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特許7284251光硬化性立体造形用組成物、立体造形物及び立体造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】光硬化性立体造形用組成物、立体造形物及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/129 20170101AFI20230523BHJP
   B29C 64/286 20170101ALI20230523BHJP
   B29C 64/343 20170101ALI20230523BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20230523BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230523BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230523BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20230523BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230523BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230523BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20230523BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20230523BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230523BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B29C64/129
B29C64/286
B29C64/343
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y40/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C08F220/20
C08G18/67
C08F290/06
C08F2/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021509589
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013668
(87)【国際公開番号】W WO2020196753
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019062349
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】堂本 高士
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶次
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030002(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033427(WO,A1)
【文献】特開2014-159556(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235943(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性立体造形用組成物であり、
重合性有機化合物成分を含み、
25℃、ずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度が、30000mPa・s以下であり、
1.3mW/cmの光照射強度による光照射を前記光硬化性立体造形用組成物に対して行った場合、積算光照射時間4秒以下において、光重合開始後にG'が1×10Pa以上となり、
光重合開始後、ゲル化点以降におけるtanδの最高値が0.5以上であり、
ゲル化点とは、光重合開始後に初めてG'=G''となる点であり、
パラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃において回転式レオメータによって1測定あたり30秒間の測定データに基づき算出したずり貯蔵弾性率がG'であり、ずり損失弾性率がG''であり、損失正接がtanδである、
光硬化性立体造形用組成物。
【請求項2】
光硬化性立体造形用組成物であり、
重合性有機化合物成分を含み、
前記重合性有機化合物成分は、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を含み、
前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、50~94質量%であり、
前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、6~50質量%であり、
25℃、ずり速度0.01秒 -1 にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度が、30000mPa・s以下であり、
1.3mW/cm の光照射強度による光照射を前記光硬化性立体造形用組成物に対して行った場合、積算光照射時間4秒以下において、光重合開始後にG'が1×10 Pa以上となり、
光重合開始後、ゲル化点以降におけるtanδの最高値が0.5以上であり、
ゲル化点とは、光重合開始後に初めてG'=G''となる点であり、
パラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃において回転式レオメータによって1測定あたり30秒間の測定データに基づき算出したずり貯蔵弾性率がG'であり、ずり損失弾性率がG''であり、損失正接がtanδである、
光硬化性立体造形用組成物。
【請求項3】
光硬化性立体造形用組成物であり、
重合性有機化合物成分を含み、
前記重合性有機化合物成分は、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、を含み、
前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記単官能(メタ)アクリルアミド系単量体の含有量は、30~70質量%であり、
前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、20~60質量%であり、
前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの含有量は、0.1~30質量%であり、
25℃、ずり速度0.01秒 -1 にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度が、30000mPa・s以下であり、
1.3mW/cm の光照射強度による光照射を前記光硬化性立体造形用組成物に対して行った場合、積算光照射時間4秒以下において、光重合開始後にG'が1×10 Pa以上となり、
光重合開始後、ゲル化点以降におけるtanδの最高値が0.5以上であり、
ゲル化点とは、光重合開始後に初めてG'=G''となる点であり、
パラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃において回転式レオメータによって1測定あたり30秒間の測定データに基づき算出したずり貯蔵弾性率がG'であり、ずり損失弾性率がG''であり、損失正接がtanδである、
光硬化性立体造形用組成物。
【請求項4】
前記単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、
環状構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む、
請求項2に記載の光硬化性立体造形用組成物。
【請求項5】
前記単官能(メタ)アクリルアミド系単量体は、
環状構造を有する単官能(メタ)アクリルアミド系単量体を含む、
請求項3に記載の光硬化性立体造形用組成物。
【請求項6】
前記多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、
環状構造を有する多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む、
請求項2~請求項の何れか1項に記載の光硬化性立体造形用組成物。
【請求項7】
前記環状構造は、多環式構造又は脂環式炭化水素基である、
請求項4~請求項6の何れか1項に記載の光硬化性立体造形用組成物。
【請求項8】
光重合開始剤を含む請求項1~請求項7の何れか1項に記載の光硬化性立体造形用組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の光硬化性立体造形用組成物に対して、光照射する工程を備える、立体造形物の製造方法。
【請求項10】
前記光照射は、面露光方式による光照射である、請求項9に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性立体造形用組成物、当該組成物を用いた立体造形物及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層造形により立体造形物を作製する技術が発展してきている。樹脂材料による立体造形物においては、光硬化性の組成物に対する光照射により造形される。
【0003】
光硬化性の組成物としては、得られる造形物の特性等を考慮し種々の成分組成が検討されており、(メタ)アクリル酸エステルを含む組成物を用いた例も報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-210539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、造形時間が長いことが実用における課題となっており、造形時間の短縮が求められている。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、高速造形可能な光硬化性立体造形用組成物、当該組成物を用いた立体造形物及び立体造形物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、光硬化性立体造形用組成物であり、重合性有機化合物成分を含み、25℃、ずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度が、30000mPa・s以下であり、1.3mW/cmの光照射強度による光照射を前記光硬化性立体造形用組成物に対して行った場合、積算光照射時間4秒以下において、光重合開始後にG'が1×10Pa以上となり、光重合開始後、ゲル化点以降におけるtanδの最高値が0.5以上であり、ゲル化点とは、光重合開始後に初めてG'=G''となる点であり、パラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃において回転式レオメータによって1測定あたり30秒間の測定データに基づき算出したずり貯蔵弾性率がG'であり、ずり損失弾性率がG''であり、損失正接がtanδである、光硬化性立体造形用組成物が提供される。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、造形時間を短縮するための高速造形において満たすべき組成物の特性が、光照射前の組成物の定常流ずり粘度、所定積算光照射時間以内の硬化物のずり貯蔵弾性率、及びずり貯蔵弾性率とずり損失弾性率が所定の関係にある場合の損失正接にあることを初めて見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記重合性有機化合物成分は、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体及び単官能(メタ)アクリルアミド系単量体から選ばれる少なくとも何れか1種類と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を含む光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、前記重合性有機化合物成分100質量%中、前記多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、6~50質量%である、光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、前記単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、環状構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む、光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、前記多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、環状構造を有する多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む、光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、前記環状構造は、多環式構造又は脂環式炭化水素基である、光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む、光硬化性立体造形用組成物。
好ましくは、光重合開始剤を含む、光硬化性立体造形用組成物。
また、本発明の別の側面によれば、上記光硬化性立体造形用組成物又はその硬化物を含む、立体造形物が提供される。
また、本発明の別の側面によれば、上記光硬化性立体造形用組成物に対して、光照射する工程を備える、立体造形物の製造方法が提供される。
好ましくは、前記光照射は、面露光方式による光照射である、立体造形物の製造方法。
【0010】
本発明の別の観点によれば、上記光硬化性立体造形用組成物又はその硬化物を含む、立体造形物が提供される。
【0011】
本発明の別の観点によれば、上記光硬化性立体造形用組成物に対して、光照射する工程を備える、立体造形物の製造方法が提供される。
好ましくは、前記光照射は、面露光方式による光照射である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A~1Cは、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造方法の概略図である。
図2】光照射可能な回転式レオメータにおける光照射機構の概略図である。
図3】造形性評価モデルM1の形状及び寸法を説明する図である。
図4図4A及び図4Bは、造形性評価モデルM1の評価基準の例を示す図である。
図5】造形性評価モデルM2の形状及び寸法を説明する図である。
図6図6A及び図6Bは、造形性評価モデルM2の評価基準の例の写真を示す図である。
図7】各実施例及び比較例における造形性評価モデルM1の造形物の写真を示す図である。
図8】各実施例及び比較例における造形性評価モデルM2の造形物の写真を示す図である。
図9図9A及び図9Bは、積算光照射時間に対するG'及びG''の関係におけるゲル化点を説明する概略図である。
図10図10A及び図10Bは実施例5における造形性評価モデルM1及びM2の造形物の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
本明細書において、「~」という記号は「以上」及び「以下」を意味し、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0015】
1.光硬化性立体造形用組成物
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、重合性有機化合物成分を含む光硬化性立体造形用組成物である。
【0016】
(定常流ずり粘度)
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、25℃、ずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度が、30000mPa・s以下であり、好ましくは10000mPa・s以下であり、より好ましくは1000mPa・s以下であり、さらに好ましくは100mPa・s以下である。なお、当該定常流ずり粘度は、光重合前の組成物の粘度を意味する。また、当該定常流ずり粘度の下限は特に制限はないが、実際上1mPa・s以上であり、より好ましくは5mPa・s以上である。当該定常流ずり粘度が、上記範囲にあることにより、短時間での組成物の充填を行うことが可能となる。
【0017】
ここで、組成物を充填とは、組成物への光照射により硬化物の層を形成した後、次の層を形成する組成物を充填することをいう。組成物の充填についての一例として、図1に示すような造形装置1を使用した、下方から光照射する面露光方式(DLP方式:デジタルプロセッシング方式)により造形物を作製する場合について説明する。組成物3に対し光Lを照射し(図1A)、造形基板5と造形フィルム7との間に組成物3の硬化層9によって構成される第1層を形成する(図1B)。その後、造形フィルム7から硬化層9(第n層)を剥がし、形成された空間に組成物が流れ込むことにより次層(第n+1層)を形成する準備が整う(図1C)。すなわち、図1Bから図1Cにおける組成物の造形フィルム7と硬化層9の間への流れ込みが組成物の充填である。換言すれば、当該定常流ずり粘度が、上記範囲にあることにより、造形フィルム7から硬化層9を剥がして形成される空間を組成物で満たし切るのに必要な時間が短い。また、当該定常流ずり粘度が大きすぎる場合には、組成物の流れ込み自体が生じないことがある。
【0018】
なお、「25℃、ずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度」について、実測値だけでなく外挿(補外)により求められた値(外挿値)を意味する場合がある。低粘度のサンプルの場合には、ずり速度0.01秒-1での実測値は装置の応力・歪みセンサーの測定精度上の問題などが原因でその物性を正確に表さないことがある。そこで、ずり速度0.01秒-1での測定により正確な値が得られないおそれがある場合には、より早いずり速度における実測値に基づいてずり速度0.01秒-1における外挿値を算出し、これをずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータで測定した定常流ずり粘度として取り扱う。より具体的には、例えばAntonPaar社製回転式レオメータMCR302を使用する場合、ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が5000mPa・s未満1000mPa・s以上の場合は、0.1秒-1、1秒-1、10秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について、縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出する。ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が1000mPa・s未満100mPa・s以上の場合は、1秒-1、10秒-1、100秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について、縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出する。ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が100mPa・s未満10mPa・s以上の場合は、10秒-1、100秒-1、1000秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について、縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出する。
【0019】
(ずり貯蔵弾性率)
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、1.3mW/cmの光照射強度による光照射を光硬化性立体造形用樹脂組成物に対して行った場合、積算光照射時間4秒以下において、G'が1×10Pa以上であり、好ましくは1.5×10Pa以上であり、より好ましくは2×10Pa以上である。また、積算光照射時間は、2秒以上であることが必要な場合がある。また、上記のG'に関する所定値を満たすために必要な積算光照射時間は、高速造形の観点からは、好ましくは3.5秒以下であり、より好ましくは3秒以下であり、さらに好ましくは2.5秒以下である。当該G'が、上記範囲にあることにより、短時間の光照射によっても造形物が形状維持に必要なずり貯蔵弾性率を有することになり、造形物における不連続性を生じにくいため短時間での造形が可能となる。なお、照射光の波長は、好ましくは405nmである。
【0020】
以下、パラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃において回転式レオメータによって1測定あたり30秒間の測定データに基づき算出したずり貯蔵弾性率がG'であり、ずり損失弾性率がG''であり、損失正接がtanδである。30秒間の測定データに基づき算出とは、30秒間連続的に測定して得られた生データをもとに計算を行うことをいう。言い換えれば、1測定あたり30秒の生データを装置に読み込ませて測定を行い算出するということである。
【0021】
光照射と測定に関しては、その方法について上記条件に従えば、特に制限はないが、一例として次のような照射工程と測定工程を交互に行う方法が挙げられる。
照射工程:X秒間光照射
測定工程:光照射停止後直ちに回転式レオメータによって測定を開始し、1測定あたり30秒の測定を2回行う。(2回の測定に60秒要する。すなわち、光照射停止から次の光照射まで60秒要する。)
【0022】
は任意の正の実数(例えば、0.5)であり、各照射工程において毎回同じ数でもよく、異なっていてもよい。Xの合計(X+X+X...+X)が積算光照射時間となる。例えば、全てのXを0.5とし、照射工程と測定工程の1サイクルを60.5秒で行ってもよい。積算光照射時間4秒以下の物性について評価する場合には、当然Xは4以下であることが好ましい。
【0023】
なお、上記のように測定工程において2回の測定が行われた場合には、何れかの測定においてずり貯蔵弾性率G'が所定値を超えていれば、条件を満たすものと判断する。ずり貯蔵弾性率G'は2回の測定のうち後者が高いことが多い。
【0024】
(損失正接)
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、光重合開始後、ゲル化点以降におけるtanδの最高値が0.5以上であり、好ましくは0.53以上であり、より好ましくは0.6以上であり、さらに好ましくは0.8以上である。なお、tanδの最高値は、組成物への光照射により重合が開始され、ゲル化点以降における硬化中の(少なくとも一部が光照射によって重合した)組成物の測定により算出した値を意味する。また、当該tanδの最高値の上限は特に制限はないが、造形後の洗浄工程及び追加硬化工程における歪みの回復を考慮し、場合によっては、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは2以下である。当該tanδの最高値が、上記範囲にあることにより、層間剥離を生じにくいため短時間での造形が可能となる。
【0025】
ここで、本明細書における「ゲル化点」とは、光重合開始後に初めて「G'=G''」となる点を意味する。図9Aにおいて交差点(その後、G'>G'')がゲル化点GPに相当する。また、光重合開始後に初めて「G'=G''」となった後、再度「G'=G''」となるような点はゲル化点とは称しない。図9Bに示すように、「G'=G''」となりその後「G'>G''」の状態となったが、再び「G'<G''」の状態となり、さらに「G'>G''」の状態となる場合には、複数の「G'=G''」となる交差点が存在する。すなわち、図9Bにおいては、第1交差点P1、第2交差点P2、及び第3交差点P3が存在するが、第1交差点P1のみをゲル化点(GP)と称する。
【0026】
tanδについても、ずり貯蔵弾性率G'の測定について述べた事項は適宜準用される。すなわち、測定工程において2回の測定が行われた場合には、何れかの測定において損失正接tanδが所定値を超えていれば、条件を満たすものと判断する。
【0027】
なお、層間剥離とは、少なくとも1組の層間が剥離する、すなわち接着していない状態となってしまうことをいう。このような層間剥離が生じた場合には、それ以上造形が行えなくなる。例えば、図1に示すような工程による造形物の作製においては、第n層目を形成し、その後、造形フィルム7から第n層を剥がした際に、第m層と第m-1層の間で剥離が生じることを意味する(2≦m≦n)。
【0028】
上記の定常流ずり粘度、ずり貯蔵弾性率、及び損失正接に関する3つ条件のそれぞれは、単独でも高速造形に寄与しうるが、全て満たすことにより、設計通りの精度の高い造形物を短時間且つ高確率で得ることが可能となる。
すなわち、本発明の光硬化性立体造形用組成物は、重合性有機化合物成分を含み、上記の条件を満たす限り制限はないが、一実施形態における好ましい成分について以下説明する。
【0029】
(重合性有機化合物成分)
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物において、重合性有機化合物成分は、好ましくは、(メタ)アクリル酸系単量体を含む。ここで、(メタ)アクリル酸系単量体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、(メタ)アクリル酸単量体を総称するものであり、(メタ)アクリレートということもある。
【0030】
より好ましくは、重合性有機化合物成分は、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体及び単官能(メタ)アクリルアミド系単量体から選ばれる少なくとも何れか1種類と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を含む。
【0031】
単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物をいう。
【0032】
単官能(メタ)アクリルアミド系単量体とは、(メタ)アクリロイル基を1個有する(メタ)アクリルアミド化合物をいう。
【0033】
重合性有機化合物成分が、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体及び単官能(メタ)アクリルアミド系単量体から選ばれる少なくとも何れか1種類と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む場合、重合性有機化合物成分100質量%中、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは50~94質量%であり、より好ましくは55~90質量%であり、さらに好ましくは60~85質量%である。
【0034】
重合性有機化合物成分が、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体及び単官能(メタ)アクリルアミド系単量体から選ばれる少なくとも何れか1種類と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む場合、重合性有機化合物成分100質量%中、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは6~50質量%であり、より好ましくは10~45質量%であり、さらに好ましくは15~40質量%である。多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、具体的には例えば、6、8、10、15、20、25、30、35、40、45、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
重合性有機化合物成分について、このような配合とすることで、上記ずり貯蔵弾性率及び損失正接を満たし易くなる。
【0036】
別の側面からは、重合性有機化合物成分は、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体又は単官能(メタ)アクリルアミド系単量体(以下、これら2つを合わせて「単官能(メタ)アクリルアミド系単量体等」とも称する。)と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体等のモル数(mol)の合計を100mol%とした場合、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体等のモル百分率M(mol%)を単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体等の有する(メタ)アクリロイル基の数A(mol)(すなわち、1mol)で除した値と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体のモル百分率M(mol%)を多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の有する(メタ)アクリロイル基の数A(mol)(2官能の場合には、2mol)で除した値との合計値(%)が、好ましくは76~97%であり、より好ましくは80~96%である。当該合計値は、下記式(1)で算出され、具体的には例えば、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
(mol%)/A(mol)+M(mol%)/A(mol) (1)
【0037】
単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくは環状構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含み、より好ましくは環状構造は多環式構造又は脂環式炭化水素基であり、さらに好ましくは環状構造は多環式構造であり且つ飽和炭化水素基である。また、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくはエーテル結合、芳香環、及び酸素以外のヘテロ原子のうちの何れか一つを少なくとも有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含み、より好ましくは全てを有しない単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む。
【0038】
単官能(メタ)アクリルアミド系単量体は、好ましくは環状構造を有する単官能(メタ)アクリルアミド系単量体を含み、より好ましくは環状構造は酸素原子や窒素原子等のヘテロ原子を含む。
【0039】
単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体のアクリル当量は、好ましくは160~250であり、より好ましくは180~220であり、さらに好ましくは200~215である。単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体のアクリル当量とは、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の分子量を(メタ)アクリロイル基の官能基数で除した値である。
【0040】
単官能(メタ)アクリルアミド系単量体のアクリル当量は、好ましくは100~200であり、より好ましくは120~180であり、さらに好ましくは130~160である。単官能(メタ)アクリルアミド系単量体のアクリル当量とは、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体の分子量を(メタ)アクリロイル基の官能基数で除した値である。
【0041】
単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の分子量は、好ましくは160~250であり、より好ましくは180~220であり、さらに好ましくは200~215である。
【0042】
単官能(メタ)アクリルアミド系単量体の分子量は、好ましくは100~200であり、より好ましくは120~180であり、さらに好ましくは130~160である。
【0043】
単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の非環式脂肪族(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;
ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンタン-1-イル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチルアダマンタン等の脂環式(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ウレタンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
脂環式(メタ)アクリレートの中では、脂環式(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。脂環式(メタ)アクリル酸エステルの中では、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンタン-1-イル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上が好ましい。
これらの中では、非環式脂肪族(メタ)アクリル酸エステル、及び脂環式(メタ)アクリル酸エステルからなる群の1種以上が好ましく、脂環式(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
入手の容易性やガラス転移温度等の観点からは、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらは単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0044】
単官能(メタ)アクリルアミド系単量体の例としては、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等が挙げられる。入手の容易性やガラス転移温度等の観点からは、(メタ)アクリロイルモルフォリン又はN-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドが好ましく、(メタ)アクリロイルモルフォリンが特に好ましい。
これらは単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0045】
なお、好ましい単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体又は単官能(メタ)アクリルアミド系単量体を用いる場合でも、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体又はその他の単官能(メタ)アクリルアミド系単量体を含んでもよい。例えば、好ましい単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分とし、より具体的には、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体100質量%中、好ましい単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは実質的に100質量%である。また、入手の容易性やガラス転移温度等の観点からは、単官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、実質的にイソボルニル(メタ)アクリレートのみからなることが好ましい。
【0046】
多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、2官能(メタ)アクリル酸エステル単量体、3官能(メタ)アクリル酸エステル単量体、4官能以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体等が挙げられる。
【0047】
多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体のアクリル当量は、好ましくは80~200であり、より好ましくは100~180であり、さらに好ましくは120~160である。多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体のアクリル当量とは、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の分子量を(メタ)アクリロイル基の官能基数で除した値である。
【0048】
多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の分子量は、好ましくは200~2000であり、より好ましくは250~1500であり、さらに好ましくは280~1000である。
【0049】
2官能(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、
1,3-アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等の脂環式ジ(メタ)アクリル酸エステル単量体;
1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリル酸エステル単量体;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等のネオペンチルグリコール構造を有するジ(メタ)アクリル酸エステル単量体;
テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル単量体;
2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン等のビスフェノール構造を有するジ(メタ)アクリル酸エステル単量体;
ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO(エチレンオキシド)変性ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
3官能(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。
【0051】
4官能以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくは環状構造を有し、より好ましくは環状構造が多環式構造又は脂環式炭化水素基であり、さらに好ましくは環状構造は多環式構造であり且つ飽和炭化水素基である。また、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、エーテル結合、芳香環、酸素以外のヘテロ原子のうちの何れか一つを少なくとも有しないことが好ましく、全てを有しないことがより好ましい。また、別の観点からは、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、2官能(メタ)アクリル酸エステル単量体であることが好ましい。
【0053】
これらの中では、脂環式ジ(メタ)アクリル酸エステル単量体、(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル単量体、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性ジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましい。
脂環式ジ(メタ)アクリル酸エステル単量体の中では、1,3-アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましい。
(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル単量体の中では、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましい。
さらに、これらの中では、1,3-アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性ジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましく、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性ジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上がより好ましい。
さらに、造形速度の観点からは、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンEO変性ジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましい。
これらは単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0054】
なお、好ましい多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いる場合でも、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を含んでもよい。例えば、好ましい多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分とし、より具体的には、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体100質量%中、好ましい多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは実質的に100質量%である。また、造形速度の観点からは、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、実質的にトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートのみからなることが好ましく、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートのみからなることがより好ましい。
【0055】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、重合性有機化合物成分はその他のビニル化合物、エポキシ化合物等の単量体を含んでも良い。
ビニル化合物としては、ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド等が挙げられる。
【0056】
また、重合性有機化合物成分はウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含んでも良い。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとは分子中に少なくとも1つ以上のウレタン結合と、少なくとも1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含むことで、造形後に得られる造形物の靭性改善の効果を得ることができる。また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの添加は、高速造形における硬化収縮の観点からも好ましく、低温領域での応力緩和により造形物の曲げ強さに寄与しうる。
【0057】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、好ましくは多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして、好ましくは2官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであり、より好ましくは2~15官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであり、さらに好ましくは2~6官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであり、最も好ましくは2官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、前述の多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体を除くことが好ましい。前述の多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを除くことが好ましい。
【0058】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、活性水素基含有ポリオール成分(a)とジイソシアネート成分(b)および活性水素基含有(メタ)アクリル成分(c)からなる。
成分(a)は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキサイド変性ビスフェノール、プロピレンオキサイド変性ビスフェノール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合で得られるポリグリコール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリブタジエンポリオールなどを挙げることができる。これらは、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0059】
成分(b)は、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加されたトリレンジイソシアネート、水素添加されたキシリレンジイソシアネート、水素添加されたジフェニルメタンジイソシアネートを挙げることができる。これらは、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0060】
成分(c)は、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を挙げることができる。これらは、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
ここで、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、活性水素基含有ポリオール成分(a)とジイソシアネート成分(b)と活性水素基含有(メタ)アクリル成分(c)とを反応(例えば、重縮合反応)させることにより得られる。
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、1000~60000が好ましく、3000~40000がより好ましく、5000~10000が最も好ましい。重量平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー社製SC-8010)等を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求めることが好ましい。以下に実験例で使用した測定条件を示す。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃カラム構成:東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び、東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm
検出器:RI検出器
【0061】
重合性有機化合物成分が、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含む場合、重合性有機化合物成分100質量%中、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体の含有量は、好ましくは30~70質量%であり、より好ましくは40~60質量%であり、さらに好ましくは45~65質量%である。
【0062】
重合性有機化合物成分が、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含む場合、重合性有機化合物成分100質量%中、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは30~50質量%であり、さらに好ましくは35~45質量%である。多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、具体的には例えば、20,25,30,35,40,45,50,55,60質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0063】
重合性有機化合物成分が、単官能(メタ)アクリルアミド系単量体と、多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体と、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含む場合、重合性有機化合物成分100質量%中、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの含有量は、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0064】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ジエトキシアセトフェノン、4-t-ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、2-ジメチルアミノエチルベンゾエート、p-ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジフェニルジスルフィド、チオキサントン及びその誘導体、カンファーキノン、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-ブロモエチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-メチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロライド等のカンファーキノン誘導体、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1等のα-アミノアルキルフェノン誘導体、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシポスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル及びオキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル等が挙げられる。これらの中では、造形速度の観点からは、アシルホスフィンオキサイド誘導体が好ましく、特にフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが好ましい。
【0065】
光重合開始剤の含有量は、重合性有機化合物成分100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましい。このような範囲であれば、十分な硬化速度が得られ貯蔵安定性も良い。
【0066】
(その他)
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、本発明の物性を満たす範囲内であれば、上記の成分以外にも所望により硬化促進剤、連鎖移動剤、増粘剤、充填剤、可塑剤、着色剤及び防錆剤等の既に知られている物質を含有してもよい。
【0067】
硬化促進剤としては、例えば、窒素原子を含有するものが挙げられる。中でもアルキル基を有する3級アミン等が好ましく、具体的にはジメチルパルミチルアミンが挙げられる。硬化促進剤の含有量は、重合性有機化合物成分100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましい。
【0068】
充填剤としては、例えば、無機充填剤及び有機充填剤が挙げられる。また、充填剤は、粒子状のものおよび繊維状のものを用いることができる。粒子状の充填剤を用いる場合には、平均粒子径に特に制限はなく、0.001~50μmであってもよい。また、平均粒子径の異なる2種類の充填剤、例えば、0.5μmと5μmのものを併用してもよい。
平均粒子径は、レーザー回折式粒度測定器(コールター社「モデルLS-230」型)から得られる質量又は体積粒度分布曲線より求めることが好ましい。
【0069】
無機充填剤の具体例としては、例えば酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイソウ土、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、球状シリカ、シラスバルーン、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、カーボンウィスカー、サファイアウィスカー、ベリリアウィスカー、炭化ホウ素ウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー等を挙げることができる。
【0070】
有機充填剤の具体例としては、例えば、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-ポリエン共重合体、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素化ブタジエン重合体、水素化スチレン-ブタジエン共重合体、クロロプレンゴム、(メタ)アクリルゴム、ウレタンゴム、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーが挙げられる。また、(メタ)アクリレート等の原料に溶解することが好ましい。
【0071】
2.立体造形物の製造方法
本発明の一実施形態に係る光硬化性立体造形用組成物は、光照射により重合を行い造形する種々の立体造形方法に適用できる。面露光方式、特に下方から光照射する光硬化性立体造形用組成物において好ましく用いられる。
【0072】
本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造方法は、上記光硬化性立体造形用組成物に対して、光照射する工程を備える。
【0073】
本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造方法は、図1を参照し、さらに詳しく説明すると、造形基板5と造形フィルム7の間の光硬化性立体造形用組成物3の少なくとも一部に対して光照射し硬化層を形成する工程を含む。
好ましくは、光照射は面露光方式による光照射であり、より好ましくは前記光照射は下方から行われる。
好ましくは、照射光の照射時間は、4秒以下であり、より好ましくは2~4秒である。
好ましくは、照射光の強度は、0.5mW/cm以上である。
好ましくは、照射光の波長(ピーク波長)は、365~405nmである。
好ましくは、当該製造方法は、造形基板5又は造形フィルム7を上下方向に移動させる工程をさらに含む。
好ましくは、上下方向に移動させる距離は0.1~10mmである。上下方向への移動は、造形物を造形フィルム7から引き剥がすため、及び次層の光照射位置への移動のために行われるものである。引き剥がしのための移動は、次層の光照射位置への移動に必要な移動分以上に大きく上昇させてもよく、その後次層の光照射位置へ戻す(降下させる)ように造形を進めることができる。
好ましくは、上下方向に移動させるのに要する時間は0.5~1.5秒である。
好ましくは、当該製造方法は、光硬化性立体造形用組成物3を充填する工程をさらに含む。
好ましくは、充填に要する時間は0.1~1秒である。
好ましくは、造形装置1から造形物を取り出し、洗浄及び光照射を行いさらに硬化させる工程を含む。
【0074】
3.用途
本発明による光硬化性立体造形用組成物は、高速造形を可能とするため、種々の三次元光造形用途、特に試験用の造形物の作製に用いることが出来る。そのような用途としては、例えば、射出成形やブロー成形に用いられる成形用型の作製が挙げられる。樹脂であるため耐久性は金属による型に比べ劣るものの、小ロットの生産やテスト用の仮型の作製においては耐久性はさほど問題とならない。本発明による光硬化性立体造形用組成物を用いることにより、このような型の作製を、安価且つ短時間で行うことが可能となる。すなわち、本発明の光硬化性立体造形用組成物は、一側面において、成形用型造形用光硬化性組成物である。
【実施例
【0075】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0076】
[実施例1]
(光硬化性立体造形用組成物の調製)
(A)イソボルニルアクリレート(IBX-A:共栄社化学社製、分子量:208.30、アクリル当量:208.30)90質量部、(B)トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(A-DCP:新中村化学工業社製、分子量:304.38、アクリル当量:152.19)10質量部、(C)フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(I-819:IGM Resins B.V.社製)4質量部、及び(D)ジメチルパルミチルアミン(DM6098:花王社製)3質量部を混合し、組成物(S-1)を調製した。
【0077】
(各物性の測定)
<定常流ずり粘度>
光重合前の組成物(S-1)について、定常流ずり粘度を、25℃、ずり速度0.01秒-1にて回転式レオメータ(MCR302:Anton Paar社製)で測定した。
その結果を、表1に示す。なお、ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が5000mPa・s未満1000mPa・s以上の場合は、0.1秒-1、1秒-1、10秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出した。ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が1000mPa・s未満100mPa・s以上の場合は、1秒-1、10秒-1、100秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出した。ずり速度0.01秒-1における定常流ずり粘度が100mPa・s未満10mPa・s以上の場合は、10秒-1、100秒-1、1000秒-1における定常流ずり粘度を測定し、それぞれの測定値について縦軸を定常流ずり粘度とし、横軸をずり速度とし、両対数グラフから、ずり速度0.01秒-1における外挿値を近似直線を引いて算出した。
【0078】
<ずり貯蔵弾性率及び損失正接>
組成物(S-1)に対し、光照射強度1.3mW/cm、波長(ピーク波長)405nmの光を照射し、各積算光照射時間における組成物を回転式レオメータ(MCR302:Anton Paar社製)で測定した。光照射は、図2に示すように、回転式レオメータのガラスペルチェプレート11上の試料に対し、均一面照射レンズ(HLL-Q2:HOYA社製、光源H-4VH:HOYA社製)13から出力された光Lを45°プリズム15を介して照射することにより行った。このとき、測定条件はパラレルプレート10mmφ、測定ギャップ0.1mm、周波数0.1Hz、歪0.5%以下、25℃であった。また、1測定は30秒であり、光照射停止直後から2回連続してインターバルなしで行った。0.5秒の光照射と、1測定あたり30秒の測定2回を繰り返した結果、積算光照射時間4秒において、ずり貯蔵弾性率G'は1×10Pa(1MPa)であった。また、光重合開始後、ゲル化点以降における損失正接tanδの最高値は1.44であった。
これらの結果を表1に示す。
【0079】
(評価)
組成物(S-1)を用いて、実際に造形性評価モデルの造形を行いその造形性能を評価した。造形装置(ML-48:武藤工業社製)を用い、積層厚みは100μm、ステージの1層あたり上下移動距離は1mm、ステージの1層あたり上下移動速度は150mm/min、ステージが上下した後の組成物のレベリングのために設けた均し時間は0.5秒という条件下で造形を行った。
【0080】
<レベリング性>
レベリング性の評価は、上記造形条件(レベリングのために設けた均し時間:0.5秒)において、組成物のレベリングが十分に行えているかを観察して行った。すなわち、上記造形条件において、第n層目を形成し、造形フィルム7から第n層を剥がした後、光照射までの間に第n層目と造形フィルム7との間に組成物が流れ込み次層形成用の組成物が充填される、すなわち組成物が均されるかを観察した。評価基準は次の通りである。
○:レベリングが十分に行えている
×:レベリングが十分に行えていない
【0081】
<造形不連続性>
造形不連続性の評価は、上記造形条件において、図3に示す造形性評価モデルM1を造形して行った。1層あたり表1の各積算時間(「物性」における「積算光照射時間」と同じ)の光照射で3本の造形性評価モデルM1の造形を試み、造形が行えるかを観察した。
造形が行えなかった場合には、1層あたり4秒の光照射を行っても造形性評価モデルM1の1.2mmΦの円柱部分から四角柱部分への移行後、四角形の硬化層の四隅が変形してしまって造形が継続できなかった。評価基準は次の通りである。なお、「○」の場合の造形物の例を図4Aに、「×」の場合の造形物の例を図4Bに示す。
○:3本全てのモデルの造形において造形中に造形不可となるような変形はなく造形が終了した
×:積算光照射時間が4秒の場合でも少なくとも1本のモデルの造形において造形中に変形しモデルの造形が行えなかった
【0082】
各実施例により作成した造形性評価モデルM1を図7に示す。組成物(S-1)を用いて、造形を試みた実施例1においては、3本とも設計通りの形状の造形物を得ることができた。
【0083】
<層間剥離>
層間剥離の評価は、上記造形条件において、図5に示す造形性評価モデルM2を造形して行った。1層あたり4秒の光照射で3本の造形性評価モデルM2の造形を試み、層間剥離が起きずに造形が行えるかを観察した。造形が行えなかった場合には、1層あたり4秒の光照射を行っても造形フィルム7からの引き剥がし時に何れかの硬化層間に剥離が生じ造形が継続できなかった。評価基準は次の通りである。なお、「○」の場合の造形物の例を図6Aに、「×」の場合の造形物の例を図6Bに示す。
○:3本全てのモデルの造形において造形中に層間剥離が生じず造形が終了した
×:少なくとも1本のモデルの造形において造形中に層間剥離が生じモデルの造形が行えなかった
【0084】
各実施例により作成した造形性評価モデルM2を図8に示す。組成物(S-1)を用いて、造形を試みた実施例1においては、3本とも設計通りの形状の造形物を得ることができた。なお、図8の各造形物の下に記載されている数値は、得られた各造形物の高さである。
【0085】
[実施例2~4及び比較例1~3]
表1に示すような組成の組成物(S-2)~(S-7)を調製し、実施例1と同様に物性測定及び造形モデル作成を行い評価した。成分(A)~(E)の含有量はすべて「質量部」で記載した。
【0086】
[比較例4~7]
下記の(S-8)~(S-11)の組成物を用い、実施例1と同様に物性測定及び造形モデル作成を行い評価した。
S-8:Model Ortho(Next Dent社製)
S-9:Tray(Next Dent社製)
S-10:SG(Next Dent社製)
S-11:Gingiva Mask(Next Dent社製)
【0087】
なお、実施例4及び比較例3で使用したFB5Dは平均粒子径5μm球状シリカ(FB-5D、デンカ社製)、SFP30Mは平均粒子径0.5μm球状シリカ(SFPー30M、デンカ社製)である。
【0088】
[実施例5]
アクリロイルモルフォリン(ACMO:KJケミカルズ社製、分子量:141.17、アクリル当量:141.17)50質量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(A-DCP:新中村化学工業社製、分子量:304.38、アクリル当量:152.19)40質量部、ウレタンアクリレート(重量平均分子量が6500であるポリエーテル系2官能ウレタンアクリート。ポリオール化合物は、ポリプロピレングリコール。有機ポリイソシアネート化合物はイソホロンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。)10質量部、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(I-819:IGM Resins B.V.社製)4質量部、及びジメチルパルミチルアミン(DM6098:花王社製)0.5質量部を混合し、組成物(S-12)を調製した。得られた組成物(S-12)を用いて実施例1と同様に物性測定及び造形モデル作成を行い評価した。
【0089】
<曲げ強さ>
曲げ強さの評価は、組成物(S-1及びS-12)を用いて上記造形条件において、長さ10mm、幅5mm、厚さ1mmの試験片を造形して行った。得られた試験片に対して、粘弾性測定装置(RSA-G2:TAインスツルメント社製)を用い、JIS T 6501:2012に記載の試験方法に従って評価を行った。10回の試験による曲げ強さ(MPa)の平均値として算出した。これらの結果を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【符号の説明】
【0092】
1:造形装置、3:組成物、5:造形基板、7:造形フィルム、9:硬化層、11:ガラスペルチェプレート、13:均一面照射レンズ、15:45°プリズム、L:光、M1:造形性評価モデルM1、M2:造形性評価モデルM2、GP(P1):ゲル化点(第1交差点)、P2:第2交差点、P3:第3交差点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10