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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】窒素酸化物測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/76 20060101AFI20230523BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230523BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01N21/76 ZAB
F01N3/08 A
G01N31/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019078916
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020176910
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591081321
【氏名又は名称】紀本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】紀本 岳志
(72)【発明者】
【氏名】鈴江 崇彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 周司
(72)【発明者】
【氏名】北山 紗織
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042184(JP,A)
【文献】特開2006-058169(JP,A)
【文献】特開2000-298097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0377850(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 31/00
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスとなる大気を外部から導入する大気導入口と、前記試料ガス中の粒子状物質を除去する除塵フィルタと、オゾン発生器と、前記試料ガスおよび前記オゾン発生器で発生したオゾンを導入して混合する反応槽と、前記反応槽内で発生する、一酸化窒素とオゾンとの反応に基づく化学発光の光強度を測定する光電測定部と、一酸化窒素以外の窒素酸化物を一酸化窒素に変換するコンバータと、一酸化窒素および二酸化窒素以外の、ガス状の硝酸を含む窒素酸化物を吸着除去する硝酸スクラバと、前記大気導入口から導入された試料ガスを前記反応槽まで流過させる吸引ポンプと、該吸引ポンプと複数の電磁式切替弁とを制御する制御部と、を備え、
複数の配管と複数の電磁式切替弁とから構成されるガス流路として、
前記コンバータおよび前記硝酸スクラバのいずれも経由せず、前記大気導入口から導入された大気を試料ガスとして前記反応槽に流過させる第1のガス流路と、
前記硝酸スクラバを経由せず、前記コンバータを経由して、試料ガスを前記反応槽に供給する第2のガス流路と、
前記硝酸スクラバおよび前記コンバータを順に経由して、試料ガスを前記反応槽に供給する第3のガス流路と、を含み、
前記第1のガス流路、前記第2のガス流路および前記第3のガス流路は、相互に切り替え可能に構成されていることを特徴とする窒素酸化物測定装置。
【請求項2】
ゼロ校正用のゼロガス精製器を備え、
前記硝酸スクラバおよび前記コンバータを経由せず、前記ゼロガス精製器を経由して、生成されたゼロガスを前記反応槽に供給する第4のガス流路を含むことを特徴とする請求項1に記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項3】
前記硝酸スクラバが、アミド樹脂を含む成形体を用いて構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項4】
前記硝酸スクラバは、一酸化窒素および二酸化窒素の透過率が90%以上であり、ガス状硝酸の除去率が90%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記流路の切り替え制御を行ない、各流路における光電測定部からの出力信号を測定値として記録することが可能であり、
試料ガスを前記第1のガス流路を通じて流過させた際に得られる第1の測定値、
試料ガスを前記第2のガス流路を通じて流過させた際に得られる第2の測定値、
試料ガスを前記第3のガス流路を通じて流過させた際に得られる第3の測定値、
を用いて、
前記第2の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素を除く窒素酸化物濃度を求める第21演算、または、
前記第3の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の二酸化窒素の濃度を求める第31演算、または、
前記第2の測定値から前記第3の測定値を差し引いて、大気中のガス状硝酸の濃度を求める第23演算、
を行なう演算部をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記流路の切り替え制御を行ない、各流路における光電測定部からの出力信号を測定値として記録することが可能であり、
試料ガスを前記第1のガス流路を通じて流過させた際に得られる第1の測定値、
試料ガスを前記第2のガス流路を通じて流過させた際に得られる第2の測定値、
試料ガスを前記第3のガス流路を通じて流過させた際に得られる第3の測定値、
試料ガスを前記第4のガス流路を通じて流過させた際に得られる第4の測定値、
を用いて、
前記第1の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素の濃度を求める第14演算、または、
前記第2の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の窒素酸化物の濃度を求める第24演算、または、
前記第3の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素と二酸化窒素の合計濃度を求める第34演算、
を行なう演算部をさらに備えることを特徴とする請求項2を引用する請求項5に記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項7】
前記各ガス流路は、各ガス流路における前記反応槽への導入前の位置に、ガス流路を流過するガスを該反応槽を迂回して外部に排出するバイパス流路を備え、
前記各ガス流路は、それぞれ、前記複数の電磁式切替弁の切り替えにより、
ガス流路を通じて、前記外部から取り入れた大気を前記反応槽に流過させる測定用流路と、
ガス流路の一部とそれに接続された前記バイパス流路とを経由して、前記外部から取り入れた大気を前記反応槽を経由せずに排出するパージ用流路と、
を切り替え可能に構成され、
前記制御部は、前記各ガス流路において、
前記測定用流路を用いて、所定のガスの濃度測定を行なう濃度測定制御と、
前記パージ用流路を用いて、前記濃度測定制御の開始前に、予め、測定に用いる前記ガス流路内を試料ガスまたはゼロガスで満たす流路パージ制御と、
を実行可能であり、
前記制御部は、1つのガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、他のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行することを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記第4のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第3のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第3のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第1のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第1のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第2のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第2のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第4のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行することを特徴とする請求項2を引用する請求項7に記載の窒素酸化物測定装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記第1のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第3のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第3のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第4のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第4のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第2のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第2のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第1のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行することを特徴とする請求項2を引用する請求項7に記載の窒素酸化物測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の一酸化窒素、二酸化窒素等の窒素酸化物の濃度を連続的に測定するための、化学発光方式による自動計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
環境大気中の窒素酸化物は、一次汚染物質として人体に有害であるばかりでなく、光化学反応により、光化学スモッグ発生の原因となる対流圏オゾン(O)や、酸性雨の原因物質である硝酸(HNO)等の二次汚染物質を生じる。
【0003】
大気中の窒素酸化物の環境基準は、主成分を占める二酸化窒素(NO)の濃度を基準に「1時間値の1日平均値が0.04~0.06ppmまたはそれ以下」と制定されており、全国の多数の測定局で常時監視(モニタリング)が行なわれている。
【0004】
各測定局におけるモニタリングには、日本工業規格 JIS B 7953:2004「大気中の窒素酸化物自動計測器」に規定の「化学発光方式計測器」が用いられる。
【0005】
化学発光方式の窒素酸化物計測器(以下、「窒素酸化物測定装置」と呼ぶ)としては、前記JISに、a)流路切替方式、b)光路切替方式およびc)二流路二光路切替方式が記載されている。これらはいずれも、試料ガス(サンプリングした大気)を、二酸化窒素を一酸化窒素に変換(還元)する「コンバータ」と呼ばれる変換器を経由する第1のガス流路と経由しない第2のガス流路の、2つの試料ガス流路(配管)を備えている。
【0006】
そして、コンバータを通して「反応槽」に導入した窒素酸化物濃度〔一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)の合計量〕から、コンバータを通さずに反応槽に導入した場合の測定値〔すなわち、一酸化窒素(NO)だけの濃度〕を差し引いて、環境基準に定められた「二酸化窒素(NO)の濃度」を求めている。
【0007】
コンバータには、モリブデン(Mo)触媒あるいは炭素(C)を使用した、二酸化窒素コンバータが用いられる。コンバータは、加熱したモリブデン触媒等の表面の化学反応により、二酸化窒素(NO)を一酸化窒素(NO)に変換する(特許文献1,2を参照)。
【0008】
なお、窒素酸化物測定装置のなかには、前述の2つのガス流路(第1のガス流路および第2のガス流路)に加え、測定装置のゼロ校正用のゼロガス(NO,NO,HNOを含まないガス)や、スパンガス(NOを装置のフルスケールの80~100%濃度のガス)等を、コンバータを通さずに反応槽に直接導入するための「校正用ガス流路」を、測定装置における3つ目(第3の)ガス流路として備えるものもある(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4543186号公報
【文献】特開2008-232649号公報
【文献】特開2008-157871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述の、窒素酸化物測定装置に用いられている、モリブデン触媒等を含むコンバータは、二酸化窒素(NO)を一酸化窒素(NO)に変換する「変換効率」が95%以上と、高性能である。
【0011】
そのため、このコンバータは、大気中の他のガス状の窒素化合物、たとえば、ガス状の硝酸(HNO)や、三酸化窒素(NO)、五酸化二窒素(N)、亜硝酸(HONO)およびニトロ化多環芳香族炭化水素(NPAH)等の「干渉成分」(いわゆる誤差成分)も、二酸化窒素(NO)と同様に一酸化窒素(NO)に変換してしまっているのではないかとの指摘がある。
【0012】
すなわち、コンバータが、これら干渉成分も変換してしまうため、干渉成分の発生が多いと考えられる環境下では、当該コンバータを通した場合の前述の窒素酸化物の測定値が、実際に存在する〔一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)の合計量〕よりも高めに計測・表示されている可能性がある。
【0013】
さらに、近年では、都市部等の環境大気が、自動車や工場等の排出ガス規制等によって改善され、規制対象である「二酸化窒素(NO)の濃度」が、いずれの測定局においても常時低い状態となってきている。そのため、測定された二酸化窒素の濃度値(測定結果)に占める、上記「干渉成分」による上ぶれ(誤差)の割合が増えて、真正の「二酸化窒素(NO)の濃度値が、分かり難くなっている怖れがある。
【0014】
そこで、本発明は、干渉成分の影響を排除した、正確な二酸化窒素濃度を計測することのできる窒素酸化物測定装置を提供することを課題および目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の窒素酸化物測定装置は、試料ガスとなる大気を外部から導入する大気導入口と、前記試料ガス中の粒子状物質を除去する除塵フィルタと、オゾン発生器と、前記試料ガスおよび前記オゾン発生器で発生したオゾンを導入して混合する反応槽と、前記反応槽内で発生する、一酸化窒素とオゾンとの反応に基づく化学発光の光強度を測定する光電測定部と、一酸化窒素以外の窒素酸化物を一酸化窒素に変換するコンバータと、一酸化窒素および二酸化窒素以外の、ガス状の硝酸を含む窒素酸化物を吸着除去する硝酸スクラバと、前記大気導入口から導入された試料ガスを前記反応槽まで流過させる吸引ポンプと、該吸引ポンプと複数の電磁式切替弁とを制御する制御部と、を備える。
窒素酸化物測定装置は、複数の配管と複数の電磁式切替弁とから構成されるガス流路として、
前記コンバータおよび前記硝酸スクラバのいずれも経由せず、前記大気導入口から導入された大気を試料ガスとして前記反応槽に流過させる第1のガス流路と、
前記硝酸スクラバを経由せず、前記コンバータを経由して、試料ガスを前記反応槽に供給する第2のガス流路と、
前記硝酸スクラバおよび前記コンバータを順に経由して、試料ガスを前記反応槽に供給する第3のガス流路と、を含み、
前記第1のガス流路、前記第2のガス流路および前記第3のガス流路が、相互に切り替え可能に構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の窒素酸化物測定装置のなかでも、ゼロ校正用のゼロガス精製器を備えるものは、前記硝酸スクラバおよび前記コンバータを経由せず、前記ゼロガス精製器を経由して、生成されたゼロガスを前記反応槽に供給する、第4のガス流路を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の窒素酸化物測定装置は、前記硝酸スクラバが、アミド樹脂を含む成形体を用いて構成されていることを特徴とする。なかでも、前記硝酸スクラバが、一酸化窒素および二酸化窒素の透過率が90%以上であり、ガス状硝酸の除去率が90%以上である構成を、好適に採用する。
【0018】
一方、本発明の窒素酸化物測定装置は、前記制御部が、前記流路の切り替え制御を行ない、各流路における光電測定部からの出力信号を測定値として記録することが可能である場合、
試料ガスを前記第1のガス流路を通じて流過させた際に得られる第1の測定値、
試料ガスを前記第2のガス流路を通じて流過させた際に得られる第2の測定値、
試料ガスを前記第3のガス流路を通じて流過させた際に得られる第3の測定値、
を用いて、
前記第2の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素を除く窒素酸化物濃度を求める第21演算、または、
前記第3の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の二酸化窒素の濃度を求める第31演算、または、
前記第2の測定値から前記第3の測定値を差し引いて、大気中のガス状硝酸の濃度を求める第23演算、を行なう演算部をさらに備える。
【0019】
さらに、本発明の窒素酸化物測定装置のなかでも、ゼロ校正用のゼロガス精製器およびゼロガスを反応槽に供給する第4のガス流路を備えるものは、
試料ガスを前記第1のガス流路を通じて流過させた際に得られる第1の測定値、
試料ガスを前記第2のガス流路を通じて流過させた際に得られる第2の測定値、
試料ガスを前記第3のガス流路を通じて流過させた際に得られる第3の測定値、
試料ガスを前記第4のガス流路を通じて流過させた際に得られる第4の測定値、
を用いて、
前記第1の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素の濃度を求める第14演算、または、
前記第2の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の窒素酸化物の濃度を求める第24演算、または、
前記第3の測定値から前記第4の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素と二酸化窒素の合計濃度を求める第34演算、を行なう演算部をさらに備えていてもよい。
【0020】
そして、本発明の窒素酸化物測定装置のうち、前記各ガス流路が、各ガス流路における前記反応槽への導入前の位置に、ガス流路を流過するガスを該反応槽を迂回して外部に排出するバイパス流路を備え、
前記各ガス流路が、それぞれ、前記複数の電磁式切替弁の切り替えにより、ガス流路を通じて、前記外部から取り入れた大気を前記反応槽に流過させる測定用流路と、ガス流路の一部とそれに接続された前記バイパス流路とを経由して、前記外部から取り入れた大気を前記反応槽を経由せずに排出するパージ用流路と、を切り替え可能に構成されているものは、
前記制御部は、前記各ガス流路において、前記測定用流路を用いて、所定のガスの濃度測定を行なう濃度測定制御と、前記パージ用流路を用いて、前記濃度測定制御の開始前に、予め、測定に用いる前記ガス流路内を試料ガスまたはゼロガスで満たす流路パージ制御と、を実行可能であり、
前記制御部が、1つのガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、他のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行することを特徴とする。
【0021】
なお、本発明の窒素酸化物測定装置のなかでも、ゼロ校正用のゼロガス精製器およびゼロガスを反応槽に供給する第4のガス流路を備えるものは、
前記制御部が、
前記第4のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第3のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第3のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第1のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第1のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第2のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第2のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第4のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行する。
【0022】
また、ゼロ校正用のゼロガス精製器およびゼロガスを反応槽に供給する第4のガス流路を備える窒素酸化物測定装置において、
前記制御部が、
前記第4のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第3のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第3のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第1のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第1のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第2のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行し、
前記第2のガス流路に関する前記濃度測定制御の実行中に、前記第4のガス流路に関する前記流路パージ制御を実行するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の窒素酸化物測定装置によれば、干渉成分である、一酸化窒素および二酸化窒素以外の窒素酸化物、なかでも特にガス状の硝酸の影響を排除した、正確な二酸化窒素濃度を、計測することが可能になる。
【0024】
さらに、本発明の窒素酸化物測定装置のなかでも、アミド樹脂を含む成形体を用いた硝酸スクラバを備えるものは、大気中の硝酸(HNO)ガスの濃度が、二酸化窒素の正確な濃度に影響を及ぼすことを、排除することができる。なお、見方を変えれば、本発明の窒素酸化物測定装置は、大気中の硝酸(HNO)ガスの正確な濃度を測定可能であるともいえる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の窒素酸化物測定装置の概略構成図である。
図2】第1実施形態の窒素酸化物測定装置の要部構成を示す図である。
図3】(a)から(d)はそれぞれ、第1実施形態の窒素酸化物測定装置における、第1~第4の試料ガス流路の構成を説明する図である。
図4】第2実施形態の窒素酸化物測定装置の構成図である。
図5】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における第4の試料ガス流路の構成を説明する図である。
図6】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における第3の試料ガス流路の構成を説明する図である。
図7】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における第1の試料ガス流路の構成を説明する図である。
図8】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における第2の試料ガス流路の構成を説明する図である。
図9】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における、流路の切り替えの順序を示す図である。
図10】第2実施形態の窒素酸化物測定装置における、他の流路の切り替えの順序を示す図である。
図11】第2実施形態の窒素酸化物測定装置で用いた一酸化窒素コンバータによる、ガス状硝酸の変換効率と温度との関係を表すグラフである。
図12】第2実施形態の窒素酸化物測定装置で用いた硝酸スクラバによる、二酸化窒素の吸着の変化と時間との関係を示すグラフである。
図13】第2実施形態の窒素酸化物測定装置の硝酸スクラバを用いた実験におけるガス状硝酸の発生濃度の変化を示すグラフである。
図14】第2実施形態の窒素酸化物測定装置の硝酸スクラバを用いた実験におけるガス状硝酸の検出濃度の変化を示すグラフである。
図15】第2実施形態の窒素酸化物測定装置の硝酸スクラバを用いた実験における硝酸の検出濃度と発生濃度の関係を表すグラフである。
図16】第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いたフィールド試験の結果の相関関係を示すグラフであり、春(3ヶ月)に行なわれた試験の結果である。
図17】第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いたフィールド試験の結果の相関関係を示すグラフであり、夏(3ヶ月)に行なわれた試験の結果である。
図18】第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いたフィールド試験の結果の相関関係を示すグラフであり、秋(3ヶ月)に行なわれた試験の結果である。
図19】第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いたフィールド試験の結果の相関関係を示すグラフであり、冬(3ヶ月)に行なわれた試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態における窒素酸化物測定装置の概略を示す構成図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の窒素酸化物測定装置は、試料大気導入口7と、除塵フィルタ8と、除湿器(図示省略)と、オゾン発生器3と、反応槽1と、反応槽1に並設された光電測定部2と、コンバータ4A,4Bと、試料ガス(大気)吸引する吸引ポンプ10と、制御部20および演算部30とを備える。なお、仮想線(二点鎖線)で示す、ゼロガス精製器6と、流路Dとを備える場合もある。
【0028】
そして、窒素酸化物測定装置における、試料大気導入口7と反応槽1との間には、図示上から順に、大気導入口7から導入された大気を処理・加工せず、そのまま反応槽1に流過させる第1のガス流路Aと、コンバータ4Aを経由して試料ガスを反応槽1に供給する第2のガス流路Bと、スクラバ5およびコンバータ4Bを経由して試料ガスを反応槽1に供給する第3のガス流路Cとが、複数の配管と複数の切替弁等を用いて構成されている。これが、以下の各実施形態に共通の基本構成であり、本発明の窒素酸化物測定装置における特徴的構成である。
【0029】
以降の図2では、具体的な構成について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態の窒素酸化物測定装置の要部構成を示す図である。なお、以下の第1実施形態では、前述の基本的な構成に加え、ゼロガス生成器6により生成された、校正用のゼロガスを反応槽1に供給する第4のガス流路Dについても説明する。
【0030】
第1実施形態の窒素酸化物測定装置は、図示右側の試料大気吸引ポンプ10の吸引力により、図示左端に設けられた大気導入口7から、試料となる大気を吸い込むようになっている。
【0031】
大気導入口7の直後には、試料大気に含まれる、粒状(固体状)の硝酸を含む粒状物質を除去するための除塵フィルタ8と、空気(大気)中の水分による干渉影響を低減するための除湿器9とが、配設されている。
【0032】
図中、反応槽1の上側(上流側)には、オゾン発生器3が配置されている。オゾン発生器3は、別途供給される大気中の酸素からオゾンを生成して、反応槽1に供給する。
【0033】
反応槽1内では、後述するコンバータ4により、二酸化窒素(NO)から変換された一酸化窒素(NO)と、前述のオゾンの混合による化学発光が生じる。この化学発光の強度を測定するため、反応槽1に隣接して、測光部(光電測定部2)が配設されている。
【0034】
なお、反応槽1の下側(下流側)には、前述の化学発光に利用されなかった、試料ガス中の残存オゾンを分解・除去するオゾン処理器11が配置されている。オゾン処理器はオゾン分解器ともいう。
【0035】
大気導入口7(除湿器9)と反応槽1との間には、試料ガス中の二酸化窒素(NO)を一酸化窒素(NO)に変換するコンバータ4と、試料ガス中の、一酸化窒素および二酸化窒素以外の窒素酸化物の中で、特にガス状の硝酸(HNO)を吸着除去する硝酸スクラバ5と、ゼロ校正用のゼロガスを反応槽1に供給するためのゼロガス精製器6とが、配置されている。
【0036】
そして、これらコンバータ4、硝酸スクラバ5およびゼロガス精製器6は、電磁式の切替弁V1,V2,V3を用いて、各機器を経由する配管と、各機器を迂回(バイパス)する配管とが接続されており、図のように、使用する-使用しない(ON LINE-OFF LINE)が選択できるようになっている。なお、電磁式切替弁V1,V2,V3は、図示しない制御部20により制御されている。
【0037】
つぎに、これらの電磁式切替弁V1,V2,V3を動作させて、前述の第1~第4のガス流路を構成する手段について説明する。図3(a)~図3(d)は、それぞれ、電磁式切替弁により第1~第4のガス流路を構成した場合の、試料ガスの流れを示す図である。なお、これらの図において、弁の切り替えにより使用されていない、すなわち試料ガスが流れていない流路は、点線で図示している。
【0038】
上記構成の窒素酸化物測定装置において、まず、第1のガス流路を構成する場合は、いずれの切替弁も使用せず、図3(a)に示すような、ゼロガス精製器6、硝酸スクラバ5およびコンバータ4を経由せず、試料ガス(大気)がそのまま直接、反応槽1に流過する流路(図1における流路Aに相当)を構成した場合、「第1の測定値」として、オゾンと反応する「大気中の一酸化窒素」だけの濃度を測定することができる。
【0039】
また、切替弁V3を切り替え、図3(b)に示すような、ゼロガス精製器6および硝酸スクラバ5を経由せず、コンバータ4のみを経由する第2の流路(図1における流路Bに相当)を構成した場合、前述の「一酸化窒素」の濃度と、コンバータ4により一酸化窒素に変換された、一酸化窒素以外の「窒素酸化物(二酸化窒素を含む)」の濃度に加えて、硝酸スクラバ5が吸着可能な「ガス状硝酸」の濃度とが合計された、「第2の測定値」を測定することができる。
【0040】
さらに、切替弁V2を切り替え、図3(c)に示すような、従来の測定装置にはない、ゼロガス精製器6を経由せず、硝酸スクラバ5およびコンバータ4を経由する第3の流路(図1における流路Cに相当)を構成することが可能である。
【0041】
この第3の流路構成を用いることにより、硝酸スクラバ5で吸着除去される、一酸化窒素および二酸化窒素以外の「窒素酸化物」の影響のない、〔一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)の合計量〕を、「第3の測定値」として測定することができる。
【0042】
そして、切替弁V1のみを作動させ、図3(d)に示すような、ゼロガス精製器6を経由し、硝酸スクラバ5およびコンバータ4を経由しない第4の流路(図1における流路Dに相当)を構成した場合は、機器の校正(キャリブレーション)またはリファレンス、ブランク等に用いる「第4の測定値」を得ることができる。
【0043】
以上の構成を備え、前述の第1~第4の測定値を測定して記憶することが可能な第1実施形態の窒素酸化物測定装置は、演算部30または制御部20が備える演算部門による種々の値の演算が可能である。
【0044】
すなわち、窒素酸化物測定装置の演算部30は、前記第2の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の一酸化窒素を除く窒素酸化物の濃度(NO+HNO)を求める「第21演算」を実行することができる。
【0045】
また、前記第3の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、大気中の二酸化窒素の濃度(NO)を求める「第31演算」を実行できる。これにより、大気中の硝酸ガス等の窒素酸化物(干渉成分)の影響を排除した、より正しい、大気中の二酸化窒素濃度を測定することができる。
【0046】
なお、以上の第1実施形態は、JISに記載の3つの様式の化学発光方式の窒素酸化物計測器(窒素酸化物測定装置)のうち、a)流路切替方式に近似のものであるが、本発明の構成は、b)光路切替方式や、c)二流路二光路切替方式等へも適用することが可能である。
【0047】
その場合、二酸化窒素を還元するコンバータや、窒素酸化物として、ガス状の硝酸を吸着除去する硝酸スクラバ等の、個数や配置は、流路構成に応じて適宜変更することができる。コンバータやスクラバは、第1~第4のガス流路で共用できるよう1個のみ配設してもよいし、共用せず、各流路に個別に配置してもよい。また、反応槽や光電測定部、除塵フィルタ、除湿器等も、流路や光路の数に合わせて、適宜変更することができる。
【0048】
たとえば、図1のように、第2のガス流路と第3のガス流路のそれぞれに、別のコンバータ4A,4Bを配設すれば、これらの応答速度を向上させることができる。
【0049】
また、たとえば、反応槽と光電測定部とを、第1,第2,第3のガス流路に対応する第1対目の反応槽および光電測定部の組と、第2,第3,第4のガス流路に対応する第2対目(2つ目)の反応槽および光電測光部の組とに分けて、2組設けた場合も、これらの応答速度を向上させることができる。
【0050】
つぎに、第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いて、前記第2の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、「環境基準に定められた二酸化窒素(実質上、NO+HNO)の濃度」を求める「第21演算」と、前記第3の測定値から前記第1の測定値を差し引いて、光化学オキシダント(スモッグ)等の原因となる、硝酸(HNO)ガス等の「干渉成分の影響を受けていない二酸化窒素(以下、純NO)の濃度」を求める「第31演算とを、実際の屋外環境下で、フィールド試験として並行して作動させた結果について説明する。
【0051】
まず、フィールド試験に用いた、第2実施形態の窒素酸化物測定装置は、図4に示すような構成をとる。すなわち、屋外に設置した窒素酸化物測定装置は、第1実施形態の窒素酸化物測定装置と同様、大気導入口7と、粒子状の硝酸を取り除くための除塵フィルタ8と、複数の除湿器9と、反応槽1、光電測定部2(測光部)と、オゾン発生器3と、オゾン処理器11と、複数の配管および複数の電磁式切替弁からなる流路と、吸引ポンプ10等とを含む。
【0052】
なお、大気中の硝酸として、ガス状の硝酸とともに、粒子状の硝酸アンモニウムや硝酸ナトリウム等が知られているが、大気導入口7の下流の除塵フィルタ8によって、粒子状の硝酸は除去されている。複数の除湿器9には、窒素酸化物の吸着の少ない、ナフィオンチューブ製のものが使用されている。また、ゼロ校正用に、ゼロガス精製器6を備える。
【0053】
さらに、前述の、除塵フィルタ8、ナフィオンチューブ製の除湿器9、硝酸スクラバ5、切替弁等は、硝酸を含む窒素酸化物の吸着が懸念されるため、図4における点線内の構成は、恒温室等の温度調整された環境に置かれている。
【0054】
そして、各電磁式切替弁の動作により、第1実施形態と同様の、第1~第4のガス流路A~Dが構成されるようになっている。図5図8は、このような切替弁の動作により構成される流路を示す要部構成図である。なお、図5図8において、動作中の、試料ガスが流れている流路は太線の実線で示される。また、点線で示す流路は、試料ガスが流れることのバックグラウンドで動作する、パージラインを示している。
【0055】
図5に示す第4のガス流路の場合、試料ガス(大気)は、ゼロガス精製器6のみを経由して反応槽1まで流過するため、いずれの窒素酸化物の濃度も測定されない。
【0056】
図6に示す第3のガス流路の場合、試料ガスは、硝酸スクラバ5およびコンバータ4を経由して反応槽1まで流過するため、大気中の一酸化窒素と二酸化窒素の合計濃度(硝酸等の窒素酸化物を除く)が測定される。
【0057】
図7に示す第1のガス流路の場合、試料ガスは、ゼロガス精製器6、硝酸スクラバ5およびコンバータ4を経由せず、反応槽1にそのまま流過する。そのため、大気中の一酸化窒素の濃度だけが測定される。
【0058】
図8に示す第2のガス流路の場合、試料ガスは、コンバータ4のみを経由して反応槽1まで流過するため、大気中の一酸化窒素と二酸化窒素と硝酸等の窒素酸化物の合計濃度が測定される。
【0059】
なお、以上の第2実施形態についても第1実施形態と同様に、JISに記載の3つの様式の化学発光方式の窒素酸化物計測器(窒素酸化物測定装置)のうち、a)流路切替方式に近似のものであるが、本発明の構成は、b)光路切替方式や、c)二流路二光路切替方式等へも適用することが可能である。その場合、二酸化窒素を還元するコンバータや、窒素酸化物として、ガス状の硝酸を吸着除去する硝酸スクラバ等の、個数や配置は、流路構成に応じて適宜変更することができる。すなわち、コンバータやスクラバは1個のみ配設してもよいし、共用せず、各流路に個別に配置してもよい。また、反応槽や光電測定部、除塵フィルタ、除湿器等も、流路や光路の数に合わせて、適宜変更することができる。
【0060】
つぎに、各流路の「パージ」について説明する。
なお、本発明において「パージ」(流路パージ)とは、次に測定に用いるガス流路内を試料ガスまたはゼロガスで満たすことを言い、流路内の清浄や浄化等を行なうことに加え、次の測定の測定値の立ち上がりを良くして、精度・感度を上げるための操作全般を含む。
【0061】
第2実施形態の窒素酸化物測定装置が、前述の図の表示順、すなわち、図5(第4の流路)、図6(第3の流路)、図7(第1の流路)、図8(第2の流路)の順にガス流路を切り替える動作を行うものである場合、先にも述べたように、流路に試料ガスを流すバックグラウンドでは、次に使用する流路のパージが行なわれている。図9は、このパージの操作手順の概略を示す図である。
【0062】
すなわち、図5図8において点線で示したパージライン(流路)は、試料ガスの濃度測定と同時に、バックグラウンドで進行している。
【0063】
たとえば、窒素酸化物測定装置の制御部20は、図5に示す、第4のガス流路に関連するゼロ校正の実行中に、第3のガス流路内を試料ガスで満たす、流路パージを行なっている。
【0064】
また、図6に示す、第3のガス流路に関連する濃度測定の実行中に、次に使用する第1のガス流路内を試料ガスで満たす、流路パージを行なっている。
【0065】
さらに、図7に示す、第1のガス流路に関連する濃度測定の実行中に、次に使用する第2のガス流路内を試料ガスで満たす、流路パージを行なっている。
【0066】
そして、図8に示す、第2のガス流路に関連する濃度測定の実行中には、次に使用する第2のガス流路内を試料ガスで満たす、流路パージが行なわれている。
【0067】
なお、図9にも示すように、これらの操作手順は、測定のあいだ中、ループ状に繰り返される。たとえば、各測定および各パージは、15秒間を一つの単位として、全体として1分間のサイクルタイムで繰り返し行なわれる。
【0068】
また、測定のサイクルは、図9図5図8)に記載のサイクルに限定されるものではなく、たとえば図10に示すように、図7(第1の流路)、図6(第3の流路)、図5(第4の流路)、図8(第2の流路)の順にガス流路を切り替える動作を行ってもよい。
【0069】
つぎに、第2実施形態の窒素酸化物測定装置で用いたコンバータ4について、別途行なった測定の結果を、図11に示す。
【0070】
図11は、そのコンバータの硝酸に関する、温度あたりの変換効率について行なった実験の結果を示すグラフである。
【0071】
このように、使用したコンバータは、約300℃で、ほぼ全量の硝酸を一酸化窒素(NO)に変換することが分かった。また、二酸化窒素から一酸化窒素への変換効率も、ほぼ100%であった。さらに、干渉成分(アンモニア)の影響を、JISに示されている方法にしたがって測定したところ、約1ppmのアンモニアを導入した時の出力は、4ppb未満であった。
【0072】
また、第2実施形態で使用した硝酸スクラバ5に関し、図12は硝酸スクラバによる時間あたりの二酸化窒素の吸着量の変化を示すグラフである。
【0073】
図12のグラフは、気相滴定法により、NOよりNOを生成させた実験の結果である。気相滴定法は、一定量のNOに対して、オゾンを添加し、NOを生成させている。グラフ(実験)内容を説明すると、8~21分の区間では、約300ppbのNO存在下に、オゾンを添加していないので、NOは0ppb、NOは約300ppbを示した。この時、硝酸スクラバを通過させたものは約300ppb、硝酸スクラバを通過させないものも、300ppbであった。
【0074】
ついで、グラフ(実験)における、24~31分の区間では、一度、NOを0ppbにして、ゼロ点を確認した。32分の位置より、NOを300ppb相当添加するとともに、オゾンを添加した。40~50分の区間では、NOは205ppb、NOは91ppbと、一定の値を示した。この時、硝酸スクラバを通過させたものは約300ppb、硝酸スクラバを通過させないものも約300ppbであり、2%以内で一致した。このことより、NOの硝酸スクラバによる吸着は、ほとんど無視できることが分かった。
【0075】
つぎに、同じ硝酸スクラバ5に関し、図13は、その硝酸スクラバによる硝酸の吸着量の時間変化を示すグラフである。
【0076】
図13のグラフは、HNO(ガス状)を約500ppb発生させ、硝酸スクラバに通して、スクラバに捕集されずに通過したHNOを測定した実験の結果である。通過したHNOは、0~15時間の間は1%未満であり、15~20時間で1~2%であった。
【0077】
図14および図15は、上記図13の結果を、発生させた硝酸量に対するスクラバ通過量(吸着量の逆数)として示したものである。このように、硝酸スクラバは、硝酸の通過量が上昇しない、言い換えれば、硝酸の吸着量は低下し難いといえる。実大気のHNO濃度は20ppb以下であることが予想さるので、たとえ、HNOが20ppb存在し続けたとしても、問題なく、ガス状の硝酸を2週間程度、捕集し続けられることが分かった。
【0078】
そして、図16図19に、前述の第2実施形態の窒素酸化物測定装置を用いた、フィールド試験の結果を示す。このフィールド試験は、2016年1月から2018年12月まで、3年間にわたり行われたもので、3月~5月を春期間、6月~8月を夏期間、9月~11月を秋期間、12月~2月を冬期間として、各季節(シーズン)を3回ずつ計測している。二酸化窒素の濃度測定は、1時間に一回、各期間とも、1500~2000回以上に及ぶ測定を、3回(3年間)継続したものである。
【0079】
各グラフは、特定の日時に、前述の「第21演算」により得られた値〔NO+HNOの濃度〕を横軸とし、同日の同時刻に並行して得られた、前記の「第31演算」によりHNOの影響を抑えた〔NOの濃度〕を縦軸として、それぞれプロットした散点グラフである。
【0080】
すなわち、各グラフは、環境基準に定める、前記第2の測定値から前記第1の測定値を差し引いた、硝酸等の干渉成分を含む「二酸化窒素(NO)の濃度」と、前記第3の測定値から前記第1の測定値を差し引いた、干渉成分による干渉のない、「二酸化窒素のみの濃度」との相関を表すグラフになっている。
【0081】
見方を変えれば、「干渉成分」としての「ガス状の硝酸」の影響(濃度)を表すグラフであるともいえる。
【0082】
通常、大気中の硝酸は、ガス状(気体)として存在する。しかしながら、大気中には、ガス状の硝酸の他、粒子状のNHNOやNaNOが存在し、大気中に浮遊しているNHNOは、温度(気温)が上がると、ガス状の硝酸やアンモニアに、可逆的に変化する。これにより、気温の高い夏場は、ガス状硝酸が大気中に多く存在し、前記のJISモードにより得られた、環境基準に定める「二酸化窒素(NO)の濃度」に干渉して、その値を上昇させている(底上げしている)と考えられている。
【0083】
これらのグラフによれば、気温の低い冬場に相当する図19のグラフは、第21演算と第31演算の相関が高いのに対して、気温の高い夏場に相当する図17のグラフは、第21演算と第31演算の相関が低下している。この結果は、前述の、ガス状の硝酸等の干渉成分が、大気中に、夏場に多く存在し、冬場に少なくなるという事実と、よく整合している。
【0084】
以下、本発明に関連する種々の語句(用語)とその定義について説明する。
【0085】
「NOx」とは、窒素と酸素の化合物の総称である。「NOx」には、広義のNOxと、狭義のNOxとがあるが、一般的には、広義のNOxをいう。「NOx」とは、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素、笑気)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(無水硝酸)(N)などを合わせた言葉である。
【0086】
なお、狭義のNOxとは、NOとNOを合わせたもの、もしくは、NOとNOの物質量の合計値をいう。
【0087】
本発明では、コンバータによって、一酸化窒素に変換される大気中の窒素酸化物として、二酸化窒素(NO)とガス状硝酸(HNO)を挙げて説明を行ったが、コンバータによって一酸化窒素に変換される物質として、反応性窒素酸化物「NOy」と称する場合もある。
【0088】
また、除塵フィルタを導入せずにコンバータに大気を導入すると、粒子状物質中の硝酸粒子もコンバータによって変換されるので、NOyは粒子状を含めて、表現される場合もある。
【0089】
NOy=NO+NO+NO+2N+HNO+HONO+HONO+ニトロ化多環芳香族炭化水素(NPAH)+有機硝酸塩(RONO,RONO)+(エアロゾル中の硝酸イオン)
【0090】
また、粒子状の硝酸を除いたガス状物質のNOyについて、
NOy=NOz+NOx
NOx=NO+NO
と表現される場合もある。
【0091】
この場合、「NOz」とは、HNO+HONO+2N+HONO+ニトロ化多環芳香族炭化水素(NPAH)(ただし、NHは含まない)とする場合もある。
【0092】
なお、ガス中の窒素酸化物の主要な成分として、NO、NO、HNOなので、本発明ではNOyを使わずに記載した。第21演算をNOy、第23演算をNOz、とすることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 反応槽
2 光電測定部
3 オゾン発生器
4,4A,4B コンバータ
5 硝酸スクラバ
6 ゼロガス精製器
7 試料大気導入口
8 除塵フィルタ(粒子フィルタ)
9 除湿器
10 吸引ポンプ
11 オゾン処理器
20 制御部
V 電磁式切替弁(バルブ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図19