(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 5/00 20060101AFI20230523BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20230523BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G06T5/00 705
G06T1/00 290B
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2019570790
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004337
(87)【国際公開番号】W WO2019156140
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018021452
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100075292
【氏名又は名称】加藤 卓
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 克己
【審査官】松永 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-266956(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029458(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0071363(US,A1)
【文献】Igor N. AIZENBERG et al,Detectors of the impulsive noise and new effective filters for the impulsive noise reduction,SPIE Proceedings,2003年05月,Vol.5014,p.419-428,DOI: 10.1117/12.477716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00-19/20
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目画素と、前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素とを、それぞれの輝度値の大小にしたがって順に並べる整列手段と、
前記注目画素が、前記整列手段によって並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素における中間の所定の範囲にあるかどうかを判断する判断手段と、
前記注目画素が前記所定の範囲にない場合には、前記所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて前記注目画素の輝度値を置き換える置換手段と、を備え
、
前記置換手段が、前記所定の範囲にある画素の輝度値の平均値で前記注目画素の輝度値を置き換えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記所定の範囲が、前記整列手段によって並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素の中央に位置する画素からその前後の同数の画素を含むように設定されることを特徴とする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記注目画素の存する画像が連続する複数の断層画像のうちの一の断層画像であり、
前記複数の隣接画素が、前記一の断層画像及びその前後の断層画像において空間的に前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
注目画素と、前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素とを、それぞれの輝度値の大小にしたがって順に並べる整列工程と、
前記注目画素が、前記整列工程において並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素における中間の所定の範囲にあるかどうかを判断する判断工程と、
前記注目画素が前記所定の範囲にない場合には、前記所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて前記注目画素の輝度値を置き換える置換工程と、を備え
、
前記置換工程において、前記所定の範囲にある画素の輝度値の平均値で前記注目画素の輝度値を置き換えることを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
前記所定の範囲が、前記整列工程において並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素の中央に位置する画素からその前後の同数の画素を含むように設定されることを特徴とする、請求項
4に記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記注目画素の存する画像が連続する複数の断層画像のうちの一の断層画像であり、
前記複数の隣接画素が、前記一の断層画像及びその前後の断層画像において空間的に前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素であることを特徴とする、請求項
4又は5に記載の画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータを請求項1~
3のいずれか1項に記載の画像処理装置として機能させるための、あるいはコンピュータに請求項
4~6のいずれか1項に記載の画像処理方法を実行させるための画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズを含む画像を処理してノイズを低減した画像を生成するための画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
シグナルとノイズの比(S/N)が良好でない画像には白色点や黒色点からなるノイズが多く含まれる。これらのノイズは、例えば画像を分析・解析して何らかの情報を得るために行う画像処理の過程において、間違った分析・解析結果が導かれる原因となったり、得られた結果のばらつきを増大させる原因となったりする。特に医療分野において、観察部位の二次元画像や断層画像を得て画像診断を行う場合、異常とみなす注目する構造物は非常に小さかったり、不鮮明であったり、あるいは、幅が狭かったりする。そのような場合、ノイズ点が間違って着目する対象の構造物として抽出されてしまったり、ノイズ成分が着目する構造物を分断してしまうことにより、本来一つの構造物であったものを複数の構造物として認識させてしまったりする原因となる。そのため、いかにしてノイズを除去するかは画像処理の過程において非常に重要な課題となっている。
【0003】
従来、単一の画像に対してノイズを低減すべく行う処理としては、注目画素周辺の画素に着目して平均値をとったり、あるいは、中央値をとったりする方法が広く用いられている。これは、これらの処理により白色点や黒色点の寄与が薄まり、結果的にその領域の平均値から大きく外れるノイズが除去されることになるためである。また、連続する複数枚の画像を処理する分野、例えば眼底断層画像を扱う分野においては、例えば特許文献1に開示されているように、隣接する二枚以上の画像間において同様に画素の平均値や中央値を用いて移動平均をとることによりノイズを低減する方法がとられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報WO2014/112611A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のこれらの方法では、画像中の注目画素の周辺情報を一律に平均化することから、画像中の構造物の輪郭をぼかしてしまったり、構造物の輝度を下げてしまったりする結果となり、注目する構造物と背景とのコントラストを下げてしまうばかりか、構造物の形、明るさ、色などの特徴そのものを損なってしまうという問題点があった。
【0006】
また、断層画像などを扱う分野においては、上述のように注目する構造物の特徴を損なってしまうという問題点に加え、さらに次のような問題点もある。すなわち、連続する断層画像間の移動平均をとる方法では、複数の画像の画素を平均化することによりノイズと判断される画素を容易に除去することができ、滑らかな連続断層像を生成することはできるものの、連続する画像間で平均化処理をすることにより、注目する断層画像には含まれないがその前後の断層画像に含まれている構造物が処理後の注目する断層画像に映りこんでしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、画像中の構造物の特徴を維持したまま、画像中のノイズを低減することができる画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第一に本発明は、注目画素と、前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素とを、それぞれの輝度値の大小にしたがって順に並べる整列手段と、前記注目画素が、前記整列手段によって並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素における中間の所定の範囲にあるかどうかを判断する判断手段と、前記注目画素が前記所定の範囲にない場合には、前記所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて前記注目画素の輝度値を置き換える置換手段と、を備える画像処理装置を提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)によれば、単純に注目画素の輝度値を周辺画素(注目画素の周囲に位置する隣接画素)の輝度値を用いて平均化するのではなく、注目画素と周辺画素とを輝度値の大小の順に並べ、注目画素が中間の所定の範囲に含まれている場合には何もせず、含まれていない場合にのみ当該所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて注目画素の輝度値を置き換えるため、画像中のノイズのみを除去することができる。その結果、画像中に存在する特徴的な構造物の形、明るさ、色などの特徴を損なうことなく、ノイズの低減処理を行うことができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記所定の範囲が、前記整列手段によって並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素の中央に位置する画素からその前後の同数の画素を含むように設定されることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記置換手段が、前記所定の範囲にある画素の輝度値の平均値で前記注目画素の輝度値を置き換えることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記注目画素の存する画像が連続する複数の断層画像のうちの一の断層画像であり、前記複数の隣接画素が、前記一の断層画像及びその前後の断層画像において空間的に前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素であってもよい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明4)によれば、連続する断層画像を扱う場合においても注目する構造物の特徴を損なわず、かつ前後の断層画像中に含まれる構造物が処理後の注目する断層画像に映り込むこともなく、ノイズ低減処理を行うことができる。
【0014】
第二に本発明は、注目画素と、前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素とを、それぞれの輝度値の大小にしたがって順に並べる整列工程と、前記注目画素が、前記整列工程において並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素における中間の所定の範囲にあるかどうかを判断する判断工程と、前記注目画素が前記所定の範囲にない場合には、前記所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて前記注目画素の輝度値を置き換える置換工程と、を備える画像処理方法を提供する(発明5)。
【0015】
上記発明(発明5)によれば、単純に注目画素の輝度値を周辺画素(注目画素の周囲に位置する隣接画素)の輝度値を用いて平均化するのではなく、注目画素と周辺画素とを輝度値の大小の順に並べ、注目画素が中間の所定の範囲に含まれている場合には何もせず、含まれていない場合にのみ当該所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて注目画素の輝度値を置き換えるため、画像中のノイズのみを除去することができる。その結果、画像中に存在する特徴的な構造物の形、明るさ、色などの特徴を損なうことなく、ノイズの低減処理を行うことができる。
【0016】
上記発明(発明5)においては、前記所定の範囲が、前記整列工程において並べた前記注目画素及び前記複数の隣接画素の中央に位置する画素からその前後の同数の画素を含むように設定されることが好ましい(発明6)。
【0017】
上記発明(5,6)においては、前記置換工程において、前記所定の範囲にある画素の輝度値の平均値で前記注目画素の輝度値を置き換えることが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(5~7)においては、前記注目画素の存する画像が連続する複数の断層画像のうちの一の断層画像であり、前記複数の隣接画素が、前記一の断層画像及びその前後の断層画像において空間的に前記注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素であってもよい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明8)によれば、連続する断層画像を扱う場合においても注目する構造物の特徴を損なわず、かつ前後の断層画像中に含まれる構造物が処理後の注目する断層画像に映り込むこともなく、ノイズ低減処理を行うことができる。
【0020】
第三に本発明は、コンピュータを発明1~4のいずれか1つに係る画像処理装置として機能させるための、あるいはコンピュータに発明5~8のいずれか1つに係る画像処理方法を実行させるための画像処理プログラムを提供する(発明9)。
【発明の効果】
【0021】
本発明の画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムによれば、画像中の構造物の特徴を維持したまま、画像中のノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像処理装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】眼底をスキャンすることにより眼底断層画像を取得する状態を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係る画像処理装置により単一の画像を処理する場合の注目画素と隣接画素の関係を模式的に示す説明図である。
【
図4】本実施形態における画像処理の流れを示すフロー図である。
【
図5】本実施形態に係る画像処理装置により、注目画素の輝度値を置き換える様子を模式的に示す説明図である。
【
図6】本実施形態に係る画像処理装置により連続する複数の断層画像を処理する場合の注目画素と隣接画素の関係を模式的に示す説明図(その1)である。
【
図7】本実施形態に係る画像処理装置により連続する複数の断層画像を処理する場合の注目画素と隣接画素の関係を模式的に示す説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここでは、断層像撮影装置により被検眼の眼底Eの断層画像を取得し、この断層画像からノイズを除去する例について説明するが、本発明における処理の対象となる画像は眼底断層画像に限定されるものでなく、他の種類の装置で他の対象を撮影した場合にも適用することができる。
【0024】
図1は、被検眼眼底の断層画像を取得して画像処理するシステム全体を示すブロック図である。断層像撮影装置10は、被検眼の眼底の断層像を撮影する装置(OCT:Optical Coherence Tomography)であり、例えばフーリエドメイン方式で動作する。断層像撮影装置10は公知であるので、その詳細な説明は省略するが、断層像撮影装置10には、低コヒーレンス光源が設けられ、低コヒーレンス光源からの光が参照光と信号光に分割される。信号光は、
図2に図示したように、眼底E上で、例えばX、Y方向にラスタースキャンされる。眼底Eで走査され反射された信号光は、参照ミラーで反射した参照光と重畳され干渉光を発生し、該干渉光に基づいて眼底の深度方向(Z方向)の情報を示すOCT信号が発生する。
【0025】
画像処理装置20は、CPU、RAM、ROMなどで構成されたコンピュータで実現される制御部21を有し、制御部21は画像処理プログラムを実行することにより全体の画像処理を制御する。また、画像処理装置20には、断層画像形成部22が設けられる。
【0026】
断層画像形成部22は、フーリエドメイン方式などの公知の解析方法を実行する専用の電子回路、または、前述のCPUが実行する画像処理プログラムにより実現され、断層像撮影装置10で生成されたOCT信号に基づいて、被検眼眼底の断層画像を形成する。
【0027】
例えば、
図2に示したように、眼底Eがy方向にy
N(N=1、2、・・・・・、n)の位置で、x方向にスキャンされた場合、当該スキャン時に複数回(m回)サンプリングが行われる。このx方向の各サンプリング時点でそれぞれz方向の断層画像(Aスキャン画像)A
h(h=1、2、・・・・・、m)が取得され、これらのAスキャン画像A
hから断層画像B
N(N=1、2、・・・・・、t)が形成される。Aスキャン画像は、例えば、x方向に1画素幅、z方向にn画素の長さで格納されるので、断層画像B
Nはm×n画素の大きさをもつ画像となり、Bスキャン画像とも呼ばれる。
【0028】
断層画像形成部22で形成されたt枚の断層画像BN、あるいはこれらt枚の断層画像BNから構築される3次元のボリューム画像は、例えば半導体メモリ、ハードディスク装置等により構成された記憶部23に格納される。記憶部23は、さらに上述した画像処理プログラムなども格納する。
【0029】
画像処理装置20には、画像処理部30が設けられる。画像処理部30は、整列手段31、判断手段32、置換手段33を備えている。後述するように、整列手段31は、処理対象となる画像中の注目画素と、当該注目画素の周囲に位置する複数の隣接画素とを、それぞれの輝度値の大小にしたがって順に並べ、判断手段32は、注目画素が、整列手段によって並べた注目画素及び複数の隣接画素における中間の所定の範囲にあるかどうかを判断し、置換手段33は、注目画素が所定の範囲にない場合には、所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて注目画素の輝度値を置き換える。画像処理部30における各手段あるいは各画像処理は、専用の電子回路を用いることにより、あるいは画像処理プログラムを実行することに実現される。
【0030】
表示部24は、例えば、LCDなどのディスプレイ装置によって構成され、記憶部23に格納された断層画像、画像処理装置20で生成あるいは処理された画像、被験者に関する情報などの付随する情報などを表示する。
【0031】
操作部25は、例えば、マウスやキーボード、操作ペン、ポインター、操作パネル等を有し、表示部24に表示された画像の選択、あるいは操作者が画像処理装置20などに指示を与えるために用いられる。
【0032】
続いて、断層像撮影装置10により被検眼の眼底Eの断層像を撮影し、撮影した断層像を元に断層画像形成部22によって生成された被検眼眼底の断層画像中のノイズを、画像処理部30による画像処理により除去する流れを説明する。まず、得られたt枚の断層画像BNのうちの一枚を処理対象画像BTとして、この単一の処理対象画像BTからノイズを除去する流れを説明する。
【0033】
処理対象画像B
Tは、
図3の(A)に示すように、m×n画素の大きさをもつ画像である。この処理対象画像B
Tからノイズを除去する流れを
図4に示す。なお、
図4中のS101~S106が以下に述べる流れの説明におけるステップ101~106に相当する。
図4に示す流れにおいて、まず整列手段31は、この処理対象画像B
Tにおいて注目する画素を注目画素Pとして一つ設定し、その注目画素Pの周囲に位置する画素、すなわち注目画素Pの上下左右に位置する画素と注目画素Pの四隅に接するように位置する画素の合計8個の画素を隣接画素p
i(i=1~8)として設定する(ステップ101)。
図3(B)に、処理対象画像B
Tの左から4列目、上から3行目に設定された注目画素Pと、その周囲に位置する8個の隣接画素p
iの関係を示す。
【0034】
なお、処理対象画像B
Tにおいて注目画素Pを端部に設定する場合には必ずしも隣接画素が8個設定されるわけではなく、注目画素Pが処理対象画像B
Tにおいて端部に設定される場合、隣接画素はその注目画素の位置に合わせて適宜8個以内で設定されてよい。例えば注目画素が処理対象画像B
Tの左から1列目、上から3行目に設定された場合には、
図3(C)に示すように、注目画素Pの上、下、右、右斜め上、右斜め下に位置する5個の画素が隣接画素として設定される。
【0035】
また、処理する画像の種類やノイズ除去の目的等に応じて注目画素の上下左右に位置する4個のみを隣接画素として設定するようにしてもよいし、注目画素の上下左右に位置する画素と注目画素の四隅に接するように位置する8個の画素に加えて、更にその外側に位置する16個の画素を併せた24個の画素を隣接画素として設定する等、隣接画素の設定の方法を適宜変更してもよい。
【0036】
続いて整列手段31は、注目画素Pの輝度値Dと、8つの隣接画素piの輝度値di(i=1~8)を処理対象画像BTの原画像データから取得する(ステップ102)。
【0037】
注目画素Pの輝度値D及び隣接画素piの輝度値diを取得した後、整列手段31は、注目画素Pの輝度値Dと各隣接画素piの輝度値diとに基づき、注目画素Pと隣接画素piとを輝度値の大小にしたがって順に並べる(ステップ103)。
【0038】
続いて判断手段32が、注目画素Pが、整列手段31によって並べた注目画素P及び隣接画素piにおける中間の所定の範囲にあるかどうかを判断する(ステップ104)。所定の範囲は、整列手段31によって並べた注目画素P及び隣接画素piの中央に位置する画素からその前後の同数の画素を含むように設定される。
【0039】
具体的には、
図5(A)に示すように、例えば注目画素Pの輝度値Dが35、隣接画素p
iの輝度値d
iが順に178、187、97、141、254、209、134、157である場合を想定すると、注目画素Pと隣接画素p
iとを輝度値の小さい方から順に左から並べると、左から注目画素P、隣接画素p
3、隣接画素p
7、隣接画素p
4、隣接画素p
8、隣接画素p
1、隣接画素p
2、隣接画素p
6、隣接画素p
5、の順に各画素が並ぶことになる。ここで、所定の範囲を、整列手段31によって並べた注目画素P及び隣接画素p
iにおける中央に位置する画素、すなわち隣接画素p
8からその前後の2つの画素を含む合計5つの画素からなる範囲Wに設定すると、注目画素Pはその範囲Wにはないと判断手段32によって判断される。一方、
図5(B)に示すように、注目画素Pの輝度値Dと隣接画素p
1の輝度値d
1とが
図5(A)とは逆になっており、注目画素Pの輝度値Dが178、隣接画素p
iの輝度値d
iが順に35、187、97、141、254、209、134、157である場合を想定すると、注目画素Pと隣接画素p
iとを輝度値の小さい方から順に左から並べると、左から隣接画素p
1、隣接画素p
3、隣接画素p
7、隣接画素p
4、隣接画素p
8、注目画素P、隣接画素p
2、隣接画素p
6、隣接画素p
5、の順に各画素が並ぶ。この場合には注目画素Pはその範囲Wにあると判断手段32によって判断される。
【0040】
判断手段32が、注目画素Pが範囲Wにないと判断した場合、置換手段33は、範囲Wにある5つの画素の平均値を算出する(ステップ105)。そして、算出した平均値をもって注目画素Pの輝度値を置き換えた画像を生成し(ステップ106)、記憶部23に保存する。例えば、
図5(A)に示す例では、注目画素は範囲Wの範囲外にあり、範囲Wにある5つの画素の平均値は159であるので、注目画素Pの輝度値を159に置き換えた画像が生成される。
【0041】
一方、判断手段32が、注目画素Pが範囲Wにあると判断した場合は、注目画素Pの輝度値は平均値に置き換えることなく、そのままとする。例えば、
図5(B)に示す例では、注目画素は範囲Wの範囲内にあるので、注目画素Pの輝度値を178のままとなる。
【0042】
なお、本実施形態では、置換手段33が、所定の範囲Wにある5つの画素の輝度値の平均値で注目画素Pの輝度値を置き換えたが、これに限られるものではなく、画像の質や抽出したい構造物の性状(形、明るさ、大きさ等)によっては、例えば、範囲Wの中央に位置する画素の輝度値で注目画素Pの輝度値を置き換えたり、範囲Wの中央3画素の平均値に基づいて置き換えたりしてもよい。
【0043】
上述の処理を、処理対象画像BTにおいて、例えば左上端の画素から順に全ての画素を注目画素として設定しながら繰り返し、最終的に処理対象画像BTの全体においてノイズ除去処理を行った画像が生成される。
【0044】
このように本発明は、処理対象となる画像中の注目画素の輝度値をその周囲に位置する隣接画素の輝度値を用いて単純に平均化するのではなく、注目画素及びその周囲に位置する隣接画素をその輝度値の大小の順に並べ、注目画素が中間の所定の範囲に含まれている場合には何もせず、含まれていない場合にのみ当該所定の範囲にある画素の輝度値に基づいて注目画素の輝度値を置き換えるものである。その結果、画像中に存在する特徴的な構造物の形、明るさ、色などの特徴を損なうことなく、ノイズの低減処理を行うことができる。
【0045】
つまり、注目画素が白色点や黒色点からなるノイズであれば、その周囲に位置する隣接画素の輝度値とは大きく異なる輝度値を有している可能性が高く、このような周囲の傾向からずれた輝度値を有する画素は、注目画素及び隣接画素をその輝度値の大小の順に並べれば、その並びの中で端に位置することになる。そこで本発明は、注目画素が所定の範囲内にあれば、その注目画素はノイズでないと考えられるため、注目画素の輝度値を置き換えず、注目画素が所定の範囲内になければ、注目画素がノイズである可能性が高いため、注目画素の輝度値を周囲の傾向に合わせた輝度値に置き換えることで、画像中のノイズのみを除去することができる。その結果、画像中に存在する特徴的な構造物の形、明るさ、色などの特徴を損なうことなく、ノイズの低減処理を行うことができる。
【0046】
なお、本実施形態では断層像撮影装置10により取得した断層画像BNのうちの一枚を処理対象画像BTとしたが、走査型レーザー検眼鏡(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope)により取得した眼底平面画像を処理対象画像としてここまでと同様の画像処理を行い、ノイズを除去することもできる。
【0047】
<第1変形例>
ここまで単一の処理対象画像B
Tからノイズを除去する流れを説明したが、以下においては、
図2に示すように空間的に連続しているところから得られたt枚の断層画像B
Nのうちの一枚を処理対象画像B
Tとして、その前後の断層画像B
T-1及び断層画像B
T+
1も併せて用いて、注目画素及び隣接画素を設定する方法を説明する。断層画像B
T-1及び断層画像B
T+1は、
図2に示したy方向において処理対象画像B
Tに連続する断層画像であり、処理対象画像B
Tと同様にm×n画素の大きさをもつ画像である。本変形例における画像処理に用いられる断層像撮影装置10や画像処理装置20は、前述のものと同じ構成を有するため、詳細な説明は省略するが、断層画像B
T-1、処理対象画像B
T及び断層画像B
T+1はいずれも記憶部23に格納されている。
【0048】
本変形例においては、処理対象画像BTにおいて注目する画素を注目画素Qとして一つ設定し、当該処理対象画像BT及びその前後の断層画像BT-1及び断層画像BT+1において空間的に注目画素の周囲に位置する合計26個の画素を隣接画素qi(i=1~26)として設定する。
【0049】
すなわち、本変形例における隣接画素qiは、処理対象画像BTにおいて注目画素Qの上下左右に位置する画素及び注目画素の四隅に接するように位置する画素の合計8個の画素に加え、断層画像BT-1及び断層画像BT+1を処理対象画像BTに並べたときに空間的に注目画素Qの周囲に位置することとなる合計18個の画素を含めた合計26個の画素である。図6に、処理対象画像BTの左から4列目、上から3行目に設定された注目画素Qと、当該処理対象画像BT及びその前後の断層画像BT-1及び断層画像BT+1において空間的に注目画素Qの周囲に位置する26個の隣接画素qiの関係を示す。また、処理対象画像BT及びその前後の断層画像BT-1及び断層画像BT+1を並べた状態から注目画素Qと隣接画素qiだけを切り出した状態を図7に示す。
【0050】
なお、処理対象画像BTにおいて注目画素Qを端部に設定する場合には必ずしも隣接画素が26個設定されるわけではなく、注目画素Qが処理対象画像BTにおいて端部に設定される場合、隣接画素はその注目画素の位置に合わせて適宜26個以内で設定されてよい。また、前後に連続する断層画像が存在しない場合も隣接画素はその注目画素の位置に合わせて適宜26個以内で設定されてよい。さらに、処理する画像の種類やノイズ除去の目的等に応じて隣接画素の設定の方法を適宜変更してもよい。
【0051】
このように注目画素Qと隣接画素q
iを設定した場合にも、
図4に示した流れに沿って、画像処理部30による画像処理によりノイズを除去することができる。画像処理の流れは単一の処理対象画像B
Tからノイズを除去する流れと同様であるため省略する。
【0052】
このように連続する断層画像を扱う場合においても、本実施形態に係る画像処理装置及び画像処理方法を適用することにより、画像中のノイズのみを除去することができる。その結果、画像中に存在する特徴的な構造物の形、明るさ、色などの特徴を損なうことなく、かつ前後の断層画像中に含まれる構造物が処理後の注目する断層画像に映り込むこともなく、ノイズ低減処理を行うことができる。
【0053】
<第2変形例>
ここまでは断層像撮影装置10により取得した断層画像BNを処理対象としてきたが、OCTアンギオグラフィ(OCTA:Optical Coherence Tomography Angiography)を用いて生成された網膜血管の正面画像(En Face画像)に対して画像処理を行ない、当該画像からノイズを除去することもできる。OCTアンギオグラフィは、蛍光剤を使用せずに血管造影のような画像を生成するものであり、上記実施形態において説明した断層像撮影装置10を用いて被検眼の眼底Eの同一箇所を連続で複数枚撮影し、取得された数msの時間差断層画像(Bスキャン画像)における変化を血流変化とみなして正面画像を生成する。
【0054】
具体的には、被検眼の眼底Eの同一箇所を連続で複数枚撮影したBスキャン画像群に対し、公知の変化検出方法、例えば、OMAG(Optical Microangiography)法や、SSADA(Split-spectrum Amplitude-decorrelation Angiography)法等を適用して一の血流断層画像を生成する。これを観察対象領域に対してy方向にスキャン位置を変えながら繰り返し、得られた連続する複数の血流断層画像から一つの三次元データセットを生成する。すなわち、三次元データセットは被検眼の眼底Eの観察対象領域を立体的にモデル化したデータである。
【0055】
Bスキャン画像群を構成するそれぞれのBスキャン画像が
図2におけるxz平面の断層画像である場合、当該Bスキャン画像群から生成される血流断層画像もxz平面の断層画像となるが、三次元データセットから今度はz方向に連続する複数のxy平面の断層画像として血流断層画像を生成する。このz方向に連続する複数のxy平面の血流断層画像を重層することにより網膜血管の正面画像が生成される。
【0056】
重層される複数のxy平面の血流断層画像のうちの一枚の血流断層画像を第1変形例における処理対象画像BTとし、その血流断層画像を挟むように重なる前後の血流断層画像を断層画像BT-1及び断層画像BT+1とすれば、前述の第1変形例において説明したものと同様の画像処理方法をOCTアンギオグラフィにより生成された網膜血管の正面画像に適用することができ、当該正面画像中のノイズのみを除去することができる。
【0057】
以上、本発明に係る画像処理装置及び画像処理方法について図面に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、種々の変更実施が可能である。
【0058】
例えば、処理対象画像BTに対して、前後の断層画像BT+1、BT-1だけではなく、更にその前後の断層画像BT+2、BT-2に含まれる画素も隣接画素として設定してもよい。あるいは、あえて前後の断層画像BT+1、BT-1に含まれる画素は隣接画素として設定せずに断層画像BT、BT+2、BT-2に含まれる画素のみで隣接画素を設定してもよい。逆に計算の簡略化のため、処理対象画像BTおよびBT対して片側に隣接する断層画像BT+1、の2枚の画像の中からのみ隣接画素を設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明はシグナルとノイズの比(S/N)が良好でない画像を用いる画像診断においてノイズを効率よく除去する方法として利用することが可能である。特に、強力な光源を照明光として利用することが困難な眼底画像診断、および、眼底断層像診断においてはS/Nが不良の画像中の微小な構造物の形状、ならびに、個数を診断しなくてはならないケースが多いため、本発明は強力な画像ノイズ除去法として利用できることが期待できる。
【符号の説明】
【0060】
10 断層像撮影装置
20 画像処理装置
21 制御部
22 断層画像形成部
23 記憶部
24 表示部
25 操作部
30 画像処理部
31 整列手段
32 判断手段
33 置換手段