(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】電解液吸収粒子、自立シート、リチウムイオン二次電池用電極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230523BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230523BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230523BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230523BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230523BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230523BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230523BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20230523BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/058
H01M50/449
H01M50/443 Z
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2021524540
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022160
(87)【国際公開番号】W WO2020245911
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】西面 和希
(72)【発明者】
【氏名】中川 嵩士
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016215064(DE,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0084450(KR,A)
【文献】特開2006-182925(JP,A)
【文献】特開2011-044252(JP,A)
【文献】特開2014-182875(JP,A)
【文献】特開2013-182836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 50/449
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/058
H01M 50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高誘電性酸化物固体の表面に、電解液を吸収可能な樹脂層を有し、
前記樹脂層は、細孔を有し、前記細孔内に電解液を充填して吸収し、
前記細孔の体積は、前記樹脂層の体積に対して30vol%以上であ
り、
前記高誘電性酸化物固体は、粉体比誘電率が10以上の強誘電性酸化物である、電解液吸収粒子。
【請求項2】
前記高誘電性酸化物固体は、リチウムイオン伝導性を有する酸化物である、請求項1に記載の電解液吸収粒子。
【請求項3】
前記高誘電性酸化物固体は、25℃で10
-7S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する酸化物である、請求項1
または2に記載の電解液吸収粒子。
【請求項4】
前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li
7-yLa
3-xA
xZr
2-yM
yO
12(式中、Aは、Y、Nd、Sm、Gdからなる群から選ばれるいずれか1種の金属であり、xは、0≦x<3の範囲であり、Mは、NbまたはTaであり、yは、0≦y<2の範囲である)で表されるガーネット型構造を有する複合金属酸化物である、請求項1~
3いずれかに記載の電解液吸収粒子。
【請求項5】
前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li
1+x+y(Al,Ga)
x(Ti,Ge)
2-xSi
yP
3-yO
12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される結晶を含有する複合金属酸化物である、請求項1~
3いずれかに記載の電解液吸収粒子。
【請求項6】
高誘電性酸化物固体の表面に、電解液を吸収可能な樹脂層を有し、
前記樹脂層は、細孔を有し、前記細孔内に電解液を充填して吸収し、
前記細孔の体積は、前記樹脂層の体積に対して30vol%以上であり、
前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li
7-y
La
3-x
A
x
Zr
2-y
M
y
O
12
(式中、Aは、Y、Nd、Sm、Gdからなる群から選ばれるいずれか1種の金属であり、xは、0≦x<3の範囲であり、Mは、NbまたはTaであり、yは、0≦y<2の範囲である)で表されるガーネット型構造を有する複合金属酸化物である、電解液吸収粒子。
【請求項7】
高誘電性酸化物固体の表面に、電解液を吸収可能な樹脂層を有し、
前記樹脂層は、細孔を有し、前記細孔内に電解液を充填して吸収し、
前記細孔の体積は、前記樹脂層の体積に対して30vol%以上であり、
前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li
1+x+y
(Al,Ga)
x
(Ti,Ge)
2-x
Si
y
P
3-y
O
12
(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される結晶を含有する複合金属酸化物である、電解液吸収粒子。
【請求項8】
請求項1~
7いずれかに記載の電解液吸収粒子を含む自立シート。
【請求項9】
電極活物質と、請求項1~
7いずれかに記載の電解液吸収粒子と、を含むリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項10】
前記電解液吸収粒子の配合量は、前記リチウムイオン二次電池用電極100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下である、請求項
9に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項11】
前記電極活物質は、正極活物質である、請求項
9または10に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項12】
前記電極活物質は、負極活物質である、請求項
9または10に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項13】
集電体と、前記集電体の少なくとも片面に形成された、電極活物質を含む電極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記電極活物質層の上に、請求項1~
7いずれかに記載の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を有する、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項14】
前記電解液吸収層は、リチウムイオン二次電池を形成した際に、セパレータと接する、請求項
13に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項15】
前記電極活物質は、正極活物質である、請求項
13または14に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項16】
前記電極活物質は、負極活物質である、請求項
13または14に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項17】
基材の少なくとも片面に、請求項1~
7いずれかに記載の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を有する、リチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項18】
正極活物質を含む正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用正極層と、
負極活物質を含む負極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用負極層と、
前記リチウムイオン二次電池用正極層と前記リチウムイオン二次電池用負極層との間に配置されるセパレータと、
電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記リチウムイオン二次電池用正極層および/または前記リチウムイオン二次電池用負極層と、前記セパレータとの間に、請求項1~
7いずれかに記載の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液吸収粒子、それを含む自立シート、それを含むリチウムイオン二次電池用電極、それを用いたセパレータ、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度を有する二次電池として、リチウムイオン二次電池が幅広く普及している。液体を電解質として用いているリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間にセパレータを存在させ、液体の電解質(電解液)が充填された構造を有する。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解液は、通常、可燃性の有機溶媒であるため、特に、熱に対する安全性が問題となる場合があった。そこで、有機系の液体の電解質に代えて、難燃性の固体の電解質を用いた固体電池も提案されている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、用途によって様々な要求がある。例えば、自動車等を用途とする場合には、高エネルギー密度でありながら、繰り返しの充放電を行っても、出力特性の低下が少ない電池であることが望ましい。
【0005】
しかしながら、一般にリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しにより出力特性が低下する傾向にある。これは、繰り返しの充放電により電解液が分解し、電極に不動態被膜が生成されて内部抵抗が徐々に増加するとともに電解液の量が減少し、電解液が不足する状況となるためである。
【0006】
これに対して、固体電解質を電極内に存在させることで、電解質の解離を促進したり、フリー溶媒の補足効果を得て、特性の維持を図る方法が提案されている(特許文献1参照)。固体電解質は、電子やイオンを分極しやすく、電解液におけるリチウム拡散阻害物である対アニオンやフリー溶媒を補足する機能を有するため、リチウム拡散性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、固体電解質粒子は、電解液の濡れ性は高いものの、電解液を固定化する機能は有さない。このため、電解液の重力やリチウムイオン二次電池の充放電に伴う電極の膨張収縮により、容易に、固体電解質粒子の表面から電解液は存在しなくなり、その結果、固体電解質を添加しても、その効果は限定的なものとなっていた。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、電解液の保液性を有し、リチウムイオンの輸送特性を向上させることのできる、電解液吸収粒子、それを含む自立シート、それを含むリチウムイオン二次電池用電極、それを用いたセパレータ、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、電解液を吸収可能な樹脂層を高誘電性酸化物固体からなる粒子の表面に備えさせれば、電解液保液性を有し、リチリウムイオン輸送特性を向上できる粒子となると考え、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、高誘電性酸化物固体の表面に、電解液を吸収可能な樹脂層を有する、電解液吸収粒子である。
【0012】
前記電解液吸収粒子において、前記高誘電性酸化物固体は、リチウムイオン伝導性を有する酸化物であってもよい。
【0013】
前記電解液吸収粒子において、前記高誘電性酸化物固体は、粉体比誘電率が10以上の強誘電性酸化物であってもよい。
【0014】
前記電解液吸収粒子において、前記高誘電性酸化物固体は、25℃で10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有していてもよい。
【0015】
前記電解液吸収粒子において、前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li7-yLa3-xAxZr2-yMyO12(式中、Aは、Y、Nd、Sm、Gdからなる群から選ばれるいずれか1種の金属であり、xは、0≦x<3の範囲であり、Mは、NbまたはTaであり、yは、0≦y<2の範囲である)で表されるガーネット型構造を有する複合金属酸化物であってもよい。
【0016】
前記電解液吸収粒子において、前記高誘電性酸化物固体は、化学式Li1+x+y(Al,Ga)x(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される結晶を含有する複合金属酸化物であってもよい。
【0017】
前記電解液吸収粒子において、前記樹脂層は、細孔を有し、前記細孔内に電解液を充填して吸収してもよい。
【0018】
前記細孔の体積は、前記樹脂層の体積に対して30vol%以上であってもよい。
【0019】
また別の本発明は、上記の電解液吸収粒子を含む自立シートである。
【0020】
また別の本発明は、電極活物質と、上記の電解液吸収粒子と、を含むリチウムイオン二次電池用電極である。
【0021】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電解液吸収粒子の配合量は、前記リチウムイオン二次電池用電極100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0022】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電極活物質は、正極活物質であってもよい。
【0023】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電極活物質は、負極活物質であってもよい。
【0024】
また別の本発明は、集電体と、前記集電体の少なくとも片面に形成された、電極活物質を含む電極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用電極であって、前記電極活物質層の上に、上記の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を有する、リチウムイオン二次電池用電極である。
【0025】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電解液吸収層は、リチウムイオン二次電池を形成した際に、セパレータと接してもよい。
【0026】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電極活物質は、正極活物質であってもよい。
【0027】
前記リチウムイオン二次電池用電極において、前記電極活物質は、負極活物質であってもよい。
【0028】
また別の本発明は、基材の少なくとも片面に、上記の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を有する、リチウムイオン二次電池用セパレータである。
【0029】
また別の本発明は、正極活物質を含む正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用正極層と、負極活物質を含む負極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用負極層と、前記リチウムイオン二次電池用正極層と、前記リチウムイオン二次電池用負極層との間に配置されるセパレータと、電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記リチウムイオン二次電池用正極層および/または前記リチウムイオン二次電池用負極層と、前記セパレータとの間に、上記の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を備える、リチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電解液吸収粒子は、電解液の保液性を有するため、粒子表面の電解液欠如を防止することができる。その結果、リチウムイオンの輸送特性を向上させることができ、リチウムイオン二次電池の初期抵抗を低減し、繰り返しの充放電による内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0031】
例えば、本発明の電解液吸収粒子を、正極および負極の少なくとも一方に配合すれば、ハイレート時においても発熱量を抑制することができ、その結果、長寿命で安定した電池性能を発現させることができる。
【0032】
また、本発明の電解液吸収粒子は、表面に樹脂層を有しているため、正極および負極の少なくとも一方に配合すれば、同時に使用するバインダーの使用量を低減することができる。その結果、セルエネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0033】
また、本発明の電解液吸収粒子を含む層を、正極層および負極層の少なくとも一方と、セパレータとの間に配置すれば、特に、充放電に伴う電極の膨張収縮による高反力により、電極表面とセパレータとの間で電解液が押し出されて発生する、電解液不足を抑制することができる。その結果、急速充電によってもリチウムの析出を抑制することができ、従来問題となっていた短絡タフネスに加えて、電池の耐久性を向上させることが可能となる。
【0034】
また、本発明の電解液吸収粒子は、表面に樹脂層を有しているため、接着性を発現する。このため、本発明の電解液吸収粒子を含む層を、正極層および負極層の少なくとも一方と、セパレータとの間に配置すれば、充放電に伴う電極の膨張収縮により、電極とセパレータとの間に隙間が発生することを、防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池の放電レートを示す図である。
【
図2】実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池の充電レートを示す図である。
【
図3】実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池の耐久後のセル容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0037】
<電解液吸収粒子>
本発明の電解液吸収粒子は、高誘電性酸化物固体の表面に、電解液を吸収可能な樹脂層を有する粒子である。
【0038】
[高誘電性酸化物固体]
高誘電性の酸化物からなる固体であれば、特に限定されるものではない。各種の粒子を適用することができる。
【0039】
(リチウムイオン伝導性)
なかでは、リチウムイオン伝導性を有する酸化物であることが好ましい。本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体が、リチウムイオン伝導性を有する酸化物であれば、粒子内のリチウムイオンが動きやすく、誘電作用が効果的に発現する。このため、電解液の解離度が向上しやすくなる。
【0040】
さらには、本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体は、25℃で10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する酸化物であることが好ましい。リチウムイオン伝導性は、25℃で10-5S/cm以上であることが好ましく、10-4S/cm以上であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体として、25℃で10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する酸化物を用いる場合には、粒子内のリチウムイオンがより動きやすくなるため、誘電作用をより効果的に発現することができる。
【0042】
(粉体比誘電率)
本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体は、粉体比誘電率が10以上の強誘電性酸化物であることが好ましい。粉体比誘電率が15以上の強誘電性酸化物であることがさらに好ましく、粉体比誘電率が20以上の強誘電性酸化物であることが特に好ましい。
【0043】
ここで、本明細書における粉体比誘電率とは、以下の方法で得られる値をいう。
{粉体比誘電率の測定方法}
測定用の直径(R)38mmの錠剤成型器に粉体を導入し、厚み(d)が1~2mmとなるように油圧プレス機を用いて圧縮し、圧粉体を形成する。圧粉体の成形条件は、粉体の相対密度(Dpowder)=圧粉体重量密度/誘電体の真比重×100が40%以上とし、この成形体についてLCRメータを用いて自動平衡ブリッジ法にて25℃における1kHzにおける静電容量Ctotalを測定し、圧粉体比誘電率εtotalを算出する。得られた圧粉体比誘電率から実体積部の誘電率εpowerを求めるため、真空の誘電率ε0を8.854×10-12、空気の比誘電率εairを1として、下記の式(1)~(3)を用いて「粉体比誘電率εpower」を算出した。
圧粉体と電極との接触面積A=(R/2)2*π (1)
Ctotal=εtotal×ε0×(A/d) (2)
εtotal=εpowder×Dpowder+εair×(1-Dpowder) (3)
【0044】
本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体として、粉体比誘電率が10以上の強誘電性酸化物を用いる場合には、電解液の解離度を向上させ、電解液の抵抗を低減させることができる。
【0045】
粉体比誘電率が10以上の強誘電性酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、BaTiO3、BaxSr1-xTiO3(X=0.4~0.8)、BaZrxTi1-xO3(X=0.2~0.5)、KNbO3等のペロブスカイト型結晶構造を有する複合金属酸化物、SrBi2Ta2O9、SrBi2Nb2O9等のビスマスを含有する層状ペロブスカイト型結晶構造を有する複合金属酸化物等が挙げられる。本発明においては、これらからなる群より選ばれる少なくとも1種を適用することが好ましい。
【0046】
また、25℃で10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、化学式Li7-yLa3-xAxZr2-yMyO12(式中、Aは、Y、Nd、Sm、Gdからなる群から選ばれるいずれか1種の金属であり、xは、0≦x<3の範囲であり、Mは、NbまたはTaであり、yは、0≦y<2の範囲である)で表されるガーネット型構造を有する複合金属酸化物を挙げることができる。
【0047】
あるいは、化学式Li1+x+y(Al,Ga)x(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)で表されるNASICON型結晶構造を含有する複合金属酸化物を挙げることができる。
【0048】
本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体として、さらに具体的には、例えば、Li7La3Zr2O12(LLZO)、Li6.75La3Zr1.75Ta0.25O12(LLZTO)、Li0.33La0.56TiO3(LLTO)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3(LATP)、およびLi1.6Al0.6Ge1.4(PO4)3(LAGP)を挙げることができる。本発明においては、これらからなる群より選ばれる少なくとも1種を適用することが好ましい。
【0049】
(粒子サイズ)
本発明の電解液吸収粒子を構成する高誘電性酸化物固体の粒子サイズとしては、特に限定されるものではないが、0.1μm以上で、活物質の粒子サイズ以下となる10μm以下程度であることが好ましい。
【0050】
粒子サイズが小さくなりすぎると、例えば、本発明の電解液吸収粒子を、正極および負極の少なくとも一方に配合した場合に、電極活物質の表面に付着して電子伝導性を阻害するため、セル抵抗が高くなる。一方で、粒子サイズが大きすぎると、電極における活物質の充填率向上の妨げとなる。
【0051】
[樹脂層]
樹脂層は、本発明の電解液吸収粒子において、高誘電性酸化物固体の表面に形成される。本発明において樹脂層は、電解液を吸収し、保持する機能を有するため、粒子表面の電解液欠如を防止することができる。その結果、リチウムイオンの輸送特性を向上することができ、リチウムイオン二次電池の初期抵抗を低減し、繰り返しの充放電による内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0052】
本発明の電解液吸収粒子において、樹脂層は細孔を有することが好ましい。細孔内に電解液を充填して吸収する。細孔内に電解液が充填されることにより、重力による電解液の移動や、充放電に伴う電極の膨張収縮による電解液の押し出しを抑制し、電解液の不足を抑制することができる。その結果、電池性能を充分なレベルに保持し、長寿命で安定した電池性能を得ることが可能となる。
【0053】
本発明の電解液吸収粒子において、樹脂層が細孔を有する場合には、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、可塑剤等用いて樹脂層内部に細孔構造を形成する方法が挙げられる。
【0054】
本発明の電解液吸収粒子において、樹脂層が細孔を有する場合には、細孔の体積は、樹脂層の体積に対して30vol%以上であることが好ましい。樹脂層の体積に対して50vol%以上であることがさらに好ましく、60vol%以上であることが特に好ましい。
【0055】
細孔の体積は、樹脂層の体積に対して30vol未満である場合には、電解液の保持効果が発現しない。30vol%以上であることにより、十分な電解液の保持量を確保できるため、電解液の解離度をより向上させることができる。
【0056】
<電解液吸収粒子を含む自立シート>
本発明の自立シートは、上記の本発明の電解液吸収粒子を含むシートであって、単独で自立性を有するものである。その大きさ、厚み等は、特に限定されるものではない。また、自立シートには、本発明の電解液吸収粒子以外に、任意に他の成分を含んでいてもよい。
【0057】
本発明の電解液吸収粒子を含む自立シートは、リチウムイオン二次電池を形成する際に、リチウムイオン二次電池用正極層および/またはリチウムイオン二次電池用負極層と、セパレータとの間に、配置することが好ましい。
【0058】
電極層の表面に、本発明の電解液吸収粒子を含む自立シートを配置することにより、セルの内部短絡タフネスを向上させることができる。特に、本発明の電解液吸収粒子を含む自立シートは、十分な電解液保持機能を有するため、充放電に伴う電極の膨張収縮による電解液の押し出しを抑制して、電解液の不足を抑制することができるため、短絡タフネスに加えて、耐久性を向上させることが可能となる。
【0059】
<リチウムイオン二次電池用電極>
[第1態様:配合タイプ]
本発明のリチウムイオン二次電池用電極の第1の態様は、電極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子と、を含むリチウムイオン二次電池用電極である。
【0060】
第1態様における本発明のリチウムイオン二次電池用電極の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、集電体に、電極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子と、を含む電極合材からなる電極層が積層された構成が挙げられる。電極層には、任意に、導電助剤、結着剤等の公知の成分が含まれていてもよい。
【0061】
第1態様による本発明のリチウムイオン二次電池用電極によれば、本発明の電解液吸収粒子が、電極に配合されることにより、ハイレート時においても発熱量を抑制することができ、その結果、長寿命で安定した電池性能を発現させることができる。
【0062】
また、電解液吸収粒子の表面に存在する樹脂層により、同時に使用するバインダーの使用量を低減することができ、その結果、セルエネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0063】
(配合量)
電極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子とを含む、第1態様の電極とする場合には、本発明の電解液吸収粒子の配合量は、電極を構成する電極合材の全成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。0.5質量部以上5.0質量部以下の範囲であることがより好ましく、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが特に好ましい。
【0064】
電解液吸収粒子の配合量が、電極を構成する電極合材の全成分100質量部に対して、0.1質量部より少なくなる場合には、電極内部に浸透する電解液の解離度が不十分となる。一方で、5質量部より多くなる場合には、電極内部に浸透する電解液量が不十分となり、電極内部のリチウムイオンの移動経路が制限されてしまう。
【0065】
第1態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、リチウムイオン二次電池用正極であっても、リチウムイオン二次電池用負極であってもよい。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用電極に含まれる電極活物質は、正極活物質であっても、負極活物質であってもよい。正極および負極のいずれの場合であっても、本発明の効果を得ることが可能である。
【0066】
(集電体)
電極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子とを含む、第1態様の電極とする場合に、用いうる集電体は、特に限定されるものではない。リチウムイオン二次電池に用いられる公知の集電体を用いることができる。
【0067】
正極集電体の材料としては、例えば、SUS、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、Zn、Cu等の金属材料等を挙げることができる。負極集電体の材料としては、例えば、SUS、Ni、Cu、Ti、Al、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等が挙げられる。
【0068】
また、電極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。その厚みについても特に限定されるものではなく、例えば、1~20μmが挙げられるが、必要に応じて適宜選択することができる。
【0069】
(活物質)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極に含まれる電極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出することができるものであれば、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池の電極活物質として公知の物質を適用することができる。
【0070】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、リチウムイオン二次電池用正極である場合には、正極活物質層としては、例えば、LiCoO2、LiCoO4、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、硫化リチウム、硫黄等を挙げることができる。正極活物質としては、電極を構成できる材料から、負極と比較して貴な電位を示すものを選択すればよい。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、リチウムイオン二次電池用負極である場合には、負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、酸化シリコン、シリコン、およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。負極活物質としては、電極を構成できる材料から、正極と比較して卑な電位を示すものを選択すればよい。
【0072】
(電極層の配置)
第1態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極において、電極活物質と本発明の電解液吸収粒子とを必須の成分として含む電極合材からなる電極層は、集電体の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成されていてもよい。目的とするリチウムイオン二次電池の種類や構造によって、適宜選択することができる。
【0073】
(厚み)
第1態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、40μm以上であることが好ましい。厚みが40μm以上であり、電極活物質の体積充填率が60%以上である場合には、得られるリチウムイオン二次電池用電極は高密度電極となる。そして、作成される電池セルの体積エネルギー密度は、500Wh/L以上にも到達可能となる。
【0074】
(リチウムイオン二次電池用電極の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、電極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子とを含む、第1態様の電極である場合に、その製造方法は、特に限定されるものではない。本技術分野における通常の方法を適用することができる。
【0075】
例えば、集電体上に、電極活物質と上記の本発明の電解液吸収粒子とを必須成分として含む電極合材となる電極ペーストを塗布し、乾燥させた後に圧延する方法が挙げられる。
【0076】
集電体に電極ペーストを塗布する方法としては、公知の方法を適用することができる。例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング、スクリーンコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、バーコーティング等の方法が挙げられる。
【0077】
[第2態様:積層タイプ]
本発明のリチウムイオン二次電池用電極の第2の態様は、集電体と、集電体の少なくとも片面に形成された、電極活物質を含む電極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用電極であって、電極活物質層の上に、上記の本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層が形成された、リチウムイオン二次電池用電極である。
【0078】
第2態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極において、電極活物質層の上に形成される電解液吸収層は、リチウムイオン二次電池を形成した際に、セパレータと接することが好ましい。
【0079】
第2態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極においては、電極活物質層とセパレータとの接触界面に、本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を存在させることにより、セルの内部短絡タフネスを向上させることができる。
【0080】
また、本発明の電解液吸収粒子による十分な電解液保持機能により、充放電に伴う電極の膨張収縮による電解液の押し出しを抑制し、電解液の不足を抑制することができる。その結果、電極活物質層とセパレータとの間のリチウムイオンのスムーズな移動を実現することが可能となり、充放電特性やサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0081】
第2態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、リチウムイオン二次電池用正極であっても、リチウムイオン二次電池用負極であってもよい。すなわち、リチウムイオン二次電池用電極において電極活物質層を構成する電極活物質は、正極活物質であっても、負極活物質であってもよい。正極および負極のいずれの場合であっても、本発明の効果を得ることが可能である。
【0082】
(活物質)
第2態様のリチウムイオン二次電池用電極に用いうる正極活物質および負極活物質は、上記の第1態様のリチウムイオン二次電池用電極に用いうる正極活物質および負極活物質と同様である。
【0083】
(電解液吸収層の配置)
第2態様のリチウムイオン二次電池用電極において、本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層は、電極活物質層の上に形成される。電極活物質層が集電体の両面に形成されている場合には、少なくとも、リチウムイオン二次電池を形成した際に、セパレータと接する面には形成されているようにする。
【0084】
(厚み)
第2態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極において、本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、固体誘電性酸化物の平均粒子サイズ(D50)の1/100~平均粒子サイズ(D50)の範囲であることが好ましい。
【0085】
また、第2態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極全体の厚みについても、特に限定されるものではない。第1態様の本発明のリチウムイオン二次電池用電極と同様に、例えば、厚みを40μm以上、電極活物質の体積充填率を60%以上として、高密度リチウムイオン二次電池用電極としてもよい。
【0086】
(リチウムイオン二次電池用電極の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、電極活物質層の上に、上記の本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層が形成された、第2態様の電極である場合に、その製造方法は、特に限定されるものではない。本技術分野における通常の方法を適用することができる。
【0087】
例えば、第1態様のリチウムイオン二次電池用電極と同様に、集電体上に、電極活物質を含む電極合材となる電極ペーストを塗布し、乾燥させた後に圧延して電極活物質層を形成した後に、本発明の電解液吸収粒子を含む粒子分散ペーストをオーバーコートする方法が挙げられる。
【0088】
電解液吸収粒子を含む粒子分散ペーストをオーバーコートする方法としては、公知の方法を適用することができる。例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング、スクリーンコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、バーコーティング等の方法が挙げられる。
【0089】
<セパレータ>
本発明のセパレータは、基材の少なくとも片面に、上記の本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を有する、リチウムイオン二次電池用セパレータである。その大きさ、厚み等は、特に限定されるものではない。
【0090】
本発明のセパレータは、リチウムイオン二次電池を形成する際に、リチウムイオン二次電池用正極層とリチウムイオン二次電池用負極層との間に、配置されるものである。
【0091】
セパレータの基材としては、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池のセパレータとして公知のものを適用することができる。
【0092】
(セパレータの製造方法)
本発明のセパレータの製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、基材上に、本発明の電解液吸収粒子および任意の成分を含む粒子分散ペーストをオーバーコートする方法が挙げられる。
【0093】
電解液吸収粒子を含む粒子分散ペーストをオーバーコートする方法としては、公知の方法を適用することができる。例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング、スクリーンコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、バーコーティング等の方法が挙げられる。
【0094】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用正極層と、負極活物質を含む負極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池用負極層と、リチウムイオン二次電池用正極層とリチウムイオン二次電池用負極層との間に配置されるセパレータと、電解液と、を備える。そして、リチウムイオン二次電池用正極層および/またはリチウムイオン二次電池用負極層と、セパレータとの間に、本発明の上記の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層を備えることを特徴とする。
【0095】
[リチウムイオン二次電池用正極層]
本発明のリチウムイオン二次電池の構成要素であるリチウムイオン二次電池用正極層は、正極活物質を含む正極活物質層を備える。正極活物質層を備えていれば、他の構成は特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池に用い得る公知の負極層を適用することができる。
【0096】
なかでは、本発明においては、上記した第1態様または第2態様のリチウムイオン二次電池用電極であることが好ましい。すなわち、正極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子と、を含む電極合材からなる電極層が、集電体上に積層されたリチウムイオン二次電池用正極層か、集電体上に形成された電極活物質層の上に、上記の本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層が積層されたリチウムイオン二次電池用正極層であることが好ましい。
【0097】
[リチウムイオン二次電池用負極層]
本発明のリチウムイオン二次電池の構成要素であるリチウムイオン二次電池用負極層は、負極活物質を含む負極活物質層を備える。負極活物質層を備えていれば、他の構成は特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池に用い得る公知の負極層を適用することができる。
【0098】
なかでは、本発明においては、上記した第1態様または第2態様のリチウムイオン二次電池用電極であることが好ましい。すなわち、負極活物質と、上記の本発明の電解液吸収粒子と、を含む電極合材からなる電極層が、集電体上に積層されたリチウムイオン二次電池用負極層か、集電体上に形成された電極活物質層の上に、上記の本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層が積層されたリチウムイオン二次電池用負極層であることが好ましい。
【0099】
[セパレータ]
本発明のリチウムイオン二次電池の構成要素であるセパレータは、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池に用い得る公知のセパレータを適用することができる。
【0100】
なかでは、本発明においては、上記した本発明のセパレータであることが好ましい。すなわち、基材の少なくとも片面に、本発明の電解液吸収粒子を含む電解液吸収層が形成されたセパレータである。
【0101】
[電解液]
本発明のリチウムイオン二次電池において用いられる電解液は、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池の電解液として公知の電解液を適用することができる。
【0102】
(溶媒)
電解液に用いられる溶媒としては、一般的な非水系電解液を形成する溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状構造を有する溶媒や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状構造からなる溶媒を挙げることができる。また、一部をフッ素化した、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等を用いることもできる。
【0103】
また、電解液には、公知の添加剤を配合することもでき、添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、プロパンスルトン(PS)等が挙げられる。
【0104】
また、電解液として、イオン液体を含んでいてもよい。当該イオン液体としては、4級アンモニウムカチオンからなるピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等が挙げられる。
【0105】
本発明においては、ECやPC等の比誘電率の高い溶媒と、粘度の低いDMCやEMC等の溶媒を組み合わせて用いることが望ましい。比誘電率の高い溶媒を用いることで、リチウム塩の解離度が向上し、リチウム塩を高濃度で用いることができる。また、比誘電率の高い溶媒のみでは粘度が高くなり、イオン伝導度が低くなるため、粘度の低い溶媒を適度に混合して粘度調整をする必要がある。電解液の組成としては、ECやPC等の比誘電率の高い溶媒量が、20体積%以上40体積%以下であることが好ましい。より望ましくは、25体積%以上35体積%以下である。
【0106】
(リチウム塩)
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液に含まれるリチウム塩は、特に限定されるものではない。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF3)、LiN(SO2C2F5)2、LiCF3SO3等を挙げることができる。これらの中では、イオン伝導度が高く、解離度も高いことから、LiPF6、LiBF4、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0107】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、本技術分野における通常の方法を適用することができる。
【実施例】
【0108】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた材料を、以下に示す。
【0109】
(1)電極活物質
・正極活物質:LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)
D50=12μm
・負極活物質:天然黒鉛(NG)
D50=12μm
【0110】
(2)リチウムイオン伝導性酸化物
・Li1.3Al0.3Ti1.7P3O12(LATP)
D50=0.5μm、バルクのリチウムイオン伝導性:5×10-4S/cm
粉体比誘電率:30
・Li7La3Zr2O12(LLZO)
D50=0.15μm、バルクのリチウムイオン伝導性:5×10-4S/cm
粉体比誘電率:48.7
【0111】
(3)強誘電性酸化物
・BaTiO3(BTO)
D50=0.6μm、粉体比誘電率:67
【0112】
(4)酸化物
・Al2O3
D50=0.3μm、粉体比誘電率:8.7
【0113】
(5)樹脂層を形成する材料
・ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)
・ポリ塩化ビニル(PVC)
【0114】
<電解液吸収粒子の作製>
[電解液吸収粒子1~4]
樹脂層を形成する材料として、PVDF-HFPを用いた。アセトン中にPVDF-HFPを溶解させ、その後、可塑剤としてエチレンカーボネート(EC)、リチウムイオン伝導性酸化物としてLATP(粉体比誘電率:30)を混合・分散させて、分散液を得た。続いて、分散液の溶媒であるアセトンが揮発するまで、スターラーを用いて攪拌を継続し、粉末を得た。得られた粉末を、ジメチルカーボネート(DMC)中に含浸して、可塑剤であるECを除去して樹脂層に細孔を形成し、電解液吸収粒子を得た。
【0115】
得られた電解液吸収粒子1~4の組成、および樹脂層の空隙率を、表1に示す。
【0116】
[電解液吸収粒子5]
樹脂層を形成する材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いた。テトラヒドロフラン(THF)中にPVCを溶解させ、その後、可塑剤としてEC、リチウムイオン伝導性酸化物としてLLZO(粉体比誘電率:48.7)を混合・分散させて、分散液を得た。続いて、分散液の溶媒であるTHFが揮発するまで、スターラーを用いて攪拌を継続し、粉末を得た。得られた粉末を、DMC中に含浸して、可塑剤であるECを除去して樹脂層に細孔を形成し、電解液吸収粒子を得た。
【0117】
得られた電解液吸収粒子5の組成、および樹脂層の空隙率を、表1に示す。
【0118】
[電解液吸収粒子6]
樹脂層を形成する材料として、PVDF-HFPを用いた。アセトン中にPVDF-HFPを溶解させ、その後、可塑剤としてEC、誘電性酸化物としてBTO(粉体比誘電率:67)を混合・分散させて、分散液を得た。続いて、分散液の溶媒であるアセトンが揮発するまで、スターラーを用いて攪拌を継続し、粉末を得た。得られた粉末をDMC中に含浸して、可塑剤であるECを除去して樹脂層に細孔を形成し、電解液吸収粒子を得た。
【0119】
得られた電解液吸収粒子6の組成、および樹脂層の空隙率を、表1に示す。
【0120】
[電解液吸収粒子7]
樹脂層を形成する材料として、PVDF-HFPを用いた。アセトン中にPVDF-HFPを溶解させ、その後、可塑剤としてEC、酸化物としてAl2O3(粉体比誘電率:8.7)を混合・分散させて、分散液を得た。続いて、分散液の溶媒であるアセトンが揮発するまで、スターラーを用いて攪拌を継続し、粉末を得た。得られた粉末をDMC中に含浸して、可塑剤であるECを除去して樹脂層に細孔を形成し、電解液吸収粒子を得た。
【0121】
得られた電解液吸収粒子7の組成、および樹脂層の空隙率を、表1に示す。
【0122】
【0123】
<実施例1~7、比較例1~2>
[正極の作製]
表2および表3に示す組成にて、電解液吸収粒子、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてPVDF、溶媒としてN-メチル-N-ピロリジノン(NMP)を、自転公転ミキサーで湿式混合することで、予備混合スラリーを得た。続いて、表2および表3に示す組成となるように、正極活物質としてNCM622と、予備混合スラリーとを混合し、プラネタリーミキサーを用いて分散処理を行うことで、正極ペーストを得た。なお、電解液吸収粒子を添加しない場合は、その工程だけ省略した。
【0124】
得られた正極ペーストを、厚み12μmのAl集電体の片面に塗布し、120℃で10分乾燥した後、ロールプレスで1t/cmの線圧で加圧し、さらに、120℃の真空中で乾燥させることで、リチウムイオン二次電池用正極を作製した。なお、作製した正極は、30mm×40mmに打ち抜き加工して用いた。
【0125】
[負極の作製]
表2および表3に示す組成にて、電解液吸収粒子、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を混合し、プラネタリーミキサーを用いて分散し、混合物を得た。得られた混合物に、負極活物質として天然黒鉛(NG)を混合し、再度プラネタリーミキサーを用いて分散した。その後、表2に示す組成となるように、分散溶媒となる水と、バインダーとなるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を添加・分散し、負極ペーストを作製した。なお、電解液吸収粒子を添加しない場合は、その工程だけ省略した。
【0126】
得られた負極ペーストを、厚み8μmCu製集電体上に塗布し、100℃で10分乾燥した後、ロールプレスで1t/cmの線圧で加圧し、さらに100℃の真空中で乾燥させることで、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。なお、作製した負極は、34mm×44mmに打ち抜き加工したものを用いた。
【0127】
【0128】
【0129】
<実施例8~11、比較例3>
[正極の作製]
導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてPVDFと、溶媒としてN-メチル-N-ピロリジノン(NMP)とを、自転公転ミキサーで湿式混合することで、予備混合スラリーを得た。続いて、正極活物質としてNCM622と、得られた予備混合スラリーとを混合し、プラネタリーミキサーを用いて分散処理を行うことで、正極ペーストを得た。
【0130】
実施例8~11、比較例3の正極ペーストにおける各成分の質量比率は、NCM622:AB:PVDF=94.0:4.1:1.9となるようにした。
【0131】
得られた正極ペーストを、厚み12μmのAl集電体の片面に塗布し、120℃で10分乾燥した後、ロールプレスで1t/cmの線圧で加圧し、さらに、120℃の真空中で乾燥させることで、リチウムイオン二次電池用正極を作製した。なお、作製した正極は、30mm×40mmに打ち抜き加工して用いた。
【0132】
[負極の作製]
導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液とを、プラネタリーミキサーを用いて予備混合した。続いて、得られた混合物に、負極活物質として天然黒鉛(NG)を混合し、再度プラネタリーミキサーを用いてさらに予備混合した。その後、分散溶媒となる水と、バインダーとなるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を添加して、プラネタリーミキサーを用いて分散処理を行い、負極ペーストを得た。
【0133】
実施例8~11、比較例3の負極ペーストにおける各成分の質量比率は、NG:AB:SBR:CMC=96.5:1.0:1.5:1.0となるようにした。
【0134】
[電解液吸収層の作製]
表4に示す電解液吸収粒子とCMCとを、95:5の質量比で混合し、分散溶媒を水とする分散ペーストを作製した。得られた分散ペーストを、表4に示すように、上記で形成した正極または負極の電極活物質層の表面にオーバーコートし、100℃で乾燥させることにより、表4に示す厚みの電解液吸収層を作製した。
【0135】
[リチウムイオン二次電池の作製]
上記で得られた電解液吸収層を有する正極または負極と、電解液吸収層を有しない正極または負極とを、表4に示す組み合わせで用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0136】
【0137】
<評価>
実施例および比較例で得られたリチウムイオン二次電池につき、以下の評価を行った。
【0138】
[初期放電容量]
作製したリチウムイオン二次電池を、測定温度(25℃)で1時間放置し、8.4mAで4.2Vまで定電流充電を行い、続けて4.2Vの電圧で定電圧充電を1時間行い、30分間放置した後、8.4mAの電流値で2.5Vまで定電流放電を行った。上記を5回繰り返し、5回目の放電時の放電容量を、初期放電容量とした。結果を表2~表4に示す。なお、得られた放電容量に対し、1H間で放電が完了できる電流値を1Cとした。
【0139】
[初期セル抵抗]
初期放電容量測定後のリチウムイオン二次電池を、測定温度(25℃)で1時間放置した後に0.2Cで充電し、充電レベル(SOC(State of Charge))50%に調整して10分間放置した。次に、Cレートを0.5Cとして10秒間パルス放電し、10秒放電時の電圧を測定した。そして、横軸を電流値、縦軸を電圧として、0.5Cにおける電流値に対する10秒放電時の電圧をプロットした。次に、10分間放置後、補充電を行ってSOCを50%に復帰させた後、さらに10分間放置した。
【0140】
上記の操作を、1.0C、1.5C、2.0C、2.5C、3.0Cの各Cレートについて行い、各Cレートにおける電流値に対する10秒放電時の電圧をプロットした。そして、各プロットから得られた最小二乗法による近似直線の傾きを、リチウムイオン二次電池の内部抵抗とした。結果を表2~表4に示す。
【0141】
[耐久後放電容量]
充放電サイクル耐久試験として、45℃の恒温槽にて、1Cの充電レートで4.2Vまで定電流充電を行った後、2Cの放電レートで2.5Vまで定電流放電を行う操作を1サイクルとし、上記の操作を1000サイクル繰り返した。1000サイクル終了後、恒温槽を25℃に変更した状態で24時間放置し、その後、0.2Cで4.2Vまで定電流充電を行い、続けて4.2Vの電圧で定電圧充電を1時間行い、30分間放置した後、0.2Cの放電レートで2.5Vまで定電流放電を行い、耐久後の放電容量を測定した。結果を表2~表4に示す。
【0142】
[耐久後セル抵抗]
耐久後放電容量測定後のリチウムイオン二次電池を、初期セル抵抗の測定と同様に、(SOC(State of Charge))50%になるように充電を行い、初期セル抵抗の測定と同様の方法で、耐久後セル抵抗を求めた。結果を表2~表4に示す。
【0143】
[容量維持率]
上記で測定した初期放電容量に対する耐久後放電容量の割合を求め、耐久後容量維持率とした。結果を表2~表4に示す。
【0144】
[セル抵抗上昇率]
上記で測定した初期セル抵抗に対する耐久後セル抵抗の割合を求め、セル抵抗上昇率とした。結果を表2~表4に示す。