(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】木質構造材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/72 20060101AFI20230523BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20230523BHJP
B27K 3/34 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
E04B1/72
E04B1/94 R
B27K3/34 A
B27K3/34 B
B27K3/34 C
(21)【出願番号】P 2018214530
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-10-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】391004207
【氏名又は名称】齋藤木材工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591226586
【氏名又は名称】兼松サステック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 道和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 完
(72)【発明者】
【氏名】中島 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拡
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 智
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潔
(72)【発明者】
【氏名】手塚 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 盟
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-237982(JP,A)
【文献】特開2001-277207(JP,A)
【文献】特開2017-101465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
B27K 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質構造材本体と、
前記木質構造材本体を被覆する木質保護板と、
を備え、
前記木質保護板は、
揮発性有機溶媒を用いた乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸された乾式加圧注入処理材で形成される、
木質構造材。
【請求項2】
前記木質構造材本体は、
木質心部と、
前記木質心部を被覆する耐火被覆部と、
を有し、
前記木質保護板は、耐火被覆部を被覆する、
請求項1に記載の木質構造材。
【請求項3】
防腐防蟻薬剤と、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤と、溶出抑制剤とが
、揮発性有機溶媒を用いた乾式加圧注入処理によって表層部に含浸された木質構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
木質構造材本体(木質部)と、木質構造材本体を被覆する木質保護板とを備える木質柱が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された木質保護板は、防腐加工木材によって形成されている。これにより、木質構造材本体の腐朽・蟻害が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された木質柱では、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮によって木質保護板に割れが発生すると、割れた部分から木質構造材本体へ水が浸入し、木質構造材本体に腐朽・蟻害が発生する可能性がある。そのため、木質構造材本体への水の浸入を抑制する点で、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、木質構造材本体への水の浸入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る木質構造材は、木質構造材本体と、防腐防蟻薬剤と、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤とが含浸され、前記木質構造材本体を被覆する木質保護板と、を備える。
【0007】
第1態様に係る木質構造材によれば、木質構造材本体と、木質構造材本体を被覆する木質保護板と備える。木質保護板には、防腐防蟻薬剤が含浸される。これにより、木質保護板の腐朽・蟻害が抑制される。
【0008】
また、木質保護板には、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤が含浸される。この割れ抑制剤よって、木質保護板の水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮が低減される。この結果、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質保護板の割れが抑制されるため、木質構造材本体への水の浸入が抑制される。したがって、木質構造材の腐朽・蟻害を抑制することができる。
【0009】
また、本発明では、木質構造材の表層部に防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を直接含浸させる場合と比較して、木質保護板に防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を含侵させることにより、より均一、かつ、効率的に木質保護板に防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を含浸させることができる。
【0010】
したがって、木質保護板の腐朽・蟻害がさらに抑制される。また、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質保護板の割れがさらに抑制される結果、木質構造材本体への水の浸入がより確実に抑制される。
【0011】
第2態様に係る木質構造材は、第1態様に係る木質構造材において、前記木質保護板は、乾式加圧注入処理によって前記防腐防蟻薬剤及び前記割れ抑制剤が含浸された乾式加圧注入処理材で形成される。
【0012】
第2態様に係る木質構造材によれば、木質保護板は、乾式加圧注入処理材で形成される。この乾式加圧注入処理材には、乾式加圧注入処理によって防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が含浸される。
【0013】
ここで、乾式加圧注入処理では、防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を溶媒に溶かして形成した溶液が、木質保護板に加圧注入される。その後、例えば、木質保護板を加熱して木質保護板内の溶媒を揮発させる。これにより、木質保護板が雨に濡れた場合であっても、木質保護板から水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。したがって、雨に濡れる屋外にも、木質構造材を設置することができる。
【0014】
第3態様に係る木質構造材は、第1態様又は第2態様に係る木質構造材において、前記木質構造材本体は、木質心部と、前記木質心部を被覆する耐火被覆部と、を有し、前記木質保護板は、耐火被覆部を被覆する。
【0015】
第3態様に係る木質構造材によれば、木質構造材本体は、木質心部と、木質心部を被覆する耐火被覆部とを有する。このように木質心部を耐火被覆部によって被覆することにより、木質構造材の耐火性能が向上する。
【0016】
また、耐火被覆部は、木質保護板によって被覆される。したがって、耐火被覆部の腐朽・蟻害が抑制される。
【0017】
第4態様に係る木質構造材は、第1態様~第3態様の何れか1つに係る木質構造材において、前記木質保護板には、前記防腐防蟻薬剤及び前記割れ抑制剤と共に溶出抑制剤が含浸される。
【0018】
第4態様に係る木質構造材によれば、木質保護板に、防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤と共に溶出抑制剤を含浸させることにより、雨等の水分による割れ抑制剤の溶出を更に抑えることができる。これにより、木質保護板が雨に濡れた場合であっても、木質保護板から水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが更に抑制される。したがって、雨に濡れる屋外にも、木質構造材を設置することができる。
【0019】
第5態様に係る木質構造材は、防腐防蟻薬剤と、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤と、溶出抑制剤とが乾式加圧注入処理によって表層部に含浸されている。
【0020】
第5態様に係る木質構造材によれば、木質構造材の表層部には、防腐防蟻薬剤が含浸される。これにより、木質構造材の表層部の腐朽・蟻害が抑制される。
【0021】
また、木質構造材の表層部には、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤が含浸される。この割れ抑制剤によって木質構造材の表層部の水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮が低減される。この結果、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質構造材の表層部の割れが抑制されるため、木質構造材の内部への水の浸入が抑制される。したがって、木質構造材の内部の腐朽・蟻害を抑制することができる。
【0022】
さらに、木質構造材の表層部には、乾式加圧注入処理によって防腐防蟻薬剤と、割れ抑制剤と、溶出抑制剤とが含浸される。
【0023】
ここで、乾式加圧注入処理では、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を溶媒に溶かして形成した溶液が、木質構造材の表層部に加圧注入される。その後、例えば、木質構造材を加熱して表層部内の溶媒を揮発させる。これにより、木質構造材の表層部が雨に濡れた場合であっても、当該表層部から水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。したがって、雨に濡れる屋外にも、木質構造材を設置することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、木質構造材本体への水の浸入を抑制することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第一実施形態に係る木質柱を示す平断面図である。
【
図2】(A)~(C)は、比較例に係る木質保護板が適用された木質柱を示す平断面図である。
【
図3】第二実施形態に係る木質柱を示す平断面図である。
【
図4】第一実施形態に係る木質柱の変形例を示す平断面図である。
【
図5】第一実施形態に係る木質柱の変形例を示す平断面図である。
【
図6】(A)~(C)は、第一実施形態に係る木質柱の変形例を示す平断面図である。
【
図7】第三実施形態に係る木質柱を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0027】
(木質構造材)
図1には、第一実施形態に係る木質柱10が示されている。木質柱10は、木質構造材本体12と、木質構造材本体12を被覆する木質保護板30とを有している。なお、木質柱10は、木質構造材の一例である。
【0028】
(木質構造材本体)
木質構造材本体(木質柱本体)12には、耐火構造が適用されている。具体的には、木質構造材本体12は、荷重を支持する木質心部14と、木質心部14を耐火被覆する耐火被覆部16とを有している。
【0029】
(木質心部)
木質心部14は、木質柱10の材軸方向に沿って全長に亘って設けられている。また、木質心部14は、断面矩形状(本実施形態では略正方形)に形成されている。この木質心部14は、例えば、集成材や無垢によって形成されている。また、木質心部14は、木質柱10が負担する荷重(長期荷重及び短期荷重)を支持可能に形成されている。
【0030】
(耐火被覆部)
耐火被覆部16は、積層された燃え止まり層18及び燃え代層20を有している。燃え止まり層18は、木質心部14の外側に設けられており、木質心部14を被覆している。また、燃え代層20は、燃え止まり層18の外側に設けられており、燃え止まり層18を被覆している。
【0031】
(燃え止まり層)
燃え止まり層18は、木質心部14を囲む筒状を成しており、木質心部14の外面(側面)を略全面に亘って被覆している。この燃え止まり層18は、火災時における燃え代層20の燃焼を停止(自然鎮火)させ、木質心部14の燃焼を抑制する層とされる。
【0032】
具体的には、燃え止まり層18は、木質心部14よりも熱容量が大きい高熱容量層(熱容量型)とされている。この燃え止まり層18は、木質心部14の外面に交互に配列された複数の木質材18A及びセメント系硬化体18Bを有している。これらの木質材18A及びセメント系硬化体18Bは、断面矩形状に形成されており、長手方向を木質柱10の材軸方向として配置されている。
【0033】
木質材18Aは、集成材や無垢材で形成されており、木質心部14の外面に接着剤等によって接合されている。一方、セメント系硬化体18Bは、モルタルやグラウト等で形成されており、木質材18Aよりも熱容量が大きくなっている。この木質材18Aとセメント系硬化体18Bとを交互に配置することにより、燃え止まり層18全体の熱容量が、木質心部14及び燃え代層20の熱容量よりも大きくなっている。
【0034】
(燃え代層)
燃え代層20は、燃え止まり層18を囲む筒状を成しており、燃え止まり層18の外面(側面)を略全面に亘って被覆している。この燃え代層20は、火災時に燃焼して炭化層(断熱層)を形成することにより、木質心部14への火災熱の浸入を抑制する層とされる。
【0035】
具体的には、燃え代層20は、集成材や合板、無垢材によって形成されている。この燃え代層20は、燃え止まり層18の木質材18Aの外面に接着剤等によって接合されている。このように形成された耐火被覆部16の外側には、木質保護板30が設けられている。
【0036】
なお、燃え代層20の厚み(層厚)は、木質柱10に求められる要求耐火性能(耐火時間)や、燃え代層20を形成する木材の燃焼速度及び遮熱性能に応じて適宜設定されている。
【0037】
(木質保護板)
木質保護板30は、耐火被覆部16を囲む筒状を成しており、耐火被覆部16の外面、すなわち木質構造材本体12の外面(側面)を略全面に亘って被覆している。この木質保護板30は、木質構造材本体12の腐朽・蟻害や、割れを抑制する層とされている。
【0038】
木質保護板30は、乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸された乾式加圧注入処理材によって形成されている。この木質保護板30は、接着剤やビス等によって木質構造材本体12の外面に接合されている。
【0039】
防腐防蟻薬剤としては、例えば、JIS K1570:2013に規定される水溶性木材保存剤等の木材保存剤が用いられる。この防腐防蟻薬剤を木質保護板30に含浸させることにより、木質保護板30の腐朽、及び蟻害が抑制される。
【0040】
割れ抑制剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の多価アルコール類を含有する。この割れ抑制剤を木質保護板30に含浸させることにより、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮による木質構造材本体12の割れが抑制される。
【0041】
溶出抑制剤としては、例えば、鉱物油等の炭化水素化合物が用いられる。この溶出抑制剤を木質保護板30に含侵させることにより、水分接触、吸水による割れ抑制剤の溶出現象が抑制される。
【0042】
(乾式加圧注入処理)
ここで、乾式加圧注入処理について補足すると、乾式加圧注入処理では、例えば、木質保護板30を形成する木質材を密閉型含浸タンク内で減圧し、木質材から空気を除去する。次に、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を揮発性有機溶媒等の溶媒に溶かして形成した溶液を密閉型含浸タンクに充填し、加圧ポンプ等によって加圧しながら溶液を木質材中の空隙に注入する。
【0043】
次に、密閉型含浸タンクに残った溶液をポンプ等によって回収する。次に、密閉型含浸タンクを再減圧し、又は高周波等によって木質材を加熱して溶媒を揮発させる。これにより、木質材から余分な溶媒を回収する。この結果、木質材で形成された木質保護板30が雨等の水に濡れた場合であっても、木質保護板から水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。
【0044】
このように防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が予め含浸された木質保護板30を、木質構造材本体12の外面に接着剤やビス等によって接合することにより、木質保護板30によって木質構造材本体12の側面が被覆されている。
【0045】
(作用)
次に、第一実施形態の作用について説明する。
【0046】
本実施形態に係る木質柱10は、木質構造材本体12と、木質構造材本体12を被覆する木質保護板30と備えている。木質保護板30には、防腐防蟻薬剤が含浸されている。これにより、木質保護板30の腐朽・蟻害が抑制される。
【0047】
また、木質保護板30には、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤及び溶出抑制剤が含浸されている。この割れ抑制剤よって木質保護板30の水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮が低減される。この結果、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質保護板30の割れが抑制されるため、木質構造材本体12への雨水等の水の浸入が抑制される。したがって、木質柱10の腐朽・蟻害が抑制される。
【0048】
次に、比較例について説明する。
図2(A)~
図2(C)には、比較例に係る木質保護板100が示されている。この木質保護板100には、防腐防蟻薬剤が含浸されているが、割れ抑制剤が含浸されていない。
【0049】
図2(A)に示される比較例では、前述したように、木質保護板100に割れ抑制剤及び溶出抑制剤が含浸されていないため、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮によって木質保護板100に割れPが発生し易くなる。そして、木質保護板100に割れPが発生すると、割れた部分から燃え代層20に雨水等の水が浸入し、水分接触等によって燃え代層20に割れPが発生し易くなる。若しくは、
図2(B)に示される比較例のように、割れた部分から侵入した水によって燃え代層20の表層部20Uに腐朽・蟻害部Xが発生し易くなる。
【0050】
また、
図2(C)に示される比較例のように、例えば、水分接触等によって木質保護板100が外側へ反ると、木質保護板100の反りに燃え代層20の表層部20Uが追従し、当該表層部20Uの接着面が燃え代層20から剥離する可能性がある。この場合、木質保護板100の目地、及び燃え代層20の目地が開き易くなる。そして、開いた目地から、矢印Wで示されるように、水が燃え代層20へ侵入すると、燃え代層20に腐朽・蟻害が発生し易くなる。
【0051】
これに対して本実施形態の木質保護板30には、前述したように、割れ抑制剤及び溶出抑制剤が含浸されている。これにより、例えば、
図2(A)~
図2(C)に示されるような木質保護板30の割れPや目地部の開きが抑制される。したがって、燃え代層20の腐朽が抑制される。
【0052】
また、本実施形態では、木質構造材本体12の外面に木質保護板30を取り付ける前に、木質保護板30に防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を含浸させる。これにより、本実施形態では、木質構造材本体12の表層部、すなわち燃え代層20の表層部20Uに防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を直接含浸させる場合と比較して、木質保護板30に防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を含侵させることで、より均一、かつ、効率的に木質保護板30に防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を含浸させることができる。
【0053】
したがって、木質保護板30の腐朽・蟻害がさらに抑制される。また、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質保護板30の割れがさらに抑制される結果、木質構造材本体12への水の浸入がより確実に抑制される。
【0054】
また、比較例として、例えば、木質保護板の表面に防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を塗布することが考えられる。しかしながら、この場合、木質保護板の表面付近の腐朽・蟻害、及び割れしか抑制することができない。また、木質保護板の表面から防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が流れ落ち易いため、木質保護板の表面に防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤を定期的に塗布し直す必要があり、メンテナンスに手間がかかる。
【0055】
これに対して本実施形態では、木質保護板30の全体(断面全体)に防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を浸透させることができるため、木質保護板30の全体の腐朽・蟻害、及び割れが抑制される。
【0056】
さらに、本実施形態の木質保護板30は、乾式加圧注入処理材で形成されている。この乾式加圧注入処理材には、乾式加圧注入処理によって防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸されている。
【0057】
ここで、乾式加圧注入処理では、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を溶媒に溶かして形成した溶液が、木質保護板30に加圧注入される。その後、例えば、木質保護板30を再減圧し、又は木質保護板30を加熱して木質保護板30内の溶媒を揮発させる。これにより、木質保護板30が雨に濡れた場合であっても、木質保護板30から水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。
【0058】
したがって、雨に濡れる屋外に木質柱10を設置した場合であっても、木質保護板30の腐朽・蟻害や、割れが長期的に抑制される。この結果、木質保護板30の交換回数等が低減されるため、メンテナンス性が向上する。
【0059】
また、木質柱10の木質構造材本体12は、木質心部14と、木質心部14を被覆する耐火被覆部16とを有している。このように木質心部14を耐火被覆部16によって被覆することにより、木質柱10の耐火性能が向上する。しかも、前述したように、耐火被覆部16は、木質保護板30によって被覆されている。したがって、耐火被覆部16の腐朽・蟻害が抑制されるため、木質柱10の耐火性能がさらに向上する。
【0060】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0061】
図3には、第二実施形態に係る木質柱40が示されている。この木質柱40では、木質構造材本体12と木質保護板30との間に、防腐防蟻用の木質板42が設けられている。
【0062】
木質板42は、耐火被覆部16を囲む筒状を成しており、耐火被覆部16の外面、すなわち木質構造材本体12の外面を略全面に亘って被覆している。この木質板42は、木質構造材本体12の腐朽・蟻害を抑制する層とされている。
【0063】
具体的には、木質板42は、乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤が含浸された乾式加圧注入処理材によって形成されている。この木質板42は、接着剤やビス等によって木質構造材本体12の外面に接合されている。この木質板42の外面は、木質保護板30によって被覆されている。
【0064】
ここで、木質保護板30は、その繊維方向に沿って割れ易い。この対策として本実施形態では、木質板42と木質保護板30とは、各々の繊維方向が交差(直交)するように積層された状態で互いに接合されている。
【0065】
具体的には、例えば、木質板42の繊維方向が木質柱40の材軸方向(上下方向)の場合、木質保護板30の繊維方向は、木質柱40の幅方向(横方向)とされている。また、木質柱40の繊維方向が木質柱40の幅方向の場合、木質保護板30の繊維方向は、木質柱40の材軸方向とされている。これにより、木質保護板30が、繊維方向に沿って割れることが抑制される。
【0066】
(作用)
次に、第二実施形態の作用について説明する。
【0067】
図3に示されるように、本実施形態に係る木質柱40によれば、木質構造材本体12と木質保護板30との間に、木質板42が設けられている。この木質板42には、乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤が含浸された乾式加圧注入処理材によって形成されている。これにより、仮に木質保護板30が割れたとしても、木質板42の腐朽及び蟻害が抑制される。したがって、木質構造材本体12の腐朽・蟻害が抑制される。
【0068】
また、木質板42と木質保護板30とは、各々の繊維方向が交差するように積層された状態で互いに接合されている。これにより、例えば、木質板42と木質保護板30とが、各々の繊維方向が一致するように積層された状態で互い接合された場合と比較して、木質保護板30が繊維方向に沿って割れ難くなる。したがって、木質構造材本体12の腐朽・蟻害がさらに抑制される。
【0069】
(変形例)
次に、上記第一実施形態及び第二実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、第二実施形態にも適宜適用可能である。
【0070】
図4に示される変形例では、木質保護板30の内面(裏面)に、木質保護板30の割れの起点となる溝部32が形成されている。具体的には、溝部32は、木質保護板30の幅方向の中央部に形成されている。この溝部32は、木質構造材本体12の材軸方向(上下方向)に延びるとともに、断面V字形状に形成されている。
【0071】
このように木質保護板30に溝部32を形成することにより、溝部32に沿って木質保護板30に割れが発生し易くなる。これにより、例えば、木質保護板30の割れの点検時に、確認範囲を溝部32の周辺部に限定することができるため、木質保護板30の点検作業が容易となる。
【0072】
また、木質保護板30に溝部32を形成し、割れの発生箇所を溝部32の周辺部に集約することにより、木質保護板30の補修等が容易になる。したがって、木質保護板30のメンテナンス性がさらに向上する。
【0073】
なお、溝部32は、木質保護板30の繊維方向に沿って形成しても良い。この場合、木質保護板30の溝部32に沿って割れがさらに発生し易くなる。
【0074】
次に、
図5に示される変形例では、木質保護板50が、集成材によって形成されている。具体的には、木質保護板50は、角柱状に形成された複数の木質材52を接着剤等によって互いに接合することにより形成されている。これらの木質材52は、木質構造材本体12の材軸方向に沿って配置されており、木質構造材本体12の外面に接着剤やビス等によって接合されている。
【0075】
このように木質保護板50を集成材によって形成することにより、水分接触等に伴う各木質材52の伸縮が隣り合う木質材52の目地で吸収される。したがって、本変形例では、木質保護板を合板等で形成した場合と比較して、木質保護板50に割れが発生し難くなる。したがって、木質構造材本体12への水の浸入がさらに抑制される。
【0076】
次に、木質保護板30は、燃え止まり層18及び燃え代層20を有する木質柱10に限らず、種々の木質構造材に適用することができる。例えば、
図6(A)に示される変形例では、木質柱60の木質構造材本体62が、木質心部14と、木質心部14を被覆する耐火被覆部64とを有している。耐火被覆部64は、不燃化処理や難燃化処理された木質材によって形成されている。この耐火被覆部64の外側に、木質保護板30が設けられている。
【0077】
また、
図6(B)に示される変形例では、木質柱70の木質構造材本体72が、木質心部14と、木質心部14を被覆する耐火被覆部74とを有している。耐火被覆部74は、木質心部14を被覆する石こうボード等の耐火ボード76と、耐火ボード76を被覆する燃え代層20とを有している。この燃え代層20の外側に、木質保護板30が設けられている。
【0078】
また、
図6(C)示される変形例では、木質柱80の木質構造材本体82が、木質心部14と、木質心部14を被覆する耐火被覆部84とを有している。耐火被覆部84は、石こうボード等の耐火ボード86によって形成されている。この耐火ボード86の外側に、木質保護板30が設けられている。
【0079】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。なお、第三実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0080】
図7には、第三実施形態に係る木質柱90が示されている。この木質柱90は、集成材や無垢材によって断面矩形状に形成されている。この木質柱90の表層部90Uには、乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、溶出抑制剤が含浸されている。
【0081】
具体的には、乾式加圧注入処理では、先ず、木質柱90を密閉型含浸タンク内で減圧し、木質柱90の表層部90Uから空気を除去する。次に、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を揮発性有機溶媒等の溶媒に溶かして形成した溶液を密閉型含浸タンクに充填し、加圧ポンプ等によって加圧しながら溶液を木質柱90の表層部90U中の空隙に溶液を注入する。
【0082】
次に、密閉型含浸タンクに残った溶媒をポンプ等によって回収する。次に、密閉型含浸タンクを再減圧し、又は高周波等によって木質柱90の表層部90Uを加熱して溶媒を揮発させる。これにより、木質柱90の表層部90Uから余分な溶媒を回収する。この結果、木質柱90の表層部90Uが雨等の水に濡れた場合であっても、当該表層部90Uから水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。
【0083】
(作用)
次に、第三実施形態の作用について説明する。
【0084】
図7に示されるように、本実施形態に係る木質柱90の表層部90Uには、防腐防蟻薬剤が含浸されている。これにより、木質柱90の表層部90Uの腐朽・蟻害が抑制される。
【0085】
また、木質柱90の表層部90Uには、多価アルコール類を含有する割れ抑制剤及び溶出抑制剤が含浸される。この割れ抑制剤よって木質柱90の表層部90Uの水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮が低減される。この結果、水分接触、吸水による膨潤、及び、乾燥収縮に伴う木質柱90の表層部90Uの割れが抑制されるため、木質柱90の内部への水の浸入が抑制されている。したがって、木質柱90の内部の腐朽・蟻害を抑制することができる。
【0086】
さらに、木質柱90の表層部90Uには、乾式加圧注入処理によって防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸されている。
【0087】
ここで、乾式加圧注入処理では、前述したように、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を溶媒に溶かして形成した溶液が、木質柱90の表層部90Uに加圧注入される。その後、例えば、木質柱90を再減圧し、又は木質柱90を加熱して表層部90U内の溶媒を揮発させ、木質柱90の表層部90Uに防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を定着させる。これにより、木質柱90の表層部90Uが雨に濡れた場合であっても、当該表層部90Uから水分を介して防腐防蟻薬剤及び割れ抑制剤が溶出することが抑制される。したがって、雨に濡れる屋外にも、木質柱90を設置することができる。
【0088】
また、防腐防蟻薬剤、割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を木質柱90の表層部90Uに直接含浸させることにより、木質柱90の外面を被覆する保護板等を省略することができる。したがって、木質柱90の製作性が向上する。
【0089】
(変形例)
次に、上記第一実施形態~第三実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は第二実施形態及び第三実施形態にも適宜適用可能である。
【0090】
上記第一実施形態の木質保護板30には、乾式加圧注入処理によって、防腐防蟻薬剤、前記割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸されている。しかしながら、木質保護板30には、必ずしも溶出抑制剤が含浸されなくても良い。
【0091】
また、上記第一実施形態では、乾式加圧注入処理によって木質保護板30に防腐防蟻薬剤、前記割れ抑制剤、及び溶出抑制剤が含浸されるが、上記第一実施形態はこれに限らない。木質保護板30には、例えば、湿式加圧注入処理によって防腐防蟻薬剤、前記割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を含浸しても良い。つまり、木質保護板30は、湿式加圧注入処理材によって形成しても良い。さらに、木質保護板30には、種々の含浸方法によって防腐防蟻薬剤、前記割れ抑制剤、及び溶出抑制剤を含浸することができる。
【0092】
また、上記第一実施形態に木質保護板30は、無耐火構造の木質柱に適用しても良い。
また、上記第一実施形態では、木質構造材が、木質柱10とされるが、木質構造材は、例えば、木質梁や木質ブレース、木質壁、木質床等であっても良い。
【0093】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0094】
10 木質柱(木質構造材)
12 木質構造材本体
14 木質心部
16 耐火被覆部
30 木質保護板
40 木質柱(木質構造材)
50 木質保護板
60 木質柱(木質構造材)
62 木質構造材本体
64 耐火被覆部
70 木質柱(木質構造材)
72 木質構造材本体
74 耐火被覆部
76 耐火ボード(耐火被覆部)
80 木質柱(木質構造材)
82 木質構造材本体
84 耐火被覆部
86 耐火ボード(耐火被覆部)
90 木質柱(木質構造材)