(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】空調機器用消音装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20230523BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20230523BHJP
F24F 13/24 20060101ALI20230523BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20230523BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20230523BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F04D29/44 X
F24F13/02 H
F24F13/24 247
G10K11/178 120
G10K11/16 100
H04R1/02 102
(21)【出願番号】P 2019214979
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雄一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 光春
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104848432(CN,A)
【文献】特開平8-272374(JP,A)
【文献】特開2010-256896(JP,A)
【文献】特開平7-98591(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217270(WO,A1)
【文献】特開平5-172099(JP,A)
【文献】中国特許第104534532(CN,B)
【文献】国際公開第2014/051883(WO,A1)
【文献】特開2017-83652(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124772(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F24F 13/02
F24F 13/24
G10K 11/178
G10K 11/16
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音送出口上に設置され、騒音を参照信号として検出するリファレンスマイクが設けられた筒状の第1のダクトと、この第1のダクトの上部に設けられた全体形状が平面視円形をなし、かつ中央部にスピーカが設けられたスピーカバッフルと、このスピーカバッフルの背面に設けられたスピーカバックキャビティと、前記スピーカバッフルの上部に連結された筒状の第2のダクトと、この第2のダクト内であって前記スピーカの振動板上に間隔を空けて設けられた、消しきれなかった誤差信号である制御対象信号を検出するエラーマイクと、前記第2のダクトの上部に連結された吸気用の円筒体と、この円筒体の上方開口部を塞ぐように設けられたダクトカバーとを備え、前記第1のダクト内周面と前記スピーカバックキャビティ外周面との間が前記騒音の音響経路となり、かつその間隔が平面波となるよう設定され騒音は第1の平面波となり、前記第2のダクト内の誤差信号を前記エラーマイクが検出して前記スピーカから前記第1の平面波と逆位相の第2の平面波が出されることを特徴とする空調機器用消音装置。
【請求項2】
請求項1記載の空調機器用消音装置において、前記スピーカに接続されたANCコントローラを備え、前記リファレンスマイクで検出された参照信号は該リファレンスマイクと接続された前記ANCコントローラに入力され、前記エラーマイクの制御対象信号は前記ANCコントローラに入力され、前記ANCコントローラの出力は接続された前記スピーカに加えられ、前記スピーカは第2の平面波を送出することを特徴とする空調機器用消音装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空調機器用消音装置において、前記第1のダクト内の前記音響経路に吸音材を設けたことを特徴とする空調機器用消音装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の空調機器用消音装置において、前記ダクトカバーの内面に前記エラーマイクの風避け兼補強用の円筒部を設けたことを特徴とする空調機器用消音装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の空調機器用消音装置において、前記スピーカバックキャビティを側断面U字状に設けたことを特徴とする空調機器用消音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空調機器用消音装置、詳しくは、例えば自動車のような車両において一般にエアコンと呼ばれる空調機器から生ずる空調騒音を消音させる消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の駆動源はガソリンエンジンやディーゼルエンジンが主流であったが、近年、地球温暖化対策の一環として二酸化炭素のような温室効果ガスの排出を抑制すべく電気モータを駆動源の一部とするハイブリット車あるいは電気自動車が急速に普及しつつある。
【0003】
これに伴いハイブリット車ではエンジン音が低減し、電気自動車ではエンジン音がなくなり静かになるが、これら騒音以外に、自動車の走行中にタイヤが路面上を転動する際に生ずる50~500Hzのロードノイズ、車室共鳴による100Hz以下のコモリ音、サイドミラー周辺に発生する流体騒音、エアコンの空調により発生する数10~10000Hz位の空調騒音などがある。
【0004】
このうち空調騒音は搭乗者にとって気になるところである。
【0005】
最近では、大柄な人が増加しつつあり、また、大家族や多人数のグループで車を使用して移動することがあり、車内空間を広くしたミニバンなどの3列シートを備える車の需要が増加している。また、ミニバンに限らず3列シートの乗用車タイプもある。
【0006】
この種の車両は後部座席側も快適な空間とするために空調機器が取付けられている。この空調機器を動作させると、広い帯域にわたって外気を吸気するファンの振動や吸気の空力騒音が生じる。
【0007】
車内空間が広く、快適になると、それに伴い音楽や動画などを楽しむ傾向になるが、後部座席の空調機器からの騒音が耳ざわりで不快になる。
【0008】
従来、騒音低減用の機器としてはPNC(Passive Noise Control)と称され、吸音材を用いた消音方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の機器ではグラスウールからなる吸気材を気流の通路に設け、ファン吸入側で発生した騒音を吸音材内で熱エネルギーに変換して消音するようにしている。従来の吸音材としては、その他ウレタンフォーム、フェルトなどが用いられている。
【0011】
しかしながら、吸音材は1000Hz以降の騒音を消音ないし低減できるが、それ以下の低域のノイズは消音できないという課題がある。
【0012】
また、吸音機能は吸音材の素材や量により決まってしまい、吸音効率を上げようとすると吸音材の量を多くしなければならない。この場合、構造が大型化し、大きな設置スペースが要求されるため、小型、軽量化には不向きである。また、従来例では騒音の種類、変化(低域~高域、大きさなど)に対応できないという課題がある。
【0013】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、低域の騒音を消音でき、所望の消音性能を発揮できる空調機器用静音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の本発明に係る空調機器用消音装置は、騒音送出口上に設置され、騒音を参照信号として検出するリファレンスマイクが設けられた筒状の第1のダクトと、この第1のダクトの上部に設けられた全体形状が平面視円形をなし、かつ中央部にスピーカが設けられたスピーカバッフルと、このスピーカバッフルの背面に設けられたスピーカバックキャビティと、前記スピーカバッフルの上部に連結された筒状の第2のダクトと、この第2のダクト内であって、前記スピーカの振動板上に間隔を空けて設けられた、消しきれなかった誤差信号である制御対象信号を検出するエラーマイクと、前記第2のダクトの上部に連結された吸気用の円筒体と、この円筒体の上方開口部を塞ぐように設けられたダクトカバーとを備え、前記第1のダクト内周面と前記スピーカバックキャビティ外周面との間が前記騒音の音響経路となり、かつその間隔が平面波となるよう設定され騒音は第1の平面波となり、前記第2のダクト内の誤差信号を前記エラーマイクが検出して前記スピーカから前記第1の平面波と逆位相の第2の平面波が出されることを特徴とする。
請求項2に係る本発明は、前記空調機器用消音装置において、前記スピーカに接続されたANCコントローラを備え、前記リファレンスマイクで検出された参照信号は該リファレンスマイクと接続された前記ANCコントローラに入力され、前記エラーマイクの制御対象信号は前記ANCコントローラに入力され、前記ANCコントローラの出力は接続された前記スピーカに加えられ、前記スピーカは第2の平面波を送出することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、前記空調機器用消音装置において、前記第1のダクト内の前記音響経路に吸音材を設けたことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、前記空調機器用消音装置において、前記ダクトカバーの内面に前記エラーマイクの風避け兼補強用の円筒部を設けたことを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、前記空調機器用消音装置において、前記スピーカバックキャビティを側断面U字状に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の本発明によれば、騒音送出口上に設けられる空調機器用消音装置は吸音ダクトとして機能し、従来の吸音材だけの消音装置では消音できなかった低域の騒音も消音し得る。
請求項2記載の本発明によれば、騒音の位相に対し、逆位相を発生させるANCコントローラを設けることで、低域の騒音の音圧を減衰させることができ、さらに消音効果を高めることができる。
請求項3記載の本発明によれば、消音効果の高い繊維を主素材とする吸音材を組み入れたため、低域の消音から1000Hz以降の幅広い範囲にわたっても騒音を消音できる。
請求項4記載の本発明によれば、ダクトカバーの剛性があがるため吸音ダクトとしての強度が向上し振動が抑制され、かつエラーマイクの風避けができ、エラーマイクを確実に動作させることができる。
請求項5記載の本発明によれば、側断面U字状のスピーカバックキャビティにより音響経路を形成できるので、音響経路を通る空気や音を円滑に案内でき、騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の車載空調機器用消音装置の分解斜視図。
【
図2】同上の車載空調機器用消音装置の構成部材であるダクトベースおよびリファレンスマイク取付部材の斜視図。
【
図3】同上の車載空調機器用消音装置の構成部材である第1のダクト、吸音材、吸音材ホルダー、スピーカバックキャビティ、スピーカの斜視図。
【
図4】本実施形態の車載空調機器用消音装置の構成部材であるスピーカバッフルと、このスピーカバッフルに取付けられるエラーマイク取付部材の斜視図。
【
図5】本実施形態の車載空調機器用消音装置の構成部材である第2のダクト、吸気兼キャンセル音排出用のカゴ状円筒体、ダクトカバーの斜視図。
【
図6】組立てられた本実施形態の車載空調機器用消音装置の側断面図。
【
図7】同上の車載空調機器用消音装置にANCコントローラを接続した状態を示す説明図。
【
図12】ANCコントローラによって騒音源の騒音の位相を打ち消して消音する本発明の原理説明図。
【
図13】本発明に使用されるANCコントローラの一構成例のブロック図。
【
図14】本実施形態の車載空調機器用消音装置内での吸気の流れ、第1、第2の平面波の様子、キャンセル音の流れの様子を示す説明図。
【
図15】騒音源の騒音の周波数特性で、横軸は周波数、縦軸は音圧を示す。
【
図16】本実施形態における、第1のダクト内にスピーカ、スピーカバッフルを備えたスピーカバックキャビティをセットした場合の吸音(消音)特性。
【
図17】ANCコントローラをオンにした場合における騒音低減の特性を示す説明図。
【
図18】本実施形態において、ANCによる効果と、吸音材のPNCによる効果を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に沿って本発明の好ましい実施例を説明する。
【0018】
本発明は、HVAC(Heating、Ventilation,and Air Conditioning)と称される機器の騒音対策用として開発された。このHVACとは、空調機能を集約したモジュール部品で、ヒータと送風、エアコンなどの各機能部分を一体化したものの総称の車載空調機器のことである。
【0019】
図19はHVACの概略構成図である。100はHVACの筺体で、図示の状態において、筐体上面100aの一部に円形の吸気口101があり、その内部にモータ(図示せず)に接続された回転可能なファン102が設けられている。ファン102とは複数枚の放射状の平板羽根を有する遠心送風機である。
【0020】
HVACはヒータとして機能するラジエター103、エバポレータ104、シャッター105などを備えている。
【0021】
動作としては、吸気口101から、ファン102の回転により、矢印で示すように、筺体100内に吸気した空気を、エバポレータ104で冷却もしくは、ラジエター103で加熱し、シャッター105により混ぜ具合を調整したうえで排出口から排出する。HVACから排出された空気は、ダクト106を通り、車室内足元に送られ、また別のダクト107を介し頭上の吹き出し口から後部座席周辺(2列目、3列目シート)の車室内に送られる。
【0022】
このHVACは、一般的に3列目のシートの座面横の内装材と外板の中に配置されている。HVACを作動させると筺体100と吸気口101から、振動と空力騒音による広い帯域の動作音が放出され、この動作音は内装材からの透過や内装部品間の隙間を通過して3列目シートの直近の搭乗者にはかなりの騒音となる。
【0023】
このため、HVACに本発明の実施形態の空調機器用消音装置が取付けられる。
【0024】
図1は本発明に係る実施形態の空調機器用消音装置Aの分解斜視図である。空調機器用消音装置Aは、低域はANC(Active Noise Control)方式を採用し、高域は前記PNC方式を採用し消音するようにしている。
【0025】
図1中、1は、
図19に示したHVACの筺体100の円形の吸気口101の上部に取付けられるほぼ円筒状のダクトベースであって連結部である。2はリファレンスマイク、3はリファレンスマイク取付部材、4は円筒状の第1のダクト、5は第1のダクト4内にセットされる吸音材、6は吸音材5を取付けるほぼ逆円錐台状をなす吸音材ホルダー、7はスピーカバックキャビティ、8はスピーカ、9はスピーカバッフル、10はエラーマイク、11はエラーマイク取付部材、12は円筒状をなす第2のダクト、13はエア吸引用の例えばカゴ状の円筒体、14はダクトカバーである。
【0026】
図2は、ダクトベース1および、このダクトベース1に取付けられるリファレンスマイク取付部材3と、リファレンスマイク取付部材3に取付けられたリファレンスマイク2の斜視図を示す。
【0027】
ダクトベース1は円筒状の胴部1aと、この胴部1aの下部に設けられたフランジ状のHVACの筐体取付部1bと、胴部1aの上部において外側に向って張り出したフランジ部1cとを備えている。そして、筺体取付部1bが
図19に示したファン102の外周であって筺体100上にボルトやナット、超音波溶着もしくは接着などの適宜の固定手段によって取付けられる。
【0028】
フランジ部1cの上面にはリファレンスマイク取付部材3が接着、超音波溶着などの適宜の固着手段によって取付けられる。リファレンスマイク取付部材3はホイール状をなし、フランジ部1cの上面に取付けられる円環状のリム部3aと、この中心部に設けられた円筒状のマイク取付部3bと、このマイク取付部3bの外周部とリム部3aの内周部間において、周方向に間隔を介して設けられた複数本のスポーク部3cとを備え、マイク取付部3bの中心部にリファレンスマイク2が設けられる。このリファレンスマイク2はHVACから生じる騒音を検出するためのものである。
【0029】
さらに、フランジ部1cの外周は上方に突出したリブ状連結部1dが形成されている。
【0030】
図3は、円筒状の第1のダクト4と、この第1のダクト4内に必要に応じ設けられる吸音材5とその吸音材ホルダー6およびスピーカバックキャビティ7、スピーカ8を示す。
【0031】
第1のダクト4の下部には外側に向かって突出したダクト連結部4aが形成され、このダクト連結部4aをダクトベース1に形成されたリブ状連結部1dの内側に挿入し、第1のダクト4をダクトベース1に連結する。
【0032】
第1のダクト4の内周面に沿って吸音材5が設けられる。吸音材5は、全体形状がほぼ円筒状をなし、内周面は円錐状のテーパ面5aに形成されている。テーパ面5aの内径は上方が下方より大となっている。このようにしたのは、気流を上方から速やかに下方に導くためである。吸音材5としては、ナノファイバー繊維が高域での吸音率が良好であり、好適である。本実施形態では吸音材5にナノファイバー繊維を用いた。
【0033】
再び
図3において、6は逆円錐台形をなす吸音材ホルダーである。この吸音材ホルダー6は下から上方に従って内径が順次拡がるとともに、間隔をおいて配置された複数のリング部材6aと、これらリング部材6aを連結する複数のリング連結部材6bとにて構成され、吸音材5を第1のダクト4の内周面と、吸音材ホルダー6との間に挟み込んで取付けることができる。各リング連結部材6bも周方向に間隔を介し配置され、リング部材6aとリング連結部材6bとの間に窓6cが形成され吸音材5のテーパ面5aが露出し、騒音を吸音するようになっている。なお、吸音材5を成形品にて形成し、第1のダクト4の内周面に接着固定するようにした場合、吸音材ホルダー6はなくてもよい。
【0034】
第1のダクト4内の中央部には側断面U字状のスピーカバックキャビティ7が設けられる。このスピーカバックキャビティ7の上方中央部にはスピーカ8が設けられる。8aはスピーカの振動板、8bはスピーカ取付板、8cは磁気回路である。スピーカ8は、
図4に示すように、平面から見て全体形状が円形をなすスピーカバッフル9に取付けられる。
【0035】
スピーカバッフル9は、第1のダクト4の上部に連結される(
図6)、外周に設けられたリング状の外側リング部9aと、この外側リング部9aの内側に離間し、かつ外側リング部9aと同心円をなす内側リング部9bと、これら外側リング部9aと内側リング部9bとを連結するアーム部9cとを備える。外側リング部9a、内側リング部9b、アーム9cにて区画形成された空間部分は通気孔9fとなる。
【0036】
内側リング部9bの内側には、スピーカ8の前面バッフルとしても機能する円板状の取付板9dが設けられている。この取付板9dの外周部には円筒状の突部9eが間隔を介し複数突設されている。これら突部9eはエラーマイク取付部材11を取付けるためのものである。
【0037】
すなわち、エラーマイク取付部材11はスタンド状をなす。エラーマイク取付部材11は中央部に円筒状のマイク取付部11aが設けられ、その中央にエラーマイク10がセットされる。マイク取付部11aの外周には放射状に延びる屈曲アーム11bが複数突設され、各屈曲アーム11bの先端部には突部9eに挿通してエラーマイク取付部材11を取付けるための取付孔11cが形成されている。この取付孔11cを突部9eに挿通し、接着剤もしくは超音波熔着またはネジなどの取付手段によって、エラーマイク取付部材11を取付板9dに取付け固定する。この場合、エラーマイク10は、エラーマイク10を持ち上げるように上方に突出する屈曲アーム11bによってスピーカ8の上方位置に所定の距離間隔をあけて配置される。
【0038】
また、取付板9dにはスピーカ取付板8bの形状に対応した矩形のスピーカ取付部9gが形成され、適宜の取付手段を介しスピーカ8が取付けられる。
【0039】
さらに、取付板9dの背面にはスピーカバックキャビティ7の上部が適宜の取付手段によって取付けられる。
【0040】
第2のダクト12の外径は第1のダクト4とほぼ同じである。第2のダクト12の上下には肉厚の第1、第2の連結部12a、12bが形成されている。下側の第1の連結部12aはスピーカバッフル9の外側リング部9aの上部に適宜の取付手段によって連結される。また、上側の第2の連結部12bには、カゴ状の円筒体13の下側の第1のリング部13aが連結される。
【0041】
カゴ状の円筒体13は第2のダクト12の上部に連結される第1のリング部13aと、この第1のリング部13aの径と同径をなし、かつ第1のリング部13aの上方に離間して対向配置された第2のリング部13bとを備え、第1、第2のリング部13a、13bは縦方向に延びる複数の棒状の連結部13cによって連結される。連結部13cは適宜間隔でもって配置されている。また、第1、第2のリング部13a、13bの間に補強用のリング部13dが設けられている。この補強用リング部13dは図示例では一つであるが、一つに限られるものではない。第1、第2のリング部13a、13bや連結部13c、必要に応じて設けられる補強用リング部13d間に通気孔13eが形成されている。この通気孔13eを介し外気が内部に吸入されたり、コントロールされたキャンセル後の音が放出される。
【0042】
カゴ状の円筒体13の上方開口部13fはダクトカバー14によって塞がれる。ダクトカバー14は円板部状の天板14aと、この内面に突設されたエラーマイク10の風避け兼補強部材として機能する円筒部14bとを備えている。この円筒部14bの径は天板14aの径より小に形成されている。そして、天板14aはカゴ状の円筒体13の上部開口部13fを塞ぐようにカゴ状の円筒体13の第2のリング部13bに連結される。
【0043】
本実施形態の空調機器用消音装置の組み立てにあたっては、まずダクトベース1にリファレンスマイク2を有するリファレンスマイク取付部材3が取付けられ、次にダクトベース1に第1のダクト4が連結され、この第1のダクト4には吸音材5、吸音材ホルダー6が取付けられ、ついでにスピーカ8やスピーカバックキャビティ7を有するスピーカバッフル9が取付けられる。またエラーマイク10を有するスピーカバッフル9が第1のダクト4に連結され、次にスピーカバッフル9に第2のダクト12が取付けられ、第2のダクト12に円筒体13が連結され、その上にダクトカバー14を取付ければ、吸気ダクト構造の空調機器用消音装置Aを組み立てることができる。なお、各パーツは第1のリング4の中心軸0と同軸に配置される。
【0044】
このように空調機器用消音装置Aは各パーツを順次組み込んでいけばよいため組立性が良好である。
【0045】
図6は本実施形態に係る空調機器用消音装置Aの組立状態の側断面図を示す。
【0046】
本実施形態では、リファレンスマイク2で騒音源15の音を検出し、また、騒音が音響経路を通過する過程で第1の平面波とし、さらに、リファレンスマイク2で検出した音をスピーカ8の振動板8aから第1の平面波を打ち消す第2の平面波を出すようにしている。この場合、リファレンスマイク2はなるべく騒音源15に近い位置に設け、スピーカ8までの距離をある程度空ける。つまり、リファレンスマイク2とスピーカ8間は信号処理時間が間に合う距離に配置される。
【0047】
また、第1のダクト4内に側断面U字状のスピーカバックキャビティ7を設けている。したがって、スピーカバックキャビティ7の外周面と第1のダクト4の内周面との間に騒音源15の音波が通る。その際、第1のダクト4の内周面とスピーカバックキャビティ7の外周面との間で騒音が第1の平面波となるように、狭い音響経路を作っている。
【0048】
平面波となる原理については後述する。
【0049】
スピーカ8からの第2の平面波を検出するエラーマイク10はダクト径以上空ける。ダクト径とは後述するように第1のダクト4の内周面とスピーカバックキャビティ7の外周面とによって形成される間隔の寸法のことである。
【0050】
図7は空調機器用消音装置AにANCコントローラ16を接続した状態を示す。このANCコントローラ16はフィードフォワード制御方式を採用して構成され、この種のANCコントローラ16は公知である。このANCコントローラ16は、音を検出するリファレンスマイク2と、エラーマイク10と、それらの信号を処理するコントローラを備えている。動作としては、リファレンスマイク2で検出した信号に伝達関数を畳み込んだ信号をコントローラにおいて2次音源で発生させ、エラーマイク10で検出した信号が0となるようフィルタ係数を更新して消音するシステムである。この一回路例については追って説明する。
【0051】
本実施形態では、第1のダクト4の内周面と、その内側に間隔を空けて対向配置されたスピーカバックキャビティ7の外周面とが
図9に示した2つの壁18として機能し、リング形の管状をなす。
図10に示した管径Dに相当する2つの壁18間の距離が騒音の低域を第1の平面波15bとする寸法に設定されている。
【0052】
図8は第1の平面波を作成する原理を示す。騒音源15からの音の波は円形に広がろうとするが壁18によって音響経路を管状とし、広がらないよう抑えることで壁18内の波は平面波となる。すなわち、
図8の中央部において楕円19で囲んで示す壁18の内側では平面波に近くなる。この場合、波長が長いほど波は平らになる。
図8において、右側に示す符号8dはスピーカ8の音源で、この音の位相が騒音源15の位相に対し逆位相であれば騒音を打ち消すことができる。円形に広がる波の位相を実線と波線で表しており、左側の騒音源15の位相と、右側の音源8dの位相とが逆位相であることを示す。平面波となると、
図9に示すように、この第1の平面波15bの伝搬方向は1方向となる。一般にこのような状態は1次元音場と呼ばれている。そして、第1の平面波15bは第2の平面波17bによって打ち消すことができる。
【0053】
平面波とする周波数は、
図10に示すように、管状の壁18からなる音響経路の管径Dに依存する。周波数をf、音速をc、音響経路の直径をDとした場合、次の式となる。
f<0.586c/D
【0054】
本実施形態では騒音源15の100Hz~1000Hzの低域の騒音が第1の平面波15bになるように、第1のダクト4の内周面と、これと対向するスピーカバックキャビティ7の外周面とからなる寸法を設定し、ハイカット構造とし高域成分を除去している。高域成分は吸音材5を用いたPNC効果によって消音するようにしている。
【0055】
図11は
図10で示したように、管径Dに応じて作成された第1の平面波15bをANCコントローラ16を用いてスピーカ8からキャンセル音17bを出す様子を示す。このキャンセル音17bは、
図9で示したように、第1の平面波を打ち消す逆位相の第2の平面波17bに相当する。また、第2のダクト12内の音をエラーマイク10で検出し、その信号をANCコントローラ16に送り、補正されたキャンセル音である第2の平面波17bをスピーカ8から出し、最終的に外部にキャンセル後の音17cを排出する。
【0056】
図12は太い実線で示す騒音15aの位相に対し、細い線で示すスピーカ8側の逆位相のキャンセル音17bによって
図11に示したキャンセル後の音17cとする説明図である。
【0057】
【0058】
リファレンスマイク2に入力された騒音に相当する参照信号x(n)はFIRフィルタ回路FIRに送られる。FIRフィルタ回路FIRと接続されたLMSアルゴリズム回路LMSには、エラーマイク10で検出された制御対象信号d(n)と、スピーカ8とエラーマイク10間の伝達特性を経て制御点に到達した信号z(n)とが重ね合わされた誤差信号e(n)が送られる。
【0059】
なお、図中FIRフィルタ回路FIRのh(k、n)はFIRフィルタのフィルタ係数ベクトル、Cは二次経路特性(スピーカ8とエラーマイク10までの音響系の伝達特性)、C’は二次経路特性(事前に測定した伝達特性)である。また、FIRフィルタ回路FIRからの信号はスピーカ8へ送出されるが、矢印は可変の意味で、エラーマイク10の音圧を0にするようフィルタを更新し最適なフィルタ係数になるよう更新された信号がスピーカ8に送られ第1の平面波15bは打ち消される。
【0060】
図14は空調機器用消音装置Aにおける吸気の流れおよびキャンセル後の音17cなどの流れの様子を示す説明図である。
【0061】
HVACのファン102やエバポレータ104などから生ずる騒音源15の騒音15aは、前述のようにリファレンスマイク2で検出され、その信号は、
図7に示したように、ANCコントローラ16に入力され処理される。
【0062】
また、騒音15aは第1のダクト4内で第1の平面波15bとなり、スピーカバッフル9の通気孔9fを通って第2のダクト12内に入る。
【0063】
第2のダクト12内にはスピーカ8から第1の平面波15bに対し逆位相の第2の平面波17bがあるため、第1の平面波15bは打ち消される。
【0064】
すなわち、第2のダクト12内の消しきれなかった誤差信号である制御対象信号がエラーマイク10で検出され、ANCコントローラ16に入力される。ANCコントローラ16で適宜補正された更新信号がスピーカ8に送出され、スピーカ8から第1の平面波15bを打ち消す適切な第2の平面波17bが出され、第1の平面波15bは打ち消され、吸気用のカゴ状の円筒体13の通気孔13eからキャンセル後の音17cが外部へ排出される。
【0065】
このキャンセル後の音17cは後述する如く騒音15aが耳障りでないレベルにまで低減される。
【0066】
次に騒音が低減化される過程を説明する。
【0067】
図15はHVACを作動させた際に発生する騒音源15自体の騒音特性Eを示す。横軸は周波数、縦軸は音圧である。騒音は広い帯域で発生する。
【0068】
図16において、一点鎖線で示すFは、HVACの筐体100のファン102上に、スピーカユニット部(スピーカ8、スピーカバッフル9、スピーカバックキャビティ7)を設けた第1のダクト4、ダクトカバー14等を組み込んだ状態の空調機器用消音装置A、つまり吸音材5がない状態の空調機器用消音装置Aを設置した場合の消音特性である。1500Hzと3000Hz以上が減衰する。
二点鎖線で示すGは空調機器用消音装置Aに吸音材5及び吸音材カバー6を内蔵させた場合の消音特性である。1500Hz以上がさらに減衰する。
【0069】
図17において、破線で示すHはANCコントローラ16を作動した場合の消音特性で、150Hzから1000Hzの範囲で騒音が低減する。
【0070】
以上のことから、
図18において楕円Iで囲んで示すように、100Hzからほぼ1000Hz前後の範囲IはANCによる効果で消音することができる。また楕円Jで囲んで示すように、ほぼ1000Hz以上の帯域は吸音材5によるPNCによる効果により車載空調機器から生ずる耳障りな騒音を消音できる。
【0071】
なお、本発明の空調機器用消音装置Aは3列シートの車両に限らず、例えばキャンピングカーのようなその他の車両にも適用可能である。また、車両以外の分野にも使用し得る。
【符号の説明】
【0072】
1 ダクトベース
2 リファレンスマイク
3 リファレンスマイク取付部材
3b マイク取付部
4 第1のダクト
5 吸音材
6 吸音材ホルダー
7 スピーカバックキャビティ
8 スピーカ
8d スピーカの音源
9 スピーカバッフル
9d 取付板
9f 通気孔
10 エラーマイク
11 エラーマイク取付部材
11a マイク取付部
12 第2のダクト
13 吸気兼音排出部材であるカゴ状円筒体
13e 通気孔
13f 上方開口部
14 ダクトカバー
15 騒音源
15a 騒音
15b 第1の平面波
16 ANCコントローラ
17b キャンセル音(第2の平面波)
17c キャンセル後の音
18 壁
19 楕円で囲んだ範囲
20 外気
100 筺体
101 吸気口
102 ファン
103 ラジエター
104 エバポレータ
105 シャッター
106 ダクト
107 ダクト
HVAC 車載空調機器
A 空調機器用消音装置
E HVACの作動時の消音特性
F HVACに、吸音材のない空調機器用消音装置Aを載置した際の消音特性
G 吸音材内蔵の空調機器用消音装置Aを載置した際の消音特性
H ANCコントローラ16を作動させた場合の消音特性
I ANCによる消音効果
J PNCによる消音効果