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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】コークス炉の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 29/06 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
C10B29/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019152928
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021031581
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】鵜浦 誠司
(72)【発明者】
【氏名】江川 秀
(72)【発明者】
【氏名】政森 恒二
(72)【発明者】
【氏名】浦川 涼太
(72)【発明者】
【氏名】國政 秀行
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150424(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104357067(CN,A)
【文献】特開昭57-098586(JP,A)
【文献】特開昭54-134701(JP,A)
【文献】特開昭55-078086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 23/00,29/00
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃焼室が炉幅方向に一列に配置されたコークス炉において、少なくとも8以上の前記燃焼室の窯口を積替補修により更新するコークス炉の補修方法であって、
前記コークス炉において、積替補修を行う前記燃焼室のうち1列又は2列以上連続する前記燃焼室を積替補修燃焼室群とし、前記積替補修燃焼室群の積替補修を行う部位を積替補修部とし、前記積替補修燃焼室群の前記積替補修部以外の部位を非積替補修部とするとき、
前記コークス炉を保温休止状態にして前記積替補修部を積替補修する積替補修工程を備え、
前記積替補修工程において、前記積替補修燃焼室群に隣接する隣接燃焼室の温度を制御することにより、前記非積替補修部全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内である900度以上1300度以下に制御することを特徴とする、
コークス炉の補修方法。
【請求項2】
前記コークス炉において、前記積替補修燃焼室群及び前記隣接燃焼室以外の前記燃焼室を非積替補修燃焼室群としたとき、
前記積替補修工程において、前記隣接燃焼室の温度を前記非積替補修燃焼室群の平均温度よりも高い温度に制御することを特徴とする、請求項1に記載の補修方法。
【請求項3】
前記積替補修工程において、前記隣接燃焼室の温度を前記非積替補修燃焼室群の平均温度に対して100度~200度高い温度に制御することを特徴とする、請求項2に記載の補修方法。
【請求項4】
前記積替補修工程において、前記非積替補修部全体の温度を950度以上1250度以下の範囲に制御することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の補修方法。
【請求項5】
隔たった二列の前記隣接燃焼室に挟まれる前記積替補修燃焼室群は、連続する7列以下の前記燃焼室から構成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の補修方法。
【請求項6】
前記隣接燃料室の両側に前記積替補修燃焼室群が配置されており、一方の前記積替補修燃焼室群の前記積替補修部と他方の前記積替補修燃焼室群の前記積替補修部とは炉長方向位置が異なることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉を積替補修するに際して、保温休止状態として積替補修するコークス炉の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室炉式コークス炉(以下、単に「コークス炉」とも称する。)は、煉瓦を使用した構造物であり、炉体の下部に蓄熱室があり、上部には燃焼室と炭化室とが交互に配列される構成である。コークス炉は長年の稼働により燃焼室煉瓦が損傷する。
【0003】
煉瓦の表面部などの軽微な損傷であれば、溶射や吹き付けで修復できるが、損傷が顕著になると、煉瓦を積み替える補修が必要となる。煉瓦を積み替える補修には複数の方法があるが、本明細書では、特に断らない限り、窯口補修法を対象とする。
【0004】
窯口補修法は、燃焼室煉瓦の中で損傷が大きい窯口部の煉瓦を積み替える方法である。補修は、補修対象となる煉瓦を有する燃焼室の両側の炭化室側から、補修対象の煉瓦を解体し、新しい煉瓦に積み替える。
【0005】
窯口補修が行われる燃焼室に隣接する炭化室では、当該補修期間中にはコークス製造はできない。一方、窯口補修中であっても、コークス炉団全体では、コークス製造量や副生ガス等の副産物生成量をできるだけ確保することが求められる。従って、補修に影響を与えない範囲でコークス製造や副産物生成(以下、「コークス操業」と総称する。)を継続しながら補修を実施する。すなわち、補修される燃焼室を熱供給源として用いる炭化室以外の炭化室ではコークス製造を継続し、補修される燃焼室においても補修される窯口部のフリュー以外のフリューでは燃焼を継続した状況で実施される。
【0006】
このように燃焼室における燃焼を継続しながら実施する補修は、常温で煉瓦積みを実施する補修形態と区別するために、熱間補修とも称される。前記した窯口補修法は、熱間補修でもある。そこで、特に断らない限り、熱間での窯口補修法を単に熱間補修と称する。
【0007】
熱間補修に際しては、補修対象にされてない煉瓦に、温度低下によって亀裂等の損傷が発生しないように高温状態に保持することが重要であり、一方、補修部位では、作業環境を確保するために断熱された構造物等が使用されるが、非補修部位からの伝熱は小さい方が好ましい。
【0008】
熱間補修の際には、まず積替補修部位以外の燃焼室を燃焼させたまま、積替補修部と非積替補修部間とを断熱のための耐火性ライニングを備えた断熱隔壁によって、炭化室を仕切る。次に、補修部位側である外部から断熱カーテンまたは断熱ボックスを挿入して、補修部位の作業環境を適切な温度に保持する。そして損傷部分の煉瓦壁を解体して新しく煉瓦壁を構築する。その間、非積替補修部の煉瓦は損傷しない程度の高温に保持されている。
【0009】
前述したように従来の熱間補修方法では、補修対象である燃焼室からの加熱対象ではない炭化室などの、補修作業に影響を及ぼさない炭化室ではコークスが製造されているので、コークス炉団全体では、コークス製造作業と補修作業を同時並行して実施することになる。通常はコークス製造のための付帯設備運転等のコークス製造作業の工程が優先して実施される。例えば、補修作業を実施している燃焼室の前を、コークス製造のために移動機が運転される場合は、その間は当該燃焼室の補修作業を実施する事ができないので、補修作業は待ち時間を必要とする事が避けられない。
【0010】
一方で、従来の熱間補修方法は、コークス炉の補修とコークス操業が並行しているので、補修を実施する期間中であってもコークス操業が確保できており、コークス製造が継続できるメリットがある。しかし、この場合に問題となるのは、窯口の積替補修を行なう燃焼室において、積替補修部はガス供給を停止するので当該部分は低温となるため、特に積替補修部に近い部分の非積替補修部の温度を安定に制御することが困難になることであった。
【0011】
かかる問題に対し、特許文献1では燃焼室の炉底部炉長方向に配置された燃料供給管に、炉長方向の両側から燃料ガスを導入して、燃料室の各フリューに燃料ガスを供給するコークス炉において積替補修を行なう場合の燃焼室の加熱方法を開示している。
【0012】
特許文献1の方法では、積替補修部に燃料ガスが供給されないように、積替補修部と非積替補修部との境界部に遮蔽物を設置する。積替補修部側の燃料供給管には燃料ガスを供給せず、非積替補修部のフリューには積替補修部側とは反対側から燃料ガスを供給する。この状態では、積替補修部と境界を接する非積替補修部のフリューに供給される燃料ガスは少なくなるので、当該非積替補修部のフリューに、燃料供給管とは独立した燃料ガスバーナーを設置して燃料ガスを供給する。特許文献1の方法は、このようにして非積替補修部のフリュー全体の温度変化を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公昭61-052194号公報
【文献】特開昭55-078086号公報
【文献】特開昭57-147584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、補修対象の燃焼室が多い場合には、補修対象の燃焼室と非補修対象の燃焼室とが、位置的にも作業計画の観点からも錯綜する。また、コークス製造のための移動機運転に対して、待ち時間を必要とする補修部位が増加する事になるので、補修作業に要する時間が増加することになる。
【0015】
すなわち、従来の方法ではコークス製造と補修作業という、異なる作業を並行して実施する事に伴う非効率性が顕著となる。補修作業の効率が悪化することは、補修作業の長期化に伴うコストの悪化のみならず、補修作業が完了しない部位ではコークス製造ができないので、コークス製造に関してコークス炉の操業度が低下して、コークス生産量が低下するという悪影響を生じる。このような問題は特許文献1の技術では解決できない。
【0016】
そこで、本発明は補修対象となる燃焼室の数が多い場合に、効率良く積替補修を行うことができるコークス炉の補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、コークス炉を保温休止状態にして積替補修を行うことに思い至った。
【0018】
ここで、「保温休止」とは「ホットバンキング」あるいは単に「バンキング」とも称され、コークス操業を休止して、いつでも再操業できるようにコークス炉の炉体の温度を高温状態で維持(保温)することである。
【0019】
コークス炉の保温休止に関する技術は、例えば特許文献2、3に記載されている。特許文献2はコークス生産を減産し、コークス炉が安定に稼働できる稼働率以下にするために、コークス炉を保温休止状態にするコークス炉の保温休止方法に関する技術を開示している。具体的には、移行期(断熱材装着期間)はコークス充填状態で炉内を保温し、断熱材装着後はコークスを排出して、燃焼ガスにより空炉で炉内を保温する技術を開示している。特許文献3は全炭化室の石炭を火落ちさせてコークス製造を停止した状態で、ドライメーンを更新する技術を開示している。この方法は、コークス炉付帯設備の補修・更新のためにコークス操業を行わない事例であり、炭化室とドライメーンを縁切りして、炭化室側はコークス充填状態で数日間保温を実施するものである。
【0020】
しかしながら、保温休止状態でコークス炉の積替補修を行う技術は、発明者らが調べた限り存在しない。
その理由は、一般的にコークス炉を保温休止状態にする際は、炭化室内への空気の侵入による温度低下を抑制するためにコークス炉全体を密閉化して保護するためである。特許文献3はドライメーンの更新を保温休止状態で行っているので、付帯設備の更新のため炭化室を密閉したまま工事を行えるが、燃焼室の積替補修を行う場合は密閉状態を維持することが困難であり温度維持が難しかった。
かかる事情から、保温休止状態でコークス炉の積替補修を行うことは考えられていなかった。
【0021】
しかしながら、本発明者らは補修対象となる燃焼室の数が多い場合に、コークス炉を保温休止状態にして積替補修を行い、補修期間を短縮することによって、上記の不利益よりも補修期間の短縮による利益が勝ると考えた。
【0022】
具体的には次のように考えた。まず、コークス操業と積替補修とを並行して実施する従来の補修方法(補修方法1)の補修期間を(1)とする。また、コークス炉を保温休止状態にして積替補修を行う補修方法(補修方法2)の補修期間を(2A)とする。補修方法2では補修期間(2A)後は通常のコークス操業が可能になる。そこで、補修期間(2A)後において、補修方法1の補修期間(1)におけるコークス生産量と同じになるまでコークス操業を行う場合の期間を(2B)とする。
このような場合に、補修対象となる燃焼室の窯口の数が少ないと、(1)≒(2A)+(2B)若しくは(1)<(2A)+(2B)となり、保温休止状態で積替補修を行うことによる悪影響が生じる場合がある。一方で、補修対象となる燃焼室の数が多いと、(1)>>(2A)になり、その結果(1)>(2A)+(2B)となるため、保温休止状態で積替補修を行うことによるメリットが大きくなる。
このように、補修対象となる燃焼室の数が多い場合には、コークス炉を保温休止状態にして積替補修を行うことがよいと考えられた。
【0023】
このように、一定期間を炉の補修作業に集中するためにコークス炉を保温休止状態にする補修方法は、補修部位が増加したコークス炉では補修期間を短縮できる可能性を有する方法であるが、発明者らはその実施に際し、さらなる問題があることを知見した。
【0024】
保温休止状態でコークス炉の補修を行うためには、非積替補修部の温度管理と積替補修部の煉瓦の補修作業を同時並行で実施しなくてはならない。積替補修部では作業環境確保の観点から低温が好ましく、非積替補修部では煉瓦損傷回避の観点から高温が好ましい状態であることは明確である。しかし、積替補修部と非積替補修部とは、その境界付近で近接しており、境界の両側において十分な精度で独立した温度制御を行う事は容易ではない。特に、積替補修部に近接する非積替補修部の煉瓦温度が低温となってしまうという問題が生じる。煉瓦の温度が低温になると亀裂や割れ等が生じる。
【0025】
従来の熱間補修方法では、コークス操業と熱間補修作業が並行するため、コークス操業において個々の炭化室では、石炭装入から乾留、排出の工程の中で、工程に沿った周期的な温度変化はあるが、炉団全体の温度は高温の状態で安定しており、非積替補修部の温度も高温で維持されていた。これについて、本発明者らは、補修対象ではない燃焼室からの伝熱(熱補償)により非積替補修部が加温され、煉瓦の温度が高温で維持されていることを知見した。
【0026】
上記の知見に基づいて、本発明者らはさらに鋭意検討した結果、補修対象の燃焼室に隣接する燃焼室の温度を制御することにより、非積替補修部の温度を煉瓦が劣化しない温度に制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
以上に基づき、上記の課題を解決するための本発明の1つの態様は、複数の燃焼室が炉幅方向に一列に配置されたコークス炉において、少なくとも8以上の燃焼室の窯口を積替補修により更新するコークス炉の補修方法であって、コークス炉において、積替補修を行う燃焼室のうち1列又は2列以上連続する燃焼室を積替補修燃焼室群とし、積替補修燃焼室群の積替補修を行う部位を積替補修部とし、積替補修燃焼室群の積替補修部以外の部位を非積替補修部とするとき、コークス炉を保温休止状態にして積替補修部を積替補修する積替補修工程を備え、積替補修工程において、積替補修燃焼室群に隣接する隣接燃焼室の温度を制御することにより、非積替補修部全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内である900度以上1300度以下に制御することを特徴とする、コークス炉の補修方法である。
【0028】
また、コークス炉において、積替補修燃焼室群及び隣接燃焼室以外の燃焼室を非積替補修燃焼室群としたとき、積替補修工程において、隣接燃焼室の温度を非積替補修燃焼室群の平均温度よりも高い温度に制御してもよく、隣接燃焼室の温度を非積替補修燃焼室群の平均温度に対して100度~200度高い温度に制御してもよい。非積替補修部全体の温度を950度以上1250度以下の範囲に制御してもよい。
【0029】
さらに、隔たった二列の隣接燃焼室に積替補修燃焼室群が挟まれる場合、積替補修燃焼室群は連続する7列以下の燃焼室から構成されることがよく、隣接燃料室の両側に積替補修燃焼室群が配置されている場合、一方の積替補修燃焼室群の積替補修部と他方の積替補修燃焼室群の積替補修部とは炉長方向位置が異なっていることがよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、補修対象となる燃焼室の窯口の数が多い場合に、効率良く積替補修を行うことができる。また、これにより積替補修によるコークス生産量の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】コークス炉10の平面図である。
図2】従来の補修方法において、積替補修燃焼室に隣接する燃焼室からの伝熱の様子を示した図である。
図3】本発明の補修方法において、積替補修燃焼室群20に隣接する隣接燃焼室30からの伝熱の様子を示した図である。
図4】積替補修燃焼室群の構成の一例を示した図である。
図5】従来の補修方法及び従来の補修方法を単純に保温休止状態で行ったときの非積替補修部の温度を示した図である。
図6】本発明の補修方法を用いたときの非積替補修部の温度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のコークス炉の補修方法について説明する。本発明の特徴はコークス炉を保温休止状態にして燃焼室の窯口の積替補修を行うことである。
【0033】
ここで、室炉式コークス炉の方向に関しては、垂直方向を「高さ方向」、炭化室と燃焼室とが交互に重層する方向を「炉幅方向」、そして乾留完了したコークスが押し出される方向を「炉長方向」称することが一般的であり、本明細書でもこの呼称を採用する。
炭化室と燃焼室について、炉長方向で炉外に面している部位を「窯口」と称する。窯口は炉長方向の両端に有るので、これらを区別する場合に、コークス押出機の存在する側をPS(Pusher Side)、コークスが排出される側をCS(Coke Side)と称する。これらの呼称も一般的であり、本明細書でもこの呼称を採用する。
また、コークス炉のうち補修対象となる複数の燃焼室を含む領域(以下、単に「補修領域」とも称する。)について保温休止を実施する。補修領域は、炉配置上の構成や作業単位などで決定される炉団と称される単位で選定することが好ましいが、これに限定されない。
本明細書において、温度を表す単位「度」は「℃」を意味する。
【0034】
図1に補修領域の炉団の一部であるコークス炉10を示した。図1はコークス炉10を上方から観察した平面図である。図1に記載されているように、コークス炉10は複数の燃焼室11が炉幅方向に一列に配置されている。燃焼室11は複数のフリューから構成され、全体として炉長方向に延在している。またコークス炉10は、燃焼室11間のそれぞれに炭化室12が配置されている。すなわち、コークス炉10は燃焼室11と炭化室12とが交互に配列されている構成となっている。燃焼室11と炭化室12との下部には蓄熱室(不図示)が配置されている。かかるコークス炉10の構成は一般的な室炉式コークス炉の構成と同じである。
【0035】
本発明のコークス炉の補修方法は、少なくとも8以上の燃焼室11の窯口を積替補修により更新するものである。上述したように、8未満の燃焼室11の窯口を積替補修により更新する場合、保温休止状態で積替補修を行うことによる悪影響が生じる虞がある。補修対象とする燃焼室11の窯口の数は好ましくは10以上である。補修対象とする燃焼室11の窯口数の上限は特に限定されない。
【0036】
また、本発明のコークス炉の補修方法は、コークス炉10を保温休止状態にして積替補修部を積替補修する積替補修工程を備えている。
補修領域のコークス炉の保温休止方法については、周知の方法を適用することができる。窯口補修法を適用する燃焼室は、補修領域のすべての燃焼室でもよいし、すでに補修が実施された等の理由で窯口補修を実施しない燃焼室があってもよい。ただし、保温休止の際には補修領域の全ての炭化室からコークスを排出しておくことがよい。
【0037】
ここで、本明細書において、積替補修を行う燃焼室11のうち1列又は2列以上連続する燃焼室11を1つの積替補修燃焼室群20とし、積替補修燃焼室群20のうち積替補修を行う部位を積替補修部21とし、積替補修燃焼室群20の前記積替補修部以外の部位を非積替補修部22として設定する。また、積替補修燃焼室群20に隣接する燃焼室を隣接燃焼室30とし、積替補修燃焼室群20及び前記隣接燃焼室30以外の燃焼室11を非積替補修燃焼室群40として設定する。
積替補修部21は、一般的に燃焼室11の窯口から2~4フリューの範囲に設定される。窯口に近いフリューは損傷が大きいためである。ただし、本発明はこれに限定されない。
【0038】
さらに、本発明のコークス炉の補修方法は、上記積替補修工程において、積替補修燃焼室群20に隣接する隣接燃焼室30の温度を制御することにより、非積替補修部22全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内に制御するものである。
【0039】
「非積替補修部22全体」とは、非積替補修部22に配置される全てのフリューを指す。また、「煉瓦非劣化温度範囲」とは煉瓦が劣化しない温度範囲である。コークス炉10(燃焼室11)の煉瓦は保温休止状態であっても、煉瓦が劣化しない温度範囲に保つ必要がある。煉瓦非劣化温度範囲未満の温度では、煉瓦に亀裂や割れ等が生じる場合がある。煉瓦非劣化温度範囲を超える温度では、煉瓦が溶融する場合がある。煉瓦非劣化温度範囲は燃焼室11に使用される煉瓦の構成等によって異なるため特に限定されないが、800度以上1350度以下であることがよい。好ましくは900度以上1300度以下、より好ましくは950度以上1250度以下である。
以上のことから、非積替補修部22全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内に制御するとは、非積替補修部22に配置される全てのフリューのそれぞれの温度を煉瓦非劣化温度内に制御するという意味である。
【0040】
一方で、隣接燃焼室30の温度は、前述のとおり非積替補修部22全体の温度を煉瓦非劣化温度内に制御することを目的に設定される。
【0041】
通常、燃焼室11はPS、CSの両側から燃焼ガスが導入され、各フリューにおいて燃焼ガスを燃焼し、燃焼室を加熱する。しかし、積替補修燃焼室群20は一方の窯口側(例えばCS)を積替補修部21とし、窯口を積替補修する場合、燃焼室11を加熱する燃焼ガスは他方の窯口側(例えばPS)からのみ導入される。そのため、非積替補修部22において、燃焼ガスが導入される窯口に近いフリューでは適切な量の燃焼ガスが導入されるが、該窯口から遠くなるほどフリューに導入される燃焼ガス量は少なくなる。積替補修部21と非積替補修部22との境界に近接するフリューでは、より燃焼ガスの量が少なくなり、煉瓦非劣化温度内に制御することが難しくなる。このようなことから、非積替補修部22は燃焼ガスを導入する窯口側から遠ざかるにつれて温度が低くなり、その結果非積替え補修部全体に温度勾配が生じる。
【0042】
これは、導入する燃焼ガスの量を単に増加させただけでは解決することができない問題であった。なぜならば、燃焼ガス量を増加させた場合、燃焼ガスを導入する窯口側のフリューでは燃焼ガスの量が大きく増加するが、該窯口から遠いフリューでは燃焼ガスの量はそれほど増加しないためである。そして、その結果、非積替補修部22全体の温度勾配が拡大するため、燃焼ガスを導入する窯口側のフリューでは煉瓦非劣化温度を超える問題が新たに生じ、一方で積替補修部21と非積替補修部22との境界に近接するフリューでは依然として煉瓦非劣化温度未満になる問題が残る。
【0043】
積替補修とコークス操業とを並行して行う従来の補修方法では、積替補修を行う燃焼室以外の燃焼室ではコークス操業のために高温に加熱されている。そのため、積替補修を行わない(コークス操業を行っている)燃焼室からの伝熱(熱補償)により、積替補修を行う燃焼室(非積替補修部)全体が煉瓦非劣化温度内に制御されており、このような問題は認識されていなかった。この様子を図2に示した。図2の矢印は伝熱を概念的に表している。図3、4においても同様である。
【0044】
一方、保温休止状態ではコークス操業を行わないため、積替補修を行わない燃焼室11からの伝熱は期待できない。そのため、従来の補修方法に沿って、単にコークス炉を保温休止状態にして積替補修を行うと、非積替補修部22全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内に制御することが難しい。
【0045】
かかる問題に対し、発明者らは、保温休止状態であっても、積替補修燃焼室群20に隣接する隣接燃焼室30のみの温度を制御することで、隣接燃焼室30からの伝熱により非積替補修部22全体の温度を煉瓦非劣化温度範囲内に制御することが可能となることを見出した。この様子を図3に示した。
【0046】
隣接燃焼室30の温度は、特に限定されないが、非積替補修燃焼室群40の平均温度よりも高い温度に制御されることがよい。具体的には、非積替補修燃焼室群40の平均温度に対して50度~300度、好ましくは100度~200度高い温度に制御されることがよい。これにより、隣接燃焼室30からの伝熱により、燃焼ガスが導入される窯口から遠い非積替補修部22のフリューの温度を上昇させることができる。一方で、燃焼ガスが導入される窯口に近い非積替補修部22のフリューの温度は隣接燃焼室30の温度と同等又は隣接燃焼室30の温度よりも高いため、隣接燃焼室30からの伝熱の影響は少ない。このように、隣接燃焼室30からの伝熱を利用することにより、低温のフリューの温度を底上げでき、且つ、高温のフリューに対してはほとんど影響を与えることがないため、非積替補修部22全体の温度を安定に煉瓦非劣化温度範囲内に制御することが可能になる。隣接燃焼室30の上限は特に限定されないが、煉瓦非劣化温度範囲を超えないように制御することがよい。具体的には、1300度以下若しくは1250度以下にすることがよい。
【0047】
ここで、非積替補修燃焼室群40の平均温度とは、非積替補修燃焼室群40に属する燃焼室11の温度を平均したものである。ただし、非積替補修燃焼室群40の平均温度には、劣化や損傷によりコークス操業ができない燃焼室の温度を含めない。
燃焼室11の温度は、燃焼室11を構成するフリューにPSからCSに向かって番号を振り、上位から1/3、1/2、2/3の位置にあるフリューの温度を平均したものである。フリューの温度は公知の方法により測定する。例えば、放射温度計を用いてフリュー底部の温度を測定する方法があげられる。
【0048】
積替補修工程において、非積替補修燃焼室群40の温度も煉瓦非劣化温度範囲内に制御されているが、保温休止状態でありコークス操業を行っていないため、コスト削減の観点からなるべく低い温度に制御されている。具体的には、1000度前後に制御されている。
【0049】
次に、積替補修燃焼室群20の具体的な構成例を説明する。
まず、隔たった二列の隣接燃焼室30に積替補修燃焼室群20が挟まれる場合、積替補修燃焼室群20は連続する7列以下の燃焼室11から構成されることがよい。積替補修燃焼室群20の構成を連続する燃焼室11の数を7列以下とした理由は、両側の隣接燃焼室30からの伝熱を考慮したものである。
【0050】
また、1つの隣接燃料室30の両側に積替補修燃焼室群20が配置されている場合、
一方の積替補修燃焼室群20の積替補修部21と他方の積替補修燃焼室群20の積替補修部21とは炉長方向位置が異なることがよい。これは例えば、一方の積替補修燃焼室群20の積替補修部21がPS側に配置され、他方の積替補修燃焼室群20の積替補修部21がCS側に配置される状態である。このような配置にする理由は、特にガンタイプのコークス炉において同一の燃焼室のPS、CSを同時に補修をすると燃焼ガスを導入できなくなり温度保持が不可能になるためである。
これらの具体的な構成を組み合わせた一例を図4に示した。
【0051】
以上、本発明のコークス炉の補修方法について説明した。本発明によれば、補修対象となる燃焼室の窯口の数が8以上である場合に、従来の補修方法よりも効率良く積替補修を行うことができる。また、これにより従来よりも積替補修によるコークス生産量の低下を抑制できる。
【実施例
【0052】
以下、実施例を用いて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0053】
1.非積替補修部の温度制御
まず、特許文献1に記載されている従来の補修方法を用いた場合、すなわち、積替補修燃焼室群とそれ以外の燃焼室とのそれぞれで温度管理を行う場合の積替補修燃焼室群の非積替補修部の各フリューの温度を図5の線Aに示した。図5のフリューNo.は、燃焼ガスが導入されるフリューから積替補修部に近いフリューになるほど大きくなるように設定した。点線は従来の補修方法の積替補修燃焼室群以外の燃焼室の温度を表しており、平均温度は1020度である。
【0054】
また、特許文献1に記載されている従来の補修方法を、単純に保温休止状態で行った場合の積替補修燃焼室群の非積替補修部の各フリューの温度を図5の線Bに示した。この場合、積替補修燃焼室群以外の燃焼室は保温休止状態なので、平均温度を1000度に設定されている。
【0055】
図5より、従来の補修方法は積替補修燃焼室群以外の燃焼室、特に積替補修燃焼室群に隣接する燃焼室からの伝熱があるため、積替補修燃焼室群の非積替補修部の温度を煉瓦非劣化温度範囲(900度以上1300度以下)内に制御することができた。一方で、従来の補修方法を単純に保温休止状態で行うと、積替補修燃焼室群に隣接する燃焼室から伝熱による影響が小さいため、積替補修部に近い非積替補修部のフリューでは900度を下回った。すなわち、煉瓦に劣化が生じ得る温度であった。
【0056】
次に本発明の補修方法を用いて、非積替補修部の温度制御について検証した。すなわち、コークス炉の非積替補修燃焼室群を保温休止状態にする一方で、積替補修燃焼室群に隣接する隣接燃焼室の温度を、非積替補修部全体が煉瓦非劣化温度範囲内に制御されるように制御した。具体的には、隣接燃焼室の温度を非積替補修燃焼室群の平均温度(950度)よりも高い温度である1000度及び1150度に制御した。また、この際、非積替補修部に導入する燃焼ガスの量を適宜調整した。その結果を図6に示した。
【0057】
図6に示したように、いずれの場合も非積替補修部全体の温度が煉瓦非劣化温度範囲(900度以上1300度以下)内に制御することができた。また、隣接燃焼室の温度を1150度に制御した場合、1000度に制御した場合に比べて、非積替補修部全体の温度勾配が小さくなり、その結果、非積替補修部全体の温度をより厳しい基準の煉瓦非劣化温度範囲(950度以上1250度以下)内に収まるように制御できることが分かった。
【0058】
2.シミュレーション
21列の燃焼室の窯口全てを積替補修する場合を、コンピュータでシミュレーションし、施工順序等を最適化した。最適化においては、最も工期が短くなるものを選択した。シミュレーションは、特許文献1に記載されている従来の補修方法と上記した本発明の補修方法とのそれぞれで行った。
評価基準としては、1単位のフリューを積替補修するのに要する日数(日/フリュー)を採用した。
【0059】
従来の補修方法で行う場合、8.6(日/フリュー)であった。一方で、本発明の補修方法で行う場合、1.7(日/フリュー)であった。このように、本発明の補修方法を用いることにより、従来の補修方法に比べて工期を約1/5に低減することができた。
【符号の説明】
【0060】
10 コークス炉
11 燃焼室
12 炭化室
20 積替補修燃焼室群
21 積替補修部
22 非積替補修部
30 隣接燃焼室
40 非積替補修燃焼室群
図1
図2
図3
図4
図5
図6