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特許7283798単一粒子解析方法およびその解析のためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】単一粒子解析方法およびその解析のためのシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20230523BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230523BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230523BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230523BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20230523BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230523BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230523BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20230523BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
G01N35/08 A
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12Q1/686 Z
G01N15/14 C
G01N15/14 K
G01N37/00 101
C12N5/071
C12N5/0735
C12N5/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021165175
(22)【出願日】2021-10-07
(62)【分割の表示】P 2017517989の分割
【原出願日】2016-05-12
(65)【公開番号】P2022025077
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2015097758
(32)【優先日】2015-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(心筋・神経・網膜色素上皮・肝細胞)、ヒト間葉系幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発」業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505281023
【氏名又は名称】株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】武田 一男
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祐
(72)【発明者】
【氏名】稲生 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】石毛 真行
(72)【発明者】
【氏名】赤木 仁
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-302330(JP,A)
【文献】特開2007-078589(JP,A)
【文献】特開2008-089540(JP,A)
【文献】特開2008-032634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/686
C12M 1/00
G01N 37/00
G01N 35/10
G01N 15/14
C12N 5/071
C12N 5/0735
C12N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、微粒子を含むサンプル液が導入される第1の流路と、第1の流路の両側に配置されてシース液が導入される第2および第3の流路と、前記第1~第3の流路が合流する合流第1流路と、前記第1の流路に接続する前記サンプル液のリザーバーである第1リザーバーと、前記第2及び/又は第3の流路に接続するシース液のリザーバーである第2リザーバーと、廃液を蓄える廃液リザーバー(第4リザーバー)とを備える流路カートリッジを用いる微粒子解析法において、
第1のリザーバーと第2のリザーバーと第4のリザーバーとに印加される各圧力を個別に調整することで、サンプル液の流幅を一定にした状態でサンプル流速を調整する方法。
【請求項2】
基板上に形成された、微粒子を含むサンプル液が導入される第1の流路と、第1の流路の両側に配置されてシース液が導入される第2および第3の流路と、前記第1~第3の流路が合流する合流第1流路と、前記第1の流路に接続する前記サンプル液のリザーバーである第1リザーバーと、前記第2及び/又は第3の流路に接続するシース液のリザーバーである第2リザーバーと、廃液を蓄える廃液リザーバー(第4リザーバー)とを備える流路カートリッジを用いる微粒子解析法において、
第1のリザーバーと第2のリザーバーと第4のリザーバーとに印加される各圧力を個別に調整することで、サンプル液の流速を一定にした状態でサンプル液の流幅調整する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを含めた動物のES細胞、iPS細胞などに由来する分化細胞を損傷することなく純化濃縮する方法に関する。さらに細胞や細胞塊(細胞スフェロイド)を、一個単位で分取し解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野では多能性幹細胞を用いた再生医療、創薬への応用は、目的の細胞に分化させる技術がそのカギを握っているが、その場合、移植する分化細胞群のなかに未分化細胞が混入していると腫瘍の原因となる。そのため、その完全除去技術が重要となってきている。しかも、この除去処理は無菌的でなければならない。特定の細胞の濃縮は、下記に説明するようにセルソーターを用いるのが一般的であるが、無菌処理でないことや細胞ダメージが大きいなどの点で、再生医療技術には適さないものとなっている。そのため、現在実用化に適した新しい装置が求められているが現状である。
【0003】
最初に、細胞を分取するセルソーターの従来技術を説明する。セルソーターは、目的の細胞を分取して濃縮する装置であるが、目的の細胞を識別するフローサイトメーターとしての解析機能を有する。このフローサイトメーターは、種々のタイプの細胞および液体に含まれる粒子を解析するために一般に用いられている。従来のフローサイトメーターは、通常、石英から作製され、それを通って個々に識別されるべき細胞を含む液体が流れるように流路が形成された光学的に透明なフローセルを備えている。この流路を通る細胞の流れは、この細胞の流れを同心的に取り囲むシース液体によって、流路の中央部に集中して流すことが一般的である。この流路の中央部は、レーザービームで照射され、細胞がその照射領域を通過したときに、細胞の大きさ、形、屈折率に依存した光散乱が生じる。このレーザー光の波長は、蛍光色素で特異的に染色した細胞を蛍光で検出するために、蛍光色素の種類との組み合わせで決定される。このように、個々の細胞について散乱光のほかに蛍光を波長別に複数の光検出器で検出することによって、細胞を多角的に解析することが可能となっている。上記のフローサイトメーターの技術は特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、一般的なセルソーター製品に使用されている細胞または微粒子の分離方法が記載されている。この方法は液滴形成用ノズルから空気中に試料液を液滴として吐出し、分離対象の細胞を含む液滴に電荷を与えることで電場によって分離するという方法である。特許文献3は、フローセルを流れる試料液の周囲にシース流を流し、試料液に電場を加えることで帯電した粒子を試料流からシース流の方へシフトさせて分離計測する方法を開示している。特許文献4には、フローセルを流れる粒子に圧力パルスを与えて、フローセル内の定常的に流れている流路ではない流路に粒子を分離する方法が記載されている。特許文献5は、フローセル内に周囲をシース流でしぼって流した微粒子に場を与えて微粒子の流れをシフトさせて分離するという技術が記載されている。特許文献6において、フローセル内の流路の両側に設置したゲル電極によって液体中で帯電している細胞を電場で分離する方法が公開されている。特許文献7において、粒子の流れに対して垂直にメニスカスを形成するバブルにより圧力パルスを加えて流れをシフトさせて分離する方式が公開されている。特許文献8は、特許文献5と同様に圧力パルスを与えるが目的とする粒子を含む水滴単位で射出してコンテナに回収方法を記述している。特許文献9には、シース流で絞られた試料液の流れの中の粒子を計測しターゲットとなる粒子であると判断した場合に、パルス流で別流路に導入して分離する方法が記載されている。この技術は固定型マイクロ流路内のソーティング技術であって、使い捨て交換型流路内のソーティング技術ではない。抗体をコーティングした磁気粒子を利用して、特定の細胞に磁気粒子を吸着させ勾配磁場で分離する方法が知られている(特許文献10)。特許文献11は、再生医療に最適なコンタミネーションフリーを実現した使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジを用いるフローサイトメーター技術を記載している。さらに特許文献12は使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジ内で分離する方式を記載している。さらにマイクロ流路内の流れの影響を低減するように改善した方式が特許文献13である。使い捨て交換型マイクロ流路チップ内で細胞分離する技術として、流路内に磁気力で駆動するバルブを設置して細胞を分取する技術が特許文献14と特許文献15に記載されている。
【0005】
次に、細胞を一個単位で分注する技術を説明する。中空ピペットで細胞を吸い上げて異なる場所に移動して吐き出して分注する技術が特許文献16に記載されている。画像認識で細胞の有無を確認したのちに、液滴単位でピエゾ素子による圧力パルス駆動により滴下して分注する技術が、特許文献17に記載されている。また、分注を無菌処理で行うために、分注ヘッドが交換可能な分注方法は特許文献23に記載されている。
【0006】
次に、細胞の遺伝子を一個単位で分析できる技術を説明する。1999年にVogelsteinとKINZLERによってデジタルPCRと呼ばれる技術が提唱された。この技術は夾雑物中で目的の遺伝子配列を高感度に検出する方法として優れている。この技術は非特許文献1に記載されている。この技術は、PCR反応空間を微小に小分けすることにより夾雑物の影響を排除して高感度検出を可能としている。
【0007】
特許文献19には、オイル中液滴のエマルジョン形成のために、フッ素系オイルを用いて形成する技術と、デジタルPCRをオイル中液滴のエマルジョン粒子内で行う技術と、異なるエマルジョン粒子を1対1で融合させる方法により、エマルジョン粒子内に異なるPCR反応試薬を追加する方法を記述している。
【0008】
特許文献20には、流路内を通過する粒子の流速を計測する技術が記述されている。この方法は、同一の光源を2つに分岐し、流路中の流れに方向の一定距離をおいた2点を照射し、2点間の時間差で流速を評価する方法が記載されている。
【0009】
特許文献21には、ノズルから大気中に微粒子が流れ落ちるタイミングでパルス的な風をおくって不要な微粒子を飛ばして、必要な微粒子を下に落下させて回収する方法が記載されている。
【0010】
特許文献22には、細胞を取り込んだ状態でオイル中液滴を形成する技術が記載されている。また、異なるエマルジョン粒子を1対1で融合させる方法により、エマルジョン粒子内に異なるPCR反応試薬を追加する方法を記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第3710933号
【文献】米国特許第3826364号
【文献】特開昭64-3541号公報
【文献】特開平1-170853号公報
【文献】国際公開第98/10267号
【文献】国際公開第2004/101731号
【文献】米国特許第6808075号
【文献】国際公開第2006/076195号
【文献】米国特許第4756427号
【文献】国際公開第96/28732号
【文献】米国特許第8248604号
【文献】特許第5382852号
【文献】国際公開第2011/086990号
【文献】米国特許第8822207号
【文献】米国特許第8993311号
【文献】米国特許出願公開第2005/0136528号
【文献】米国特許第8834793号
【文献】特許第4927719号
【文献】米国特許第7968287号
【文献】特開2006-300565号公報
【文献】米国特許第6657713号
【文献】米国公開特許US20150057163
【文献】特願平11-295323号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】BERT VOGELSTEIN AND KENNETH W. KINZLER「Digital PCR」Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 96, pp. 9236-9241, August 1999
【文献】White et al.「Digital PCR provides sensitive and absolute calibration for high throughput sequencing」BMC Genomics 2009;10:116
【文献】Jim F. Huggett et al.「The Digital MIQE Guidelines: Minimum Information for Publication of Quantitative Digital PCR」Clinical Chemistry 2013 Jun;59(6):892-902.
【文献】Nao Hirata et al.「A Chemical Probe that Labels Human Pluripotent Stem Cells」Cell Reports 6, 1165-1174, March 27, 2014
【文献】Richard Williams et al. 「Amplification of complex gene libraries by emulsion PCR」NATURE METHODS VOL.3 NO.7 2006 545-550
【文献】SIGMA-ALDRICH Product Information SeqPlex DNA Amplification KitCatalog Number:SEQXE
【文献】SIGMA-ALDRICH Product Information SeqPlex RNA Amplification KitCatalog Number:SEQR
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、再生医療用の細胞分析における複数の課題を以下に記述する。
【0014】
1)ソーティングにおける課題
再生医療に適するソーティングとして、コンタミネーションフリー、ダメージフリー、及び無菌処理のソーティングに適した使い捨て交換型マイクロ流路カートリッジ内でのソーティング技術における課題を中心に説明する。
【0015】
1-1)無菌処理のためのソーティングの課題
再生医療用としては、ソーティング処理が分取した細胞へダメージを与えないこと、かつ無菌的な処理であることが必要である。以上の条件を満足するためのソーターとしては、大気中でのソーティングを行う方式より、使い捨て流路カートリッジ内でソーティングを行う方法が適している。使い捨て流路カートリッジ内でのソーティング方式としては、特許文献13に、空気圧によって流路カートリッジ内の細胞の流れを制御して分取する方法が記載されている。この方法では、流路カートリッジ上のリザーバー内の空気と流路カートリッジ外部の空気ポンプ内の空気とがフィルターを介して接続している。このフィルターは空気中に浮遊している細菌や異物が流路カートリッジ内の液体への混入を防止する役目がある。しかしながら、このフィルターのポアサイズが小さいと空気のコンダクタンスが小さくなるので、ソーティング力の低下を引き起こす問題がある。
特許文献14と特許文献15は、使い捨て交換型流路カートリッジの流路内に磁気力で可動可能なバルブを設置し、外部からの電磁石のON-OFFによるバルブ駆動によって、細胞をソーティングする技術が記載されている。この場合は、ソーティング力が空気力とは無関係な磁気力であるため密閉空間でのソーティングが可能となっており無菌的ソーティングを実現している。しかしながら、使い捨て流路カートリッジ自体が、量産に適さない複雑な可動部構造を内部に組み込むことで高価であることが問題である。
【0016】
1-2)サンプル濃度調整の課題
特許文献11には、使い捨て交換型流路カートリッジを用いるフローサイトメーターの技術が記載されている。この技術は、シース液リザーバーとサンプル液リザーバーとに同じ空気圧を印加することで、サンプル流の絞込が一定のままに流速を変化させることができる方法である。これに対して、使い捨て交換型流路カートリッジ内にサンプル粒子液を入れて、もし粒子液の濃度が高すぎたり、薄すぎたりした場合に、そのサンプルを回収して再度濃度調整しなければならないという問題がある。
【0017】
1-3)巨大な細胞または細胞塊をソーティングする技術課題
再生医療では細胞の大量培養が行われるが、細胞が個別にバラバラの状態で培養が行われるのではなく、細胞塊(細胞スフェロイド)の状態で培養することが多い。そのサイズは100ミクロメートル以上となることが多い。これに対して、特許文献1と特許文献15に記載されているセルソーターの原理は、大気中にノズルから液滴状にして細胞一個を含む液滴を個々に分取することを目的としており、100μm以上の細胞塊を含む液滴を安定に形成させることは困難である。これに対して、この制限を受けない技術が特許文献21で開示された。この方式は、ノズルから大気中に液滴状態ではなく連続する糸状に流れる状態で、横からパルス的な空気の風を送って必要でない細胞を除去し、必要な細胞を落下させて回収する方式である。しかしながら、この方式は閉鎖空間での細胞分取ではないので、大気中を浮遊する細菌のコンタミネーションや流路全体が交換型ではないため無菌処理には適さない。特許文献13に記載された使い捨て交換型流路カートリッジ内での細胞回収ソーティング技術で流路断面のサイズが幅80μmと深さ80μmの場合は、40μmサイズの細胞スフェロイドまでのソーティングができることを確認しているが、100μm以上の細胞スフェロイドは流路に流すことは不可能である。したがって、再生医療用途に適する使い捨てカートリッジ内で大きな細胞塊(細胞スフェロイド)を無菌的にソーティングする技術は未だ実現していない。
【0018】
1-4)再生医療における分化細胞の純化に関する課題
再生医療において分化細胞からなる細胞シートなどを患者に移植する場合は、腫瘍の原因となる未分化細胞を除去しなければならない。通常の分化誘導では、分化誘導率が100%程度ではなく少なくとも1%程度の未分化細胞が混在する。これを除去する方法としては、セルソーターを利用して分化細胞のみを分取するいわゆる一般的なセルソーティング方法(特許文献1と2)と特許文献10に記載されている抗体磁気ビーズを利用して未分化細胞を除去する方法がある。大気中での液滴分離方式の一般的なセルソーティングでは高速で流して回収時の液面衝突などにより細胞ダメージが大きいという課題があり、抗体磁気ビーズの場合は、細胞塊中で表面に出ていない未分化細胞を除去することは不可能であるという課題がある。
【0019】
1-5)エマルジョンソーティングの必要性と課題
病態組織は多様な細胞の混在であり、集団平均のデータでは解析不能であることが認識されてきている。そこで、PCR反応空間を微小に小分けすることで夾雑物の影響を受けにくいDigital PCRが注目されている。この方式にはエマルジョン方式とマルチチャンバー方式の2方式に大別される。エマルジョン方式は10万個以上の解析に有利であり、マルチチャンバー方式は1万個程度以下の解析に有利である。一方で、この10年間で4桁の性能/コストパフォーマンス向上の奇跡を実現してきた次世代DNAシーケンサーが、今後新しい市場を生み出しつつある。この次世代シーケンサーにおいて、高純度サンプル精製が求められておいる(非特許文献2、3)。この精製のためのツールとしてDigital PCR後のエマルジョン液滴のソーティングが求められている。そこで、以下にエマルジョン液滴のソーティングの課題について説明する。
【0020】
本発明では、エマルジョンの微小反応空間内に細胞を取り込み、細胞内の遺伝子の一部の配列をターゲットにしたDigitalPCRによって目的の一部配列を有する遺伝子を含むエマルジョン液滴の特異的蛍光マーキングを行う。そして、その蛍光を指標に目的遺伝子を有するエマルジョン粒子を分取し、その後にその粒子内に含まれる単一細胞の全遺伝子を増幅しシーケンサーによる詳細解析を行うため前処理装置と技術を提供する。そもそもDNAのコンタミネーションがあってはならないので、使い捨て交換型チップ内で処理する技術でなければならない。この方法の課題としては以下のものがある。
オイル中液滴のエマルジョンを用いるデジタルPCR技術については、フッ素系オイルを用いる方法が、特許文献19に記載されている。このフッ素系オイルとしては、フロリナートなどが知られているが比重が大きく、フッ素系オイル中の液滴は、オイルの上部に浮上するという特性がある。このエマルジョン粒子を使い捨て交換型流路カートリッジ中でソーティングする場合は、使い捨て流路カートリッジ上のリザーバーの上部にエマルジョンが浮かんだ状態であり、リザーバー底面からオイルが流路に流出してオイル上面が低くなると、リザーバー内壁にエマルジョンの水滴が付着して、エマルジョン全量のうち80%程度が付着しロスが大きいという問題がある。
【0021】
1-6)流速に関する課題
セルソーターなどの細胞分取装置では、流速が一定に制御できることが前提となっている。その理由は、液体中で微粒子を検出し、識別判定をおこなって、もし目的の粒子である場合にその粒子を検出位置より下流側で分取することになる。検出位置から分取位置に到達する時間は流速によって変化するので、検出後一定の時間後に分取するためには、流速が一定でなければならない。
流路内の流速は印加する圧力によって調整することができるが、圧力と流速の関係は、試料を懸濁するバッファーの粘性や試料液を絞り込むために一緒に流すシース液の粘性によって変化する。そのため、バッファーの種類やシース液は、市販のセルソーターではメーカーが限定しているのが一般的である。
上記の現状において、細胞の種類によっては生きた状態で計測するためには特定の培地でなければならない場合が多い。したがって、特定のバッファーのみではなく、培地などを含めて粘性の異なる各種バッファーに対応するために流速調整技術が必要である。
【0022】
2)単一細胞を解析する方法の課題
再生医療において、分化細胞群を移植する場合は、その中に腫瘍の原因となる未分化細胞を含んではならない。そのため1,000,000個の分化細胞当たりに1個程度の低密度で混入している未分化細胞でも検出し除去することが必要であり、このための分化細胞の品質管理をおこなうことが重要となる。そのためには、細胞1個の分析や細胞塊単位での分析が必要となる。この分析のためには、非特許文献1に記述されているように微小空間内での検出反応を利用して夾雑細胞の影響を排除するデジタルPCRが適している。特許文献22には、エマルジョン液滴に細胞を一個単位で取り込んでその微小空間内での検出反応を利用して分析する方法が記述されている。そこではエマルジョン内の細胞を溶解させた後にPCR反応を行う。通常のPCRの検出感度は、非ターゲット遺伝子の1/1000程度の濃度のターゲット遺伝子を検出可能なレベルである。これに対して、デジタルPCRの場合は夾雑物の影響がないため特異性の限界は、反応空間の小分け数を100万個にすれば1/100万程度のターゲットを検出することが可能となる。この方法によって特定の遺伝子配列を有する比率を定量することができる。これに対して、一部の目的とする遺伝子配列を有しているからといって、他の配列が共通かどうかは不明である。そのため、目的とする遺伝子配列を有している遺伝子を1個単位で分取したのちに、全遺伝子を増幅し、次世代シーケンサーで全配列を決定する必要がある。この方法を実行するためには、PCR反応後に蛍光信号によって選別したエマルジョン液滴に全遺伝子増幅用の試薬を追加しなければならない。この方法として、特許文献19と22は、いずれも流路内で異なる液滴を1対1で融合させる方法を記述している。これらの方法によれば、融合させる他方のエマルジョンの液滴には次の反応の試薬をふくませておけば、融合後に別の全遺伝子増幅反応を実施することが可能となる。しかしながら、上記の方法は、個々の液滴の位置を制御していないため確実性が低い。
一方で、エマルジョンを利用しないで単一細胞の詳細解析する方法としては、使い捨て交換型流路カートリッジ内で細胞を分取後に、直接に単一細胞をマルチウェルプレートに分注後にPCR反応等で解析する方法が考えられる。この場合は特許文献17に記載されている様にピエゾで分注液を分注ノズルから吐出する方法がある。この方法の課題は、ピエゾによる圧力パルスが細胞にダメージを与えることである。ダメージを受けて死に至った細胞では例えばRNAの解析が不可能となるため、細胞ソーティングと同様に細胞の分注においても低ダメージ性が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記状況を鑑み、再生医療に最適な単一細胞あるいは細胞スフェロイドを解析する方法、分化細胞から未分化細胞を除去する方法、およびその装置について鋭意研究した結果、驚くべきことに、以下の装置又は方法により前記の課題を解決できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【0024】
従って、本発明は、
[1]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、
前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、
前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、
前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む、微粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジには、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路と、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバーと、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバーと、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバーとが形成されており、前記各リザーバーは密閉するためのカバーで覆うことにより、各リザーバー内部が外部から密閉されていることを特徴とする、微粒子を解析及び分離する装置、
[2]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む、微粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジには、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路と、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバーと、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバーと、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバーとが形成されており、前記各リザーバーは密閉するためのカバーで覆うことにより、各リザーバー内部が外部から密閉されており、各リザーバー内の空気圧とそれぞれの装置内空気圧制御系の空気圧とを同一にする手段を有し、各リザーバー内の空気圧をそれぞれの装置内空気圧制御系で制御することによってカートリッジ内の流路の流れを制御することを特徴とする、[1]に記載の微粒子を解析及び分離する装置、
[3]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む、微粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジには、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路と、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバーと、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバーと、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバーとが形成されており、
前記各リザーバーは密閉するためのカバーで覆うことにより、各リザーバー内部が外部から密閉されており、前記パルス流を送り出す方の第3Aリザーバー及び微粒子を回収するための第3Bリザーバーの密閉カバーは伸縮変形可能な膜であって、前記密閉カバー膜に対して外部から機械的な力を作用させて変位させるアクチュエーターを有し、微粒子が分取領域を通過する場合に、前記アクチュエーターによって第3Aリザーバーの密閉カバー膜を高速に押し下げる動作と、第3Bリザーバーの密閉カバーを引き上げる動作によって、分岐流路内にパルス流を発生させて、微粒子を分取する手段を有することを特徴とする[1]に記載の微粒子を解析及び分離する装置、
[4]基板上に形成された、微粒子を含む試料液が導入される第1の流路と、第1の流路の両側に配置されてシース液が導入される第2および第3の流路と、第1~第3の流路が合流する合流第1流路と、サンプル液のリザーバーである第1リザーバーと、シース液のリザーバーである第二リザーバー、廃液を蓄えるリザーバー(第4リザーバー)とを備える流路カートリッジと、光を前記合流第1流路を流れる微粒子に照射する光照射手段と、前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出及び解析する手段と、を備える微粒子を解析及び/又は分離する装置であって、前記流路カートリッジは、合流第1流路の上流側に第1~第3の流路を有し、第1の流路は第1のリザーバーに接続し、第2及び第3の流路は第2のリザーバーに接続し、合流第1流路は下流側の第4のリザーバーに接続する流路パターンを含み、第1のリザーバーと第2のリザーバーと第4のリザーバーの各圧力を調整することでサンプル流の絞込み幅とサンプル流速とを調整する機能を有することを特徴とする微粒子を解析及び/又は分離する装置、
[5]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記粒子を識別し、目的の粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力発生手段とを含む、粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジには、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路と、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバーと、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバーと、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバーとが形成されており、前記各リザーバーは密閉するためのカバーで覆うことにより、各リザーバー内部が外部から密閉されており、前記流路の流路幅及び流路深さが150マイクロメートル以上であって、照射レーザーの流路幅方向のビームサイズが100ミクロメートル以上であることを特徴とする、粒子を解析及び分離する装置、
[6][1]~[5]のいずれかに記載の装置を用いる、未分化細胞から分化させた分化細胞群に分化細胞より低密度で混在している未分化細胞を除去する分化細胞純化方法であって、検出手段からの信号に基づいて、未分化細胞に対して流れの方向を変化させる力を作用させ流路変更処理を行い、分化細胞に対して流れの方向を変化させる力を作用させず流路変更処理を行わないことによって、スルーさせた第4リザーバーに含まれる分化細胞から未分化細胞を除去することで、細胞液を回収し、分化細胞の回収速度を向上させることを特徴とする分化細胞純化方法、
[7]前記回収した細胞液に対して、同じ未分化細胞の除去処理を繰り返すことを特徴とする[6]に記載の分化細胞純化方法、
[8]試料液に含まれる微粒子を一個単位で分注する装置において、分注ノズルは、自動交換可能な透明な中空ピペットであって、分注液量は0.3μL以下であり、分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識によって、10μm以上の粒子の有無と個数を検出し、粒子を指定した個数でマルチウェルプレートに分注することを特徴とする分注装置、
[9]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記粒子を識別し、目的の粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジは、流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)、前記力発生手段により流れの方向を変化させることによって粒子を流路から分取しそして回収するための流路に接続したリザーバーを備える、粒子を解析及び分離する装置であって、前記サンプルリザーバー又は分取した粒子を回収するリザーバーの内壁が撥水性素材で覆った構造、又は撥水性素材製アダプター覆った構造であることを特徴とする、粒子を解析及び分離する装置、
[10]前記撥水性素材がフッ素樹脂である、[9]に記載の粒子を解析及び分離する装置、
[11]試料液体が流れている流路に、左右から合流する流路を介してオイルを合流させることによって、オイル中液滴を形成させる方法において、試料液体に比重の高い成分を混入させることで液滴の比重をオイルよりも大きくすることを特徴とする、オイル中液滴形成方法、
[12]前記比重の高い成分が、ポリタングステン、ブロモホルム、又はヨードメシレンである、[11]に記載のオイル中液滴形成方法、
[13]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、試料液中の微粒子を流す前記流路の一部に光を照射する光照射手段と、前記光照射領域を前記微粒子の個々が通過した時に発生する散乱光または蛍光を検出する検出手段と、各光信号に基づいて目的の微粒子を識別する手段を含む微粒子計測又は微粒子分取装置であって、前記光信号に基づいて、個々の微粒子の流速を計測する手段、及び微粒子の流速が一定になるように調整する手段を含む微粒子計測又は微粒子分取装置、
[14]前記流速を計測する手段が、異なる波長の2つの照射光を、流路中の流れ方向の一定距離間隔の位置にそれぞれ照射する照射光学系であり、微粒子の流速が一定になるように調整する手段が、微粒子が通過する時に発生する各波長の散乱光強度のパルス波形の時間変化を計測し、各パルス波形のピーク値の時間差に基づいて微粒子の個々の流速を計算し、そして微粒子の平均流速が一定になるように流速を調整する手段である、[13]に記載の微粒子計測又は微粒子分取装置、
[15]前記、[13]又は[14]に記載の微粒子計測又は微粒子分取装置を用いる、微粒子計測又は微粒子分取方法であって、任意のバッファーに微粒子を懸濁することを特徴とする、微粒子計測又は微粒子分取方法、
[16]前記バッファーが、水性液又は油性液である、[15]に記載の微粒子計測又は微粒子分取方法、
[17]細胞、細胞溶解試薬、及びPCR反応試薬を含むオイル中の液滴を形成する手段と、細胞溶解反応後にPCR反応を行う手段と、PCR反応後に蛍光標識によってオイル中の液滴を分取する手段と、分取したオイル中の液滴を一個単位で分注する手段とを含む、細胞の遺伝子解析システム、
[18]前記細胞が、1個の細胞又は1つの細胞スフェロイドである、[17]に記載の遺伝子解析システム、
[19]前記オイル中の液滴を形成する手段が使い捨て流路カートリッジであって、前記使い捨て流路カートリッジの細胞を流す流路幅が、少なくとも100μm以上であり、形成するオイル中の液滴のサイズを40μm~100μmまで調整することのできる使い捨て流路カートリッジである、[17]又は[18]に記載の遺伝子解析システム、
[20]前記分注手段が、マルチウェルプレートへの分注手段であって、分注ノズルから吐き出される液がマルチウェルプレートの内壁またマルチウェルプレート内に存在する液体に接触している状態で押し出すことを特徴とする、[17]~[19]のいずれかに記載の遺伝子解析システム、
[21]前記分注手段における分注ノズルは、自動交換可能な透明な中空ピペットであり、分注液量は0.3μL以下であり、そして分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識を行い、10μm以上の粒子が1個の場合に吐出する、[17]~[20]のいずれかに記載の遺伝子解析システム、
[22]細胞、細胞溶解試薬、及びPCR反応試薬を含むオイル中の液滴を形成する工程と、細胞溶解反応後にPCR反応を行う工程と、PCR反応後の蛍光標識によってオイル中の液滴を分取する工程と、分取したオイル中の液滴を一個単位で分注する工程とを含む、遺伝子解析方法、
[23]前記細胞が、1個の細胞又は1つの細胞スフェロイドである、[22]に記載の遺伝子解析方法、
[24]前記オイル中の液滴を形成する工程が、使い捨て流路カートリッジを用いるものであり、細胞を流す流路幅のサイズが少なくとも110μm以上であり、形成するオイル中液滴のサイズが40μmから100μmである、[22]又は[23]に記載の遺伝子解析方法、
[25]前記オイル中の液滴の分注工程が、マルチウェルプレートへの分注であって、分注ノズルから吐き出される液がマルチウェルプレートの内壁またマルチウェルプレート内に存在する液体に接触している状態で押し出すことを特徴とする[22]~[24]のいずれかに記載の遺伝子解析方法、
[26]前記オイル中の液滴の分注工程における分注ノズルは、自動交換可能な透明な中空ピペットであり、分注液量は0.3μL以下であり、分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識をおこなって、10μm以上の粒子が1個の場合のみに吐出する[22]~[25]のいずれかに記載の遺伝子解析方法、及び
[27]細胞を含むオイル中液滴を形成する装置において、オイル中液滴を形成する流路が使い捨て流路カートリッジ内にあり、そのカートリッジには流路に接続する複数のリザーバーが形成されており、細胞を流す流路幅のサイズが少なくとも110μm以上であり、形成するオイル中液滴のサイズを、各リザーバーの液体上部の空気圧を制御することにより40μmから100μmの範囲で調整可能であることを特徴とするエマルジョン液滴形成装置、
に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、再生医療において必要とされる密閉空間での無菌ソーティングが可能である。さらにiPS細胞やES細胞から分化誘導させた分化細胞群に混在する未分化細胞の効率的除去を実現し、分化細胞106個あたりに未分化細胞をゼロ個にすることを実現した。また、サイズ100μm以上の細胞塊(細胞スフェロイド)のソーティングが可能であり、細胞塊に含まれる未分化細胞を塊単位で除去することが可能となった。更に細胞1個単位、又は細胞スフェロイド単位での遺伝子解析が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(A)使い捨て交換型流路カートリッジ内のリザーバーをカバーした閉鎖系の状態を示す。(B)使い捨て交換型流路カートリッジ内のリザーバーをカバーした状態で外部からカートリッジ内部の流路の液体の流れを制御する方法を示す。(C)上記(B)で流路内の粒子を解析する測定系を示す。
図2】(A)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジの上面図を示す。(B)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジのAA`断面図を示す。(C)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジのBB`断面図を示す。(D)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジのCC`断面図を示す。(E)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジのDD`断面図を示す。
図3】ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジ内の流路パターンを示す。
図4】(A)図2のソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジをエマルジョン液滴の分取用に使用する場合の構造の上面図を示す。(B)(A)のAA`断面図を示す。
図5】(A)ソーティング用使い捨て交換型流路カートリッジにおいて、流速評価するための2種類のレーザー照射位置を示す。(B)流速を評価するための信号計測方法を示す。
図6】細胞を含むオイル中液滴を形成するための使い捨て交換型流路カートリッジを示す。
図7図6の流路パターンの説明図である。
図8】細胞を含むオイル中液滴を同時に4種類形成する使い捨て交換型流路カートリッジの上面図である。
図9】(A)オイル中液滴を分注する方法の模式図である。(B)分注ピペットからオイル中液滴を排出する様子を示す。(C)装置外観図である。
図10】ソーティング力としてシリンジポンプと電磁バルブの直列接続によるパルス空気圧を利用する場合を示す。
図11】ソーティング力として弾性カバー膜を押す力を電磁アクチュエーターで変化させて発生させる場合を示す。
図12】(A)使い捨て交換型流路カートリッジ内の試料液リザーバーの圧力を変化させて流速を調整する場合の流速の実測例を示す。(B)使い捨て交換型流路カートリッジ内の試料液リザーバーの圧力を変化させてサンプル流の幅を調整する場合の実測例を示す。
図13】(A)波長の異なる2種類のレーザーの側方散乱信号によって流速を測定する場合の使い捨て交換型流路カートリッジ構造の例を示す。(B)波長の異なる2種類のレーザーの側方散乱信号によって流速を測定する場合の装置光学系の例を示す。
図14】粒子の流速分布の実測例を示す。
図15】(A)再生医療における未分化細胞除去処理効率の評価例(未分化細胞比率20%の場合)を示す。(B)再生医療における未分化細胞除去処理効率の評価例(未分化細胞比率<0.3%の場合)を示す。
図16】分注ピペット内の10μm粒子のカメラ画像を示す。
図17】単一細胞の解析の手順(ケース1)、単一細胞塊の解析の手順(ケース2)、単一細胞を含むエマルジョン液滴の解析の手順(ケース3)、単一細胞塊を含むエマルジョン液滴の解析の手順(ケース4)をまとめたフローチャートである。
図18】(A)図2のサンプル液用リザーバー、シース液用リザーバー、廃液用リザーバーの定常的な流れの流速を一定に保つための定圧ポンプ制御を用いた圧力制御を示した図である。(B)図2のソーティング液リザーバー16及び回収リザーバー17用の圧力制御として、コンプレッサーまたは真空ポンプと電空レギュレーターとバッファータンクとさらに電磁バルブを接続する系をした図である。
図19】空気圧制御系の空気圧とリザーバー内の空気圧とを同一にする手段の1つの実施態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1)ソーティングにおける課題を解決するための手段の実施形態
細胞分取装置を再生医療に適用する場合に、使い捨て交換型流路カートリッジ内の閉鎖系で細胞分取を行う方法が適している。さらに、デジタルPCRによる単一細胞の遺伝子解析のためにもサンプル間のDNAのコンタミネーションが無い使い捨て交換型流路カートリッジ内でのエマルジョン液滴の分取技術が適している。しかしながら幾つかの課題があってそれらを解決する必要がある。それらの課題を解決する実施形態を説明する。
【0028】
1-1)無菌処理のためのソーティングの課題を解決するための実施形態
本発明の微粒子を解析及び分離する装置は、透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む、微粒子を解析及び分離する装置であって、前記カートリッジには、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路と、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバーと、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバーと、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバーとが形成されており、前記各リザーバーは密閉するためのカバーで覆うことにより、各リザーバー内部が外部から密閉されていることを特徴とするものである。
本発明の微粒子を解析及び分離する装置について、図1(A)及び(B)を用いて説明する。図1(A)は、単純な2つのリザーバーを有する流路カートリッジで気密的にカートリッジ内の流路の流れを制御する方法を示している。リザーバー2Aとリザーバー2Bとが基板1に形成されており、基板1内に形成された流路4で接続している。それぞれのリザーバーは、カバー3Aとカバー3Bとにより気密的にキャップされている構造とする。これらのカバーは、変形可能なゴムである。カートリッジの素材は透明樹脂であって、COP、COC、PMMAのいずれかの素材であれば良い。このカバーの素材としては、撥水性素材である伸縮性樹脂であるテフロン(登録商標)系のエラストマーが望ましいが、通常のシリコンゴムでもよい。すなわち、本発明の微粒子を解析及び分離する装置は、各リザーバーがカバーで覆われていることにより、各リザーバー内部が外部から密閉されており、例えば細胞を無菌的に解析及び/又は分離することができる。また、リザーバーがカバーで覆われている特徴は、本明細書に記載の全ての態様の装置に適用することができる。
本発明に用いる流路カートリッジは、前記の通りリザーバーがカバーで覆われているものであるが、使用時においては中空の針状の管をカバーに気密的に貫通させることによって、装置内の空気圧制御系とリザーバー内とを連通して使用することができる。この中空の針状の管は、リザーバー内の空気圧とそれぞれの装置内空気圧制御系の空気圧とを同一にする手段の1つの例である。
例えば、図1(B)は、カバー3Aとカバー3Bに、それぞれ中空の針8Aと8Bを気密的に貫通させた状態を示している。中空の針はステンレス製であることが望ましい。中空の針8Aと8Bは、それぞれシリンジポンプ9Aと9Bが接続している。この状態で、シリンジポンプ9Aを押して陽圧とし、シリンジポンプ9Bを引いて陰圧とするとカートリッジ内の試料液5Aが流路4内を流れて廃液4へと移動する。中空の針状の管を用いて、各リザーバーのカバーに気密的に貫通させ、そしてカートリッジを装置に設置することによって、装置内の空気圧制御系の空気圧と、リザーバー内の空気圧とを同一にすることができる。すなわち、空気圧制御系の空気圧とリザーバー内の空気圧とを同一にする手段の1つとして、複数の装置内空気圧制御系と接続している複数の中空の針状の管を各リザーバーのカバーを気密的に貫通させてカートリッジを装置に設置することによって、空気圧を調整することができる。この空気圧を同一にする手段は、本明細書に記載の全ての態様の装置に適用することができる。
上記方法以外の空気圧制御系の空気圧とリザーバー内の空気圧とを同一にする手段として図19に記載の構造を用いることができる。リザーバーを覆うカバーは、図19(A)に示すように、穴の開いたカバー401及びその穴を塞ぐカバー402からなる2層構造であり、2層の接触によって気密が保たれる構造である。この2層構造のカバーの穴の部分が、図19(B)に示すように、例えば棒403によって上部から押圧されることによって2層のカバーの一部がかい離して気密が壊れて、リザーバー内とカバー上部の空間の空気圧が同一になる。このような方法で、空気圧制御系の空気圧とリザーバー内の空気圧とを同一にする際に、リザーバー内空間404を例えば無菌的に保つために、空気圧制御系及びリザーバー空間とを外部の環境から遮断することが重要である。このために、図19Bに示すように棒の周囲を変形可能なゴムなどの素材の側璧405で囲み、その側壁を穴の開いたカバー401に接触させることのより、空気圧制御系及びリザーバー空間とを外部の環境から遮断することができる。この空気圧を同一にする手段は、本明細書に記載の全ての態様の装置に適用することができる。
本明細書において、装置内の空気圧制御系としては、大気圧による制御系、又はポンプとバルブによる制御系を挙げることができる。また、空気圧制御系によって制御させる空気圧は、陰圧、陽圧、または常圧のいずれで、必要に応じて調整することができる。また、中空の針状の管を用いて各リザーバーのカバーに気密的に貫通させる特徴、及び装置内の空気圧制御系の特徴は、本明細書に記載の全ての態様の装置に適用することができる。
陽圧側と陰圧側の圧力をモニターし、その値の差によって流速を制御する方法をとる。
図1(C)は、上記の流路カートリッジとカートリッジ内の流路を流れる細胞などの粒子に光照射し、粒子からの光信号を検出するための光学系と制御系を図示している。レーザー光源35-1から出射したレーザー光は、流路4に照射する。粒子が照射領域を通過した瞬間に散乱光と蛍光がパルス的に発生する。これらのレーザー光は、対物レンズ151で集光し、平行光にする。対物レンズの下流側の光学系で散乱光と蛍光を波長ごとに複数検出する。散乱光はダイクロイックミラー154とバンドパスフィルター157によって照射レーザー光と同じ波長を選択して検出器161で検出する。検出器161の前には遮光板160を設置して、レーザー透過光を除去する。蛍光は、ダイクロイックミラー155、156とバンドパスフィルター158,159によって照射レーザー光よりも長波長で複数の波長領域を分割してそれぞれ異なる検出器162、163で検出する。検出器の出力の光信号はアナログ信号であるためAD変換器164によってデジタル量に変換し、制御用コンピューター169に送り、制御用コンピューターは結果を記録および表示する。制御用コンピューターは上流側のリザーバーに接続する空気ポンプ9Aを駆動するアクチュエーター170と下流側のリザーバーに接続する空気ポンプ9Bを駆動するアクチュエーター171とを制御することで流路4内を流れる粒子の速度を制御する。また、照射レーザー35の光強度の制御は、レーザー光源35-1のドライバー回路35-2を制御用コンピューター169から制御することで行う。
【0029】
図2(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)を用いて、ソーティング用の使い捨て交換型流路カートリッジにおいて、カートリッジ内部の液体の流れを外部から制御する方法を説明する。試料液のリザーバー(サンプルリザーバー:第1リザーバー)11とシース液のリザーバー(第2リザーバー)12と廃液のリザーバー(分取されなった粒子を蓄えるリザーバー:第4リザーバー)21にかける空気圧は、細胞などの粒子が上流から下流に流れる流速を制御するのが目的なので定常の空気圧を印加すればよい。これらの試料液リザーバー、シース液リザーバー及び廃液リザーバーに印加する「空気圧」は、本発明における「空気圧制御系」の1つである。これに対して、ソーティング力は短時間のパルス的な圧力を、主流路22を流れる特定の粒子のみに対して与えなければならない。すなわち、本発明においては、検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段を用いることができる。図3図2の流路パターンを拡大した図であるが、レーザー光の照射領域35(検出領域)で発生する粒子からの信号光によってソーティング対象粒子と判定された粒子が、主流路22とソーティング流路(24L,24R)との交差点であるソーティング領域を通過するタイミングにあわせて、ソーティング力が発生するようにタイミングを調整することで目的の粒子のみを分取する。このソーティングのためのパルス的な空気圧を発生する力発生手段の例を図10に示した。この図は、図2(A)のBB’断面に対応する。このパルス的な空気圧力を発生する方法では、図10に記載されている様に、定圧空気ポンプと高速電磁バルブとを直列に接続することで、定圧空気ポンプ90は陽圧(本明細書では、圧力はすべて大気圧基準として大気圧からの差分圧力値で記載する)として、定圧空気ポンプ91は陰圧として、バルブ92と93を短時間のみOpenさせるとパルス的な空気圧力がリザーバー16と17の内部に作用し、ソーティングパルス流が発生する。なお、前記「定圧空気ポンプ及び高速電磁バルブ」も、本発明における「空気圧制御系」の1つである。また、「定圧空気ポンプ及び高速電磁バルブ」は、ソーティングのためのパルス的な圧力を加えるための「力発生手段」の1つでもある。
次に図10とは異なるパルス的な空気圧を発生する「力発生手段」の例を図11に示した。この方法では、弾力性がある伸び縮み可能な膜で、リザーバー16と17の上部をカバーして密閉する。その膜110と111とを装置側に設置した電磁アクチュエーター(100、101)とをそれぞれ固定する。ソーティング領域をソーティング対象であると判断した粒子が通過するタイミングで、電磁アクチュエーター100と101を短時間のみ変位させる。この時、電磁アクチュエーター100の力は膜を押す下げる方向に移動させ、電磁アクチュエーター101の力は逆に上方の方向に移動させる。以上の電磁アクチュエーターのパルス的な動作時に、パルス的なソーティング流が発生する。すなわち、アクチュエーターによって第3Aリザーバーの密閉カバー膜を高速に押し下げる動作と、第3Bリザーバーの密閉カバーを引き上げる動作によって、ソーティング流を発生させることができる。電磁アクチュエーターの移動が完了するとソーティングパルス流によって分取された微粒子が回収リザーバー17に取り込まれる。ここで重要なことはパルス流がなくなったときに微粒子を逆流させる流れを生じさせないことである。ソーティング回数の分だけアクチュエーターの移動量を増大させる方式とすることで逆流を防止する。リザーバー16と17の内部には空気を入れない状態が望ましい。空気が入っていない場合は空気の圧縮膨張の過程がないのでリザーバー内の液体に及ぼす圧力の時間応答速度が早いからである。なお、ソーティングのための力発生手段として、第3Aリザーバー及び第3Bリザーバーに対して「電磁アクチュエーター」を用いる場合も、試料液リザーバー、シース液リザーバー、及び廃液リザーバーに対しては、「空気圧制御系」により定常の空気圧等を印加して、使用するものである。
例えば、図2のサンプル液用リザーバー、シース液用リザーバー、廃液用リザーバーの圧力制御は、定常的な流れの流速を一定に保つための制御なので、定圧ポンプ制御となる。この定圧ポンプ制御としては、図1で示した様にシリンジポンプがある。この他の例として、図18(A)に示した様にコンプレッサー204と電空レギュレーター202を用いる方法がある。シリンジポンプの場合は圧力変動は無視できるが、電空レギュレーターでは常に圧力変動が存在する。この変動緩和するためにバッファータンク203を接続する。このようにコンプレッサーと電空レギュレーターとバッファータンクを組み合わせによって、0.1kPa以下の一定圧力を±0.025kPaの精度で制御が可能である。流路断面サイズで幅80μm深さ80μmの流路では、液体を流すために通常0.1kPaから30kPaの範囲の一定圧を定常的な流れ制御のために利用する。したがって、圧力調整の精度が±0.025kPaは十分な性能である。
図18(B)は、図2のソーティング液リザーバー16と回収リザーバー17用の圧力制御として、コンプレッサーまたは真空ポンプと電空レギュレーターとバッファータンクとさらに電磁バルブを接続する系を示している。ソーティング液リザーバー16用の圧力制御系としては、コンプレッサーの圧力は100kPaの範囲で設定し、電空レジュレーターの制御圧力は50kPaと設定する。一方、回収リザーバー17に用の圧力制御系は、真空ポンプの設定は-100kPaの範囲で設定し、電空レギュレーターの制御圧力は-50kPaと設定すれば、ソーティング力として十分なパルス流が発生し、微粒子を分取することができる。
【0030】
1-2)サンプル濃度調整の課題を解決するための手段の実施形態
図2を用いて、ソーティング用の使い捨て交換型流路カートリッジにおいて、サンプル濃度調整機能を行う方法を説明する。図2(A)はソーティング用の使い捨て交換型流路カートリッジの上面図を示している。この流路カートリッジは、細胞などの粒子を含む試料液のリザーバー(サンプルリザーバー:第1リザーバー)11とシース液のリザーバー(第2リザーバー)12と、廃液のリザーバー(分取されなった粒子を蓄えるリザーバー:第4リザーバー)21と、ソーティングパルス流のための液体を蓄えるリザーバー(第3Aリザーバー)16と、粒子を回収するリザーバー(第3Bリザーバー)17とを有している。各リザーバーはリザーバー底面のポート部を介して流路と接続している。試料液はリザーバー11の底面のポート13を介して流路22に接続しており、シース液はリザーバー12の底面の左側のポート15Lを介して流路23Lに接続し、また右側のポート15Rを介して流路23Rに接続している。リザーバー11とリザーバー12の液面の上部に空気圧を加えると、図3に示すように試料液はシース液と合流によって流路中心部に収束して流れる。試料液の幅は、試料液のリザーバー11の内部の圧力をシース液のリザーバー12の圧力より大きくすると合流以降の試料液の流幅Wが増大するが、逆にリザーバー11の圧力をリザーバー12の圧力より小さくするとWが小さくなる。つまり、リザーバー11とリザーバー12に印加する圧力の比率によって試料液の幅を調整することができる。試料液の流速は、リザーバー11とリザーバー12に印加する圧力の比率を一定にしたままで、それぞれの印加する圧力を変化させることで流幅が一定のままで流速を変化させることができる。試料液中の測定対象となる粒子や細胞の濃度が高い場合は、流速一定のままでWの幅を小さくする調整を行い、濃度が低い場合は、流速一定のままでWの幅を増大する調整を行えばよいが、この調整をリザーバー11とリザーバー12への印加圧力の調整で実行することが可能となる。
図12(A)と(B)は、図2(A)のチップで、シース液リザーバー内の空気圧を1.8kPa(大気圧基準)、廃液リザーバー内の空気圧を-0.7kPa(大気圧基準)として、試料液リザーバー内の空気圧を変化させた場合の流速とサンプル流幅の相対的な変化を示したものである。この試料液のバッファーは、粘度が3.6CPの粘性液体と、シース液は、粘度が1.07CPである液体の場合の実測例を示している。試料液リザーバーの空気圧をシース液リザーバーの空気圧1.8kPaより2倍程度に増大させた場合は、流速はほぼ一定のまま、流路幅が2.6倍程度に拡大していることが分かる。これに対して、試料液リザーバーの空気圧をシース液リザーバーの空気圧1.8kPaより小さくする場合は、流速が増大しつつ、流路幅が狭くなることが判明した。したがって、流速と流路幅とを調整するために、下記の手順で調整すればよいことがわかる。最初に試料液リザーバーの圧力とシース液リザーバーの圧力の比率によって目的のサンプル流幅に調整し、次に廃液リザーバーの圧力の調整でサンプル流幅一定のままで流速のみを調整する手順をとる。このようにサンプル流幅を変化させずに流速のみを調整するために廃液リザーバーの圧力制御が重要である。またこの調整には流速評価が必要である。流速評価の内容については、後述する。
【0031】
各リザーバーへの空気圧の印加を無菌的に行うために、1-1)で説明した力発生手段を適用すればよい。図2(B)、(C)、(D)、及び(E)に、図2(A)の各断面の図を示した。各リザーバーにはカバー3で気密的に覆われている。リザーバー11内の試料液の上部の空気に圧力を印加するために、図2(B)及び(E)に示したようにリザーバー11のカバーに中空の針30を貫通させる。この針の内部の空気は装置側のリザーバー11の圧力に調整された装置内空気圧制御系に接続している。リザーバー12内のシース液の上部の空気に圧力を印加するために、図2(E)に示したようにリザーバー12のカバーに中空の針31を貫通させる。この針の内部の空気は装置側のリザーバー12の圧力に調整された空気圧制御系に接続している。下流側の廃液リザーバー21内のカバーに中空の針34を貫通させる。この針の内部の空気は装置側のリザーバー21の圧力に調整された空気圧制御系に接続している。リザーバー21に印加する圧力は、大気圧以下の陰圧側である必要がある。次に、リザーバー16内とリザーバー17内の空気圧制御は、試料液の粒子を分取するためのパルス圧力の制御であり、上記の定圧の空気圧による流速制御とは異なる。パルス圧によって粒子を分取する方法は、図10に記したように、定圧ポンプとノーマリークローズの電磁バルブとの直列接続した系で、電磁バルブが短時間のOpen状態で発生するパルス圧を利用する。レーザー照射領域である検出領域35を通過したときに発生する散乱光や蛍光などの信号光によって、目的の粒子か否かを識別し、もし目的の粒子であると判断した場合は、下流側の流路24Lと流路24Rとの交差する領域を通過するタイミングで、流路24LからはPush流を発生させて流路24RからはPull流を発生させるように、リザーバー16内には陽圧空気パルスとリザーバー17内には陰圧空気パルスを与える。図2(C)に示したように、カバーで密閉したリザーバー16とリザーバー17の内部に、それぞれ中空の針32と33を貫通させる。
この中空の針の内径が小さい場合は空気圧の応答が悪くなるので、内径は一定以上なければならない。内径が1mm以上あればバルブOpen時間がミリ秒オーダー程度の短時間でも粒子の分取に必要な圧力をリザーバー内の空気を介して流路内の液体に伝えることができる。
【0032】
1-3)巨大な細胞または細胞塊(細胞スフェロイド)をソーティングするための技術課題を解決する手段の実施形態
100μm以上の細胞塊をソーティングするためには、以下の課題を解決する必要がある。重力沈降速度は細胞または細胞塊のサイズが大きいほど早いことが知られている。このため、リザーバーの底のポート部にはサイズが大きい細胞塊は、重力沈降速度が短時間で堆積し、細胞の堆積の高さが流路の深さ以上になると流路を塞いでしまう。そこで、細胞塊のソーティングには重力沈降を防止することが必要である。比重の高い成分を細胞懸濁用バッファーに混入させて、バッファーの比重を高めることで細胞の重力沈降を防止することができる。この比重を高めるための成分としては、ポリビニルピロリドンまたはジェランガムを利用するのが良い。培地にこれらの成分を混入させて細胞培養が可能であり、細胞へのダメージは無視できる。バッファーの比重は、細胞の比重以上にする必要はないが、重力沈降速度を遅くすることでも細胞の詰まりを防止することができる。これまでの実験によるとバッファーの比重を1.01以上にすることで、一般的な細胞の自然沈降を防止することが可能である。
次に、使い捨て交換型流路カートリッジの流路断面のサイズについて説明する。サイズ100μmの細胞塊を流路詰まり無しで安定して流すためには、流路幅150μm以上かつ流路深さ150μm以上が必要であること、さらに流路幅80μm流路深さ80μmの流路断面サイズで、詰まる事なく流せる細胞塊サイズは40μmであることも判明した。したがって、流せる細胞塊の最大サイズより少なくとも40μm以上大きい流路断面の流路が必要である。
また、巨大な細胞または細胞塊をソーティングするための技術課題としては、ソーティング力の不足が考えられる。このソーティング力を補うためには、図11に表したように、空気を介さないで直接的に電磁力を発生するアクチュエーター100と101で発生した力をソーティングパルス流として流れる液体に与えるのが良い。この場合は時間的な応答性が早くなり、かつ力も増大するので、巨大な細胞や細胞塊をソーティングするのに適している。
【0033】
1-4)再生医療における分化細胞の純化に関する技術課題を解決する手段の実施形態
再生医療においてiPS細胞やES細胞から分化させた分化細胞からなる細胞シートなどを患者に移植することが検討されている。この場合、わずかに混在する未分化細胞が腫瘍の原因となることが問題となっている。分化誘導率は100%程度ではなく、少なくとも1%程度の未分化細胞が混在することが多い。この未分化細胞を、無菌的に細胞のダメージ無しで除去し、効率的に分化細胞を純化する方法を以下に説明する。
分化細胞群に例えば1%の密度で混入する未分化細胞を除去するプロセスに適用する場合を考える。未分化細胞を特異的に蛍光ラベルする方法として、未分化細胞の表面マーカーの蛍光抗体ラベルや非特許文献4に記載されている未分化細胞に特異的に取り込まれる蛍光を発する化合物を利用する方法がある。蛍光抗体ラベルは細胞がバラバラにした状態で未分化細胞を染色することが可能である。これに対して、未分化細胞に特異的に取り込まれる蛍光化合物は、組織内の未分化細胞を特異的に染色することができることがわかっているので、細胞塊内の未分化細胞を特異的に染色する事ができる。
上記の特異的な蛍光染色を行った細胞群の懸濁液を試料として、下記の細胞分取の手段を適用する場合を考える。
透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の細胞に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に未分化細胞から発生する蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて未分化細胞を識別する手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる未分化細胞に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変更させる力を作用させる力発生手段と、その力の作用結果により流れの方向の変化によって未分化細胞が流れこむ流路が接続するリザーバーと前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変更させない場合の分化細胞が流れる流路が接続するリザーバーとが形成されている流路カートリッジ内で分化細胞を分取する方法を適用すると、検出領域を通過する単位時間あたりの細胞数は、分化細胞が未分化細胞の99倍あるので、未分化細胞を300個/秒の処理速度で除去する場合は、分化細胞の回収速度としては、その99倍すなわち約30000個/秒となる。一般的に、未分化細胞の混在比率がA%であるならば、分化細胞の回収効率は、装置のソーティング速度の(100-A)倍に相当することになる。Aの値が小さいほど、処理能力の向上のメリットが大きい。この様なソーティング方法をネガティブソーティングと呼ぶことにする。図15(A)は、総細胞数2×106個で未分化比率が20%の場合の処理効率の実測結果とシミュレーション結果を示している。ソーティング処理速度は100個/秒で行った結果である。未分化比率が大きいので、除去処理が4回で未分化細胞を完全に除去できることは、実測とシミュレーションともに一致している。トータル所要時間が150分となり、未分化比率が20%と高いので効率が悪い結果である。これに対して、総細胞数が107個で未分化細胞比率が0.3%以下の場合をシミュレーションした結果が図15(B)である。未分化細胞は2回の処理で、未分化細胞は完全に除去される。20分間以内の短時間で完了する。未分化細胞の比率が高いほど効率が低い結果となる。
【0034】
1-5)エマルジョンソーティングの課題を解決するための手段の実施形態
エマルジョンとしては、オイル中の液滴を前提として説明する。使い捨て流路カートリッジ上のリザーバーの内壁にエマルジョン中液滴が付着すると流路が詰まる原因となる。エマルジョン中液滴がリーザーの内壁に付着するのを予防するために、リザーバーの内壁を撥水性にする方法と、液滴が付着しても自重で自然に沈降するようにする方法について2種類の方法を以下に説明する。
【0035】
リザーバーの内壁を撥水性にすることで付着を防止する手段の説明
図4(A)は図2(A)と同じ使い捨て交換型流路カートリッジである。このカートリッジのソーティング対象の粒子を含む試料液のリザーバー(サンプルリザーバー:第1リザーバー)11の内壁と、ソーティング後のエマルジョン液滴が回収されるリザーバー(第3Bリザーバー)17の内壁への液滴付着が問題である。これを防止するために、リザーバー11とリザーバー17のそれぞれを撥水性素材で覆った構造を図4(A)と図4(B)で示している。ここでは、リザーバーの内に中空のテフロン(登録商標)製アダプターを差し込んだ構造で、リザーバーの内壁にエマルジョンが接しないようにしている。
流路カートリッジは、透明樹脂による射出成型であり、流路全体をテフロン(登録商標)性にすることはできないため、上記の対策をとるのがよい。また、リザーバー11とリザーバー17のそれぞれの内壁を撥水性コーティングすることも可能である。撥水性コーティングとして、フッ素樹脂で覆った構造でもよい。
【0036】
エマルジョン中の液滴の比重を増大することで付着を防止する手段の実施形態
フロリナートなどのフッ素系オイルは、液滴よりも比重が重いので、液滴がオイル中で浮いてしまう。この理由は、フロリナートの密度は、約1.8g/cm3程度と水の約1.8倍であるため、水滴が浮いてしまうのである。そこで、比重が1以上の液体を混入させることで比重を増大させることができる。この様な液体としては、ポリタングステン酸ナトリウム溶液、あるいはブロモホルム溶液、あるいはヨードメシレン溶液がある。比重を約1.8g/cm3以上にするとフッ素系オイル中で液滴を沈降させることができる。ポリタングステン酸ナトリウムの飽和水溶液の密度は3.1g/cm3であり、ブロモホルムの飽和水溶液は、2.89g/cm3であり、ヨードメシレンの飽和水溶液の密度は3.31g/cm3である。これらの成分をフロリナート中で浮かないようにするためには、密度を1.8g/cm3以上にすればよい。エマルジョン中液滴のリザーバーの内壁へ付着を防止するためには、密度が1.8g/cm3以上あることが必要ではなく、オイルの減少によるオイル表面が下方に移動するにともない内壁に付着した液滴がオイルからの浮力が無くなった時に重力によって下方に落下する程度に密度が高ければよい。この密度としては、1.2g/cm3から1.8g/cm3の範囲であればよい。
【0037】
1-6)流速に関する課題を解決するための手段の実施形態
セルソーターなどの細胞分取装置では、流速が一定に制御できることが前提となっている。その理由は、液体中で微粒子を検出し、識別判定をおこなって、もし目的の粒子である場合にその粒子を検出位置より下流側で分取することになる。検出位置から分取位置に到達する時間は流速によって変化するので、検出後一定の時間後に分取するためには、流速が一定でなければならない。
流路内の流速は印加する圧力によって調整することができるが、圧力と流速の関係は、試料を懸濁するバッファーの粘性や試料液を絞り込むために一緒に流すシース液の粘性によって変化する。そのため、バッファーの種類やソース液は市販のセルソーターではメーカーが限定しているのが一般的である。
上記の現状において、細胞の種類によっては生きた状態で計測するためには特定の培地でなければならない場合が多い。したがって、特定のバッファーのみではなく培地などを含めて各種バッファーに対応するために流速調整技術が必要である。
そのため、再生医療において望まれる細胞ダメージがないセルソーティングでは、各種バッファーによって流速が変わるために、流速を評価する機能が重要となる。
そのために流速を評価するために以下の手段をとる。
使い捨て交換型流路カートリッジ内でセルソーティングを行う方法において、図5(A)の35と36に図示するように,異なる2つの波長のレーザー光を、粒子が流れる流路22の流れに沿って異なる位置に照射する。粒子は2つ照射領域を通過すると、図5(B)に示すように粒子一個につき2つのレーザー照射に由来する2つの光信号(35-Aと36-A)が発生する。この光信号の検出は、信号35-Aが検出条件で設定したしきい値(TH)以上の信号を検出した瞬間から計測がスタートする。この場合は35-A信号のAD変換と36-A信号のAD変換が同時にスタートし、それらの光信号が最大になる時刻の時間差を記録する。この時間差は2つ照射位置の距離(ΔL)を、粒子の流れの速度Vで割った値になる。すなわち、個々の粒子について時間差ΔTを計測すると個々の粒子の速度Vを計測することができる。
光信号のAD変換の性能として、サンプリング周波数が5MHzの場合は、0.2マイクロ秒ごとにアナログ時間波形の信号をデジタル化するので、0.2マイクロ秒の分解能で2つの信号の時間差を評価することができる。2つのレーザーの照射位置の間隔ΔLが100μmであって、流速Vが1m/秒である場合は、時間差は100μ秒となり0.2マイクロ秒の分解能で十分である。
この速度評価は、個々の粒子に対して行える。例えば、蛍光を発生する粒子の場合は、一方の信号を散乱光とし他方を蛍光とすればよい。蛍光を発生しない粒子の場合は、2つの光信号として2つの散乱光信号を検出すればよい。この場合は2種類の散乱光を検出するため光学系が必要である。使い捨て交換型流路カートリッジ用途に適する2種類のレーザーのそれぞれの散乱光検出光学系としては、特許文献12に記載されている流路基板端面で側方散乱を全反射させて検出させる光学系が適する。この場合は基板の両側の反射面を2つのレーザー波長に由来する側方散乱検出光学系として利用すれば良い。
以上のように、個々の粒子の流速が判明すると、検出時刻から細胞分取領域までの時間差を導出して、細胞分取領域を通過するタイミングで、細胞にソーティング力を与えて分取するという方法が可能となる。
また、粒子を懸濁するバッファーの種類を変えた場合や、バッファーの粘性が温度によって変化して、流速が変わる現象に対して、粒子の平均流速が一定になるように空気圧を調整する。この場合、用いるバッファーで事前に流路幅と流速になるように、各リザーバーの圧力条件の初期設定を行い、その条件で粒子の解析や分取を開始する。初期設定の条件でも、環境温度によって流速が異なる場合があるので、個々の粒子の流速をモニターし、一定数当たりの流速の平均値が目的の値になるように、制御PCを介して廃液リザーバーの圧力を制御する。
図13(A)は、図2(A)と同じ使い捨て交換型流路カートリッジであるが、透明な流路基板の両端が反射面(180と181)となっており、波長の異なる複数のレーザーを搭載した場合に細胞の流速を評価するための測定系を図示した。反射面(180と181)は、垂直方向に45度の角度の斜面であり、表面は鏡面仕上げとなっている。図13(B)は、図13(A)のレーザー照射領域35の位置のD1D1’断面とレーザー照射領域36のD2D2’断面との部分の両方を図示したものである。波長のことなる2種類のレーザーの照射領域(35と36)が、合流部からソーティング流路までの間に照射する。照射領域を細胞が通過した時に発生する側方散乱光が、反射面(180と181)において内部反射で下側に反射する。基板内から内部反射で外部に出た散乱光は、透明な樹脂製集光ブロック182と183で集光し、光ガイド(184、185)で光検出器(188、189)に導き検出する。この場合、光検出器(188)の前には第一のレーザー光源35-1の波長のみを透過させる波長域のバンドパスフィルターを設置し、光検出器(189)の前には第2のレーザー光源36-1の波長のみを透過させる波長域のバンドパスフィルターを設置することで、それぞれの波長の散乱光以外の光を除去する。図5(B)に示すように2種類の側方散乱信号の時間波形の極大となる時間差を、流路内を流れる粒子について評価し、照射領域35と36の距離を時間差で割ることによって、各粒子の流速を計測する。図14は、個々の細胞の流速を測定し、そのヒストグラム分布を示したグラフである。
【0038】
2)単一細胞の遺伝子を解析する方法の課題を解決するための手段の実施形態
単一細胞の遺伝子を解析する方法の課題を解決するための手段として、細胞を取り込ませたエマルジョン液滴を形成する方法、エマルジョン液滴内部で細胞を溶解させる方法と、エマルジョン液滴内でPCR反応させる方法と、蛍光を有するエマルジョン液滴を分取し濃縮する方法と、分取したエマルジョン液滴を1個単位でマルチウェルプレートに分注
する方法と、分注されたマルチウェルプレート内のエマルジョン液滴を破壊し別の反応試薬液と混合する方法、最後に全遺伝子増幅反応を行い次世代シーケンサーで解析する方法について説明する。
図6は、細胞を取り込んだエマルジョン液滴を形成するための使い捨て交換型流路カートリッジである。ほぼ図2のカートリッジと同じ構造であるが、各リザーバーの役割が異なる。このカートリッジには、液滴内に取り込ませるための細胞を含む試料液用リザーバー(第1リザーバー)11-Eと、PCR反応試薬と細胞溶解用試薬を含む反応試薬液用リザーバー(第2リザーバー)12-Eと、左右のエマルジョンオイル用リザーバー(第3Aリザーバー)16-Eと(第3Bリザーバー)17-Eと、形成したエマルジョン液滴用リザーバー(第4リザーバー)21-Eとが形成されている。それぞれのリザーバーの上部は制御された空気圧が印加され、オイル中液滴のサイズは各リザーバーの空気圧によって調整することができる。リザーバー内の空気圧の調整機構は、図18に記した様にコンプレッサと電空レギュレーターの組合せを利用した調整機構が適している。その圧力調整範囲は、0.1kPaから30kPaまで可能である。第1リザーバーと第2リザーバーに加える圧力に対して、オイル用リザーバー(第3AおよびB)に加える圧力を変化させることで、オイル中液滴の直径サイズを20μmから100μmまで調整することが可能である。但し、オイルの種類によって粘性が異なるのでオイルの種類ごとに目的サイズの空気圧を設定する必要がある。また、エマルジョン液滴内に約10μmの細胞を取り込むためには、液滴サイズは40μm以上であることが望ましい。最大液滴サイズは流路サイズによって上限がきまる。
図7は、エマルジョン液滴を形成するためのマイクロ流路カートリッジ内の流路である。細胞50を含む試料液を、反応試薬液(PCR反応試薬と細胞溶解用試薬)が流れる流路23L-Eと流路23L-Eで合流させることで、細胞50が一列に整列させたのち、流路24L-Eと流路24R-Eからオイルを合流させる。合流後にオイル中液滴が形成されるが、細胞を含む液滴51と細胞を含まない液滴52の2種類が形成される。
【0039】
図8は、4個の試料液リザーバー63と4個の試薬リザーバー62と4個のオイルリザーバーが形成されているエマルジョン形成用カートリッジである。各リザーバーに空気圧力を加えることで、エマルジョン粒子が形成されるが、この流路カートリッジでは4種類の試料に対するエマルジョンを一度に形成することができる。オイルの種類としては、フッ素系オイルでもミネラルオイルでも、オイル中液滴のエマルジョンを形成することができる。液滴の直径サイズはオイルとの合流部での液体の流量とオイルの流量の比率できまる。サイズ10μm程度の細胞を一個単位で含むエマルジョン液滴を形成する場合は、液滴のサイズは少なくとも40μm以上であることがのぞましい。さらに、この場合は流路22-Eの断面サイズは幅100μm深さ100μm以下でも良いが、サイズが100μm程度の細胞の塊であるスフェロイドを取り込んだエマルジョン液滴を形成する場合は、流路22-Eの断面サイズは、幅200μm深さ200μm以上としなければならない。
細胞溶解用試薬としては、Proteinase Kなどの細胞膜を分解する酵素を成分として加える。また、PCR反応試薬としては、検出する遺伝子配列に対応するプライマーの他にポリメラーゼや、タックマンプローブまたはサイバーグリーンなどの蛍光試薬を成分として加える。細胞溶解反応は、Proteinase Kで溶解する場合は摂氏36度なら12時間放置して溶解反応を行う。
【0040】
次に、PCR反応は、例えば、サーマルサイクラ―を用い、摂氏60度と摂氏95度の温度間のサーマルサイクルを40回程度繰り返してPCR反応を行う。PCR反応後に目的の遺伝子配列を有する液滴は蛍光を有するようになる。
【0041】
次の段階は、前述の流路カートリッジ内で蛍光を有する液滴のみをソーティングを行う。この手段は、1-5)で説明した内容である。このソーティングの結果、目的の遺伝子配列を有するエマルジョン液滴が95%以上のエマルジョン液を得る。
【0042】
次に、このエマルジョン液滴を、マルチウェルプレートに1個単位で分注する手段を説明する。図9(A)は、エマルジョン液滴を分注する手段を模式的に示したものである。
分注先のマルチウェルプレート70には分注後の液滴と反応させる試薬液を分注しておく。この試薬液としては、例えば全遺伝子増幅のための試薬を含む水溶液である。分注前のエマルジョン液滴はチューブ71に入っている。このチューブ71の中のエマルジョン液に空気圧を制御するシリンジポンプ74の先に取り付けた透明な中空パイプである分注ピペット73の先をZ軸下方に移動して入れる。次に分注量分だけシリンジのピストンを上げてエマルジョン液をピペット73の中に吸引する。吸引後にZ軸の上方にピペット73を上げて、カメラでピペット内の分注量全量の画像を取得し、液滴が一個存在するか否かを判定し、もし一個存在する場合はマルチウェルプレートの所定のアドレスのウエルに移動する。Z軸下方へ移動し、図9(B)に示すように、分注ピペット73をすでに分注してある反応試薬液の上面81より下におろして、シリンジポンプのピストン75を押し出してピペット内の液滴を排出する。排出後もピストン75を押し下げながら分注ピペットを上方に引き上げる。分注ピペット内の画像認識の結果、液滴の数がゼロか2個以上である場合は、チューブ71に戻って分注ピペット73内のエマルジョン液を排出して、再度吸引して、液滴が1個のみ存在する場合のみ分注する。
分注量として0.3μLの場合、ピペットの内径を400μmとすると、ピペット内に2.4mmだけ吸引すれば良い。次に液量0.3μL全体をカメラの1ショットの画像でピントがあった状態で撮影可能かとうかを考察すると、対物レンズとして1倍のものを使用する場合は被写界深度が440μmであり、ピペット内の内径400μm全体をピントがあった状態で撮影することができる。視野の広さを考えると1/2型カメラの場合は6.4mmをカバーするのでピペット内の長さ2.4mm全体の撮影が可能である。したがって、画像1ショットで分注量0.3μLの全体を撮影が可能と判断することができる。但し、画像の分解能は11μmであるので、細胞1個の有無も個数も識別することができる。エマルジョン液滴サイズとしては、細胞1個を取り込む最適なサイズは40μmなので、エマルジョン液滴の有無も個数も十分識別可能である。図16は、前述の内径400μmの透明樹脂製の中空ピペット内の粒径が10μmの標準粒子の画像を、1倍の対物レンズと1/2型カメラで取得した画像である。個々の粒子が識別可能であって、吸引した液の長さが2.4mm以上ある。
上記で述べたエマルジョン液滴の分注では、分注ピペットの内壁への液滴が吸着するのを防止するために、撥水性コーティング溶液で事前に分注ピペット内をコーティングするのが望ましい。また、上記分注機を水溶液中の細胞の分注用に用いることも可能である。この場合は、分注ピペットの内壁への細胞が吸着するのを防止するために、分注ピペット内を親水性コーティング溶液で分注ピペット内をコーティングするのが望ましい。
マルチウェルプレートに液滴1個の中に含まれる細胞1個分のDNAを詳細解析するために次世代シーケンサーで全配列を決定するのがよい。このシーケンス解析のためには全ゲノム増幅が必要である。そこで、分注された個々のエマルジョン液滴を破壊して取り出したDNAに対して全ゲノム増幅反応試薬液と混合して全ゲノム増幅反応を実施する方法を以下に説明する。まず、個々のエマルジョンを破壊して内部のDNAを抽出するために、非特許文献5に記載されている遠心分離とジエチルエーテルを用いる方法を適用する。但し、エマルジョン液滴一個単位にこの方法を適用するために、マルチウェルプレート中に一個単位で分注されているエマルジョン液を遠心チューブに移し替えて適用する。つぎに、抽出したDNAに対して全ゲノム増幅反応を行うためには、例えばシグマ-アルドリッチ社の次世代シーケンサー用の全ゲノム増幅キット(SeqPlex DNA Amplification Kit)を利用する。このプロトコールについては、非特許文献6に記載されている。また、RNAの解析には、例えばシグマ-アルドリッチ社の次世代シーケンサー用の全RNA増幅キット(SeqPlex DNA Amplification Kit)を利用する。このプロトコールは非特許文献7に記載されている。
図17に、本発明が関連する解析内容手順をまとめた。単一細胞解析(ケース1)、単一細胞塊解析(ケース2)、単一細胞を含むエマルジョン液滴解析(ケース3)、単一細胞塊を含むエマルジョン液滴解析(ケース4)である。それぞれのケースの処理手順に、本発明の手段が必須となる。以上の増幅後に、次世代シーケンサーで配列解析を行う。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の微粒子を解析及び分離する装置は、再生医療に適した細胞を無菌的に分離することができる。また、サンプル濃度を容易に調製することができるため、サンプル中の細胞濃度を調整することが可能である。更に、粒子を解析及び分離する装置は、細胞スフェロイド、又はエマルジョンを容易にソーティングすることが可能である。また本発明の装置を用いることによって、分化細胞を簡便に純化することができる。本発明によれば、細胞又は細胞塊の流速を測定することができるため、特定のバッファーを用いることなく、細胞又は細胞塊をソーティングすることができる。更に、本発明の遺伝子解析システム、又は遺伝子解析方法によれば、単一細胞、又は1つの細胞塊(細胞スフェロイド)の遺伝子を、コンタミネーションフリーで解析することが可能である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…流路基板
2A…リザーバー
2B…リザーバー
3A…リザーバーカバー
3B…リザーバーカバー
4…流路
5A…試料液
5B…試料液
6A…空気
6B…空気
8A…中空の針
8B…中空の針
9A…シリンジポンプ
9B…シリンジポンプ
10…使い捨て交換型流路カートリッジの外枠
11…試料液を蓄えるリザーバー(サンプルリザーバー:第1リザーバー)
11-E…エマルジョン液滴に取り込ませる粒子を含む試料液
12…シース液を蓄えるリザーバー(第2リザーバー)
12-E…細胞を溶解する試薬とPCR反応試薬を含む試薬液
13…試料液の主流路と接続ポート
14…試料液とシース液との隔壁
15L…左側のシース液のシース流路との接続ポート
15R…右側のシース液のシース流路との接続ポート
16…ソーティング液リザーバー(第3Aリザーバー)
16-E…エマルジョンオイル用リザーバー(第3Aリザーバー)
17…回収リザーバー(第3Bリザーバー)
17-E…エマルジョンオイル用リザーバー(第3Bリザーバー)
18…ソーティング液リザーバーのソーティング流路との接続ポート
19…回収リザーバーのソーティング流路との接続ポート
20…廃液の主流路との接続ポート
21…廃液を蓄えるリザーバー(第4リザーバー)
21-E…エマルジョン液滴用リザーバー(第4リザーバー)
22…主流路(第1流路)
22-E…主流路(第1流路)
23L…左側のシース流路(第2流路)
23L-E…左側の試薬流路(第2流路)
23R…右側のシース流路(第3流路)
23R-E…右側の試薬流路(第3流路)
24L…パルス流Push側のソーティング流路(第4流路)
24L-E…液滴形成用オイル流路(第4流路)
24R…パルス流Pull側のソーティング流路(第5流路)
24R-E…液滴形成用オイル流路(第5流路)
30…試料液リザーバーのカバーに貫通させる中空の針
31…シース液リザーバーのカバーに貫通させる中空の針
32…ソーティング液リザーバーのカバーに貫通させる中空の針
33…回収リザーバーのカバーに貫通させる中空の針
34…廃液リザーバーのカバーに貫通させる中空の針
35…第1のレーザー光またはその照射領域
35-A…35のレーザー照射領域を通過時に発生した散乱光信号
36…第1とは異なる波長の第2のレーザーまたはその照射領域
36-A…36のレーザー照射領域を通過時に発生した散乱光信号
35-1…第1のレーザー光源
35-2…レーザーのドライバー回路
36-1…第2のレーザー光源
40…試料液リザーバーのテフロン(登録商標)アダプター
41…回収リザーバーのテフロン(登録商標)アダプター
50…細胞
51…細胞を含む液滴
52…細胞を含まない液滴
60…エマルジョン液滴形成用流路カートリッジ
61…エマルジョン液滴形成用オイルリザーバー
62…試薬リザーバー
63…試料液リザーバー
64…エマルジョン液滴形成オイル用流路
65…試薬用流路
65…エマルジョン液滴リザーバー
70…エマルジョン液滴の分注先のマルチウェルプレート
71…分注前の液滴を含むエマルジョン液
72…洗浄用オイル液
73…分注ピペット(透明な中空パイプ)
74…空気圧シリンジポンプ
75…空気圧シリンジポンプのピストン部分
76…カメラ
77…分注機制御PC
78…単一粒子分注機
80…マルチウェルプレート内のウエル
90…陽圧のシリンジポンプ
91…陰圧のシリンジポンプ
92…高速電磁バルブ
93…高速電磁バルブ
100…電磁アクチュエーター
101…電磁アクチュエーター
110…弾性カバー
111…弾性カバー
151…対物レンズ
152…レーザー光
153…ソーティング流路4-1と4-2で挟まれた領域
154,155,156…ダイクロイックミラー
157,158,159…バンドパスフィルター
160…透過レーザー光遮断用空間フィルター
161…フォトダイオード
162,163…光電子増倍管
164…AD変換器
169…制御用コンピューター
170…空気ポンプ9A用ドライバー回路
171…空気ポンプ9B用ドライバー回路
172…照射レーザー光源35-1のドライバー回路
180,181…反射面
182,183…透明樹脂製集光ブロック
184,185…透明樹脂製光ガイド
186…第一のレーザー35の波長のみを透過させる波長域のバンドパスフィルター
187…第二のレーザー36の波長のみを透過させる波長域のバンドパスフィルター
188,189…光検出器
200…電磁バルブ
201…電磁バルブのドライバー回路
202…電空レギュレーター
203…エアバッファータンク
204…コンプレッサー
205…気体用異物除去フィルター
206…コンプレッサーの大気吸引管
301…電磁アクチュエーター用ドライバー回路
401…穴の開いたカバー
402…穴を塞ぐカバー
403…棒403
404…リザーバー内空間
405…側璧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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