(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
E04B1/58 D
(21)【出願番号】P 2019176126
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391004207
【氏名又は名称】齋藤木材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健
(72)【発明者】
【氏名】白石 昭夫
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110402(JP,A)
【文献】特開2005-330802(JP,A)
【文献】特開2002-180535(JP,A)
【文献】特開2008-174932(JP,A)
【文献】特開平11-081469(JP,A)
【文献】特開2020-159078(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0030053(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0107654(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0060888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 1/38-1/61
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている木製で一対の拘束板と、前記芯材の有する二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束板に接続されている木製で一対の側板と、により形成される木製拘束材と、を備え、
前記一対の拘束板の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナットにより締め付けられており、
前記一対の側板と前記拘束板の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナットにより締め付けられており、
前記一対の拘束板の有するそれぞれの前記第一ボルト孔の端部には、前記第一長ボルトの有する頭部と前記ナットが収容される第一座ぐりが設けられており、
前記第一座ぐりの底面には、該底面に連続し、該第一座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられており、
前記一対の拘束板の有する前記座金収容溝にそれぞれ座金が収容され、一方の該座金は前記第一長ボルトの有する頭部にて支圧され、他方の該座金は前記ナットにて支圧されていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記一対の側板の有するそれぞれの前記第二ボルト孔の端部には、前記第二長ボルトの有する頭部と前記ナットが収容される第二座ぐりが設けられており、
前記第二座ぐりの底面には、該底面に連続し、該第二座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられており、
前記一対の側板の有する前記座金収容溝にそれぞれ前記座金が収容され、一方の該座金は前記第二長ボルトの有する頭部にて支圧され、他方の該座金は前記ナットにて支圧されていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記第一座ぐりの底面に連続する前記座金収容溝は、前記拘束板において該第一座ぐりが設けられていない側面に臨んでおり、
前記第二座ぐりの底面に連続する前記座金収容溝は、前記側板において該第二座ぐりが設けられていない側面に臨んでいることを特徴とする、請求項2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記座金収容溝は、前記座金と同一の平面寸法を有していることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記座金収容溝は、前記拘束板の長手方向に連続する溝条であり、該溝条に複数の前記座金が収容されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
そこで、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼製の芯材が木製の拘束材にて包囲された座屈拘束ブレースに対して、例えば大地震時に架構が大きく変形した際に、この変形に起因する、所謂、付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)が拘束材に作用し得る。この付加曲げモーメントが木製の拘束材に作用することにより、拘束材が破損に至る可能性が生じる。そして、拘束材が破損することにより、拘束材による芯材の座屈拘束機能が低下し、芯材が座屈に至り得る。特許文献1には、このような所謂付加曲げモーメントが拘束材に作用することを防止する措置についての言及がない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、外観意匠性に優れた座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている木製で一対の拘束板と、前記芯材の有する二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束板に接続されている木製で一対の側板と、により形成される木製拘束材と、を備え、
前記一対の拘束板の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナットにより締め付けられており、
前記一対の側板と前記拘束板の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナットにより締め付けられており、
前記一対の拘束板の有するそれぞれの前記第一ボルト孔の端部には、前記第一長ボルトの有する頭部と前記ナットが収容される第一座ぐりが設けられており、
前記第一座ぐりの底面には、該底面に連続し、該第一座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられており、
前記一対の拘束板の有する前記座金収容溝にそれぞれ座金が収容され、一方の該座金は前記第一長ボルトの有する頭部にて支圧され、他方の該座金は前記ナットにて支圧されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、一対の拘束板が複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、一対の側板がその間にある拘束板とともに複数の第二長ボルトをナット締めすることによって接合されていることにより、一対の拘束板と一対の側板の拘束性の高い木製拘束材を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束材を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0011】
また、本態様においては、一対の拘束板同士は一対の側板にて接続されて、四つの面材による閉合構造を有する木製拘束材が形成され、鋼製の芯材が木製拘束材にて包囲されている。この構成により、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、木製の拘束材と側板は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材により形成されてもよい。
【0012】
また、本態様においては、木製拘束材が、一対の拘束板に対して一対の側板が接続される構成を有していることから、木製拘束材の加工が容易となる。例えば、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の2つの拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する加工を要する。これに対して、本態様の座屈拘束ブレースは、一対の拘束板に対して一対の側板を接続して木製拘束材を製作し、例えばこの木製拘束材の有する中空に芯材を挿通することにより座屈拘束ブレースを製作することができる。そのため、座屈拘束ブレースの製作がより一層容易になる。
【0013】
さらに、本態様においては、第一ボルト孔の端部にそれぞれ、第一長ボルトの有する頭部とナットが収容される第一座ぐりが設けられ、第一座ぐりの底面において該底面に連続して、第一座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられていることにより、座金の平面寸法が大きい場合であっても、座金の広幅面の全面が外部に露出することが解消され、座屈拘束ブレースの外観意匠性を高めることができる。尚、座金の平面形状には、正方形や長方形、円形、半円形、楕円形など、多様な形状がある。
【0014】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記一対の側板の有するそれぞれの前記第二ボルト孔の端部には、前記第二長ボルトの有する頭部と前記ナットが収容される第二座ぐりが設けられており、
前記第二座ぐりの底面には、該底面に連続し、該第二座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられており、
前記一対の側板の有する前記座金収容溝にそれぞれ前記座金が収容され、一方の該座金は前記第二長ボルトの有する頭部にて支圧され、他方の該座金は前記ナットにて支圧されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第二ボルト孔の端部においても、第二長ボルトの有する頭部とナットが収容される第二座ぐりが設けられ、第二座ぐりの底面において該底面に連続して、第二座ぐりの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられていることにより、座金の平面寸法が大きい場合であっても、座金の広幅面の全面が外部に露出することが解消される。すなわち、第一ざぐりが設けられている側面の外観意匠性のみならず、第二ざぐりが設けられている側面の外観意匠性も高めることができる。
【0016】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一座ぐりの底面に連続する前記座金収容溝は、前記拘束板において該第一座ぐりが設けられていない側面に臨んでおり、
前記第二座ぐりの底面に連続する前記座金収容溝は、前記側板において該第二座ぐりが設けられていない側面に臨んでいることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、座金収容溝が、第一座ぐりが設けられていない側面や第二座ぐりが設けられていない側面に臨んでいることにより、当該側面に臨む開口を介して座金を座金収容溝に配設することができる。尚、第一座ぐりや第二座ぐりが設けられていない側面から切削工具を用いて座金収容溝を加工することにより、当該側面に第一座ぐりや第二座ぐりに連通する開口ができ、これが座金収容溝の出入り開口となる。
【0018】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記座金収容溝は、前記座金と同一の平面寸法を有していることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、座金収容溝が座金と同一の平面寸法を有していることにより、座金を座金収容溝に収容した際に、座金を位置ずれさせることなく所望位置に配設することができる。ここで、「同一の平面寸法」とは、座金収容溝と座金の平面寸法が完全同一である他にも、座金収容溝に座金が収容された際に座金の位置ずれが生じない程度の寸法の相違も含まれる。
【0020】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記座金収容溝は、前記拘束板の長手方向に連続する溝条であり、該溝条に複数の前記座金が収容されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、間隔を置いて列状に配設される複数の座金が収容される一つの溝条の座金収容溝を加工するのみでよいことから、座金収容溝の加工性が良好になり、座金収容溝(及びここに収容される座金)の数が多くなるに従い、この効果は顕著になる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、外観意匠性に優れた座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の斜視図である。
【
図3】
図2のIII方向矢視図であって、木製拘束材の一例を拘束板の広幅面から見た平面図である。
【
図4】木製拘束材の一例において、一方の拘束板をその側方から見た側面図である。
【
図5】木製拘束材の他の例を拘束板の広幅面から見た平面図である。
【
図6】木製拘束材の他の例において、一方の拘束板をその側方から見た側面図である。
【
図7】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
【
図11】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
【
図12】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
【
図13】第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
【
図14】第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の縦断面図である。
【
図15】
図14のXV部の拡大図であって、芯材の表面の凸部から局所的に作用する力が内挿板を介して拡散されて拘束板に伝達されることを説明する図である。
【
図16】座屈拘束ブレースの全体座屈曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、各実施形態に係る座屈拘束ブレースについて添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[第1実施形態に係る座屈拘束ブレース]
<芯材>
はじめに、
図1を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
【0026】
芯材10は、細長でプレート状の平鋼により形成されており、その長手方向の中央側において広幅面11aの幅が相対的に狭い狭幅部13を有し、その長手方向の端部側において広幅面11aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。また、芯材10の長手方向の端部の広幅面11aには、広幅面11aに直交する補強リブ14が溶接にて接合されて断面十字状を呈している。
【0027】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部13を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部13を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部13に限定させることができる。
【0028】
また、広幅部12と補強リブ14にはそれぞれ、以下で説明するように、構面に設けられているガセットプレートやガセットプレートに取り付けられているフィンスチフナ(
図7参照)にスプライスプレートを介してボルト接合されるためのボルト孔12a、14aが開設されている。芯材10の広幅面11aが建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレース100がガセットプレートに取り付けられる場合、芯材10が構面に平行な広幅面11aに直交する補強リブ14を有することにより、芯材10の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。
【0029】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0030】
芯材10の狭幅部13の中央位置において、狭幅部13の左右の側面(狭幅部13の周面の一例)から鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部13の側面に対して溶接等により接合されている。この突起15は、以下で説明する木製拘束材(
図2参照)に開設されている係合孔に係合する。尚、突起15が狭幅部13の上下の平面から張り出している形態であってもよく、この場合は、木製拘束材(
図2参照)において拘束板21の対応する位置に係合孔が開設され、ここに突起15が係合する。
【0031】
狭幅部13の左右の側方に対して、細長の四角柱状のスペーサー16がX1方向に配設され、狭幅部13の左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が以下に示す木製拘束材の内部に収容される。スペーサー16は、鋼製部材と木製部材のいずれであってもよい。また、スペーサー16は、円柱状等、図示例以外の形態であってもよい。尚、スペーサー16には、以下に示す第一長ボルトが挿通される複数(図示例は三つ)のボルト孔16aが、その長手方向に間隔を置いて開設されている。
【0032】
<木製拘束材>
次に、
図2乃至
図6を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例及び他の例について説明する。ここで、
図2は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の斜視図である。また、
図3は、
図2のIII方向矢視図であって、木製拘束材の一例を拘束板の広幅面から見た平面図であり、
図4は、木製拘束材の一例において、一方の拘束板をその側方から見た側面図である。
【0033】
木製拘束材20は、一対の拘束板21と、一対の拘束板21を繋ぐ一対の側板22とを有し、一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設されるようになっている。木製で一対の拘束板21は、芯材10の有する二つの広幅面11a(
図1参照)に対向するように配設されており、一対の拘束板21に接続されている木製で一対の側板22は、芯材10の有する二つの狭幅面11b(
図1参照)に対向するように配設されている。
【0034】
一対の拘束板21の対応する位置には、それぞれ第一ボルト孔21aが開設されており、それぞれの第一ボルト孔21aの端部には、第一長ボルト31の有する頭部31aとナット33が収容される第一座ぐり21dが設けられている。そして、一対の拘束板21の有する対応する二つの第一ボルト孔21aにより、第一ボルト孔ユニット21bが形成されている。図示例では、第一ボルト孔ユニット21bは、拘束板21の幅方向に二つ設けられ、拘束板21の長手方向に六つ設けられて、総計十二の第一ボルト孔ユニット21bがある。
【0035】
そして、一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設された際に、スペーサー16に開設されている各ボルト孔16aが各第一ボルト孔ユニット21bに対応する位置に位置決めされており、このボルト孔16aも第一ボルト孔ユニット21bを形成する。第一ボルト孔ユニット21bに対して第一長ボルト31が挿通され、ナット33にて締付けられるようになっている。
【0036】
ここで、
図2乃至
図4に示すように、第一座ぐり21dの底面には、該底面に連続して、第一座ぐり21dの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝21eが設けられている。そして、座金収容溝21eに対して、座金収容溝21eと平面寸法及び厚みが同一の座金32が収容されている。尚、ここでいう「同一」とは、完全同一のみならず、座金収容溝21eの寸法が座金32の寸法よりも若干大きいものの、座金収容溝21eに収容された座金32の位置がほとんどずれない程度の寸法の相違も含まれるものとする。
図2においては、上方の拘束板21の有する座金収容溝21eに上方の座金32が収容され、下方の拘束板21の有する座金収容溝21eに下方の座金34が収容されることを示している。
【0037】
図示例の座金収容溝21e及び座金32,34は、扁平な直方体状を呈し、その広幅面の長方形の面積は、平面視円形の第一座ぐり21dよりも格段に大きい。尚、座金32,34の平面形状は、図示例以外にも、正方形、円形、半円形等、多様な形状のものが適用できる。例えば、丸鋸等の切削工具により座金収容溝を加工する場合は、座金収容溝の平面形状が自ずと半円形を呈することになる。また、座金32,34の平面寸法は、第一長ボルト31から付与される支圧力等により設定される。
【0038】
図3及び
図4に示すように、第一座ぐり21dの底面に連続する座金収容溝21eは、拘束板21において第一座ぐり21dが設けられていない側面(
図3においては、上下の側面)に臨んでいる。例えば、切削工具(図示せず)を用いて、拘束板21の側面から座金収容溝21eを加工することにより、座金収容溝21eが側面に臨む態様で加工される。そして、座金収容溝21eが側面に臨むことにより形成される開口を介して、座金32,34を座金収容溝21eに配設することができる。
【0039】
図示例においては、座金収容溝21eと座金32,34の形状及び寸法が同一であることから、座金収容溝21eに対して座金32,34を収容し易く、また、一度収容された座金32,34の位置ずれを抑止できる。
【0040】
上方の拘束板21の有する座金収容溝21eに上方の座金32が収容され、下方の拘束板21の有する座金収容溝21eに下方の座金34が収容された後、
図2に示すように、第一長ボルト31を第一ボルト孔ユニット21bに挿通する。第一長ボルト31の頭部31aは座金32に係止され、第一長ボルト31の他端は座金34から外側(下方)に張り出す。この下方に張り出した第一長ボルト31の他端の螺子溝にナット33を締付けることにより、一方の座金32は第一長ボルト31の有する頭部31aにて支圧され、他方の座金34はナット33にて支圧されながら、一対の拘束板21が形成される。
【0041】
上記するように、第一長ボルト31から付与される支圧力が大きくなるに従い、座金32,34の平面寸法は大きくなる。この際、座金32,34の広幅面が外部に露出していると、木製拘束材20とこれを含む座屈拘束ブレースの外観意匠性が損なわれ得る。図示例の木製拘束材20によれば、座金32,34の広幅面の平面寸法が大きい場合であっても、座金32,34は座金収容溝21eに収容されていることから、座金32,34の広幅面は殆ど外部から視認できない。従って、外観意匠性に優れた木製拘束材20やこれを含む座屈拘束ブレースを形成できる。
【0042】
また、
図5及び
図6には、木製拘束材の他の例を示している。ここで、
図5は、木製拘束材の他の例を拘束板の広幅面から見た平面図であり、
図4は、木製拘束材の一例において、一方の拘束板をその側方から見た側面図である。
【0043】
図示例の拘束板21は、拘束板21の長手方向に連続する溝条の座金収容溝21fを有し、溝条の座金収容溝21fにおける各第一長ボルト31に対応する位置に、それぞれ平面視長方形の座金32が配設されている。溝条の座金収容溝21fの平面寸法は、一つの座金32のみならず、六つの座金32の平面寸法の合計よりも大きい。
【0044】
この形態によっても、座金32の広幅面の平面寸法が大きい場合において、座金32は座金収容溝21fに収容されていることから、座金32の広幅面は殆ど外部から視認できない。また、間隔を置いて列状に配設される複数(図示例は六つ)の座金32の収容に際して、これらが収容される一つの溝条の座金収容溝21fを加工するのみでよいことから、座金収容溝の加工性が良好になる。
【0045】
図2に戻り、一対の側板22と拘束板21の対応する位置には、それぞれ第二ボルト孔22a、21cが開設されており、対応する第二ボルト孔22a、21cにより第二ボルト孔ユニット22bが形成されている。第二ボルト孔ユニット22bは、第一ボルト孔ユニット21bと干渉しない位置に設けられており、図示例では、側板22の幅方向に二つ設けられ、側板22の長手方向に七つ設けられて、総計十四の第二ボルト孔ユニット22bがある。
【0046】
そして、各第二ボルト孔ユニット22bに第二長ボルト41が挿通され、ナット43にて締付けられるようになっている。より具体的には、第二ボルト孔ユニット22bを形成する一方の第二ボルト孔22aの第二座ぐり22dに座金42が配設され、座金42を介して第二長ボルト41が第二ボルト孔ユニット22bに挿通され、他方の第二ボルト孔22aの第二座ぐり22dに座金44が配設され、座金44から外側に張り出した第二長ボルト41の先端の螺子溝にナット43が締付けられる。
【0047】
尚、側板22においても、第二座ぐり22dの底面には、該底面に連続して、第二座ぐり22dの平面寸法よりも大きな平面寸法を有する座金収容溝が設けられてもよい。一般には、座金42、44には、第二長ボルト41から過大な支圧力が作用しないことから、座金42、44の平面寸法が過度に大きくなることはなく、従って、外観意匠性の観点から座金42、44を座金収容溝に必ずしも収容する必要性はないが、仮に座金42、44の平面寸法が大きくなる場合には、座金収容溝に収容するのが望ましい。
【0048】
また、第二長ボルト41をナット43にて締め付けるに当たり、拘束板21と側板22の当接面には、接着剤が塗布され、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工が行われる。
【0049】
ここで、接着剤には、ウレタン系接着剤とエポキシ系接着剤等があるが、拘束板21と側板22の当接面に接着剤を塗布した後、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工を行うことを可能とするべく、硬化までにある程度の時間を要する(例えば24時間程度)ウレタン系接着剤を適用するのが好ましい。接着剤が硬化することにより形成される接着面は、第二長ボルト41がナット43にて締め付けられる締付け力により強固に圧着される。
【0050】
このように、一対の拘束板21同士が、複数の第一長ボルト31をナット33にて締付けることにより拘束され、一対の側板22と拘束板21が、接着面を介して第二長ボルト41をナット43にて締付けることにより拘束されることにより、拘束板21と側板22が強固に接合された閉合構造の木製拘束材20が形成される。
【0051】
左右の側板22には、その長手方向の中央位置において、芯材10の有する突起15が係合する係合孔22cが開設されている。芯材10の有する突起15が木製拘束材20に開設されている係合孔22cに係合することにより、木製拘束材20の内部に差し込まれている芯材10が木製拘束材20の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材10が木製拘束材20の一方の端部に偏った際に、芯材10が存在しない木製拘束材20の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題は生じない。
【0052】
さらに、スペーサー16が第一ボルト孔ユニット21bを構成するボルト孔16aを有し、このボルト孔16aにも第一長ボルト31が挿通されていることにより、スペーサー16が芯材10の長手方向に移動することが抑止される。以下、
図7を参照して説明するように、一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサー16は斜め下方に移動し易く、このスペーサー16の移動によって斜め上方にはスペーサー16の端部と芯材10の広幅部12の間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサー16の存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、図示するようにスペーサー16のボルト孔16aに第一長ボルト31が挿通されることにより、このようなスペーサー16の移動が解消され、スペーサー16の移動に起因した強度上の弱部は生じない。
【0053】
拘束板21と側板22は、無垢材、又は、ラミナが積層された集成材を含む木質材料のいずれにより形成されてもよい。以下で詳説するように、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止できるように、木製拘束材20の断面積や断面剛性、ヤング係数等が設定される。そして、このヤング係数は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0054】
拘束板21の端部のうち、隙間25に芯材10が収容された際に補強リブ14に対応する位置には、補強リブ14に干渉しないスリット24が設けられている。
【0055】
<座屈拘束ブレース>
次に、
図7乃至
図10を参照して、これまでに説明した芯材10と木製拘束材20にて形成される、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図7は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、
図8、
図9、及び
図10はそれぞれ、
図7のVIII方向矢視図、IX方向矢視図、及びX-X矢視図である。
【0056】
座屈拘束ブレース100は、芯材10の狭幅部13と広幅部12の一部を包囲するように木製拘束材20が配設され、広幅部12の端部の十字状の部分が木製拘束材20の端部から張出すようにしてその全体が構成されており、外側に張り出している広幅部12と補強リブ14の有するボルト孔12a、14aが外部に臨んでいる。
【0057】
一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設され、一対の拘束板21とスペーサー16に対して複数の第一長ボルト31が挿通されてナット33にて締付けられ、一対の側板22と拘束板21に対して第二長ボルト41が挿通されてナット43にて締付けられることにより、座屈拘束ブレース100が形成される。図示するように、第一長ボルト31の延設方向は芯材10の弱軸方向となり、第二長ボルト41の延設方向は芯材10の強軸方向となる。
【0058】
座屈拘束ブレース100によれば、一対の拘束板21と一対の側板22が複数の第一長ボルト31と第二長ボルト41をナット締めすることによって強固に閉合されてなる木製拘束材20により、芯材10が包囲されている構成を有することから、座屈強度の高い座屈拘束ブレースとなる。さらに、鋼製の芯材10が木製拘束材20にて包囲されていることにより、座屈拘束ブレース100を木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与えない。
【0059】
図示する座屈拘束ブレース100において、木製拘束材20の隙間25内には、狭幅部13の左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が収容され、狭幅部13の側面から側方に張り出す突起15が係合孔22cに係合されている。
【0060】
芯材10の広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間には、幅t1の隙間G1が設けられている。さらに、補強リブ14と木製拘束材20の拘束板21の有するスリット24の間には、補強リブ14の長手方向に幅t2であり、補強リブ14の側方に幅t1の隙間G2が設けられている。このように、広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間に隙間G1を有していることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G1にて芯材10の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材20に作用することを解消できる。一方、スリット24と補強リブ14との間に隙間G2が存在することにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G2が吸収することができ、伸縮する芯材10がスリット24の壁面に接触して木製拘束材20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0061】
また、
図10に示すように、広幅部12と狭幅部13の境界領域Aは芯材10の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材10に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる付加曲げ吸収エリアとなっている。このように、芯材10に作用する付加曲げモーメントを芯材10の広幅部12と狭幅部13の境界領域Aにて効果的に吸収し、芯材10と木製拘束板20の側板22の間に設けられた隙間G1により、芯材10に作用する付加曲げモーメントを木製拘束板20の側板22に作用させないようにすることができる。
【0062】
さらに、芯材10の中央側に狭幅部13を設けたことにより、狭幅部13と側板22の間に存在する比較的大きな隙間G3(芯材10の端部側の広幅部12と側板22の間の隙間G1よりも大きな隙間)に対して、この隙間G3にスペーサー16を介在させて隙間G3を閉塞することにより、芯材10の強軸方向(芯材10の広幅面11aに平行な方向)の座屈を防止することができる。そのため、座屈拘束ブレース100の全体座屈が抑制され、座屈拘束ブレース100の圧縮耐力が向上することにより、座屈拘束ブレース100が組み込まれた架構とこの架構を含む建築物に対して優れた耐震補強効果を付与できる。
【0063】
<架構への座屈拘束ブレースの適用例>
次に、
図11及び
図12を参照して、架構への座屈拘束ブレースの適用例について説明する。ここで、
図11は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、
図12は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC:Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。
【0064】
図11に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある2つの隅角部には、平鋼により形成されるガセットプレートGPが取付けられている。ガセットプレートGPの表面には、該表面に直交するようにフィンスチフナFSが溶接にて接合されている。柱Cの柱芯L1と梁Bの梁芯L2の交点Oに対して、フィンスチフナFSの芯L3が交差するようにしてフィンスチフナFSがガセットプレートGPに接合される。そして、座屈拘束ブレース100も、対角位置にある双方の交点Oを通る線状に配設される。
【0065】
ガセットプレートGPと芯材10の広幅部12は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合され、フィンスチフナFSと補強リブ14は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合される。
【0066】
図12に示すように、大地震時において構面が変形することにより、座屈拘束ブレース接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0067】
【0068】
座屈拘束ブレース100によれば、芯材10の広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間に幅t1の隙間G1が設けられていることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G1にて芯材10の変形を吸収し、付加曲げモーメントが木製拘束材20に作用することを解消できる。また、補強リブ14と木製拘束材20の拘束板21の有するスリット24の間において、補強リブ14の長手方向に幅t2であり、補強リブ14の側方に幅t1の隙間G2が設けられていることにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G2が吸収することができ、伸縮する芯材10がスリット24の壁面に接触して木製拘束材20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0069】
[第2実施形態に係る座屈拘束ブレース]
次に、
図13乃至
図15を参照して、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、
図13は、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図であり、
図14は、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の縦断面図である。また、
図15は、
図14のXV部の拡大図であって、芯材の表面の凸部から局所的に作用する力が内挿板を介して拡散されて拘束板に伝達されることを説明する図である。
【0070】
座屈拘束ブレース100Aは、芯材10の広幅面11aと拘束板21の間に内挿板17が介在している点において、座屈拘束ブレース100と相違している。内挿材17としては、鋼製プレート、木製プレートのいずれを適用してもよく、木製プレートとしては、例えばLVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層材)が適用できる。尚、本実施形態においても、突起15が狭幅部13の上下の平面から張り出している形態であってもよい。
【0071】
内挿材17の広幅面において、その長手方向の端部には、芯材10の有する補強リブ14と対応する位置において、補強リブ14と干渉しないようにスリット18が開設されている。また、内挿材17には、スペーサー16に開設されているボルト孔16aに対応する位置にボルト孔17aが開設されており、
図2に示す第一長ボルト31が挿通されるようになっている。
【0072】
座屈拘束ブレース100Aによれば、芯材10の高次の座屈変形により、
図15に示すように、芯材10から拘束板21に局所的に圧縮力Pが作用し、この局所的な力に起因して拘束板21が破損することが抑制できる。このように局所的な力Pが作用することにより、木製の拘束板21が破損に至り得る。そこで、芯材10の広幅面11aと拘束板21の間に内挿板17を介在させることにより、芯材10の高次の座屈変形の凸部10aから作用する力Pは内挿板17にまず伝達され、伝達された力Pは内挿板17内に広がり、内挿板17内に拡散された力が木製の拘束板21に分散力qとして作用することになる。このことにより、芯材10から作用する複数の局所的な力Pによる木製の拘束板21の破損が効果的に抑制される。
【0073】
[全体座屈の検討]
次に、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止するための設計方法について説明する。
【0074】
座屈拘束ブレースの設計においては、以下の式(2)を満足して座屈拘束ブレースの全体座屈が生じないように設計する。
【0075】
【0076】
ここで、拘束板の中央に作用する曲げモーメントは、以下の式(3)で示すことができる。
【0077】
【0078】
木製拘束材の全体座屈を防止する条件は、以下の式(4)を満足することとなる。
【0079】
【0080】
式(4)を座屈拘束ブレースの全体座屈曲線として
図16に示す。
図16において、全体座屈曲線の上側は安全域であり、下側は危険域であり、安全域に入るように木製拘束材の設計用軸力、オイラー荷重、芯材の一般部の長さ、及び木製拘束材の降伏曲げ耐力が設定される。尚、
図16に示す座屈拘束ブレースの全体座屈曲線は、芯材の弱軸方向の全体座屈、強軸方向の全体座屈の双方に妥当する。
【0081】
上記する木製拘束材の降伏曲げ耐力と作用する曲げモーメントとの関係を照査することの他にも、短期の木製拘束材の許容曲げ耐力が芯材降伏時に作用する曲げモーメントよりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0082】
<木製拘束材のめり込み破壊の検討>
次に、木製拘束材のめり込み破壊の検討方法について説明する。芯材が木製拘束材に対してめり込むことにより、木製拘束材が破壊することを防止するには、以下の式(5)を満足することを検証する。
【0083】
【0084】
尚、上記する拘束板のめり込み耐力と作用する補剛力との関係を照査することの他にも、短期の拘束板の許容めり込み耐力が芯材降伏時に作用する補剛力よりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0085】
<第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と、第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様検討>
次に、第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と、第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様の設定方法について説明する。
【0086】
第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様の設定に際しては、各長ボルトの降伏耐力の総和が、木製拘束材に作用する補剛力の総和以上となるように設定するものとし、以下の式(6)を満足するように各長ボルトの仕様(第一長ボルトや第二長ボルトの降伏応力度や本数、有効断面積(一本当たりの有効断面積と本数による総有効断面積)等)を決定する。
【0087】
【0088】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0089】
10:芯材
11a:広幅面
11b:狭幅面
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:狭幅部
14:補強リブ
14a:ボルト孔
15:突起
16:スペーサー
16a:ボルト孔
17:内挿板
17a:ボルト孔
20:木製拘束材
21:拘束板
21a:第一ボルト孔
21b:第一ボルト孔ユニット
21c:第二ボルト孔
21d:第一座ぐり
21e,21f:座金収容溝
22:側板
22e:座金収容溝
22a:第二ボルト孔
22b:第二ボルト孔ユニット
22c:係合孔
22d:第二座ぐり
24:スリット
25:隙間
31:第一長ボルト
31a:頭部
32:座金
33:ナット
34:座金
41:第二長ボルト
42:座金
43:ナット
44:座金
100,100A:座屈拘束ブレース
G1,G2、G3:隙間
A:付加曲げ吸収エリア(境界領域)
S:架構(構面)
C:柱
B:梁
GP:ガセットプレート
FS:フィンスチフナ
SP:スプライスプレート