(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】防災地下シェルター
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
E04H9/02 301
(21)【出願番号】P 2018230090
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】599174339
【氏名又は名称】株式会社天神製作所
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天神 一利
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-137968(JP,U)
【文献】国際公開第2017/038088(WO,A1)
【文献】特開平11-107566(JP,A)
【文献】特表2009-514654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04H 6/00 - 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上面から掘削された埋設ピット内に設置される鋼鉄製の外壁板と補強板で囲まれた筐体構造で外表面に防錆塗装が施され、通気ダクトを介して外気が取り込み可能な空気濾過清浄器を備えた居住区画となるシェルタードッグと、地上に突出する防水装甲ドアを設けた人や物資の出入口棟と、この出入口棟の室内と地下シェルタードッグの地下出入口との間に搭乗ボックスを昇降するパンタグラフ式の油圧リフト機構からなるエレベーターを設けると共に、当該エレベーターを駆動させる蓄電池を設けた防災地下シェルターにおいて、前記油圧リフトは常時パンタグラフを上昇させる方向に付勢力が働くように配置され、前記出入口棟の内壁
には地下から出入口棟の屋上に渡ってはしご状の内部非常用タラップが、出入口棟の外側壁には地上から
出入口棟の屋上に渡ってはしご状の外部非常用タラップがそれぞれ設けられると共に、出入口棟の屋上には、前記内部非常用タラップの非常用ハッチ及びその開閉蓋、バッテリー充電用ソーラーパネル、テレビアンテナ及び外部監視カメラが搭載され、前記居住区画は中仕切りドアが設けられた耐力間仕切壁で前記出入口棟と隔てられていることを特徴とする防災地下シェルター。
【請求項2】
蓄電池の全電力消費時又は商用電源の停電時に手動でクランクを回して空気濾過清浄器を作動させるバックアップ装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の防災地下シェルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然災害、有事災害の際に避難施設となる防災地下シェルターに関し、遮蔽性、耐久性に加え、耐震性、防水性、機能性及び安全性に優れた防災地下シェルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から地下シェルターや地下室について様々なものが提案されている。地下シェルターは、爆風や爆風による衝撃波、振動、放射線、ダスト、ガス、火災及び熱、電磁波などに対して、建設コストや地盤条件等に適合する形で、これらによる内部への影響を最小限に留めることが求められる。
【0003】
とくに防災地下シェルターでは、想定される外部からの様々な危険要素に対して内部の人や物品を安全に保護することが第一目的であり、剛健で居住機能性に優れ、各危険要素に対する科学的な防護構造を必要とする。
一方、地下に空間を設けることについて共通する地下室は、オーディオルーム、音楽レッスン室、居間、寝室など、趣味や娯楽用の居室としての利用が多く、住宅用地下室としての法的条件を満たす構造の範囲内でより短い工期でより安価に構築できることが望まれる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された地下シェルターの本体構造は、地中に打ち込んだ複数の杭に支持された耐圧盤上に防止塗膜を形成し、その上に高強度コンクリートからなるボックス状のシェルター内殻と耐力間仕切壁を設け、このシェルター内殻の底面を除く壁及び天井面である外表面を鉄板からなるシェルター外殻で覆い、さらに鉄板の外表面を防水塗膜で覆いシェルター内殻の底面と耐圧盤との間の防水塗膜とを一体的にして被覆した構造とされている。
【0005】
特許文献2に記載された地下室の本体構造は、形鋼などの芯材の外表面に金属板が固定され、内部側には非金属系内板が固定された床、壁、天井パネルを、短辺方向は門形ラーメン構造、長辺方向は耐震壁構造として組み立ててボックス状のユニットとし、このユニットを複数設置接合した構造としている。この地下室は外表面全域を金属板とすることで、防水性、防湿性を確保し、また、該金属板の防錆対策としては該金属板の外表面全域を有機溶剤塗膜と合成樹脂塗膜及び合成樹脂モルタルで被覆した構造とされている。
【0006】
このように、防災地下シェルターは、自然災害、有事災害に対しての避難空間として構築されるものである。したがって、その目的に応じた構造を採用することが肝要である。このため、シェルターを構成している各構成部分において、各々のシェルター独自の構成を工夫する必要があり、それは、地上入口と地下シェルターとの通路においても同様である。
【0007】
すなわち、地下に埋設又は構築された居住区画となるシェルター本体との間を昇降するための梯子や階段は、狭小な昇降空間に設けられることが多いので、こうした昇降空間において、人や物品の安全かつ容易な移動を要する。
【0008】
現在、地上出入口と地下シェルター本体との間を昇降するための装置として採用されている一般的な構成は、直線的又は螺旋的な階段や、垂直に移動する梯子の構成である。
【0009】
例えば、地上出入口と地下シェルターとの間に設けられた複数の踊り場と、複数の昇降手段(タラップ)からなり、踊り場から次の踊り場へはタラップを利用して昇降し、複数の踊り場は互いに上下間隔が上の踊り場に置いた荷物を容易に取れる高さであり、各踊り場は上段の踊り場に対して起立可能なエリアを有するように設置し、タラップを急勾配に構成した地下シェルターの昇降装置が提案されている(特許文献3参照。)。
【0010】
また、例えば、コンクリート製のシェルタードッグに連結した地下シェルターにおいて、シェルタードッグ内の内周寄りの床に固定された1本又は複数本のシェルターレールに沿って昇降駆動装置により上下移動ができる筐体を設けたものが提案されている(特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-240452号公報
【文献】特開平9-78609号公報
【文献】特開2015-17367号公報
【文献】特開2014-198984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
すなわち、これらの文献に記載された地下シェルター又は地下室の構造について、遮蔽性・耐久性に加え、耐震性・防水性・機能性を追求したさらに安全性の高い地下シェルターとするためには、いくつかの課題があり、遮蔽性・耐久性に加え、耐震性・防水性・機能性について十分な性能を有しているものが望まれる。本発明は、遮蔽性・耐久性に加え、耐震性・防水性機能は無論のこと、人や物資の安全かつ容易で迅速な避難移動を可能にした防災地下シェルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明の防災地下シェルターは、地上面から掘削された埋設ピット内に設置される鋼鉄製の外壁板と補強板で囲まれた筐体構造で外表面に防錆塗装が施され、通気ダクトを介して外気が取り込み可能な空気濾過清浄器を備えた居住区画となるシェルタードッグと、地上に突出する防水装甲ドアを設けた人や物資の出入口棟と、この出入口棟の室内と地下シェルタードッグの地下出入口との間に搭乗ボックスを昇降するパンタグラフ式の油圧リフト機構からなるエレベーターを設けると共に、当該エレベーターを駆動させる蓄電池を設けた防災地下シェルターにおいて、前記油圧リフトは常時パンタグラフを上昇させる方向に付勢力が働くように配置され、前記出入口棟の内壁には地下から出入口棟の屋上に渡ってはしご状の内部非常用タラップが、出入口棟の外側壁には地上から出入口棟の屋上に渡ってはしご状の外部非常用タラップがそれぞれ設けられると共に、出入口棟の屋上には、前記内部非常用タラップの非常用ハッチ及びその開閉蓋、バッテリー充電用ソーラーパネル、テレビアンテナ及び外部監視カメラが搭載され、前記居住区画は中仕切りドアが設けられた耐力間仕切壁で前記出入口棟と隔てられていることを第1の特徴とする。また、蓄電池の全電力消費時又は商用電源の停電時に手動でクランクを回して空気濾過清浄器を作動させるバックアップ装置を設けたことを第2の特徴とする。
【0014】
地下シェルターは、施工性・経済性・地盤条件等に適合する形でできる限り深く設置し、その天井表面部に覆土することが望ましい。同時に高温多湿で地下水位が高い本邦では、確実な防水性・防湿性も要求され、合理的で耐久性の高いものとしなければならない。
【発明の効果】
【0015】
以上のように構成した本発明は、以下の優れた効果がある。
(1)地上の出入口と地下に埋設された居住区画となるシェルタードッグとの狭小な昇降空間において、人や物資の安全かつ容易で迅速な避難移動を可能にする。
(2)平常時には、例えば、防音室としての書斎やオーディオルーム等のホビールームあるいは食料や飲料水の備蓄庫として使用することができ、しかも、地中に埋設されていて耐震性が高く水密性を備えているため、シェルタードッグ内への浸水を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る防災地下シェルターの一部破断した構造概念図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施形態による防災地下シェルターについて説明する。
図1に示すように、地上面GLから掘削された埋設ピット2内に居住区画となるシェルタードッグ1が埋設されている。シェルタードッグ1は鋼鉄製の外壁板と補強リブ板等で囲まれた筐体構造で外表面に防錆塗装が施され、地中に埋設されることにより、外気から完全に遮断された安全な地下室空間を創出することができるようにされている。
【0018】
本発明に係る地下シェルタードッグ1は、地上面GLからおよそ5~6mの深さの穴を掘り、底面部の整地を行った後、主に測量などの作業性を向上させるために均しコンクリートを打設してシェルター設置の準備を行う。その後、このシェルタードッグ1上面を土で埋め戻す。埋戻す際の覆土も地下シェルターにとっては重要な意味をもっており、火災による熱や放射線災害によるガンマ放射線の遮蔽性能も大幅に向上させることができる。
【0019】
本発明に係る地下シェルターの出入口部の地上に突出した出入口棟3の構造は、シェルター建設予定地の浸水災害の可能性を含めた立地条件や、建設コストを含めた顧客の要望により選択される。標準仕様では、シェルタードッグ1と出入口部を設けた地上棟3があり、その出入口部には、爆風に伴う衝撃波・風圧・振動・放射線・爆弾の破片・ダスト・ガス・火災及び熱・電磁波・洪水に対し、内部を防護する性能を有する防水装甲ドア4が設けられており、あらゆる災害に対し万全の構造を図るようにされている。
【0020】
出入口棟3の室内には、昇降装置としてのエレベーター5が設けられており、シェルタードッグ1の埋設深度に応じて昇降が設定されている。そして、出入口棟3とシェルタードッグ1とを隔てる耐力間仕切壁にも、中仕切りドア10が設けられており、例えば、出入口棟3をエアロック室及び放射性物質などを排除する除染室として機能させることもできる。また、地下空間は、熱暑や寒波といった急激な温度の変化が起こった際にも、一定の室温を保ち、避難生活の際の体力の消耗や病気など、二次的な被害を防ぐことができる。
【0021】
シェルタードッグ1内部を完全に密封すると、有害な物質が浸入する危険性は少なくなるが、酸素は時間の経過とともに減少する。そこで、通気ダクト14を介して外気が取り込み可能な空気濾過清浄器13により外気中の有害物質を除去しながら換気することができる。
この空気濾過清浄器13は商用電力が供給されている場合は、スイッチを入れることで稼働させることができるが。停電等により商用電力が供給されない状況下では、蓄電池9を予備電源として使用できるようにされている。
【0022】
蓄電池9は、商用電力が再供給されると自動的に充電状態に切り替わるが、長時間の停電によって蓄電池9の全電力を消費してしまうと、最終的なバックアップとして、手動でクランクを回して空気濾過清浄器13を作動させることができるようにされている。この空気濾過清浄器13に内蔵された濾過フィルターは、図示はしないが、複数層のプレフィルター、HEPフィルター、カーボンフィルターの順に外気を通過させ放射性物質等の人体に有害な物質を除去できるようにされている。また、空気濾過清浄器13には、自動換気送風機が取り付けられており、平常時にはシェルタードッグ1内部の空気を換気することにより、湿気を軽減し、カビ等の発生を防ぐことができるようにされている。
【0023】
次に、エレベーター(搭乗ボックス6を昇降させるリフト機構)5について説明する。リフト機構5は、基台7の上面に設けられる。リフト機構5は、油圧ポンプ8によって駆動する複数段式のパンタグラフ5aで構成されている。すなわち、交差して連結したアーム部材5bを複数段に設けた構造となっており、複数のアーム部材5bを長手方向略中央部で両者を回動可能に軸支され側面視「X」字状に配置している。
【0024】
また、下側のアーム部材5bの上端と上側のアーム部材5bの下端とは回動可能に軸支されており、交差するアーム部材5bの傾斜角を大きくすることにより、パンタグラフ5aが上方向へ伸長する。下側のアーム部材5bのうちの一方の下端は基台7に固定された回動軸(図示せず)に軸支されている。そして、下側のアーム部材5bのうちもう他方の下端は転動輪(図示せず)が設けられており、基台7上のレールに沿って前後方向に移動できるようにされている。
【0025】
また、上側のアーム部材5bの上端を付勢部材(例えば油圧シリンダー)によって連結している。付勢部材は、常時機体内側方向(パンタグラフを上昇させる方向)付勢力が働くように配置されている。このように構成することにより、搭乗ボックス6が下降する方向にかかる力(重力)に抗する力を常時与えることができ、駆動装置が搭乗板を上昇又は下降するときに要する力を軽減し、消費電力を節約することができる。
【0026】
出入口棟3の内壁及び外側壁には、地上から地下に渡って、はしご状の内部非常用タラップ12と外部非常用タラップ11が設けられている。そして、出入棟3の屋上には、内部非常用タラップ12の非常用ハッチ15及びその開閉蓋15a、バッテリー充電用ソーラーパネル16、テレビアンテナ17及び外部監視カメラ17aが搭載されている。
【0027】
シェルタードッグ1の居住区画は耐力間仕切壁で隔てられている。また、備品庫としての床下収納室18及び開閉ハッチ18aが設けられており、防災用品や飲料水、食料品の備蓄ができるようにされている。居住空間として使用する場合、ベッド19、簡易トイレ20、テレビ及びソファー22等の任意の家具を設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上、説明は本発明を個人用地下シェルターとして使用する場合について述べたが、公用地下シェルター、研究施設用地下シェルター、その他、コンピューター機器防護地下シェルター・地下金庫・地下倉庫など、必要に応じて様々な用途に適用することができる。また、オーディオルーム、音楽レッスン室、居間、寝室など、趣味や娯楽用の居室として利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 シェルタードッグ
2 埋設ピット
3 出入口棟
4 防水装甲ドア
5 エレベーター(パンタグラフ式リフト機構)
5a パンタグラフ
5b アーム部材
6 昇降ボックス(搭乗筐体)
6a エレベータースイッチ
7 エレベーター基台
8 油圧ポンプ
9 蓄電バッテリー
10 中仕切ドア
11 外部非常用タラップ
12 内部非常用タラップ
13 空気濾過清浄器
14 通気ダクト
15 非常用ハッチ
15a開閉蓋
16 バッテリー充填用ソーターパネル
17 テレビアンテナ
17a外部監視カメラ
18 床下収納庫
18a収納庫開閉ハッチ
19 ベッド
20 簡易トイレ
21 テレビ
22 ソファー