(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20230523BHJP
【FI】
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2016255794
(22)【出願日】2016-12-28
【審査請求日】2019-04-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 由利子
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】植前 充司
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188191(JP,A)
【文献】日本家政学会誌、2012年、Vol.63、No.11、pp.745-749
【文献】食品詳細[出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)]、検索日:2020年8月25日、<https://fooddb.mext.go.JP/details/details.PL?ITEM_NO=7_07156_7&MODE=4>
【文献】Food Science and Technology Research,2014年、Vol.20、 No.1、 pp.167-174
【文献】17 調味料及び香辛料類,日本食品標準成分表2015年版(七訂)、2015年、第35/5頁、<https://www.mext.go.JP/component/a_menu/science/detail/_icsFiles/afieldfile/2017/06/22/1365343_1-0217r10.pdf>
【文献】17 調味料及び香辛料類,日本食品標準成分表2015年版(七訂) アミノ酸成分表編、2015年、pp.214-215、<https://www.mext.go.JP/component/a_menu/science/detail/_icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1365347_2-0217-1.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギン酸の含有量が
500~5100mg/Lであり、リモネンの含有量が
10~110mg/Lである、炭酸アルコール飲料。
【請求項2】
アスパラギン酸の含有量が
500~4000mg/Lである、請求項1に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項3】
アルコール含有量が1.5~10v/v%である、請求項1または2に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項4】
柑橘果汁を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項5】
前記柑橘果汁がレモン果汁を含む、請求項4に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項6】
レモン果汁をさらに含む、請求項3に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項7】
アルギニンおよび/またはグルタミン酸をさらに含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項8】
1~1500mg/Lのアルギニンを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項9】
50~1200mg/Lのアルギニンを含有する、請求項8に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項10】
10~800mg/Lのグルタミン酸を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項11】
25~700mg/Lのグルタミン酸を含有する、請求項10に記載の炭酸アルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラギン酸またはその塩はスポーツドリンクなど様々な製品に配合されている。
しかしながら、高濃度のアスパラギン酸を経口で摂取する場合、高濃度のアスパラギン酸に起因する不快な後味が生じるとされており、特定の食物繊維によって不快な後味を改善することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2には、赤ワインなどのポリフェノール含有飲料に対してアスパラギン酸などのアミノ酸を配合して、ポリフェノールに起因する苦味をマスキングすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-246241号公報
【文献】特開2014-124171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飲料に高濃度のアスパラギン酸を配合することに関しては、特許文献1に、特定の食物繊維を併用することが提案されているものの、飲料に対する食物繊維の配合には制約がある場合がある。
【0006】
また、炭酸やアルコールはそれ自体、飲料に刺激感を付与するものであり、さらにアスパラギン酸を炭酸アルコール飲料に配合すると、アルコールと炭酸によってアスパラギン酸のエグ味が増強されアスパラギン酸に起因するエグ味がより顕著に知覚されるという問題が生じる。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の目的は、アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料において、アスパラギン酸に起因するエグ味を効果的にマスキングし、香味に優れた炭酸アルコール飲料を製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これに限定されるものではないが、本発明は以下の発明を包含する。
(1) アスパラギン酸の含有量が70~5100mg/Lであり、リモネンの含有量が4~110mg/Lである、炭酸アルコール飲料。
(2) アスパラギン酸の含有量が400~4000mg/Lである、(1)に記載の炭酸アルコール飲料。
(3) アルコール含有量が1.5~10v/v%である、(1)または(2)に記載の炭酸アルコール飲料。
(4) 柑橘果汁を含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の炭酸アルコール飲料。
(5) 前記柑橘果汁がレモン果汁を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の炭酸アルコール飲料。
(6) アルギニンおよび/またはグルタミン酸をさらに含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の炭酸アルコール飲料。
(7) 1~1500mg/Lのアルギニンを含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の炭酸アルコール飲料。
(8) 50~1200mg/Lのアルギニンを含有する、(7)に記載の炭酸アルコール飲料。
(9) 10~800mg/Lのグルタミン酸を含有する、(1)~(8)のいずれかに記載の炭酸アルコール飲料。
(10) 25~700mg/Lのグルタミン酸を含有する、(9)に記載の炭酸アルコール飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料において、アスパラギン酸に起因する独特のエグ味を特定量のリモネンによって効果的にマスキングすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アスパラギン酸
本発明に係る炭酸アルコール飲料は、70~5100mg/Lのアスパラギン酸を含有する。アスパラギン酸は、アミノ酸の1種であり、HOOCCH2CH(COOH)NH2という化学式を有する。また、アスパラギン酸は、エネルギー代謝に関与することが知られており、疲労回復や飲酒後の体の回復をサポートする働きが期待される。
【0011】
本発明の炭酸アルコール飲料は、特定量のリモネンを配合することによって香味に優れた飲料とすることが可能である。アスパラギン酸の含有量は、好ましくは200mg/L以上、より好ましくは300mg/L以上、さらに好ましくは500mg/L以上であり、最も好ましくは900mg/L以上である。アスパラギン酸含有量の上限は特に制限されないが、4000mg/L以下とすることが好ましく、3000mg/L以下がより好ましい。本発明によれば、アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料でも、アスパラギン酸に起因するエグ味を効果的にマスキングすることが可能である。
【0012】
炭酸アルコール飲料にアスパラギン酸を配合する場合、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カルシウムなどの塩を飲料に添加してもよく、アスパラギン酸ナトリウムを好適に用いることができる。アスパラギン酸塩は、単独で配合されてもよいが、2種類以上を組み合わせて配合してもよい。本発明においてアスパラギン酸は、L-体、D-体またはDL-体のいずれも使用可能であるが、好ましくはL-体またはDL-体であり、さらに好ましくはL-体である。
【0013】
炭酸アルコール飲料
本発明は炭酸アルコール飲料に関する。炭酸アルコール飲料とは、アルコール飲料であり、かつ、炭酸飲料であることを意味する。アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料のことであるが、ここでいうアルコールとは、特に断らない限り、エチルアルコール(エタノール)を意味する。
【0014】
本発明に係るアルコール飲料は、アルコールを含有していれば特に種類は問わないが、例えば、チューハイ、カクテル、フィズなどのスピリッツ類、リキュール類などを好ましい例として挙げることができる。アルコール原料としては特に限定はないが、例えば、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎などが挙げられ、さらにはビールなどの醸造酒類でもよい。これらのアルコール原料については、それぞれ単独又は併用して用いることができる。好ましい態様において、本発明の炭酸アルコール飲料には、麦焼酎などの焼酎を配合できる。アルコール飲料のアルコール含有量は特に制限されないが、12v/v%以下が好ましく、10v/v%以下がより好ましく、9v/v%以下がさらに好ましい。アルコール濃度の下限は特に制限されないが、1v/v%以上が好ましく、1.5v/v%以上がより好ましく、2.5v/v%以上がさらに好ましい。好ましい態様において、本発明のアルコール飲料のアルコール含有量は、3~9v/v%である。
【0015】
本発明に係る飲料は、炭酸ガスを含有する炭酸飲料であるが、炭酸ガスの圧力は、炭酸ガスに由来する爽快感が感じられる程度の圧力であることが好ましく、液温が20℃において0.5~3.5kgf/cm2が好ましく、1.0~3.0kgf/cm2がより好ましく、1.5~2.5kgf/cm2がさらに好ましい。
【0016】
炭酸ガスの添加は、当業者に通常知られている方法を用いればよく、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を含む炭酸水を配合しても良いし、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させても良いし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合して炭酸ガス含有飲料としてもよい。
【0017】
リモネン
本発明に係る炭酸アルコール飲料は、4~110mg/Lのリモネンを含有する。上述したように、比較的多量のアスパラギン酸を飲料に配合すると、アスパラギン酸に起因する独特のエグ味が顕著になり、特に、炭酸およびアルコールを含有する炭酸アルコール飲料においては、この傾向が強くなってしまう。しかしながら、本発明においては、炭酸アルコール飲料に特定のリモネンを配合することによってアスパラギン酸に起因するエグ味を効率的にマスキングし、飲料の香味を改善することができる。本発明の炭酸アルコール飲料は4~110mg/Lのリモネンを含有するが、好ましくは5~100mg/L、より好ましくは6~80mg/L、さらに好ましくは10~60mg/Lのリモネンを含有する。
【0018】
飲料に含まれるリモネンは、公知の方法によって定量することができるが、例えば、以下の方法によって定量することができる。予めリモネンで検量線を作成することにより、飲料サンプルである液体組成物を、以下の条件でガスクロマトグラフィー/質量分析(GC-FID)に供することによって分析することができる。
・分析前処理:Extrelut NT-1カラムにサンプルを充填し、エーテルで抽出
・分析装置:GC 6890N (Agilent Technologies)
・カラム:HP-ULTRA 2(内径0.32mm、長さ50m、膜厚0.52μm)
・キャリアガス:ヘリウム
・流量:2.2mL/分
・注入口:Splitless
・注入口温度:250℃
・オーブン温度:45℃(1.5分)から5℃/分で昇温して230℃(11.5分)
・検出器:FID
・検出器温度:260℃
・注入量:1.0μL
本発明の炭酸アルコール飲料は柑橘果汁を含有してもよい。柑橘類としては、ミカン科ミカン亜科ミカン連(カンキツ連)のミカン属(シトラス)、キンカン属、カラタチ属などに属する植物を挙げることができる。例えば、ミカン、シークヮーサー、ユズ、スダチ、ライム、レモン、カボス、オレンジ、グレープフルーツなどが好ましく、レモン、オレンジ、グレープフルーツが特に好ましい。柑橘果汁の配合量は特に制限されないが、ストレート果汁換算で0.01~30%とすることが好ましく、20%以下、10%以下、さらには5%以下としてもよい。果汁の種類も、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよい。また、混濁果汁であっても、透明果汁であってもよい。
【0019】
本発明に係る炭酸アルコール飲料は、柑橘類以外の果汁を併用してもよい。柑橘果汁と併用する果汁は特に制限されず、1または複数の果汁を用いることができる。併用する果汁の配合量は特に限定されない。果汁の種類も、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよい。また、混濁果汁を使用することもでき、透明果汁を使用してもよい。
【0020】
本発明では、アルコール飲料中の「果汁率(果汁%)」を計算するに当たり、アルコール飲料中のアルコール濃度に影響されないように、100mLのアルコール飲料中に配合される果汁配合量(g)を用いて下記換算式によって計算することとする。また濃縮倍率を算出する際はJAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
果汁率(w/v%)=<果汁配合量(g)>×<濃縮倍率>/100mL×100
アルコール飲料中の果汁率の計算方法を、以下に例を挙げてさらに具体的に示す。まず、アルコール飲料中に含有させる果汁の濃縮倍率を求める。ここでいう「濃縮倍率」とは、果実を搾汁して得られるそのままの果汁(以下「ストレート果汁」という)を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率のことをいう。ストレート果汁の糖用屈折計示度あるいは酸度の値は、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)によって、各果実に固有の基準値が定められており、具体的には、下表に示すとおりである。従って、試料果汁の糖用屈折計示度あるいは酸度を測定し、その果実に固有の糖用屈折計示度あるいは酸度の基準値で割れば、果汁の濃縮倍率を求めることができる。例えば、JAS規格によればオレンジの基準Bxは11度であるから、Bx55度のオレンジ果汁は、5倍濃縮のオレンジ果汁となる。このような5倍濃縮オレンジ果汁を、アルコール飲料100mL中に2g配合した場合、このアルコール飲料における果汁率は、下式に基づいて10w/v%となる。
2g×5倍濃縮/100mLアルコール飲料×100=10w/v%
同様にして、例えば、酸度31.5%のレモン果汁の場合は、表2のレモンの基準酸度
4.5%から、7倍濃縮のレモン果汁であることが分かる。このような7倍濃縮レモン果
汁を、アルコール飲料100mL中に1g配合した場合、このアルコール飲料における果
汁率は7w/v%となる。
1g×7倍濃縮/100mLアルコール飲料×100=7w/v%
【0021】
【0022】
【0023】
アルギニン/グルタミン酸
本発明のアルコール飲料には、アルギニンおよび/またはグルタミン酸を配合することができる。アルギニンやグルタミン酸を配合すると旨みが増してエグ味がマスキングされ、アルコール飲料の香味をより改善できる。
【0024】
アルギニンの含有量は、1~1500mg/Lが好ましく、50~1200mg/Lがより好ましく、90~1000mg/Lがさらに好ましい。また、グルタミン酸の含有量は、10~800mg/Lが好ましく、25~700がより好ましく、50~600mg/Lがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の炭酸アルコール飲料は、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン酸の含有量の合計が、100~8000mg/Lであることが好ましく、200~6500mg/Lがより好ましく、300~4000mg/Lとしてもよい。
【0026】
なお、飲料に含まれるアミノ酸は、以下の方法によって定量することができる。液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、下記に示す条件で分析することができる。
・分析機器
LC:島津製作所社製アミノ酸分析システム
オートサンプラー:SIL-30AC
・分析前処理
サンプル10mLをメンブランフィルター(孔径:0.2μm)で濾過
・分析条件
カラム:Triart C18(1.9μm、ワイエムシー社製)
移動相(グラジエント):(A液)20mmol/Lリン酸(カリウム)緩衝液(pH6.9)、(B液)アセトニトリル/メタノール/水(45/40/15)
流量:0.8ml/分
温度:35℃
検出:RF-20Axs(Ex350nm,Em450nm→Ex 255nm,Em305nm(9.0min)
セル温度:20℃
フローセル:コンベンショナルセル
注入量:1μl
(その他の成分)
本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、酸味料、香料、ビタミン類、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、増粘剤、品質安定剤等を挙げることができる。
【0027】
本発明の飲料は、ぶどう糖をはじめとする糖類を含有してもよい。本発明の飲料は、天然甘味料や人工甘味料を1または複数使用することができる。
(容器詰飲料)
本発明のアルコール飲料は、通常の飲料と同様、瓶、缶、樽、またはペットボトル等の
密封容器に充填して、殺菌等の工程を経て容器入り飲料とすることができる。
【0028】
例えば、飲料を容器に充填した後に熱水シャワー殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌してから容器に充填する方法により、殺菌された容器詰め飲料を製造することができる。
【0029】
本発明の容器詰飲料は、好ましい態様においてブリックス値が3~9である。糖度計や屈折計などを用いて得られるブリックス(Brix)値によって可溶性固形分濃度を評価することができ、ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である。単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される。
【0030】
本発明の飲料は、可能性固形分濃度の低い低溶質飲料であってもよく、「糖類ゼロ」、「糖質ゼロ」、「カロリーオフ」等と表示される、いわゆるカロリーオフタイプ飲料の態様を包含する。なお、「糖類ゼロ」、「糖質ゼロ」、「カロリーオフ」等の表示は、健康増進法の規定による栄養表示基準に定義されている。例えば、「糖類ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100gあたり0.5g未満のものに対して付与付されるものである。また、「糖質ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖質の濃度が0.5g/100mL未満である場合に表示される。糖質は、3大栄養素の炭水化物の一つであり、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称である。
【0031】
本発明の飲料は、長期保存や微生物汚染の観点から、好ましい態様においてそのpHを酸性側に調整すると好ましい。具体的には、飲料のpHを2~5とすることが好ましく、pH2.5~4.5がより好ましく、pH3~4とすることがさらに好ましい。
【0032】
また本発明の飲料の酸度は、クエン酸換算で0.05~0.60g/100mlとすることが好ましく、0.10~0.50g/100mlがより好ましく、0.15~0.40g/100mlがさらに好ましい。このような範囲であると、適度な酸味によって特に飲みやすい飲料とすることができる。なお、飲料の酸度は一般的な滴定法によって測定することができる。
【0033】
酸味料としては、例えば、クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、リン酸などの酸またはこれらの塩を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。酸味料の使用量は、使用する酸味料の種類などにより異なり一概には言えないが、飲料の0.01~5質量%、好ましくは0.05~0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0034】
(製造方法)
一つの態様において、本発明は飲料の製造方法と理解することもできる。本発明の飲料はアスパラギン酸とリモネンを含む炭酸アルコール飲料であるが、本発明に係る飲料の製造方法は、アスパラギン酸とリモネンを配合する工程、炭酸ガスを含有させる工程を含むものである。容器詰飲料を製造する場合は、調製した飲料を容器に充填する工程を少なくとも備える。
【0035】
本発明の飲料は、従来公知の方法を用いて製造することができる。当業者であれば、配合方法、必要に応じ殺菌方法、容器充填方法の条件を、適宜設計することができる。
また別の態様において本発明は、リモネンを配合することによる、アスパラギン酸を含有する炭酸アルコール飲料の呈味向上方法と理解することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、具体的な実験例を示しつつ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0037】
実験1:炭酸アルコール飲料の製造と評価
下表に基づいて、アルコール濃度が5v/v%の炭酸アルコール飲料を製造した(液温20℃におけるガス圧:2.0kgf/cm2、pH:約3.3)。具体的には、アルコール(ニュートラルスピリッツ、アルコール度数:59v/v%)、果汁、果糖ぶどう糖液糖、酸味料(クエン酸)、アミノ酸(L-アスパラギン酸またはL-プロリン)を純水に順次添加し、そこに炭酸水を配合して炭酸アルコール飲料を調製した。本実験においては、飲料1Lあたり、果糖ぶどう糖液糖を40g、酸味料(クエン酸)を3g配合した。次いで、飲料を缶に充填した後に加熱殺菌して容器詰アルコール飲料を製造した。
【0038】
果汁は、下記の果汁をストレート果汁換算で4%となるように配合した。ただし、ワイン(ぶどう酒)については、炭酸アルコール飲料に対して4v/v%配合した。また、下表のアルギニンおよびグルタミン酸は各種果汁から持ち込まれたものである。なお、飲料の酸度(クエン酸換算)を測定したところ、レモン果汁を配合した飲料サンプルは酸度が0.50g/100ml、他の飲料サンプルはすべて酸度が0.30g/100mlであった。
・レモン果汁(7倍濃縮果汁)
・ぶどう果汁(6倍濃縮果汁)
・もも果汁(8倍濃縮果汁)
・トマト果汁(ストレート果汁)
・赤ワイン(アルコール度数:12.5v/v%、酸化防止剤無添加)
得られた炭酸アルコール飲料の香味を、評点法による官能試験によって、5段階で評価した。具体的には、良く訓練された官能評価者が、各評価項目について、下記の基準に基づいて評価した。
「エグ味」
・5点:エグ味をとても感じる
・4点:エグ味を感じる
・3点:エグ味をやや感じる
・2点:エグ味をわずかに感じる
・1点:エグ味を感じない
「特異な臭い」
・5点:アミノ酸に起因する特異な臭いをとても感じる
・4点:アミノ酸に起因する特異な臭いを感じる
・3点:アミノ酸に起因する特異な臭いをやや感じる
・2点:アミノ酸に起因する特異な臭いをわずかに感じる
・1点:アミノ酸に起因する特異な臭いを感じない
「総合評価」
・5点:非常に好ましい
・4点:より好ましい
・3点:好ましい
・2点:どちらかというと好ましくない
・1点:好ましくない
【0039】
【0040】
まず、炭酸アルコール飲料に比較的多量のアスパラギン酸を配合すると、アスパラギン酸に起因する後味のエグ味や特異な臭いが顕在化した(サンプル1)。
それに対して、アスパラギン酸を添加した炭酸アルコール飲料に各種果汁を配合すると、レモン果汁を添加した飲料(サンプル2)は、エグ味や臭いがマスキングされて香味が改善されたのに対し、ぶどう果汁、もも果汁、トマト果汁(野菜汁)、赤ワイン(ぶどう酒)を添加した飲料(サンプル3~6)は、香味を改善する効果は見られなかった。
【0041】
また、炭酸アルコール飲料にプロリンを配合すると、プロリンに起因する特異な臭いが顕在化し(サンプル7)、これは、レモン果汁を添加してもマスキングされなかった(サンプル8)。
【0042】
実験2:炭酸アルコール飲料の製造と評価
実験1において、アスパラギン酸に起因するエグ味をレモン果汁によって改善できることが確認できた。レモン果汁に含まれるリモネンにアスパラギン酸に起因するエグ味を緩和する効果があると考え、本実験では、より詳細な検討を行った。
【0043】
具体的には、下表に基づいて、アルコール(ニュートラルスピリッツ、アルコール度数:59v/v%)、レモン香料(約50000ppmのリモネンを含有)、レモン果汁、果糖ぶどう糖液糖、酸味料(クエン酸)、甘味料(アセスルファムKおよびスクラロース)、アミノ酸(L-アスパラギン酸)を、純水に順次添加し、そこに炭酸水を配合して、アルコール濃度が5v/v%の炭酸アルコール飲料を製造した(液温20℃におけるガス圧:2.0kgf/cm2、酸度:0.35g/100ml、pH:3.3)。実験1と同様に、飲料1Lあたり、果糖ぶどう糖液糖を40g、酸味料(クエン酸)を3g配合したが、本実験においては、アセスルファムKを0.1g、スクラロースを0.01g、さらに配合した。また、レモン果汁の配合量は1%(ストレート果汁換算)とし、レモン香料の配合量を調整してリモネン濃度の異なる飲料サンプルを調製した。
【0044】
次いで、実験1と同様にして容器詰アルコール飲料を製造した後、得られた炭酸アルコール飲料の香味を、実験1と同様にして評価した。ただし、この実験では、柑橘系の苦味についても、下記の基準に基づいて5段階で評価した。
「柑橘の苦味」
・5点:柑橘の苦味が強すぎる
・4点:柑橘の苦味を強く感じる
・3点:柑橘の苦味を適度に感じる
・2点:柑橘の苦味をわずかに感じる
・1点:柑橘の苦味を全く感じない
【0045】
【0046】
アスパラギン酸の配合量が多くなると、アスパラギン酸に起因するエグミによる飲みにくさを感じるようになるが、レモンの苦味成分であるリモネンを配合することで、アスパラギン酸のエグミが感じにくくなった。
【0047】
ただし、アスパラギン酸の配合量が7000mg/Lを超えるとアスパラギン酸に起因するエグミが顕著になり、リモネンによるマスキング効果が十分でなくなった(サンプル2-17)。また、リモネンの配合に関しては、リモネンを120ppm配合した場合、リモネンに起因する苦味が顕著になった(サンプル2-11)。
【0048】
実験3:炭酸アルコール飲料の製造と評価
アスパラギン酸に加えて、アルギニンとグルタミン酸を配合した炭酸アルコール飲料を製造した。具体的には、実験2のサンプル2-6と同様にして、下表に示す組成になるように、アルコール濃度が5v/v%の炭酸アルコール飲料を製造した(20℃におけるガス圧:2.0kgf/cm2、pH:3.3)。本実験で調製した飲料のレモン果汁含有量は1%であり、レモン果汁に由来するアスパラギン酸は約6mg/L、レモン果汁に由来するリモネンは約1mg/L、レモン果汁に由来するアルギニンは約1mg/L、レモン果汁に由来するグルタミン酸は約3mg/Lであった。なお、飲料の酸度は、サンプル3-7は0.25g/100ml、それ以外は0.35g/100mlだった。
【0049】
次いで、実験2と同様にして容器詰アルコール飲料を製造した後、得られた炭酸アルコール飲料の香味を、実験1と同様にして評価した。ただし、この実験では、「旨味」および「飲みごたえ」についても、下記の基準に基づいて5段階で評価し、「総合評価」を6段階で評価した。
「飲みごたえ」
・5点:とても感じる
・4点:感じる
・3点:やや感じる
・2点:わずかに感じる
・1点:感じない
「旨味」
・5点:強すぎる
・4点:強く感じる
・3点:適度に感じる
・2点:わずかに感じる
・1点:全く感じない
「総合評価」
・6点:さらに非常に好ましい
・5点:非常に好ましい
・4点:より好ましい
・3点:好ましい
・2点:どちらかというと好ましくない
・1点:好ましくない
【0050】
【0051】
本発明の炭酸アルコール飲料にアルギニンをさらに配合すると、飲料全体の味わいに厚みが出て、優れた香味の飲料を得ることができた。ただし、アルギニンの配合量が多くなると、アミノ酸であるアルギニンに起因するエグミと苦味が感じられるようになった。
【0052】
また、本発明の炭酸アルコール飲料にグルタミン酸をさらに配合すると、飲料に旨味が付与され、優れた香味の飲料を得ることができた。ただし、グルタミン酸の配合量が多くなると、人工的な旨みの刺激が強くなった。
【0053】
さらに、本発明の炭酸アルコール飲料にアルギニンとグルタミン酸を配合すると、特に香味に優れた飲料となった。