(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】プーリ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 9/12 20060101AFI20230523BHJP
F16H 55/52 20060101ALI20230523BHJP
F16B 9/02 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F16H9/12 A
F16H55/52
F16B9/02 G
(21)【出願番号】P 2019123730
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】木本 優
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161027(JP,A)
【文献】特開2017-089672(JP,A)
【文献】特開2006-038124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16H 55/52
F16B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブと、
前記固定シーブから軸方向に延びる円筒状のボス本体部、及び前記ボス本体部の先端部の外周面上に形成される溝部、を有する固定ボスと、
外周面にネジ部を含み前記ボス本体部の先端部を覆う円筒状の取付本体部、及び前記取付本体部の内周面から径方向内側に突出して前記溝部内に係合する突出部、を有
し、前記固定ボスよりも弾性率が大きい材料で構成される取付部材と、
前記固定ボスの先端部に取り付けられるドライブプレートと、
前記取付本体部のネジ部と螺合し、前記ドライブプレートを締結するナット部材と、
を備える、プーリ装置。
【請求項2】
前記固定ボスは、前記先端部の外周面において、径方向外側を向く第1平坦面を有し、
前記ドライブプレートは、前記第1平坦面と対向する第2平坦面を含む取付孔を有する、
請求項1に記載のプーリ装置。
【請求項3】
前記溝部は、前記第1平坦面において周方向に開口する、
請求項2に記載のプーリ装置。
【請求項4】
前記取付部材は、前記第2平坦面と対向する第3平坦面を外周面に有する、
請求項2又は3に記載のプーリ装置。
【請求項5】
前記固定シーブと前記固定ボスとは、互いに1つの部材によって構成されている、
請求項1から4のいずれかに記載のプーリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクータ型の自動二輪車などでは、ベルト式の無段変速機が採用されている。この無段変速機は、駆動プーリ装置と、従動プーリ装置と、ベルトとを備えている。ベルトは、駆動プーリ装置と従動プーリ装置との間に架けられている。
【0003】
従動プーリ装置は、固定シーブ、可動シーブ、固定ボス、及び可動ボスを有している(特許文献1)。固定シーブと可動シーブとによって、ベルトを挟持している。可動ボスは可動シーブに固定されており、固定ボスは固定シーブに固定されている。一般的に、固定ボス及び固定シーブは鉄鋼製であり、溶接によって互いに固定されている。そして、固定ボスの先端部に形成されたネジ部に螺合されるナットによって、ドライブプレートは固定ボスに締結されている。
【0004】
プーリ装置の製造コストを低減するため、例えば特許文献2に記載のプーリ装置では、固定ボスと固定シーブとをアルミダイキャストによって一体的に形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-86342号公報
【文献】特許第3412741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような理由等によって、プーリ装置の固定ボスをアルミニウム合金等のような鉄鋼などよりも弾性率の小さい材料で形成したいという要望がある。しかしながら、固定ボスを弾性率の小さい材料によって形成すると、従来の鉄鋼製の固定ボスに比べて強度が低下する。このため、ナットの締結力に対する強度が不足し、ネジ部が破損するなどの問題が生じるおそれがあった。そこで、本発明では、ナットの締結力に対する強度の低下を抑制することができるプーリ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある側面に係るプーリ装置は、固定シーブと、固定ボスと、取付部材と、ドライブプレートと、ナット部材とを備える。固定ボスは、円筒状のボス本体部と、溝部とを有する。ボス本体部は、固定シーブから軸方向に延びる。溝部は、ボス本体部の先端部の外周面上に形成される。取付部材は、取付本体部及び突出部を有する。取付本体部は、円筒状である。取付本体部は、ボス本体部の先端部を覆う。取付本体部は、外周面にネジ部を含む。突出部は、取付本体部の内周面から径方向内側に突出し、溝部内に係合する。ドライブプレートは、固定ボスの先端部に取り付けられる。ナット部材は、取付本体部のネジ部と螺合し、ドライブプレートを締結する。
【0008】
この構成によれば、ナット部材は、固定ボスに取り付けられるのではなく、固定ボスに取り付けられる取付部材に螺合する。このため、取付部材を固定ボスよりも弾性率が大きい材料によって形成することによって、固定ボスを弾性率の小さい材料で形成しても、ナットの締結力に対する強度の低下を抑制することができる。例えば、固定ボスと固定シーブとは、互いに一体的に形成しやすいアルミニウム合金製とし、ナット部材が取り付けられる取付部材は強度確保のために鉄製とすることができる。
【0009】
好ましくは、固定ボスは、先端部の外周面において、第1平坦面を有する。第1平坦面は、径方向外側を向いている。そして、ドライブプレートは、第2平坦面を含む取付孔を有する。第2平坦面は、第1平坦面と対向する。
【0010】
好ましくは、溝部は、第1平坦面において周方向に開口する。
【0011】
好ましくは、取付部材は、第2平坦面と対向する第3平坦面を外周面に有する。
【0012】
好ましくは、固定シーブと固定ボスとは、互いに1つの部材によって構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ナットの締結力に対する強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】取付部材が取り付けられた固定ボスの側面図。
【
図6】固定ボスへの取付部材の取付方法を示す分解斜視図。
【
図7】固定ボスへの取付部材の取付方法を示す斜視図。
【
図8】固定ボスへの取付部材の取付方法を示す斜視図。
【
図13】固定ボスに取り付けられるドライブプレートを示す斜視図。
【
図14】ドライブプレートを固定ボスに締結するナット部材を示す側面断面図。
【
図15】ドライブプレートを固定ボスに締結するナット部材を示す斜視図。
【
図16】ドライブプレートを固定ボスに締結するナット部材を示す背面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るプーリ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係るプーリ装置100は、従動側のプーリ装置100である。この従動側のプーリ装置100には、駆動側のプーリ装置(図示省略)からベルト120を介してトルクが伝達される。ベルト120は、トルクを伝達するための部材である。
【0016】
図1は、プーリ装置100の側面断面図である。なお、以下の説明において、回転軸Oとは、プーリ装置100の回転軸を意味する。また、軸方向とは、回転軸Oが延びる方向を意味する。軸方向の第1側とは
図1の左側を意味し、軸方向の第2側とは、
図1の右側を意味する。径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味する。径方向の外側とは、径方向において回転軸Oから離れる側を意味し、径方向の内側とは、径方向において回転軸Oに近付く側を意味する。周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0017】
[プーリ装置]
プーリ装置100は、固定シーブ1と、固定ボス2と、取付部材3と、可動シーブ4と、可動ボス5と、ナット部材104と、遠心クラッチ10とを備えている。また、プーリ装置100は、カム機構8、スプリング90、及びスプリングシート9なども備えている。
【0018】
[固定シーブ]
固定シーブ1は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。固定シーブ1の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定シーブ1は、軸方向において、可動シーブ4の第2側に配置されている。固定シーブ1は、軸方向に移動しないように固定されている。
【0019】
固定シーブ1は、円板状である。固定シーブ1の対向面11は、径方向の外側にいくにしたがって、可動シーブ4から離れるように傾斜している。すなわち、対向面11は、径方向の外側に向かって、軸方向の第2側に傾斜している。なお、固定シーブ1の対向面11は、可動シーブ4に対向する面である。すなわち、固定シーブ1の対向面11は、軸方向の第1側を向いている。
【0020】
[固定ボス]
固定ボス2は、固定シーブ1と一体的に回転する。固定ボス2は、固定シーブ1と一体的に形成されている。すなわち、固定シーブ1と固定ボス2とは、一つの部材によって形成されている。例えば、固定ボス2は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。固定ボス2は、円筒状であって、固定シーブ1から軸方向の第1側に延びている。固定ボス2の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。固定ボス2内には、複数の軸受部材110が取り付けられている。固定ボス2は、軸受部材110を介して、出力軸に相対回転可能に支持されている。
【0021】
図2に示すように、固定ボス2は、ボス本体部21と、溝部22とを有する。ボス本体部21は、軸方向に延びる円筒状である。ボス本体部21は、固定シーブ1から軸方向の第1側に延びている。
【0022】
ボス本体部21の先端部211の外径は、他の部分の外径よりも小さい。このため、ボス本体部21は先端部211と他の部分との境界に段差部212を有している。なお、ボス本体部21の先端部211は、ボス本体部21の軸方向における第1側の端部を意味する。すなわち、ボス本体部21の先端部211は、ボス本体部21の両端部のうち、固定シーブ1と反対側の端部である。
【0023】
先端部211は、第1部分211aと第2部分211bとを有する。第1部分211aは、溝部22よりも先端側(軸方向の第1側)の部分であり、第2部分211bは、溝部22よりも基端側(軸方向の第2側)の部分である。第1部分211aの外径は、第2部分211bの外径よりも小さい。
【0024】
溝部22は、ボス本体部21の先端部211の外周面上に形成されている。溝部22は、環状に延びている。なお、特に限定されるものではないが、溝部22の深さは、例えば、0.5~2mm程度である。また、溝部22の幅は、例えば、1~1.5mm程度である。
【0025】
図2及び
図3に示すように、ボス本体部21は、一対の第1平坦面23を有している。一対の第1平坦面23は、軸方向に延びている。また、一対の第1平坦面23は、互いに平行に延びている。一対の第1平坦面23は、先端部211の外周面に形成されている。一対の第1平坦面23は、径方向外側を向いている。なお、各第1平坦面23は、第1部分211aと第2部分211bとに亘って延びている。
【0026】
各第1平坦面23は、溝部22の底面よりも径方向内側に配置されている。このため、溝部22は、一対の第1平坦面23において、途切れている。溝部22は、一対の第1平坦面23において、周方向に開口している。
【0027】
[取付部材]
図4に示すように、取付部材3は、固定ボス2の先端部211に取り付けられる。取付部材3は、固定ボス2と別部材である。取付部材3と固定ボス2とは接合されていない。取付部材3は、固定ボス2よりも弾性率が大きい材料で構成されている。取付部材3は、例えば、金属製であり、好ましくは鉄製または鋼製である。
【0028】
図4及び
図5に示すように、取付部材3は、環状部31、取付本体部32、及び一対の突出部33を有している。環状部31、取付本体部32、及び一対の突出部33は一つの部材によって構成されている。環状部31は、円環状である。環状部31は、円板状であって、中央に貫通孔を有している。
【0029】
取付本体部32は、環状部31の外周端部から軸方向に延びている。取付本体部32は、円筒状である。取付本体部32の外周面には、ネジ部321が形成されている。
【0030】
取付本体部32は、ボス本体部21の先端部211を覆うように配置されている。取付本体部32は、ボス本体部21の先端部211のうち一部を覆っている。詳細には、取付本体部32は、先端部211の第1部分211aを覆っている。
【0031】
一対の突出部33は、取付本体部32の内周面から径方向内側に突出している。一対の突出部33は、軸方向において、取付本体部32の第2側端部に配置されている。一対の突出部33は、溝部22内に係合している。突出部33の厚さ(軸方向の寸法)は、溝部22の幅と同じか、溝部22の幅よりもわずかに小さい。突出部33は、溝部22に沿って摺動可能である。
【0032】
一対の突出部33同士の距離は、溝部22の底面における直径と同じか、溝部22の底面における直径よりわずかに大きい。好ましくは、突出部33の先端面は、溝部22の底面と接触している。また、一対の突出部33同士の距離は、一対の第1平坦面23同士の距離と同じか、一対の第1平坦面23同士の距離よりわすかに大きい。
【0033】
取付部材3は、一対の第3平坦面34を有している。一対の第3平坦面34は、取付本体部32の外周面に形成されている。一対の第3平坦面34は、軸方向に延びている。また、一対の第3平坦面34は、互いに平行に延びている。一対の第3平坦面34は、径方向外側を向いている。
【0034】
ここで、取付部材3を固定ボス2に取り付ける方法について説明する。
【0035】
図6に示すように、取付部材3の突出部33が周方向において固定ボス2の第1平坦面23と位置が合うように、取付部材3を配置する。この状態で取付部材3を固定ボス2側に移動させて、
図7に示すように、取付部材3を固定ボス2の先端部211に被せる。この状態において、取付部材3の突出部33は、第1平坦面23と対向している。また、取付部材3の環状部31が固定ボス2の先端面(軸方向の第1側端面)と当接することによって、軸方向に位置決めされる。なお、取付部材3の突出部33は、固定ボス2の溝部22と軸方向における位置が同じである。
【0036】
次に、
図8に示すように、取付部材3を固定ボス2に対して回転させる。この結果、取付部材3の一対の突出部33が溝部22に係合され、取付部材3が固定ボス2から軸方向に外れることを防止できる。なお、第3平坦面34が第1平坦面23と実質的に同一面内に配置されるように、取付部材3を固定ボス2に対して回転させる。
【0037】
[可動シーブ]
図1に示すように、可動シーブ4は、回転軸Oを中心に回転するように配置されている。可動シーブ4の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動シーブ4は、回転軸Oに沿って移動するように配置されている。すなわち、可動シーブ4は、軸方向に移動するように配置されている。可動シーブ4は、軸方向に移動することによって、固定シーブ1に対して接近及び離間する。可動シーブ4は、軸方向において、固定シーブ1の第1側に配置されている。
【0038】
可動シーブ4は、円板状である。可動シーブ4の対向面41は、径方向の外側にいくにしたがって、固定シーブ1から離れるように傾斜している。すなわち、対向面41は、径方向の外側に向かって、軸方向の第1側に傾斜している。
【0039】
可動シーブ4の対向面41は、固定シーブ1に対向する面である。すなわち、可動シーブ4の対向面41は、軸方向の第2側を向いている。固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とは、間隔をあけて対向している。固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とによって、V溝が形成されている。可動シーブ4が軸方向に移動することによって、V溝の溝幅が変わる。このV溝内において、ベルト120が配置されている。なお、固定シーブ1の対向面11と、可動シーブ4の対向面41とによって、ベルト120を挟持している。
【0040】
可動シーブ4は、軸方向の第1側に突出する環状の支持壁部42を有している。この支持壁部42は、可動ボス5の径方向外側に配置されている。この支持壁部42と可動ボス5との間に、スプリング90の端部が配置される。
【0041】
[可動ボス]
可動ボス5は、可動シーブ4と一体的に回転する。また、可動ボス5は、可動シーブ4と一体的に軸方向に移動する。本実施形態では、可動ボス5と可動シーブ4とは一つの部材で形成されている。なお、可動ボス5と可動シーブ4とは、別部材によってそれぞれ形成されており、互いに固定されることによって、一体的に回転及び軸方向に移動してもよい。例えば、可動シーブ4と可動ボス5とを溶接またはろう付けなどによって固定することができる。
【0042】
可動ボス5は、円筒状であって、可動シーブ4から軸方向に延びている。詳細には、可動ボス5は、可動シーブ4から軸方向の第1側に延びている。すなわち、可動ボス5は、固定シーブ1から遠ざかる方向に延びている。可動ボス5の中心軸は、回転軸Oと実質的に同軸上に配置されている。可動ボス5は、固定ボス2の径方向外側に配置されている。すなわち、可動ボス5内を固定ボス2が軸方向に延びている。可動ボス5は、固定ボス2上を摺動可能に配置されている。
【0043】
可動ボス5は、その先端部51(軸方向の第1側端部)に複数のカム部81が形成されている。各カム部81は、周方向において間隔をあけて配置されている。各カム部81は、軸方向の第1側に延びている。
【0044】
可動ボス5は、例えば、金属製である。具体的には、可動ボス5は、鋼製又はアルミニウム合金製である。より具体的には、可動ボス5は、炭素鋼及び合金鋼よりなる群から選ばれる少なくとも一種によって形成される。
【0045】
可動ボス5は、グリスを介さずに、固定ボス2上を摺動可能である。具体的には、可動ボス5の内周面に摺動部材50が取り付けられている。この摺動部材50を介して、可動ボス5は、固定ボス2上を摺動する。摺動部材50は、可動ボス5よりも摩擦係数が低い。
【0046】
[摺動部材]
摺動部材50は、可動ボス5の内周面に取り付けられている。摺動部材50は円筒形状である。摺動部材50の内周面は、固定ボス2の外周面と接触している。摺動部材50は、可動ボス5の内周面に形成された段差、及び止め輪などによって、軸方向の移動が規制される。
【0047】
摺動部材50は、例えば樹脂製である。摺動部材50は、樹脂層を有するとともに、樹脂層の外周面に形成された金属層及び焼結体層などを有していてもよい。摺動部材50の摩擦係数は、可動ボス5の摩擦係数よりも小さい。具体的には、摺動部材50は、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種によって形成される。このように、摺動部材50は、可動ボス5よりも摩擦係数が小さいため、可動ボス5は、摺動部材50を介して、固定ボス2上をスムーズに摺動することができる。
【0048】
[スプリング]
スプリング90は、軸方向において可動シーブ4を固定シーブ1に向かって付勢する。すなわち、スプリング90は、可動シーブ4を軸方向の第2側に向かって付勢している。これによって、固定シーブ1と可動シーブ4とが、ベルト120を挟持する。スプリング90は、例えばコイルスプリングとすることができる。スプリング90は、可動ボス5を囲むように、可動ボス5の径方向外側に配置されている。
【0049】
[スプリングシート]
スプリングシート9は、スプリング90を支持するように構成されている。
図9及び
図10に示すように、スプリングシート9は、円筒部91、フランジ部92、及び複数のカム受け部82を有する。スプリングシート9は、例えば樹脂製である。具体的には、スプリングシート9は、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。円筒部91、フランジ部92、及び各カム受け部82は、1つの部材によって一体的に形成されている。
【0050】
円筒部91は、可動ボス5の径方向外側に配置されている。また、円筒部91は、スプリング90の径方向内側に配置されている。すなわち、円筒部91は、径方向において、可動ボス5とスプリング90との間に配置されている。円筒部91は、スプリング90を径方向において支持している。
【0051】
フランジ部92は、円筒部91から径方向外側に延びている。詳細には、フランジ部92は、円筒部91の軸方向第1側の端部から径方向外側に延びている。フランジ部92は、環状である。フランジ部92は、スプリング90の軸方向の第1側の端面を支持している。すなわち、フランジ部92は、スプリング90を軸方向において支持している。
【0052】
各カム受け部82は、円筒部91の径方向の内側に配置されている。詳細には、各カム受け部82は、円筒部91の内周面に形成されている。各カム受け部82は、周方向に延びている。各カム受け部82は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。なお、この周方向において隣り合うカム受け部82の間を、カム部81が延びている。各カム受け部82は、可動ボス5の各カム部81と係合する。この各カム受け部82は、カム機構8を構成する。各カム受け部82は、凹部821を有している。凹部821は、径方向に延びている。この凹部821は、後述するドライブプレート101の一部を収容する。
【0053】
スプリングシート9は、固定シーブ1と一体的に回転する。詳細には、スプリングシート9は、軸方向の第1側に突出する嵌合部93を有している。この嵌合部93が、後述するドライブプレート101の貫通孔1011(
図12参照)に嵌合する。嵌合部93は、貫通孔1011の外周縁に沿った形状をしている。このドライブプレート101は、固定ボス2を介して固定シーブ1と一体的に回転する。このため、ドライブプレート101に取り付けられたスプリングシート9は、固定シーブ1と一体的に回転する。
【0054】
[カム機構]
図1に示すように、カム機構8は、可動ボス5とスプリングシート9とに設けられている。詳細には、カム機構8は、複数のカム部81と複数のカム受け部82とから構成される。カム部81は、上述した可動ボス5に形成されている。また、カム受け部82は、スプリングシート9に形成されている。カム機構8は、固定ボス2に対する可動ボス5の相対回転を、可動ボス5の軸方向推力に変換するように構成されている。すなわち、可動ボス5が固定ボス2よりも速い速度で回転すると、カム機構8は、可動ボス5を固定シーブ1に向かって移動させる。
【0055】
詳細には、
図11に示すように、可動ボス5の各カム部81は、カム面811を有している。カム面811は、回転方向を向き、且つ軸方向の第1側を向くように傾斜している。このカム面811が、スプリングシート9のカム受け部82に当接する。なお、回転方向とは、車両が前進する際に、可動ボス5が回転する方向である。
【0056】
このカム機構8の動作について説明する。発進時のように急加速したとき、可動シーブ4が固定シーブ1よりも速い速度で回転する。すると、可動ボス5がスプリングシート9よりも速い速度で回転する。すなわち、可動ボス5は、スプリングシート9に対して回転方向に相対的に回転する。すると、カム機構8は可動ボス5に軸方向の推力を付与し、可動ボス5は軸方向の第2側に移動する。詳細には、カム面811がカム受け部82から軸方向の第2側への反力を受け、可動ボス5が軸方向の第2側に移動する。この結果、可動シーブ4は固定シーブ1側へ移動し、ベルト120を強固に挟持する。
【0057】
[遠心クラッチ]
図1に示すように、遠心クラッチ10は、ドライブプレート101、複数のクラッチシュー102、及びクラッチハウジング103を有している。遠心クラッチ10は、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。詳細には、遠心クラッチ10は、固定ボス2の回転を、出力軸に伝達したり遮断したりするように構成されている。
【0058】
ドライブプレート101は、固定ボス2の先端部211に取り付けられている。
図12に示すように、ドライブプレート101は、固定ボス2の一対の第1平坦面23と係合するような取付孔1012を有している。軸方向視において、取付孔1012の形状は、固定ボス2の先端部211の形状と略同じである。すなわち、取付孔1012の内周面は、一対の第2平坦面1013を有している。
【0059】
図13に示すように、ドライブプレート101を固定ボス2の先端部211に取り付けた状態において、第1平坦面23と第2平坦面1013とは対向する。このため、ドライブプレート101は、固定ボス2と一体的に回転する。すなわち、ドライブプレート101は、固定ボス2と相対回転不能となる。
【0060】
また、ドライブプレート101の第2平坦面1013は、取付部材3の第3平坦面34と対向する。このため、取付部材3は、ドライブプレート101及び固定ボス2と一体的に回転する。すなわち、取付部材3は、固定ボス2及びドライブプレート101と相対回転不能となる。
【0061】
ドライブプレート101は円板状である。ドライブプレート101は、実質的に段差部を有していないように構成されているが、ドライブプレート101は段差部を有していてもよい。
【0062】
図12に示すように、ドライブプレート101は、複数の貫通孔1011を有している。各貫通孔1011は、軸方向に貫通している。また、各貫通孔1011は、周方向に延びている。各貫通孔1011は、周方向において、間隔をあけて配置されている。この貫通孔1011に、上述したスプリングシート9の嵌合部93が嵌合する。また、上述した可動ボス5の各カム部81は、ドライブプレート101と干渉しないよう、貫通孔1011内を延びている。なお、隣り合う貫通孔1011の間に配置されるドライブプレート101の一部が、上述したカム受け部82の凹部821に収容される。
【0063】
ドライブプレート101は、金属製である。具体的には、ドライブプレート101は、鋼製又はアルミニウム合金製である。より具体的には、ドライブプレート101は、炭素鋼、及び合金鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0064】
図14に示すように、ドライブプレート101は、固定ボス2の段差部212と当接することによって、軸方向の第2側への移動が規制される。また、ドライブプレート101は、ナット部材104によって、締結されている。この結果、ドライブプレート101は、軸方向の第1側への移動が規制される。
【0065】
図1に示すように、各クラッチシュー102は、円周方向の一端部がドライブプレート101に揺動可能に取り付けられている。各クラッチシュー102は、その外周面に摩擦
材を有している。各クラッチシュー102の他端部には、各クラッチシュー102を径方向の内側に付勢するようにリターンスプリング(図示省略)が取り付けられている。
【0066】
クラッチハウジング103は、各クラッチシュー102を径方向の外側から覆うように配置されている。クラッチハウジング103は、固定ボス2に相対回転可能である。詳細には、クラッチハウジング103は、ボス部1031を有している。ボス部1031の内周面には、スプライン溝が形成されている。このスプライン溝に、出力軸がスプライン係合することができる。
【0067】
遠心クラッチ10が伝達状態になると、各クラッチシュー102の摩擦材は、クラッチハウジング103の内周面と摩擦係合する。また、遠心クラッチ10が遮断状態になると、各クラッチシュー102の摩擦材は、クラッチハウジング103の内周面から離れる。なお、遠心クラッチ10の伝達状態とは、遠心クラッチ10が、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を出力軸に伝達する状態を意味する。また、遠心クラッチ10の遮断状態とは、遠心クラッチ10が、固定シーブ1及び可動シーブ4の回転を出力軸に伝達しない状態を意味する。
【0068】
[ナット部材]
図14及び
図15に示すように、ナット部材104は、取付部材3に形成されたネジ部321と螺合する。そして、ナット部材104は、ドライブプレート101を固定ボス2との間で締結する。すなわち、ドライブプレート101は、固定ボス2とナット部材104との間に挟まれて固定される。なお、ドライブプレート101の第2平坦面1013が取付部材3の第3平坦面34と対向しているため、ナット部材104を螺合している間、取付部材3が固定ボス2に対して回転することを防止できる。
【0069】
図16に示すように、ナット部材104を取付部材3に取り付けた状態において、ナット部材104は、軸方向視において、ドライブプレート101の貫通孔1011に重複しないように配置されている。ナット部材104は、外周縁が円形状である。そして、ナット部材104は、六角穴
1041を有している。
【0070】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0071】
変形例1
上記実施形態では、取付部材3は一対の突出部33を有しているが、突出部33の数はこれに限定されない。例えば、取付部材3は、1つの突出部33を有していてもよいし、3つ以上の突出部33を有していてもよい。
【0072】
変形例2
上記実施形態では、取付部材3は第3平坦面34を有しているが、取付部材3は第3平坦面34を有していなくてもよい。この場合、ナット部材104の螺合時に取付部材3が回転しないよう取付部材3を治具などによって固定しておくことが好ましい。
【0073】
変形例3
上記実施形態に係るプーリ装置100はカム機構8を備えているが、プーリ装置100はカム機構8を備えていなくてもよい。
【0074】
変形例4
固定ボス2は、摩擦係数の低い材料によって形成された摺動層を外周面に有していてもよい。
【0075】
変形例5
上記実施形態では、ドライブプレート101は円板状であったが、ドライブプレート101の形状はこれに限定されない。例えば、軸方向視において、ドライブプレート101は三角形状、又は四角形状などのような、多角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 :固定シーブ
2 :固定ボス
21 :ボス本体部
211 :先端部
22 :溝部
23 :第1平坦面
3 :取付部材
32 :取付本体部
33 :突出部
34 :第3平坦面
101 :ドライブプレート
1013 :第2平坦面
104 :ナット部材