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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】鋼板、鋼板の製造方法およびめっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230524BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230524BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/58
C21D9/46 T
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021508891
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008888
(87)【国際公開番号】W WO2020195605
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019059420
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 啓達
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009410(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/026016(WO,A1)
【文献】特開2012-001775(JP,A)
【文献】特開2012-001776(JP,A)
【文献】国際公開第2013/103125(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/161248(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/111758(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.02~0.15%、
Si:0.005~2.000%、
Mn:1.00~3.00%、
Ti:0.010~0.200%、
sol.Al:0.001~1.000%、
N:0.0010~0.0100%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Nb:0~0.100%、
V:0~0.500%、
Mo:0~0.500%、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cr:0~2.00%、
B:0~0.0020%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、および
Bi:0~0.0200%
を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
表面から板厚の1/4深さ位置で、
焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率が10%以上100%以下であり、フェライトの面積分率が0%以上90%以下であり、残留オーステナイトの面積分率が0%以上3%以下であり、前記残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイトおよびパーライトの合計面積分率が0%以上10%以下であり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度が1.0個/nm以上12.0個/nm以下であり、
板厚中心部の{211}<011>および{332}<113>の極密度の合計が12.0以下であり、
引張強度が780MPa以上である
ことを特徴とする鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.001~0.100%、
V:0.005~0.500%、
Mo:0.001~0.500%、
Cu:0.02~1.00%、
Ni:0.02~1.00%、
Cr:0.02~2.00%、
B:0.0001~0.0020%、
Ca:0.0002~0.0100%、
Mg:0.0002~0.0100%、
REM:0.0002~0.0100%、および
Bi:0.0001~0.0200%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋼板の製造方法であって、
請求項1または2に記載の化学組成を有するスラブまたは鋼片に複数の圧延スタンドを用いて多パス熱間圧延を施す工程と、熱処理を施す工程とを有し、
前記多パス熱間圧延を施す工程では、
加熱温度を1200~1350℃とし、
仕上げ温度を単位℃でFTと表したとき、前記FT+50℃超、前記FT+150℃以下の温度域の合計圧下率を50%以上とし、
前記FT~前記FT+50℃の温度域の合計圧下率を40~80%、前記FT~前記FT+50℃の温度域の圧延に要する時間を0.5~10.0秒とし、
前記FT+50℃超、前記FT+150℃以下の前記温度域および前記FT~前記FT+50℃の前記温度域においてそれぞれ2パス以上の圧延を行い、
前記FT~前記FT+100℃の温度域の平均冷却速度を6.0℃/秒以上とし、
前記FTを、下記式(1)により求められるAr以上、かつ下記式(2)により求められるTR以上、かつ1100℃以下として仕上げ圧延を完了した後、3.0秒以内に水冷を開始し、
前記FT~750℃の温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上とし、750~600℃の温度域で20秒間以下滞在させてから、600℃~Ms-200℃未満の冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上として冷却し、
前記熱処理を施す工程では、
前記熱処理時の最高到達温度Tmaxを300~720℃とし、焼き戻しパラメーターPsを14.6×Tmax+5891以上、17.1×Tmax+6223以下とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
Ar(℃)=901-325×[C]+33×[Si]-92×[Mn]+287×[P]+40×[sol.Al] (1)
TR(℃)=800+700×[Ti]+1000×[Nb] (2)
但し、上記式(1)および(2)中の各元素記号は、各元素の質量%での含有量を示し、含有しない場合は0を代入する。
【請求項4】
前記多パス熱間圧延を施す工程で、下記式(3)により求められるMs~Ms-200℃未満の冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を80℃/秒以上とすることを特徴とする請求項3に記載の鋼板の製造方法。
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-21×[Mo] (3)
但し、上記式(3)中の各元素記号は、各元素の質量%での含有量を示し、含有しない場合は0を代入する。
【請求項5】
前記多パス熱間圧延を施す工程で、前記仕上げ圧延の完了後、0.3秒以内に前記水冷を開始し、かつ前記FT~前記FT-40℃の温度域の平均冷却速度が100℃/秒以上である冷却を行うことを特徴とする請求項3または4に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記多パス熱間圧延を施す工程で、前記FT~前記FT-40℃の温度域の平均冷却速度が100℃/秒以上である前記冷却を行う工程を、前記圧延スタンド間で行うことを特徴とする請求項5に記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の鋼板の表面に、めっき層が形成されていることを特徴とするめっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき層が、溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項7に記載のめっき鋼板。
【請求項9】
前記めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項7に記載のめっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板、鋼板の製造方法およびめっき鋼板に関する。より詳しくは、本発明は、自動車用、家電用、機械構造用、建築用などの用途に用いられる素材として好適な、加工性に優れた鋼板、鋼板の製造方法およびめっき鋼板に関する。
本願は、2019年3月26日に、日本に出願された特願2019-059420号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめとする輸送用機械や各種産業機械の構造部材等の素材として供される鋼板には、強度、伸びや伸びフランジ性などの加工性、低温靭性、またそれら特性の均一性、など多様な特性が要求される。
【0003】
特に、自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等の部品に用いられる鋼板は、その用途に応じて、伸びフランジ性、バーリング加工性、延性、疲労耐久性、耐衝撃性及び耐食性等が求められる。これら材料特性と高強度とを高次元でバランス良く発揮させることが、上記のような部材に対して用いられる鋼板に求められる。
【0004】
また、上記のような部材に対して用いられる鋼板は、成形され、部材の部品として自動車に取り付けられた後に、衝突等による衝撃を受けても破壊されにくい特性を有する必要がある。特に、使用温度が低い寒冷地では、部材が脆化しやすくなるため、耐衝撃性確保のためには、鋼板の低温靭性も向上させる必要性がある。
【0005】
低温靭性とは、vTrs(シャルピー破面遷移温度)等で規定される特性である。上記部材の部品に用いられる薄鋼板には、優れた加工性だけでなく、低温靭性が非常に重要な特性として求められる。さらに、部品の成型工程において形成されたせん断面や打抜き端面には疵および微小な割れが発生する場合がある。せん断面や打ち抜き端面に疵および割れが発生すると、疵および割れからき裂が進展して疲労破壊に至る場合がある。そのため、疲労耐久性の観点から、せん断面や打ち抜き端面における疵および割れの発生を抑制することが要求される。せん断面や打抜き端面に発生した疵や微小割れとしては、例えば特許文献1に示すように、端面の板厚方向と平行に発生する割れが知られ、この割れは「はがれ」と呼ばれる。
【0006】
優れた延性を得られる鋼板として、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相との複合組織で構成されるDual Phase鋼板(以下DP鋼)が知られている。DP鋼は延性に優れる一方で、著しく硬度の異なるフェライト相とマルテンサイト相との界面からボイドが発生して割れが生じるので、穴広げ性に劣る場合があった。
【0007】
特許文献2では、面積率で、ベイニティックフェライトを90%以上、マルテンサイトを5%以下、ベイナイトを5%以下とすることで、伸びと穴広げ性(伸びフランジ性)とを改善した、引張強度980MPa以上の高強度熱延鋼板が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載の発明では、ベイニティックフェライトを主体としているため十分な伸びが得られない場合がある。
【0008】
特許文献3では、ベイナイトを面積率で90%以上とした上で、残部をマルテンサイト、オーステナイト、フェライトから選ばれた1種または2種以上の母相組織とし、かつ組織中に分散するセメンタイトの含有量と平均粒径とを制御することで穴広げ性(伸びフランジ性)を改善した、引張強度980MPa以上の熱延鋼板が提案されている。しかしながら、特許文献3に記載の発明では、遷移沸騰領域である330~470℃で巻き取りを行っているため、板面内の温度ばらつきに起因した特性ばらつきが生じる場合がある。
【0009】
特許文献4では、フェライト分率が50~95%であり、マルテンサイトと残留オーステナイトとからなる硬質第二相の分率が5~50%であり、炭化物形成元素の含有量の相互関係や、炭化物形成元素とC含有量との関係を所定の範囲とした上で、析出物の平均粒径、析出物の分率を規定した、疲労特性に優れた熱延鋼板が提案されている。しかしながら、特許文献4に記載の発明では、軟質なフェライトを主体として、微細炭化物の析出強化により強度を確保しているため、十分な低温靭性が得られない場合がある。
【0010】
特許文献5では、フェライト:0~30%、ベイナイト:70~100%であり、結晶粒内の結晶方位差が5~14°である結晶粒の全結晶粒に対する割合を特定範囲にした上で、固溶Cまたは固溶C及び固溶Bの合計の粒界個数密度と、粒界に析出しているセメンタイトの平均粒径を規定した、優れた伸びフランジ性と、はがれの発生の少ない鋼板が提案されている。しかしながら、特許文献5では、耐衝撃性に必要な低温靱性については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2008/123366号
【文献】日本国特開2008-255484号公報
【文献】日本国特開2014-205890号公報
【文献】日本国特開2009-84648号公報
【文献】国際公開第2018/026016号
【非特許文献】
【0012】
【文献】焼戻しパラメーターの物理的意味の解釈と連続加熱・冷却熱処理過程への応用、土山聡宏、「熱処理」、第42巻、第3号、p163~168(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、高強度であり、且つ伸び、伸びフランジ性、低温靭性及び耐はがれ性に優れた鋼板及びその製造方法、並びに上記諸特性を有するめっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋼板の化学組成及び製造条件の最適化により、鋼板の集合組織とミクロ組織とを制御することで、高強度であり、且つ伸び、伸びフランジ性、低温靭性及び耐はがれ性に優れた鋼板を製造できることを知見した。なお、耐はがれ性に優れるとは、せん断面や打ち抜き端面における疵および割れの発生が少ないことをいう。
【0015】
本発明の要旨は、次の通りである。
[1]本発明の一態様に係る鋼板は、質量%で、
C:0.02~0.15%、
Si:0.005~2.000%、
Mn:1.00~3.00%、
Ti:0.010~0.200%、
sol.Al:0.001~1.000%、
N:0.0010~0.0100%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Nb:0~0.100%、
V:0~0.500%、
Mo:0~0.500%、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cr:0~2.00%、
B:0~0.0020%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
REM:0~0.0300%、および
Bi:0~0.0200%
を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
表面から板厚の1/4深さ位置で、
焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率が10%以上100%以下であり、フェライトの面積分率が0%以上90%以下であり、残留オーステナイトの面積分率が0%以上3%以下であり、前記残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイトおよびパーライトの合計面積分率が0%以上10%以下であり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度が1.0個/nm以上12.0個/nm以下であり、
板厚中心部の{211}<011>および{332}<113>の極密度の合計が12.0以下であり、
引張強度が780MPa以上である。
[2]上記[1]に記載の鋼板は、前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.001~0.100%、
V:0.005~0.500%、
Mo:0.001~0.500%、
Cu:0.02~1.00%、
Ni:0.02~1.00%、
Cr:0.02~2.00%、
B:0.0001~0.00200%、
Ca:0.0002~0.0100%、
Mg:0.0002~0.0100%、
REM:0.0002~0.0100%、および
Bi:0.0001~0.0200%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
[3]本発明の別の態様に係る鋼板の製造方法は、上記[1]または[2]に記載の鋼板を製造する鋼板の製造方法であって、上記[1]または[2]に記載の化学組成を有するスラブまたは鋼片に多パス熱間圧延を施す工程と、熱処理を施す工程とを有し、
前記多パス熱間圧延を施す工程では、
加熱温度を1200~1350℃とし、
仕上げ温度を単位℃でFTと表したとき、前記FT+50℃超、前記FT+150℃以下の温度域の合計圧下率を50%以上とし、
前記FT~前記FT+50℃の温度域の合計圧下率を40~80%、前記FT~前記FT+50℃の温度域の圧延に要する時間を0.5~10.0秒とし、
前記FT+50℃超、前記FT+150℃以下の前記温度域および前記FT~前記FT+50℃の前記温度域においてそれぞれ2パス以上の圧延を行い、
前記FT~前記FT+100℃の温度域の平均冷却速度を6.0℃/秒以上とし、
前記FTを、下記式(1)により求められるAr以上、かつ下記式(2)により求められるTR以上、かつ1100℃以下として仕上げ圧延を完了した後、3.0秒以内に水冷を開始し、
前記FT~750℃の温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上とし、750~600℃の温度域で20秒間以下滞在させてから、600℃~Ms-200℃未満の冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上として冷却し、
前記熱処理を施す工程では、
前記熱処理時の最高到達温度Tmaxを300~720℃とし、焼き戻しパラメーターPsを14.6×Tmax+5891以上、17.1×Tmax+6223以下とする。
Ar(℃)=901-325×[C]+33×[Si]-92×[Mn]+287×[P]+40×[sol.Al] (1)
TR(℃)=800+700×[Ti]+1000×[Nb] (2)
但し、上記式(1)および(2)中の各元素記号は、各元素の質量%での含有量を示し、含有しない場合は0を代入する。
[4]上記[3]に記載の鋼板の製造方法では、下記式(3)により求められるMs~Ms-200℃未満の冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を80℃/秒以上としてもよい。
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-21×[Mo] (3)
但し、上記式(3)中の各元素記号は、各元素の質量%での含有量を示す。
[5]上記[3]または[4]に記載の鋼板の製造方法では、仕上げ圧延完了後、0.3秒以内に水冷を開始し、前記FT~前記FT-40℃の温度域の平均冷却速度が100℃/秒以上である冷却を行ってもよい。
[6]上記[5]に記載の鋼板の製造方法では、前記FT~前記FT-40℃までの平均冷却速度が100℃/秒以上である前記冷却を行う工程を、圧延スタンド間で行ってもよい。
[7]本発明の別の態様に係るめっき鋼板は、上記[1]または[2]に記載の鋼板の表面に、めっき層が形成されている。
[8]上記[7]に記載のめっき鋼板では、前記めっき層が、溶融亜鉛めっき層であってもよい。
[9]上記[7]に記載のめっき鋼板では、前記めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る上記一態様によれば、高強度であり、且つ伸び、伸びフランジ性、低温靭性および耐はがれ性に優れた鋼板及びその製造方法並びに上記諸特性を有するめっき鋼板を提供することができる。本発明に係る鋼板またはめっき鋼板を自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等の部品の素材として使用すれば、部品形状に加工することが容易であり、極寒冷地での使用にも耐えることができるため、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る鋼板、鋼板の製造方法およびめっき鋼板について以下に詳しく説明する。まず、本実施形態に係る鋼板の化学組成について説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
以下で「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。以下の説明において、鋼の化学組成に関する%はいずれも質量%である。
【0018】
<鋼の化学組成>
(C:0.02~0.15%)
Cは、焼き戻しマルテンサイトや焼き戻しベイナイト等の硬質相やTi等と結合して炭化物を生成させることで、鋼の強度を高める。また、結晶粒界に偏析して、打抜きやせん断加工されて形成された端面のはがれを抑制することで、耐はがれ性を向上させる。C含有量が0.02%未満では上記作用を十分に発揮させることが困難である。したがって、C含有量は0.02%以上、好ましくは0.03%以上とする。一方、C含有量が0.15%超では、鋼板の伸びフランジ性及び低温靭性が劣化する。また、熱間圧延後のフェライト変態が著しく遅延し、所望の量のフェライトが得難くなる。さらに、溶接性が顕著に劣化する。したがって、C含有量は0.15%以下とする。C含有量は、好ましくは0.12%以下、より好ましくは0.10%以下である。
【0019】
(Si:0.005~2.000%)
Siは、固溶強化および焼入性を高めることによって鋼の強度を高める作用を有する。また、Siは、セメンタイトの析出を抑制する作用も有する。Si含有量が0.005%未満では、上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.100%以上であり、一層好ましくは0.300%以上である。一方、Si含有量が2.000%超では、熱間圧延工程における表面酸化により、鋼板の表面性状が著しく劣化する。したがって、Si含有量は2.000%以下とする。Si含有量は、好ましくは1.500%以下、より好ましくは1.300%以下である。
【0020】
(Mn:1.00~3.00%)
Mnは、固溶強化および焼入性を高めることによって鋼の強度を高める作用を有する。
Mn含有量が1.00%未満では、780MPa以上の鋼板の強度が得難くなる。したがって、Mn含有量は1.00%以上とする。Mn含有量は、好ましくは1.20%以上である。一方、Mn含有量が3.00%超では、熱間圧延後の冷却過程におけるフェライト変態が過度に遅延することで、所望の量のフェライトが得難くなる。また、フレッシュマルテンサイト及びベイナイトの硬質化により、フレッシュマルテンサイト及びベイナイトと軟質なフェライトとの境界近傍においてき裂が容易に発生することで、鋼板の伸びフランジ性及び靭性が低下する。
【0021】
本発明者らは、Mnを多量に含有させると、鋼板のr値の面内異方性の増加とともに、伸びフランジ性が低下する場合があることを知見した。この理由は明確ではないが、Mnを多量に含有させることにより、MnSが多量に析出すること、及び、Mn偏析に起因した熱間圧延中の再結晶や、仕上げ圧延後のフェライト変態に局所的なバラつきが生じることが原因であると推測される。以上のことから、所望の量のフェライトを得つつ、伸びフランジ性に優れた鋼板を安定して製造するために、Mn含有量は3.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは2.50%以下、より好ましくは2.20%以下、より一層好ましくは1.80%以下である。
【0022】
(Ti:0.010~0.200%)
Tiは、Ti窒化物を形成して金属組織を微細化する作用を有する。また、Tiは、炭化物を析出させて、鋼を強化させる作用を有する。Ti含有量が0.010%未満では上記作用が発揮され難くなる。したがって、Ti含有量は0.010%以上とする。Ti含有量は、好ましくは、0.030%以上、より好ましくは0.040%以上、より一層好ましくは0.060%以上である。一方、Tiを過剰に含有させると、粗大な窒化物や炭化物が生成されることにより、鋼板の伸びフランジ性及び靭性が低下する。さらに、Tiはオーステナイトの再結晶温度を高める作用も有するため、Tiを過剰に含有させると、再結晶温度が過剰に高くなり、r値の異方性が増加することで、鋼板の伸びフランジ性が低下する。したがって、Ti含有量は0.200%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.160%以下、より好ましくは0.140%以下である。
【0023】
(sol.Al:0.001~1.000%)
Alは、製鋼段階で脱酸により鋼を清浄化(鋼にブローホールなどの欠陥が生じることを抑制)し、かつフェライト変態を促進する作用を有する。sol.Al含有量が0.001%未満では、上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.010%以上、より好ましくは0.020%以上である。一方、sol.Al含有量を1.000%超としても、上記作用による効果が飽和するとともに、精錬コストの上昇を引き起こす。したがって、sol.Al含有量は1.000%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.800%以下、より好ましくは0.600%以下である。なお、sol.Alは酸可溶性Alを意味する。
【0024】
(N:0.0010~0.0100%)
Nは、Ti窒化物を形成してスラブ再加熱時及び熱間圧延中のオーステナイトの粗大化を抑制して、ミクロ組織を微細化する作用を有する。N含有量が0.0010%未満では上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、N含有量は0.0010%以上とする。N含有量は、好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0020%以上である。一方、N含有量が0.0100%超では、粗大なTi窒化物を形成して、鋼板の伸びフランジ性を劣化させる。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0060%以下であり、より好ましくは0.0050%以下である。
【0025】
(P:0.100%以下)
Pは、不純物として鋼中に含有される元素であり、鋼板の伸びフランジ性や低温靭性を低下させる作用を有する。そのため、P含有量は0.100%以下とする。P含有量は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.040%以下、より一層好ましくは0.020%以下である。Pは原料から不純物として混入するが、その下限を特に制限する必要はなく、伸びフランジ性や低温靭性を確保する上では、Pの含有量はより低い方が好ましい。ただし、P含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。製造コストの観点からは、P含有量は好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上である。
【0026】
(S:0.0100%以下)
Sは、不純物として含有される元素であり、鋼板の加工性を低下させる作用を有する。
そのため、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0080%以下、より好ましくは0.0060%以下、より一層好ましくは0.0030%以下である。Sは原料から不純物として混入するが、その下限を特に制限する必要はなく、加工性を確保する観点からはSの含有量はより低い方が好ましい。ただし、S含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。製造コストの観点からは、S含有量は好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上、より一層好ましくは、0.0010%以上である。
【0027】
本実施形態に係る鋼板の化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。本実施形態において、不純物とは、本実施形態に係る鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0028】
本実施形態に係る鋼板は、Feの一部に代え、以下の任意元素として含有してもよい。任意元素を含有させなくても本実施形態に係る鋼板はその課題を解決することができるので、任意元素を含有させない場合の含有量の下限は0%である。
【0029】
(Nb:0~0.100%)
Nbは任意元素である。Nbは、鋼板の結晶粒径の粗大化を抑制するとともに、フェライト粒径を微細化し、NbCの析出強化により鋼板の強度を高める効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Nb含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.005%以上である。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、上記効果が飽和するとともに、仕上げ圧延時の圧延荷重の増加を引き起こす場合がある。そのため、Nb含有量は、0.100%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、好ましくは、0.060%以下、より好ましくは0.030%以下である。
【0030】
(V:0~0.500%)
Vは任意元素である。Vは、鋼中に固溶して鋼板の強度を高めるとともに、炭化物や窒化物、炭窒化物等として鋼中に析出し、析出強化によっても鋼板の強度を向上させる効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、V含有量を0.005%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは、0.010%以上である。一方、V含有量が0.500%を超えると鋼板の靭性の低下を引き起こす場合がある。そのため、V含有量は、0.500%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.300%以下である。
【0031】
(Mo:0~0.500%)
Moは任意元素である。Moは、鋼の焼入れ性を高めるとともに、炭化物や炭窒化物を形成して鋼板を高強度化させる効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Mo含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは、0.005%以上である。一方、Mo含有量が0.500%を超えると、スラブの割れ感受性が高まる場合がある。そのため、Moの含有量は、0.500%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは、0.300%以下である。
【0032】
(Cu:0~1.00%)
Cuは任意元素である。Cuは、鋼の靭性を改善する効果および強度を高める効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Cu含有量を0.02%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは、0.08%以上である。一方、Cuを過剰に含有させると鋼板の溶接性が低下する場合がある。そのため、Cu含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは、0.50%以下、より一層好ましくは0.30%以下である。
【0033】
(Ni:0~1.00%)
Niは任意元素である。Niは、鋼の靭性を改善する効果および強度を高める効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Ni含有量を0.02%以上とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは、0.10%以上である。一方、Niを過剰に含有させると合金コストが嵩み、また、鋼板の溶接熱影響部の靭性が劣化する場合がある。そのため、Ni含有量は1.00%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは、0.50%以下、より一層好ましくは0.30%以下である。
【0034】
(Cr:0~2.00%)
Crは任意元素である。Crは、鋼の焼入性を高めることによりフレッシュマルテンサイト等の生成を促進する効果を有する。この効果を確実に得る場合、Cr含有量を0.02%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは、0.05%以上である。一方、Crを過剰に含有させると、熱間圧延後の冷却過程におけるフェライト変態が過度に遅延してしまい、所望の量のフェライトが得難くなる場合がある。そのため、Cr含有量は、2.00%以下とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは1.50%以下、より一層好ましくは1.00%以下、特に好ましくは0.50%以下である。
【0035】
(B:0~0.0020%)
Bは任意元素である。Bは、粒界に偏析することで粒界強度を高めて、耐はがれ性を向上させる作用を有する。この効果を確実に得る場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0002%以上である。一方、0.0020%を超えてBを含有させても上記効果が飽和するとともに、合金コストが増加する。そのため、B含有量は、0.0020%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0015%以下、より一層好ましくは0.0010%以下である。
【0036】
(Ca:0~0.0100%)
Caは任意元素である。Caは溶鋼中に微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の金属組織を微細化させる効果を有する。また、Caは、溶鋼中のSを球状のCaSとして固定して、MnSなどの延伸介在物の生成を抑制することにより、鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Ca含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.0005%以上である。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼中のCaOが増加し、鋼板の靭性に悪影響を与える場合がある。そのため、Ca含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.0050%以下、より一層好ましくは、0.0030%以下である。
【0037】
(Mg:0~0.0100%)
Mgは任意元素である。MgはCaと同様に溶鋼中に酸化物や硫化物を形成して、粗大なMnSの形成を抑制し、微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の組織を微細化する効果を有する。これらの効果を確実に得る場合、Mg含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.0005%以上である。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼中の酸化物が増加し、鋼板の靭性に悪影響を与える。そのため、Mg含有量は、0.0100%以下とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.0050%以下、より一層好ましくは、0.0030%以下である。
【0038】
(REM:0~0.0100%)
REMは任意元素である。REMもCaと同様に、溶鋼中に酸化物や硫化物を形成して、粗大なMnSの形成を抑制し、微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の組織を微細化する効果を有する。これらの効果を得る場合、REM含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは、0.0005%以上である。一方、REM含有量が0.0100%を超えると鋼中の酸化物が増加し、鋼板の靭性に悪影響を与える場合がある。そのため、REM含有量は、0.0100%以下とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは、0.0050%以下、より一層好ましくは、0.0030%以下である。
ここで、REM(希土類)とは、Sc、Y及びランタノイドからなる合計17元素を指す。なお、本実施形態では、REMの含有量とはこれらの元素の合計含有量を指す。
【0039】
(Bi:0~0.0200%)
Biは、任意元素である。Biは、凝固組織を微細化して、鋼板の成形性を向上させる効果を有する。この効果を確実に得るためには、Bi含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。Bi含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。一方、Bi含有量が0.0200%を超えると、上記効果が飽和するとともに合金コストが増加するので、Bi含有量は0.0200%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0100%以下であり、より一層好ましくは0.0070%以下である。
【0040】
上述した鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。表面に亜鉛めっき層を備える場合は、機械研削により表面の亜鉛めっき層を除去してから、化学組成の分析を行えばよい。
【0041】
次に、鋼板の金属組織について説明する。本実施形態に係る鋼板は、表面から板厚の1/4深さ位置で、焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率が10%以上100%以下であり、フェライトの面積分率が0%以上90%以下であり、残留オーステナイトの面積分率が0%以上4%未満であり、残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイトおよびパーライトの合計面積分率が0%以上10%以下であり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度が1.0個/nm以上12.0個/nm以下であり、板厚中心部の{211}<011>および{332}<113>の極密度の合計が12.0以下である。以下、各要件について詳細に説明する。
【0042】
本実施形態に係る鋼板は、鋼板の表面から板厚の1/4の深さ位置において、「焼き戻しマルテンサイト及び焼き戻しベイナイト」の合計面積分率、残留オーステナイトの面積分率、「残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイト及びパーライト」の合計面積分率、平均結晶粒径、並びに、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度を所定の範囲内に制御する。ここで、鋼板の表面から板厚の1/4の深さ位置の鋼組織を規定するのは、この深さ位置が、鋼板の表面と板厚中心位置との中間点であり、集合組織以外については、当該位置における鋼組織が、鋼板の鋼組織を代表する(鋼板全体の平均的な鋼組織を示す)からである。
【0043】
(焼き戻しマルテンサイト及び焼き戻しベイナイトの合計面積分率:10~100%)
焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトは、フレッシュマルテンサイトおよびベイナイトに比べ、割れが発生し難く、延性及び靱性に富むため、強度、伸び、伸びフランジ性及び低温靱性に優れる組織である。そのため、本実施形態に係る鋼板において必須の金属組織である。焼き戻しマルテンサイト及び焼き戻しベイナイトの合計面積分率が10%未満であると、所望の強度が得難くなる。そのため、焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率は10%以上とする。好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率が多いほど高強度が得られ、好ましいため、これらの合計面積分率は100%であっても構わない。
【0044】
(フェライトの面積分率:0~90%)
フェライトは、強度と延性とのバランスを向上させるために含有させても良い。フェライトの面積分率が90%を超えると所望の強度が得難くなるため、フェライトの面積分率は90%以下とする。フェライトの面積分率は85%未満であることが好ましい。フェライトが含有されない場合であっても本実施形態に係る鋼板はその課題を解決することができるので、フェライトの面積分率は0%であっても構わない。
【0045】
(残留オーステナイトの面積分率:0%以上4%未満)
(残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイト及びパーライトの合計面積分率:0~10%)
残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイト及びパーライトは、き裂起点となり、鋼板の伸びフランジ性や低温靱性を低下させる。したがって、残留オーステナイト、フレッシュマルテンサイト、セメンタイト及びパーライトの合計面積分率は10%以下とする。好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。これらの金属組織が含有されない場合であっても本実施形態に係る鋼板はその課題を解決することができるので、これらの金属組織の合計面積分率は0%であっても構わない。
また、これらの金属組織のうち残留オーステナイトは、打抜きなどの予加工により非常に硬質なフレッシュマルテンサイトに変態することで、鋼板の伸びフランジ性を著しく劣化させる。そのため、残留オーステナイトの面積分率は4%未満とする。好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、より一層好ましくは2%未満、さらに好ましくは1%以下である。残留オーステナイトの面積分率は少ない方が好ましいため、面積分率は0%であっても構わない。
【0046】
(平均結晶粒径:15.0μm以下)
焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトのブロック径およびフェライトの平均結晶粒径が粗大であると、破断時の破面単位が大きくなり、鋼板の低温靭性が低下する。したがって、平均結晶粒径は15.0μm以下とする。平均結晶粒径は、好ましくは12.0μm以下であり、より好ましくは10.0μm以下であり、より一層好ましくは7.0μm以下である。平均結晶粒径は小さいほど好ましいので下限は特に限定されない。しかしながら、通常の熱間圧延では平均結晶粒径が1.0μmを下回るような細粒化は技術的に困難である。そのため、平均結晶粒径は1.0μm以上、4.0μm以上としてもよい。
【0047】
なお、本実施形態において平均結晶粒径とは、結晶構造がbccのもの、すなわちフェライト、焼き戻しベイナイト、焼き戻しマルテンサイト、フレッシュマルテンサイト及びパーライトにおいて結晶方位差15°以上の粒界で囲まれ、かつ円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義した結晶粒径の平均値を意味し、残留オーステナイト及びセメンタイトの結晶粒径は平均結晶粒径に含めない。
【0048】
本実施形態において、平均結晶粒径および各組織の面積分率は、圧延方向及び板厚方向に平行な鋼板断面の、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置における組織について求める。
平均結晶粒径、フェライト面積分率及び残留オーステナイト面積分率は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡とEBSD検出器とで構成されたEBSD解析装置を用いて、走査電子顕微鏡(SEM)観察及びEBSD(Electron Back Scattering Diffraction:電子線後方散乱回折法)解析により求める。鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置を中心とする圧延方向に200μm、板厚方向に100μmの領域を0.2μm間隔でfccとbccとを区別して結晶方位情報を得る。EBSD解析装置の付属ソフトウェア(AMETEK社製「OIM Analysis(登録商標)」)を用いて、結晶方位差が15°以上である結晶粒界を特定する。bccの平均結晶粒径は、結晶方位差15°以上である結晶粒界で囲まれ、円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義して、下記[数1]を用いた方法により求める。ただし、下記式中、Dは平均結晶粒径、Nは平均結晶粒径の評価領域に含まれる結晶粒の数、Aiはi番目(i=1、2、・・、N)の結晶粒の面積、diはi番目の結晶粒の円相当直径を示す。
【0049】
【数1】
【0050】
15°以上の結晶方位差を有する結晶粒界は主に、フェライト粒界、焼き戻しマルテンサイト及び焼き戻しベイナイトのブロック境界である。JIS G 0552:2013に準じたフェライト粒径の測定方法では、結晶方位差が15°未満のフェライト粒についても粒径が算定されてしまう場合があり、さらに、焼き戻しマルテンサイトや焼き戻しベイナイトのブロックは算定されない。したがって、本実施形態における平均結晶粒径は、上述のようにEBSD解析により求めた値を採用する。
【0051】
残留オーステナイトの面積分率は、EBSD解析によりfccと判別された金属組織の面積分率を算出することで得る。
フェライトの面積分率は、結晶方位差が5°以上の結晶粒界で囲まれ、かつ円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義して、その結晶粒内の、OIM Analysisに装備されているGrain Average Misorientation解析により求められる値(GAM値)が0.5°以下である結晶粒の面積分率を算出することで、フェライトの面積分率を得る。フェライトの面積分率を求める際に結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界と定義する理由は、同一の旧オーステナイト粒から近いバリアントで生成した異なる組織が区別出来ない場合があるためである。
【0052】
パーライトおよびセメンタイトの面積分率はナイタール腐食により現出した金属組織をSEM観察により観察することで得る。
フレッシュマルテンサイトの面積分率は、レペラ腐食により現出したMA(Martensite-Ausutenite Constituent)を光学顕微鏡で観察することにより、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率を求め、この合計面積分率から上述の方法により得た残留オーステナイトの面積分率を差し引くことで得る。
【0053】
面積分率は、画像解析により求めてもよく、点算法で求めてもよい。例えば、パーライト及びセメンタイトは、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域において1000倍の倍率にて3視野以上(100μm×100μm/視野)観察し、格子間隔5μmの点算法で求めてよい。また、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積分率は、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域において500倍の倍率にて2視野以上(200μm×200μm/視野)観察し、格子間隔5μmの点算法で求めてよい。
【0054】
焼き戻しマルテンサイトおよび焼き戻しベイナイトの合計面積分率は、100%から、フェライト、パーライト、残留オーステナイト、セメンタイト及びフレッシュマルテンサイトの合計面積分率を差し引いて求める。
【0055】
(固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度:1.0~12.0個/nm
固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度を1.0個/nm以上とすることで、打ち抜きまたはせん断加工時のはがれの発生が抑制される。これは、固溶Cおよび固溶Bが粒界を強化するためであると推測される。固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度が12.0個/nm超では、はがれの発生を抑制する効果は飽和する。さらに、粗大なセメンタイトが析出して鋼板の穴広げ性が低下する。そのため、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度は1.0~12.0個/nmとする。耐はがれ性をより向上させるためには、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度は2.0個/nm以上とすることが好ましい。また、粗大なセメンタイトの析出を抑制して穴広げ性の低下をより確実に抑制するためには、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度は10.0個/nm以下とすることが好ましい。
【0056】
固溶C及び固溶Bの粒界個数密度は、三次元アトムプローブ法を用いて測定する。1988年にオックスフォード大学のA.Cerezoらにより開発された位置敏感型アトムプローブ(PoSAP:positionsensitive atom probe)は、アトムプローブの検出器に位置敏感型検出器(positionsensitive detector)を取り入れており、分析に際してアパーチャーを用いずに検出器に到達した原子の飛行時間と位置とを同時に測定することができる装置である。この装置を用いれば、試料の表面に存在する合金中の全構成元素を原子レベルの空間分解能で2次元マップとして表示することができる。また、電界蒸発現象を用いて試料の表面を一原子層ずつ蒸発させることにより、2次元マップを深さ方向に拡張し、3次元マップとして表示及び分析することもできる。
【0057】
粒界の観察には、収束イオンビーム(FIB:focused ion beam)装置として日立製作所製のFB2000Aを用い、切り出した試料を電解研磨により針形状にする際に、任意形状の走査ビームで粒界部が針先端部となるようにする。このようにして、粒界部を含むPoSAP用針状試料を作製する。そして、走査イオン顕微鏡(SIM:scanning ion microscope)のチャネリング現象で方位の異なる結晶粒にコントラストが生じることを利用して、PoSAP用針状試料を観察しながら粒界を特定し、イオンビームで切断する。三次元アトムプローブとして用いた装置はCAMECA社製OTAPであり、測定条件としては、試料位置の温度を約70K、プローブ全電圧を10kV~15kV、パルス比を25%とする。そして、各試料の粒界及び粒内を、それぞれ三回測定してその平均値を代表値とする。このようにして、粒界及び粒内に存在している固溶C及び固溶Bを測定する。
【0058】
測定値からバックグラウンドノイズ等を除去して得られた値は、単位粒界面積あたりの原子密度と定義され、これを粒界個数密度(個/nm)とする。従って、粒界に存在する固溶Cとは粒界に存在するC原子のことであり、粒界に存在する固溶Bとは粒界に存在するB原子のことである。本実施形態において、固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度とは、粒界単位面積あたりに存在している固溶Cおよび固溶Bの合計の個数である。この値は、固溶C及び固溶Bの測定値を足し合わせた値である。
【0059】
本実施形態に係る鋼板は、鋼板の板厚中心部において、{211}<011>及び{332}<113>の極密度の合計を規定する。本実施形態において板厚中心部とは、板厚中心位置(鋼板の表面から板厚の1/2深さ位置)から、鋼板の表方向及び裏方向にそれぞれ板厚の1/10程度の範囲を意味する。例えば、鋼板の板厚が2mmであれば、板厚中心部とは、板厚中心位置を境に表方向及び裏方向にそれぞれ100μm程度の範囲を意味する。
【0060】
板厚中心部における集合組織を規定する理由は、板厚中心部の集合組織と機械特性とが良く相関しているためである。この理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推測する。鋼板は、圧延時にロールと鋼板との摩擦によって、鋼板の表裏で逆方向のせん断変形が生じ、板厚中心部では平面ひずみ変形が生じる。鋼板の集合組織は、この変形に伴って板厚方向に変化し、鋼板の表裏でせん断変形の方向が逆であるため、集合組織も表裏で対称の方位が発達する。そのため、機械特性に及ぼす集合組織の影響を表裏で相殺し合う結果、板厚中心部の集合組織と機械特性とが良く対応する。
【0061】
(板厚中心部における{211}<011>及び{332}<113>の極密度の合計:12.0以下)
{211}<011>及び{332}<113>の発達により、鋼板の伸びフランジ性が著しく低下する。また、本発明者らは、{211}<011>及び{332}<113>の極密度の合計が高くなると、打抜き端面のはがれが発生しやすいことを知見した。その理由は定かではないが、これらの極密度が発達する場合には、金属組織が扁平であることが多く、介在物や金属組織の界面などから発生したき裂の伝播が助長されやすくなることが関係していると推測される。そのため、{211}<011>及び{332}<113>の極密度の合計を12.0以下とする。{211}<011>及び{332}<113>の極密度の合計は、より好ましくは10.0以下である。前記極密度の合計は、小さければ小さいほど好ましいが、集合組織を持たない場合はそれぞれの極密度が1.0であるため、2.0に近い値とすることがより好ましい。
極密度はEBSD法による結晶方位情報により得ることができるが、X線ランダム強度比と同義である。
【0062】
なお、{hkl}は圧延面に平行な結晶面、<uvw>は圧延方向に平行な結晶方向を表す。すなわち、{hkl}<uvw>とは板面法線方向に{hkl}、圧延方向に<uvw>が向いている結晶を示す。
【0063】
また、本実施形態において、板厚中心部における各結晶方位の極密度は、走査電子顕微鏡とEBSD解析装置とを組み合わせた装置及びAMETEK社製のOIM Analysis(登録商標)を用いて、EBSD解析により、板厚中心部(板厚中心位置(鋼板の表面から板厚の1/2深さ位置)から、鋼板の表方向及び裏方向にそれぞれ板厚1/10程度の範囲)において、fccとbccとを区別して、1000個以上のbccの結晶粒方位情報を測定し、級数展開法(harmonic series expansion)を用いたODF解析により求める。
【0064】
<機械特性>
(引張強度:780MPa以上)
本実施形態に係る鋼板は、金属組織および集合組織の制御により、高強度であり、且つ優れた低温靭性、伸びおよび伸びフランジ性を有する。しかし、鋼板の引張強度が小さいと、車体軽量化や剛性向上などの効果が小さい。そのため、本実施形態に係る鋼板の引張強度(TS)は780MPa以上とする。上限は特に規定しないが、強度が高くなるに伴いプレス成型が困難となるため、引張強度は1800MPa以下、1500MPa以下、1300MPa以下としてもよい。
【0065】
鋼板の伸びは、JIS Z 2241:2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に規定された破断全伸び(El)により評価し、強度と伸びとのバランスの指標となるTS×Elが12000MPa・%以上であることが好ましく、13000MPa・%以上であることがより好ましい。
鋼板の伸びフランジ性は、JIS Z 2256:2010に規定された穴広げ率(λ)により評価し、強度と伸びフランジ性とのバランスの指標となるTS×λが50000MPa・%以上であることが好ましく、55000MPa・%以上であることがより好ましい。
鋼板の低温靭性は、JIS Z 2242:2005に規定のシャルピー衝撃試験における破面遷移温度(vTrs)が-40℃以下であることが好ましい。
【0066】
<製造方法>
本実施形態に係る鋼板の製造条件の限定理由を説明する。
本発明者らは、本実施形態に係る鋼板が、以下のような熱間圧延及び冷却を含む製造方法によって得られることを確認している。
【0067】
まず、上述した化学組成を有するスラブに複数の圧延スタンドを用いて多パス熱間圧延を施して熱延鋼板を製造する。熱間圧延に供するスラブは、連続鋳造や鋳造・分塊圧延により得たものでよいが、それらに熱間加工または冷間加工を加えたものであってもよい。多パス熱間圧延はレバースミルまたはタンデムミルを用いて行うことができるが、工業的生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いることが好ましい。
【0068】
(熱間圧延における加熱温度:1200~1350℃)
熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度が1200℃未満では、Ti炭化物の溶体化が不十分となり、鋼板の強度や加工性が低下し、さらにはがれが発生しやすくなる。熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度は、好ましくは1240℃以上、より好ましくは1260℃以上である。一方、熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度が1350℃超では、厚いスケールが生成して歩留まりの低下を引き起こしたり、スラブまたは鋼片を加熱炉で加熱する際に、加熱炉に著しい損傷を与えたりする場合がある。したがって、熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度は1350℃以下とする。熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度は、好ましくは1300℃以下である。
なお、熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度は、上記温度域にあればよく、1200℃未満となった鋼塊または鋼片を加熱炉に装入して上記温度域まで加熱してから熱間圧延に供する場合のほか、連続鋳造により得られるスラブまたは分塊圧延により得られる鋼片を1200℃以上の高温状態を保ったまま加熱処理を施すことなく熱間圧延に供してもよい。
【0069】
(FT+50℃超、FT+150℃の温度域の合計圧下率:50%以上)
本実施形態では、仕上げ温度を単位℃でFTとして、FT+50℃超、FT+150℃の温度域の熱間圧延の合計圧下率を高めることによって、鋼板中の再結晶オーステナイト粒の微細化を図る。鋼板中の再結晶オーステナイト粒を微細化させるためには、FT+50℃超、FT+150℃の温度域の合計圧下率は50%以上とする。上記温度域における合計圧下率が50%未満では、オーステナイトが十分に微細化しないため、変態後の金属組織が粗大になるとともに、続くFT~FT+50℃の温度域の圧延時の圧延パス間での再結晶が遅延することにより、変態後の集合組織が発達してしまう。FT+50℃超、FT+150℃の温度域での合計圧下率は高いほど好ましいが、工業的には90%程度が限界であるため、90%以下としてもよい。
【0070】
(FT~FT+50℃の温度域の合計圧下率:40~80%)
(FT~FT+50℃間の圧延に要する時間:0.5~10.0秒)
本実施形態では、FT~FT+50℃の温度域の合計圧下率及び圧延に要する時間を適正に制御することによって、後述する熱間圧延後の冷却条件と相俟って、加工性と靭性とに優れた鋼板を得ることができる。
FT~FT+50℃の温度域の合計圧下率が40%未満では、変態後の組織が粗大になり、圧延パス間及び圧延仕上げ後の再結晶が遅延するとともに、鋼板内部の変形量が不均一となり、変態後に特定の方位が発達してしまうことで、鋼板の伸びフランジ性が低下する。したがって、FT~FT+50℃の温度域の合計圧下率は40%以上とする。一方、上記温度域における合計圧下率が80%を超えると、再結晶しても集合組織が著しく発達するため、鋼板の伸びフランジ性が低下する。したがって、FT~FT+50℃の温度域の合計圧下率は80%以下とする。
【0071】
本実施形態では、さらに、上記温度域の圧延に要する時間も適正に制御することが重要である。上記温度域の圧延に要する時間が短すぎる場合はパス間で再結晶が進まずに圧延ひずみが過度に蓄積してしまい、特定の方位が発達することによって所望の集合組織が得難くなる。そのため、上記温度域の圧延に要する時間は0.5秒以上とする。好ましくは1.0秒以上であり、より好ましくは2.0秒以上である。一方、上記温度域の圧延に要する時間が長すぎる場合は、圧延パス間で再結晶粒が粒成長してしまい、変態後の組織が粗大になる。そのため、上記温度域の圧延に要する時間は10.0秒以下とする。好ましくは8.0秒以下、より好ましくは6.0秒以下であり、一層好ましくは5.0秒以下である。
【0072】
FT+50℃超、FT+150℃以下の温度域の圧延、FT~FT+50℃の温度域の圧延のいずれにおいても、加工と再結晶とを繰り返させることが重要であるため、それぞれの温度域において2パスないしは3パス以上の圧延を施す。鋼板の集合組織の発達抑制の観点から、FT+50℃超、FT+150℃以下の温度域の1パス当たりの圧下率の最大は、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。FT~FT+50℃の温度域の1パス当たり圧下率の最大は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、より一層好ましくは40%以下、最も好ましくは35%以下である。
【0073】
なお、合計圧下率とは、所定の温度域における最初のパス前の入口板厚を基準とした、この温度域での合計圧下量(この温度域の圧延における最初のパス前の入口板厚とこの温度域の圧延における最終パス後の出口板厚との差)の百分率である。
【0074】
(FT~FT+100℃の温度域の平均冷却速度:6.0℃/秒以上)
熱間圧延中の鋼板温度は、圧延による加工発熱やロールとの接触による抜熱などで変化するが、本実施形態では、FT~FT+100℃の温度域の平均冷却速度を適正に制御することによって、耐はがれ性に優れる鋼板を得ることができる。鋼板が、仕上げ圧延の低温域に長時間滞在すると炭化物や窒化物が加工誘起析出して、強度が減少すると共に、固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度が減少してはがれの抑制が困難となる。そのため、FT~FT+100℃の温度域の平均冷却速度は6.0℃/秒以上とする。好ましくは9.0℃/秒以上、より好ましくは12.0℃/秒以上、より一層好ましくは15.0℃/秒以上である。上限は特に限定する必要はないが、急激な温度変化は、変形抵抗を著しく変動させることにより通板性が低下するため、50℃/秒以下が好ましく、40℃/秒以下がより好ましく、30℃/秒以下が一層好ましく、20℃/秒以下が更に好ましい。
【0075】
なお、上記温度域における平均冷却速度は、圧延速度および圧下率のコントロールによる加工発熱、並びに、鋼板とロールとの接触抜熱の制御を行うことで制御する。さらに、必要に応じて、水冷や誘導加熱などを行うことで制御する。また、上記温度域における平均冷却速度は、鋼板の表面温度を放射温度計などで測定するか、測定が困難な場合はシミュレーションにより求める。
【0076】
(仕上げ温度FT:下記式(1)により求められるAr以上、かつ下記式(2)により求められるTR以上、かつ1100℃以下)
Ar(℃)=901-325×[C]+33×[Si]-92×[Mn]+287×[P]+40×[sol.Al] (1)
TR(℃)=800+700×[Ti]+1000×[Nb] (2)
但し、上記式(1)及び(2)中の[元素記号]は、各元素の質量%での含有量を示し、含有しない場合は0を代入する。
本実施形態では、仕上げ圧延中のオーステナイト相の加工と再結晶とを繰り返すことにより、金属組織を微細化すると共に集合組織の発達の抑制を図る。そのため、仕上げ温度FTは、上記式(1)により求められるAr以上、かつ上記式(2)により求められるTR以上とする。ここで、仕上げ温度FTとは、最終圧延直後の鋼板の表面温度を指す。
【0077】
FTがAr未満では、仕上げ圧延中におけるフェライト変態が進行し、加工フェライトが生成することで、鋼板の伸びや伸びフランジ性が低下する。また、FTがTR未満では、熱間圧延後冷却前におけるオーステナイトが著しく扁平となり、最終製品の鋼板において、圧延方向に伸長した組織となって、塑性異方性が大きくなることで、鋼板の伸び及び伸びフランジ性が低下する。FTをTR以上とすることにより、圧延パス間における加工オーステナイトの再結晶を適度に促して、再結晶オーステナイト粒の微細化が図ることができ、熱間圧延後においては、後述する熱間圧延後の冷却条件と相俟って、低温靭性および伸びフランジ性に好適な鋼組織および集合組織を有する鋼板が得ることができる。FTは、好ましくはTR+20℃以上、より好ましくはTR+40℃以上である。さらに、仕上げ温度FTは900℃超であることが好ましい。
【0078】
一方、FTが1100℃を超えると、組織が粗大化してしまい、鋼板の低温靭性が低下する。したがって、FTは1100℃以下とする。好ましくは1080℃以下、より好ましくは1060℃以下である。
なお、仕上げ圧延中の温度は、鋼材の表面温度を指し、放射温度計等により測定することができる。
【0079】
(仕上げ圧延を完了した後、水冷を開始するまでの時間:3.0秒以内)
仕上げ圧延完了後は、圧延によって蓄積したひずみを活用して金属組織の微細化を図るため、3.0秒以内に水冷を開始する。この水冷は、複数の段階に分けて行われてもよい。仕上げ圧延完了後、水冷開始までの時間が3.0秒超ではオーステナイト中のひずみが回復してしまい、所望の組織を得難くなる。仕上げ圧延完了後、水冷を開始するまでの時間は、好ましくは2.0秒以内、より好ましくは1.0秒以内、さらに好ましくは0.5秒以内である。仕上げ圧延完了後、水冷を開始するまでの時間は、仕上げ圧延完了後のオーステナイトを再結晶させるために0.05秒以上が好ましい。
【0080】
(FT~750℃の温度域の平均冷却速度:30℃/秒以上)
仕上げ圧延を完了した温度(仕上げ温度:FT(℃))から750℃まで冷却する際の平均冷却速度の制御は、所望の金属組織を得るために重要である。なお、前記平均冷却速度の算定に当たっては、時間としては仕上げ圧延完了後、水冷開始までの時間が含まれる。上記温度域における平均冷却速度が30℃/秒未満であると、微細組織の形成が難しくなり、冷却の過程でフェライトやパーライトが析出して、鋼板の伸びフランジ性や低温靭性が低下する。また、固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度が減少してはがれの抑制が困難となる。そのため、上記温度域における平均冷却速度は30℃/秒以上とする。好ましくは40℃/秒以上、より好ましくは50℃/秒以上である。上限は特に限定する必要はないが、熱ひずみによる板反り抑制の観点からは300℃/秒以下であることが好ましく、200℃/秒以下であることがより好ましく、150℃/秒以下であることが一層好ましく、110℃/秒以下であることが更に好ましい。
【0081】
FT~750℃の温度域において、仕上げ圧延終了後の高温域を急速冷却することにより、金属組織をより微細化することができ、鋼板の低温靭性がより向上する。そのためには、仕上げ圧延を完了した後、水冷を0.3秒以内に開始し、FT~750℃の平均冷却速度を30℃/秒以上とすることに加え、FT~FT-40℃までの平均冷却速度を100℃/秒以上とすることが好ましい。この場合、前記水冷が、FT~FT-40℃の温度範囲の急冷を目的としたステップとその後の冷却を行う複数の冷却ステップで行われることを妨げない。FT~FT-40℃の平均冷却速度が100℃/秒未満では上記効果が得難くなる。FT~FT-40℃の平均冷却速度は、好ましくは120℃/秒以上、より好ましくは150℃/秒以上である。上限は特に限定する必要はないが、鋼板内の温度ばらつき抑制の観点からは1000℃/秒以下であることが好ましい。
【0082】
上述の仕上げ圧延終了後の高温域の急冷(FT~FT-40℃の冷却)は、仕上げ圧延の最終スタンドの後に限らず、圧延スタンドの間で行ってもよい。すなわち、急速冷却を行った後のスタンドでは圧延しないか、もしくは、形状矯正や冷却制御などを目的として、圧下率が8%以下の圧延を加えてもよい。この場合、急冷後の圧延は仕上げ圧延工程には含まれない。
【0083】
(750~600℃の滞在時間:20秒以下)
仕上げ圧延後の熱延鋼板が、750~600℃の温度域に達すると、オーステナイトからフェライトへの変態が活発となる。そのため、上記温度域での滞在時間を調整することにより所望のフェライト面積分率を得ることが出来る。延性の向上を目的として、より多くのフェライトを析出させるためには、上記温度域で5秒間以上滞在させることが好ましい。上記温度域における滞在時間が20秒を超えると、フェライトが過剰に析出したり、パーライトやセメンタイトが析出したり、固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度が減少したりすることで、はがれが発生する恐れがある。そのため、上記温度域における滞在時間は20秒以下とする。好ましくは17秒以下、より好ましくは14秒以下である。
【0084】
なお、本実施形態において、750~600℃の滞在時間とは、仕上げ圧延後の鋼板の温度が750℃に達してから、温度が低下して600℃に達するまでの時間を示し、この時間範囲において鋼板が必ずしも常に冷却される必要はない。
【0085】
(600℃~「Ms-200℃未満の冷却停止温度」の温度域の平均冷却速度:30℃/秒以上)
未変態オーステナイトをフレッシュマルテンサイトやベイナイトに変態させると共に、セメンタイトの析出を抑制するため、600℃~冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上、且つ冷却停止温度をMs-200℃未満とする。すなわち、600℃から、Ms-200℃未満の冷却停止温度までの温度域の平均冷却速度を30℃/秒以上とする。上記温度域における平均冷却速度が30℃/秒未満では、冷却中にセメンタイトやパーライトが形成する等により所望の金属組織が得難くなる。上記温度域における平均冷却速度は、好ましくは40℃/秒以上、より好ましくは50℃/秒以上である。上記温度域における平均冷却速度の上限は特に限定しないが、熱ひずみによる板反り抑制の観点から、300℃/秒以下が好ましく、200℃/秒以下がより好ましく、150℃/秒以下が一層好ましく、110℃/秒以下が更に好ましい。
また、未変態オーステナイトをフレッシュマルテンサイトやベイナイトに一層変態させると共に、セメンタイトの析出を一層抑制するために、冷却停止温度は好ましくはMs-250℃であり、より好ましくはMs-300℃である。さらに、冷却停止温度は100℃未満であることが好ましい。
【0086】
(Ms~「Ms-200℃未満の冷却停止温度」の温度域の平均冷却速度:80℃/秒以上)
鋼板の引張強度をより高めるとともに、セメンタイトの析出を抑制し、かつ、固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度の減少を抑制するためには、Ms~Ms-200℃未満の冷却停止温度の温度域の平均冷却速度を80℃/秒以上とすることが好ましい。より好ましくは100℃/秒以上、より一層好ましくは120℃/秒以上である。上限は特に限定する必要はないが、板厚方向の組織の均一性の観点からは500℃/秒以下であることが好ましく、より好ましくは400℃/秒以下であり、より好ましくは300℃/秒以上であり、より一層好ましくは200℃/秒以下である。
【0087】
(熱処理工程)
(最高到達温度Tmax:300~720℃)
熱延工程で生成したフレッシュマルテンサイト及びベイナイトを熱処理により焼き戻すことで、またTiやNbの炭化物を析出させることで、強度、延性及び靱性のバランスに優れる鋼板が得られる。最高到達温度Tmaxが300℃未満ではCなどの原子量が小さく、拡散し易い元素のみが拡散して、MAや粗大なセメンタイトが生成することにより、鋼板の靱性や穴広げ性が劣化する。そのため、最高到達温度Tmaxは300℃以上とする。一方、過剰に熱処理が施された場合、所望の強度が得難くなり、パーライトや粗大なセメンタイトの生成や過剰なTi炭化物の析出により、鋼板の伸びフランジ性や靱性が劣化する。また、固溶Cおよび固溶Bの粒界個数密度が減少することにより、はがれの抑制が困難となる。そのため、最高到達温度Tmaxは720℃以下とする。
【0088】
(焼き戻しパラメーターPs:14.6×Tmax+5891≦Ps≦17.1×Tmax+6223)
熱処理工程において、フレッシュマルテンサイトおよびベイナイトの焼き戻し、並びに、TiCなどの炭化物の析出が競合して生じることにより、強度、加工性、靱性および耐はがれ性に優れる鋼板が得られる。具体的には、フレッシュマルテンサイトおよびベイナイトが焼き戻されることにより、軟質化して、伸び及び靱性が向上し、フェライトとの硬度差が減少して、伸びフランジ性が向上する。さらに、熱処理温度の高温化に伴って、フレッシュマルテンサイトおよびベイナイトはさらに強度が減少するが、同時にTiCなどの炭化物の析出が促進されるため、フレッシュマルテンサイトおよびベイナイトの焼き戻しによる強度の減少を析出強化により補うことで、強度、加工性、靱性及び耐はがれ性に優れる鋼板が得られる。熱処理が不十分な場合、延性、伸びフランジ性、靱性および耐はがれ性の向上効果が得られない。そのため、Psは14.6×Tmax+5891以上とする。過剰に熱処理を施した場合、強度が低下したり、粗大なセメンタイトが析出したり、過剰にTiCが析出したりして、鋼板の伸びフランジ性、靱性及び耐はがれ性が劣化する。そのため、Psは17.1×Tmax+6223以下とする。
【0089】
焼き戻しパラメーターPsは、熱処理温度が一定の場合はPs=(T+273)×(20+log(t))により求めることができる。式中のTは熱処理温度(℃)であり、tは熱処理時間(h)である。しかし、熱処理温度が一定でない場合、すなわち、連続焼鈍のように連続的に温度が変化する場合、非特許文献1に記載されているように熱処理工程を考慮した方法により、積算焼き戻しパラメーターとして計算することが出来る。本実施形態では、非特許文献1に記載された方法に基づいて算出した積算焼き戻しパラメーターを、焼き戻しパラメーターPsとする。
【0090】
焼き戻しパラメーターPsは、具体的には以下の方法で求められる。
加熱開始から加熱終了までの時間を総数Nの微小時間Δtで分割する。ここで、(n-1)番目の区間の平均温度をTn-1(℃)、n番目の区間の平均温度をTn(℃)とする。最初の微小時間(n=1の場合の区間)に対応する焼き戻しパラメーターP(1)は、以下の式により求めることができる。なお、logは底が10の常用対数を示す。
P(1)=(T1+273)×(20+log(Δt))
【0091】
P(1)は、以下の式により、温度T2及び加熱時間t2に基づき算出されるPと等価な値として表すことができる。
(T1+273)×(20+log(Δt))=(T2+273)×(20+log(t2))
【0092】
時間t2は、2番目の区間より前の区間(つまり、1番目の区間)での加熱に基づき算出されるPの積算値と等価なPを、温度T2で得るための所要時間(等価時間)である。2番目の区間(温度T2)における加熱時間は、時間t2に実際の加熱時間Δtを加えた時間である。したがって、2番目の区間の加熱が完了した時点でのPの積算値P(2)は以下の式により求めることができる。
P(2)=(T2+273)×(20+log(t2+Δt))
【0093】
この式を一般化すると、以下の式(4)となる。
P(n)=(Tn+273)×(20+log(tn+Δt)) (4)
【0094】
時間tnは(n-1)番目の区間の加熱が完了した時点でのPの積算値と等価なPを、温度Tnで得るための等価時間である。時間tnは式(5)により求めることができる。
log(tn)=((Tn-1+273)/(Tn+273))×(20+log(tn-1))-20 (5)
【0095】
以上の方法で得られる、N番目の焼き戻しパラメーターP(n)が、N番目の区間の加熱が完了した時点でのPの積算値であり、これがPsである。
【0096】
本実施形態では、上記の熱処理工程において、めっきを施すことで、めっき鋼板としてもよい。熱処理後にめっきを施す場合においても、熱処理工程とめっき工程とを連続した工程とみなし、上記した熱処理条件の範囲内でめっきを施せば問題ない。めっきは電気めっきおよび溶融めっきのいずれでもよい。めっき種も特に制限はないが、一般的には亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを含む亜鉛系めっきである。めっき鋼板の例としては、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板などが例示される。めっき付着量は一般的な量でよい。めっきを施す前に、プレめっきとしてNi等を表面につけても良い。
本実施形態に係る鋼板を製造する際には、形状矯正を目的として公知の調質圧延を適宜施してもよい。
【0097】
本実施形態に係る鋼板の板厚は特に限定するものではないが、板厚が厚すぎる場合は、鋼板表層と内部とで生成される組織が著しく異なるため、6.0mm以下が好ましい。一方、板厚が薄すぎると熱延時の通板が困難となるため、一般的には1.0mm以上が好ましい。より好ましくは、1.2mm以上である。
【実施例
【0098】
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0099】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製して鋳造した後、熱間鍛造によって30~40mm厚さの鋼片とした。得られた鋼片を加熱し、試験用小型タンデムミルにて、FT+50℃超、FT+150℃以下の温度域及びFT~FT+50℃の温度域のいずれにおいても2~4パスの複数回の圧延を行い、熱間圧延を施して、板厚を2.5~3.5mmとし、熱処理を施すことで鋼板を得た。表2Aおよび表2Bに製造条件を示す。なお、焼き戻しパラメーターPsを算定する際の時間間隔は1秒とした。また、一部の鋼板についてはめっきを施した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2A】
【0102】
【表2B】
【0103】
得られた鋼板について、上述の方法により、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織の面積分率、平均結晶粒径および固溶Cおよび固溶Bの合計の粒界個数密度、並びに、板厚中心部の各結晶方位の極密度を求めた。なお、板厚中心部の結晶方位の極密度の測定においては、およそ3000~8000個のbccの結晶粒方位情報を測定した。
【0104】
得られた鋼板の機械特性を評価するため、引張強度TS(MPa)、破断全伸びEl(%)は、JIS Z 2241:2011に準拠し、5号試験片で評価した。伸びフランジ性は、JIS Z 2256:2010に準拠して測定される穴広げ率λ(%)により評価した。低温靭性は、破面遷移温度vTrs(℃)で評価し、JIS Z 2242:2005に準拠して、鋼板を2.5mmサブサイズ試験片に加工したVノッチ試験片を用いてシャルピー衝撃試験を行って評価した。耐はがれ性の評価は、JIS Z 2256:2010に記載の方法で鋼板に3個の穴を打抜いて、はがれの発生の有無を目視により確認した。
【0105】
表3Aおよび表3Bに金属組織、集合組織および機械特性の試験結果を示す。なお、表3および表3B中のめっきの欄のGIは溶融亜鉛めっき層を示し、GAは合金化溶融亜鉛めっき層を示す。
【0106】
引張強度は、780MPa以上の場合を高強度であるとして合格とし、vTrs(℃)は、-40℃以下を低温靭性に優れるとして合格とした。加工性は、強度-破断全伸びバランス(TS×El)及び強度-伸びフランジ性バランス(TS×λ)によって評価した。TS×El(MPa・%)は、12000MPa・%以上の場合を高強度であり伸びに優れるとして合格とし、TS×λ(MPa・%)は、50000MPa・%以上である場合を高強度であり伸びフランジ性に優れるとして合格とした。はがれが発生した場合は表中にBadと示し、はがれが無い場合を合格と判定し、表中にGoodと示した。
【0107】
【表3A】
【0108】
【表3B】
【0109】
表3Aおよび表3Bによれば、本実施形態に係る鋼板(発明例)は、高強度であり、低温靭性、伸び、伸びフランジ性に優れ、且つはがれの発生が無いことが分かる。一方、比較例は、何れか1つ以上の特性が劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係る上記一態様によれば、高強度であり、且つ伸び、伸びフランジ性、低温靭性および耐はがれ性に優れた鋼板及びその製造方法並びに上記諸特性を有するめっき鋼板を提供することができる。本発明に係る鋼板またはめっき鋼板を自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等の部品の素材として使用すれば、部品形状に加工することが容易であり、極寒冷地での使用にも耐えることができるため、産業上の貢献が極めて顕著である。