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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】食肉様乳化組成物および食肉様加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20230523BHJP
   A23J 3/04 20060101ALI20230523BHJP
   A23J 3/10 20060101ALI20230523BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20230523BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A23J3/00 502
A23J3/00 506
A23J3/04
A23J3/10
A23L13/00 Z
A23D7/005
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018240456
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2019115339
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2017249504
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】川上 敬司
【審査官】正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-012960(JP,A)
【文献】特開平10-056976(JP,A)
【文献】特開昭54-119054(JP,A)
【文献】特開昭55-054860(JP,A)
【文献】特開昭48-080762(JP,A)
【文献】特開昭48-023967(JP,A)
【文献】特開平07-227231(JP,A)
【文献】特開昭50-107164(JP,A)
【文献】特開2015-144593(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067533(WO,A1)
【文献】特表2017-512468(JP,A)
【文献】特開2003-180256(JP,A)
【文献】特開昭56-015644(JP,A)
【文献】特開昭58-028235(JP,A)
【文献】特開昭53-050358(JP,A)
【文献】特開平09-107886(JP,A)
【文献】特開昭57-029252(JP,A)
【文献】特表2005-514937(JP,A)
【文献】特開昭57-099159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性乳タンパク、可食性油脂および卵白タンパクを含有する肉様乳化組成物であって、
水溶性乳タンパクが水溶性カゼインタンパクを含有し、全タンパク成分に対する水溶性カゼインタンパクの重量比がタンパク質ベースで0.16~0.66であり、
食肉様乳化組成物中の可食性油脂の含有量が2重量%~40重量%であり、
全タンパク成分に対する卵白タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.09~0.8である、
ゲル状の食肉様乳化組成物
【請求項2】
水溶性カゼインタンパクが、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウムおよびカゼインマグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項に記載のゲル状の食肉様乳化組成物。
【請求項3】
食肉様乳化組成物中の水溶性カゼインタンパクの含有量がタンパク質ベースで1.0重量%~10重量%である、請求項1または2に記載のゲル状の食肉様乳化組成物。
【請求項4】
さらにデンプンまたは増粘多糖類を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状の食肉様乳化組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状の食肉様乳化組成物を加熱処理して製造される食肉様加工食品であって、破断強度が320g~1200gである、食肉様加工食品
【請求項6】
食肉様加工食品がハムまたはソーセージ様加工食品である、請求項5に記載の食肉様加工食品。
【請求項7】
A.全タンパク成分、可食性油脂、および水を主成分とする原料を加温処理することなく混合して乳化し、ゲル状の食肉様乳化組成物を調製する工程、
B.ゲル状の食肉様乳化組成物をケーシングに充填する工程、および
C.ケーシングに充填したゲル状の食肉様乳化組成物を加熱処理し、食肉様加工食品を得る工程、を含む、請求項5または6に記載の食肉様加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性乳タンパク、および可食性油脂を主原料とした食肉様乳化組成物、また食肉の様な食感を有し、かつ風味が良好な食肉様加工食品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内において、メタボリックシンドロームや成人病等の予防のため、健康な食生活に対する意識が高まっており、低脂肪、低カロリー食品が好まれて使用されている。これは、近年の政府による食育の取組みなどの影響のほか(非特許文献1)、インターネットやテレビなどを通じて食品についての消費者の知識がますます豊富になってきていることも理由として挙げられる。以上のような背景から、動物脂肪、コレステロールやカロリーの摂取を減らすべく、食肉、またはソーセージ、およびハムといった加工肉の摂取を控え、肉製品の食感を有する、いわゆる肉様食品を摂取する消費者が増えている。
食肉様加工食品とは、肉の代替品として、卵白、こんにゃく、または大豆タンパクなどを混合して、肉の食感を出来るだけ損なわずに加工されたものである。従来、欧米においては菜食主義者(ベジタリアン)向けの食品であった食肉様加工食品は、近年、日本国内においても健康意識の高い消費者から関心が寄せられている。
【0003】
食肉様加工食品は従来、大豆タンパクや小麦タンパクなどに代表される、植物性タンパクや卵白タンパクをタンパク源として製造されたものが多く知られているが、これらのタンパク由来の臭気による風味や食感の悪さが問題であった。これらのタンパクは、ハンバーグや肉団子など、肉や野菜をまとめるいわゆるつなぎとして多く用いられているが、天然の肉を一切使用しない場合には、植物性タンパクや卵白タンパク特有の臭気や食感がより直接的に残ることから、風味や食感の観点から消費者が美味しいと感じられる加工食品を得ることはより難しい。
【0004】
天然の肉を使用せず、風味に優れた食肉様の組成物の例として、特許文献1にはカゼインと酸性多糖類と多価金属化合物を含有する、アルカリ性の耐熱性の乳タンパク組成物の製造方法が開示されている。該特許文献には、タンパク源として使用するカゼインを、アルカリ性条件下で溶解し、アルギン酸ナトリウムやカラギーナン等の酸性多糖類を混合した後、得られた混合物を塩化カルシウムや塩化マグネシウム等の多価金属化合物の水溶液に浸すことで所望の乳タンパク固形物が得られると述べられている。また、得られた乳タンパク固形物は肉のようなテクスチャーを有すると述べられているが、耐熱性や保形性を担保するために酸性多糖類と多価金属化合物の添加が必須である。さらに本発明で使用する可食性油脂を使用しない点で本発明と異なる。
【0005】
特許文献2には大豆タンパクおよび/もしくは乳タンパク、増粘剤、凝固剤または沈殿剤、油脂を含有するタンパク組成物の製造方法が開示されている。該特許文献の実施例にはタンパク源として使用するタンパクと水を加熱して乳化した後、増粘剤であるアルギン酸ナトリウム、凝固剤である塩化カルシウム水溶液を加えて静置した後、所望の乳タンパク固形物を水相から分離することで得られると述べられている。該特許文献で得られた食品中間体は繊維構造を有すると述べられているが、本発明の乳化組成物および加工食品は非繊維状で、ゲル状であるという点で異なる。また特許文献2は、酸性多糖類と多価金属化合物の添加を好適としている点で本発明と異なる。
【0006】
特許文献3にはカゼイン塩、カルシウム塩および/またはリン酸カルシウム塩、ならびに水の混合物を乳化させ、クエン酸などの有機酸で酸性(pH5.6~6.2)とし、加熱後冷却することでかまぼこ様の乳タンパク組成物を製造する方法が開示されている。該特許文献で得られた乳タンパク固形物は繊維状の食感を有すると述べられているが、本発明の乳化組成物および加工食品は非繊維状で、ゲル状であるという点で異なる。また特許文献3に記載の乳タンパク組成物は、所望の形状を担保するために酸性多糖類と多価金属化合物の添加が必須であるのに対し、これらの成分を必要としない点においても本発明と異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-63249号公報
【文献】欧州特許番号第1790233号公報
【文献】米国特許番号第5368871号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】農林水産省発表「わが国の食生活の現状と食育の推進について(平成29年10月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、非繊維状の滑らかで弾力に富んだ、天然肉に近い食感で、かつ風味に優れた非繊維状の食肉様加工食品を提供すること、およびそのために必要な食肉様乳化組成物を提供することにある。また、適切な食肉様乳化組成物を用いて、食肉様加工食品の製造方法を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性乳タンパクを主なタンパク源とし、かつ可食性油脂を一定量配合した食肉様乳化組成物を調製し、加熱処理等の工程を経ることで、非繊維状の滑らかで弾力に富んだ、天然肉に近い食感で、かつタンパク臭が少なく風味に優れた食肉様加工食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
(I)
水溶性乳タンパクおよび可食性油脂を含有する、食肉様乳化組成物。
(II)
水溶性乳タンパクとして、水溶性カゼインタンパクおよびホエイタンパクからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、前記(I)に記載の食肉様乳化組成物。
(III)
水溶性カゼインタンパクが、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウムおよびカゼインマグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、(II)に記載の食肉様乳化組成物。
(IV)
全タンパク成分に対する水溶性乳タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.18~1.0である、(I)~(III)のいずれかに記載の食肉様乳化組成物。
(V)
食肉様乳化組成物中の水溶性乳タンパクの含有量がタンパク質ベースで1.1重量%~16重量%である、(I)~(IV)のいずれかに記載の食肉様乳化組成物。
(VI)
全タンパク成分に対する水溶性カゼインタンパクの重量比がタンパク質ベースで0.16~0.66である、(II)~(V)のいずれかに記載の食肉様乳化組成物。
(VII)
食肉様乳化組成物中の水溶性カゼインタンパクの含有量がタンパク質ベースで1.0重量%~10重量%である、(II)~(VI)のいずれかに記載の食肉様乳化組成物。
(VIII)
食肉様乳化組成物中の可食性油脂の含有量が2重量%~40重量%である、(I)~(VII)のいずれか一項に記載の食肉様乳化組成物。
(IX)
さらに卵白タンパクを含有する、(I)~(VIII)のいずれか一項に記載の食肉様乳化組成物。
(X)
全タンパク成分に対する卵白タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.8以下(ただし0ではない)であり、全タンパク成分に対する水溶性乳タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.18~1.0未満である、(IX)に記載の食肉様乳化組成物。
(XI)
さらにデンプンまたは増粘多糖類を含有する、(I)~(X)のいずれか一項に記載の食肉様乳化組成物。
(XII)
食肉様乳化組成物中の可食性油脂の含有量が2重量%~25重量%である、(I)~(XI)のいずれか一項に記載の食肉様乳化組成物。
(XIII)
タンパク成分として、さらに大豆タンパクを含有する、下記1)または2)のいずれか一項の場合である、(I)~(XII)のいずれか一項に記載の食肉様乳化組成物:
1) 全タンパク成分に対する大豆タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.1以下(ただし、0ではない。)であり、全タンパク成分に対する水溶性乳タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.9以下(ただし0ではない)であり、食肉様乳化組成物中の可食性油脂の含有量が30重量%以下である。
2) タンパク成分として、さらに卵白タンパクを含有し、全タンパク成分に対する大豆タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.5以下(ただし、0ではない。)であり、全タンパク成分に対する卵白タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.8以下(ただし、0ではない。)であり、全タンパク成分に対する水溶性乳タンパクの重量比がタンパク質ベースで0.18~1.0未満であり、食肉様乳化組成物中の可食性油脂の含有量が2重量%~30重量%の範囲内である。
(XIV)
(I)~(XIII)のいずれかに記載の食肉様乳化組成物を加熱処理して製造される、食肉様加工食品。
(XV)
破断強度が320g~1200gである、(XIV)に記載の食肉様加工食品。
(XVI)
食肉様加工食品がハムまたはソーセージ様加工食品である、(XIV)または(XV)に記載の食肉様加工食品。
(XVII)
A.全タンパク成分、可食性油脂および水を加温処理することなく混合して乳化し、食肉様乳化組成物を調製する工程、
B.食肉様乳化組成物をケーシングに充填する工程、および
C.ケーシングに充填したものを加熱処理し、食肉様加工食品を得る工程、
を含む、(XIV)~(XVI)のいずれかに記載の食肉様加工食品の製造方法。
(XVIII)
(XVII)の製造方法にて得られる、食肉様加工食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の食肉様乳化組成物を調製することで、タンパク由来の臭気による風味が改善された、肉含有食品と同様の食感と風味を有する食肉様加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の食肉様乳化組成物および食肉様加工食品について説明する。
本発明の食肉様乳化組成物は、水溶性乳タンパクを含有する成分、および可食性油脂を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に用いる水溶性乳タンパクは、水溶性カゼインタンパクおよびホエイタンパクのいずれか一方、またはその両方を含有することを意味する。すなわち、本発明における水溶性乳タンパクは、水溶性カゼインタンパクおよびホエイタンパクからなる群から選択される少なくとも一種を含有する。水溶性乳タンパクとして、水溶性カゼインタンパクとホエイタンパクの両方を含有する素材や原料を使用することもできる。市販品として、水溶性乳タンパク質を85重量%含有し、水溶性乳タンパクとしてミセル性カゼインおよびホエイタンパクを含有する「Refit MCI 88(FrieslandCampina DOMO社製)」を挙げることができる。
【0015】
本発明の食肉様乳化組成物の水溶性乳タンパクの含有量としては、例えば、全タンパク質に対する水溶性乳タンパク質の重量比がタンパク質ベースで0.18~1.0が好ましく、0.37~0.91がより好ましい。また、食肉様乳化組成物に対する水溶性乳タンパクの含有量は、例えば、タンパク質ベースで1.1重量%~16重量%が好ましく、2.4重量%~8重量%がより好ましい。
【0016】
水溶性カゼインタンパクとは、牛乳中のカゼインタンパクを分離、分画、濃縮等の処理を行った後、乾燥することにより得られる水溶性の素材であり、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウムなどを挙げることができる。なかでも、カゼインカルシウムもしくはカゼインカリウムが好ましく、カゼインカルシウムが最も好ましい。市販品では、例えば、88.5重量%の水溶性カゼインタンパク質を含有する「カゼインカルシウムDI-8905(Arla Foods製)」や、89.5重量%の水溶性カゼインタンパク質を含有する「カゼインカリウムSpray(FrieslandCampina DMV製)」を挙げることができる。
【0017】
本発明の食肉様乳化組成物の水溶性カゼインの含有量としては、例えば、全タンパク質に対する水溶性カゼインタンパク質の重量比がタンパク質ベースで0.16~0.66が好ましく、0.25~0.60がより好ましい。また、食肉様乳化組成物に対する水溶性カゼインタンパクの含有量は、例えば、タンパク質ベースで1重量%~10重量%が好ましく、1重量%~8重量%がより好ましい。
【0018】
ホエイタンパクとは、牛乳中のホエイタンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる水溶性の素材であり、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどを含有している。具体的には、例えば、ホエイタンパク濃縮物(Whey Protein Concentrate 以下、WPCともいう)や、ホエイタンパク分離物(Whey Protein Isolate、WPIともいう)なども用いることができる。市販品では、例えば、93.1重量%のホエイタンパク質を含有する「乳タンパクGL(日本新薬(株)製)」、91.3重量%のホエイタンパク質を含有する「エンラクトYYY(日本新薬(株)製)」、または78.4重量%のホエイタンパク質を含有する「PROGEL800(FrieslandCampina DMV製)」を挙げることができる。
【0019】
本発明の食肉様乳化組成物のホエイタンパクの含有量としては、食肉様乳化組成物に対してタンパク質ベースで6重量%以下が好ましく、1重量%~4重量%がより好ましい。
【0020】
本発明に用いる卵白タンパクは、鶏卵から卵白タンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる。市販品では、例えば、81.4重量%の卵白タンパク質を含有する「カンソウランパクH(日本新薬(株)製)」を挙げることができる。
【0021】
本発明に用いる大豆タンパクは、大豆から大豆タンパク質を濃縮、分離、分画等の処理を行って得られる。市販品では、例えば、88.8重量%の大豆タンパク質を含有する「ウィルプロN10(Wilmar製)」を挙げることができる。
【0022】
本発明に用いる可食性油脂としては、一般に食用として利用されている油脂であれば特に限定されず、各種の油脂を用いることができる。例えば、大豆油、大豆胚芽油、サフラワー油、トウモロコシ油、ナタネ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、ヒマワリ油、米油、液状魚油、液状鯨油、パームオレイン油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、パーム硬化油、パーム核硬化油、ヤシ硬化油、大豆硬化油、ナタネ硬化油、魚油、鯨油、魚硬化油、鯨硬化油、ラード(豚脂)、および牛脂を挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。例えば、2種以上の可食性油脂を混合したサラダ油等を用いることもできる。
【0023】
本発明の食肉様乳化組成物の可食性油脂の添加量が少ないと、物性が柔らかくなり、風味も悪くなる。特に、可食性油脂を一切加えない場合には、白色の凝集物が生成するため不適である。一方、添加量が多すぎても食感が悪くなるため適当ではない。
【0024】
本発明の食肉様乳化組成物の可食性油脂の含有量としては、例えば、食肉様乳化組成物に対して2重量%~40重量%が好ましく、2重量%~30重量%がさらに好ましく、10重量%~25重量%がより好ましく、15重量%~25重量%が最も好ましい。
本発明の食肉様乳化組成物に卵白タンパクを含有する場合は、風味や食感を向上させる観点から、2重量%~25重量%が好ましい。
【0025】
本発明において、食肉様乳化組成物の生成の妨げにならない限り、デンプンや増粘多糖類を使用してもよい。本発明の食肉様乳化組成物の風味や食感を向上させる観点から、デンプンおよび増粘多糖類を一定量含有することが好ましい。
【0026】
デンプンとしては、一般に食用として利用されているデンプンであれば特に限定されず、各種のデンプンを用いることができる。例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、小麦デンプン、米デンプン、サゴデンプン、またはこれらの加工デンプンが挙げられる。加工デンプンとしては、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アルファ化デンプン、酸処理デンプン、酸化デンプン、架橋デンプン、油脂加工デンプンなどが挙げられる。また、上記の加工デンプンは、同種または異種の処理を2種以上組み合わせて行ったものであってもよい。また、化学的処理に加えて、湿熱処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理等の物理的処理を行ったものでもよい。市販品では、例えば、タピオカデンプンである「ミルフィクスD」(王子コーンスターチ社)を挙げることができる。
【0027】
本発明の食肉様乳化組成物にデンプンを使用する場合、デンプンの含有量としては、食肉様乳化組成物に対して、例えば、15重量%以下が好ましく、5重量%~10重量%がより好ましい。
【0028】
増粘多糖類としては、一般に食用として利用されている増粘多糖類であれば特に限定されず、各種の増粘多糖類を用いることができる。例えば、ウェランガム、キサンタンガム、ペクチン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガムを挙げることができ、これらを2種以上混合して用いることもできる。特に、常温の水に溶解するウェランガム、キサンタンガムが好ましい。市販品では、例えば、ウェランガムである「ビストップW」(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を挙げることができる。
【0029】
本発明の食肉様乳化組成物の増粘多糖類を使用する場合、増粘多糖類の含有量としては、使用する増粘多糖類の種類にもよるが、食肉様乳化組成物に対して0.8重量%以下が好ましく、0.2重量%~0.5重量%がより好ましい。
【0030】
水分は、本発明の食肉様乳化組成物に含まれる。使用する原料の組成にもよるが、通常、食肉様乳化組成物は0~90重量%程度の水分を含有する。例えば、本発明の食肉様乳化組成物中、10~80重量%が好ましく、35~74重量%がより好ましく、49~66重量%がさらに好ましい。他の配合原料にもよるが、一般的に水分が少ないと食肉様乳化組成物が硬くなるため適当でなく、多すぎると柔らなくなり適当でない。
また、本発明の食肉様乳化組成物が加熱処理や凍結乾燥等の工程を経た後の、本発明食肉様加工食品の水分については、前記の水分量に比べて一般的に低下する。温度や時間等により変化するため、一定にすることは困難である。
【0031】
本発明の食肉様乳化組成物は、水溶性乳タンパク、および可食性油脂を主成分として製造することができるが、タンパク成分として、水溶性乳タンパク以外に、必要に応じて卵白タンパクや大豆タンパクを混合してもよい。
【0032】
本発明の食肉様乳化組成物のタンパク成分として水溶性乳タンパク以外に卵白タンパクを使用する場合、上記の卵白タンパクを使用することが出来る。本発明の食肉様乳化組成物の卵白タンパクの含有量としては、全タンパク質に対する卵白タンパク質の重量比が、例えば、タンパク質ベースで0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。また、食肉様乳化組成物に対する卵白タンパクの含有量はタンパク質ベースで5重量%以下が好ましく、1重量%~5重量%がより好ましい。
【0033】
本発明の食肉様乳化組成物のタンパク成分として乳タンパク以外に卵白タンパクおよび大豆タンパクを使用する場合、卵白タンパクは上記の卵白タンパクを使用することが出来、全タンパク質に対する卵白タンパク質の重量比は、例えば、タンパク質ベースで0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。大豆タンパクは上記の大豆タンパクを使用することが出来、全タンパク質に対する大豆タンパク質の重量比はタンパク質ベースで0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0034】
本発明の食肉様乳化組成物のタンパク成分として乳タンパク以外に大豆タンパクのみを使用する場合、大豆タンパクは上記の大豆タンパクを使用することが出来、全タンパク質に対する大豆タンパク質の重量比は、例えば、タンパク質ベースで0.1以下が好ましい。
【0035】
本発明の食肉様乳化組成物には下記の官能試験に供することができる程度に食塩や調味料を添加することができる。調味料としては、ペッパーやスパイスミックスといった香辛料、パックビーフエキスやベジタブルエキス、レモンエキスといったエキス料、セロリ、タイム、ローレル、パセリといったハーブ等を加えることができる。食肉様乳化組成物に対する食塩の含有量は0.2~2.5重量%程度が好ましく、調味料の含有量は1重量%~5重量%程度がより好ましい。
【0036】
本発明の食肉様加工食品は、前記の食肉様乳化組成物を混合乳化し、ケーシングに充填し、加熱処理する工程を経て製造される。次に、本発明の食肉様乳化組成物を用いた食肉様加工食品の製造工程について述べる。本発明の食肉様加工食品は、一般に知られた下記A~Cの工程を経ることにより製造することができるが、後述する実施例1~32に記載の方法によっても製造することができる。
【0037】
A.全タンパク成分、可食性油脂、および水を主成分とする原料を加温処理することなく混合して乳化し、食肉様乳化組成物を調製する工程
本工程では、使用する原料を添加する順番を問わず、一度にすべての原料を混合することが可能である。また、原料溶解時に加温処理する必要もなく、冷水でも簡便に調製が可能である。混合には、せん断能力を有する乳化機を使用することが好ましい。例えば、真空カッターなどの各種カッター、ホモミキサーなどの各種ミキサーなど、せん断能力を有する任意の公知の装置を用いることができる。例えば、「ステファンクッカー」(ステファン社製)を挙げることができる。または、プロペラ攪拌機等のせん断能力の低い攪拌機で混合した後、マイルダーやホモジナイザーなどの乳化機で別途乳化処理を行ってもよい。乳化機は4℃以下の冷水で還流した状態が好ましく、攪拌時は真空脱気することが好ましい。また、好ましい回転数は1000rpm~3000rpmであり、3分間以上攪拌することが好ましい。
【0038】
B.食肉様乳化組成物をケーシングに充填する工程
Aの工程で調製した乳化物を充填するケーシングは、塩化ビニリデンケーシング、コラーゲン、羊腸など、任意の公知のケーシングを用いることができる。乳化物は流動性を有するため、ケーシングではなく、金型など形状の定まった容器に充填してもよい。
【0039】
C.ケーシングに充填した食肉様乳化組成物を加熱処理し、食肉様加工食品を得る工程
加熱は、レトルト加熱、熱湯中でのボイル、蒸気加熱、マイクロ波加熱等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。例えば、120℃40分間のレトルト加熱、90℃30分間の湯浴加熱を挙げることができる。十分に加熱するため、温度は60℃以上、特に80℃~150℃が好ましい。また時間は20分間以上、30~60分間程度加熱することが望ましい。加熱後、室温で冷却してもよいが、必要であれば流水で冷却したり、凍結したりすることもできる。
【0040】
本明細書における「食肉様加工食品」は、加工食品や経口組成物の一構成として実施される態様も包含する。また、本発明の食肉様加工食品を調製後、凍結および乾燥させた状態の組成物も、本明細書における「食肉様加工食品」に含まれる。本発明の食肉様加工食品は、ハム、ハンバーグ、ソーセージ、ミートボール、ベーコン、ブロック肉、即席麺用の乾燥具材等の加工食品に用いることができるが、特にハムまたはソーセージ様加工食品として有用である。また、本発明の食肉様乳化組成物および食肉様加工食品は、食肉と混合して用いることもできる。本発明の食肉様乳化組成物および食肉様加工食品に食肉をごく少量だけ配合した食肉加工品も調製が可能である。
【0041】
次に、実施例・比較例について説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまで本発明の中に含まれる具体例をいくつか示したものに過ぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
以下の実施例・比較例においては、表1~4に従って各原材料を秤量し、下記に示す方法により食肉様乳化組成物を調整した。
【0043】
実施例、比較例で特に記載のない場合は以下の原料を使用した。水溶性カゼインは、カゼインカルシウムDI-8905(88.5重量%のカゼインタンパク質を含有。Arla Foods社製)、カゼインカリウムSpray(89.5重量%のカゼインタンパク質を含有。FrieslandCampina DMV社製)を使用した。ホエイタンパクは乳たん白GL(93.1重量%のホエイタンパク質を含有。日本新薬(株)製)、エンラクトYYY(91.3重量%のホエイタンパク質を含有。日本新薬(株)製)、PROGEL800(78.4重量%のホエイタンパク質を含有。FrieslandCampina DMV社製)を使用した。卵白タンパクはカンソウランパクH(81.4重量%の卵白タンパク質を含有。日本新薬(株)製)を使用した。大豆タンパクはウィルプロN10(88.8重量%の大豆タンパク質を含有。Wilmar社製)を使用した。デンプンはタピオカ由来のミルフィクスD(王子コーンスターチ(株)製)を使用した。増粘多糖類はビストップW(ウェランガム、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を使用した。可食性油脂は市販のサラダ油(日清オイリオグループ(株)社製:大豆油とナタネ油の混合物)を使用した。
【0044】
<食肉様乳化組成物>
実施例・比較例に示す、本発明の食肉様乳化組成物は具体的には以下の工程を経て製造した。
1.粉体原料は事前に混合した。
2.2℃の冷水を還流したステファンクッカーに1.の原料、可食性油脂、および水を加え、真空脱気しながら1500rpmで5分間撹拌し、食肉様乳化組成物を調製した。
3.2.で調製した食肉様乳化組成物を折径50mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、120℃40分間または90℃30分間加熱した。
4.ケーシングに充填した充填物を流水で冷却し、食肉様加工食品を得た。
なお、得られた食肉様乳化組成物および食肉様加工食品を冷凍し、解凍した後でも物性が保持されるため、冷凍・解凍特性も具備していた。
【0045】
得られた食肉様乳化組成物の物性評価、および官能評価については、以下に示す方法で評価した。
【0046】
評価項目は以下の通りである。
<物性評価>
I.破断強度
破断強度は、撹拌後加熱前の試料を折径50mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、所定の加熱条件で加熱し、一晩以上静置した後、得られた試料を15mmの厚さにカットし、テクスチャアナライザー(Stable Micro Systems(株)製TA.XTPLUS)で球状φ8mmのプランジャーで1mm/sにて侵入させ、破断した際の強度を破断強度とする。破断強度は、単位をg(force)に設定して測定した(1g≒0.0098N)。破断強度が、320g~1200gであった場合、適切な硬さを有していると判定した。破断強度が、350g~1000g、さらに350~950gであった場合は、より適切な硬さを有しているといえる。粘性は目視で評価した。
<官能評価>
風味・食感の評価について十分な教育を受け、経験を積んだ3名もしくは4名のモニターが官能評価を行い、その点数により評価した。評価点は平均値を四捨五入して示した。官能評価の項目は以下の通りである。
II.風味
風味は以下の4段階で評価した。タンパク臭があまり感じられなく、問題なく食べられる場合を4とし、3、4を適合範囲とした。
1:タンパク臭を非常に強く感じ、食べるのが非常に困難。
2:タンパク臭を強く感じ、食べるのが困難。
3:タンパク臭を感じるが強くはなく、かろうじて食べられる。
4:タンパク臭があまり感じられなく、問題なく食べられる。
III.食感
食感は、得られた組成物の硬さが非常にやわらかい場合を1、非常に硬い場合を5とし、5段階で評価した。3(適度な食感)に近いほど良好な食感であると評価し、2~4を適合範囲とした。
1:非常に柔らかく、好ましくない食感
2:柔らかいが、食肉加工品に近い食感
3:適度な食感
4:硬いが、食べられる。
5:非常に硬く、食べるのが困難である
IV.総合評価
A:風味が4(最適)、食感が3(最適)
B:風味が4(最適)で食感が2又は4(適)もしくは風味が3(適)で食感が3(最適)
C:風味が3(適)で食感が2又は4 (適)
D:風味が3又は4(適)だが食感が1又は5(不適)もしくは風味が1又は2 (不適)で食感が2-4(適)
E:風味が1又は2(不適)で食感が1又は5(不適)
【0047】
調整した各種食肉様乳化組成物において使用したタンパク成分のうち、乳タンパクのみを使用した場合の結果を表1、乳タンパク、および卵白タンパクを使用した場合の結果を表2と3、乳タンパク、大豆タンパク、および卵白タンパクを使用した場合、乳タンパクと大豆を使用した場合の結果を表4に示す。これらは上記、C.ケーシングに充填したものを加熱処理する工程を120℃40分間行った場合の結果であるが、実施例20、21、22、31、32は同様の方法により調製した各種食肉様乳化組成物の加熱処理を90℃30分間で行った場合の結果である。また、得られた食肉様乳化組成物の物性評価、および官能評価の結果を合わせて示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、タンパク臭が少なく、風味や食感に優れた食肉様加工食品を提供することができ、食品の分野において有用である。