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特許7283885水性プライマー組成物とインクのセット及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】水性プライマー組成物とインクのセット及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/06 20060101AFI20230523BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230523BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20230523BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230523BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230523BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230523BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230523BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230523BHJP
【FI】
C09D175/06
C09D5/00 D
C09D11/54
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 130
B41M5/00 110
C09D5/02
C09D7/61
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018208246
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020075954
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】森安 員揮
(72)【発明者】
【氏名】植田 恵理
(72)【発明者】
【氏名】佐野 孝明
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-011942(JP,A)
【文献】特開2017-019916(JP,A)
【文献】特開2016-030337(JP,A)
【文献】特開2014-019811(JP,A)
【文献】特開2018-165417(JP,A)
【文献】特開2018-122589(JP,A)
【文献】特開2013-193212(JP,A)
【文献】特開2000-309160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性多価金属塩、ポリエステル系ポリウレタンエマルション、界面活性剤、及び、水、を含み、
前記水溶性多価金属塩は、(a)マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、銅、鉄、及びアルミニウムから選ばれる1種又は2種以上である多価金属の有機酸の塩、(b)カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、銅、鉄、及びアルミニウムから選ばれる1種又は2種以上である多価金属の無機酸の塩、塩化ニッケル、塩化マンガン(II)、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上、(c)マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、銅、鉄、及びアルミニウムから選ばれる1種又は2種以上である多価金属を含む複塩、のいずれかであり、
前記水溶性多価金属塩の含有量は、水性プライマー組成物中固形分換算で0.1質量%~20.0質量%であり、
前記ポリエステル系ポリウレタンエマルションの含有量は、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で0.1質量%~25.0質量%であり、
前記界面活性剤は、アセチレンジオール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を含み、
前記界面活性剤の含有量は、水性プライマー組成物全体に対して0.1質量%~1.0質量%であり、
水溶性有機溶剤を含まない、
水性プライマー組成物。
【請求項2】
非吸収メディア用である、請求項1記載の水性プライマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性プライマー組成物、及び、インクジェット記録用インク組成物、を含むセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性プライマー組成物とインクのセット及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙等の被記録媒体に画像を形成する画像記録方式として、電子写真方式、昇華型・溶融型の熱転写方式、インクジェット方式等が知られている。これらの中でもインクジェット方式は、安価な装置で実施可能であり、かつ、必要とされる画像部のみにインクを吐出して被記録媒体上に直接画像を形成可能である。そのため、インクジェット方式は、インクを効率よく使用でき、ランニングコストを低減でき、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
しかしながら、インクジェット方式で用いられるインク(インクジェット記録用インク)は、水性インクが中心である。そのため、インクジェット記録用インクは、紙のようにインク吸収性のある材料への印刷には適しているが、合成樹脂や金属等のようにインク吸収性のない材料やインク吸収性の低い材料(非吸収メディア)への印刷には適していない。そこで、合成樹脂や金属等の非吸収メディアに対して水性インク等のインクを印字可能とするために、インクジェット記録用プライマーインク等が提案されている。
【0004】
樹脂フィルムに直接印刷する樹脂フィルム用印刷用水性インクジェット用インク組成物も知られているが、このような水性インクジェット用インク組成物を用いて、食品包装用等のラミネート用樹脂フィルムに印刷を行う場合、まだラミネート加工適性が低く、ラミネート強度が不足していた。ラミネート強度が不足すると、水性インクジェット用インク組成物からなる層と、ラミネート層や樹脂フィルムとの間で層間剥離を発生するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、樹脂フィルム上に水性インクジェット用インク組成物を用いて印刷する際に、予めカルシウムイオン等を含有するクリアインク(プライマー)を塗布しておくことが記載されている。
特許文献2には、プラスチックフィルムからなる被記録媒体に、環状アミド化合物、熱可塑性樹脂、主溶媒を塗布し下地膜を形成後、水性顔料インク組成物を印字する記録方法が提案されている。
【0006】
特許文献3には、ポリオレフィンからなる被記録媒体に、フッ素・アクリル系複合樹脂、シリコーン・アクリル系複合樹脂、塩化ビニル・アクリル系複合樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合体樹脂及び塩素化ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂と、水と、有機溶剤とを含むインクジェット記録用プライマーインクを塗布してプライマー層を形成後、水性顔料インク組成物を印字する記録方法が提案されている。
特許文献4には、一方のインクが特定の官能基を有する反応性化合物を含有し、他方のインクがその官能基と反応性の官能基を有する化合物を含有する2種のインクを、重ねて印刷することによって、ラミネート加工を行い得るようなインクセットが記載されている。
【0007】
特許文献5には、プラスチックフィルムからなる被記録媒体に設けられるインクジェット記録用プライマーインクであって、水溶性多価金属塩と、塩素化ポリオレフィンエマルジョンと、アクリル系エマルジョン又は酢酸ビニルエマルジョンの少なくともいずれか一方と、水とを含むインクジェット記録用プライマーインクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-196177号公報
【文献】特開2006-281570号公報
【文献】特開2015-168796号公報
【文献】特開2014-65826号公報
【文献】特開2017-88646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、単に樹脂フィルム上に印刷を行うときに使用するプライマーであり、その後にラミネートを行なうものでもない。
また、特許文献2及び特許文献3に記載の方法は、各種プラスチックフィルムに対する密着性が十分でなく、かつ、印刷物の乾燥性及び滲み性が不充分である。
特許文献4に記載の発明はラミネート用のインクジェット用インク組成物の組み合わせではあるものの、プライマーを用いるものではなく、2種のインクを重ねて印刷を行うにすぎないものである。しかしながら、ラミネート用の水性インクジェット用インク組成物において、特定のプライマー組成物との組み合わせ使用によって、ラミネート適性等を向上させることを達成できていなかった。
特許文献5に記載の発明は、ラミネート用のインクジェット用インク組成物のためのインクジェット記録用プライマーインクではない。
【0010】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、保存安定性に優れ、プラスチックフィルム等の非吸収メディアにインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成する際に、密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質を形成することができ、耐水性及びラミネート適性が優れた印刷層を形成し得る水性プライマーを得ることを目的とする。
また、本発明は、保存安定性に優れ、プラスチックフィルム等の非吸収メディアにインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成するインクセットであって、密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質を形成することができ、耐水性及びラミネート適性が優れた印刷層を形成し得るインクセットを得ることを目的とする。
さらに、本発明は、プラスチックフィルム等の非吸収メディアにインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷してなる印刷層を有する印刷物であって、密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質を形成することができ、耐水性及びラミネート適性が優れた印刷層を有する印刷物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに用いる水性プライマー組成物を、水溶性多価金属塩と、ポリエステル系ポリウレタンエマルションと、水とを含むものとすることにより、保存安定性に優れた水性プライマー組成物を形成することができ、プラスチックフィルム等の非吸収メディアにインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成した際に、密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質を形成することができ、耐水性及びラミネート適性が優れた印刷層を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、前記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
項1:水溶性多価金属塩、ポリエステル系ポリウレタンエマルション、及び、水、を含む水性プライマー組成物。
項2:非吸収メディア用である、項1記載の水性プライマー組成物。
項3:水溶性多価金属塩の配合量が、水性プライマー組成物中固形分換算で0.1質量%~20.0質量%である、項1又は2に記載の水性プライマー組成物。
項4:ポリエステル系ポリウレタンエマルションの含有量が、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で0.1質量%~25.0質量%である、項1~3のいずれかに記載の水性プライマー組成物。
項5:項1~4のいずれかに記載の水性プライマー組成物、及び、インクジェット記録用インク組成物、を含むセット。
項6:基材層、水溶性多価金属塩とポリエステル系ポリウレタンとを含むプライマー層、及び、印刷層、を含む印刷物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性プライマー組成物は、保存安定性に優れるものである。また、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに、本発明の水性プライマー組成物によるプライマー層を設けることにより、インクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成した際に、密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質を形成することができ、耐水性及びラミネート適性が優れた印刷層を形成することができる。
【0014】
本発明の印刷物は、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに、水性プライマー組成物から形成されたプライマー層を設けた後に、インクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成することで、印刷層の密着性が高く、滲み・ムラが抑えられた高い画質の印刷層を形成することができ、耐水性及びラミネート適性に優れた印刷物を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[水性プライマー組成物]
本発明の水性プライマー組成物は、水溶性多価金属塩、ポリエステル系ポリウレタンエマルション、及び、水、を含むものである。
【0016】
<水溶性多価金属塩>
水溶性多価金属塩は、20℃における水100mLに対する溶解度が1g/100mL以上、好ましくは2g/100mL以上、より好ましくは20g/100mL以上である、多価金属の有機酸又は無機酸の塩である。
【0017】
水溶性多価金属塩は、多価金属を含む複塩であってもよい。
水溶性多価金属塩は、水和物であってもよい。
【0018】
多価金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、銅、鉄、及びアルミニウムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0019】
有機酸としては、例えば、RCOOH(式中、Rは、水素、炭素数1~30の有機基)で表される脂肪酸の1種又は2種以上があげられる。このような有機酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、安息香酸、アスコルビン酸等があげられる。
無機酸としては、例えば、硝酸、硫酸、塩化水素(塩酸)、臭化水素、ヨウ化水素、塩素酸、臭素酸、炭酸、リン酸から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0020】
有機酸の多価金属塩である水溶性多価金属塩としては、例えば、酢酸亜鉛、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸マグネシウム、ギ酸亜鉛、ギ酸カルシウム、ギ酸ストロンチウム、ギ酸銅(II)、ギ酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸亜鉛、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウム、乳酸鉄(II)、乳酸銅、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸マグネシウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、クエン酸亜鉛、クエン酸銅、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0021】
無機酸の多価金属塩である水溶性多価金属塩としては、例えば、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化鉄、塩化銅(II)、塩化ニッケル、塩化マグネシウム、塩化マンガン(II)、臭化亜鉛、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化鉄(II)、臭化銅(II)、臭化マグネシウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸鉄(III)、硝酸銅(II)、硝酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムカリウム、リン酸二水素カルシウム、炭酸水素カルシウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0022】
これらの中でも、酢酸カルシウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0023】
水溶性多価金属塩の配合量は、塩種や配合目的に応じて適宜調整し得るものであり、特に限定されない。
水溶性多価金属塩の含有量の下限は、例えば、水性プライマー組成物中に固形分換算で0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、水溶性多価金属塩の含有量の上限は、例えば、水性プライマー組成物中に固形分換算で20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
水溶性多価金属塩の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中に固形分換算で0.1~20質量%、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~10質量%である。
【0024】
水溶性多価金属塩の含有量が0.1質量%未満である場合、水性プライマー組成物によるプライマー層上にインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成した際に、滲み・ムラが発生するおそれがある。
水溶性多価金属塩の含有量が20質量%を超える場合、水性プライマー組成物によるプライマー層上にインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成した際に、耐水性が低下するおそれがある。また、水性プライマー組成物の保存安定性が悪くなるおそれやラミネート適性が低下するおそれがある。
【0025】
水溶性多価金属塩における多価金属原子換算量は、水性プライマー組成物の保存安定性、非吸収メディアとの密着性等の観点から、水性プライマー組成物中に、0.02質量%以上、好ましくは0.13質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上とされる。
また、水溶性多価金属塩における多価金属原子換算量は、水性プライマー組成物の保存安定性、非吸収メディアとの密着性等の観点から、水性プライマー組成物中に、11.0質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。
【0026】
<ポリエステル系ポリウレタンエマルション>
本発明におけるポリエステル系ポリウレタンエマルションは、本発明の水性プライマー組成物において、基材(被塗装物)とプライマー塗膜との接着性を向上させる成分である。
特に、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム等のプラスチックフィルムに対する接着性が良好となる。
【0027】
本発明の水性プライマー組成物に含まれるポリエステル系ポリウレタンエマルションは、ポリエステル骨格を分子内に有するポリエステル系ポリウレタンのエマルションである。
ポリエステル骨格を分子内に有するポリエステル系ポリウレタンは、例えば、ポリエステル骨格を分子内に有するポリオールであるポリエステルポリオールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、必要に応じて用いられる鎖延長剤、鎖停止剤等とを、必要に応じてウレタン化触媒を用いて、公知の方法で反応させることにより得ることができる。
また、ポリエステル系ポリウレタンエマルションとしては、市販されているものを用いてもよい。
【0028】
ポリエステル系ポリウレタンエマルションにおけるポリエステル系ポリウレタンの平均粒子径は、50~1000nmが好ましく、さらに50~400nmが好ましく、特に50~300nmが好ましい。
【0029】
(ポリエステルポリオールを含むポリオール成分)
-ポリエステルポリオール-
ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸又はそのエステル化可能な誘導体を含む成分とポリオールを含む成分とを重縮合反応して得られるポリエステルポリオール、ポリオールを含む成分を開始剤として環状エステルを開環重合反応して得られるポリエステルポリオール及びこれらの共重合により得られるポリエステルポリオールから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ポリエステルポリオールの分子量は、特に限定されないが、好ましくは、重量平均分子量が400~10,000であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン樹脂を標準とした値である。
【0030】
・ポリカルボン酸又はそのエステル化可能な誘導体を含む成分
ポリカルボン酸は、カルボキシル基を2つ以上有している化合物であればいずれのものであってもよい。例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸があげられ、特に、ジカルボン酸が好ましい。
ポリカルボン酸としては、芳香族ポリカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸及び脂環族ポリカルボン酸から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ポリカルボン酸としては、飽和ポリカルボン酸及び不飽和ポリカルボン酸から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ポリカルボン酸は、無水物であってもよい。
ポリカルボン酸のエステル化可能な誘導体としては、例えば、ポリカルボン酸と、1~4の炭素原子を有する脂肪族アルコール及び/又は1~4の炭素原子を有する多価アルコールの1種又は2種以上とのエステル化物であって、ポリオールと反応させることでポリエステルを形成し得るものである。
【0031】
芳香族ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラクロロフタル酸やテトラブロモフタル酸等のハロゲン化フタル酸、フタル酸モノスルホネート、イソフタル酸モノスルホネート、テレフタル酸モノスルホネート及びこれらのエステル化可能な誘導体から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらのうち、イソフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸モノスルホネート、テレフタル酸モノスルホネート及びこれらのエステル化可能な誘導体から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0032】
脂肪族ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、多量体脂肪酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこれらのエステル化可能な誘導体から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらのうち、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、多量体脂肪酸、マレイン酸及びこれらのエステル化可能な誘導体から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0033】
脂環族ポリカルボン酸としては、例えば、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチルヘキサヒドロフタル酸、トリシクロデカンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸又は4-メチルテトラヒドロフタル酸及びこれらのエステル化可能な誘導体から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
なお、これらのポリカルボン酸は、それらのシス体でもトランス体でも使用できるし、両方の形の混合物としても使用することができる。
【0034】
ポリカルボン酸又はそのエステル化可能な誘導体の1種又は2種以上を含む成分には、モノカルボン酸が含まれていてもよい。
モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ラウリン酸、イソノナン酸、天然由来の油の脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸及びクロトン酸から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0035】
・ポリオールを含む成分
ポリオールは、芳香族、脂肪族及び脂環族ポリオールのいずれかであってもよい。
ポリオールは、飽和ポリオール又は不飽和ポリオールのいずれかであってもよい。
ポリオールとしては、ヒドロキシル基を2つ以上有している化合物であればいずれかであってもよく、例えば、ジオール、トリオールがあげられ、特に、ジオールが好ましい。
【0036】
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アルカン(C7~C22)ジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチルペンタンジオール、エチルブチルプロパンジオール、ジエチルオクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-フェニル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-プロピル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ジ-t-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1-ジヒドロキシメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジプロピル-1,3-プロパンジオール、2-シクロヘキシル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,5-ジエチル-2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-5-メチル-2,5-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,4-(2′-ヒドロキシプロピル)-ベンゼン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、2,6-ジメチル-1-オクテン-3,8-ジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシリレングリコール、ビス-2-ヒドロキシエチレンテレフタレート、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA及び1,3-(2′-ヒドロキシプロピル)-ベンゼンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0037】
トリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びグリセリンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0038】
ポリオールを含む成分には、モノオールが含まれていてもよい。
モノオールは、ヒドロキシル基を1つ有する化合物であって、アルコール類又はフェノール類であってよい。
モノオールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノール、脂肪族アルコール、アリルアルコール及びフェノールから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
・ラクトン
ラクトンとしては、例えば、ε-カプロラクトン、ポリβ-メチル-δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0040】
・ポリエステルポリオールの製造
ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸又はそのエステル化可能な誘導体を含む成分と、ポリオールを含む成分と、の重縮合反応により製造される。
また、ポリエステルポリオールは、ポリオールを含む成分を開始剤として、ラクトンの開環重合反応により製造される。
【0041】
ポリエステルポリオールの製造は、公知の方法により行うことができる。
ポリカルボン酸又はそのエステル化可能な誘導体を含む成分とポリオールを含む成分との重縮合反応や、ポリオールを含む成分を開始剤とするラクトンの開環重合反応に際しては、必要に応じて、公知の反応触媒を用いることができる。
ポリエステルポリオールの製造に際しては、共留剤としての少量の適切な溶剤の存在下に実施することができる。共留剤として例えば芳香族の炭化水素、例えばキシレン及び(環式)脂肪族の炭化水素、例えばシクロヘキサン又はメチルシクロヘキサンを使用することができる。
【0042】
-ポリエステルポリオール以外の成分-
ポリエステル系ポリウレタンを得るために用いられるポリエステルポリオールを含むポリオール成分には、前記ポリエステルポリオールに加えて、ポリオール成分の50モル%以下の量でポリエステルポリオール以外の活性水素化合物を含有させることができる。
活性水素化合物としては、例えば、ポリオール、ポリアミン及びポリカルボン酸から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0043】
ポリオール成分としては、例えば、ポリエステルポリオールの製造の際に用いたポリオール、ポリマーポリオール及びその他のポリオールから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
ポリマーポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリ(オキシエチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール、ポリ(オキシブチレン)グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)グリコール、ポリ(オキシエチレン/テトラメチレン)グリコール等)、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリブタジエンポリオール及び水添ポリブタジエンポリオールから選ばれる1種又は2種以上であって、重量平均分子量が400~10,000であるポリマーポリオールを使用することができる。
【0044】
その他のポリオールとしては、例えば、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジヒドロキシ-3-ヒドロキシメチルペンタン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-3-ブタノール、炭素数8~24の脂肪族トリオール、テトラメチロールメタン、D-ソルビトール、キシリトール、D-マンニトール、D-マンニット、シリコーンポリオール、ひまし油系ポリオール、これらのポリオールのアルキレンオキサイドの低モル付加物から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0045】
ポリアミン成分としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、1,2-ジアミノエタン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ジアミノトルエン、ビス-(4-アミノフェニル)メタン、ビス-(4-アミノ-3-クロロフェニル)メタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン及び2,2’-ジアミノジエチルアミンから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2つ以上有している化合物又はその誘導体であればいずれのものであってもよい。例えば、ジイソシアネート、トリイソシアネートがあげられ、特に、ジイソシアネートが好ましい。
ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート及び芳香脂環族ポリイソシアネートから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ポリイソシアネートは、ブロック化剤でブロックされたものであってもよい。
ポリイソシアネートの誘導体としては、多量体化物・変性物(アダクト化物、カルボジイミド化物、アロファネート化物、ウレトジオン化物、イソシアヌレート化物、ビューレット化物、ウレトイミン化物、二量体、三量体、五量体、七量体等)であってもよい。
【0047】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、エチルエチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート(2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート)、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0048】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添トルエンジイソシアネート、シクロブタンジイソシアネート、シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート及び2-ヘプチル-3,4-ビス(9-イソシアナトノニル)-1-ペンチル-シクロヘキサンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0049】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4'-トルイジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエン、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、クルードトリレンジイソシアネート(クルードTDI)から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0050】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0051】
これらのポリイソシアネートとして、好ましくは、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0052】
(鎖延長剤)
必要に応じて用いられる鎖延長剤としては、ポリウレタンの製造に従来から用いられている鎖延長剤のいずれもが使用でき、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2つ以上有する活性水素化合物の1種又は2種以上があげられる。
鎖延長剤としては、例えば、ポリアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物及びポリオール化合物の1種又は2種以上があげられる。
鎖延長剤は、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基と反応し得る活性水素を分子中に2つ以上有し、ウレタンプレポリマーの末端と反応して高分子量のポリウレタン樹脂を生成させることができる。
【0053】
ポリアミン化合物としては、アミノ基を2つ以上有する化合物であって、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキシルジメチルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ノルボルナンジアミン、ジエチレントリアミン、フェニレンジアミン、トリエチレントリアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレントリアミン及びジブチレントリアミンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ポリアミン化合物は、例えば、ケチミン、ケタジン又はアミン塩のような化合物としてマスクされた形態であってもよい。
【0054】
アミノアルコール化合物としては、アミノ基とヒドロキシル基を有する化合物であって、例えば、ヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、3-アミノプロパンジオール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール及びトリエタノールアミンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0055】
アミノカルボン酸化合物としては、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物であって、例えば、グリシン、アラニン、バリン、リジン及びアルギニンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0056】
ポリオール化合物としては、ヒドロキシル基を2つ以上有する化合物であって、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール、ビス-(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ひまし油又は硬化ひまし油、ジメチロールプロパンエーテル、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバル酸-ネオペンチルグリコールエステル、ヒドロキシル化ビスフェノールA、ヒドロキシプロピル化ビスフェノールA及び水素化ビスフェノールAから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0057】
鎖延長剤の使用量は、鎖延長剤の活性水素基に対するポリイソシアネート成分(イソシアネート末端プレポリマー)のイソシアネート基当量(イソシアネート基/活性水素基)が、例えば、0.8~4.0当量、好ましくは1.0~2.0当量とすることができる。
【0058】
(ウレタン化触媒)
ウレタン化反応において反応を促進させるため、必要に応じて通常のウレタン化反応に使用される触媒を使用することができる。
触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン、シクロアミジン類(1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU))等のアミン系触媒、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル酸錫当の錫系触媒、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒及びトリオクチル酸ビスマス等のビスマス系触媒から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ウレタン化触媒の使用量は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、鎖延長剤及び鎖停止剤の合計質量を基準として、1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下とすることができる。
【0059】
(鎖停止剤)
ウレタン化反応において、必要に応じて反応を停止させるために、鎖停止剤を用いることができる。
鎖停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類、カルビトール類、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン等のモノもしくはジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ヘキシルイソシアネート、ノニルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、ステアリルイソシアネート及びフェニルイソシアネートから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
鎖停止剤の使用量は、鎖停止剤の活性水素基に対する、鎖停止工程において残存しているイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/活性水素基)が、例えば、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1とすることができる。
【0060】
(ポリエステル系ポリウレタンの製造方法)
ポリエステル骨格を分子内に有するポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステル骨格を分子内に有するポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、必要に応じて用いられる鎖延長剤、鎖停止剤等とを、必要に応じてウレタン化触媒を用いて、公知の方法で反応させることにより得ることができる。
【0061】
例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを、イソシアネート基に対して活性水素基がモル過剰となる条件で反応させる方法があげられる。
この場合、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とは、活性水素基に対するイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/活性水素基)が1を超えない割合、好ましくは、0.95~0.5の割合で配合し、必要に応じて、前記ウレタン化触媒を使用して、バルク重合や溶液重合等の公知の重合方法により行ない、必要に応じて、未反応成分を公知の除去手段により除去することができる。
【0062】
また、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを、活性水素基に対してイソシアネート基がモル過剰となる条件で反応させてイソアシアネート基末端プレポリマーを合成した後に鎖延長剤や鎖停止剤を反応させる方法があげられる。
この場合、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とは、活性水素基に対するイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/活性水素基)が1を超える割合、好ましくは、1.05~2.0の割合で配合し、必要に応じて、前記ウレタン化触媒を使用して、バルク重合や溶液重合等の公知の重合方法によりイソシアネート末端プレポリマーを合成し、必要に応じて、未反応成分を公知の除去手段により除去することができる。
得られるイソシアネート末端プレポリマーにおけるイソシアネート基含量は、0.1~5.0質量%、さらには、0.5~3.0質量%の範囲であるのが好ましい。
その後、得られたイソシアネート末端プレポリマーを、鎖延長剤と、鎖延長剤の活性水素基に対するイソシアネート末端プレポリマーのイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/活性水素基)が1を下回る割合で反応させることにより、鎖延長と鎖停止を行うか、イソシアネート末端プレポリマーの残存するイソシアネート基に、直接、鎖停止剤を反応させて鎖停止するか、前記当量比が1を超える割合で反応させることによって鎖延長し、さらに残存するイソシアネート基と鎖停止剤を反応させて鎖停止することにより、ポリエステル系ポリウレタンを得ることができる。
【0063】
(ポリエステル系ポリウレタンエマルションの製造)
本発明のポリエステル系ポリウレタンエマルションを構成するポリエステル系ポリウレタンは、水性媒体中に分散するために、分子中に親水性基であるイオン性官能基及び/又はノニオン性官能基が導入されていることが好ましい。
ポリエステル系ポリウレタンの分子中に親水性基が導入されることにより、ポリエステル系ポリウレタンに親水性を付与することができ、ポリエステル系ポリウレタンを水中に分散することができる。
【0064】
イオン性官能基を有する場合には、イオン性官能基の少なくとも一部を中和する量の中和剤、例えば、イオン性官能基1当量に対して0.5~0.9等量に相当する量の中和剤を用いることで水に分散させてエマルションとされたものであってもよい。
【0065】
イオン性官能基は、アニオン性官能基であってもカチオン性官能基であってもよい。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基又はこれらの塩をあげることができ、好ましくは、カルボン酸基又はカルボン酸塩基である。塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリフェニルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンの塩等をあげることができる。
カチオン性官能基としては、例えば、一級~三級アミノ基、四級アンモニウム基、三級スルホニウム基、四級ホスホニウム基又はこれらの塩をあげることができ、好ましくは、四級アンモニウム基又は三級スルホニウム基である。
塩としては、無機酸又は有機酸、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸又はクエン酸等の塩をあげることができる。
ノニオン性官能基としては、例えば、ポリオキシエチレン基をあげることができる。ノニオン性官能基は、好ましくは、側鎖又は末端基としてポリエステル系ポリウレタン分子中に導入される。
【0066】
ポリエステル系ポリウレタン中にイオン性官能基及び/又はノニオン性官能基を導入する方法としては、例えば、ポリイソシアネート成分と反応させる成分としてイオン性官能基及び/又はノニオン性官能基を1つ以上有する活性水素化合物を含むものを用いる方法、鎖延長剤又は鎖停止剤としてイオン性官能基及び/又はノニオン性官能基を1つ以上有する活性水素化合物を含むものを用いる方法等があげられる。
【0067】
イオン性官能基としてアニオン性官能基を持つ活性水素化合物としては、例えば、グリセリン酸、ジオキシマレイン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸、ジオキシフマル酸、酒石酸、ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸、2,2-ジメチロール乳酸、4,4-ジ(ヒドロキシフェニル)吉草酸、4,4-ジ(ヒドロキシフェニル)酪酸、ジヒドロキシ安息香酸、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、2,4-ジアミノトルエン-5-スルホン酸、ジアミノ吉草酸、3,4-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノジフェニルエーテルスルホン酸及び1,4-ブタンジオール-2-スルホン酸から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらの化合物を用いることで、ポリエステル系ポリウレタン中にアニオン性官能基を導入することができる。
【0068】
イオン性官能基としてカチオン性官能基を持つ活性水素化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールエチルアミン、2,2-ジメチロールプロピルアミン、N,N-ジメチル-2,2-ジメチロールエチルアミン、N,N-ジエチル-2,2-ジメチロールエチルアミン、N-メチル-N-エチル-2,2-ジメチロールエチルアミン、N,N-ジメチル-2,2-ジメチロールプロピルアミン、N,N-ジエチル-2,2-ジメチロールプロピルアミン及びはN-メチル-N-エチル-2,2-ジメチロールプロピルアミンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらの化合物は、必要に応じて、適当な化合物によりブロックされていてもよい。
これらの化合物を用いることで、ポリエステル系ポリウレタン中にカチオン性官能基を導入することができる。
【0069】
ノニオン性官能基としてポリオキシアルキレン基を有する活性水素化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらの化合物を用いることで、ポリエステル系ポリウレタン中にノニオン性官能基を導入することができる。
【0070】
ポリエステル系ポリウレタンを水に分散させるために用いられる中和剤としては、特に限定されず公知の酸又は塩基を使用することができる。
このような中和剤の添加量は、例えば、アニオン性官能基又はカチオン性官能基1当量あたり、0.4~1.2当量、さらには、0.6~1.0当量であることが好ましい。
【0071】
アニオン性官能基を有するポリエステル系ポリウレタンに対して用いられる塩基としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルプロパノール、トリイソプロパノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ジイソプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0072】
カチオン性官能基を有するポリエステル系ポリウレタンに対して用いられる中和剤としての酸としては、無機酸又は有機酸が用いられ、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸及びクエン酸から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0073】
ポリエステル系ポリウレタンを水に分散させる方法としては、公知の方法を採用することができる。
例えば、アセトン等の有機溶剤中において、親水性基を有するポリウレタンを生成し、水を加えて転相乳化し、有機溶剤を蒸留除去する溶媒除去法により、ポリエステル系ポリウレタンエマルションを得ることができる。
例えば、親水性基を有するイソシアネート末端のポリウレタンに水を加えて転相乳化し、その後、水あるいは鎖延長剤で分子量を上げるプレポリマー法により、ポリエステル系ポリウレタンエマルションを得ることができる。
例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを、活性水素基に対するイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/活性水素基)が1を超える割合となる条件で反応させて得られたイソシアネート末端プレポリマーに、水を添加してイソシアネート末端プレポリマーを水に分散させた後、30℃以下の温度で鎖延長剤や鎖停止剤を配合(滴下)し、イソシアネート末端プレポリマーと、鎖延長剤や鎖停止剤との反応を水中で行った後、撹拌しつつ常温にて反応を完結させ、必要に応じて、減圧下適当な温度条件下で加熱し、有機溶剤を除去することにより、イソシアネート末端プレポリマーが鎖延長剤や鎖停止剤によって鎖延長や鎖停止され、水中に分散した状態のポリエステル系ポリウレタンエマルションを得ることができる。
【0074】
ポリエステル系ポリウレタンエマルションは、ポリエステル系ポリウレタンと乳化剤とを混合することで水に分散させてエマルションとされたものであってもよい。
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び高分子型乳化分散剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0075】
(市販のポリエステル系ポリウレタンエマルション)
本発明において用いることができる、市販のポリエステル系ポリウレタンエマルションは、例えば、DSM社製の「NeoRez R9330」、「NeoRez R9679」、「NeoRez R9637」、「NeoRez R972」、住化コベストロウレタン社製の「Impranil DLS」、「Baybond PU407」、DIC社製の「ハイドランADS-110」、「ハイドランADS-120」、「ハイドランHW-311」、「ハイドランHW-350」、「ハイドランAP-20」、「ハイドランAP-40」、「ハイドランAPX-101H」、「ハイドランAPX-110」、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス128」、「スーパーフレックス150」、「スーパーフレックス150HS」、「スーパーフレックス170」、「スーパーフレックス210」、「スーパーフレックス300」、「スーパーフレックス500M」、「スーパーフレックス620」、「スーパーフレックス740」、「スーパーフレックス820」、「スーパーフレックス830HS」、「スーパーフレックス860」、「スーパーフレックスE-2000」や、三井化学社製の「タケラックW-6010」、「タケラックW-6020」、「タケラックW-511」、「タケラックWS-6021」及び「タケラックWS-5000」、大成ファインケミカル社製の「WEM-200U」、「WBR-2122C」から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0076】
ポリエステル系ポリウレタンエマルションの含有量の下限は、例えば、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、ポリエステル系ポリウレタンエマルションの含有量の上限は、例えば、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で25質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
ポリエステル系ポリウレタンエマルションの含有量は、例えば、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で0.1~25質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~15質量%である。
【0077】
ポリエステル系ポリウレタンの含有量が、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で0.1質量%未満であると、水性プライマー組成物によるプライマー層上にインクジェット記録用インク組成物で画像や文字等を印刷して印刷層を形成した際に、ラミネート適性が低下するおそれがある。
ポリエステル系ポリウレタンの含有量が、水性プライマー組成物中ポリエステル系ポリウレタン樹脂固形分換算で25質量%を超えると、水性プライマー組成物の保存安定性が悪くなるおそれがある。
【0078】
<水>
水性プライマー組成物は、水を含む。
水としては、蒸留水やイオン交換水等の、化学分野において通常用いられているものが用いられる。
水の含有量は特に限定されない。水性プライマー組成物の全体100質量%から、水溶性多価金属塩の固形分含有量(質量%)、ポリエステル系ポリウレタンエマルションの樹脂固形分含有量(質量%)及び任意成分の固形分含有量(質量%)を除した残部となる量であってよい。
【0079】
<任意成分>
水性プライマー組成物は、前記水溶性多価金属塩、前記ポリエステル系ポリウレタンエマルション、水以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて任意成分が配合されてもよい。
任意成分としては、界面活性剤、ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルション、水溶性有機溶剤、接着性付与剤、消泡剤、保存性向上剤、着色剤、レベリング剤、フィラー、増粘剤等の各種添加剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0080】
(界面活性剤)
本発明の水性プライマー組成物には、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の界面活性剤が含まれていてもよい。
界面活性剤としては、例えば、アセチレンジオール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0081】
本発明においては、アセチレンジオール系界面活性剤が好ましく用いられる。
アセチレンジオール系界面活性剤としては、例えば、エアープロダクツ社製「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール104A」、「サーフィノール104BC」、「サーフィノール104DPM」、「サーフィノール104PA」、「サーフィノール104PG-50」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、日信化学工業社製「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」、「オルフィンPD-001」、「オルフィンPD-002W」、「オルフィンPD-004」、「オルフィンPD-005」、「オルフィンEXP.4001」、「オルフィンEXP.4200」、「オルフィンEXP.4123」、「オルフィンEXP.4300」等の商品名で市販されているものから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
界面活性剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物全体に対して、0~1.0質量%、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.1~0.7質量%である。
【0082】
(ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルション)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上のポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルションが含まれていてもよい。
【0083】
このようなエマルションとしては、例えば、アクリル系樹脂エマルション(例えば、アクリルエマルション、スチレン-アクリル系エマルション、アクリル-酢酸ビニル系エマルション、アクリル-塩化ビニル系エマルション、アクリル-シリコーン系エマルション、アクリル-コロイダルシリカ系エマルション等)、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリウレタン系樹脂エマルション、ポリ酢酸ビニル系樹脂エマルション(例えば、酢酸ビニルホモポリマーエマルション、エチレン-酢酸ビニル系エマルション、プロピレン-酢酸ビニル系エマルション、塩化ビニル-酢酸ビニル系エマルション、塩化ビニリデン-酢酸ビニル系エマルション、フッ化ビニル-酢酸ビニル系エマルション、(メタ)アクリル酸アルキルエステル-酢酸ビニル系エマルション、(メタ)アクリル酸-酢酸ビニル系エマルション、マレイン酸-酢酸ビニル系エマルション、フマル酸-酢酸ビニル系エマルション、クロトン酸-酢酸ビニル系エマルション又はこれらの部分又は完全ケン化物等)、ポリ塩化ビニル系樹脂エマルション、ポリブタジエン系樹脂エマルション、ポリエチレン系樹脂エマルション、塩素化ポリオレフィン系樹脂エマルション(例えば、ポリエチレン、結晶性ポリプロピレン、非晶質ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合物、エチレン-プロピレン-ジエン共重合物、エチレン-プロピレン-α-オレフィン共重合物、プロピレン-α-オレフィン共重合物、エチレン-酢酸ビニル共重合物及びこれらのα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体変性物から選ばれる1種又は2種以上を塩素化した樹脂のエマルション等)から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0084】
ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルションに含まれる樹脂の重量平均分子量は、例えば、3,000~200,000、好ましくは3,000~100,000である。
ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルションに含まれる樹脂のガラス転移温度は、例えば、-30~120℃、好ましくは-10~80℃である。
ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルションに含まれる樹脂の酸価は、例えば、10~500mgKOH/g、好ましくは30~300mgKOH/gである。
ポリエステル系ポリウレタンエマルション以外のエマルションの含有量は、例えば、水性プライマー組成物中樹脂固形分換算で0~20質量%、好ましくは0.1~15.0質量%、より好ましくは0.5~10.0質量%である。
【0085】
(水溶性有機溶剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤が含まれていてもよい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール、多価アルコールのアルキルエーテル、ケトン、エーテル、エステル及び窒素含有化合物から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0086】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、チオジグリコール及びグリセリンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0087】
多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えば、前記アルコールのモノアルキルエステル、モノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0088】
エーテルとしては、例えば、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン及び1,4-ジオキサンの1種又は2種以上があげられる。
エステルとしては、例えば、プロピレンカルボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、酪酸エチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート及びε-カプロラクトンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
窒素含有化合物としては、例えば、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム及びオクチルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0089】
水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中0~20.0質量%、好ましくは0.1~15.0質量%、より好ましくは0.5~10.0質量%である。
なお、得られるプライマー層の乾燥性の点から、水溶性有機溶剤は、用いない方が好ましい。
【0090】
(接着性付与剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の接着性付与剤が含まれていてもよい。
接着性付与剤としては、例えば、シランカップリング剤の1種又は2種以上があげられる。
シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、メチルシリケート、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン及び3-ウレイドプロピルトリエトキシシランから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0091】
接着性付与剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中0~5.0質量%、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは0.5~1.0質量%である。
【0092】
(消泡剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の消泡剤が含まれていてもよい。
消泡剤としては、任意の市販の消泡剤を用いることができ、例えば、鉱物油系ノニオン系界面活性剤、ポリジメチルシロキサンオイル、エチレンオキシド又はプロピレンオキシド変性のジメチルシリコーン又はジメチルシリコーンエマルション等のシリコーン系消泡剤、鉱物油、アセチレンアルコール等のアルコール系消泡剤及びプルロニック系消泡剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0093】
消泡剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0094】
(保存性向上剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の保存性向上剤が含まれていてもよい。
保存性向上剤としては、例えば、ヒンダードアミン、紫外線吸収剤及び酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ヒンダードアミンとしては、例えば、N-CHタイプ、N-Hタイプ及びN-ORタイプから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤及びニッケル錯塩系紫外線吸収剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0095】
保存性向上剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0096】
(着色剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の着色剤が含まれていてもよい。
着色剤としては、染料及び顔料から選ばれる1種又は2種以上があげられ、水性プライマー組成物を所望の色調とすることができる。
【0097】
染料としては、例えば、食用青色1号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号及び食用緑色3号から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
これらの染料は、水性プライマー組成物に塗布視認性を付与することができ、またプライマー塗布後に太陽光等の紫外線で容易に退色し無色とすることができる。
【0098】
顔料としては、従来から水性インクジェット用インク組成物に使用されている公知の無機顔料及び有機顔料から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0099】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、トリポン、黒色酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、アンチモンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット及びマイカから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0100】
有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系及びイソインドリノン系から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
カラーインデックスで示すと、例えば、ピグメントブラック7、ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、17、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、57:1、97、122、146、149、168、177、178、179、202、206、207、209、242、254、255、282、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0101】
着色剤の含有量は、水性プライマー組成物を所望の色調とし得る量であればよく、例えば、水性プライマー組成物中0~10.0質量%、好ましくは0~5.0質量%、より好ましくは0~3.0質量%である。
【0102】
(レベリング剤、フィラー、増粘剤等の各種添加剤)
本発明の水性プライマー組成物には、レベリング剤、フィラー、増粘剤等の各種添加剤から選ばれる1種又は2種以上が含まれていてもよい。
レベリング剤としては、例えば、アクリル系やシリコーン系の市販のレベリング剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、硫酸バリウム等の体質顔料から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
増粘剤としては、例えば、無機系増粘剤(例えば、シリカ、クレー、ヘクトライト等)、多糖類又はその誘導体(例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム等)及び各種高分子から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
各種添加剤としては、インク、塗料、プライマーの分野で用いられている各種添加剤があげられる。
レベリング剤、フィラー、増粘剤等の各種添加剤の含有量は、例えば、水性プライマー組成物中0~10.0質量%、好ましくは0~5.0質量%、より好ましくは0~3.0質量%である。
【0103】
<水性プライマー組成物の製造方法>
水性プライマー組成物の製造方法は、特に限定されない。
例えば、
(i) 水に、水溶性多価金属塩及びポリエステル系ポリウレタンエマルション、必要に応じて任意成分を加え、ディスパー等で撹拌混合する、
(ii) 水溶性多価金属塩と水と必要に応じて任意成分とを含む水溶性多価金属塩水溶液と、ポリエステル系ポリウレタンエマルションと必要に応じて任意成分とを含む溶液とを、ディスパー等で撹拌混合する、
等の方法により製造することができる。
<水性プライマー組成物の塗布対象>
本発明の水性プライマー組成物は、金属、プラスチック、木材、紙、セラミック、ガラス等のプライマーとして広く用いられる。
このうち、金属、プラスチック、ガラス等の非吸収性の材料、特に、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに対して、好適に使用される。
【0104】
非吸収メディアとしては、例えば、ポリオレフィンフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、環状ポリオレフィンフィルム等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリ乳酸フィルム等)、ナイロンフィルムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0105】
[インクセット]
本発明の一実施形態のインクセットは、水性プライマー組成物と、インクジェット記録用インク組成物とを含むものである。
【0106】
<水性プライマー組成物>
インクセットを構成する水性プライマー組成物は、前記実施形態において詳述した水性プライマー組成物から構成されるものである。
本発明の水性プライマー組成物は、保存安定性に優れるものである。また、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに、この水性プライマー組成物によるプライマー層を設けることにより、インクジェット記録用インク組成物で印字した際の画像の密着性、滲み性、耐水性、ラミネート適性を向上させることができる
【0107】
<インクジェット記録用インク組成物>
インクジェット記録用インク組成物としては特に限定されず、公知のインクジェット記録用インク組成物を用いることができる。
インクジェット記録用インク組成物としては、安全性が高く、無臭であり、VOCを削減し得る点において、水性顔料型のインクジェット記録用インク組成物であることが好ましい。
インクジェット記録用インク組成物としては、例えば、樹脂エマルションと、顔料と、顔料分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含む水性顔料型のインクジェット記録用インク組成物があげられる。
吐出信頼性の観点から、好ましくは、樹脂エマルションと、顔料と、顔料分散剤と、塩基性化合物と、界面活性剤と、水溶性有機溶剤と、水を含むものがあげられる。
【0108】
(樹脂エマルション)
インクジェット記録用インク組成物に含まれる樹脂エマルションとしては、樹脂のガラス転移温度が20℃以下である樹脂エマルションが好ましい。
ガラス転移温度が20℃以下である樹脂のエマルションとしては、例えば、アクリル系樹脂エマルション、スチレン-アクリル系樹脂エマルション、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリウレタン系樹脂エマルション、ポリ酢酸ビニル系樹脂エマルション、ポリ塩化ビニル系樹脂エマルション、ポリブタジエン系樹脂エマルション及びポリオレフィン系樹脂エマルションから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0109】
樹脂エマルションを用いることにより、得られる印刷物の耐摩擦性が向上する。また、ガラス転移温度が20℃以下である樹脂のエマルションを用いることにより、得られる印刷物の塗膜の乾燥性やプラスチックフィルムからなる被記録媒体への密着性が良好となる。
【0110】
樹脂エマルションの含有量の下限は、例えば、インクジェット記録用インク組成物中、固形分換算で1.0質量%以上、好ましくは2.0質量%以上である。
また、樹脂エマルションの含有量の上限は、例えば、インクジェット記録用インク組成物中、固形分換算で10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下である。
樹脂エマルションの含有量が固形分換算で1.0質量%未満の場合、得られる印刷物は、外観の悪化及び各種耐性が低下するおそれがある。
樹脂エマルションの含有量が固形分換算で10.0質量%を超える場合、インクの吐出が不安定になるおそれがある。
【0111】
ここで、ガラス転移温度は、次のwoodの式により求められる理論上のガラス転移温度である。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg
(式中、Tg~Tgは、樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W~Wは、樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。)
【0112】
(顔料)
インクジェット記録用インク組成物に含まれる顔料としては、従来から水性インクジェット用インク組成物に使用されている公知の無機顔料及び有機顔料から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0113】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、トリポン、黒色酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、アンチモンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット及びマイカから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0114】
有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系及びイソインドリノン系から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
カラーインデックスで示すと、例えば、ピグメントブラック7、ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、17、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、57:1、97、122、146、149、168、177、178、179、202、206、207、209、242、254、255、282、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0115】
これらの顔料は、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料であってもよい。
アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料を用いると、保存安定性に優れたインクジェット用インク組成物とすることができる。
アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料の製造方法は特に限定されない。
例えば、塩基性化合物の存在下にアルカリ可溶性樹脂を溶解した水性溶液に顔料を分散させて得られた分散液を、酸析法、イオン交換手段又は転相乳化法等によって顔料表面にアルカリ可溶性樹脂を析出させ、得られた沈殿物をろ過、水洗い、さらに必要であれば乾燥する方法があげられる。
【0116】
アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料は、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料のアニオン性基の酸基の一部(例えば、50~90%)を中和するために必要な塩基性化合物をインク中に含有させて中和し、各種分散機を用いて水性媒体中に再分散させて使用することができる。
【0117】
アルカリ可溶性樹脂としては、通常のインクや塗料の顔料分散用として使用されている、塩基性化合物の存在下で水性媒体に可溶の共重合体樹脂が利用される。
例えば、カルボキシル基を有する単量体と、顔料との吸着性を向上させるための疎水性基(例えば、炭素数12~24の炭化水素基)を含有する単量体と、必要に応じて他の重合可能な単量体と、を共重合させて得られる共重合体があげられる。
【0118】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸及びシトラコン酸モノアルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0119】
疎水性基を含有する単量体としては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等)、ドデシルビニルエーテル、ビニル2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、ビニルステアレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0120】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルプロパノール、トリイソプロパノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ジイソプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0121】
アルカリ可溶性樹脂の酸価としては、例えば、40~300mgKOH/g、好ましくは70~250mgKOH/gである。
アルカリ可溶性樹脂の酸価が40mgKOH/g未満である場合、アルカリ可溶性樹脂で被覆された顔料の水性分散液の分散安定性が低下するおそれがある。
アルカリ可溶性樹脂の酸価が300mgKOH/gを超える場合、親水性が高くなり過ぎるため、貯蔵安定性、耐水性が低下するおそれがある。
【0122】
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は、例えば、3,000~200,000、好ましくは7,000~100,000である。
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が3,000未満である場合、顔料の分散安定性や得られる印刷物の耐擦過性が低下するおそれがある。
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が200,000を超える場合、粘度が高くなり、取扱性が低下するおそれがある。
【0123】
顔料の含有量は、白色インク以外のインクである場合、水性インクジェット用インク組成物全量に対して1.0~10.0質量%、好ましくは2.0~7.0質量%である。
顔料の使用量が1.0質量%より少ないと着色力が充分でない傾向があり、一方10.0質量%より多くなると粘度が上昇し、インクの流動性が低下する傾向がある。
白色インクである場合の顔料の含有量は、水性インクジェット用インク組成物全量に対して5.0~15.0質量%である。
白色インクは、他の色インクよりも表面張力が小さく、他の色のインクからなる画像層の上にベタ塗りするとき等に、均一な層を形成することができる。
【0124】
(顔料分散剤)
水性インクジェット用インク組成物に含まれる顔料分散剤としては、公知の水性インクジェット用インク組成物に用いられる顔料分散剤があげられる。
顔料分散剤は、顔料に親和する基と、溶剤等に親和する基の双方を有する化合物である。
【0125】
顔料分散剤としては、樹脂であることが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、マレイン酸系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂及びα-オレフィン-マレイン酸系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0126】
顔料分散体である樹脂としては、通常のインクや塗料の顔料分散用として使用されている、塩基性化合物の存在下で水性媒体に可溶の共重合体樹脂が利用される。
例えば、カルボキシル基を有する単量体と、顔料との吸着性を向上させるための疎水性基(例えば、炭素数12~24の炭化水素基)を含有する単量体と、必要に応じて他の重合可能な単量体と、を共重合させて得られる共重合体があげられる。
【0127】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸及びシトラコン酸モノアルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0128】
疎水性基を含有する単量体としては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等)、ドデシルビニルエーテル、ビニル2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、ビニルステアレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0129】
顔料分散体を安定化させるという観点から、アクリル系樹脂、アクリル酸-ラウリルアクリレート-スチレン共重合体等のスチレン-アクリル系樹脂を使用することが好ましい。
【0130】
顔料分散剤の酸価としては、例えば、40~300mgKOH/g、好ましくは70~250mgKOH/gである。
顔料分散剤の酸価が40mgKOH/g未満である場合、顔料の水性分散液の分散安定性が低下するおそれがある。
顔料分散剤の酸価が300mgKOH/gを超える場合、親水性が高くなり過ぎるため、貯蔵安定性、耐水性が低下するおそれがある。
【0131】
顔料分散剤の重量平均分子量は、例えば、3,000~200,000、好ましくは7,000~100,000である。
顔料分散剤の重量平均分子量が3,000未満である場合、顔料の分散安定性や得られる印刷物の耐擦過性が低下するおそれがある。
顔料分散剤の重量平均分子量が200,000を超える場合、粘度が高くなり、取扱性が低下するおそれがある。
【0132】
(塩基性化合物)
インクジェット記録用インク組成物に含まれる塩基性化合物としては、無機化合物であっても有機化合物であってもよい。
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルプロパノール、トリイソプロパノールアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ジイソプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0133】
塩基性化合物の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物全量に対して0.01~5.0質量%、好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0134】
(界面活性剤)
インクジェット記録用インク組成物に含まれる界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、従来から水性インクジェット用インク組成物に用いられている公知の界面活性剤があげられる。
【0135】
本発明のインクセットを構成するインクジェット記録用インク組成物においては、特に、ノニオン性界面活性剤、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上があげられ、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
アセチレンジオール系界面活性剤を用いることで、水性インクジェット用インク組成物の印刷(記録)画像のベタ埋まりを良好にすることができる。
【0136】
アセチレンジオール系界面活性剤の具体例としては、エアープロダクツ社製「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール104A」、「サーフィノール104BC」、「サーフィノール104DPM」、「サーフィノール104PA」、「サーフィノール104PG-50」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、日信化学工業社製「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」、「オルフィンPD-001」、「オルフィンPD-002W」、「オルフィンPD-004」、「オルフィンPD-005」、「オルフィンEXP.4001」、「オルフィンEXP.4200」、「オルフィンEXP.4123」及び「オルフィンEXP.4300」から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0137】
界面活性剤(アセチレンジオール系界面活性剤)の含有量は、水性インクジェット用インク組成物全量に対して0.01~5.0質量%、好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0138】
(水溶性有機溶剤)
本発明の水性プライマー組成物には、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤が含まれていてもよい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール、多価アルコールのアルキルエーテル、ケトン、エーテル、エステル及び窒素含有化合物から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0139】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、チオジグリコール及びグリセリンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0140】
多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えば、前記アルコールのモノアルキルエステル、モノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0141】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0142】
エーテルとしては、例えば、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン及び1,4-ジオキサンの1種又は2種以上があげられる。
エステルとしては、例えば、プロピレンカルボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、酪酸エチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート及びε-カプロラクトンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
窒素含有化合物としては、例えば、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム及びオクチルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0143】
水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中10.0~60.0質量%、好ましくは20.0~50.0質量%である。
【0144】
(水)
インクジェット記録用インク組成物に含まれる水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水又は蒸留水があげられる。
水の含有量は特に限定されない。インクジェット記録用インク組成物の全体100質量%から、樹脂エマルションの樹脂固形分含有量(質量%)、顔料の固形分含有量(質量%)、顔料分散剤の固形分含有量(質量%)、界面活性剤の含有量(質量%)、水溶性有機溶剤の含有量(質量%)及び任意成分の固形分含有量(質量%)を除した残部となる量であってよい。
【0145】
(任意成分)
水性インクジェット用インク組成物には、効果を損なわない範囲において、必要に応じて、他の樹脂、防黴剤、防錆剤、増粘剤、保存性向上剤、消泡剤、pH調整剤及びポリエチレンワックス、レベリング剤、可塑剤、表面調整剤等の種々の添加剤から選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。
また、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジン基を少なくとも2個有するヒドラジン誘導体を添加することもできる。その場合には、コロナ放電処理、プラズマ処理等により、表面に水酸基等の極性基が形成されたフィルム表面に対して、その極性基とヒドラジド基の反応に基づいて、水性インクジェット用インク組成物からなる被膜の密着性を向上させることができる。
【0146】
-他の樹脂-
水性インクジェット用インク組成物は、他の樹脂としては、前記樹脂エマルション及び顔料分散剤以外の樹脂をエマルション又は水溶液の形態で含んでいてもよい。
このような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、セルロース系樹脂及びマレイン酸系樹脂から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
他の樹脂の含有量は、例えば、インクジェット記録用インク組成物中、固形分換算で0.5~5.0質量%、好ましくは1.0~4.0質量%である。
他の樹脂の含有量が0.5質量%未満では基材との定着性が充分でなく、滲みが発生するおそれがあり、5.0質量%を超えると固形分が増えすぎるため、吐出安定性が低下するおそれがある。
【0147】
-防黴剤-
水性インクジェット用インク組成物には、1種又は2種以上の防黴剤が含まれていてもよい。
防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、N-ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等があげられる。
【0148】
防黴剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0149】
-防錆剤-
水性インクジェット用インク組成物には、1種又は2種以上の防錆剤が含まれていてもよい。
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール等が例示される。
【0150】
防錆剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0151】
-増粘剤-
水性インクジェット用インク組成物には、1種又は2種以上の増粘剤が含まれていてもよい。
増粘剤としては、例えば、無機系増粘剤(例えば、シリカ、クレー、ヘクトライト等)、多糖類又はその誘導体(例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム等)及び各種高分子から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0152】
増粘剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0153】
-保存性向上剤-
水性インクジェット用インク組成物には、1種又は2種以上の保存性向上剤が含まれていてもよい。
保存性向上剤としては、例えば、ヒンダードアミン(光安定剤)、紫外線吸収剤及び酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
ヒンダードアミンとしては、例えば、N-CHタイプ、N-Hタイプ及びN-ORタイプから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0154】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、p-アミノ安息香酸エステル系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤及びニッケル錯塩系紫外線吸収剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0155】
保存性向上剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0156】
-消泡剤-
水性インクジェット用インク組成物には、1種又は2種以上の消泡剤が含まれていてもよい。
消泡剤としては、任意の市販の消泡剤を用いることができ、例えば、鉱物油系ノニオン系界面活性剤、ポリジメチルシロキサンオイル、エチレンオキシド又はプロピレンオキシド変性のジメチルシリコーン又はジメチルシリコーンエマルション等のシリコーン系消泡剤、鉱物油、アセチレンアルコール等のアルコール系消泡剤及びプルロニック系消泡剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0157】
消泡剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~1.0質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0158】
-pH調整剤-
pH調整剤としては、任意のpH調整機能を持つものを用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸二水素カリウム及びリン酸水素二ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
pH調整剤の含有量は、水性インクジェット用インク組成物を所望のpHに調整する量である。
【0159】
-ポリエチレンワックス-
水性インクジェット用インク組成物には、ポリエチレンワックスが含まれていてもよい。
ポリエチレンワックスは、印刷物の耐ブロッキング性を向上させる効果を有する。
ポリエチレンワックスとしては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製「AQUACER507」、「AQUACER515」、「AQUACER531」、東邦化学社製「ハイテックE-6314」(固形分35%、ノニオン乳化ポリエチレンワックス、平均粒子径100nm)及び「ハイテックE-1000」(固形分35%、ノニオン乳化ポリエチレンワックス、平均粒子径140nm)から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0160】
ポリエチレンワックスの含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~10.0質量%、好ましくは0~5.0質量%である。
【0161】
-レベリング剤、可塑剤、表面調整剤等の種々の添加剤-
水性インクジェット用インク組成物には、公知の水性インクジェット用インク組成物に用いられるレベリング剤、可塑剤、表面調整剤等の種々の添加剤から選ばれる1種又は2種以上が含まれていてもよい。
レベリング剤としては、例えば、アクリル系やシリコーン系の市販のレベリング剤から選ばれる1種又は2種以上があげられる。
可塑剤、表面調整剤等の種々の添加剤としては、インク、塗料、プライマーの分野で用いられている各種添加剤があげられる。
【0162】
レベリング剤、可塑剤、表面調整剤等の種々の添加剤の含有量は、例えば、水性インクジェット用インク組成物中0~10.0質量%、好ましくは0~5.0質量%、より好ましくは0~3.0質量%である。
【0163】
(水性インクジェット用インク組成物の製造)
水性インクジェット用インク組成物の製造方法は特に限定されない。
例えば、(i)顔料分散体と塩基性化合物を含む水性ワニスに顔料と水を加えて練肉して顔料インクベースを調製し、次いで、顔料インクベースと、水溶性有機溶剤と、樹脂エマルションと、界面活性剤と、水とを混合した後、湿式サーキュレーションミル、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、DCPミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、ジーナスPY、DeBEE2000等)、パールミル、ディスパー等の分散機を使用して分散混合して得ることができる。
【0164】
得られたインク組成物は、例えば、初期粘度が2.0~10.0mPa・sとなるように調整される。
インク組成物の静的表面張力は、例えば、25~35mN/mに調整される。
【0165】
インクセットとして、各色の水性インクジェット用インク組成物を備えることができる。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ホワイトの他に、グリーン、パープル等や、それらの淡色も必要に応じて備えてもよい。
【0166】
[印刷物]
本発明の一実施形態の印刷物は、基材層、水溶性多価金属塩とポリエステル系ポリウレタンとを含む層、及び、印刷層、を含む印刷物である。
本発明の印刷物は、印刷層の上に、必要に応じて設けられる接着剤層と、ラミネート層とを有していてもよい。
【0167】
<基材層>
基材層としては、印刷物を作製するために用いられるものであれば、制限なく使用することができ、例えば、金属、プラスチック、木材、紙、セラミック・ガラスから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
このうち、金属、プラスチック、ガラス等の非吸収性の材料、特に、プラスチックフィルム等の非吸収メディアに対して、好適に使用される。
非吸収メディアとしては、例えば、ポリオレフィンフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、環状ポリオレフィンフィルム等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリ乳酸フィルム等)、ナイロンフィルムから選ばれる1種又は2種以上があげられる。
【0168】
<水溶性多価金属塩とポリエステル系ポリウレタンとを含むプライマー層>
水溶性多価金属塩とポリエステル系ポリウレタンとを含むプライマー層は、本発明の一実施態様である前記水性プライマー組成物を、前記基材層に塗工又はインクジェット印字することにより形成された層である。
【0169】
塗工方法は特に限定されない。塗工は、従来周知の各種塗工装置を用いて実施し得る。一例をあげると、塗工は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター及びダイコーター等の各種塗工装置を用いることにより実施し得る。
【0170】
プライマー層の乾燥膜厚は、例えば、0.01~1.0μmであり、好ましくは0.05~0.8μmである。
プライマー層の乾燥膜厚が0.01μm未満であると、フィルム上に均一に欠点のないプライマー層(プライマー塗膜)を形成するのが困難となり、ラミネート適性が悪化するおそれがある。
プライマー層の乾燥膜厚が1.0μmを超えると、プライマー層の乾燥に時間がかかり作業性が低下するおそれがあり、また、接着性の向上が軽微なため、経済的に非効率となるおそれがある。
【0171】
インクジェット印字の方法は特に限定されない。一例をあげると、水性プライマー組成物は、インクカートリッジに収容され、シングルパス方式等のインクジェット記録装置に装着されたうえで、ノズルから被記録媒体に噴射され得る。この際、噴射された水性プライマー組成物は、適宜乾燥され、プライマー層が形成される。
【0172】
<印刷層>
印刷層は、水性インクジェット用インク等により、前記基材層上の前記プライマー層上に形成された、画像や文字を形成するための層である。
【0173】
印刷層は、例えば、以下の手順により設けられたものである。
袋状の包装容器等を構成する樹脂フィルムの片面の全面又は一部に設けられたプライマー層上に対して、白色以外のカラー水性インクジェット用インク組成物を用いて任意の装置によりインクジェット印刷を行う。多色刷りの印刷を行う場合には、各色を任意の順にインクジェット印刷を行う。
その後、白色の水性インクジェット用インク組成物を用いて、全面又はカラー水性インクジェット用インク組成物による印刷層上に印刷を行い、乾燥させる。このとき、白色水性インクジェット用印刷インク組成物は、他の色のインク組成物よりも小さい表面張力を有すると、該白色のインク組成物によるベタ印刷性に優れることになり好ましい。また、各色インク印刷の間、あるいはカラーインクの印刷と白色インク印刷の間に乾燥工程を挟む場合もある。
【0174】
<ラミネート層>
続いて、必要に応じて接着剤層を介在させて、該包装容器の内面側になる樹脂フィルムを白色の水性インクジェット用インクの層の上にラミネートする。
得られた積層フィルムを任意の手段によって袋等に加工する。
【実施例
【0175】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は質量部を意味する。
【0176】
[実施例1]
酢酸カルシウムを0.1質量部、ポリエステル系ポリウレタンエマルション1を樹脂固形分として2質量部、界面活性剤としてアセチレンジオール系界面活性剤を0.5質量部及び水を全体が100.0質量部となる量、それぞれ混合して水性プライマー組成物を作製した。
【0177】
[実施例2~11]
各種材料を表1に示す配合としたほかは、実施例1と同様にして水性プライマー組成物を作製した。
【0178】
[比較例1~8]
各種材料を表1に示す配合としたほかは、実施例1と同様にして水性プライマー組成物を作製した。
【0179】
<エマルション>
・ポリエステル系ポリウレタンエマルション1:Impranil DLS(住化コベストロウレタン社製商品名)
・ポリエステル系ポリウレタンエマルション2:Baybond PU407(住化コベストロウレタン社製商品名)
・ポリエステル系ポリウレタンエマルション3:NeoRez R9330(DSM社製商品名)
【0180】
・ポリエーテル系ポリウレタンエマルション:NeoRez R650(DSM社製商品名)
・ポリカーボネート系ポリウレタンエマルション:NeoRez R986(DSM社製商品名)
・塩素化ポリオレフィン系樹脂エマルション:スーパークロンE-604(日本製紙社製商品名)
・ポリ酢酸ビニル樹脂系エマルション:ビニブラン1129(日信化学工業社製商品名)
・アクリル系樹脂エマルション:ビニブラン2687(日信化学工業社製商品名)
【0181】
<界面活性剤>
・アセチレンジオール系界面活性剤:オルフィンE1010(有効成分100%、HLB13、日信化学工業社製商品名)
【0182】
[インクジェット記録用インク組成物の調製]
<水性樹脂ワニス>
アクリル酸/ラウリルアクリレート/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体(ガラス転移温度40℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/g)25質量部を、水酸化カリウム3.9質量部と水71.1質量部との混合液に溶解させて、固形分25質量%の水性樹脂ワニスを得た。
【0183】
<水性ブラックインクベース>
前記水性樹脂ワニス32.0質量部に、水48.0質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを得た。
このワニスに、カーボンブラック(プリンテックス90(オリオン・エンジニアドカーボンズ社製商品名))20.0質量部を加え、撹拌混合後、ミルで練肉し、水性ブラックインクベースを得た。
【0184】
<インクジェット用インク組成物>
前記水性ブラックインクベース、プロピレングリコール、スチレン-アクリル系エマルション(Neocryl A-1092(DSM Neoresins社製商品名)、ガラス転移温度6℃、固形分48.5質量%)、界面活性剤(オルフィンE1010)、及び、水を撹拌混合して、水性顔料型のインクジェット用インク組成物を得た。
【0185】
[水性プライマー組成物の物性・性能評価]
<保存安定性>
実施例1~11、比較例1~8の水性プライマー組成物をガラス瓶に充填し、60℃で7日間静置した後、水性プライマー組成物の状態、分離・析出物の有無を観察して、以下の評価基準により保存安定性を評価した。結果を表1に併せて示す。
〇:液相の分離・析出物がなく、均一である
△:液相の分離・析出物がわずかに認められる
×:液相の分離・析出物が認められ、不均一である
【0186】
<滲み>
(基材)
以下のフィルムを用いた。
・片面にコロナ放電処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(パイレンフィルムP2161(東洋紡社製商品名)、厚さ25μm、以後OPPフィルムと記載)
・片面にコロナ放電処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(エステルフィルムE5100(東洋紡社製商品名)、厚さ12μm、以後PETフィルムと記載)
・ナイロンフィルム(ハーデンフィルムN1100(東洋紡社製商品名)、厚さ15μm)
【0187】
(プライマー層の形成)
OPPフィルムのコロナ放電処理面、PETフィルムのコロナ放電処理面又はナイロンフィルムに、実施例1~11、比較例1~8の水性プライマー組成物を、#4のバーコーターを用いてそれぞれ塗布し、加熱乾燥して乾燥膜厚0.5μmのプライマー層を形成して、プライマーベタ印刷物を作製した。
【0188】
(印刷物の作成)
前記プライマー層の上に、エプソン社製プリンターPX105を用いて前記インクジェット記録用インク組成物を吐出してベタ印刷し、加熱乾燥することにより、印刷物を得た。
【0189】
(滲みの評価)
前記印刷物の印刷面に、約0.3mmの細線を印刷した後、滲みによる太りを観察して、以下の評価基準により滲みを評価した。結果を表1に併せて示す。
○:滲みがなく、そのままの太さで印刷できている
△:部分的に太りがみられるが、2倍以上の太りは観察されない
×:全体的に2倍以上の太りが観察される
【0190】
(ラミネート適性)
前記印刷物の印刷面に、2液型ポリウレタン系接着剤(タケネートA-385/タケラックA-50 酢酸エチル溶液(いずれも、三井化学社製商品名))を塗布し、ドライラミネート機にて二軸延伸ポリプロピレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。
得られたラミネート加工物を、40℃で3日経時後、15mm幅の短冊状に切断し、安田精機製作所製剥離試験機を用いてT型剥離強度を測定して、以下の評価基準によりラミネート適性を評価した。結果を表1に併せて示す。
○:剥離強度が、100g/15mm幅以上
△:剥離強度が、50g/15mm幅以上、100g/15mm幅未満
×:剥離強度が、50g/15mm幅未満
【0191】
【表1】
【0192】
表1中、水溶性多価金属塩の配合量は、固形分としての配合量(質量部)である。
表1中、エマルションの配合量は、樹脂固形分としての配合量(質量部)である。
表1中、界面活性剤の配合量は、質量部である(有効成分100%)。
表1中、水の配合量は、質量部である。
【0193】
表1に示されるように、水溶性多価金属塩、ポリエステル系ポリウレタンエマルション、及び、水、を含む水性プライマー組成物は、いずれも保存安定性が良好であり、また、OPPフィルム、PETフィルム及びナイロンフィルムのいずれに対しても密着性が高く高耐性を付与することができることがわかる。
さらに、インク滴の定着が促進されることで、OPPフィルム、PETフィルム及びナイロンフィルムのいずれに対しても、滲みやムラが抑えられた高い画質を形成することができることがわかる。
さらに、OPPフィルム、PETフィルム及びナイロンフィルムのいずれに対しても、十分なラミネート強度を有しラミネート適性に優れた印刷物を得ることができることがわかる。
【0194】
一方、水溶性多価金属塩又はポリエステル系ポリウレタンエマルションを含まない水性プライマー組成物は、保存安定性に問題が生じたり、OPPフィルム、PETフィルム及びナイロンフィルムのいずれかにおいて、滲みが発生したり、ラミネート適性に問題が生じたりすることがわかる。