の樹脂層への密着助剤処理において、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの代わりにメタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、SILQUEST Y-9936 SILANE)を使用した以外は実施例5と同様にし、繊維層の片面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0148】
<実施例7>
実施例5の樹脂層への密着助剤処理において、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの代わりに1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、TSL9706)を用いた以外は実施例5と同様にし、繊維層の片面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0149】
<比較例1>
実施例1において、密着助剤としてのイソシアネート化合物を添加しなかった。その他の手順は実施例1と同様にし、繊維層の両面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0150】
<比較例2>
実施例4において、樹脂層への密着助剤処理を行わなかった。その他の手順は実施例1と同様にし、繊維層の片面に樹脂層が積層された積層体を得た。
【0151】
<測定>
実施例及び比較例で得た積層体を以下の方法にて評価した。
【0152】
[積層体の厚み]
積層体の厚みを触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定した。
【0153】
[繊維層(セルロース繊維含有層)の厚み]
実施例1~3及び比較例1では、積層化を行う前の繊維層の厚みを触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定し、積層体中の繊維層の厚みとした。実施例4~7及び比較例2では、積層体の厚みから、後述する方法で測定した樹脂層の厚みを減じることで、積層体中の繊維層の厚みを算出した。
【0154】
[樹脂層の厚み]
実施例1~3及び比較例1では、積層体の厚みから、上述する方法で測定した繊維層の厚みを減じることで、積層体中の樹脂層の厚みを算出した。実施例4~7及び比較例2では、積層化を行う前の表面処理樹脂層の厚みを触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定し、積層体中の樹脂層の厚みとした。
【0155】
[繊維層(セルロース繊維含有層)の密度]
繊維層の坪量(50g/m)を繊維層の厚みで除し、繊維層の密度とした。
【0156】
<評価>
実施例及び比較例で得た積層体を以下の方法にて評価した。
【0157】
[繊維層と樹脂層の密着性]
JIS K 5400に準拠し、実施例1~3及び比較例1の積層体では樹脂層に、実施例4~7及び較例2では繊維層に、1mmのクロスカットを100個入れた。次いで、セロハンテープ(ニチバン社製)をその上に貼り付け、1.5kg/cmの荷重で押し付けた後、90°方向にはく離した。はく離したマス数により、繊維層と樹脂層の密着性を評価した。
【0158】
[積層体の全光線透過率]
JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて積層体の全光線透過率を評価した。
【0159】
[積層体のヘーズ]
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて積層体のヘーズを評価した。
【0160】
【表1】
【0161】
表1から明らかなように、樹脂層に密着助剤の添加、もしくは密着助剤での処理を行った実施例では、透明性を維持したまま、繊維層と樹脂層の密着性が良好な積層体が得られた。一方で、樹脂層に密着助剤の添加、もしくは密着助剤での処理を行わなかった比較例では、透明性は維持していたものの、繊維層と樹脂層の密着性が不良であり、実用上の問題が懸念される結果となった。
【0162】
<実施例8(多層積層体の製造例1)>
実施例4~7のいずれかで得られた積層体を用い、下記の手順で繊維層の両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
実施例4~7のいずれかで得られた積層体を2枚用意し、各々の繊維層に、バーコーターにて水を塗工する。次いで、2枚の積層体の繊維層面を貼り合わせ、一方の積層体の樹脂層側からゴムローラーを押し当てて加圧する。さらに、貼り合わせた積層体を恒温乾燥機にて100℃で1時間乾燥することで、繊維層の両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
【0163】
<実施例9(多層積層体の製造例2)>
実施例4~7のいずれかで得られた積層体を用い、下記の手順で繊維層の両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
実施例4~7のいずれかで得られた積層体を2枚用意し、各々の繊維層に、UV硬化型アクリル接着剤(アイカ工業社製、Z-587)をバーコーターにて塗工する。次いで、2枚の積層体の繊維層面を貼り合わせ、一方の積層体の樹脂層側からゴムローラーを押し当てて加圧する。さらに、貼り合わせた積層体の樹脂層側から、UVコンベア装置(アイグラフィックス社製、ECS-4011GX)を用いて500mJ/cmの紫外線を3回照射して、UV硬化型アクリル接着剤を硬化することで、繊維層の両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
【0164】
<実施例10(多層積層体の製造例3)>
実施例4~7のいずれかで得られた積層体を用い、下記の手順で両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
まず、アクリロイル基がグラフト重合したアクリル樹脂(大成ファインケミカル社製、アクリット8KX-012C)100質量部と、ポリイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、TPA-100)38質量部を混合して樹脂組成物を得る。次いで上記樹脂組成物を、積層体のセルロース繊維含有層に、バーコーターにて塗布する。さらに、100℃で1時間加熱して硬化させることで、繊維層の両面に樹脂層が積層された多層積層体が得られる。
【0165】
<実施例11(無機膜積層体の製造例1)>
実施例1~7のいずれかで得られた積層体又は実施例8~10のいずれかで得られた多層積層体に対し、原子層堆積装置(Picosun社製「SUNALE R-100B」)で、酸化アルミニウム成膜を行う。アルミニウム原料として、トリメチルアルミニウム(TMA)、TMAの酸化にはHOを用いる。チャンバー温度を150℃に設定し、TMAのパルス時間を0.1秒、パージ時間を4秒とし、HOのパルス時間を0.1秒、パージ時間を4秒とする。このサイクルを405サイクル繰り返すことで、積層体の両面に膜厚30nmの酸化アルミニウム膜が積層された無機膜積層体が得られる。
【0166】
<実施例12(無機膜積層体の製造例2)>
実施例1~6のいずれかで得られた積層体又は実施例7~9のいずれかで得られた多層積層体に対し、プラズマCVD装置(セルバック社製「ICP-CVDロールtoロール装置」)でシリコン酸窒化膜を成膜する。具体的には、キャリアフィルム(PETフィルム)の上面に、積層体又は多層積層体を両面テープで貼合して真空チャンバー内に設置する。真空チャンバー内の温度は50℃に設定し、流入ガスはシラン、アンモニア、酸素、窒素とする。プラズマ放電を発生させて45分間の成膜を行い、積層体の片面に膜厚500nmのシリコン酸窒化膜が積層された無機膜積層体を得る。さらに、反対側の面にも同様の手順で成膜を行うことで、積層体の両面に膜厚500nmのシリコン酸窒化膜が積層された無機膜積層体を得ることもできる。
【符号の説明】
【0167】
2 繊維層
6 樹脂層
10 積層体
20 密着助剤非含有樹脂層
22 密着助剤非含有樹脂層
24 密着助剤非含有樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6