(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】搾乳器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/06 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
A61M1/06
(21)【出願番号】P 2021546159
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037034
(87)【国際公開番号】W WO2021053819
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000112288
【氏名又は名称】ピジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】落合 志文
(72)【発明者】
【氏名】下村 義弘
(72)【発明者】
【氏名】安藤 唯菜
(72)【発明者】
【氏名】任 賢珍
(72)【発明者】
【氏名】上野 勇人
(72)【発明者】
【氏名】服部 司
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0052058(US,A1)
【文献】特開2019-010350(JP,A)
【文献】特開2013-039445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部通路と、搾乳のために前記内部通路に負圧を生成するように構成された負圧生成機構とを備える本体部であって、乳房にあてがわれるフードが取り付けられるフード取付部を前方に備えるとともに、乳汁を貯留するボトルが取り付けられるボトル取付部を下方に備える前記本体部と、
前記本体部に対して回動可能なハンドルであって、
前記ハンドルにおける前記本体部に対する回動支点に近い方の基端部において前記負圧生成機構と接続される前記ハンドルとを備え、
前記ハンドルは、先端側に指掛部を備え、前記本体部の側方において、前記回動支点から前方に向かって延在し
、かつ、前記本体部に当接する方向に回動可能である
搾乳器。
【請求項2】
前記ハンドルは、前記指掛部の前記回動支点側の隣接位置に指規制部を備える
請求項1に記載の搾乳器。
【請求項3】
前記指掛部は、全体が直線形状で構成され、または、少なくとも前記フードの方向に湾曲した部分を備えている
請求項1または2に記載の搾乳器。
【請求項4】
前記本体部は、前記フードの下方に配置されるサポート部を備える
請求項1ないし3のうち何れか1項に記載の搾乳器。
【請求項5】
前記サポート部は、前記ハンドルの回動範囲を規制するように構成された規制部である
請求項4に記載の搾乳器。
【請求項6】
前記本体部は、前記ボトル取付部と前記サポート部との間に形成された窪み部を備える
請求項4または5に記載の搾乳器。
【請求項7】
前記負圧生成機構は、
前記内部通路の端部を塞ぐダイヤフラムであって、前記ハンドルと接続され、前記内部通路に負圧を発生させるように構成された前記ダイヤフラムと、
前記内部通路に挿入される挿入部であって、前記ダイヤフラムと接続される前記挿入部とを備える
請求項1ないし6のうち何れか1項に記載の搾乳器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乳汁を手動で搾るための搾乳器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、搾乳器は、乳房にあてがわれるフードと乳汁を貯留するボトルとが取り付けられる本体部と、本体部に回動可能に取り付けられる手動のハンドルとを備えている。本体部は、搾乳口とボトルとを繋ぐ内部通路と、内部通路に負圧を発生させるダイヤフラムとを備えている。ハンドルは、本体部の上部に回動可能に支持され、ボトルが位置する下方に向かって延在している。そして、フードを乳房にあてがい、親指を除く4本の指をハンドルに添わせ、親指を本体部に添わせ、ハンドルを本体部に対して近接させるように回動させる。すると、ダイヤフラムが引き上げられるように変形することで、内部通路に負圧が発生し、乳首から搾られた乳汁が内部通路へと流入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
搾乳作業は、10分程度継続して行われることもあり、前腕や手に対する筋負担を軽減することが望まれる。
本開示は、搾乳時の前腕や手における筋負担の軽減を可能とした搾乳器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような課題を解決する搾乳器は、内部通路と、搾乳のために前記内部通路に負圧を生成するように構成された負圧生成機構とを備える本体部であって、乳房にあてがわれるフードが取り付けられるフード取付部を前方に備えるとともに、乳汁を貯留するボトルが取り付けられるボトル取付部を下方に備える前記本体部と、前記本体部に対して回動可能なハンドルであって、前記ハンドルにおける前記本体部に対する回動支点に近い方の基端部において前記負圧生成機構と接続される前記ハンドルとを備え、前記ハンドルは、先端側に指掛部を備え、前記本体部の側方において、前記回動支点から前方に向かって延在し、かつ、前記本体部に当接する方向に回動可能である。上記構成によれば、回外位の状態で、搾乳操作を行うことができ、橈側手根伸筋など前腕の筋負担を軽減することができる。また、前腕を乳房下方の体幹に接触させることができ、前腕の姿勢を保持しやすくなる。
【0006】
上記搾乳器において、前記ハンドルは、前記指掛部の前記回動支点側の隣接位置に指規制部を備える構成としてもよい。上記構成によれば、使用者は拇指を除く四指でハンドルを操作することができ、指規制部により人差し指の側面(付け根)が本体部に当接することを防止できる。
【0007】
前記搾乳器において、前記指掛部は、全体が直線形状で構成され、または、少なくとも前記フードの方向に湾曲した部分を備える構成としてもよい。上記構成によれば、指掛部が特にフードの方向に湾曲した部分を備えている場合、小指を拇指球に近づけた状態でハンドルを操作することができる。
【0008】
上記搾乳器において、前記本体部は、前記フードの下方に配置されるサポート部を備える構成としてもよい。上記構成によれば、使用者の拇指球筋の領域をサポート部に添わせることができ、拇指球筋に対する負担を軽減することができる。
【0009】
上記搾乳器において、前記サポート部は、前記ハンドルの回動範囲を規制するように構成された規制部である構成としてもよい。上記構成によれば、ハンドルが回動し過ぎることを防ぐことができる。
【0010】
上記搾乳器において、前記本体部は、前記ボトル取付部と前記サポート部との間に形成された窪み部を備える構成としてもよい。上記構成によれば、人差し指の付け根部が本体部へぶつかることを防止することができる。また、搾乳時における搾乳器の姿勢を安定させ易くなる。
【0011】
上記搾乳器において、前記負圧生成機構は、前記内部通路の端部を塞ぐダイヤフラムであって、前記ハンドルと接続され、前記内部通路に負圧を発生させるように構成された前記ダイヤフラムと、前記内部通路に挿入される挿入部であって、前記ダイヤフラムと接続される前記挿入部とを備える構成としてもよい。上記構成によれば、挿入部が内部通路内で姿勢が規制されているので、回動するハンドルの姿勢を補助することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、搾乳時の前腕や手における筋負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図1の搾乳器の内部通路が常圧状態のときの状態を示す断面図。
【
図4】
図1の搾乳器の内部通路が負圧状態のときの状態を示す断面図。
【
図5】
図1の搾乳器のハンドルを回動しているときの状態を示す斜視図。
【
図6】(a)は、従来の回内位の状態で使用される搾乳器と回外位の状態で使用される本発明の搾乳器における前腕姿勢を示す図、(b)は、回外位と回内位を説明する図。
【
図7】従来の回内位の状態で使用される搾乳器と回外位の状態で使用される本発明の搾乳器における橈側手根伸筋の筋電位を示す図。
【
図8】従来の回内位の状態で使用される搾乳器と回外位の状態で使用される本発明の搾乳器における拇指球筋の筋電位を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1~
図5を参照して、搾乳器について説明する。
図1に示すように、搾乳器1は、使用者が片手で操作可能な大きさを有した手動の搾乳器であり、使用者の掌が上を向いた回外位の状態で使用される。このような搾乳器1は、本体部11と、ボトル12と、フード13と、ハンドル14と、ハンドルベース15とを備えている。ここでは、本体部11に対してフード13が配置される方向を前方と定義し、本体部11に対してハンドル14の回動支点の方向を後方と定義している。また、本体部11に対してボトル12が取り付けられる方向を下方と定義し、ボトル12とは反対方向を上方と定義している。さらに、本体部11に対してハンドル14が配置される方向およびその反対方向を側方と定義している。
【0015】
本体部11は、乳汁を貯留するボトル12が接続されるとともに、フード13が取り付けられる部材である。本体部11は、軽量でかつ硬質な合成樹脂材料の成形品である。具体的には、本体部11は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルフォンなどの合成樹脂材料で形成されている。
【0016】
図2に示すように、本体部11は、ボトル取付部21と、フード取付部22と、内部通路23とを備えている。ボトル取付部21は、本体部11の下方に位置している。ボトル12は、乳汁を貯留する容器であって、ボトル開口部12aを備えている。ボトル開口部12aは、開口を構成する周壁の外周面に雄ねじ部12bを備えている。ボトル開口部12aは、本体部11に代わって人
工乳首を取り付けることで哺乳瓶としても使用可能である。ボトル取付部21は、ボトル開口部12aが螺入可能な凹部を有し、内周面に、雄ねじ部12bが螺合可能な雌ねじ部21aを備えている。
【0017】
フード取付部22は、筒状に形成されて、ボトル取付部21に対して斜め上方に位置している。フード13は、乳房の形状に対応するドーム形状もしくはラッパ形状を有し、乳房にあてがわれる拡径部13aと、拡径部13aの頂部に設けられる筒部13bとを備えている。拡径部13aは、内側に搾乳口13cを有している。拡径部13aにおいて、その開口端である外縁には、弾性パッドなどが装着されて、乳房に対して密着し易くなっている。筒部13bは、フード取付部22に挿入され嵌合される。
【0018】
図3に示すように、内部通路23は、本体部11の内部に設けられ、ボトル取付部21とフード取付部22との間を延びてこれらを互いに繋いでいるとともに、ダイヤフラム17が取り付けられる取付端部24に向かって延びている。換言すると、内部通路23は、ボトル取付部21とフード取付部22と取付端部24との間を延びてこれらの間を繋いでいる。内部通路23は、流入路25と、一時貯留部26と、負圧生成路27とを備えている。
【0019】
流入路25は、フード取付部22と一時貯留部26とを繋ぎ、一時貯留部26へ向かって下る流路である。一時貯留部26は、負圧発生時、流入路25から流入した乳汁を一時的に貯留する空間部であり、下方に延び、ボトル取付部21の内側に位置する。
【0020】
一時貯留部26の下端部は、弁部材28が取り付けられ、ボトル開口部12a内に位置している。弁部材28は、逆流防止弁であって、例えばダックビル弁である。弁部材28は、ボトル12内の乳汁や空気が本体部11の方に逆流することを抑制し、かつ、内部通路23とボトル12の内部空間とを仕切って内部通路23を負圧状態とする。弁部材28は、可撓性、弾性などを有する合成樹脂材料で成形されており、シリコーンゴム、エラストマー、天然ゴムなどの合成樹脂材料で形成されている。
【0021】
弁部材28は、可撓性を有する一対の舌片を備えており、舌片間にスリットを構成する。弁部材28は、内部通路23が負圧状態となるとき、舌片同士が密着し、スリットを閉じる。これにより、一時貯留部26の下端部は、閉じられ、流入路25から流入する乳汁が一時的に貯留される。そして、内部通路23が常圧となったとき、舌片同士が離間し、スリットが開く。これにより、一時貯留部26とボトル12の内部は連通し、一時貯留部26に貯留されている乳汁は、ボトル12内に流入する。
【0022】
負圧生成路27は、一時貯留部26から流入路25とは別に分かれた通路である。具体的には、負圧生成路27は、一時貯留部26の上端部もしくは流入路25の一時貯留部26との接続部分から流入路25とは反対方向に斜め上方に延びる流路である。負圧生成路27は、流入路25より太い流路である。また、負圧生成路27は、一時貯留部26より太い流路である。負圧生成路27は、例えば使用者の指を挿入できる程度の太さを有している。負圧生成路27の上端部は、ダイヤフラム17が取り付けられる取付端部24である。取付端部24は、外側に広がったフランジ形状を有し、開口面積を大きくしている。
【0023】
以上のように構成された内部通路23には、内部通路23に負圧を生成するための負圧生成機構16が設けられている。負圧生成機構16は、ダイヤフラム17と、引き上げプレート18と、挿入部材19とを備えている。
【0024】
ダイヤフラム17は、内部通路23に負圧を生成する負圧生成部材である。ダイヤフラム17は、可撓性、弾性などを有する合成樹脂材料で成形されており、シリコーンゴム、エラストマー、天然ゴムなどの合成樹脂材料で形成されている。ダイヤフラム17は、取付端部24を塞ぐように取り付けられる。内部通路23は、フード13が取り付けられる流入路25の端部と、弁部材28が取り付けられる一時貯留部26の下端部と、ダイヤフラム17が取り付けられる取付端部24の3つの端部を有している。フード13が乳房にあてがわれ搾乳口13cが塞がれたとき、すなわち、流入路25の端部が塞がれたとき、内部通路23は、弁部材28とダイヤフラム17とで、残りの端部である一時貯留部26の下端部と取付端部24とが塞がれていることで、ほぼ密閉された空間が構成される。ダイヤフラム17には、ハンドル14と接続するための接続部としての引き上げプレート18が配置される。
【0025】
引き上げプレート18は、ダイヤフラム17より硬い合成樹脂材料の成形体であって、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルフォンなどの合成樹脂材料で形成されている。引き上げプレート18は、ハンドル14との接続部であり、プレート部31と、接続突起32とを備えている。プレート部31は、ダイヤフラム17の内面に配置される。接続突起32は、プレート部31においてダイヤフラム17と対向する面のほぼ中央部から突設されている。ダイヤフラム17は、中央部に貫通孔17aを備えており、接続突起32は、貫通孔17aを通じてダイヤフラム17の外方に突出する。接続突起32は、先端部が球形状であり、球形状の下端部に係合溝32aを備えている。
【0026】
プレート部31には、挿入部材19が取り付けられる。挿入部材19は、挿入部19aと、取付フランジ19bとを備えている。取付フランジ19bは、プレート部31と重ねられるように取り付けられる。一例として、取付フランジ19bは、プレート部31に対して接着剤などで固定されてもよいし、外周部がプレート部31に設けられた係止片に係止されてもよい。また、取付フランジ19bは、プレート部31に対して超音波溶着、熱溶着など溶着手段によって一体化してもよい。
【0027】
挿入部19aは、取付フランジ19bから突出する円柱形状を有した部分である。挿入部19aは、負圧生成路27に挿入され、負圧生成路27の容積を減容する減容部として機能する。挿入部19aは、外周面と負圧生成路27の内周面との間に、若干の間隙部が形成される程度の太さを有している。挿入部19aは、取付フランジ19bから突出する突出部であって、内部空間を有する負圧生成路27に挿入される。挿入部19aの突出形状は、挿入される負圧生成路27の内部形状に対応した形状を有している。一例として、挿入部19aは、円柱形状、または一端が閉塞された円筒形状を有した突出部である。これに対して、負圧生成路27は、一例として、中空の円筒形状を有し、内部空間を有している。挿入部19aは、負圧生成路27の内径よりも小さな外径を有するように設定されている。
【0028】
挿入部19aは、負圧生成路27に挿入された際に、間隙部が設けられることで、負圧生成路27に対して若干傾いても円滑に上下動できる。また、挿入部19aは、ダイヤフラム17が引き上げられた状態において、流入路25の一時貯留部26への出口を塞いでしまわない程度の長さを有し、負圧発生時、流入路25から一時貯留部26へ乳汁を流入可能としている。ここでは、挿入部19aは、ダイヤフラム17が変形していない状態において、流入路25の出口または一時貯留部26の上端部に位置する程度の長さを有している。また、挿入部19aの先端部は、突出した三角形状を有しており、流入路25の出口をほぼ塞ぐことができるような形状をしている。
【0029】
ハンドル14は、ハンドルベース15によって本体部11に回動可能に支持されている。ハンドルベース15は、ダイヤフラム17の取付端部24の筒状形状を有した根本部に回動可能に取り付けられる。ハンドルベース15は、取付部34と、回動支持片35とを備えている。取付部34は、C型形状を有している。取付端部24の根本部には、周回方向に、溝形状を有した案内部33を備えている。取付部34は、案内部33に嵌合されることで、周回方向に回動可能に取り付けられる。これにより、本体部11に対するハンドル14の位置が使用者の体形、手の大きさ、前腕の長さなどに応じて調整される。回動支持片35は、取付部34からダイヤフラム17の上方に延びるように設けられたC型形状を有した延長片である。回動支持片35の先端部は、ハンドル14を回動支持する回動軸となる支軸部36を備えている。
【0030】
ハンドル14は、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルフォンなどの合成樹脂材料で形成されている。ハンドル14は、リフト部37と、レバー部38とを備えている。リフト部37は、引き上げプレート18を介してダイヤフラム17を引き上げる部分であって、凹部37aを備えている。凹部37aの底面は、係合孔37bを備えている。係合孔37bは、引き上げプレート18の接続突起32が挿通され、係合孔37bの周縁部が係合溝32aに係合される。これにより、ハンドル14は、引き上げプレート18を介してダイヤフラム17と接続され、ダイヤフラム17を引き上げ可能な状態となる。また、ハンドル14は、接続突起32に対しても回転可能である。
【0031】
レバー部38は、取っ手としての機能を有し、フード13と同じ前方に向かって延びている。ただし、フード13は、本体部11の斜め上方に向かって延びているのに対して、レバー部38は、本体部11の側方において、斜め下方に向かって延びている。ハンドル14の外面は、手触りが良くなるように曲面で構成されており、使用者が親指以外の指を添える領域である。そして、レバー部38は、リフト部37の方から外方に膨らむ湾曲部38aと、湾曲部38aに次ぐ指掛部38bとを備えている。湾曲部38aと指掛部38bの間には指規制部38cが設けられる。指掛部38bは、直線形状を有しており、少なくとも拇指を除く四指を配置することができる長さを有している。指規制部38cは、指掛部38bの回動支点側に隣接して設けられ段差を構成する部分で、人差し指の側面が当接する。これにより、指掛部38bは、拇指を除く四指でハンドルを操作することができる。
【0032】
湾曲部38aの内側は、ダイヤフラム17および取付端部24を避けるための部分である。レバー部38とリフト部37の境界付近の位置であって、その内側には、支軸部36が係合される軸受部39を備えている。ハンドル14は、軸受部39に対して支軸部36が回動可能な状態で係合されることによって、本体部11に対して回動可能に支持されることになり、当該部分がハンドル14の回動支点となる。ハンドル14は、当該部分を回動支点として往復動する。ハンドル14は、手からの入力によって、回動操作方向である矢印D1方向に回動し、ダイヤフラム17の弾性復帰力によって、復帰方向である矢印D2方向に回動する。
【0033】
本体部11において、フード13の下側には、サポート部40が設けられている。サポート部40は、フード取付部22と一体的であって、フード取付部22から膨出する膨出部である。サポート部40は、フード取付部22から下方に延びる一対の縦壁部40a,40bと、一対の縦壁部40a,40bの下端部を繋ぐ横壁部40cとを備えている。一対の縦壁部40a,40bは、例えば平板で構成されており、横壁部40cは、外方に膨らむ円弧壁で構成されている。ハンドル14とは反対側の縦壁部40aおよび横壁部40cは、操作時において、使用者の拇指球筋領域2が添えられる。また、ハンドル14に近い方の縦壁部40bは、ハンドル14が回動された際に当接する規制部であり、ハンドル14が回動し過ぎることを規制する。
【0034】
本体部11において、ボトル取付部21とサポート部40との間は、窪み部41が構成されている。具体的には、窪み部41は、横壁部40cが漸次ボトル取付部21方向に近づくように傾斜して構成されている。窪み部41は、使用者の人差し指の付け根部が添えられる。
【0035】
以上のように構成された搾乳器1の作用について説明する。
図1および図3に示すように、搾乳作業を行うとき、搾乳器1は、フード13が使用者の乳房の方向に向けられ、ハンドル14に親指以外の指が下側から添えられ、サポート部40のハンドル14とは反対側の縦壁部40aおよび横壁部40cは、操作時において、使用者の拇指球筋領域2が添えられる。さらに、窪み部41には、人差し指の付け根部が添えられ、親指は、フード取付部22の上側に添えられる。これにより、搾乳器1は、使用者によって回外位の状態で持たれることになる。フード13が搾乳口13cを塞ぐように使用者の乳房にあてがわれると、内部通路23は、ほぼ密閉された空間が構成される。この際、ハンドル14は、使用者の体形などの個人差によって、接続突起32を中心にして、さらにハンドルベース15が案内部33に案内されて、本体部11に対して回転し、使用者がハンドル操作を行い易い状態となる。
【0036】
図4に示すように、ハンドル14が矢印D1方向に回動操作されると、引き上げプレート18を介してダイヤフラム17が引き上げられる。すると、内部通路23は、負圧状態となり、搾乳された乳汁が流入路25から一時貯留部26に流入する。負圧状態のとき、弁部材28は、一時貯留部26の底部を閉じているので、流入路25から流入した乳汁は、一時貯留部26に貯留される。
図5に示すように、ハンドル14は、サポート部40の縦壁部40bに当接するまで回動される。
【0037】
使用者が把持力を緩めると、ダイヤフラム17の弾性復帰する作用によって、ハンドル14は、矢印D2方向に回動し、内部通路23は、常圧に戻る。これにより、一時貯留部26の弁部材28は開き、乳汁は、ボトル12へ流入する。搾乳作業は、ハンドル14を繰り返し往復動させることにより行われる。このとき、挿入部19aも負圧生成路27内を往復動する。挿入部19aは、負圧生成路27を減容している。したがって、ダイヤフラム17が変形することに伴う圧力変化が小さくなることが抑えられる。
【0038】
挿入部19aは、その外周面と負圧生成路27の内周面との間に、間隙部が形成されるので、円滑に往復動できる。ハンドル14は、親指以外の4本の指によって下側から添えられ、把持して回動操作される。したがって、ハンドル14には、レバー部38を下げようとする力が加わる。一方で、ハンドル14は、引き上げプレート18を介して挿入部材19に接続され、挿入部材19は、挿入部19aの外周面と負圧生成路27の内周面との微小な間隙部を介して負圧生成路27の内周面に支持されている。したがって、挿入部材19は、負圧生成路27の内周面に支持され、その姿勢は安定している。これによって、ハンドル14は、負圧生成路27に支持される挿入部材19によっても、回動支点の周辺が支持されることになり、安定して回動することになる。すなわち、ハンドル14と引き上げプレート18とを接続する接続突起32と係合孔37bとの接続部分に対する負荷を軽減できる。
【0039】
なお、発明者らは、次のように搾乳器1の効果確認を行った。ここでは、本発明の搾乳器1と従来の搾乳器を用いて、右上肢の前腕姿勢と筋電位を測定した。
図6(a)および
図6(b)に示すように、従来の搾乳器は、回内位で把持するモデルであるのに対して、本発明の搾乳器1は、回外位で把持するモデルである。
図7は、従来の回内位の状態で使用される搾乳器と回外位の状態で使用される本発明の搾乳器1における
橈側手根伸筋の筋電位を示す図である。前腕にあり、手関節の橈屈に機能する橈骨手根伸筋については、本発明の搾乳器1において、使用時の筋活動の低下を確認できた。また、
図8は、従来の回内位の状態で使用される搾乳器と回外位の状態で使用される本発明の搾乳器1における拇指球筋の筋電位を示す図である。手掌にあり、拇指の屈曲や掌による把握に機能する拇指球筋については、本発明の搾乳器1において、使用時の筋活動の低下を確認できた。
【0040】
以上のような搾乳器1によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)搾乳器1は、使用者の前腕が回外位の状態で搾乳操作を行うことができる。したがって、前腕の筋負担を軽減することができる。
【0041】
(2)ハンドル14は、指掛部38bの回動支点側の隣接位置に指規制部38cを備えるので、拇指を除く四指で操作することができる。また、指規制部38cにより人差し指の側面(付け根)が本体部に当接することを防止できる。
【0042】
(3)使用者の拇指球筋領域2をサポート部40に添わせることができ、使用者の拇指球筋に対する負担を軽減することができる。
(4)ハンドル14は、サポート部40の縦壁部40bに当接することで回動範囲を規制することができる。
【0043】
(5)人差し指の付け根部を窪み部41に係合させることができる。したがって、回外位の状態で搾乳器1を持つ際、搾乳器1の姿勢を安定させることができる。
(6)挿入部19aが負圧生成路27内で支持されているので、ハンドル14が繰り返し回動される最中におけるハンドル14の回動支点に対する負荷を軽減できる。
【0044】
(7)内部通路23を洗浄し易くするため負圧生成路27を太くしても、太くされた負圧生成路27に挿入部19aが挿入されるので、内部通路23の容積が大きくなることを抑えることができる。これにより、内部通路23での圧力変化が小さくなることを抑えることができ、その結果、搾乳効率の低下を抑えることができる。
【0045】
(8)挿入部材19は、引き上げプレートと一体的に固定されることで、引き上げプレート18と一体的に取り扱うことができる。したがって、洗浄作業や分解組立作業の煩雑化を抑えられる。
【0046】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・負圧生成路27は、サポート部40またはフード13の取付端部24の方向に延びる中心軸線に対してハンドル14の回動方向に傾いていてもよい。矢印D1方向に回動されるハンドル14が引き上げプレート18を介してダイヤフラム17を引き上げる方向は、ダイヤフラム17の主面に対して垂直な方向ではなく、これと交差する方向である。ダイヤフラム17の引き上げ方向に合わせて、挿入部材19の往復動する方向も同方向に傾くことになる。そこで、挿入部19aが挿入される負圧生成路27も同方向に傾けることで、よりハンドル14を回動し易くできる。また、挿入部19aの外周面と負圧生成路27の内周面との間隙部をより小さくすることができる。したがって、内部通路23の容積が大きくなることを抑えられる。
【0047】
・引き上げプレート18と挿入部材19とは一体成形された1部品であってもよい。これにより、部品点数を削減することができる。
・引き上げプレート18は、ダイヤフラム17の外面に接着などにより固定されていてもよい。この場合、挿入部19aは、ダイヤフラム17の内面に一体的に設けられることになる。
【0048】
・引き上げプレート18を省略し、ハンドル14の係合孔37bと接続する接続部としての接続突起32をダイヤフラム17の外面に設けるようにしてもよい。
・挿入部19aは、ダイヤフラム17に対して離間していてもよい。この場合、一例として、挿入部19aは、取付フランジ19bとの間隔を一定に維持するスペーサによって接続される。または、挿入部19aは、引き上げプレート18のプレート部31とスペーサによって接続される。スペーサは、一例として、挿入部19aと取付フランジ19bまたはプレート部31とを繋ぐ1つまたは複数の線状部材または軸部材などで構成することができる。
【0049】
・取付フランジ19bを省略し、挿入部19aをダイヤフラム17に一体的に設け、1部品としてもよい。このような構成によっても、部品点数を削減することができる。
・挿入部19aの先端面の形状は、特に限定されるものではなく、突出した三角形状の他にも、平坦面であってもよいし、凹陥形状であってもよい。
【0050】
・挿入部19aは、負圧生成路27の容積を減らすことができれば、その外周面の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、側面視において、波状形状、凹状形状、凸状形状などであってもよい。
【0051】
・挿入部19aの突出形状は、挿入される負圧生成路27の内部形状に対応した形状を有していなくてもよい。例えば、中空の円筒形状を有した内部空間を有する負圧生成路27に対して、挿入部19aは、三角柱、四角柱、六角柱などの多角柱の突出形状(外部形状)を有してもよい。これとは逆に、三角柱、四角柱、六角柱などの多角柱の内部形状を有する負圧生成路27に対して、挿入部19aは、円柱または円筒形状の突出形状を有してもよい。
【0052】
・挿入部材19を省略する構成してもよい。挿入部材19を省略する場合、負圧生成路27は、挿入部19aに合わせて太く構成する必要はなく、内部通路23の細くして、容積が増えることを抑えるようにすることがよい。
【0053】
・内部通路23の構成は、特に限定されるものではなく、例えば一時貯留部26を省略する構成であってもよい。この場合、弁部材28を省略してもよい。
・本体部11は、窪み部41を省略する構成としてもよい。この場合、回外位の状態で安定して搾乳器1を持つことができるように、他の安定支持手段を設ければよい。
【0054】
・サポート部40の縦壁部40bがハンドル14の回動範囲を規制する規制部としても機能しなくてもよい。例えば、ハンドルベース15の支軸部36やハンドル14の軸受部39の近くに、回動範囲を規制する突起などを設けるようにすればよい。
【0055】
・本体部11は、フード13の下方において、直下に延びるようにサポート部40を備えていなくてもよい。例えば、サポート部40は、ハンドル14の側に傾いていてもよいし、ハンドル14とは反対側に傾いていてもよい。また、サポート部40を省略してもよい。
【0056】
・挿入部19aは、外周面と負圧生成路27の内周面との間隙部を設けるのではなく、シリンジのように、負圧生成路27の内面に対して密着するゴムピストンを挿入部19aの先端部に設けて、内部通路23に負圧を生成する構成としてもよい。
【0057】
・ハンドル14は、ハンドルベース15を介してではなく、直接、本体部11に回動支持されてもよい。この場合、回動支持片35や支軸部36が本体部11と一体的に設けられる。
【0058】
上述の例において、ハンドル14の指掛部38bは、全体が直線形状を有しているが、
図9に示すように、指掛部38bの先端部38xは、フード13の中心線13xに対して近づく方向に湾曲している構成としてもよい(点線部分)。これにより、指掛部38bの先端側に位置することになる小指を拇指球に近づけた状態でハンドルを操作することができる。なお、指掛部38bは、全体がフード13の中心線13xに対して近づく方向に湾曲していてもよい。
【0059】
・以上の例では、右利き用の搾乳器1を説明したが、左利き用の場合、ハンドルは14を、
図1において、本体部11に対して反対側の側方にハンドル14を延在させればよい。
【0060】
・ハンドル14およびフード13の延びる方向は、完全に一致していてもよい。また、ハンドル14は、本体部11に対して斜め下方に延びるのではなく、斜め上方に延びるようにしてもよい。
【0061】
・ボトル取付部21に対してボトル12は着脱可能でなく、一体であってもよい。また、フード取付部22に対してフード13は着脱可能でなく、一体であってもよい。
・流入路25や一時貯留部26も、例えば使用者の指を挿入できる程度の太さを有している構成としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…搾乳器、2…拇指球筋領域、11…本体部、12…ボトル、12a…ボトル開口部、12b…雄ねじ部、13…フード、13a…拡径部、13b…筒部、13c…搾乳口、13x…中心線、14…ハンドル、15…ハンドルベース、16…負圧生成機構、17…ダイヤフラム、17a…貫通孔、18…引き上げプレート、19…挿入部材、19a…挿入部、19b…取付フランジ、21…ボトル取付部、21a…雌ねじ部、22…フード取付部、23…内部通路、24…取付端部、25…流入路、26…一時貯留部、27…負圧生成路、28…弁部材、31…プレート部、32…接続突起、32a…係合溝、33…案内部、34…取付部、35…回動支持片、36…支軸部、37…リフト部、37a…凹部、37b…係合孔、38…レバー部、38a…湾曲部、38b…指掛部、38c…指規制部、38x…先端部、39…軸受部、40…サポート部、40a…縦壁部、40b…縦壁部、40c…横壁部、41…窪み部。