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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】容器用鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20230524BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 9/08 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 11/38 20060101ALI20230524BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C25D15/02 G
C25D5/26 Z
C25D5/48
C25D9/08
C25D11/38 307
B32B15/01 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018239574
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020100870
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
(72)【発明者】
【氏名】山中 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷 賢明
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204267(WO,A1)
【文献】特開2006-233089(JP,A)
【文献】特開2006-272872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C25D 15/00-15/02
C25D 5/00- 5/56
C25D 9/00- 9/12
C25D 11/00-11/38
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも片面に位置し、付着量が金属Ni量で片面当たり0.3~3g/mの範囲内であるNiめっき層と、
前記Niめっき層上に位置するクロメート皮膜又はZr皮膜と、
を備え、
前記Niめっき層は、金属Al量で片面当たり0.1~3質量%の酸化アルミニウム粒子を含有し、
前記酸化アルミニウム粒子のBET法による平均粒径は、7~14nmである、容器用鋼板。
【請求項2】
前記Niめっき層における前記金属Al量は、片面当たり0.3~2.5質量%である、請求項1に記載の容器用鋼板。
【請求項3】
前記クロメート皮膜は、金属Cr量で片面当たり1~40mg/mのCrを含有する、請求項1又は2に記載の容器用鋼板。
【請求項4】
前記Zr皮膜は、金属Zr量で片面当たり1~40mg/mのZrを含有する、請求項1又は2に記載の容器用鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
容器に用いられる素材として、鋼板が用いられる場合がある(例えば、以下の特許文献1~特許文献8を参照。)。そして、鋼板が用いられた容器としては、例えば、2ピース缶及び3ピース缶が挙げられる。
【0003】
2ピース缶とは、缶底と缶胴部とが一体になった缶体のことであり、DrD(Draw and Redraw)缶、DI(Drawing and Ironing)缶等が知られている。2ピース缶は、絞り加工、しごき加工、曲げ曲げ戻し加工、又は、これらの加工を組み合わせて成形される。これらの缶体に用いられる容器用鋼板としては、例えば、ブリキ(Snめっき鋼板)、及び、TFS(Tin Free Steel:電解クロム酸処理鋼板)が挙げられ、用途及び加工方法に応じて容器用鋼板の使い分けがなされている。
【0004】
また、3ピース缶とは、缶胴部と底部とが別々になった缶体のことである。3ピース缶は、缶胴部の製造を電気抵抗溶接で行う溶接缶が主流である。溶接缶の底板には、TFSが用いられ、溶接缶の胴材には、薄目付けSnめっき鋼板や、Niめっき鋼板が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-263696号公報
【文献】特開2000-334886号公報
【文献】特許第3060073号公報
【文献】特許第2998043号公報
【文献】特開2007-231394号公報
【文献】特開2000-26992号公報
【文献】特開2005-149735号公報
【文献】特許第4886811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような2ピース缶及び3ピース缶において、消費者に商品価値をアピールするために、缶外面には印刷が施されている。また、缶内面には、耐食性を確保するために、樹脂がコーティングされている。
【0007】
従来の2ピース缶は、缶体の成形を行った後に、缶内面側にはスプレー等で塗装が施され、缶外面側には曲面印刷が施されていた。しかしながら、近年は、予めPETフィルムをラミネートしたラミネート鋼板から製缶されたラミネート2ピース缶が台頭している(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。
【0008】
また、溶接缶においても、従来は、缶内面には塗装が施され、かつ、缶外面には印刷が施された鋼板が溶接されることで、缶体が製造されていた。しかしながら、近年は、塗装の代わりに予め印刷が施されたPETフィルムを準備し、かかるPETフィルムがラミネートされたラミネート鋼板を用いた3ピース缶も台頭している(例えば、特許文献3及び特許文献4を参照。)。
【0009】
上記の2ピース缶には、絞り加工、しごき加工、曲げ曲げ戻し加工等が施される。また、3ピース缶には、ネック加工、フランジ加工、場合によっては意匠性のためのエキスパンド加工が施される。そのため、ラミネート鋼板には、これらの加工に追従できる優れたフィルム密着性が求められるようになった。
【0010】
Snめっき鋼板は、Snの優れた犠牲防食作用により、酸性の内容物が存在する場合であっても、優れた耐食性を有する。しかしながら、Snめっき鋼板の最表層には脆弱なSn酸化物が存在するため、フィルム密着性が不安定である。更に、Snめっき鋼板は、上記の缶を加工する際に、(1)Snめっき鋼板からのフィルムの剥離が発生する場合、及び、(2)フィルム密着不十分による腐食発生起点になる場合がある。
【0011】
そこで、加工性及びフィルム密着性に優れ、かつ、溶接が可能なNiめっき鋼板が、ラミネート鋼板として使用されている(例えば、特許文献5を参照。)。Niめっき鋼板の外観は、Snめっき鋼板のような光沢は無いものの、Niめっき方法によっては、光沢めっきが可能であることも報告されている(例えば、特許文献6及び特許文献7を参照。)。
【0012】
また、製造した缶体の内部に、魚肉、野菜、豆類などの食品を充填した際に、これら食品に含まれる蛋白質が加熱殺菌処理(例えば、レトルト処理)工程で一部分解し、S(硫黄)成分が生成する。そして、生成したS成分は、Niと結合して黒色のNiSを形成し(硫化黒変し)、缶の内面品位を劣化させる場合があることが知られている。そのため、Niめっき鋼板は、耐硫化黒変性の更なる向上が求められていた。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、より優れた耐硫化黒変性、耐食性、加工性、密着性、及び、溶接性を兼ね備える容器用鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、Niめっき鋼板に設けられるNiめっき層中に酸化アルミニウム粒子を含有させることで、上記課題を解決可能であるとの着想を得ることができ、本発明を完成するに至った。
上記着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0015】
(1)鋼板と、前記鋼板の少なくとも片面に位置し、付着量が金属Ni量で片面当たり0.3~3g/mの範囲内であるNiめっき層と、前記Niめっき層上に位置するクロメート皮膜又はZr皮膜と、を備え、前記Niめっき層は、金属Al量で片面当たり0.1~3質量%の酸化アルミニウム粒子を含有し、前記酸化アルミニウム粒子のBET法による平均粒径は、7~14nmである、容器用鋼板。
(2)前記Niめっき層における前記金属Al量は、片面当たり0.3~2.5質量%である、(1)に記載の容器用鋼板。
(3)前記クロメート皮膜は、金属Cr量で片面当たり1~40mg/mのCrを含有する、(1)又は(2)に記載の容器用鋼板。
(4)前記Zr皮膜は、金属Zr量で片面当たり1~40mg/mのZrを含有する、(1)又は(2)に記載の容器用鋼板。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、より優れた耐硫化黒変性、耐食性、加工性、密着性、及び、溶接性を兼ね備えた容器用鋼板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されるのであれば、本用語に含まれる。
【0018】
本明細書において、「鋼板」との用語は、Niめっき層と、クロメート皮膜又はZr皮膜と、を施す前の、母材とする鋼板を意味する。なお、以下の説明において、Niめっき層と、クロメート皮膜又はZr皮膜とを施す前の鋼板を「めっき原板」と称する場合がある。また、本明細書において、「容器用鋼板」との用語は、Niめっき層と、クロメート皮膜又はZr皮膜と、を施した後の鋼板を意味する。
【0019】
本明細書において、単に密着性と称する場合、「密着性」との用語は、塗料密着性、二次塗料密着性、及び、フィルム密着性を含めた密着性を意味する。
【0020】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る容器用鋼板は、耐硫化黒変性、耐食性、密着性、及び、溶接性に優れる容器用鋼板である。そして、本実施形態に係る容器用鋼板は、例えば、2ピース缶及び3ピース缶に使用可能なものである。以下では、本実施形態に係る容器用鋼板について、詳細に説明する。
【0021】
Niめっきが施されたNiめっき鋼板を飲料缶用に適用した場合には、缶の内面品位を劣化させる場合が少なく、十分な耐硫化黒変性を有していた。しかしながら、Niめっきが施されたNiめっき鋼板を、内容物として前述のような蛋白質を含む食品を充填する食品缶用に適用した場合には、更なる耐硫化黒変性の向上が求められている。
【0022】
本発明者らは、上記課題に対応するために鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、酸化アルミニウム粒子を、Niめっき層中へ含有及び分散させることで、上記のような硫化黒変を防止できるとの知見を得た。
【0023】
酸化アルミニウム粒子は、硫化黒変の原因であるS成分と反応して、かかるS成分をAlSとして捕集可能な粒子である。しかしながら、従来の容器用鋼板として用いる鋼板に非常に薄いNiめっき層を形成する際、絶縁物質である微小な酸化アルミニウム粒子をNiめっき層に含有させる技術は存在しなかった。
【0024】
なお、酸化アルミニウム粒子を、Niめっき層上のクロメート皮膜又はZr皮膜に含有させることも考えられる。しかしながら、これらの皮膜の膜厚は、酸化アルミニウム粒子の平均粒径よりも小さいため、酸化アルミニウム粒子が、これらの皮膜から露出してしまうことが多い。このため、これらクロメート皮膜又はZr皮膜に対し酸化アルミニウム粒子を含有させることは、現実的に困難である。
【0025】
かかる知見のもと、本発明者らは、更なる検討を行った。その結果、本発明者らは、Niめっき層中の酸化アルミニウム粒子の含有率を制御することで、Niめっきが有する加工性、耐食性、密着性、及び、溶接性を損なうことなく、耐硫化黒変性を向上させることが可能であることを見出した。
【0026】
すなわち、本実施形態に係る容器用鋼板は、鋼板と、かかる鋼板の少なくとも片面に位置し、付着量が、金属Ni量で片面当たり0.3~3g/mであるNiめっき層であって、金属Al量で片面当たり0.1~3質量%の酸化アルミニウム粒子を含有するNiめっき層と、かかるNiめっき層上に位置する、クロメート皮膜又はZr皮膜と、を有し、母材鋼板とNiめっき層とクロメート皮膜又はZr皮膜とを、この順で備えている。
【0027】
(めっき原板について)
本実施形態に係る容器用鋼板において、母材として使用されるめっき原板の鋼板は、特に限定されるものではない。めっき原板として使用される鋼板として、通常の鋼片製造工程から、通常の鋼板製造工程(熱間圧延、酸先、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等)を経て製造された公知の各種の鋼板が使用可能である。
【0028】
(Niめっき層について)
本実施形態に係る容器用鋼板は、より優れた耐硫化黒変性、耐食性、加工性、密着性及び溶接性を実現するために、上記のめっき原板の片面又は両面に対して、酸化アルミニウム粒子を含有したNiめっきが施され、Niめっき層が形成される。Niは、耐食性、加工性、密着性、及び、溶接性を併せ持つ金属である。そして、めっき原板としての鋼板に施したNiめっき層は、Niめっき量が、片面当たりの金属Ni量として0.3g/m以上となることで、実用的な耐食性、加工性、密着性及び溶接性を発揮する。従って、本実施形態に係る容器用鋼板において、Niめっき量は、片面当たりの金属Ni量として、0.3g/m以上とする。また、Niめっき量が0.3g/mから更に増加すると、Niめっき量の増加に伴い耐食性、加工性、密着性、及び溶接性がより向上する。そのため、本実施形態に係る容器用鋼板において、Niめっき量は、好ましくは、片面当たりの金属Ni量として、0.5g/m以上である。一方、Niめっき量が、片面当たりの金属Ni量として3g/mを超えると、耐食性、加工性、密着性、及び溶接性の向上効果が飽和する。そのため、過剰のNiめっき量は工業的には不利益である。従って、Niめっき量は、片面当たりの金属Ni量で、3g/m以下とする。Niめっき量は、好ましくは、片面当たりの金属Ni量で、2.5g/m以下であり、更に好ましくは、1.5g/m以下である。なお、金属Ni量は、金属Ni換算量を表す。
【0029】
かかるNiめっき層中には、酸化アルミニウム粒子が含有されており、酸化アルミニウム粒子がNiめっき層中に分散した状態で存在している。本実施形態に係る容器用鋼板に用いられる酸化アルミニウム粒子は、特に規定されるものではなく、市販されている公知の酸化アルミニウム粒子を使用することが可能である。前述のとおり、Niめっき層中の酸化アルミニウム粒子が、生成されたS成分をAlSとして捕集することで、耐硫化黒変性を向上させる。酸化アルミニウム粒子の含有率が、Niめっき層の全質量を基準として、片面当たりの金属Al量で0.1質量%以上となることで、かかる耐硫化黒変性向上効果が実現される。酸化アルミニウム粒子の含有率は、好ましくは、0.3質量%以上であり、更に好ましくは、0.5質量%以上である。一方、酸化アルミニウム粒子は絶縁体であることから、酸化アルミニウム粒子の含有率が多くなりすぎると、電気抵抗溶接を行う際に溶接性が阻害されて、溶接不良が発生する。かかる溶接不良は、酸化アルミニウム粒子の含有率が、片面当たりの金属Al量で3質量%を超えた場合に顕著となる。そのため、Niめっき層中の酸化アルミニウム粒子の含有率は、片面当たりの金属Al量で3質量%以下とする。Niめっき層中の酸化アルミニウム粒子の含有率は、片面当たりの金属Al量で、好ましくは、2.5質量%以下である。なお、金属Al量は、金属Al換算量を表す。
【0030】
ここで、Niめっき層中に含有される酸化アルミニウム粒子の大きさ(酸化アルミニウム粒子の平均粒径)は、特に規定するものではない。ただし、酸化アルミニウム粒子の大きさ(平均粒径)がNiめっき層のめっき厚と同じ程度であると、Niめっき層中に酸化アルミニウム粒子が含有され難くなり、更に、搬送及び加工の際に、酸化アルミニウム粒子が剥離する場合がある。そのため、酸化アルミニウム粒子の大きさ(平均粒径)は、Niめっき層のめっき厚以下であることが好ましく、めっき厚の半分以下とすることが更に好ましい。ここで、本実施形態では、Niめっき層における片面当たりの金属Ni量は、0.3g/m以上、好ましくは、0.5g/m以上であるが、0.5g/mという付着量は、Niめっき厚では50nm~60nmに相当する。これより、本実施形態において、Niめっき層を形成する際に用いられる酸化アルミニウム粒子の平均粒径は、20nm以下であることが望ましい。また、酸化アルミニウム粒子の平均粒径が小さくなる程、Niめっき層に含有されやすくなるが、小さくなる程、工業的な製造が難しく、また、大きな塊に凝集しやすくなる。そのため、Niめっき層を形成する際に用いられる酸化アルミニウム粒子は、平均粒径が15nm~20nmのものが推奨される。なお、酸化アルミニウム粒子の平均粒径は、BET法から算出した値を表す。酸化アルミニウム粒子は、市販品が各種入手可能であり、このような酸化アルミニウム粒子として、例えば、大明化学工業社製の酸化アルミニウムなどが入手可能である。
【0031】
上記の酸化アルミニウム粒子を含有したNiめっき層を付与する方法としては、特に規定するものではない。例えば、公知の酸性Niめっき溶液(例えば、硫酸Ni、塩化Niから構成される酸性Niめっき溶液)に対して酸化アルミニウム粒子を分散させた溶液を用いてカソード電解を行う方法が、工業的には有用である。この場合に、カソード電解における電解条件(例えば、電流密度及び電解時間)は、特に規定するものではなく、電解Niめっきにおける一般的な電解条件をそのまま適用することが可能である。また、かかる公知の酸性Niめっき溶液に対して、酸化アルミニウム粒子の凝集を防止する分散剤を添加してもよい。Niめっき層に含有させる酸化アルミニウム粒子の含有率は、溶液中に分散させる酸化アルミニウム粒子の含有率で制御可能である。一般に、溶液中での酸化アルミニウム粒子の分散量が多くなると、Niめっき層に含有する酸化アルミニウム粒子の含有率も多くなる傾向がある。
【0032】
なお、Niめっき層中に含有する酸化アルミニウム粒子は、単独の酸化アルミニウム粒子が均一に近い状態で分散していてもよい。また、Niめっき層のめっき厚以上にならない範囲で、Niめっき層中に酸化アルミニウム粒子の凝集体が分散していてもよい。
【0033】
(クロメート皮膜について)
本実施形態に係る容器用鋼板は、優れた耐食性及び密着性(特に二次塗料密着性)を確保するために、上記のNiめっき層の上層に、クロメート処理が施されることで、クロメート皮膜が形成される。かかるクロメート処理により、例えば、(a)水和酸化Crを含有する単層構造のクロメート皮膜、又は、(b)下層(Niめっき層側の層)に金属Crを含有し、上層(容器用鋼板の表層側の層)に水和酸化Crを含有する複層構造のクロメート皮膜が、Niめっき層の上層に付与される。
【0034】
クロメート皮膜を構成する金属Cr又は水和酸化Crは、優れた化学的安定性を有する。そのため、容器用鋼板の耐食性は、クロメート皮膜量に比例して向上する。また、水和酸化Crは、塗膜の官能基と強固な化学的な結合を行うことによって、加熱水蒸気雰囲気でも優れた密着性を発揮する。そのため、クロメート皮膜量が多くなる程、密着性が向上する。実用上、十分な耐食性及び密着性を発揮させるには、金属Cr量で、片面当たり1mg/m以上のクロメート皮膜を設けることが好ましい。クロメート皮膜量の増加により、耐食性及び密着性の向上効果も増加する。クロメート皮膜量は、より好ましくは、金属Cr量で、片面当たり3mg/m以上である。一方、クロメート皮膜中の水和酸化Crは電気的に絶縁体であることから電気抵抗が非常に高いため、溶接性を劣化させる要因になる。クロメート皮膜量が金属Cr量で片面当たり40mg/mを超えると、溶接性が極めて劣化する。そのため、クロメート皮膜量は、金属Cr量で、片面当たり40mg/m以下とすることが好ましい。クロメート皮膜量は、より好ましくは、金属Cr量で、片面当たり20mg/m以下である。なお、金属Cr量は、金属Cr換算量を表す。
【0035】
なお、クロメート処理方法は、特に規定するものではない。例えば、クロメート処理は、各種のCr酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)の水溶液による処理方法が挙げられる。上記各種のCr酸塩水溶液を用いたクロメート処理は、いずれの処理方法(浸漬処理、スプレー処理、電解処理等)で行ってもよい。例えば、クロメート処理は、Cr酸に対して、硫酸イオン、フッ化物イオン(錯イオンを含む。)又はこれらの混合物をめっき助剤として添加した水溶液中で陰極電解処理を施すことが、工業的にも優れている。
【0036】
(Zr皮膜について)
本実施形態に係る容器用鋼板は、上記のNiめっき層の上層に、上記のクロメート皮膜に代えて、ジルコニウム化合物を含有するZr皮膜が形成されていてもよい。Zr皮膜は、Zr化合物(酸化Zr、リン酸Zr等)を含有する皮膜のことである。Zr皮膜は、上記のクロメート皮膜と同じ機構により、密着性及び耐食性の飛躍的な向上が認められる。実用上、十分な耐食性及び密着性を発揮させるには、Zr皮膜量は、金属Zr量で、片面当たり1mg/m以上とすることが好ましい。Zr皮膜量は、より好ましくは、金属Zr量で、片面当たり3mg/m以上である。一方、Zr皮膜は、電気的に絶縁体であることから電気抵抗が非常に高いため、溶接性を劣化させる要因となる。Zr皮膜量は、金属Zr量で、片面当たり40mg/mを超えると、上記のような溶接性の劣化が顕著となり、また、外観性が劣化する。従って、Zr皮膜量は、金属Zr量で、片面当たり40mg/m以下とすることが好ましい。Zr皮膜量は、より好ましくは、金属Zr量で、片面当たり20mg/m以下である。なお、金属Zr量は、金属Zr換算量を表す。
【0037】
なお、Zr皮膜を付与する方法は、特に規定するものではない。例えば、フッ酸を主成分とする酸性溶液(フッ化Zr、リン酸Zr等)中で、浸漬又はカソード電解処理を行う方法(例えば、特許文献8を参照。)などを用いればよい。
【0038】
(付着量等の測定方法について)
なお、以上述べたNiめっき量、酸化アルミニウム粒子の含有率、クロメート皮膜量、及び、Zr皮膜量は、例えば蛍光X線による検量線法で測定することが可能である。
【0039】
例えば、Niめっき量の測定方法について説明する。
まず、付与された金属Ni量が既知である複数の試験片を準備する。次に、各試験片について、市販の蛍光X線装置により、Niめっき層の表面から、Niに由来する蛍光X線の強度を事前に測定する。そして、測定した蛍光X線の強度と金属Ni量との関係を示した検量線を準備しておく。その上で、着目している容器用鋼板について、容器用鋼板表面のクロメート皮膜又はZr皮膜を除去し、Niめっき層を露出させた試験片を準備する。このNiめっき層を露出させた表面を、蛍光X線装置により、Niに由来する蛍光X線の強度を測定する。得られた蛍光X線強度と予め準備した検量線とを利用することで、片面当たりのNiめっき量を、金属Ni換算量として、特定することができる。
【0040】
酸化アルミニウム粒子の含有率、クロメート皮膜量、及び、Zr皮膜量についても、上記で説明したNiめっき量と同様にして測定できる。具体的には、酸化アルミニウム粒子のAl、クロメート皮膜のCr、及び、Zr皮膜のZrの各金属元素に由来する蛍光X線の強度を測定し、上記の検量線法により、片面当たりの酸化アルミニウム粒子の含有率、並びに、片面当たりのクロメート皮膜及びZr皮膜の皮膜量を測定することができる。
【0041】
なお、酸化アルミニウム粒子の含有率は、Niめっき量の測定と同様に、クロメート皮膜又はZr皮膜を除去し、Niめっき層を露出させた表面について、蛍光X線装置によりAlに由来するX線強度を測定する。また、クロメート皮膜量又はZr皮膜量は、これら皮膜表面について、蛍光X線装置により、Cr又はZrに由来するX線強度を測定する。
【0042】
また、かかる酸化アルミニウム粒子の平均粒径(円相当径)を事後的に測定する場合には、断面SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)観察又はTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察により測定することが可能である。具体的には、クロメート皮膜又はZr皮膜を除去し、Niめっき層を露出させた表面の断面を、SEM装置にて観察し、観察視野内に認められる酸化アルミニウム粒子の円相当径の平均値を測定する。このような測定を、複数の視野でそれぞれ実施し、各視野にて得られた円相当径の平均値を視野数で更に平均することで得られた値を、酸化アルミニウム粒子の平均粒径(円相当径)として扱うことが可能である。
【0043】
以上、本実施形態に係る容器用鋼板について、詳細に説明した。
【実施例
【0044】
次に、本発明に係る容器用鋼板の実施例について述べ、本発明に係る容器用鋼板を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る容器用鋼板の一例にすぎず、本発明に係る容器用鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0045】
以下では、以下の(1)に示す方法で容器用鋼板の試験材を作製し、(2)の(2A)~(2G)に示した各項目について、性能評価を行った。得られた結果を、以下の表1及び表2にまとめて示す。
【0046】
(1)試験材作製方法
(1A)めっき原板:板厚0.2mm、テンパーグレード3(T-3)の冷延鋼板を、めっき原板(母材鋼板)として使用した。
【0047】
(1B)Niめっき条件:濃度20質量%の硫酸Ni、濃度15質量%の塩化Ni、及び、濃度1質量%のホウ酸を含有し、pH5.5に調整した溶液を準備した。この溶液に対し、酸化アルミニウム粒子を、0.1~1質量%添加した。かかる溶液を利用して、電流密度5A/dmで陰極電解を行い、めっき原板である鋼板の両面に対し、Niめっき層を形成した。Ni付着量は、電解時間を0.1~10秒の範囲で調整することで、制御した。なお、酸化アルミニウム粒子は、大明化学工業社製の酸化アルミニウム粒子を用いた。また、以下の表1に示した例では、酸化アルミニウム粒子として、平均粒径が10nmのものを用い、以下の表2に示した例では、酸化アルミニウム粒子として、平均粒径が7nm、10nm、14nmのものを用いた。
【0048】
(1C)クロメート処理条件:濃度10質量%の酸化Cr(VI)、濃度0.2質量%の硫酸、及び、濃度0.1質量%のフッ化アンモニウムを含有する溶液中で、電流密度10A/dmのカソード電解を行った。その後、10秒間水洗することで、Niめっき層が形成された鋼板に対して、クロメート皮膜を付与した。なお、以下の表1に示した例では、片面当たりのクロメート付着量(金属Cr量)が10mg/mとなるように、電解時間を制御した。また、以下の表2に示した例では、クロメート皮膜の付着量を、電解時間を0.1~10秒の範囲で調整することで制御した。
【0049】
(1D)Zr皮膜処理条件:濃度5質量%のフッ化Zr、濃度4質量%のリン酸、及び、濃度5質量%のフッ酸を含有する溶液中で、電流密度10A/dmのカソード電解を行い、Niめっき層が形成された鋼板に対して、Zr皮膜を付与した。なお、以下の表1に示した例では、片面当たりのZr付着量(金属Zr換算量)が10mg/mとなるように、電解時間を制御した。また、以下の表2に示した例では、Zr皮膜の付着量を、電解時間を0.1~10秒の範囲で調整することで制御した。
【0050】
(2)試料評価方法
(2A)耐硫化黒変性
(1)で作製した試験材に対し、エポキシ-フェノール樹脂を、片面当たり70mg/dm塗布し、200℃で30分焼付けた後、液温が130℃に保持された0.6%システイン塩酸塩溶液に2時間浸漬した(耐硫化黒変性1)。
また、エポキシ-フェノール樹脂を、片面当たり70mg/dm塗布して上記条件で焼付けた後、液温が130℃に保持された0.6%システイン塩酸塩溶液に2時間浸漬し、かかる浸漬を2回行った(耐硫化黒変性2)。
【0051】
上記の耐硫化黒変性1及び耐硫化黒変性2について、黒変状況を、黒変の生じた面積率に基づき以下に示す4段階で判断し、耐硫化黒変性を評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
【0052】
A:全く黒変が認められない
B:黒変部の面積率0%超1%以下
C:黒変部の面積率1%超5%以下
D:黒変部の面積率5%超
【0053】
(2B)耐食性
(1)で作製した試験材に対し、エポキシ-フェノール樹脂を、片面当たり80mg/dm塗布し、200℃で30分焼付けた後、地鉄に達する深さのクロスカットを入れた。かかる試験材を、濃度1.5質量%のクエン酸-濃度1.5質量%の食塩混合液からなる45℃の試験液に72時間浸漬した。
【0054】
試験材の洗浄及び乾燥後、粘着テープ(商品名:セロハンテープ(登録商標))を用いて剥離を行い、クロスカット部の塗膜下腐食状況と平板部の腐食状況とを観察した。塗膜下腐食の幅及び平板部の腐食面積率の両評価から、以下の4段階で判断し、耐食性を評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
【0055】
A:塗膜下腐食幅0.2mm未満かつ平板部の腐食面積率0%
B:塗膜下腐食幅0.2mm以上0.3mm未満、かつ、平板部の腐食面積率0%超1%以下
C:塗膜下腐食幅0.3mm以上0.45mm未満、かつ、平板部の腐食面積率1%超5%以下
D:塗膜下腐食幅0.45mm以上、又は、平板部の腐食面積率5%超
【0056】
(2C)加工性
(1)で作製した試験材の両面に対し、厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネートし、ラミネートした試験材を直径150mmに打ち抜いた。その後、フィルム側を内面に、絞り加工及びしごき加工による製缶加工を行い、直径66mm、高さ120mmのDI缶を作製した。
【0057】
フィルムの疵、浮き、剥離をそれぞれ観察し、これらの面積率から加工性を4段階で評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
A:フィルムの疵、浮き、剥離が全くない
B:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が0%超0.5%以下
C:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が0.5%超15%以下
D:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が15%超、又は、破断し加工不能
【0058】
(2D)溶接性
ワイヤーシーム溶接機を用い、溶接ワイヤースピード80m/分の条件で電流を変更して、(1)で作製した試験材を溶接した。
【0059】
十分な溶接強度が得られる最小電流値と、溶接欠陥(チリ及び溶接スパッタなど)が目立ち始める最大電流値とからなる二次側電流の適正電流範囲の広さから総合的に判断し、溶接性を以下の4段階で評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
A:二次側電流の適正電流範囲:1500A以上
B:二次側電流の適正電流範囲:800A以上1500A未満
C:二次側電流の適正電流範囲:100A以上800A未満
D:二次側電流の適正電流範囲:100A未満
【0060】
(2E)塗料密着性
(1)で作製した試験材に対し、エポキシ-フェノール樹脂を、片面当たり70mg/dm塗布し、200℃、30分の条件で焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さのクロスカットを入れた。その後、粘着テープ(商品名:セロハンテープ(登録商標))を用いて塗膜を剥離し、剥離状況を観察した。
【0061】
剥離面積率から、塗料密着性を以下の4段階で評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
A:剥離面積率:0%
B:剥離面積率:0%超5%以下
C:剥離面積率:5%超30%以下
D:剥離面積率:30%超
【0062】
(2F)二次塗料密着性
(1)で作製した試験材に対し、エポキシ-フェノール樹脂を、片面当たり70mg/dm塗布し、200℃、30分の条件で焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さのクロスカットを入れた。その後、125℃、30分の条件で、加熱水蒸気雰囲気による処理(レトルト処理)を行った。乾燥後、粘着テープ(商品名:セロハンテープ(登録商標))を用いて塗膜を剥離し、剥離状況を観察した。
【0063】
剥離面積率から、二次塗料密着性を以下の4段階で評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
A:剥離面積率:0%
B:剥離面積率:0%超5%以下
C:剥離面積率:5%超30%以下
D:剥離面積率:30%超
【0064】
(2G)フィルム密着性
(1)で作製した試験材の両面に対し、厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネートし、ラミネートした試験材を直径150mmに打ち抜いた。その後、フィルム側を内面に絞りしごき加工を行って、直径66mm、高さ120mmのDI缶を作製した。その後、125℃、30分の条件でレトルト処理を行い、フィルムの剥離状況を観察した。
【0065】
剥離面積率から、フィルム密着性を以下の4段階で評価した。なお、以下の4段階の評価のうち、評価「B」以上を合格とした。
A:剥離面積率:0%
B:剥離面積率:0%超2%以下
C:剥離面積率:2%超10%以下
D:剥離面積率:10%超
【0066】
(3)性能評価結果
以下の表1に、Niめっき層、皮膜の状態、及び、特性評価をそれぞれ示す。
【0067】
【表1】
【0068】
上記表1から明らかなように、本発明の範囲を満足している発明例A1~A12は、耐硫化黒変性、加工性、溶接性、塗料密着性、二次塗料密着性、フィルム密着性に良好な特性を有していることがわかる。
【0069】
一方、本発明の範囲を満足していない比較例a1~a8は、良好な特性が得られていないことがわかる。比較例a1、a2、a5、a6は、Ni量不足のために、耐食性が劣化しており、比較例a3、a4、a7、a8は、酸化アルミ粒子含有率が低いために、耐硫化黒変性に劣っている。
【0070】
また、以下の表2に、Niめっき層中の酸化アルミニウム粒子の平均粒径、並びに、皮膜中の金属Cr又は金属Zr量を変化させた場合の特性評価を示した。
【0071】
【表2】
【0072】
上記表2から明らかなように、本発明の範囲を満足している発明例B1~B36は、耐硫化黒変性、加工性、溶接性、塗料密着性、二次塗料密着性、フィルム密着性に良好な特性を有していることがわかる。なお、発明例B4、B13、B16、B20、B29、B32、B36については、酸化アルミニウム粒子の含有率が上限近くであるため、溶接性がやや劣化している傾向を示している。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。