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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/20 20060101AFI20230523BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F16J9/20
F02F5/00 F
F02F5/00 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022030031
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2022-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯村 聡
(72)【発明者】
【氏名】高坂 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 優士
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-113940(JP,A)
【文献】国際公開第2011/064888(WO,A1)
【文献】特開2020-204349(JP,A)
【文献】特開2020-193666(JP,A)
【文献】特表2010-530045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00- 1/24
F16J 7/00-10/04
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、
該ピストンリングの外周に設けられた外周面と、該ピストンリングの内周に設けられた内周面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関において燃焼室側に面する上面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関においてクランク室側に位置する下面と、を有し、
前記外周面は、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、該ピストンリングにおいて最大径となる外周端部を含む外周端面と、前記外周端面と前記下面との間に該ピストンリングの周長方向に延在する切欠部を形成するように前記外周端面と前記下面とを接続するカット面と、を有し、
前記カット面は、前記クランク室側に向かうに従って該ピストンリングの中心軸に接近するように凹状に湾曲した湾曲凹面を含み、
該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面と平行に延在する第1仮想直線に対する、前記湾曲凹面において最も前記燃焼室側に位置する点における前記湾曲凹面の接線の傾斜角度は、5°以上50°以下であり、
該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、前記カット面の軸方向幅をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下であり、
前記ピストンリングの径方向における前記カット面の長さをDとしたとき、0.2mm≦D≦0.6mmである、
ピストンリング。
【請求項2】
前記ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記湾曲凹面は、その全域に亘って曲率半径が一定である、
請求項に記載のピストンリング。
【請求項3】
前記外周面には、PVD処理被膜、DLC被膜、クロムめっき処理被膜、窒化処理被膜、化成処理被膜、樹脂被膜、酸化処理被膜、Ni-Pめっき処理被膜、及び塗膜のうち少な
くとも何れか1つの層を含む硬質被膜が形成されている、
請求項1又は2に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記カット面は、前記湾曲凹面と前記下面とを接続する下側R面を更に含み、
前記下側R面の曲率半径は、0.01mm以上0.2mm以下である、
請求項1からの何れか一項に記載のピストンリング。
【請求項5】
複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、前記複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるセカンドリングとして形成されている
請求項1からの何れか一項に記載のピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、トップリング及びセカンドリングを含む2本のコンプレッションリング(圧力リング)と1本のオイルリングとを組み合わせた3本のピストンリングを、シリンダに装着されたピストンに設けた構成を採用している。これら3本のピストンリングは、上側(燃焼室側)から順にトップリング、セカンドリング、オイルリングがピストンの外周面に形成されたリング溝に装着され、シリンダ内壁面を摺動する。燃焼室から最も遠いオイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。このようなピストンリングの組み合わせにより、内燃機関におけるブローバイガスの低減とオイル消費の低減が図られている。また、セカンドリングを、外周側の下部にステップ状の切欠(アンダーカット)が形成されたスクレーパリングとすることで、オイル掻き性能を向上させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-113940号公報
【文献】特開2020-193666号公報
【文献】国際公開第2016/121483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアンダーカットを有するピストンリングが組み付けられた内燃機関では、ピストンの下降行程において、シリンダ内壁のオイルの一部が、アンダーカットの表面を流動することでピストンに形成されたリング溝の面取り部分に乗り、ピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間に流れ込む場合がある。そのようなオイルが燃焼室側に流出することで、オイル消費量が増大する虞がある。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量を低減することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用した。即ち、本発明は、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、該ピストンリングの外周に設けられた外周面と、該ピストンリングの内周に設けられた内周面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関において燃焼室側に面する上面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関においてクランク室側に位置する下面と、を有し、前記外周面は、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、該ピストンリングにおいて最大径となる外周端部を含む外周端面と、前記外周端面と前記下面との間に該ピストンリング
の周長方向に延在する切欠部を形成するように前記外周端面と前記下面とを接続するカット面と、を有し、前記カット面は、前記クランク室側に向かうに従って該ピストンリングの中心軸に接近するように凹状に湾曲した湾曲凹面を含み、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面と平行に延在する第1仮想直線に対する、前記湾曲凹面において最も前記燃焼室側に位置する点における前記湾曲凹面の接線の傾斜角度は、5°以上50°以下であり、該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、前記カット面の軸方向幅をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下である、ピストンリングである。
【0007】
本発明に係るピストンリングは、その外周面が上述のように凹状に湾曲した湾曲凹面を有している。そのため、ピストンリングによって掻き落とされたオイルの一部が湾曲凹面を流動した場合に、当該一部のオイルをクランク室側に落とし易くなる。これにより、ピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間にオイルが流れ込むことが抑制される。
【0008】
また、本発明において、前記ピストンリングの径方向における前記カット面の長さをDとしたとき、0.2mm≦D≦0.6mmであってもよい。
【0009】
また、本発明において、前記ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記湾曲凹面は、その全域に亘って曲率半径が一定であってもよい。
【0010】
また、本発明において、前記外周面には、PVD処理被膜、DLC被膜、クロムめっき処理被膜、窒化処理被膜、化成処理被膜、樹脂被膜、酸化処理被膜、Ni-Pめっき処理被
膜、及び塗膜のうち少なくとも何れか1つの層を含む硬質被膜が形成されてもよい。
【0011】
また、本発明において、前記カット面は、前記湾曲凹面と前記下面とを接続する下側R面を更に含み、記下側R面の曲率半径は、0.01mm以上0.2mm以下である、
【0012】
また、本発明において、複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、前記複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるセカンドリングとして形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量をより低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るセカンドリングを備える内燃機関の一部を示す断面図である
図2】実施形態に係るセカンドリングの外周面を説明するための断面図である。
図3】実施形態に係る内燃機関においてピストンが下降行程のときのセカンドリング付近の断面図である。
図4】比較例に係る内燃機関においてピストンが下降行程のときのセカンドリング付近の断面図である。
図5】実施形態の変形例に係るセカンドリングの外周面を説明するための断面図である。
図6】捩れ試験を説明するための図である。
図7】比較例に対する実施例のオイル流出量比を示すグラフである。
図8】θ1とオイル流出量との関係を示すグラフである。
図9】H/h1とオイル流出量との関係を示すグラフである。
図10】Dとオイル流出量との関係を示すグラフである。
図11】ピストンの下降行程における内燃機関のセカンドリング付近のオイルの流動分布の解析結果を示す図(1)である。
図12】ピストンの下降行程における内燃機関のセカンドリング付近のオイルの流動分布の解析結果を示す図(2)である。
図13】ピストンの下降行程における内燃機関のセカンドリング付近のオイルの流動分布の解析結果を示す図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明をピストンリングの一例としてのセカンドリングに適用したものである。このセカンドリングは、複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、当該複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるコンプレッションリングである。但し、本発明に係るピストンリングは、セカンドリングに限定されない。本発明は、燃焼室に最も近い位置に装着されるコンプレッションリングであるトップリングや、燃焼室から最も遠い位置に装着されるオイルリングに適用してもよい。また、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
なお、以下の説明において「周長方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの周長方向のことを指す。「径方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの半径方向のことを指す。「径方向内側」とは、ピストンリングの内周面側のことを指し、「径方向外側」とは、その反対側のことを指す。「軸方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの中心軸に沿う方向のことを指す。また、ピストンのリング溝の「上壁面」は、リング溝の内壁のうち、燃焼室側の内壁を指し、「下壁面」は、クランク室側の内壁を指す。
【0017】
[内燃機関]
図1は、実施形態に係るセカンドリング40を備える内燃機関100の一部を示す断面である。図1では、符号20で示すピストンの中心軸に沿う断面が図示されている。図1に示すように、実施形態1に係る内燃機関100は、シリンダ10と、シリンダ10に装着(挿入)されたピストン20と、ピストン20に装着された複数のピストンリング30,40,50と、を備える。実施形態に係る内燃機関100では、2本のコンプレッションリング(トップリング30とセカンドリング40)及び1本のオイルリング50がピストン20に装着されている。2本のコンプレッションリングのうち、トップリング30が燃焼室に最も近い位置に装着され、セカンドリング40が燃焼室側から2番目の位置に装着されている。オイルリング50は、燃焼室から最も遠い位置に装着されている。
【0018】
図1に示すように、内燃機関100では、ピストン20の外周面20aとシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離が確保されることにより、隙間PC1が形成されている。また、ピストン20の外周面20aには、ピストン20の軸方向に所定の間隔を空けて上側(燃焼室側)から順に第1リング溝201と第2リング溝202と第3リング溝203とが形成されている。リング溝201~203は、ピストン20の軸回りに環状に延びる溝として外周面20aの全周に形成されている。図1に示すように、各リング溝は、上下に対向配置された一対の溝壁(内壁)を含んで形成されている。一対の溝壁のうち、上側の溝壁を上壁面W1と称し、下側の溝壁を下壁面W2と称する。また、各リング溝における、上壁面W1の内周縁と下壁面W2の内周縁とを接続する溝壁を底壁面W3と称する。図1に示すように、第1リング溝201にトップリング30が装着され、第2リング溝202にセカンドリング40が装着され、第3リング溝203にオイルリング50が装着されている。また、ピストン20にリング溝201~203が形成されることで、ピストン20には、燃焼室側から順に、トップランドL1、セカンドランドL2、サードランドL3が画定されている。なお、本明細書では、図1に示すように各ピストンリングがピストン20に装着され、且つ、ピストン20がシリンダ10に装着された状態を、「
使用状態」と称する場合がある。
【0019】
トップリング30及びセカンドリング40は、ピストンリングの一種であるコンプレッションリングであり、内燃機関のシリンダに装着されたピストンに組み付けられ、ピストンの往復運動に伴ってシリンダの内壁面を摺動する。トップリング30及びセカンドリング40は、リング溝に装着された場合にシリンダ10の内壁面10aを押圧するように、自己張力を有している。オイルリング50は、ピストンリングの一種である所謂3ピース型のオイルリングであり、シリンダ10の内壁面10aを摺動する一対のセグメント501,501と、これらを径方向外側(内壁面10a側)に付勢するスペーサエキスパンダ502と、を備える。以下、本発明に係るピストンリングの一例であるセカンドリング40について、詳細に説明する。
【0020】
[セカンドリング]
図1に示すように、セカンドリング40は、外周面1と内周面2と上面3と下面4とを有する。外周面1は、セカンドリング40の外周に設けられた面である。内周面2は、セカンドリング40の内周に設けられた面である。上面3は、40の軸方向端面のうち内燃機関100において上側(燃焼室側)に面する端面である。下面4は、40の軸方向端面のうち内燃機関100(使用状態)において下側(クランク室側)に面する端面である。上面3と下面4とによって、セカンドリング40の軸方向における幅(以下、軸方向幅とも呼ぶ)が規定される。セカンドリング40は、使用状態において、上面3が第2リング溝202の上壁面W1に対向し、下面4が第2リング溝202の下壁面W2に対向し、外周面1がシリンダ10の内壁面10aに摺接し、内周面2が第2リング溝202の底壁面W3に対向する。セカンドリング40は、合口(図示なし)が形成された円環状を有している。また、セカンドリング40は、第2リング溝202に装着された場合に外周面1がシリンダ10の内壁面10aを押圧するように、自己張力を有している。また、図1に示すように、セカンドリング40は、その外周下部に符号5で示す切欠部(アンダーカット)が形成された、アンダーカット形状を有している。切欠部5は、セカンドリング40の周長方向に延在しており、セカンドリング40の全周に亘って形成されている。使用状態においては、切欠部5がオイル溜まりとなり、ピストン20の下降時においてセカンドリング40が隙間PC1内のオイルを掻き落とす際に、切欠部5にオイルがバッファされることで、油圧の上昇が抑制される。その結果、良好なオイル掻き性能が得られる。なお、切欠部5は、セカンドリング40の全周に亘って形成される必要はなく、例えば、合口部近傍においては切欠部5が形成されていなくともよい。つまり、切欠部5は、合口部を形成する合口端部を除いてセカンドリング40に形成されてもよい。これにより、ガスシール性能を高めることができる。
【0021】
図2は、実施形態に係るセカンドリング40の外周面1を説明するための断面図である。図2では、セカンドリング40の周長方向に直交する断面の一部が図示されている。図2に示すように、セカンドリング40の外周面1は、テーパ面11とカット面12と接続面13とを有する。
【0022】
図2に示すように、テーパ面11は、符号1aで示す外周端部1aを含み、内燃機関100においてシリンダ10の内壁面10aを摺動する面である。外周端部1aは、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、セカンドリング40において最大径となる部位である。図2に示す外周端部1aは、縁として形成されているが、丸みを帯びた面として形成されてもよい。テーパ面11は、外周端部1aを下縁として、外周端部1aから上側(燃焼室側)に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸に近づくように(つまり、縮径するように)傾斜している。これにより、実施形態に係るセカンドリング40の外周形状は、テーパアンダーカット形状となっている。テーパ面11は、本発明に係る「外周端面」に相当する。なお、本発明に係る外周端面は、軸方向の位置によらず外径が
一様なストレート面であってもよい。その場合、ストレート面の全体が外周端部となる。また、本発明に係る外周端面は、径方向の外側に凸状となるように湾曲したバレル形状であってもよい。その場合、バレル形状の頂点が外周端部となり、該頂点から下方にアンダーカットが形成される。
【0023】
図2に示すように、接続面13は、テーパ面11の上縁と上面3の外周縁とを接続している。なお、本発明において、接続面13は必須の構成ではない。
【0024】
図2に示すように、カット面12は、テーパ面11と下面4との間に切欠部5を形成するように設けられており、テーパ面11と下面4とを接続している。カット面12は、湾曲凹面121と下側R面122とを含んで構成されている。図2に示すように、湾曲凹面121は、下側(クランク室側)に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸に接近するように凹状に湾曲している。ここで、湾曲凹面121の曲率半径をR1とする。図2に示すように、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、湾曲凹面121は、上側に凸の曲線を呈している。より具体的には、実施形態に係る湾曲凹面121は円弧状に形成されており、その曲率半径R1は湾曲凹面121の全域において一定である。つまり、実施形態に係る湾曲凹面121は、曲率が変化しない単一の円弧により形成されている。但し、本発明における湾曲凹面の形状はこれに限定されない。湾曲凹面は、曲率が変化するように形成されてもよい。図2に示すように、湾曲凹面121の上縁は、外周端部1aに接続されている。なお、湾曲凹面121と外周端部1aとの間には別の面(例えばR面)が介在してもよい。図2の符号P1は、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において湾曲凹面121において最も上側に位置する点を示す。本実施形態では、湾曲凹面121の上縁が外周端部1aに接続されているため、点P1は外周端部1aに一致する。
【0025】
図2に示すように、下側R面122は、湾曲凹面121の下縁と下面4の外周縁とを接続している。下側R面122は、面取り加工により形成された所謂コーナーRであり、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、凸状となるように、円弧状に形成されている。図2に示すように、下側R面122の曲率半径をr1とする。なお、本発明において、下側R面122は必須の構成ではない。
【0026】
ここで、図2に示すように、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、点P1から径方向の外側へ下面4と平行に延在する仮想の直線を第1仮想直線VL1とする。また、図2の符号T1は、セカンドリング40の周長方向に直交する断面における、点P1における湾曲凹面121の接線を示す。このとき、第1仮想直線VL1に対する接線T1の傾斜角度をθ1とする。また、セカンドリング40の軸方向幅をh1とし、カット面12の軸方向幅(即ち、切欠部5の幅)をHとする。また、セカンドリング40の径方向におけるカット面12の長さ(即ち、切欠部5の深さ)をDとする。このとき、実施形態に係るセカンドリング40では、5°≦θ1≦50°となるように、θ1が設定されている。また、セカンドリング40では、0.2≦H/h1≦0.4となるように、h1及びHが設定されている。なお、h1の範囲は特に限定されないが、例えば、0.8mm≦h1≦2.5mm以下とするのが好ましい。
【0027】
[オイルシール性能]
以下、実施形態に係るセカンドリング40のオイル掻き落とし性能について説明する。図3は、実施形態に係る内燃機関100においてピストン20が下降行程のときのセカンドリング40付近の断面図である。図4は、比較例に係る内燃機関200においてピストン20が下降行程のときのセカンドリング60付近の断面図である。図3及び図4では、ピストン20の中心軸に沿う断面が図示されている。図4に示す比較例に係る内燃機関200は、実施形態に係るセカンドリング40に代えて、従来のテーパアンダーカット形状
のセカンドリング60がピストン20の第2リング溝202に装着されている点で、実施形態に係る内燃機関100と相違する。ここで、図3及び図4の符号F1は、シリンダ10の内壁面10aに存在する一部のオイルのピストン20に対する相対的な流れを表している。また、符号C1は、第2リング溝202の下壁面W2とピストン20の外周面20aとの間に形成された面取り部分を示す。
【0028】
図4に示すように、比較例に係る内燃機関200では、セカンドリング60によって掻き落とされたオイルの一部がアンダーカットの表面を流動する場合がある。その場合、当該一部のオイルは、隙間PC1に落とされずに第2リング溝202の面取り部分C1に当たり、セカンドリング60の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間に流れ込む可能性がある。そのため、比較例では、セカンドリング60の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間に流れ込んだ一部のオイルがリング背面(より詳しくは、セカンドリング60の内周側)を通過し、燃焼室側に流出することで、オイル消費量が増大する虞がある。
【0029】
これに対して、実施形態に係る内燃機関100では、セカンドリング40の外周面1が上述のように凹状に湾曲した湾曲凹面121を有している。そのため、図3に示すように、セカンドリング40によって掻き落とされたオイルの一部が湾曲凹面121を流動した場合に、当該一部のオイルを拡散させることで、サードランドL3の隙間PC1に落とし易くなる。これにより、セカンドリング40の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間にオイルが流れ込むことが抑制される。
【0030】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係るセカンドリング40において切欠部5を形成するカット面12は、下側に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸に接近するように凹状に湾曲した湾曲凹面を含んでいる。また、実施形態に係るセカンドリング40では、第1仮想直線VL1に対する接線T1の傾斜角度θ1が5°以上50°以下であり、H/h1が0.2以上0.4以下となっている。実施形態に係るセカンドリング40は、以上のように構成されることで、オイルシール性能を高め、内燃機関100のオイル消費量を低減することができる。
【0031】
ここで、カット面の長さDが過大になると、ピストンの面取り部に当たるオイルの量が増えるため、リング下面(ピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間)へのオイルの流出量が増加する。θ1が5°未満の場合、アンダーカット部分(切欠部5)の容積を確保しつつ、カット面の長さDが過大とならないようにするためには、カット面の軸方向幅Hを小さくし、湾曲凹面の曲率半径R1を小さくする必要がある。R1が小さくなることにより、クランク室側へ向けて流れるオイルの勢いが弱まる。その結果、ピストンの面取り部に乗り上げるオイルが増え、リング下面へのオイルの流出が増加する(図10参照)。θ1が50°以上の場合、アンダーカット部分(切欠部5)の容積を確保しつつ、湾曲凹面を成立させるためにはカット面の軸方向幅Hを高くする必要があり、カット面12の長さDを小さくする必要がある。カット面の長さDを小さくすることで、オイルの渦が発生し、ピストンの面取り部に乗り上げるオイルの量が増えるため、リング下面へのオイルの流出が増加する。以上のように、θ1が5°未満の場合やθ1が50°を超える場合には、アンダーカット部分(切欠部5)の寸法が限定されてしまうため、形状設計が制約を受ける。また、H/h1が0.2未満の場合、アンダーカット部分(切欠部5)の空間が狭くなり、早い段階からピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間にオイルが流出する(図11参照)。また、H/h1が0.4よりも大きい場合、アンダーカット部分の空間が広くなり、アンダーカット部分にてオイルが旋回し渦が発生する。発生した渦によってオイルの拡散が妨げられ、サードランドの隙間に落とす(逃がす)オイルが減少する(図12参照)。なお、θ1は、5°≦θ1≦40°とすることがより好ましく、5°
≦θ1≦30°とすることが更に好ましい。また、H/h1は、0.2≦H/h1≦0.3とすることがより好ましい。
【0032】
なお、オイルシール性能の向上の観点では、下側R面の曲率半径r1は、0.01mm≦r1≦0.2mmとすることが好ましく、0.05mm≦r1≦0.2mmとすることがより好ましい。また、同様の観点で、0.2mm≦D≦0.6mmとすることがより好ましく、0.2mm≦D≦0.5mmとすることが更に好ましい。また、同様の観点で、0.2mm≦H≦0.6mmとすることがより好ましい。但し、本発明はこれらの数値に限定されない。外周面1に硬質被膜が存在する場合において、r1が0.01mm未満の場合、セカンドリング40の下面4の研削加工の際に、被膜の角部分に欠けが発生する恐れがある。r1が0.2mmよりも大きい場合、カット面12の全体において湾曲凹面121が占める割合が減る。それにより、湾曲凹面121の拡散力が減少し、リング下面を流動するオイルとピストン面取りに乗り上げるオイルが増え(r1の拡大によってオイルがリング下面に誘導される)、クランク室側に落とされるオイルが減ると考えられる。
【0033】
また、実施形態に係るセカンドリング40では、周長方向に直交する断面において湾曲凹面121の全域に亘って曲率半径が一定となっている。例えば、PVD(physical vapor deposition)法のようにターゲットを用いた蒸着法によってピストンリングの表面に
蒸着膜を形成する場合、対象となる面に曲率が変化する箇所が存在すると、蒸着膜の材料となる粒子が十分に衝突し難く、蒸着膜の膜厚が不均一となる場合がある。例えば、比較例に係るセカンドリング60のアンダーカットの表面は、その曲率半径が一定ではないため、蒸着膜の膜厚が不均一となり易い。蒸着膜の膜厚が不均一だと、後工程の化成処理時に蒸着膜の薄い部分から処理液が基材表面と蒸着膜の間に浸透し、ピストンリングのエンジン組み付け作業において蒸着膜の剥離する虞がある。剥離した蒸着膜は異物となり、内燃機関の運転中にシリンダ内壁に傷を発生させる要因となる。このような問題に対して、実施形態に係るセカンドリング40では、湾曲凹面121の全域に亘って曲率半径が一定であるため、湾曲凹面121に対して膜厚の均一性の高い蒸着膜を成膜することができる。これにより、蒸着膜の密着性を良好なものとすることができ、蒸着膜の浮きや剥離を抑制することができる。
【0034】
[変形例]
図5は、実施形態の変形例に係るセカンドリング40Aの外周面1を説明するための断面図である。図5では、セカンドリング40Aの周長方向に直交する断面の一部が図示されている。図5に示すように、セカンドリング40Aは、外周面1に符号6で示す硬質被膜が形成されている点で、上述のセカンドリング40と相違する。変形例に係るセカンドリング40Aでは、硬質被膜6によって外周面1が構成されている。
【0035】
硬質被膜6は、PVD処理被膜、DLC被膜、クロムめっき処理被膜、窒化処理被膜、化成処理被膜、樹脂被膜、酸化処理被膜、Ni-Pめっき処理被膜、及び塗膜のうち少なく
とも何れか1つの層を含む被膜として形成されている。なお、「PVD(physical vapor
deposition)処理被膜」とは、PVD法により形成された被膜のことを指す。なお、P
VD法とは、膜材料を含んで形成されたターゲットから出射された膜材料の粒子を基材に付着させることで基材の表面に膜を形成する蒸着法の一種であり、物理気相成長とも呼ぶことができる。PVD法には、イオンプレーティング法、真空蒸着法、イオンビーム蒸着法、スパッタリング法、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等を含むことができる。また、「DLC(Diamond Like Carbon)被膜」とは、主として炭化水素や炭素の
同素体により構成される非晶質の硬質炭素被膜のことを指す。また、「クロムめっき処理被膜」とは、クロムめっきにより形成された被膜のことを指す。クロムめっきは工業用クロムめっきとも呼ばれる。「窒化処理被膜」とは、窒化処理により金属表面に窒素を浸透させることで形成される被膜のことを指す。「化成処理被膜」とは、化成処理により形成
された被膜のことを指す。化成処理の例としては、四三酸化鉄処理(黒染め)、リン酸塩処理、クロム酸塩処理などが挙げられる。また、リン酸塩処理の例としては、リン酸マンガン処理、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理などが挙げられる。また、「樹脂被膜」とは、樹脂材料により形成された被膜のことを指す。「酸化処理被膜」とは、酸化処理により金属表面を酸化させることで形成される被膜のことを指す。酸化処理の例としては、アルマイト処理などが挙げられる。「Ni-Pめっき処理被膜」とは、無電解Ni-Pめっきにより形成された被膜のことを指す。なお、「塗膜」とは、ペイント(塗料)の塗布により形成された膜のことを指す。「塗膜」や「樹脂被膜」の例としては、水性又は油性の樹脂ペイントによる樹脂塗膜などが挙げられる。このような硬質被膜を形成することで、セグメントの上下面の耐摩耗性を高めることができる。硬質被膜6としては、例えば、Cr窒化物被膜(Cr-N膜やCr-B-N膜など)、や非晶質炭素被膜が例示される。但し、本発明に係る硬質被膜は、これらに限らない。変形例1によると、硬質被膜6を外周面1に形成することで、外周面1の耐摩耗性を高めることができる。
【0036】
<密着性評価>
実施形態に係るセカンドリングに成膜されたPVD被膜の密着性の評価を行った。密着性の評価では、化成処理により酸化被膜を成膜した後のセカンドリングを対象に捩れ試験を実施し、カット面にPVD被膜の剥離が存在するか否かを目視にて観察した。図6は、捩れ試験を説明するための図である。捩れ試験では、図6に示すように、セカンドリング40の合口を形成する一対の合口端部410,420を掴持し、中心軸に対して合口の反対側部位430を支点として、セカンドリングが図6の実線で示される姿勢となる方向にセカンドリングを所定の捩れ角度で捻った。なお、このときの捩れ角度は180°とした。
【0037】
[実施例]
実施例として、図2で示した実施形態に係るセカンドリング40の外周面1に硬質被膜としてPVD被膜を成膜した場合の密着性を評価した。
【0038】
[比較例]
比較例1として、図4で示した比較例に係るセカンドリング60の外周面1に硬質被膜6としてPVD被膜を成膜した場合の密着性を評価した。
【0039】
[実験結果]
表1に示す評価結果は、密着性評価の結果を以下の評価基準で表したものである。評価基準は、PVD被膜の剥離の発生が確認されなかったものを「○」とし、剥離の発生が確認されたものを「×」とした。表1に示すように、比較例よりも実施例の方が密着性に優れる結果となった。これにより、実施形態1に係る表面処理方法によってPVD被膜の密着性が向上することを確認できた。
【0040】
【表1】
【0041】
<オイルシール性能評価>
解析ソフトを用いた解析により、実施形態に係るセカンドリングのオイルシール性能の評価を行った。シール性能の評価では、内燃機関におけるピストンの下降行程におけるオイルの流出量を解析した。
【0042】
[比較評価]
実施例1~2として、図2で示した実施形態に係るセカンドリング40のオイルシール性能を評価した。実施例1では、h1=1.48mm、H=0.42mm、D=0.3mm、θ1=20°のセカンドリングを用いた。実施例2では、h1=1.48mm、H=0.36mm、D=0.31mm、θ1=8°のセカンドリングを用いた。比較例として、図4で示した比較例に係るセカンドリング60のオイルシール性能を評価した。
【0043】
[比較結果]
図7は、比較例に対する実施例のオイル流出量比を示すグラフである。図7の縦軸で表されるオイル流出量比は、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量の比である。図7に示す通り、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量について、比較例に対する実施例1の比は、0.59となった。また、比較例に対する実施例2のオイル流出量の比は、0.61となった。図7の解析結果により、実施例1~2は比較例と比較してセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が低減されることが分った。
【0044】
[パラメータ評価]
図8は、θ1とオイル流出量との関係を示すグラフである。図8では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、θ1=0°、10°、20°、30°、40°、50°、60°とした場合のθ1とオイル流出量との関係が示されている。また、図9は、H/h1とオイル流出量との関係を示すグラフである。図9では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、H/h1=0.15、0.2、0.3、0.4、0.45とした場合のH/h1とオイル流出量との関係が示されている。図8図9において縦軸で表されるオイル流出量は、セカンドリングの外周面とシリンダの内壁面との間を通ってセカンドランドに流出するオイルの量である。また、図10は、Dとオイル流出量との関係を示すグラフである。図10では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、D=0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.5mmとした場合のDとオイル流出量との関係が示されている。図10の縦軸で表されるオイル流出量は、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイルの量である。図8に示すように、θ1=0°、10°、20°、30°、40°、50°の場合の方がθ1=60°の場合よりもセカンドランドへのオイル流出量が比較的少ないことが分る。これにより、θ1を50°以下とすることでセカンドランドへのオイル流出量が低減することが分った。また、図9に示すように、H/h1=0.2、0.3、0.4の場合の方がH/h1=0.15、0.45の場合よりもセカンドランドへのオイル流出量が比較的少ないことが分る。これにより、H/h1が0.2以上0.4以下とすることでセカンドランドへのオイル流出量が低減することが分った。また、図10に示すように、0.2mm≦D≦0.5mmの範囲においてセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間のオイル流出量が低減されることが分った。特に、Dが0.3mm付近においてオイル流出量が最も少ないことが分る。つまり、D<0.3mmの範囲では、Dが小さくなるほどオイル流出量が増加する。これは、シリンダの内壁面のオイルとリングのアンダーカット部分(切欠部)のオイルとが干渉することでオイルの渦が発生し、流速の低下したオイルがリング下面に沿って流れるためだと考えられる。また、D>0.3mmの範囲では、Dが大きくなるほどオイル流出量が増加する。これは、ピストンの面取り部に当たるオイルの量が増加することでリング下面に沿って流れるオイルの量が増加するためだと考えられる。
【0045】
<流動分布評価>
実施形態に係るセカンドリングを用いた場合のオイルの流れを解析ソフトにより解析した。図11図13は、ピストンの下降行程における内燃機関のセカンドリング付近のオイルの流動分布の解析結果を示す図である。図11図13において、「Volume Fraction of Oil」のグラデーションスケールは、オイルの体積分率を表している。図11図13の解析結果において、黒い部分はオイルの比率が低く(空気が多い)、白い部分はオイルの比率が高い(オイルが多い)。また、図11図13の白矢印は、オイルが流れる方向を示している。
【0046】
図11では、θ1=0°、θ1=10°、θ1=20°とした場合の夫々の流動分布が示されている。図11に示すように、θ1=10°、θ1=20°の場合は、θ1=0°の場合と比較して、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が少ないことが分る。図11に示すように、θ1=10°、θ1=20°の場合は、θ1=0°の場合と比較してセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が低減されることが分る。
【0047】
図12では、H/h1=0.2、H/h1=0.4、H/h1=0.5とした場合の夫々の流動分布が示されている。図12に示すように、H/h1=0.5の場合は、オイルの渦が発生し、ピストンの面取り部に当たるオイルの量が増える結果、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が増加することが分る。
【0048】
図13では、上述の比較例、実施例1、及び実施例2の夫々の流動分布が示されている。図13に示すように、実施例1及び実施例2は、比較例と比較して、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が少ないことが分る。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。なお、本発明の適用対象は特に限定されないが、本発明に係るピストンリングは、内燃機関の中でもガソリンエンジンに例示される火花点火機関に対して好適に適用することができる。但し、本発明に係るピストンリングは、ディーゼルエンジンに例示される圧縮着火機関に適用しても差し支えない。また、本発明に係るピストンリングをセカンドリングとして火花点火機関に適用した場合には、図1で示すように、トップリングの外周形状をバレル形状とし、オイルリングのセグメントの外周形状をバレル形状とすることが特に好ましい。これにより、フリクションの増加を抑えつつもガスシール性能とオイルシール性能とを確保することができる。なお、「バレル形状」とは、ピストンリングにおいて最大径となる頂部を含んで径方向外側に凸状となるように湾曲した外周面形状のことを指し、頂部が上下中央に位置する対称バレル形状や頂部が上下中央より上下どちらかにオフセットする偏心バレル形状を含むものとする。
【符号の説明】
【0050】
1 :外周面
1a :外周端部
12 :カット面
121 :湾曲凹面
122 :下側R面
2 :内周面
3 :上面
4 :下面
5 :切欠部
6 :硬質被膜
10 :シリンダ
20 :ピストン
40 :セカンドリング(ピストンリングの一例)
100 :内燃機関
【要約】
【課題】アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量をより低減することが可能な技術を提供する。
【解決手段】ピストンリングの外周面は、外周端部と下面との間に切欠部を形成するように設けられたカット面を有し、カット面は湾曲凹面を含み、下面と平行に延在する第1仮想直線に対する、湾曲凹面において最も燃焼室側に位置する点における湾曲凹面の接線の傾斜角度は、5°以上50°以下であり、該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、前記カット面の軸方向幅をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13