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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20230523BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230523BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230523BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20230523BHJP
   A61F 2/14 20060101ALI20230523BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 500
A61L29/06
A61L29/14 500
A61F2/14
A61F9/007 140
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021544080
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 KR2019012824
(87)【国際公開番号】W WO2020071732
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0117796
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521141040
【氏名又は名称】ティーエムディー ラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ハク-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジン スック
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョン ボク
(72)【発明者】
【氏名】コ,ジェ サン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ウ ボム
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-522992(JP,A)
【文献】Iranian Polymer Journal,Vol.20(4),2011年,pp.329-340
【文献】Polymer Journal,Vol.46,2014年,pp.598-608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00
A61L 31/00
A61F 2/00
A61F 9/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表され、平均30~48℃の融点を有し、架橋後に平均28~42℃の融点を有する形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材
【化1】

記化学式1において
及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+yは100であり、xは88~94である。
【請求項2】
鼻涙管挿入用部材は、
鼻涙管内部に挿入され、チューブ(tube)形態であることを特徴とする、請求項1に記載の鼻涙管挿入用部材。
【請求項3】
鼻涙管挿入用部材は、
平均で28~42℃以上の温度で鼻涙管内部で形態が変形されることを特徴とする、請求項に記載の鼻涙管挿入用部材。
【請求項4】
鼻涙管挿入用部材は、平均で28~42℃の以上の温度において平均で0.4~1.2mmの直径を保持することを特徴とする、請求項に記載の鼻涙管挿入用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材に関する。より詳細には、本発明は、鼻涙管閉塞/狭窄の治療のための形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材に関する。
【0002】
本特許出願は、2018年10月2日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2018-0117796号に対して優先権を主張し、該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
人間の涙は、上眼瞼の背面にある涙腺で作られ、涙点1,1’という穴に流れて涙嚢2に集まった後、鼻涙管3を通って鼻道(鼻)から排出されるようになっている(図1(a))。
【0004】
鼻涙管3は、眼から鼻に通る排出路であり、鼻涙管3が狭くなったり、塞がったり、或いは涙排出機能が低下して涙が鼻から排出されず、外部にあふれる疾患を、流涙症(epiphora)という。先天的な場合と後天的な場合があるが、特に、小児の涙流症は、先天的鼻涙管3の閉塞による場合が多い。鼻涙管3の鼻側の端部の膜が開かないことによる場合が多く、生まれた直後から症状があり得る。成人の場合、通常、慢性炎症や高齢などの原因から涙道が後天的に閉塞することが知られているが、涙道の解剖学的閉塞はないが、涙を排出する機能が低下して流涙症が発生する機能的閉塞がそれに当たる(図1(b))。
【0005】
最近では、環境の変化によって涙が過多に生成されて涙流症が発生する場合が増加している。眼球乾燥症患では、外出時に風のような刺激によって反射的に涙が多く分泌されることがあり、アレルギーを含む各種結膜炎や角膜疾患、眼瞼炎、眼瞼内反などによって眼への刺激が多い場合に生じることがある。
【0006】
このような症状を治療するための方法として、塞がったり狭くなった鼻涙管を広げるように、涙の下降する道にシリコンチューブを挿入し、一定期間後に除去する方法、又は鼻涙管が完全に塞がった場合には、涙嚢鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy)で涙道を新しく作ってシリコンチューブを挿入し、一定期間後に除去する方法などの涙道形成術が施されている。
【0007】
一般に、涙道形成術に用いられる鼻涙管挿入用機構は、可撓性のチューブの両端に金属製の棒状プローブを接続した構造になっている。このような従来技術による鼻涙管挿入用機構は、涙が出入可能な通路がないため、チューブが人体に挿入された状態では涙が十分に排出されない問題があった。
【0008】
すなわち、涙道形成術を施す場合、少なくとも3ヵ月、多くは6ヵ月以上チューブを人体に挿入していなければならないが、チューブが挿入されている状態では、チューブが涙排出通路の大部分を占めているため、生成された涙が、チューブと涙道との間の狭い通路から排出されるしかない。このため、涙が円滑に排出されず、溜まりやすくなるため、炎症発生の確率が高く、それによる感染危険性も上がるという問題があった。
【0009】
一方、最近では、人体の血管や臓器などに適用するための生体適合性の合成高分子に対する研究が活発に行われている。
【0010】
より具体的に、人体の血管や臓器などに適用するための合成高分子としては、ポリ乳酸(poly(lactic acid),PLA)、ポリグルコール酸(poly(glycolic acid),PGA)、乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolic acid),PLGA)、ポリ-ε-カプロラクトン(poly(ε-caprolactone),PCL)などがある。
【0011】
中でも、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)は、生体適合性であり、形状記憶高分子(SMPs)形態で光架橋及び化学的変形が可能な生体医学アプリケーションのための米国FDA承認を受けた生分解性高分子として知られている。
【0012】
しかしながら、その融点(Tm)は45~65℃であり、生理学の応用機構など(37℃)に適用するには温度が高すぎる。このため、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)のような形状記憶高分子は、治療の臨床的能力を制限している実情である。しかも、治療目的のための他の形状記憶高分子の使用は、メタクリル塩の機能化段階又はモノマーの合成段階などが要求されるため、制限的であった。
【0013】
したがって、比較的非侵襲性であり、人体適用時に苦痛がなく、低費用の形状記憶高分子の開発が必要な実情であり、特に、人工鼻涙管などに用い得るような適切な融点を有する医療機器又は素材として使用可能な形状記憶高分子の開発が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前述した問題点を解決するためのものであり、生体移植に適合した融点を有する形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材を提供しようとする。
【0015】
さらに、本発明は、人体への挿入が容易な鼻涙管挿入用部材を提供しようとする。
【0016】
また、本発明は、形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材の製造方法を提供しようとする。
【0017】
また、本発明は、形状記憶高分子の鼻涙管挿入用部材の用途を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、
本発明の実施例において、
下記化学式1で表される形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材を提供する:
【0019】
【化1】
【0020】
上記化学式1において、
、R及びRは、それぞれ独立に水素(H)又は炭素数1~6のアルキル基であり、
m及びnは、それぞれ独立に1~20の整数であり、
A、B及びBは、それぞれ独立に酸素(O)又は硫黄(S)であり、
x及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+yは100であり、xは80~95である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材は、架橋が可能な官能基が含まれた形状記憶高分子を含むことによって、生体移植に適合した融点を有する鼻涙管挿入用部材を提供することができる。
【0022】
特に、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材は、形状記憶高分子を含むことによって、鼻涙管に容易に挿入され、特に、狭窄/又は閉塞した鼻涙管内に適用され、前記部位での拡張及び表面を通じて涙を円滑に排出させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】鼻涙管を説明するための図である((a)正常状態、(b)鼻涙管が狭窄した状態)。
図2】本発明に係る鼻涙管挿入用部材の形態変化過程を示す図である((a)初期形態、(b)臨時形態(変形された状態)、(c)永久形態(回復した状態))。
図3】本発明に係る鼻涙管挿入用部材の形態変化過程を示す図である((a)初期形態、(b)臨時形態(変形された状態)、(c)永久形態(回復した状態))。
図4】本発明に係る鼻涙管挿入用部材を人体に適用する時の実施様態を示す図である((a)臨時形態(変形された状態)、(b)永久形態(回復した状態))。
図5】本発明の実施例1-1で製造された形状記憶高分子のH NMRスペクトルとGPCを分析した結果を示す図である(94%PCL-co-6%PGMA)。
図6】本発明の実施例1-2で製造された形状記憶高分子のH NMRスペクトルを分析した結果を示す図である(92%PCL-co-8%PGMA)。
図7】本発明の実施例1-3で製造された形状記憶高分子のH NMRスペクトルを分析した結果を示す図である(90%PCL-co-10%PGMA)。
図8】本発明の実施例1-4で製造された形状記憶高分子のH NMRスペクトルを分析した結果を示す図である(88%PCL-co-12%PGMA)。
図9】本発明によって製造された実施例1-1と比較例1の高分子にUV処理後に現れる現象を比較した図である。
図10】本発明によって製造された実施例1-1と比較例1のDSC分析を示すグラフである。
図11】本発明によって製造された実施例1-1と比較例1の高分子にUV処理した後のDSC分析を示すグラフである。
図12】本発明によって製造された実施例2-1~2-4と比較例2の特性を示すグラフである((a)DSC分析、(b)GPC分析)。
図13】低温で変形された形状記憶高分子の材料が、変形温度条件下で初期の状態に復元された状態を示す図である((a)初期状態、(b)低温で変形された状態、(c)回復した状態)。
図14】本発明の形状記憶高分子の接触角を示す図である((a)架橋前、(b)架橋後)
図15】L929細胞を、対照群と実施例1で合成した形状記憶高分子(94%PCL-co-6%PGMA)のフィルム上で培養した後、その細胞の生存性を測定した結果を示すグラフである。
図16】TCPS、PCL及び94%PCL-co-6%PGMAの素材でのHNEsの付着%及び生長%を示す図である((a)HNEsの付着%、(b)HNEsの生長%)。
図17】実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材が変形温度条件下で初期の状態に復元される過程を示す図である((a)初期状態、(b)変形された状態、(c)回復した状態(40℃))。
図18】実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材が変形温度条件下で初期の状態に復元される過程を示す図である((a)初期状態、(b)変形された状態、(c)変形された状態(常温)、(d)回復した状態(40℃))。
図19】(a)は、実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材とシリコンで製造した鼻涙管挿入用部材を正常ウサギの鼻涙管に挿入した状態を示す図、(b)は、前記鼻涙管挿入用部材を挿入して2週後に組織反応を示す写真である((左)本発明の鼻涙管挿入用部材、(右)シリコン)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、様々な変更が可能であり、様々な実施例を有することができるところ、特定実施例を図面に例示し、具体的な内容を詳細に説明するものとする。
【0025】
しかし、これは、本発明を特定の実施形態に限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物又は代替物を含むものとして理解すべきである。
【0026】
本発明において、“含む”、“有する”又は”構成する”などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたものが存在することを指定するためのものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性をあらかじめ排除しないものと理解すべきである。
【0027】
また、本発明で添付された図面は、説明の便宜のために拡大又は縮小して示されているものと理解すべきである。
【0028】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明し、図面の番号に関係なく同一の又は対応する構成要素には同一の参照番号を付し、その重複説明は省略するものとする。
【0029】
本発明において、“鼻涙管(nasolacrimal duct)”とは、上顎骨又は涙骨によって作られる骨性の鼻涙管内にある膜性の管である。涙嚢よりも大きく、前内側に降りて下鼻道の前に開く(泣くと鼻をすする理由となる。)。多列円柱上皮であるが、固有層には海綿状の静脈叢がある。鼻涙管の閉塞は、鼻涙管が狭くなったり塞がることであり、これによって、涙の排出機能が低下して涙が鼻から排出されず、外部にあふれる疾患を流涙症という。先天的な場合と後天的な場合があるが、特に、小児の涙流症は、先天的鼻涙管閉塞による場合が多い。鼻涙管の鼻側の端部の膜が開かないことによる場合が多く、生まれた直後から症状があり得る。成人の場合、通常、慢性炎症や高齢などの原因から涙道が後天的に閉塞することが知られているが、涙道の解剖学的閉塞はないが、涙を排出する機能が低下して流涙症が発生する機能的閉塞がそれに属する。最近では、環境の変化によって涙が過多に生成されて涙流症が発生する場合が増加している。眼球乾燥症患では、外出時に風のような刺激によって反射的に涙が多く分泌されることがあり、アレルギーを含む各種結膜炎や角膜疾患、眼瞼炎、眼瞼内反などによって眼への刺激が多い場合に生じることがある。
【0030】
流涙症の大部分が解剖学的異常を伴わない鼻涙管閉塞であるので、非手術的治療として薬物やガイダー(チューブ)を挿入して鼻涙管を開通させる治療が行われる。
【0031】
すなわち、本発明は、上述した鼻涙管閉塞/狭窄の治療のための鼻涙管挿入用部材を提供しようとする。
【0032】
本発明において、“鼻涙管挿入用部材”とは、前記鼻涙管閉塞の場合に、鼻涙管内に挿入されて鼻涙管を開通させるための部材を意味し、人工的に作った鼻涙管でよい。
【0033】
本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材は、形状記憶高分子を含むことを特徴とし得る。
【0034】
ここで、“形状記憶高分子(SMP,shape memory polymer)”とは、初期の高分子形態を‘記憶’し、適切な刺激によって変形された形態から本来の形状に復する高分子を意味する。言い換える、形状記憶高分子は、(1)加工処理によって永久形状(初期形態)が与えられ、(2)低温で臨時形状に変形(temporary shape)され、(3)外部刺激(温度)によって再び元来の永久形状に回復する、3段階を経る高分子を意味する。
【0035】
本発明において、前記刺激は‘温度’でよく、具体的に、形状記憶高分子は、転移温度(ガラス転移温度又は融点)以上の温度に加熱するとき、元来の形態に戻り得る。すなわち、本発明において、“融点”は、高分子の融点を意味するのではなく、形状記憶高分子が元来の形態(初期形態)に戻る温度を意味できる。
【0036】
一方、本発明の一実施例に係る形状記憶高分子の融点は、平均で30~48℃でよく、これを架橋する場合、融点は低くなってよい。具体的に、架橋後の形状記憶高分子の融点は、平均で28~42℃でよい。すなわち、本発明の鼻涙管挿入用部材は、上述の形状記憶高分子を含むことによって、平均で28~42℃の以上の温度で元来の形態(初期形態)に戻ることができる。ただし、28~42℃の以上の温度で変形するものの、この温度がタンパク質変性温度である50℃を超えてはならない。例えば、形成記憶高分子が変形される温度は、28~42℃の範囲、又はこの範囲以上、且つ50℃未満とすることができる。これによって、本発明に係る鼻涙管挿入用部材は、生体移植に適合可能である。ここで、架橋は、光架橋又は熱架橋でよい。一例として、合成した形状記憶高分子に光架橋反応を誘導することによって、鼻涙管挿入用部材に形態を付与でき、形状記憶高分子の融点を28~42℃に下げることができる。
【0037】
さらに、形状記憶高分子において、“変形率”とは、臨時形態(temporary shape)から初期形態に復元されて永久形態(permanent shape)に保持されるとき、形状がどれくらい変わるかに対する比率であり、臨時形態から永久形態に変わる比率を意味する。なお、“変形回復率”とは、臨時形態から、物理的な力によって変形される前の初期原形の形態に復元される時の回復比率であり、初期形態と永久形態との比率を意味できる。本発明において、変形率は、形状記憶高分子に含まれる単量体の比率又は条件(温度、UVなど)によって変わり、具体的に、5~350%でよい。なお、変形回復率は、90%以上でよい。
【0038】
なお、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材は、生分解性形状記憶高分子からなってよい。ここで、“生分解性”とは、自然系に存在する微生物が分泌する酵素によって分解される性質であり、生体に適用すれば炎症反応をほとんど起こさず、生体内に分解される特性を意味する。また、“生分解性形状記憶高分子”とは、経時とともに人体内で分解されて人体に吸収され、温度変化によって形態変形が可能な高分子物質を意味する。すなわち、温度変化によって形態が変形可能な形状記憶高分子のうち、生分解性を有する高分子物質のことを意味する。
【0039】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0040】
本発明は、生体移植に適合した融点を有する形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材を提供しようとする。
【0041】
特に、本発明の鼻涙管挿入用部材は、形状記憶高分子を含み、直径が縮まった臨時形態(temporary shape)で鼻涙管に挿入させることができ、挿入後に、臨時形態(temporary shape)から初期形態に復元されながら前記鼻涙管挿入用部材の直径が増加することになる。これによって、前記鼻涙管挿入用部材は、閉塞又は狭窄した鼻涙管を広げて涙を容易に排出させることができる。
【0042】
さらに、本発明の鼻涙管挿入用部材は生分解性であるため、手術後に、再手術によって前記挿入用部材を除去する過程を省くことができる。
【0043】
本発明は一実施例において、
下記化学式1で表される形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材を提供する:
【0044】
【化2】
【0045】
前記化学式1において、
、R及びRは、それぞれ独立に水素(H)又は炭素数1~6のアルキル基であり、
m及びnは、それぞれ独立に1~20の整数であり、
A、B及びBは、それぞれ独立に酸素(O)又は硫黄(S)であり、
x及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+yは100であり、xは80~95である。
【0046】
具体的に、
前記化学式1において、
、R及びRは、それぞれ独立に水素(H)又はメチル基(CH-)であり、
m及びnは、それぞれ独立に3~12の整数であり、
A、B及びBはいずれも酸素(O)であり、
x及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+y=100であり、xは88~94である。
【0047】
より具体的に、
前記化学式1において、
、R及びRは、それぞれ独立に水素(H)であり、
m及びnは、それぞれ独立に5~6の整数であり、
A、B及びBは、それぞれ独立に酸素(O)であり、
x及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+y=100であり、xは88~94である。
【0048】
前記化学式1は、下記化学式2で表すことができる:
【0049】
【化3】
【0050】
前記化学式2において、
m及びnは、それぞれ独立に1~20の整数であり、
x及びyは、反復単位のモル%を表し、
x+yは100であり、xは80~95である。
【0051】
本発明に係る形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジル基を含むアクリル単量体とが重合された共重合体の構造を有することができる。例えば、前記形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン単量体(CL;caplolactone)とグリシジルメタクリレート(GMA)とを重合した共重合体[PCL-co-PGMA)]の構造を有することができる。
【0052】
上述の本発明に係る形状記憶高分子において、ε-カプロラクトン単量体とアクリル単量体は、配列順序が特に制限されず、交互、ランダム又はブロックに配列されてよい。
【0053】
また、前記化学式1又は2の単位を含む共重合体の末端には、ヒドロキシ基などが結合していてもよい。このように末端にヒドロキシ基が結合している共重合体は、末端にヒドロキシ基が結合している開始剤などを用いて重合することによって製造することができる。
【0054】
さらに、アクリル単量体に含まれるグリシジル基は、架橋性官能基でよく、光架橋性官能基又は熱架橋性官能基でよい。
【0055】
一方、本発明の一実施例に係る形状記憶高分子をなしているε-カプロラクトン単量体とグリシジル基を含むアクリル単量体量によって融点などを調節することができる。
【0056】
より具体的に、前記化学式1又は2において、x及びyは、反復単位のモル%を表し、x+yは100であり、xは80~95、又は88~94でよい。
【0057】
ここで、モル%とは、x及びyの反復単位の比率を意味し、具体的に、モル分率(ratio)を意味できる。一例として、PCL-co-PGMAにおいてPCLとPGMAの反復単位のモル分率を意味できる。
【0058】
参考として、前記化学式1において、xが80未満である場合は、形状記憶高分子の架橋後の融点が28℃未満と下がり、常温における形状変形によって人体に適用し難くなることがあり、xが95を超える場合は、架橋後の融点が42℃を超え、形状復元のための形状記憶高分子の相転移温度も上がり、人体温度(37℃)に適用し難くなることがある。
【0059】
このため、形状記憶高分子の融点は30~48℃でよく、これを架橋すると融点はそれよりも低くなる。
【0060】
より具体的に、架橋後の形状記憶高分子の融点は、平均で28~42℃でよい。
【0061】
参考として、上述したように、架橋された形状記憶高分子の融点が28℃未満である場合は、常温で材料の形態変形が起きるため、生理学の応用機構としての適用に限界があり、42℃を超えると、変形回復率が90%以下となり、材料の形状記憶能力が低下する問題があり得る。
【0062】
特に、本発明の架橋後の形状記憶高分子は、体温の温度を含む28~42℃の温度で90%以上の変形回復率を示すので、本発明の鼻涙管挿入用部材のような生理医学応用機構又は医療用素材などに様々な適用が可能である。
【0063】
一方、上述の形状記憶高分子は、生分解性形状記憶高分子でよい。より具体的に、“生分解性形状記憶高分子”は、経時とともに人体内で分解されて人体に吸収され、温度変化によって形態変形が可能な高分子物質であり、温度変化によって形態が変形されつつ人体内で分解されて吸収が可能な高分子を意味する。例えば、前記生分解性形成記憶高分子は、架橋前と架橋後に関係なく生分解性形状記憶高分子であってよい。
【0064】
特に、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材が生分解性形状記憶高分子からなることにより、人体鼻涙管の物理的変形ではなく鼻涙管挿入用部材の外形的変形を与え、鼻涙管の物理的変形による涙の流れに悪影響を与え得る様々な原因を最小化させることができる。なお、人体内で半永久的に残存する物質から構成された鼻涙管挿入用部材を用いて手術する場合に再手術によって挿入用部材を除去すべき過程を省略できるという利点がある。
【0065】
これに制限されるものではないが、化学式1で表される形状記憶高分子は、化学式3の化合物、化学式4の化合物、及び化学式4の化合物を反応させて化学式1の形状記憶高分子を重合することを含む段階によって製造することができる。
【0066】
【化4】
【0067】
前記化学式3~5において、
、R及びRは、それぞれ独立に水素(H)又は炭素(C)数1~6のアルキル基(C2n+1-)であり、
m及びnは、それぞれ独立に1~20の整数であり、
A、B及びBは、それぞれ独立に酸素(O)又は硫黄(S)である。
【0068】
上述したように、本発明に係る形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジル基を含むアクリル単量体とが重合された共重合体の構造を有することができる。例えば、前記形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン単量体(CL;caprolactone)とグリシジルメタクリレート(GMA)とを重合した共重合体[PCL-co-PGMA)]の構造を有することができる。
【0069】
このとき、前記化学式5の化合物は、重合反応をするために用いられる開始剤でよく、一例として、1,6-ヘキサンジオールを開始剤として使用することができる。特に、重合反応時に、化学式3の化合物と化学式4の化合物が、化学式5の化合物を基準に縮合重合され、化学式5の化合物を基準に交互、ランダム又はブロックに配列されてよい。
【0070】
一例として、共重合体[PCL-co-PGMA)]の構造を有する形状記憶高分子の製造方法は、まず、単量体であるε-カプロラクトン(CL)とグリシジルメタクリレート(GMA)を適当なモル比で混合し、ここに触媒化合物を添加した後、反応温度80~140℃で反応させる。
【0071】
そして、熱的に安定になったと判断されると、開始剤を添加した後に共重合反応を施し、その後、重合物を洗浄及び濾過によって精製して乾燥させ、化学式1の形状記憶高分子を製造することができる。
【0072】
一例として、本発明の一実施例に係るPCL-co-PGMAの形状記憶高分子の重合メカニズムは、次の通りである。
【0073】
【化5】
【0074】
このように、本発明の一実施例に係る形状記憶高分子の製造方法は、単量体としてε-カプロラクトン(CL)とグリシジルメタクリレート(GMA)とを共重合反応させる段階を含む。
【0075】
なお、触媒は、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、スズ(II)(2-エチルヘキサノエート)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチロプロパントリス(3-メルカプトプロピオーネト)(trimethylopropane tris(3-mercaptopropionate))、又はコハク酸亜鉛(Zinc succinate)でよく、一例として、TBDは、高い収率と少ない使用が可能な点で、触媒に使用可能である。
【0076】
触媒の使用量は、制限されないが、出発物質に対して0.5~1モル(mol)を使用するとよい。
【0077】
特に、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)は、両モノマー(CL、GMA)の同時開環重合を誘導するための物質であり、形状記憶高分子の合成時間を短縮できるという効果がある。
【0078】
重合転換率がほとんどない時点、すなわち、初期反応時に、HD開始剤と同時に重合抑制剤を、GMAモノマーを入れる前に投入することで、温度に敏感なGMAアクリル基間の反応を抑制させることができる。
【0079】
これに加えて、重合抑制剤は、重合後半に局部的に発生する発熱反応の抑制と未反応残留ラジカルを除去して反応を終結させる役割を担うものであり、特に限定されないが、ハイドロキノン(HQ;hydroquinone)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(hydroquinone monomethyl ether)、パラ-ベンゾキノン(p-benzoquinone)及びフェノチアジン(phenothiazine)からなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0080】
このとき、形状記憶高分子を合成する段階は、平均で80~140℃、又は100~130℃で合成することができる。より具体的に、100℃未満で高分子合成が行われると、触媒反応が進まないことがあり、130℃を超えた温度で高分子合成が行われると、触媒反応速度が遅くなる問題があり得る。
【0081】
このような形状記憶高分子に対して架橋結合を行う。架橋結合は、形状記憶高分子を安定した形状に保持させるための段階である。具体的に、架橋結合は化学的架橋を意味でき、架橋された高分子では、個々の高分子鎖が共有結合となっており、前記形状記憶高分子を安定した形状に保持させることができる。
【0082】
架橋結合は、形状記憶高分子を安定した形状に保持させるためのものであり、初期形態(形状復元後の形態と同じ形態)を付与することができる。すなわち、架橋結合は、形状記憶高分子の合成時になされるものではなく、初期形態の付与時になされてよい。例えば、鼻涙管挿入用部材の製造時に、形状記憶高分子を溶解した後、その高分子溶液をモールドに注ぐことができるが、形状記憶高分子の溶解時に架橋剤を添加し、モールドで架橋反応を誘導することができる。
【0083】
特に、合成した形状記憶高分子に光架橋反応を誘導することによって、融点をさらに下げることができ、一例として、320~500nmの紫外線(UV,ultraviolet)を照射して架橋結合を誘導すれば、形状記憶高分子の融点を28~42℃の温度に下げることができる。例えば、化学式1の形状記憶高分子に320~500nmの紫外線(UV,ultraviolet)を照射することができ、このような場合、化学式1に含まれる官能基であるグリシジル基が隣接のグリシジル基と反応して共有結合ができる。
【0084】
さらに、本発明は一実施例において、
上述の形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材を提供する。以下、図2図4を参照して、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材を詳細に説明する。
【0085】
図2及び図3は、本発明に係る鼻涙管挿入用部材の形態変化過程を示す図であり((a)初期形態、(b)臨時形態(変形された状態)、(c)永久形態(回復した状態))、図4は、本発明に係る鼻涙管挿入用部材を人体に適用する時の実施様態を示す図である((a)臨時形態(変形された状態)、(b)永久形態(回復した状態))。
【0086】
図2及び図3を参照すると、本発明に係る鼻涙管挿入用部材10は、鼻涙管3の内側に挿入され、チューブ(tube)形態でよい。例えば、前記チューブ形態の鼻涙管挿入用部材は、両端が開いたチューブ形であってもよく(図2)、又は内部が塞がっている形態であってもよい(図3)。
【0087】
一例示として、両端が開いた鼻涙管挿入用部材10は、閉塞又は狭窄した鼻涙管内部に適用され、前記鼻涙管内部を拡張させることができ、これによって涙を円滑に排出させることができる(図2)。
【0088】
他の例示として、内部が塞がっているチューブ形の鼻涙管挿入用部材は、鼻涙管内部を拡張させ、前記鼻涙管挿入用部材の外部表面に沿って涙を排出させることができる。或いは、チューブ内部を通じて涙の排出を抑制させることができ、チューブ内部の直径を変化させ、排出する涙の量を調節することができる(図3)。
【0089】
鼻涙管挿入用部材10は、チューブ形態でよく、形状記憶高分子からなっているため、平均で28~42℃以上の温度で鼻涙管3の内径にしたがって形態が変形され、平均で28~42℃以上の温度で平均で0.4~1.2mmの直径を保持することができる。例えば、前記形状記憶高分子の融点は、28~42℃、30~41℃、32~40℃、34~39℃又は36~37℃の温度範囲でよく、前記融点以上の温度で形態が変わり得る。具体的に、鼻涙管3の形態にしたがって形態が変形され得る。すなわち、前記融点範囲以上の温度で0.4~1.2mm、0.5~1.0mm、0.6~0.9mm、0.7~0.8mmの直径が保持できる。ただし、28~42℃の以上の温度で変形するものの、前記温度がタンパク質変性温度である50℃を超えてはならない。例えば、形成記憶高分子が変形される温度は28~42℃範囲、又はこの範囲以上でよく、且つ50℃未満でよい。
【0090】
より具体的に、鼻涙管挿入用部材は、化学式1の形状記憶高分子からなるものであり、、物理的な力によって変形される前の臨時形態から、28~42℃の温度以上で初期形態に復元されることにより、適用される鼻涙管内部で鼻涙管内径に固定され、狭窄又は閉塞した鼻涙管を拡張させることができる。ここで、物理的な力とは、鼻涙管挿入用部材の初期形態から臨時形態に変形される時に外部刺激を意味でき、これは、温度、光などの刺激でよく、又は融点以上での機械的な力でよい。
【0091】
一方、28~42℃以上の温度で初期形態に復元されるように形成させることは、人体内部に本発明の鼻涙管挿入用部材の施術した時、体内で自発変形が起きるように誘導するためである。すなわち、体温に近い温度である36~38℃での自発変形を保障するためである。
【0092】
一方、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材10は、生分解性形状記憶高分子でよい。
【0093】
より具体的に、“生分解性形状記憶高分子”とは、上述したように、経時とともに人体内で分解されて人体に吸収され、温度変化によって形態が変形可能な高分子物質であり、温度変化によって形態が変形され、人体内で分解されて吸収が可能な高分子を意味する。
【0094】
特に、前記鼻涙管挿入用部材10が生分解性形状記憶高分子からなることにより、人体鼻涙管3の物理的変形ではなく前記鼻涙管挿入用部材10の外形的変形を与え、鼻涙管3の物理的変形による涙液の流れに悪影響を与え得る様々な原因を最小化させることができる。なお、人体内で半永久的に残存する物質から構成された鼻涙管挿入用部材10を用いて手術する場合、再手術によって挿入用部材10を除去する過程が省略できるという利点がある。
【0095】
上述の生分解性形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材10を鼻涙管3の狭窄部位に適用すると、炎症、鼻涙管上皮細胞の損傷又は異物反応無しで前記鼻涙管3の損傷部位(狭窄又は閉塞部位)を拡張させることができ、前記鼻涙管挿入用部材10の生分解性及び再生効果を向上させ、閉塞又は狭窄した鼻涙管3を効果的に治癒することができる。
【0096】
なお、本発明は、形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材の製造方法を提供する。例えば、前記鼻涙管挿入用部材は、チューブ形態でよく、チューブ形状のモールドを用いて鼻涙管挿入用部材を製造することができる。より具体的に、溶媒に化学式1の形状記憶高分子と開始剤を溶解させて反応物を準備した後、チューブ形態のモールド内に前記反応物を注ぎ、架橋させる段階を含んで製造することができる。前記モールドは、ガラス又はPDMS材質でよく、これは、架橋のための光の透過性を高めるためである。
【0097】
このとき、温度は、常温で反応させることができる。例えば、15~25℃で反応させることができ、17~23℃、19~21℃又は20℃で反応させることができる。万一、反応温度がこれらの温度を超えると、気泡発生によって、製造される鼻涙管挿入用部材に予想せぬ多孔構造ができることがあり、温度を下げるために冷却器(chiller)を使用することもあり得る。
【0098】
このとき、用いられる溶媒は、ジメチルエーテル(diethyl ether)、クロロホルム(chloroform)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、ジクロロメタン(dichloromethane)、エチルアセテート(ethyl acetate)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、アセトン(acetone)、アセトニトリル(acetonitrile)、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide)、N,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide)、N-メチルピロリドン(Nmethylpyrrolidone)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)、アセトニトリル(acetonitrile)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、ジエチルケトン(diethyl ketone)からなる群から選ばれる一つ以上でよい。
【0099】
前記開始剤は、光開始剤でよく、紫外線照射によってラジカルを形成できるものであり、水溶液上で活用可能なDMPA(2,2-dimethoxy-2-phenylacetonephenone)、HOMPP(2-hydroxy-2-methylpropipphenone)、LAP(Lithium phenyl-2,4,6-trimethylbenzoylphosphinate)、IRGACURE 2959(1-[4-(2-Hydroxyethoxy)-phenyl]-2-hydroxy-2-methyl-1-propane-1-one)からなる群から選ばれるものでよいが、これに限定されない。開始剤は、溶媒に対して0.1~0.5w/v%、0.2~0.4w/v%、又は0.3w/v%を含むことができる。光開始剤の濃度が低すぎると、光重合反応が効率的に進まなく、光開始剤の濃度が高すぎると、形状記憶高分子特性の消失が観察されることがある。
【0100】
なお、前記溶媒に対して、形状記憶高分子は、30~300w/v%が含まれてよく、30~270w/v%、35~240w/v%、40~210w/v%、45~170w/v%、50~140w/v%、50~100w/v%、65~90w/v%、又は75w/v%でよい。
【0101】
以下では、チューブ形態の鼻涙管挿入用部材の形態変化過程及び鼻涙管に挿入される過程を説明する。まず、初期形態(original shape)(図2(a))の鼻涙管挿入用部材を、融点以下で両側から物理的力(張力)を加えて延伸させれば、鼻涙管挿入用部材の長さ方向に伸張しつつ外径が縮み、挿入しようとする鼻涙管に挿入可能な臨時形態(temporary shape)に変形される(図2(b))。参考として、鼻涙管挿入用部材は、涙点から挿入させることができる。
【0102】
このとき、臨時形態に保持された鼻涙管挿入用部材を鼻涙管内に挿入した後、徐々に昇温させて、転移温度以上の温度(約28~42℃)温度になるように熱を加えると、鼻涙管挿入用部材は物理的力によって変形される前(張力を加える前)の初期形態に復元され、永久形態(permanent shape)を保持できる。すなわち、前記鼻涙管挿入用部材が前記鼻涙管内で長さ方向に収縮しながらその外径が増加し、前記鼻涙管挿入用部材の外周面が前記鼻涙管内部に密着した状態の前記永久形態に固定されることで、鼻涙管挿入用部材の挿入がなされる。
【0103】
形状記憶高分子において、“変形率”とは、臨時形態(temporary shape)から初期形態に復元されて永久形態(permanent shape)に保持されるとき、形状がどれくらい変わるかに対する比率であり、臨時形態から永久形態に変わる比率を意味する。なお、“変形回復率”とは、臨時形態から、物理的な力によって変形される前の初期原形の形態に復元される時の回復比率であり、初期形態と永久形態との比率を意味できる。本発明において、変形率は、形状記憶高分子に含まれる単量体の比率又は条件(温度、UVなど)によって変わり、具体的に、5~350%でよい。なお、変形回復率は、90%以上でよい。
【0104】
一方、前記鼻涙管挿入用部材の長さは、永久状態のとき、すなわち、平均で28~42℃以上の温度で、10~50mmでよく、15~45mm、20~40mm又は25~30mmでよい。なお、鼻涙管挿入用部材の内径は、鼻涙管への移植前は0.2~0.7mmでよく、移植後には平均で28~42℃以上の温度で0.4~1.2mmでよい。一例として、鼻涙管挿入用部材の内径は、鼻涙管に移植前には0.5mmでよく、移植後には1.0mmでよい。変化の程度は、高分子の組成、架橋時間、架橋時UVエネルギーなどを制御することによって調節できる。
【0105】
なお、平均で28~42℃の以上の温度で、鼻涙管挿入用部材の断面厚さは50~200μmでよく、好ましくは、100~200μm又は100μmでよい。一例として、鼻涙管挿入用部材の断面厚さを前記範囲に設定することによって、涙液(涙)を円滑に排出することができる。
【0106】
さらに、鼻涙管挿入用部材の製造時に、溶媒の体積に対して上述の形状記憶高分子の重量比率を調節することによって、鼻涙管挿入用部材の強度(Young’s modulus)、架橋度、融点などを調節することができる。
【0107】
具体的に、前記溶媒に対して形状記憶高分子を50~100w/v%に制御し、前記強度を0.039~0.317MPa、0.1~0.3MPa、0.15~0.25MPa、0.17~0.2MPaにすることができる。一例として、鼻涙管挿入用部材として強度は0.03~0.3MPaが好ましく、形状記憶高分子が50~200w/v%のとき、前記強度が維持できる。
【0108】
このように、本発明の一実施例に係る鼻涙管挿入用部材は、鼻涙管の内部で適用される内径の形態にしたがって変形される構造体を提案することによって、従来の鼻涙管挿入用部材による挿入過程に比べて遥かに簡単で便利であり、手術時間を短縮できる他、挿入手術過程で発生し得る誤りが減り、手術安全性を高めることができるという長所がある。
【0109】
以下、本発明を実施例及び実験例を用いてより詳細に説明する。
【0110】
ただし、下記の実施例及び実験例は本発明を例示するためのもので、本発明の内容が下記の実施例及び実験例に限定されることはない。
【0111】
<実験準備>
1.試料及び機構
ε-カプロラクトン(CL;caprolactone)、ハイドロキノン(HQ;Hydroquinone)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、グリシジルメタクリレート(GMA;Glycidyl methacrylate)、アセトニトリル(Acetonitrile)、クロロホルム(Chloroform)、ジクロロメタン(Dichloromethane)、ジエチルエーテル(Diethyl ether)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(2,2-Dimethoxy-2-phenylacetophenone)及び1,6-ヘキサンジオール(HD;1,6-Hexanediol)は、Sigma-Aldrich社から購入した。
【0112】
一方、融点及び融解熱は、TA Instrument社の時差走査熱量分析器(DSC;Differential Scanning Calorimetry)装備を用いて、アルミニウムファン内に5~10mgのサンプル質量で測定した。そして、ランプの速度は、10℃/minで3分等温を含めて、-80℃から100℃まで1回反復して測定した。
【0113】
なお、数平均分子量(Mn;number-average of molecular weight)は、SHIMADZU社のゲル透過クロマトグラフィー(GPC;Gel Permeation Chromatography)装備を用いて測定し、このとき、用いられたカラムは、Shodex 802、803、804であり、使用された溶媒はクロロホルムであり、流速は1.0mL/minで測定した。
【0114】
また、高分子UV架橋は、Lumen Dynamics社の紫外線/可視光線架橋装備を用いて測定し、このとき、用いられた強度は14W/cmであり、測定時間は10分であった。
【0115】
実施例1.PCL-co-PGMA形状記憶高分子の合成
1-1. 94%PCL-co-6%PGMAの合成
1-1-1. 94%PCL-co-6%PGMAの合成
94%PCL-co-6%PGMAを合成するために、[CL]/[GMA]/[HD]/[TBD]/[HQ]=90/10/1/1/0.5の反応物投入比で次のように合成した(表1参照)。
【0116】
【表1】
【0117】
まず、ガラス反応器(250ml)にCL(90mmol、9.97ml)、HD(0.5mmol、60mg)とHQ(1mmol、110mg)を入れて混合し、10分後にGMA(10mmol、1.36ml)を前記ガラス反応器に注入した。
【0118】
そして、両モノマーを混合したガラス反応器内部の温度が熱的に安定になったと判断されると、CLとGMAの同時開環重合を誘導するための触媒としてTBD(1mmol、140mg)をアセトニトリル1mlに溶解した後、ガラス反応器内に注入して2時間110℃で撹拌させた。全ての過程は高純度窒素下で行った。
【0119】
反応後に、反応物5gをクロロホルム10mlに溶解させ、ジエチルエーテル(400ml)に反応物を徐々に落としながら沈殿させた。次に、沈殿物を濾紙で濾過した後、回転蒸発器を用いて溶媒を除去し、減圧下で乾燥させてPCL-co-PGMA高分子を合成した。
【0120】
そして、合成された高分子の構成成分(PCLとPGMAの水素原子個数比によるPCLとPGMAの反復単位比)を、H NMR(nuclear magnetic resonance)を用いて測定し、測定結果を図10(a)に示した。
【0121】
図10(a)を参照すると、合成高分子化学的構造に基づくH NMR分析を用いてPCLとGMAの反復単位比(PCL:PGMA=15:1)の反復単位比率(%)を計算し、実施例1-1-1で94%PCL-co-6%PGMAを確認した。
【0122】
なお、図10(b)を参照して、94%PCL-co-6%PGMA(1-HD 0.5mmol、2-HD 0.25mmol)高分子のGPC分析を用いた分子量を確認した結果、目標値であるMw 10kDa以下レベルであることが確認でき、これは、開始剤の導入量調節によって容易に調節できると予想した。
【0123】
1-1-2. 94%PCL-co-6%PGMAの合成
反応後に反応物7.5gをクロロホルム10mlに溶解させた以外は、以降の重合方法は実施例1-1-1と同一である。
【0124】
1-1-3. 94%PCL-co-6%PGMAの合成
反応後に反応物10gをクロロホルム10mlに溶解させた以外は、以降の重合方法は実施例1-1-1と同一である。
【0125】
1-2. 92%PCL-co-8%PGMAの合成
92%PCL-co-8%PGMAを合成するために、[CL]/[GMA]/[HD]/[TBD]/[HQ]=86/14/1.4/1/0.5の反応物投入比で次のように合成した(表2参照)。
【0126】
【表2】
【0127】
以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0128】
そして、合成された高分子の構成成分(PCLとPGMAの水素原子個数比によるPCLとPGMAの反復単位比)をH NMR(nuclear magnetic resonance)を用いて測定し、測定結果を図6に示した。
【0129】
図6を参照すると、H NMR分析を用いてPCLとPGMAの反復単位比(PCL:PGMA=12:1)の反復単位比率(%)を計算し、実施例1-2反復単位比率は、92%PCL-co-8%PGMAを確認した。
【0130】
1-3. 90%PCL-co-10%PGMAの合成
90%PCL-co-10%PGMAを合成するために、[CL]/[GMA]/[HD]/[TBD]/[HQ]=82/18/1.8/1/0.5の反応物投入比で次のように合成した(表3参照)。
【0131】
【表3】
【0132】
以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0133】
そして、合成された高分子の構成成分(PCLとPGMAの水素原子個数比によるPCLとPGMAの反復単位比)をH NMR(nuclear magnetic resonance)を用いて測定し、測定結果を図7に示した。
【0134】
図7を参照すると、H NMR分析を用いてPCLとPGMAの反復単位比(PCL:PGMA=9:1)の反復単位比率(%)を計算し、実施例1-3反復単位比率は、90%PCL-co-10%PGMAを確認した。
【0135】
1-4. 88%PCL-co-12%PGMAの合成
88%PCL-co-12%PGMAを合成するために、[CL]/[GMA]/[HD]/[TBD]/[HQ]=78/22/2.2/1/0.5の反応物投入比で次のように合成した(表4参照)。
【0136】
【表4】
【0137】
以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0138】
そして、合成された高分子の構成成分(PCLとPGMAの水素原子個数比によるPCLとPGMAの反復単位比)をH NMR(nuclear magnetic resonance)を用いて測定し、測定結果を図8に示した。
【0139】
図8を参照すると、H NMR分析を用いてPCLとPGMAの反復単位比(PCL:PGMA=7:1)の反復単位比率(%)を計算し、実施例1-4反復単位比率は、88%PCL-co-12%PGMAを確認した。
【0140】
実施例2. PCL-co-PGMA形状記憶高分子の合成
[0CL]/[GMA]/[HD]/[TBD]/[HQ]を次のような反応物投入比にして高分子を合成した(実施例2-1~2-4)。
【0141】
【表5】
【0142】
より具体的に、実施例2-1~2-4では、ガラス反応器(250ml)にCL、HD及びHQを入れて混合した。そして、10分後にGMAを前記ガラス反応器に注入した(表5参照)。
【0143】
なお、両モノマーを混合したガラス反応器内部の温度が熱的に安定になったと判断されると、CLとGMAの同時開環重合を誘導するための触媒としてTBD(1mmol、140g)をアセトニトリル1mlに溶解してガラス反応器内に注入し、2時間110℃で撹拌させた。以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0144】
そして、実施例2-1~2-4で合成した高分子に14W/cm強度のUV光(320~500nm)を10分間照射して、人体に適用可能な形状記憶高分子を製造した。
【0145】
実施例3.狭窄した鼻涙管開通のための鼻涙管挿入用部材の製造
実施例1-1-1で製造した高分子を用いて鼻涙管挿入用部材を製造した。
【0146】
チューブ形態の鼻涙管挿入用部材を製造するために、チューブ形のモールドを準備し、高分子架橋のための光の透過性を高めるために、ガラス或いはPDMSからなる内/外壁モールドを準備した。このとき、内壁モールドの外径は0.3mm、長さは50mmであった。なお、外壁モールドの内径は0.8mmであり、長さは内壁モールドと同一にした。そして、内壁モールドを外壁モールド内に入れ、内壁モールドと外壁モールドとの間に空間が形成されたモールドを製造した。
【0147】
そして、前記反応物を内壁モールドと外壁モールドとの間の空間に注ぎ、UV架橋器内で架橋を行った。具体的に、前記モールド内部の高分子に290mW/cm強度のUV光(365nm)を照射し、鼻涙管挿入用部材を製造した。
【0148】
比較例1. PCL(ポリ-ε-カプロラクトン)重合
[0CL]/[HD]/[TBD]=100/0.5/1の反応物投入比で次のように重合した。
【0149】
ガラス反応器(250ml)にCL(100mmol、9.97ml)とHD(0.5mmol、60mg)を入れて混合した(表6参照)。
【0150】
【表6】
【0151】
そして、モノマーを混合したガラス反応器内部の温度が熱的に安定になったと判断されると、CLの開環重合を誘導するための触媒としてTBD(1mmol、140mg)をアセトニトリル1mlに溶解した後、ガラス反応器内に注入し、30分間110℃で撹拌させた。以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0152】
比較例2. PCL(ポリ-ε-カプロラクトン)重合-2
[0CL]/[HD]/[TBD]=100/0.5/0.5の反応物投入比で次のように重合した。
【0153】
ガラス反応器(250ml)にCL(100mmol、9.97ml)とHD(0.5mmol、60mg)を入れて混合した(表7参照)。
【0154】
【表7】
【0155】
そして、モノマーを混合したガラス反応器内部の温度が熱的に安定になったと判断されると、CLの開環重合を誘導するための触媒としてTBD(0.5mmol、70mg)をアセトニトリル1mlに溶解した後、ガラス反応器内に注入し、110℃で1時間撹拌させた。以降の重合方法は、実施例1-1-1と同一である。
【0156】
実験例1.実施例1で製造された形状記憶高分子の特性分析
1-1. UV架橋を用いた形状記憶高分子材料の製造
図9は、実施例1-1-1と比較例1で合成した高分子にUV(Ultraviolet ray)処理した後に現れる現象を比較した図である。
【0157】
図9を参照すると、実施例1-1で合成した高分子と比較例1で合成した高分子をそれぞれ光開始剤と10:1の体積比で混合した後、約400μLをそれぞれ透明なガラス容器に入れた。
【0158】
より具体的に、実施例1-1-1で合成した高分子と比較例1で合成した高分子はそれぞれジクロロメタン(dichloromethane)に50重量%分散させ、光開始剤はジクロロメタン(dichloromethane)に10重量%分散させ、これらの分散させた溶液を10:1の体積比で混合した。
【0159】
そして、ガラス容器に14W/cm強度のUV光(320~500nm)を10分間照射した。
【0160】
そして、UV処理された容器をひっくり返してみた。
【0161】
その結果、実施例1-1-1で製造した高分子は、底面に付いて離れないことから、UV処理時に改質されたアクリル基間の架橋によってゲルに架橋されたことが確認できたが、比較例1は、液体状態であって、物質の状態変化が起きていないことが確認できた。
【0162】
すなわち、実施例1-1-1で合成した高分子はUVによって架橋可能であることが確認できた。
【0163】
1-2. DSC分析-1
図10及び表8は、実施例1と比較例1のDSC分析を示すグラフ及び表である。
【0164】
より具体的に、高分子の成分及びデザイン変数が及ぼす物性を分析するために、時差走査熱量測定法(DSC,Differential scanning calorimetry)で測定した(Tm;melting temperature、βHm;melting enthalpy、Tc;crystallization temperature、βHc;crystallization enthalpy)。
【0165】
【表8】
【0166】
図10及び表8を参照して、融点を比較すれば、比較例1のPCLを単独で合成した時に比べて、実施例1で合成したPCL-co-PGMAの融点がより低くなったことが確認できた。
【0167】
1-3. DSC分析-2
図11及び表9は、実施例1-1-1と比較例1の高分子にUV処理した後のDSC分析を示すグラフ及び表である。
【0168】
【表9】
【0169】
図11及び表9を参照すると、比較例1のPCLを単独で合成したときに比べて、実施例1で合成したPCL-co-PGMAの融点がより低くなったことが確認でき、特に、実施例1で合成した高分子にUVを処理した後には融点が40.44℃であって、UVを処理しなかったときに比べて低くなったことが確認できた。
【0170】
実験例2. 実施例2-1~2-5、比較例2の特性分析
実験例2では、実施例2-1~2-4と比較例2で合成した高分子の融点を測定し、UV処理した形状記憶高分子のDSC分析とGPC分析を行った。
【0171】
その結果を、下記の図12及び表11に示した(図12(a)DSC分析、図12(b)GPC分析)。
【0172】
【表10】
【0173】
図12及び表10を参照して、実施例2-1~2-4と比較例2の特性を比較すれば、比較例2のようにPCLを単独で合成したときに比べて、実施例2-1~2-4で合成したPCL-co-PGMAの融点がより低くなったことが確認できた。
【0174】
特に、GMAの含有量が多くなるほど融点が低くなることが確認でき、UVを処理した後の高分子の融点(XTm)がUVを処理しなかった時の融点(Tm)よりも低くなったことが確認できた。
【0175】
なお、図12を参照してGPC分析を用いた分子量を確認した結果、目標値であるMw 10kDa以下レベルであることを確認した。特に、GMAの含有量が多くなるほど分子量が小さくなることが確認できた。これは、無晶形のPGMAがPCL結晶性を崩壊させ、Tmと%結晶性を下げるということが分かる。
【0176】
実験例3.形状記憶高分子の復元
前記実施例1で合成した形状記憶高分子の形状記憶特性を図13に示した((a)初期状態、(b)変形された状態、(c)復元された状態)。
【0177】
より具体的に、実施例1-1-1で合成した形状記憶高分子材料を60℃で熱処理し、初期状態から変形されたこと(図13(b))を確認し、再び初期温度である35~40℃に温度調節すると初期状態に復元されたことが確認できた。
【0178】
そして、変形回復率を測定した。
【0179】
変形回復率は、高分子をフィルムに製造し、60℃で熱処理した後、3分間形態を固定した。そして、前記高分子の融点を考慮した35~40℃の温度の水に沈殿させ、回復した状態の長さを測定した(図13(b)の上図)。
【0180】
他の様態として、実施例1で合成した形状記憶高分子材料に結晶化温度以下である-20℃に熱処理し、初期状態に変形されたこと(図13(b)の下図)を確認し、再び初期温度である35~40℃に温度調節すると初期状態に復元されたことが確認できた。
【0181】
そして、変形回復率を測定した。
【0182】
前記変形回復率は、下記のような計算式1と定義され、高分子樹脂の形状記憶挙動の指標として用いることができる。
【0183】
[計算式1]
変形回復率(Rr)={(I-I)/(I-I)}×100
:初期サンプルの長さ
:変形されたサンプルの長さ
:回復後のサンプルの長さ
したがって、実施例4でUV処理した90%PCL-co-10%PGMA形状記憶高分子材料の変形回復率は90%以上であって、復原力に優れることが確認でき、融点が低い点から生体材料に適合したものと判断される。
【0184】
実験例4.形状記憶高分子の特性
4-1.形状記憶高分子の圧縮強度測定
実施例1-1で合成した94%PCL-co-6%PGMA高分子の強度、構造度、融点を測定した。
【0185】
具体的に、下記のような方法で測定した。
【0186】
- ヤング率(Young’s modulus)
ASTM D412に記載の試験方法によって試験して測定した。
【0187】
- 高分子構造
合成された高分子の構成成分(PCLとPGMAの水素原子個数比によるPCLとPGMAの反復単位比)をH NMR(nuclear magnetic resonance)を用いて測定した。
【0188】
- 融点(℃)
高分子の融点を分析するために時差走査熱量測定法(DSC,Differential scanning calorimetry)で測定した。
【0189】
【表11】
【0190】
その結果、溶媒を基準に溶解される形状記憶高分子の質量によって強度、架橋度及び融点が変わることが確認できる。すなわち、溶媒に溶解される形状記憶高分子の質量%を調節すれば、強度を示すヤング率が変わり、これによって、架橋度及び融点(形状復元温度)も調節可能であることが確認できた。
【0191】
4-2.形状記憶高分子の接触角測定
比較例1(PCL)の高分子と形状記憶高分子(96%PCL-co-4%PGMA高分子、94%PCL-co-6%PGMA高分子、92%PCL-co-8%PGMA高分子)の表面上に蒸留水を一滴(10μg)落とし、接触角を分析するために撮影した後、その結果を図14に示した。
【0192】
そして、比較例1と形状記憶高分子を、実施例2と同じ方法でUV架橋をした後、上述したような方法で接触角を分析した。
【0193】
図14を参照すると、架橋前又は架橋後に、生分解性挿入物質として多く用いられる高分子に代表されるPCLに比べて、組成ごとに親油性(hydrophobicity)に大差がないことが見られた。
【0194】
実験例5.細胞毒性測定
実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材(94%PCL-co-6%PGMA)の細胞毒性を測定するために、L929細胞(mouse cell line)を対照群(細胞培養器)と前記鼻涙管挿入用部材の高分子フィルム上で培養した。
【0195】
そして、その細胞の生存性を測定し、それを図15に示した。図15は、L929細胞を対照群と実施例1で合成した形状記憶高分子(94%PCL-co-6%PGMA)のフィルム上で培養した後、その細胞の生存性を測定した結果を示すグラフである。
図15を参照すると、本発明の高分子は、食品医薬品安全処の許可を通過できる80%以上の細胞生存性を示した。
【0196】
実験例6.細胞の生長率測定
実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材を用いて細胞の付着率と細胞の生長率を測定した。
【0197】
具体的に、鼻涙管挿入時に接触するヒト由来鼻上皮細胞(Human nasal epithelial cells:HNEs)を用いて、前記HNEsがどれくらい付着(attachment)するか、そして付着後にどれくらい生長(proliferation)するかを測定した。そして、その結果を図16に示した。図16は、TCPS、PCL及び94%PCL-co-6%PGMAの素材にHNEsの付着%及び生長%を示す((a)HNEsの付着%、(b)HNEsの生長%)。
【0198】
図16を参照すると、細胞培養器(Tissue culture plate:TCPS)と100% PCL(polycaprolactone)を比較群としてテストした場合、TCPSに付いた細胞を100%にした場合、これに比べてPCLと商用の素材94%PCL-co-6%PGMAは、HNEsが約70%以上付着する結果を示した。
【0199】
そして、同じ比較群を対象に生長(proliferation)を測定した場合、TCPSに育つ生長率を100%にしたとき、PCLと94%PCL-co-6%PGMAにおいていずれも1日目から100%に近い生長率を示し、5日目にはそれを著しく超える140%以上の生長率を示した。
【0200】
結論的に、これらの結果は、実施例3の鼻涙管挿入用部材は、鼻涙管に挿入時に接触するヒト由来鼻上皮細胞の付着と生長には何ら影響がないことを示す。
実験例7.鼻涙管挿入用部材の復元
図17は、実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材が変形温度条件下で初期の状態に復元される過程を示す図である((a)初期状態、(b)変形された状態、(c)回復した状態(40℃))。すなわち、図17は、鼻涙管挿入用部材の実現可能性を示す図である。
図17を参照すると、15mm長の太いチューブ挿入物が、鼻涙管への挿入前の臨時状態(temporary shape)では29mm長に伸張され、その直径が細くなることが確認できる。そして、鼻涙管内に挿入後、温度を40℃に上げた場合、再び長さ15mmに減り、直径が太くなることが確認できた。すなわち、形状記憶プログラミングの可能性が確認できた。
【0201】
図18は、実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材が、変形温度条件下で初期の状態に復元される過程を示す図である((a)初期状態、(b)変形された状態、(c)変形された状態(常温)、(d)回復した状態(40℃))。
【0202】
図18(a)、(b)を参照すると、初期形状(挿入後形状:内部が塞がったチューブ形態)から臨時形状(コイル形態又は長く伸びた形態)へと形状プログラミングが可能であることを示す。
【0203】
このように形状プログラミングされた挿入物が常温では形状復元されないが(図18(c)、挿入後に温度を40℃に上げると形状が復元されるということを示す。
結論的に、実験例7から、形状記憶高分子材料の優れた変形回復率及び復原力が確認でき、また、融点が低い点から、生体材料に適合すると判断される。
【0204】
実験例8.鼻涙管挿入用部材適用後の組織反応観察
実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材とシリコンで製造した鼻涙管挿入用部材を正常ウサギの鼻涙管に挿入して2週後に組織反応を観察した。
【0205】
図19(a)は、実施例3で製造した鼻涙管挿入用部材とシリコンで製造した鼻涙管挿入用部材を正常ウサギの鼻涙管に挿入した状態を示す図であり、(b)は、前記鼻涙管挿入用部材を挿入して2週後の組織反応を示す写真である((左)本発明の鼻涙管挿入用部材、(右)シリコン)。
【0206】
その結果、実施例3で製造した鼻涙管は、シリコンチューブと同様に炎症反応や組織異常がないことが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明は、鼻涙管閉塞/狭窄治療のための形状記憶高分子を含む鼻涙管挿入用部材に関し、架橋が可能な官能基が含まれた形状記憶高分子を含むことによって、生体移植に適合した融点を有する鼻涙管挿入用部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0208】
1、1’ 涙点
2 涙嚢
3 鼻涙管
10 鼻涙管挿入用部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19