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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】複式パルス溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20230523BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230523BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20230523BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K9/095 501A
B23K9/09
B23K9/173 E
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021559740
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2020060254
(87)【国際公開番号】W WO2020208187
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】19168535.3
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フラウエンシュー・ルーペルト
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイアー・ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ムス・ミヒャエル
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0245781(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0343549(US,A1)
【文献】特開2002-263838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/10
B23K 9/095
B23K 9/09
B23K 9/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複式パルス溶接方法を実施する少なくとも二つのパルス溶接プロセスを同期させる方法であって、パルス溶接プロセスが、パルス電流フェーズと基本電流フェーズを有する、パルス周波数(fD1,fD2)で周期的に繰り返される溶接サイクル(SZ1,SZ2)から構成され、各パルス溶接プロセスが溶接機器(1a,1b)により実施され、これらの溶接機器(1a,1b)が通信接続部(15)を用いて互いに接続されており、この通信接続部(15)を介して、同期情報(SI)が送信側の溶接機器(1a)から少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信され、この同期情報(SI)が、受信側の溶接機器(1b)において、受信側の溶接機器(1b)により実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器(1a)により実施されるパルス溶接プロセスに同期させるために使用される方法において、
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、少なくとも一つの同期パルス(SP)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信し、この少なくとも一つの同期パルス(SP)が、送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ1)に関して定義された時間的な関係を有し、受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ2)を、受信した同期パルス(SP)に同期させることを特徴とする方法。
【請求項2】
受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD2)が、受信側の溶接機器(1b)で既知であるか、或いは既知の溶接特性曲線から算出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
同期情報(SI)として、更に、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又は受信側の溶接機器(1b)によって設定すべきパルス周波数(fD2)が受信側の溶接機器(1b)に送信されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
受信側の溶接機器(1b)において、既知の周波数分割比率(F)を用いて、受信した送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)から、受信側の溶接機器(1b)によって設定すべきパルス周波数(fD2)が算出されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、同期パルス(SP)を送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)で持続的に受信側の溶接機器(1b)に送信することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
受信側の溶接機器(1b)が、受信した同期パルス(SP)の周期から、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)を算出して、そのパルス周波数から、既知の周波数分割比率(F)を用いて、受信側の溶接機器(1b)で設定すべきパルス周波数(fD2)を算出することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の周波数分割比率(F)が、受信側の溶接機器(1b)において、少なくとも一つの溶接パラメータの既知の溶接特性曲線から算出されて、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又はそれに対応する溶接ワイヤー送り速度(v)と、この周波数分割比率(F)とから、受信側の溶接機器(1b)により設定すべきパルス周波数(fD2)が算出されることを特徴とする請求項4又は6に記載の方法。
【請求項8】
受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスの溶接特性曲線から、パルス溶接プロセスに必要なパルス周波数(fD2)が算出され、この必要なパルス周波数(fD2)と、受信された送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又はそれに対応する溶接ワイヤー送り速度(v)とから、周波数分割比率(F)が算出されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
受信された送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)と必要なパルス周波数(fD2)との間の比に最も近い整数がセットされ、周波数分割比率(F)として使用されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記の同期パルス(SP)が、送信側の溶接機器(1a)での溶接サイクル(SZ1)の開始時に所与の位相シフト(t)を有する形で送信されるか、受信側の溶接機器(1b)での溶接サイクル(SZ2)が、同期パルス(SP)の受信後に所与の位相シフト(t)を有する形で開始されるか、或いはその両方であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
受信側の溶接機器(1b)により設定すべき位相シフト(t)が、追加の同期情報(SI)として、送信側の溶接機器(1a)から少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記の同期が、複式パルス溶接方法中に開始又は停止されることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD1)又は追従するパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD2)と位相シフト(tP)との一つ以上が、複式パルス溶接方法中に変更されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも二つのパルス溶接プロセスを実施するように構成された、少なくとも二つの溶接機器(1a,1b)により複式パルス溶接方法を実施する装置であって、パルス溶接プロセスが、パルス電流フェーズと基本電流フェーズを有する、パルス周波数(fD1,fD2)で周期的に繰り返される溶接サイクル(SZ1,SZ2)から構成され、これらの溶接機器(1a,1b)が通信接続部(15)を用いて互いに接続されており、送信側の溶接機器(1a)が、この通信接続部(15)を介して、同期情報(SI)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信するように構成され、受信側の溶接機器(1b)が、この同期情報(SI)を使用して、受信側の溶接機器(1b)により実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器(1a)により実施されるパルス溶接プロセスに同期させるように構成される装置において、
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ1)に関して定義された時間的な関係を有する少なくとも一つの同期パルス(SP)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信するように構成されること、及び
受信側の溶接機器(1b)が、自身のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ2)を受信した同期パルス(SP)に同期させるように構成されることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複式パルス溶接方法を実施する少なくとも二つのパルス溶接プロセスを同期させる方法に関し、パルス溶接プロセスが、パルス周波数で周期的に繰り返される、パルス電流フェーズと基本電流フェーズを有する溶接サイクルから構成され、各パルス溶接プロセスが、溶接機器により実施され、これらの溶接機器が、通信接続部を用いて互いに接続され、受信側の溶接機器により実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器により実施されるパルス溶接プロセスに同期させるために、通信接続部を介して、同期情報が、送信側の溶接機器から少なくとも一つの受信側の溶接機器に送信される。更に、本発明は、複式パルス溶接方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、溶解する、或いは溶解しない溶接電極を用いたパルスアークによるパルス溶接に関する。この溶接方法では、基本溶接電流とそれに対して上昇するパルス溶接電流が所与のパルス周波数で規則的に交番する。基本溶接電流による基本溶接電流フェーズ中に、溶湯を液状に保つために、小さな電力でアークが燃焼する。パルス溶接電流によるパルス電流フェーズ中に、添加部材としての溶接ワイヤーの大きなビードが形成されて、それが最終的に剥がれて溶湯に落ちる。この場合、溶接ワイヤーは、同時に、例えば、MIG(メタル不活性ガス)溶接又はMAG(メタル活性ガス)溶接では、溶解する溶接電極としての役割も果たすか、或いは、例えば、WIG(タングステン不活性ガス)溶接では、溶解しない溶接電極と加工物の間で燃焼するアークに対して送り出すことができる。WIG溶接の場合、その溶接方法は、しばしばDCパルス又はWIGACとも呼ばれる。MIG/MAG溶接の場合、ワイヤーの直径と溶接ワイヤーの素材に応じて、溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数は、各電流パルスで一つのビードが生成されて剥がれるように選定して、互いに適合させるべきである。この場合、溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数は、互いに依存し合う。溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数に関する値が適合しない形で選定された場合、安定した溶接プロセスの実現及び/又は良好な溶接品質の達成が不可能となる。パルス溶接によって、加工物への入熱量を低減して管理することができ、それにより、より薄い加工物も溶接することができる。更に、パルス溶接によって、高品質な溶接結果が得られ、例えば、それにより撥ねを大幅に低減することができる。
【0003】
溶接性能を高めるために、少なくとも二つのパルス溶接方法を同時に動作させる複式パルス溶接方法、例えば、タンデム式パルス溶接方法も周知である。その場合、有利には、少なくとも二つの溶接ワイヤーが一つの共通の溶湯で溶解する。しかし、個々のパルス溶接方法が、それぞれ独自の溶湯を有することもできる。そのためには、パルス溶接プロセス毎に、独立した溶接機器が、即ち、それぞれ電源、溶接トーチ及び場合によっては、溶接ワイヤー送りユニットが必要である。各溶接機器により、パルス溶接方法が実行される。複式パルス溶接方法は、MIG/MAGに関して、溶接プロセスを開始して、互いに独立して動作させるように、即ち、溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数を溶接プロセス毎に独自に設定する形で動作させることができる。WIG溶接では、一般的にパルス周波数だけが設定されるが、添加部材の溶接ワイヤー送り速度も設定することができる。しかし、それは、全ての溶接機器で溶接パラメータを相応にセットしなければならないので、溶接工にとって、より大きな負担がかかる。それ以外に、それによって、同時に進行する溶接プロセスによる、起るかもしれない相互の干渉に対する影響に関して、多少の影響が発生し、そのことは、溶接の質を低下させる可能性がある。
【0004】
従って、一方の溶接機器がパルス周波数を規定されて、他方の溶接機器がそれに追従する、溶接プロセスを同期させたタンデム式パルス溶接方法も既に知られている。それによって、両方の溶接プロセスが互いに同期して、同じパルス周波数で溶接する。しかし、それは、MIG/MAG溶接において、追従する溶接プロセスの溶接ワイヤーが別の溶接プロセスと異なる溶接ワイヤー送り速度で送り出される場合(これは、しばしばプロセスの安定性に関して望ましい)に問題となる可能性がある。WIG溶接でも、同期した溶接プロセスが求められる。しかし、標準的には、ワイヤー送りと溶接電流の電力バランスを互いに調整しなければならないので、より遅い溶接ワイヤー送り速度は、より低いパルス周波数をも必要とする。従って、先導するパルス溶接プロセスと追従するパルス溶接プロセスでの溶接ワイヤー送り速度の間の差が大き過ぎる場合、追従するパルス溶接プロセスが(先導する溶接プロセスでは果たせない)高過ぎるパルス周波数で動作し、それによって、場合によっては、追従するパルス溶接プロセスで安定した溶接プロセスが実現できなくなるか、或いは悪い溶接結果(例えば、溶接の撥ね)となることが起こる。
【0005】
その問題を取り除くために、特許文献1において、タンデム式パルス溶接方法の追従するパルス溶接プロセスのパルス周波数を先導するパルス溶接プロセスのパルス周波数の整数倍として設定できることが既に提案されている。その場合、両方のパルス溶接プロセスのパルス周波数は、パルス電流の位相が一致しないように選定すべきとされている。しかし、両方のパルス溶接プロセスの同期を如何にして実現できるのかは詳しく記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】ドイツ特許公開第102007016103号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、本発明の課題は、複式パルス溶接方法において複数の同時に進行するパルス溶接プロセスを同期させる方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、本発明において、送信側の溶接機器が同期情報として同期パルスを少なくとも一つの受信側の溶接機器に送信し、この同期パルスが、送信側の溶接機器のパルス溶接プロセスの溶接サイクルに関して定義された時間的な関係を有し、受信側の溶接機器のパルス溶接プロセスの溶接サイクルを、受信した同期パルスに同期させることによって解決される。
【0009】
この同期パルスにより、受信側の溶接機器が、その実施するパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器でのパルス溶接プロセスと同期させて、両方のパルス溶接プロセスの互いの所望の関係を保証することが可能になる。両方のパルス溶接プロセスの互いのドリフトを防止するために、そのような同期パルスを規則的な間隔で繰り返すこともできる。
【0010】
それにより、通信接続部を介して、パルス溶接プロセスの同期に必要な同期情報を簡単に送信することができる。それにより、溶接工が介入する必要又は溶接パラメータをセットする必要無しに、同期を自動的に行うことができる。
【0011】
複式パルス溶接方法の簡単な実現のために、受信側の溶接機器のパルス溶接プロセスのパルス周波数が既知であるとするか、或いは既知の溶接特性曲線から算出することができる。
【0012】
それに代わって、同期情報として、送信側の溶接機器のパルス周波数又は受信側の溶接機器により設定すべきパルス周波数を追加して受信側の溶接機器に送信することができる。有利な実施形態では、受信側の溶接機器において、既知の周波数分割比率を用いて、受信した送信側の溶接機器のパルス周波数から、受信側の溶接機器により設定すべきパルス周波数を算出することができる。それは、受信側の溶接機器でのパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器でのパルス溶接プロセスに追従させることを可能にする。
【0013】
別の有利な実施形態は、送信側の溶接機器が同期情報として少なくとも同期中に持続的に同期パルスを送信側の溶接機器のパルス周波数で受信側の溶接機器に送信して、受信側の溶接機器が、受信した同期パルスの周期から送信側の溶接機器のパルス周波数を算出し、その周波数から、既知の周波数分割比率を用いて、受信側の溶接機器で設定すべきパルス周波数を算出する場合に得られる。これは、受信側の溶接機器でのパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器でのパルス溶接プロセスに追従させることを可能にする。
【0014】
特に有利には、受信側の溶接機器での周波数分割比率が既知の溶接特性曲線から算出されて、送信側の溶接機器のパルス周波数とこの周波数分割比率から、受信側の溶接機器により設定すべきパルス周波数が算出される。有利には、溶接特性曲線と、受信側の溶接機器のパルス溶接プロセスの設定された溶接ワイヤー送り速度とから、パルス溶接プロセスに必要なパルス周波数が算出され、その必要なパルス周波数と受信した送信側の溶接機器のパルス周波数から、周波数分割比率が算出される。それにより、保存された溶接特性曲線を考慮して、受信側の溶接機器のパルス周波数を最適にセットすることができ、それにより、パルス周波数の算出時に、溶接プロセスが考慮される。
【0015】
複式パルス溶接方法に関して、同期パルスが、送信側の溶接機器での溶接サイクルの開始時に対して所与の位相シフトを有する形で送信されることと、受信側の溶接機器での溶接サイクルが同期パルスの受信後に対して所与の位相シフトを有する形で開始されることとの一つ以上が有利であるとすることができる。このようにして、パルス溶接プロセスの所望の位相状況を保証することができる。
【0016】
以下において、本発明の有利な実施形態の例を模式的に本発明を制限しない形で図示した図1~7を参照して、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】複式パルス溶接方法を実施する装置の模式図
図2】複式パルス溶接方法での溶接サイクルのグラフ図
図3】関与する溶接機器の間の通信接続部を用いたパルス溶接プロセスの同期に関するブロック接続図
図4】同期パルスを用いた同期のグラフ図
図5】パルス溶接プロセスの考え得る溶接特性曲線のグラフ図
図6】中間パルスを有するパルス溶接プロセスのグラフ図
図7】溶接中の同期の切替に関するグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、複式パルス溶接方法の例としてのタンデム式パルス溶接方法、即ち、二つのパルス溶接プロセスによるパルス溶接方法に関して、本発明を説明する。しかし、当然のことながら、以下の実施形態を三つ以上のパルス溶接方法による複式パルス溶接方法に拡張することが考えられる。複式パルス溶接方法は、特に、少なくとも二つのパルス溶接プロセスが、従って、タンデム式パルス溶接方法では二つのパルス溶接プロセスが同時に進行することを特徴とする。複数のパルス溶接プロセスが全て同じ溶湯に対して動作することができるが、異なるパルス溶接プロセスが部分的に異なる溶湯に対して動作することもできる。
【0019】
図1には、タンデム式パルス溶接方法に関して考え得る構成が模式的に図示されている。それぞれ電源2a,2b、溶接ワイヤー送りユニット3a,3b(WIG溶接では、溶接ワイヤー送りユニット3a,3bが無い場合も有る)及び溶接トーチ4a,4bを備えた二つの別個の溶接機器1a,1bが配備されている。電源2a,2bは、それぞれ所要の溶接電圧を提供し、これらの電圧は、それぞれ溶接プロセスの溶解する溶接電極としての溶接ワイヤー5a,5bに印加される。そのために、例えば、溶接配線6a,6bを介して、溶接電圧を印加するとともに、溶接ワイヤー5a,5bが接触する接点スリーブを溶接トーチ4a,4bに配備することができる。しかし、溶接配線6a,6bを介して溶接電圧が印加される溶解しない電極を備えた溶接トーチ4a,4bを使用することもできる。この場合、溶接ワイヤー5a,5bは、溶解しない電極と部材を燃焼させるアークの間のアークに送り出される。
【0020】
それにより、それぞれ所定の溶接電流が溶接電極を介して流れ、そのために、当然のことながら、図1に図示されていない、加工物と接触する第二の溶接配線が配備されている。溶接ワイヤー5a,5bは、溶接ワイヤー送りユニット3a,3bによって、それぞれ所定の溶接ワイヤー送り速度で送り出される。溶接ワイヤー送りユニット3a,3bは、それぞれ溶接機器1a,1bに統合することができるが、別個のユニットにすることもできる。溶接機器1a,1bの溶接ワイヤー5a,5bと溶接配線6a,6bが、場合によっては、電源2a,2bと溶接トーチ4a,4bの間の別の配線(例えば、制御配線又は冷媒配管)も、一つの共通の、或いは複数のチューブパックに敷設することもできる。このチューブパックは、好適な連結器を介して、溶接トーチ4a,4b及び電源2a,2bに連結することができる。溶接機器1a,1bには、パルス溶接プロセスを制御して監視する制御ユニット7a,7bも配備されている。そのために、制御ユニット7a,7bにおいて、例えば、パルス周波数、溶接ワイヤー送り速度、溶接電流の値、パルス電流継続時間、基本電流継続時間などの必要な溶接パラメータが予め与えられるか、或いは設定可能である。或る溶接パラメータ又は溶接ステータスの入力又は表示のために、入出力ユニット8a,8bを配備することもできる。そのような溶接機器1a,1bは、当然のことながら、十分に知られており、ここでは、詳しく述べる必要はない。三つ以上のパルス溶接プロセスによる複式パルス溶接方法に対して、当然のことながら、それに対応した数の溶接機器1a,1bが配備される。複式パルス溶接方法の複数の溶接機器1a,1bは、場合によっては、付属する溶接ワイヤー送りユニット3a,3bと共に、一つの共通の筐体内に配置することもできる。
【0021】
タンデム式パルス溶接方法を実現するために、図示された実施例では、両方の溶接トーチ4a,4bが場所的に互いに相対的に配置されており、その結果、これらは、加工物10における一つの共通の溶湯11に対して動作する。この互いの配置構成は、固定的であると、例えば、(図1に示されているように)両方の溶接トーチ4a,4bが、両方の溶接トーチ4a,4bを案内する一つの溶接ロボット12に配置されるとすることができる。しかし、この配置構成は、可変であると、例えば、それぞれ一つの溶接トーチ4a,4bが一つの溶接ロボット12によって案内されるとすることもできる。溶接トーチ4a,4bが溶接方向に関して相前後して、並んで、さもなければ或る程度互いにずれて配置されるのかは重要でない。同様に、パルス溶接方法により、継手溶接、肉盛り溶接又はそれ以外の溶接方法が実現されるのかは重要でない。これらの実現形態は、当然のことながら、三つ以上のパルス溶接プロセスによる複式パルス溶接方法に関しても同様に成り立つ。
【0022】
図2に基づき、十分に知られたパルス溶接方法を時間tに関する溶接電流Iの推移により説明する。パルス溶接中に、基本電流ISGとそれに対して上昇するパルス電流ISIが所与のパルス周波数fで周期的に交番する。パルス周波数fは、当然のことながら、基本電流ISGによる基本電流フェーズとパルス電流ISIによるパルス電流フェーズから成る溶接サイクルSZの周期時間長tの逆数として得られる。パルス電流フェーズ中に、それぞれ一つの溶接ビードが各溶湯11に剥がれ落ちるべきである。溶接中に、パルス周波数f及び/又は基本電流ISG又はパルス電流ISIの値を変えることもできる。
【0023】
図2には、溶接電流IS1,IS2の時間的な推移が、当然のことながら、理想化され、簡略化されて図示されている。実際には、当然のことながら、或る程度の電流の傾斜がエッジに生じる。同じく、多くの場合、溶接電流Iが、ビードの剥がれ落ちを支援するために、パルス電流ISIから基本電流ISGへの移行時に階段状に、或いはそれ以外の電流推移形態で低下すると規定される。また、多くの場合、以下で更に詳しく述べる通り、基本電流フェーズにおいて、プロセスの安定性を高めるために、短い中間電流パルスが設けられる。しかし、それは、溶接サイクルSZの周期時間長t及びそれから得られるパルス周波数fを何ら変化させない。
【0024】
本発明によるタンデム式パルス溶接プロセスでは、両方のパルス溶接プロセスのパルス周波数fD1=1/tD1,fD2=1/tD2が所定の予め与えられた相互の関係を有するとともに、生じる溶接サイクルSZ1,SZ2が所定の予め与えられた相互の位相関係を有することによって、両方のパルス溶接プロセスを互いに同期させる。有利には、一方のパルス周波数が他方のパルス周波数の整数倍であるとされる。それは、当然のことながら、個々のパルス溶接プロセスを互いに同期させる複式パルス溶接方法に対しても又もや一般的に同様に成り立つ。図2の例では、例えば、追従するパルス溶接プロセスのパルス周波数fD2が、例えば、先導する溶接プロセスのパルス周波数fD1の二倍の高さであるが、その逆も可能である。更に、より高いパルス周波数fD2の溶接電流の推移をより低いパルス周波数fD1の溶接電流の推移に対して位相シフトtだけ時間的にシフトさせること、即ち、パルス電流ISIのパルスが時間的にずれて始まることができる。しかし、当然のことながら、この位相シフトは、先導するパルス溶接プロセスのパルス周波数fD1に対する位相角として与えることもできる。
【0025】
一般的に、先導するパルス溶接プロセスがより高いパルス周波数fD1を有し、追従するパルス溶接プロセスがそれに対してより低い、或いは同じパルス周波数fD2を有する。複式パルス溶接方法の場合、一つの先導するパルス溶接プロセスと複数の追従するパルス溶接プロセスが存在し、この場合、有利には、先導するパルス溶接プロセスが最も高いパルス周波数を有し、追従するパルス溶接プロセスがそれに対してより低い、或いは同じパルス周波数を有する。しかし、追従するパルス溶接プロセスのパルス周波数は、必ずしも同じである必要はない。
【0026】
ここで述べるタンデム式パルス溶接プロセスを実施するために、両方の溶接機器1a,1b又は制御ユニット7a,7bにおいて、各パルス周波数fD1,fD2が、並びに、場合によっては存在する位相シフトtも既知でなければならない。即ち、溶接電流IS1,IS2の時間的な推移を互いに同期させなければならない。それを実現するためには、両方の溶接機器1a,1bを互いに同期させなければならない。
【0027】
そのために、複式パルス溶接方法の溶接機器1a,1b,1cは、通常溶接機器1a,1b,1cの制御ユニット7a,7b,7cは、図3に図示されている通り、有線接続方式にも、無線接続方式にもすることができる通信接続部15を介して互いに接続される。この通信接続部15を介して、複式パルス溶接プロセスの開始時に、同期情報SIが、有利には、先導するパルス溶接プロセスの一方の溶接機器1aから、有利には、追従するパルス溶接プロセスの他方の溶接機器1b,1cに送信される。この同期情報SIは、受信側の溶接機器1b,1cにおいて、その溶接機器1b,1cにより実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器1aにより実施されるパルス溶接プロセスに適合させる、特に、同期させるために使用される。
【0028】
最も簡単な場合、同期情報SIは、送信側の溶接機器1aから通信接続部15を介して送信される単一の同期パルスSPである。この場合、同期パルスSPは、送信側の溶接機器1aでの溶接サイクルSZ1に関して定義された時間的な関係を有する。有利には、同期パルスSPは、送信側の溶接機器1aでのパルス周波数fD1による溶接サイクルSZ1の開始(例えば、基本電流フェーズの開始)時に送信される。同期パルスSPは、所定の保存された、或いは設定された位相シフトtを有する形で送信することもできる。より精密な同期を達成するために、位相シフトtにおいて、既知の遅延時間、例えば、伝送形態、受信側の溶接機器1b,1cの応答時間等を考慮することもできる。
【0029】
この場合、同期パルスSPは、両方の溶接機器1a,1bの間の有線接続式通信接続部15上を電流パルス又は電圧パルスとして送信することができる。しかし、バス情報を送信するデータバスとして通信接続部15を実現することも可能である。この場合、同期パルスSPをバス情報として送信することができ、それは、有線接続方式(ケーブル、グラスファイバー等)でも、無線接続方式(Wifi、Bluetooth等)でも実現できる。受信側の溶接機器1b,1cでは、受信側の溶接機器1bでのパルス周波数fD2による溶接サイクルSZ2(例えば、基本電流フェーズ)を同期パルスの受信時に開始することによって、溶接電流の推移Iを受信した同期パルスSPに同期させる。各パルス周波数fD1,fD2は、溶接機器1a,1b,1cにおいて保存又は設定することができる。
【0030】
同様に、溶接機器1b、一般的には追従する溶接機器において、位相シフトtを保存又は設定することができる。それにより、同期パルスSPの受信から位相シフトt後に、受信側の溶接機器1bでの溶接サイクルSZ2を開始することもできる。
【0031】
溶接電流ISI1,ISG1,ISI2,ISG2、パルス電流継続時間、基本電流継続時間などの別の所要の溶接パラメータは、当然のことながら、同じく溶接機器1a,1b,1cにおいて保存又は設定され、その結果、溶接機器1a,1b,1cがパルス溶接プロセスを実施することができる。
【0032】
そもそも、如何なる溶接機器1a,1bが送信側の溶接機器、即ち、同期において先導する溶接機器であるのか、如何なる溶接機器が受信側の溶接機器、即ち、同期において追従する溶接機器であるのかは本発明にとって重要ではない。それは、例えば、複式パルス溶接方法に関与する溶接機器1a,1b,1cにおいて保存又は設定することができる。この設定は、当然のことながら、変えることも、溶接中に変えることもできる。
【0033】
この設定は、例えば、各入出力ユニット8a,8bを介して、溶接工によって実行することができる。
【0034】
しかし、溶接機器1a,1b,1cと接続され、この設定を与える上位の制御ユニット、例えば、ロボット制御部又はプロセス制御部を配備することもできる。そのために、溶接機器1a,1b,1cと上位の制御ユニットは、データバスを介して並列的又は直列的に互いに接続されて、この設定を実行することができる。通信接続部15がデータバスとして実現されている場合、この設定のためにデータバスを使用することもできる。
【0035】
同様に、一つの溶接パラメータ、例えば、パルス周波数f又は溶接ワイヤー送り速度vに応じて溶接機器1a,1b,1cの中の如何なる溶接機器が同期において先導するのかとの設定を保存しておくことが考えられる。そこで、例えば、常に最も高いパルス周波数fでパルス溶接プロセスを実施する溶接機器1a,1b,1cが送信側の溶接機器であり、他方の溶接機器が受信側の溶接機器であると規定することができる。
【0036】
一つの拡張形態において、通信接続部15を介して、追加の情報を伝送することができる。
【0037】
例えば、同期情報SIを送信する溶接機器1aが、同期情報SIとして自身のパルス周波数fD1又は受信側の溶接機器1bにより設定すべきパルス周波数fD2を、例えば、自身のバス情報又は同じバス情報の中で送信することもできる。自身のパルス周波数fD1を送信する場合、受信側の溶接機器1bにおいて、(図3に示されている通り)周波数分割比率Fを保存又は設定することができる。そして、周波数分割比率Fを用いて、受信したパルス周波数fD1から、fD2=fD1/Fとして、パルス周波数fD2を簡単に算出することができる。この場合、当然のことながら、両方のパルス周波数fD1,fD2が互いに整数の比率(例えば、1/2,1/3,1/4)である、即ち、周波数分割比率が整数であるのが有利である。それは、複式パルス溶接プロセス中にパルス周波数fD1,fD2を変更することも可能にする。そのためには、例えば、先導する溶接機器1aが新たなパルス周波数fD1を追従する溶接機器1bに送信し、そして、追従する溶接機器が、周波数分割比率Fに基づきパルス周波数fD2を新たに算出して設定すれば、それで十分である。それにより、受信側の溶接機器1bのパルス周波数fD2が送信側の溶接機器1aのパルス周波数fD1に従う。別の場合には、受信側の溶接機器1bが設定すべきパルス周波数fD2を直に送信側の溶接機器1aから受け取り、それによって、受信側の溶接機器1bでは、それに関して何らの設定も不要になる。両方の場合に、複式パルス溶接プロセスの取扱いが溶接工にとって容易になる。
【0038】
基本的に、所望の位相シフトtに関しても全く同様に進めることができる。ゼロであるとすることもできる位相シフトtは、一つの溶接機器1a,1bに保存又は設定するか、或いは、例えば、自身のバス情報又は他方の同期情報SIを含む共通のバス情報内において、同期情報SIとして一方の溶接機器1aから他方の溶接機器1bに送信することができる。
【0039】
位相シフトtは、一つの溶接機器1a,1bにおいて可変形態により設定することも、例えば、時間として、或いはパーセント情報として設定することもできる。有利には、位相シフトtは、0~100%の間において幾つかのパーセントステップで、例えば、1%ステップで可変形態により設定することができる。この場合、例えば、25%が90°の位相シフトに相当し、50%が180°の位相シフトに相当する。位相シフトtの設定は、溶接工によって実行することができるか、或いは、例えば、上述した通り、又もやデータバスを介して、上位の制御ユニットによって与えることもできる。
【0040】
所望の位相シフトtを同期情報SIの送信時点に対して同期させることも考えられる。送信側の溶接機器1aが、例えば、同期情報SIをパルス電流フェーズの開始後から位相シフトtだけシフトさせた形で受信側の溶接機器1bに送信することができる。この場合、所望の位相シフトtを送信側の溶接機器1aにおいて保存又は設定することができる。そして、受信側の溶接機器1bが、同期情報SIを受信した場合(同期に応じて)自身のパルス電流フェーズ又は基本電流フェーズを開始し、それによって、所望の位相シフトtが自動的に設定される。そのため、溶接プロセス中の位相シフトtの変更/適合が可能になる。
【0041】
別の考え得る実施形態では、送信側の溶接機器1a、例えば、タンデム式パルス溶接プロセスにおいて先導する溶接機器が、図4に図示されている通り、持続的に同期情報SIとしての同期パルスSPを自身のパルス周波数fD1で、即ち、時間周期tD1で送信する。この同期パルスSPは、又もや送信側の溶接機器における溶接サイクルSZ1に関して定義された時間的な関係を有する。例えば、溶接サイクルSZ1の開始毎に、ここでは、パルス電流フェーズの開始時に、位相シフトtを考慮して、同期パルスSPが送信される。これらの同期パルスSPは、又もや通信接続部15としての電気配線上を電流パルス又は電圧パルスとして送信されるか、或いは通信接続部15としての有線接続又は無線接続方式のデータバス上をバス情報として送信される。受信側の溶接機器1b、例えば、タンデム式パルス溶接プロセスにおける追従する溶接機器が、評価ユニット(ハードウェア及び/又はソフトウェア)、例えば、制御ユニット7bにおいて、受信した同期パルスの周期tD1から、例えば、カウンタを備えた比較器回路で、或いは受信したバス情報のタイムスタンプから、送信側の溶接機器1aのパルス周波数fD1を簡単に算出することができる。
【0042】
例えば、受信側の溶接機器1bでの溶接サイクルSZ2の開始を同期パルスSPの受信に同期させることによって、受信側の溶接機器1bでの溶接サイクルSZ2を又もや時間的に同期パルスSPに同期させる。
【0043】
受信側の溶接機器1bにおいて、又もや周波数分割比率Fを保存することができ、そして、その比率から、又もやfD2=fD1/Fから受信側の溶接機器1bでのパルス周波数fD2を算出することができる。この場合、当然のことながら、両方のパルス周波数fD1,fD2が互いに整数の比率であるのが有利である。同期パルスSPが、少なくとも同期中に持続的に送信された後、受信側の溶接機器1bのパルス周波数fD2が自動的に送信側の溶接機器1aのパルス周波数fD1に従う。
【0044】
送信側の溶接機器1aは、同期パルスSPの外に、例えば、又もや自身又は同じバス情報内において、パルス周波数fD2の設定すべき値を受信側の溶接機器1bに送信することもできる。この場合、同期パルスSPは、両方の溶接機器1a,1bの同期の保証又は制御のために使用することができる。
【0045】
送信側の溶接機器1aでの溶接サイクルSZ1に対する同期パルスSPの時間シフトによって、当然のことながら、又もや両方の溶接機器1a,1bでの両方の電流推移の位相シフトtを設定することができる。この場合、受信側の溶接機器1bは、図4に図示されている通り、溶接電流IS2の時間的な推移を受信した同期パルスSPに同期させる。それに代わって、所望の位相シフトtは、受信側の溶接機器1bにおいて溶接パラメータとして保存又は設定することができる。この場合、受信側の溶接機器1bは、溶接サイクルSZ2を同期パルスSPの受信時に対して時間的に位相シフトtだけシフトさせた形で関連付ける。しかし、基本的に、それらの両方も同時に可能である。
【0046】
パルス溶接プロセスに必要なパルス周波数fD1,fD2又は周波数分割比率Fは、溶接工によって、溶接機器1a,1bに対して設定することができる。しかし、これは、溶接工の深いプロセス知識を必要とし、それを前提とすることはできない。従って、パルス周波数fD1,fD2が、セットされた別の溶接パラメータから、特に、(一般的には、又もや溶接電流に依存する)溶接ワイヤー送り速度v又は溶接電流Iから導き出されると規定することができる。そのために、図5に溶接ワイヤー送り速度vの例で図示されている通り、様々な溶接ワイヤーに関する溶接特性曲線を溶接機器1a,1b、例えば、制御ユニット7a,7b又はメモリユニットに保存することができる。その特性曲線から、設定された溶接ワイヤー送り速度vに応じて、所要のパルス周波数fを取得することができる。同期に関して、そのようにして算出されたパルス周波数fを別のパルス周波数fに対して最も近い整数の比率でセットするのが有利である。そして、その周波数から、所要の周波数分割比率Fを導き出して、有利には、その比率を最も近い整数にセットすることもできる。その結果、両方の溶接機器1a,1bで溶接特性曲線が保存されている場合、パルス周波数fD1の代わりに、同様に溶接ワイヤー送り速度vを受信側の溶接機器1bに送信することもできる。
【0047】
図6には、fD1=fD2(即ち、周波数分割比率F=1)と90°の位相シフトtの場合のタンデム式パルス溶接プロセスが図示されている。更に、両方のパルス溶接プロセスでは、基本電流フェーズにおいて、短い中間パルスZP1,ZP2、即ち、溶接電流IS1,IS2の短い上昇が設けられている。中間パルスZP1,ZP2の時間長と上昇度は、当然のことながら、溶接機器1a,1bにおいて保存又は構成することができる。この場合、当然のことながら、中間パルスZP1,ZP2が複式パルス溶接方法の全てのパルス溶接プロセスで規定されるわけではないとすることができる。同様に、そのような中間パルスZP1,ZP2を各溶接サイクルSZ1,SZ2に設けるのではなく、x番目毎の溶接サイクルにのみ設けることが考えられ、それは、同じく保存又は構成することができる。有利には、中間パルスZP1,ZP2は、パルス溶接プロセスにおいて、それらがそれぞれ別のパルス溶接プロセスのパルス電流フェーズに出現するようにセットされる。それは、例えば、基本電流フェーズとパルス電流フェーズが両方のパルス溶接プロセスで重なり合う180°の位相シフトによって非常に簡単に実現することができる。
【0048】
本発明による複式パルス溶接方法のパルス溶接プロセスの同期は、溶接中に必要に応じて開始及び停止することができる。有利には、溶接の開始時の同期は、個々のパルス溶接プロセスのアークが安定して燃焼した後、即ち、アークの点火後又は設定された溶接ワイヤー送り速度vに到達した場合に漸く開始される。複式パルス溶接プロセスの終了フェーズ、例えば、溶接ワイヤー送り速度vの減速が開始された時にも、有利には、同期が終了される。それは、溶接機器1a,1bによって自動的に、或いは溶接工により手動で行うことができる。
【0049】
溶接中にパルス溶接プロセスの同期を変更することも可能である。例えば、溶接中に別の周波数分割比率Fを設定又は実現することができる。しかし、追従するパルス溶接プロセスの溶接ワイヤー送り速度を変更することもでき、それは、同じく別のパルス周波数fD2又は周波数分割比率Fを実現することができる。同様に、パルス溶接プロセスの間に別の位相シフトtを要求又は設定することができる。そのような変更は、例えば、複式パルス溶接プロセス(例えば、自動的に進行する溶接プログラム)及び/又は溶接工によって実現することができる。
【0050】
例えば、先導するパルス溶接プロセスによって要求される、追従するパルス溶接プロセスを同期させるパルス周波数fD1と、(例えば、図5の通り)保存された溶接特性曲線から、設定された溶接パラメータに基づき得られるパルス周波数fD2との間の偏差が、溶接機器1a,1bにおいて構成又は保存された限界値を上回る可能性がある。この場合、溶接機器1a,1bの制御ユニット7a,7bが、例えば、最も近い周波数分割比率Fに、例えば、F=1からF=2に切り替えるか、或いは、別の方向に、即ち、F=2からF=1に切り替えることもできる。この場合、必要に応じて位相シフトtを適合させることもできる。
【0051】
図7には、例えば、タンデム式パルス溶接方法における同じパルス周波数fD1,fD2(fD1=fD2)と180°の位相シフトtでの同期から、追従するパルス溶接プロセスでの半分のパルス周波数fD2、即ち、fD2=fD1/2又は周波数分割比率Fと0°の位相シフトtでの同期への切替状況が図示されている。先導するパルス溶接プロセスの溶接電流IS1と追従するパルス溶接プロセスの溶接電流IS2(破線)が時間に関して図示されている。この切替は、時点tで行われる。この切替により、新たなパルス周波数fD2に切り替えられる。この新たな位相状況は、場合によっては、制御の実現形態に応じて幾つかの溶接サイクルSZ1,SZ2内において設定される。図2の例では、新たな位相状況は、先導するパルス溶接プロセスの四つの溶接サイクルSZ1内で設定されている。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る:
1.
複式パルス溶接方法を実施する少なくとも二つのパルス溶接プロセスを同期させる方法であって、パルス溶接プロセスが、パルス電流フェーズと基本電流フェーズを有する、パルス周波数(fD1,fD2)で周期的に繰り返される溶接サイクル(SZ1,SZ2)から構成され、各パルス溶接プロセスが溶接機器(1a,1b)により実施され、これらの溶接機器(1a,1b)が通信接続部(15)を用いて互いに接続されており、この通信接続部(15)を介して、同期情報(SI)が送信側の溶接機器(1a)から少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信され、この同期情報(SI)が、受信側の溶接機器(1b)において、受信側の溶接機器(1b)により実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器(1a)により実施されるパルス溶接プロセスに同期させるために使用される方法において、
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、少なくとも一つの同期パルス(SP)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信し、この少なくとも一つの同期パルス(SP)が、送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ1)に関して定義された時間的な関係を有し、受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ2)を、受信した同期パルス(SP)に同期させることを特徴とする方法。
2.
受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD2)が、受信側の溶接機器(1b)で既知であるか、或いは既知の溶接特性曲線から算出される上記1に記載の方法。
3.
同期情報(SI)として、更に、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又は受信側の溶接機器(1b)によって設定すべきパルス周波数(fD2)が受信側の溶接機器(1b)に送信される上記1に記載の方法。
4.
受信側の溶接機器(1b)において、既知の周波数分割比率(F)を用いて、受信した送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)から、受信側の溶接機器(1b)によって設定すべきパルス周波数(fD2)が算出される上記3に記載の方法。
5.
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、同期パルス(SP)を送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)で持続的に受信側の溶接機器(1b)に送信する上記1に記載の方法。
6.
受信側の溶接機器(1b)が、受信した同期パルス(SP)の周期から、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)を算出して、そのパルス周波数から、既知の周波数分割比率(F)を用いて、受信側の溶接機器(1b)で設定すべきパルス周波数(fD2)を算出する上記5に記載の方法。
7.
前記の周波数分割比率(F)が、受信側の溶接機器(1b)において、少なくとも一つの溶接パラメータの既知の溶接特性曲線から算出されて、送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又はそれに対応する溶接ワイヤー送り速度(vD)と、この周波数分割比率(F)とから、受信側の溶接機器(1b)により設定すべきパルス周波数(fD2)が算出される上記4又は6に記載の方法。
8.
受信側の溶接機器(1b)のパルス溶接プロセスの溶接特性曲線から、パルス溶接プロセスに必要なパルス周波数(fD2)が算出され、この必要なパルス周波数(fD2)と、受信された送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)又はそれに対応する溶接ワイヤー送り速度(vD)とから、周波数分割比率(F)が算出される上記7に記載の方法。
9.
周波数分割比率(F)として、受信された送信側の溶接機器(1a)のパルス周波数(fD1)と必要なパルス周波数(fD2)の間における、より高の方の最も近い、或いはより低い方の最も近い整数にセットされた比率が使用される上記8に記載の方法。
10.
前記の同期パルス(SP)が、送信側の溶接機器(1a)での溶接サイクル(SZ1)の開始時に所与の位相シフト(tP)を有する形で送信されるか、受信側の溶接機器(1b)での溶接サイクル(SZ2)が、同期パルス(SP)の受信後に所与の位相シフト(tP)を有する形で開始されるか、或いはその両方である上記1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.
受信側の溶接機器(1b)により設定すべき位相シフト(tP)が、追加の同期情報(SI)として、送信側の溶接機器(1a)から少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信される上記10に記載の方法。
12.
前記の同期が、複式パルス溶接方法中に開始又は停止される上記1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.
送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD1)又は追従するパルス溶接プロセスのパルス周波数(fD2)と位相シフト(tP)との一つ以上が、複式パルス溶接方法中に変更される上記1~12のいずれか1つに記載の方法。
14.
少なくとも二つのパルス溶接プロセスを実施するように構成された、少なくとも二つの溶接機器(1a,1b)により複式パルス溶接方法を実施する装置であって、パルス溶接プロセスが、パルス電流フェーズと基本電流フェーズを有する、パルス周波数(fD1,fD2)で周期的に繰り返される溶接サイクル(SZ1,SZ2)から構成され、これらの溶接機器(1a,1b)が通信接続部(15)を用いて互いに接続されており、送信側の溶接機器(1a)が、この通信接続部(15)を介して、同期情報(SI)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信するように構成され、受信側の溶接機器(1b)が、この同期情報(SI)を使用して、受信側の溶接機器(1b)により実施されるパルス溶接プロセスを送信側の溶接機器(1a)により実施されるパルス溶接プロセスに同期させるように構成される装置において、
送信側の溶接機器(1a)が、同期情報(SI)として、送信側の溶接機器(1a)のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ1)に関して定義された時間的な関係を有する少なくとも一つの同期パルス(SP)を少なくとも一つの受信側の溶接機器(1b)に送信するように構成されること、及び
受信側の溶接機器(1b)が、自身のパルス溶接プロセスの溶接サイクル(SZ2)を受信した同期パルス(SP)に同期させるように構成されることを特徴とする装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7