(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】時計用調速装置
(51)【国際特許分類】
G04B 17/00 20060101AFI20230523BHJP
G04C 10/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G04B17/00 B
G04C10/00 C
(21)【出願番号】P 2019189708
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊成
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-190285(JP,A)
【文献】特開2018-159598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
H02N 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、
前記香箱から伝達される力によって発電する発電部と、
輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、
前記発電部による発電動作とは独立して動作し、前記運動体の速度を制御する調速部と、
を備え
、
前記調速部は、前記運動体に対して作用させる静電気力によって前記運動体の運動速度を制御する
ことを特徴とする時計用調速装置。
【請求項2】
前記運動体は、前記輪列を介して前記香箱と連結された回転軸に固定されている板状の部材であり、
前記調速部は、前記運動体に配置された第一帯電膜と、前記第一帯電膜と対向し、かつ固定されている第一電極群と、を有し、前記第一帯電膜と前記第一電極群との間に作用する静電気力によって前記運動体の運動速度を制御し、
前記発電部は、前記運動体に配置された第二帯電膜と、前記第二帯電膜と対向し、かつ固定されている第二電極群と、を有し、前記第二帯電膜と前記第二電極群との間に作用する静電気力によって発電する
請求項
1に記載の時計用調速装置。
【請求項3】
前記第一帯電膜は、前記運動体の一方の面に配置され、前記第二帯電膜は、前記運動体の他方の面に配置されている
請求項
2に記載の時計用調速装置。
【請求項4】
前記第一帯電膜および前記第二帯電膜の両方が前記運動体の一方の面に配置されている
請求項
2に記載の時計用調速装置。
【請求項5】
前記運動体は、前記輪列を介して前記香箱と連結された第一回転軸に固定されており、
前記発電部は、前記輪列を介して前記香箱と連結された第二回転軸の回転によって発電し、
前記第一回転軸と前記第二回転軸とが異なる速度で回転する
請求項
1に記載の時計用調速装置。
【請求項6】
前記第二回転軸の回転速度が前記第一回転軸の回転速度よりも高速である
請求項
5に記載の時計用調速装置。
【請求項7】
前記第一回転軸の回転速度が前記第二回転軸の回転速度よりも高速である
請求項
5に記載の時計用調速装置。
【請求項8】
更に、前記発電部の出力に基づいて前記運動体の運動速度を検出する検出回路を備え、
前記調速部は、前記検出回路の検出結果に基づいて前記運動体の運動速度を制御する
請求項1から
7の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項9】
ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、
前記香箱から伝達される力によって発電する発電部と、
輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、
前記発電部による発電動作とは独立して動作し、前記運動体の速度を制御する調速部と、
を備え、
前記運動体は、前記輪列を介して前記香箱と連結された回転軸に固定されている板状の部材であり、
前記調速部は、前記運動体に配置された第一帯電膜と、前記第一帯電膜と対向し、かつ固定されている第一電極群と、を有し、前記第一帯電膜と前記第一電極群との間に作用する静電気力によって前記運動体の運動速度を制御し、
前記発電部は、前記運動体に配置された第二帯電膜と、前記第二帯電膜と対向し、かつ固定されている第二電極群と、を有し、前記第二帯電膜と前記第二電極群との間に作用する静電気力によって発電する
ことを特徴とする時計用調速装置。
【請求項10】
ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、
前記香箱から伝達される力によって発電する発電部と、
輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、
前記発電部による発電動作とは独立して動作し、前記運動体の速度を制御する調速部と、
を備え、
前記運動体は、前記輪列を介して前記香箱と連結された第一回転軸に固定されており、
前記発電部は、前記輪列を介して前記香箱と連結された第二回転軸の回転によって発電し、
前記第一回転軸と前記第二回転軸とが異なる速度で回転する
ことを特徴とする時計用調速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用調速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計において調速を行なう技術がある。特許文献1には、ゼンマイから輪列を介して伝達される機械的エネルギを変換して電気的エネルギを供給する発電機と、輪列に結合された指針と、電気的エネルギにより駆動されて発電機の回転速度を制御する回転制御手段とを備える電子制御式機械時計が開示されている。特許文献1の発電機は、ロータ、ステータ、コイルブロックから構成される電磁式の発電機である。特許文献1の電子制御式機械時計では、発電機がショートされることでブレーキがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発電動作と調速動作とが独立していない構成では、調速のために発電量が制限を受けるなど、制御の自由度が制限されることがある。
【0005】
本発明の目的は、制御の自由度を向上させることができる時計用調速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の時計用調速装置は、ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、前記香箱から伝達される力によって発電する発電部と、輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、前記発電部による発電動作とは独立して動作し、前記運動体の速度を制御する調速部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る時計用調速装置は、調速部が発電部による発電動作とは独立して動作する。本発明に係る時計用調速装置によれば、制御の自由度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る時計の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る時計の動力伝達部を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る静電誘導部の断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る調速部を示した図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る発電部を示した図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る調速部の第一固定子の平面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る発電部の第二固定子の平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る時計のブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る充電部、回転検出回路のブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る整流前後の波形を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る整形後の波形を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る制御回路のブロック図である。
【
図13】
図13は、オープン状態における静電誘導部の制動を説明する図である。
【
図14】
図14は、短絡状態における静電誘導部の制動を説明する図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る時計用調速装置の動作を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、実施形態に係る調速制御の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、実施形態の第1変形例に係る調速部の発電状態における静電誘導部の制動を説明する図である。
【
図18】
図18は、実施形態の第1変形例に係る調速部の電圧印加状態における静電誘導部の制動を説明する図である。
【
図19】
図19は、実施形態の第1変形例に係る極性の切り換えを説明する図である。
【
図20】
図20は、実施形態の第2変形例に係る静電誘導部の断面図である。
【
図21】
図21は、実施形態の第2変形例に係る第一エレクトレット膜および第二エレクトレット膜の配置図である。
【
図22】
図22は、実施形態の第2変形例に係る固定電極の配置図である。
【
図23】
図23は、実施形態の第3変形例に係る時計の動力伝達部を示す図である。
【
図24】
図24は、実施形態の第3変形例に係る調速部3Aの断面図である。
【
図25】
図25は、実施形態の第3変形例に係る発電部3Bの断面図である。
【
図26】
図26は、実施形態の第3変形例に係る時計の動力伝達部を示す他の図である。
【
図27】
図27は、実施形態の第4変形例に係る回転検出回路を説明する図である。
【
図28】
図28は、実施形態の第5変形例に係る加速制御を説明する図である。
【
図29】
図29は、実施形態の第5変形例に係る極性の切り換えを説明する図である。
【
図30】
図30は、実施形態の第6変形例に係る比率の決定方法を説明する図である。
【
図31】
図31は、実施形態に係る制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る時計用調速装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から
図16と
図31を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、時計用調速装置に関する。
図1は、実施形態に係る時計の概略構成を示す図、
図2は、実施形態に係る時計の動力伝達部を示す図、
図3は、実施形態に係る静電誘導部の断面図、
図4は、実施形態に係る調速部を示した図、
図5は、実施形態に係る発電部を示した図、
図6は、実施形態に係る調速部の第一固定子の平面図、
図7は、実施形態に係る発電部の第二固定子の平面図、
図8は、実施形態に係る時計のブロック図、
図9は、実施形態に係る充電部、回転検出回路のブロック図、
図10は、実施形態に係る整流前後の波形を示す図、
図11は、実施形態に係る整形後の波形を示す図、
図12は、実施形態に係る制御回路のブロック図、
図13は、オープン状態における静電誘導部の制動を説明する図、
図14は、調速部が短絡状態である場合の回転体の回転を示す図、
図15は、実施形態に係る時計用調速装置の動作を示すフローチャート、
図16は、実施形態に係る調速制御の一例を示す図、
図31は、実施形態に係る制御部のブロック図である。
【0011】
図1および
図2に示すように、実施形態に係る時計100は、ぜんまい15を運針の動力源とする機械式時計である。時計100は、香箱2、指針10、増速輪列20、および静電誘導部3を有する。指針10は、秒針11、分針12、および時針13を有する。秒針11、分針12、および時針13は、増速輪列20を介して香箱2と連結されており、香箱2の回転と連動して回転する。
【0012】
図2に示すように、香箱2の内部には、ぜんまい15が収容されている。ぜんまい15は、指針10を回転させる動力源である。ぜんまい15の一端は香箱真14に接続され、ぜんまい15の他端は香箱2に接続されている。香箱真14は、時計100の筐体によって回転不能に支持されている。香箱2は、香箱真14を回転中心として香箱真14に対して相対回転する。香箱2は、巻き上げられたぜんまい15が発生する動力によって回転する。香箱2の外周面には、歯車が設けられている。
【0013】
増速輪列20は、第一回転軸21、第二回転軸22、および第三回転軸23を有する。第一回転軸21には、二番車24が固定されている。第二回転軸22には、カナ25および三番車26が固定されている。第三回転軸23には、カナ27および四番車28が固定されている。静電誘導部3は、回転軸31、カナ32、および回転体33を有する。カナ32および回転体33は、回転軸31に固定されている。
【0014】
第一回転軸21の二番車24は、香箱2の歯車およびカナ25と噛み合っている。二番車24およびカナ25によって、第一回転軸21の回転が増速されて第二回転軸22に伝達される。第二回転軸22の三番車26は、カナ27と噛み合っている。三番車26およびカナ27によって、第二回転軸22の回転が増速されて第三回転軸23に伝達される。第三回転軸23の四番車28は、カナ32と噛み合っている。四番車28およびカナ32によって、第三回転軸23の回転が増速されて回転軸31に伝達される。
【0015】
分針12は、第一回転軸21に連結されている。分針12は、例えば、第一回転軸21に固定されており、第一回転軸21の回転速度と同じ速度で回転する。秒針11は、第三回転軸23に連結されている。秒針11は、例えば、第三回転軸23に固定されており、第三回転軸23の回転速度と同じ速度で回転する。なお、時針13は、減速輪列を介して第一回転軸21と連結されている。
【0016】
図3に示すように、静電誘導部3は、更に、第一固定子34Aおよび第二固定子34Bを有する。第一固定子34Aおよび第二固定子34Bは、回転不能なように筐体等に対して固定されている。本実施形態の回転体33、第一固定子34A、および第二固定子34Bの形状は、円盤形状である。ただし、第一固定子34Aおよび第二固定子34Bの形状は、円盤形状以外の形状であってもよく、例えば、矩形などの形状でもよい。
【0017】
第一固定子34Aおよび第二固定子34Bは、回転軸31の軸方向において回転体33と対向している。第一固定子34Aは、回転体33の第一面33aと対向している。第二固定子34Bは、回転体33の第二面33bと対向している。第一面33aは、例えば、時計100の前面側の面である。第二面33bは、第一面33aとは反対側の面であり、例えば、時計100の背面側の面である。第一固定子34Aおよび第二固定子34Bは、回転体33に対して隙間をあけて配置されている。なお、静電誘導部3は調速部3A、発電部3Bを有し、第一固定子34Aは調速部3Aの一部、第二固定子34Bは発電部3Bの一部である。
【0018】
回転体33は、シリコン基板、帯電用の電極面が設けられたガラスエポキシ基板、あるいはアルミ板などの基板材料により形成された円盤形状の部材である。回転体33の第一面33aには、調速部3Aの複数の第一エレクトレット膜35Aが形成されている。回転体33の第二面33bには、発電部3Bの複数の第二エレクトレット膜35Bが形成されている。エレクトレット膜35A,35Bは、エレクトレット材料で構成されている薄膜である。本実施形態のエレクトレット膜35A,35Bは、マイナスの電位に帯電している。
【0019】
図4および
図5に示すように、エレクトレット膜35A,35Bは、回転軸31を中心とする回転方向に沿って等間隔で配置されている。
図4は、回転体33の回転速度を調整する(以降、調速と称す。)調速部3Aを示した図である。第一エレクトレット膜35Aは、調速部3Aを構成する帯電膜である。
図5は、回転体33の回転運動によって発電する発電部3Bを示した図である。第二エレクトレット膜35Bは、発電部3Bを構成する帯電膜である。第一エレクトレット膜35Aの枚数は、第二エレクトレット膜35Bの枚数よりも多い。第一エレクトレット膜35Aの枚数は、例えば、第二エレクトレット膜35Bの枚数の二倍である。回転方向における第一エレクトレット膜35Aの間隔は、第二エレクトレット膜35Bの間隔よりも狭い。回転方向における第二エレクトレット膜35Bの幅は、第一エレクトレット膜35Aの幅より広くされている。従って、第一エレクトレット膜35Aより第二エレクトレット膜35Bの帯電圧が高くなり、発電電力が多い。
【0020】
図6に示すように、第一固定子34Aは、複数の第一電極37および複数の第二電極38を有する。複数の第一電極37および複数の第二電極38は、調速用の第一電極群41を構成する。第一電極37および第二電極38は、第一面33aと対向する面に配置されており、かつ回転体33の回転方向に沿って交互に配置されている。複数の第一電極37は、第一配線G1によって相互に電気的に接続されている。複数の第二電極38は、第二配線G2によって相互に電気的に接続されている。第一電極37の個数と第二電極38の個数とは等しい。本実施形態では、第一電極37の個数および第二電極38の個数が、それぞれ第一エレクトレット膜35Aの枚数と同数である。よって、回転体33が1周回転したときに第一エレクトレット膜35Aが対向する第一電極37および第二電極38が切り替わる回数が多いため、第一エレクトレット膜35Aと第一電極37および第二電極38に作用するコギングが発生する発生回数が増えるため、制動力が増す。
【0021】
第一配線G1および第二配線G2は、制御部9に接続されている。
図31に示すように制御部9は、制御回路6および分周発振回路51を有する。分周発振回路51は、水晶振動子51aを発振させてクロック信号CKおよび基準信号fsを出力する。また、制御部9は蓄電部5の電圧が所定以上の電圧以上になったことを検出する初期化回路52と、制御回路6の起動判断を行う起動設定回路53を有する。起動設定回路53は、初期化回路52から蓄電部5の電圧が所定以上の電圧になった旨の信号を受信し、回転検出回路7から出力される周波数信号FG1が所定以上である(回転体33が所定以上の回転スピードである)ことを検出し、起動信号を出力する。
【0022】
図7に示すように、発電部3Bの第二固定子34Bは、複数の第三電極39および複数の第四電極40を有する。複数の第三電極39および複数の第四電極40は、発電用の第二電極群42を構成する。第三電極39および第四電極40は、第二面33bと対向する面に配置されており、かつ回転体33の回転方向に沿って交互に配置されている。複数の第三電極39は、第三配線G3によって相互に電気的に接続されている。複数の第四電極40は、第四配線G4によって相互に電気的に接続されている。第三電極39の個数と第四電極40の個数とは等しい。第三電極39の個数および第四電極40の個数は、例えば、第一電極37の個数と等しい。第三配線G3および第四配線G4は、充電部19に接続されている。
【0023】
図8に示すように、本実施形態の時計用調速装置1は、香箱2と、蓄電部5と、増速輪列20と、充電部19と、制御部9と、回転検出回路7と、調速部3Aと発電部3Bを含んだ静電誘導部3と、を有する。静電誘導部3の発電部3Bは、増速輪列20から伝達された動力によって電力を発電し、充電部19に出力する。充電部19は、発電部3Bから出力された発電電力を整流、降圧などを行い、蓄電部5に充電を行う。充電部19は、蓄電部5に対する充電と同時に、回転体33の回転速度に同期した整流された信号である出力波形W1を回転検出回路7に出力する。蓄電部5は、蓄電および放電が可能な二次電池である。
【0024】
回転検出回路7は、充電部19から出力された出力波形W1から回転体33の回転速度を検出する回路であり、検出した回転信号である周波数信号FG1は制御部9に出力される。制御部9は、回転体33の回転速度を制御する調速制御を行なう回路である。制御部9は、回転検出回路7から出力された周波数信号FG1からブレーキ量を決定し、静電誘導部3の調速部3Aにブレーキ信号を出力する。静電誘導部3の調速部3Aでは、制御部9からのブレーキ信号によって第一エレクトレット膜35Aと第一電極37および第二電極38との間で静電力が発生し、回転体33の回転速度が制御される。
【0025】
図9に示すように、充電部19は、整流回路8および降圧回路54を有する。複数の第三電極39は、第三配線G3によって相互に電気的に接続されている。複数の第四電極40は、第四配線G4によって相互に電気的に接続されている。第三配線G3と第四配線G4とは、整流回路8を介して接続されている。整流回路8は、第三配線G3と第四配線G4との間に流れる電流を整流して降圧回路54に出力する。降圧回路54は、整流回路8側の電圧を降圧して蓄電部5側に出力し、蓄電部5に蓄電する。本実施形態の充電部19は、回転体33が回転することによって発生した電力を蓄電部5に充電する。
【0026】
回転検出回路7には、整流回路8から出力された整流した出力波形W1が入力されている。回転検出回路7は、波形整形回路71および周波数計測回路72を有する。波形整形回路71は、整流回路8の出力波形W1を整形して出力する回路である。
図10には、整流回路8の入力波形W0および整流回路8の出力波形W1が示されており、
図11には波形整形回路71の出力波形W2が示されている。波形整形回路71は、整流回路8の出力値が閾値以上となると蓄電部5の正極電位を出力し、出力値が閾値未満となると蓄電部5の負極電位を出力し、矩形波形を出力する。
図11の周期L1は、第二エレクトレット膜35Bが1つの第三電極39と1つの第四電極40を通過したときに発生する変動周期である。
【0027】
周波数計測回路72は、分周回路を有する。周波数計測回路72は、波形整形回路71の出力から出力された矩形波形を分周して計測しやすい周波数信号FG1を生成する。周波数信号FG1は、回転体33の現在の回転速度や回転周期に対応する値である。周波数計測回路72は、周波数信号FG1を制御回路6等に出力する。
【0028】
図12には、実施形態に係る制御回路6が示されている。
図12に示すように、本実施形態の制御回路6は、ブレーキ量判定部61および切替回路62、コントロール回路65を有する。切替回路62は、第一配線G1、第二配線G2を介して第一電極37と第二電極38とを短絡する状態と、第一電極37と第二電極38とを遮断する状態と、を切り替える回路である。切替回路62は、例えば、短絡状態において、第一電極37および第二電極38を蓄電部5の負極に接続する。以下の説明では、制御回路6において第一電極37と第二電極38とが短絡された状態を「短絡状態」と称し、第一電極37と第二電極38とが遮断された状態を「オープン状態」と称する。なお、本実施形態では短絡した電位は蓄電部5の負極になっているが、第一電極37と第二電極38とが短絡されていれば、どのような電位でもよい。
【0029】
図12に示すようにオープン状態である場合、
図13を参照して説明するように、回転体33に対して制動力が作用する。オープン状態では、
図13に示すように、第一エレクトレット膜35Aと対向する電極がプラスに帯電する。例えば、第一電極37が第一エレクトレット膜35Aと対向している場合、第一電極37はプラスに帯電し、第一エレクトレット膜35Aに対して吸引力F1を作用させる。第二電極38は、例えば、マイナスに帯電して第一エレクトレット膜35Aに対して反発力F2を作用させる。このように第一電極37と第一エレクトレット膜35Aとの間で作用する静電気力の大きさや向きと、第二電極38と第一エレクトレット膜35Aとの間で作用する静電気力の大きさや向きとが異なることで、コギングが発生し、回転体33に対して加減速が周期的に作用する。そのため、主に回転軸31に作用する摩擦量が増えることで、制動力が作用する。
【0030】
次に、短絡状態とした場合、
図14に示すように、第一電極37と第二電極38とが短絡される。短絡状態では、第一電極37と第二電極38との間に電位差がないことで、コギングが発生せず、回転体33に対して実質的に制動力が作用しない。また、エレクトレット膜35に対して静電気力による吸引力F1も反発力F2も実質的に作用しない。
【0031】
このように、本実施形態の制御回路6は、オープン状態にすることによって回転体33に対して制動力を作用させる状態と、短絡状態にすることによって回転体33に対して静電気力による制動力が実質的に作用しない状態とを実現することができる。時計用調速装置1は、例えば、以下に説明するように回転体33の回転速度を制御する。
【0032】
図15および
図16を参照して、本実施形態の時計用調速装置1の動作について説明する。
図15に示すフローチャートは、時計用調速装置1の動作の流れを示すものである。時計用調速装置1の各回路は、
図15のフローチャートに示す動作を実行するように構成されている。
【0033】
ステップS10において、時計用調速装置1は、蓄電部5の電圧Vがシステム起動電圧V1以上であるか否かを初期化回路52によって判定する。本実施形態の制御部9は、蓄電部5の電圧Vがシステム起動電圧V1以上となった場合に起動するように構成されている。ステップS10の判定は、例えば、蓄電部5の電圧Vを検出する検出回路の検出結果に基づいてなされる。ステップS10において電圧Vがシステム起動電圧V1以上であると肯定判定された場合にはステップS20に進み、否定判定された場合、ステップS10の判定が繰り返される。
【0034】
ステップS20において、回転速度が測定される。ステップS10で肯定判定がなされると、初期化回路52はシステム起動電圧V1以上である旨を起動設定回路53に出力し、起動設定回路53を起動させる。起動設定回路53が起動してステップS20以降の動作が開始される。起動設定回路53は、回転検出回路7から、回転体33の回転速度を示す周波数信号FG1を取得する。ステップS20が実行されると、ステップS30に進む。
【0035】
ステップS30において、起動設定回路53は、検出された回転速度が一定速度以上の回転速度であるか、回転体33が所定時間内に所定回数回転したかなどを判定する。上記の一定速度は、例えば、回転体33の回転速度を調速する必要がある下限の速度に対応する速度である。制御回路6は、回転検出回路7から取得する周波数信号FG1と、基準信号fsとの比較によってステップS30の判定を行なう。本実施形態の基準信号fsは、分周発振回路51が生成する信号であり、基準回転速度に対応する周波数[Hz]の信号である。基準回転速度は、例えば、秒針11が一分間に一回転するときの回転体33の回転速度である。ステップS30の判定は、例えば、起動設定回路53が有する比較回路によってなされる。
【0036】
ステップS30の判定の結果、検出された回転速度が一定速度以上であると肯定判定された場合には起動設定回路53は起動信号を制御回路6に出力し、制御回路6を起動し、制御回路6のコントロール回路65による制御が開始され、ステップS40に進む。一方、検出された回転速度が一定速度未満であると否定判定された場合、ステップS20の測定とステップS30の判定が繰り返される。
【0037】
ステップS40において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61に対して回転検出回路7から周波数信号FG1を取得、測定する指示を与える。ステップS40が実行されると、ステップS50に進む。なお、ステップS40において回転速度が測定されるごとにステップS30の判定がなされてもよい。
【0038】
ステップS50において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61に対して調速設定の計算を行なう指示を与える。調速設定の計算は、ブレーキ量判定部61によって実行される。ブレーキ量判定部61は、周波数信号FG1と基準信号fsとの比較結果に基づいて調速設定の設定値を決定する。調速設定の設定値は、例えば、制動期間PBと、非制動期間PNとの割合である。
図16に示すように、制御回路6は、一回の制御期間PSにおいて、制動期間PBおよび非制動期間PNを設定する。制御期間PSは、例えば、一定である。制動期間PBおよび非制動期間PNは、可変である。
【0039】
制御期間PSにおいて、制動期間PBの割合が大きくなるほど回転体33に対する実効制動力が大きくなる。実効制動力は、制御期間PSにおいて回転体33に対して作用した制動力の大きさの平均値である。一方、制御期間PSにおいて、非制動期間PNの割合が大きくなるほど回転体33に対する実効制動力が小さくなる。ブレーキ量判定部61は、下記式(1)で示す差分ΔFに基づいて調速設定の設定値を決定する。
ΔF=FG1-fs…(1)
【0040】
ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが大きいほど制御期間PSにおける制動期間PBの割合を大きくする。つまり、ブレーキ量判定部61は、回転体33の回転速度が大きいほど下記式(2)の比率P1を大きくする。一方、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが小さいほど制御期間PSにおける制動期間PBの割合を小さくする。つまり、回転体33の回転速度が小さいほど比率P1が小さくされる。ステップS50が実行されると、ステップS60に進む。
P1=PB/PS…(2)
【0041】
ステップS60において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61から比率P1を取得し、調速を実行する。コントロール回路65は、決定した比率P1に応じて切替回路62を制御する。コントロール回路65は、制動期間PBにおいて、切替回路62をオープン状態とする。これにより、回転体33に対して制動力を作用させる。一方、コントロール回路65は、非制動期間PNにおいて、切替回路62を短絡状態とする。これにより、回転体33に対して実質的に制動力を作用させない状態となる。ステップS60が実行されると、ステップS40に進む。
【0042】
なお、
図15に示すフローチャートではステップS10において蓄電部5の電圧Vがシステム起動電圧V1以上であるか否かを初期化回路52によって判断していたが、ステップS10の判断を行わず、ステップS20、S30の回転体33の回転速度が一定速度以上であるかの判断だけ行って、ステップS40へ移行することによってシステム起動電圧判断回路の削減を行うことによって時計の小型化を図っても良い。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の時計用調速装置1は、香箱2と、充電部19と、回転検出回路7と、回転体33と、調速部3A、発電部3Bを含んだ静電誘導部3、と、制御部9と、蓄電部5と、を有する。香箱2は、ぜんまい15の力によって回転し、かつ指針10を回転させる。発電部3Bは、香箱2から伝達される力によって発電する。回転体33は運動体の一例である。回転体33は、増速輪列20を介して香箱2と連結されており、かつ香箱2から伝達される力によって周期的な運動をする。調速部3Aは、発電部3Bによる発電動作とは独立して動作し、回転体33の回転速度を制御する。
【0044】
本実施形態の時計用調速装置1は、発電部3Bによる発電動作と調速部3Aによる調速動作とが独立している。発電動作および調速動作のうちの一方の動作が他方の動作を制限しないため、制御の自由度が向上する。例えば、発電部3Bが発電を行なっているときにも調速部3Aによる調速動作が可能である。
【0045】
本実施形態の調速部3Aは、回転体33に対して作用させる静電気力によって回転体33の回転速度を制御する。これにより、コイルを有する電磁式の発電機を用いて調速する場合と比較して調速部3Aの薄型化を図ることが可能である。
【0046】
本実施形態の運動体は、増速輪列20を介して香箱2と連結された回転軸31に固定されている板状の部材である。調速部3Aは、回転体33に配置された第一エレクトレット膜35Aと、第一エレクトレット膜35Aと対向し、かつ固定されている第一電極群41と、を有する。第一エレクトレット膜35Aは、第一帯電膜の一例である。調速部3Aは、第一エレクトレット膜35Aと第一電極群41との間に作用する静電気力によって回転体33の回転速度を制御する。
【0047】
発電部3Bは、回転体33に配置された第二エレクトレット膜35Bと、第二エレクトレット膜35Bと対向し、かつ固定されている第二電極群42と、を有する。第二エレクトレット膜35Bは、第二帯電膜の一例である。発電部3Bは、第二エレクトレット膜35Bと第二電極群42との間に作用する静電気力によって発電する。一つの運動体に第一エレクトレット膜35Aおよび第二エレクトレット膜35Bが配置されることで、省スペース化が可能となる。なお、回転軸31は、同方向に回転し続けるものでなくてもよい。例えば、回転軸31は、回転方向が逆転しながら周期的な回転運動を行なうものであってもよい。
【0048】
本実施形態の時計用調速装置1では、第一エレクトレット膜35Aが回転体33の一方の面に配置され、第二エレクトレット膜35Bが回転体33の他方の面に配置されている。よって、第一エレクトレット膜35Aおよび第二エレクトレット膜35Bの面積を十分な大きさとしつつ回転体33の大型化を抑制することができる。
【0049】
本実施形態の時計用調速装置1は、発電部3Bの出力に基づいて回転体33の回転速度を検出する回転検出回路7を有する。調速部3Aは、回転検出回路7の検出結果に基づいて回転体33の回転速度を制御する。回転速度の検出用に発電部3Bの出力を用いることにより、回転体33の回転速度を常時検出することが可能となる。
【0050】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。
図17は、実施形態の第1変形例に係る調速部3Aの発電状態における静電誘導部の制動を説明する図、
図18は、実施形態の第1変形例に係る調速部3Aの電圧印加状態における静電誘導部の制動を説明する図、
図19は、実施形態の第1変形例に係る極性の切り換えを説明する図である。制御部9は、制動期間PBにおいて、発電することにより回転体33に対して制動力を作用させてもよい。
図17に示す制御部9は、充電部29を有する。充電部29は、例えば、上記実施形態の充電部19とは別に設けられる。第二電極38は、充電部29に接続されている。
【0051】
制御回路6の切替回路62によって、第一電極37を充電部29に接続した状態と、第一電極37を充電部29から遮断した状態とが切り替えられる。
図17に示すように第一電極37が充電部29と接続されることで、第一電極37と第二電極38とが充電部29を介して接続される。充電部29は、第一電極37と第二電極38との間に流れる電流を充電部19と同様に整流して降圧して蓄電部5に蓄電する。以下の説明では、制御部9において第一電極37と充電部29とが接続された状態を「発電状態」と称する。
【0052】
発電状態において、第一電極37は、第一エレクトレット膜35Aと対向しているときに第一エレクトレット膜35Aに対して吸引力F1を作用させる。このときに、第二電極38は、例えば、マイナスに帯電してエレクトレット膜35に対して反発力F2を作用させる。一方、第二電極38が第一エレクトレット膜35Aと対向しているときには、各電極37,38の極性が
図17に示す極性と逆転する。従って、発電部3Bによる発電時に、回転体33に対して制動力が作用する。発電状態において回転体33に作用する制動力の大きさは、オープン状態において回転体33に作用する制動力の大きさと比較して小さい。
【0053】
制御部9は、制動期間PBにおいて第一電極37に電圧を印加することにより回転体33に対して制動力を作用させてもよい。
図18に示す制御部9において、切替回路62は、第一電極37と蓄電部5の正極とを接続した状態と、第一電極37を蓄電部5の正極から遮断した状態とを切り替える。
図18に示すように第一電極37が蓄電部5の正極と接続されることで、第一電極37に対して電圧が印加される。この時、第二電極38は第一電極37と電位差が出来る限り大きくなるように、例えばGNDとつないでも良い。以下の説明では、制御部9において第一電極37が蓄電部5の正極に接続された状態を「電圧印加状態」と称する。
【0054】
電圧印加状態において、第一電極37が第一エレクトレット膜35Aに対して作用させる吸引力F1の大きさは、蓄電部5から第一電極37に対して印加される電圧の大きさに比例する。電圧印加状態において回転体33に作用する制動力の大きさは、オープン状態における制動力の大きさと比較して大きくなる。時計の消費電力的に許すのであれば、蓄電部5と切替回路62との間に昇圧回路を設けて、第一電極37と第二電極38との間の電位差が出来る限り大きくなるようにし、よりコギングが大きくなるようにしても構わない。
【0055】
切替回路62は、第一配線G1と、第二配線G2を短絡状態、発電状態、オープン状態、および電圧印加状態の何れかに切り替えるように構成されてもよい。短絡状態では、制動力の大きさが最も小さく、回転体33に対して実質的に制動力が作用しない。また、発電状態、オープン状態、電圧印加状態の順に回転体33に作用する制動力の大きさが大きくなる。コントロール回路65は、制動期間PBにおける状態を発電状態、オープン状態、および電圧印加状態から選択してもよい。例えば、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFの大きさに応じて制動期間PBにおける制御部9の状態を決定してもよい。コントロール回路65は、蓄電部5の電圧Vに応じて制動期間PBにおける制御部9の状態を決定してもよい。例えば、ブレーキ量判定部61は、蓄電部5の電圧Vが低い場合、制動期間PBにおける制御部9の状態として、発電状態を選択してもよい。
【0056】
また、電圧印加状態において、第一電極37、第二電極38に印加する極性は第一エレクトレット膜35Aと第一電極37、第二電極38の相対位置によって変更しても良い。第一エレクトレット膜35Aと第一電極37、第二電極38との相対位置は、回転検出回路7の出力から検出可能である。制御回路6は、検出された相対位置に基づいて、第一電極37、第二電極38に蓄電部5を接続するタイミング、極性を決定する。
【0057】
図19は、第一電極37および第二電極38に対する第一エレクトレット膜35Aの相対位置と、第一電極37、第二電極38の極性との関係を示した図である。
図19の(a)および(c)に示すように、第一電極37が第一エレクトレット膜35Aと対向している場合、蓄電部5の正極から供給される電圧により、第一電極37がプラスに帯電する。このときに、第二電極38は、蓄電部5の負極に接続されてもよい。
図19の(b)に示すように、第二電極38が第一エレクトレット膜35Aと対向している場合、蓄電部5の正極から供給される電圧により、第二電極38がプラスに帯電する。このときに、第一電極37は、蓄電部5の負極に接続されてもよい。以上のように実施形態の第1変形例に係る減速制御は、制動期間PBに用いることが望ましく、香箱2の伝達力が強い時に最も有効に機能する。
【0058】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。
図20は、実施形態の第2変形例に係る静電誘導部の断面図、
図21は、実施形態の第2変形例に係る第一エレクトレット膜および第二エレクトレット膜の配置図、
図22は、実施形態の第2変形例に係る固定電極の配置図である。実施形態の第2変形例において、上記実施形態と異なる点は、例えば、第一エレクトレット膜35Aおよび第二エレクトレット膜35Bが回転体33上の同じ面に配置されていることである。
【0059】
図20に示すように、固定電極である第一電極37、第二電極38、第三電極39、および第四電極40は、回転体33に対して軸方向の同じ側に配置されている。回転体33における半径方向の内側の領域が調速部3Aに該当する領域であり、半径方向の外側の領域が発電部3Bに該当する領域である。
【0060】
図21に示すように、第一エレクトレット膜35Aおよび第二エレクトレット膜35Bは、回転体33の第一面33aに配置されている。複数の第一エレクトレット膜35Aは、半径方向の内側の領域に回転方向に沿って配置されている。複数の第二エレクトレット膜35Bは、半径方向の外側の領域に回転方向に沿って配置されている。第二エレクトレット膜35Bの枚数は、第一エレクトレット膜35Aの枚数と同じであっても、第一エレクトレット膜35Aの枚数よりも少なくてもよい。また、第一エレクトレット膜35A同士の間には回転体33に設けた貫通穴35C、第二エレクトレット膜35B同士の間には回転体33に設けた貫通穴35Dが設けられている。
【0061】
図22に示すように、固定子34は、第一固定子34Aと、第二固定子34Bを同一基板上に形成した基板であり、第一固定子34Aは円盤形状、第二固定子34Bは円環形状である。第一固定子34Aは、第二固定子34Bよりも半径方向の内側に配置されている。複数の第一電極37および複数の第二電極38は、第一固定子34Aに配置されている。第一電極37および第二電極38は、回転体33の回転方向に沿って交互に配置されている。複数の第三電極39および複数の第四電極40は、第二固定子34Bに配置されている。第三電極39および第四電極40は、回転体33の回転方向に沿って交互に配置されている。
【0062】
実施形態の第2変形例によれば、第一電極37、第二電極38、第三電極39、および第四電極40が同一面上に配置される。よって、電極37,38,39,40を一枚の基板に集約することが可能となる。本変形例では内側が調速部3Aで、外側が発電部3Bだが、これとは逆に、外側に調速部3Aが設けられ内側に発電部3Bが設けられても構わない。
【0063】
[実施形態の第3変形例]
実施形態の第3変形例について説明する。
図23は、実施形態の第3変形例に係る時計の動力伝達部を示す図、
図24は、実施形態の第3変形例に係る調速部3Aの断面図、
図25は、実施形態の第3変形例に係る発電部3Bの断面図、
図26は、実施形態の第3変形例に係る時計の動力伝達部を示す図である。実施形態の第3変形例において、上記実施形態と異なる点は、調速部3Aと発電部3Bとが別軸に配置されている点である。
【0064】
図23に示すように、静電誘導部3は、第一回転軸81、第二回転軸82、カナ83、第一回転体84、カナ85、および第二回転体86を有する。カナ83および第一回転体84は、第一回転軸81に固定されている。カナ85および第二回転体86は、第二回転軸82に固定されている。カナ83は、四番車28と噛み合っている。四番車28およびカナ83によって、第三回転軸23の回転が増速されて第一回転軸81に伝達される。第一回転体84の外周面には、歯車が形成されている。第一回転体84は、カナ85と噛み合っている。第一回転体84およびカナ85によって、第一回転軸81の回転が増速されて第二回転軸82に伝達される。
【0065】
図24に示すように、第一固定子34Aは、第一回転体84に対向して配置される。第一回転体84において、第一固定子34Aと対向する面には、第一エレクトレット膜35Aが配置される。第一固定子34Aにおいて、第一エレクトレット膜35Aと対向する面には、複数の第一電極37および複数の第二電極38が配置される。電極37,38と第一エレクトレット膜35Aとの間に作用する静電気力によって、第一回転体84の回転速度が制御される。
【0066】
図25に示すように、第二固定子34Bは、第二回転体86に対向して配置される。第二回転体86において、第二固定子34Bと対向する面には、第二エレクトレット膜35Bが配置される。第二固定子34Bにおいて、第二エレクトレット膜35Bと対向する面には、複数の第三電極39および複数の第四電極40が配置される。第三電極39および第四電極40は、整流回路8を介して接続される。電極39,40と第二エレクトレット膜35Bとの間に作用する静電気力によって、発電部3Bにおいて発電がなされる。
【0067】
図23に示す配置によれば、第一回転軸81は、調速用の回転軸である調速軸となる。第二回転軸82は、発電用の回転軸である発電軸となる。調速軸の回転速度に対して発電軸の回転速度が高速であることから、発電部3Bにおける発電電力の増加が実現される。
【0068】
なお、
図26に示すように、第一回転軸81は、第二回転軸82よりも高速で回転するように配置されてもよい。この場合、第二回転軸82にはカナ83および第二回転体86が固定され、第一回転軸81にはカナ85および第一回転体84が固定される。第二回転軸82の回転は、第二回転体86およびカナ85によって増速されて第一回転軸81に伝達される。
図26に示す配置によれば、香箱2から第一回転軸81までの増速比が大きいことから、香箱2に作用する制動力の増加などが実現される。
【0069】
図26に示す構成例において、発電部3Bによる発電電圧が蓄電部5の定格電圧と同等とされてもよい。言い換えると、充電部19において降圧回路54が不要となるように第二回転軸82の回転速度が設定されてもよい。例えば、香箱2から第二回転軸82までの増速比は、整流回路8の出力電圧を蓄電部5の電圧Vに近い値とするように設定される。このように設定することで、回路的に昇圧したり、降圧したりする必要がなく、蓄電部5への充電効率が上がる。
【0070】
以上説明したように、実施形態の第3変形例に係る時計用調速装置1において、第一回転体84は、増速輪列20を介して香箱2と連結された第一回転軸81に固定されている。発電部3Bは、増速輪列20を介して香箱2と連結された第二回転軸82の回転によって発電する。また、第一回転軸81と第二回転軸82とが異なる速度で回転する。本変形例によれば、第一回転軸81の回転速度を調速部3Aの特性に応じた速度とし、第二回転軸82の回転速度を発電部3Bの特性に応じた速度とすることができる。
【0071】
[実施形態の第4変形例]
実施形態の第4変形例について説明する。
図27は、実施形態の第4変形例に係る回転検出回路を説明する図である。実施形態の第4変形例において、上記実施形態と異なる点は、回転検出回路7の入力信号が調速部3Aから切替回路62、整流回路8を介して出力されている点である。
【0072】
図27に示すように、回転検出回路7は、第一電極37と第二電極38の電位差に基づいて回転体33の回転速度を検出する。切替回路62は、切替回路62を短絡状態、オープン状態、および検出状態の何れかに切り替えることができる。検出状態は、第一電極37、第二電極38を整流回路8に接続し、整流回路の出力を回転検出回路7に接続した状態である。検出状態において、第一電極37と第二電極38との間に電位差が生じることで、回転体33に対して制動力を作用させることも可能である。
【0073】
なお、制御対象である回転体(回転体33、第一回転体84)の回転速度を検出する手段は、第一回転体84には限定されない。例えば、第一回転体84に代えて、増速輪列20の第一回転軸21、第二回転軸22、および第三回転軸23などのいずれかの回転軸に固定されている三番車26、四番車28に調速部3Aが設けられてもよい。
【0074】
[実施形態の第5変形例]
実施形態の第5変形例について説明する。
図28は、実施形態の第5変形例に係る加速制御を説明する図、
図29は、実施形態の第5変形例に係る極性の切り換えを説明する図である。制御部9は、回転体33や第一回転体84に対して、静電気力による加速力を作用させてもよい。この場合、制御部9は、第一エレクトレット膜35Aの回転位置を検出する位置検出部を有することが望ましい。制御部9は、検出された回転位置に応じて、第一電極37をプラスに帯電させ、第一エレクトレット膜35Aに対して加速方向の吸引力を作用させる。例えば、切替回路62は、
図28に示すように、第一エレクトレット膜35Aが第一電極37に近づいているときに蓄電部5の正極を第一電極37に接続し、蓄電部5の負極を第二電極38に接続する。これにより、第一電極37は、回転体33を加速させる向きの吸引力F3を第一エレクトレット膜35Aに作用させることができる。
【0075】
加速制御において、第一電極37および第二電極38に印加する極性は、第一エレクトレット膜35Aと第一電極37および第二電極38との相対位置に応じて変更されてもよい。第一エレクトレット膜35Aと第一電極37および第二電極38との相対位置は、回転検出回路7の出力から検出可能である。
図29は、第一エレクトレット膜35Aに対する第一電極37および第二電極38の相対位置と、第一電極37、第二電極38の極性との関係を示した図である。
図29の(a)および(c)に示すように、第二電極38が第一エレクトレット膜35Aと対向している場合、蓄電部5の正極から供給される電圧により、第一電極37がプラスに帯電する。このときに、第二電極38は、蓄電部5の負極に接続されてもよい。
図29の(b)に示すように、第一電極37が第一エレクトレット膜35Aと対向している場合、蓄電部5の正極から供給される電圧により、第二電極38がプラスに帯電する。このときに、第一電極37は、蓄電部5の負極に接続されてもよい。実施形態の第5変形例に係る加速制御は、非制動期間PNに用いることが望ましく、香箱2の伝達力が弱くなった時に最も有効に機能する。
【0076】
なお、上記とは逆に、切替回路62は、第一エレクトレット膜35Aが第一電極37に近づいているときに蓄電部5の正極を第二電極38に接続してもよい。これにより、第二電極38は、回転体33を減速させる向きの吸引力を第一エレクトレット膜35Aに作用させることもできる。ただし、このように電極の電位を切り替える場合、消費電力が大きくなるため、時計として電力が許す限りでの使用となり、常にこのような制御方法を行うのではなく、他の実施形態のような制御方法と組み合せて使用するなどしても構わない。
【0077】
[実施形態の第6変形例]
実施形態の第6変形例について説明する。
図30は、実施形態の第6変形例に係る比率の決定方法を説明する図である。上記実施形態の時計用調速装置1は、調速部3Aが調速制御を行っている間も回転検出回路7が回転数を検出することができる。このため、
図30のように、制動期間PBと、非制動期間PNを合計した期間を制御期間PSとし、制御期間PS中の周波数信号FG1の平均値と基準信号fsとの比較結果に基づいて調速設定(制動期間PBと、非制動期間PNの比率)の設定値を決定しても良い。一つの制御期間PSにおいて取得した周波数信号FG1の平均値と、基準信号fsとの比較結果から次の制御期間PSの比率が決定される。周波数信号FG1の測定時間を最大限に長くすることによって正確な周波数信号FG1を測定できるため、調速精度が向上できる。
【0078】
[実施形態の第7変形例]
上記実施形態や変形例において、第一電極37および第二電極38が回転体33,83,84に配置され、第一エレクトレット膜35Aが筐体の側に固定されてもよい。つまり、帯電膜および電極のうち一方が運動体に配置され、他方が筐体の側に固定されていればよい。
【0079】
調速部3Aによって調速される運動体は、回転体33,83,84には限定されず、周期的な運動をするものであればよい。例えば、運動体は、回転方向に沿って周期的な反復運動をするものであってもよい。運動体は、直線方向に沿って周期的な反復運動をするものであってもよい。
【0080】
調速部3A、発電部3Bは、静電気力によって制動力や、発電を作用させるものには限定されない。例えば、調速部3A、発電部3Bは、どちらか一方が輪列を介して香箱2と連結されたロータと、ステータと、コイルと、を有する電動機であっても良い。
構成の一例として、調速部3Aは電磁式の発電機によって調速を行い、発電部3Bは、静電気力によって発電を行なってもよい。このように静電気と電磁気による方式の調速部、発電部を組み合わせることで、回転速度や調速性能に応じて、より制御の自由度の高い時計にすることが可能となる。
【0081】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 時計用調速装置
2 香箱
3 静電誘導部
3A 調速部
3B 発電部
5 蓄電部
6 制御回路
7 回転検出回路
8 整流回路
9 制御部
10 指針
11:秒針、 12:分針、 13:時針
14 香箱真
15 ぜんまい
18 整流回路
19 充電部
20 増速輪列
21:第一回転軸、 22:第二回転軸、 23:第三回転軸、 24:二番車、
25:カナ、 26:三番車、 27:カナ、 28:四番車
31:回転軸、 32:カナ、 33:回転体
34A:第一固定子、 34B:第二固定子
35A:第一エレクトレット膜、 35B:第二エレクトレット膜
36:貫通孔、 37:第一電極、 38:第二電極、 39:第三電極、
40 第四電極
41:第一電極群、 42:第二電極群
51 分周発振回路
51a 水晶振動子
61 ブレーキ量判定部
62 切替回路
65 コントロール回路
71 波形整形回路
72 周波数計測回路
81:第一回転軸、 82:第二回転軸、 83:カナ、 84:第一回転体、
85 カナ、 86 第二回転体
100 時計
fs 基準信号
FG1 周波数信号
ΔF 差分
G1:第一配線、 G2:第二配線、G3:第三配線、 G4:第四配線
PS 制御期間
PB 制動期間
PN 非制動期間
W1 出力波形