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特許7283866流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法
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  • 特許-流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法 図1
  • 特許-流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法 図2
  • 特許-流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/162 20170101AFI20230523BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20230523BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20230523BHJP
   C01B 32/164 20170101ALI20230523BHJP
【FI】
C01B32/162
B01J23/75 M
C01B32/159
C01B32/164
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018087997
(22)【出願日】2018-05-01
(65)【公開番号】P2018203609
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】10-2017-0071867
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン ラル
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】スン ミン ジ
(72)【発明者】
【氏名】キム サン ウク
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジュン ユル
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-528238(JP,A)
【文献】特開2004-018290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158
B01J 23/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部圧力が0.5~1.2barg(ゲージ圧)である流動層反応器内に触媒と炭素源を供給してカーボンナノチューブを製造する段階を含み、
前記カーボンナノチューブは、直径が0.4~10nmであ
前記流動層反応器は、内部温度が530~1100℃であり、
前記炭素源は、炭素数1~4の飽和及び不飽和炭化水素からなる群から選択された一つ以上であり、
前記触媒は、金属触媒である、
流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記金属触媒は、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)及び金(Au)のいずれか一つの金属、又はこれらの合金から選択されたいずれか一つである、請求項に記載の流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、1~10層の層からなる、請求項1に記載の流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、一次元的構造と黒鉛固有の電気的構造に起因して、非常に低い抵抗値を有するものであり、例えば、単一壁カーボンナノチューブの抵抗値は、銅の1/100に過ぎない。また、カーボンナノチューブの電流輸送能力は、銅の1000倍に及ぶ独特な電気的特性を有する。さらに、カーボンナノチューブは、炭素-炭素間のsp2結合をなしているため、非常に高い剛性と強度を有し、且つダイヤモンドの2倍に及ぶ熱伝導度と、大気中で750℃まで熱安定性に優れるという特徴がある。カーボンナノチューブは、巻き具合(カイラリティ)に応じて導体又は半導体の性質を帯び、直径の大きさに応じてエネルギーギャップが変わり、一次元的構造を有するため、特異な量子効果を奏する。
【0003】
カーボンナノチューブは、かかる特異な構造及び機能を有するため、ディスプレイ分野、メモリ素子、水素貯蔵物質及びナノ複合材料の分野で活発な適用研究が進んでいる。特に、エンジニアリングプラスチック複合体に電気導電性を付与して電気及び電子製品などに適用することで、電磁波シールド、帯電防止などの高付加価値の材料として用いられている。かかるカーボンナノチューブは、一般的に高価であるため、様々な分野において有効に適用させるためには、カーボンナノチューブを安価で大量に合成することが求められる。
【0004】
カーボンナノチューブは、電気放電法、レーザー蒸着法、又は化学気相蒸着法など様々な方法により合成されている。上述した製造方法のうち化学気相蒸着法では、一般的に高温の流動層反応器内で金属触媒粒子と炭化水素系の原料ガスが分散及び反応することにより、カーボンナノチューブが生成される。即ち、金属触媒は、原料ガスによって流動層反応器内を浮遊しながら、原料ガスと反応してカーボンナノチューブを成長させる。
【0005】
しかし、カーボンナノチューブは依然として複雑な方式で形成される。かかるカーボンナノチューブの形成及び形成されたカーボンナノチューブの特性は、触媒として使用された金属成分又は様々な金属成分の組み合わせ、使用された支持体物質、触媒と支持体との間の相互作用、反応物ガス及びその部分圧、水素又は追加のガス混合、反応温度及び滞留時間ならびに使用された反応器に依存する。したがって、製造工程を最適化させることが、産業的工程において特別な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、収率及び純度が向上したカーボンナノチューブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例によると、内部圧力が0.5~1.2barg(ゲージ圧)である流動層反応器内に触媒と炭素源を供給してカーボンナノチューブを製造する段階を含む、流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0008】
上記流動層反応器は、内部温度が530~1100℃であることができる。
【0009】
上記炭素源は、炭素数1~4の飽和及び不飽和炭化水素からなる群から選択された一つ以上であることができる。
【0010】
上記触媒は、金属触媒であることができる。
【0011】
上記金属触媒は、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)及び金(Au)のいずれか一つの金属、又はこれらの合金から選択されたいずれか一つであることができる。
【0012】
上記カーボンナノチューブは、直径が0.4~10nmであることができる。
【0013】
上記カーボンナノチューブは、1~10層の層からなることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施例による流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブの収率及び純度を向上させる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例において、流動層反応器の内部圧力に対するカーボンナノチューブの収率を示したグラフである。
図2】本発明の実施例において、流動層反応器の内部圧力に対する触媒当たりのカーボンナノチューブの純度を示したグラフである。
図3】本発明の実施例において、流動層反応器の内部圧力に対するカーボンナノチューブの純度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、様々な実施例を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。しかし、本発明の実施例は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施例に限定されない。
【0017】
本発明は、流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【0018】
本発明の一実施例によると、内部圧力が0.5~1.2barg(ゲージ圧)である流動層反応器内に触媒と炭素源を供給してカーボンナノチューブを製造する段階を含む、流動層反応器におけるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0019】
上記流動層反応器は、様々な多重相(multiphase)化学反応を行うために用いることができる反応器装置である。流動層反応器では、流体(気体又は液体)が微粒子状態の固体物質と反応するが、一般的に上記固体物質は、小さい球(sphere)状を有する触媒であり、流体は、固体物質を浮遊させるのに十分な速度で流動することにより、固体物質が流体と同様に挙動するようになる。
【0020】
本発明の一実施例によるカーボンナノチューブの製造方法は、上記流動層反応器を利用してカーボンナノチューブを製造する。また、上記流動層反応器には、触媒と炭素源が供給される。上記触媒は、微粒子状態の固体物質に該当し、上記炭素源は、流体に該当するため、流動層反応器の内部で上記炭素源が触媒を浮遊させるのに十分な速度で流動することにより、触媒が炭素源と同様に挙動するようになる。
【0021】
これにより、上記流動層反応器の内部には触媒が均一に分布されるため、触媒と炭素源の接触に優れ、且つ発熱反応の際に熱が容易に拡散するという利点がある。また、上記流動層反応器内では、触媒及びカーボンナノチューブの滞留時間の確保が可能であるため、高収率及び高純度のカーボンナノチューブを製造できるという利点がある。これは、触媒及び目的生産物であるカーボンナノチューブの滞留時間が、カーボンナノチューブの純度及び収率に重要な影響を与えるものであるためである。
【0022】
本発明の一実施例によると、上記流動層反応器は、内部圧力が0.5~1.2barg(ゲージ圧)であり、より好ましくは0.7~1.0bargである。従来、流動層反応器でカーボンナノチューブを製造する際には、常圧条件下で反応を行った。加圧条件下でカーボンナノチューブを製造する場合には、反応後に生成された水素ガスにより、生成物のmol濃度が増加するため、反応物である炭素源のmol濃度が低くなる。よって、反応速度において不利に作用するという問題点がある。
【0023】
しかし、反応速度において不利に作用する加圧条件には、流動化反応器で発生するバブルのサイズを減少させるという効果がある。これにより、触媒と炭素源の接触が増加し、生成物であるカーボンナノチューブの収率及び純度を向上させることができる。
【0024】
本発明の発明者らは、流動層反応器の内部圧力が増加するほど反応速度においては不利であるが、触媒と炭素源の接触においては優れた効果を奏するという点を利用して、流動層反応器の内部を加圧条件下で制御した状態で製造されたカーボンナノチューブについての研究を行った。その結果、流動層反応器の内部圧力が0.5~1.2barg(ゲージ圧)である場合、カーボンナノチューブの収率及び純度が顕しく向上するという点を確認した。
【0025】
上記ゲージ圧は、大気圧の基準を零(0)として、これより高い圧力を正、これより低い圧力を負として示す圧力のことである。即ち、ゲージ圧は、絶対圧と大気圧との差を意味する。
【0026】
本発明の一実施例による製造方法は、上記流動層反応器の内部圧力が0.5~1.2bargであり、より好ましくは0.7~1.0bargである。上記流動層反応器の内部圧力が0.5~1.2bargを満たさない場合、カーボンナノチューブの収率及び純度が急激に低下するため、非経済的である。
【0027】
上記流動層反応器に供給される炭素源は、気体の状態で供給されることが好ましいが、常温の液体又は固体の原料を流動層反応器に供給し、流動層反応器内で発生する加熱雰囲気の熱によって原料を蒸発させて供給することもできる。上記炭素源は、触媒と反応してカーボンナノチューブを製造できるものであれば、特に限定しないが、例えば、炭素数1~4の飽和及び不飽和炭化水素からなる群から選択された一つ以上であることができ、商業的観点から獲得の容易性を考慮すると、ガス状エチレンであることが好ましい。
【0028】
上記流動層反応器に供給される触媒は、金属触媒であることができ、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)及び金(Au)のいずれか一つの金属、又はこれらの合金から選択されたいずれか一つであることができる。
【0029】
上記流動層反応器は、内部温度が530~1100℃であることができ、600~900℃であることが好ましい。上記流動層反応器の内部温度が530℃未満であると、カーボンナノチューブの生成反応が行われない可能性があり、1100℃を超えると、過度に高い温度により、炭素源に変性が発生して副産物が生成される可能性がある。
【0030】
本発明の一実施例による製造方法により製造されたカーボンナノチューブは、直径が0.4~10nmであることができる。カーボンナノチューブの直径は、触媒の種類、その大きさによって決定されるが、この値に限定されるものではない。カーボンナノチューブの長さは、合成時間によって決定される。例えば、短いカーボンナノチューブを必要とする用途の場合は、合成時間を短くし、長いカーボンナノチューブを必要とする用途の場合は、合成時間を長くする。また、上記カーボンナノチューブは、単層又は複数の層からなることができ、例えば、1層以上10層以下の層からなることができる。
【0031】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【実施例
【0032】
触媒として、直径130μm及び密度1300kg/mの鉄-コバルト合金90gを流動層反応器に入れて、流動層反応器の内部を690℃に加熱した。その結果、上記触媒の初期温度は690℃であった。また、上記流動層反応器に温度が530℃であるエチレンガスを供給し、流動層反応器内の流動化速度を26cm/sで制御して30分間反応させた。円滑な流動化のために、同一の方法により製造したカーボンナノチューブを250g充填した後、触媒が流速に応じて同一の比速度(specific velocity)を維持できるように充填した。
【0033】
この際、流動層反応器の内部圧力を0.4、0.7、1.0、1.2barg(ゲージ圧)にそれぞれ制御して、流動層反応器の内部圧力に対するカーボンナノチューブの収率、触媒当たりのカーボンナノチューブの生産量及びカーボンナノチューブの純度を測定し、その結果を図1~3のグラフに示した。一方、上記流動層反応器で30分間の工程を行って製造されたカーボンナノチューブは、粒子径が400nmであり、密度が150kg/mであることを確認した。
【0034】
図1は流動層反応器の内部圧力に対するカーボンナノチューブの収率を示したグラフであり、0.5~1.2barg、特に0.7~1.0bargで収率が著しく高いことが確認できる。また、図2は流動層反応器の内部圧力に対する触媒当たりのカーボンナノチューブの生産量を示したグラフであり、0.7~1.0bargで触媒当たりのカーボンナノチューブの生産量が著しく高いことが確認できる。さらに、図3は流動層反応器の内部圧力に対するカーボンナノチューブの純度を示したグラフであり、0.7~1.0bargで触媒当たりのカーボンナノチューブの純度が著しく高いことが確認できる。
【0035】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
図1
図2
図3