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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230523BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20230523BHJP
   G01S 17/93 20200101ALI20230523BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G01S7/497
G01S17/93
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019124157
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021009634
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】阪下 英知
(72)【発明者】
【氏名】岡本 啓
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-221957(JP,A)
【文献】特開2011-027598(JP,A)
【文献】特開2009-204532(JP,A)
【文献】特開2012-234440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0052223(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G01S 7/497
G01S 17/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行が可能な台車と、
前記台車に設けられ、周囲に存在する物体までの距離を測定可能なセンサと、
前記台車との相対的な位置関係が既知である基準部材と、
前記センサによって前記基準部材までの距離を測定し、測定して得られた測定値のうち、既知である前記基準部材の基準位置から所定の範囲内の領域である有効領域に含まれる測定値を抽出して前記基準部材の位置を推定する推定部と、
前記基準部材の前記基準位置と推定された前記基準部材の推定位置に基づいて、前記台車に対する前記センサのずれを較正する較正部と、
を備え、
前記基準部材は、互いに異なる第1方向及び第2方向にそれぞれ沿って延びる第1平板及び第2平板を含み、
前記第1平板と前記第2平板は、接合部において接合されており、
前記較正部は、
既知である前記接合部の座標と、推定された前記接合部の座標との比較から、前記台車に対する前記センサの位置のずれを較正し、
基準軸から前記第1平板と前記第2平板が成す角の二等分線までの角度と、前記基準軸から推定された前記第1平板と前記第2平板が成す角の二等分線までの角度との比較から、前記台車に対する前記センサの姿勢のずれを較正する、
移動体。
【請求項2】
記有効領域は、前記第1平板及び前記第2平板にそれぞれ対応する第1領域及び第2領域を含み、
前記第1領域は、前記接合部から前記第1方向に沿った所定の範囲を含まず、
前記第2領域は、前記接合部から前記第2方向に沿った所定の範囲を含まない、
請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記第1領域の前記第1方向の長さは、前記第1平板の前記第1方向の長さより短く、前記第2領域の前記第2方向の長さは、前記第2平板の前記第2方向の長さより短い、
請求項2に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場等において、走行の目印となるラインなどを要さずに自律走行して物体を搬送する、いわゆるガイドレス自律搬送車が知られている。このような搬送車には、周辺環境をセンシングするために、物体までの距離を測定するセンサが搭載されており、取得された周辺環境の情報と予め記憶されたマップ情報とを照合することによって、搬送車自身の位置を同定する。
【0003】
センサを搬送車の台車に搭載する際には、台車に対するセンサの位置や姿勢が設計値からずれることがある。センサの位置や姿勢がずれたまま搬送車を走行させると、自律走行の精度が劣化するおそれがある。従って、このようなずれを較正するため、例えば下記特許文献1には、車体に設けられた基準部材をセンサによって測定し、測定結果に基づいてセンサの角度ずれを較正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-221957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物体までの距離を測定するセンサは、例えばレーザ光を照射してから物体において反射して戻ってくるまでの時間に基づいて測距を行う。このとき、物体の形状や表面の材質などの様々な要因により測距に誤差が生じたり、理想値から大きく外れた異常値が生じたりし得る。しかしながら、上記特許文献1ではこのようなセンサの誤差や異常値の存在が考慮されていないので、物体の位置の推定において異常値を含むおそれがあり、基準部材の位置の推定精度が劣化し、センサの角度ずれを精度高く較正することができない。
【0006】
そこで、本発明は、台車に対するセンサのずれの較正を精度高く行うことができる移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る移動体は、自律走行が可能な台車と、台車に設けられ、周囲に存在する物体までの距離を測定可能なセンサと、台車との相対的な位置関係が既知である基準部材と、センサによって基準部材までの距離を測定し、測定して得られた測定値のうち、既知である基準部材の基準位置から所定の範囲内の領域である有効領域に含まれる測定値を抽出して基準部材の位置を推定する推定部と、基準部材の基準位置と推定された基準部材の推定位置に基づいて、台車に対するセンサのずれを較正する較正部と、を備える。
【0008】
この態様によれば、基準部材から大きく外れた測定値を除外して基準部材の位置を推定することができるので、基準部材の位置の推定精度が向上し、ひいてはセンサのずれの較正の精度が向上する。
【0009】
上記態様において、基準部材は、互いに異なる第1方向及び第2方向にそれぞれ沿って延びる第1平板及び第2平板を含み、第1平板と第2平板は、接合部において接合されており、有効領域は、第1平板及び第2平板にそれぞれ対応する第1領域及び第2領域を含み、第1領域は、接合部から第1方向に沿った所定の範囲を含まず、第2領域は、接合部から第2方向に沿った所定の範囲を含まなくてもよい。
【0010】
この態様によれば、センサによる測定精度が比較的劣る平板と平板の接合部付近の測定値を除外して基準部材の位置を推定することができるので、基準部材の位置の推定精度がさらに向上する。
【0011】
上記態様において、第1領域の第1方向の長さは、第1平板の第1方向の長さより短く、第2領域の第2方向の長さは、第2平板の第2方向の長さより短くてもよい。
【0012】
この態様によれば、センサによる測定精度が比較的劣る平板の端部付近の測定値を除外して基準部材の位置を推定することができるので、基準部材の位置の推定精度がさらに向上する。
【0013】
上記態様において、較正部は、既知である接合部の座標と、推定された接合部の座標との比較から、台車に対するセンサの位置のずれを較正し、基準軸から第1平板と第2平板が成す角の二等分線までの角度と、基準軸から推定された第1平板と第2平板が成す角の二等分線までの角度との比較から、台車に対するセンサの姿勢のずれを較正してもよい。
【0014】
この態様によれば、台車に対するセンサの位置及び姿勢のずれの較正を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、台車に対するセンサのずれの較正を精度高く行うことができる移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る搬送車の上面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る搬送車の側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る搬送車の機能構成を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る搬送車における較正方法を示すフローチャートである。
図5】既知である治具の位置及び姿勢を示す図である。
図6】推定された治具の位置及び姿勢を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る搬送車の上面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る搬送車の側面図である。図2に示される側面図は、図1に示される白抜き矢印の方向から見た図である。本実施形態に係る搬送車10は、例えば工場、オフィス、病院又は商業施設等において、自律して移動することにより物品等を搬送する。なお、自律して移動するとは、搬送車10がユーザ等から受け付ける指示に応じて移動するのではなく、自らの判断によって目的地に移動することであってもよい。本明細書では、移動体の一具体例として台車型の搬送車10を例に説明するが、移動体は搬送車に限られず、例えば移動するロボットであってもよく、他の自律走行が可能な様々な移動体であってもよい。
【0019】
図1及び図2に示されるように、搬送車10は、台車20と、2つのレーザスキャナ30a,30bと、2つの固定穴40a,40bと、治具50と、を備える。
【0020】
台車20は、搬送車10の車体を構成し、物品等を搬送する。台車20には、図1に示されるように、台車20が走行する床面と平行な台車20の主面の平面視(以下、「上面視」ともいう)における中央RCを原点とし、互いに直交するX軸及びY軸によって構成されるローカル座標系が設定されている。なお、図示は省略されているが、台車20は例えば4つの車輪を備え、搬送車10の前進、後退、及び旋回等の移動を実現する。搬送車10が備える移動機構については公知の構成を適用することができるので、詳細な説明を省略する。
【0021】
2つのレーザスキャナ30a,30bは、搬送車10の周囲に存在する物体までの距離を測定するセンサの一具体例である。なお、レーザスキャナ30aと30bは同様のものを適用することができるので、以下の説明において特に区別する必要がない場合は、2つのレーザスキャナをまとめて「レーザスキャナ30」ともいう。
【0022】
レーザスキャナ30は、例えば台車20の主面と略平行になるようにレーザ光を照射し、照射してから物体において反射して戻ってくるまでの時間に基づいて測距を行う。レーザスキャナ30は、例えば既定の半径(例えば10m程度)の測定範囲を有し、既定の度ピッチ(例えば、0.2~0.5度程度)でレーザ光を既定の視野角(例えば270度程度)にわたってスキャンしながら、1スキャンあたり数百~数千点の測定値を取得する。なお、図1に示される放射状の矢印は、レーザスキャナ30a,30bからそれぞれ出射されるレーザ光を模式的に示したものである。
【0023】
2つのレーザスキャナ30a,30bは、台車20の上面視における対角線上の両端において、それぞれ搬送車10の外側を向くように搭載されている。これにより、2つのレーザスキャナ30a,30bからの取得データを合わせると、台車20から見た全方位の測距が可能となる。搬送車10は、レーザスキャナ30を用いて周辺環境を測定することにより、周辺環境の環境地図を作成したり、予め記憶されたマップ情報と照合することで搬送車10の自己位置を推定したり、経路計画を立てたり、障害物を回避したりしながら目的地まで移動する。
【0024】
レーザスキャナ30を台車20に搭載する際には、台車20に対するレーザスキャナ30の位置や姿勢が設計値からずれることがある。レーザスキャナ30の位置や姿勢がずれたまま搬送車を走行させると、自律走行の精度が劣化するおそれがある。従って、このようなずれを較正するために、レーザスキャナ30の搭載後にレーザスキャナ30のずれの較正を行う。較正の詳細については後述する。
【0025】
なお、レーザスキャナ30は、搬送車の周辺環境をセンシングするセンサの一具体例である。このようなセンサはレーザスキャナに限定されず、例えば超音波センサ、マイクロ波を用いた距離センサ、ステレオカメラによって撮像されたステレオ画像を用いた距離センサなど、物体までの距離を測定できるセンサであればよい。
【0026】
また、本実施形態では、搬送車10が2つのレーザスキャナ30a,30bを備えるが、搬送車が備えるセンサの数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。例えば搬送車は全方位を測定できる1つのセンサを備えていてもよい。
【0027】
2つの固定穴40a,40bは、台車20のうち、台車20の上面視における対角線上に設けられている。固定穴40a,40bは、台車20に対する位置が既知であるものとする。
【0028】
治具50は、レーザスキャナ30によって距離を測定する対象となる基準部材の一具体例である。レーザスキャナ30が治具50までの距離を測定することにより、レーザスキャナ30の位置及び姿勢の設計値からのずれの度合いを測定することができる。図1及び図2に示されるように、治具50は、互いに異なるY軸負方向(第1方向)及びX軸負方向(第2方向)にそれぞれ沿って延びる第1平板51a及び第2平板51bと、これらの2つの平板を台車20に固定する軸52と、を備える。
【0029】
第1平板51a及び第2平板51bは、台車20の上面視においてL字型になるように直交して接合されている。軸52の一端には第1平板51a及び第2平板52bが固定されており、他端は台車20の2つの固定穴40a,40bに着脱可能に取り付けられている。台車20における位置が既知である2つ以上の箇所に軸52が取り付けられることにより、治具50を設計された位置に高い精度で固定することができる。すなわち、治具50は、台車20との相対的な位置関係が既知であり、図1に示されるローカル座標系における治具50の位置が予め算出可能となる。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態に係る搬送車の機能構成を示す図である。同図に示されるように、搬送車10は、機能部として、推定部100と、較正部110と、記憶部120と、を備える。なお、台車20の駆動に関する機能部については図示を省略する。
【0031】
推定部100は、レーザスキャナ30を用いて治具50までの距離を測定する。推定部100は、測定して得られた測定値のうち、有効領域に含まれる測定値を抽出し、抽出された測定値を用いて治具50の位置を推定する。有効領域については後述する。
【0032】
較正部110は、既知である治具50の基準位置と、推定された治具50の推定位置に基づいて、台車20に対するレーザスキャナ30の位置のずれ又は姿勢のずれの少なくともいずれか一方を較正する。
【0033】
記憶部120は、例えばローカル座標系における治具50の位置や、較正部110によって算出されたレーザスキャナ30の位置及び姿勢のずれに関する情報を記憶する。また、記憶部120は、例えば搬送車10が走行する周辺環境のマップを記憶する。
【0034】
次に、図4から図6を参照して、レーザスキャナ30の位置及び姿勢のずれの較正方法の詳細について説明する。
【0035】
図4は、本発明の一実施形態に係る搬送車における較正方法を示すフローチャートである。図5は、既知である治具の位置及び姿勢を示す図である。図6は、推定された治具の位置及び姿勢を示す図である。なお、図5及び図6では、一方のレーザスキャナ30aのずれの較正を行う場合が例として示されているが、他方のレーザスキャナ30bのずれの較正を行う場合であっても同様の方法を適用することができる。
【0036】
まず、冶具50をレーザスキャナ30の視野内に配置するように台車20に取り付ける(ステップS10)。上述のとおり、台車20に設けられた2つの固定穴40a,40bに治具50を固定することで、台車20に対する治具50の位置が定まる。すなわち、ローカル座標系における治具50の位置が算出可能となる。
【0037】
図5は、台車20の上面視において、治具50と一方のレーザスキャナ30aを模式的に示す図である。治具50の第1平板51aと第2平板51bが接合される接合部PCのローカル座標系におけるX座標及びY座標をPC(XC、YC)とする。台車20と治具50との相対的な位置関係が既知であり、治具50の形状や大きさが既知であるため、接合部PCの座標PC(XC、YC)が算出される。
【0038】
接合部PCを基点とし、X軸と平行な軸を基準軸XROとする。当該基準軸XROと、治具50の第1平板51aと第2平板51bが成す角のうち大きい方の角(すなわち、270度)の二等分線との成す角をθCとする。
【0039】
また、接合部PCを基点として、基準軸XROを時計回りにθ1度回転させた方向(すなわち、Y軸に沿う方向)に向かって、接合部PCから長さK1分移動した点を端点PE1とする。線分PCE1が第1平板51aに対応する。同様に、接合部PCを基点として、基準軸XROを時計回りにθ2度回転させた方向(すなわち、X軸に沿う方向)に向かって、接合部PCから長さK2分移動した点を端点PE2とする。線分PCE2が第2平板51bに対応する。ここで、θ1<θ2であり、θ2-θ1=90度である。長さK1、K2は、それぞれ、第1平板51a及び第2平板51bのY軸方向及びX軸方向の長さであってもよい。このようにして求められた線分PCE1と線分PCE2が、それぞれ治具50の第1平板51a及び第2平板51bの基準位置となる。
【0040】
台車20に対するレーザスキャナ30の位置や姿勢が設計値からずれている場合、レーザスキャナ30が測定する治具50までの距離も設計値からずれることになる。他方、レーザスキャナ30で物体までの距離を測定する際には、物体の形状や材質によって誤差や異常値が生じることがある。従って、本実施形態では、治具50の位置の推定において、既知である治具50の基準位置からある程度の範囲を含み、かつ異常値を含まないように、レーザスキャナ30が測定した測定値から有効範囲に含まれる測定値を抽出する。この有効範囲についてさらに詳細に説明する。
【0041】
本実施形態における有効範囲は、台車20の上面視において矩形状の第1領域R1及び第2領域R2を含む(図5網掛け領域参照)。第1領域R1は第1平板51aに対応し、第2領域R2は第2平板51bに対応する。
【0042】
第1領域R1は、レーザスキャナ30aの測定半径の方向において、レーザスキャナ30aから見て第1平板51aの基準位置から手前及び奥側に所定の範囲に広がる幅W1を有する。第1領域R1は、レーザスキャナ30aのスキャン方向において、接合部PCからY軸負方向に沿って端点PE1側に向かって所定の範囲の余白M1を含まず、かつ端点PE1からY軸正方向に沿って接合部PC側に向かって所定の範囲の余白M2を含まない。すなわち、第1領域R1は、L1=K1-(M1+M2)の長さL1を有する。つまり、第1領域R1のY軸方向の長さL1は、第1平板51aのY軸方向の長さK1より短い。
【0043】
第2領域R2においても同様に、レーザスキャナ30aの測定半径の方向において、レーザスキャナ30aから見て第2平板51bの基準位置から手前及び奥側に所定の範囲に広がる幅W2を有する。第2領域R2は、レーザスキャナ30aのスキャン方向において、接合部PCからX軸負方向に沿って端点PE2側に向かって所定の範囲の余白M3を含まず、かつ端点PE2からX軸正方向に沿って接合部PC側に向かって所定の範囲の余白M4を含まない。すなわち、第2領域R2は、L2=K2-(M3+M4)の長さL2を有する。つまり、第2領域R2のX軸方向の長さL2は、第2平板51bのX軸方向の長さK2より短い。
【0044】
第1平板51aと第2平板51bとの接合部PC付近や、第1平板の端部PE1及び第2平板の端部PE2においては、レーザスキャナから照射されるレーザ光が適切に照射又は反射されず、測定誤差が大きくなる傾向がある。本実施形態では、第1領域R1が余白M1及び余白M2を含まず、第2領域R2が、余白M3及び余白M4を含まないことにより、測定精度が比較的劣る接合部PC付近及び端部PE1,PE2付近の測定値を除外して基準部材の位置を推定することができる。従って、治具50の位置の推定精度が向上する。
【0045】
なお、余白M1~M4の長さは、全て同じであってもよいし、一部又は全てが異なっていてもよい。
【0046】
図4に戻り、推定部100が、レーザスキャナ30aを用いて治具50の第1平板51a及び第2平板51bまでの距離を測定する(ステップS20)。ここでは、有効領域に含まれない領域の測定値も取得される。
【0047】
続けて、推定部100は、取得された測定値のうち、上述の第1領域R1及び第2領域R2に含まれる測定値を抽出し、抽出された測定値を用いて第1平板51a及び第2平板51bの位置を推定する(ステップS30)。第1平板51a及び第2平板51bの位置の推定は、例えば第1領域R1及び第2領域R2のそれぞれにおいて、各領域に含まれる測定値から近似曲線を求めることによって推定してもよい。近似曲線の算出方法は特に限定されないが、例えば最小二乗法によって回帰直線を算出してもよい。
【0048】
図6に示されるように、算出された各直線Q1,Q2の交点を、推定された接合部PCMとし、接合部PCMのローカル座標系における座標をPCM(XCM、YCM)とする。推定された接合部PCMを基点としX軸と平行な基準軸XROと、推定された直線Q1との成す角をθ1Mとする。基準軸XROと、推定された直線Q2との成す角をθ2Mとする。基準軸XROと、直線Q1と直線Q2の成す角のうち大きい方の角の二等分線との成す角(すなわち、治具50の回転角度)をθCMとする。回転角度θCMは、θCM=0.5×(θ1M+θ2M)-180により求められる。
【0049】
図4に戻り、較正部110は、記憶部120に記憶された接合部の座標PC(XC、YC)と、推定された接合部の座標PCM(XCM、YCM)との比較から、台車20に対するレーザスキャナ30aの位置のずれを較正する(ステップS40)。すなわち、接合部PCの座標PC(XC、YC)と推定された接合部PCMの座標PCM(XCM、YCM)の差分が、レーザスキャナ30aの設置位置の誤差に相当する。
【0050】
また、較正部110は、記憶部120に記憶された治具50の回転角度θCと、推定された治具50の回転角度θCMとの比較から、台車20に対するレーザスキャナ30aの姿勢のずれを較正する(ステップS40)。すなわち、治具50の回転角度θCと推定された治具50の回転角度θCMの差分が、レーザスキャナ30aの設置姿勢の誤差に相当する。較正部110は、記憶部120に予め記憶されたレーザスキャナ30aの設置位置及び設置姿勢の設計値に当該誤差を反映させ、較正する。
【0051】
上記構成により、本実施形態に係る搬送車10では、有効領域である第1領域R1及び第2領域R2が設定され、当該有効領域に含まれる測定値を抽出することにより、治具50のあるべき位置から大きく外れた異常値を除外して治具50の位置を推定することができる。これにより、治具50の位置の推定精度が向上し、レーザスキャナ30a,30bのずれの較正を精度高く行うことができる。
【0052】
また、第1領域R1及び第2領域R2は、第1平板51a及び第2平板51bの接合部PC付近及び端部PE1,PE2付近を含まない。これにより、レーザスキャナ30a,30bによる測定精度が比較的劣る部位の測定値を除外して治具50の位置を推定することができるので、治具50の位置の推定精度がさらに向上する。また、第1平板51a及び第2平板51bの平坦部の測定値を用いるので、例えば治具の角を特徴点として較正を行う構成に比べて較正の精度が向上する。
【0053】
なお、レーザスキャナ30a,30bは、物体の同じ部位を複数回にわたって測定した場合に、ある程度の誤差が生じ、測定値がばらつき得る。従って、レーザスキャナ30a,30bによる測定をそれぞれ複数回(例えば10回程度)にわたって行い、複数回分の測定値の結果から、各点の平均値、メディアン値、又はその両方を求め、誤差の平準化後に治具50の位置を推定してもよい。これにより、1回のスキャンにおける測定値を用いる場合に比べてさらに較正の精度が向上する。
【0054】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…搬送車(移動体)、20…台車、30a,30b…レーザスキャナ(センサ)、40a,40b…固定穴、50…治具(基準部材)、51a…第1平板、51b…第2平板、52…軸、100…推定部、110…較正部、120…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6