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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】焼入れ部品及びこれを用いたプーリ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/12 20060101AFI20230523BHJP
   F16C 3/02 20060101ALI20230523BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230523BHJP
   C21D 9/28 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
F16H9/12 B
F16C3/02
C21D9/00 A
C21D9/28 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018201501
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020067160
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】津江 博
(72)【発明者】
【氏名】小寺 宏幸
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008634(JP,A)
【文献】特開平11-257447(JP,A)
【文献】特開平02-294423(JP,A)
【文献】特開2008-126915(JP,A)
【文献】特開2016-065570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16C 3/02
C21D 9/00
C21D 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状部品本体と、
前記軸状部品本体上に形成された凹部と、
前記凹部内に形成された焼入れ部と、
前記凹部に形成された孔部と、
を備え、
前記軸状部品本体は、筒状であり、
前記凹部は、前記軸状部品本体の外側面上に形成され、
前記焼入れ部は、前記凹部の端から5mmを超える部分には形成されていない、
焼入れ部品。
【請求項2】
軸状部品本体と、
前記軸状部品本体上に形成された凹部と、
前記凹部内に形成された焼入れ部と、
を備え、
前記軸状部品本体は、筒状であり、
前記凹部は、前記軸状部品本体の外側面上に形成され、
前記焼入れ部は、前記凹部の端から5mmを超える部分には形成されておらず、
前記軸状部品本体は、隣接部品と対向するように配置された対向面を有し、
前記対向面は、前記隣接部品と接触する第1領域と、前記隣接部品と間隔をあけて配置される第2領域と、を有し、
前記凹部は、前記第2領域に形成される、
入れ部品。
【請求項3】
前記軸状部品本体上を覆う被覆層をさらに備える、
請求項1又は2に記載の焼入れ部品。
【請求項4】
固定シーブと、
軸方向において前記固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能な可動シーブと、
筒状であって前記固定シーブから軸方向に延びる焼入れ部品と、
前記可動シーブから軸方向に延びる、筒状の隣接部品と、
を備え、
前記焼入れ部品は、
軸状部品本体と、
前記軸状部品本体上に形成された凹部と、
前記凹部内に形成された焼入れ部と、
を有し、
前記軸状部品本体は、筒状であり、
前記凹部は、前記軸状部品本体の外側面上に形成され、
前記焼入れ部は、前記凹部の端から5mmを超える部分には形成されていない、
プーリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼入れ部品及びプーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強度が必要な部品に対して焼入れ処理をし、硬さを向上させることが一般的に行われている。例えば、特許文献1に開示されたプーリ装置は、固定シーブと可動シーブとを有している。可動シーブは固定シーブ上を摺動するように構成されている。この固定シーブは、ピンが挿入される貫通孔を有している。このピンには可動シーブからトルクが作用しており、このトルクによってピンが固定シーブの貫通孔を拡大させるおそれがある。この貫通孔の拡大を防止するため、貫通孔が形成された固体シーブは全体に焼入れ処理が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-65570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、焼入れ部品の全体を焼入れ処理すると、焼入れ部品の全体に熱変形が生じて焼入れ部品が膨らむことがある。このように熱変形した状態の焼入れ部品を用いて製品を組み立てると、焼入れ部品が隣接部品に対して設計通りに配置されず、焼入れ部品が隣接部材とスムーズに摺動しないといった問題、又は、焼入れ部品が隣接部材と密着しないといった問題などが生じ得る。このため、従来は、焼入れ部品を研磨するなどして焼入れ部品を整形して変形部分を取り除く必要があった。
【0005】
本発明の課題は、隣接部品に対して設計通りに配置することのできる焼入れ部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面に係る焼入れ部品は、軸状部品本体と、凹部と、焼入れ部とを備える。凹部は、軸状部品本体上に形成されている。焼入れ部は、凹部内に形成されている。
【0007】
この構成によれば、焼入れ部は凹部内に形成されているため、軸状部品本体上において熱変形する部分は凹部内であり、凹部以外の部分は熱変形しない。そして、熱変形する凹部は隣接部品と当接しない。このように、焼入れ部品は、熱変形する部分は隣接部品と当接せず、熱変形しない部分が隣接部品と当接するため、隣接部品に対して設計通りに配置することができる。また、従来のように、変形部分を取り除くための研磨工程を省略することもできる。
【0008】
好ましくは、軸状部品本体は、隣接部品と対向するように配置された対向面を有する。対向面は、隣接部品と接触する第1領域と、隣接部品と間隔をあけて配置される第2領域と、を有する。凹部は、第2領域に形成される。この構成によれば、凹部は隣接部品と接触しない第2領域に形成されているため、凹部を形成することによる隣接部品への影響を抑えることができる。
【0009】
好ましくは、焼入れ部品は、凹部に形成された孔部をさらに備える。
【0010】
好ましくは、焼入れ部品は、軸状部品本体上を覆う被覆層をさらに備える。
【0011】
好ましくは、軸状部品本体は、筒状である。
【0012】
好ましくは、凹部は、軸状部品本体の外側面上に形成される。
【0013】
本発明の第2側面に係るプーリ装置は、固定シーブと、可動シーブと、上述したいずれかの焼入れ部品と、筒状の隣接部品とを備える。可動シーブは、軸方向において固定シーブに対して接近及び離間するように移動可能である。焼入れ部品は、筒状であって、固定シーブから軸方向に延びる。隣接部品は、可動シーブから軸方向に延びる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼入れ部品を隣接部品に対して設計通りに配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プーリ装置の側面断面図。
図2】固定ボスの側面断面図。
図3】固定ボスの第2領域の拡大断面図。
図4】プーリ装置の側面断面図。
図5】可動ボスの側面断面図。
図6】可動ボスの側面図。
図7】変形例に係る固定ボスの第2領域の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る焼入れ部品を用いたプーリ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係るプーリ装置100は、従動側のプーリ装置100である。この従動側のプーリ装置100には、駆動側のプーリ装置(図示省略)からベルト101を介してトルクが伝達される。ベルト101は、トルクを伝達するための部材である。
【0017】
図1は、プーリ装置100の側面断面図である。なお、以下の説明において、回転軸Oとは、プーリ装置100の回転軸を意味する。径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味する。径方向の外側とは、径方向において回転軸Oから離れる側を意味し、径方向の内側とは、径方向において回転軸Oに近付く側を意味する。軸方向とは、回転軸Oに沿った方向を意味する。軸方向の第1側とは図1の左側を意味し、軸方向の第2側とは、図2の右側を意味する。周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0018】
[プーリ装置]
図1に示すように、プーリ装置100は、固定シーブ1と、可動シーブ2と、固定ボス4と、可動ボス5と、を備えている。また、プーリ装置100は、コイルスプリング3と、遠心クラッチ6と、カム機構8と、をさらに備えている。なお、固定ボス4は本発明の焼入れ部品に相当し、可動ボス5は本発明の隣接部品に相当する。
【0019】
[固定シーブ]
固定シーブ1は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。固定シーブ1の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定シーブ1は、軸方向において、可動シーブ2の第2側に配置されている。固定シーブ1は、軸方向に移動しないように固定されている。
【0020】
固定シーブ1は、円板状であって、中央に貫通孔1aを有している。固定シーブ1の対向面1bは、径方向の外側にいくにしたがって、可動シーブ2から離れるように傾斜している。すなわち、対向面1bは、径方向の外側に向かって、軸方向の第2側に傾斜している。なお、固定シーブ1の対向面1bは、可動シーブ2に対向する面である。すなわち、固定シーブ1の対向面1bは、軸方向の第1側を向いている。
【0021】
[固定ボス]
固定ボス4は、固定シーブ1から軸方向に延びている。固定ボス4の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定ボス4は、軸方向において可動ボス5と相対的に摺動する。詳細には、可動ボス5が固定ボス4上を軸方向に摺動している。
【0022】
図2に示すように、固定ボス4は、第3端部4aと、第4端部4bと、複数の第1孔部4c、複数の第2孔部4eとを有している。固定ボス4は、円筒状である。固定ボス4は、鉄鋼材料によって構成されている。
【0023】
第3端部4aは、軸方向の第1側の端部である。この第3端部4aに、遠心クラッチ6が取り付けられる。第3端部4aは、互いに平行に延びる取り付け面を外周面に有している。第3端部4aは他の部分よりも外径が小さいため、肩部4dが形成されている。
【0024】
固定ボス4の第4端部4bは、軸方向の第2側の端部である。図1に示すように、第4端部4bに固定シーブ1が固定されている。詳細には、第4端部4bは、固定シーブ1の貫通孔1aに挿入されて固定されている。このため、固定ボス4は、固定シーブ1と一体的に回転する。なお、第4端部4bの外径は、他の部分の外径よりも大きい。
【0025】
出力軸(図示省略)は、固定ボス4の内部を、軸方向に延びている。出力軸は、例えば後輪にトルクを伝えるための軸である。出力軸と固定ボス4とは相対回転する。なお、出力軸と固定ボス4との間に、ベアリング11、12が配置されている。
【0026】
図2及び図3に示すように、固定ボス4は、固定ボス本体46と、第1凹部44と、焼入れ部43と、を有している。固定ボス本体46は、筒状である。なお、固定ボス本体46は本発明の軸状部品本体に相当し、第1凹部44は本発明の凹部に相当する。
【0027】
固定ボス本体46は、外周面40(対向面の一例)を有している。固定ボス本体46の外周面40は、可動ボス5と対向するように配置されている。詳細には、固定ボス4は、可動ボス5内を延びており、固定ボス本体46の外周面40は、可動ボス5の内周面と対向している。
【0028】
外周面40は、第1領域41と、第2領域42とを有している。第1領域41は、可動ボス5と接触している。詳細には、第1領域41は、固定ボス4と可動ボス5とが相対的に摺動した時において、可動ボス5の内周面と接触し得る領域である。すなわち、第1領域41は、可動ボス5の内周面と摺動する領域である。なお、本実施形態では、第1領域41は、軸方向に2つに分かれている。すなわち、軸方向の中央部に第2領域42が配置されている。そして、第1領域41は、この第2領域42を挟むように軸方向の両端部に配置されている。
【0029】
第2領域42は、径方向において、可動ボス5と間隔をあけて配置されている。詳細には、第2領域42は、固定ボス4と可動ボス5とが相対的に摺動した時において、可動ボス5の内周面と接触し得ない領域である。すなわち、第2領域42は、可動ボス5の内周面と摺動しない領域である。なお、可動ボス5の内周面のうち第2領域42と対向し得る領域を径方向外側に凹ませることによって、第2領域42と可動ボス5の内周面との間隔をあけている。
【0030】
図3に示すように、第1凹部44は、固定ボス本体46上に形成されている。詳細には、第1凹部44は、固定ボス本体46の外周面40上に形成されている。より詳細には、第1凹部44は、固定ボス本体46の第2領域42に形成されている。このように第1凹部44は、可動ボス5が摺動しない第2領域42に形成されているため、可動ボス5の摺動には影響を与えない。
【0031】
第1凹部44は環状に形成されており、固定ボス4の外周面40上を全周に亘って延びている。このため、第1凹部44が形成された部分における固定ボス本体46の外径は、第1凹部44が形成されていない部分における固定ボス本体46の外径よりも小さい。
【0032】
焼入れ部43は、第1凹部44内に形成されている。焼入れ部43は、環状に形成されている。すなわち、焼入れ部43は、第1凹部44に沿って固定ボス本体46の外周面40の全周に亘って延びている。この第1凹部44内に第1孔部4c及び第2孔部4eが形成されている。第1孔部4cには、トルクピン81が挿入される。第2孔部4e内には、グリスが充填されている。
【0033】
焼入れ部43は、第1凹部44内から一部はみ出していてもよい。すなわち、焼入れ部43の軸方向の両端部は、第1凹部44から一部はみ出していてもよい。例えば、焼入れ部43のはみ出し部分は、軸方向において、片側につき5mm以内であることが好ましい。この焼入れ部43のうち第1凹部44からはみ出した部分は、焼入れによる熱変形はしていない。このため、固定ボス4と可動ボス5との摺動に影響を及ぼさない。なお、好ましくは、焼入れ部43は、第2領域42のみに形成されており、第1領域41には形成されていない。
【0034】
焼入れ部43は、例えば、高周波焼入れによって形成することができるが、レーザ焼入れなどの他の方法によって形成してもよい。本実施形態では、焼入れ部43は、焼入れ後に焼戻しすることによって形成されている。これにより、焼入れ部43は、固定ボス4の他の部分に比べて硬さ(例えばロックウェル硬さ)が高くなっている。特に、第1孔部4cを画定する内壁面の硬さが高いことによって、トルクピン81がトルクによって傾いても、第1孔部4cの内壁面の摩耗や変形が抑制される。
【0035】
[可動シーブ]
図1に示すように、可動シーブ2は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。可動シーブ2の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動シーブ2は、回転軸Oに沿って移動するように配置されている。すなわち、可動シーブ2は、軸方向に移動するように配置されている。可動シーブ2は、軸方向において、固定シーブ1の第1側に配置されている。
【0036】
可動シーブ2は、円板状であって、中央に貫通孔2aを有している。可動シーブ2の対向面2bは、径方向の外側にいくにしたがって、固定シーブ1から離れるように傾斜している。すなわち、対向面2bは、径方向の外側に向かって、軸方向の第1側に傾斜している。
【0037】
可動シーブ2の対向面2bは、固定シーブ1に対向する面である。すなわち、可動シーブ2の対向面2bは、軸方向の第2側を向いている。固定シーブ1の対向面1bと、可動シーブ2の対向面2bとは、間隔をあけて対向している。すなわち、固定シーブ1の対向面1bと、可動シーブ2の対向面2bとによって、V溝が形成されている。可動シーブ2が軸方向に移動することによって、V溝の溝幅が変わる。このV溝内において、ベルト101が配置されている。なお、固定シーブ1の対向面1bと、可動シーブ2の対向面2bとによって、ベルト101を挟持している。
【0038】
固定シーブ1と可動シーブ2とは、径方向における外周側位置と内周側位置との間でベルト101を挟持するように構成されている。すなわち、ベルト101は、外周側位置と内周側位置との間を移動する。なお、図1は、ベルト101が内周側位置に位置するときの図であり、図4は、ベルト101が外周側位置に位置するときの図である。なお、低速走行の際は、ベルト101が外周側位置にあり、高速走行の際は、ベルト101が内周側位置にある。
【0039】
[可動ボス]
可動ボス5は、円筒状であって、軸方向に延びている。可動ボス5の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動ボス5は、固定ボス4を覆うように配置されている。可動ボス5の内周面は、可動ボス5の摺動時において、固定ボス4の外周面40のうち第1領域41と接触し得る。
【0040】
可動ボス5は、軸方向において、固定ボス4上を摺動可能である。図5に示すように、可動ボス5は、第5端部5aと、第6端部5bとを有する。第5端部5aは軸方向の第1側の端部であり、第6端部5bは軸方向の第2側の端部である。
【0041】
第6端部5bには、可動シーブ2が固定されている。詳細には、第6端部5bは、可動シーブ2の貫通孔2aに挿入されて例えば溶接などによって固定されている。このため、可動シーブ2と可動ボス5とは、一体的に回転する。
【0042】
可動ボス5は、可動ボス本体5cと、カバー5dとを有している。可動ボス本体5cは、円筒状である。図5及び図6に示すように、可動ボス本体5cは、複数のカム溝5eを有している。各カム溝5eは、軸方向に延びている。各カム溝5eは、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。
【0043】
カバー5dは、円筒状である。カバー5dは、可動ボス本体5cの外周面を覆うように配置されている。詳細には、可動ボス本体5cにはOリング5fが設けられ、このOリング5fを介してカバー5dの内周面は、可動ボス本体5cの外周面と接触している。可動ボス本体5cとカバー5dとは、少なくとも軸方向において互いに固定されている。このようにカバー5dが可動ボス本体5cの外周面を覆っているため、カム溝5eは、密閉されている。
【0044】
可動ボス5は、内周面において第2凹部51を有している。第2凹部51は、環状であって、可動ボス5の内周面の全周に亘って延びている。この第2凹部51は、可動ボス5の摺動時において、固定ボス4の第2領域42と対向するように配置されている。この第2凹部51によって、固定ボス4の第2領域42と可動ボス5の内周面との間隔が形成されている。この第2凹部51及びカム溝5eには、グリスなどが充填されている。
【0045】
第1凹部44の深さと第2凹部51の深さとを合わせた隙間高さは、焼入れ部43のふくらみ高さを考慮して決定することができる。例えば、焼入れ部43のふくらみ高さが0.02~0.30mm程度である場合、第1凹部44の深さと第2凹部51の深さとを合わせた隙間高さも0.02~0.30mm程度とすることができる。例えば、第1凹部44の深さを0.02~0.30mm程度とすることができる。また、第2凹部51の深さも、0.02~0.30mm程度とすることができる。
【0046】
[カム機構]
図1に示すように、カム機構8は、複数のトルクピン81と、複数のカム溝5e(図5参照)と、によって構成されている。カム機構8は、固定ボス4に対する可動ボス5の相対回転を可動ボス5の軸方向推力に変換するように構成されている。
【0047】
各トルクピン81は、固定ボス4の外周面から径方向の外側に突出するように構成されている。詳細には、各トルクピン81は、固定ボス4の第1孔部4cに挿入されて固定されている。また、各トルクピン81の突出部は、各カム溝5e内に配置されている。各トルクピン81は、各カム溝5e内において、摺動可能である。
【0048】
各トルクピン81は、ピン本体81aと、リング81bとを有している。ピン本体81aは、円柱状であって、固定ボス4の外周面から径方向の外側に突出している。ピン本体81aは、固定ボス4の第1孔部4cに挿入されて保持されている。
【0049】
リング81bは、ピン本体81aの外周面を覆うように配置されている。詳細には、リング81bは、ピン本体81aのうち、固定ボス4から突出した部分を覆っている。
【0050】
図5及び図6に示すように、各カム溝5eは、可動ボス5の可動ボス本体5cに形成されている。各カム溝5eは、軸方向に延びるとともに、円周方向に傾斜している。各トルクピン81は、各カム溝5e内を摺動することができる。
【0051】
[コイルスプリング]
図1に示すように、コイルスプリング3は、可動シーブ2を固定シーブ1に向かって付勢する。すなわち、コイルスプリング3は、可動シーブ2を軸方向の第2側に向かって付勢している。これによって、固定シーブ1と可動シーブ2とが、ベルト101を挟持する。
【0052】
詳細には、図1に示すようにベルト101が内周側位置にあるとき、コイルスプリング3は圧縮されている。また、図4に示すように、ベルト101が外周側位置にあるとき、コイルスプリング3は、可動シーブ2を軸方向の第2側に向かって移動させる。
【0053】
[遠心クラッチ]
図1に示すように、遠心クラッチ6は、ドライブプレート61、複数のウェイト62、及びクラッチハウジング63を有している。遠心クラッチ6は、固定シーブ1及び可動シーブ2の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。詳細には、遠心クラッチ6は、固定ボス4の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。
【0054】
ドライブプレート61は、固定ボス4の第3端部4aに取り付けられている。ドライブプレート61は、固定ボス4と一体的に回転する。詳細には、ドライブプレート61は、中心部に貫通孔61aを有する円板状のプレートである。貫通孔61aは、固定ボス4の第3端部4aと係合するような形状である。具体的には、貫通孔61aの周縁は、固定ボス4の外周縁とほぼ同じ形状である。
【0055】
ドライブプレート61は、固定ボス4の肩部4dと当接することによって、軸方向の第2側への移動が規制される。また、ドライブプレート61の軸方向の第1側において、ナット64が固定ボス4の第3端部4aに螺合している。このナット64によって、ドライブプレート61は軸方向の第1側への移動も規制される。
【0056】
各ウェイト62は、円周方向の一端部がドライブプレート61に揺動可能に取り付けられている。各ウェイト62の外周面には、摩擦材65が固定されている。各ウェイト62の他端部には、各ウェイト62を径方向の内側に付勢するようにリターンスプリング66が取り付けられている。
【0057】
クラッチハウジング63は、各ウェイト62を径方向の外側から覆うように配置されている。クラッチハウジング63は、固定ボス4に相対回転可能に支持されている。詳細には、クラッチハウジング63は、ボス部63aを有している。ボス部63aには、スプライン孔63bが形成されている。このスプライン孔63bに、出力軸がスプライン係合することができる。
【0058】
遠心クラッチ6が伝達状態になると、各ウェイト62の摩擦材65は、クラッチハウジング63の内周面と摩擦係合する。また、遠心クラッチ6が遮断状態になると、各ウェイト62の摩擦材65は、クラッチハウジング63の内周面から離れる。なお、遠心クラッチ6の伝達状態とは、遠心クラッチ6が、固定シーブ1及び可動シーブ2の回転を出力軸に伝達する状態を意味する。また、遠心クラッチ6の遮断状態とは、遠心クラッチ6が、固定シーブ1及び可動シーブ2の回転を出力軸に伝達しない状態を意味する。
【0059】
[プーリ装置の動作]
上述したように構成されたプーリ装置は、次のように動作する。
【0060】
駆動側のプーリ装置において、固定シーブと可動シーブとによって構成される溝の幅が狭くなった場合、ベルト101の巻き付け径が大きくなる。すなわち、ベルト101は、駆動側のプーリ装置において、径方向の外側に移動する。
【0061】
従動側のプーリ装置100において、固定シーブ1と可動シーブ2とによって構成される溝の幅は、駆動側のプーリ装置における溝幅と逆に動作する。すなわち、駆動側のプーリ装置においてベルト101が径方向の外側に移動すると、従動側のプーリ装置100においてベルト101が径方向の内側へ移動する。
【0062】
ベルト101が径方向の内側へ移動すると、コイルスプリング3の付勢力に抗して、可動シーブ2が固定シーブ1から離れる方向に移動する。すなわち、可動シーブ2が、軸方向の第1側に移動する。この結果、固定シーブ1と可動シーブ2との間の溝の幅が広がる。
【0063】
また、駆動側のプーリ装置において、固定シーブと可動シーブとによって構成される溝の幅が広がった場合、ベルト101の巻き付け径が小さくなる。すなわち、ベルト101は、駆動側のプーリ装置において、径方向の内側に移動する。
【0064】
駆動側のプーリ装置においてベルト101が径方向の内側に移動すると、従動側のプーリ装置100において、ベルト101が径方向の外側へ移動する。そして、コイルスプリング3の付勢力によって、可動シーブ2が固定シーブ1に近付く方向に移動する。この結果、固定シーブ1と可動シーブ2との間の溝の幅が狭くなる。
【0065】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0066】
変形例1
図7に示すように、固定ボス4は、さらに被覆層45を有していてもよい。被覆層45は、固定ボス本体46の外周面40を覆っている。被覆層45は、例えばメッキ処理によって形成することができる。
【0067】
変形例2
上記実施形態では、焼入れ部品として固定ボス4を例示したが、焼入れ部品はこれに限定されない。例えば、焼入れ部品は固定ボス4のように筒状ではなく、板状であってもよい。また、焼入れ部品と隣接部品とは、相対的に摺動するものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 固定シーブ
2 可動シーブ
4 固定ボス
40 外周面
41 第1領域
42 第2領域
43 焼入れ部
44 第1凹部
45 被覆層
46 固定ボス本体
4c 孔部
5 可動ボス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7