(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】局所製剤の性能を改善するための噴霧可能な皮膜形成組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20230523BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230523BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/73
A61Q19/00
A61K8/34
(21)【出願番号】P 2021568860
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 US2021023533
(87)【国際公開番号】W WO2021194994
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513161449
【氏名又は名称】イーエルシー マネージメント エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウィルソン エー.
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-182971(JP,A)
【文献】米国特許第10507175(US,B1)
【文献】特表2018-515451(JP,A)
【文献】特表2012-522050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0369119(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0053567(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0004122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧可能な皮膜形成組成物であって、組成物の全重量に対して
4.7%~14%のアクリレーツ/VAコポリマー、
0.05%~2.5%のアクリレーツコポリマー、
70%~85%の水、
0.1%~1.0%のカラギーナン及び/又はヒアルロン酸
を含み、
アクリレーツ/VAコポリマーとアクリレーツコポリマーとの比が10:1~100:1の間であり、皮膜形成組成物を基材に適用し、乾燥させた場合、乾燥皮膜の平均孔隙が、0.25μm~3.0μmの間となる、噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項2】
アクリレーツ/VAコポリマーとアクリレーツコポリマーとの比が10:1~30:1の範囲内であり、
組成物が、(組成物の全重量に対して)
1%~5%のブチレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、又はそれらの任意の組み合わせ、
5.0%以下の疎水性の油、
2%以下の界面活性剤及び乳化剤、
0.5%以下のポリウレタン
を更に含む、請求項1に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項3】
0.01%~2%の乳化剤、及び油相中に少なくとも1種の油溶性活性物質を含む、水中油型乳剤の形態の請求項2に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項4】
疎水性の油を有しない、請求項2に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項5】
界面活性剤も乳化剤も有しない、請求項2に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項6】
ポリウレタンを有しない、請求項2に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項7】
皮膜形成組成物を基材に適用し、乾燥させた場合、乾燥皮膜の平均孔隙が、0.9μm~2.5μmの間となる、請求項1に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項8】
ヒアルロン酸以外の少なくとも1種の水溶性活性物質を更に含む、請求項1に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の水溶性活性物質が、
アルゲエキス、ゲットウ葉エキス、アルテロモナス発酵エキス、アスコルビル酸グルコシド、スイカ(citrullus lanatus)(スイカ(water melon))果実エキス、セイヨウサンザシ(サンザシ)花エキス、加水分解酵母タンパク、乳酸桿菌発酵液(Lactobacillus ferment)、カミツレ(カモミール)エキス、ヒラマメ(レンズマメ)果実エキス、ボタン(芍薬)根エキス、パンテノール、リンゴ(pyrus malus)(リンゴ(apple))果実エキス、及びサトウキビエキスから選択される、請求項8に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の油溶性活性物質が、酢酸トコフェロールである、請求項3に記載の噴霧可能な皮膜形成組成物。
【請求項11】
化粧用又はスキンケア製剤をケラチン表面に適用する方法であって、
請求項1に記載の噴霧式皮膜形成組成物の第1の層をケラチン表面の一部分に直接適用するステップと、
噴霧式皮膜形成組成物の第1の層を硬化させて乾燥皮膜にするステップと、
化粧用又はスキンケア製剤を乾燥皮膜の上に適用するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
噴霧式皮膜形成組成物の第2の層を化粧用又はスキンケア製剤の上に適用するステップ、及び
噴霧式皮膜形成組成物の第2の層を硬化させて乾燥皮膜にするステップ
を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化粧用又はスキンケア製剤をケラチン表面に適用する方法であって、
化粧用又はスキンケア製剤をケラチン表面の一部分に直接適用するステップと、
請求項1に記載の噴霧式皮膜形成組成物を化粧用又はスキンケア製剤の上に適用するステップと、
噴霧式皮膜形成組成物を硬化させて乾燥皮膜にするステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチン表面用の局所製剤の分野に属する。より詳細には、本発明は、下部の又は上部のカラー化粧用及びスキンケア製剤の性能を改善する噴霧式皮膜形成組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧もちのよい(long wear)化粧用製品は、にじみにくく、移りにくいように設計される。しかし、にじみにくく、移りにくい能力は、所望された場合に製品を落とすことが難しい可能性があることも意味する。メイクアップリムーバー製品が必要とされることが多いが、それでも皮膚を十分に清浄にすることは難題である。例えば、顔には、少なくとも多少の残留製品が毛穴に捕捉されて残される可能性がある。また、メイクアップリムーバーは、皮膚、毛髪、又は爪に刺激が強い化学物質を有する場合がある。したがって、刺激が強い化学物質を用いることなく、にじみにくく、移りにくいままでありながら、落とすことが所望された場合に、化粧もちのよい化粧用組成物をより簡単に落とす方法に対する必要性が存在する。
【0003】
同時係属出願であるUS2018-0369119において、本発明者らは、化粧品として許容される水性基剤(全組成物の40重量%~65重量%の水)中のアクリレーツ/VAコポリマー(全組成物の20~30重量%)とアクリレーツコポリマー(全組成物の0.5~2.5重量%)との特定の組み合わせを開示した。そのような組成物は、可撓性であり、ある特定の最低温度(すなわち、約43℃)未満の水に耐性がある高光沢のカラー化粧用組成物として有用であった。この組成物は化粧もちがよく、にじみにくく、剥がれにくいだけでなく、耐油性でもあるので、それは高光沢の化粧もちのよい化粧品として非常に適したものになる。しかし、本発明の組成物とは異なり、それらの組成物は、隣接する化粧用又はスキンケア製剤に付着する噴霧式組成物としては適していない。US2018-0369119と比較して、本発明の組成物は、異なる濃度のアクリレーツ/VAコポリマー、アクリレーツコポリマー、及び水、並びにUS2018-0369119の組成物に見られない利益をもたらす他の相違も使用する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、噴霧式皮膜形成組成物である。該噴霧式皮膜形成組成物は、別の局所製剤、例えば慣例的な化粧用ファンデーション又はスキンケア製品と共に機能するように設計されている。該皮膜形成組成物は、化粧用又はスキンケア製品と直接接触する(すなわち、直接「隣接」する)。該噴霧式皮膜形成組成物は、もたらされる利益に応じて、局所製剤の下部に(プライマーとして)適用されても、局所製剤の上部に(マスクとして)適用されても、又はその両方であってもよい。本発明の噴霧式皮膜形成組成物は、化粧もちのよさ(wearability)(にじみにくさ及び剥がれにくさ、並びに耐油性)を改善し、落としやすさ(removability)を改善し、光沢を増大させ、活性成分を送達することができる。それは非常に透明であり(着色剤が使用されていないならば目に見えない)、可撓性であり、べたつき感がなく快適である。
【0005】
本発明による噴霧式皮膜形成組成物は、化粧品として許容される基剤又は送達ビヒクル中のアクリレーツ/VAコポリマーとアクリレーツコポリマーとの特定の組み合わせを含み、US2018-0369119に開示されていない追加的な改変を有する。噴霧式皮膜及び任意の隣接する化粧用又はスキンケア製剤は、ある特定の最低温度を上回る水を使用することによって、軽くこすることで容易に落とせるが、その温度を下回る水ではそれほど容易には落とせない。
【発明を実施するための形態】
【0006】
操作及び比較例を除き、又は別段明示されない限り、材料の量若しくは比、又は反応の条件、材料の物理的性質、及び/又は使用を示す本明細書における全ての数は、「約」という語によって修飾されているとして理解されたい。全ての量は、別段指定されない限り、最終組成物の重量百分率として示される。
【0007】
本明細書を通して、「皮膜形成剤」などは、それが適用された基材上に、例えば、皮膜形成剤を伴う溶媒が蒸発した、基材中に吸収された、及び/又は基材上で消散した後に、皮膜を残すポリマーを指す。本発明による噴霧式皮膜形成組成物は、通常、3分以内、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内に乾燥する。
【0008】
「噴霧」又は「噴霧可能」という用語は、放出弁を通して噴射ガスを使用して液体のミストを発生させること(すなわち、慣例的なエアロゾルディスペンサー)によって、又はノズルを通して液体を押し出して液体のミストを発生させる機械式ポンプディスペンサーを有する噴霧ボトルによって、製剤が吐出されることを意味する。
【0009】
本発明の「移りにくい」組成物は、その意図された使用のために皮膚又は毛髪に(直接、又は別の製剤の上部)適用された場合に、別の材料、例えば衣服又は水との接触によって容易に落ちないものである。移りにくさは、当技術分野で公知の任意の方法によって評価することができる。本発明の好ましい実施形態では、噴霧式皮膜形成組成物、及び隣接する化粧又はスキンケア組成物は、皮膚、唇、毛髪、又は爪から別の基材に殆ど又は全く移らない。
【0010】
「可撓性」組成物は、その意図された目的のために皮膚又は毛髪に(直接、又は別の製剤の上部に)適用された場合に、着けている所定の期間、例えば4時間又は8時間の間、ひび割れしたり剥がれたりしないものである。組成物が相応に可撓性でなければ、それは「硬い」。
【0011】
「単一相」とは、組成物が不均一な油中水型又は水中油型乳剤の形態ではなく、安定した均一な形態であることが意図される。本発明の幾つかの好ましい実施形態は水単相であり、幾つかは軽く乳化された水中油型乳剤である。
【0012】
「含む」などは、要素の一覧が明確に列挙されたものに限定されない場合があることを意味する。
【0013】
アクリレーツ/VAコポリマー
本発明の第1の主要成分は、アクリレーツ/VAコポリマー(INCI名)、C15H26O4であり、エテニルアセテート又は2-エチルヘキシルプロパ-2-エノエート(IUPAC名)、CAS番号25067-02-1としても公知である。詳細な情報に関しては、PubChem Compound Database、CID=168269を参照されたい。
【0014】
【0015】
化粧品において、この粘着性材料は、結合剤、皮膜形成剤、接着剤、及び/又は毛髪固定剤として機能することが多い。水性化粧品系に導入されると、アクリレーツ/VAコポリマーは、皮膚又は毛髪上に皮膜を与えることができる。純粋なアクリレーツ/VAコポリマー皮膜は、約38℃以上の水ですすぐと皮膜が分解し、表面から落とすことができるが、通常の皮膚温度(すなわち36.5~37.5℃)以下の温度ではその完全性を保持するというような、温度依存性を特徴とする。
【0016】
本発明の噴霧式皮膜形成組成物は、典型的には組成物の全重量に対して約4.7%~14%、例えば、組成物の全重量に対して7.0%~12%、好ましくは約9.3%のアクリレーツ/VAコポリマーを含む。アクリレーツ/VAコポリマーの濃度が4.7%をわずかに下回ると、製品が移ることがある。
【0017】
アクリレーツ/VAコポリマーは、例えば、Daido Chemical Corp.からVinysol 2140Lとして市販されている。Vinysol 2140Lは、アクリレーツ/VAコポリマーの46.6%水性混合物である。したがって、Vinysol 2140Lを使用する場合、上述のアクリレーツ/VAコポリマーの濃度を実現するために、Vinysol 2140Lの濃度は、組成物の全重量に対して約10%~30%、例えば15%~25.75%、好ましくは約20%であるべきである。Vinysol 2140Lは、4.5のpH、2,000mPa-sの粘度、-9℃の算出されたガラス転移温度(Tg)を有すると報告されており、一方、皮膜は、1,200%の破断伸び、及び1.2MPaの破断強さ(厚さ0.1mmに伸ばした場合)を呈する。それ自体では、アクリレーツ/VAコポリマーは、消費者に許容されるには若干硬過ぎる。
【0018】
アクリレーツコポリマー
硬度が大きいという問題に対処するために、アクリレーツ/VAコポリマーを、アクリレーツ/VAコポリマーより低いTgを有するアクリレーツポリマーと組み合わせた。一般に、Tgが低くなると、得られる皮膜の可撓性が高くなる。皮膜の乾燥時間も有用な程度に長くなる。当然のことながら、乾燥が速過ぎる又は遅過ぎる噴霧式皮膜形成組成物は商業的に実用的ではない。本発明において、適切な乾燥時間及び乾燥皮膜における適正な量の可撓性は、第2の主要成分であるアクリレーツコポリマー、C14H22O6によってもたらされ、これは、エチルプロパ-2-エノエート、メチル2-メチルプロパ-2-エノエート、又は2-メチルプロパ-2-エン酸(IUPAC名)、CAS番号25133-97-5としても公知である。詳細な情報に関しては、PubChem Compound Database、CID=168299を参照されたい。様々なタイプの化粧用製剤において、アクリレーツコポリマーは、皮膜形成剤、毛髪固定剤、結合剤、及び懸濁化剤、粘度増強剤(viscosity enhancer)、帯電防止剤、及び接着剤を含めた、多種多様な用途を有する。本明細書で論じる濃度では、アクリレーツ/VAコポリマーとアクリレーツコポリマーとの組み合わせは、本発明者らが2分以下、好ましくは1分以下と定めた、化粧品の消費者に適した乾燥時間を有する。更に、上述のように、アクリレーツ/VAコポリマーの皮膜は、少なくとも約38℃の水ですすぐと皮膜が分解するが、これを下回ると分解しないというような温度依存性を特徴とする。本明細書に開示される比でアクリレーツ/VAコポリマーをアクリレーツコポリマーと組み合わせる際に、噴霧式組成物の乾燥皮膜を分解するのに必要とされる最低水温を、制御された方法で変動させることができることが分かった。
【0019】
本発明において、アクリレーツコポリマーの有用な濃度は、組成物の全重量に基づいて0.05%~2.5%、例えば0.1%~2%、又は、例えば0.5%~1.5%、好ましくは約1.0%である。アクリレーツコポリマーの濃度が2.5%をわずかに上回ると、噴霧式皮膜形成組成物を皮膚から落とすのが難しくなり過ぎる。アクリレーツコポリマーは、例えば、Daito Kasei Kogyo Co.からDaitosol 5000ADとして市販されている。Daitosol 5000ADは、アクリレーツコポリマーの50%水性混合物である。したがって、上述のアクリレーツコポリマーの濃度を実現するために、Daitosol 5000ADの濃度は、組成物の全重量に対して約0.1%~5%、例えば0.2%~4%、又は例えば1.0%~3.0%、好ましくは約2%であるべきである。Daitosol 5000ADは、5.5~7.5のpH、50~100mPa-sの粘度、約-14℃のガラス転移温度(Tg)を有すると報告されている。
【0020】
通常、健康な皮膚の温度は変動するが、36.5℃~37.5℃の間とみなすことができる。これに基づいて、本発明者らは、アクリレーツ/VAコポリマーの重量とアクリレーツコポリマーの重量との比は1.8:1~280:1の範囲内と言うことができる。好ましくは、この比は10:1~100:1、より好ましくは10:1~30:1、最も好ましくは20:1である。この比が1.8:1であれば、本発明の噴霧式皮膜形成組成物(及び隣接する化粧用又はスキンケア製剤)は、少なくとも約42℃の温度の水で軽くこすれば皮膚から容易に落とすことができる。この比が280:1であれば、噴霧式皮膜形成組成物は、少なくとも約38℃の温度の水で軽くこすれば皮膚から容易に落とすことができる。20:1の比が最も好ましい。20:1の場合、噴霧式皮膜形成組成物及び隣接する化粧用又はスキンケア製剤は、約39℃の水で軽くこすれば容易に落とされる。
【0021】
可塑剤
本発明の組成物は水性であり、典型的には全組成物の約70重量%~約85重量%の水を含む。この量の水は、全ての供給源からのもの、例えば、Vinysol 2140L及びDaitosol 5000ADにあったものである。しかし、これまで記載してきた通りの本発明の水性組成物は、化粧品業界で汎用されるタイプの機械式ポンプ噴霧器から噴霧可能ではない。製品の細い流れを生じるのがせいぜいで、大気に当たったときの霧化が殆ど又は全くない。これでは、薄膜で比較的大きい面積を覆うことが意図される製品には許容されない。こうした理由から、第3の主要成分は、ブチレングリコール、プロパンジオール、及びグリセリンの1種以上である。本発明の噴霧式皮膜形成組成物では、これらの成分は可塑剤として作用し、皮膜形成組成物に対して複数の有益効果を有する。例えば、これらの材料は、湿った組成物の噴霧性を増大させるだけでなく、乾燥皮膜の可撓性を増大させ、それによって快適性が増大する。可塑剤は、皮膜形成組成物の孔隙を増大させることによってこれを行う。好ましい本発明の組成物を基材に適用し、乾燥させた場合、乾燥皮膜の平均孔隙は、0.25μm~3.0μm、例えば0.9μm~2.5μmの間となる。ブチレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、又はそれらの任意の組み合わせを1%~5%で使用して、その孔径を実現することができる。
【0022】
加えて、これらの同じ可塑剤は、別の有益な役割を果たす。本発明の噴霧式皮膜形成組成物は、隣接する化粧用又はスキンケア製剤に対して高い付着性を有するべきである。乾燥皮膜の表面張力が化粧用又はスキンケア製剤の表面張力の10mN/m(メートル当たりミリニュートン)以内ならば、十分に高い付着性を確保することができる。典型的なシリコーン中水型又は油中水型ファンデーション製品は、約20mN/m~50mN/mの間の表面張力を有する。本発明の噴霧式皮膜形成組成物の70%~85%を構成する水は、約72mN/mの表面張力を有する。したがって、本発明の皮膜形成組成物の表面張力は、典型的には、隣接する局所製剤の表面張力の10mN/m以内に下げる必要がある。一般に、本発明の組成物中のブチレングリコール、プロパンジオール、及びグリセリンの1種以上のレベルを増加させると、組成物の表面張力が下がる。有利なことに、噴霧式皮膜形成組成物の表面張力は、1%~5%のブチレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、又はそれらの任意の組み合わせを使用することによって、必要に応じて調整することができる。よって、噴霧性、可撓性、快適性、及び付着性の利益は、これらの成分の任意の組み合わせの全濃度が全組成物の約1%~5重量%になるように調整することによって実現される。
【0023】
更に、ブチレングリコール、プロパンジオール、及び/又はグリセリンを1%~5%で使用して、噴霧式皮膜形成組成物及び隣接する化粧用又はスキンケア製剤が皮膚から容易に落とされる最低水温に微調整を施すことができる。詳細には、可塑化効果によって、最低水温が下方調整される。多過ぎるこれらの可塑剤が使用されるならば(すなわち、5%超)、温度は低く調整され過ぎて、本発明の化粧もちのよい、移りにくさの利益が損なわれる。
【0024】
界面活性剤及び乳化剤
1種以上の界面活性剤又は乳化剤も、表面張力を調整するのに使用することができる。上述のように、本発明の組成物は、典型的には、全組成物の約70重量%~約85重量%の水を含む。本発明の幾つかの好ましい実施形態は、単一水相組成物であり、油又はシリコーンを殆ど又は全く有していない。他の好ましい実施形態では、組成物は、軽く乳化された水中油型乳剤である。乳剤の実施形態は、組成物がフレグランスオイルを含む場合、又は組成物が少なくとも1種の油溶性活性物質(例えば、酢酸ビタミンE)をケラチン表面に送達するのに使用される場合に有用である。しかし、1種以上の界面活性剤又は乳化剤は、本発明において噴霧式皮膜形成組成物の表面張力を調整するために使用することもできる。一般に、界面活性剤又は乳化剤のレベルを増大させると、皮膜形成組成物の表面張力が下がる。表面張力の調整に使用するか油溶性成分の乳化に使用するかにかかわらず、1種以上の界面活性剤又は乳化剤は、8~12の間のHLBを有し、全組成物の2%以下、典型的には全組成物の0.01%~2%の間を構成するべきである。
【0025】
カラギーナン及びヒアルロン酸
これまで記載してきた通りの本発明の組成物を皮膚に適用し、完全に乾燥させた場合、組成物は使用者にはべたつくように感じられることがある。べたつき感は、カラギーナン及び/又はヒアルロン酸を約0.1%~約1.0%の濃度で使用することによって、本明細書に記載する通りの組成物の利益に干渉することなく緩和することができる。追加的な利益として、カラギーナンはアクリレーツ/VAコポリマーに対して若干の可塑化効果を有し、凝集及び粒径を低減させる効果を有する。よって、カラギーナンを使用すると、それによって、湿った本発明の皮膜形成組成物の噴霧性が増大すると共に、乾燥した組成物のべたつき感が低減する。好ましい本発明の組成物は、記載する通りのカラギーナン及び/又はヒアルロン酸を含む。
【0026】
疎水性材料
ケラチン表面に適用する前に、本発明の皮膜形成組成物は、第1の又は親水性の状態にある。この第1の状態で水溶性成分を配合できることは有利である。第1の状態での十分な親水性を維持するために、疎水性材料の使用は、組成物の全重量に基づいて約5%未満、例えば、0.001%~5%、好ましくは2%未満、より好ましくは約0.25%未満に制限するべきである。部分的に親水性であり、且つ部分的に疎水性である材料は、最終組成物の性能に基づいて、おそらくこれらの制限を超えてもよい。本発明の幾つかの実施形態では、組成物が、疎水性成分、例えば、疎水性の油又はワックスを含まなければ好ましい。油は、周囲温度で液体である有機物質、例えば、エステル、トリグリセリド、炭化水素、及びシリコーンである。化粧用組成物に使用される典型的なワックスは、カルナウバロウである。本発明の幾つかの実施形態では、組成物が疎水性の油又はワックスを含有していなければ最も好ましい。
【0027】
構造化剤
乾燥皮膜の構造に著しく干渉する作用剤は、皮膚から皮膜を落とすのに必要とされるある特定の最低水温を変化させる。したがって、本発明の皮膜形成組成物が、合計0.5%以下の構造化剤、例えば0.0001%~0.5%の構造化剤、例えばカーボポール(登録商標)、ワックス、クレイ(例えばベントナイト)、又はステアリン酸を含んでいれば好ましい。より好ましくは、本発明の組成物は、合計0.001%以下の構造化剤を含む。最も好ましくは、本発明の組成物は、構造化剤を含まない。この通例に対する有用な例外は、ステアリン酸ナトリウムである。多くの構造化剤とは異なり、ステアリン酸ナトリウムは部分的に親水性であり、それによって水溶液系に適したものになる。ステアリン酸ナトリウムは部分的に疎水性であるが、その使用が本発明の目的を損なうようには思われなかった。これにより、構造化剤が必要とされる可能性がある場合に、本発明の実施形態においてステアリン酸ナトリウムはとりわけ有用なものとなる。ステアリン酸ナトリウムは、構造化剤として全皮膜形成組成物の0.0001重量%~4重量%で使用されてもよく、その量より多いとアクリルの結合強度が撹乱され始め、耐水性が下がる。
【0028】
ポリウレタン
ポリウレタンは、組成物を非常に硬くする傾向があり、皮膚又は毛髪から皮膜を落とすのに必要とされるある特定の最低水温を変化させる。したがって、本発明の皮膜形成組成物は、0.5%以下、例えば0.0001%~0.5%のポリウレタンを含む。より好ましくは、本発明の組成物はポリウレタンを含まない。
【0029】
様々な成分
消費者エクスペリエンスを微調整する、又は組成物及び隣接する化粧用若しくはスキンケア製剤の性能を強化するために、様々な成分が噴霧式皮膜形成組成物に含まれてもよい。例えば、アルコールは、皮膚へ適用した後の乾燥を速くするのに有用であり得る。5%までのアルコールの量が有用であり得る。皮膜形成組成物はまた、典型的には組成物の約2重量%まで保存剤及び酸化防止剤を含んでもよい。消費者に許容される製品を作製するために、増粘剤、減粘剤、及び/又はpH調整剤(例えば苛性ソーダ)を典型的には組成物の1重量%未満のレベルで必要に応じて使用してもよい。これらのレベルでは、上で名前を挙げた成分は、噴霧式皮膜形成組成物の有用な性質に悪影響を及ぼさないと思われる。
【0030】
本発明の組成物は、顔料を含んでもよい。好ましくは、組成物は、合計1%以下、例えば0.001%~1%の顔料を含む。また、本発明の組成物がプライマー(下記を参照されたい)として使用される場合には、組成物はカラーメイクアップ製剤又はスキンケア製剤によって覆われる。この場合、組成物が顔料を有しなければ好ましい。
【0031】
活性物質の送達
上述のように、基材上での乾燥後、好ましい本発明の組成物は多孔質となり、0.25μm~3.0μm、より好ましくは0.9μm~2.5μmの平均孔径を有する。この孔径によって、本発明の噴霧式組成物は、活性成分の送達ビヒクルとして有用なものとなる。0.9μm~2.5μmの範囲の孔径が、活性成分の制御放出又は持続放出に特に有用である。
【0032】
活性成分は、水相に組み込まれても、油相に(もし存在するならば)組み込まれてもよい。親水性(水溶性)活性物質の例として、アルゲエキス、ゲットウ(alpinia speciosa)葉エキス、アルテロモナス(Alteromonas)発酵エキス、アスコルビル酸グルコシド(AA2G)、スイカ(citrullus lanatus)(スイカ(water melon))果実エキス、セイヨウサンザシ(crataegus monogyna)(サンザシ)花エキス、ヒアルロン酸、加水分解酵母タンパク、乳酸桿菌(Lactbacillus)発酵液(ferment)、カミツレ(matricaria)(カモミール)エキス、ヒラマメ(lens esculenta(レンズマメ))果実エキス、ボタン(paeonia suffruticosa)(芍薬)根エキス、パンテノール、リンゴ(pyrus malus)(リンゴ(apple))果実エキス、及びサトウキビ(saccharum officinarum)エキスが挙げられる。各個々の親水性活性物質は、典型的には組成物の5.0重量%以下、例えば、0.0001重量%~5重量%で組み込まれる。疎水性(油溶性)活性物質の例として、ローマカミツレ(Anthemis nobilis)油、bht(ブチル化ヒドロキシトルエン)、カフェイン、ヤシ(ココナッツ)油、サリチル酸、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル、及び酢酸トコフェロールが挙げられる。各個々の疎水性活性物質は、典型的には組成物の1重量%以下、例えば、0.0001重量%~1重量%で組み込まれる。
【0033】
既に述べたように、ケラチン表面に適用する前に、本発明の皮膜形成組成物は、第1の又は親水性の状態である。硬化又は乾燥すると、組成物は第2の又は疎水性の状態に入る。この状態では、適用された組成物は、皮脂及び皮膚又は大気中の水分からの分解を受けにくい。しかし、乾燥した本発明の組成物は、そのある特定の最低温度以上の水で、せん断力を適用することで容易に洗い落とすことができる。乾燥した皮膜組成物を皮膚から落とすのに、せん断力とある特定の最低水温の両方が必要である。例えば、乾燥した組成物がある特定の最低温度以上の水に曝露された場合、組成物は構造の分解を受けるが、そうでなければ適用された水に溶解しない。同様に、乾燥した組成物が、水なしで又はある特定の最低温度未満の水で(典型的なごしごしこする動作の形態の)せん断力に曝露された場合、組成物は、皮膚への優れた付着性を有するのでその場に留まる。組成物を皮膚から落とすためには、(典型的なごしごしこする動作の形態の)せん断力とある特定の最低温度を上回る水の両方を組成物に適用して、それをケラチン表面から持ち上げて離さなければならない。これから論じるように、この特徴を活用する複数の方法が存在する。
【0034】
プライマーとしての噴霧式皮膜形成組成物
化粧用又はスキンケア製剤をケラチン表面に適用する方法について説明する。説明するために、製剤をカラーファンデーションとするが、全ての化粧用及びスキンケア組成物がこの方法の範囲内である。本発明による噴霧式皮膜形成組成物は、噴霧式皮膜形成組成物をケラチン表面、例えば皮膚の一部分に直接適用することによって、プライマー組成物として使用することができる。適用後に、プライマー組成物を硬化させると、それは比較的速く行われて(約2分未満)、透明で本質的に目に見えない乾燥皮膜となる。乾燥したら、化粧用製剤をプライマー組成物の乾燥皮膜の上に通常の方法で適用する。化粧用製剤は、好ましくは、皮膚、毛髪、唇、又は爪上に少なくとも数時間、例えば少なくとも4時間、又は少なくとも8時間留まることが意図される、カラー化粧品である。適切なカラー化粧品は、液体、クリーム、ゲル、粉末、スティック、又は他の形態であってもよい。特に、液体ファンデーション及びウォータープルーフ化粧品が、本発明の皮膜形成組成物と併せて使用した場合に、大幅に利益を得る。例えば、適用したプライマーが乾燥したら、液体ファンデーションをプライマー組成物の上に通常の方法で適用することができる。表面張力が近いため、液体ファンデーションはプライマー組成物によってその場に保持され、それによって液体ファンデーションは化粧もちのよい製品へと変化する。プライマー組成物の表面張力が液体ファンデーションのものと十分に近くなければ、ファンデーションは広がりやすく、そしてにじみやすくなる。
【0035】
更に、化粧用製剤が既に化粧もちのよいように設計されている場合であっても、プライマー組成物によってそれをはるかに容易に皮膚から落とすことが可能になる。例えば、化粧用製品を皮膚から落とすことが所望された場合、その部分を約38℃を上回る水ですすぎ、軽くこする。プライマーは、上塗りする化粧用製剤と一緒に皮膚から持ち上がる。皮膚は、完全に且つ容易に清浄になる。皮膚に直接適用し、乾燥させた同じ化粧用製剤は、通常、皮膚から落とすのに著しく多い時間及び労力を必要とする。実際に、皮膚の毛穴から全ての残留物を完全に落とすのは不可能であり得る。
【0036】
皮膚に直接適用した化粧用製剤は皮脂及び汗を吸収しがちであり、それによってその性能及び顧客満足度が低下する。プライマーとして使用した場合の本発明の一つの重要な利益は、それによって化粧用製剤に吸収される皮脂及び汗の量が低減することである。皮脂及び水分は、化粧品を着けている典型的な時間量では乾燥皮膜を容易に透過しない。
【0037】
マスクとしての噴霧式皮膜形成組成物
代替的に、最初に化粧用又はスキンケア製剤を皮膚に直接適用し、次いで本発明の噴霧式皮膜形成組成物を、化粧用又はスキンケア製剤の上に適用するオーバーコート又はマスクとして使用することができる。オーバーコートとして、マスクは化粧用又はスキンケア製剤の移り及びにじみを防止する。化粧用製剤がカラー化粧品、例えばファンデーションであるならば、マスクが顔料も着色剤も含まなければ好ましい。マスクは、非常に透明なので、色を歪めることなく、カラー化粧品を透かして見せることができる。それと同時に、マスクは、高光沢又は艶のある外観をもたらす。それによって、下部の化粧用製剤に、光沢を生み出すために従来求められている成分をより低濃度で配合することが可能になるために、これは有益である。また、マスクは、皮膚に利益をもたらすことが意図される活性成分を含んでもよい。
【0038】
その一方で、化粧用製剤がスキンケアトリートメントであり、皮膚内に送達するための活性物質を有しているならば、マスクは着色剤を含んでもよい。また、マスクは、皮膚に利益をもたらす活性成分を含んでもよい。これらは、スキンケア製剤中のものと同じであっても異なっていてもよい。化粧用又はスキンケア製剤を皮膚から落とすことが所望された場合、その部分を約38℃を上回る水ですすぎ、軽くこする。プライマーがすすぎ落とされるときに、下部の化粧用製剤との付着性は、製剤を皮膚から持ち上げて引き離し、毛穴から出すのに十分である。皮膚は、完全に且つ容易に清浄になる。
【0039】
幾つかの好ましい実施形態では、本発明の組成物は、プライマーとマスクの両方に使用して、両方を使用する利益を組み合わせることができる。例えば、本発明による噴霧式皮膜形成組成物の第1の層を、上記のように、皮膚に直接適用し、硬化させて乾燥皮膜にしてもよい。乾燥したら、化粧用製剤、例えば液体ファンデーション、又はスキンケア製剤、例えば活性成分を有する美容液をプライマー組成物の上に通常の方法で適用する。表面張力が近いため、液体ファンデーションはプライマー組成物によってその場に保持され、それによって液体ファンデーションは化粧もちのよい製品へと変化する。次に、本発明の噴霧式皮膜形成組成物の第2の層を化粧用又はスキンケア製剤の上に適用し、硬化させて、化粧用又はスキンケア製剤をオーバーコートする乾燥皮膜にする。このマスク層は、移り及びにじみを防止しながら、皮膚の外観に光沢を与える。化粧用又はスキンケア製剤を皮膚から落とすことが所望された場合、その部分を約38℃を上回る水ですすぎ、軽くこする。プライマー層は、上塗りする化粧用又はスキンケア製剤及びマスク層と一緒に皮膚から持ち上がる。皮膚は、完全に且つ容易に清浄になる。
【0040】
以下の非限定的な実施例によって本発明を説明する。
【0041】
[実施例1]
【0042】
【0043】
[実施例2]
【0044】