(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】車輌用灯具
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20230523BHJP
F21S 43/27 20180101ALI20230523BHJP
F21W 103/00 20180101ALN20230523BHJP
【FI】
B29C65/16
F21S43/27
F21W103:00
(21)【出願番号】P 2019026219
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】提坂 裕至
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正和
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-294013(JP,A)
【文献】特開2017-189887(JP,A)
【文献】特開2013-196844(JP,A)
【文献】特開2007-320251(JP,A)
【文献】特開2001-277364(JP,A)
【文献】特開2003-123506(JP,A)
【文献】特開2000-294012(JP,A)
【文献】特開2004-327332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00- 65/82
F21S 2/00- 45/70
F21W 103:00-103:60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有し溶着面が形成されたランプハウジングと前記内部空間を覆うカバーとを備え前記カバーが前記ランプハウジングにレーザー溶着によって接合されると共に
車輌の可動部及び非可動部の一方に取り付けられた他の車輌用灯具と車輌の幅方向において隣接した状態で車輌の可動部及び非可動部の他方に取り付けられる車輌用灯具であって、
前記カバーには、外周部の外面が曲面として形成された意匠面部と、前記意匠面部における外周寄りの部分から突出され先端面が前記溶着面に接合される被溶着面として形成された溶着脚部とが設けられ、
前記溶着脚部が前記意匠面部における前記他の車輌用灯具側の部分から先端に行くに従って前記他の車輌用灯具から離隔する方向に突出され、
前記意匠面部の外面における前記曲面の内周側の環状の部分がレーザー光の入射面として形成され、
前記曲面が、前記被溶着面における
前記他の車輌用灯具側の外端を通り前記溶着脚部の前記意匠面部からの突出方向に平行な仮想線と前記意匠面部の外面との交点よりも外周側に位置された
車輌用灯具。
【請求項2】
前記被溶着面が前記入射面と平行にされた
請求項1に記載の車輌用灯具。
【請求項3】
前記被溶着面が前記カバーの前記ランプハウジングに対する押し当て方向に直交する
請求項1又は請求項2に記載の車輌用灯具。
【請求項4】
前記意匠面部における前記交点と前記曲面の間の部分が前記入射面と同じ方向を向く平面に形成された
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の車輌用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーがランプハウジングにレーザー溶着によって接合される車輌用灯具についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
テールランプ等の車輌用灯具には、例えば、車輌の非可動部と可動部にそれぞれ配置され、隣接して位置された状態で双方の車輌用灯具が恰も一つの車輌用灯具であるように一体的に認識される所謂シームレスタイプの車輌用灯具がある。例えば、非可動部である車輌の本体部に一方の車輌用灯具が配置され、可動部であるトランクリッドに他方の車輌用灯具が配置され、トランクリッドが閉じられた状態において一方の車輌用灯具と他方の車輌用灯具とが隣接して位置される。
【0003】
このようなシームレスタイプの車輌用灯具において、一方の車輌用灯具と他方の車輌用灯具のそれぞれには、外面が車輌の外方を向く意匠面部の他に、隣接した状態で互いに対向して位置され光の透過が可能な溶着脚部が設けられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1においては溶着脚部が「脚壁」として示されている。溶着脚部は意匠面部の外周部のうち隣接する車輌用灯具側の端部又は端部寄りの部分から突出して設けられ、溶着脚部がランプハウジングに、例えば、レーザー溶着によって溶着されることでカバーがランプハウジングに接合される。
【0004】
シームレスタイプの車輌用灯具において、例えば、一方の車輌用灯具の光源から光が出射されると、出射された光が、一方の車輌用灯具におけるカバーの意匠面部を透過されて外部へ向けて照射されると共に対向する二つの溶着脚部を透過されて他方の車輌用灯具に入射され他方の車輌用灯具におけるカバーの意匠面部を透過されて外部へ向けて照射される。従って、双方の車輌用灯具が恰も一つの車輌用灯具であるように一体的に認識される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車輌用灯具におけるカバーの外周部は、万が一、人の手が触れた場合でも安全性の確保がされるように曲面状に面取り加工されている。
【0007】
一方、溶着脚部の意匠面部からの突出方向は、車輌用灯具の設計によって定められ、様々な方向にされている。従って、レーザー溶着時のレーザー光の照射方向は溶着脚部の意匠面部からの突出方向に応じて定められるが、レーザー光の照射方向や入射位置によっては意匠面部にレーザー光が入射されるときに屈折が生じ、溶着面に照射されるレーザー光の強度に偏りが生じ、溶着が不十分な部分が生じたり過剰なレーザー光の照射による樹脂の分解が生じるおそれがある。
【0008】
上述したようにカバーの外周部が曲面状にされている場合においては、レーザー光が曲面状の部分に照射されると、レーザー光が曲面において様々な方向に屈折され溶着面に照射されるレーザー光の強度に偏りが生じ易くなり、カバーのランプハウジングに対する接合に不具合を来し易くなる。
【0009】
そこで、本発明車輌用灯具は、カバーのランプハウジングに対する良好な接合状態を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1に、本発明に係る車輌用灯具は、内部空間を有し溶着面が形成されたランプハウジングと前記内部空間を覆うカバーとを備え前記カバーが前記ランプハウジングにレーザー溶着によって接合されると共に車輌の可動部及び非可動部の一方に取り付けられた他の車輌用灯具と車輌の幅方向において隣接した状態で車輌の可動部及び非可動部の他方に取り付けられる車輌用灯具であって、前記カバーには、外周部の外面が曲面として形成された意匠面部と、前記意匠面部における外周寄りの部分から突出され先端面が前記溶着面に接合される被溶着面として形成された溶着脚部とが設けられ、前記溶着脚部が前記意匠面部における前記他の車輌用灯具側の部分から先端に行くに従って前記他の車輌用灯具から離隔する方向に突出され、前記意匠面部の外面における前記曲面の内周側の環状の部分がレーザー光の入射面として形成され、前記曲面が、前記被溶着面における前記他の車輌用灯具側の外端を通り前記溶着脚部の前記意匠面部からの突出方向に平行な仮想線と前記意匠面部の外面との交点よりも外周側に位置されたものである。
【0011】
これにより、意匠面部の外面に照射されるレーザー光において、レーザー光が曲面から入射されず、レーザー光が部分的に大きな角度で屈折されることなくレーザー光の全体が溶着面に到達する。
【0012】
第2に、上記した本発明に係る車輌用灯具においては、前記被溶着面が前記入射面と平行にされることが望ましい。
【0013】
これにより、入射面から被溶着面までのレーザー光の透過距離がレーザー光の光束における何れの位置においても一定に保たれる。
【0014】
第3に、上記した本発明に係る車輌用灯具においては、前記被溶着面が前記カバーの前記ランプハウジングに対する押し当て方向に直交することが望ましい。
【0015】
これにより、カバーがランプハウジングに押し当てられる方向の力が溶着面に効率的に作用される。
【0016】
第4に、上記した本発明に係る車輌用灯具においては、前記意匠面部における前記交点と前記曲面の間の部分が前記入射面と同じ方向を向く平面に形成されることが望ましい。
【0017】
これにより、加工精度によって外面に対する曲面の位置精度が低下したりレーザー光の照射位置にズレが生じた場合でも、レーザー光が曲面から入射され難い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、意匠面部の外面に照射されるレーザー光において、レーザー光が曲面から入射されず、レーザー光が部分的に大きな角度で屈折されることなくレーザー光の全体が溶着面に到達するため、カバーのランプハウジングに対する良好な接合状態を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図2乃至
図6と共に本発明車輌用灯具の実施の形態を示すものであり、本図は、車輌用灯具が車輌に配置された状態を示す背面図である。
【
図3】溶着脚部の溶着部分を示す拡大断面図である。
【
図4】意匠面部の外面に平面が設けられた例を示す拡大断面図である。
【
図5】被溶着面が意匠面部と平行にされた例を示す拡大断面図である。
【
図6】被溶着面がカバーのランプハウジングに対する押し当て方向に直交する例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明車輌用灯具を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0021】
以下に示した実施の形態は、本発明車輌用灯具をテールランプの機能を有するコンビネーションランプに適用したものである。尚、本発明は、ターンシグナルランプ、クリアランスランプ、ストップランプ、デイタイムランニングランプ、コーナーリングランプ、ハザードランプ、ポジションランプ、バックランプ又はこれらの組み合わせであるコンビネーションランプ等の各種の車輌用灯具に広く適用することができる。
【0022】
以下の説明にあっては、光源からの光の外部への照射方向を後方として前後上下左右の方向を示すものとする。但し、以下に示す前後上下左右の方向は説明の便宜上のものであり、本発明の実施に関しては、これらの方向に限定されることはない。
【0023】
<車輌の概略構成>
先ず、車輌用灯具の配置状態等に関する車輌の概略構成について説明する(
図1参照)。
【0024】
車輌用灯具1、1は、例えば、車輌100の左右両端部にそれぞれ取り付けられて配置されている。車輌用灯具1は、例えば、車輌100の本体部101等の非可動部に配置されている。
【0025】
可動部であるトランクリッド102の左右両端部には他の車輌用灯具1A、1Aが配置され、トランクリッド102が閉じられた状態において車輌用灯具1A、1Aがそれぞれ車輌用灯具1、1の内側において隣接して位置される。
【0026】
車輌用灯具1は、例えば、テールランプの機能の他にストップランプ及びターンシグナルランプの機能を有するコンビネーションランプとして設けられ、車輌用灯具1Aは、例えば、テールランプの機能の他にバックアップランプの機能を有するコンビネーションランプとして設けられている。
【0027】
尚、上記には、車輌用灯具1が車輌100の本体部101等の非可動部に配置され、車輌用灯具1Aがトランクリッド102等の可動部に配置された例を示したが、逆に、車輌用灯具1がトランクリッド102等の可動部に配置され、車輌用灯具1Aが車輌100の本体部101等の非可動部に配置されていてもよい。
【0028】
<車輌用灯具の構成>
次に、本発明の車輌用灯具を実施するための形態について説明する。
【0029】
車輌用灯具1は、例えば、後方に開口されたランプハウジング2とランプハウジング2の内部空間2aを閉塞するカバー3とを備えている(
図2参照)。ランプハウジング2とカバー3によって灯具外筐4が構成されている。
【0030】
灯具外筐4の内部には光を出射する光源5、5、・・の他に、例えば、光源から出射された光を所定の方向へ導く図示しない導光体等が配置されている。光源5としては、例えば、発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)が用いられている。光源5は一つのみが配置されていてもよい。
【0031】
ランプハウジング2は不透明な樹脂材料によって形成され、例えば、略前後方向を向くベース面部2bとベース面部2bの外周部から略後方に突出された周面部2cと周面部2cの後端部から外方に張り出されフランジ状に形成された環状部2dとを有している。
【0032】
環状部2dの隣接する車輌用灯具1A側に位置される部分は、外方に向かうに従って前方に変位するように傾斜されている。環状部2dの後面は溶着面6として形成されている。
【0033】
カバー3は透明な樹脂材料によって形成され、平板状に形成された意匠面部7と意匠面部7の外周寄りの部分から突出された溶着脚部10とが一体に形成されて成る。
【0034】
意匠面部7の外面7aは、外周部が外方に凸の曲面8として形成され、曲面8の内周側の環状の部分がレーザー光Bの入射面9として形成されている。入射面9は略後方を向く平面状に形成されている。
【0035】
溶着脚部10は少なくとも意匠面部7における隣接する車輌用灯具1A側の部分から、前方に行くに従って側方に変位する方向に突出されている。
【0036】
溶着脚部10の先端面は溶着面6にレーザー溶着によって接合される被溶着面11として形成されている。被溶着面11は溶着脚部10の突出方向に直交され、被溶着面11の幅は溶着面6の幅より小さくされている。
【0037】
上記のように構成された車輌用灯具1において、被溶着面11における隣接する車輌用灯具1A側の外端11aを通り溶着脚部10の突出方向に平行な仮想線Lが意匠面部7の外面7aと交差する点を交点Pとすると、曲面8は交点Pよりも外周側に位置されている(
図3参照)。
【0038】
上記のように構成された車輌用灯具1においては、レーザー溶着によりカバー3がランプハウジング2に接合される。レーザー溶着によるカバー3のランプハウジング2への接合は、レーザー光Bが入射面9へ向けて照射されることにより行われる。
【0039】
尚、ランプハウジング2に対するカバー3の溶着の方式としては、例えば、溶着脚部10へのレーザー光Bの照射にはスキャン式が用いられ、それ以外の部分へのレーザー光Bの照射にはガルバノ式が用いられる。但し、全ての部分へのレーザー光Bの照射にスキャン式又はガルバノ式が用いられてもよい。
【0040】
入射面9から入射されたレーザー光Bは、意匠面部7又は意匠面部7と溶着脚部10を透過され、ランプハウジング2の溶着面6に到達する。レーザー光Bが溶着面6に到達することにより、意匠面部7の内面又は被溶着面9と溶着面6とが溶融されてカバー3がランプハウジング2に接合される。
【0041】
カバー3の隣接する車輌用灯具1A側の外周部においては、光束の全体を溶着面6に到達させて高い光の強度を確保するために、レーザー光Bは光束の中心が被溶着面11の幅方向における中央に到達されるように入射面9での屈折を考慮した方向からカバー3に向けて照射される。尚、レーザー光Bの屈折方向は、溶着脚部10の突出方向と一致することが望ましい。
【0042】
しかしながら、車輌用灯具1においては、曲面8が交点Pよりも外周側に位置されているため、レーザー光Bが曲面8から入射されず、レーザー光Bが部分的に大きな角度で屈折されることなくレーザー光Bの全体が溶着面6に到達する。
【0043】
従って、レーザー光Bが十分な強度を確保したまま偏りなく溶着面6に到達することで、カバー3のランプハウジング2に対する良好な接合状態を確保することができる。
【0044】
尚、意匠面部7の外面7aにおける曲面8と交点Pの間の部分が入射面と同じ方向を向く平面12として形成されていてもよい(
図4参照)。
【0045】
これにより、加工精度によって外面7aに対する曲面8の位置精度が低下したり、レーザー光Bの照射位置にズレが生じた場合でも、レーザー光Bが曲面8から入射されにくくなるため、レーザー光Bの溶着面6に対する高い照射精度を確保することができる。
【0046】
また、被溶着面11が入射面9と平行にされていてもよい(
図5参照)。
【0047】
これにより、入射面9から被溶着面11までのレーザー光Bの透過距離Dがレーザー光Bの光束における何れの位置においても一定に保たれるため、透過距離Dの違いによるレーザー光Bの減衰の差が生じにくく、溶着面6に到達するレーザー光Bの強度が偏りにくくされる。
【0048】
従って、被溶着面11に到達するレーザー光Bの強度がより均一にされ、カバー3のランプハウジング2に対するより良好な接合状態を確保することができる。
【0049】
さらにまた、レーザー溶着の作業時にはカバー3がランプハウジング2に押し当てられた状態でレーザー光Bが照射されるが、被溶着面8がカバー3のランプハウジング2に対する押し当て方向に対して直交されていてもよい(
図6参照)。
【0050】
これにより、カバー3がランプハウジング2に押し当てられる方向の力が溶着面6に効率的に作用されるため、被溶着面11が溶着面6に安定した状態で面接触され、カバー3をランプハウジング2に対して確実に接合することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…車輌用灯具、2…ランプハウジング、3…カバー、6…溶着面、7…意匠面部、7a…外面、8…曲面、9…入射面、10…溶着脚部、11…被溶着面、12…平面、L…仮想線、P…交点