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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】α化乾燥玄米およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20230523BHJP
   A23L 7/174 20160101ALI20230523BHJP
   A23L 7/196 20160101ALI20230523BHJP
【FI】
A23L7/10 A
A23L7/174
A23L7/196
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019028081
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020130051
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000222783
【氏名又は名称】東洋水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 孝正
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 健
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-038369(JP,A)
【文献】特開平02-265449(JP,A)
【文献】特開平06-141794(JP,A)
【文献】特開2009-039029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を150~280℃、30~180秒の条件において発泡させ、膨化玄米とする膨化工程と、前記膨化玄米を、加熱前浸漬処理を2時間未満としてα化するα化工程と、前記α化工程によってα化された米を、α-アミラーゼを含み且つ前記α-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液により浸漬処理する浸漬工程と、前記浸漬工程によって浸漬処理された米を乾燥する乾燥工程とを含む、α化乾燥玄米の製造方法。
【請求項2】
前記膨化工程が、玄米を熱風および/またはマイクロ波により発泡させる工程である、請求項1に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
【請求項3】
前記膨化工程により、かさ比重が0.53~0.89g/mlである膨化玄米とする、請求項1または2に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
【請求項4】
前記α化工程が、前記膨化玄米に加水後、加熱前浸漬処理をすることなくα化する工程である、請求項1~3のいずれか1項に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬工程における浸漬処理時間が2秒~3分間である、請求項1~4のいずれか1項に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
【請求項6】
前記α-アミラーゼの至適温度が35~80℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α化乾燥玄米およびその製造方法に関する。詳細には、復元した際に好ましい食感を有する、単粒化されたα化乾燥玄米およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食に対する消費者の健康志向は年々高まっており、米飯類においても例外ではない。そして、米飯類の中では、精白米よりもビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含んでいる玄米が、健康食のひとつとして注目されている。
【0003】
けれども、玄米は、その外側が果皮および種皮で覆われているため、吸水やα化に時間がかかり、精白米と比較して炊飯しにくい。そのため、お湯や水に浸すだけで速やかに復元することができる、α化した玄米を乾燥した即席玄米(α化乾燥玄米)が開発されている。
【0004】
このような即席玄米として、例えば、特許文献1には、α化した玄米を凍結温度以下まで冷却して凍結し、これを解凍してから乾燥して得られた即席玄米が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-39029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような即席玄米は、短時間での復元性は良いものの、復元後の食感が米飯本来の食感とはならず、満足できるものではない。そして、この復元後における米飯本来の食感を追求して玄米のα化状態などを調整すると、表面の粘りなどから米粒同士の結着が起こりやすくなり、単粒化が困難となる。また、これにより短時間での復元が達成できないこともある。さらには、前述した果皮や種皮の存在により、即席玄米の製造段階においても、炊飯時と同様に、玄米が吸水し難くα化させるまでに時間がかかるという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、復元性および栄養吸収性が良く、且つ復元した際に米飯本来の食感を有する、単粒化されたα化乾燥玄米、およびその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、玄米を150~280℃、30~180秒の条件において発泡させ、膨化玄米とする膨化工程と、この膨化玄米を、加熱前浸漬処理を2時間未満としてα化するα化工程と、α化工程によってα化された米を、α-アミラーゼを含み且つα-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液により浸漬処理する浸漬工程と、浸漬工程によって浸漬処理された米を乾燥する乾燥工程とを含む製造方法により、復元性が良好であり且つ栄養吸収性が高く、さらに復元した際に米飯本来の食感を有する、単粒化されたα化乾燥玄米を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)~(7)である。
(1)玄米を150~280℃、30~180秒の条件において発泡させ、膨化玄米とする膨化工程と、この膨化玄米を、加熱前浸漬処理を2時間未満としてα化するα化工程と、このα化工程によってα化された米を、α-アミラーゼを含み且つこのα-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液により浸漬処理する浸漬工程と、この浸漬工程によって浸漬処理された米を乾燥する乾燥工程とを含む、α化乾燥玄米の製造方法。
(2)前記膨化工程が、玄米を熱風および/またはマイクロ波により発泡させる工程である、(1)に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
(3)前記膨化工程により、かさ比重が0.53~0.89g/mlである膨化玄米とする、(1)または(2)に記載のα化乾燥玄米の製造方法。
(4)前記α化工程が、前記膨化玄米に加水後、加熱前浸漬処理をすることなくα化する工程である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のα化乾燥玄米の製造方法。
(5)前記浸漬工程における浸漬処理時間が2秒~3分間である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のα化乾燥玄米の製造方法。
(6)前記α-アミラーゼの至適温度が35~80℃である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のα化乾燥玄米の製造方法。
(7)かさ比重が0.30~0.45g/mlであり、且つ98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率が240~300質量%である、単粒化されたα化乾燥玄米。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、復元性が良好であり且つ栄養吸収性が高く、さらに復元した際に米飯本来の食感を有する、単粒化されたα化乾燥玄米を提供することができる。また、玄米の吸水性が向上して炊飯・蒸煮がし易い、前記α化乾燥玄米の効率的な製造方法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法の一例を、工程図として示したものである。
図2】実施例3、4、6のα化乾燥玄米製造において、膨化工程後における膨化玄米粒の側面および横断面を観察した顕微鏡写真である(図面代用写真)。上段が玄米粒の横断面、下段が玄米粒の表面の写真であり、左から順に対照品である未処理の原料玄米、実施例3の製造における膨化玄米、実施例4の製造における膨化玄米、実施例6の製造における膨化玄米である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、玄米を150~280℃、30~180秒の条件において発泡させ、膨化玄米とする膨化工程と、この膨化玄米を、加熱前浸漬処理を2時間未満としてα化するα化工程と、α化工程によってα化された米を、α-アミラーゼを含み且つα-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液により浸漬処理する浸漬工程と、浸漬工程によって浸漬処理された米を乾燥する乾燥工程とを含むα化乾燥玄米の製造方法、ならびに、かさ比重が0.30~0.45g/mlであり、且つ98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率が240~300質量%の単粒化されたα化乾燥玄米である。
【0013】
まず、本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法では、原料米として玄米を使用する。玄米とは、籾から籾殻を取り除いた状態であり且つ精米されていない(果皮、種皮および糊粉層(いわゆる米糠)が除去されていない)米を意味し、本発明においては、粳玄米だけでなく、約70%含まれる澱粉の成分がほぼアミロペクチンである(α化した際の粘りがより強い)糯玄米も使用できる。また、米の品種も特に限定されないが、澱粉中のアミロース含量が15質量%以上である粳玄米、あるいは糯玄米を使用するのが、復元した際の食感がより好適である単粒化されたα化乾燥玄米を得るという点において好ましい。なお、本発明に使用する玄米は、必要に応じて、表面の汚れを除去するための洗米工程を行ってもよい。なお、この洗米工程は、精白米のα化前に行う精白米表面の肌糠を洗い流すための工程とは異なるものである。
【0014】
そして、このような玄米を、まず膨化工程において発泡させて膨化玄米とする。この膨化工程では、処理温度が150~280℃、好ましくは170~250℃、より好ましくは175~225℃、および処理時間が30~180秒、好ましくは35~100秒の条件において玄米を発泡させ、膨化玄米とする。この際、できる限り加熱が均一となるように、装置内における玄米や熱源などの状態を調整するのが好適である。また、装置内湿度の調整を行っても良い。このような膨化玄米とすることで、後のα化工程における吸水性や炊飯性・蒸煮性を向上させることができ、玄米のα化を容易に行うことができる。この膨化工程においては、熱風および/またはマイクロ波により発泡させることが、好適な膨化玄米を効率的に得るという点でより好ましい。また、この膨化工程において、2段階加熱や加圧は必須でない。なお、この膨化工程における処理温度が150℃より低い、あるいは処理時間が30秒より短いと、玄米の膨化が不十分となる可能性が高いため好ましくない。さらに、処理温度が280℃より高い、あるいは処理時間が180秒より長いと、α化乾燥玄米を復元した際の食感に悪影響がでる可能性や、玄米の焦げ付きが発生し易くなる可能性が高いため好ましくない。
【0015】
ここで、玄米は、前記膨化工程により、かさ比重が0.53~0.89g/ml、好ましくは0.55~0.87g/mlである膨化玄米とするのがより好適である。これは、後のα化工程における吸水性や炊飯性・蒸煮性をより向上させ、且つ最終製品であるα化乾燥玄米の復元性および復元した際の食感がより向上するからである。この膨化玄米のかさ比重が0.89g/ml超であると、後のα化工程がし難くなる可能性があり、また、より膨化が進み、膨化玄米のかさ比重が0.53g/ml未満になると、得られるα化乾燥玄米の食感が好適でなくなる可能性がある。なお、本発明において、かさ比重の測定は、所定の容量(例えば100mL)のメスシリンダー等に試料を量り採り、その質量を測定してg/mlの値を求める方法により行うことができる。
【0016】
次に、得られた膨化玄米を、α化工程において、加熱前浸漬処理を2時間未満としてα化を行う。このα化工程は、膨化玄米に加水、好ましくは原料として使用した玄米の質量に対して1~2.5倍量、より好ましくは1.5~2.0倍量加水した後に、必要に応じて常温(5~35℃)における2時間未満の加熱前浸漬処理を行った後、常温を超える温度、好ましくは70℃以上に加熱し、より好ましくは100℃前後の温度において20~30分間保持し、加熱時の吸水によって米の澱粉内に水が入り膨潤した状態とする工程である。ここで、このα化工程は、炊飯、蒸煮など公知の方法によりバッチ式あるいは連続式で行うことができ、また、加圧加熱を行ってもよく、特段限定はされない。そして、α化された米の質量が、原料として使用した玄米の質量に対して200~300質量%、より好ましくは200~250質量%となるようにα化を行うのが好適である。なお、本発明においては、上記膨化工程によって果皮および種皮の少なくとも一部が破れ、吸水性が高まった膨化玄米をα化するため、玄米のα化において米の内部まで水を浸透させるために通常必要である、常温における長時間の加熱前浸漬処理を必要としないことも特徴である。なお、本発明では、この加熱前浸漬処理時間を2時間未満とし、1.5時間以内とすることが好ましく、1時間以内とすることがより好ましく、加熱前浸漬処理を行わないのが最も好ましい。加熱前浸漬処理を2時間以上とすると、乾燥処理において米粒が壊れやすくなり、単粒化されたα化乾燥玄米が得られない。特に、膨化工程において膨化温度を高く設定した場合には、この加熱前浸漬処理はできる限り短い方が好ましい。
【0017】
さらに、α化工程によりα化された米は、浸漬工程において、α-アミラーゼを含み且つα-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液により浸漬処理(加熱後浸漬処理)を行う。この浸漬処理時間は、2秒~3分間であることが好ましく、5秒~1分間であることがより好ましい。なお、この浸漬工程における「浸漬処理」には、α化された米を、この米に対して十分な量の酵素液に漬け置く(狭義の浸漬)処理だけでなく、α化された米に酵素液を噴霧する(必要に応じて噴霧後放置する)処理や、α化された米に酵素液を滴下する(必要に応じて滴下後放置する)処理も包含される。そして、この浸漬処理の後に液切りを行う。この浸漬処理および液切りによって、α化された米粒の表面にある粘り成分を洗い流すことができ、その後の乾燥工程などにおいて米粒同士が結着しにくいため、単粒化されたα化乾燥玄米を得やすくなる。
【0018】
なお、上記浸漬処理時間が2秒未満であると、加熱後浸漬処理の効果を十分得られない可能性がある。また、上記浸漬処理時間が3分を超えると、米粒表面だけでなく、米粒内部にまでα-アミラーゼが作用するため、得られるα化乾燥玄米の復元後の食感が低下する傾向にある。さらに、本発明の加熱後浸漬処理においてはα-アミラーゼを使用することが必要であり、β-アミラーゼなど他の種類のアミラーゼを使用しても所望の効果が得られない。
【0019】
また、上記酵素液におけるα-アミラーゼの使用量は、α-アミラーゼが0.0001~0.002質量%となるような溶液とすることが好ましい。そして、使用するα-アミラーゼの至適温度は、35~80℃、より好適には50~70℃であることが好ましい。つまり、35~80℃、より好適には50~70℃に調整された酵素液とすることが好ましい。そして、加熱後浸漬処理の間、酵素液はこの温度範囲に保たれることが好ましい。使用するα-アミラーゼの至適温度に調整された酵素液を用いることで、α-アミラーゼの作用を短時間で十分に発揮させることができるからである。
【0020】
なお、本発明においては、このα-アミラーゼを含む酵素液による処理は、α化工程によってα化された乾燥処理前のα化玄米に対して行うことが特徴であり、α化されていない玄米に対してこのα-アミラーゼを含む酵素液による処理を行っても、所望の効果が得られない。
【0021】
そして、前記浸漬工程において浸漬処理された米は、乾燥工程において乾燥を行う。この乾燥工程における乾燥は、熱風乾燥、フリーズドライ(FD)乾燥、マイクロ波乾燥などの方法により行うことができる。この際、できる限り均一な乾燥となるように装置内における米や熱源などの状態を調整するのが好適である。なお、熱風乾燥(例えば、90~100℃、50~100分間の熱風乾燥条件)により乾燥を行うのが、得られるα化乾燥玄米の過度な膨化などを防ぐという点からより好適である。さらに、この熱風乾燥において、湿度条件の調整を行っても良い。また、得られるα化乾燥玄米の水分を15質量%以下とするように乾燥するのが、長期保存性などの観点から好ましい。
ここで、乾燥前の米粒表面の予備乾燥および米粒表面に付着したα-アミラーゼの失活のために、乾燥工程の前に、浸漬工程において浸漬処理された米を蒸煮する蒸煮工程を行っても良い。これにより、乾燥工程における米粒同士の結着をより抑制し、且つα-アミラーゼの過度な作用をより抑制することができる。
【0022】
そして、得られたα化乾燥玄米は、放冷などにより室温程度まで冷却した後、包装・充填工程により包装容器に充填を行っても良い。この包装容器は特段限定されず、例えば、袋状、カップ状、トレイ状などの形状を備え、且つ内容物充填後に密封可能な包装容器などが例示される。
【0023】
また、本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法については、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、上記以外の任意の工程を含んでも良い。なお、本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法の一例を、図1に示した。
【0024】
次に、本発明のα化乾燥玄米について詳細に説明する。
前記製造方法などによって得られる本発明のα化乾燥玄米は、その表層にある果皮および種皮が破れて糊粉層の少なくとも一部が露出している。これにより、短時間(例えば90~100℃の熱湯に浸漬してから5分間以内)での復元が可能となり、その消化性も高められ、且つ、玄米は精白米に比べてビタミン、ミネラル、食物繊維などが豊富であり、これらに代表される栄養成分の吸収性(栄養吸収性)なども高められている。また、単粒化され且つ熱湯や水などに浸すだけで速やかに復元可能なため、必要な分量ずつ復元して喫食することが可能であり、屋外用あるいは非常用としても好適に使用できる。
【0025】
そして、本発明のα化乾燥玄米は、上記の通り、乾燥状態において単粒化され、且つ均一な復元が可能であるため、復元後の食感も、米粒感をはっきりと感じられるものである。ここで、本発明において「単粒化」とは、米の70%以上、好ましくは80%以上が単体の粒(米粒の形状を維持していない破米は除く)となっている状態を意味する。これは、一定量のα化乾燥玄米における、単体の粒となっているものの質量割合により算出することができる。
【0026】
また、本発明のα化乾燥玄米は、かさ比重が0.30~0.45g/ml、好ましくは0.32~0.43g/mlであり、且つ98℃の熱湯(浸漬開始時における温度が98℃である熱湯)に浸漬してから5分後における吸水率が240~300質量%、好ましくは250~280質量%である。このようなかさ比重および吸水率を有する本発明のα化乾燥玄米は、熱湯などによる短時間での復元が可能であり、且つ復元した際に米飯本来の食感を有する。ここで、かさ比重とは前述と同様の方法により測定した値を意味し、また吸水率とは、α化乾燥玄米の質量に対する、このα化乾燥玄米を98℃の熱湯に浸漬してから5分後における質量の比を百分率により表した値を意味する。
さらに、本発明のα化乾燥玄米は、澱粉中のアミロース含量が15質量%以上の粳玄米、および/または糯玄米を用いたα化乾燥玄米であるのが、復元した際の食感がより好適であるため好ましい。
【0027】
なお、本発明のα化乾燥玄米は、上記構成を満たし且つ本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において任意の添加成分を含んでも良いが、添加成分を含まなくても良い。
【0028】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0029】
(α化乾燥玄米の調製1)
まず、α化乾燥玄米の製造における膨化工程(膨化処理)の有無の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを200℃、39秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重0.65g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水して、常温において24時間浸漬を行った。これを炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG-B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α-アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60~70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(比較例A)。
【0030】
一方、比較例Bとして、同じ原料玄米100gに1.8倍量加水して常温において24時間浸漬を行った後、炊飯以降は比較例Aと同様の方法によってα化乾燥玄米を調製した。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表1にまとめた。なお、表中における「釜離れ」とは、炊飯米を炊飯器の釜から離す際の状態を表し、「乾燥トレイでの平伸ばし状態」とは、酵素液浸漬後に液切りした米を乾燥トレイに平たく伸ばす際の状態を表し、「乾燥後のほぐし状態」とは、熱風乾燥後において乾燥トレイ上の乾燥玄米をほぐした際の状態を表す(後述する表2および表4についても同様である)。
【0031】
【表1】
【0032】
この結果、炊飯前に膨化処理を行った比較例Aの玄米は吸水性が極めて高いため、炊飯前の常温における24時間浸漬処理により加水をすべて吸収していた。この玄米を炊飯後、乾燥処理を行うと、米粒が崩壊してしまいα化乾燥玄米が得られなかった。よって、乾燥後重量および乾燥後のほぐし状態は確認できなかった(ND)。なお、炊飯前の膨化処理を行っていない比較例Bは、得られたα化乾燥玄米の復元性および復元後の食感が好ましいものではなかった。
【0033】
(α化乾燥玄米の調製2)
次に、α化乾燥玄米の製造における加熱前浸漬時間の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを200℃39秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重0.65g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、加熱前浸漬時間0時間(浸漬なし、実施例1)、加熱前浸漬時間0.5時間(浸漬0.5h、実施例2)、および加熱前浸漬時間2時間(浸漬2h、比較例1)の3種類の加熱前浸漬処理を実施し、これらをいずれも炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG-B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α-アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60~70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表2にまとめた。いずれも単粒化されたα化乾燥玄米を取得することができた。
【0034】
【表2】
【0035】
そして、このようにして得られた実施例1、2および比較例1の各α化乾燥玄米について、官能評価を実施した。具体的には、これらのα化乾燥玄米30gをスープとともにカップ状容器に入れ、容器に98℃の熱湯を注いで5分後に湯戻りした玄米の官能評価を行った。
官能評価は、α化乾燥玄米の復元性(中心部に芯がない戻りの良さ)、食感(弾力および粘り)および米粒感(見た目の粒感)の3つの項目について、以下に示す評価基準を用い、パネリスト間において共通の評価基準となるように統一した。具体的には、実施例1を基準サンプル(評価はいずれの項目も4.0)として、以下の評価基準に基づいて10名のパネリストが相対評価により各サンプルを比較官能評価し、この平均値を算出した。結果を下記表3に示した。
【0036】
<復元性、食感および米粒感の評価基準>
5:非常に良い(実施例1より良い)
4:やや良い(実施例1と同等)
3:良い(実施例1より若干劣るが良好である)
2:やや悪い(実施例1より劣る)
1:悪い(実施例1よりもかなり劣る)
【0037】
【表3】
【0038】
この結果、実施例1および実施例2のα化乾燥玄米は、復元性が良好であり、且つ食感および米粒感も良好であった。一方、比較例1のα化乾燥玄米は、復元性は良好であったが、米粒が崩壊し、特に米粒感が好ましいものではなかった。
【0039】
(α化乾燥玄米の調製3)
次に、α化乾燥玄米の製造における膨化処理条件の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、150℃156秒、175℃83秒、200℃70秒、225℃52秒の4つの条件においてそれぞれ熱風により膨化処理を行い、得られた各膨化玄米(かさ比重はそれぞれ0.86g/ml、0.74g/ml、0.63g/ml、0.59g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、いずれも加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG-B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α-アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60~70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例3~6)。
【0040】
一方、比較例2として、同じ原料玄米100gを洗米してから1.8倍量加水して常温において24時間浸漬を行った後、炊飯以降は実施例3~6と同様の方法によってα化乾燥玄米を調製した。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表4にまとめた。いずれも単粒化されたα化乾燥玄米を取得することができた。
【0041】
【表4】
【0042】
これらの製造工程中の膨化工程後における各膨化玄米について、粒の側面および横断面(膨化玄米の粒を短手方向に切断した断面)を観察した。この観察所見および各膨化玄米のかさ比重を表5に示した。
なお、実施例3、4、6の製造工程中の膨化工程後における各膨化玄米については、さらに、粒の側面および横断面を下記条件により顕微鏡観察し、未処理玄米粒の側面および横断面と比較した。この顕微鏡写真を図2に示した。
使用機器:デジタルマイクロスコープ VHX-1000(キーエンス社製)
倍率:50倍
【0043】
【表5】
【0044】
さらに、得られた実施例3~6および比較例2の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表6に示した。
【0045】
【表6】
【0046】
この結果、実施例3~6のα化乾燥玄米は、比較例2のα化乾燥玄米に比べていずれも復元性が良く、食感も優れていた。また、膨化処理温度を高くすると得られる膨化玄米のかさ比重がより小さくなり、得られるα化乾燥玄米の復元性がより良くなる傾向であった。なお、膨化処理温度を200℃超とすると、得られるα化乾燥玄米の米粒感が若干低下する傾向がみられた。さらに、膨化工程後の膨化玄米の外観評価から、実施例3、4、6はいずれも膨化工程後において、玄米の表皮(果皮および種皮)の少なくとも一部が破れていることが明らかとなった(図2)。
【0047】
また、実施例3、実施例6および比較例2のα化乾燥玄米について、かさ比重および98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率を測定した。この結果、実施例3のα化乾燥玄米のかさ比重は0.40g/ml、吸水率は255質量%であり、実施例6のα化乾燥玄米のかさ比重は0.34g/ml、吸水率は276質量%であった。これに対し、比較例2のα化乾燥玄米のかさ比重は0.45g/mlであったが、吸水率は201質量%であった。
【0048】
(α化乾燥玄米の調製4)
α化乾燥玄米の製造における膨化処理条件の影響をさらに確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき100%、山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、240℃42秒、260℃35秒、280℃32秒の3つの条件においてそれぞれ熱風により膨化処理を行い、得られた各膨化玄米(かさ比重はそれぞれ0.58g/ml、0.56g/ml、0.55g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、いずれも加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG-B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α-アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60~70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例7~9)。
【0049】
そして、このようにして得られた実施例7~9の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表7に示した。
【0050】
【表7】
【0051】
この結果、膨化処理温度を240℃、260℃あるいは280℃としても、膨化処理温度が高くなるにつれて得られるα化乾燥玄米の米粒感は若干低下傾向となるものの、全体として官能評価は概ね良好であった。ただし、260℃および280℃における膨化処理では、膨化処理において玄米がやや焦げやすい傾向にあり、また膨化処理時間が短いためやや処理のバラつきが出やすい傾向であった。
【0052】
また、実施例9のα化乾燥玄米について、かさ比重および98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率を測定した。同じ方法により2回製造した各ロットについての測定結果は、それぞれ、かさ比重0.38g/mlおよび吸水率259質量%、ならびに、かさ比重0.35g/mlおよび吸水率282質量%であった。
【0053】
(α化乾燥玄米の調製5)
α化乾燥玄米の製造における酵素液浸漬時間の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき100%、山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、225℃52秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重は0.59g/ml)に原料玄米の2.0倍量加水した。そして、加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG-B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた炊飯米を3つに分け、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α-アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60~70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移してそれぞれ2秒、45秒、3分間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例10~12)。
【0054】
そして、このようにして得られた実施例10~12の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表8に示した。
【0055】
【表8】
【0056】
この結果、実施例10および実施例11のα化乾燥玄米は、いずれの項目も良好な評価であったが、酵素浸漬処理時間3分である実施例12のα化乾燥玄米は、全体として比較的良好な評価であるものの、米粒感がやや低下し食感はやわらかくなる傾向であった。
【0057】
以上より、本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法により、玄米の吸水性および炊飯性が著しく改善され、さらに復元性および復元後の食感が好ましい、単粒化されたα化乾燥玄米が効率的に得られることが示された。
【0058】
なお、本実施例に使用した原料玄米(はえぬき、つや姫)に代えて、原料玄米としてコシヒカリ100%(山形県産)を用いる以外は本実施例と同様に製造を行うことによっても、本発明のα化乾燥玄米を取得することができる。
図1
図2