(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】細胞または細胞核の豊富化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20230523BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230523BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20230523BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20230523BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230523BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230523BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20230523BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N5/071
C12N5/078
C12N5/09
C12Q1/02
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2022562104
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2022022101
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021159878
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 七月
(72)【発明者】
【氏名】中辻 匡俊
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/168085(WO,A1)
【文献】特開昭63-252251(JP,A)
【文献】特表2020-511636(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得る方法であって、
前記組織片を、ラミンを分解しない加水分解酵素で処理し、水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理により、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を得、
前記粒子群を光学的に分析して得られる前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の光学的特性に基づいて、又は前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の物理学的特性に基づいて、前記目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する、方法。
【請求項2】
前記加水分解酵素が、トロンビン、プロリンエンドペプチターゼ、またはヒアルロニダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水流破砕は、破砕部材の回転数が6000~13000rpmで行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記超音波破砕は、振幅が20~40%で行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記超音波破砕は、30秒~3分間行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記目的とする細胞は、腫瘍細胞、リンパ球、または非癌部組織由来の正常細胞である、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記組織片は、固定化剤で固定されている、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記固定された組織片は、包埋剤で包埋されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記前処理の前に、前記組織片から前記包埋剤を除去し、前記組織片を親水化する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前処理の前に、熱処理により前記固定により生じた架橋構造を除去することを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
前記前処理により得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析し、前記分析で得られたスキャッタグラムにおける前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、前記目的とする細胞または細胞核が豊富な粒子群を選別または分取する、請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
既知の複数の細胞種をフローサイトメトリーにより分析し、各細胞種に由来する細胞核につき前方散乱(FSC)強度または側方散乱(SSC)強度と粒子数のヒストグラム、或いは前方散乱(FSC)強度および側方散乱(SSC)強度のスキャッタグラムを作成して、前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、個々の細胞種の核について、他の細胞種の核に対して優位な数存在している範囲または領域を決定しておき、
次いで、前記前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定して、同様にヒストグラムまたはスキャッタグラムを作成し、当該ヒストグラムまたはスキャッタグラム中、目的とする細胞核と同種の細胞核について予め決定しておいた範囲または領域に存在する粒子群を選別または分取する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
既知の異なる粒径を有する標準粒子を、フローサイトメトリーで分析し、得られた前方散乱(FSC)強度と標準物質の粒径とで検量線を作成し、
前記前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定し、得られた前方散乱(FSC)強度をこの検量線と照合することにより粒径を算出し、
所定の粒径を持つ粒子群を選別または分取する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
10μm以上の粒径を持つ粒子群で構成され、11μm~20μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域を選択して、腫瘍細胞に由来する粒子が豊富化されている粒子群を選別または分取する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
8μm以下の粒径を持つ粒子群で構成され、4μm~7μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域を選択して、リンパ球に由来する粒子が豊富化されている粒子群を選別または分取する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15の何れか1項に記載の方法によって得られた、目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を用いて、前記細胞または細胞核に存在するバイオマーカーを分析する方法。
【請求項17】
前記目的とする細胞は腫瘍細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バイオマーカーは、ポリヌクレオチド、核内タンパク質、核膜タンパク質、又は細胞骨格タンパク質である、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドは、がん関連遺伝子を含み、前記核内タンパク質は、転写因子、又は細胞周期関連タンパク質を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項11~15の何れか1項に記載の方法によって、前記組織片から腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化された試料を得(腫瘍細胞核豊富化試料)、
同じ組織片または正常組織片から、腫瘍細胞またはその細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する工程を行わない以外は同様にして、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化されていない試料を得(腫瘍細胞核非豊富化試料または正常試料)、
各試料について、粒子数とDNA量のヒストグラムを作成して、粒子数が最も多いDNA量を特定し、以下の式によりDNA indexを決定する方法。
DNA index=腫瘍細胞核豊富化試料における粒子数が最も多いDNA量/腫瘍細胞核非豊富化試料または正常細胞試料における粒子数が最も多いDNA量
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得る方法および当該方法によって得られた試料を利用してバイオマーカーを分析する方法、ならびにこれらの方法を実施するためのキット、システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非常に多くのバイオマーカーが各種診断に利用されているが、これらバイオマーカーを分析するための主要な検体の1つは、患者から採取される組織である。特に、FFPE組織片は、免疫組織化学(IHC)法で国際的に広く用いられ、最近では、組織片からDNA等の目的とする成分を抽出して各種分析に用いるようになっている。
他方、組織片から目的とする成分を抽出して分析を行う際の問題の1つは、採取した組織中に必ずしも目的とする細胞またはマーカーが豊富に含まれているとは限らず、標的マーカーの検出感度、または検出率が十分に得られない場合があるということである。例えば、癌関連遺伝子でもFFPE組織片からDNA等のポリヌクレオチドを抽出して定量分析が行われているが、適切な分析を行う条件として、組織が腫瘍細胞を20%以上含むことが推奨されている(非特許文献4)。しかしながら、このような条件を満たすことは実務上必ずしも容易ではない。
従って、組織から調製した試料を用いて各種バイオマーカーの分析を行うために、目的とする細胞またはマーカーが豊富化された試料を簡易且つ確実に得ることができれば便利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-315862号
【文献】特開2014-1949号公報
【文献】特開2019-207201号公報
【文献】WO2010/041423
【文献】特開2009-63508
【文献】特開2009-122115
【文献】特表2009-537822
【文献】WO2018/203568
【文献】特開2015-190922
【文献】WO2019/168085
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mei-Yin C Polley, et al. An international Ki67 reproducibility study. J Natl Cancer Inst. 2013 Dec 18;105(24):1897-906.
【文献】https://www.bc-cytometry.com/FCM/whats_cytometry-5.html
【文献】Leers MP, et al. Multi-parameter flow cytometric analysis with detection of the Ki67-Ag in paraffin embedded mammary carcinomas. Cytometry. 1997 Mar 1;27(3):283-9.
【文献】一般社団法人 日本病理学会ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程
【文献】Atsuko Kitano et al. Tumour-infiltrating lymphocytes are correlated with higher expression levels of PD-1 and PD-L1 in early breast cancer. ESMO Open. 2017 May 2;2(2):e000150.
【文献】Hiroki Kusama et al. Prognostic value of tumor cell DNA content determined by flow cytometry using formalin-fixed paraffin-embedded breast cancer tissues. Breast Cancer Res Treat (2019) 176:75-85
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このようなニーズに鑑み、組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得ることができる方法を提供する。また、この方法で得られた試料を用いることで検出率等が改善されたバイオマーカーの分析方法を提供する。また、本発明は、これらの方法を実施するためのキット、装置、およびプログラムも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために、採取した組織を細胞レベルに破砕し、得られた細胞または細胞核を含む粒子群から、目的とする細胞または細胞核を分別して濃縮することを試みた。この試みにおいて組織を破砕する前処理の条件を種々検討したところ、特定の前処理で組織を破砕することが、目的とする細胞または細胞核を分別するために必要であることを見出した。また、特定の条件で特定の前処理で得られた細胞を、バイオマーカーを用いずに、分別された細胞または細胞核の光学的特性または物理学的特性により、特定の細胞を他の細胞から分別し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものであり、以下の方法、キット、装置、およびプログラムを提供する。
【0007】
[1]組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得る方法であって、
前記組織片を、水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理により、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を得、
前記粒子群を光学的に分析して得られる前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の光学的特性に基づいて、又は前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の物理学的特性に基づいて、前記目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する、方法。
[2]前記前処理は、細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しない加水分解酵素で処理することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[3]前記加水分解酵素は、ラミンを分解しない酵素である、[2]に記載の方法。
[4]前記加水分解酵素が、トロンビン、プロリンエンドペプチターゼ、またはヒアルロニダーゼである、[2]または[3]に記載の方法。
[5]前記水流破砕は、破砕部材の回転数が6000~13000rpmで行われる、[1]~[4]の何れか1項に記載の方法。
[6]前記超音波破砕は、振幅が20~40%で行われる、[1]~[5]の何れか1項に記載の方法。
[7]前記超音波破砕は、30秒~3分間行われる、[6]に記載の方法。
[8]前記目的とする細胞は、腫瘍細胞、リンパ球、または非癌部組織由来の正常細胞である、[1]~[7]の何れか1項に記載の方法。
[9]前記組織片は、固定化剤で固定されている、[1]~[8]の何れか1項に記載の方法。
[10]前記固定された組織片は、包埋剤で包埋されている、[9]に記載の方法。
[11]前記前処理の前に、前記組織片から前記包埋剤を除去し、前記組織片を親水化する、[10]に記載の方法。
[12]前記前処理の前に、熱処理により前記固定により生じた架橋構造を除去することを含む、[9]~[11]の何れか1項に記載の方法。
[13]前記前処理により得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析し、前記分析で得られたスキャッタグラムにおける前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、前記目的とする細胞または細胞核が豊富な粒子群を選別または分取する、[12]に記載の方法。
[14]既知の複数の細胞種をフローサイトメトリーにより分析し、各細胞種に由来する細胞核につき前方散乱(FSC)強度または側方散乱(SSC)強度と粒子数のヒストグラム、或いは前方散乱(FSC)強度及び側方散乱(SSC)強度のスキャッタグラムを作成して、前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、個々の細胞種の核について、他の細胞種の核に対して優位な数存在している範囲または領域を決定しておき、
次いで、前記前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定して、同様にヒストグラムまたはスキャッタグラムを作成し、当該ヒストグラムまたはスキャッタグラム中、目的とする細胞核と同種の細胞核について予め決定しておいた範囲または領域に存在する粒子群を選別または分取する、[13]に記載の方法。
[15]既知の異なる粒径を有する標準粒子を、フローサイトメトリーで分析し、得られた前方散乱(FSC)強度と標準物質の粒径とで検量線を作成し、
前記前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定し、得られた前方散乱(FSC)強度をこの検量線と照合することに粒径を算出し、
所定の粒径を持つ粒子群を選別または分取する、[13]に記載の方法。
[16]10μm以上の粒径を持つ粒子群で構成され、11μm~20μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域を選択して、腫瘍細胞に由来する粒子が豊富化されている粒子群を選別または分取する、[15]に記載の方法。
[17]8μm以下の粒径を持つ粒子群で構成され、4μm~7μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域を選択して、リンパ球に由来する粒子が豊富化されている粒子群を選別または分取する、[15]に記載の方法。
[18][1]~[17]の何れか1項に記載の方法によって得られた、目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を用いて、前記細胞または細胞核に存在するバイオマーカーを分析する方法。
[19]前記目的とする細胞は腫瘍細胞である、[18]に記載の方法。
[20]前記バイオマーカーは、ポリヌクレオチド、核内タンパク質、核膜タンパク質、又は細胞骨格タンパク質である、[18]または[19]に記載の方法。
[21]前記ポリヌクレオチドは、がん関連遺伝子を含み、前記核内タンパク質は、転写因子、又は細胞周期関連タンパク質を含む、[20]に記載の方法。
[22][13]~[17]の何れかに記載の方法によって、前記組織片から腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化された試料を得(腫瘍細胞核豊富化試料)、
同じ組織片または正常組織片から、腫瘍細胞またはその細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する工程を行わない以外は同様にして、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化されていない試料を得(腫瘍細胞核非豊富化試料または正常試料)、
各試料について、粒子数とDNA量のヒストグラムを作成して、粒子数が最も多いDNA量を特定し、以下の式によりDNA indexを決定する方法。
DNA index=腫瘍細胞核豊富化試料における粒子数が最も多いDNA量/腫瘍細胞核非豊富化試料または正常細胞試料における粒子数が最も多いDNA量
[23]組織片から、目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を調製するためのキットであって、
細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しない加水分解酵素を含む、キット。
[24]組織片から、目的とする細胞または細胞核が濃縮された試料を調製し、前記試料を用いて、前記細胞またはその細胞核に存在するバイオマーカーを分析するためのキットであって、
細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しない加水分解酵素と、
前記バイオマーカーを検出するための試薬と
を含む、キット。
[25]前記加水分解酵素は、トロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである、[23]または[24]に記載の方法。
[26]前記バイオマーカーは、ポリヌクレオチド、核内タンパク質、核膜タンパク質、又は細胞骨格タンパク質である、[24]または[25]に記載の方法。
[27]組織片から、目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得るためのシステムであって、
既知の複数種の細胞を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度および/または側方散乱(SSC)強度のデータを得、
前記データから、1つの種の細胞の細胞核の群が、他の種の細胞の細胞核の群に比べ優位な数存在する領域を決定し、
組織片を水流破砕および/または超音波破砕を含む前処理して得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度および/または側方散乱(SSC)強度のデータを得、得られたデータに基づき、目的とする細胞と同種の細胞について予め決定した領域の粒子群を選択または分取する、システム。
[28]組織片から、目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得るためのシステムであって、
既知の異なる粒径を有する標準粒子をフローサイトメトリーで分析し、得られた前方散乱(FSC)強度と前記標準粒子の粒径との検量線データを作成し、
組織片を水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理により得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度のデータを得、得られたデータを前記検量線データと照合して、特定の粒径範囲にある粒子群を分別または分取する、システム。
[29]10μm以上の粒径を持つ粒子群で構成され、11μm~20μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取して、腫瘍細胞またはその核を濃縮する、[28]に記載のシステム。
[30]8μm以下の粒径を持つ粒子群で構成され、4μm~7μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取して、リンパ球の核を濃縮する、[28]に記載のシステム。
[31]フローサイトメトリーシステムに、組織片から目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得る処理を実行させるためのプログラムであって、
前記フローサイトメトリーシステムに、
既知の複数の細胞種をフローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度および/または側方散乱(SSC)強度のデータを取得させ、
前記データから、1つの細胞種の細胞核の群が、他の細胞種の細胞核の群に比べ豊富に存在する領域を決定させ、
次いで、前記組織片を水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理して得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析させて前方散乱(FSC)および/または側方散乱(SSC)のデータを取得させ、得られたデータに基づき、目的とする細胞の同種の細胞について決定された前記領域の粒子群を分別または分取させる、プログラム。
[32]フローサイトメトリーシステムに、組織片から目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得る処理を実行させるためのプログラムであって、
前記フローサイトメトリーシステムに、
既知の異なる粒径を有する標準粒子をフローサイトメトリーで分析させて、得られた前方散乱(FSC)強度と前記標準粒子の粒径との検量線データを作成させ、
前記組織片を水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理により得られた粒子群を、フローサイトメトリーにより分析させて、前方散乱(FSC)強度のデータを取得させ、得られたデータを検量線データと照合させて、特定の粒径範囲にある粒子群を分別または分取させる、プログラム。
[33]10μm以上の粒径を持つ粒子群で構成され、11μm~20μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取させて、腫瘍細胞の核を濃縮させる[32]に記載のプログラム。
[34]8μm以下の粒径を持つ粒子群で構成され、4μm~7μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取させて、リンパ球の核を濃縮させる、[32]に記載の方法。
[35]組織片から目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得るためのシステムであって、
前記組織片を、水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理を実施して、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を得、
前記粒子群を光学的に分析して得られる、前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の光学的特性に基づいて、前記目的とする細胞または細胞核が豊富化されている粒子群を選別または分取する、システム。
[36]組織片から、目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を得るための処理を実行させるプログラムであって、
前記処理を実行する装置に、
前記組織片を、水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理を実行させて、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を取得させ、
前記分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の光学的特性に基づいて、前記目的とする細胞に由来する粒子が豊富化されている粒子群を選別または分取させる、プログラム。
【0008】
本発明の方法によれば、目的とする細胞または細胞核に存在するバイオマーカーの濃度を高めることができるため、目的とするバイオマーカーの検出率を向上させることができる。特に、腫瘍割合の低い組織でも利用可能となり、より精密な癌遺伝子パネル診断や新たな癌分類方法の提起が期待できる。また、本発明の方法では正常組織の細胞または細胞核、及びリンパ球またはその細胞核も分離可能である。例えば、腫瘍組織浸潤リンパ球(TIL)は乳癌の予後予測因子になり得るため、患者組織から癌細胞核を豊富化した試料と共に、リンパ球核を豊富化した試料を分取できれば、解析上のメリットをもたらし臨床的に有用である。また、腫瘍局所における微小環境や免疫応答への腫瘍細胞以外の細胞の関与について研究がなされており、この分野での利用も期待される(非特許文献5)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】DAPIの蛍光強度を横軸、粒子数を縦軸として示したヒストグラムを示す。ホルマリン固定した乳癌細胞株に、加熱処理および水流破砕処理をした後、抗ラミン抗体及びそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータからヒストグラムを作成した。I--------Iで示す範囲は、核内染色体2n以上と考えられる領域であり、この範囲を細胞としてゲーティングした。
【
図2】
図1のI--------Iで示す範囲をゲーティングした集団のデータから作成した、DAPI―H(高さ)を横軸、DAPI―A(面積)を縦軸としたスキャッタグラムを示す。枠で囲んだ範囲を核の主領域として選択した。
【
図3】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検試料は、ホルマリン固定した乳癌細胞株を、加熱処理し、回転数を7,100または12,800rpmとして水流破砕処理をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して得た。
【
図4】上段は、
図2のスキャッタグラムにおいて枠で囲んだ領域をゲーティングした集団のデータから作成した、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸として示すスキャッタグラムを示す。下段は、
図2のスキャッタグラムにおいて枠で囲んだ領域をゲーティングした集団のデータから作成した、Alexa Fluor488の蛍光量(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムである。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。
【
図5】DAPI-Aの蛍光強度を横軸、粒子数を縦軸として示したヒストグラムを示す。乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理および水流破砕処理し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータからヒストグラムを作成した。核内染色体2n以上は、複数の細胞が結合した集団と考えられる領域であり、核内染色体2nは単細胞と考えられる領域であり、2n未満は細胞以外の組織デブリと考えられる領域である。
【
図6】水流破砕処理における破砕装置、回転数、および回転刃と固定刃のクリアランスに関する異なる条件による、
図5に示す2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合に対する影響を示す。乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理後、破砕装置、回転数、および回転刃と固定刃のクリアランスに関し異なる条件で水流破砕処理をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータから、
図5に示す2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合を算出した。
【
図7】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検試料は、乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、および水流破砕をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して作製した。
【
図8】Alexa Fluor488の蛍光強度(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。乳癌組織のFFPE組織切片に、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、および水流破砕をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータからヒストグラムを作成した。
【
図9】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検試料は、ホルマリン固定した乳癌細胞株を、加熱処理し、出力強度を、20%、30%または40%の振幅として、超音波破砕処理をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して得た。
【
図10】上段は、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸として示すスキャッタグラムを示す。ホルマリン固定した乳癌細胞株を、加熱処理し、出力強度を、20%、30%または40%の振幅として、超音波破砕処理をした後、試験1と同様にして蛍光染色、フローサイトメーターによる分析およびデータ解析して、核内染色体2n以上の集団をゲーティングし、ゲーティングした集団のデータから作成した。下段は、ゲーティングした集団のデータから作成した、Alexa Fluor488の蛍光量(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムである。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。
【
図11】水流破砕処理および超音波破砕処理を含む前処理において超音波破砕処理における出力強度を変化させた場合の2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合に対する影響を示す。乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理後、水流破砕処理をし、出力強度を20%、30%、または40%の振幅として超音波破砕処理をした。処理後の試料をDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータから、2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合を算出した。
【
図12】水流破砕処理および超音波破砕処理を含む前処理において超音波破砕処理における出力強度および破砕時間を変化させた場合の2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合に対する影響を示す。乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理後、水流破砕処理をし、出力強度を20%または30%の振幅とし、1分、2分または3分超音波破砕処理をした。処理後の試料をDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータから、2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合を算出した。
【
図13】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検用試料は、乳癌FFPE組織切片を、水流破砕と超音波破砕処理を含む前処理をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して得た。
【
図14】Alexa Fluor488の蛍光強度(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。乳癌組織のFFPE組織切片に、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、水流破砕および超音波破砕処理をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータからヒストグラムを作成した。
【
図15】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検用試料は、ホルマリン固定した乳癌細胞株を、加熱処理し、各種酵素(トロンビン、ディスパーゼ、トリプシン、プロリンエンドペプチダーゼおよびヒアルロニダーゼ)で酵素処理し、または酵素処理せずに、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して得た。
【
図16】Alexa Fluor488の蛍光強度(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。ホルマリンで固定化したヒト乳癌細胞を、加熱処理し、各種酵素(トロンビン、ディスパーゼ、トリプシン、プロリンエンドペプチダーゼおよびヒアルロニダーゼ)で酵素処理し、または酵素処理せずに、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータからヒストグラムを作成した。
【
図17】蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。鏡検用試料は、乳癌組織のFFPE組織切片に、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、トロンビンまたはディスパーゼを用いた酵素処理、水流破砕および超音波破砕をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色して得た。
【
図18】Alexa Fluor488の蛍光強度(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。乳癌組織のFFPE組織切片に、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、トロンビンまたはディスパーゼを用いた酵素処理、水流破砕および超音波破砕をした後、抗ラミン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータからヒストグラムを作成した。
【
図19】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団からこのスキャッタグラムは、作成された。
【
図20】サイズキャリブレーションビーズ溶液を、フローサイトメーターで測定して得られたデータから、横軸に粒子のサイズ、縦軸に前方散乱強度最頻値をプロットしたグラフ(2次回帰曲線)を示す。
【
図21】前方散乱を横軸、粒子数を縦軸として示すヒスとグラムを示す。このヒストグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図22】側方散乱強度を横軸、粒子数を縦軸とするヒスとグラムを示す。このヒストグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図23】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とする乳癌組織と正常リンパ節に関するスキャッタグラムを重ねて示す。このスキャッタグラムは、乳癌組織と正常リンパ節のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理、トロンビン処理、水流破砕および超音波破砕をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図24】サイズキャリブレーションビーズ溶液を、異なるフローサイトメーター(Sysmex社のCyflow SpaceおよびBecton Dickinson社FACSAriaII)で測定して得られたデータから、横軸に粒子のサイズ、縦軸に前方散乱(FSC-H)の強度最頻値をプロットしたグラフ(2次回帰曲線)を示す。
【
図25】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、異なるフローサイトメーター(Sysmex社のCyflow Space)で分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図26】前方散乱(FSC-H)を横軸、側方散乱(SSC-H)を縦軸とするスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、異なるフローサイトメーター(Becton Dickinson社FACSAriaII)で分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図27】、側方散乱(SSC)強度を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。このヒストグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、異なるフローサイトメーター(Sysmex社のCyflow Space)で分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図28】側方散乱(SSC)強度を横軸、粒子数を縦軸としたヒスとグラムを示す。このヒストグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に加熱処理およびトロンビン処理を施し、DAPI染色を行った後、異なるフローサイトメーター(Becton Dickinson社FACSAriaII)で分析し、得られたデータを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された。
【
図29】
図25及び
図26に示す乳癌細胞株(SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)に関するフローサイトメーター分析データを試験1と同様にしてゲーティングした集団から作成された、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを重ねて示す。
【
図30】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、乳癌組織のFFPE組織切片に、脱パラフィン処理、親水化処理、加熱処理を施し、トロンビンで処理をし、水流破砕および超音波破砕をした後、抗pan-サイトケラチン抗体で免疫蛍光染色し、DAPI染色した後、異なるフローサイトメーター(Becton Dickinson社FACSAriaII)で分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータから作成した。
【
図31】
図30におけるエリア1およびエリア2のDAPIおよびサイトケラチン鏡検像を示す。
【
図32】
図30におけるエリア2の粒子群を分取し、2つのフローサイトメーター(Agilent社製、NovoCyte Quanteon Flow Cytometer、Sysmex社製、Cyflow Space)で分析して得られたデータから作成した前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。
【
図33】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR3)およびリンパ芽球性細胞株(Jurkat)を加熱処理および異なる種酵素(トロンビンおよびディスパーゼ)での処理をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータから作成した。
【
図34】前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とするスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、乳癌組織および正常リンパ節のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理し、加熱処理および異なる種酵素(トロンビンおよびディスパーゼ)での処理をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータから作成した。
【
図35】乳癌組織のFFPE組織切片中のKi-67陽性率について、フローサイトメーターで分析した結果と病理医よってIHC法により算出された結果の相関図を示す。上の相関図では、フローサイトメーターでのKi-67の陽性率は、FSCーH(前方散乱)を横軸、SSCーH(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムにおいて、癌細胞核領域のゲーティングとしてFSC-H強度の2.00×10
6~5.00×10
6、及びSSC-H強度の1.00×10
6~2.00×10
6をゲーティングし、ゲーティングした全細胞核中のKi-67陽性核の割合として算出した。他方、下の相関図では、フローサイトメーターでのKi-67の陽性率は、このようなゲーティングを行わずに全細胞核中のKi-67陽性核の割合として算出している。
【
図36】FSCーH(前方散乱)を横軸、SSCーH(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムにおいて、癌細胞核領域をゲーティングした場合としない場合について、100-特異度(%)をX、感度(%)をYとしROC解析を実施した結果を示す。
【
図37】抗ER抗体で免疫蛍光染色し、癌細胞核領域をゲーティングしまたはゲーティングしなかった場合の、蛍光量を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムであり、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。このヒストグラムは、ER陽性のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、抗ER抗体での蛍光染色およびDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータをDAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、その後、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域をゲーティングした集団(左)、またはゲーティングしない集団(右)から作成した。各集団の全細胞核中のER陽性核の割合をER陽性率として算出した。
【
図38】抗PgR抗体で免疫蛍光染色し、癌細胞核領域をゲーティングしまたはゲーティングしなかった場合の、蛍光量を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムであり、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。このヒストグラムは、PgR陽性のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、抗PgR抗体での蛍光染色およびDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータをDAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、その後、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域をゲーティングした集団(左)、またはゲーティングしない集団(右)から作成した。各集団の全細胞核中のPgR陽性核の割合をPgR陽性率として算出した。
【
図39】抗サイトケラチン7抗体および抗サイトケラチン20抗体で2重で免疫蛍光染色し、癌細胞核領域をゲーティングしまたはゲーティングしなかった場合の、各抗体の蛍光量を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムであり、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。このヒストグラムは、乳癌FFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、抗サイトケラチン7抗体および抗サイトケラチン20抗体での蛍光染色およびDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータをDAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、その後、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域をゲーティングした集団(左)、またはゲーティングしない集団(右)から作成した。各集団の全細胞核中のサイトケラチン7およびサイトケラチン20陽性核の割合をサイトケラチン7およびサイトケラチン20陽性率として算出した。
【
図40】同一乳癌患者の癌部、非癌部、及び正常リンパ節のFFPE組織切片を所定の前処理後にフローサイトメーターで分析して得た、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを示す。このスキャッタグラムは、同一乳癌患者の癌部、非癌部、及び正常リンパ節のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理し、加熱処理およびトロンビン処理をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、試験1と同様にして細胞核領域として選択されたゲーティング領域のデータから作成した。
【
図41】
図40に示す各組織に関するスキャッタグラムを重ねて示したものである。
【
図42】抗Ki-67抗体で免疫蛍光染色し、癌細胞核領域をゲーティングし、またはゲーティングしなかった場合の蛍光量を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムであり、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。このヒストグラムは、S字結腸と直腸の患者からの癌部のFFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、抗Ki-67抗体での免疫蛍光染色およびDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータをDAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、ゲーティングした集団について、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域をゲーティングした集団(左)、またはゲーティングしない集団(右)から作成した。各集団の全細胞核中のKi-67陽性核の割合をKi-67陽性率として算出した。
【
図43】抗サイトケラチン7及び20抗体で免疫蛍光染色し、癌細胞核領域をゲーティングし、またはゲーティングしなかった場合の蛍光量を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムであり、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。このヒストグラムは、大腸癌FFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、抗サイトケラチン7及び20抗体での免疫蛍光染色およびDAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータをDAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、ゲーティングした集団について、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域をゲーティングした集団、またはゲーティングしない集団から作成した。各集団の全細胞核中のサイトケラチン7及び20陽性核の割合を、それぞれサイトケラチン7及び20陽性率として算出した。
【
図44】癌部からの細胞の割合が異なる各サンプル(10%、100%)について、エリア1からの分取の有無によるPCRによる増幅速度の違いを示すグラフである。
【
図45】(a)は、DAPI-Aの蛍光強度を横軸、粒子数を縦軸として示したヒストグラムを示す。乳癌FFPE組織切片を、脱パラフィン処理および親水化処理をし、加熱処理およびトロンビン処理をし、水流破砕および超音波破砕をし、DAPI染色した後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータからヒストグラムを作成した。I--------Iで示す範囲は、核内染色体2n以上と考えられる領域であり、この範囲を細胞としてゲーティングした。(b)は、(a)のI--------Iで示す範囲をゲーティングした集団のデータから作成した、DAPI―H(高さ)を横軸、DAPI―A(面積)を縦軸としたスキャッタグラムを示す。枠で囲んだ範囲を核の主領域として選択してダブレット除去を行った。(c)は、(b)のスキャッタグラムの枠で囲んだ範囲に由来する集団のデータから作成した、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを示す。癌細胞核領域としてFSC-H強度の2.00×10
6~5.00×10
6、及びSSC-H強度の1.00×10
6~2.00×10
6の粒子をゲーティングした。
【
図46】乳癌患者から得られた3つのFFPE組織検体について、
図45(c)で癌細胞核領域とした領域をゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、DAPI-Aの蛍光量を横軸、最大粒子数を100としてノーマライズした粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。検体1乃至3のヒストグラムをそれぞれ
図46(a)、(b)および(c)に示す。
【
図47】癌細胞核領域としてゲーティングした集団およびゲーティングしなかった集団について、粒子数が最も多いDAPI-Aの蛍光量を特定した一例を示す図である。ゲーティングしなかった集団の最頻値を核内染色体2nの蛍光量とみなし、癌細胞核領域としてゲーティングした集団の最頻値の蛍光量との比を算出し、DNA indexとした。
【
図48】試験28で実施した、バイオマーカーによらずにDNA indexを決定する方法(本法)と、従来のバイオマーカーを用いてDNA indexを決定する方法との相関図を示す(n=17)。本法の値はy軸に示し、従来法の値はx軸に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、目的とする細胞または細胞核が濃縮された試料を得る方法、当該方法によって得られた試料を利用してバイオマーカーを分析する方法、ならびにこれらの方法を実施するためのキット、システムおよびプログラムに関する。以下ではこれらの実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
1.目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を調製する方法
一の実施形態において、本発明は、組織片を特定の前処理をして、個別に分離された細胞または細胞核を得、当該細胞核の光学的特性又は物理学的特性に基づいて、目的とする細胞または細胞核が豊富化されている粒子群を選別または分取する方法を提供する。
【0012】
「組織片」は、通常生検により採取され、対象から組織の一部をメスや針などで採取して得られる。生検には、切除生検(全摘出)、切開生検(一部を摘出)、コア生検(太い針で組織の一部を摘出)および細針穿刺吸引(FNA)生検(細い針で組織あるいは体液を摘出)などがある。
【0013】
対象は、哺乳動物およびその他の動物であってよく、哺乳動物は、典型的にはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。組織は、対象のあらゆる器官から採取し得る。また、多くの場合病理部位から採取されるが、場合によっては、非腫瘍組織およびリンパ節などの正常部位から採取されることもある。
病理部位としては、典型的には、悪性腫瘍細胞が浸潤した部位が挙げられるがこれらに限られるものではない。また、悪性腫瘍細胞が浸潤した部位から組織を採取した場合でも、当該組織には、がん細胞以外の細胞(例えば、正常細胞、リンパ球など)が含まれる。特に、悪性腫瘍が非常に小さく採取された組織に正常細胞など他の細胞が多く含まれる場合もある。このように、採取される組織は、通常1種類の細胞のみで構成されない。
【0014】
悪性腫瘍は、遺伝子変異によって自律的で制御されない増殖を行うようになった細胞集団(腫瘍、良性腫瘍と悪性腫瘍)のなかで周囲の組織に浸潤し、または転移を起こす腫瘍であり、悪性腫瘍(Malignant tumor)の用語は病理学において
1)癌腫(Carcinoma):上皮組織由来の悪性腫瘍
2)肉腫(Sarcoma):非上皮組織由来の悪性腫瘍
3)その他:白血病など
に分類される。癌腫(Carcinoma)としては、頭頸部癌(上顎癌、(上、中、下)咽頭癌、喉頭癌、舌癌、甲状腺癌)、胸部癌(乳癌、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌))、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、大腸癌(結腸癌、直腸癌)、肝癌(肝細胞癌、胆管細胞癌)、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、肛門癌、泌尿器の癌(腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣(睾丸)癌)、生殖器癌(子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、外陰癌、膣癌)、皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌)などがあり、肉腫(Sarcoma)としては、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などがある。
【0015】
「組織片」は、採取後、直ぐに本発明の方法によって酵素処理することもできるが、通常は、凍結保存または固定化処理がなされ、一定期間保存可能な状態に置かれる。
【0016】
「凍結保存」は、通常、-80℃度以下で凍結される。
「固定化処理」は、試料を固定液に漬けて分子架橋やタンパク質不溶化により細胞の形態や組織の構造を安定化させる処理である。固定化には公知の方法を用いればよく、例えば、ホルマリン液、パラホルムアルデヒド液、グルタルアルデヒド液、四酸化オスミウム液、酢酸アルコール、メタノール、エタノール、アセトンなどを用いる方法がある。中でも、ホルマリン固定は、病理組織の固定方法として広く普及しており、本発明の方法でもホルマリン固定組織を利用するのが便利である。
【0017】
固定化された組織を用いる場合、通常、組織片(塊)を均等な硬度にし、組織内の中腔部を埋めて、薄切を行うのに適切な強度を持たせると共に、保存性を更に増大させるために、組織を包埋剤で包埋する。包埋剤としては、特に限定しないが、パラフィン、パラフィン誘導体、セロイジン、カーボワックス、アガロース、非ヘパリン処理血清、コラーゲン、セルロース誘導体、キチン誘導体、キトサン誘導体、これらの混合物等が挙げられる。中でも、パラフィンは広く用いられており、従って、ホルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE切片)は、病理学的診断で最も利用されている組織片である。本発明においても、このような組織片を利用するのが便利である。
【0018】
本発明の方法では、後述する前処理で、他の細胞から分離された単一の細胞または細胞核を効率的に得るために、組織片は薄切または細断することが好ましい。例えば、薄切の場合、凍結組織または包埋組織をミクロトームで適当な厚さに薄切することができる。薄切切片の厚さとしては、60μm以下であれば、前処理を効率的に行うことができると共に、切片を免疫組織化学(IHC)法による各種マーカーの検出に利用できる点で便利であり、20μm以下がより好ましい。薄切する組織の大きさ、マーカー分析に必要な細胞数または細胞核数に応じて、薄切枚数および切片の厚さを調整してもよい。
【0019】
包埋剤で包埋された組織を用いて本発明の方法を実施する場合、好ましくは薄切または細断した後、包埋組織から包埋剤(例えばパラフィン)を除去し(脱包埋処理)、包埋剤の除去に用いた有機溶媒を水系溶媒に置換する(親水化処理)ことが好ましい。キシレンに代表される有機溶媒に切片を浸すことにより、包埋剤を除去することができる。また、濃度勾配をつけた複数濃度のエタノール溶液に脱包埋処理後の組織切片を、高濃度から低濃度に順次浸漬させることで組織切片を親水化することができる。エタノール濃度勾配は、例えば、100%、95%、90%、70%、50%等が挙げられるが、これに限らない。なお、包埋処理を行わない、凍結切片は、脱包埋処理および親水化処理は、不要である。
【0020】
固定化処理された組織を用いる場合には、固定化処理で形成された架橋構造を破壊するために、熱処理を行うことが好ましい。固定化された組織では、ペプチド間で架橋構造が形成され、これにより目的とするバイオマーカーへのアクセスが困難になるとともに、酵素処理の際に酵素が標的とする構成成分に作用し難くなる。熱処理を行うと形成された架橋構造が切断され、バイオマーカーへのアクセスが容易になると共に酵素処理により組織の分解を効率的に行うことが可能になる。
熱処理は、組織を、クエン酸緩衝液、界面活性剤、キレート剤、および/または還元剤などを含む溶液中に浸漬して行うことが好ましく、このような成分を含む溶液としては、特に限定しないが、加熱用抗原賦活化剤として市販されているHisto VT One(ナカライテスク)、抗原賦活化液pH9(ニチレイバイオサイエンス)、イムノセイバー(日新EM)等が市販されている。処理は、添付の説明書に従って行えばよいが、例えば、加熱温度は90℃~100℃とすればよく、処理時間は、20~60分間とすればよい。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、後述する水流破砕処理および/または超音波粉砕処理の前に、組織を、細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しない加水分解酵素で処理することができる。
【0022】
本願明細書において、「細胞核の形態」には、大きさ、形状および構造が含まれるものとする。また、「細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質」とは、これが分解すると細胞核の形態が変化するタンパク質であり、例えば、ラミンA、ラミンB1、ラミンB2、ラミンC等のラミンが挙げられる。細胞核の形態が変化したか否かは、後述する細胞核の光学的特性または物理学的特性から判断することができる。本発明の方法で用いられる酵素は、このようなタンパク質を分解しない酵素が好ましい。
【0023】
このような特性を有する加水分解酵素は、公知のデータベース(例えば、http://web.expasy.org/peptide_cutter/)から、知ることができる。また、ある酵素がこのような特性を有するか否かは、当該酵素で上記「細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質」を処理した後、切断したかをアガロースゲル電気泳動法等の公知の方法で分析して確認することができる。
【0024】
「細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しない」加水分解酵素としては、例えば、トロンビン、プロリンエンドペプチターゼ、エンテロキナーゼ、グランザイムBおよびヒアルロニダーゼを挙げることができる。他方、ペプシン、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ等の細胞核の形態に影響を及ぼす加水分解酵素は用いない。
【0025】
上記の酵素のうち、トロンビン、プロリンエンドペプチターゼ、およびヒアルロニダーゼが好ましく、トロンビンまたはヒアルロニダーゼがより好ましい。
【0026】
「酵素処理」は、例えば、適切なpHに調整した緩衝液に酵素を溶解し、この溶液に組織片を浸漬させ、酵素反応に適した温度で、所定時間撹拌しながら加水分解反応させ、その後必要に応じて反応を停止させて実施することができる。
【0027】
緩衝液としては、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good緩衝液等を用いればよい。また、界面活性剤は、細胞膜の破壊を促進する作用があるため、界面活性剤を添加した緩衝液を用いることが好ましい。界面活性剤としては、細胞核に影響しなければ特に限定されず、陰イオン性界面活性剤(カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等)、陽イオン性界面活性剤(第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン塩型、ピリジン環を有する型等)、両性界面活性剤(ベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型等)、非イオン性界面活性剤(エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルグリコシド等)の界面活性剤が挙げられる。好ましくは非イオン性界面活性剤のTritonX-100、TritonX-405、NP-40、Briji-35、Briji-58、Tween-20、Tween-80、BPSH-25、Octyl Glucoside、およびOctylthio Glucosideが挙げられる。pHは、用いる酵素に応じて調整すればよく、個々の酵素の至適pHは当技術分野でよく知られている。温度も用いる酵素に応じて決定すればよく、多くの場合20℃から40℃の範囲とする。また、反応時間は、組織の大きさ等に応じて適宜決定すればよい。反応停止には、試薬の除去、温度変化、キレーター添加等を行えばよく、具体的な方法は本技術分野で周知である。
【0028】
本発明の方法では、上記酵素処理に代え、または上記酵素処理後、組織、または酵素処理物を、水流破砕、および/または超音波破砕に供する。中でも、細胞核の形態を保持しながら、組織からより多く単一細胞を得る点からは、「水流による破砕」が好ましく、「水流による破砕」および「超音波による破砕」をこの順で行うことが特に好ましい。
【0029】
「水流による破砕」、または「水流破砕処理」とは、水流によるせん断力で組織および場合によっては細胞を破砕することを意味する。「水流破砕処理」の条件は、組織を単一細胞レベルで分解可能とする一方で、細胞核の形態に影響を及ぼさないことが重要となり、この点から回転刃を6,000rpm~13,000rpm回転させる条件が好ましく、7,000rpm~13,000rpm回転させる条件がより好ましい。また、処理時間は、通常30秒~3分とすることができるが、45秒~2分が好ましく、1分が特に好ましい。また、水流破砕処理装置を用いる際には、内刃と外刃間のクリアランスは、通常、0.01mm~1.00mmとすることができるが、0.02mm~0.50mmとすることが好ましく、0.03mm~0.30mmとすることがより好ましい。
水流破砕処理は、市販の装置を用いて行うことができ、例えばSysmex社の水流せん断装置(RP-10)、IKA社のホモジナイザー(T10)等を用いることができる。水流破砕処理は、氷冷下で行うことが好ましい。
【0030】
「超音波による破砕」、または「超音波破砕処理」は、超音波によるせん断力で組織および場合によっては細胞を破砕することを意味する。「超音波破砕処理」の条件も、組織を単一細胞レベルで分解可能とする一方で、細胞核の形態に影響を及ぼさないことが重要となり、この点から、出力強度は、20~40%の振幅とすることが好ましく、20~30%の振幅とすることがより好ましく、20%の振幅とすることが特に好ましい。
また、処理時間も同様の観点から、通常30秒~3分とすることができるが、45秒~2分が好ましく、1分が特に好ましい。
超音波破砕処理も、市販の装置を用いて行うことができ、例えばSONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用いて行うことができる。超音波破砕処理も、氷冷下で行うことが好ましい。
【0031】
従って、本発明の好ましい実施の形態では、以下のステップを含むプロセスが提供される:
1) 薄切FFPE切片の脱パラフィンおよび親水化処理
2) 熱処理による架橋構造の破壊
3) 酵素による処理
4) 水流および/または超音波により組織(及び細胞)の破砕
【0032】
本発明の方法では、以上のように、任意選択で熱処理および酵素処理を行った後、水流破砕、および/または超音波破砕によるせん断応力で組織から個別に分離された細胞または細胞核が得られる。
ここで、「個別に分離された細胞または細胞核」とは、他の細胞から分離されて存在する単一の細胞または細胞核をいう。また、本願明細書で酵素処理後の「細胞または細胞核」について言及する場合、「細胞または細胞核」は、完全な状態の細胞および他の構造物を含まない細胞核のみならず、細胞核の形態が維持されていれば、細胞の一部の構造が破壊、切断または消失した状態の細胞(粒子)を含む意味で用いる。例えば、細胞膜が破壊または消失しているが細胞骨格または細胞骨格を構成するタンパクの全部または一部が維持されている状態の細胞(粒子)も「細胞または細胞核」に該当する。
【0033】
本発明の方法では、このような前処理で得られた「個別に分離された細胞または細胞核」を含む処理物を用いて、目的とする細胞または細胞核が有意に多く存在する粒子群を選別または分取する。
「目的とする細胞または細胞核」とは、本発明の方法により豊富化されることが意図される細胞または細胞核を意味する。また、「有意に多く存在する」とは、目的とする細胞または細胞核が全細胞若しくは細胞核およびその他の粒子状物質中で最も多い割合で存在していることを意味する。
【0034】
本発明の方法では、上述の通り、組織から単一の細胞または細胞核を得るための処理において、細胞核の形態に影響を及ぼさずに「目的とする細胞または細胞核」を含む粒子群を得る。そこで、本発明では、維持されている細胞核の形態、すなわち大きさ、形状および/または構造(密度、比重、粒度、染色性を含む)を反映する光学的特性または物理学的特性を測定し、「目的とする細胞または細胞核」と他の粒子とのこれらの特性の相違に基づき、「目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取」する。従って、本発明の方法では、特定の細胞種に特異的に発現しているバイオマーカーを用いることなく、「目的とする細胞または細胞核」を濃縮化する。
なお、後述する実施例で実証する通り、光学的特性または物理学的特性を利用して「目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取」することは、前述した本発明が採用する前処理で初めて可能になることに留意が必要である。
【0035】
光学的特性の分析に基づく実施形態では、前処理後の処理物を、必要に応じて細胞核内の成分、典型的には核酸を可視化(例えば、染色により可視化)した上で、光学的に分析し、目的とする細胞核の他の粒子に対する光学的特性の相違に基づき、目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する。
【0036】
このような光学的分析の例としては、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、鏡検画像の画像分析などが挙げられる。
【0037】
フローサイトメトリーによる分析では、例えば、前処理後の処理物を、必要に応じて細胞核の蛍光染色後、フローサイトメトリーにかけ、得られる前方散乱光(FSC)強度、側方散乱光(SSC)強度及び/又は蛍光強度に基づき、「目的とする細胞または細胞核」が有意に多く存在する粒子群を、ゲーティングにより他の細胞若しくは細胞核または他の粒子から選別することができる。前方散乱光(FSC)強度は、粒子の大きさの指標とされる。また、側方散乱光(SSC)強度は、細胞核の粒度や複雑さの指標とされ、腫瘍細胞のように顆粒性の高い細胞核ではより高い散乱光強度が得られる。「選別された」粒子群は、フローサイトメトリーが備えるソート機能を利用して所定のチャンバーに「分取する」ことができる。
【0038】
ここで、本願明細書で「選別する」とは、分析により得られたデータを処理して特定の範囲の粒子群を選択することを意味し、物理的に他の粒子群から分離されている必要はない。他方、「分取」とは、「目的とする細胞または細胞核」を含む粒子群を、物理的に他の粒子群から分離して得ることを意味する。また、「目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得る」とは、「選別」および「分取」の何れかによって、目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料をデータ上若しくは物理的に得ることを意味する。また、「豊富化された」とは、処理前に比べ、全細胞中の目的とする細胞または細胞核の割合が増加していることを意味する。本願明細書において、「濃縮」という用語を用いることがあるが、「豊富化」と同義であり、「豊富化」と「濃縮」は、相互に交換可能な用語として用いるものである。
【0039】
前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、「目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群」を選別する場合、例えば、以下の手順で、目的とする細胞または細胞核を選別または分取することができる:
既知の複数の細胞種をフローサイトメトリーにより分析し、各細胞種に由来する細胞核につき前方散乱(FSC)強度または側方散乱(SSC)強度と粒子数のヒストグラム、或いは前方散乱(FSC)強度および側方散乱(SSC)強度のスキャッタグラムを作成して、前方散乱(FSC)強度及び/又は側方散乱(SSC)強度に基づいて、個々の細胞種の核について、他の細胞種の核に対して優位な数存在している範囲または領域を決定しておき、
次いで、前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定して、同様にヒストグラムまたはスキャッタグラムを作成し、当該ヒストグラフまたはスキャッタグラム中、目的とする細胞核と同種の細胞核について予め決定しておいた範囲または領域に存在する粒子群を選別または分取する。
【0040】
また、前方散乱(FSC)強度に基づいて、「目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群」を選別する場合、予め、前方散乱(FSC)強度と粒径との相関関係を決定しておき、前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定して得られた前方散乱(FSC)強度から粒径を算出し、個々の細胞種に特有の粒径範囲にある粒子群を選別または分取してもよい。
【0041】
例えば、既知の異なる粒径を有する標準粒子を、フローサイトメトリーで分析し、得られた前方散乱(FSC)強度と標準物質の粒径とで検量線を作成することができる。前処理後の処理物をフローサイトメトリーにより測定して得られた前方散乱(FSC)強度をこの検量線と照合することに粒径を算出することができる。
【0042】
このように算出された粒径を利用して、例えば、10μm以上の粒径を持ち、11μm~20μmの粒径を持つ粒子が有意な数存在する粒子群を選別または分取して腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化されている粒子群を得ることができる。
【0043】
同様に、例えば、8μm以下の粒径を持ち、4μm~7μmの粒径を持つ粒子が有意な数存在する粒子群を選択して、リンパ球またはその細胞核が豊富化されている粒子群を得ることができる。
【0044】
フローサイトメトリーにより「目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群」を選別する場合、「目的とする細胞または細胞核」が、全粒子中60%以上含まれるように粒子群を選別することが好ましく、70%以上含まれるように粒子群を選別することがより好ましく、80%以上含まれるように粒子群を選別することが更に好ましく、90%以上含まれるように粒子群を選別することがより更に好ましく、95%以上含まれるように粒子群を選別することが特に好ましい。
【0045】
イメージングサイトメトリーによる場合には、前処理後の粒子群の懸濁液を、細胞核の蛍光染色をした後、マルチウェルプレートやスライドグラス上におき、レーザー走査して蛍光画像を得、当該画像データから細胞形態(大きさ、周囲長、真円率など)を分析し、これに基づき「目的とする細胞または細胞核」を他の細胞または細胞核から選別または分取することができる。
【0046】
また、ポリアクリルアミド電気泳動法、濾過法、免疫沈降法、遠心分離法等により、粒子の大きさや比重(密度)の違いにより、「目的とする細胞または細胞核」を分取することもできる。
【0047】
従って、利用される「細胞核の光学的特性又は物理学的特性」は、選別または分取に利用する方法によって異なり、「細胞核の光学的特性」には、蛍光強度、可視光強度、紫外線強度、吸光度、散乱光強度等が含まれ、「細胞核の物理学的特性」には、大きさ、比重(密度)等が含まれる。但し、選択する方法により様々な特性が利用でき、「細胞核」の形態を反映する特性であれば他の特性でも構わない。
【0048】
本発明の方法では、このようにして「目的とする細胞またはその細胞核」が他の細胞若しくはその細胞核または他の粒子に対して優位な数存在している粒子群を選別または分取できる。例えば、後述する実施例で実証されているように、腫瘍細胞またはその細胞核を、当該細胞核の形態を反映する光学的又は物理学的特性に基づき、リンパ球および非癌部組織由来の正常細胞等の他の細胞またはその細胞核から選別または分取して、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化された試料を得ることができる。同様に、リンパ球が豊富化された試料を得る場合、リンパ球またはその細胞核を、当該細胞核の形態を反映する光学的又は物理学的特性に基づき、腫瘍細胞および非癌部組織由来の正常細胞等の他の細胞またはその細胞核から選別または分取する。非癌部組織由来の正常細胞が豊富化された試料を得る場合も同様である。
【0049】
2.細胞または細胞核中バイオマーカーの検査方法
本発明は、他の実施形態において、上記の方法によって得られた目的の細胞または細胞核が豊富化された試料を用いて、細胞または細胞核に存在するバイオマーカーを分析する方法を提供する。
【0050】
上記方法で得られた試料は、目的とする細胞または細胞核が豊富化されているため、これらに含まれるバイオマーカーが試料中に高濃度で含まれている。従って、この試料を用いて目的のバイオマーカーを検査すると、検出率および陽性率を向上することができる。また、後述する試験で実証されている通り、従来のIHC法との相関性の向上も期待できる。また、目的とする細胞または細胞核が少ない組織でバイオマーカー検査する必要がある場合でも、採取した組織から標的とするマーカーが豊富化された試料が調製され、標的とするマーカーの検出が可能になる。
【0051】
このようなことから、本発明の検査方法では、バイオマーカーおよび検査に供する試料については特に制限はなく、あらゆる組織を検査試料とすることができ、細胞または細胞核中のあらゆるバイオマーカーを検査対象とし得る。これらに制限されないが、バイオマーカーとしては、例えば、ポリヌクレオチド、核内タンパク質、核膜タンパク質または細胞内タンパク質が挙げられる。
【0052】
ポリヌクレオチドとしては、ゲノムDNA、cDNA、mRNAなどがある。特に近年、極めて多数の各種疾患関連遺伝子が同定されており、本発明の検査方法の対象と成り得る。疾患関連遺伝子の例として、ABL1、ACVR1B、AKT1、AKT2、AKT3、ALK、ALOX12B、AMER1、APC、AR、ARAF、ARFFP1、ARD1A、ASXL1、ATM、ATR、ATRX、AURKA、AUFKB、AXIN1、AXL、BAP1、BARD1、BCL2、BCL2L1、BCL2L2、BCL6、BCOR、BCORL1、BRAF、BRCA1、BRCA2、BRD4、BRIP1、BTG1、BTG2、BTX、C11orf30、CALR、CARD11、CASP8、CBFB、CBL、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CD22、CD274、CD70、CD79A、CD79B、CDC73、CDH1、CDK12、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CDKN2C、CEBPA、CHEK1、CHEK2、CIC、CREBBP、CRKL、CSF1R、CSF3R、CTCF、CTNNA1、CTNNB1、CUL3、CUL4A、CXCR4、CYP17A1、DAXX、DDR1、DDR2、DIS3、DNMT3A、DOT1L、EED、EGFR、EP300、EPHA3、EPHB1、EPHB4、ERBB2(HER2)、ERBB3、ERBB4、ERCC4、ERG、ERRFI1、ESR1、EZH2、FAM46C、FANCA、FANCC、FANCG、FANCL、FS、FBXW7、FGF10、FGF12、FGF14、FGF19、FGF23、FGF3、FGF4、FGF6、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、FH、FLCN、FLT1、FLT3、FOXL2、FUPB1、GABRA6、GATA3、GATA4、GATA6、GID4(C17orf39)、GNA11、GNA13、GNAQ、GNAS、GRM3、GSK3B、H3F3A、HDAC1、HGF、HNF1A、HRAS、HSD3B1、ID3、IDH1、IDH2、IGF1R、IKBKE、IKZF1、INPP4B、IRF2、IRF4、IRS2、JAK1、JAK2、JAK3、JUN、KDM5A、KDM5C、KDM6A、KDR、KEAP1、KEL、KIT、KIHL6、KMT2A(MLL)KMT2D(MLL2)、KRAS、LTK、LYN、MAF、MAP2K1、MAP2K2、MAP2K4、MAP3K1、MAP3K13、MAPK1、MCL1、MDM2、MDM4、MED12、MEF2B、MEN1、MERTK、MET、MITF、MKNK1MLH1、MPL、MRE11A、MSH2、MSH3、MSH6、MAT1R、MAp、MTOR、MUTYH、MYC、MYCL、MYCN、MYD88、NBN、NF1、NF2、NFE2L2、NFKBIA、NKX2-1、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NPM1、NRAS、NT5C2、NTRK1、NTRK2、NTRK3、P2RY8、PALB2、PARK2、PARP1、PARP2、PARP3、PAX5、PBRM1、PDCD1、PDCD1L G2、PDGFRA、PDGFRB、PDK1、PIK3C2B、PIK3C2G、PIK3CA、PIK3CB、PIK3R1、PIM1、PMS2、POLD1、POLE、PPARG、PPP2R1A、PPP2R2A、PPDM1、PRKAR1A、PRKCI、PTCH1、PTEN、PTPN11、PTPRO、qKI、RAC1、RAD21、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、RAD52、RAD54L、RAF1、RARA、RB1、RBM10、REl、RET、RICTOR、RNF43、ROS1、RPとR、SDHB、SDHC、SDHD、SETD2、SF3B1、SGK1、SMAD2、SMAD4、SMARC A4、SMARC B1、SMO、SNCAIP、SOCS1、SOX2、SOX9、SPEN、SPOP、SRC、STAG2、STAT3、STK11、SUFU、SYK、TBX3、TEK、TET2、TGFBR2、TIPARP、TNFAIP3、TNFRSF14、TP53、TSC1、TSC2、TYRO3、U2AF1、VEGFA、VHL、WHSC1、WHSC1L1、WT1、XPお1、WRCC2、ZNF217、およびZNF703等のがん関連遺伝子が挙げられる。
【0053】
前記核内タンパク質としては、転写因子、又は細胞周期関連タンパク質が挙げられる。
転写因子としては、ホメオドメイン、bHLH、bZIP、Forkhead、核受容体、HMG/Sox、Ets、T-Box、AT hook、POU、Myb/SANT、THAP finger、CENPB、E2F、BED ZF、GATA、Rel、CxxC、IRF、SAND、SMAD、HSF、MBD、RFX、CUT、DM,STAT、ARID/BRIGHT、Grainylhead、MADS box、Ap-2、CSD、PAX等が挙げられるが、これに限定されない。また、細胞周期関連タンパク質としては、例えば、Ki-67、CDK(CDK1~CDK20のサブタイプが知られている)、Cyclin A、Cyclin B、WEE1、MYT1、CDC25B、CDC25C、ATM、ATR、CHK1、CHK2、MRE11、RAD50、NBS1、ATRIP、RAD9、RAD1、HUS1、MDC1、TopBP1、Claspin、Timeless、Tipin、Plk1-4、Aurora A/B、CDC20、CCH1、MAD1、MAD2、BUBR1、BUB1、BUB3、MST1/2、LATS1/2、MOB1A,B、CDC14等が挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
核膜タンパク質としては、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体等が挙げられるが、これに限定されない。
【0055】
細胞内タンパク質としては、シグナル伝達に関わる因子、または細胞質骨格タンパク質が挙げられる。シグナル伝達に関わる因子としては、PTEN、PI3K、Akt、SRC、Ras、Raf、ERK、MEK、Myc、mTORC1/2、S6K、JAK、STAT、p53、SMAD、JNK等が挙げられるが、これに限定されない。また、細胞質骨格タンパク質としては、サイトケラチン、ビメンチン等が挙げられるが、これに限定されない。
【0056】
バイオマーカーの測定は、それぞれのバイオマーカーで既知の方法で測定すればよい。もっとも、目的とする細胞または細胞核を、サイトメトリー等の光学的分析方法で選別した場合には、前処理後に、目的のバイオマーカーを標識化しておき、目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する群を選別後に、そのまま同じ分析装置で選別した群を標識化したバイオマーカーについて分析することができる。
例えば、前処理後に、処理物中の目的のバイオマーカーを直接標識物質で標識したり、抗体、核酸プローブなど、目的のバイオマーカーに特異的に結合するリガンドまたは当該リガンドに特異的に結合する2次リガンドを標識物質で標識しておき、処理物中の目的のバイオマーカーにリガンドを結合させ、必要に応じて2次リガンドを結合させ、および/または細胞核を染色してから、当該処理物をサイトメトリーで分析し、目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する群を選別し、選別した群を標識化したバイオマーカーについて分析することができる。
【0057】
標識物質としては、例えば、アビジン-ビオチン複合体(ABC)、蛍光化合物、酵素、化学発光物質などが挙げられる。
【0058】
蛍光化合物としては、特に限定しないが、Cy3等のシアニン系色素、フルオレセインイソチアシネート(FITC)、アロフィコシアニン、ローダミンなどが挙げられる。複数のバイオマーカーを分析する場合には、発光する蛍光波長の異なる複数の蛍光色素で各リガンド(抗体またはその二次抗体、標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸プローブ等)を標識することができる。このような目的には、例えばAlexa Fluor(登録商標)シリーズの蛍光物質を利用できる。
標識酵素としては、特に限定しないが、アルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼが挙げられる。
化学発光物質としては、特に限定しないが、ルミノール、AMPPD(登録商標)、CSPD(登録商標)、CDP-Star(登録商標)が挙げられる。
細胞核を染色する化合物としては、例えば、DAPIやヨウ化プロピジウム(PI)等の蛍光色素が挙げられる。
【0059】
一態様において、組織切片中の細胞群中において、複数の標的バイオマーカーがある場合、
1)同一(FFPE)組織切片から得た試料に対し、異なる蛍光波長の蛍光色素などの他のリガンドとの識別が可能になる標識で夫々のバイオマーカーに対するリガンドを標識し、分析(検出、定量または解析)をしてもよいし、或いは
2)同一組織ブロックから均質と仮定される複数の(FFPE)組織切片から夫々試料を得、夫々の試料について1つの標的バイオマーカーを標識化(例えば、免疫蛍光染色、FISH)し、分析(検出、定量または解析)してもよい。
【0060】
また、目的とする細胞または細胞核を含む試料を分取し、分取した試料から標的バイオマーカーが存在するオルガネラ(例えば、核酸)を公知の方法で抽出し、分析に供してもよい。この場合でも、分取した試料は、標的バイオマーカーが豊富化されており、検出率の向上等が期待できる。
【0061】
本発明の一の実施形態においては、上述した、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化された試料を得る方法で得られた試料を用いて、(細胞種に特有の)バイオマーカーによらずに、DNA Aneuploidyを分析する方法を提供する。
ここで、「DNA Aneuploidy」とは、細胞核のDNA量が正常体細胞とは異なる異常細胞を意味し、検体の細胞集団(通常、G0/1細胞集団)の最頻するDNA量(例えば、DAPI-Aの蛍光量で示される)を、正常2倍体細胞のG0/1細胞集団の最頻するDNA量で割った数値として表される、DNA indexにより評価することができる。
具体的には、上述した方法、好ましくは上述したフローサイトメトリーを用いて組織から腫瘍細胞またはその細胞核が有意に多く存在する粒子群を分取または選択する工程を含む方法によって、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化された試料を得(腫瘍細胞核豊富化試料)、他方、同じ組織または(例えば、腫瘍細胞の割合が多い場合)正常組織から、腫瘍細胞またはその細胞核が有意に多く存在する粒子群の選別または分取を行わない以外は同様にして、腫瘍細胞またはその細胞核が豊富化されていない試料を得(腫瘍細胞核非豊富化試料または正常細胞試料)、各試料について、粒子数とDNA量(例えば、DAPI-Aの蛍光量で示される)のヒストグラムを作成し、それぞれの試料における粒子数が最も多いDNA量を特定し、以下の式によりDNA indexを決定することにより、DNA Aneuploidyを評価することができる。
DNA index=腫瘍細胞核豊富化試料における粒子数が最も多いDNA量/腫瘍細胞核非豊富化試料または正常細胞試料における粒子数が最も多いDNA量
【0062】
従来は、例えば、サイトケラチンの蛍光量を横軸、ビメンチンの蛍光量を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞領域としてサイトケラチン陽性及びビメンチン陰性領域を、間質細胞領域としてサイトケラチン陰性及びビメンチン陽性領域をゲーティングし、ゲーティングしたそれぞれの集団について、DAPI-Aの蛍光量の最頻値を取得し、間質細胞領域の最頻値に対する癌細胞領域の最頻値の比を算出し、DNA indexを求めていた(非特許文献6)。しかし、本発明の上記実施形態によれば、このようなバイオマーカーに寄らずにDNA indexを求めることができる。これにより、バイオマーカーが欠損した症例(例えばサイトケラチン陰性乳癌)や、ビメンチンが陽性になる上皮間葉転換を起こした癌細胞群にも適応が可能になるといったメリットがある。なお、後述する通り、本発明の上記実施形態による方法は、従来のバイオマーカーを用いてDNA indexを求める方法と高い相関関係を有することが確認されている。
【0063】
3.キット
本発明は、他の実施形態において、組織片から目的とする細胞またはその細胞核が濃縮された試料を調製するためのキットを提供し、このキットは、細胞核の形態を保持するのに必要なタンパク質を分解しないが細胞外基質の構成成分または細胞間接着に関与する細胞膜タンパク質の少なくとも1つを分解し得る加水分解酵素を含む。
【0064】
キットに含まれる加水分解酵素は、上述した組織片から目的とする細胞またはその細胞核が豊富化された試料を調製する方法で述べたものと同じであり、例えば、トロンビン、プロリンエンドペプチターゼ、およびヒアルロニダーゼ、が挙げられ、特にトロンビン及び/又はヒアルロニダーゼが好ましい。
【0065】
加水分解酵素は、乾燥した固体の状態であってもよいし、緩衝液に溶解した状態であってもよい。固体の状態の場合には、キットには酵素を溶かすための溶液を含んでもよい。
【0066】
せん断力で組織の破砕を促進させる場合には、キットは、この破砕処理の際に酵素処理物を浸漬又は分散させるための緩衝液を含むでもよい。好ましくはこの緩衝液は界面活性剤を含む。界面活性剤としては、好ましくはCHAPS、NP-40、Triton-X100が挙げられ、NP-40、Triton-X100がより好ましい。
【0067】
組織として、固定された組織を用いる場合、キットは、加熱処理用の溶液を含んでよい。加熱処理用の溶液としては、クエン酸緩衝液、界面活性剤、キレート剤、および/または還元剤を含む溶液が好ましい。
【0068】
組織として、包埋された組織を用いる場合、キットは、脱包埋剤および親水化剤を含んでもよい。脱包埋剤としては、キシレン等の有機溶媒が挙げられ、親水化剤としては、濃度勾配をつけた複数濃度のエタノール溶液が挙げられる。
【0069】
本発明は、更に他の実施形態において、組織片から目的とする細胞またはその細胞核が豊富化された試料を調製し、この試料を用いて、細胞またはその細胞核に存在するバイオマーカーを分析するためのキットを提供し、このキットでは、上記加水分解酵素および任意に上記の前処理のための他の構成成分に加え、バイオマーカーを検出するための試薬を含む。
【0070】
バイオマーカーを分析(測定、定量または解析)するための試薬は、それぞれのバイオマーカーで利用されている既知の試薬でよい。バイオマーカーは、既に説明した通り、特に制限はなく、ポリヌクレオチド、核内タンパク質、核膜タンパク質および細胞内タンパク質が含まれる。キット中には、通常、標的バイオマーカーに結合するリガンド(例えば抗体又はプローブ等)または標的バイオマーカーを可視化する標識物質が含まれる。また、標的バイオマーカーに結合するリガンド(例えば抗体又はプローブ等)またはこれに結合する2次的なリガンドは、通常、標識物質で標識化される。また、通常、核酸染色用の化合物(例えば、DAPIやヨウ化プロピジウム(PI))が含まれる。
【0071】
4.システムおよびプログラム
本発明は、更に他の実施形態において、組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得るためのシステムを提供する。このシステムは、一の態様において、フローサイトメトリーにより試料を分析し、既知の細胞種が他の種の細胞または細胞核の群に比べ優位な数存在する領域を決定する工程と、検査対象組織を前処理して調製した試料から、この決定された領域に基づいて目的の細胞または細胞核が豊富化された試料を得る工程を実施する。
最初の工程は、既知の複数の細胞種を前述した前処理をすることにより得られた細胞核を含む粒子を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度および/または側方散乱(SSC)強度のヒストグラムまたはスキャッタグラムを得、得られたヒストグラムまたはスキャッタグラムにおいて、個々の細胞種の細胞核が、他の細胞種の細胞核に比べ優位な数存在する領域を決定することにより実施することができる。
また、第2の工程は、検査対象の組織片を前記前処理して調製した試料を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度および/または側方散乱(SSC)強度のヒストグラムまたはスキャッタグラムを得、得られたヒストグラムまたはスキャッタグラム中の、目的とする細胞と同種の細胞の細胞核について予め決定した領域の粒子群を選別または分取して実施することができる。
【0072】
本発明のシステムは、第2の態様において、標準物質を用いて検量線データを作成する工程と、検査対象の試料をフローサイトメトリーで分析して得られたデータをこの検量線データと照合して特定の粒径範囲にある粒子群を分別または分取する工程を実施する。
最初の工程は、既知の異なる粒径を有する標準粒子をフローサイトメトリーで分析し、得られた前方散乱(FSC)強度と前記標準粒子の粒径との検量線データを作成することにより実施できる。
また、第2の工程は、検査対象の組織片を前述した前処理をすることにより調製された試料を、フローサイトメトリーにより分析して前方散乱(FSC)強度のデータを得、得られた前方散乱(FSC)強度を検量線データと照合して、特定の粒径範囲にある粒子群を分別または分取することにより実施できる。
【0073】
上記の第2の態様において、例えば、10μm以上の粒径を持つ粒子群で構成され、11μm~20μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取することで、腫瘍細胞またはその核が豊富化された試料を得ることができる。
また、8μm以下の粒径を持つ粒子群で構成され、4μm~7μmの粒径を持つ粒子群が95%以上を占める領域の粒子群を分別または分取することで、リンパ球またはその核が豊富化された試料を得ることができる。
【0074】
本発明のシステムは、第3の態様において、上述した目的とする細胞または細胞核が豊富化されている粒子群を選別または分取するプロセスを実施するとともに、その前に、前述した前処理をして、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を得る工程を実施するシステムを提供する。
また、本発明のシステムは、第4の態様において、上述した目的とする細胞または細胞核が豊富化されている粒子群を選別または分取するプロセスと、任意に上記前処理とに加え、目的とする細胞または細胞核が豊富化されている試料を用いてバイオマーカーの分析を実施するシステムを提供する。
【0075】
これらのシステムは、上記の各工程を、通常、予め設定されたプログラムに従って実施する。従って、本発明は、他の実施形態において、システムに、上記の工程を実行させるプログラムも提供する。
【実施例】
【0076】
本発明を以下記載する試験に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の試験に示す例によって何ら限定されるべきものではない。
【0077】
<試験1>水流破砕による細胞核形態への影響
ホルマリンで固定化したヒト乳癌細胞を、水流破砕処理した後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメーター分析を行い、水流破砕の細胞核形態への影響を確認した。
【0078】
1.材料及び方法
1-1.細胞
ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231をATCCより入手し、本試験に使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
細胞培養は、10%のウシ胎児血清(FBS)を補ったLeibovitz‘s L-15培地で行った。細胞が十分に増殖した後に培養液を吸引し、PBSで洗浄したのちに、TrypLE Express(Thermofisher)を添加し、細胞を回収した。さらにPBSで細胞を十分に懸濁後1×106個に分注し、遠心分離、PBS除去を行い、10%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬)を添加後、4℃で24時間固定した。細胞は使用する前に、ホルマリン液を除去し、PBSで洗浄した。
1-3.加熱処理による架橋構造の除去
純水で10倍に希釈したナカライテスク社製Histo VT Oneをホルマリン固定された細胞に添加し、ヒートブロックで98℃、40分間加熱した。加熱後、室温にて20分間静置した後、Histo VT One液を除去した。
1-4.水流破砕
IKA社のホモジナイザー(T10)を用い、氷冷下、TBS1mL中で1分間破砕した。回転数は、7,100、および12,800rpmとした。また、回転刃と固定刃のクリアランスは、5Gシャフトジェネレータの0.1mmとした。
【0079】
1-5.免疫蛍光染色
水流破砕処理物を入れたマイクロチューブに、10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温で30分間静置し、ブロッキング処理した。免疫蛍光染色は、1次抗体として抗ラミンA抗体+抗ラミンB1抗体+抗ラミンC抗体の混合抗体(Abcam、ウサギモノクローナル抗体:Anti-Lamin A+Lamin B1+Lamin C antibody(ab108922))を用い、2次抗体としてヤギ抗ウサギIgG抗体(Thermofisher社Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor488)を使用した。1次抗体反応は37℃で15分間行い、2次抗体反応は室温で15分行った。2次抗体添加後10分で細胞核を染色する色素としてDAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体添加以降は遮光下で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、アイソタイプマッチドコントロールとして、1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種の抗体を用いた。
【0080】
1-6.蛍光顕微鏡による観察
顕微鏡観察には、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X810(キーエンス社)を使用した。観察時にはDAPIフィルター(Ex 360nm、Em 460nm)およびGFPフィルター(Ex 470nm、Em 510nm)を使用した。対物レンズは20倍を使用した。
1-7.フローサイトメーター測定
Falcon(登録商標)セルストレーナー 5mL チューブ用 35μm(380メッシュ、フローサイトメーター用)のフィルターを通過させた後に、レーザー強度のゲイン値(FSC:400、SSC:400)でフローサイトメーター(Agilent:NovoCyte Quanteon Flow Cytometer)測定を行った。
【0081】
1-8.
データ解析
得られた測定データの解析にはBecton Dickinson社製のソフトFlowJo v10.6.2を用いた。データ解析は以下の順で行った。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸とするグラフを作成し(
図1)、核内染色体2n以上の領域(
図1のI----Iで示す範囲)を細胞としてゲーティングした。次に、DAPI-H(高さ)を横軸、DAPI-A(面積)を縦軸としたスキャッタグラムを作成し(
図2)、枠で囲んだ範囲を核の主領域として選択した。選択した領域について、各水流破砕処理を行った細胞の前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラムを作成し(
図4、上段)、FSC強度およびSSC強度の平均値を算出した(下記表1)。また、選択した領域について、Alexa Fluor488の蛍光強度(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸とするヒストグラムを作成し、これにアイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ね合わせた(
図4、下段)。
【表1】
【0082】
2.
結果
図3に示すように、回転数が7,100rpm以上の水流破砕条件で処理した細胞においても、蛍光顕微鏡像から、未処理細胞と同様にラミンが観測された。
図4上段および表1の結果から、各水流破砕処理によりFSC(粒子サイズ)およびSSC(粒子の複雑さ)に有意な違いは観測されなかった。さらに、
図4下段に示す通り、フローサイトメーターの測定データにおいてもラミンの染色が確認された。したがって、水流破砕処理は細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【0083】
<試験2>水流破砕によるFFPE組織切片からの細胞核回収
乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理後、水流破砕を行い、核酸染色後フローサイトメーター分析を行い、細胞核回収に対する水流破砕の回転数および回転刃と固定刃のクリアランスの影響を評価した。
【0084】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した乳癌FFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
Thermofisher社製滑走式ミクロトームを用いてFFPEブロックより20umの薄切サンプルを作成した。
【0085】
1-3.脱パラフィン/親水化処理
薄切したFFPE切片に1mLのキシレンを添加し、10分間静置後、キシレンを除去した。この工程を再度行い、完全にパラフィンを除去した。次いで、100%エタノール、50%エタノール、脱イオン水の順に3分間ずつ曝し親水化した。
1-4.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-5.水流破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)またはIKA社のホモジナイザー(T10)を用い、氷冷下、加熱処理後の組織をTBS1mL中で、1分間破砕した。回転数は、RP-10で10,000rpm、T10で7,100、9,100、および12,800rpmとした。また、回転刃と固定刃のクリアランスは、RP-10で付属品の0.05mm、T10で5Gシャフトジェネレータの0.1mm、および8Gシャフトジェネレータの0.25mmとした。
【0086】
1-6.
核酸染色
破砕処理後の細胞に0.5%BSA/TBS及びDAPI Solution(和光)を添加し、室温下、遮光で5分間静置した。
1-7.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.
データ解析
得られた測定データの解析にはBecton Dickinson社製のソフトFlowJo v10.6.2を用いた。データ解析は以下の順で行った。DAPI-Aの蛍光強度を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上、2n、2n未満(組織デブリ)をそれぞれゲーティングした(
図5)。総解析数に対する2nの割合(2n回収率)、2nに対する2n未満の割合、および2n以上に対する2nの割合を算出した。
【0087】
2.
結果
図6に示すように、破砕装置や回転数、回転刃と固定刃のクリアランスに関わらず、9%以上の2n回収率を示した(上図)。また、2nに対する2n未満(組織破片)の割合は10倍未満で、一定であった(中央図)。さらに、2n以上に対する2nの割合は50%以上を示した(下図)。以上より、FFPEからの細胞核回収において、物理破砕の回転数が7,100から12,800rpmで、回転刃と固定刃のクリアランスが0.05から0.25mmの範囲で、一定の細胞核回収率を示すことが明らかとなった。
【0088】
<試験3>水流破砕によりFFPE組織切片から回収した細胞核の形態確認
乳癌FFPE組織切片に水流破砕処理を含む前処理を行った後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメーター分析を行い、水流破砕の細胞核形態への影響を確認した。
【0089】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-5.水流破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)またはIKA社のホモジナイザー(T10)を用い、氷冷下、加熱処理後の組織をTBS1mL中で、1分間破砕した。回転数は、RP-10で10,000rpm、T10で12,800rpmとした。また、回転刃と固定刃のクリアランスは、RP-10で付属品の0.05mm、T10で5Gシャフトジェネレータの0.1mmとした。
1-6.免疫蛍光染色
試験1と同様に行った。
1-7.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.データ解析
試験1と同様に行った。
【0090】
2.
結果
図7に示すように、FFPE組織切片に対して水流破砕処理を行うことにより回収した細胞核において、ラミンが観測された。また、フローサイトメーターの測定データにおいても、
図8に示す通り、同様の結果が得られた。よって水流破砕による処理は細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【0091】
<試験4>超音波破砕による細胞核形態への影響
ホルマリンで固定化したヒト乳癌細胞を、超音波処理した後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメーター分析を行い、超音波破砕の細胞核形態への影響を確認した。
【0092】
1.材料及び方法
1-1.細胞
ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231をATCCより入手し、本試験に使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
試験1と同様に行った。
1-3.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-4.超音波破砕
SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で30秒間破砕した。出力強度は、20%、30%または40%の振幅とした。
1-5.免疫蛍光染色
試験1と同様に行った。
1-6.蛍光顕微鏡による観察
試験1と同様に行った。
1-7.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.データ解析
試験1と同様に行った。
【0093】
2.
結果
図9に、蛍光顕微鏡でラミンおよびDAPIについて観察した際の画像を示す。また、
図10上段に各超音波破砕処理を行った細胞のFSCを横軸、SSCを縦軸としたスキャッタグラムを示し、表2にFSC強度およびSSC強度の平均値を示す。また、
図10下段に、Alexa Fluor488の蛍光量(ラミン量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを示す。
図9に示すように、いずれの超音波破砕条件で処理した細胞においても、蛍光顕微鏡像から、未処理細胞と同様にラミンが観測された。
図10上段および表2に示すように、各超音波破砕処理によりFSC(粒子サイズ)およびSSC(粒子の複雑さ)に有意な違いは観測されなかった。また、
図10下段に示す通り、フローサイトメーターの測定データにおいてもラミンの染色が確認された。したがって、超音波破砕処理は細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【表2】
【0094】
<試験5>水流破砕と超音波破砕の組み合わせによるFFPE組織切片からの細胞核回収
乳癌FFPE組織切片を脱パラフィンおよび親水化処理をし、加熱処理をし、水流破砕および超音波破砕を行い、核酸染色後フローサイトメーター分析を行い、細胞核回収に対する超音波破砕の強度の影響を評価した。
【0095】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.抗原賦活化処理
試験1と同様に行った。
1-5.水流破砕および超音波破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、加熱処理後の組織をTBS1mL中で10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を、出力強度を20%、30%、または40%の振幅として30秒間破砕した。
1-6.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-7.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.データ解析
試験2と同様に行った。
【0096】
2.
結果
図11に示すように、水流破砕と超音波破砕を組み合わせた場合、超音波強度の増加に伴い、2n回収率の減少が確認された。一方、2nに対する2n未満(組織破片)の割合は増加し、特に破砕強度40%において増加が顕著であった。したがって、超音波破砕処理により、2nが減少しているのではなく、総解析数(組織破片)の増加により、見かけ上2n回収率が減少していることが示唆された。実際、2n以上に対する2nの割合は、超音波強度に関わらず70%以上を示し、超音波破砕の未処理と比較して増加した。以上より、FFPEからの細胞核回収において、水流破砕と超音波破砕の組み合わせは、超音波強度を増加させると2n未満の組織破片を増加させるものの、2n以上の凝集物の破砕に効果的であり、回収効率を向上させることが示唆された。
【0097】
<試験6>水流破砕と超音波破砕の組み合わせにおける超音波破砕時間の検証
乳癌FFPE組織切片に水流破砕と超音波破砕処理を含む前処理を行った後、核酸染色し、フローサイトメーター分析を行い、細胞核回収に対する超音波破砕時間の影響を評価した。
【0098】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.抗原賦活化処理
試験1と同様に行った。
1-5.水流破砕および超音波破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、加熱処理後の組織をTBS1mL中で10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を出力強度20%、および30%で1分、2分、および3分間破砕した。
1-6.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-7.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.データ解析
試験2と同様に行った。
【0099】
2.
結果
図12に示すように、超音波強度を増加させた場合と同様に、出力強度20%、および30%の振幅において破砕時間が長くなるにつれ、2n回収率の減少および2nに対する2n未満(組織破片)の割合の増加が確認された。特に、破砕時間2分以降において2nに対する2n未満(組織破片)の割合の増加が顕著であった。破砕時間を長くすることにより、組織デブリが増加しこれにより総解析数が増加したため、見かけ上2n回収率が減少していることが示唆された。実際、2n以上に対する2nの割合は、破砕時間に関わらず70%以上を示し、超音波破砕の未処理と比較して増加した。
以上より、FFPEからの細胞核回収において、超音波破砕時間の増加は、破砕強度を増加させた場合と同様に、2n未満の組織破片を増加させるものの、2n以上の凝集物の破砕に効果的であり、回収効率を向上させることが示唆された。
【0100】
<試験7>水流破砕と超音波破砕の組み合わせによりFFPE組織切片から回収した細胞核の形態確認
乳癌FFPE組織切片に水流破砕と超音波破砕処理を含む前処理を行った後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメーター分析を行い、水流破砕の細胞核形態への影響を確認した。
【0101】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-5.水流破砕および超音波破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、加熱処理後の組織をTBS1mL中で10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を出力強度20%で1分間破砕した。
1-6.免疫蛍光染色
試験1と同様に行った。
1-7.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-8.データ解析
試験1と同様に行った。
【0102】
2.
結果
図13に示すように、FFPE組織切片に対して水流破砕および超音波破砕を行うことにより回収した細胞核において、ラミンが観測された。また、フローサイトメーターの測定においても、
図14に示す通り、同様の結果が得られた。よって、水流破砕と超音波破砕の組み合わせ処理は、細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【0103】
<試験8>異なる酵素処理によるホルマリン固定化細胞の細胞核形態への影響
ホルマリンで固定化したヒト乳癌細胞を、種々の酵素で処理した後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観測およびフローサイトメーター分析を行った。
【0104】
1.材料及び方法
1-1.細胞
ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231をATCCより入手し、本試験に使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
試験1と同様に行った。
1-3.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-4A.酵素処理(トロンビン)
上記加熱処理後の細胞に、トロンビン試薬(25mMTris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1000KU/Lトロンビン、10mMCaCl2)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-4B.酵素処理(ディスパーゼ)
上記加熱処理後の細胞に、ディスパーゼ試薬(25mMTris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、3000PU/mLディスパーゼ)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-4C.酵素処理(トリプシン)
上記加熱処理後の細胞に、トリプシン試薬(25mMTris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、2.5mg/mLトリプシン)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-4D.酵素処理(プロリンエンドペプチダーゼ)
上記加熱処理後の細胞に、プロリンエンドペプチダーゼ試薬(25mM Tris-HCl pH7.4、10KU/L プロリンエンドペプチダーゼ)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-4E.酵素処理(ヒアルロニダーゼ)
上記加熱処理後の細胞に、ヒアルロニダーゼ試薬(25mM Tris-HCl pH7.4、150mM NaCl、4000-10000KU/L ヒアルロニダーゼI―S、7500-30000KU/L ヒアルロニダーゼIV―S)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-4F.酵素未処理
上記加熱処理後の細胞に、緩衝液(25mMTris-HCl、pH7.4、150mM NaCl)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。
1-5.免疫蛍光染色
試験1と同様に行った。
1-6.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-7.データ解析
試験1と同様に行った。
【0105】
2.
結果
図15に示すようにディスパーゼおよびトリプシンで処理した細胞の蛍光顕微鏡像からラミンを観測できなかったが、トロンビン、プロリンエンドペプチダーゼおよびヒアルロニダーゼで処理した細胞の蛍光顕微鏡像からは、未処理と同様にラミンが観測された。また、フローサイトメーター測定の結果からも、
図16に示す通り同様の結果となった。よって、トロンビン、プロリンエンドペプチダーゼおよびヒアルロニダーゼによる処理は細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【0106】
<試験9>FFPE組織切片からの細胞核回収における酵素処理の影響
乳癌FFPE組織切片に対して、酵素処理を行った後、水流破砕と超音波破砕処理を含む前処理を行った後、核内骨格タンパク質を免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメーター分析を行い、酵素処理の細胞核形態への影響を確認した。
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-5A.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に行った。
1-5B.酵素処理(ディスパーゼ)
試験8と同様に行った。
1-6.水流破砕および超音波破砕
トロンビン処理後の組織を試験7と同様に処理した。
1-7.免疫蛍光染色
試験1と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.データ解析
試験1と同様に行った。
【0107】
2.
結果
図17に示すように、FFPE組織切片からの細胞核回収に対して、ディスパーゼで処理した場合、蛍光顕微鏡像からラミンを観測できなかった。一方で、水流破砕および超音波破砕に対してトロンビン処理を追加した場合において、ラミンが観測された。また、フローサイトメーターの測定においても、
図18に示す通り、同様の結果が得られた。よって、細胞核回収における物理破砕へのトロンビン処理の追加は、細胞核の形態に影響を与えないことが示唆された。
【0108】
<試験10>ホルマリン固定化細胞中の癌細胞及びリンパ球細胞の選別
ホルマリンで固定化した乳癌細胞およびTリンパ球を、加熱処理およびトロンビン処理を行った後、核酸染色し、フローサイトメーターで分析し癌細胞及びリンパ球細胞の分布を比較した。
【0109】
1-1.細胞
ヒト乳癌細胞株T47D、MDA-MB-231およびSKBr3、ならびにヒトTリンパ球細胞株JurkatをATCCより入手し、本試験に使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
ヒト乳癌細胞株T47D、MDA-MB-231およびSKBr3は、それぞれ10%のFBSを補ったRPMI-1640培地、Leibovitz’s L-15培地およびMcCoy’s 5A培地で培養した。また、Jurkat細胞株は、10%のFBSを補ったRPMI-1640培地で培養した。十分に増殖した後に、細胞を回収し、試験1と同様に、ホルマリン固定した。
1-3.加熱処理による架橋構造の除去
試験1と同様に行った。
1-4.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に行った。
1-5.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-6.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-7.データ解析
試験1と同様に、DAPIーAの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸とするグラフ上で、核内染色体2n以上の領域を細胞としてゲーティングし、このゲーティングした集団を、前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラム上に展開した。
【0110】
2.
結果
図19に、前方散乱(FSC)を横軸とし、側方散乱(SSC)を縦軸とした各細胞のスキャッタグラムを示す。各細胞のスキャッタグラムから、トロンビン処理がなされた細胞群では、癌細胞とリンパ球細胞で分布が異なることが確認できた。
【0111】
<試験11>ホルマリン固定化細胞中の癌細胞及びリンパ球細胞の粒径の定量
粒径が既知の合成ビーズをフローサイトメーターで測定して、前方散乱(FSC)強度と粒径との回帰式を求め、この回帰式に基づきホルマリン固定化細胞中の癌細胞及びリンパ球細胞の粒径を定量した。
【0112】
1.
材料及び方法
1-1.
サイズキャリブレーションビーズ溶液の調製
Thermofisher社より購入したサイズキャリブレーションビーズ(Flow Cytometry Size Calibration Kit)を用いた。ビーズ溶液は添付文書に従い調製した。
1-2.
フローサイトメーターで測定および回帰式の作成
ビーズ溶液を、試験1と同様にしてフローサイトメーターで測定した。得られたデータから、Becton Dickinson社製のソフトFlowJo v10.6.2を用いて各サイズのキャリブレーションビーズのFSC強度を横軸とし粒子数を縦軸としたヒストグラムで(図示せず)、各サイズのビーズについてFSC強度の最頻値を算出した。横軸に粒子のサイズ、縦軸にFSC-Hの強度最頻値をプロットしたグラフを作成し(
図20)、2次回帰式(y=0.0062x
2+0.13x+0.020、R=0.9975)を算出した。
1-3.
各細胞株の粒径の定量
試験10で得られた4種の細胞株のフローサイトメーター測定データから、FlowJo v10.6.2を用いて、FSC強度を横軸とし粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し(
図21)、5パーセンタイル値、95パーセンタイル値を算出した。各細胞株の5パーセンタイル値および95パーセンタイル値は以下の通り。
【表3】
5パーセンタイル値と95パーセンタイル値の間の区間を、各細胞株の主要な集団とみなし、上記回帰式に基づき、この区間の各細胞株のFSC-H強度から各細胞株の粒径を算出した。
【0113】
2.
結果
算出された各細胞株の粒径の範囲を以下に示す。
【表4】
これらの結果から、10μm以上の範囲のゲーティングによりヒト乳癌細胞を大部分のリンパ球から分離し得ることが示めされた。
【0114】
<試験12>ホルマリン固定化細胞中のリンパ球と癌細胞の側方散乱強度による選別
試験10のフローサイトメーター測定で得られた側方散乱(SSC)強度からリンパ球と癌細胞を選別可能な領域を決定した。
【0115】
1.
方法
試験10で得られた4種の細胞株のフローサイトメーター測定データから、FlowJo v10.6.2を用いて、SSC強度を横軸とし粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し(
図22)、5パーセンタイル値、95パーセンタイル値を算出した。各細胞株の5パーセンタイル値および95パーセンタイル値は以下の通り。
【表5】
【0116】
2.結果
得られた各細胞株のSSC-H強度の分布から、SSC-H強度が1.00×106以上の領域をゲーティングする事で大部分のヒト乳癌細胞をリンパ球から分離し得ることが示めされた。
【0117】
<試験13>FSC-SSCスキャッタグラム上の乳癌組織由来の細胞核若しくはリンパ球由来の細胞核の分布及びそれに基づく選別
乳癌FFPE組織および正常リンパ節FFPE組織の切片に、加熱処理、トロンビン処理、水流破砕処理および超音波破砕処理を含む前処理を施した後、核酸染色し、フローサイトメーターによって分析した。
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験1と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.データ解析
試験1と同様に、DAPIーAの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸とするヒストグラム上で、核内染色体2n以上の領域を細胞としてゲーティングし、前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラム上にこのゲーティングした集団を展開した。
【0118】
2.
結果
癌細胞由来の細胞核、及びリンパ球由来の細胞核のFSC-SSCスキャッタグラムを重ねて表示し(
図23)、両細胞核の分布を比較した。癌細胞由来の細胞核とリンパ球由来の細胞核の分布は異なり、試験11および12で決定したFSC-H強度:2.00×10
6(10μm)以上、およびSSC-H強度:1.00×10
6以上の領域で(
図23の右上の領域)、癌細胞由来の細胞核がリンパ球由来の細胞核から分離できることが確認された。
【0119】
<試験14>他機種のフローサイトメーターによるホルマリン固定化細胞中の癌細胞及びリンパ球細胞の粒径の定量
試験11で行った癌細胞及びリンパ球細胞の粒径の定量を他機種でも行えることを確認した。
1.材料及び方法
1-1.サイズキャリブレーションビーズとビーズ溶液の調製
試験11と同様に行った。
1-2.フローサイトメーター測定
ビーズ溶液を、Sysmex社のCyflow SpaceおよびBecton Dickinson社FACSAriaIIで測定した。Sysmex社のCyflow Spaceは、FSCのレーザー強度ゲイン値200、SSCのレーザー強度ゲイン値290で、Becton Dickinson社FACSAriaIIは、FSCのレーザー強度ボルテージ値65、SSCのレーザー強度ボルテージ値320で測定を行った。
1-3.回帰式の作成
試験11と同様にして、横軸に粒子のサイズ、縦軸にFSC-Hの強度最頻値をプロットしたグラフを作成し、回帰式を算出した。
【0120】
2.
結果
図24は、Sysmex社のCyflow SpaceおよびBecton Dickinson社FACSAriaIIでビーズ溶液を測定して得られたデータから作成した、横軸に粒子の粒径、縦軸にFSCの強度最頻値をプロットしたグラフである。Cyflow Spaceでは直線回帰式:y=19.5x-19.3(R=0.9996)が得られ、FACSAriaIIでは、2次回帰式:y=0.04x
2+5.32x-2.27(R=0.9939)が得られた。これらの回帰式より、粒径10μmに対応するFSC-H強度は、それぞれ180(Cyflow Space)、55×10
3(FACSAriaII)と決定された。
【0121】
<試験15>他機種のフローサイトメーターによるホルマリン固定化細胞中の癌細胞の選別
ホルマリン固定化細胞中の癌細胞の選別を他機種でも行えることを確認した。
1-1.細胞
試験10と同じ細胞株(ヒト乳癌細胞株T47D、MDA-MB-231およびSKBr3、ならびにヒトTリンパ球細胞株Jurkat)を使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
試験10と同様に行った。
1-3.加熱処理
試験1と同様に行った。
1-4.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に行った。
1-5.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-6.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
【0122】
1-7.
データ解析
試験1と同様に、DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸とするヒストグラム上で、核内染色体2n以上の領域を細胞としてゲーティングし、前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラム上にこのゲーティングした集団を表示した(
図25:Cyflow Space、
図26:FACSAriaII)。また、FlowJo v10.6.2を用いて、SSC強度を横軸とし粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し(
図27:Cyflow Space、
図28:FACSAriaII)、5パーセンタイル値、95パーセンタイル値を算出した。Cyflow Space、およびFACSAriaIIで得られた各細胞株の5パーセンタイル値および95パーセンタイル値を以下に示す(表6:Cyflow Space、表7:FACSAriaII)。
【表6】
【表7】
【0123】
2.
結果
図25および26に示す通り、Cyflow SpaceおよびFACSAriaIIのいずれでも、癌細胞由来の細胞核とリンパ球細胞核は、スキャッタグラム上で異なる位置に分布した(
図25:Cyflow Space、
図26:FACSAriaII)。また、
図27および
図28に示すデータから、特定のSSC強度を用いる事で癌細胞核とリンパ球細胞核を選別可能であることが示唆され、表6および7に示す数値から、Cyflow Space及びFACSAriaIIにおける癌細胞核の分離、濃縮のためのSSC強度がそれぞれ130と100×10
3と決定された。これに、試験14で決定したFSC強度、180(Cyflow Space)および55×10
3(FACSAriaII)を組み合わせて、SSCを縦軸とし、FSCを横軸とするスキャッタグラム(
図29)上で、癌細胞核を選別可能な領域が決定された(
図29の右上の領域)。
図29から明らかな通り、この領域では、癌細胞核が殆どであり、リンパ球細胞核から選別できる。
【0124】
<試験16>癌細胞由来の細胞核が支配的に存在すると特定された領域における粒子の観察、及びサイズ測定
癌細胞由来の細胞核が支配的に存在すると特定された領域に含まれる粒子を分取し、蛍光顕微鏡で観察し、鏡検画像データを解析することにより、サイズを定量した。
【0125】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
試験2と同様に行った。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験1と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
【0126】
1-7.
免疫蛍光染色
破砕物に対し、10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温下30分間静置し、ブロッキング処理をした。免疫蛍光染色は、1次抗体としてpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体:Anti-wide spectrum Cytokeratin antibody(AB9377-500))を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor488を使用した。1次抗体の反応時間は37℃で15分、2次抗体の反応時間は室温で15分とした。2次抗体を添加後10分で細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体の添加以降は遮光で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。
1-8.
セルソーターによる分取、サンプル調製
Falcon(登録商標) セルストレーナー 5mL チューブ用 35μm(380メッシュ)(フローサイトメーター用)のフィルターを通過させた後に、Becton Dickinson社FACSAriaIIをFSCのレーザー強度ボルテージ値65、SSCのレーザー強度ボルテージ値320で測定を行った。分画に関しては、DAPI―Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングし、その後、FSCを横軸、SSCを縦軸としたスキャッタグラム上にゲーティングした集団を展開し(
図30)、エリア1の領域(FSC-H強度125×10
3~200×10
3,SSC-H強度100×10
3~200×10
3)と、対照としてエリア2の領域(FSC-H強度40×10
3~100×10
3,SSC-H強度10×10
3~90×10
3)からそれぞれ100000個の細胞を分取した。分取細胞はPBS緩衝液に入れ、約20000個の細胞をスライドガラスに乗せカバーガラスを被せた。
1-9.
蛍光顕微鏡
試験1と同様に行った。
1-10.
画像解析
画像解析により、各細胞の長径及び短径を計測し、平均値を算出した。画像解析には、画像処理ソフトウェアであるImageJ(開発元:National Institutes of Health)を使用した。DAPIの蛍光に由来するピクセルの輝度値を基に、輝度値の二値化を行って細胞核を決定し、スケールバーの情報を基準に、細胞核の長径及び短径を算出し、一視野内の細胞核の長径及び短径の平均値を求めた(表8)。
【表8】
【0127】
2.
結果
図31にエリア1および2のDAPI及びサイトケラチンの鏡検像を示した。エリア1の粒子はサイトケラチンが染色されているが、エリア2では染色されていない。また、表8に示す画像解析の結果より、エリア1の粒子サイズはエリア2の粒子サイズより大きかった。以上の結果より、エリア1には癌細胞由来の細胞核が濃縮されており、対照的にエリア2にはリンパ球由来の細胞核を多く含む粒子集団が存在していることが示唆された。すなわち、特定領域の粒子集団を分取する事で、癌細胞由来の細胞核が支配的に存在する集団をリンパ球由来の細胞核から分離することができた。
【0128】
<試験17>リンパ球細胞核の画分を用いた他機種測定
試験16でリンパ球由来の細胞核を多く含むとして分取されたエリア2の粒子集団を他機種のフローサイトメーターで測定し、試験13および試験15で、癌細胞由来の細胞核を選別可能と決定された領域にリンパ球由来の細胞核がどの程度混入するかを確認した。
【0129】
1.材料及び方法
1-1.サンプル調製
試験16で分取したエリア2の画分を用いた。
1-2.フローサイトメーター測定
試験1および試験14と同様に行った。
1-3.データ解析
取得したフローサイトメーターデータはゲーティング処理せずに、FSC-SSCスキャッタグラム上に集団を展開した。
【0130】
2.
結果
Becton Dickinson社のセルソーターで分取したエリア2(
図30)の画分は、
図32に示す通りNovoCyte Quanteon Flow Cytometer、及びCyflow Spaceのフローサイトメーターで測定しても、癌細胞核の領域にはほぼ含まれない(0.48%および1.25%)。いずれの機種でも、癌細胞由来の細胞核を多く含むとして特定された領域は、リンパ球由来の細胞核を含まず、機種間差がない事が示された。
【0131】
<試験18>ホルマリン固定化細胞を異なる酵素で処理した場合の癌細胞及びリンパ球細胞の選別
ホルマリンで固定化した乳癌細胞およびリンパ球細胞に対して、異なる酵素での処理を含む前処理を行い、核酸染色後、フローサイトメーターで分析し、FSC-SSCスキャッタグラム上の分布を比較した。
1.材料及び方法
1-1.細胞
ヒト乳癌細胞株T47D、MDA-MB-231およびSKBr3、ならびにヒトTリンパ球細胞株JurkatをATCCより入手し、本試験に使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
試験10と同様に行った。
1-3.加熱処理
試験1と同様に行った。
1-4A.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に行った。
1-4B.酵素処理(ディスパーゼ)
試験8と同様に行った。
1-5.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-6.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-7.データ解析
試験1と同様にゲーティングし、前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラム上にこのゲーティングした集団を展開した。また、異なる酵素での処理による影響を比較するために、各乳癌細胞についてのスキャッタグラムにリンパ球細胞のスキャッタグラムを重ねて表示した。
【0132】
2.
結果
図33に示すように、ディスパーゼで処理した場合、乳癌細胞株の種類によってはリンパ球細胞との分離が難しく、一方トロンビン処理では分離が容易である事が確認された。細胞核の分離には、細胞核形態の保持が重要であることが示唆された。
【0133】
<試験19>FFPE組織切片を異なる酵素で処理した場合の乳癌組織由来の細胞核若しくはリンパ球由来の細胞核の分布及びそれに基づく選別
乳癌と正常リンパ節のFFPE組織に対して、異なる酵素での処理を含む前処理を行い、核酸染色後、フローサイトメーターで分析し、FSC-SSCスキャッタグラム上の分布を比較した。
【0134】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
測定試料として、Proteogenex社より購入した乳癌及び正常リンパ節FFPE組織を用いた。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験1と同様に処理した。
1-5A.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-5B.酵素処理(ディスパーゼ)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.核酸染色
試験2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.データ解析
試験1と同様にゲーティングし、前方散乱(FSC)を横軸、側方散乱(SSC)を縦軸としたスキャッタグラム上にこのゲーティングした集団を展開した。また、異なる酵素での処理による影響を比較するために、乳癌FFPE組織についてのスキャッタグラムに正常リンパ節FFPE組織のスキャッタグラムを重ねて表示した。
【0135】
2.
結果
図34に示すように、ディスパーゼで処理した場合、癌細胞核とリンパ球細胞核の分離が難しく、一方トロンビン処理では分離が可能である事が確認された。
【0136】
<試験20>癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無によるKi-67陽性率と病理医のIHC法による陽性率、及び一致率の比較検討
FFPE組織切片に前処理を施し、Ki-67抗体による免疫蛍光染色後フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無の場合について病理医のIHC法による陽性率との相関関係を確認した。また、陽性・陰性一致率に関して統計解析を実施した。
【0137】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、IHC法によってKi-67陽性率が異なる49人の患者より得られた49種のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験1と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温で30分間静置して、ブロッキング処理を実施した。免疫蛍光染色は、1次抗体としてKi-67抗体(Agilent、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor 647を使用した。1次抗体の反応時間は37℃で15分とし、2次抗体の反応時間は室温で15分とした。2次抗体添加後10分で細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体の添加以降は遮光下で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、アイソタイプマッチドコントロールとして1次抗体の代わりに対応する1次抗体と同種、同濃度の抗体を用いた。
【0138】
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.フローサイトメーターによるKi-67陽性率の算出
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした。その後、ゲーティングした集団について、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域としてFSC-H強度の2.00×106~5.00×106、及びSSC-H強度の1.00×106~2.00×106をゲーティングした。癌細胞核領域としてゲーティングした集団およびゲーティングしていない集団について、蛍光量(Ki-67の量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し、これにアイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ね、Ki-67の陽性核の閾値はアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値とした。Ki-67の陽性率は全細胞核中のKi-67陽性核の割合として算出した。得られた陽性率は陽性核のカットオフをアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値としているため5%を減じて用いた。
1-10.IHC法によるKi-67陽性率算出
IHC法によるKi-67陽性率は1次抗体としてKi-67抗体(Agilent、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)を用い、ホットスポット法により算出された。
1-11.統計解析
MedCalc Software社のMedCalc v19.4.1を用い統計解析を実施した。IHC法による結果からKi-67陽性、陰性のカットオフを20%として2値化し、フローサイトメーターのゲート有無の結果とROC解析を行い、AUCを算出した。
【0139】
2.
結果
Ki-67陽性率におけるIHC法との相関性を
図35に示す。IHC法をX、フローサイトメーターによる本法をYとして相関性を確認した。
図35に示すように、癌由来細胞核の領域のゲーティング有がy=0.80x-2.39、R=0.9126、当該ゲーティング無がy=0.54x-1.40、R=0.8874となりゲーティングによって傾き、及び相関係数の向上が確認された。また、
図36に100-特異度(%)をX、感度(%)をYとしROC解析を実施した結果を示す。下記の表に示す通り、ゲート有がAUC=0.959、ゲート無がAUC=0.899であり、ゲート有無間の統計学的有意差も確認された(p=0.0442、95%信頼区間0.00156-0.118)。
【表9】
以上より、ゲーティングによって癌細胞核が濃縮されたことにより、IHC法との相関性と陽性・陰性の一致率が向上し、正確に癌細胞核中のKi-67を検出できることが確認された。
【0140】
<試験21>癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無によるER及びPgR陽性率の検討
FFPE組織切片に前処理を施し、ER抗体及びPgR抗体による免疫蛍光染色後フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無による陽性率を比較した。
【0141】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
ER及びPgRの陽性試料として、Proteogenex社より購入したER陽性検体A(Allred Score ER8)、及びPgR陽性検体B(Allred Score PgR8)を用い、ER及びPgRの陰性試料として、ER及びPgR陰性検体C(Allred Score ER0及びPgR0)のFFPE組織切片を用いた。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
【0142】
1-7.
免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温で30分間静置して、ブロッキング処理を実施した。免疫蛍光染色は、1次抗体としてER抗体(Agilent、クローン:EP1、ラビットモノクローナル抗体)またはPgR抗体(Agilent、クローン:PgR636、マウスモノクローナル抗体)を用い、2次抗体はGoat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor488、およびThermofisher社Goat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor 647を使用した。1次抗体の反応時間は37℃で15分とし、2次抗体の反応時間は室温で15分とした。2次抗体を添加後10分で細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体を添加した以降は遮光下で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、アイソタイプマッチドコントロールとして1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種、同濃度の抗体を用いた。ER抗体はCellsignaling technology社のラビットIgG抗体を使用し、PgR抗体はAgilent社のマウスIgG抗体を用いた。
1-8.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.
ER及びPgR陽性率の算出
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした。ゲーティングした集団について、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域としてFSC-H強度の2.00×10
6~5.00×10
6、及びSSC-H強度の1.00×10
6~2.00×10
6をゲーティングした。癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、蛍光量(ER及びPgRの量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示した(
図37および
図38)。ER及びPgRの陽性核の閾値はアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値とし、ER及びPgRの陽性率は全細胞核中のER陽性核及びPgR陽性核の割合として算出した。癌細胞核領域のゲーティング無しについても同様に陽性率を算出した。得られた陽性率は陽性核のカットオフをアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値としているため5%を減じて用いた。
【0143】
2.
結果
図37および
図38に示す通り、ERの陽性率およびPgR陽性率は、いずれも癌由来細胞核領域のゲーティングによって向上した。
【0144】
<試験22>癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無によるサイトケラチンサブタイプの陽性率の検討
FFPE組織切片に前処理を施し、サイトケラチン7及び20抗体による免疫蛍光染色後フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無による陽性率を比較した。
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、乳癌のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
【0145】
1-7.
免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温で30分間静置して、ブロッキング処理を実施した。免疫蛍光染色は、1次抗体としてサイトケラチン7抗体(Abcam、ウサギモノクローナル抗体)及びサイトケラチン20抗体(Abcam、マウスモノクローナル抗体)を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor488、及びGoat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor 647を使用し二重染色した。1次抗体の反応時間は37℃で15分とし、2次抗体の反応時間は室温で15分とした。2次抗体の添加後10分で細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体を添加した以降は遮光下で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、アイソタイプマッチドコントロールとして1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種の抗体を用いた。サイトケラチン7抗体はCellsignaling technology社のラビットIgG抗体を使用し、サイトケラチン20抗体はAgilent社のマウスIgG抗体を用いた。
1-8.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.
サイトケラチンサブタイプ陽性率の算出
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした。ゲーティングした集団について、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌特定領域としてFSC-H強度の2.00×10
6~5.00×10
6、及びSSC-H強度の1.00×10
6~2.00×10
6をゲーティングした。癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、蛍光量(サイトケラチン7および20の量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを作成し、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示した(
図39)。サイトケラチン7と20の陽性核の閾値はアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値とし、サイトケラチン7と20の陽性率は全細胞核中のサイトケラチン7及び20陽性核の割合として算出した。癌特定領域のゲーティング無しについても同様に陽性率を算出した。
【0146】
2.
結果
図39に示す通り、癌細胞核領域のゲーティングによりサイトケラチン7の陽性率が向上した。他方、当該ゲーティングの有無に関わらずサイトケラチン20は陰性を保持していた。乳癌において、サイトケラチン7が陽性で、サイトケラチン20が陰性を示す事は公知である。本法においてもサイトケラチン20について同様の結果が確認されるとともに、サイトケラチン7については陽性率を向上できることが確認された。
【0147】
<試験23>特定領域のゲーティングによるリンパ球由来の細胞核及び正常細胞由来の細胞核の濃縮検討
同一乳癌患者由来の癌部及び非癌部(正常細胞)のFFPE組織切片と、正常リンパ節のFFPE組織切片とに所定の前処理を施し、核酸染色後フローサイトメーターで分析し、FSC-SSCスキャッタグラム上の特定領域におけるリンパ球由来の細胞核及び正常細胞由来の細胞核の割合を確認した。
【0148】
1.
材料及び方法
1-1.
FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、同一乳癌患者由来の癌部及び非癌部のFFPE組織ブロック、正常リンパ節のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.
FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.
脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.
加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.
酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.
水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.
核酸染色
試験2と同様に行った。
1-8.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.
データ解析
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした。その後、ゲーティングした集団を、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムに展開した。
図40に、癌部組織の細胞由来の核、非癌部組織の細胞由来の核、および正常リンパ節の細胞由来の核のスキャッタグラムを示し、
図41にこれらを重ねたスキャッタグラムを示す。
図41に示すエリア3およびエリア4の2箇所をゲーティングし、各細胞核の割合を算出した。
【0149】
2.
結果
エリア3およびエリア4に含まれる各細胞核の割合を以下に示す。
【表10】
エリア3に含まれる各細胞核の割合は、正常細胞核が4.7%、癌細胞核が3.3%であり、エリア3にはリンパ球由来細胞核が濃縮されていた。また、エリア4に含まれる各細胞核の割合は、リンパ球由来細胞核が0.6%、癌細胞核が1.9%であり、エリア4には正常細胞核が濃縮されていた。従って、エリア3およびエリア4のゲーティングにより、リンパ球由来細胞核、及び正常細胞核を分離・濃縮可能な事が示された。
【0150】
<試験24>大腸癌症例を用いた癌由来細胞核の領域のゲーティング有無によるKi-67の陽性率の検討
大腸癌FFPE組織切片に所定の前処理を施し、Ki-67抗体による免疫蛍光染色後フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無の場合について陽性率を比較した。
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、大腸癌のFFPE組織ブロック(症例1:S字結腸、症例2:直腸)を使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
物理的破砕処理後の組織について、試験20と同様にして免疫蛍光染色を行った。
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.フローサイトメーターによるKi-67陽性率の算出
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした。その後、FSC-H(前方散乱)を横軸、SSC-H(側方散乱)を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域のゲーティングとしてFSC-H強度の2.00×106~5.00×106、及びSSC-H強度の1.00×106~2.00×106をゲーティングした。Ki-67の陽性率は全細胞核中のKi-67陽性核の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプマッチドコントロールの95パーセンタイル値とした。癌細胞核領域のゲーティング無しについても同様に陽性率を算出した。
【0151】
2.
結果
図42は、各症例の組織について、癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、蛍光量(Ki-67の量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。
図42に示す通り、いずれの症例においても癌細胞核領域のゲーティングにより、Ki-67の陽性率が向上した。従って、癌細胞核領域のゲーティングによる濃縮は乳癌以外の異なる癌種にも有効な事が示された。
【0152】
<試験25>大腸癌症例を用いた癌由来細胞核の領域のゲーティング有無によるサイトケラチンサブタイプの陽性率の検討
大腸癌FFPE組織切片に所定の前処理を施し、サイトケラチン7及び20抗体による免疫蛍光染色後フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無の場合について陽性率を比較した。
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、大腸癌のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
物理的破砕処理後の組織について、試験22と同様にして免疫蛍光染色を行った。
1-8.フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.サイトケラチンサブタイプ陽性率の算出
試験22と同様に行った。
【0153】
2.
結果
図43は、癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、蛍光量(サイトケラチン20および7の量に対応する)を横軸、粒子数を縦軸としたヒストグラムを、アイソタイプマッチドコントロールのヒストグラムを重ねて示す。
図43に示す通り、癌細胞核領域のゲーティングによりサイトケラチン20の陽性率が向上した。他方、当該ゲーティングの有無に関わらずサイトケラチン7は陰性を保持していた。大腸癌において、サイトケラチン20が陽性で、サイトケラチン7が陰性を示す事は公知である。本法においてもサイトケラチン7について同様の結果が確認されるとともに、サイトケラチン20については陽性率を向上できることが確認された。従って、癌細胞核領域のゲーティングによる濃縮は乳癌以外の異なる癌種にも有効な事が示された。
【0154】
<試験26>癌細胞核濃縮画分による遺伝子変異検出の検討
KRAS遺伝子変異を有する大腸癌患者由来の癌部及び非癌部(正常細胞)のFFPE組織切片所定の前処理を施した後、混合する事で癌占有率の低いサンプルを調製した。その後セルソーターで癌細胞核を濃縮し、リアルタイムPCRを用いてKRAS遺伝子変異検出を試みた。
【0155】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、同一KRASG12D変異大腸癌患者由来の癌部及び非癌部のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
【0156】
1-7.
粒子濃度の測定
破砕処理をした懸濁液をFalcon(登録商標)セルストレーナー 5mL チューブ用 35μm(380メッシュ)(フローサイトメーター用)のフィルターでろ過した後、レーザー強度のゲイン値(FSC:400、SSC:400)でフローサイトメーター(Agilent:NovoCyte Quanteon Flow Cytometer)測定を行い、粒子濃度(粒子個数/mL)を確認した。
1-8.
癌占有率を変化させたサンプルの調整
粒子濃度を測定した癌部、及び非癌部由来の懸濁液を必要に応じて混合して、癌部からの細胞の割合が10%または100%になるようにして総粒子数100000個の懸濁液を調整した。
1-9.
セルソーターによる分取
癌部からの粒子の割合が異なる各サンプルを、Becton Dickinson社FACSAriaII(FSCのレーザー強度ボルテージ値65、SSCのレーザー強度ボルテージ値320)を用い測定した。FSCを横軸、SSCを縦軸としたスキャッタグラムを形成し、
図30のエリア1と同じ領域から約30000個の細胞を分取した。
1-10.
DNA抽出及び精製
キアゲン社のQIAamp DNA FFPE Tissue Kitを用いて、セルソーターで分取したサンプル、及び未分取のサンプルからDNAを抽出し、精製した。精製後のDNA濃度はスクラム社製微量分光光度計DS-11+を用い、260nmの吸光度より算出した。
1-11.
リアルタイムPCRによる増幅検出
精製後のDNAについて、以下の試薬と、ThermoFisherScientificStepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステムを用いてPCRを行った。
リアルタイムPCR用混合試薬溶液の組成
・TB Green(登録商標)Premix DimerEraser:10μL
・KRAS検出用フォワードプライマー(20μM:BNA Clamp KRAS Enrichment Kit Gly12/Gly13):0.6μL
・KRAS検出用リバースプライマー(20μM:BNA Clamp KRAS Enrichment Kit Gly12/Gly13):0.6μL
・ROX:0.4μL
・BNA(BNA Clamp KRAS Enrichment Kit Gly12/Gly13):0.2μL
・テンプレートDNA:10ng
・水:総量20μLにメスアップ
第一温度/時間(変性反応)は95℃/20秒、第二温度/時間(アニーリング反応)は58℃/30秒、第三温度/時間(伸長反応)は72℃/45秒で、反応液に対し第一から第三温度を1回ずつ付与した場合を1サイクルとカウントし50サイクルの反応、及び蛍光検出を行った。
【0157】
2.
結果
図44は、癌部からの細胞の割合が異なる各サンプルについて、エリア1からの分取の有無によるPCR増幅速度の違いを示すグラフである。横軸は熱サイクルのサイクル数を示し、縦軸は測定装置で測定した蛍光強度を示している。以下に、CT値も示す。
【表11】
癌占有率が10%と低い場合、癌細胞核領域を分取することによって増幅が約3サイクル速くなった。一方、癌占有率が100%の場合、増幅速度の変化は認められなかった。従って、癌細胞核領域を分取する事により、癌細胞由来のDNAも濃縮されたことが示唆される。
【0158】
<試験27>癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無によるDNA Aneuploidyピーク検出の検討
FFPE組織切片に前処理を施し、核酸染色後、フローサイトメーターで測定した。データ解析を行い、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング有無によるDNA Aneuploidyピーク検出を比較した。
【0159】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、乳癌のFFPE組織ブロック(n=3)を使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
1-5.酵素処理(トロンビン)
試験8と同様に処理した。
1-6.水流破砕と超音波破砕
試験7と同様に行った。
1-7.核酸染色
試験2と同様に行った。
【0160】
1-8.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-9.
データ解析
FlowJo v10.6.2を用い解析を実施した。データ解析は以下の手順で行った(
図45)。DAPI-Aの蛍光量を横軸、粒子数を縦軸として、核内染色体2n以上の主要な領域をゲーティングした(
図45(a))。次に、DAPI-Hを横軸、DAPI-Aを縦軸としたスキャッタグラムを作成し、ダブレット除去を行った(
図45(b))。その後、FSC-Hを横軸、SSC-Hを縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞核領域としてFSC-H強度の2.00×10
6~5.00×10
6、及びSSC-H強度の1.00×10
6~2.00×10
6をゲーティングした(
図45(c))。癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、DAPI-Aの蛍光量を横軸、最大粒子数を100としてノーマライズした値を縦軸としたヒストグラムを作成した(n=3、
図46(a)、(b)および(c))。
【0161】
2.
結果
図46に示す通り、癌細胞核領域のゲーティングによりDNA Aneuploidyピークが強調された。従って、癌細胞核領域のゲーティングによる濃縮は、DNA Aneuploidyピークの検出においても有効であることが示された。
【0162】
<試験28>DNA Aneuploidyピークから算出したDNA indexと、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング後、サイトケラチン及びビメンチン染色により検出したDNA Aneuploidyピークから算出したDNA indexとの比較検討
試験27と同様にして17の検体から得られたDNA Aneuploidyピークを用いて算出したDNA indexと、癌細胞由来細胞核領域のゲーティング後、サイトケラチン及びビメンチン染色により検出したDNA Aneuploidyピークから算出したDNA indexとの相関関係を確認した。
【0163】
1.材料及び方法
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、乳癌のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
試験2と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化処理
試験2と同様に行った。
1-4.加熱処理
試験2と同様に処理した。
【0164】
1-5A.酵素処理(トロンビン)、水流破砕と超音波破砕、及び核酸染色
それぞれ試験8、7および2と同様に行った。
1-5B.従来法(酵素処理(コラーゲナーゼ)、免疫蛍光染色)
上記加熱処理後のサンプルに、コラゲナーゼ試薬(RPMI1640、3000PU/mLディスパーゼ、2500U/mLコラゲナーゼタイプIII、10mg/mLRNaseI)を添加し、ヒートブロックで37℃、20分間加熱した。その後、10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを添加し、室温で30分間静置して、ブロッキング処理を実施した。免疫蛍光染色は、1次抗体としてサイトケラチン抗体(Abcam、ウサギモノクローナル抗体)及びビメンチン抗体(Abcam、マウスモノクローナル抗体)を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor488、及びGoat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody Alexa Fluor 647を使用し二重染色した。1次抗体の反応時間は37℃で15分とし、2次抗体の反応時間は室温で15分とした。2次抗体の添加後10分で細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体を添加した以降は遮光下で行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には3回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、アイソタイプマッチドコントロールとして1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種の抗体を用いた。サイトケラチン抗体はCellsignaling technology社のラビットIgG抗体を使用し、ビメンチン抗体はAgilent社のマウスIgG抗体を用いた。
【0165】
1-6.
フローサイトメーター測定
試験1と同様に行った。
1-7.
データ解析
図47に例示するように、試験27と同様にして17の検体から得られたヒストグラムを用いて、癌細胞核領域としてゲーティングした集団またはゲーティングしなかった集団について、DAPI-Aの蛍光量の最頻値を特定した。ゲーティングしなかった集団の最頻値を核内染色体2nのDNA量とみなし、癌細胞核領域の最頻値との比(ゲーティングした集団の最頻値/ゲーティングしなかった集団の最頻値)を算出し、DNA indexとした。
従来法は、核内染色体2n以上の主要な領域のゲーティングとダブレット除去を同様に行った。その後、サイトケラチンの蛍光量を横軸、ビメンチンの蛍光量を縦軸としたスキャッタグラムを展開し、癌細胞領域としてサイトケラチン陽性及びビメンチン陰性領域を、間質細胞領域としてサイトケラチン陰性及びビメンチン陽性領域をゲーティングした。ゲーティングしたそれぞれの集団について、DAPI-Aの蛍光量の最頻値を取得し、間質細胞領域の最頻値に対する癌細胞領域の最頻値の比(癌細胞領域の最頻値/間質細胞領域の最頻値)を算出し、DNA indexとした。
【0166】
2.
結果
算出したDNA indexの相関性を
図48に示す(n=17)。従来法をX、本法をYとして相関性を確認した。
図48に示すように、R=0.9407となり、高い相関性を示した。以上より、本法によりDNA indexが算出できることが確認された。
【要約】
組織片から目的とする細胞または細胞核が豊富化された試料を得ることができる新規方法を提供する。
組織片を、水流破砕および/または超音波破砕することを含む前処理により、個別に分離された細胞または細胞核を含む粒子群を得、
分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の光学的特性に基づいて、又は分離された細胞中の細胞核または前記分離された細胞核の物理学的特性に基づいて、目的とする細胞または細胞核が有意な数存在する粒子群を選別または分取する。