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特許7283823ボルトの弛緩を検出する検出装置およびこれを用いた監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ボルトの弛緩を検出する検出装置およびこれを用いた監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
G01L5/00 103D
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022089467
(22)【出願日】2022-06-01
(65)【公開番号】P2023003388
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2021103795
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317008687
【氏名又は名称】株式会社SHONANBI
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潤一
(72)【発明者】
【氏名】若林 正美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 邦男
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 仁一
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-118436(JP,A)
【文献】特表平04-500782(JP,A)
【文献】実開昭60-181638(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第112763125(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28
G01B 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材を締結するボルトおよびナットの弛緩を検出する検出装置であって、
板状の第1の部材と、板状の第2の部材と、第1の部材の一方の端部と第2の部材の一方の端部とを接続する板状の第3の部材とを含み、第1および第2の部材が第3の部材から片持ち梁状に延在し、第1の部材と第2の部材が前記被締結部材に固定される取付け金具と、
前記取付け金具の第3の部材の表面に貼り付けられた少なくとも1つの歪ゲージを含む検出装置。
【請求項2】
前記被締結部材に取付ける前の初期状態において、第1の部材と第2の部材の開放端側の第1の間隔は、第1の部材と第2の部材の固定端側の第2の間隔よりも大きい、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記取付け金具は、第1の部材が前記被締結部材のボルト側の第1の表面と接触し、第2の部材が前記被締結部材のナット側の第2の表面と接触するように、前記被締結部材に固定される、請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記取付け金具を前記被締結部材に固定したとき、第1の間隔が減少するように第1の部材と第2の部材が弾性変形され、第3の部材の外側の面に引張り応力が生じ、第3の部材の内側の面に圧縮応力が生じる、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
第3の部材の外側の面に貼り付けられた第1の歪ゲージは、最大の引張り応力を検出し、第3の部材の内側の面に貼り付けられた第2の歪ゲージは、最大の圧縮応力を検出する、請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、第1の貫通孔は、第1の表面のボルトと干渉しない大きさであり、第2の貫通孔は、第2の表面のナットと干渉しない大きさである、請求項3に記載の検出装置。
【請求項7】
前記被締結部材に取付ける前の初期状態において、第1の部材と第2の部材の開放端側の第1の間隔は、第1の部材と第2の部材の固定端側の第2の間隔よりも小さい、請求項1に記載の検出装置。
【請求項8】
前記取付け金具は、第1の部材が前記被締結部材のボルト側の第1の表面と接触し、第2の部材が前記被締結部材のナット側の第2の表面と接触するように、前記被締結部材に固定される、請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
前記取付け金具を前記被締結部材に固定したとき、第1の間隔が増加するように第1の部材と第2の部材が弾性変形され、第3の部材の外側の面に引張り応力が生じ、第3の部材の内側の面に圧縮応力が生じる、請求項8に記載の検出装置。
【請求項10】
第3の部材の外側の面に貼り付けられた第1の歪ゲージは、最小の圧縮応力を検出し、第3の部材の内側の面に貼り付けられた第2の歪ゲージは、最小の引張り応力を検出する、請求項8に記載の検出装置。
【請求項11】
第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、第1の貫通孔は、第1の表面のボルトと干渉しない大きさであり、第2の貫通孔は、第2の表面のナットと干渉しない大きさである、請求項8に記載の検出装置。
【請求項12】
前記取付け金具は、第1の部材および第2の部材のバネ圧によって前記被締結部材に固定される、請求項7に記載の検出装置。
【請求項13】
第1の部材、第2の部材および第3の部材は、曲げ加工により一体成型される、請求項1に記載の検出装置。
【請求項14】
前記歪ゲージは、第3の部材の主面の中心部に貼り付けられる、請求項1に記載の検出装置。
【請求項15】
第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1および第2の補強部材が取り付けられる、請求項1に記載の検出装置。
【請求項16】
第1の補強部材は、第1の部材の両側部に延在するリブであり、第2の補強部材は、第2の部材の両側部に延在するリブである、請求項15に記載の検出装置。
【請求項17】
第1の補強部材は、第1の部材の梁の長手方向に形成された複数の凹状または凸状のビードを含み、第2の補強部材は、第2の部材の梁の長手方向に形成された複数の凹状または凸状のビードを含む、請求項15に記載の検出装置。
【請求項18】
請求項1ないし17いずれか1つに記載の複数の検出装置と、
前記複数の検出装置に電気的に接続された複数の子機と、
前記複数の子機と無線通信する監視装置とを含む監視システムであって、
前記子機は、前記検出装置で検出された歪データに基づきボルトの弛緩状態を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を親機に通知する通知手段とを有し、
前記監視装置は、前記通知手段で通知された結果を出力する出力手段を含む、監視システム。
【請求項19】
前記判定手段は、ボルトの増し締めが必要か否かを判定する、請求項18に記載の監視システム。
【請求項20】
前記判定手段は、ボルトの交換が必要か否かを判定する、請求項18に記載の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備のタワー、電力送電用鉄塔や橋梁などのフランジ用いる締結ボルトの経時な弛緩状態を連続的もしくは間欠的に検知するセンシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の子機を遠隔地に設置し、複数の子機でセンシングした測定値を親機に送信する、無線通信センシングシステムが実用化されている(例えば、特許文献1)。子機は、例えば、山間部、湖沼、海上などに設置された構造物、施設、橋脚などに設置され、そのような測定対象物の状態の変化等をセンシングし、親機は、子機から送信された各種測定データを収集整理し、遠隔地に設置されたデータ処理センターにあるデータ解析装置に送信する。データ解析装置にて受信したデータを分析し、測定対象物の異常有無を判定し、その結果を監視員等に連絡し、適正な処置を実施している。
【0003】
測定対象物の状態を測定するものに歪みゲージが知られている。歪みゲージは、測定対象物の伸縮に比例して抵抗体の抵抗値を変化させるものであり、歪みゲージを測定対象物に接着または貼付し、歪みゲージの抵抗変化を測定することで測定対象物の歪み量を検出する。歪みゲージの抵抗変化は微小であるため、通常、ホイーストンブリッジ回路を用いて抵抗変化を電圧に変換して測定する(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6251363号公報
【文献】特開2000-249507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風力発電施設等のタワー等の構造物のフランジを締結するためにボルト(例えば、六角のネジボルトなど)が用いられる。現在、ボルトの締結状態をセンシングしてそのデータを解析する作業は行われていないが、次の理由により締結状態のセンシングの必要性が求められている。
(1)台風や地震などの自然災害やボルトの経年劣化が原因で、タワー等の構造物が倒壊するおそれがある。
(2)台風や地震などの自然災害やボルトの経年劣化が原因で、ボルトが破断するおそれがある
(3)メンテナンス時のボルトの緩みを全数点検(例えば、1タワー当り100本以上)することは、メンテナンスの工数が大きくかつ熟練の保守作業員を必要とする。
【0006】
そこで、新しい解決策として、図1に示すように、ボルトBTの内部に歪ゲージSGを埋め込んで、ボルトBTの捻じれ、締め付けおよび緩みの状態を監視して、異常有無を判定し、適切なメンテナンスを行うことが検討されている。例えば、歪ゲージSGによってある閾値を超える緩みが検出された場合には、ボルトの締め付けをさらに強化したり、ある閾値を超える締め付けが検出された場合には、ボルトの破断の予兆があると推測し、例えば、ボルトを新品の物に交換する。
【0007】
しかしながら、上記の歪ゲージの取り付け方法は、ボルトBTに歪ゲージSGを埋め込むために穴を開ける必要があり、ボルトBTの強度を低下させてしまうおそれがある。また、歪ゲージSGを内蔵するボルトは、JIS規格等に制定されていない型式の為、特殊な大型ボルトとして新たに管轄行政機関の認定を受ける必要があり、そのために多くの時間やコストを生じさせ、実現性が低い。さらに、ボルトに歪ゲージSGを埋め込む作業は、製品の均質性や検出精度の安定性の面で非常に難しく、そのための費用もかかり、量産性に乏しい。さらに、ボルトの捻じれ、締め付けおよび緩みを監視するだけでは、ボルトの適切な交換時期を予測することは困難である。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決し、新規なボルトの弛緩を検出する検出装置およびこれを用いた監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る検出装置は、被締結部材を締結するボルトおよびナットの弛緩を検出するものであって、板状の第1の部材と、板状の第2の部材と、第1の部材の一方の端部と第2の部材の一方の端部とを接続する板状の第3の部材とを含み、第1および第2の部材が第3の部材から片持ち梁状に延在し、第1の部材と第2の部材が前記被締結部材に固定される取付け金具と、前記取付け金具の第3の部材の表面に貼り付けられた少なくとも1つの歪ゲージを含む。
【0010】
ある態様では、前記被締結部材に取付ける前の初期状態において、第1の部材と第2の部材の開放端側の第1の間隔は、第1の部材と第2の部材の固定端側の第2の間隔よりも大きい。ある態様では、前記取付け金具は、第1の部材が前記被締結部材のボルト側の第1の表面と接触し、第2の部材が前記被締結部材のナット側の第2の表面と接触するように、前記被締結部材に固定される。ある態様では、前記取付け金具を前記被締結部材に固定したとき、第1の間隔が減少するように第1の部材と第2の部材が弾性変形され、第3の部材の外側の面に引張り応力が生じ、第3の部材の内側の面に圧縮応力が生じる。ある態様では、第3の部材の外側の面に貼り付けられた第1の歪ゲージは、最大の引張り応力を検出し、第3の部材の内側の面に貼り付けられた第2の歪ゲージは、最大の圧縮応力を検出する。ある態様では、第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、第1の貫通孔は、第1の表面のボルトと干渉しない大きさであり、第2の貫通孔は、第2の表面のナットと干渉しない大きさである。ある態様では、前記被締結部材に取付ける前の初期状態において、第1の部材と第2の部材の開放端側の第1の間隔は、第1の部材と第2の部材の固定端側の第2の間隔よりも小さい。ある態様では、前記取付け金具は、第1の部材が前記被締結部材のボルト側の第1の表面と接触し、第2の部材が前記被締結部材のナット側の第2の表面と接触するように、前記被締結部材に固定される。ある態様では、前記取付け金具を前記被締結部材に固定したとき、第1の間隔が増加するように第1の部材と第2の部材が弾性変形され、第3の部材の外側の面に引張り応力が生じ、第3の部材の内側の面に圧縮応力が生じる。ある態様では、第3の部材の外側の面に貼り付けられた第1の歪ゲージは、最小の圧縮応力を検出し、第3の部材の内側の面に貼り付けられた第2の歪ゲージは、最小の引張り応力を検出する。ある態様では、第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、第1の貫通孔は、第1の表面のボルトと干渉しない大きさであり、第2の貫通孔は、第2の表面のナットと干渉しない大きさである。ある態様では、前記取付け金具は、第1の部材および第2の部材のバネ圧によって前記被締結部材に固定される。ある態様では、第1の部材、第2の部材および第3の部材は、曲げ加工により一体成型される。ある態様では、前記歪ゲージは、第3の部材の主面の中心部に貼り付けられる。ある態様では、第1の部材および第2の部材には、それぞれ第1および第2の補強部材が取り付けられる。ある態様では、第1の補強部材は、第1の部材の両側部に延在するリブであり、第2の補強部材は、第2の部材の両側部に延在するリブである。ある態様では、第1の補強部材は、第1の部材の梁の長手方向に形成された複数の凹状または凸状のビードを含み、第2の補強部材は、第2の部材の梁の長手方向に形成された複数の凹状または凸状のビードを含む。
【0011】
さらに好ましい態様について説明する。第1の部材、第2の部材および第3の部材は、一体成型により加工し成形しても良い。例えば、金属製の板状の部材は、プレス機械により断面コ字型に一体加工される。また、第1の部材と第3の部材、および第2の部材と第3の部材の当接部(コーナー部)は、ある適切な曲部形状に加工されることが望ましい。さらに第3の部材の中心部は平面であることが望ましい。当接部の曲部形状(円弧径または曲率半径:Rの大小)、板の厚み、材質(靭性の程度)、そして取付け金具をフランジに取り付けたときのフランジの端部と第3の部材との間隙寸法(図4のS寸法)の長短により、ボルトの弛緩程度が第3の部材に取り付けた歪ゲージの歪量として表れる。
【0012】
また、取付け金具の材質として、ステンレス材、アルミ材、あるいは高張力鋼等の耐食性に優れた材料として適している。第3の部材に表れる歪の検出量は、板厚が大きい程、より大きな靭性による応力が発生する傾向にある。この発生応力をより顕著で高精度の歪量として検出するためには、適切な板厚範囲が存在し、その板厚は、1~5mm程度が望ましい。
【0013】
第1の部材と第2の部材のボルト締結用の第1の貫通孔と第2の貫通孔の内部にワッシャーをセットし、このワッシャーを介してボルトを締結することが望ましい。ボルトの締結力は非常に大きいので、ワッシャーの材質は、ボルトの締結力に耐力のある高張力鋼等の特性をもつことが望ましい。もし、ワッシャーをステンレス材やアルミ材で構成した場合には、ボルトを締結したときにワッシャーが凹型に変形してしまうおそれがある。好ましくは、ワッシャーの材質に高張力鋼を採用し、第1および第2の部材の第1および第2の貫通孔内にワッシャーを嵌め込み、ワッシャーを第1および第2の貫通孔に固定した後、第1および第2の貫通孔および被締結部材の貫通孔内にボルトを挿入し、ボルトとナットを結合して被締結部材を締結する。また、他の態様として、被締結部材に、直接、取付け金具を接着またはネヂ止め等で固定し、その後、ボルトで締結するようにしてもよい。
【0014】
本発明に係る監視システムは、上記記載の複数の検出装置と、前記複数の検出装置に電気的に接続された複数の子機と、前記複数の子機と無線通信する監視装置とを含むものであって、前記子機は、前記検出装置で検出された歪データに基づきボルトの弛緩状態を判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果を前記親機に通知する通知手段とを有し、前記監視装置は、前記通知手段で通知された結果を出力する出力手段を含む。
【0015】
ある態様では、前記判定手段は、ボルトの増し締めが必要か否かを判定する。ある態様では、前記判定手段は、ボルトの交換が必要か否かを判定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボルトによって締結される取付け金具に貼り付けた歪ゲージによりボルト締結状態に応じた歪量を検出するようにしたので、ボルトに歪ゲージを内蔵させることなくボルトの弛緩状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来のボルトの歪ゲージの取り付け方法を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施例に係るボルトの弛緩検出装置の構成を示す概略平面図とその概略断面図である。
図3】本発明の第1の実施例に係る取付け金具の側部に歪みゲージを搭載した例を示す図である。
図4】本発明の第1の実施例に係るボルトの弛緩検出装置をタワーフランジに取り付けた状態を示す概略断面図である。
図5】ボルトとナットの締結後の取付け金具の形状変化を示す概略断面図である。
図6】本発明の第1の実施例に係る取付け金具の変形例を示す図である。
図7】本実施例に係るボルトの弛緩検出装置による具体的な歪の測定方法を説明するためのグラフである。
図8A】増し締め閾値の算出方法の一例を示すフローチャートである。
図8B】増し締め予測する方法の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例に係るボルトの弛緩検出装置を用いた監視システムの構成を示す図である。
図10】本発明の実施例に係るボルトの弛緩検出装置を含む子機の構成を示す図である。
図11】本発明の第2の実施例に係るボルトの弛緩検出装置の構成を示す概略断面図である。
図12】本発明の第2の実施例に係る取付け金具を示す斜視図である。
図13】本発明の第2の実施例に係るボルトの弛緩検出装置をタワーフランジに取り付けた状態を示す概略断面図である。
図14】本発明の第1の実施例に係る取付け金具に第2の実施例で説明した補強金具(補強用リブ、ビード)を適用した例を示す図であり、図14(A)は、取付け金具の要部断面図、図14(B)、(C)、(D)は、図14(A)のA-A線断面図、B-B線断面図、C-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のある実施態様では、風力発電設備の円筒形のタワーの高さが数10mから100m超であり、複数のボルトを用いて数個の円筒柱を接続する。円筒柱を接続する部位の両端にはフランジが形成され、向かい合う円筒中のフランジ間をボルトおよびナットで締結することで所定の高さの円筒形を形成する。このフランジを一般的にタワーフランジと称している。
【0019】
タワーの倒壊等の損傷防止のため、タワー全体の必要な強度を確保する目的で、タワーフランジに数10個の高強度の特殊なボルトおよびナットが設けられている。ボルトおよびナットの締結力には所定の規格があり、建設初期にはその規格(基準値)を満足するように締結している。しかし、タワー本体に対して、長期間にわたり種々の外力(風力、振動、揺動、気象変化等による伸縮など)が与えられると、ボルトおよびナットの初期の締結力が徐々に弱まる現象が生じる。即ち、ボルトへの繰返しの応力による伸張劣化や締結部の弛緩現象により、ボルトとナットの締結力が減少する。この現象が拡大することで、タワーの振動や揺動現象が助長し、タワーの損傷、倒壊やブレードの損傷、落下に繋がる。さらに、発電能力低下、そして、メンテナンスコストの増大や安全作業性の低下にも繋がってくる。本発明は、このような不具合を防止するため、初期の締結力の変化を連続的、もしくは適正なインターバルで監視し、弛緩状態が規定値を逸脱した時にボルトの増し締めや交換等の修復対処の必要性を判断する指標を提供するボルトの弛緩状態を監視するシステムである。
【実施例
【0020】
次に、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。図2(A)、(B)は、本発明の実施例に係るボルトの弛緩検出装置の構成を示す概略平面図と概略断面図、図3は、側部に歪ゲージを搭載した状態を示す平面図である。図4は、ボルトの弛緩検出装置をタワーフランジに取り付けた状態を示す概略断面図である。
【0021】
本実施例のボルトの弛緩検出装置100は、風力発電タワーなどのフランジ間の緩みを検出し、ボルトの緩みまたは劣化によるボルトの伸張を間接的に捉える。ボルトの弛緩検出装置100は、概ね断面形状がコ字型の取付け金具110と、取付け金具110に取り付けられる歪ゲージSG_A、SG_Bとを含んで構成される。
【0022】
取付け金具110の材料は特に限定されないが、ボルトを締付時の荷重に耐えられる弾性係数を有する金属材料が選択される。例えば、取付け金具110は、ステンレス材、アルミ材、あるいは高張力鋼等から構成される。板厚は特に限定されないが、例えば、1~5mm程度が好ましい。また、板厚は均一である必要はなく、例えば、板厚が徐々に変化してもよいし、例えば、後述する上面部120、底面部130,側部140の板厚が異なるものであってもよい。取付け金具110の加工方法は特に限定されないが、例えば、板状の概ね平坦な金属材料を、例えばプレス機械等により曲げ加工してコ字型の形状に一体加工してもよいし、あるいは、複数の板状の金属部材を用意し、これらの金属部材を溶接や接着等による方法で接合してコ字型に形成してもよい。
【0023】
取付け金具110は、概ね矩形状の平坦な主面を提供する上面部120、概ね矩形状の平坦な主面を提供する底面部130、上面部120の一方の端部と底面部130の一方の端部とを連結する側部140とを有し、上面部120および底面部130の各々は、側部140から片持ち梁状に延在する。上面図120と底面部130との大きさは概ね等しい。上面部120、底面部130および側部140の形状や寸法は、取付けるフランジ(被締結部材)の大きさから算出される。取付け金具110は、ボルトによる締結前の状態では、開放端側の上面部120と底面部130の間隔W1が側部140側の間隔W2よりも幾分大きくなるように加工される(W1>W2)。つまり、上面部120の主面と側部140との主面との間の成す角、および底面部130の主面と側部140との主面との間の成す角は、90度よりも幾分大きい鈍角である。また、図4に示すように、取付け金具110の上面部120と底面部130との間にフランジ202/204を配置させたとき、フランジ202/204の端部と側部140との間に間隙Sが形成できるような大きさに取付け金具110が加工される。
【0024】
ある態様では、上面部120の強度を補強するため、一定の板厚を有する平板状の補強金具150が溶接または他の固定方法により上面部120の主面に固定され、同様に、底面部130の強度を補強するため、一定の板厚を有する平板状の補強金具160が溶接または他の固定方法により底面部130の主面の両側に固定される。補強金具150、160の板厚は、上面部120および底面部130に要求される強度に応じて適宜選択される。勿論、取付け金具110の強度が十分に大きい場合には、補強金具は必ずしも必要ではない。
【0025】
上面部120および底面部130には、ボルトを挿入するための円形状の貫通孔122、132がそれぞれ形成される。貫通孔122、132の直径は、ボルトの頭部の外径よりも大きく、貫通孔122、132は、ボルトやナット、ワッシャーに干渉しない大きさである。貫通孔122、132の大きさは、使用するボルトの径に応じて適宜選択され、例えば、ボルトの寸法は、M24、M30、M33、M48、その他である。もし、補強金具150、160を取付ける場合には、補強金具150、160にも貫通孔122、132と整合する位置に貫通孔122、132と同サイズの貫通孔が形成される。ある態様では、上面部120および底面部130の短手方向の幅は、貫通孔122、132の径に一定の長さを付加した大きさであり、例えば、貫通孔122、132の外径に数十mmを付加した大きさである。
【0026】
上面部120および底面部130の貫通孔122、132の外径の大きさやその位置、あるいは短手方向の幅の大きさによって、上面部120および底面部130の長手方向の曲げ強度が弱くなる場合には、曲げ強度を補強するため、上記したような補強金具150、160によって上面部120および底面部130の板厚を増加させたり、あるいは、第2の実施例で説明するように上面部120および底面部130をリブ補強したり、ビード補強等が行われる。
【0027】
側部140の外側および/または内側の面には、少なくとも1つの歪ゲージSG_A/SG_Bが貼り付けられる。図2は、外側と内側の面にそれぞれ歪ゲージSG_Aと歪ゲージSG_Bとが貼り付けられた例を示している。
【0028】
歪ゲージSG_A/SG_Bの貼り付け位置は、図3に示すように、歪ゲージSG_A/SG_Bの中央部が側部140の中央部にほぼ一致するように、歪ゲージSG_A/SG_Bが接着剤等で確実に貼り付けられる。歪ゲージを取付ける面は、概ね平面であることが望ましいが、湾曲していてもよい。側部140の表裏に歪みゲージSG_A、SG_Bを貼り付けた場合、外側の歪ゲージSG_Aは、引張り応力により生じた歪を検出し、内側の歪ゲージSG_Bは、圧縮応力により生じた歪を検出する。つまり、歪ゲージSG_A、SG_Bの観測波形は、外側の歪ゲージSG_Aおよび内側の歪ゲージSG_Bの引張応力や圧縮応力による歪量が初期取付け時に極大値となり、ボルトの緩みに従いその値が徐々に小さくなってくると判断する。ボルトの弛緩量が極微小なので、引張形態が圧縮形態に逆転することはないと判断する。
【0029】
歪ゲージは、必ずしも側部140の両面に貼り付ける必要はなく、側部140の外側または内側の面のいずれか1つに貼り付けるようにしてもよい。但し、側部140の両面に歪ゲージSG_A、SG_Bを貼り付けた場合、それぞれの歪ゲージによって極性の異なる歪を検出することができ、1つの歪ゲージを用いたときと比較して、検出精度を向上させることができる。そのような観点から、側部140の外側の面に貼り付ける歪ゲージは1つに限らず複数であってもよいし、内側の面に貼り付ける歪ゲージもまた1つに限らず複数であってもよい。
【0030】
図4は、本実施例のボルトの弛緩検出装置100をタワーフランジに取り付けた状態を示す概略断面図である。ここでは、タワー本体の上側の円筒形200と、下側の円筒形210の2つを例示しているが、実際にはこれよりも多くの円筒形が接続されることに留意すべきである。円筒形200、210の端部の周縁には環状のフランジ202、204が取り付けられる。フランジ202、204には、ボルト締結用の貫通孔206、208が形成されている。
【0031】
円筒形200、210の両フランジ202、204を当接し、フランジ202、204の外側にワッシャー170、180を位置合わせした後、ワッシャー170、180、貫通孔206、208内にボルト300を挿入し、ワッシャー180から突出したボルト300のネジ部分がナット310によって締結され、両フランジ202、204が固定される。ここでは、1つのボルト300とナット310によってフランジ202、204が締結される例を示しているが、フランジ202、204は、複数のボルトと複数のナットによって締結されるようにしてもよい。
【0032】
次に、取付け金具110をフランジ202、204の外側から取付ける。取付け金具110の固定部側の間隔W2は、両フランジ202、204の厚さTと概ね等しい(W2≒T)。図示しない脱着用特殊治具を用いて取付け金具110の上面部120と底面部130の開放端側を開き、貫通孔122、132がボルト300、ナット310、ワッシャー170、180と干渉しないように、取付け金具110をフランジ202、204の外側から装着する。そして、取付け金具110の開放端側を閉じ、上面部120および底面部130をフランジ202、204の表面に直接接触させる。この際、上面部120および底面部130は、例えば、接着剤やビス等を用いてフランジ202、204に固定される。取付け金具110を固定したときの側部140とフランジ202、204の端部との間には間隙Sが形成される。
【0033】
なお、ワッシャー170、180の取付け方法は、上記の方法に限定されるものではない。例えば、補強金具150、160を用いない場合には、上面部120とボルト300との間にワッシャー170を介在させ、底面部130とナット310との間にワッシャー180を介在させてもよい。この場合にも、上面部120と底面部130の貫通孔122と貫通孔132は、ボルトやワッシャーに干渉しない大きさであり、上面部120および底面部130は、フランジ202、204に直接接触する。
【0034】
また、ボルトの締結力が強い場合には、ワッシャー170、180が変形しないように、ボルトの締結力に対して耐力のある材質が選択される。例えば、高張力鋼等の特性をもつ材質が選択される。
【0035】
ボルト300およびナット310は、規定の荷重まで締め付けられる。図5は、ボルト300の締め付け後の取付け金具110の状態を示している。ボルト300の締め付けにより、上面部120は、側部140の固定部近傍を支点に幾分弾性的に変形し、底面部130も同様に側部140との固定部近傍を支点に幾分弾性的に変形し、上面部120と底面部130の自由端側の間隔W1’が側部140の固定端部側の間隔W2’よりも小さくなる。上面部120と底面部130の変形の度合は、間隙S、板厚、上面部120と側部140との接合部の形状、底面部130と側部140との接合部の形状等に依存する。こうして、側部140の内側には圧縮応力が発生し、外側には引張り応力が発生する。
【0036】
次に、歪ゲージの測定方法について説明する。ボルト300を通してナット310で所定の締結力で締め付けた後、取付け金具110をフランジ202、204の所定位置に固定し、そのときに歪ゲージ搭載部で発生した歪量の初期値が基準となる。
【0037】
経時的にタワー本体に加わる外力の影響によりボルトの弛緩が進んでくると、歪ゲージ搭載部の初期値に変化が生じる。この変化量の大小によりボルトの弛緩状態を間接的に視認することができ、ボルトの締結状態の適否を判断することが可能である。
【0038】
歪ゲージ搭載部の歪量は、ボルトの締め付け状態、気温、日照状況、風速等の気象条件および回転部材等の振動や風力による揺動等で、ボルトの伸張や収縮等の影響、またこれらの繰返し応力によりボルトの強度の劣化等の影響で歪量が変化し、安定したボルトの締結状態を維持できなくなる。そのため、ボルトの締結状態の適否は、前記した種々の要因が影響するデータで相対的に解析し、評価する必要がある。
【0039】
なお、取付け金具110の形状は、図2に示す形状に限定されるものではなく、例えば、図6(A)~(C)に示すような形状であってもよい。図6(A)の取付け金具110Aは、側部140Aが外側に突出するように円弧状に湾曲した形状を有し、図6(B)の取付け金具110Bは、側部140Bが内側に突出するように円弧状に湾曲した形状を有し、図6(C)の取付け金具110Cは、上面部120および底面部130と側部140Cとの接続部にC面取りが形成された形状(面取りはR面取りでもよい)を有する。このように、取付け金具は、ボルトの弛緩状態を歪ゲージ搭載部で顕著に視認・判断できる形状であれば良く、ボルトの締結状態を歪ゲージ搭載部で視認し易い形状であれば、更に高精度で的確にボルトの弛緩状態を判断することが可能である。
【0040】
次に、図7(A)に示すグラフを参照して具体的な測定例について説明する。同グラフの縦軸は歪量を示し、横軸は時間を示す。
【0041】
(1)先ず、フランジ202、204にコ字型の取付け金具110を取り付け、無荷重の状態で歪ゲージ量を測定する(状態A)。
(2)次に、ボルト300を規定のトルクで締め付ける(状態B)。
(3)状態Bで歪ゲージ量を測定する。状態Bで測定された歪量が基準値となる。
(4)状態Cから状態Jは、経年繰返し発生する風力や地震力などにより、ボルト長が漸増延伸し、そしてボルト特性の靭性域を超過し、初期のボルト強度が保持されない状態まで塑性変形が進みボルト締結力が漸減し、緩んできた状態を示す。本例では、万力で取付け金具110に荷重を加えており、従って、状態Cから状態Jは、万力による荷重を緩めた状態を示している。緩めた角度は、状態C:状態Bから-11°、状態D:状態Bから-22°、状態E:状態Bから-33°、状態F:状態Bから-45°、状態G:状態Bから-67°、状態H:状態Bから-90°、状態I:状態Bから-180°、状態J:状態Bから-225°である。
【0042】
このように、本方式によれば、直接ボルトをセンシングせずとも、ボルトの緩みを観測することが可能である。
【0043】
次に、ボルトの増し締め方法について説明する。ボルトの増し締めをするか否かは、増し締めの閾値を設定し、閾値に到達したとき増し締めを行う。何回かの増し締め時の全てのボルトの観測データを解析して、増し締めの閾値(目標値;ボルトの使用強度限界値)を算出する。
【0044】
図8Aは、歪ゲージからのセンシングデータを収集し、増し締めの閾値(目標値;ボルトの使用強度限界値)を生成するフローである。歪ゲージからセンシングデータを取得し(S100)、取得したセンシングデータをローパスフィルタで処理し(S110)、センシングデータのノイズを除去する。次に、センシングデータをデジタルデータに変換し(S120)、センシングデータを組み立てる(S130)。ステップS110~S130の処理は、例えば、ハードウエア資源を用いて実施される。次に、センシングデータをフィルタリング(例えば、移動平均/FIR/IIR)し、前処理データを生成する(S140)。次に、収集したデータを学習し、増し締めの閾値を算出する(S160)。ステップS140~S160の処理は、例えば、ソフトウエア資源を用いて実施される。また、センシングデータの収集を繰り返す工程で、ADコンバータのサンプリング周波数の変更やローパスフィルタのカットオフ周波数の変更などのフィードバック制御が行われる。
【0045】
こうして算出された増し締め閾値と測定値(センシングデータ)とを比較し、測定値が閾値を下回った場合に増し締めが必要なボルトと判定し、その旨を自動的に通知する。例えば、図7において、状態Dが増し締め閾値に対応する場合には、歪量が状態Dになったとき、増し締めの通知が成される。
【0046】
図8Bは、図8Aで算出された増し締め閾値を参照し、測定値(センシングデータ)を解析することで、増し締め時期を予測し、その予測結果を通知するフローである。同図において、ステップS200~S240は、図8Aと同様である。ステップS250において、図8Aで算出された目標値(増し締め閾値)を参照し、ステップS240で生成されたデータを分析し、増し締め時期を予測し、その予測結果をユーザーに通知する(S260)。また、予測結果が異常予兆を示した場合には、目標値が適切でないため図8Aのフローに従って目標値の再生成を実施する。ステップS200~S240まではデジタル信号処理技術を用いて実施され、S240~S270まではソフトウエアによって処理される。
【0047】
次に、ボルトの交換について説明する。風、地震などの影響またはボルトの劣化で、ボルトに曲がりや伸張が発生する。そのため、規定トルクで締め付けても設置時より締付具合は弱くなる。そこで、増し締め時の荷重が、増し締め閾値(目標値)に近づいた場合には、ボルトの交換時期と判断し、自動的にその旨を通知する。この様子を図7(B)のグラフを参照して説明する。
【0048】
状態Aは、取付け金具110を取り付けたときの無荷重の状態であり、状態Bは、規定トルクでボルトを締めた時の荷重である。状態C~Fは、ボルトが風や地震などで徐々に緩んだ状態である。増し締めの閾値は、状態Fに一致するものとする。状態Fになると、ユーザーは、ボルトの増し締めを行い、ボルトに荷重が加わり、状態B’となる。状態B’は、ボルトの劣化や伸張で状態Bまでの荷重与えることができない状態である。その後、一定の時間経過とともに状態F’に遷移し、増し締め閾値を下回り、再び増し締めが行われ、状態B”になる。このとき、増し締め閾値との差分DFが一定値よりも小さく、つまり、状態Fに近づいている。状態Fに近づいたレベルでボルトの交換時期と判断する。ボルトの交換後、規定トルクでボルトを締めることで状態B1となる。
【0049】
次に、本実施例のボルトの弛緩検出装置を利用した監視システムについて説明する。図9は、本実施例の監視システムの構成を示す図である。本実施例の監視システム400は、電池により駆動される複数の子機410_1、410_2、・・・、410_n(総称するときは子機410)と、複数の子機410と双方向の無線通信を行う親機420と、インターネット等のネットワーク回線430を介して親機420に接続された監視センター440とを含んで構成される。
【0050】
複数の子機410_1、410_2、・・・、410_nは、それぞれボルトの弛緩検出装置100_1、100_2、・・・、100_nを含み、弛緩検出装置100_1、100_2、・・・、100_nは、タワーのフランジ202、204に搭載され、ボルト300_1、300_2、・・・、300_nによりフランジ202、204に固定される。
【0051】
複数の子機410は、弛緩検出装置100によって測定されたセンシングデータを親機420に無線で送信し、親機420は、複数の子機410から受信したセンシングデータを監視センター440へ送信する。監視センター440は、遠隔地である複数の子機410から送られてきたセンシングデータに基づきボルトの増し締めやボルトの交換を判定する。親機420は、監視センター440からの指示に従い、複数の子機410に指示を送信し、複数の子機410から測定データを受け取る。
【0052】
親機420と複数の子機410との間の無線通信方法は、例えば、特許6251363号に記載されている。親機420は、例えば、複数の子機410の各々との間で無線(例えば、920MHzの周波数帯)による双方向通信を行う。親機420が子機410に対してクエリ(問い合わせ)を送信すると、子機410は、クエリに対する応答メッセージを返信する。子機410は、親機420からのアクセスがある期間に同期してウェークアップし、極力、電池が消耗されることを抑制する。
【0053】
子機410は、親機420からクエリを受信すると、それに対する応答メッセージを作成し、これを親機420に送信する。子機410は、必要最低限の動作のみを行うスリープ状態(低消費電力状態)と、スリープ状態からウェークアップされた通常の動作状態とを有する。通常の動作状態では、子機に含まれる全ての機能が完全に動作することが可能であり、低消費電力情報では、子機に含まれる一部の機能が動作可能になる。
【0054】
監視センター440は、コンピュータ装置、ノートパソコン、携帯型端末、タブレット型端末等であることができる。監視センター440は、監視システム全体を監視し、または制御するため、親機420に対して必要な指示を与え、また親機420から子機410の情報を収集する。
【0055】
子機410は、遠隔地の測定対象物の状態をセンシングするための種々のセンサを搭載することが可能であるが、ここでは、子機410は、円筒形タワーのフランジを固定するボルトの歪みを測定するための歪みゲージまたは歪みセンサを搭載する。
【0056】
図10は、子機の構成を示すブロック図である。ここでは、ボルトの弛緩検出装置100は、取付け金具の側部の内側または外側のいずれか一方の面に歪ゲージを貼り付けているものとする。
【0057】
子機410は、ボルトの弛緩検出装置100と、当該弛緩検出装置100の歪ゲージの出力を一辺に接続したホイートストンブリッジ回路BRGと、各部に所望の電圧を供給する電源回路500と、ブリッジ回路BRGの一方のノードに接続されたスリープ制御回路510と、他方のノードに接続された定電流回路520と、ブリッジ回路BRGの出力ノードVOA-を反転入力端子(-)に接続し、出力ノードVOA+を非反転入力端子(+)に接続し、入力端子間の差電圧を増幅するオペアンプOPと、オペアンプOPの出力信号に含まれる高周波ノイズを除去するローパスフィルタ530と、ローパスフィルタ530の出力信号を入力し、一定期間内の最大の電圧値を保持するピークホールド回路540と、ピークホールド回路540で保持された最大電圧値を表すピークホールド信号を入力し、このアナログ信号を一定のサンプリング周期でサンプリングし、これをデジタル信号に変換するAD変換回路550と、ピークホールド回路540に保持された最大電圧値をリセットするリセット回路560と、親機420との間で双方向の無線通信(例えば、クエリやクエリに対する応答メッセージなど)を行うための無線モジュール570と、各部を制御する制御部580とを含んで構成される。
【0058】
もし、取付け金具の側部の外側と内側の両面にそれぞれ歪ゲージを貼り付けた場合には、もう1つの歪ゲージで測定された信号を処理するためのもう1組のオペアンプ、フィルタ、ピークホールド回路、ADCが必要となる。
【0059】
制御部580は、子機410の動作の全体を制御し、ブリッジ回路BRGのキャリブレーション、ブリッジ回路BRGの歪みゲージによる歪みの測定、無線モジュール570による親機420との間の無線通信などを制御する。制御部580は、ROM/RAMを含むマイクロプロセッサやマイクロコントローラから構成され、ROM/RAMに格納されたプログラムまたはソフトウエアを実行し各部を制御する。子機410は、図8A図8Bに示すハードウエア資源を提供する。
【0060】
次に、本実施例の監視システムの動作について説明する。
(1)親機420と複数の子機410は、特許第6251363号を利用して、送受信タイミングの同期を取る。この時、親機420から各子機410に送受信の間隔時間とセンシング間隔時間を設定する。例えば、送受信間隔時間=2分、センシング間隔時間=30秒。
(2)子機410は、センシング回数を算出する。センシング回数=送受信間隔時間/センシング時間である。この例では、センシング回数は4回となる。以降、この例を基に説明する。子機410は、送受信間隔時間とセンシング間隔時間のタイマをスタートさせる。
(3)次に子機410は、センシング時間がくるまでスリープ状態に入る。
(4)子機410は、センシング時間のタイマの割り込みでスリープ状態から動作状態に入る。
(5)子機410は、センシング回路をスリープ状態から動作状態に移行させる。
(6)子機410は、スリープ状態から動作状態の移行時に、発生する電流の急な流れ込みによるブリッジ回路BRGの不安定性を防止する。制御部580は、ある一定時間、リセット信号RSTを出力し、ピークホールド回路540をリセットし、ブリッジ回路BRGの不安定な状態をホールドしないようにする。一定時間のリセット後、リセットを解除してピークホールド回路540を動作可能にする。
(7)子機410は、その後、ある一定時間でアナログ/デジタル変換を行って歪ゲージのセンシングを行う。
(8)子機410は、センシング内容を記録して、スリープ状態に入る。
(9)子機410は、(4)~(8)送受信時間がくるまで続ける(この例では4回のセンシング)。このセンシング間で最大値を記録する。
(10)子機410は、送受信時間に達した時点で、親機420からクエリを受信して、その応答として、記録したセンシングデータ(最大値)を親機420に送信する。
(11)子機410は、(4)~(10)を繰り返す。
(12)親機420は、子機410から受信したセンシングデータをインターネット430を介して監視センター440に送信する。
(13)監視センター440は、受信したセンシングデータから図8A図8Bのフローに基づき目標値(増し締め閾値とボルト交換の閾値)を算出する。
(14)監視センター440は、いずれかが閾値に達した場合、ユーザーにその旨を通知する。
【0061】
本実施例の監視システムは、次のような効果を奏する。
・ボルトの遠隔監視が可能なり、その結果、ユーザーが現地に赴いてボルトの弛緩状態を確認する回数を減らすことできる
・増し締めが必要なボルトをピンポイントで特定することが可能になる。これにより、ボルトの全数点検が必要でなくなり、メンテナンス工数を大幅に低減させることができる。
・劣化によるボルトの交換時期を把握することが可能になる。これにより、タワー等の倒壊を未然に防止することができる。
・台風や地震の発生時、ボルトへの過負荷状況やタワーの異常有無等を把握することが可能になる。
・ボルトのメンテナンスに熟練者を必要としない。従来、ボルトのメンテナンスは、ボルトを叩いて、その音でボルトの状態を判断するため、一定の熟練または経験を必要としていたが、初心者でもボルトのメンテナンスが可能である。
・本実施例の監視システムは、応用範囲は広く、例えば、風力発電タワー、橋梁、電力線鉄塔などの構造物においてボルトの監視が必要な個所に適用することができる。
【0062】
次に本発明の第2の実施例に係るボルトの弛緩検出装置について説明する。図11は、第2の実施例の弛緩検出装置の概略断面図、図12(A)、(B)は、第2の実施例に係る取付け金具の斜視図、図12(C)、(D)は、図12(B)のX-X線断面図、Y-Y線断面図である。
【0063】
第2の実施例に係る弛緩検出装置100Aは、取付け金具500と、当該取付け金具500に貼り付けられた1つまたは複数の歪ゲージ(図の例では、表裏に2つの歪ゲージSG_A/SG_B)とを含んで構成される。取付け金具500は、第1の実施例と同様に、上面部120、底面部130および側部140を含み、上面部120および底面部130の各々が側部140から片持ち梁状に延在する。但し、第2の実施例は、第1の実施例と異なり、取付け金具500をフランジに取付ける前の初期状態において、開放端側(自由端側)の間隔W1が、フランジの厚さよりも小さく、かつ側部側(固定端側)の間隔W2(または側部140の間隔)よりも小さくなるように(W1<W2)、断面形状が逆ハの字状になるように加工されている。言い換えれば、第1の実施例では、初期状態において、上面部120の主面と側部140の主面との間の成す角θ1が鈍角であり、底面図130の主面と側部140の主面との間の成す角θ2が鈍角であるのに対し、第2の実施例では、初期状態において、上面部120の主面と側部140の主面との間の成す角θ1が鋭角であり、底面図130の主面と側部140の主面との間の成す角θ2が鋭角である。但し、角度θ1、θ2は、互いに等しい角度であってもよいし、異なる角度であっても良い。
【0064】
上面部120および底面部130には、フランジのボルト締結用の穴に対応して、ボルトを挿入するための貫通孔122、132が形成される。貫通孔122、132は、第1の実施例と同様に、ボルト、ナットおよびワッシャーに干渉しない大きさである。側部140の大きさ、つまり上面部120と底面部130との間の固定端側の間隔W2は、被締結部材であるフランジの厚さに応じて適宜選択され、例えば、間隔W2がタワーフランジの厚さと概ね等しいか、あるいはそれよりも幾分大きくなるように、側部140のサイズが選択される。
【0065】
取付け金具500は、後述するようにフランジに取付けられるとき、開放端側の間隔W1がタワーフランジの厚さよりも大きくなるように開かれ、上面部120および底面部130が弾性変形される。好ましくは、脱着用特殊治具を用いて上面部120が上方に弾性変形され、底面部130が下方に弾性変形される。その後、脱着用特殊治具による力を開放することで、上面部120および底面部130が元の状態に戻ろうとし、上面部120および底面部130がフランジの表面に直接接触し、フランジを上下から一定のバネ圧で挟持することで取付け金具500がフランジに固定される。
脱着用特殊治具の構成は、特に限定されないが、例えば、上面部120および底面部130の板厚が比較的厚い場合(1~5mm)には、ペンチ機構(X構造)を用いて上面部120および底面部130の開放端側を開かせるようにし、上面部120および底面部130の板厚が比較的薄い場合(0.3~1.0mm)には、脱着用特殊治具を用いることなく、上面部120および底面部130の開放端側に脱着機能を持たせる形状を設けるようにしてもよい。
【0066】
取付け金具500は、第1の実施例と同様にステンレス材、アルミ材、あるいは高張力鋼等から構成される。取付け金具500の板厚は、特に限定されないが、タワーフランジを挟み込むときに十分なバネ圧を生じさせることができる厚さであることが望ましく、例えば、板厚は、0.3mm~5.0mmである。
【0067】
ある態様では、取付け金具500は、図12(A)に示すように、上面部120の強度を補強するため、上面部120の両側部に一対の補強用リブ510が設けられる。補強用リブ150の形状や加工方法は任意であるが、例えば、上面部120の両側部を上方または下方に折り曲げたり、あるいは、別の金属部材を上面部120の両側部に溶接して補強用リブ150を形成することができる。底面部130にも同様に、その両側部に一対の補強用リブ520が設けられる。
【0068】
また、別な態様では、取付け金具500Aは、図12(B)、(C)、(D)に示すように、上面部120の強度を補強するため、上面部120に、長手方向に延びる複数の凸形状または凹形状のビード530が形成される。底面部130にも同様に、強度を補強するために複数のビード540が形成される。ビード530、540の形状(例えば、断面形状が半円状のビードを例示している)、深さ、数、配置は、要求される強度に応じて適宜選択することができる。図12(B)は、補強用リブ510、520と複数のビード530、540とを形成する例を示したが、補強用リブ510、520または複数のビード530、540の一方を形成するようにしてもよい。さらに、補強用リブ510やビード530とともに、あるいは単独で、第1の実施例に示したような上面部120および底面部130の板厚を増加させるような補強金具150、160を形成するようにしてもよい。
【0069】
図13は、本実施例の弛緩検出装置100Aをタワーフランジに取付けた状態を示す概略断面図である。第1の実施例のときと同様に、タワー本体の上側の円筒形200と、下側の円筒形210との周縁には環状のフランジ202、204が形成され、フランジ202、204には、ボルト締結用の貫通孔206、208が形成されている。
【0070】
両フランジ202、204を当接し、当接した両フランジ202、204の貫通孔206、208内にボルト550を挿入し、ボルト550とナット560とを締結することで両フランジ202、204を固定する。このとき、第1の実施例と同様に、ボルト550と上面部120の間にワッシャー570を介在させ、ナット560と底面部130との間にワッシャー580を介在させる。
【0071】
次に、本実施例の取付け金具500をフランジ202、204の外側から取付ける。位置P1は、上面部120および底面部130に荷重が与えられていない初期状態、すなわち、フランジ202、204に取付ける前の初期状態を示し、位置P2は、取付け金具500をフランジ202、204に取付けるため、上面部120および底面部130の開放端側の間隔W1を広げた状態を示している。
【0072】
取付け金具500の初期状態では、上面部120および底面部130の開放端側の間隔W1は、フランジ202、204の厚さよりも小さい。フランジ202、204に装着するとき、例えば、脱着用特殊治具を用いて、上面部120には上方に向かう荷重F1が印加され、底面部130には下方に向かう荷重F2が印加され、開放端側の間隔W1が、弾性変形の範囲内でフランジ202、204の厚さよりも大きくなるように拡張される。間隔W1を拡張した状態で、上面部120および底面部130の貫通孔122、132がボルト550およびナット560の位置に整合するように、取付け金具500がフランジ202、204の端部側から装着される。
【0073】
次に、脱着用特殊治具の荷重F1、F2を取り除くことで、上面部120および底面部130が元の状態に戻り、上面部120および底面部130は、フランジ202、204の表面に直接接触し、フランジ202、204を上下方向から一定のバネ圧で挟持することで、取付け金具500がフランジ202、204に固定される。第1の実施例のときと同様に、ボルト550、ナット560およびワッシャー570、580は、上面部120および底面部130に干渉しないように貫通孔122、132内に挿入される。また、フランジ202、204の端部と側部140との間には一定の間隙Sが形成される。
【0074】
ある態様では、上面部120とフランジ202との間の一定の間隙または平行を保つため、ボルト550の両側の位置に、高さ調整ネジ590、600を取付けるようにしてもよい。この場合、上面部120には、高さ調整ネジ590、600と係合するためのネジ穴が形成され、高さ調整ネジ590、600を回転させることで、上面部120の高さ(上面部120とフランジ202との間の距離)が調整される。底面部130にも同様に、高さ調整ネジ610、620を設け、底面部130の高さ(底面部130とフランジ204との間の距離)を調整するようにしてもよい。
【0075】
こうしてフランジ202、204が取付け金具500を介してボルト550およびナット560によって締結され、締結された初期状態のとき、外側の歪ゲージSG_Aが、最小の圧縮応力を観測し、内側の歪ゲージSG_Bが最小の引張り応力を観測するようにする。
【0076】
第2の実施例では、取付け金具500のバネ圧が上面部120と底面部130の間隔W1を縮小する方向に作用するため(言い換えれば、取付け金具500のバネ圧がフランジ202、204を挟持するため)、フランジ202、204への取付け金具500の装着が容易になる。
【0077】
なお、第1の実施例で説明した補強金具を第2の実施例の取付け金具に適用することは可能であるし、第2の実施例で説明した補強金具を第1の実施例に適用することも可能である。図14は、第1の実施例の取付け金具110に、補強金具として補強リブ510、520、補強ビート530、540を取り付けた例を示している。
【0078】
また、第1の実施例で説明した取付け金具の構成や変形例、歪の測定方法、増し締め閾値の算出方法、監視システムは、発明を逸脱しない範囲で第2の実施例に適用することができる。
【0079】
上記実施例では、取付け金具の上面部120、底面部130、側部140の平面形状を矩形状にしたが、これは一例であり、この形状に限定されるものではない。要は、取付け金具は、被締結部材と一緒にボルトで締結されたとき、ボルトの締結状態に応じた歪を生じさせるような形状であればよい。例えば、平面形状は、円形状、三角形状、多角形状、それ以外の複雑な形状であってもよい。また、上面部120、底面部130、側部140の表面は、必ずしも平坦である必要はなく、湾曲した面や段差や凹凸が形成されていてもよい。さらに取付け金具は、上面部、底面部、側部の3つの部材からなる例を示したが、必ずしもこれに限定されず、これに連結される他の部材があってもよい。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
100:ボルトの弛緩検出装置 110:取付け金具
120:上面部 122、132:貫通孔
130:底面部 140:側部
150、160:補強金具 170、180:ワッシャー
200、210:タワー 202、204:フランジ
300:ボルト 310:ナット
400:監視システム 410:子機
420:親機 440:監視センター
500:取付け金具 510、520:補強用リブ
530、540:ビード 550:ボルト
560:ナット 570、580:ワッシャー
590、600、610、620:高さ調整ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14