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特許7284160パラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
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  • 特許-パラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】パラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230523BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20230523BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01N1/28 U
G01N1/28 N
G01N1/30
G02B21/34
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020519171
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 CN2018091383
(87)【国際公開番号】W WO2018228508
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】62/520,169
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/520,319
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521151924
【氏名又は名称】シンセン ピーアールエス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハッシャー フレデリッククヌート
(72)【発明者】
【氏名】シャム ジジョン
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-129000(JP,A)
【文献】特開平10-293095(JP,A)
【文献】特開2002-211156(JP,A)
【文献】国際公開第2007/074769(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0167338(US,A1)
【文献】特表2004-515752(JP,A)
【文献】特開2000-346770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 33/48-33/98
G02B 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡スライド上の生物材料及び/又は無機付着物をコーティングするために使用されるパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法であって、前記パラフィン保護コーティングが、以下の工程:
(a)固形パラフィンを、融解して液体パラフィンになるまで60℃~75℃の範囲の温度で融解する工程と、
(b)工程(a)で得られた前記液体パラフィンに、飽和混合物が得られるまで溶媒を加える工程と、
(c)工程(b)で得られた前記飽和混合物を30℃~33℃の間の温度で冷却し、次いでほぼ透明なパラフィン液体が得られるまでゆっくりと溶媒を加える工程と、
(d)工程(c)で得られた前記透明なパラフィン液体の層を、前記顕微鏡スライド上の前記生物材料及び/又は無機付着物上に塗布し、前記顕微鏡スライドの全ての又は選択的な領域上の前記パラフィン保護コーティングを形成する工程と、
(e)赤外線加熱を使用して前記パラフィン保護コーティングから前記溶媒を蒸発させ、硬化した固形状態に戻す工程と、
によって前記顕微鏡スライド上にコーティングされ、
前記溶媒がキシレン又はキシロールである、
パラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法。
【請求項2】
前記固形パラフィンが、精製され、無水である、請求項1に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項3】
前記固形パラフィンの融点が50℃~60℃である、請求項1又は2に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項4】
前記パラフィンが、Thermo FisherのTissuePrep(登録商標)及びTissuePrep 2(登録商標)、LeicaのParaplast(登録商標)及びParaplast plus(登録商標)及びLeicaのParaplast X-tra(登録商標)から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項5】
前記溶媒が、キシレン、脂肪族キシレン代替物、トルエン、塗料用シンナー、テレビン油、アセトン及びケロシンの50:50混合物、又は列挙される溶媒の混合物から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項6】
工程(d)の前記パラフィン保護コーティングが1ミクロン~5ミクロンの間の厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項7】
工程(d)の前記パラフィン保護コーティングが2ミクロン~3ミクロンの間の厚さを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法。
【請求項8】
前記生物材料が、組織切片、タンパク質関連サンプル、又はそれらの組み合わせから選択され、前記無機付着物が、無機標的、又はイメージング関連標的、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項9】
前記タンパク質関連サンプルが、タンパク質、ペプチド、コンジュゲートタンパク質、タンパク質でコーティングされたビーズ、ペプチドでコーティングされたビーズ、及びコンジュゲートタンパク質でコーティングされた、適用される抗体及び二次染色試薬と反応するビーズから選択される、請求項8に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項10】
前記イメージング関連標的が、色素で着色された付着物である、請求項8に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項11】
前記イメージング関連標的が、黒色及び白色の色素を含む、請求項8に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法。
【請求項12】
前記無機標的が、アルシアンブルー、アニリンブルー-オレンジG溶液、アザン染色、ビルショウスキー銀染色、Brow&Bennグラム染色、クレシルバイオレット、DAB、フォンタナマッソン、ゴードンスイート銀染色、グロコットメセナミン銀染色、ホールビリルビン染色、ジョーンズメセナミン銀染色、ルクソールファストブルー、ルクソールファストブルー-クレシルバイオレット、ムチカルミン、ミューラー-モーリーコロイド鉄、オレンジG、ヌクレアファストレッド、ジアスターゼ消化したPAS、過ヨウ素酸Schiff(PAS)、ホスホタングステン酸、ヘマトキシリン、ピクロシリウスレッド、酸性化トルイジンブルー、トリクロム-ゴモリ一段法、トリクロムマッソン、ビクトリアブルー、コッサ染色、ワイゲルトレゾルシンフクシン、ワイゲルト鉄ヘマトキシリン、又はチール・ネルゼン染色から選択される染色に反応する化合物である、請求項8に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法。
【請求項13】
工程(d)において、工程(c)において得られた前記透明なパラフィン液体を、スプレー塗布法、インクジェット付着法、転写印刷法、スクリーン印刷法、及び蒸着法により塗布することができる、請求項1~12のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項14】
ガラス又はプラスチックスライドのいずれかである、請求項1~13のいずれか1項に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項15】
前記パラフィン保護コーティングが、前記顕微鏡スライド上の前記生物材料及び/又は無機付着物を酸化及び/又は微生物による攻撃から、並びに無機物質を酸化及び/又は空気に由来する酸及び/又は腐食物質をもたらす反応から保護するために使用される、請求項1に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【請求項16】
前記パラフィン保護コーティングが、前記顕微鏡スライド上の前記生物材料及び/又は無機付着物の保存期間を増加させるために使用される、請求項1に記載のパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2017年6月15日に出願された米国仮特許出願第62/520169号、及び2017年6月15日に出願された米国仮特許出願第62/520319号の利益を主張し、各開示はそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、顕微鏡スライド上の保護コーティングに関する。本発明は特に、生物材料及び無機化学付着物を微生物による攻撃及び酸化から保護するためのパラフィン層の塗布に関する。加えて特に、本発明は、付着した生物材料反応性標的上の曝露保護としての顕微鏡スライドへのパラフィン層の塗布に関する。パラフィン保護層は、生物材料及び化学的標的を、酸化による分解を招く可能性のある曝露から防ぎ、真菌の増殖への耐性を提供する一方、既存の染色処理工程を使用して保護及び共在する組織切片からパラフィンを除去する。
【背景技術】
【0003】
一般的に、パラフィンワックスは、石油、石炭又はオイルシェール由来の白色又は無色の柔らかい固体であり、20個~40個の炭素原子を含む炭化水素分子の混合物からなる。パラフィンワックスは室温で固体であり、約37℃(99゜F)で融解し始め、沸点は370℃(698°F)より大きい。パラフィンワックスの一般的な適用には、潤滑、電気的絶縁、及びろうそくが挙げられる。染色されたパラフィンワックスはクレヨンに加工することができる。パラフィンワックスは、パラフィンと呼ばれることもあるケロシン及び他の石油産物とは異なる。
【0004】
病理学研究室において、パラフィンワックスは、薄い組織試料を切片にする前に組織に浸透させるために使用される。アルコールの濃度を上昇させることで(75%~無水)組織から水が除去され、組織はキシレン又はキシロール等の脂肪族代替物の1つ等の有機溶媒中で透徹される。その後組織を数時間パラフィンワックス中に置き、ワックスとともにモールドにセットし、冷却して凝固する。その後ミクロトーム上で切片が切り出される。
【0005】
組織切片のパラフィンへの包埋は、長期間にわたり組織切片を保存するために日常的に行われている。しかしながら、顕微鏡スライドの選択された領域上の薄いコーティング層としてのパラフィンの塗布は報告されていない。選択された領域は、タンパク質、コンジュゲートタンパク質、抗体、ペプチド鎖若しくはタンパク質でコーティングされたビーズ、又は他の細胞材料を含み得る。パラフィンは元より、抗原部位の酸化及び露出した部位の空気による酸/塩基分解を防止する、抗真菌及び抗菌剤を含むものとして知られている。パラフィン保護コーティングは、生物材料及び化学的標的の生存寿命を3日~5日から1年~2年に変更し、エンドユーザーに有用な製品寿命を可能にする。包埋するパラフィンの除去も、続く免疫組織化学(IHC)又はヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色のため組織切片を露出させるために日常的に行われている。同じ顕微鏡スライド上の他の付着した材料の保護のために、同じ又は類似のパラフィン形成を利用すれば、IHC又はH&E染色の開始前に更なるスライド処理が不要であることが保証される。
【0006】
スライドガラス内に埋設されたチャンバーの2つの入口を封止するための、カバーガラスの代替のパラフィンシールを開示する特許文献1を参照することができる。封止されたチャンバーにより、顕微鏡観察又は他の操作による損傷のリスク無く、試料の閉鎖系顕微実験が可能となる。かかる実施は、生物材料の直接の封入又はIHC処理、特に組織切片の脱パラフィン化をサポートするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国実用新案登録第204790174号
【発明の概要】
【0008】
一般的に、本発明の一態様は、生物材料及び無機標的上のパラフィンコーティングの塗布である。
本発明の顕微鏡スライドの作成方法は、顕微鏡スライド上の生物材料及び/又は無機付着物をコーティングするために使用されるパラフィン保護コーティングを有する顕微鏡スライドの作成方法であって、前記パラフィン保護コーティングが、以下の工程:(a)固形パラフィンを、融解して液体パラフィンになるまで60℃~75℃の範囲の温度で融解する工程と、(b)工程(a)で得られた前記液体パラフィンに、飽和混合物が得られるまで溶媒を加える工程と、(c)工程(b)で得られた前記飽和混合物を30℃~33℃の間の温度で冷却し、次いでほぼ透明なパラフィン液体が得られるまでゆっくりと溶媒を加える工程と、(d)工程(c)で得られた前記透明なパラフィン液体の層を、前記顕微鏡スライド上の前記生物材料及び/又は無機付着物上に塗布し、前記顕微鏡スライドの全ての又は選択的な領域上の前記パラフィン保護コーティングを形成する工程と、(e)赤外線加熱を使用して前記パラフィン保護コーティングから前記溶媒を蒸発させ、硬化した固形状態に戻す工程と、によって前記顕微鏡スライド上にコーティングされ、前記溶媒がキシレン又はキシロールである、パラフィン保護コーティングを有する。
【0009】
本発明の別の態様において、生物材料及び無機標的は顕微鏡スライドに付着しており、パラフィンコーティングは、保護として付着物の一部のみを覆うように選択的に塗布される。
【0010】
本発明の更に別の態様において、得られるコーティングされた顕微鏡スライドは、後に加熱され、パラフィン粒子を溶融及び/又はブレンドし、付着物及び付着物の周囲のスライド表面の両方を封止する一様な表面のコーティングとする。
【0011】
本発明の更に別の態様において、パラフィンコーティングは、スプレーコーティング、スクリーン印刷、インクジェット法、パッド印刷、及びローラー転写印刷等により塗布され得る。
【0012】
本発明の更に別の態様において、パラフィンコーティングは、抗原部位の酸化及び露出した部位の空気による酸及び/又は塩基分解を防止することで組織切片の保存期間を増加させる。
【0013】
本発明の他の態様は以下の説明に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、生物材料及び化学的付着物上の選択的に塗布されたパラフィン保護層の断面図である。パラフィンは付着した後溶融され、パラフィンを液体にするために必要な液体を排除し、スライド及び/又はスライド接着剤コーティングの縁を封止する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、本開示の一部をなす本発明の以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解され得る。本発明は、本明細書で記載されるか、及び/又は、示される特定の装置、方法、条件、又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は単なる例であり、特許請求する発明の限定を意図するものではないと理解されるべきである。また、添付の特許請求の範囲を含む明細書で使用される数量を特定していない単数形('a', 'an', and 'the')は、複数形を含み、特定の数値に対する言及は、内容により明確に異なることが指示されない場合は、少なくともその特定の数値を含むものである。本明細書中、他の実施形態において表現されている場合は、範囲は、「約(about)」又は「およそ(approximately)」他の特定値からと表現してもよい。また、特段の指示がない限り、本明細書で言及する寸法及び材料特性は、限定的なものではなく例示であり、好適に実用できるサンプル実施形態をより理解するためのものであり、言及した値を外れる変形形態も、特定の用途によって本発明の範囲に含まれ得ると理解されるべきである。
【0016】
本発明は、その適用において、以下の記載において明示する、又は以下の記載において説明される、又は図面において説明される構造の詳細及び構成要素の配列に限定されるものではない。本発明においては、他の実施形態が可能であり、種々の方法で実施又は実行することができる。また、本明細書で使用の用語及び専門用語は、説明を目的として使用されており、限定的に解釈されるべきではない。「含む(including)」、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、及びこれらの変化形の使用は、追加の項目を含む。
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に言及する。
【0018】
組織ブロック及び組織ブロックから切り出された切片は、パラフィンで浸漬され、組織の細胞構造の水分が完全にパラフィンに置き換えられる。パラフィンは元より細菌及び真菌の増殖を助けず、包埋された生物材料の長期安定性を保証する。
【0019】
ガラス又はプラスチックの顕微鏡スライドに付着した標的タンパク質は、細菌又は真菌という害をなすもの(antagonist)に豊富な食物の供給源をもたらす。加えて、タンパク質の抗原部位は酸化されやすく、酸化により検出抗体と該タンパク質とが結合する能力が大幅に失われる。続く反応の結合部位の多くはヒドロキシルであり、空気中の酸及び塩基との反応によって損なわれ得る。典型的には、付着タンパク質を含むスライドは微生物の増殖を助ける温度よりも低い温度で保存される。しかしながら、かかる制約は付着物の有効な利用を制限する。加えて、タンパク質を付着させたスライドは、酸化による損傷を防ぐために真空密閉容器に収容される。保護されていないタンパク質を付着させたスライドの外気中の保存期間は、周囲温度及び空気中の汚染レベルに応じて、2日~5日の間である。
【0020】
無機染色の化学構造に特有に反応する標的も、酸化されやすく、空気中の物質と反応しやすい。かかる染色の反応物質である標的として、ヘマトキシリン、エオシン、及び殆どの特殊染色の群の標的が挙げられる。これらの染色の標的は、特異的に、1種類のみの染色と反応するよう設計される。生物学的標的は、多くの場合、化学的構成物が提供できるような特異性を提供しない。それゆえ、本発明は、任意の種類の顕微鏡スライド上において、生物材料及び標的を選択的にコーティングし、任意の種類の分解から保護する方法を提供することにより、解決を提供する。
【0021】
本発明の一実施形態において、パラフィンは、室温における物質の状態を固体から液体に変えるために溶媒とブレンドされる。ブレンドは、粘性を減少させ、付着後の凝固を遅延させるため、Paraplast X-tra又はキシレン若しくはグリーンキシレン代替品の同等物:脂肪族溶媒、例えばキシロールを使用する。別の実施形態において、溶媒は、トルエン、塗料用シンナー、テレビン油、又はアセトン及びケロシンの50:50混合物から選択され得るが、これらに限定されない。
【0022】
別の実施形態において、固形パラフィンは、75℃以下のパラフィン融点より高い温度で液体になるまで融解され、次に飽和点が観察される(固体が形成される)まで脂肪族溶媒をゆっくりと加える。混合物を45℃まで冷却し、完全に透明になるまで更に脂肪族溶媒をゆっくりと加える。
【0023】
別の実施形態において、上述のパラフィンコーティングは、接着剤をコーティングした顕微鏡スライドに事前に塗布された生物材料及び特殊染色反応性付着物及び適用される抗体及び二次染色試薬と反応する特殊染色物質を特有に捕捉する特殊染色反応性末端基上に塗布され、該生物材料はタンパク質、ペプチド、コンジュゲートタンパク質、タンパク質でコーティングしたビーズ、ペプチドでコーティングしたビーズ、又はコンジュゲートタンパク質でコーティングしたビーズを含み得るが、これらに限定されない。
【0024】
別の実施形態において、パラフィン層は、接着剤をコーティングした顕微鏡スライド上に付着され得るが、その方法として、スプレー、インクジェット付着、転写印刷(例えばパッド印刷)、スクリーン印刷、及び蒸着が挙げられるが、これらに限定されない。全ての付着方法において、染色処理のパラフィン除去工程中に、全てのパラフィン(保護及び組織切片包埋)を溶解し除去できることを保証するため、パラフィン層は5μm厚未満でなければならない。付着処理/方法に関わらず、パラフィンの基準は、
パラフィン保護コーティングが、好ましくはおおよそ5ミクロン以下の厚みであり、好ましくは1~5ミクロンであり、より好ましくは2~3ミクロンであること、
融点が60℃未満、好ましくは56℃未満であり、キシレン又はキシロール(脂肪族代
替物)溶媒への曝露により溶解すること、及び、
周囲温度において包埋パラフィンに近い硬度を有することである。
【0025】
別の実施形態において、組織ブロックを包埋するパラフィン材料として、Thermo FisherのTissuePrep(登録商標)及びTissuePrep 2(登録商標)(融点56℃)、LeicaのParaplast(登録商標)及びParaplast plus(登録商標)(融点56℃)、LeicaのParaplast X-tra(登録商標)(融点50℃~54℃)が挙げられ得るが、これらに限定されない。特にParaplast X-tra(登録商標)には、タンパク質、ペプチド、及び無機標的の酸化分解を減少させるため、フェノール性抗酸化剤であるブチル化ヒドロキシトルエンが組み込まれる。
【0026】
別の実施形態において、それぞれが精製パラフィン、合成ポリマー、並びに融点、硬度及び粘性を確立するための他の材料のブレンドである。パラフィンは元より微生物増殖を助けない。
【0027】
別の実施形態において、前記特殊染色は、アルシアンブルー、アニリン(正:Aniline)ブルー-オレンジG溶液、アザン染色、ビルショウスキー銀染色、Brow&Bennグラム染色、クレシルバイオレット、DAB、フォンタナマッソン、ゴードンスイート銀染色、グロコットメセナミン(正:Grocott's Methenamine)銀染色法、ホールビリルビ
ン染色、ジョーンズメセナミン(正:Jones Methenamine)銀染色法、ルクソールファス
トブルー、ルクソールファストブルー-クレシルバイオレット、ムチカルミン(メイヤー法)、ミューラー-モーリーコロイド鉄、オレンジG、ヌクレアファストレッド、ジアスターゼ消化したPAS、過ヨウ素酸Schiff(PAS)、ホスホタングステン酸、ヘマトキシリン、ピクロシリウスレッド、酸性化トルイジンブルー、トリクロム-ゴモリ一段法、トリクロム-マッソン、ビクトリアブルー、コッサ染色、ワイゲルトレゾルシンフクシン、ワイゲルト鉄ヘマトキシリン、チール・ネルゼン染色を含み得るが、これらに限定されない。
【0028】
別の実施形態において、標的は、例えば黒色及び白色の、さもなければ任意の色素の色を含み得る、色素で着色された付着物から選択され得るが、これらに限定されない。
【0029】
別の実施形態において、上述のパラフィンコーティングが塗布され得る顕微鏡スライドは、ガラス、プラスチック、又は任意のポリマー材料から選択され得るが、これらに限定されない。別の実施形態において、パラフィンは精製され、無水であり得る。
【0030】
別の実施形態において、得られる顕微鏡スライドは、後に加熱され、パラフィン粒子を溶融及び/又はブレンドし、付着物及び付着物の周囲のスライド表面の両方を封止する一様な表面のコーティングとすることができる。
【0031】
更に別の実施形態において、得られる顕微鏡スライドは、溶媒をパラフィンから排除し、硬化した状態に戻ることを保証するために、パラフィンが付着された後に加熱される。加熱はスライドのパラフィン側から、好ましくは赤外光を使用して行わねばならない。パラフィンを上から下に融解させることで、溶媒が上昇し、妨害されずにパラフィンから蒸発できることが保証される。その結果を図1に示す。図1は、融解したパラフィンがどのように付着物の縁において良好な封止を保証するかを示す。
【0032】
下記の実施例は、本発明の実際の手法の例示であり、本発明の範囲の限定と解釈されるべきではない。
【実施例
【0033】
実施例1
スプレー塗布法
弱気流による表面上へのスプレー。少量の液体と空気との混合物が好ましい。混合物を、PRS標的をカバーするマスクを介してスライドにスプレーする。典型的には、1回~2回の通過により5ミクロン未満の厚さの層が形成される。パラフィン混合物容器及びスプレーヘッドは共に、パラフィンが流体であり、スプレーヘッドからスライドまで移動する間流体のままであることを保証するため、56℃より僅かに高い温度に加熱される。ヘッドからのスプレー範囲は公称幅0.375インチであるが、より小さい保護範囲のためにマスクを使用してもよい。後の赤外線再加熱により100%の封止が保証される。
【0034】
実施例2
スクリーン印刷法
ステンレス鋼スクリーンを、2つの平行面の間のスクリーンのワイヤに電流を通すことにより加熱する。スクリーンの温度は、パラフィンがスクリーンの底面から抜け落ちないようにするため、パラフィンの融点より僅かに低い必要がある。基本的に、パラフィンは、液体としてよりもペーストとして振る舞う。PRSは、100%の封止を保証するため、再加熱サイクルを必要とする。
【0035】
実施例3
インクジェット法
インクジェットヘッドは、パラフィンを液状に保つために、プリントヘッド内に組み込まれたヒーターを有することを必要とする。後のスライドの再加熱サイクルにより、100%の封止を保証する。
【0036】
実施例4
ローラー転写印刷法
加熱されたローラーが、加熱された容器からローラーへとパラフィンのフィルムを引き上げる。次にローラーが、起毛ローラーで壁にペンキを塗るのとほぼ同じ様式で、パラフィンのフィルムをスライドに転写する。後のスライドの再加熱サイクルにより、100%の封止が保証される。
図1