IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人公立鳥取環境大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】軟化ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/26 20060101AFI20230523BHJP
   C08C 19/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C08J11/26 ZAB
C08C19/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021163025
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2023053784
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521010333
【氏名又は名称】公立大学法人公立鳥取環境大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-034028(JP,A)
【文献】特開2006-070127(JP,A)
【文献】特表2002-526606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させて、フェントン反応によらずに軟化したゴムを製造する方法であり、
前記不飽和脂肪酸を含有する液体は、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸と、水とを含有する軟化ゴムの製造方法。
【請求項2】
不飽和脂肪酸を含有する液体は、水を50容量%以上含有する請求項に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項3】
加硫ゴムは、厚さが1mm以上である請求項1又は2に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項4】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させる温度は、常温である請求項1ないしのいずれかに記載の軟化ゴムの製造方法
【請求項5】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させる時間は、1~240分である請求項1ないしのいずれかに記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項6】
不飽和脂肪酸を含有する液体は、水に可溶な有機溶媒と界面活性剤とを含有する請求項2ないしのいずれかに記載の軟化ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟化させたゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、脂質過酸化反応を利用して、加硫ゴムを分解して、液状のゴムを得る方法が記載されている。具体的には、過酸化水素0.2mMと、硫酸第一鉄1mMと、リノール酸5mMと、緩衝剤15mMと、非イオン系界面活性剤0.01mMとを含有する反応液100mlに対して、ラテックス製のゴム手袋0.1gを浸漬し、37℃で24時間、撹拌することにより、ゴムを分解するとされている。その後、ゴムの分解により得られた飯能駅に所定の処理を施して、ゴム成分を回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-153272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は、過酸化水素と硫酸第一鉄に由来する2価の鉄イオンとによるフェントン反応を生じさせて、水酸化ラジカルを生じさせるとされている。水酸化ラジカルは、開始剤として働き、脂質ラジカル類を生じさせるとされている。脂質ラジカル類は、加硫ゴムをラジカル化させて、加硫ゴムラジカルを生じさせるとされている。加硫ゴムラジカルは、酸化されて、一部がβ開裂を起こすとされている。また、加硫ゴムの二重結合部位が、脂質ラジカル類の攻撃を受けて、β開裂することで、分解するとされている。つまり、引用文献1の方法では、過酸化水素と2価の鉄イオンとがゴムの軟化には必須である。
【0005】
特許文献1の方法は、フェントン反応を生じさせる目的で、過酸化水素と、硫酸第一鉄などの2価の鉄イオンを含む塩と、リノール酸と、緩衝剤と、非イオン系界面活性剤とを配合して、反応液としてしようするものあり、反応液の準備が煩雑であった。特に大規模で反応を行う場合は、より煩雑になる。
【0006】
本発明は、過酸化水素及び2価の鉄イオンによって生じるフェントン反応を利用せずに、特定の脂肪酸を含む液体を利用することにより、軟化した加硫ゴムを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させて、フェントン反応によらずに軟化したゴムを製造する方法であり、前記不飽和脂肪酸を含有する液体は、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有する軟化ゴムの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0008】
上記の軟化ゴムの製造方法において、不飽和脂肪酸を含有する液体は、水を含有することが好ましい。水の含有量は、50容量%以上であることが好ましい。
【0009】
上記の軟化ゴムの製造方法においては、軟化させることができる加硫ゴムはゴム手袋のような薄手のゴムシートに限定されず、加硫ゴムは、例えば、厚さが1m以上のものにすることができる。
【0010】
上記の軟化ゴムの製造方法において、加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させる温度は、常温にすることができる。
【0011】
上記の軟化ゴムの製造方法において、加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させる時間は、1~240分にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過酸化水素、及び2価の鉄イオンを含む塩を利用せずに、特定の脂肪酸を含む液体を利用することにより、軟化した加硫ゴムを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の軟化ゴムを実施するための形態について説明する。
【0014】
本発明は、加硫ゴムと、不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させて、フェントン反応によらずに軟化したゴムを製造する方法である。
【0015】
前記不飽和脂肪酸を含有する液体は、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有するものを使用する。
【0016】
前記不飽和脂肪酸としては、二重結合を1つ以上有するものであればよく、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選ばれる1種以上の不飽和脂肪酸が挙げられる。二重結合の数の上限値は、特に限定されないが、例えば、6以下にすることができるし、4以下にすることができる。炭素数は特に限定されないが、例えば14~24個、又は18~20個にすることができる。なお、リノレン酸には、α-リノレン酸とγ-リノレン酸とが含まれる。
【0017】
加硫ゴムとしては、天然ゴム(NR)、又は、合成ゴムを使用することができる。天然ゴムと合成ゴムとは、単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。合成ゴムは、特に限定されないが、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)及びブタジエンゴム(BR)からなる群より選ばれる1種以上の合成ゴムが挙げられる。これらの天然ゴム、又は合成ゴムは、公知のものを使用することができる。加硫ゴムは、架橋反応により、流動性を低下させたものである。硫黄、マグネシウムなどの金属酸化物、セレン、テルル、又は有機酸化物などの公知の架橋剤で加硫したものを使用することができる。
【0018】
加硫ゴムは、カーボンブラック、若しくは炭酸カルシウムなどの充填材、公知の加硫促進剤、公知の老化防止剤、公知の可塑剤などの添加物が配合されたものであってもよい。添加物が配合された加硫ゴムでも軟化させることができるので、対象とする加硫ゴムは、タイヤ、靴底、緩衝材などの廃材であってもよい。
【0019】
処理する加硫ゴムの形状は、特に限定されない。ゴム手袋のように厚みが0.1mm未満の薄手の加硫ゴムのシートを軟化させることもできるし、厚みが1.0mm以上の厚手の加硫ゴムのシートなども軟化させることができる。ゴムの厚みの上限値は、特に限定されないが、例えば、12.0mm以下であってもよいし、7.0mm以下であってもよいし、3.0mm以下であってもよい。加硫ゴムの形状は、フィルム状、シート状に限定されず、ゴムチップなどの粒状物、ゴムマットなど扁平物など、ゴムを主成分とする種々の形状を有する成形品が対象となる。なお、加硫ゴムの形状がシート状でない、例えば、粒状物の場合は、粒子が最大径となる部位を上記の厚みとして考えればよい。
【0020】
不飽和脂肪酸を含有する液体は、不飽和脂肪酸以外に、水を含有するものであることが好ましい。水の含量は、限定されないが、例えば、50容量%以上であってもよいし、80容量%以上であってもよい。水の含量の上限は、限定されないが、例えば、99.8容量%以下とすることができる。水は安価に調達することが可能であるので、不飽和脂肪酸を含有する液体を簡単に調製することが可能である。また、水の使用量を増大させれば、不飽和脂肪酸の使用量を減じることができるので、安価に不飽和脂肪酸を含有する液体を得ることができる。また、後述するように、不飽和脂肪酸の濃度を過度に大きくしても加硫ゴムを軟化させる効果は飽和する傾向にある。不飽和脂肪酸の量を減じて水を増やせばコストの点で効率的であるし、液体の粘性が低下して扱いやすくなる。
【0021】
不飽和脂肪酸を含有する液体中の不飽和脂肪酸の濃度は、加硫ゴムの形状によって適宜変更する。すなわち、加硫ゴムの厚みが大きいときは、前記液体中に含まれる不飽和脂肪酸の濃度を大きくする。反対に、加硫ゴムの厚みが大きいときは、前記液体中に含まれる不飽和脂肪酸の濃度を大きくする。前記液体に含まれる不飽和脂肪酸の濃度を過度に大きくしても、加硫ゴムを軟化させる効果は飽和する傾向にある。このため、前記液体中における不飽和脂肪酸の濃度は、1500mM以下にすることが好ましい。前記液体中における不飽和脂肪酸の下限値は、上述の通り、加硫ゴムの形状によって選択すればよいが、50mM以上であれば、種々の厚みの加硫ゴムを効率的に軟化させることができる。下流ゴムの厚みが薄ければ、4.0mM以上で下流ゴムを軟化させることができる。前記液体中における不飽和脂肪酸の下限値は、150mM以上であればより好ましく、250mM以上であればより好ましい。
【0022】
不飽和脂肪酸を含有する液体は、有機溶媒、及び界面活性剤を含有してもよい。アセトン、及び界面活性剤を含有させることで、加硫ゴムの軟化を促進し、加硫ゴムを軟化させるのに要する時間を短くすることができる。
【0023】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの水に対して可溶な有機溶媒を使用することが好ましい。前記界面活性剤としては、ラウリル硫酸アンモニウムなどの陰イオン系界面活性剤を好適に使用することができる。有機溶媒、及び界面活性剤を添加する場合、例えば、有機溶媒が1.30~4.1Mとなるようにし、界面活性剤が0.7~1.4mMとなるようにすることができる。
【0024】
不飽和脂肪酸を含有する液体は、フェントン反応によって、加硫ゴムを分解するものではない。フェントン反応を利用しているかどうかは、不飽和脂肪酸を含有する液体が2価の鉄イオンと過酸化水素との両方を含有しているか、そうでないかによって判断することができる。過酸化水素を含有し、かつ2価の鉄イオンを不純物として許容される濃度を越えて含有する場合は、フェントン反応を利用していると判断することができる。過酸化水素を含有していない、又は2価の鉄イオンを含有していない、若しくは不純物として許容できる濃度の2価の鉄イオンしか含有していない場合は、フェントン反応を利用していないと判断することができる。
【0025】
上述のゴムの軟化方法は、フェントン反応を利用するものではないので、原則として、鉄イオンを発生させる鉄分、及び過酸化水素を含有する必要はない。また、緩衝剤(バッファー液)も必要ない。しかし、水道水、又は工業用水には、鉄分が不純物として、0~0.3mg/L含まれることがある。不純物として含まれる鉄分は、除去せずに、そのまま使用してもよい。例えば、前記液体の溶媒として、蒸留、イオン交換、又は限外濾過など操作を経た水、又は鉄を0~0.3mg/Lの範囲内で含有する工水若しくは水道水を使用することができる。なお、2価の鉄イオンは、空気に曝されることで3価の鉄イオンとなる。鉄の含量は、2価の鉄イオンと3価の鉄イオンとの合計とする。
【0026】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸とを接触させて加硫ゴムを軟化させる際の温度は特に限定されず、加熱してもよいし、加熱を伴わない常温としてもよい。常温であれば、加熱に要するエネルギーと工数を省略することができるので好ましい。
【0027】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸とを接触させる時間は特に限定されないが、長時間接触させてもゴムを軟化させる効果は頭打ちになる。効率を重視すると、1~240分であることが好ましい。接触させる時間の上限値は、180分であることがより好ましい。
【0028】
必須ではないが、加硫ゴムと、不飽和脂肪酸とを接触させる前に、加硫ゴムをエタノール若しくはメタノールなどの有機溶媒に接触させたり、加硫ゴムを界面活性剤に接触させたりする前処理を実施してもよい。
【0029】
上記の軟化ゴムの製造方法によれば、当該製造方法を実施する前の加硫ゴムに比して、軟化した固形のゴムを得ることができる。特定の不飽和脂肪酸を含有する液体と加硫ゴムとを接触させることによって、加硫ゴムが軟化する詳細な機構は不明であるが、加硫によるゴムの架橋構造が特定の不飽和脂肪酸によって切断されることよるものと推測される。
【実施例
【0030】
以下、本発明の実施例を挙げて説明する。以下に示す実施例は、本発明の一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施例に限定されるものではない。
【0031】
[不飽和脂肪酸の濃度についての検証]
iteck co., ltd製の厚さ1.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。上記のゴムシートは、加硫されたものであり、質量基準で、ポリマー成分を35.2%含有し、炭酸カルシウムを45.4%含有し、カーボンブラックを16.6%含有し、微量成分として有機物と無機物とを2.8%含有する。ポリマー成分は、天然ゴムが主成分であり、わずかにSBRを含有する。以下の表1に記載の各濃度のリノール酸を含有する液体に上記試験片を浸漬して100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、25℃で24時間にわたって振盪した。振盪後、液分を拭いて、試験片を以下の引張試験に供した。
【0032】
各濃度のリノール酸を含有する液体の組成と、ゴムシートを引張して試験片が破断した際における試験片の伸び率(破断伸び率)と、試験片が破断した際の応力値(引張強度)と、試験片の軟らかさを示す指標である300%モジュラス(M300)と、リノール酸の濃度(mM)とを以下の表1に示す。なお、リノール酸は富士フィルム和光純薬社製一級試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。リノール酸を含有する液体に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。
【0033】
なお、上記のゴムシートの引張試験は、以下の試験方法により実施した。引張試験は、IMADA社製の電動計測スタンド(縦型)(MX2-500N)に、IMADA社製のデジタルフォースゲージ(ZTA-500N)を取り付け、前記スタンドと前記デジタルフォースゲージにクランプを取りつけて、クランプで試験片を保持して、以下の条件で引張試験を実施した。引張速度は、1mm/秒とした。なお、クランプは、IMADA社製のローレットカム式アタッチメント(GP-15/30)を使用した。
【0034】
引張試験で使用した、ダンベル形の試験片は、上述の通り、7号試験片打抜刃で切り出した。当該試験片の両端の幅広部の幅は6.0mmであり、両端の幅広部の長さは7.0mmであり、両端の幅広部を連結する細幅部の幅は2.0mmであり、前記細幅部の長さは10.0mmである。試験片の厚みは、ゴムシートの厚みと等しい。前記細幅部と前記幅広部との境界線をクランプで固定した。引張試験開始時のクランプ間の距離は10.0mmである。
【0035】
破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)は次式により求めた。
【0036】
破断伸び率(%)=試験片破断時におけるクランプ間の距離÷引張開始前のクランプ間の距離×100
【0037】
引張強度(MPa)=試験片破断時における荷重(N)÷試験片の断面積(m2)×1/106
【0038】
300(MPa)=試験片が300%伸長した際における荷重(N)÷試験片の断面積×(m2)×1/106
【0039】
【表1】
【0040】
iteck co., ltd製の厚さ2.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。以下の表2に記載の各濃度のリノール酸を含有する液体に上記試験片を浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、25℃で、24時間にわたって振盪した。リノール酸及び水は、上記同様のものを使用した。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表2に示す。なお、上記のゴムシートの組成は上記のゴムシート同様であり、厚みが異なる。
【0041】
【表2】
【0042】
表1及び表2に示したように、ゴムシートの厚みが1.0~2.0mmの場合は、リノール酸の濃度が5.64mM以上とした試験例において、コントロールに比して、破断伸び率、引張強さ、及び300%モジュラスの値が明らかに低下した。このことから、リノール酸と加硫されたゴムとを接触させることにより、ゴムが軟化していることがわかる。
【0043】
[脂肪酸の種類についての検証]
脂肪酸の種類がゴムの軟化に与える影響を調べる目的で以下の実験を実施した。表2の試験で使用したのと同様のiteck co., ltd製の厚さ2.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。以下の表3に記載の各種脂肪酸を含有する液体に上記試験片を浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、25℃で、24時にわたって振盪した。なお、オレイン酸は富士フィルム和光純薬社製の一級試薬を使用し、リノレン酸は富士フィルム和光純薬社製の一級試薬を使用し、アラキドン酸は東京化成工業社の純度98%以上の試薬を使用し、リノール酸と水は上記と同じものを使用した。漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3に示したように、各濃度、各種の二重結合が1つ以上の不飽和脂肪酸において、コントロールに比して、破断伸び率、引張強さ、及び300%モジュラスの値が有意に低下した。このことから、リノール酸以外の二重結合が一つ以上不飽和脂肪酸と加硫されたゴムとを接触させることにより、ゴムが軟化することがわかる。
【0046】
表2の試験で使用したのと同様のiteck co., ltd製の厚さ2.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。以下の表4に記載の各濃度のステアリン酸を含有する液体に上記試験片を浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、25℃で、24時間にわたって振盪した。なお、ステアリン酸(植物由来)は富士フィルム和光純薬社製の特級試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示したように、飽和脂肪酸とゴムとを接触させた場合は、コントロールに比して、破断伸び率、引張強さ、及び300%モジュラスの値に低下は見られなかった。
【0049】
[添加剤と反応時間についての検証]
不飽和脂肪酸を含有する液体に添加剤として界面活性剤と有機溶媒とを添加した際におけるゴムの軟化と、反応時間とを調べる目的で以下の実験を実施した。
【0050】
EPDMを主成分とする厚さ1.0mmの加硫済みのゴムシートを、リノール酸を含有する液体に浸漬して100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、50℃で24時間にわたって振盪した。浸漬開始後0時間から24時間後における各タイムポイントにおけるゴムシートの物性を評価した。比較のために、EPDMを主成分とする厚さ2.0mmのゴムシートを、リノール酸と有機溶媒であるアセトンとアニオン界面活性剤であるラウリル硫酸アンモニウムとを含有する液体に浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、50℃で24時間にわたって振盪し、浸漬開始後0時間から24時間後における各タイムポイントにおけるゴムシートの物性を評価した。アセトンの濃度は、1.35Mであり、界面活性剤であるラウリル硫酸アンモニウムの濃度は1.08mMとした。また、リノール酸は上記と同様の試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。
【0051】
ゴムシートの物性評価は、上記と同様の方法により、引張強度と破断伸び率と300%モジュラスとを求めた。物性評価の結果を、タイムポイントごとに表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表5の結果から、不飽和脂肪酸を含有する液体に有機溶媒と界面活性剤とを含有させた液体と加硫ゴムとを接触させた場合、加硫ゴムの軟化が促進される傾向が観察された。また、反応時間は加硫ゴムと不飽和脂肪酸を含有する液体とを接触させてから3時間程度で軟化の効果が飽和することが観察された。
【0054】
[反応温度の検証]
不飽和脂肪酸を含有する液体とゴムシートと接触する際における温度(反応温度)とゴムシートの軟化の程度との関係を調べる目的で以下の実験を実施した。
【0055】
表1の試験で使用したのと同様の組成を有するiteck co. ltd.製の厚さ1.0mmのゴムシートを、リノール酸を含有する液体に浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、24時間にわたって振盪し、ゴムシートの物性を評価した。反応温度は、30℃、50℃、70℃、120℃の3点とした。リノール酸の濃度及び、反応時間は表6に記載の通りにした。反応時間は、目標温度に到達した後における時間の長さである。なお、リノール酸は、上記と同様の試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。反応温度は、30℃、50℃、又は70℃については、所定の温度に設定したウォーターバスにより、リノール酸を含む液体の温度が30℃、50℃、又は70℃になるようにした。120℃については、オートクレーブを利用して加圧及び加熱し、120℃の温度が20分間維持されるようにした。
【0056】
ゴムシートの物性評価は、上記と同様の方法により、引張強度と破断伸び率と300%モジュラスとを求めた。物性評価の結果を、反応温度ごとに表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
表6の結果から、加硫ゴムと不飽和脂肪酸を含有する液体と接触させて反応させるときの温度を変化させてもゴムの軟化の程度には大きな影響は生じなかった。加熱したり冷却したりする手間、エネルギーを考慮すると、加熱や冷却を伴わない常温が効率的である。
【0059】
[ゴムの厚みの検証]
次に、ゴムの厚みとゴムの軟化との関係について検証する目的で以下の実験を実施した。
【0060】
表1の試験で使用したゴムシート同様の組成であり、厚みが異なるiteck co. ltd.製の厚さ3.0mmのゴムシートを、リノール酸を含有する液体に浸漬し、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、24時間にわたって振盪した。浸漬後のゴムシートの物性を評価した。反応温度は、常温とした。リノール酸の濃度は、0.2容量%、1容量%、10容量%、又は20容量%とした。なお、リノール酸は、上記と同様の試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。
【0061】
ゴムシートの物性評価は、上記と同様の方法により、引張強度と破断伸び率と300%モジュラスとを求めた。物性評価の結果を、反応温度ごとに表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
表7の結果から、リノール酸の濃度を高めれば、厚みのあるゴムでも軟化しやすくなることが観察された。
【0064】
次に、表1の試験で使用したゴムシート同様の組成であり、厚みが異なるiteck co. ltd.製の厚さ5.0mmのゴムシートを、リノール酸を含有する液体に浸漬して、100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、50℃で24時間にわたって振盪し、ゴムシートの物性を評価した。リノール酸の濃度は、0.2容量%、1容量%、10容量%、又は20容量%とした。なお、リノール酸は、上記と同様の試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。
【0065】
ゴムシートの厚みが大きいため引張試験機に適合せず、引張試験を実施することができなかったため、ゴムシートの外観により、評価を実施した。リノール酸の濃度を10容量%(282mM)とした場合は、浸漬したゴムシートが膨潤して湾曲していた。リノール酸の濃度を20容量%(564mM)とした場合は、浸漬したゴムシートが膨潤してより大きく湾曲していた。ゴムシートの膨潤と湾曲と軟化の程度には相関があり、膨潤の程度と湾曲の程度が大きいほど、軟化の程度が大きくなる。リノール酸の濃度が10容量%以上とした試験片では、試験片が膨潤し湾曲していることから、試験片の軟化が進行しているといえる。
【0066】
[比較例]
表1に記載したコントロール、試験例1ないし4で使用したのと同様のゴムの試験片を使用して、ゴムの試験片を表8に記載の組成を有する反応液を浸漬して100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、25℃で20時間にわたって振盪した。
【0067】
反応後の試験片について、上記と同様の方法により、破断伸び率と、引張強度と、300%モジュラスとを測定した。測定結果を表8に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
表8に示したように、フェントン反応を利用した比較例1の方法では、加硫ゴムの軟化は観察されたものの、反応液に硫酸第一鉄、過酸化水素、緩衝液、界面活性剤を配合する必要があり、煩雑であった。工業的に大規模な反応を行う場合は、反応液の調製が極めて煩雑であるし、pHを一定に保つ仕組みが必要であり極めて煩雑である。本発明の方法では、過酸化水素、2価の鉄イオン、緩衝液などは必須ではなく、反応液の調製が簡単であり、反応の大規模化が容易である。また、過酸化水素は、生体毒であり、特定の条件下で急激に分解反応が進行し、爆発を起こすといった危険性があり、排水の処理には注意が必要である。本発明の方法では、過酸化水素は必須ではなく、安全性が高い。