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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】汚泥固化用組成物
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
C02F11/00 101Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019040991
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020142192
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501362021
【氏名又は名称】株式会社エコ・プロジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 瑛
(72)【発明者】
【氏名】時田 孝至
(72)【発明者】
【氏名】岡林 誠治
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-035868(JP,A)
【文献】特開2018-038957(JP,A)
【文献】特開2004-099688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-20
B09B1/00-5/00
B09C1/00-10
C09K17/00-52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥固化用組成物100質量部に対して、酸化カルシウムを30~80質量部、硫酸アルミニウムを無水物換算で10~50質量部、硫酸鉄(II)を無水物換算で5~50質量部、及び、高分子凝集剤を0.01~1.0質量部含んでなり、かつ、ペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、及び、石炭灰からなる群より選択された1種、或い2種以上を含んでなる汚泥固化用組成物。
【請求項2】
前記汚泥固化用組成物100質量部に対して、ペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、及び、石炭灰からなる群より選択された1種又は2種以上を0.01~10質量部含んでなる請求項1に記載の汚泥固化用組成物。
【請求項3】
前記汚泥固化用組成物が、さらに、金属アルミニウム粉末を含んでなる請求項1又は2に記載の汚泥固化用組成物。
【請求項4】
前記汚泥固化用組成物100質量部に対して、さらに、金属アルミニウム粉末を0.01~5.0質量部含んでなる請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の汚泥固化用組成物。
【請求項5】
前記高分子凝集剤が、アニオン系高分子凝集剤である請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の汚泥固化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水等から発生する(都市)汚泥を短時間に固化せしめ、その汚泥固化体が水で再泥化することなく、固化強度の高い汚泥固化体となる汚泥固化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥固化処理方法としては、下水汚泥焼却法あるいは下水汚泥溶融法が広く知られており、それらの焼却灰あるいは溶融灰(スラグ)を対象とした固化に関する技術も比較的多く知られている。
【0003】
一方、下水汚泥に対する濾過直後の水分の多いケーキを固化対象とする酸化カルシウム(CaO)を主成分とする複合系の固化剤、すなわち、複数成分からなる固化剤、及び固化処理技術が充分に検討されたとは言えず、寧ろ、このような水分の多いケーキを固化処理することにより、次工程での取り扱いや輸送、用途展開等が容易となる。
【0004】
従来より、下水等から発生する都市汚泥を水和・固化する汚泥固化材としては、酸化カルシウム(CaO)、或いは、これを主成分として含有するポルトランドセメントを主原料とするものが比較的広く知られている(特許文献1、2)。
【0005】
酸化カルシウム(CaO)は、下水汚泥処理用固化剤として一般的に使用されており、酸化カルシウムの単品使用においては、水和による単位重量あたりの発熱量も大きく、発熱は瞬間的に起こる。さらに、酸化カルシウムの水和反応において、汚泥からの吸水と汚泥の固化が同時に起る。従って、汚泥との混合中から発熱と、温度上昇にともない水分の蒸発が可能である。
【0006】
すなわち、酸化カルシウムを単独の組成で使用すると、水和反応による発熱、水分の気化と固化が進行する。その一方で、その混合物が、強アルカリ性のため、廃棄やリサイクル用としてはpH調整などの配慮が必要となる。
【0007】
また、酸化カルシウム単独系では、下水汚泥中の水分と反応してCa(OH)を生成するが、反応する水分量は、下水汚泥処理用固化剤用途としては不充分であり、また、下水汚泥処理用固化剤用として、酸化カルシウムの単独使用では固化時間(強度が一定値になるまでの時間)の長いこと(例えば、100kN/m程度のコーン指数に到達するのに3日間程度の養生を要する。)が問題となっていた。
【0008】
一方、酸化カルシウムを主成分とする水和・固化材料としては、ポルトランドセメント等のセメントがよく知られており、下水汚泥処理用固化剤としても使用されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭56-95399号公報
【文献】特開昭56-163797号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】コンクリート工学年次論文集Vol.28,NO.1,2006(44頁),「X線回折/リートベルト法によるセメントペーストの水和反応解析」、星野清一
【文献】Netsu bunseki,39(1),15-21(2012)「熱量測定とセメントコンクリートの性能」坂井悦郎、他
【文献】コンクリート工学年次論文集,Vol.20,NO.1,1998(101頁~106頁)「セメント水和の相組成モデル」坂井悦郎、他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
酸化カルシウムは、セメントの主原料であり、セメントのグレードによって異なるが、通常、55~65質量%程度含有されている。但し、セメント中の酸化カルシウムは、その大部分が、エーライト;C3S(3CaO・SiO),ビーライト;C2S(2CaO・SiO),アルミネート;C3A(3CaO・Al)等のカルシウム塩として存在しており、例えば、ポルトランドセメントでは、C3S+C2Sの鉱物組成として75~80質量%前後含有している。
【0012】
しかし、このように、セメント中では、酸化カルシウムがカルシウム塩の状態で存在しているため、水和反応の進行が上記の酸化カルシウム単独系に比較して著しく遅く(非特許文献1―3)、その結果、下水汚泥処理用固化剤に求められる程には、充分な発熱による温度上昇や水分の気化、蒸発は期待できない現状であった。また、下水汚泥等の都市汚泥に対するセメントの固化性は極めて不良であり、これについては、汚泥に含まれる微生物や有機物中のフミン酸の影響も大きいと考えられている。
【0013】
他方、かかるセメントにおける水和反応を詳細にみると、セメント水和生成物の中では、エトリンガイト(アルミン酸三硫酸カルシウム水和物:3CaO・Al・3CaSO・32HO)が、最も多量の水を結晶水として保持し得ることが判った。この度、本発明者らは、この点に着目し、酸化カルシウムをベースとしつつも、迅速な水和反応により多量の水を結晶水として保持し得るエトリンガイトを主たる水和生成物とする汚泥固化用組成物を開発するべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
しかしながら、従来のエトリンガイトを水和生成物とする汚泥固化用組成物は、上記したポルトランドセメント等のセメントを主原料とするものも含めて、おしなべて、反応完結が遅いという問題点を有していた。また、生成する汚泥固化体を路盤材等の有価物として再利用するためには、汚泥中に有害な重金属や陰イオンが混入する可能性があっても、これらの溶出を適切に防止することも望まれる。即ち、本発明の課題は、下水等から発生する汚泥を短時間に固化せしめ、汚泥中の水分の取り込み量(反応可能な水分量)を増大でき、生成する汚泥固化体が水で再泥化することなく、高強度であって、且つ、有害な重金属や陰イオンの固定が可能な汚泥固化体となる汚泥固化用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(II)、及び、高分子凝集剤を含んでなる汚泥固化用組成物。
[2] 前記汚泥固化用組成物100質量部に対して、酸化カルシウムを30~80質量部、硫酸アルミニウムを無水物換算で10~50質量部、硫酸鉄(II)を無水物換算で5~50質量部、及び、高分子凝集剤を0.01~1.0質量部、含んでなる[1]に記載の汚泥固化用組成物。
[3] 前記汚泥固化用組成物が、さらに、ペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、および、石炭灰からなる群より選択された1種、或いは、2種以上を含んでなる[1]または[2]に記載の汚泥固化用組成物。
[4] 前記汚泥固化用組成物100質量部に対して、さらに、ペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、および、石炭灰からなる群より選択された1種、或いは、2種以上を0.01~10質量部、含んでなる[1]乃至[3]のいずれかに記載の汚泥固化用組成物。
[5] 前記汚泥固化用組成物が、さらに、金属アルミニウム粉末を含んでなる[1]乃至[4]のいずれかに記載の汚泥固化用組成物。
[6] 前記汚泥固化用組成物100質量部に対して、さらに、金属アルミニウム粉末を0.01~5.0質量部、含んでなる[1]乃至[5]のいずれかに記載の汚泥固化用組成物。
[7] 前記高分子凝集剤が、アニオン系高分子凝集剤である[1]乃至[6]のいずれかに記載の汚泥固化用組成物。
[8] 排水処理で生じる汚泥を[1]乃至[7]のいずれかに記載の汚泥固化用組成物と接触させ、汚泥を固化することを特徴とする汚泥の固化方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下水等から発生する汚泥を短時間に固化せしめ、汚泥中の水分の取り込み量(反応可能な水分量)を増大できる結果、生成する汚泥固化体が水で再泥化することなく、高強度(例えば、3日程度の養生で、150kN/m以上のコーン指数に到達する。)の汚泥固化体を得ることができる汚泥固化用組成物を提供することができる。また、当該汚泥固化用組成物は、配合物質の粉体混合により簡便に製造できることから、かかる汚泥固化用組成物の製造方法を提供することができる。また、かかる汚泥固化用組成物の使用により、汚泥が含有する可能性のある重金属類や陰イオンを固定化させる効果も併せ持つ。さらに、かかる汚泥固化用組成物の使用により、従来のセメントや生石灰に比較して、大幅な固化時間短縮(例えば、7日程度の養生で、150~300kN/m程度のコーン指数に到達する。)を実現させ、次工程の作業性改善と固化処理土としての多様な再利用策を可能にさせ、経済的なメリットを与える。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、酸化カルシウムをベースとしつつも、迅速な水和反応により汚泥固化体内に多量の水を保持し得るとともに、汚泥中の有害な重金属や陰イオンの当該汚泥固化体からの溶出を効果的に防止でき、且つ、高強度の汚泥固化体を形成する汚泥固化用組成物を提供するものである。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の汚泥固化用組成物は、酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(II)、及び、高分子凝集剤を含んでなるものである。
【0019】
酸化カルシウムは、本発明の汚泥固化用組成物中、固化(固結化)して高強度のエトリンガイトを形成する際の主要成分である。
【0020】
硫酸アルミニウムは、本発明の汚泥固化用組成物中、固化反応系にアルミニウムカチオンと硫酸根を導入して上記酸化カルシウムと反応してエトリンガイトの生成を促す成分である。硫酸アルミニウムには、無水塩の他、6水塩(6水和物)、10水塩(10水和物)、14水塩(14水和物)、15水塩(15水和物)、16水塩(16水和物)、18水塩(18水和物)、及び、27水塩(27水和物)等の水和物が数多く知られており、本発明には、無水塩及びすべての水和物およびこれらの任意種類且つ任意割合の混合物が使用可能であるが、特に、無水塩及び6水塩(6水和物)、10水塩(10水和物)、14水塩(14水和物)、15水塩(15水和物)、16水塩(16水和物)が好適に使用可能である。
【0021】
硫酸鉄(II)は、上記硫酸アルミニウムと同様に硫酸根を補充してエトリンガイトの生成を促すことに加えて、例えば、六価クロムイオンのような有害な重金属イオンを毒性のないクロム(III)等のより低原子価の状態に還元する一方、自らは、酸化されて硫酸鉄(III)となり、生成したエトリンガイトのアルミニウムイオンの結晶格子中に取り込まれ、有害な重金属イオンを捕捉、不溶化する等の機能を有する成分である。硫酸鉄(II)には、無水塩の他、1水塩(1水和物)、4水塩(4水和物)、5水塩(5水和物)、及び、7水塩(7水和物)等の水和物が数多く知られており、本発明には、無水塩及びすべての水和物およびこれらの任意種類且つ任意割合の混合物が使用可能であるが、特に、無水塩、或いは、1水塩(1水和物)が好適に使用可能である。
【0022】
高分子凝集剤は、塩基性条件下で生成した有害重金属水酸化物を固定化する一方、汚泥中の水分を吸収して汚泥固化体の固化強度の向上に寄与することに加えて、汚泥固化体の団粒化(粒状化)を促進し、後工程でのハンドリングや乾燥などを容易にする機能を有する。
【0023】
本発明の汚泥固化用組成物では、かかる汚泥固化用組成物100質量部に対して、酸化カルシウムを30~80質量部、硫酸アルミニウムを無水物換算で10~50質量部、硫酸鉄(II)を無水物換算で5~50質量部、及び、高分子凝集剤を0.01~1.0質量部含んでなるように配合することが望ましい。迅速な水和・固化反応と汚泥固化体の固化強度の確保との両立を実現できるからである。
【0024】
さらに、本発明においては、酸化カルシウムに対する硫酸アルミニウム及び硫酸鉄(II)の割合が重要で、酸化カルシウム1質量部に対して硫酸アルミニウムを無水物換算で0.07~1.60質量部程度配合するのが好ましく、0.08~1.40質量部程度配合するのが更に好ましく、0.10~1.20質量部程度配合するのが特に好ましい。また、酸化カルシウム1質量部に対して硫酸鉄(II)を無水物換算で0.04~1.60質量部程度配合するのが好ましく、0.05~1.40質量部程度配合するのが更に好ましく、0.06~1.20質量部程度配合するのが特に好ましい。
【0025】
一方、本発明における硫酸アルミニウムに対する硫酸鉄(II)の割合については、硫酸アルミニウム1質量部に対して硫酸鉄(II)を無水物換算で0.08~5.80質量部程度配合するのが好ましく、0.10~5.00質量部程度配合するのが更に好ましく、0.12~3.00質量部程度配合するのが特に好ましい。
【0026】
本発明の汚泥固化用組成物では、かかる汚泥固化用組成物が、さらに、ペーパースラッジアッシュ(paper sludge ash)、高炉スラグ(blast furnace slag)、鋳物砂(foundry sand)、および、石炭灰からなる群より選択された1種、或いは、2種以上を含んでなる汚泥固化用組成物とすることができる。これらの固化助剤の添加により、これらの固化助剤が含有するシリカ(SiO)による所謂、ポゾラン反応が促進され、更なる汚泥固化体の固化強度の向上が可能となるからである。
【0027】
例えば、ペーパースラッジアッシュ(製紙スラッジ焼却灰、PS灰)は、製紙工場等から排出されるペーパースラッジを焼却したものであって、シリカ(SiO)を約40%、石灰(CaO)を約30%、及びアルミナ(Al)を約25%程度含有するものが好ましい。本発明においては、上記ポゾラン反応による更なる汚泥固化体の固化強度の向上に加えて、ペーパースラッジアッシュ自体が、多孔質であるため、その孔表面に重金属等を吸着、固定する機能を有する。
【0028】
高炉スラグは、石灰(CaO)とともにシリカ(SiO)を主成分とし、その他の成分として、アルミナ(Al)、酸化マグネシウム(MgO)を含むものが使用可能であり、所謂、潜在水硬性及びポゾラン反応性を有するSiO含有物質として機能するものが好ましい。
【0029】
鋳物砂は、鋳物の鋳造に用いられる鋳物砂型用途の砂であって、ケイ砂(SiO)を主成分としており、これが、ポゾラン反応性を有するSiO含有物質として機能するものが好ましい。
【0030】
石炭灰は、「クリンカアッシュ」と「フライアッシュ」等に大別される。「クリンカアッシュ」とは、石炭を炉内で燃焼させることによって生じた石炭灰の粒子が相互に凝集し、多孔質な塊となって炉底に落下堆積したものを、粉砕機で砕いたものである。「クリンカアッシュ」は、主成分として、シリカ(SiO)を約60%程度、アルミナ(Al)を約20~25%程度含有するものが好ましい。
【0031】
「クリンカアッシュ」としては、0.2~20μm程度の小さな空隙構造を有する多孔質体のものが例示される。これは、保水性に優れると共に、汚泥中の重金属等を効果的に吸着させることもできる。「フライアッシュ」としては、粉状に砕いた石炭をボイラ内で燃焼させた際、この燃焼により溶融状態になった灰の粒子が、高温の燃焼ガス中を浮遊した後、ボイラ出口で温度低下にともなって、冷却固化して球形微細粒子となったものが好ましい。
【0032】
「フライアッシュ」としては、主成分として、シリカ(SiO)を約40~75%、アルミナ(Al)を約15~35%含有するものが好ましい。「フライアッシュ」としては、比表面積2500cm2/g程度以上を有するものが例示され、保水性に優れていると共に、汚泥中の重金属等を効果的に吸着させることもできる。
【0033】
本発明においては、ポゾラン反応性を有するSiO含有物質であることから、「クリンカアッシュ」や「フライアッシュ」を含むあらゆる石炭灰が好適に使用される。
【0034】
すなわち、本発明においては、本発明の汚泥固化用組成物100質量部に対して、ペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、および、石炭灰からなる群より選択された1種、或いは、2種以上の添加物を0.01~10質量部、含んでなる汚泥固化用組成物とすることができる。すなわち、0.01質量部未満の添加量では実質的な添加効果が認められず、10質量部を超えて添加すると、上記ポゾラン反応の反応速度が遅くなるため、好ましくない。
【0035】
上記のペーパースラッジアッシュ、高炉スラグ、鋳物砂、および、石炭灰からなる群より選択された1種、或いは、2種以上の添加物の添加量としては、汚泥固化用組成物100質量部に対して単独で、或いは、これらの2種以上の混合物として、2.0以上、8.0質量部以下程度が好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して3.0以上、7.0質量部以下程度が更に好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して4.0以上、6.0質量部以下程度が特に好ましい。
【0036】
本発明の汚泥固化用組成物は、さらに、金属アルミニウム粉末を含んでなる汚泥固化用組成物とすることができる。金属アルミニウムは、水、或いは、水と酸化カルシウム(CaO)の反応生成物である水酸化カルシウム(Ca(OH))と反応し、その反応熱で水和・固化反応全体を迅速に促進させることができ、該反応後は、アルミニウム(III)となって、汚泥固化体中に取り込まれる。
【0037】
この場合、本発明の汚泥固化用組成物100質量部に対して、さらに、金属アルミニウム粉末を0.01~5.0質量部、含んでなる汚泥固化用組成物とすることができる。すなわち、0.01質量部以下の添加量では実質的な添加効果が充分ではなく、5.0質量部以上添加すると、短時間での過剰な発熱により、水和・固化反応全体の制御が困難となることがある。金属アルミニウム粉末は、水、或いは、水酸化カルシウムと円滑に反応し得る充分な比表面積を確保できる1mmφ以下のものが好適に使用される。
【0038】
かかる金属アルミニウム粉末の添加量としては、汚泥固化用組成物100質量部に対して1.0以上、4.0質量部以下程度が好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して1.5以上、3.5質量部以下程度が更に好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して2.0以上、3.0質量部以下程度が特に好ましい。
【0039】
また、前記高分子凝集剤としては、粒子径1mmφ以下の粉末状のものであれば、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤、或いは、これらの任意割合での混合物のいずれをも使用することができるが、本発明における高分子凝集剤としては、特に、アニオン系高分子凝集剤を好適に使用することができる。かかる高分子凝集剤は、塩基性条件下で生成した有害重金属水酸化物を固定化する一方、汚泥中の水分を吸収して汚泥固化体の固化強度の向上に寄与することに加えて、汚泥固化体の団粒化(粒状化)を促進し、後工程でのハンドリングや乾燥などを容易にする役割を担っている。
【0040】
アニオン系高分子凝集剤としては、ハイモ(株)製、ポリアクリルアミド系のハイモフロックSS130、MTアクアポリマー(株)製アコフロックA-110等が例示できるが、これらのみに限定されるものでないことは言うまでもない。本発明の汚泥固化用組成物におけるアニオン系高分子凝集剤の添加量としては、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.01以上、1.0質量部以下程度が好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.2以上、0.8質量部以下程度が更に好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.4以上、0.6質量部以下程度が特に好ましい。
【0041】
カチオン系高分子凝集剤としては、ハイモ(株)製、ポリアクリルエステル系のハイモフロックMP184、MTアクアポリマー(株)製アロンフロックC-508等が例示できるが、これらのみに限定されるものでないことは言うまでもない。本発明の汚泥固化用組成物におけるカチオン系高分子凝集剤の添加量としては、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.01以上、1.0質量部以下程度が好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.2以上、0.8質量部以下程度が更に好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.4以上、0.6質量部以下程度が特に好ましい。
【0042】
ノニオン系高分子凝集剤としては、ハイモ(株)製、ポリアクリルアミド系のハイモフロックAP105、MTアクアポリマー(株)製アコフロックN-102等が例示できるが、これらのみに限定されるものでないことは言うまでもない。汚泥固化用組成物100質量部に対して0.01以上、1.0質量部以下程度が好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.2以上、0.8質量部以下程度が更に好ましく、汚泥固化用組成物100質量部に対して0.4以上、0.6質量部以下程度が特に好ましい。
【0043】
本発明の汚泥固化用組成物における固化機構については、例えば、以下のように考えることができる。すなわち、酸化カルシウム(CaO)とHOが反応して、生成したCa(OH)の溶解度分に相当するCaイオンが溶出し、硫酸アルミニウムから生成した水酸化アルミニウムとの反応によりカルシウム-アルミネート(Calcium-Aluminate)化合物(3CaO・Al・6HOなど)が生成し、さらに硫酸塩との反応によりカルシウム-アルミネート-サルフェート(Calcium-Aluminate-Sulfate)化合物のエトリンガイト(ettringite)[3CaO・Al・3CaSO・32HO](示性式では{Ca[Al(OH)・24HO}(SO・2HOと表される。)の無機繊維状多孔体を生成するに至るのではないかというものである。
【0044】
エトリンガイトは、前述の技術文献1-3にも記載されるように、上述の特許文献1、2に例示されるような、ポルトランドセメントを主原料とする汚泥固化用組成物においても主要な水和生成物の一つである。しかしながら、上記したように、ポルトランドセメントの固化速度は汚泥固化用途の使用において充分速いというには程遠い現状である。
【0045】
例えば、前述の技術文献1によると、ポルトランドセメントにおけるエーライト(C3S)の水和反応率が、80%に到達するために要する時間は、7日前後であり、さらに、90%に到達するために要する時間は、28日以上である。一方、ビーライト(C2S)の水和反応率が、80%に到達するために要する時間は、28日以上である。従って、この事実からポルトランドセメント水和反応は、養生28日においても、未だ完全固化に至っていないことが判る。
【0046】
また、技術文献2によると、ポルトランドセメント原料中のエーライトとビーライトにおけるモル比(C/S)はそれぞれ3及び2であるが、水和反応後、最終的には、いずれもC/S=1.5に到達することになり、C/S=1.5に到達した場合の化学式はCとして表記される。
【0047】
一方、技術文献3では、ポルトランドセメントのカルシウムシリケート相中のエーライトの固化につき、材齢28日のC/SのTEM-EDXによる直接測定値を1.83、X線回折とDTA-TGの測定結果から求めた計算値を1.73と算定しており、いずれもC/S=1.5には、未だ、到達しておらず、ポルトランドセメント水和反応は、養生28日においても、未だ完全固化に至っていないことが示されている。
【0048】
さらに、技術文献1では、ポルトランドセメント中のエーライトとビーライトを含むカルシウムシリケート相の固化につき、材齢28日のC/S比をX線回折/リートベルト法により、1.83と算出しており、同様な結論が導かれる。
【0049】
これに対して、本発明の汚泥固化用組成物は、汚泥に添加混合して固化処理することにより、汚泥を短時間(例えば、3日程度の養生で、150kN/m以上のコーン指数に到達する。)に固化せしめ、生成する汚泥固化体が水で再泥化することなく、高強度の汚泥固化体となるという本発明の顕著な効果を得ることができるが、これは、本発明によれば、酸化カルシウム由来のカルシウム成分と、硫酸アルミニウム中のアルミニウム成分が迅速に反応して、針状構造のエトリンガイトを速やかに形成して、多量の結晶水をその構造中に取り込む作用を有することから汚泥の含水量を早期に低下させるためではないかと考えられる。実際、エトリンガイトは、1分子あたり、32分子の水を水和できる。
【0050】
さらに、上記したように、生成したエトリンガイトの結晶は、針状結晶が凝集した無機繊維多孔体であることから、固化処理した汚泥の構造補強材として機能し、汚泥固化体の固化強度の向上に寄与しているとも考えられる。
【0051】
また、諸外国の都市汚泥等においては、工業排水等の混入により、有害な重金属類や陰イオンによる汚染の可能性も否定できない。これに対しては、生成する汚泥固化体を路盤材等の有価物として再利用する場合には充分な溶出防止の対策が必要となる。この点、エトリンガイト([3CaO・Al・3CaSO・32HO]:アルミン酸三硫酸カルシウム水和物)を主たる汚泥固化体の成分とする本発明の汚泥固化用組成物は、それ自体で汚泥中の有害な重金属等を固定化する機能をも有している。すなわち、重金属としてはPb、Ce、Cd、Hg、As等について、本発明の汚泥固化用組成物を使用すると、固定化が出来るとともに、陰イオンのF、BO 3-、CN、AsO 3-、CrO 2-、PO 3-等についても固定化可能である。
【0052】
これはエトリンガイトの構造内に、これらの重金属類や陰イオンが取込まれる事によるものである。すなわち、エトリンガイトは{Ca[Al(OH)・24HO]}6+の針状構造がC軸方向に伸びた骨格を形成しており、この間にSO四面体と水分子が入り込んだ結晶構造を有する。この結晶化の際にAl原子の位置にイオン半径の近い重金属原子と容易に置換することが知られている。
【0053】
また、柱状構造間に介在する硫酸イオンも上記の陰イオンと置換することも可能である。これは、本発明の汚泥固化用組成物の使用により、エトリンガイトが生成する際のカルシウム-アルミネート-サルフェート(Calcium-Aluminate-Sulfate)の水和結晶化の際に、置換反応が起り、これにより、結晶構造内に重金属や陰イオンを固定化するものである。例えば、六価クロムイオン(Cr6+)は、クロム酸イオンとして、硫酸イオンと置換固溶してクロムエトリンガイト([3CaO・Al・3CaCrO・32HO])となり、エトリンガイト結晶中に固定されるというものである。さらに、pH:10以上において、かかるエトリンガイト構造は極めて安定であることから、その結果、固定化された重金属や陰イオンは長期間安定に固定化されて存在する特徴があると言える。
【0054】
加えて、生成したエトリンガイトの結晶は、針状結晶が凝集した無機繊維多孔体であることから、その比表面積は極めて大きく、上記の化学的な置換固溶に加えて、重金属イオン等の表面吸着による固定も重金属類等の固定に寄与しているものと考えられる。
【0055】
一方、本発明の汚泥固化用組成物は、上記のとおり、硫酸鉄(II)を含有し、例えば、六価クロムイオンのような有害な重金属イオンを,毒性のない三価のクロムイオンの状態に還元する一方、自らは、酸化されて硫酸鉄(III)となり、生成したエトリンガイトのアルミニウムイオンの結晶格子中に取り込まれると考えられる(Goeril Moechner et.al, Cement and Concrete Research 39 (2009) 482-489参照)。
【0056】
同時に、本発明は、排水処理で生じる汚泥に上記の汚泥固化用組成物を添加混合して固化することを特徴とする汚泥の固化方法をも開示するものである。これにより、下水等から発生する汚泥を短時間(例えば、3日程度の養生で、150kN/m以上のコーン指数に到達する。)に固化せしめ、汚泥中の水分の取り込み量(反応可能な水分量)を増大できる結果、生成する汚泥固化体が水で再泥化することなく、高強度の汚泥固化体とすることができる。また、この汚泥の固化方法により、含有する重金属類や陰イオンを固定化させる効果も併せ持つ。さらに、従来のセメントや生石灰より大幅に固化時間を短縮させ、次工程の作業性改善と固化処理土の多様な再利用策を可能にさせ、経済的なメリットを与えることができる。
【0057】
具体的には、本発明の汚泥固化方法における汚泥への本発明の汚泥固化用組成物の添加量は、対象汚泥の含水率や、要求される汚泥固化体の固化強度にも拠るが、下記のようにすることが好ましい。すなわち、対象汚泥に本発明の汚泥固化用組成物を万遍なく添加混合して固化して、例えば、温度:20℃、湿度:100%(20℃)の条件下で、7日間密閉養生したときのコーン指数が、150kN/m以上、好ましくは200kN/m以上、より好ましくは250kN/m以上となるように、その添加量を調整することで、より安定した処理が行えるようになる。
【0058】
上記のコーン指数の測定は、「締固めた土のコーン指数試験方法 JIS A1228」に準拠して以下のように行なった。
【0059】
すなわち、4.75mmのふるいを通過させた試料を内径10cmの突固め試験用モールドに3層に分けて投入し、2.5kgのランマーで落下高さ30cm、各層25回ずつ、突固めて供試体を作製した。
【0060】
次に、供試体上端面中央部にコーンペネトロメーターを鉛直に立て、これを1cm/sの速さで貫入させ、コーン先端の貫入量が、供試体上端面から、5cm、7.5cmおよび10cmのときの平均貫入抵抗力を求める。コーン指数q(kN/m)は、上記3点の貫入抵抗力の平均値Q(N)をコーン先端の底面積A(3.24cm)で除してコーン指数を求めた。
【数1】
:コーン指数(kN/m
:平均貫入抵抗力(N)
A :コーン先端の底面積(cm
【実施例
【0061】
次に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0062】
[試料の調製]
国内で発生した某下水汚泥(生汚泥)を「下水汚泥サンプル」として使用した。該「下水汚泥サンプル」は、110℃乾燥における含水比が、487%、pH(25℃)が5.32、湿潤密度が0.994g/mlであった。
【0063】
上記「下水汚泥サンプル」10L(リットル)に対して、下記の表1の配合組成(実施例1―18及び比較例1―3)を有する各汚泥固化用組成物1kgを添加混合した後、温度:20℃、20℃の空気中で、密閉養生して得られた汚泥固化体につき、養生3日後と7日間後にコーン指数を測定した。
【0064】
使用した各組成物の原材料を以下に示す。
すなわち、酸化カルシウム(CaO)は、富士フィルム和光純薬(株)製の試薬を使用した。硫酸アルミニウム・15水和物(AS・15HO)は、大明化学工業(株)製のものを使用し、硫酸アルミニウム・無水物は、大明化学工業(株)製の対応する15水和物を500℃で、2時間焼成して調製した。また、硫酸鉄(II)・1水和物(FeSO・HO)及び硫酸鉄(II)・7水和物(FeSO・7HO)は、富士フィルム和光純薬(株)製の試薬を使用した。一方、ポルトランドセメントは、太平洋セメント(株)製のものを使用した。さらに、高分子凝集剤は、MTアクアポリマー(株)製、A-110(アニオン性)を使用した。鋳物砂は、旭有機材(株)製のものを使用し、高炉スラグは、JFEミネラル(株)製のもの、石炭灰は、中国電力(株)製フライアッシュII種を使用した。また、ペーパースラッジアッシュは、(株)ETSジャパン製エコソイルPを使用した。さらに、金属アルミニウム粉末は、山石金属(株)製のものを使用した。
コーン指数は、JIS A1228に準じて上記のように測定した。
【0065】
以下、使用した汚泥固化用組成物の配合組成、及び、これらを用いて作製し、温度:20℃、20℃の空気中で、3日間及び7日間密閉養生した後の対応する上記汚泥固化体のコーン指数の測定結果を表1―表3に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
<評価>
以上の結果より、本発明の固化剤は短時間に固化が進行し、固化強度に優れていることが明らかである。すなわち、上記[1](段落番号[0014])に規定する本発明に係る実施例1―20のすべてにおいて、温度:20℃で、7日間、密閉養生した後のコーン指数が、いずれも、酸化カルシウムのみを硬化成分とする比較例1、ポルトランドセメントのみを固化剤成分とする比較例2、さらには、酸化カルシウムとポルトランドセメントとの混合物のみを固化剤成分とする比較例3の測定値を上回ることが判った。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
また、特に、配合組成が上記[2](段落番号[0014])の範囲内にある実施例(実施例2-4、7-10、12-14、及び17-20)では、密閉養生3日後のコーン指数が228kN/m以上、密閉養生7日後で260kN/m以上の高い測定値が得られており、本発明固有の固化剤の優位性が明らかとなっている。一方、組成成分的には、本発明の上記[1](段落番号[0014])の範囲内にあるものの、硫酸アルミニウムに対する酸化カルシウムの添加量が、より多い実施例1及び実施例11、或いは逆に、硫酸アルミニウムに対する酸化カルシウムの添加量が、より少ない実施例5、6及び実施例15、16では、配合組成が上記[2](段落番号[0014])の範囲内にある上記各実施例と対比すると、より低いコーン指数に留まることが判った。
【0071】
さらに、硫酸アルミニウム、或いは、硫酸鉄(II)の結晶水に着目すると、硫酸アルミニウム・15水和物及び硫酸鉄(II)・1水和物を用いた実施例1-10(表1参照)よりも、硫酸アルミニウム(無水物)及び硫酸鉄(II)・7水和物を用いた実施例11-18(表2参照)の方が、密閉養生3日後、密閉養生7日後のいずれにおいても、より高いコーン指数の測定値が得られており、特に、実施例20では、密閉養生7日後のコーン指数が、650kN/mに到達した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は汚泥固化用組成物に関するもので、特に、汚泥に含まれる重金属等の確実な不溶化と、汚泥固化体への強度付与を同時に行えるため、下水等から発生する都市汚泥等の処理に好適な汚泥固化用組成物として活用できる。さらに、充分な養生と乾燥後の汚泥固化体は、路盤材等の道路補修材等の分野に利用可能である。