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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】スイング解析装置
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20230523BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A63B69/36 541W
A63B69/36 541P
A63B69/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019088259
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020182669
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】辻内 伸好
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰人
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢太
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-253718(JP,A)
【文献】特開2014-211404(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151668(WO,A1)
【文献】松本 賢太 ほか,特異値分解を用いたゴルファーのスイング分析,日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2018 講演論文集,一般社団法人日本機械学会 ,2018年11月,第1-10頁,C-24
【文献】吉村 ミツ ほか,舞踊動作を表す構造変数と時空間変数の比較,画像電子学会誌,2008年07月25日,第37巻 第4号,396-404頁
【文献】前田 和甫 ほか,3相主成分分析によるダンス動作の個人特徴分析,電子情報通信学会技術研究報告,2013年01月17日,第112巻、第412号,第113-118頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00-69/40、71/06
G06T 7/00- 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレイヤーによる打具の第1スイング時の第1挙動を時系列に表す第1時系列挙動データを取得するデータ取得部と、
前記第1時系列挙動データを特異値分解することにより、前記第1挙動を分解するモード展開部と
を備え、
前記モード展開部は、
前記第1時系列挙動データに基づき、第1初期挙動を導出し、
前記第1時系列挙動データを前記第1初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第1挙動から特徴的な挙動を抽出し、
前記第1挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第1初期挙動とは異なる第2初期挙動を合成した第1分解挙動を導出する、
スイング解析装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、
プレイヤーによる打具の第2スイング時の第2挙動を時系列に表す第2時系列挙動データを取得し、
前記モード展開部は、
前記第2時系列挙動データに基づき、前記第2初期挙動を導出し、
前記第2時系列挙動データを前記第2初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第2挙動から特徴的な挙動を抽出し、
前記第2挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第2初期挙動を合成した第2分解挙動を導出し、
前記第1分解挙動と前記第2分解挙動とを比較する、
請求項1に記載のスイング解析装置。
【請求項3】
前記第1スイング及び前記第2スイングは、異なるプレイヤーによるスイングである、
請求項に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記データ取得部は、
前記第1スイング時のI0個(I0≧3)の観測点の挙動を計測装置により時系列に計測した第1計測データを取得し、
前記I0個の観測点をI1個(I0>I1≧2)のグループに分け、
前記第1計測データに基づいて、前記I1個のグループに含まれる各グループについて、当該グループに属する1個の観測点又は複数個の観測点を代表する代表点の挙動を時系列に表す観測点データを導出し、
前記第1時系列挙動データは、前記I1個のグループについての前記観測点データを含む、
請求項1から3のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項5】
前記モード展開部は、
前記第1時系列挙動データに基づき、前記第1挙動を時間方向に平均化することにより、前記第1初期挙動を導出する、
請求項1から4のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項6】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項1から5のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項7】
プレイヤーによる打具の第1スイング時の第1挙動を時系列に表す第1時系列挙動データを取得することと、
前記第1時系列挙動データを特異値分解することにより、前記第1挙動を分解することと
を含み、
前記第1挙動を分解することは、
前記第1時系列挙動データに基づき、第1初期挙動を導出することと、
前記第1時系列挙動データを前記第1初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第1挙動から特徴的な挙動を抽出することと、
前記第1挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第1初期挙動とは異なる第2初期挙動を合成した第1分解挙動を導出することと
を含む、
スイング解析方法。
【請求項8】
プレイヤーによる打具の第1スイング時の第1挙動を時系列に表す第1時系列挙動データを取得することと、
前記第1時系列挙動データを特異値分解することにより、前記第1挙動を分解することと
をコンピュータに実行させ、
前記第1挙動を分解することは、
前記第1時系列挙動データに基づき、第1初期挙動を導出することと、
前記第1時系列挙動データを前記第1初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第1挙動から特徴的な挙動を抽出することと、
前記第1挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第1初期挙動とは異なる第2初期挙動を合成した第1分解挙動を導出することと
を含む、
スイング解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフスイング等の打具のスイングを解析するスイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレイヤーによる打具のスイングは、様々な挙動が含まれる複合動作である。例えば、ゴルフスイングは、腕の振り上げ及び振り下げ、腰の回転、身体の平行移動等の様々な挙動を組み合わせた動作である。非特許文献1及び2は、ゴルフスイングを計測した計測データから得られる観測行列を特異値分解することにより、ゴルフスイングを複数の挙動(モード)に分解する手法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松本賢太,他5名,「クラブ設計を目的とした特異値分解によるゴルフスイングの動作分析」,設計工学,Vol.53,No.6,pp.447-462,2018年6月
【文献】畑中崚志,他4名,「ゴルフスイングの動作分解に基づくクラブ特性影響評価」,No.18-15 日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2018講演論文集,B-10,2018年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2の手法によれば、ゴルフスイングを構成する様々な挙動を個別に評価することができ、その結果、ゴルフスイングの特性をより正確に捉えることが可能になる。しかしながら、このような試みは始まったばかりであり、解析手法のさらなる改良が望まれる。なお、ゴルフクラブ以外の打具、例えば、テニスラケットやベースボールバット等のスイングの解析にも、同様のことが言える。
【0005】
本発明は、打具のスイングに含まれる個々の挙動をより適切に評価することができるスイング解析装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るスイング解析装置は、プレイヤーによる打具の第1スイング時の第1挙動を時系列に表す第1時系列挙動データを取得するデータ取得部と、前記第1時系列挙動データを特異値分解することにより、前記第1挙動を分解するモード展開部とを備える。前記モード展開部は、前記第1時系列挙動データに基づき、第1初期挙動を導出し、前記第1時系列挙動データを前記第1初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第1挙動から特徴的な挙動を抽出し、前記第1挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第1初期挙動とは異なる第2初期挙動を合成した第1分解挙動を導出する。
【0007】
第2観点に係るスイング解析装置は、第1観点に係るスイング解析装置であって、前記データ取得部は、プレイヤーによる打具の第2スイング時の第2挙動を時系列に表す第2時系列挙動データを取得する。前記モード展開部は、前記第2時系列挙動データに基づき、前記第2初期挙動を導出し、前記第2時系列挙動データを前記第2初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第2挙動から特徴的な挙動を抽出し、前記第2挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第2初期挙動を合成した第2分解挙動を導出し、前記第1分解挙動と前記第2分解挙動とを比較する。
【0008】
第3観点に係るスイング解析装置は、第1観点又は第2観点に係るスイング解析装置であって、前記第1スイング及び前記第2スイングは、異なるプレイヤーによるスイングである。
【0009】
第4観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記データ取得部は、前記第1スイング時のI0個(I0≧3)の観測点の挙動を計測装置により時系列に計測した第1計測データを取得し、前記I0個の観測点をI1個(I0>I1≧2)のグループに分け、前記第1計測データに基づいて、前記I1個のグループに含まれる各グループについて、当該グループに属する1個の観測点又は複数個の観測点を代表する代表点の挙動を時系列に表す観測点データを導出し、前記第1時系列挙動データは、前記I1個のグループについての前記観測点データを含む。
【0010】
第5観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記モード展開部は、前記第1時系列挙動データに基づき、前記第1挙動を時間方向に平均化することにより、前記第1初期挙動を導出する。
【0011】
第6観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0012】
第7観点に係るスイング解析方法は、以下のことを含む。また、第8観点に係るスイング解析プログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる。
・プレイヤーによる打具の第1スイング時の第1挙動を時系列に表す第1時系列挙動データを取得すること
・前記第1時系列挙動データを特異値分解することにより、前記第1挙動を分解すること
ここで、前記第1挙動を分解することは、以下のことを含む。
・前記第1時系列挙動データに基づき、第1初期挙動を導出すること
・前記第1時系列挙動データを前記第1初期挙動を基準として特異値分解することにより、前記第1挙動から特徴的な挙動を抽出すること
・前記第1挙動から抽出された前記特徴的な挙動に前記第1初期挙動とは異なる第2初期挙動を合成した第1分解挙動を導出すること
【発明の効果】
【0013】
以上の観点によれば、打具のスイングに含まれる個々の挙動をより適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るスイング解析装置を含むスイング解析システムの全体構成を示す機能ブロック図。
図2】ゴルファーの身体に取り付けられたマーカーの位置を示す図。
図3】本発明の一実施形態に係るスイング解析方法の流れを示すフローチャート。
図4】(A)時系列挙動データの時間平均を表すスティック線図。(B)疑似拡張データの時間平均を表すスティック線図。
図5】時系列挙動データと疑似拡張データとの関係を表す概念図。
図6】25個の観測点の第1モードのスティック線図。
図7】同じゴルファーによる異なるゴルフスイング間でインパクトのタイミングにおける各モードのスティック線図を比較した比較図。
図8A】異なるゴルファーによるゴルフスイング間でインパクトのタイミングにおける各モードのスティック線図を比較した比較図。
図8B図8Aと同じ計測データから、ゴルファー間での初期挙動を調整せずに作成されたスティック線図の比較図(比較例)。
図9図6と同じ計測データから作成された、53点の観測点の第1モードのスティック線図(参考図)。
図10】変形例に係る時系列挙動データと疑似拡張データとの関係を表す概念図。
図11】別の変形例に係る平均挙動をインパクト時の挙動に近付ける場合の時系列挙動データと疑似拡張データとの関係を表す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るスイング解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0016】
<1.スイング解析システムの概要>
図1に、本実施形態に係るスイング解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析システム100は、ゴルフスイングを解析するためのシステムである。ゴルフスイングは、様々な挙動が含まれる複合動作であり、例えば、腕の振り上げ及び振り下げ、腰の回転、身体の平行移動等の様々な挙動を組み合わせることにより構成される。スイング解析システム100は、ゴルフスイングの特性をより正確に捉えることができるよう、ゴルフスイングに含まれるこのような特徴的な挙動を個別に評価する。より具体的には、ゴルファーがゴルフクラブをスイングする時の挙動を時系列に表す時系列挙動データを特異値分解によりモード展開することにより、ゴルフスイングを特徴的な挙動に分解する。ユーザは、以上の特異値分解の結果に基づいて、ゴルフスイングに含まれる特徴的な挙動を理解し、ひいてはゴルファーの特性やゴルフクラブの特性等を理解することができる。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファー自身又はそのインストラクター、ゴルファーに適したゴルフクラブのフィッティングを行うフィッター、或いはゴルフクラブの開発者等、ゴルフスイングの解析の結果を必要とする者の総称である。
【0017】
特異値分解の対象となる時系列挙動データは、計測機器2により計測される計測データに基づいて取得される。計測機器2は、スイング解析装置1とともに、スイング解析システム100を構成する。以下、スイング解析システム100の各部の構成を説明した後、スイング解析システム100によるスイング解析方法について説明する。
【0018】
<2.各部の詳細>
<2-1.計測機器>
本実施形態に係る計測機器2は、複数台のカメラ21,21,・・・を備えるモーションキャプチャシステムである。モーションキャプチャシステムとしては、例えば、VICON社製の三次元動作分析システムを好ましく使用することができる。複数台のカメラ21,21,・・・は、ゴルファーの身体動作の三次元計測が可能なように、ゴルファーがゴルフクラブをスイングする様子を様々な方向から撮影することができる位置に配置される。
【0019】
本実施形態では、カメラ21,21,・・・によりゴルファーの身体の挙動を捉え易いように、身体における観測点の位置にマーカーが取り付けられる。より具体的には、図2に示すように、ゴルファー7の頭、手首、手の指先、肘、肩、腰、膝、踝、脚の指先等のI0個(本実施形態では、I0≧3であり、特にI0=53)の観測点の位置に、光反射性の球体のマーカー20,20,・・・が取り付けられる。この例では、マーカー20,20,・・・は、ゴルファー7が着用するボディスーツに取り付けられる。
【0020】
カメラ21,21,・・・は、ゴルファー7がゴルフクラブを使用してゴルフスイングを行う間、その様子を所定のサンプリング周波数で連続撮影する。サンプリング周波数は、例えば、500Hzとすることができる。本実施形態では、少なくともアドレスから、バック9時、トップ、ダウン9時、インパクト、フォロー3時を順に経て、フィニッシュまでの期間において、ゴルフスイングが計測される。なお、バック9時とは、ゴルファー7を正面から見て、バックスイング中にゴルフクラブが時計の9時の方向を指すタイミングであり、ダウン9時とは、同方向から見て、ダウンスイング中にゴルフクラブが時計の9時の方向を指すタイミングであり、フォロー3時とは、同方向から見て、インパクト後のフォロースイング中にゴルフクラブが時計の3時の方向を指すタイミングである。本実施形態では、計測機器2による計測データとして、少なくともアドレスからフィニッシュまでの時系列の画像データが撮影される。カメラ21,21,・・・による撮影は、同期が取られており、同じ時刻に様々な方向から見たゴルフスイングが撮影される。
【0021】
特に図示されないが、計測機器2には、カメラ21,21,・・・の他、カメラ21,21,・・・により撮影された画像データを、通信線17を介して外部のデバイスであるスイング解析装置1に送信するための通信装置も搭載されている。通信装置は、スイング動作の妨げにならないように無線式とすることもできるし、ケーブルを介して有線式にスイング解析装置1に接続することもできる。本実施形態では、カメラ21,21,・・・により撮影された画像データは、通信装置を介してリアルタイムにスイング解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、カメラ21,21,・・・内の記憶装置に画像データを格納しておき、ゴルフスイングの終了後に当該記憶装置から画像データを取り出して、スイング解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0022】
<2-2.スイング解析装置>
スイング解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。図1に示すとおり、スイング解析装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体30から、或いはインターネット等の通信回線を介して、スイング解析プログラム6を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。スイング解析プログラム6は、計測機器2から送られてくる計測データに基づいて、ゴルフスイングを解析するソフトウェアであり、スイング解析装置1に後述する動作を実行させる。
【0023】
スイング解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析結果等をユーザに対し表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、スイング解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0024】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、スイング解析プログラム6が格納されている他、計測機器2から送られてくる計測データが保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のスイング解析プログラム6を読み出して実行することにより、仮想的にデータ取得部14a、モード展開部14b及び画面作成部14cとして動作する。各部14a~14cの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測機器2等の外部のデバイスとの間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0025】
<3.スイング解析方法>
以下、スイング解析システム100によるスイング解析方法について説明する。本方法では、ゴルファー7によるゴルフスイングが計測され、これが特異値分解され、様々な特徴的な挙動に分解される。本方法は、ゴルフのレッスンや、ゴルファーに対するゴルフクラブのフィッティング、ゴルフクラブの開発等の場面において、ゴルフスイングの特性を理解するのに利用される。以下、詳細に説明する。
【0026】
図3は、本実施形態に係るスイング解析方法の流れを示すフローチャートである。同図に示すように、最初のステップS1では、ゴルフクラブが用意され、ゴルファー7によりゴルフクラブがスイングされる。このとき、計測機器2による計測が行われ、ゴルファー7がゴルフクラブをスイングする様子を表す計測データが収集される。本実施形態に係る計測データとは、上記のとおり、ゴルファー7がゴルフクラブをスイングする時のI0個(I0=53)の観測点の挙動を時系列に計測したデータである。また、本実施形態に係る計測データとは、少なくともアドレスからフィニッシュまでの期間において、カメラ21,21,・・・により撮影される時系列の画像データである。なお、ここでの計測データには、複数台のカメラ21,21,・・・の撮影方向にそれぞれ対応する複数の系統の時系列の画像データが含まれる。計測機器2により計測された計測データは、通信装置からスイング解析装置1に送信される。スイング解析装置1側では、データ取得部14aが通信部15を介してこの計測データを取得し、記憶部13内に格納する。
【0027】
続くステップS2~S4では、データ取得部14aは、計測機器2からの計測データに基づいて、ゴルファー7がゴルフクラブをスイングする時の挙動を時系列に表す時系列挙動データを取得する。まず、ステップS2では、データ取得部14aは、I0個(本実施形態では、I0=53)の観測点を、I0個よりも少ないI1個(本実施形態では、I0>I1≧2であり、特にI1=25)のグループに分ける。本実施形態では、グループの分け方は予め設定されており、物理的に近傍にある観測点どうしが同じグループに分けられる。本実施形態では、同じ観測点が重複して複数のグループに分けられることはない。また、ここでのグループは、複数個の観測点を要素とする少なくとも1つの複数要素グループを含む。本実施形態では、I1個のグループは、全て複数要素グループであり、2つ以上の複数要素グループを含む。
【0028】
続くステップS3では、データ取得部14aは、計測データに含まれる画像データを画像処理することにより、画像データに写るマーカー20,20,・・・の像を検出し、その位置を特定する。マーカー20,20,・・・の像は、複数の撮影方向から検出され、その位置は三次元座標として特定される。マーカー20,20,・・・の三次元座標、すなわち、ゴルファー7の身体のI0個の観測点の三次元座標は、アドレスからフィニッシュまでの期間におけるサンプリング周波数に対応する時間間隔刻みの各時刻に対して導出される。
【0029】
言い換えると、ステップS3では、n=1,2,・・・,N(Nは、2以上の整数)、かつ、i=1,2,・・・,I0(I0=53)に対し、第n時刻における第i観測点の三次元座標ri(n)が導出される。なお、第1時刻がアドレスであり、第N時刻がフィニッシュである。
【数1】
【0030】
上式のxi(n)、yi(n)及びzi(n)は、それぞれri(n)のX、Y及びZ方向成分である。X、Y及びZ方向は、図2に示す通り定義される。すなわち、X方向は、ゴルファー7の背から腹に向かう方向であり、Y方向は、飛球線方向であり、Z軸は、鉛直下から上に向かう方向である。ri(n)は、第n時刻における第i観測点の位置ベクトルである。
【0031】
今、第i観測点に対し、以下の行列[ri]を定義する。行列[ri]は、N行3列の行列であり、第1行から第N行に、時系列に沿って順に、第i観測点の三次元座標ri(1),ri(2),・・・,ri(N)を並べた行列である。ステップS3では、I0個の観測点の各々について、その三次元位置を時系列に表すデータ[ri]が導出される。
【数2】
【0032】
続くステップS4では、データ取得部14aは、I1個(I1=25)のグループに含まれる各グループについて、観測点データを導出する。第iグループについての観測点データとは、第iグループに属する複数個の観測点を代表する代表点である第i代表点の挙動を時系列に表すデータである(i=1,2,・・・,I1)。すなわち、ステップS4では、i=1,2,・・・,I1、かつ、n=1,2,・・・,N(Nは、2以上の整数)に対し、第n時刻における第i代表点の挙動を表すsi(n)が導出される。本実施形態では、si(n)は、第n時刻における第i代表点の三次元座標を表す1行3列の行列である。第n時刻における第i代表点の挙動(三次元座標)は、第i代表点が代表する複数個の観測点の第n時刻における挙動(三次元座標)を平均化することにより導出される。本実施形態では、単純平均により、代表点の挙動が算出される。しかし、これに限らず、相乗平均や重み付け平均等により、代表点の挙動を算出してもよい。
【0033】
第iグループについての観測点データは、以下の行列[si]により表される。行列[si]は、N行3列の行列であり、第1行から第N行に、時系列に沿って順に、第i代表点の三次元座標si(1),si(2),・・・,si(N)を並べた行列である。ステップS4では、I1個の代表点の各々について、その三次元位置を時系列に表すデータ[si]が導出される。
【数3】
【0034】
さらに、全ての代表点に対するI1個(I1=25)の行列[s1],[s2],・・・,[s25]を、この順に列方向(横方向)に並べた行列[R]を定義する。行列[R]は、N行75(=3×25)列の行列である。
【数4】
【0035】
行列[R]は、第1時刻から第N時刻までの25個の代表点の挙動(位置)を時系列に表す時系列挙動データである。行列[R]には、I1個のグループについての観測点データ[s1],[s2],・・・,[s25]が含まれる。ステップS4では、このような時系列挙動データである行列[R]が導出される。なお、[R]の第n行には、第n時刻でのゴルファー7の身体における25個の代表点の三次元座標が含まれるため、[R]の第n行は、第n時刻のゴルファー7の姿勢を表している。
【0036】
続くステップS5及びS6では、ステップS4の時系列挙動データ[R]を特異値分解することにより、時系列挙動データ[R]により表されるゴルフスイングの挙動が特徴的な挙動に分解される。より正確には、時系列挙動データ[R]を疑似的に拡張した疑似拡張データ[Ra]が作成され、これが特異値分解される。ゴルフスイングは、非周期的な運動である。そのため、本実施形態では、ゴルフスイングを複製及び合成した疑似拡張データ[Ra]を特異値分解することにより、ゴルフスイングを疑似的に周期的な運動とみなして解析が実行される。
【0037】
ステップS5では、データ取得部14aが、時系列挙動データ[R]に基づいて、その時間平均が基準挙動に近付くように、疑似拡張データ[Ra]を作成する。疑似拡張データ[Ra]は、特異値分解の基準点を基準挙動に近付けるために作成される。基準挙動とは、本実施形態では、アドレス時の挙動である。なお、図4(A)は、実際にあるゴルファーにゴルフスイングを行わせた時の、時系列挙動データ[R]に含まれる25個の代表点の位置の時間平均を結んでできたスティック線図であり、図4(B)は、同ゴルフスイングに基づく疑似拡張データ[Ra]に含まれる25個の代表点の位置の時間平均を結んでできたスティック線図である。同図から分かるとおり、前者の時間平均は、アドレスの姿勢にはなっておらず、少し腕をテイクバックした姿勢になっている。よって、時系列挙動データ[R]をそのまま特異値分解すると、第1モードをはじめとする各モードの意味を、アドレスを基準として理解できない虞がある。そこで、本実施形態では、疑似拡張データ[Ra]が作成される。
【0038】
より具体的には、データ取得部14aは、時系列挙動データ[R]に基づいて、以下の追加データ[R(1)]及び[Rt]を作成する。今、アドレス時の第i代表点の三次元座標を表す1行3列の行列si(1)を、行方向(縦方向)に2N個並べた2N行3列の行列[si(1)]を定義する。このとき、[R(1)]は、全ての代表点に対する25個の行列[s1(1)],[s2(1)],・・・,[s25(1)]を、この順に列方向(横方向)に並べた2N行75(=3×25)列の行列として導出される。
【数5】
【0039】
一方、追加データ[Rt]は、下式のとおり導出される。すなわち、追加データ[Rt]は、時系列挙動データ[R]を時系列方向に反転した行列である。
【数6】
【0040】
続いて、データ取得部14aは、時系列挙動データ[R]に下式のとおり追加データ[R(1)]及び[Rt]を結合することにより、疑似拡張データ[Ra]を作成する。
【数7】
【0041】
図5は、本実施形態に係る時系列挙動データ[R]と疑似拡張データ[Ra]との関係を表す概念図である。すなわち、アドレス時の挙動を時間長2Nだけ繰り返し複製した追加データ[R(1)]を、時系列挙動データ[R]のアドレスの時刻n=1の前に結合する。さらに、時系列挙動データ[R]を時系列方向に反転した時間長Nの追加データ[Rt]を、時系列挙動データ[R]のフィニッシュの時刻n=Nの後に結合し、さらにその後に、追加データ[R(1)]を追加する。このように、追加データ[R(1)]及び[Rt]は、時系列挙動データ[R]に連続するように結合され、こうして作成される疑似拡張データ[Ra]は、連続的に値が変化するデータとなる。疑似拡張データ[Ra]は、6N行75(=3×25)列の行列である。以上のとおり作成される疑似拡張データ[Ra]も、ゴルファー7がゴルフクラブをスイングする時の挙動を時系列に表す時系列挙動データである。
【0042】
続くステップS6では、モード展開部14bは、下式に従って、ゴルフスイングの挙動を表す疑似拡張データ[Ra]を特異値分解する。より具体的には、モード展開部14bは、疑似拡張データ[Ra]に基づき、初期挙動[R0]を導出する。そして、モード展開部14bは、疑似拡張データ[Ra]を初期挙動[R0]を基準として特異値分解することにより、疑似拡張データ[Ra]により表されるゴルフスイングの挙動から、特徴的な挙動λjjj Tを抽出する。なお、j=1,2,・・・,J(Jは、75以下の整数)である。
【数8】
【0043】
上式中の初期挙動[R0]は、[Ra]の時間平均である。[R0]は、[Ra]を時間方向(行方向)に平均化した平均行列を作成し、その平均行列を6N個行方向に並べた6N行75(=3×25)列の行列である。すなわち、[R0]の第l列は、[Ra]の第l列の6N個の成分の平均値を、行方向に6N個並べた値列である。ところで、疑似拡張データ[Ra]には、上記のとおり、時間長4N分のアドレス時の挙動(本実施形態では、ゴルファー7の姿勢)を表すデータが追加されている。そのため、疑似拡張データ[Ra]の時間平均[R0]により表される挙動は、時系列挙動データ[R]の同様の時間平均により表される挙動よりも、アドレス時の挙動に近付いている。なお、本実施形態では、単純平均により平均行列が算出されるが、これに限らず、相乗平均や重み付け平均等により、平均行列を算出してもよい。また、初期挙動[R0]は、[Ra]の全体の時間平均ではなく、[Ra]に含まれるアドレスの前後の期間の行列を時間方向(行方向)に平均化した平均行列を作成し、その平均行列を6N個行方向に並べたものとしてもよい。また、初期挙動[R0]は、[Ra]に含まれるアドレスの時刻に対応する行を、6N個行方向に並べたものとしてもよい。
【0044】
以上のとおり、本実施形態では、疑似拡張データ[Ra]とその時間平均[R0]との差分である[Ra]-[R0]が特異値分解され、j=1,2,・・・,J(Jは、75以下の整数)に対し、λj,zj及びvjが導出される。つまり、疑似拡張データ[Ra]が、その時間平均[R0]を基準として特異値分解される。λjは、第jモードの特異値であり、[Ra]-[R0]に対する第jモードの割合を表す。vjは、[Ra]-[R0]の左特異ベクトルであり、N次元である。zjは、[Ra]-[R0]の右特異ベクトルであり、75次元である。zjは、ゴルファー7の身体における各代表点の励起パターンを表し、vjは、zjの時間に対する励起パターンを表す。
【0045】
また、モード展開部14bは、j=1,2,・・・,Jに対し、特異値λjに基づいて、[Ra]に対する第jモードの貢献度である寄与率Cjを下式に従って導出する。
【数9】
【0046】
以上の特異値分解により、時系列挙動データ[R]と同じくゴルフスイングの挙動を時系列に表す疑似拡張データ[Ra]から、ゴルフスイングに含まれる第1モードから第Jモードの各モードに対応する特徴的な挙動λjjj Tが抽出される。この結果を利用し、モード展開部14bは、j=1,2,・・・,Jに対し、下式に従って、第jモードの特徴的な挙動λjjj Tに初期挙動[R0]を合成した第jモードの挙動を表す[Rj]を導出する。[Rj]は、ゴルフスイングの挙動から分解された第jモードの特徴的な挙動に基づくため、以下、[Rj]の表す挙動を、分解挙動ということがある。
【数10】
【0047】
なお、Jは、最大で75であるが、何次モードまでの挙動を導出するかは、解析の目的等に応じて適宜選択され得る。なお、本発明者らの検討によると、一般に、第1モードの寄与率だけで90%程度であり、第1モードから第2モードまでの累積寄与率は97%程度であり、第1モードから第3モードまでの累積寄与率は99%を超え、第1モードから第5モードまでの累積寄与率は約99.8%に達する。よって、第5モードまでの挙動を導出することにより、ゴルフスイングを概ね評価し得る。
【0048】
また、モード展開部14bは、k=1,2,・・・,Jに対し、第1モードから第kモードまでの挙動を累積した挙動(以下、累積挙動ということがある)を表す[R1k]を下式に従って導出する。[R1k]は、ゴルフスイングの挙動から分解された第1モードから第kモードまでの特徴的な挙動に基づくため、以下、[R1k]の表す挙動についても、分解挙動ということがある。
【数11】
【0049】
[R1k]は、各代表点の各時刻における第1モードから第kモードまでの累積挙動(三次元座標)を成分として含む。よって、k=1,2,・・・,Jに対し、[R1k]を導出することは、各モードの各時刻におけるゴルファーの姿勢を導出することを意味する。
【0050】
以上に説明したステップS1~S6は、同じ又は異なるゴルファーが同じ又は異なるゴルフクラブを用いて行う複数回のゴルフスイングに対し繰り返し実行することができる。ここで、複数回のゴルフスイングに対しステップS1~S6が実行された場合であって、これらのゴルフスイング間の比較を行う場合には、ステップS7が実行される。ステップS7では、初期挙動[R0]の調整が行われる。初期挙動[R0]の調整は、主としてゴルフスイングの特性のみをより正確に比較できるようにするために行われる。この調整より、例えば、異なるゴルファーによるゴルフスイングを比較する場合には、ゴルファー間の体格差がキャンセルされる。また、同じゴルファーがスイングする場合であっても、例えば、異なるゴルフクラブがスイングされたり、打ち方を意図的に変える場合には、初期挙動(本実施形態では、アドレス時の姿勢の差)が変化する可能性がある。ここでの調整は、このような場合に、初期挙動の差を除く、ゴルフスイングの差のみの抽出を可能にする。
【0051】
ゴルフスイングBをゴルフスイングAと比較する場面を想定する。この場合、具体的には、ステップS7では、モード展開部14bは、j=1,2,・・・,Jに対し、ゴルフスイングBの初期挙動[R0]をゴルフスイングAの初期挙動[R0]に合わせるように、ゴルフスイングBの第jモードの分解挙動を表す[Rj]を修正する。以下、修正後の分解挙動[Rj]を、B->A[Rj]と表記する。同様に、モード展開部14bは、k=1,2,・・・,Jに対し、ゴルフスイングBの初期挙動[R0]をゴルフスイングAの初期挙動[R0]に合わせるように、ゴルフスイングBの第kモードの分解挙動を表す[R1k]を修正する。以下、修正後の分解挙動[R1k]を、B->A[R1k]と表記する。今、上述したλj,zj,vj,[R0],[Rj],[R1k]の各記号について、ゴルフスイングAに対応するものには左肩にAを付し、ゴルフスイングBに対応するものには左肩にBを付す。このとき、B->A[Rj]及びB->A[R1k]は、下式に従って導出される。
【数12】
【0052】
すなわち、分解挙動B->A[Rj]は、ゴルフスイングBの挙動から抽出された特徴的な挙動Bλj Bj Bj Tに、ゴルフスイングBの初期挙動B[R0]とは異なる、ゴルフスイングAの初期挙動A[R0]を合成することにより導出される。また、分解挙動B->A[R1k]は、ゴルフスイングBの挙動から抽出された第1モードから第kモードまでの特徴的な挙動の累積挙動Bλ1 B1 B1 T+・・・+Bλk Bk Bk Tに、ゴルフスイングBの初期挙動B[R0]とは異なる、ゴルフスイングAの初期挙動A[R0]を合成することにより導出される。これにより、ゴルフスイングBの第jモードの分解挙動B->A[Rj]は、ゴルフスイングAの初期挙動A[R0]を基準とした挙動を表すようになる。ゴルフスイングBの第kモードの分解挙動B->A[R1k]も、ゴルフスイングAの初期挙動A[R0]を基準とした挙動を表すようになる。
【0053】
続くステップS8では、画面作成部14cが、以上の特異値分解の結果及びこれをさらに分析した結果を表示する画面(以下、結果画面という)を作成し、表示部11上に表示させる。例えば、結果画面には、図6に示すようなスティック線図を表示することができる。図6は、あるゴルファーがあるゴルフスイングを行った時の第1モードの分解挙動を表す[R1](=[R11])を算出し、これに含まれる25個の代表点の三次元座標を結んでできたスティック線図である。同図には、アドレスからフィニッシュまでの7つの時刻におけるスティック線図が示されている。なお、[R1]に代えて又は加えて、ステップS7が実行された場合には、B->A[R1](=B->A[R11])に含まれる25個の代表点の三次元座標を結んでできたスティック線図を表示してもよい。同様に、k≧2に対しても、[R1k]あるいはB->A[R1k]に基づく同様のスティック線図を結果画面に表示してもよい。このようなスティック線図を見たユーザは、ゴルフスイングに含まれる個々の挙動を適切に評価し、ゴルフスイングの特性を理解することができる。
【0054】
なお、非特許文献1及び2にも示されるとおり、第1~第5モードの挙動は、以下のような挙動であることが知られている。このような知見と合わせて、スティック線図に表れるゴルフスイングの特性についての理解をより深めることもできる。
【表1】
【0055】
結果画面には、j=1,2,・・・,Jに対し、特異値λj及び寄与率Cjを表示することもできる。また、k=1,2,・・・,Jに対し、累積寄与率C1+C2+・・・+Ckを表示することもできる。
【0056】
モード展開部14bは、ステップS7が実行された場合には、これらのゴルフスイングの挙動をモード別に比較することができる。例えば、ゴルフスイングA及びBを比較する場面において、j=1,2,・・・,Jに対し、B->A[Rj]により表される挙動と、A[Rj]により表される挙動とが比較される。また、これに代えて又は加えて、k=1,2,・・・,Jに対し、B->A[R1k]により表される挙動と、A[R1k]により表される挙動とが比較される。この場合、ゴルフスイング間の特性の違いを、ゴルフスイングに含まれる個々の挙動のレベルで(すなわち、モード別に)、定量的又は定性的に評価することができる。例えば、モード展開部14bは、特定のモードにおいて、あるゴルフスイングではダウンスイング中に腰がよく回転しているが、別のゴルフスイングではダウンスイング中に腰が余り回転していない場合において、そのような回転の差を定性的又は定量的に評価することができる。また、モード展開部14bは、比較されるゴルフスイングについて、挙動の差が顕著な部分を検出するようにしてもよい。画面作成部14cは、このような比較の結果についても結果画面に表示することができ、これを見たユーザは、ゴルフスイング間の特性の違いを適切に理解することができる。
【0057】
また、ステップS7が実行された場合には、結果画面には、同じ又は異なるゴルファーが同じ又は異なるゴルフクラブをスイングした時のスティック線図の比較図を表示することもできる。このとき、ゴルフスイングA及びBを比較する場面であれば、B->A[R1k]のスティック線図と、A[R1k]のスティック線図との比較図が作成される。比較図とは、例えば、複数のスティック線図を重ねて又は並べて表示する図である。一例として、図7は、同じゴルファーが同じゴルフクラブを用いてドロースイングとフェードスイングを行った時の、インパクトのタイミングにおける様々なモードのスティック線図を重ねた図である。また、別の例を挙げると、図8Aは、異なるゴルファーG1及びG2がそれぞれのゴルフクラブを用いてスイングを行った時の、インパクトのタイミングにおける様々なモードのスティック線図を重ねた図である。このような図を見たユーザは、異なるゴルフスイングをゴルフスイングに含まれる個々の挙動のレベルで比較することができ、ゴルフスイング間の特性の違いを適切に理解することができる。
【0058】
以上のような比較を、異なるゴルフクラブを用いたゴルフスイング間で行う場合には、ゴルフクラブの特性の違いを明らかにすることができる。例えば、ゴルフクラブの違いにより、ゴルフスイング中のどのようなタイミングにおいてどのような部位の動作が変化するかを知ることができる。この方法によれば、シャフトの硬さ、ヘッドの重量及び重心位置、ゴルフクラブの長さ等のスペックの異なるゴルフクラブを、同じ又は異なるゴルファーに試打させることにより、ゴルフクラブのスペックの特性を知ることができる。このような情報は、ゴルフクラブの開発の場面や、ゴルフクラブのフィッティングの場面等で好ましく利用することができる。また、表1に示す知見と合わせて、さらにこれらの理解を深めることもできる。
【0059】
また、以上のような比較を、異なるゴルファーによるゴルフスイング間で行う場合には、ゴルファーの特性の違いを明らかにすることができる。例えば、上級者と初級者とのゴルフスイングの違いを知り、初級者のゴルスフイングの問題を知ることができる。また、表1に示す知見と合わせて、さらにこれらの理解を深めることもできる。このような情報は、例えば、ゴルフのレッスンの場面や、ゴルフクラブの開発の場面等で好ましく利用することができる。
【0060】
なお、図8Aは、初期挙動[R0]の調整により、ゴルファーG2の体格がゴルファーG1の体格に合わせて調整された場合のスティック線図である。このように、ゴルファーG2の分解挙動B[R1k]において、ゴルファーG2の初期挙動B[R0]をゴルファーG1の初期挙動A[R0]に置換することにより、ゴルファーG1及びG2間で体格差がキャンセルされ、両者のゴルフスイングの特性の差がより顕著に表れる。例えば、図8Aにおいて、第1モードから第4モードまでの累積挙動に注目すると、ゴルファーG1がインパクトにかけて踏み込んでいるのに対し、ゴルファーG2は肩の高さが変わらず、手打ちになっていることが分かる。
【0061】
<4.特徴>
<4-1>
以上の実施形態によれば、異なるゴルフスイングをモード別に比較する場合には、ステップS7においてゴルフスイング間で初期挙動[R0]を一致させる調整が行われる。これにより、例えば、異なるゴルファーのゴルフスイングを比較する場合には、両者の身長や身体バランス等についての体格差をキャンセルし、両者のゴルフスイングを、主として両者のゴルフスイングの特性の差のみに注目して比較することができる。
【0062】
図8Bは、図8Aと同じ計測データから作成されたスティック線図の比較図であるが、図8Aの場合と異なり、ゴルファーG1及びG2間での初期挙動[R0]の調整が行われなかった場合の比較図である。すなわち、図8Bは、A[R1k]とB[R1k]との比較図である。図8A図8Bとを比較すれば明らかなとおり、初期挙動[R0]の調整が行われない場合には、両者の体格差のせいで、両者のゴルフスイングの特性の差が分かりにくい結果となり得る。この点、図8Aによれば、両者のゴルフスイングの特性の差を容易に理解することができる。
<4-2>
以上の実施形態によれば、I0個の観測点を、これよりも少ないI1個の代表点にまとめることにより、その後の特異値分解によるモード数(次元数)が削減される。すなわち、特異値分解の対象となる注目点(観測点又は代表点)の数が多いと、スイングの自由度は高くなるが、その分、モード数が増えるため、1つのモードが有する情報が少なくなる。この場合、特異値分解の結果から、ゴルフスイングに含まれる個々の挙動を適切に評価することがむしろ困難になる場合もある。かといって、モード数を減らすべく、やみくもに観測点の数を減らしてしまうと、スイングの解析の精度が低下し得る。この点、以上の実施形態によれば、複数の観測点をグループ化し、複数の観測点の情報を1つの代表点の情報に圧縮することが行われる。よって、スイングの解析の精度を維持したまま、各モードの情報量を維持することができる。よって、ゴルフスイングに含まれる個々の挙動(各モードの挙動)をより適切に評価することができる。
【0063】
既に説明した図6は、25個の代表点の第1モードのスティック線図である。これに対し、図9は、図6と同じ計測データに基づき、代表点を作成せずに、第1モードでの53個の観測点の三次元座標を結んでできたスティック線図である。図6及び図9を比較すれば分かるが、注目点を減らしても、スイングの挙動全体を表現することに成功している。一方で、注目点の多い図9のスティック線図からは、上体の伸縮が見える。これに対し、注目点が少なく、シンプルな図6のスティック線図では、上体の伸縮というよりはむしろ、回転運動が見える。このように、注目点を圧縮し、挙動をよりシンプルに表現することにより、新たな情報を得ることができる。
【0064】
また、以上のモード数の削減によりシンプルに挙動が表現される場合、異なるスイングどうしの比較がより容易になる。すなわち、特異値分解の対象となる注目点が多すぎると、ゴルファーの体格や姿勢等が正確に再現されすぎるため、むしろ比較が難しくなり得る。このような場合、シンプルな挙動でスイングを表現することにより、問題を解消することができる。
【0065】
また、複数の観測点の挙動を1つの代表点の挙動に平均化することにより、回転の情報をカットすることもできる。例えば、飛球線方向周りの腰の回転は、ゴルフスイングを分析する上で、余り必要とされないことがある。このような場合に、腰の近傍の観測点を1つの代表点にまとめることにより、不要な情報を減らし、より必要な情報に注目することができる。
【0066】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0067】
<5-1>
上述した計測機器2の構成は例示であり、例えば、計測機器2は、慣性センサ、距離画像センサ等であってもよいし、慣性センサ、距離画像センサ及びモーションキャプチャシステムからなる群から選択される2つ以上の機器を任意に組み合わせたものであってもよい。
【0068】
<5-2>
上記実施形態では、ゴルフスイングが解析されたが、ゴルフクラブ以外の打具、例えば、テニスラケットやベースボールバット等のスイングを解析の対象とすることもできる。
【0069】
<5-3>
上記実施形態では、基準挙動は、アドレス時の挙動とされた。しかしながら、基準挙動は、他の時刻の挙動、例えば、インパクト又はトップの挙動とすることもできる。例えば、トップ時の挙動を基準挙動とする場合には、図10に示すように疑似拡張データを作成することができ、インパクト時の挙動を基準挙動とする場合には、図11に示すように疑似拡張データを作成することができる。この場合、初期挙動[R0]は、インパクト又はトップ時の挙動に近づく。
【0070】
<5-4>
上記実施形態では、特異値分解の対象となる観測点データは、代表点の位置を時系列に表すデータとされたが、代表点の姿勢、速度、加速度、角速度、角加速度、力又はトルク等を時系列に表すデータであってもよいし、これらと位置とからなる群から選択される2以上の要素を時系列に表すデータを組み合わせたものであってもよい。なお、ここでいう姿勢とは、クォータニオンのような角度情報を有するパラメータである。
【0071】
<5-5>
上記実施形態では、ゴルファーの身体においてのみ観測点が設定されたが、観測点は、ゴルフクラブ上に設定してもよい。
【0072】
<5-6>
0個の観測点を分けるI1個のグループには、1個の観測点を要素とする単一要素グループが含まれてもよい。この場合、単一要素グループに対応する観測点データは、当該単一要素グループに属する1個の観測点の挙動を時系列に表すデータとすることができる。
【0073】
<5-7>
上記実施形態では、同じ観測点が重複して複数のグループに分けられることがないように、観測点がグループ化された。しかしながら、1又は複数の観測点を複数のグループに重複して分けることも可能である。
【0074】
<5-8>
上記実施形態において、I0個の観測点を、I0個よりも少ないI1個のグループに分ける処理を省略してもよい。この場合、ステップS4において、全ての観測点に対するI0個の行列[r1],[r2],・・・,[r25]をこの順に列方向(横方向)に並べた行列を、時系列挙動データ[R]として導出するようにすれば、その後の処理は、上記実施形態と同様に実行することができる。
【0075】
<5-9>
上記実施形態では、疑似拡張データ[Ra]が特異値分解されたが、時系列挙動データ[R]を特異値分解してもよい。
【0076】
<5-10>
代表点の挙動は、代表点が代表する複数個の観測点の挙動を平均化することにより導出するのではなく、その他の方法で導出してもよい。代表点の挙動として、例えば、代表点が代表する複数個の観測点の挙動のうち最も大きいものを選択してもよいし、最も大きいものと最も小さいものを平均化する等してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 スイング解析装置(コンピュータ)
100 スイング解析システム
14a データ取得部
14b モード展開部
14c 画面作成部
2 計測装置
6 スイング解析プログラム
7 ゴルファー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11