(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】酸化セルロースナノファイバー、および酸化セルロースナノファイバー分散液
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20230523BHJP
D21H 11/20 20060101ALN20230523BHJP
A23L 29/262 20160101ALN20230523BHJP
A61K 8/73 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
C08B15/04
D21H11/20
A23L29/262
A61K8/73
(21)【出願番号】P 2018165280
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 眞
(72)【発明者】
【氏名】中山 武史
(72)【発明者】
【氏名】田村 直之
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/089948(WO,A1)
【文献】特表2014-520182(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069641(WO,A1)
【文献】特開2011-046793(JP,A)
【文献】特表2016-528341(JP,A)
【文献】特表2016-504445(JP,A)
【文献】特表2016-529377(JP,A)
【文献】特表2017-501865(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176102(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/089709(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131084(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032931(WO,A1)
【文献】特開2017-160305(JP,A)
【文献】磯貝明,TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製と特性解析,東京大学農学部演習林報告,Vol.126,2012年02月,p.1-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/02
C08B 15/04
A61K 8/73
A23L 29/262
D21H 11/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロースナノファイバーの製造方法であって、
針葉樹由来のクラフトパルプを、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)と、臭化ナトリウムとの混合物の存在下で、次亜塩素酸ナトリウムを用いて、pHを10~11に維持して水中で酸化
し、反応後の混合物を濾過して、分離されたパルプを水で洗浄することにより、カルボキシル基量が0.4~0.72mmol/gの酸化セルロースを得る酸化工程と、
前記酸化工程で得られた前記酸化セルロースを、1.0質量%水分散液としたときの透明度が80%以上になるまで
高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を行う解繊工程とを含み、
前記pHの維持は、水酸化ナトリウム水溶液の逐次添加により行うものであり、
前記酸化は、前記次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で終了するものであり、
前記解繊工程後に得られた酸化セルロースナノファイバーが、下記条件を満たすことを特徴とする、酸化セルロースナノファイバーの製造方法。
条件:
0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液の濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られた酸化セルロースナノファイバーを分散させる工程を有する酸化セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セルロースナノファイバー、およびこの酸化セルロースナノファイバーを含有する分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルの領域すなわち原子や分子のスケールにおいて物質を自在に制御する技術であるナノテクノロジーから様々な便利な新素材やデバイスが生み出されることが期待される。植物繊維を細かく解すことで得られるセルロースナノファイバーもその一つであり、このセルロースナノファイバーは非常に結晶性が高く、低い熱膨張係数と高い弾性率を特徴とすることに加え、高いアスペクト比を有するため、ゴムや樹脂へ複合化することで強度付与、形状安定化といった効果が期待されている。また、このセルロースナノファイバーは、分散液の状態では擬塑性やチキソトロピー性といった粘度特性を有し、増粘剤などの添加剤としても効果が期待されている。
【0003】
このセルロースナノファイバーに関する様々な開発や研究が行われており、例えば、特許文献1には、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基化された数平均繊維径が2~150nmの微細セルロース繊維(セルロースナノファイバー)が開示されている。このセルロースナノファイバーは、低せん断速度における粘度が高く、高せん断速度における粘度が低い特性を有している。セルロースナノファイバーは、このような粘度特性を有するため、化粧品、食品、土木、建材、インキ、塗料など様々な分野において、増粘剤として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のセルロースナノファイバーを増粘剤として用いる場合、増粘機能を付与する相手方と混合する際に、撹拌処理を行うと、粘度が大幅に低下する問題があった。
【0006】
このため、本発明は、増粘機能を付与する相手方と混合する際に、撹拌処理を行った場合であっても粘度保持率に優れた酸化セルロースナノファイバーを提供することを目的とする。また、本発明は、この酸化セルロースナノファイバーを含有する分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の(1)~(7)を提供する。
(1)下記条件を満たすことを特徴とする酸化セルロースナノファイバー。
条件:酸化セルロースナノファイバー水分散液の濃度調整直後に測定した粘度に対する、前記酸化セルロースナノファイバー水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定した粘度の保持率が50%以上である。
(2)下記条件を満たすことを特徴とする、(1)記載の酸化セルロースナノファイバー。
条件:0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液の濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である。
(3)前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gである、(1)または(2)に記載の酸化セルロースナノファイバー。
(4)前記酸化セルロースナノファイバーの、1.0質量%水分散液における透明度が80%以上である、(3)に記載の酸化セルロースナノファイバー。
(5)前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して0.2~2.0mmol/gであり、且つ下記式(1)で求められる酸化セルロースナノファイバー中のカルボキシル基の割合が50%以上である、(1)または(2)に記載の酸化セルロースナノファイバー。
式(1):カルボキシル基の割合(%)=(カルボキシル基量/カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量)×100
(6)前記酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して0.2~2.0mmol/gであり、当該酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量に対して多価金属を40~100mol%含有する、(1)または(2)に記載の酸化セルロースナノファイバー。
(7)(1)~(6)の何れかに記載の酸化セルロースナノファイバーを含有する酸化セルロースナノファイバー分散液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、増粘機能を付与する相手方と混合する際に、撹拌処理を行った場合であっても粘度保持率に優れた酸化セルロースナノファイバーを提供することができる。また、この酸化セルロースナノファイバーを含有する分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酸化セルロースナノファイバー(酸化CNF)は、下記条件を満たすことを特徴としている。
条件:酸化セルロースナノファイバー水分散液の濃度調整直後に測定した粘度に対する、前記酸化セルロースナノファイバー水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定した粘度の保持率が50%以上である。
【0010】
なお、本発明の酸化セルロースナノファイバー(酸化CNF)は、下記条件を満たすことが好ましい。
条件:0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液の濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化セルロースナノファイバー水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である。
【0011】
本発明の酸化セルロースナノファイバーとしては、上記の粘度保持率を満たせば特に限定されるものではないが、1)酸化CNFのカルボキシル基量が酸化CNFの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gである酸化CNF、2)酸化CNFのカルボキシル基量が酸化CNFの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gであり、前記酸化CNFの1.0質量%水分散液における透明度が80%以上である酸化CNF、3)酸化CNFのカルボキシル基量が酸化CNFの絶乾質量に対して0.2~2.0mmol/g、且つ下記式(1)で求められる酸化CNF中のカルボキシル基の割合が50%以上である酸化CNFを挙げることができる。
式(1):カルボキシル基の割合(%)=(カルボキシル基量/カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量)×100
【0012】
なお、本明細書中、カルボキシル基の割合を求める場合においては、カルボキシル基とカルボキシレート基は、区別される。具体的には、カルボキシル基とは、-COOHで表される基を示し、カルボキシレート基とは、-COO-で表される基を示す。カルボキシレート基のカウンターカチオンは特に限定されず、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン等が挙げられる。
【0013】
さらに、本発明の酸化セルロースナノファイバーとしては、上記の粘度保持率を満たせば特に限定されるものではないが、カルボキシル基量が酸化CNFの絶乾質量に対して0.2~2.0mmol/gであり、且つ酸化CNFのカルボキシル基量に対して多価金属を40~100mol%含有する酸化CNFを挙げることができる。
【0014】
(酸化CNF)
本発明の酸化CNFは、セルロース原料にカルボキシル基を導入して得られる酸化セルロースを解繊することによって得ることができる。
【0015】
(原料)
セルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物性材料(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物を起源とするものを挙げることができ、いずれも使用することができる。好ましくは、植物又は微生物由来のセルロース原料であり、より好ましくは、植物由来のセルロース原料である。
【0016】
(カルボキシル基の導入)
上記のセルロース原料を公知の方法で酸化(カルボキシル化)することにより、セルロース原料にカルボキシル基を導入することができる。
【0017】
酸化の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法がある。この酸化反応により、セルロース表面のピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化される。その結果、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシレート基(-COO-)を有する酸化セルロースを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生し得る化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0019】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol~10mmolが好ましく、0.01mmol~1mmolがより好ましく、0.05mmol~0.5mmolがさらに好ましい。また、その濃度は、反応系に対し、0.1mmol/L~4mmol/L程度が好ましい。
【0020】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。
【0021】
臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol~100mmolが好ましく、0.1mmol~10mmolがより好ましく、0.5mmol~5mmolがさらに好ましい。
【0022】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等がある。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol~500mmolが好ましく、0.5mmol~50mmolがより好ましく、1mmol~25mmolがさらに好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1mol~40molが好ましい。
【0024】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。そのため、反応温度は4℃~40℃が好ましく、15℃~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する。酸化反応を効率よく進行させるために、反応途中で水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じ難い等の理由で、水が好ましい。
【0025】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常、0.5時間~6時間であり、0.5時間~4時間であることが好ましい。
【0026】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段階目の反応終了後に濾別して得られたカルボキシル化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段階目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化することができる。
【0027】
他の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法がある。この酸化反応により、ピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0028】
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m3~250g/m3であることが好ましく、50g/m3~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。
【0029】
オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0030】
オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸等が挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を調製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0031】
酸化セルロースの変性度を示すカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。なお、カルボキシル基の量は、酸化セルロースの絶乾質量に対して、0.2~2.0mmol/g程度である。0.2mmol/g未満であると酸化CNFへと解繊するためには多大なエネルギーが必要となる。また、2.0mmolを超えた酸化セルロースを原料に用いた場合、得られる酸化CNFは繊維形態を有していない。なお、本明細書中、変性度を示す場合においては、カルボキシル基の量は、カルボキシル基(-COOH)の量、及びカルボキシレート基(-COO-)の量の合計量を示す。
【0032】
(解繊)
解繊に用いる装置は特に限定されないが例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は酸化セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料又は酸化セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加でき、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0033】
分散処理においては通常、溶媒に酸化セルロースを分散する。溶媒は、酸化セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0034】
分散体中の酸化セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0035】
解繊処理と分散処理の順序は特に限定されず、どちらを先に行ってもよいし同時に行ってもよいが、分散処理後に解繊処理を行うことが好ましい。各処理の組み合わせを少なくとも1回行えばよく、2回以上繰り返してもよい。
【0036】
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0037】
本発明の酸化CNFの平均繊維径は、3nm以上又は500nm以下であることが好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長の測定は、例えば、酸化CNFの0.001質量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出することができる。
【0038】
また、酸化CNFの平均アスペクト比は、通常は50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0039】
(透明度)
本明細書において、透明度は、酸化CNFを固形分1%(w/v)の水分散体とした際の、波長660nmの光の透過率をいうものとする。酸化CNFの透明度の測定方法は、以下の通りである:
CNF分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、UV-VIS分光光度計 UV-1800(島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm 光の透過率を測定する。
【0040】
本発明の酸化CNFの透明度は、60%以上である。より好ましくは60~100%であり、さらに好ましくは70~100%であり、さらに好ましくは80~100%である。このような酸化CNFのカルボキシル基量が酸化CNFの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gである時、低せん断速度領域における粘度低下を抑えた酸化セルロースナノファイバーを提供することが可能である。
【0041】
酸化CNFのカルボキシル基量が、例えば1.2~2.0mmol/g等の高い値では、酸化CNF表面のカルボキシル基による荷電反発の効果が大きく、酸化CNFの水分散液に対して撹拌処理を行った際にせん断の影響を大きく受けやすいため、粘度の保持が困難であると考えられる。一方、酸化CNFのカルボキシル基量が、0.4~1.0mmol/gという低い値では、酸化CNF表面の電荷が少なくなるため、反発の効果が弱まり酸化CNF同士の相互作用が働きやすくなることで、せん断を受けた際の粘度が保持可能となっていると推測される。
通常、酸化CNFの透明度を60%以上の高透明度にする場合、当該酸化CNFのカルボキシル基量を、例えば1.2~2.0mmol/g等の高い値にすることで、前述の解繊処理を容易に行い、結果として、高透明度の酸化CNFが容易に得られることが知られている。一方、本特許では、酸化CNFのカルボキシル基量を0.4~1.0mmol/gという低い値で、かつ当該酸化CNFの透明度を80%以上にするための十分な解繊処理を行なうことで、低せん断速度領域における粘度保持率の向上という、新たな効果が見出された。
【0042】
上記効果が得られる理由は必ずしも定かではないが、低い変性度の変性パルプを十分に解繊することで、化学的に表面処理されていない水酸基を持つ箇所が露出し、酸化CNFの表面電荷の減少に加えて酸化CNF同士が相互的に水素結合を形成しやすくなり低せん断での粘度が保持されるからであると推定される。
【0043】
(本発明の酸化CNFの具体例1)
0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液の、濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である酸化CNFとして、カルボキシル基量が、酸化CNFの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gである酸化CNFを挙げることができる。カルボキシル基量が0.4~1.0mmol/gである酸化CNFは、上述した酸化セルロースの製造方法において、酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調製することができる。
【0044】
(本発明の酸化CNFの具体例2)
0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液の、濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である酸化CNFとして、カルボキシル基量が、酸化CNFの絶乾質量に対して0.4~1.0mmol/gであり、かつ1.0質量%水分散液での透明度が80%以上である酸化CNFを挙げることができる。カルボキシル基量が0.4~1.0mmol/gである酸化CNFは、上述した酸化セルロースの製造方法において、酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調製することができる。
【0045】
(本発明の酸化CNFの具体例3)
0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液の、濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である酸化CNFとして、酸化CNFのカルボキシル基量が0.2~2.0mmol/g、且つ下記式(1)で求められる酸化CNF中のカルボキシル基の割合が50%以上である酸化CNFを挙げることができる。
式(1):カルボキシル基の割合(%)=(カルボキシル基量/カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量)×100
上記式(1)で求められる酸化CNF中のカルボキシル基の割合は、酸化CNFを陽イオン交換樹脂で脱塩する、または酸を添加することで調整することができる。
【0046】
(脱塩処理)
酸化CNFは、陽イオン交換樹脂と接触することによりカチオン塩(Na塩)がプロトンに置換される。陽イオン交換樹脂を用いるので、不要な塩化ナトリウム等の副生成物が生成せず、陽イオン交換樹脂を用いて酸処理した後は、陽イオン交換樹脂を金属メッシュ等により濾過して除去するだけで、濾液として酸型/塩型を調整した酸化CNFの水分散体を得ることができる。
【0047】
金属メッシュ等により濾物として除去する対象は陽イオン交換樹脂であり、酸化CNFは金属メッシュ等の径では除去され難く、ほぼ全量が濾液中に含まれる。濾液には極めて短い繊維長の酸化CNFが多量に含まれている。また、濾液を洗浄や脱水せずともよいので、酸化CNFが凝集され難い。従って、高い光透過率を有する酸化CNFの水分散体を得ることができる。
【0048】
陽イオン交換樹脂としては、対イオンがプロトンである限り、強酸性イオン交換樹脂及び弱酸性イオン交換樹脂のいずれも用いることができる。中でも、強酸性イオン交換樹脂を用いることが好ましい。強酸性イオン交換樹脂及び弱酸性イオン交換樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂或いはアクリル系樹脂にスルホン酸基或いはカルボキシ基を導入したものが挙げられる。
【0049】
陽イオン交換樹脂の形状は、特に限定されず、細粒(粒状)、膜状、繊維等、種々の形状のものを用いることができる。中でも、酸化CNFを効率よく処理し、処理後の分離が容易であるとの観点から、粒状が好ましい。このような陽イオン交換樹脂としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、アンバージェット1020、同1024、同1060、同1220(以上、オルガノ社製)、アンバーライトIR-200C、同IR-120B(以上、東京有機化学社製)、レバチットSP 112、同S100(以上、バイエル社製)、GEL CK08P(三菱化学社製)、Dowex 50W-X8(ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0050】
酸化CNFと陽イオン交換樹脂の接触は、例えば、粒状の陽イオン交換樹脂と酸化CNFの水分散液を混合し、必要に応じ攪拌・振とうしながら、酸化CNFと陽イオン交換樹脂とを一定時間接触させた後、陽イオン交換樹脂と水分散液とを分離することによって行うことができる。
【0051】
酸化CNFの水分散液濃度や陽イオン交換樹脂との比率は、特に限定されず、当業者であれば、プロトン置換を効率的に行う観点から適宜設定し得る。一例として、酸化CNFの水分散液濃度は、0.05~10質量%が好ましい。水分散液の濃度が0.05質量%未満であると、プロトン置換に要する時間がかかりすぎる場合がある。水分散液の濃度が10質量%超であると、十分なプロトン置換の効果が得られない場合がある。接触時間も特に限定されず、当業者であれば、プロトン置換を効率的に行う観点から適宜設定し得る。例えば、0.25~4時間接触させて行うことができる。
【0052】
この際、適切な量の陽イオン交換樹脂を用いて酸化CNFを十分な時間接触させた後、陽イオン交換樹脂を金属メッシュ等により濾物として除去することで、酸型(以下、「H型」ということがある)の酸化CNFを製造することができる。
【0053】
(酸添加処理)
酸添加処理は、酸化CNFの分散液中に酸を添加する処理である。酸は、無機酸でも有機酸でもよい。無機酸としては例えば、硫酸、塩酸、硝酸、亜硫酸、亜硝酸、リン酸、二酸化塩素発生装置の残留酸などの鉱酸が挙げられ、好適には塩酸である。有機酸としては例えば、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、蟻酸などが挙げられる。酸処理時のpHは、通常2以上であり、3以上が好ましい。上限は6以下が好ましく、5以下が好ましい。従ってpHは、2~6が好ましく、2~5がより好ましく、3~5が更に好ましい。酸の添加量に特に制限はなく、酸化CNFが凝集して半透明のゲル状物質が沈殿した時点で酸の添加を終了すればよい。
【0054】
酸添加後には、洗浄処理を行うことが好ましい。これにより、酸化CNFの分散液を得ることができる。
【0055】
洗浄処理は、ゲル状物質から残存生成塩を除く程度に行うことが好ましい。これにより、酸化CNFの保存安定性及び分散性を向上させることができる。洗浄終了後に洗浄液に含まれる残存生成塩量は、特に限定されないが、0.05質量%以下が好ましく、検出限界以下がより好ましい。
【0056】
洗浄処理の方法は特に限定されないが例えば、酸性化後に得られるゲル状物質を必要に応じて予備的に脱水、洗浄後、分散及び粉砕を行う方法、及び斯かる一連のプロセスを2回以上繰り返す方法が挙げられる。溶媒としては、酸化CNFが溶媒中で十分に分散し得るものであれば自由に用いることができ、例えば水、有機溶媒及びこれらから選ばれる2以上の溶媒の混合溶媒が挙げられる。有機溶媒は、メタノール等の親水性溶媒が好ましい。混合溶媒は、少なくとも水を含むことが好ましい。セルロース原料が親水性であることから溶媒は水、親水性の有機溶媒、親水性の混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。溶媒の添加量は通常、ゲル状物質の固形分1~2%程度となる量である。
【0057】
分散は、ミキサーなどのスラリー化装置を用いて行ってもよい。分散は、ゲル状物質が短時間で沈降しない程度の粒子径となるまで微細化(スラリー化)するまで行うことが好ましい。
【0058】
粉砕は通常粉砕装置を用いて行う。粉砕装置としては例えば、ビーズミル等の、メディアを使用する粉砕装置、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式分散機などの、メディアを使用しない粉砕装置が挙げられる。中でも、メディアを使用しない粉砕装置が好ましく、高圧式分散機がより好ましく、湿式の高圧式分散機が更に好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーが更により好ましい。これにより酸型セルロースナノファイバーが十分に分散された分散液を効率良く得ることができる。粉砕条件は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは140MPa以上である。粉砕装置は、これらの条件下で分散する能力を有することが好ましい。粉砕装置での処理(パス)回数は1回でもよいし2回以上でもよい。
【0059】
洗浄処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水は例えば、遠心分離法による脱水が挙げられる。脱水は、溶媒中の固形分が3~20%程度になるまで行うことが好ましい。
【0060】
洗浄処理の温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。上限は、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。従って、10~50℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。
【0061】
なお、カルボキシル基の割合は下記の方法で算出することができる。
【0062】
先ず、酸化(カルボキシル化)セルロースナノファイバー塩の0.1質量%スラリーを250mL調製する。調製したスラリーに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHが11になるまで電気電導度を測定する。電気電導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式(2)を用いて、カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量を算出する:
式(2):カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量(mmol/g酸化セルロースナノファイバー塩)=a(mL)×0.1/酸化セルロースナノファイバー塩の質量(g)
次に、脱塩処理した酸型の酸化セルロースナノファイバーの0.1質量%スラリーを250mL調製する。調製したスラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHが11になるまで電気電導度を測定する。電気電導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(b)から、下記式(3)を用いて、カルボキシル基量を算出する:
式(3):カルボキシル基量(mmol/g酸化セルロースナノファイバー)=b(mL)×0.1/酸化セルロースナノファイバーの質量(g)
算出したカルボキシル基量と、カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量から、下記式(1)を用いてカルボキシル基の割合を算出することができる:
式(1):カルボキシル基の割合(%)=(カルボキシル基量/カルボキシル基量及びカルボキシレート基量の合計量)×100
【0063】
(本発明の酸化CNFの具体例4)
0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液の、濃度調整直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)に対する、0.7質量%に調整した酸化CNF水分散液を回転数1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した直後に測定したB型粘度(回転数6rpm)の保持率が50%以上である酸化CNFとして、酸化CNFのカルボキシル基量が0.2~2.0mmol/g、且つ、酸化CNFのカルボキシル基量に対して多価金属を40~100mol%含有する酸化CNFを挙げることができる。
【0064】
本発明の多価金属を含有した酸化CNF分散液の製造方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0065】
まず、カルボキシル基量を0.2~2.0mmol/gに調整した酸化CNFの水分散液を調製する。次に、この酸化CNFの水分散液に多価金属を酸化CNFに含まれるカルボキシル基量に対して40~100mol%添加し、混合する。これらの工程を経ることにより、酸化CNFのカルボキシル基量に対して多価金属を40~100mol%含有する酸化セルロースナノファイバー分散液を得ることができる。
【0066】
多価金属の添加によって、酸化CNFのカルボキシル基間にイオン結合による架橋が形成されると、セルロースナノファイバー同士のネットワークが強固になり、せん断に対するネットワーク構造の維持が可能となるため、粘度を保持することができる。
【0067】
多価金属を酸化CNF分散液に添加する際の酸化CNF分散液濃度、温度・圧などは特に限定されるものではないが、分散液の濃度は通常0.5~1.2質量%、温度及び圧は通常18~35℃、常圧でとすることが好ましい。
【0068】
また、多価金属を酸化CNF分散液に添加し、混合する際の回転数、混合時間などは、多価金属を酸化CNF分散液に均一に混ぜることができるものであれば、特に限定されるものではないが、回転数1000~3000rpm、混合時間5~30分とすることが好ましい。
【0069】
上記酸化CNFに添加する多価金属としては特に限定されるものではないが、2価あるいは3価の金属の水酸化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることが好ましく、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅の水酸化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることがより好ましく、カルシウム、アルミニウムの水酸化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることがさらに好ましく、カルシウムの水酸化物、炭酸塩、有機酸塩を用いることが特に好ましい。ここで、カルシウムの有機酸塩としては、酢酸カルシウムなどが挙げられる。
【0070】
また、酸化CNF分散液中の多価金属の含有量については、ICP発光分光分析や蛍光X線等の元素分析から定性的、定量的に確認できる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<安定性試験1>
1.0質量%の酸化セルロースナノファイバー水分散液210gを600mLのプラスチック容器に測りとった後、濃度が0.7%になるように脱イオン水を添加して撹拌(1000rpm、5分間)することで、0.7質量%の酸化CNF水分散液300gを得た。また、濃度を調整した直後に、B型粘度計を用いて6rpm、1分間の条件で、B型粘度を測定した(撹拌前の粘度)。
【0073】
B型粘度を測定し終えた酸化CNF水分散液300gをディスパーで30分間撹拌(1000rpm、23℃)した。30分間撹拌した直後に、B型粘度計を用いて6rpm、1分間の条件で、B型粘度を測定した(撹拌後の粘度)。
【0074】
<安定性試験2>
1.0質量%の酸化セルロースナノファイバー水分散液160gを600mLのプラスチック容器に測りとった後、濃度が0.5%になるように脱イオン水を添加して撹拌(3000rpm、10分間)することで、0.5質量%の酸化CNF水分散液320gを得た。このうち20gは6時間静置した後、レオメーターによりせん断速度が0.1/sにおける粘度を測定した(撹拌前の粘度)。
【0075】
残りの酸化CNF水分散液300gを500mLビーカーに移し、スターラーで1日撹拌(1000rpm、23℃)した。なお、撹拌時に水の蒸発を防止するためビーカーの口をパラフィルムで密閉した。1日撹拌した酸化CNF水分散液を6時間静置した後、レオメーターによりせん断速度が0.1/sにおける粘度を測定した(撹拌後の粘度)。
【0076】
なお、安定性試験1および安定性試験2について、粘度保持率は下記式(4)により求められる。
式(4):粘度保持率(%)=(撹拌後の粘度/撹拌前の粘度)×100
【0077】
<実施例1>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが2.2mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量(以下、「変性度」ということがある)は0.72mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、透明度が93.7%である酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は4nm、アスペクト比は280であった。この酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は52.5%であった。
【0078】
<実施例2>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが1.8mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.58mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、透明度が77.4%である酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は4nm、アスペクト比は320であった。この酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は80.3%であった。また、上記酸化CNFの水分散液に対し安定性試験2を実施し、撹拌前と撹拌後のレオメーターによる粘度の値を得た。このときの低せん断速度領域における粘度保持率は44.9%であった。
【0079】
<実施例3>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)20mg(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが1.8mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は93%であり、酸化反応に要した時間は60分、カルボキシル基量は0.58mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、透明度が十分に高くなるまで解繊処理を実施することで、透明度が90.2%である酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は4nm、アスペクト比は350であった。この酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は71.4%であった。また、上記酸化CNFの水分散液に対し安定性試験2を実施し、撹拌前と撹拌後のレオメーターによる粘度の値を得た。このときの低せん断速度領域における粘度保持率は65.5%であった。
【0080】
<実施例4>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.53mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を実施することで、酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
この酸化CNF水分散液に対し、陽イオン交換樹脂を用いた脱塩処理を行い、H型酸化CNF水分散液を得た。この時のカルボキシル基の割合は75%であった。このH型酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は99.6%であった。
【0081】
<実施例5>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.53mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を実施することで、酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
上記で調製した1.0質量%の酸化セルロースナノファイバー水分散液に対して安定性試験1を実施した。なお、安定性試験1において、0.7質量%に濃度調整する際に、CNFのカルボキシル基量に対して50mol%の量の酢酸カルシウム一水和物を添加し、1000rpmで5分間撹拌を行った。このカルシウムイオンを添加したCNF水分散液に対し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。粘度保持率は71.6%となった。
【0082】
<比較例1>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.53mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を実施することで、透明度が95.1%である酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。この酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は38.2%であった。
【0083】
<比較例2>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが3.1mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.08mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を実施することで、透明度が94.2%である酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は260であった。この酸化CNF水分散液に対し安定性試験1を実施し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。このときの粘度保持率は46.7%であった。
【0084】
<比較例3>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.53mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を実施することで、酸化セルロースナノファイバー水分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
上記で調製した1.0質量%の酸化セルロースナノファイバー水分散液に対して安定性試験1を実施した。なお、安定性試験1において、0.7質量%への濃度調整する際に、CNFのカルボキシル基量に対して30mol%の量の酢酸カルシウム一水和物を添加し、1000rpmで5分間撹拌を行った。このカルシウムイオンを添加したCNF水分散液に対し、撹拌前と撹拌後のB型粘度の値を得た。粘度保持率は39.6%となった。
【0085】
【0086】
表1からわかるように、本発明の酸化セルロースナノファイバーは、1000rpmのディスパーを用いて30分間撹拌した場合であっても粘度保持率に優れる。