(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】発酵柑橘果汁製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/02 20190101AFI20230523BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20230523BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230523BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20230523BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20230523BHJP
【FI】
C12G3/02
C12G3/06
A23L19/00 A
C12G3/04
A23L27/12
(21)【出願番号】P 2022177358
(22)【出願日】2022-11-04
【審査請求日】2022-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399099724
【氏名又は名称】土佐鶴酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 芳範
(72)【発明者】
【氏名】粂野 敦志
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1156024(KR,B1)
【文献】特開2006-280292(JP,A)
【文献】特開昭64-034912(JP,A)
【文献】特開2019-115302(JP,A)
【文献】特開昭59-059185(JP,A)
【文献】特開2012-235721(JP,A)
【文献】特開昭57-102190(JP,A)
【文献】特開昭60-019488(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0035532(KR,A)
【文献】浦田 真紀ほか,香酸かんきつ果汁の膜分離試験及びその活用について,研究期報,1991年,第57号,p.82-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/00-3/08
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香酸柑橘類と雑柑類と文旦類とから選ばれる少なくとも何れかの柑橘類の果実を果皮ごと搾って果汁を取り、必要に応じて冷凍保存する搾汁工程と;
前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解しつつ精油成分を遊離させてから、精油成分含有浮遊物及び/又は沈殿物を分別して分離する分離操作と、前記果汁からマイクロ波蒸留によって精油成分を揮発させマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出して分離する分離操作と、前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解しつつ精油成分を遊離させてから、その繊維質分解果汁からマイクロ波蒸留によって精油成分を揮発させマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出して分離する分離操作と、前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解し浮遊物及び/又は沈殿物を除去してから減圧蒸留して濃縮しつつ蒸留液ごと分離する分離操作との何れかの操作を有する分離工程と;
その分離後の残果汁に糖分存在下で発酵酵母を添加し発酵させて残果汁発酵もろみを得る発酵工程と;
前記残果汁発酵もろみに、前記分離操作で得られ
た前記マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物又は前記精油成分含有浮遊物又は前記浮遊物
又は前記蒸留液を配合して混合した発酵柑橘果汁を得る混合工程と;
を有することを特徴とする発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項2】
前記分離工程中、前記繊維質分解において、前記清澄化酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程中、前記マイクロ波蒸留を、前記繊維質分解果汁の温度を高くても85℃、及び/又は高くても60kPaの減圧下で行うことを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程で、前記マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を、静置して油層として分画した精油含有柑橘オイルとすることを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項5】
前記発酵工程中、前記発酵が、少なくともアルコール発酵であることを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項6】
前記発酵工程中、前記発酵が、前記アルコール発酵であって、前記発酵酵母が、清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、醤油酵母、及びアルコール発酵する野生酵母から選ばれる酵母であることを特徴とする請求項5に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項7】
前記発酵工程を、少なくとも前記残果汁に接触する内表をプラスチック製又はガラス製とする容器中で行うことを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項8】
前記容器が、前記プラスチックを、ポリプロピレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリエチレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリ塩化ビニルのホモポリマー又はコポリマー、ポリエチレンテレフタレートのホモポリマー又はコポリマー、ポリスチレンのホモポリマー又はコポリマー、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、若しくはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂とすることを特徴とする請求項7に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項9】
前記容器が、前記プラスチック製の容器、若しくは、前記プラスチックでコーティングされた内層を有するガラス製容器又は金属容器であることを特徴とする請求項8に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項10】
前記発酵工程中、前記残果汁にブドウ糖、果糖、及びショ糖を添加することを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項11】
前記発酵工程の後、前記残果汁発酵もろみから前記発酵酵母を除去する発酵停止工程を経てから、調製工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程中、前記残果汁発酵もろみに前記精油含有柑橘オイルとを配合して混合することによって、発酵が抑制又は停止された前記発酵柑橘果汁を得ることを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項13】
前記混合工程の途中で又はその後、飲食品原材に、前記発酵柑橘果汁を加えて、前記発酵柑橘果汁製品を調製する調製工程を有することを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項14】
前記飲食品原材が、酒類原材と、水産加工食品原材と、畜産加工品原材と、農産加工品原材と、菓子類原材と、清涼飲料水原材と、みそ又はしょうゆ原材と、ソース類原材と、調理食品原材と、冷凍食品原材と、密封包装食品原材と、粉末清涼飲料、食酢、ふりかけ食品、調味料、及び健康食品から選ばれるその他の食料品原材との少なくとも何れかであることを特徴とする請求項13に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項15】
前記混合工程後又は前記混合工程中に、前記飲食品原材である前記酒類原材に前記発酵柑橘果汁を加えて、アルコール度数を最大で60%の前記発酵柑橘果汁製品とする前記調製工程を有することを特徴とする請求項14に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項16】
前記調製工程で、前記飲食品原材に、前記発酵柑橘果汁を加えてから、水及び/又は炭酸水で割水し、柑橘果汁飲料である前記発酵柑橘果汁製品にすることを特徴とする請求項15に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項17】
前記香酸柑橘類が、ゆず、すだち、かぼす、ゆこう、ライム、レモン、シークワーサー、だいだい、キズ、及びもちゆから選ばれる少なくとも何れかであり、前記雑柑類が、日向夏であり、前記文旦類が、ブンタンであることを特徴とする請求項1に記載の発酵柑橘果汁製品の製造方法。
【請求項18】
香酸柑橘類と雑柑類と文旦類とから選ばれる少なくとも何れかの柑橘類の果皮ごとの果実の柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物及
び前記柑橘果汁の精油成分含有浮遊物
及び前記柑橘果汁の減圧蒸留液から選ばれる何れかと、
それの残果汁
の発酵もろみとが、配合されている発酵柑橘果汁製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香酸柑橘類や雑柑類や文旦類のような柑橘果汁を発酵させてなる発酵柑橘果汁製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゆず(柚子、学名:Citrus junos)、すだち(酢橘、学名Citrus sudachi)、かぼす(香母酢、学名:Citrus sphaerocarpa)、ライム(Lime、学名Citrus aurantifolia)などは、ミカン科ミカン属の常緑小高木であり、柑橘類の一種であり、香酸柑橘類に区分される。中でも、ゆずは、我が国で広く生産されており、年間生産量が2万トンを超え、高知県産が国内シェアの約50%強を占めている。また、人工若しくは自然交配による日向夏(小夏・土佐小夏・ニューサマーオレンジ、学名Citrus tamurama)のような雑柑類やブンタン(文旦・ザボン、学名Citrus maxima)のような文旦類も、西日本を中心に広く生産されており、高知県産のものも多い。
【0003】
温州ミカン、伊予柑、ネーブル、オレンジ等のようなミカン類・オレンジ類に区分される柑橘類は、糖度が10~12%程度と比較的高く酸度が0.1~0.3%程度と比較的低いために甘く、果物として果肉をそのまま食される。香酸柑橘類の中でもレモン(檸檬、学名:Citrus limon)は、糖度が約6~7%と比較的低く酸度が0.8~0.9%程度と比較的高いために酸っぱかったりほろ苦く酸っぱかったりするが、比較的可食部分が大きいため、果肉を食したり搾ったり、又は果肉を皮ごと味付けや風味付けに使ったりする。雑柑類には、日向夏のように外果皮だけ剥いで内果皮ごと果肉を食べるものもある。ブンタンのような文旦類は、採取直後では酸味が強すぎるので数ヶ月貯蔵して酸味を軽減させてから出荷され、果実を食するものである。それに比べ、香酸柑橘類の中でも、ゆず・すだち・かぼす・ライムのような香酸柑橘類は、糖度が約6~7%と比較的低く酸度が0.6%程度と比較的高いためにほろ苦く酸っぱいうえ、可食果肉部分が比較的小さくてそのまま食べ辛い。そのため、ゆず・すだち・かぼす・ライムのような香酸柑橘類は、そのまま果肉を食するよりも、実を絞ったり実や皮を輪切り又は千切りにしたりして料理に用いられたり、加糖して果汁ジュースに用いられたりすることが多い。ゆず・すだち・かぼす・ライムのような香酸柑橘類は、温州ミカン等やレモン等に比べ小振りな果実であり、果皮が比較的薄く果肉に十分な硬さがないことから、果皮を剥いて果肉だけを食したり加工したりするのが困難である。中でもゆずは、ゆずの果汁や皮が香味・酸味を加えるために柚子酢(生ゆず果実から直に搾った料理用ゆず果汁)として日本料理や、田舎寿司・鰹たたきなどの郷土料理等に用いられたり、ゆずの果汁がジュース等の飲料の爽快な味・香り付け原料として用いられたりしている。
【0004】
一般的に各種柑橘類は、飲料に用いられる場合、果汁にした後、様々な飲料用に加工される。例えば、特許文献1に、可食性の水溶液(アルコール含有又はノンアルコールのベース液体)と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、前記可食性の水溶液が、乳化剤と前記疎水性香気成分と炭酸ガスとを含有しており、前記疎水性香気成分は、レモン、ライム、又はグレープフルーツの特徴香の香気成分であり、飲料の全量に対する、前記疎水性液滴を形成する疎水性液状組成物の含有量が、0.1g/L以上であって、発酵工程を経るアルコール飲料又は発酵工程を経ないノンアルコール飲料のような容器詰飲料が開示されている。
【0005】
特許文献2に、柑橘類の果実、またはこの果実を搾汁して果汁を採取した残部を果皮とともに完全に磨砕し、そのまま、もしくはアルカリを加えてpHを約4~6に調整したのち、圧搾して果皮に起因する香油成分に富む果汁を得、この果汁を濃縮して濃縮果汁成分とし、この濃縮果汁に水を加えて発酵性糖分を約18~26%に調整し、これに酵母を加え発酵させたものを蒸留することを特徴とする、柑橘類の香油成分に富むフルーツ・スピリッツの製造方法が、開示されている。その実施例には、ウンシュウ(温州)ミカンの果実60トンからフルーツ・スピリッツを製造した例が示されている。
【0006】
特許文献3に、温州ミカンを発酵させる方法が開示されている。その実施例1には、果皮に付着する微生物の除菌とはく皮を容易にするため熱処理した早生温州ミカンから、果皮を取り除き、搾汁した果汁を遠心濾過し、ペプトン、酵母抽出物、モルト抽出物、グルコース(ブドウ糖)と共に、酵母サッカロマイセス セルビシエ菌液を接種し、アルコール発酵を行い、アルコール発酵液を得た例が記載されている。
【0007】
特許文献2及び3のように柑橘類の果汁をアルコール発酵させた例があるにも拘わらず、果皮・果肉ごと搾ったゆずの果汁を発酵させようとしても、加糖してさえ、殆ど発酵が進行しない。また果皮等を含んだゆずの果汁から液面に浮上する果皮繊維成分や精油成分(香油成分)を分画して分別すれば2週間以上で僅かに発酵するが、発酵の微弱状態が長く続きすぎて他の細菌による汚染の恐れがある。特許文献2及び3のように、温州ミカンなどの発酵においては果皮を含んでいても含んでいなくても果汁が発酵するに対し、果皮を含んだゆずの果汁の発酵は、それと大きく相違し、極めて発酵し難いという問題があった。ゆず以外にも、すだち、かぼすなどの香酸柑橘類や、日向夏などの雑柑類や、ブンタンのような文旦類についても、同様の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6847288号公報
【文献】特公平3-13865号公報
【文献】特開平11-018750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、温州ミカンの発酵、特にアルコール発酵と異なり、ゆずのような香酸柑橘類や日向夏のような雑柑類やブンタンのような文旦類の果実を果皮・果肉ごと搾った果汁に含まれる果皮由来の精油成分が、発酵を阻害していることを突き止めた。しかし、果皮や浮遊精油含有成分を単に除いて発酵させれば発酵阻害が抑制されるもののゆずなど柑橘類特有の風味や味わい・香りが低減されてしまうため、風味や味わいと香りとのバランスを図るのが、極めて困難であったところ、新たな手法を用いることによって、ゆずのみならず広く香酸柑橘類全般・日向夏のような雑柑類・ブンタンのような文旦類などの各種柑橘類についてこの問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、ゆず・すだち・かぼす・ライムなどのような香酸柑橘類や、日向夏のような雑柑類や、ブンタンのような文旦類などの各種柑橘類の果実を果皮ごと搾った果汁を処理して発酵させて豊かな発酵風味を付与することができ、発酵させても、ゆず等の香酸柑橘や日向夏のような雑柑類やブンタン等の文旦類の風味や味わい・香りが十分に感じられる発酵柑橘果汁製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた発酵柑橘果汁製品の製造方法は、
香酸柑橘類と雑柑類と文旦類とから選ばれる少なくとも何れかの柑橘類の果実を果皮ごと搾って果汁を取り、必要に応じて冷凍保存する搾汁工程と;
前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解しつつ精油成分を遊離させてから、精油成分含有浮遊物及び/又は沈殿物を分別して分離する分離操作と、前記果汁からマイクロ波蒸留によって精油成分を揮発させマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出して分離する分離操作と、前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解しつつ精油成分を遊離させてから、その繊維質分解果汁からマイクロ波蒸留によって精油成分を揮発させマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出して分離する分離操作と、前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解し浮遊物及び/又は沈殿物を除去してから減圧蒸留して濃縮しつつ蒸留液ごと分離する分離操作との何れかの操作を有する分離工程と;
その分離後の残果汁に糖分存在下で発酵酵母を添加し発酵させて残果汁発酵もろみを得る発酵工程と;
前記残果汁発酵もろみに、前記分離操作で得られた前記マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物又は前記精油成分含有浮遊物又は前記浮遊物又は前記蒸留液を配合して混合した発酵柑橘果汁を得る混合工程と;
を有することを特徴とする。
【0012】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記分離工程中、前記繊維質分解において、前記清澄化酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼから選ばれる少なくとも何れかであることが好ましい。
【0013】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記分離工程中、前記マイクロ波蒸留を、前記繊維質分解果汁の温度を高くても85℃、及び/又は高くても60kPa、例えば58kPaの減圧下で行うというものであることが好ましい。
【0014】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記分離工程で、前記マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を、静置して油層として分画した精油含有柑橘オイルとするというものであってもよい。
【0015】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記発酵工程中、前記発酵が、少なくともアルコール発酵であるというものである。
【0016】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記発酵工程中、前記発酵が、前記アルコール発酵であって、前記発酵酵母が、清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、醤油酵母、アルコール発酵する野生酵母から選ばれる酵母であることが好ましいというものである。
【0017】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前期発酵工程を、少なくとも前記残果汁に接触する内表をプラスチック製とする容器中で行うことが好ましいというものである。
【0018】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記容器が、前記プラスチックを、ポリプロピレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリエチレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリ塩化ビニルのホモポリマー又はコポリマー、ポリエチレンテレフタレートのホモポリマー又はコポリマー、ポリスチレンのホモポリマー又はコポリマー、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、若しくはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂とするというものである。
【0019】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記容器が、前記プラスチック製の容器、若しくは、前記プラスチックでコーティングされた内層を有するガラス製容器又は金属容器であってもよいというものである。
【0020】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記残果汁にブドウ糖、果糖、及びショ糖を添加するというものであってもよい。
【0021】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記発酵工程の後、前記残果汁発酵もろみから前記発酵酵母を除去する発酵停止工程を経てから、調製工程を行うというものであってもよい。
【0022】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記混合工程中、前記残果汁発酵もろみに前記精油含有柑橘オイルを配合して混合することによって、発酵が抑制又は停止された前記発酵柑橘果汁を得るというものであってもよい。
【0023】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記混合工程の途中で又はその後、飲食品原材に、前記発酵柑橘果汁を加えて、前記発酵柑橘果汁製品を調製する調製工程を有するというものであってもよい。
【0024】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記飲食品原材が、例えば酒類原材と、水産加工食品原材と、畜産加工品原材と、農産加工品原材と、菓子類原材と、清涼飲料水原材と、みそ又はしょうゆ原材と、ソース類原材と、調理食品原材と、冷凍食品原材と、密封包装食品原材と、粉末清涼飲料、食酢、ふりかけ食品、調味料、及び健康食品から選ばれるその他の食料品原材との少なくとも何れかであるというものである。
【0025】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記混合工程後又は前記混合工程中に、前記飲食品原材で前記酒類原材、例えばスピリッツ原酒(蒸留酒)に前記発酵柑橘果汁を加えて、アルコール度数を最大で60%の前記発酵柑橘果汁製品とする前記調製工程を有するというものであってもよい。
【0026】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記調製工程で、前記飲食品原材に、前記発酵柑橘果汁を加えてから、水及び/又は炭酸水で割水し、柑橘果汁飲料である前記発酵柑橘果汁製品にするというものであってもよい。
【0027】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法は、前記香酸柑橘類が、ゆず、すだち、かぼす、ゆこう、ライム、レモン、シークワーサー、だいだい、キズ、及びもちゆから選ばれる少なくとも何れかであり、前記雑柑類が、日向夏であり、前記文旦類が、ブンタンであることが好ましい。
【0028】
前記の目的を達成するためになされた発酵柑橘果汁製品は、香酸柑橘類と雑柑類と文旦類とから選ばれる少なくとも何れかの柑橘類の果皮ごとの果実の柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物及び前記柑橘果汁の精油成分含有浮遊物及び前記柑橘果汁の減圧蒸留液から選ばれる何れかと、それの残果汁の発酵もろみとが、配合されているものである。
【0029】
前記の目的を達成するためになされた発酵制御剤は、柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有オイルからなり、酵母の発酵を抑制又は停止するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の発酵柑橘果汁製品の製造方法によれば、果皮・果肉を有する果実を搾ったゆず等の柑橘果汁から精油成分を効率よく分別し、精油含有成分を40~85℃の温度・減圧下で揮発させて抽出物として又は精油成分含有浮遊物として若しくは浮遊物/沈殿物として分離する処理をしてから、残果汁を発酵させるので、残果汁中に発酵を阻害する精油含有成分が殆ど残存せず、発酵が速やかかつ確実に進行し、発酵柑橘果汁製品を得ることができる。
【0031】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法によれば、単に希釈・濃縮・濃縮還元などのように濃度調整しかできない生果汁に比べ、発酵によって豊かな発酵風味を付与することができ、発酵させてからゆず等に由来する精油含有柑橘オイルのような抽出物又は精油成分含有浮遊物を戻し配合してゆず等の香酸柑橘類や日向夏等の雑柑類やブンタン等の文旦類のような本来の爽やかな風味にしつつ、発酵柑橘果汁製品の目標品質に応じてこれ等の香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の特徴的な香りを自在に調整でき、香味の調和の取れた発酵柑橘果汁製品を得ることができる。
【0032】
この発酵柑橘果汁製品の製造方法によれば、精油含有成分を分離して、発酵させると発酵阻害を抑制できるものの、風味・香りが低減されてしまうが、精油含有成分を配合し直して風味・香りを復元させることにより、目標品質に合うように両者の絶妙なバランスを図ることができる。
【0033】
本発明の発酵柑橘果汁製品は、発酵を阻害するゆず果汁のような柑橘果汁からのマイクロ波蒸留精油成分含有オイル及び/又は柑橘果汁の精油成分含有浮遊物と、十分に発酵させたゆず等の柑橘類の残果汁発酵もろみとが配合されているので、十分な発酵と、これら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類に固有で特有の十分な風味・香りとを、両立できたものである。
【0034】
本発明の発酵酵母の発酵制御剤は、各種発酵を抑制することができる。とりわけ、ゆず等の柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物からなることにより、発酵が必要なくなった段階で加えられて、柑橘果汁発酵もろみの更なる発酵を抑制又は停止することができ、同時に、十分な風味・香りを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明を適用する発酵柑橘果汁製品の製造方法の工程の概略を示す工程図である。
【
図2】本発明を適用する発酵柑橘果汁製品の別な製造方法の工程の概略を示す工程図である。
【
図3】本発明を適用する発酵柑橘果汁製品の別な製造方法の工程の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0037】
本発明の発酵柑橘果汁製品の製造方法は、その工程の概略を示した
図1を参照して説明すると、
(構成工程I)必要に応じて水洗した香酸柑橘類の一種であるゆず果実を、果皮・果肉ごと、圧搾機によって圧搾して搾って、その柑橘果汁を、冷凍保存する搾汁工程(i)と、
(構成工程II)ゆず果汁である柑橘果汁に、清澄化酵素を添加し、柑橘果汁の発酵を阻害する精油成分が含有されている果皮等の繊維成分やペクチン成分を分解して繊維質分解しつつ、繊維成分に入り込んでいる精油成分を遊離させ繊維質分解果汁とする繊維質分解工程(ii)と、
(構成工程III)低い温度で均一かつ精度の良い加熱下及び/又は減圧下で、繊維質分解果汁へマイクロ波を照射することによって、精油成分を分解することなく、マイクロ波蒸留し、水蒸気ごと精油含有成分、とりわけ揮発精油含有成分を揮発させて、冷却することによってマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出し、一方、抽出後の残留物を残果汁とする、分離工程(iii)と、
(構成工程III’)必要に応じて、分離工程中、得たマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を、静置して、油層を精油含有柑橘オイルとして、分画する分画工程(iii’)と、
(構成工程III”)さらに必要に応じて、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物から分画した抽出水層を残果汁に戻す返戻工程(iii”)と、
(構成工程IV)抽出後の残果汁に、少なくとも糖が含有されている糖存在下で、発酵酵母を添加し、必要に応じて糖、例えばブドウ糖を添加してから、発酵させて残果汁発酵もろみを得る発酵工程(iv)と、
(構成工程V)残果汁発酵もろみにマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を配合して混合し、発酵柑橘果汁を得る混合工程(v)とを有するというものである。この発酵柑橘果汁そのものを発酵柑橘果汁製品としてもよい。
【0038】
なお、(構成工程III)中、マイクロ波蒸留せずに、繊維質分解果汁から、精油成分含有浮遊物及び/又は沈殿物を除去することを分離工程(iii)とし、(構成工程V)中、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を配合する代わりに、精油成分含有浮遊物を配合して混合してもよい。
【0039】
(構成工程VI)または、この発酵柑橘果汁を中間体とし、飲食品原材に加えて、発酵柑橘果汁製品を調製する調製工程(vi)を有するものであってもよい。
(構成工程VII)必要に応じて、飲食品原材と発酵柑橘果汁とを容器に封入し、発酵柑橘果汁製品にラベルなどを貼付して、必要に応じ包装材で包装をする製品化工程(vii)を有するものであってもよい。
【0040】
これらの各工程について、より詳細に説明する。
【0041】
搾汁工程(i)中、香酸柑橘果実として市場に出回っている通常のゆず果実を用いた例を示したが、ゆずと同じく、果肉を直に食するよりも実を絞ったり実や皮を輪切り又は千切りにしたりして料理に使用することが多いその他の香酸柑橘果実を用いてもよい。このような香酸柑橘類として、たとえば通常の熟したゆず、より爽やかな香りが際立つ青ゆずと称される未熟のゆず、オニユズ(シシユズ)、ジャバラのようなゆず;市場に出回っている通常のすだち、直七のようなすだち;かぼす;ゆこう(柚香、学名:Citrus yuko);市場に出回っている通常のライム、キーライム、ハニーライムのようなライム;市場に出回っている通常のレモン、グリーンレモン、ジャンボレモン、マイヤーレモン、姫レモンのようなレモン;シークワーサー(和名:ヒラミレモン又は平実檸檬、学名:Citrus x depressa);だいだい(橙、学名:Citrus aurantium);キズ(木酢);もちゆ(餅柚)などの香酸柑橘類の果実を用いてもよい。香酸柑橘類に代えて、日向夏のような雑柑類を用いていてもよく、ブンタンのような文旦類を用いてもよい。
【0042】
これらの柑橘類の果実は、果皮に、揮発性油成分、例えば精油成分を多く含んでいる。ゆずのような香酸柑橘類・日向夏のような雑柑類・ブンタンのような文旦類の果実、とりわけゆず果実は、熟し又は未熟の(例えば青ゆず)果実を枝から摘み取って、できるだけ新鮮なうちに圧搾機を用いて、果皮・果肉ごと圧搾して搾って果汁を、搾り取る。この果汁は、果皮や甘皮などの繊維成分が含まれているので混濁果汁となっており、またそれらの繊維成分にも精油成分が含有されており、さらに遊離した精油成分も含まれている。これら繊維成分に含有され若しくは上澄から遊離し浮遊し又は分散している精油成分を、果汁の段階で濾別・分別しても、一部の精油成分が残果汁中に残存してしまう。果汁には、少ないながらもブドウ糖やショ糖のような糖分を有しているから僅かながらアルコール発酵し得るとしても、このような残存する精油成分による発酵阻害の所為で極めて発酵量が少ない上、発酵酵母の増殖が劣位になることで、果実由来の雑菌等の汚染が進み、ゆずのような香酸柑橘類・日向夏のような雑柑類・ブンタンのような文旦類に特有で固有の強い香りが変質してしまう。
【0043】
ゆず等の香酸柑橘類・日向夏等の雑柑類・ブンタン等文旦類の果皮などの精油成分に由来する強い香りは、雑菌による汚染の他、高温の熱でも変質し易い。
【0044】
香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の果実由来の果汁中の精油成分による発酵阻害の詳細は、必ずしも明らかでない。少なくともレモンの果皮はリモネンを含有し抗菌作用があることが知られている。ところが、特許文献2及び3のように、温州ミカンの果皮・果肉を有する果実、又は果皮を除いた果実から搾った果汁で十分に発酵するのに対し、ゆず等の香酸柑橘類・日向夏等の雑柑類・ブンタン等の文旦類の果実を果皮ごと搾ったことにより、ゆず等の香酸柑橘類・日向夏等の雑柑類・ブンタン等の文旦類の果実由来の繊維成分に精油成分が含有されていたり、上澄みの遊離し又は分散している精油成分を含有されたりしている柑橘果汁が、きわめて発酵し難いのとは、好対照となっている。温州ミカンでは、果皮の有無にかかわらず果実から搾汁した果汁に、発酵阻害成分が全く含有されないか僅かにしか含有されないため、発酵を阻害しないと推察されるが、これら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類では、果皮・果肉ごと果実を搾ると相当量の発酵阻害成分が含有されてしまうと推察される。
【0045】
香酸柑橘類果実・雑柑類果実・文旦類果実例えばゆず果実を、果皮・果肉ごと、圧搾機によって圧搾して搾って果汁を取るには、樹脂ローラーとステンレスベアリングを組み合わせた押さえローラーを持つコンベア2基を横向けに対面させた搾汁機に、洗浄した全果実を投入して連続的に圧搾するタイプの圧搾機、例えば搾汁機SFP-2200型(株式会社井河鉄工所製の商品名)が挙げられる。
【0046】
柑橘果汁は、静置すると、浮遊物と沈殿物を生じる。浮遊物には、不溶性の繊維質と共に、油状物を構成する香気成分(例えばα-ピネン、ミルセンなど)、苦味成分(例えばナリンギン、リモニンなど)、有機酸(例えばクエン酸、リンゴ酸など)が豊富に含まれている。この繊維質と油状物とは混然一体となっており、未処理のままでは油状物を単独で取り除き難い。
【0047】
繊維質分解工程(ii)中、清澄化酵素としては、セルラーゼ、例えば主活性のセルラーゼ活性と様々なヘミセルラーゼ活性やペクチナーゼ活性を有するアクレモセルラーゼKM(協和化成株式会社製;商品名)や、ペクチナーゼ活性やキシラナーゼ活性、プロテアーゼ活性を含有するスクラーゼA(三菱ケミカル株式会社製;商品名);ヘミセルラーゼ、例えばヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社製;商品名);ペクチナーゼ、例えばペクチナーゼSS(ヤクルト薬品工業株式会社製;商品名)が挙げられる。ゆず果汁のような柑橘果汁100質量部に対して、清澄化酵素を0.01~0.1質量部、好ましくは0.02質量部添加し、15~25℃、好ましくは20℃で、15~24時間、より好しくは12時間、果汁の清澄化が進んで油層と水層の境界が朧気ながらも視認できるようになるまで、繊維質分解処理を行う。
【0048】
このような清澄化酵素を用いないと、たとえゆず果汁のような柑橘果汁中の果皮等の繊維成分を分画分別しても、ゆず果汁のような柑橘果汁の発酵を阻害する精油成分が、残果汁中に混濁する細かな繊維成分に入り込んだ形で残留してしまい、発酵を阻害してしまう。特に、精油成分等の品質劣化を防ぐべく、より低温でマイクロ波蒸留する場合には、果汁に含まれる繊維成分に吸着した精油成分が十分に抽出できず、発酵を阻害してしまうため、清澄化酵素による繊維分解の効果が大きく影響する。このような清澄化酵素は、ゆず果汁のような柑橘果汁中の果皮等の繊維成分例えばセルロース成分をセルラーゼ又はセルラーゼ様活性酵素によって分解し、又はゆず果汁のような柑橘果汁中の混濁成分である多糖類のペクチン成分を分解して、これら繊維成分などに入り込んで含有された精油成分を遊離させ、半透明で濁りが均一な繊維質分解果汁が得られる。
【0049】
遊離した精油成分は、親油性のものが多く非水溶性であるので、遊離して油滴乃至ミセル、及び/又は油層となって分離しているが、多少とも果汁中に微細液滴乃至ミセルとなって分散しているので、油層/水層分離だけでは、完全に分別できない。そこで、繊維質分解果汁からマイクロ波蒸留によって、精油成分を分別する分離工程(iii)を行う。
【0050】
分離工程(iii)中、マイクロ波蒸留とは、繊維質分解果汁へマイクロ波を照射することによって、精油成分を抽出するというものである。加熱しながら揮発性物質含有水に水蒸気を吹き込んで沸点の高い揮発性物質を水分と蒸留することによりその揮発性物質の沸点よりも低い温度で留出させる水蒸気蒸留に比べ、マイクロ波蒸留は、マイクロ波によって果皮や果汁などを均一に直接加熱して蒸留温度を精度よく一定に保ち、水分が少なくても精油成分を抽出できる。また、減圧下で蒸留を行えば40℃程度の低温であっても効率良い精油成分の抽出が可能となる。
【0051】
マイクロ波蒸留は、繊維質分解果汁に対して、常圧又は減圧下、高くても85℃、例えば40~85℃、好ましくは40~50℃、より好ましくは45℃の加熱条件下でマイクロ波蒸留中に蒸留液から精油成分(精油)のみを抽出しその余の芳香蒸留水を繊維質分解果汁に戻す還流法、繊維質分解果汁に対して、常圧又は減圧下、45℃~65℃でマイクロ波蒸留中に繊維質分解果汁を2~4倍に濃縮しながら蒸留した後に精油成分(精油)と芳香蒸留水とを分け、芳香蒸留水を繊維質分解果汁に戻す濃縮法が挙げられる。これらの蒸留により引き続く発酵が速やかに進行するが、果汁品質保持の観点から、85℃での還流法よりも、低温で濃縮法によりマイクロ波蒸留することが好ましい。
【0052】
とりわけ、マイクロ波蒸留は、繊維質分解果汁の温度を高くても85℃、好ましくは40~50℃、より好ましくは45℃の加熱条件下、及び高くても60kPa、好ましくは7~12kPa、より好ましくは9kPaの減圧条件下にして、周波数2.45ギガヘルツのマイクロ波を6kWの出力で照射し、蒸留残液が蒸留前の1/2量になるまで2倍に濃縮しながら蒸留し、揮発した精油成分及び水蒸気を冷却、例えば冷却管に誘導して冷却管外部から水冷して、精油成分と水とに分離したマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を得るというものである。これによって、精油成分は、比較的高温での水蒸気蒸留の場合よりも遥かに低温で抽出できるので、ゆず等の香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の香りが残存したまま、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物として抽出される。通常の水蒸気蒸留では、加熱温度を高くせざるを得ず、その所為で果汁に含まれる糖やアミノ酸、香気成分などが熱で反応して、ゆず等の香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の香りに焦げ臭・分解物臭が混ざって不快な臭いとなってしまい、これら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類に特有の香りを示せなくなってしまうので、マイクロ波蒸留をする必要がある。
【0053】
マイクロ波蒸留は、例えば原料をタンク内に投入し、真空ポンプでタンク内を減圧状態に保ち、マイクロ波で原料を加熱することによって揮発した有用成分を冷却凝縮器で液体に戻して回収器で捕集するタイプの減圧蒸留型濃縮抽出装置EXT-V40P06(兼松エンジニアリング株式会社製;商品名)を用いて行うことができる。
【0054】
一方、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を抽出した後の繊維質分解果汁の残留物を、発酵させる残果汁とする。必要に応じて残果汁を、12~16℃、好ましくは15℃に放冷乃至冷却する。
【0055】
分離工程(iii)中、水層と精油成分を含む油層とからなるマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物をそのまま引き続く混合工程(v)に用いてもよい。しかし、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物中、水層が油層に比べ相当量となること、また水層はゆずなどこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類に特有の香りを持つが発酵阻害を生じさせないこと、さらに水層は繊維成分などを含まず油層と明確に区分され、容易に分画できることなどから、残果汁に戻して発酵させることが可能であることから、分画工程(iii’)として、又はマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を静置してから、分液漏斗、又はマイクロ波蒸留後の冷却凝縮器に取り付けた留液トラップを用いて油/水層を分画し、油層を精油含有柑橘オイルとして分離してもよい。分画した抽出水層は、返戻工程(iii”)として、残果汁に戻して発酵に供してもよい。
【0056】
このゆず果汁のような柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物からなる、精油含有柑橘オイルは、酵母の発酵制御剤として、用いることができる。この発酵制御剤は、残果汁発酵もろみに初発106個/mLの酵母を加えて十分に増殖させ、目標とする発酵状態(Brixを目安)まで発酵させた後、遠心分離により酵母の殆どを除去して生菌数を5×107個/mL程度にした場合は、0.1%~0.5%、より好ましくは0.3%、また、アルコール5%程度になった発酵した残果汁100重量部に対して、油分重量換算で0.05~0.5%で発酵抑制作用を発現する。このとき、遠心分離したままでは、再びアルコール発酵を生じるので、発酵制御剤を加えることにより、発酵を実質的に完全に抑制・停止することができるようになるのである。発酵抑制の活性発現本体は、未同定である。しかし、温州ミカンが果皮の有無にかかわらず果実から搾汁した果汁で十分に発酵するのに対し、ゆず等のこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類は果皮・果肉を有する果実を搾った果汁で発酵し難いことから、少なくともゆず等のこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の精油成分には発酵抑制活性発現本体が含まれている。
なお、分画工程(iii’)で分画した抽出水層を残果汁に戻しても戻さなくても発酵程度は変わらないことから、この抽出水層には発酵抑制成分を含有しないことが明らかである。
【0057】
分離工程(iii)中、繊維質分解果汁からマイクロ波蒸留によってマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を抽出分離する代わりに、繊維質分解果汁を静置し又は遠心分離処理して、精油成分含有浮遊物と沈殿物とを除去して分離し、残果汁としてもよい(
図3参照)。
【0058】
発酵工程(iv)中、もともと果汁には糖度約6~7%の糖、例えばブドウ糖や果糖やショ糖などの天然糖が入っているから、残果汁にも、少なからず糖が残存している。しかしこの程度の糖濃度では、発酵が進み難いので、糖、例えばブドウ糖を添加して加糖(補糖)する。添加する糖の量は、残果汁に対する糖濃度が2~10%、好ましくは10%とすると、発酵が促進する。
【0059】
加糖は、ブドウ糖等の糖を粉末・粒体のまま投入し、攪拌によって、所定の糖濃度にするものであってもよい。発酵は、主にアルコール発酵であると、好ましい。
【0060】
発酵酵母は、アルコール発酵の場合、公益財団法人日本醸造協会が頒布する協会9号や協会7号などの清酒酵母、EC1118株などのワイン酵母、S2株などの焼酎酵母が挙げられる。発酵酵母は、残果汁に対して初発で約1×106個/mLになるよう添加し、12~16℃、好ましくは15℃で、10~14日間、好ましくは12日間、静置して発酵させ、必要に応じて数日に一度は軽く攪拌する。
【0061】
発酵工程(iv)で、ゆず果汁のような柑橘果汁由来の残果汁を発酵させる場合、残果汁に精油成分が相当量残存していると、ガラス製容器では発酵がほとんど進まない。果皮を有していてもよい温州ミカン果汁の発酵は、ガラス製容器でも進行するのと対照的である。しかし、ゆず果汁のような柑橘果汁由来の残果汁は、それに接触する内表を少なくともプラスチック製とする容器、とりわけ、容器全体が、ポリプロピレン系樹脂、例えばポリプロピレンのホモポリマー又はプロピレン-エチレンコポリマーのようなコポリマー;ポリエチレン系樹脂、例えばポリエチレンのホモポリマー又はコポリマー、より具体的にはポリエチレン又は高密度ポリエチレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、例えばポリエチレンテレフタレートのホモポリマー又はコポリマー、より具体的には耐熱性や耐圧性を付加したPET;ポリスチレン系樹脂、例えばポリスチレンのホモポリマー又はコポリマー;フッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン;ポリカーボネート;アクリル樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS)のようなプラスチック製の容器中、若しくはそのようなプラスチック製の内層でコーティングされた金属容器又はガラス製容器で行うと、ゆず果汁のような柑橘果汁由来の残果汁の発酵が速やかかつ十分に進行する。
【0062】
少なくとも内表をプラスチック製とする容器の容量は、10mL~10L、好ましくは200mL~1L、より具体的には250mLである。ガラス製容器で発酵が進行せず、内表がプラスチック製、例えばポリプロピレン製の容器で発酵が進行する理由の詳細は必ずしも明らかでないが、リモネンがプラスチックを溶解するほど親油性が高いことからプラスチック製の容器では、発酵を阻害するゆず精油成分のようなこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の柑橘精油成分が容器面に吸着されることによって、発酵すべき残果汁中に残存する精油成分が減少して発酵阻害が抑制されるから、このような吸着がほぼ生じないガラス製容器に比して、発酵が速やかに進行するからであると推察される。
【0063】
なお、分離工程(iii)中、繊維質分解果汁からマイクロ波蒸留によってマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を抽出分離する場合(
図1参照)の代わりに、繊維質分解果汁を静置し又は遠心分離処理して、精油成分含有浮遊物と沈殿物とを分別して分離し、残果汁とした場合(
図3参照)であっても、プラスチック製の容器中、若しくはそのようなプラスチック製の内層でコーティングされた金属容器又はガラス製容器であれば、発酵が比較的速やかに進行するが、単なるガラス製容器では、発酵が全く進行しない。しかし、プラスチック製容器等であっても、マイクロ波蒸留によってマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を分離した残果汁の場合(
図1参照)と比べると、発酵速度は遅く、発酵量も少ない。
【0064】
発酵により、残果汁は、残果汁発酵もろみとなる。残果汁発酵もろみは、アルコール度数が、最大で10%、例えば0.5~6%、好ましくは2~5%である。そのアルコール度数は、発酵柑橘果汁製品の最終製品に応じて、適宜調整することができる。残果汁発酵もろみは、アルコール発酵によりアルコールや有機酸、また、酒類に特徴的な高級アルコールや脂肪酸エステル類が生成され、味や香りが複雑かつ芳醇で柔らかになっている。
【0065】
このとき、この残果汁発酵もろみは、発酵によって味わいに深みが生じるとともに、苦みや渋みが軽減されている。さらに精油成分を戻した発酵柑橘果汁は、ゆず等のこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類の特有の香りを高めることができるだけでなく、ゆず果汁等の柑橘果汁だけでは単調になり易い味わいを補って、発酵によって生じた各種の香気成分や有機酸やアミノ酸により芳醇な香りと濃厚な味わいを付与できたり、目標とする品質に沿って香味のバランスを調整できたりするという効果を奏している。
【0066】
このとき、この残果汁発酵もろみは、発酵工程(iv)の後、残果汁発酵もろみから清酒酵母のような酵母の大部分を遠心分離(例えば3000rpm×5分)し又は濾過して分別することにより、及び/又はマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物又は精油含有柑橘オイルを残果汁発酵もろみに配合して混合することにより、及び/又はそれらを組み合わせることにより、好ましくは組み合わせることにより、発酵をほぼ完全に抑制した発酵停止工程を施してもよい。
【0067】
混合工程(v)中、発酵工程(iv)で得られた残果汁発酵もろみに、分離工程(iii)で得られたマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物、又は分画工程III’で得られた精油含有柑橘オイルを好ましくは全量配合して発酵柑橘果汁を得ることができる。
【0068】
このとき、精油含有柑橘オイルは、配合量が多いと発酵柑橘果汁液面に浮遊する場合があるが、この果汁には濁りがあるため軽い攪拌でも分散状態が実現でき、原果汁の場合と同様に、製品の充填時や利用時に大きな支障は生じない。
【0069】
また、乳化剤を加えず分散させるため、精油含有柑橘オイルを少量の高濃度原料アルコールに溶解させてから配合したり、マイクロ波蒸留した残果汁を遠心分離して得られたゆず果汁のような柑橘果汁由来の繊維成分残渣をオイルに混合したり、ファインナノバブル技術を応用するもので微細流路を有する静止構造への毎分数万回転もの高速剪断を用いた予備乳化とその予備乳化された液体の機械的な物理剪断を用いた分散とによる安定した乳化液を調製するエマルジョン生成装置EMLAB1(株式会社坂本技研製の商品名)を用いて分散させたりしてもよい。このようにして乳化・分散させると、長期間保存しても乳化が解けにくい。分画工程で得られた抽出水層を残果汁に返戻する際に、一部を残し、これに精油含有精油柑橘オイルを加えてエマルジョン製成装置で乳化分散させた後に、混合工程に用いても良い。
【0070】
なお、分離工程(iii)中、繊維質分解果汁を静置し又は遠心分離処理して、精油成分含有浮遊物と沈殿物とを分別して分離した、残果汁を発酵させ残果汁発酵もろみとした後、その精油成分含有浮遊物を残果汁発酵もろみに戻し配合した場合(
図3参照)にも、このエマルジョン生成装置を用いれば、繊維質を含んでいても乳化したまま長期間維持できる。
【0071】
図1のように、繊維質分解とその後のマイクロ波蒸留とを施す例を示したが、
図2に示すように、繊維質分解を省いて柑橘果汁を直にマイクロ波蒸留し、残果汁を発酵させた残果汁発酵もろみに、マイクロ波蒸留した精油成分含有抽出物乃至それからの精油含有柑橘オイルを、配合するものであってもよい。又は、
図3に示すように、繊維質分解を施した後にマイクロ波蒸留を施すことなく、精油成分含有浮遊物又は浮遊物・沈殿物と残果汁とに分離し、残果汁を発酵させた残果汁発酵もろみに、分離した精油成分含有浮遊物又は浮遊物を、配合するものであってもよい。
【0072】
発酵酵母の生菌数を減らし自己消化による香味の劣化を軽減するために残果汁発酵もろみを遠心分離し、発酵酵母の多くを除去した残果汁発酵もろみに対し幾分残存する発酵酵母による再増殖・発酵を抑制・停止させるため、マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物、又は精油含有柑橘オイルを加えて、精油成分の香り等を復元させると共に、発酵制御活性成分である精油成分によって発酵酵母による発酵を止める発酵停止工程としてもよい。これにより、残果汁発酵もろみは、加熱や精密濾過等により発酵を停止する場合と比較して、加熱による品質劣化や濾過による成分変化など、ゆず等のこれら香酸柑橘類・雑柑類・文旦類本来の風味を損なうことなく長期間の品質保持が可能になり、製造工程においても作業が簡略化される。
【0073】
この発酵柑橘類果汁そのものを、発酵柑橘類果汁製品としてもよい。発酵柑橘類果汁そのものを発酵柑橘類果汁製品とする場合、食酢やドレッシングのような調味料・食品などとして用いられる。
【0074】
または、調製工程(vi)として、調味液としてのゆず果汁のような柑橘果汁(原液)と同様に、この発酵柑橘果汁を中間体とし、飲食品原材に、この発酵柑橘果汁を加えて、発酵柑橘果汁製品を調製するものであってもよい。
【0075】
飲食品原材としては、例えば酒類原材と、発酵飲食品原材と、加工飲食品原材と、菓子類原材と、総菜原材と、漬物原材と、調味料原材が挙げられる。具体的には、醸造酒などのような各種酒類原材である酒類原材と、発酵食品や発酵飲料である発酵食品原材と、水産加工食品原材や畜産加工品原材や農産加工品原材や清涼飲料水原材のような加工飲食品原料・漬物原材と、市販惣菜や宅配惣菜や冷凍食品原材やレトルト食品である密封包装食品原材のような前記惣菜原材・調理食品原材と、和菓子や洋菓子や甘味や中華菓子のような菓子類原材と、みそ又はしょうゆ原材・ソース類原材のような調味料原材と、粉末清涼飲料・食酢・ふりかけ食品・調味料、健康食品から選ばれるその他の食品原材とが挙げられる。
【0076】
より具体的には、酒類原材として、日本酒、ビール、ワインのような醸造酒;スピリッツ原酒(蒸留酒)具体的には穀物や果物などをアルコール発酵させた醸造酒を蒸留器で加熱し、水より沸点の低い気化アルコールを集めて、冷却して液化させて得たスピリッツ、焼酎、ジン、ラム、ウイスキーなどの蒸留酒;リキュール、例えば蒸留酒や醸造酒に果実やハーブなどの香味と砂糖やシロップや着色料を加えた混成酒;甘酒、例えば米の粥にこうじを混ぜて発酵させ、又は酒粕を溶いて砂糖で甘味を付けた甘味飲料などの各種アルコール飲料原材やノンアルコール飲料原材が挙げられる。発酵飲食品原材として、納豆のような発酵大豆食品;鮒寿しのような熟れ鮓;チーズ・ヨーグルトのような発酵乳製品;発酵乳酸菌飲料;くずもち・ナタデココのような発酵デザート;ぬか漬け・キムチ・ピクルスのような発酵漬物;サラミソーセージ・生ハムのような発酵加工肉類;鰹節・塩辛・くさやのような発酵加工魚介類が挙げられる。加工飲食品原材として、水産・畜産・農産加工品原材であって、豆腐;寿司;烏龍茶・紅茶・碁石茶(登録商標)などの茶葉;ソーセージ・ハムのような加工肉類;ジュース・緑茶などの清涼飲料水;野菜を塩・酢・味噌・こうじなどに漬け込んだ貯蔵食品のような漬物原材が挙げられる。総菜原材・調理食品原材として、煮物、揚げ物、焼き物、蒸し物、刺身などの生魚介類やその切り身やサラダのような生鮮飲食品、野菜・肉・魚を用いた市販乃至宅配用の惣菜や冷凍食品原材やレトルト食品や缶詰や瓶詰が挙げられる。和洋菓子原材として、饅頭のような和菓子;カステラ・ケーキ・チョコレートのような洋菓子;アイスクリーム・キャンディのような甘味、月餅のような中華菓子が挙げられる。調味料原材として、味噌・醤油・ソース・酢・みりん・ポン酢・寿司酢・風味付け酸味料、ドレッシングなど各種調味液が挙げられる。これら以外にも他の食品原材として、粉末清涼飲料・食酢・ふりかけ食品・調味料、健康食品が挙げられる。
【0077】
特に好ましい態様として、より具体的には、飲食品原材がスピリッツ原酒の場合、アルコール度数25~42%、好ましくは約35%のスピリッツ原酒に、発酵柑橘果汁を加える。例えば、飲食品原材であるスピリッツ原酒と発酵柑橘果汁との混合物に、水及び/又は炭酸水で割水しアルコール度数1~35%、好ましくは約25%にし、容器例えば瓶や缶に充填し、口をキャップで巻締し、必要ならば瓶火入れして殺菌し、発酵柑橘果汁製品として、瓶詰め又は缶詰め若しくはパック詰めのリキュールあるいはスピリッツ製品とするものであってもよい。この製品を、嗜好に応じて水、湯、氷、炭酸飲料などで割って飲酒してもよい。ハードセルツァーとして、果汁入りアルコール系炭酸水にしてもよい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を適用する実施例、及び本発明を適用外の比較例について、詳細に説明する。
【0079】
(実施例1-1)
図3に示すようにして、発酵柑橘果汁製品の製造を行った。
先ず、香酸柑橘類として、高知県馬路村産のゆずの果実を果皮ごと搾ってゆずの生果汁を搾汁した。この生果汁を冷凍保存しておいた。発酵柑橘果汁製品の製造の際にこの生果汁を解凍し、柑橘果汁原液とした(搾汁工程(i))。
この柑橘果汁原液1000mLを静置し、繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いて920mLの柑橘果汁とし、ポリプロピレン製広口瓶に入れた。清澄化酵素であるアクレモセルラーゼKM(協和化成株式会社製;商品名)を水で10w/v%に希釈し、0.1W/V%濃度になるように、柑橘果汁へ加え、常温(20℃)で一晩放置して繊維質分解果汁を得た(繊維質分解工程(ii))。さらにここから油状精油成分を含有する浮遊物を吸引によって取り除いた後、遠心分離(3000rpm×10分間)し、油状精油成分を含有する浮遊物と沈殿した固形分とを取り除き、約750mLの残果汁とした(分離工程(iii))。
残果汁にはブドウ糖を果汁量の10%重量添加して発酵に供した。250mLのポリプロピレン(PP)製円筒型チューブ グッドボーイ(アズワン株式会社製の商品名)に、ブドウ糖を添加した残果汁200mLを入れ、及び50mLのポリプロピレン製コニカル型チューブ遠沈管(アズワン株式会社製)にブドウ糖を添加した残果汁40mLを入れ、各容器で発酵させた(発酵工程(iv))。
発酵には、YM培地で清酒酵母(熊本酵母系)を28℃で2日間培養後、菌体を遠心分離(3000rpm×5分間)で集めたものを用いた。この酵母を初発菌体濃度が1×10
6個/mLとなるように、各容器のブドウ糖を添加した残果汁に植菌した。これら容器を15℃の恒温室で静置し、残果汁を発酵させ、数日に1回軽く攪拌し、残果汁発酵もろみを得た。
残果汁発酵もろみについて初日から1~4日おきにデジタル糖度計でBrix(糖含有量)を測定した。また、発酵最終日に、遠心分離(3000rpm×5分間)で固液分離し、簡易アルコール分析器アルコメイトAL-2型(理研計器株式会社製の商品名)でアルコール分(Alc.)を測定した。
その結果をまとめて表1に示す。
【0080】
(実施例1-2)
実施例1-1の繊維質分解工程を行わず、その代わりに、
図2に示すように、柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁を、マイクロ波蒸留小型試験装置(兼松エンジニアリング株式会社と高知県工業技術センターが共同開発した小型試験装置)を用いて、85℃、60kPa下、周波数2.45ギガヘルツのマイクロ波を1kWの出力で照射してマイクロ波蒸留し、蒸留液から精油成分(精油)のみを抽出して、その余の抽出水層(芳香蒸留水)を蒸留元液に戻す還流法を施して残果汁を得た後、200mLのガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶(アズワン株式会社製の商品名)を用いて発酵させたこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【0081】
(実施例1-3)
実施例1-1の繊維質分解工程を行わず、その代わりに、
図2に示すように、柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁を、マイクロ波蒸留小型試験装置(兼松エンジニアリング株式会社と高知県工業技術センターが共同開発した試験機)を用いて、65℃、25kPa下、周波数2.45ギガヘルツのマイクロ波を1kWの出力で照射して蒸留残液(残果汁)が蒸留前の1/4量となるよう、4倍に濃縮しながらマイクロ波蒸留した後に(65℃濃縮法)、抽出した精油成分(精油)と抽出水層(芳香蒸留水)とを分け、芳香蒸留水を蒸留残液に戻した残果汁を得て、これにブドウ糖を果汁量の10%重量添加して発酵させたこと、200mLのガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶(アズワン株式会社製の商品名)を用いて発酵させたこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【0082】
(比較例1-1)
実施例1-1の発酵において、200mLのガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶(アズワン株式会社製の商品名)に、ブドウ糖を果汁量の10%重量添加した残果汁150mLを入れて発酵させたこと、並びにポリプロピレン(PP)製円筒型チューブ及びポリプロピレン製コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【0083】
(比較例1-2)
実施例1-1の柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁に対して、繊維質分解工程を行わず、200mLのガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶(アズワン株式会社製の商品名)に、ブドウ糖を果汁量の10%重量添加した残果汁150mLを加えて発酵させたこと、及びコニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【0084】
【0085】
表1から明らかな通り、実施例1-1のように、柑橘果汁に清澄化酵素を加えて繊維質分解工程を施した後、精油成分を含有する浮遊物を吸引によって取り除き、さらに遠心分離(3000rpm×10分間)して、油状精油成分を含有する浮遊物と沈殿した固形分とを取り除いた残果汁(ブドウ糖10%重量添加)は、ポリプロピレン製容器の形状に依存して、コニカル型で発酵が旺盛であった。しかし、比較例1-1のように、繊維質分解した後、浮遊物や固形物を取り除いた残果汁(ブドウ糖10%重量添加)であっても、ガラス製容器では発酵が進行しなかった。また、比較例1-2の通り、柑橘果汁を繊維質分解しなければ、ポリプロピレン製容器でも発酵は弱く、ガラス製容器では発酵が進行しなかった。実施例1-2~1-3の通り、柑橘果汁原液を繊維質分解しなくても、マイクロ波蒸留した残果汁であれば、ポリプロピレン製又はガラス製若しくは容器形状に依らず、発酵が旺盛であった。
【0086】
(実施例2-1)
実施例1-1の柑橘果汁原液に、アクレモセルラーゼKMを0.02W/V%濃度となるように添加して繊維質分解工程を施し、得られた繊維質分解果汁をそのままマイクロ波蒸留小型試験装置を用いて、50℃で、蒸留液が蒸留前の1/2量となるよう2倍に濃縮しながらマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後に、ブドウ糖を10%重量添加し又は未添加としたことと、200mLのガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶(アズワン株式会社製の商品名)に150mLの残果汁 を加えて発酵させたことと、コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表2に示す。
【0087】
(実施例2-2)
実施例1-1の柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁に、アクレモセルラーゼKMを0.02W/V%濃度となるように添加して繊維質分解工程を行い、得られた繊維質分解果汁をマイクロ波蒸留小型試験装置を用いて、50℃で、2倍に濃縮しながらマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後にブドウ糖を10%重量添加したことと、ガラス製円筒型チューブ UMサンプル瓶を用いて発酵させたことと、コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表2に示す。
【0088】
(比較例2-1)
実施例1-1の柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁に、繊維質分解工程を行わなかったこと、柑橘果汁をマイクロ波蒸留小型試験装置を用いて、50℃で2倍に濃縮しながらマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後に、ブドウ糖を10%重量添加し又は未添加としたことと、ガラス製円筒型チューブUMサンプル瓶を用いて発酵させたことと、コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表2に示す。
【0089】
(比較例2-2)
実施例1-1の柑橘果汁原液から繊維質と油状精油成分とを含有する浮遊物を吸引によって取り除いた柑橘果汁に、繊維質分解工程を行わなかったこと、柑橘果汁をマイクロ波蒸留小型試験装置を用いて、65℃で2倍に濃縮しながらマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後に、ブドウ糖を10%重量添加したことと、ガラス製円筒型チューブUMサンプル瓶を用いて発酵させたことと、コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表2に示す。
【0090】
【0091】
表2から明らかなように、実施例2-1、2-2の通り、柑橘果汁原液あるいは浮遊物等を取り除いた柑橘果汁は、アクレモセルラーゼを用いて繊維質分解工程を施せば、50℃という比較的低いマイクロ波蒸留を行って得られた残果汁でも発酵が旺盛であった。ただ、ブドウ糖で加糖しない場合、発酵は遅いが、低糖の発酵柑橘果汁製品を得ることができることが示された。また、比較例2-1のとおり、柑橘果汁に繊維質分解工程を施さなければ、全体として発酵が遅れ、ポリプロピレン製容器のとき幾分発酵したが、ガラス製容器のとき発酵しなかった。さらに比較例2-2の通り、繊維質分解工程を施さなければ、蒸留温度を65℃まで上げてマイクロ波蒸留しても、50℃で繊維質分解工程を施して蒸留した場合より明らかな発酵の遅れが生じた。
【0092】
(実施例3-1)
実施例1-1の柑橘果汁原液30LにアクレモセルラーゼKMを0.02W/V%濃度となるように添加して繊維質分解工程を施して繊維質分解果汁としたことと、減圧蒸留型濃縮抽出装置EXT-V40P04(兼松エンジニアリング株式会社製;商品名)を用いて50℃で繊維質分解果汁を2倍に濃縮し抽出水層(芳香蒸留水)を約15Lとなるまでマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後に、ブドウ糖を10%重量添加したことと、ガラス製円筒型チューブUMサンプル瓶を用いて発酵させたこととコニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁から残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表3に示す。
【0093】
(実施例3-2)
実施例1-1の柑橘果汁原液30LにアクレモセルラーゼKMを0.02W/V%濃度となるように添加して繊維質分解工程を施して繊維質分解果汁としたことと、減圧蒸留型濃縮抽出装置EXT-V40P04(兼松エンジニアリング株式会社製;商品名)を用いて43℃で繊維質分解果汁を2倍に濃縮し抽出水層(芳香蒸留水)を約15Lとなるまでマイクロ波蒸留したことと、蒸留した残果汁に、蒸留で抽出された抽出水層(芳香蒸留水)を戻し入れた後に、ブドウ糖を10%重量添加したことと、ガラス製円筒型チューブUMサンプル瓶を用いて発酵させたこととコニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁から残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表3に示す。
【0094】
【0095】
実施例3-1~3-2から明らかな通り、実施例1-2~1-3及び2-1~2-2のラボスケールと同様に、大量スケールでも同等以上の発酵が旺盛に進むことが分かった。また、減圧蒸留型濃縮抽出装置EXT-V40P04(兼松エンジニアリング株式会社製;商品名)を使えば43℃の低温であっても発酵が旺盛に進むことが分かった。
【0096】
(実施例4)
実施例3-1で得られた残果汁を用い、実施例1-1と同様にして、200mLのガラス製円筒型チューブで発酵させた後、9日目に、残果汁発酵もろみを遠心分離(3000rpm×5分間)して発酵酵母の大部分を除去した残液に、マイクロ波蒸留で得られたマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物の精油含有柑橘オイルを、0.05~0.50v/v%となるように添加し、実施例1-1と同様に、Brixを測定した。その結果をまとめて表4に示す。
【0097】
また、前述の精油含有柑橘オイルを添加した9日目以降の残果汁発酵もろみの生菌数について、残果汁発酵もろみを500から1000倍に希釈してYM寒天培地に播種し、2日間30℃で培養した後、出現した酵母コロー数を計測することよって、測定した。その結果をまとめて表5に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
表4~5から明らかな通り、9日目に各濃度で精油含有柑橘オイルを添加したところ、0.3%以上の添加により、3日後には発酵が完全に停止するとともに、生菌数に急激な減少が認められ、オイル添加15日後(24日目)には1/500未満まで減少した。オイルを0.1%添加した場合、醗酵はやや抑えられて菌数もゆるやかに減少したが、0.05%の添加では、生菌数はほとんど減少せず、発酵も僅かに抑えられる程度であった。
【0101】
(実施例5)
実施例3で得た残果汁発酵もろみを遠心分離(3000rpm×5分間)して発酵酵母の大部分を除去した残液に、精油含有柑橘オイルを少なくても0.5v/v%、好ましくは1.0v/v%となるように添加し、エマルジョン生成装置EMLAB1(株式会社坂本技研製の商品名)を用いて分散させ、発酵柑橘果汁を得た。アルコール度数37%のスピリッツ原酒3.3Lに、発酵柑橘果汁0.75Lを加えて配合し、均一分散液にしてから、割水してアルコール度数25%のリキュールにした後、瓶容器に充填し、キャップ巻締し、発酵柑橘果汁製品(試作品)とした。飲酒時には、炭酸水や水や湯で薄めたり、氷を入れたりして、アルコール飲料にして、飲酒することができる。
【0102】
実施例1―1の柑橘果汁原液(A)と、実施例3で得られた残果汁発酵もろみ(B)と、実施例5で得た発酵柑橘果汁(C)の3種類の果汁について、(A)と(B)、(B)と(C)のように各2者間で優劣を比較する官能試験を、酒類鑑定に熟練した5名のパネリストにより行い、味わい面、香り面、総合評価に分けて評価した。各果汁を濃度が3%になるように加え、アルコール度が5%となるように加水したスピリッツを調製し比較した。結果を表6に示す。柑橘果汁原液(A)では「苦みが強い」と指摘されたのに対し、残果汁発酵もろみ(B)は「香りはやや不足するが、味わいがすっきりと円やかになった」との指摘があり総合評価は同程度となった。残果汁発酵もろみ(B)と発酵柑橘果汁(C)の比較では、味わい面で同程度の評価となったが、香り面は(C)が高評価となり、総合評価でも同様となった。柑橘果汁原液(A)と発酵柑橘果汁(C)を比較すると、香りは同程度の評価となったが、味わい面で(C)が高評価となり、総合評価でも全員が(C)に高い評価をつけた。
さらに、柑橘果汁原液(A)と発酵柑橘果汁(C)を使用して、各果汁を濃度が15%になるよう加え、アルコール度が25%になるよう加水したスピリッツを調製して冷蔵後、官能試験直前に4℃の炭酸水でアルコール度5%に割って比較官能試験を行った結果を表―7に示す。香り面では両社が同程度の評価となったが、総合評価ではパネリスト全員が「香りと味わいの調和に優れる」として発酵柑橘果汁(C)に高評価を与えた。
【0103】
【0104】
【0105】
表6及び7から明らかな通り、発酵柑橘果汁は、原果汁や残果汁発酵もろみよりも、味わい及び香り、並びに総合評価が、相対的に好評価であり、有意差があった。
【0106】
(実施例6)
容器の材質の違いについて検討するため、実施例1-1の方法中、ゆずの柑橘果汁原液にアクレモセルラーゼKMを0.1W/V%濃度になるように加えて清澄化した繊維質分解果汁を得た後、その200mlにブドウ糖を10%重量添加し、以下の250mlの各種容器(アズワン株式会社製の商品名)を用いたこと以外は、実施例1-1を同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表8に示す。
・PP(ポリプロピレン)製グッドボーイ
・PE(ポリエチレン)製タイトボーイ
・HDPE(高密度ポリエチレン)製広口瓶
・LDPE(低密度ポリエチレン)製ボトル
・PS(ポリスチレン)製スクリュー管瓶
・PET(ポリエチレンテレフタレート)製広口瓶
・PC(ポリカーボネート)製瓶
・UMサンプル瓶(ガラス製)
【0107】
【0108】
実施例1-1のようなポリプロピレン(PP)製の容器と同様に、PP製、PE製、HDPE製、LDPE製の容器、中でもPE製の容器で発酵が旺盛であった。PS製の容器では、発酵がやや旺盛であった。しかし、PET製及びPC製の容器では、ガラス製の容器ほどではないが、発酵が緩慢であった。ガラス製の容器でも非常に緩慢ではあるが発酵した。
【0109】
(実施例7)
ゆず以外の柑橘類についての適用性を検討した。直七、文旦の柑橘果汁原液として、果実をまるごと圧搾した市販の冷凍果汁を使用した。小夏の柑橘果汁原液として、小夏果実を手動圧搾したものを使用した。
文旦、直七、小夏の各果汁についてブドウ糖を10%重量添加して発酵させた。コニカル型チューブ遠沈管を用いなかったこと、及び下記の条件にしたこと以外は実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。実施例1-1と同様に、Brix及びアルコール分を測定した。その結果をまとめて表9に示す。
・未処理:清澄化酵素処理による繊維質分解操作も、その後の遠心分離や蒸留処理のような分離操作もせずに、発酵工程へ進むこと以外は、実施例1-1と同様にして、発酵もろみを得た。
・繊維質分解果汁:アクレモセルラーゼKMを果汁原液に0.02%(w/v)添加した。その後の果汁の処理方法は、実施例1-1と同様である。なお、これらの果汁では実施例1-1におけるゆず果汁のように固形分が浮遊せず、沈降しなかったため、上澄みを吸い取ることにより残果汁を得た。
・ロータリーエバポレーターによる減圧蒸留処理
直七、文旦果汁原液にアクレモセルラーゼ0.02%(w/v)を添加し、常温(20℃)で一晩放置して繊維質分解を施した。得られた果汁をマイクロ波蒸留に代えて、ロータリーエバポレータを用いて45℃、12kpaの減圧条件下で2倍濃縮になるまで減圧蒸留し、蒸留液を分液漏斗で分画し、上清10%を破棄し、残りを残果汁に戻したこと以外は、実施例1-1と同様にして、残果汁発酵もろみを得た。
【0110】
【0111】
表9から明らかな通り、文旦果汁、直七果汁、小夏果汁においては、ゆず果汁と同様に、清澄化酵素処理(アクレモセルラーゼ処理)を施して発酵させることにより、未処理の場合より大幅に発酵が促進された。また、高知県の特産品である文旦と直七の果汁について、清澄化酵素処理の後に減圧蒸留処理を施したところ、両者ともに更に発酵が促進され、特に直七果汁で顕著であった。同じ香酸柑橘である直七果汁は、ゆず果汁と同様に、蒸留によって果汁に含まれる精油(香油)成分が分離されて、残果汁の発酵が旺盛になったと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の発酵柑橘果汁製品の製造方法によれば、果肉・果皮を含む果実の搾汁であるゆず果汁のような柑橘果汁が、本来発酵し難いにも拘わらず十分に発酵させつつ、ゆずのような香酸柑橘類・日向夏のような雑柑類・ブンタンのような文旦類に特有の香りや風味を損なっていない発酵柑橘果汁、又はそれを用いた発酵柑橘果汁製品を製造することができる。
【0113】
ゆず果汁のような柑橘果汁のマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物からなる発酵酵母の発酵制御剤を用いれば、発酵柑橘果汁の発酵酵母の働きを止ることができる。
【要約】
【課題】ゆず等香酸柑橘類や日向夏等の雑柑類やブンタン等の文旦類のような柑橘果実を果皮ごと搾った果汁を処理して発酵させて豊かな発酵風味を付与することができ、発酵させても、これら香酸柑橘類や雑柑類や文旦類の風味・香りが十分に感じられる発酵柑橘果汁製品の製造方法を提供する。
【解決手段】発酵柑橘果汁製品の製造方法は、香酸柑橘類と雑柑類と文旦類との何れかの柑橘類の果実を果皮ごと搾って果汁を取る搾汁工程(i)と、前記果汁に清澄化酵素を添加し繊維質分解しつつ精油成分を遊離させる繊維質分解工程(ii)と、その繊維質分解果汁をマイクロ波蒸留してマイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を抽出して分離する分離工程(iii)と、その分離後の残果汁を糖分存在下で発酵酵母により発酵させて残果汁発酵もろみを得る発酵工程(iv)と、それに前記マイクロ波蒸留精油成分含有抽出物を配合して混合した発酵柑橘果汁を得る混合工程(v)とを、有する。
【選択図】
図1