(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】レーザ・アークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/348 20140101AFI20230523BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20230523BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K26/073
(21)【出願番号】P 2019128190
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 忠杰
(72)【発明者】
【氏名】恵良 哲生
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-001084(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0071848(US,A1)
【文献】特開2016-043391(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016116124(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/16
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ及びアークを用いたレーザ・アークハイブリッド溶接装置であって、
接合部に向けてレーザを照射するように構成されたレーザトーチと、
前記接合部との間にアークを発生させるように構成された溶接トーチと
、
前記溶接トーチの出力を調整する制御装置とを備え、
前記レーザトーチは、レーザが照射される照射領域の形状を調整するように構成された調整機構を含み、
前記調整機構は、前記レーザトーチに前記調整機構が設けられない場合に比べて前記照射領域を溶接の幅方向に拡大するとともに、前記照射領域の形状を調整することによってレーザによる入熱量の前記幅方向の分布が所定のプロファイルを有するように構成され、
前記所定のプロファイルは、前記幅方向の中央部における前記入熱量が前記幅方向の端部における前記入熱量以下となるプロファイルであ
り、
レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の前記幅方向の分布は、所定の熱分布を有し、
レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の前記幅方向の分布が前記所定の熱分布を有するように、前記調整機構による前記照射領域の形状の調整、及び前記制御装置による前記溶接トーチの出力の調整の少なくとも一方が実行される、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
前記調整機構は、前記照射領域が、前記レーザトーチの進行方向に平行な対辺を有する矩形となるように、前記照射領域の形状を調整する、請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
前記調整機構は、さらに、前記幅方向の中央部におけるレーザの照射エネルギ密度が、前記幅方向の端部における照射エネルギ密度よりも低くなるように、前記照射領域における照射エネルギ密度の分布を調整する、請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
前記調整機構は、前記幅方向の中央部における、前記レーザトーチの進行方向に沿った前記照射領域の長さが、前記幅方向の端部における、前記進行方向に沿った前記照射領域の長さよりも短くなるように、前記照射領域の形状を調整する、請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項5】
前記所定のプロファイルは、前記幅方向の中央部における前記入熱量が前記幅方向の端部における前記入熱量よりも少ないプロファイルであり、
前記所定の熱分布は、前記幅方向において均一である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ及びアークを用いたレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-40806号公報(特許文献1)は、被溶接材の少なくとも一方が亜鉛メッキ鋼板でありかつ継手部にギャップを有する溶接継手を、アーク発生部にレーザを照射しながら溶接するレーザ照射アーク溶接方法を開示する。この溶接方法では、レーザの照射部がデフォーカスになるように設定される。これにより、亜鉛メッキを幅広く除去して溶融池に亜鉛ガスが混入するのを防止することによりブローホール及びピットの発生を抑制するとともに、溶融金属がギャップ全体に十分に充填される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接合部への入熱量が多いと、溶接中に生成される溶融池の温度(溶融温度)が高くなり、溶融池の深さ(溶込深さ)も深くなる。このため、溶融池の凝固速度が遅くなり、その結果、溶接に伴ない生成される金属間化合物(たとえば、アルミニウム板と鋼板との溶接時に生成されるアルミニウムと鉄との合金等)の生成量が多くなる。金属間化合物は、母材自体に比べて脆いため、金属間化合物の生成量が多くなると、接合強度が低下する。なお、本開示において「入熱量」とは、ある点或いは領域において、溶接が終了するまでのトータルの入熱量(J)を示す。すなわち、本開示において「入熱量」とは、ある時点の入熱の大きさ(W)ではなく、入熱時間も考慮されるものである。
【0005】
レーザは、通常、照射領域における照射エネルギ密度を最大にするために、照射領域においてフォーカスが合うように調整される。しかしながら、この場合、接合部への入熱量が多くなることにより、上記の問題が発生する可能性がある。一方、入熱量が減少すると、溶接ビードと母材との接合面積が減少し、その結果、接合強度が低下する可能性がある。接合面積の減少による接合強度の低下は、溶接ビード幅を大きくすることで解消可能である。
【0006】
特許文献1に記載の溶接手法は、レーザの焦点をデフォーカスしているので、接合部への入熱量を抑制可能である。しかしながら、レーザの焦点をデフォーカスしただけでは、レーザ照射領域の平面形状は通常円形であるから、溶接の進行方向に対する幅方向の入熱量の分布は、中央部において最大であり、端部へ向かうに従って減少する。したがって、中央部から離れた部位(たとえば幅方向端部)において入熱量が不足し、接合強度が不足する可能性がある。
【0007】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、接合部への入熱量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成して接合強度を確保可能なレーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置は、レーザ及びアークを用いたレーザ・アークハイブリッド溶接装置であって、接合部に向けてレーザを照射するように構成されたレーザトーチと、接合部との間にアークを発生させるように構成された溶接トーチとを備える。レーザトーチは、レーザが照射される照射領域の形状を調整するように構成された調整機構を含む。調整機構は、レーザトーチに調整機構が設けられない場合に比べて照射領域を溶接の幅方向に拡大するとともに、照射領域の形状を調整することによってレーザによる入熱量の幅方向の分布が所定のプロファイルを有するように構成される。所定のプロファイルは、幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量以下となるプロファイルである。
【0009】
この溶接装置においては、上記の調整機構が設けられることにより、レーザの照射領域が溶接の幅方向に拡大されるとともに、幅方向の中央部における入熱量が抑制される。したがって、この溶接装置によれば、接合部への入熱量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成することが可能となる。その結果、接合強度を確保することができる。
【0010】
調整機構は、照射領域が、レーザトーチの進行方向に平行な対辺を有する矩形となるように、照射領域の形状を調整してもよい。
【0011】
この溶接装置によれば、簡易な構成で、幅方向の中央部における入熱量を抑制しつつ、幅方向の端部における入熱量を大きくすることができる。
【0012】
調整機構は、さらに、幅方向の中央部におけるレーザの照射エネルギ密度が、幅方向の端部における照射エネルギ密度よりも低くなるように、照射領域における照射エネルギ密度の分布を調整してもよい。
【0013】
このような構成により、幅方向の中央部における入熱量は、幅方向の端部における入熱量よりも少なくなる。したがって、アーク溶接後の幅方向の入熱量を平準化することができ、品質の良い溶接ビードを形成することができる。
【0014】
調整機構は、幅方向の中央部における、レーザトーチの進行方向に沿った照射領域の長さが、幅方向の端部における、進行方向に沿った照射領域の長さよりも短くなるように、照射領域の形状を調整してもよい。
【0015】
このような構成によっても、幅方向の中央部における入熱量を、幅方向の端部における入熱量よりも少なくすることができる。したがって、アーク溶接後の幅方向の入熱量を平準化することができ、品質の良い溶接ビードを形成することができる。
【0016】
レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の前記幅方向の分布は、所定の熱分布を有してもよい。
【0017】
これにより、レーザによる入熱量とアークによる入熱量とを結合した所望の幅方向の熱分布を形成することができ、品質の良い溶接ビードを形成することが可能となる。
【0018】
上記の溶接装置は、溶接トーチの出力を調整する制御装置をさらに備えてもよい。そして、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布が所定の熱分布を有するように、調整機構による照射領域の形状の調整、及び制御装置による溶接トーチの出力の調整の少なくとも一方が実行されるようにしてもよい。
【0019】
溶接部への入熱量及び各溶接プロセスの熱分布によって溶接部の機械的特性が決まるところ、上記の溶接装置によれば、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。また、特に異材接合の溶接においては、金属間化合物の生成量及びその分布を制御する上で、溶融金属の量及びその分布を制御する必要がある。上記の溶接装置によれば、調整機構によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、主に母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接トーチの出力を制御装置によって調整することにより、主に溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0020】
所定のプロファイルは、幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量よりも少ないプロファイルであってもよい。そして、所定の熱分布は、幅方向において均一であってもよい。
【0021】
この溶接装置によれば、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、接合部への入熱量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成して接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
【
図2】レーザトーチの構成を概略的に示す図である。
【
図3】レーザ照射領域の平面形状の一例を示す図である。
【
図5】重ね継手のすみ肉溶接における接合部の断面の一例を示す図である。
【
図6】実施の形態2におけるレーザトーチの構成を概略的に示す図である。
【
図7】レーザ照射領域の平面形状の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
図1を参照して、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤ20と、溶接電源装置30と、レーザトーチ40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0026】
このレーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、金属同士の接合に用いられ、特に、異材接合の溶接に用いることができる。たとえば、アルミニウム合金板と、GI材やGA材等の溶融亜鉛メッキ鋼板との溶接に、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置1を用いることができる。アルミニウム合金板には、軟質アルミニウムだけでなく、JIS規格の5000番台(たとえば5052)、6000番台(たとえば6063)、7000番台(たとえば7075)等の硬質アルミニウムも採用可能である。レーザ・アークハイブリッド溶接装置1によって、被溶接材70の一方と他方とが、たとえば、重ね隅肉溶接継手やフレア溶接継手等によって接合される。
【0027】
溶接トーチ10及び溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための機器である。溶接トーチ10は、被溶接材70の接合部に向けて、溶接ワイヤ20及び図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端と被溶接材70の接合部との間にアーク25を発生させるとともに、溶接部に向けてシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。溶接ワイヤ20に代えて、非消耗材の電極(タングステン等)を用いてもよい。すなわち、溶接トーチ10を用いるアーク溶接は、溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)であってもよいし、非溶極式(ティグ溶接等)であってもよい。
【0028】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送り速度も制御する。
【0029】
レーザトーチ40及びレーザ発振装置60は、レーザによる溶接を行なうための機器である。レーザトーチ40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、被溶接材70の接合部に向けてレーザを照射する。
【0030】
本開示に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置1では、レーザトーチ40は、レーザが照射される照射領域の形状、及び照射領域におけるレーザの照射エネルギ密度の分布を調整する調整機構を含む。この調整機構は、当該調整機構が設けられない場合に比べて、照射領域を溶接の幅方向に拡大する。そして、調整機構は、レーザによる入熱量(J)の溶接幅方向の分布が、その幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量よりも少なくなるプロファイルとなるように、照射領域の形状及び照射エネルギ密度の分布を調整する。本実施の形態1では、そのような調整機構として、レーザトーチ40に回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)が設けられている。レーザトーチ40の構成については、後ほど説明する。
【0031】
レーザトーチ40にこのような調整機構が設けられることにより、接合部への入熱量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成して接合強度を確保することができる。以下、この点について詳しく説明する。
【0032】
上述のように、接合部への入熱量(J)が多いと、溶融池の凝固速度が遅くなることにより、溶接に伴なって生成される金属間化合物の生成量が多くなる。たとえば、アルミニウム合金板と亜鉛メッキ鋼板との溶接を行なう場合、溶接によりアルミニウムと鉄との合金(FeAl、Fe3Al、Fe2Al5、FeAl3等)である金属間化合物が接合部に生成され、接合部への入熱量が多いほどその生成量が多くなる。このような金属間化合物は、母材に比べて脆いため、金属間化合物の生成量が多くなると、接合強度が低下する。
【0033】
レーザは、通常、照射領域における照射エネルギ密度を高めて効果的に部材を溶融するために、照射領域においてフォーカスが合うように焦点が調整される。しかしながら、この場合、接合部への入熱量が多くなり、上述のように、金属間化合物の生成量が増加することにより接合強度が低下する可能性がある。
【0034】
そこで、金属間化合物の生成量を抑制するために入熱量を抑制することが考えられるが、入熱量を抑制すると、溶接ビードと母材との接合面積が減少し、その結果、接合強度が低下する可能性がある。接合面積の減少による接合強度の低下は、溶接ビード幅を大きくすることで解消可能である。
【0035】
入熱量を抑制するために、レーザの焦点をデフォーカスすることが考えられる。しかしながら、レーザの焦点をデフォーカスしただけでは、レーザ照射領域の平面形状は通常円形であるから、溶接幅方向の入熱量の分布は、中央部において最大であり、端部へ向かうに従って減少する。したがって、中央部から離れた部位(たとえば幅方向端部)において入熱量が不足し、接合強度が不足する可能性がある。
【0036】
そこで、本実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置1では、上述した調整機構としてのDOEがレーザトーチ40に設けられる。このような調整機構(DOE)が設けられることにより、接合部への入熱量を抑制しつつ、広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0037】
図2は、レーザトーチ40の構成を概略的に示す図である。
図2を参照して、レーザトーチ40は、DOE41と、レンズ42とを含む。レーザ発振装置60から出力されたレーザ光は、DOE41及びレンズ42を通過して被溶接材70に照射され、被溶接材70において照射領域80が形成される。
【0038】
DOE41は、レーザ発振装置60から受けるレーザ光を、回折現象を利用して所望のビームパターンに加工する。具体的には、DOE41は、レーザ発振装置60から受ける入射光を幾何学的に分散し、被溶接材70上の照射領域80が、DOE41が設けられない場合よりも拡幅され、かつ、略矩形となるように、照射レーザを成形する。
【0039】
レンズ42は、DOE41によって加工されたレーザ光を集光して、被溶接材70に向けて出力する。
【0040】
図3は、照射領域80の平面形状の一例を示す図である。
図3において、X軸方向は、レーザトーチ40の進行方向を示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。
図3を参照して、照射領域80が略矩形となるように、DOE41によってレーザ光が加工される。
【0041】
点線群は、レーザの照射エネルギ密度の分布を示している。図示のように、照射領域80において、幅方向(Y軸方向)の中央Cから幅方向の端部へ向かうに従って照射エネルギ密度が高くなるように、DOE41によってレーザが成形される。
【0042】
なお、この例では、照射領域80は、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺が短辺であり、幅方向(Y軸方向)に平行な対辺が長辺であるものとしたが、照射領域80は、略正方形であってもよいし、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺を長辺としてもよい。
【0043】
図4は、溶接幅方向の入熱量の分布を示す図である。
図4において、(a)は、レーザによる入熱量の分布を示し、(b)は、アークによる入熱量の分布を示す。(c)は、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の分布を示す。すなわち、(c)は、レーザ及びアークによるトータルの入熱量の分布を示している。各図において、縦軸は、入熱量Qを示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。入熱量Qは、幅方向の各点において、溶接開始から終了までのトータルの入熱量(J)である。
【0044】
図4を参照して、
図3に示した照射領域80を有するレーザ照射によって、レーザによる入熱量の分布は、(a)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が少なく、端部へ向かうにつれて入熱量が多くなるプロファイルとなる。なお、参考までに、レーザ照射領域の平面形状が仮に円形である場合には、照射領域において、中央の照射エネルギ密度を低くし、周辺部の照射エネルギ密度が高くしたとしても、入熱量としては、幅方向の中央において多くなり、幅方向の端部へ向かうにつれて少なくなる可能性が高い。
【0045】
アークによる入熱量の分布は、(b)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が多く、端部へ向かうにつれて入熱量が少なくなるプロファイルとなる。したがって、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布は、(c)に示されるように、幅方向において略均一となっている。
【0046】
言い換えると、アークによる入熱量のプロファイルを考慮して、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、レーザによる入熱量のプロファイルが決定される。そして、そのレーザによる入熱量のプロファイルに基づいて、レーザの照射領域80の形状及び照射エネルギ密度分布(
図3に示した形状及び照射エネルギ密度分布)が決定され、そのような照射領域80を実現するDOE41の構成が決定される。
【0047】
或いは、(a)に示されるようなレーザによる入熱量のプロファイルが得られるようにDOE41を構成し、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30(制御装置)によって調整してもよい。
【0048】
溶接部への入熱量及び各溶接プロセスの熱分布によって溶接部の機械的特性が決まることから、上記のようにレーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。そして、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0049】
なお、特に異材接合の溶接(たとえば、アルミニウム合金板と溶融亜鉛メッキ鋼板との溶接等)においては、金属間化合物の生成量及びその分布を制御する上で、溶融金属の量及びその分布を制御する必要がある。本実施の形態では、上記のような調整機構によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、主に母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整することにより、主に溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0050】
図5は、重ね継手のすみ肉溶接における接合部の断面の一例を示す図である。
図5を参照して、この例では、被溶接材70は、GI材71と、GI材71上に重ねられたアルミニウム合金板72とを含む。実線で示される溶接ビード73は、本実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置1(以下、単に「溶接装置1」と称する場合がある。)を用いてすみ肉溶接を行なった場合の溶接ビードである。一方、比較例として点線で示される溶接ビード75は、DOE41が設けられていないレーザ・アークハイブリッド溶接装置(以下、「従来タイプの溶接装置」と称する。)を用いてすみ肉溶接を行なった場合の溶接ビードである。
【0051】
従来タイプの溶接装置によって溶接が行なわれる場合は、レーザの照射領域が狭く(なお、レーザの照射領域が狭いとアークの幅も狭くなる)、かつ、照射領域中央部の照射エネルギ密度が高いために、母材への溶込深さが深く、かつ、母材(GI材71)との接触部位76が狭い溶接ビード75が形成される。
【0052】
これに対して、溶接装置1によって溶接が行なわれる場合は、レーザ照射領域が広く(レーザの照射領域が広いとアークの幅も広くなる)、かつ、照射領域中央部の入熱量を抑えるとともに幅方向の入熱量が均等化されているために、母材への溶込深さが抑制され、かつ、母材との接触部位74が上記の接触部位76に対して広い溶接ビード73が形成される。
【0053】
このように、溶接ビード75に対して、母材への溶込深さが浅く、かつ、母材との接触部位が大きい溶接ビード73が生成される際の凝固速度は、溶接ビード75が生成される際の凝固速度よりも速い。したがって、溶接ビード73における金属間化合物の生成量は、溶接ビード75における金属間化合物の生成量よりも少ない。また、溶接ビード73と母材(GI材71)との接触部位74は、溶接ビード75と母材との接触部位76よりも大きい。以上により、溶接ビード73による接合強度は、溶接ビード75による接合強度よりも高いものとなる。
【0054】
以上のように、この実施の形態1によれば、
図3に示したレーザ照射領域を形成可能なDOE41が設けられることにより、入熱量の幅方向の分布は、
図4に示したようなプロファイルとなる。したがって、接合部への入熱量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0055】
また、この実施の形態1によれば、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布(プロファイル)を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。さらに、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0056】
また、上記のような調整機構(DOE41)によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接電源装置30によって溶接トーチ10の出力を調整することにより、溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0057】
[実施の形態2]
実施の形態1では、DOE41によって、
図3に示したようなレーザの照射領域80を形成するものとした。この実施の形態2では、DOEに代えて、被溶接材70に照射されるレーザを被溶接材70上で走査可能なレーザスキャン装置がレーザトーチに設けられ、レーザスキャン装置によりレーザを走査することによって、実施の形態1と同様の照射領域が形成される。
【0058】
実施の形態2におけるレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成は、
図1に示したレーザ・アークハイブリッド溶接装置1と同じである。
【0059】
図6は、実施の形態2におけるレーザトーチの構成を概略的に示す図である。
図6を参照して、このレーザトーチ40Aは、
図2に示したレーザトーチ40において、DOE41に代えて、スキャンミラー44と、光軸制御装置45とを含む。
【0060】
スキャンミラー44及び光軸制御装置45は、本開示における調整機構に相当するものであり、被溶接材70上でレーザを走査可能なレーザスキャン装置を構成する。スキャンミラー44は、レーザ発振装置60から受けるレーザ光を反射してレンズ42へ出力する。スキャンミラー44は、光軸制御装置45によって向きを変更可能に構成されており、レンズ42を通じて照射されるレーザ光の照射位置81を変更することができる。スキャンミラー44は、たとえば、照射位置81をX方向に変更可能なXスキャンミラーと、照射位置81をY方向に変更可能なYスキャンミラーとを含む。
【0061】
光軸制御装置45は、スキャンミラー44の角度を変更する駆動装置と、駆動装置を制御することによってレーザ光の照射位置81を調整する制御装置とを含む(いずれも図示せず)。駆動装置は、たとえば、Xスキャンミラーを回転駆動するX軸モータと、Yスキャンミラーを回転駆動するY軸モータとによって構成される。
【0062】
このような構成により、被溶接材70上でレーザを走査することによって、被溶接材70上に、
図3に示した照射領域80と同等の、矩形の照射領域82を形成することができる。なお、レーザの走査位置とともに、レーザの出力及び/又は走査速度を適宜調整することによって、照射領域82における照射エネルギ密度のプロファイルを
図3の点線のように調整することが可能である。
【0063】
以上のように、この実施の形態2によっても、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、この実施の形態2によれば、スキャンミラー44及び光軸制御装置45を用いて、所望の形状及び照射エネルギ密度分布を有する照射領域82を形成するので、所望の照射領域82を形成する際の自由度が高い。
【0064】
[変形例]
実施の形態1では、DOE41によって、
図3に示したようなレーザの照射領域80を形成するものとした。すなわち、照射領域80の平面形状は矩形であり、照射領域80において、幅方向の中央から幅方向の端部へ向かうに従って照射エネルギ密度が高くなるように、照射エネルギ密度の分布を有するものとした。
【0065】
しかしながら、DOE41により形成する照射領域80は、このような形状及び照射エネルギ密度分布を有するものに限定されるものではない。たとえば、
図7に示されるように、照射領域80において、幅方向(Y軸方向)の中央Cにおける、溶接進行方向(X軸方向)に沿った照射領域の長さが、幅方向の端部における照射領域の長さよりも短く、幅方向の照射エネルギ密度は略均一となるようにしてもよい。
【0066】
このような形状及び照射エネルギ密度分布を有する照射領域80によっても、
図4(a)に示されるようなレーザによる入熱量のプロファイルが得られる。したがって、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0067】
なお、実施の形態2についても、レーザトーチ40Aによって、
図7に示されるような形状及び照射エネルギ密度分布を有する照射領域82を形成してもよい。
【0068】
また、上記の各実施の形態及び変形例では、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和のプロファイルが幅方向において略均一となるように、レーザによる入熱量のプロファイルを決定し、或いは、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整するものとしたが、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向のプロファイルは、これに限定されるものではない。レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和のプロファイルについて、幅方向の中央部における入熱量が大きくなりすぎない程度に中央部の入熱量が幅方向の端部における入熱量よりも大きい所定のプロファイルであってもよいし、中央部の入熱量が端部の入熱量よりも小さい所定のプロファイルであってもよい。
【0069】
そして、上記の各実施の形態及び変形例では、レーザによる入熱量のプロファイルは、
図4(a)に示されるように幅方向の中央において入熱量が少なくなるものとしたが、レーザによる入熱量が幅方向で略均一となるようにしてもよい。この場合は、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和のプロファイルにつき、中央部の入熱量が端部の入熱量よりも大きくなるけれども、レーザによる入熱量のプロファイル調整を行なわない場合に比べれば、中央部における入熱量を抑制し、かつ、入熱量の分布を幅方向に拡大することができる。
【0070】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置、10 溶接トーチ、20 溶接ワイヤ、30 溶接電源装置、40,40A レーザトーチ、41 DOE、42 レンズ、44 スキャンミラー、45 光軸制御装置、60 レーザ発振装置、70 被溶接材、73,75 溶接ビード、80,82 照射領域。