(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】フェーシング装置及びフェーシング方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/015 20120101AFI20230523BHJP
B24B 37/08 20120101ALI20230523BHJP
B24B 53/017 20120101ALI20230523BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B24B37/015
B24B37/08
B24B53/017 Z
H01L21/304 622R
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2019224080
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000107745
【氏名又は名称】スピードファム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】田山 遊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛敏
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071017(JP,A)
【文献】特開平06-285765(JP,A)
【文献】特開2004-047876(JP,A)
【文献】特開2002-046058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/015
B24B 37/08
B24B 53/017
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板材料を研磨加工する研磨機の定盤に設けられた研磨パッドに押し付けられるフェーシング部材と、前記フェーシング部材を移動させる駆動機構と、前記駆動機構を制御して前記研磨パッドをフェーシングする制御部と、を備えたフェーシング装置において、
前記基板材料の研磨開始から前記定盤の温度が安定するまでの間に実行するフェーシングである第1オートフェーシングの実行レシピを、前記定盤の形状の変化に基づいて設定するレシピ設定部を備え、
前記制御部は、前記第1オートフェーシングの実行レシピに基づいて前記駆動機構を制御し、前記研磨開始から前記定盤の温度が安定するまでの間、前記第1オートフェーシングを行う
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたフェーシング装置において、
前記レシピ設定部は、前記定盤の温度安定後、所定条件が成立したときに実行するフェーシングである第2オートフェーシングの実行レシピを、前記定盤の温度安定後の前記基板材料の研磨環境の変化に基づいて設定し、
前記制御部は、前記定盤の温度安定後に前記所定条件の成立を判断したとき、前記第2オートフェーシングの実行レシピに基づいて前記駆動機構を制御し、前記第2オートフェーシングを行う
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたフェーシング装置において、
前記制御部は、前記基板材料の研磨状態の推移に基づいて前記所定条件が成立したか否かを判断する
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたフェーシング装置において、
前記制御部は、前記基板材料の研磨状態と、前記基板材料の研磨環境との相関に基づいて前記所定条件が成立したか否かを判断する
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたフェーシング装置において、
前記駆動機構は、先端部に前記フェーシング部材が固定され、基端部が揺動可能に支持された第1アームと、先端部が前記フェーシング部材に回転可能に連結され、基端部が所定方向に沿って進退移動可能な軸部材に回転可能に連結された第2アームと、前記第1アームの基端部を揺動させる揺動アクチュエータと、を備える
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたフェーシング装置において、
前記駆動機構は、前記定盤の一部を横切るように架け渡されると共に前記フェーシング部材を支持するリニアガイドと、前記フェーシング部材に取り付けられた直動アクチュエータと、を備える
ことを特徴とするフェーシング装置。
【請求項7】
基板材料を研磨加工する研磨機の定盤に設けられた研磨パッドにフェーシング部材を押し付けながら前記フェーシング部材を移動させることで前記研磨パッドをフェーシングするフェーシング方法において、
前記基板材料の研磨開始から前記定盤の温度が安定するまでの間に実行するフェーシングである第1オートフェーシングの実行レシピを、前記定盤の形状の変化に基づいて設定する第1ステップと、
前記第1ステップにて設定された前記第1オートフェーシングの実行レシピに基づいて、前記研磨開始から前記定盤の温度が安定するまでの間、前記第1オートフェーシングを行う第2ステップと、
を有することを特徴とするフェーシング方法。
【請求項8】
請求項7に記載されたフェーシング方法において、
前記定盤の温度安定後、所定条件が成立したときに実行するフェーシングである第2オートフェーシングの実行レシピを、前記定盤の温度安定後の前記基板材料の研磨環境の変化に基づいて設定する第3ステップと、
前記第3ステップにて設定された前記第2オートフェーシングの実行レシピに基づいて、前記定盤の温度安定後に前記所定条件の成立を判断したとき、前記第2オートフェーシングを行う第4ステップと、
を有することを特徴とするフェーシング
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板材料を研磨加工する研磨機の定盤に貼り付けられた研磨パッドをフェーシングするフェーシング装置及びフェーシング方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンウェーハ等の基板材料を研磨加工する研磨機の下定盤及び上定盤にそれぞれ貼り付けられた研磨パッドをドレッシングするドレッシング装置が知られている。この従来のドレッシング装置では、研磨加工中の上下定盤に生じる変形に等しい変形を熱負荷や応力負荷により予め定盤に与えた上でドレッシングを行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、研磨機の定盤は、基板材料の研磨加工開始前は冷えており、研磨加工を開始すると温度が上昇し始め、この研磨加工を継続的に繰り返し行うことで所定の温度に安定する。このとき、研磨機の定盤には、定盤温度の変動に伴って微妙な形状変化が生じる。しかしながら、この微妙な形状変化を定盤に与えてドレッシングを行うことは非常に困難であるため、研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間、つまり、研磨開始直後の定盤温度が不安定なときは、研磨パッドの表面に適切な表面形状を創生することは難しかった。これにより、基板材料の研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間、基板材料の高精度研磨加工の歩留まりが低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間に行なう基板材料の高精度研磨加工の歩留まりを向上させることができるフェーシング装置及びフェーシング方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のフェーシング装置は、基板材料を研磨加工する研磨機の定盤に設けられた研磨パッドに押し付けられるフェーシング部材と、フェーシング部材を移動させる駆動機構と、駆動機構を制御して研磨パッドをフェーシングする制御部と、を備えており、さらに、基板材料の研磨開始から定盤の温度が安定するまでの間に実行するフェーシングである第1オートフェーシングの実行レシピを、定盤の形状の変化に基づいて設定するレシピ設定部を備えている。そして、制御部は、第1オートフェーシングの実行レシピに従って駆動機構を制御し、基板材料の研磨開始から定盤の温度が安定するまでの間、第1オートフェーシングを行う。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のフェーシング方法は、基板材料を研磨加工する研磨機の定盤に設けられた研磨パッドにフェーシング部材を押し付けながらフェーシング部材を移動させることで研磨パッドをフェーシングする。ここで、基板材料の研磨開始から定盤の温度が安定するまでの間に実行するフェーシングである第1オートフェーシングの実行レシピを、定盤の形状の変化に基づいて設定する第1ステップと、第1ステップにて設定された第1オートフェーシングの実行レシピに従って、基板材料の研磨開始から定盤の温度が安定するまでの間、第1オートフェーシングを行う第2ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフェーシング装置及びフェーシング方法では、基板材料の研磨開始から定盤の温度が安定するまでの間、定盤の形状の変化に基づいて設定された実行レシピに基づいて第1オートフェーシングを行う。これにより、定盤温度の変動によって定盤に微妙な形状変化が生じていても、研磨パッドの表面に適切な表面形状を創生することが可能となる。よって、研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間に行なう基板材料の高精度研磨加工の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の両面研磨機及びフェーシング装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】実施例1のフェーシング装置の動作を模式的に示す平面図である。
【
図3A】実施例1のフェーシング装置を用いたフェーシング制御処理のステップS1~ステップS10の流れを示すフローチャートである。
【
図3B】実施例1のフェーシング装置を用いたフェーシング制御処理のステップS11~ステップS29の流れを示すフローチャートである。
【
図4】比較例のドレッシング制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】ワークの研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでのパッドを介した理想的な定盤圧力分布からの乖離度合いの変化を示すグラフである。
【
図6A】比較例のドレッシング装置での、定盤温度安定後からパッドライフ到達までの理想パッド状態からの乖離度合いの変化を示すグラフである。
【
図6B】実施例1のフェーシング装置での、定盤温度安定後からパッドライフ到達までの理想パッド状態からの乖離度合いの変化を示すグラフである。
【
図7】フェーシング装置の駆動機構の変形例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフェーシング装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
以下、実施例1のフェーシング装置1の構成を
図1及び
図2に基づいて説明する。
【0012】
実施例1のフェーシング装置1は、薄板状のワーク(基板材料)の表裏両面を研磨加工する両面研磨機10の下定盤11に貼り付けられた研磨パッド11aと、この両面研磨機10の上定盤12に貼り付けられた研磨パッド12aとをフェーシング及びドレッシングする装置である。ここで「フェーシング」とは、研磨パッド表面の変性物等を除去し、粗し、目立てを行いつつ、所望のパッド形状や、所望のパッド状態(所望の表面粗さ等)を創生する目的でフェーシング部材22を用いて研磨パッド11a、12aの表面を研削することである。一方、「ドレッシング」とは、フェーシングと異なり所望のパッド形状や所望のパッド状態の創生は行わず、研磨パッドの表面に倣って研削し、研磨パッド表面の変性物等を除去し、粗し、目立てを行うことである。なお、実施例1のフェーシング装置1では、共通のフェーシングヘッド2を使用してフェーシングとドレッシングを行う。
【0013】
このフェーシング装置1によって研磨パッド11a、12aをフェーシングやドレッシングするには、まず、両面研磨機10の下定盤11と上定盤12との間に、フェーシング部材22が設けられたフェーシングヘッド2を入れ込む。そして、フェーシングヘッド2を下定盤11と上定盤12で挟み込むと共に、図示しない押圧機構によってフェーシング部材22を研磨パッド11a、12aに押し付ける。その後、下定盤11を第1の方向(例えば時計回り方向)に回転させ、上定盤12を第1の方向に対して逆向きの第2の方向(例えば反時計回り方向)に回転させる。これにより、研磨パッド11a、12aとフェーシング部材22とが相対運動し、研磨パッド11a、12aをフェーシング又はドレッシングすることができる。
【0014】
フェーシング装置1は、フェーシングヘッド2と、フェーシングヘッド2を移動させる駆動機構3と、駆動機構3を制御する制御部4と、フェーシング又はドレッシング時の実行レシピを設定するレシピ設定部5と、を備えている。
【0015】
フェーシングヘッド2は、
図1に示すように、支持部材21と、一対のフェーシング部材22、22と、を備えている。
【0016】
ここで、支持部材21は、金属製等の剛体であり、不図示の押圧機構を備えると共に、洗浄水又は圧縮空気等の流体を噴射可能な噴出孔が形成されている。押圧機構は、例えば、支持部材21から上方又は下方に向かって出没するピストンを有する動力シリンダである。
【0017】
一対のフェーシング部材22、22は、研磨パッド11a、12aにそれぞれ接触して研削する砥石である。一対のフェーシング部材22、22は、支持部材21の上面及び下面のうち、押圧機構で押圧可能な位置にそれぞれ設けられている。そして、フェーシング部材22は、押圧機構によって押圧されることで研磨パッド11a、12aに押し付けられる。なお、各フェーシング部材22は、ここでは、鉄や炭素鋼等からなる台金の表面に形成したメッキ層にダイヤモンド砥粒やCBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒を固着して形成されている。また、フェーシング部材22としては、他にも、金属製線材やセラミック等の機能表面材を用いてもよい。
【0018】
駆動機構3は、
図2に示すように、第1アーム31と、第2アーム32と、回転モータ(揺動アクチュエータ)33と、を備えた、いわゆるスライダリンク機構である。この駆動機構3では、フェーシングヘッド2を第1アーム31と第2アーム32で支持する。
【0019】
第1アーム31は、水平方向に延在されたパイプ部材であり、先端部31aにフェーシング部材22を備えたフェーシングヘッド2が固定されている。また、第1アーム31の基端部31bは、回転軸34の周面に固定されている。ここで、回転軸34は、軸方向が鉛直に沿って起立した軸部材であり、回転モータ33によって回転させられる。そして、第1アーム31は、回転軸34が回転することで水平方向に揺動し、先端部31aが回転軸34を中心にした円弧状の軌道2aに沿って移動する。これにより、第1アーム31の先端部31aに固定されたフェーシングヘッド2は、下定盤11と上定盤12の間から出入りする。なお、第1アーム31は、使用時以外はフェーシングヘッド2が下定盤11と上定盤12の間から退避する位置に回動させられる。また、この第1アーム31の内部には、フェーシングヘッド2から噴出する洗浄水等が流れる流路が形成されていてもよい。
【0020】
第2アーム32は、水平方向に延在された棒部材であり、先端部32aが自在継手32cを介してフェーシングヘッド2に回転可能に連結されている。また、第2アーム32の基端部32bは、所定方向(
図2において矢印αで示す方向)に沿って進退移動可能な軸部材35に回転可能に支持されている。なお、軸部材35は、上下定盤11、12に干渉しない位置に配置されている。
【0021】
回転モータ33は、上下定盤11、12に干渉しない位置に、出力軸が鉛直方向に沿って配置された電動モータであり、出力軸には回転軸34が固定されている。また、回転モータ33は、制御部4からの制御指令が入力され、この制御指令に基づいて駆動や停止、回転方向及び回転速度が制御される。
【0022】
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)からなる制御演算部やメモリ等を備え、メモリに記憶されたプログラムや、レシピ設定部5から入力された各種フェーシング又はドレッシングの実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3の動作を制御する。また、この制御部4は、レシピ設定部5に対してリクエスト信号を出力することで、研磨加工中又は研磨終了時のワークの形状(以下、「ワークの研磨状態」という)の情報や、両面研磨機10での研磨加工の実行回数(以下「バッチ数」という)の情報等の必要情報を得ることができる。
【0023】
そして、この制御部4は、バッチ数等の情報に基づいて、両面研磨機10での研磨開始のタイミングと、上下定盤11、12の温度が安定したタイミングとをそれぞれ判断する。制御部4は、両面研磨機10での研磨開始の判断後、レシピ設定部5から第1オートフェーシングの実行レシピを読み出す。そして、制御部4は、研磨開始から上下定盤11、12の温度が安定したと判断するまでの間、ワークの研磨加工を行うごとに、第1オートフェーシングの実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御する。これにより、ワークの研磨開始から上下定盤11、12の温度が安定したと判断されるまでの間、所定の間隔で第1オートフェーシングが行われる。なお、第1オートフェーシングの実行間隔は、例えば、ワークの研磨加工を実行するごと、又は、所定のバッチ数ごと等任意に設定することができる。
【0024】
ここで、「第1オートフェーシング」とは、ワークの研磨開始から上下定盤11、12の温度が安定したと判断されるまでの間に実行するフェーシングであり、上下定盤11、12の形状変化に基づいてパッド表面を部分的又は全面的にフェーシングする。第1オートフェーシングでは、研磨パッド11a、12aの双方を同時にフェーシングしてもよいし、どちらか一方をフェーシングしたり、研磨パッド11a、12aを交互にフェーシングしたりしてもよい。また、「上下定盤11、12の温度が安定したと判断される」とは、ワークの研磨加工中に生じる定盤の温度変化が収束し、定盤温度が安定したと判断されることである。すなわち、研磨加工の開始時には、上下定盤11、12はいずれも冷えており、定盤温度は比較的低温になっている。ワークの研磨加工を行うことで次第に定盤温度は上昇し、所定の温度に達すると、温度上昇が収束して安定する。ここでは、研磨パッド11a、12aの温度や、定盤温度を計測して温度収束を判断してもよいし、研磨加工条件や研磨加工時の環境条件ごとに予め設定した所定バッチ数の研磨加工が終了したときに、定盤温度が安定したと判断してもよい。さらに、定盤間距離に基づいて定盤温度の収束判断を行ってもよい。
【0025】
また、制御部4は、上下定盤11、12の温度が安定したと判断した後、バッチ数及び研磨加工時の環境条件と、ワークの研磨状態の推移に基づいて、第2オートフェーシングを実行するための所定条件の成立を判断する。制御部4は、所定条件が成立したと判断したとき、レシピ設定部5から第2オートフェーシングの実行レシピを読み出す。そして、制御部4は、第2オートフェーシングの実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御する。これにより、上下定盤11、12の温度安定後、第2オートフェーシングが行われる。
【0026】
ここで、「第2オートフェーシング」とは、定盤温度安定後、所定条件が成立したと判断されたときに実行するフェーシングであり、定盤温度安定後のワークの研磨環境の変化に基づいてパッド表面を部分的又は全面的にフェーシングする。第2オートフェーシングでは、研磨パッド11a、12aの双方を同時にフェーシングしてもよいし、どちらか一方をフェーシングしたり、研磨パッド11a、12aを交互にフェーシングしたりしてもよい。また、「ワークの研磨環境」とは、ワークの研磨状態に影響を与える要因である。具体的には、上下定盤11、12やその支持体の局部的な温度や、研磨加工時の定盤間距離、長期蓄熱による定盤形状の変化、両面研磨機10の駆動モータ負荷率、キャリアの劣化、研磨パッド11a、12aの摩耗・表面粗さ・蓄熱・温度分布、上下定盤11、12を冷却する冷却水の温度、研磨加工時に供給されるスラリの種類や温度、上下定盤11、12の傾き量等である。第2オートフェーシングでは、このようなワークの研磨環境の変化の程度(度合い)に基づいて実行される。
【0027】
さらに、「所定条件が成立したと判断されるとき」とは、研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てするドレッシングであるオートドレッシングを行うだけでは、研磨パッド11a、12aのメンテナンスができないと判断されるときである。「研磨パッド11a、12aのメンテナンス」とは、パッド表面を所望の表面形状に回復或いは変更させたり、パッド状態を回復させたりすることであり、パッド形状やパッド状態をコントロールすることである。
【0028】
また、「所定条件」は実験等に基づいて予め決められ、具体的には、例えば研磨加工を行ったバッチ数が所定バッチ数以上の場合や、ワークの研磨状態が合格基準に対して乖離傾向を示す場合等とする。
【0029】
さらに、制御部4は、研磨加工中に、ワークの形状とワークの研磨環境の変化とをリアルタイムで監視し、ワークの高精度研磨を達成し得る研磨環境を逸脱する状況であると判断した場合に、「所定条件」が成立したと判断してもよい。また、制御部4は、研磨加工後のワークの形状と、研磨加工後のワークの研磨環境との相関が、ワークの高精度研磨を達成し得る研磨環境を逸脱する状況であると判断した場合に、「所定条件」が成立したと判断してもよい。すなわち、ワークの研磨状態と、ワークの研磨環境との相関を監視して、研磨パッド11a、12aや、キャリア、スラリ等の消耗品のライフを考慮した上での研磨パッド間の圧力分布や、ワークの研磨パラメータに現れる理想パッド状態からの乖離度合いを想定可能とする。そして、この想定をバロメータにして第2オートフェーシングを実行することもできる。なお、「ワークの研磨状態の推移」は、ワークの研磨状態を時系列に並べて分析することで把握することができる。
【0030】
また、制御部4は、上下定盤11、12の温度安定後、上述の所定条件が成立したと判断されるまでは、レシピ設定部5からオートドレッシングの実行レシピを読み出す。そして、制御部4は、上下定盤11、12の温度が安定してから上記所定条件が成立するまでの間、所定の間隔でオートドレッシングの実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御する。これにより、研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てするドレッシングであるオートドレッシングが所定間隔で行われる。なお、オートドレッシングの実行間隔は、例えば、ワークの研磨加工を実行するごと、又は、所定のバッチ数ごと等任意に設定することができる。
【0031】
さらに、制御部4は、両面研磨機10の始動を判断したときは、レシピ設定部5から基礎フェーシングの実行レシピを読み出す。そして、制御部4は、基礎フェーシングの実行レシピに従って例えば図示しないリング状のフェーシング部材を駆動制御する。これにより、両面研磨機10の始動後、基礎フェーシングが行われる。ここで、「基礎フェーシング」とは、両面研磨機10のウォームアップ後のパッド表面形状を想定し、加工開始前に必要となる研磨パッド11a、12aの表面形状(以下「基礎パッド形状」という)を創生するフェーシングである。なお、基礎パッド形状は、上下定盤11、12の直径及び半径のそれぞれ、又はそのいずれかに対応して創生される。
【0032】
また、制御部4は、ワークの研磨加工後、オートドレッシングや第2オートフェーシングを行うだけでは、研磨パッド11a、12aのメンテナンスができないと判断したときは、レシピ設定部5から第2基礎フェーシングの実行レシピを読み出す。そして、制御部4は、第2基礎フェーシングの実行レシピに従って例えば図示しないリング状のフェーシング部材を駆動制御し、第2基礎フェーシングを実行する。ここで、「第2基礎フェーシング」とは、ワークの研磨加工に伴って生じたパッド表面の変性物等の除去と共に、パッド面全体にわたる研削を行ったり、パッド表面を所定形状に創生したりして、研磨パッド11a、12aに所定の表面形状(以下「第2基礎パッド形状」という)を創生するフェーシングである。なお、第2基礎パッド形状は、上下定盤11、12の直径及び半径のそれぞれ、又はそのいずれかに対応して創生される。
【0033】
また、基礎フェーシング及び第2基礎フェーシングの実行時に使用されるフェーシング部材は、使用する都度、下定盤11と上定盤12の間に配置される。このため、基礎フェーシングや第2基礎フェーシングの実行により、上下定盤11、12の温度が低下する。また、基礎フェーシングや第2基礎フェーシングに使用されるフェーシング部材はリング状に限らず、任意の形状のフェーシング部材を使用可能である。
【0034】
レシピ設定部5は、CPU(Central Processing Unit)からなる制御演算部やメモリ等を備えている。そして、このレシピ設定部5は、定盤測定器14、ワーク形状測定器15、研磨回数カウンタ16、パッド温度センサ17、情報入力手段18等から入力された各種の情報やメモリに記憶された情報等に基づいて、各種フェーシング及びドレッシングの実行レシピを自動的に演算して設定する。ここで、「フェーシング及びドレッシングの実行レシピ」とは、フェーシング中又はドレッシング中にパッドに対してフェーシング部材22やリング状のフェーシング部材を押し付ける位置や、パッドの位置ごとのフェーシング部材22等の走査速度、押し付ける時間、押し付け力等を規定する各種の条件である。
【0035】
定盤測定器14は、下定盤11と上定盤12との表面間距離を測定するセンサである。ワーク形状測定器15は、研磨中のワークの形状を測定するセンサである。研磨回数カウンタ16は、両面研磨機10でのバッチ数を計測するセンサである。パッド温度センサ17は、研磨パッド11a、12aの温度を測定するセンサである。情報入力手段18は、ワークの研磨環境の情報を入力する装置である。この情報入力手段18は、タッチパネルやキーボード等によって構成され、両面研磨機10のオペレータによって手動入力を可能とするものであってもよいし、各種センサによる検出値を自動的に入力するものであってもよい。
【0036】
そして、レシピ設定部5は、第1オートフェーシングの実行レシピを設定する際、まず、定盤測定器14の測定結果から上下定盤11、12の表面形状を推定する。続いて、推定した表面形状を時系列に沿って分析することで、上下定盤11、12の表面形状の変化情報を取得する。そして、レシピ設定部5は、上下定盤11、12の表面形状の変化に基づいて、基礎パッド形状から、上下定盤11、12の温度が安定したときに必要な研磨パッド11a、12aの表面形状(以下「必要パッド形状」という)へと変形する際に所定の間隔で遷移的なパッド形状を目標パッド形状として求める。そして、この目標パッド形状と研磨パッド11a、12aの実パッド形状との差分を補正する実行レシピを、第1オートフェーシングの実行レシピとする。ここで、目標パッド形状と実パッド形状との差分を補正する実行レシピは予め実験的に決まっており、レシピ設定部5に有するメモリに記憶されている。
【0037】
また、レシピ設定部5は、第2オートフェーシングの実行レシピを設定する際、まず、ワーク形状測定器15の測定結果から、定盤温度安定後に研磨加工されているワークの研磨状態の情報を取得する。続いて、取得したワークの研磨状態の情報から、ワークの研磨環境の変化を推定する。そして、レシピ設定部5は、推定したワークの研磨環境の変化に基づき、このワークの研磨環境の変化を抑制或いは緩和するための目標パッド形状・状態を求め、この目標パッド形状・状態と研磨パッド11a、12aの実パッド形状・状態との差分を補正する実行レシピを、第2オートフェーシングの実行レシピとする。第2オートフェーシングの実行レシピは、例えば、両面研磨機10や選択された副資材(例えばスラリ等)の動的及び経時的な変性特性に基づいて経験則的又は帰納法的に求められる。
【0038】
また、レシピ設定部5は、オートドレッシングの実行レシピを設定する際、まず、情報入力手段18を介して入力された両面研磨機10の状態情報や、メモリに予め入力された情報等から定盤温度安定時の研磨パッド11a、12aの状態を認識する。そして、認識したパッド状態から求めた研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てするための実行レシピを、オートドレッシングの実行レシピとする。なお、研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てする実行レシピは、定盤温度安定時のパッド状態に応じて予め実験的に決まっており、レシピ設定部5に有するメモリに記憶されている。
【0039】
さらに、レシピ設定部5は、基礎フェーシングの実行レシピを設定する際、まず、情報入力手段18を介して入力された両面研磨機10の状態情報や、メモリに予め入力された情報等から基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態を認識する。そして、認識したパッド状態から求めた基礎パッド形状を創生するための実行レシピを、基礎フェーシングの実行レシピとする。ここで、基礎パッド形状を創生する実行レシピは、基礎フェーシング前のパッド状態に応じて予め実験的に決まっており、レシピ設定部5に有するメモリに記憶されている。
【0040】
また、レシピ設定部5は、第2基礎フェーシングの実行レシピを設定する際、まず、情報入力手段18を介して入力された両面研磨機10の状態情報や、メモリに予め入力された情報等から第2基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態を認識する。そして、認識したパッド状態から求めた第2基礎パッド形状を創生するための実行レシピを、第2基礎フェーシングの実行レシピとする。ここで、第2基礎パッド形状を創生する実行レシピは、第2基礎フェーシング前のパッド状態に応じて予め実験的に決まっており、レシピ設定部5に有するメモリに記憶されている。
【0041】
以下、
図3A及び
図3Bに基づいて、実施例1のフェーシング装置を用いたフェーシング制御処理の処理手順を説明する。
【0042】
ステップS1では、両面研磨機10にてワークの研磨加工を行うため、両面研磨機10のオペレータによって上下定盤11、12にそれぞれ研磨パッド11a、12aを貼り付け、ステップS2へ進む。
【0043】
ステップS2では、ステップS1でのパッドの貼り付けに続き、レシピ設定部5により、基礎フェーシングの実行レシピを設定し、ステップS3へ進む。ここで、レシピ設定部5は、基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態から、基礎パッド形状を創生するための基礎フェーシングの実行レシピを設定する。
【0044】
ステップS3では、ステップS2での基礎フェーシングの実行レシピの設定に続き、制御部4により、ステップS2にて設定された実行レシピに従って例えばリング状のフェーシング部材を駆動制御して基礎フェーシングを実行し、ステップS4へ進む。基礎フェーシングを実行することで、研磨パッド11a、12aの表面には、基礎パッド形状が創生される。なお、リング状のフェーシング部材は、基礎フェーシングの実行前に予め上下定盤11、12の間に配置される。
【0045】
ステップS4では、ステップS3での基礎フェーシングの実行に続き、制御部4により、基礎フェーシングが終了したか否かを判断する。YES(基礎フェーシング終了)の場合はステップS5へ進む。NO(基礎フェーシング未了)の場合はステップS3を繰り返す。ここで、基礎フェーシングの終了は、フェーシング時間や研磨パッド11a、12aの表面形状から判断する。また、リング状のフェーシング部材は、基礎フェーシングの終了後に上下定盤11、12の間から取り外される。
【0046】
ステップS5では、ステップS4での基礎フェーシング終了との判断に続き、両面研磨機10により、ワークの研磨加工を実行し、ステップS6へ進む。
【0047】
ステップS6では、ステップS5でのワークの研磨加工の実行に続き、研磨加工が終了したか否かを判断する。YES(研磨加工終了)の場合はステップS7へ進む。NO(研磨加工未了)の場合はステップS5を繰り返す。ここで、ワークの研磨加工は、1バッチごとに終了と判断してもよいし、予め決められたバッチ数を研磨加工したタイミングで終了を判断してもよい。
【0048】
ステップS7では、ステップS6での研磨加工終了との判断に続き、レシピ設定部5により、第1オートフェーシングの実行レシピを設定し、ステップS8へ進む。ここで、レシピ設定部5は、定盤測定器14の測定結果から推定した上下定盤11、12の表面形状の変化に基づいて、基礎パッド形状から必要パッド形状に変形するまでの遷移的な目標パッド形状と実パッド形状との差分を補正する第1オートフェーシングの実行レシピを設定する。
【0049】
ステップS8では、ステップS7での第1オートフェーシングの実行レシピの設定に続き、制御部4により、ステップS7にて設定された実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御して第1オートフェーシングを実行し、ステップS9へ進む。第1オートフェーシングを実行することで、研磨パッド11a、12aの実パッド形状は、基礎パッド形状から必要パッド形状に変形する際の遷移的な目標パッド形状となるように都度微細に形状補正される。
【0050】
ステップS9では、ステップS8での第1オートフェーシングの実行に続き、制御部4により、第1オートフェーシングが終了したか否かを判断する。YES(第1オートフェーシング終了)の場合はステップS10へ進む。NO(第1オートフェーシング未了)の場合はステップS8を繰り返す。ここで、第1オートフェーシングの終了は、フェーシング時間や研磨パッド11a、12aの表面形状から判断する。
【0051】
ステップS10では、ステップS9での第1オートフェーシング終了との判断に続き、下定盤11及び上定盤12の温度が安定したか否かを判断する。YES(定盤温度安定)の場合はステップS11へ進む。NO(定盤温度不安定)の場合はステップS5へ戻る。
【0052】
ステップS11では、ステップS10での定盤温度安定との判断に続き、両面研磨機10により、ワークの研磨加工を実行し、ステップS12へ進む。
【0053】
ステップS12では、ステップS11でのワークの研磨加工の実行に続き、研磨加工が終了したか否かを判断する。YES(研磨加工終了)の場合はステップS13へ進む。NO(研磨加工未了)の場合はステップS11を繰り返す。ここで、ワークの研磨加工は、1バッチごとに終了と判断してもよいし、予め決められたバッチ数を研磨加工したタイミングで終了を判断してもよい。
【0054】
ステップS13では、ステップS12での研磨加工終了との判断に続き、制御部4によりバッチ数とワークの研磨状態の推移を監視し、ステップS14へ進む。ここで、バッチ数は、研磨回数カウンタ16によって計測する。また、ワークの研磨状態の推移は、ワーク形状測定器15の測定結果を時系列に並べて分析することで把握する。
【0055】
ステップS14では、ステップS13でのバッチ数及びワークの研磨状態の推移の監視に続き、制御部4により、ステップS13での監視結果に基づいて、研磨パッド11a、12aのメンテナンスがオートドレッシングで対応が可能か否かを判断する。YES(対応可能)の場合は、オートドレッシングによるパッドメンテナンスが可能としてステップS15へ進む。NO(対応不可能)の場合は、オートドレッシングによるパッドメンテナンスは不可能としてステップS18へ進む。
【0056】
ステップS15では、ステップS14でのオートドレッシングによるパッドメンテナンスが可能との判断に続き、レシピ設定部5により、オートドレッシングの実行レシピを設定し、ステップS16へ進む。ここで、レシピ設定部5は、定盤温度安定時の研磨パッド11a、12aの状態から、研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てするためのオートドレッシングの実行レシピを設定する。
【0057】
ステップS16では、ステップS15でのオートドレッシングの実行レシピの設定に続き、制御部4により、ステップS15にて設定された実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御してオートドレッシングを実行し、ステップS17へ進む。オートドレッシングを実行することで、研磨パッド11a、12aの全面が均等に目立てされる。
【0058】
ステップS17では、ステップS16でのオートドレッシングの実行に続き、制御部4により、オートドレッシングが終了したか否かを判断する。YES(オートドレッシング終了)の場合はステップS11へ戻る。NO(オートドレッシング未了)の場合はステップS16を繰り返す。ここで、オートドレッシングの終了は、ドレッシング時間等から判断する。
【0059】
ステップS18では、ステップS14でのオートドレッシングによるパッドメンテナンスが不可能との判断に続き、制御部4により、ステップS13での監視結果に基づいて、研磨パッド11a、12aのメンテナンスが第2オートフェーシングで対応が可能か否か、つまり第2オートフェーシングを行うことで研磨パッド11a、12aのパッド表面を所望の形状・状態(例えば、必要パッド形状、面粗さ)に回復できるか否かを判断する。YES(対応可能)の場合は、第2オートフェーシングでパッドメンテナンスが可能であるとしてステップS19へ進む。NO(対応不可能)の場合は、第2オートフェーシングでのパッドメンテナンスは不可能であるとしてステップS22へ進む。なお、このステップS18によって、定盤温度安定後に所定条件が成立したか否かが判断される。また、この判断はステップS13での監視結果に基づいて行われ、バッチ数だけでなくワークの研磨状態の推移にも基づいて判断される。
【0060】
ステップS19では、ステップS18での第2オートフェーシングによるパッドメンテナンスが可能(所定条件成立)との判断に続き、レシピ設定部5により、第2オートフェーシングの実行レシピを設定し、ステップS20へ進む。ここで、レシピ設定部5は、ワーク形状測定器15の測定結果とワークの研磨環境の監視結果から、ワークの研磨状態に影響を与えるワークの研磨環境の変化を推定する。そして、相関が高いと推定したワークの研磨環境の変化に対し、このワークの研磨環境の変化の影響を抑制或いは緩和する目標パッド形状・状態を求め、目標パッド形状・状態と実パッド形状・状態との差分を補正する第2オートフェーシングの実行レシピを設定する。
【0061】
ステップS20では、ステップS19での第2オートフェーシングの実行レシピの設定に続き、制御部4により、ステップS19にて設定された実行レシピに従って回転モータ33に制御指令を出力し、駆動機構3を制御して第2オートフェーシングを実行し、ステップS21へ進む。第2オートフェーシングを実行することで、研磨パッド11a、12aの実パッド形状・状態が、ワークの研磨環境の変化の影響を抑制或いは緩和する目標パッド形状・状態となるように補正される。
【0062】
ステップS21では、ステップS20での第2オートフェーシングの実行に続き、制御部4により、第2オートフェーシングが終了したか否かを判断する。YES(第2オートフェーシング終了)の場合はステップS11へ戻る。NO(第2オートフェーシング未了)の場合はステップS20を繰り返す。ここで、第2オートフェーシングの終了は、フェーシング時間や研磨パッド11a、12aの表面形状・状態から判断する。
【0063】
ステップS22では、ステップS18での第2オートフェーシングによるパッドメンテナンスが不可能との判断に続き、制御部4により、ステップS13での監視結果に基づいて、研磨パッド11a、12aのメンテナンスが第2基礎フェーシングで対応が可能か否か、つまり第2基礎フェーシングを行うことで第2基礎パッド形状を創生できるか否かを判断する。YES(対応可能)の場合は、ステップS23へ進む。NO(対応不可能)の場合は、ステップS26へ進む。
【0064】
ステップS23では、ステップS22での第2基礎フェーシングによるパッドメンテナンスが可能との判断に続き、レシピ設定部5により、第2基礎フェーシングの実行レシピを設定し、ステップS24へ進む。ここで、レシピ設定部5は、第2基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態から、第2基礎パッド形状を創生するための第2基礎フェーシングの実行レシピを設定する。
【0065】
ステップS24では、ステップS23での第2基礎フェーシングの実行レシピの設定に続き、制御部4により、ステップS23にて設定された実行レシピに従って例えばリング状のフェーシング部材を駆動制御して第2基礎フェーシングを実行し、ステップS25へ進む。第2基礎フェーシングを実行することで、研磨パッド11a、12aの表面には、第2基礎パッド形状が創生される。また、定盤温度は低下する。なお、リング状のフェーシング部材は、第2基礎フェーシングの実行前に予め上下定盤11、12の間に配置される。
【0066】
ステップS25では、ステップS24での第2基礎フェーシングの実行に続き、制御部4により、第2基礎フェーシングが終了したか否かを判断する。YES(第2基礎フェーシング終了)の場合はステップS5へ戻る。NO(第2基礎フェーシング未了)の場合はステップS24を繰り返す。ここで、第2基礎フェーシングの終了は、フェーシング時間や研磨パッド11a、12aの表面形状から判断する。また、リング状のフェーシング部材は、第2基礎フェーシングの終了後に上下定盤11、12の間から取り外される。
【0067】
ステップS26では、ステップS22での第2基礎フェーシングによるパッドメンテナンスが不可能との判断に続き、制御部4により、研磨パッド11a、12aの使用寿命(パッドライフ)に到達したと判断し、ステップS27へ進む。なお、パッドライフの到達判断は、例えば規定バッチ数以上となったときに行ってもよいが、実行したフェーシングの実績とパッド状態の再生状況とを比較し、パッド状態の再生状況が想定を下回る場合にも、パッドライフ到達と判断してもよい。
【0068】
ステップS27では、ステップS26でのパッドライフ到達との判断に続き、研磨パッド11a、12aの使用を開始してからパッドライフに到達するまでの経過を確認し、ステップS28へ進む。ここで、パッドライフ到達までの経過は、パッドライフ到達時のパッド形状と、バッチ数、フェーシング回数、フェーシング内容等に基づいて確認する。
【0069】
ステップS28では、ステップS27でのパッドライフの確認に続き、パッドライフに異常がないか否かを判断する。YES(異常なし)の場合はフェーシングの実施に不備はなかったとしてエンドへ進む。NO(異常あり)の場合はステップS29へ進む。
【0070】
ステップS29では、ステップS28でのパッドライフ異常ありとの判断に続き、パッドライフに異常が生じた原因を推定し、推定した原因に対して異常が生じないよう所定の対応を実施し、エンドへ進む。ここで、パッドライフ異常の原因は、両面研磨機10やスラリ等の副資材の状態、ワークの研磨加工条件等のワークの研磨環境を確認し、経験則又は過去に異常と判断された事例との比較演算等に基づいて推定する。
【0071】
以下、両面研磨機10の一般的な特性を説明する。
【0072】
両面研磨機10では、一般的に、ワークの研磨加工を開始する前は上下定盤11、12の温度が低く、研磨加工の実行に伴って定盤温度が次第に上昇していく。また、この定盤温度は、ワークの研磨加工の開始直後から急激に上昇し、次第に温度上昇が落ち着いていき、所定バッチ数の研磨加工を行う頃には一定温度に収束して相対的に安定する。
【0073】
すなわち、両面研磨機10は、一般的にワークの研磨加工の開始からしばらくの間、上下定盤11、12に熱による変化が生じる。そして、この熱による変化の影響により、ワークの研磨開始から定盤温度が安定するまでの間、上下定盤11、12に微妙な形状変化が生じる。よって、研磨パッド11a、12aの全面を一律にドレッシングするだけでは、定盤自体の形状変化や、定盤・パッドの局部的な温度差や変形、使用副資材の変性等の影響を抑制する適切なパッド形状・状態を創生できなかった。
【0074】
以下、
図4に基づいて、比較例のドレッシング装置におけるドレッシング処理とその課題を説明する。
【0075】
比較例のドレッシング装置におけるドレッシング処理では、ステップS101において、上下定盤11、12にそれぞれ研磨パッド11a、12aを貼り付ける。ステップS102において基礎フェーシングの実行レシピを設定し、ステップS103において基礎フェーシングを実行する。なお、この基礎フェーシングは、必ずしも実行する必要はない。
【0076】
続いて、ステップS104において基礎フェーシングが終了したか否かを判断し、基礎フェーシング終了と判断した場合にはステップS105へ進んで、両面研磨機10によって、ワークの研磨加工を実行する。
【0077】
ステップS106においてワークの研磨加工が終了したか否かを判断し、研磨加工終了と判断した場合にはステップS107へ進んで、バッチ数とワークの研磨状態の推移を監視する。そして、この監視結果に基づいて、ステップS108において、研磨パッド11a、12aのメンテナンスがオートドレッシングで対応が可能か否かを判断する。
【0078】
オートドレッシングを行うことで研磨パッド11a、12aのメンテナンスが対応可能であると判断した場合には、ステップS109へと進み、オートドレッシングの実行レシピを設定し、ステップS110においてオートドレッシングを実行する。そして、ステップS111においてオートドレッシングが終了したか否を判断し、オートドレッシング終了と判断した場合には、ワークの研磨加工を繰り返す。
【0079】
一方、オートドレッシングを行うことでは研磨パッド11a、12aのメンテナンスが不可能であると判断した場合には、ステップS108からステップS112へと進み、研磨パッド11a、12aのメンテナンスが第2基礎フェーシングで対応が可能か否か、つまり第2基礎フェーシングを行うことで研磨パッド11a、12aのパッド表面に第2基礎パッド形状を創生できるか否かを判断する。
【0080】
第2基礎フェーシングを行うことで研磨パッド11a、12aのメンテナンスが対応可能であると判断した場合には、ステップS113へと進み、第2基礎フェーシングの実行レシピを設定し、ステップS114において第2基礎フェーシングを実行する。そして、ステップS115において、第2基礎フェーシングが終了したか否かを判断し、第2基礎フェーシング終了と判断した場合にはワークの研磨加工を繰り返す。
【0081】
一方、第2基礎フェーシングでは研磨パッド11a、12aのメンテナンスが対応不可能であると判断した場合には、ステップS112からステップS116へと進み、研磨パッド11a、12aの使用寿命(パッドライフ)に到達したと判断する。そして、ステップS117においてパッドライフを確認し、ステップS118においてパッドライフの異常の有無を判断する。そして、パッドライフに異常がなければエンドへ進み、パッドライフに異常があると判断した場合には、ステップS119へと進んでパッドライフ異常の原因を推定し、適切な対応を行ってからエンドへ進む。
【0082】
このように、比較例のドレッシング装置におけるドレッシング処理では、両面研磨機10によるワークの研磨加工の開始後、所定の間隔(例えば、研磨加工を行うごと、又は、所定のバッチ数ごと)にオートドレッシングを実行する。このオートドレッシングは、パッドの形状創生を伴わずに研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てするドレッシングである。そのため、ワークの研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間は、熱による変化によって、上下定盤11、12に生じる微妙な形状変化に追随する適切なパッド形状・状態を都度調整、創生することが難しい。そのため、
図5において破線で示すように、時刻t0時点から研磨加工を開始し、時刻t1時点で定盤温度が安定するまでの間に生じる高精度研磨のためのパッドを介した理想的な定盤圧力分布(最適値(0))からの乖離を抑制することは困難であった。なお、「高精度研磨のためのパッドを介した理想的な定盤圧力分布」とは、下定盤11に対する上定盤12の当たり度合いが望ましい状態である上に、フェーシング後の研磨パッド11a、12aが介在して総合的に作り出す圧力分布がウェーハの運動に鑑みて最適な状態になっていることである。この理想的な定盤圧力分布が最適値に近く(「0」に近く)、圧力分布管理が維持できるほど、ワークの高精度研磨加工の歩留まりを向上させることができる。
【0083】
以下、実施例1のフェーシング装置1の作用を
図3A及び
図3B、
図5に基づいて説明する。
【0084】
実施例1のフェーシング装置1による両面研磨機10の研磨パッド11a、12aのフェーシング処理では、まず、
図3Aのフローチャートに示すステップS1、ステップS2、ステップS3の処理を行う。すなわち、研磨パッド11aを下定盤11に貼り付け、研磨パッド12aを上定盤12に貼り付ける。そして、基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態に基づいて基礎フェーシングの実行レシピを設定し、この実行レシピに従って基礎フェーシングを実行する。そして、基礎フェーシングが終了し、研磨パッド11a、12aの表面に基礎パッド形状が創生されたら、ステップS4にてYESと判断される。
【0085】
続いて、ステップS5、ステップS6の処理を実行し、両面研磨機10においてワークの研磨加工を行い、研磨加工が終了したか否かが判断される。そして、ワークの研磨加工が終了したと判断された場合には、ステップS7の処理が行われ、第1オートフェーシングの実行レシピがレシピ設定部5によって設定される。
【0086】
ここで、第1オートフェーシングの実行レシピは、上下定盤11、12の表面形状を分析して得られたパッド表面形状の変化に基づいて設定される。すなわち、フェーシング装置1では、第1ステップとして、第1オートフェーシングの実行レシピを、上下定盤11、12の表面形状の変化に基づいて設定する。
【0087】
なお、この第1オートフェーシングの実行レシピは、具体的には、研磨パッド11a、12aが基礎パッド形状から必要パッド形状に変形する際の遷移的な目標パッド形状と実パッド形状との差分を補正する実行レシピである。そのため、ステップS8の処理へと進み、第1オートフェーシングの実行レシピに従って第1オートフェーシングを実行することで、基礎パッド形状から必要パッド形状に変形する間の遷移的な目標パッド形状となるように研磨パッド11a、12aを形状補正することができる。つまり、フェーシング装置1では、第2ステップとして、第1オートフェーシングの実行レシピに基づいて、ワークの研磨開始から定盤温度が安定するまでの間、第1オートフェーシングを行う。
【0088】
そして、ステップS9、ステップS10の処理が実行され、第1オートフェーシングの終了が判断されたら、上下定盤11、12の温度が安定したか否かが判断される。そして、定盤温度が安定していないと判断された場合には、ステップS5の処理へ戻り、定盤温度が安定するまでワークの研磨加工と第1オートフェーシングの実行とが繰り返される。
【0089】
このように、実施例1のフェーシング装置1では、レシピ設定部5によって、上下定盤11、12の表面形状の変化に基づいて第1オートフェーシングの実行レシピを設定する(第1ステップ)。そして、ワークの研磨加工を開始してから上下定盤11、12の温度が安定するまでの間、第1オートフェーシングの実行レシピに基づいて、制御部4により駆動機構3を制御して第1オートフェーシングを行う。
【0090】
そのため、ワークの研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間、研磨パッド11a、12aの表面形状を、熱による変化の影響によって生じる上下定盤11、12の形状変化に追従した適切な形状に補正することが可能となる。これにより、
図5において実線で示すように、時刻t0時点から研磨加工を開始し、時刻t1時点で定盤温度が安定するまでの間に生じる高精度研磨のためのパッドを介した理想的な定盤圧力分布の最適値からの乖離を早期に補正し、抑制することができる。この結果、ワークの研磨加工の開始から定盤温度が安定するまでの間に行なわれるワークの高精度研磨加工の歩留まりを向上させることができる。
【0091】
さらに、この実施例1のフェーシング装置1による両面研磨機10の研磨パッド11a、12aのフェーシング処理では、上下定盤11、12の温度が安定したと判断された場合、
図3Bに示すフローチャートにおいて、ステップS11、ステップS12の処理を実行し、両面研磨機10においてワークの研磨加工を行い、研磨加工が終了したか否かが判断される。ワークの研磨加工が終了したと判断された場合には、ステップS13の処理が行われ、バッチ数とワークの研磨状態の推移が監視される。
【0092】
そして、ステップS14の処理へと進み、バッチ数及びワークの研磨状態の推移から、研磨パッド11a、12aのメンテナンスがオートドレッシングで対応が可能か否かを判断される。オートドレッシングによってパッドメンテナンスが可能であれば、ステップS15、ステップS16、ステップS17の処理を実行し、定盤温度安定時の研磨パッド11a、12aの状態に基づいてオートドレッシングの実行レシピを設定し、この実行レシピに従ってオートドレッシングを実行する。そして、オートドレッシングが終了し、研磨パッド11a、12aの全面を均等に目立てされたら、ステップS11へ戻り、ワークの研磨加工とバッチ数及びワークの研磨状態の推移の監視が繰り返される。
【0093】
一方、オートドレッシングによるパッドメンテナンスが不可能であれば、ステップS18へと進み、バッチ数及びワークの研磨状態の推移から、研磨パッド11a、12aのメンテナンスが第2オートフェーシングで対応が可能か否かを判断される。第2オートフェーシングによってパッドメンテナンスが可能であれば、ステップS19の処理が行われ、第2オートフェーシングの実行レシピがレシピ設定部5によって設定される。
【0094】
ここで、第2オートフェーシングの実行レシピは、上下定盤11、12の温度安定後のワークの研磨環境の変化に基づいて設定され、具体的には、ワークの研磨環境の変化の影響を抑制し、目標パッド形状・状態と実パッド形状・状態との差分を補正する実行レシピである。すなわち、フェーシング装置1では、第3ステップとして、第2オートフェーシングの実行レシピを、上下定盤11、12の温度安定後のワークの研磨環境の変化に基づいて設定する。
【0095】
そして、ステップS20へと進み、第2オートフェーシングの実行レシピに従って第2オートフェーシングを実行する。つまり、フェーシング装置1では、第4ステップとして、第2オートフェーシングの実行レシピに基づいて、上下定盤11、12の温度安定後に、第2オートフェーシングによってパッドメンテナンスが可能との条件が成立したと判断したとき、第2オートフェーシングを行う。
【0096】
この結果、ワークの研磨環境の変化を抑制或いは緩和する目標パッド形状・状態となるように研磨パッド11a、12aの形状・状態が補正され、ワークの研磨環境の変化の影響をコントロールすることができる。
【0097】
そして、ステップS21の処理が実行され、第2オートフェーシングの終了が判断された場合には、ステップS11の処理へ戻り、ワークの研磨加工とバッチ数及びワークの研磨状態の推移の監視が繰り返される。
【0098】
一方、ステップS18において、第2オートフェーシングによるパッドメンテナンスも不可能であると判断された場合には、ステップS22へと進み、バッチ数及びワークの研磨状態の推移から、研磨パッド11a、12aのメンテナンスが第2基礎フェーシングで対応が可能か否かを判断される。第2基礎フェーシングによってパッドメンテナンスが可能であれば、ステップS23、ステップS24の処理を実行し、第2基礎フェーシング前の研磨パッド11a、12aの状態から第2基礎フェーシングの実行レシピを設定し、この実行レシピに従って第2基礎フェーシングを実行する。そして、第2基礎フェーシングが終了し、第2基礎パッド形状が創生されたらステップS5へ戻り、ワークの研磨加工が繰り返される。なお、第2基礎フェーシングが実行された場合には定盤温度は下がっている。そのため、第2基礎フェーシングの実行後、定盤温度が安定するまでの間は、所定間隔で第1オートフェーシングを実行する。
【0099】
また、ステップS22において、第2基礎フェーシングを行っても研磨パッド11a、12aのメンテナンスが対応不可能であると判断した場合には、ステップS26、ステップS27、ステップS28の処理を順に実行する。すなわち、研磨パッド11a、12aの使用寿命(パッドライフ)に到達したと判断した上で、パッドライフの異常の有無を判断する。そして、パッドライフに異常があると判断した場合には、ステップS29の処理を実行し、パッドライフ異常の原因を推定して、パッドライフに異常が生じないよう適切な対応を行う。
【0100】
このように、実施例1のフェーシング装置1では、上下定盤11、12の温度が安定した後、オートドレッシングではパッドメンテナンスが不可能であると判断されたとき、つまり所定条件の成立を判断したときには、定盤温度安定後のワークの研磨環境の変化に基づいて第2オートフェーシングの実行レシピを設定し、第2オートフェーシングを行う。また、この第2オートフェーシングではパッドメンテナンスが不可能であると判断されたときに、第2基礎フェーシングの実行レシピを設定し、第2基礎フェーシングを行う。すなわち、実施例1のフェーシング装置1では、第2基礎フェーシングによるパッドメンテナンスを実行する前に、第2オートフェーシングによるパッドメンテナンスを行う。
【0101】
これに対し、比較例のドレッシング装置では、
図4のフローチャートに示すように、オートドレッシングを行うことではパッドメンテナンスが不可能であると判断した場合には、第2基礎フェーシングによるパッドメンテナンスを実行し、第2オートフェーシングは行わない。このため、
図6Aに示すように、比較例のドレッシング装置では、時刻t12、時刻t14、時刻t16時点で第2基礎フェーシングを実行することでパッド形状の創生を行い、研磨パッド状態を回復しても、時刻t18時点でパッド状態の回復を図ることができなくなり、理想パッド状態からの乖離度合いが大きくなってパッドライフ到達と判断されるレベルに達する。
【0102】
これに対し、実施例1のフェーシング装置1は、第2基礎フェーシングの実行前に第2オートフェーシングを行う。すなわち、
図6Bに示すように、時刻t15、時刻t20時点で第2基礎フェーシングを実行する一方、時刻t11、時刻t12、時刻t13、時刻t16、時刻t17、時刻t19時点でそれぞれ第2オートフェーシングを実行する。これにより、実施例1のフェーシング装置1では、理想パッド状態からの乖離度合いを長期間にわたって許容範囲内に抑制することができ、研磨パッド11a、12aの使用寿命を時刻t21時点まで延ばすことができる。さらに、研磨パッド11a、12aの長寿命化により、パッド張替えに伴うダウンタイムの低減が可能となる。よって、実施例1のフェーシング装置1は、ワークの高精度加工の歩留まりを向上させるだけでなく、ワークの高精度加工の生産性の向上も図ることができる。
【0103】
しかも、研磨パッド11a、12aを長寿命化することで、比較例のドレッシング装置と比べて、基礎フェーシングの回数を低減させることができる。基礎フェーシングでは、リング状等のフェーシング部材の着脱が必要であるが、基礎フェーシングの回数低減により、フェーシング部材の着脱回数を減らすことができる。この結果、フェーシング部材の着脱に要する時間を短縮し、ワークの生産性の向上をさらに図ることができる。
【0104】
そして、この実施例1では、制御部4による、第2オートフェーシングでパッドメンテナンスが可能であるとの判断、すなわち定盤温度安定後の所定条件の成立の判断を、ワークの研磨状態の推移に基づいて行っている。これにより、パッドメンテナンスをどのように行うか(オートドレッシングで行うのか、第2オートフェーシングで行うのか、第2基礎フェーシングで行うのか)を判断する際、ワークの研磨加工の精度に応じて判断することができる。そのため、適切なパッドメンテナンスを行うことが可能となって、ワークの高精度研磨加工の歩留まり向上をさらに図ることができる。さらに、制御部4では、定盤温度安定後の所定条件の成立の判断を、ワークの研磨状態の推移に基づいて自動的に行っている。このため、判断経験数が多いほどより正確な判断を行うことができ、さらに適切なパッドメンテナンスを実行することが可能となる。なお、この所定条件の成立判断は、オペレータによって行ってもよく、その場合には情報入力手段18を介して条件成立の有無を入力する。
【0105】
そして、実施例1のフェーシング装置1は、フェーシングヘッド2を移動させる駆動機構3が、先端部31aにフェーシングヘッド2が固定され、基端部31bが揺動可能に支持された第1アーム31と、先端部32aがフェーシングヘッド2に回転可能に連結され、基端部32bが所定方向に沿って進退移動可能な軸部材35に回転可能に支持された第2アーム32と、第1アーム31を揺動させる回転モータ33と、を備えている。
【0106】
そのため、フェーシング部材22が設けられたフェーシングヘッド2は、第1アーム31と第2アーム32によって支持される。これにより、上下定盤11、12の間でフェーシングヘッド2を安定的に保持することができ、フェーシングの実行レシピに応じて研磨パッド11a、12aの必要な部分を適切にフェーシングすることができる。
【0107】
なお、フェーシング時間の短縮のため、フェーシングヘッド2は、下定盤11に貼り付けられた研磨パッド11aと、上定盤12に貼り付けられた研磨パッド12aの双方に接触したまま移動することが望ましい。また、この場合には、下定盤11に対するフェーシング部材22の押圧量と、上定盤12に対するフェーシング部材22の押圧量とを個別に調整し、上下定盤11、12の回転数もそれぞれフェーシングの実行レシピに基づいて個別に制御する必要がある。しかしながら、必ずしも上下の研磨パッド11a、12aを同時にフェーシングする必要はなく、研磨パッド11a、12aを片方ずつフェーシングしてもよいし、いずれか一方のみのフェーシングを行ってもよい。
【0108】
以上、本発明のフェーシング装置及びフェーシング方法を実施例1に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0109】
実施例1のフェーシング装置1は、駆動機構3が第1アーム31と、第2アーム32と、回転モータ33と、を備えた例を示した。しかしながら、フェーシングヘッド2を安定的に保持することができればよいためこれに限らない。例えば、
図7に示す駆動機構6のように、リニアガイド61と、直動アクチュエータ62と、を備えたものであってもよい。
【0110】
ここで、リニアガイド61及び直動アクチュエータ62は、帯板状の機構支持プレート63に載置されている。機構支持プレート63は、長手方向の一端部が、下定盤11の外側に設置されたシリンダ64に支持されている。このシリンダ64は、上下動及び回転可能であり、シリンダ64が上下動することで、機構支持プレート63が上下方向に移動して下定盤11と上定盤12の間に配置される。また、シリンダ64が回転することで、機構支持プレート63の長手方向の他端部が円弧状に移動して下定盤11と上定盤12の間に入れ込まれる。なお、機構支持プレート63の長手方向の他端部には、固定部63aが形成されている。この固定部63aは、機構支持プレート63が上下定盤11、12の間に入れ込まれた際、下定盤11の中心に設けられた環状のサンギヤ部11bに固定される。
【0111】
リニアガイド61は、一対の直線レール部材61aと、フェーシングヘッド2を支持すると共に、直線レール部材61aに沿って摺動する支持部材61bと、を有している。また、直動アクチュエータ62は、支持部材61bに推進力を付与するアクチュエータであり、ここでは、一対の直線レール部材61aと同方向に延びるボールねじ62aと、ボールねじ62aを回転させるモータ62bと、を有している。支持部材61bは、ボールねじ62aに螺合している。
【0112】
そして、モータ62bによってボールねじ62aを回転させることで、支持部材61bが一対の直線レール部材61aに沿って移動し、この支持部材61bに支持されたフェーシングヘッド2が上下定盤11、12の径方向に移動する。この駆動機構6であっても、上下定盤11、12の間でフェーシングヘッド2を安定的に保持することができ、フェーシングの実行レシピに応じて研磨パッド11a、12aの必要な部分を適切にフェーシングすることができる。
【0113】
さらに、駆動機構は、フェーシング部材22を有するフェーシングヘッド2を安定的に支持することができればよいため、実施例1や上記変形例に限らない。例えば、フェーシングヘッド2を第1アーム31の先端部31aに固定し、いわゆる片持ち状態で支持することもできる。また、フェーシングヘッド2から高圧洗浄水や圧縮空気等の高圧流体を上下定盤11、12に向けて同時に噴射してもよく、噴射した高圧流体によってフェーシングヘッド2を安定させてもよい。
【0114】
また、実施例1のフェーシング装置1では、共通のフェーシングヘッド2を使用してフェーシングとドレッシングを行う例を示したが、これに限らない。例えば、駆動機構のアームを共用し、フェーシングに使用する専用のヘッドと、ドレッシングに使用する専用のヘッドを付け替える構成にしてもよい。また、フェーシング用の専用装置とドレッシング用の専用装置をそれぞれ一台以上備え、必要に応じて使い分けてもよい。
【0115】
また、実施例1のフェーシング装置1では、フェーシングヘッド2を第1アーム31と第2アーム32とで支持する例を示したが、これに限らない。ヘッドの支持は、複数のアームによる両持ちであってもよいし、単独アームによる片持ちであってもよい。
【0116】
また、実施例1のフェーシング装置1では、第1オートフェーシングや第2オートフェーシング等の各種フェーシング及びドレッシングの実行レシピを設定するレシピ設定部5を有する例を示した。しかしながら、これに限らず、例えば研磨パッド11a、12aの表面形状・状態の変化を両面研磨機10のオペレータに表示し、この表示を確認したオペレータが第1オートフェーシングの実行レシピを制御部4に入力してもよい。また、定盤温度安定後のワークの研磨環境の変化についても両面研磨機10のオペレータに表示し、この表示を確認したオペレータが第2オートフェーシングの実行レシピを制御部4に入力してもよい。つまり、実行レシピの設定は、必ずしも自動的に行う必要はない。また、レシピ設定部5によって実行レシピを推奨し、推奨された実行レシピを参考にしてオペレータが手動によって各種のフェーシング及びドレッシングの実行レシピを設定してもよい。
【0117】
また、実施例1では、両面研磨機10における下定盤11と上定盤12との表面間距離を測定し、ワークの研磨状態と定盤間距離との相関に基づいて「所定条件」の成立を判断してもよいとした。しかしながら、ワークを研磨加工する研磨機は、ワークの片面のみを研磨する片面研磨機であってもよい。
【0118】
さらに、オートドレッシングや第2オートフェーシングは、バッチ数やワークの研磨状態に応じて実行しなくてもよい。例えば、両面研磨機10による研磨加工の条件や、スラリ等の副資材の条件等が定型化している場合には、オートドレッシングや第2オートフェーシングを所定の頻度管理や順序によって行うことも可能である。
【0119】
また、実施例1のフェーシング装置1では、ワーク研磨の1バッチ目の実行中に定盤温度が安定しないときには、1バッチ目から定盤温度が安定するまでの数バッチ間の間、第1オートフェーシングを実行する。つまり、第1オートフェーシングは、バッチ数に拘らず、ワークの研磨を開始してから定盤温度が安定するまでの間に実行される。
【符号の説明】
【0120】
1 フェーシング装置
2 フェーシングヘッド
22 フェーシング部材
3 駆動機構
31 第1アーム
32 第2アーム
33 回転モータ(揺動アクチュエータ)
34 回転軸
35 軸部材
4 制御部
5 レシピ設定部
10 両面研磨機
11 下定盤
11a 研磨パッド
12 上定盤
12a 研磨パッド