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特許7284447融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする核酸、組み換えベクター、形質転換された宿主細胞、エキソソームの機能調節剤、及びエキソソーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする核酸、組み換えベクター、形質転換された宿主細胞、エキソソームの機能調節剤、及びエキソソーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230524BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230524BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230524BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230524BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20230524BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K35/76
A61P43/00 111
C12N5/10
C07K19/00
C12N15/62 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018158686
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033276
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】519288973
【氏名又は名称】株式会社プレッパーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】瀬藤 光利
(72)【発明者】
【氏名】上田 洋司
(72)【発明者】
【氏名】土田 邦博
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0135596(US,A1)
【文献】上田洋司他,新規翻訳後修飾因子UBL3によるエクソソームへのタンパク質輸送機構,2017年度生命科学系学会合同年次大会 要旨,2017年,2AW15-2
【文献】DOWNES P.B.et al.,MUBs, a family of Ubiquitin-fold proteins that are plasma membrane-anchored by a prenylation,Journal of Biological Chemistry,2006年,Vol.281,p.27145-27157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
C07K 19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UBL3タンパク質と機能性タンパク質との融合タンパク質、又は、前記融合タンパク質をコードする核酸を含む、エキソソームの機能調節剤であって、
前記機能性タンパク質が、疾患の原因物質又は疾患の抑制物質、膜タンパク質、細胞骨格形成タンパク質、標識タンパク質及び神経変性疾患関連タンパク質よりなる群から選択される少なくとも1つであり、
エキソソームにおいて、前記機能性タンパク質が機能発現可能な状態とするための、前記機能調節剤
【請求項2】
前記疾患の原因物質がKRAS、HRAS、RRAS、TGFBR1、TGFBR2、RB1、ITGA6、ITGB4、mTOR、TSC2、APLP2、IRF3、IKBKG、RPTOR、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、BMPR1A、BMPR2、PSEN1、ATXN10、HIP1R及びNPC1よりなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記膜タンパク質が膜貫通型タンパク質であり、
前記細胞骨格形成タンパク質がチューブリンであり、
前記神経変性疾患関連タンパク質が、アミロイドβ、タウ、α-シヌクレイン及びプリオンよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の機能調節剤
【請求項3】
前記UBL3タンパク質が下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項1又は2に記載の機能調節剤
(a)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1又は2の113番目又は114番目のシステイン残基を介した結合によって任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質、又は
(c)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1又は2の113番目又は114番目のシステイン残基を介した結合によって任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ上記任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質
【請求項4】
前記核酸を含む組み換えベクターを含む請求項1に記載の機能調節剤
【請求項5】
前記機能性タンパク質が機能発現可能な状態で融合タンパク質を含有する、請求項1に記載の機能調節剤により改質されたエキソソーム。
【請求項6】
UBL3タンパク質と機能性タンパク質との融合タンパク質、又は、前記融合タンパク質をコードする核酸を含む、エキソソームの機能調節剤であって、
前記エキソソームにおいて、前記機能性タンパク質が機能発現可能な状態であり、
前記機能性タンパク質が、疾患の原因物質、膜タンパク質、細胞骨格形成タンパク質、標識タンパク質及び神経変性疾患関連タンパク質よりなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記疾患の原因物質がKRAS、HRAS、RRAS、TGFBR1、TGFBR2、RB1、ITGA6、ITGB4、mTOR、TSC2、APLP2、IRF3、IKBKG、RPTOR、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、BMPR1A、BMPR2、PSEN1、ATXN10、HIP1R及びNPC1よりなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記膜タンパク質が膜貫通型タンパク質であり、
前記細胞骨格形成タンパク質がチューブリンであり、
前記神経変性疾患関連タンパク質が、アミロイドβ、タウ、α-シヌクレイン及びプリオンよりなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記エキソソームを受け取る細胞において、膜局在化機能、細胞骨格形成機能、標識機能、疾患の原因の発現機能を発現するための、前記機能調節剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキソソームを改質し得る、融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする核酸、組み換えベクター、形質転換された宿主細胞、該融合タンパク質又は該核酸を含むエキソソームの機能調節剤、及び該融合タンパク質を含むエキソソームに関する。
【背景技術】
【0002】
小さな細胞外小胞(以下、単に「sEV」という。)は、様々な種類の細胞から分泌されるナノメートルサイズの小胞である(例えば、非特許文献1参照。)。
エキソソームは、多胞体(以下、単に「MVB」という。)に由来するsEVの一種であり(例えば、非特許文献2、3参照。)、タンパク質、mRNA、及びmiRNAを輸送することによって細胞間コミュニケーションを仲介する(例えば、非特許文献3、4参照。)。
エキソソームを含むsEVによる細胞間での機能性タンパク質の送達は、腫瘍の進行及び神経変性疾患に関連している(例えば、非特許文献5、6参照。)。
しかしながら、機能性タンパク質がsEVにソーティングされる分子メカニズムは完全には解明されていない。
【0003】
一方、タンパク質は、一般に、翻訳後、ユビキチン、スモールユビキチン様修飾因子(SUMO)、及びNedd87-10等の翻訳後修飾因子によって種々の翻訳後修飾を受けることが知られており、このような翻訳後修飾は、様々な細胞プロセスに影響を及ぼし得ることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Raposo,G.& Stoorvogel,W.Extracellular vesicles:exosomes,microvesicles,and friends.J Cell Biol 200,373-383(2013).
【文献】Katzmann,D.J.,Odorizzi,G.& Emr,S.D.Receptor downregulation and multivesicular-body sorting. Nat Rev Mol Cell Biol 3,893-905(2002).
【文献】Colombo,M.,Raposo,G. & Thery,C.Biogenesis,secretion,and intercellular interactions of exosomes and other extracellular vesicles. Annu Rev Cell Dev Biol 30,255-289(2014).
【文献】Valadi,H.et al. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol 9,654-659(2007).
【文献】Hoshino,A.et al. Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis. Nature527,329-335(2015).
【文献】Rajendran,L. et al. Alzheimer’s disease beta-amyloid peptides are released in association with exosomes. Proc Natl Acad Sci U S A 103,11172-11177(2006).
【文献】Downes,B.P.,Saracco,S.A.,Lee,S. S.,Crowell,D.N.&Vierstra,R.D.MUBs,a family of ubiquitin-fold proteins that are plasma membrane-anchored by prenylation. J Biol Chem 281,27145-27157(2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜結合型Ubフォールドタンパク質(MUB)としても知られるユビキチン様タンパク質3(以下、単に「UBL3」という。)はユビキチン様(UBL)ドメインを含むことが知られており、動物、糸状菌及び植物において進化的に保存され、プレニル化によって局在化された膜タンパク質であることが知られている(例えば、非特許文献7参照。)。
しかし、UBL3は、翻訳後修飾因子としては知られていなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、エキソソームを改質し得る、融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組み換えベクター、該組み換えベクターにより形質転換された宿主細胞、該融合タンパク質又は該核酸を含むエキソソームの機能調節剤、及び該融合タンパク質を含むエキソソームの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、UBL3による翻訳後修飾が機能性タンパク質を機能発現可能な状態でsEVへソーティングし得ること、及び機能発現可能な状態でレシピエント細胞へソーティングし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
(1)UBL3タンパク質と機能性タンパク質との融合タンパク質。
(2)前記UBL3タンパク質が下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質である、(1)に記載の融合タンパク質。
(a)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ任意のタンパク質を修飾(例えば、翻訳後修飾)する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティング(輸送ないし分配)する活性、及び/又は膜タンパク質として(例えば、プレニル化によって)局在化する活性を有するタンパク質、又は
(c)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ上記任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質
(3)上記(1)又は(2)に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
(4)上記(3)に記載の核酸を含む組み換えベクター。
(5)上記(4)に記載の組み換えベクターにより形質転換された宿主細胞。
(6)上記(1)又は(2)に記載の融合タンパク質又は上記(3)に記載の核酸を含む、エキソソームの機能調節剤。
(7)上記機能性タンパク質が機能発現可能な状態で上記(1)又は(2)に記載の融合タンパク質を含有するエキソソーム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エキソソームを改質し得る、融合タンパク質、該融合タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組み換えベクター、該組み換えベクターにより形質転換された宿主細胞、該融合タンパク質又は該核酸を含むエキソソームの機能調節剤、及び該融合タンパク質を含むエキソソームの提供を提供することができる。
また、本発明は、腫瘍形成、腫瘍進行、腫瘍転移、神経変性疾患等のsEV関連疾患の治療ツール開発のインビトロ研究ツールとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】様々な種からのUBLドメイン含有タンパク質の系統樹分析結果を示す図である。
図2】新規翻訳後修飾因子UBL3の分析結果を示す図である。
図3】UBL3ノックアウトマウスの作製の概要を示す図である。
図4】HEK293T細胞及びHeLa細胞におけるUBL3修飾の分析結果を示す図である。
図5】UBL3の細胞内局在化を示す図である。
図6】MVBへのUBL3の局在化がUBL3修飾に依存することを示す図である。
図7】sEVにおける全タンパク質レベルがUBL3ノックアウトマウスにおいて減少することを示す図である。
図8】sEVにおけるUBL3の分析を示す図である。
図9】WTマウス及びUBL3 KOマウスからの血清及び血漿由来sEVの分析結果を示す図である。
図10】UBL3修飾が、sEVへのタンパク質ソーティングに関与することを示す図である。
図11】UBL3によるチューブリンの翻訳後修飾及びsEVへのソーティングを示す図である。
図12】UBL3によるRasタンパク質の翻訳後修飾及びsEVへのソーティングを示す図である。
図13】UBLの細胞内局在化及びsEVへのソーティングを示す図である。
図14】UBL3によってタグ付けされたEGFP化タンパク質及びビオチン化タンパク質が、sEVにソーティングされることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
また、本明細書において、「~」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0012】
まず、UBL3遺伝子若しくはUBL3タンパク質及びその取得方法について説明する。
(UBL3タンパク質)
UBL3タンパク質は、下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質である。
(a)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ任意のタンパク質を修飾(例えば、翻訳後修飾)する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティング(輸送ないし分配)する活性、及び/又は膜タンパク質として(例えば、プレニル化によって)局在化する活性を有するタンパク質、又は
(c)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質
ヒト又はマウス由来のタンパク質をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、上記(a)のタンパク質であることが好ましい。
上記任意のタンパク質を修飾する活性としては、具体的には、配列番号1又は2の110~117番目(好ましくは111~117番目、より好ましくは111~116番目、更に好ましくは112~115番目、特に好ましくは113又は114番目)の少なくとも1つのアミノ酸残基を介して任意のタンパク質に結合する活性を意味する。
配列番号1は、ヒトUBL3タンパク質のアミノ酸配列を表す。配列番号2は、マウスUBL3タンパク質のアミノ酸配列を表す。
【0013】
本明細書で言う「アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から10個、より好ましくは1から5個、さらに好ましくは1から3個程度を意味する。
本明細書で言う「90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、アミノ酸の相同性が90%以上であることを意味し、相同性は好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。
配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列を有する遺伝子と相同性の高い変異体遺伝子にコードされるタンパク質であって、任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質は全て本発明の範囲内のものである。
タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)またはAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)、等が挙げられる。
【0014】
従って、配列表の配列番号1又は2に記載したUBL3のアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失等による変異タンパク質であっても、その変異がUBL3の3次元構造において保存性が高い変異であって、その変異タンパク質がUBL3と同様に任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質であれば、これらは全てUBL3の範囲内に属する。
UBL3タンパク質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、生体試料又は培養細胞などから単離した天然由来のタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換えタンパク質でもよい。
【0015】
(UBL3遺伝子)
UBL3タンパク質(例えば、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードする遺伝子は全てUBL3遺伝子に属する。
配列番号3は、ヒトUBL3遺伝子をコードするコーディング領域(CDS)の塩基配列を示す。
また、配列番号4は、マウス(Mus musculus(house mouse))UBL3遺伝子をコードするCDS塩基配列を示す。
【0016】
UBL3遺伝子の具体例としては、下記(d)及び(e)の何れかに記載の遺伝子が挙げられ、ヒト又はマウス由来の遺伝子をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、下記(d)の遺伝子であることが好ましい。
(d)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる遺伝子、
(e)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0017】
本明細書で言う「塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列」における「1もしくは数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、更に好ましくは1から5個程度を意味する。
上記のDNA変異の程度としては、例えば、配列表の配列番号3又は4に記載したUBL3遺伝子の塩基配列と80%以上の相同性を有するものが挙げられ、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
上述の通り、配列表の配列番号3又は4に記載したUBL3遺伝子の塩基配列において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断によるDNA断片の変異・欠失・連結等により、部分的にDNA配列が変化したものであっても、これらDNA変異体が、任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば、配列番号3又は4に示したDNA配列との相違に関わらず、UBL3遺伝子の範囲内のものである。
【0018】
(UBL3遺伝子の取得)
UBL3遺伝子の取得方法は特に限定されない。本明細書の配列表の配列番号1~4に記載したアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒトcDNAライブラリー(UBL3遺伝子が発現される適当な細胞より常法に従い調製したもの)から所望クローンを選択することにより、UBL3遺伝子を単離することができる。PCR法によりUBL3遺伝子を取得することもできる。
【0019】
本明細書中上記した、配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、任意のタンパク質を修飾する活性、上記修飾することによりMVB又はsEVへ任意のタンパク質をソーティングする活性、及び/又は膜タンパク質として局在化する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(変異遺伝子)は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することもできる。
【0020】
<UBLタンパク質と機能性タンパク質との融合タンパク質>
UBLタンパク質については上述の通りである。
本発明の融合タンパク質は、UBLタンパク質の遺伝子と機能性タンパク質の遺伝子とが一体となって転写及び発現し、1個のタンパク質を形成しているタンパク質が好ましい。
【0021】
(機能性タンパク質)
上記機能性タンパク質としては、疾患の原因物質又は疾患の抑制物質、膜タンパク質(例えば、膜貫通型タンパク質)、細胞骨格形成タンパク質(例えば、チューブリン)、標識タンパク質(例えば、GFP(green fluorescent protein)、改良型GFP(EGFP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST))等の任意のタンパク質が挙げられるが、疾患の原因物質又は疾患の抑制物質が好ましい。
例えば、後述する実施例の項においては、UBLタンパク質と標識タンパク質との融合タンパク質等を実施している。
上記疾患の原因物質としては、KRAS、HRAS、RRAS、TGFBR1、TGFBR2、RB1、ITGA6、ITGB4、mTOR、TSC2、APLP2、IRF3、IKBKG、RPTOR、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、BMPR1A、BMPR2、PSEN1、ATXN10、HIP1R及びNPC1よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、KRAS、HRAS及びRRASよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
また、sEVにおける特定のタンパク質は、腫瘍の進行及び有機性転移において重要な役割を果たすことが知られており(Hoshino,A.et al.Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis. Nature 527,329-335(2015).、Al-Nedawi, K. et al. Intercellular transfer of the oncogenic receptor EGFRvIII by microvesicles derived from tumour cells. Nat Cell Biol 10,619-624(2008).、Peinado, H. et al. Melanoma exosomes educate bone marrow progenitor cells toward a pro-metastatic phenotype through MET. Nat Med 18,883-891(2012).)、上記機能性タンパク質として使用し得る。
【0023】
また、アミロイドβ、タウ、α-シヌクレイン、プリオンなどの神経変性疾患関連タンパク質もsEV内にパッケージングされ、脳内に分布していることが知られており(Rajendran, L. et al. Alzheimer’s disease beta-amyloid peptides are released in association with exosomes. Proc Natl Acad Sci USA 103,11172-11177(2006).、Fevrier, B. et al. Cells release prions in association with exosomes. Proc Natl Acad Sci U S A 101,9683-9688(2004).、Lee, H. J., Bae, E. J. & Lee, S. J. Extracellular alpha--synuclein-a novel and crucial factor in Lewy body diseases. Nat Rev Neurol 10,92-98(2014).、Kanmert, D. et al. C-terminally truncated forms of Tau, but not full-length Tau or its C-terminal fragments, are released from neurons independently of cell death. J Neurosci 35,10851-10865(2015).)、上記機能性タンパク質として使用し得る。
【0024】
<核酸>
本発明の核酸は、上記融合タンパク質をコードし、UBL3遺伝子と機能性タンパク質の遺伝子とが一体となって転写及び発現して1個の融合タンパク質を形成し得る。
UBL3遺伝子と機能性タンパク質の遺伝子との位置関係としては、UBL3遺伝子がN末端側、C末端側のいずれであってもよいが、N末端側であることが好ましい。
上記核酸におけるUBL3遺伝子部分としては、上記(d)及び(e)の何れかに記載の遺伝子が好ましく、上記(d)の遺伝子がより好ましい。
例えば、後述する実施例の項においては、UBLタンパク質と標識タンパク質との融合タンパク質等をコードする核酸を使用している。
本発明の核酸は、プロモーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節領域を更に含んでいてもいなくてもよい。
【0025】
<組換えベクター>
本発明の組み換えベクターは上記核酸を含む。
本発明において「組換えベクター」とは、適当な宿主細胞で上記融合タンパク質を発現することができる発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された調節領域を含む遺伝子作製物をいう。本発明において、「作動可能に連結された」とは、一般的機能を行うために、核酸発現調節配列と、上記融合タンパク質をコードする核酸配列とが機能的に連結されていることをいう。組換えベクターとの作動的連結は、本発明が属する技術分野で公知されている遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNAの切断及び連結は、本発明が属する技術分野で一般に知られている酵素などを用いて容易に行うことができる。
【0026】
本発明で用いられる適切な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節領域の他にも、膜標的化又は分泌のためのシグナル配列を含むことができる。開始コドン及び終止コドンは、通常、免疫原性標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部とみなされ、遺伝子作製物が投与された時、個体において必ず作用を示さなければならず、コード配列とインフレームにあるべきである。一般のプロモーターは、構成的又は誘導性である。原核細胞としてはlac、tac、T3及びT7のプロモーターが挙げられるが、これに限定されない。真核細胞としては、サルウイルス40(SV40)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、例えばHIVの長末端反復部(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターだけでなく、β-アクチンプロモーター、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、ヒトメタロチオネイン由来のプロモーターが挙げられるが、これに限定されない。上記発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含むことができる。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別するためのもので、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性又は表面タンパク質の発現といった選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられることができる。選択剤が処理された環境では選別マーカーを発現する細胞のみが生存するため、形質転換された細胞が選別可能である。また、ベクターは、複製可能な発現ベクターの場合、複製が開始される特定の核酸配列である複製起点を含むことができる。組換え発現ベクターとしては、プラスミド、ウイルス、コスミドなどの様々な形態のベクターを用いることができる。組換えベクターの種類は、原核細胞及び真核細胞の各種宿主細胞で目的の遺伝子を発現し、目的のタンパク質を生産する機能を行うものであれば特に限定されないが、強い活性を示すプロモーターと強い発現力を有しながら自然状態と同様の形態の外来タンパク質を大量生産することができるベクターが好ましい。
【0027】
上記融合タンパク質を発現させるために、様々な発現宿主/ベクターの組み合わせを用いることができる。真核宿主に適した発現ベクターとしては、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(adeno-associated virus)、サイトメガロウイルス、及びレトロウイルス由来の発現調節配列などが用いられることができるが、これに限定されるものではない。細菌宿主に使用可能な発現ベクターとしては、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUCベクター、col E1、pCR1、pBR322、pMB9及びこれらの誘導体のような大膓菌(Escherichia coli)由来の細菌性プラスミド、RP4のようにより広い宿主域を有するプラスミド、λgt10とλgt11、NM989のように非常に多様なファージλ(phage lambda)誘導体で例示されるファージDNA、及びM13や繊維状1本鎖DNAファージなどの他のDNAファージが含まれる。酵母細胞に有用な発現ベクターは、2℃プラスミド及びその誘導体である。昆虫細胞に有用なベクターは、pVL941である。
【0028】
<形質転換された宿主細胞>
本発明の宿主細胞は、上記組み換えベクターにより形質転換された宿主細胞である。
上記組換えベクターは宿主細胞に挿入されて形質転換体を形成することができる。この際、適当な宿主細胞は、大膓菌、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus sp.)などの原核細胞であることができ、また、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)などの真菌、ピキアパストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセスセレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces sp.)及びニューロスポラクラッサ(Neurospora crassa)などの酵母、その他の下等真核細胞、及び昆虫からの細胞のような高等真核生物の細胞などの真核細胞であることができる。
【0029】
また、前記宿主細胞は、好ましくは植物、哺乳動物由来のものであることができるが、ヒト乳癌細胞(MDA-MB-231-luc-D3H2LN細胞)、ヒト胎児腎細胞(例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(例えば、HeLa細胞、HeLa-S3細胞)、ハムスター卵巣細胞(例えば、CHO細胞、CHO-K1細胞)等などが利用可能であり、これに限定されない。
【0030】
本発明において宿主細胞への「形質転換」は、核酸を、細胞又は組職に組み込む如何なる方法も含まれ、当分野で公知されたように、宿主細胞に応じて適当な標準技術を選択して行うことができる。このような方法には、エレクトロポーレーション(electroporation)法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿法、塩化カルシウム(CaCl)沈殿法、炭化ケイ素繊維を用いた撹拌法、アグロバクテリアを介した形質転換法、PEG、デキストラン硫酸、リポフェクタミン及び乾燥/抑制を介した形質転換法などが含まれるが、これに限定されない。
【0031】
<エキソソームの機能調節剤>
本発明のエキソソームの機能調節剤は、上記融合タンパク質又は上記核酸を含む。
エキソソームの機能としては、天然のエキソームが元来有する機能のみならず、エキソームに人工的に付与された機能であってもよく、視認性(例えば、蛍光標識等)、識別性(例えば、タグ化)、標的であるレシピエント細胞に指向する機能、標的であるレシピエント細胞に取り込まれる機能等が挙げられる。
本発明のエキソソームの機能調節剤は、上記融合タンパク質又は上記核酸を含むことにより、エキソソームの上記機能を調節(例えば、亢進又は抑制)することができる。
本発明のエキソソームの機能調節剤が適用されるエキソームは、天然物(例えば、天然化合物、タンパク質、ペプチド、核酸(miRNA等))、人工物(例えば、合成化合物、組み換えないし合成タンパク質、組み換えないし合成ペプチド、組み換えないし合成核酸(組み換えないし合成miRNA等))を含有していてもいなくてもよい。
上記天然物ないし上記人工物を更に含有するエキソームとしては、例えば、上記天然物ないし上記人工物を高発現する細胞由来のエキソームを用いることができる(例えば、日経バイオテク2016年3月14号「特集」動きだしたエクソーム創薬)。
【0032】
<エキソソーム>
本発明のエキソソームは上記機能性タンパク質が機能発現可能な状態で上記融合タンパク質を含有する。
本発明のエキソソームは、上記天然物、上記人工物を更に含有していてもいなくてもよい。
上記天然物ないし上記人工物を更に含有するエキソームとしては、例えば、上記天然物ないし上記人工物を高発現する細胞由来のエキソームを用いることができる。
上記機能性タンパク質の機能としては、例えば、上記機能性タンパク質が膜タンパク質(例えば、膜貫通型タンパク質)である場合には膜局在化、上記機能性タンパク質が細胞骨格形成タンパク質である場合には細胞骨格形成、上記機能性タンパク質が疾患の原因物質又は疾患の抑制物質である場合には疾患の原因の発現又は疾患の抑制等が挙げられる。
【0033】
本発明のエキソソームにおいて、上記機能性タンパク質が機能発現可能な状態であることにより、上記機能性タンパク質の機能に応じて、レシピエント細胞において任意の機能を発現することができる。
例えば、実施例の項において後述する≪レシピエント細胞(sEVを受け取る側の細胞)におけるRasシグナル伝達の活性化試験≫にて説明するように、発癌性RasG12VとUBL3タンパク質とが融合ないし結合したタンパク質を含有するエキソソーム等のsEVが、レシピエント細胞におけるRasシグナル伝達の活性化し得ることが示されている。
このことは、エキソソーム等のsEVが、機能性タンパク質(発癌性RasG12V)が機能発現可能な状態で上記融合タンパク質を含有し、レシピエント細胞において機能発現(Rasシグナル伝達活性化)し得ることを示している。
【実施例
【0034】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0035】
<プロトコール>
以下の実施例において、(細胞培養)、(プラスミド構築)、(抗体)、(免疫沈降)、(組織ホモジナイゼーション及びウェスタンブロット分析)、(膜タンパク質及び細胞質タンパク質画分の単離)及び(統計解析)は以下のプロトコールにて行なった。
(細胞培養)
PS(100ユニット/mLペニシリンG、10μg/mL硫酸ストレプトマイシン)及び10%ウシ胎児血清(FBS)とともに、ロスウェルパークメモリアルインスティテュート(RPMI)1640培地又はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中でMDA-MB-231-luc-D3H2LN乳癌細胞(Xenogen社製)、HEK293T細胞及びHeLa細胞を培養した。
培養物を37℃5%CO下インキュベートした。以前の論文(Rodeheffer,M.S.,Birsoy,K.& Friedman,J.M. Identification of white adipocyte progenitor cells in vivo. Cell 135,240-249(2008).、Uezumi,A.,Fukada,S.,Yamamoto,N.,Takeda,S.&Tsuchida,K. Mesenchymal progenitors distinct from satellite cells contribute to ectopic fat cell formation in skeletal muscle. Nat Cell Biol 12,143-152(2010).)に従い、脂肪組織由来の間質血管画分(SVF)並びに野生型マウス及びUBL3 KOマウス由来の筋芽細胞から初代細胞を調製した。
【0036】
(プラスミド構築)
様々な発現ベクターを、従来の分子生物学技術及びPCR(Yao,I.et al. SCRAPPER-dependent ubiquitination of active zone protein RIM1 regulates synaptic vesicle release. Cell 130,943-957(2007).、Uezumi,A.,Fukada,S.,Yamamoto,N.,Takeda,S. &Tsuchida,K. Mesenchymal progenitors distinct from satellite cells contribute to ectopic fat cell formation in skeletal muscle. Nat Cell Biol 12,143-152(2010).、Hitachi,K.,Nakatani,M.&Tsuchida,K. Myostatin signaling regulates Akt activity via the regulation of miR-486 expression. Int J Biochem Cell Biol 47,93-103(2014).)を用いて、pcDNA3(Invitrogen社製)、pEGFPC(Clontech社製)又はpcDNA6/BioEase(Invitrogen社製)のいずれかにサブクローニングした。以前に報告されたように、Rab27a shRNAの配列を使用して、pcDNA 6.2-GW/miRベクター(Invitrogen社製)に挿入した(Ostrowski,M.et al. Rab27a and Rab27b control different steps of the exosome secretion pathway. Nat Cell Biol 12,19-30(2010).)。
Ras実験では、HRas発現ベクターセット(pCMV-Rasベクター及びpCMV-RasV12ベクター、Clontech社製)を使用した。GFP-ユビキチンは、Nico Dantuma(Addgeneプラスミド#11928)からの贈与であった。
【0037】
(抗体)
ウサギ抗UBL3抗体を得るために、細菌で発現された1.5mgのグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合マウスUBL3タンパク質を9匹のウサギにそれぞれ4回注射した。組換えUBL3タンパク質、外因性UBL3タンパク質及び内在性UBL3タンパク質は、1つのウサギの血清においてのみ特異的に認識された。血清をGSTカラムに3回通して非特異的抗体を除去した。得られたフロースルー(FT)を「UBL3抗血清」と称する。UBL3タンパク質のより特異的な抗体を得るために、ポリクローナルUBL3抗血清をGSTカラムに通した。得られたFTを、UBL3 KOマウス由来の脳溶解物と結合したカラムにさらに通し、UBL3以外の他のUBLの認識を排除した。FTをGST-UBL3カラムを用いてさらに精製した。このFTを「抗UBL3抗体」と称する。
【0038】
実施例で用いた抗体は以下の通りである。
抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製、14C10)、Flag-M2抗体(Sigma社製、F3165)、Flotillin-1抗体(BD社製、クローン18)、CD63抗体(Invitrogen社製、Ts63;BD社製、H5C6)、EEA1抗体(BD社製、610456)、Rab11抗体(BD社製、610656)、COXIV抗体(Cell Signaling社製、4850)、カルネキシン抗体(Enzo社製、ADI-SPA-860)、GM130抗体(BD社製、610822)、PMP70抗体(Thermo社製、PA1-650)、ラミンB1抗体(Abcam社製、ab16048)、GP96抗体(Enzo社製、9G10)、アルファアクチニン-4抗体(GeneTex社製、C2C3)、カルレティキュリン抗体(Cell Signaling社製、2891)、Alix抗体(Abnova社製、H00010015-B02)、CD9抗体(Affymetrix社製、14-0091;Invitrogen社製、Ts9;Millipore社製、MM2/57)、アルファ-チューブリン抗体(Sigma社製、DM1A)、GFP抗体(Thermo社製、A11122;Thermo社製、A11120)、pan-Ras抗体(Cell Signaling社製、3339;Millipore社製、MABS195)。
【0039】
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲートストレプトアビジン(Invitrogen社製、19534-050)、Alexa 488又は555コンジュゲート抗体(Thermo社製)、及びHRPコンジュゲート二次抗体(eBioscience社製、Cell Signaling社製及びAbcam社製)を含む。
【0040】
分画遠心分離実験では、下記マーカーに対する抗体を使用した。
sEVマーカーに対してはCD63抗体及びCD9抗体;複数のEVマーカーに対しては、Flotillin-1抗体及びAlix抗体;並びに非sEVマーカーに対しては、GP96抗体、アクチニン-4抗体、カルレティキュリン抗体及びGAPDH抗体。
【0041】
(免疫沈降)
UBL3修飾の検出のために、MDA-MB-231細胞、HEK293T細胞、及びHeLa細胞を、リポフェクトアミン2000(Invitrogen社製)を用いてDNAでトランスフェクトした。24時間又は72時間後(図8f)、細胞を洗浄し、氷冷PBS中にこすり落として集め、4℃で1分間400×gで遠心分離してペレット化し、1%トリトン緩衝液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、100mM NaCl、及び1%(v/v)トリトンX-100)で4℃20分間溶解した。粗核及び未破砕細胞を、5分間20,000×gの遠心分離によって除外した。氷冷PBS中で洗浄した後、低張緩衝液を用いた実験では、細胞を低張緩衝液(10mM HEPES[pH7.2]、10mM KCl、1.5mM MgCl、0.1mM EGTA)中に再懸濁し、ダウンスホモジナイザーで破砕した。
【0042】
粗核及び未破砕細胞を、4℃5分間800×gの遠心分離によって除外した。プレクリーニングのために、細胞溶解物を20μLのプロテインG-セファロースビーズ(GE Healthcare社製)とともに4℃で1時間、回転させながらインキュベートした。得られた上清を回転させながらタンパク質G-セファロースビーズの15μL中の抗Flag抗体2μgと4℃10時間インキュベートするか、又はプレクリーニングなしで20μLのGFP-トラップ(Chromotek社製)と4℃1時間インキュベートした。ビーズを氷冷洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl[pH7.4]、100mM NaCl)で4回洗浄した後、50μlの2×試料緩衝液(100mM Tris-HCl [pH6.8]、4%SDS、20%グリセロール及び0.01%ブロモフェノールブルー、2-メルカプトエタノールを含まない)をビーズに加え、ビーズを3分間煮沸した(β-ME-)。試料の一部を2-メルカプトエタノールで処理し、3分間煮沸した(β-ME+)。これらの試料をUBL3抗血清(1:100希釈)でブロットした。内在性UBL3修飾の検出のために、凍結組織50mgを粉砕し(BMS社製、ShakeMan2)、RIPA緩衝液(50mM Tris-HCl[pH8.0]、150mM NaCl、1%ノニデットP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム塩、0.1%SDS)でホモジナイズした。
【0043】
プレクリーニングのために、細胞溶解物を40μLのプロテインG-セファロースビーズとともに4℃で1時間、回転させながらインキュベートした。得られた上清をプロテインG-セファロースビーズ20μL中の抗UBL3抗体(1:1000希釈)と共に回転させながら4℃10時間インキュベートした。
【0044】
抗CD9抗体又は抗CD63抗体を用いたsEVの免疫単離の方法は、Kowal Jらに記載された通りに行った(Kowal,J.et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. Proc Natl Acad Sci USA 113,E968-977(2016).)。プロテインA磁気ビーズ(Thermo社製、88845)を使用した。
【0045】
sEV内のUBL3の検出のために、sEVをビオチン標識タグ付きUBL3トランスフェクトMDA-MB-231細胞の培地から精製し、PBS又はSDS緩衝液(50mM Tris-HCl[pH8.0]、150mM NaCl、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%NP-40,2%SDS)で洗浄し、ストレプトアビジンビーズ(Thermo社製、29202)で処理した。ストレプトアビジン-HRP又は抗CD63抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、プルダウン(PD)画分及びフロースルー(FT)画分を分析した。
【0046】
(組織ホモジナイゼーション及びウェスタンブロット分析)
組織ホモジナイゼーション及びウェスタンブロット分析は、従来の方法を用いて実施した(Yao,I.et al. SCRAPPER-dependent ubiquitination of active zone protein RIM1 regulates synaptic vesicle release. Cell 130,943-957(2007).、Uezumi,A.,Fukada,S.,Yamamoto,N.,Takeda,S.&Tsuchida,K.Mesenchymal progenitors distinct from satellite cells contribute to ectopic fat cell formation in skeletal muscle. Nat Cell Biol 12,143-152(2010).、Hitachi,K.,Nakatani,M.& Tsuchida, K. Myostatin signaling regulates Akt activity via the regulation of miR-486 expression. Int J Biochem Cell Biol 47,93-103(2014).)。
【0047】
(膜タンパク質及び細胞質タンパク質画分の単離)
膜タンパク質及び細胞質タンパク質画分の単離は、製造者のプロトコール(Fermentas社製、ProteoJET;Thermo社製、Mem-PER Plusキット)に従って行った。RNA精製、逆転写反応、リアルタイムqPCR分析は従来の方法で行った(Yao,I.et al.SCRAPPER-dependent ubiquitination of active zone protein RIM1 regulates synaptic vesicle release. Cell 130,943-957(2007).、Uezumi,A.,Fukada,S.,Yamamoto,N.,Takeda,S.& Tsuchida,K. Mesenchymal progenitors distinct from satellite cells contribute to ectopic fat cell formation in skeletal muscle. Nat Cell Biol 12,143-152(2010).、Hitachi,K.,Nakatani,M. & Tsuchida,K. Myostatin signaling regulates Akt activity via the regulation of miR-486 expression. Int J Biochem Cell Biol 47,93-103(2014).)。
【0048】
(統計解析)
Prism 6.03(GraphPad Software社製)、Microsoft Excel及びPERSEUS(バージョン1.5.4.1)を用いて統計解析を行った。 Mann-Whitney検定またはWilcoxon符号付順位検定及びKruskal-Wallis/Dunnの多重比較検定を、プロテオミクス分析を除く2群と3群以上の比較にそれぞれ適用した。実験ごとに2つ以上の独立したサンプルを使用した。横棒は各群の中央値を示す。
【0049】
≪新規翻訳後修飾因子UBL3の抽出≫
バイオインフォマティクス法を用いて新規の翻訳後修飾因子を同定した(Yao,I.et al.SCRAPPER-dependent ubiquitination of active zone protein RIM1 regulates synaptic vesicle release. Cell 130,943-957(2007).)。
【0050】
図1は様々な種からのユビキチン様(UBL)ドメイン含有タンパク質の系統樹分析結果を示す図である。
ヒト、マウス、ハエ、ワーム、及び酵母の全てのUBLアミノ酸配列をCLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw)を用いて分析し、クラスターに分類して系統樹を作成した。樹中の任意の2つの末端分類群間の平均距離は以下のように計算した。

平均距離=2×(全枝の合計)/(UBLドメインの数-1)
=2×(41.44)/(181-1)=0.46
【0051】
上記計算に基づいて、UBLドメイン含有タンパク質を以下のようにサブファミリーに分類した。
まず、内部節の分岐長を含む各UBLドメイン間の距離を調査した。上記距離が0.46未満であれば、同じグループに2つのドメインを含め、上記グループをUBLドメインのサブファミリーとして定義した。次に、ワーム、ハエ、又は酵母のいずれかと、ヒト、マウスとの間で高度に保存されたUBLドメインのサブファミリーを定義した。
図中のボックスは、上記高度に保存されたUBLドメインのサブファミリー、すなわちユビキチン、Nedd8、ユビキチン様5(UBL5)、ユビキチン、ユビキチン様3(UBL3)、SUMO-1、SUMO-2/3、ユビキチン特異的プロテアーゼ14(USP14)、MGC10067、及びElongin-Bを示す。
【0052】
ユビキチン、SUMO及びNedd8のカルボキシル末端のグリシン残基は、一般に標的タンパク質のリジン残基に共有結合していることが知られている(Welchman,R.L.,Gordon,C.&Mayer,R.J. Ubiquitin and ubiquitin-like proteins as multifunctional signals. Nat Rev Mol Cell Biol 6,599-609(2005).、Flotho,A.&Melchior,F.Sumoylation: a regulatory protein modification in health and disease. Annu Rev Biochem 82,357-385(2013).、Watson,I.R.,Irwin,M.S.& Ohh,M.NEDD8 pathways in cancer, Sine Quibus Non. Cancer Cell 19,168-176(2011).)。
【0053】
これに対し、以下説明するように、図1中のUBL3が、そのカルボキシル末端のシステイン残基を介したジスルフィド結合によって標的タンパク質を修飾することを見出し、UBL3はユビキチン様ドメインを有するものの、UBL3修飾は、従来のユビキチン及びユビキチン様修飾とは全く異なるメカニズムであることを以下説明するように見出した。
【0054】
≪新規翻訳後修飾因子UBL3の分析≫
翻訳後修飾因子としてのUBL3の役割を明らかにするために、乳癌細胞MDA-MB-231にFlag-UBL3を発現させ、免疫沈降(IP)後UBL3抗血清によるウェスタンブロッティングすることによりUBL3タンパク質を精製した。
図2aは、UBL3依存性翻訳後修飾が、Flag-UBL3でトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞からの抗Flag抗体による免疫沈降(IP)、及びUBL3抗血清によるウェスタンブロッティングによって検出されたこと(右パネル)を示す図である(20μg/レーン)。
Flag-UBL3の推定分子量は16kDaである。興味深いことに、Flag-UBL3発現細胞において、UBL3シグナルは非還元条件下でのみ高分子量までのスメアバンドとして観察された。SDS-ポリアクリルアミドゲルにロードする前に、2-メルカプトエタノール(β-ME+)をサンプルに添加した後、スメアシグナルは消失した(図2a、右パネル)。
【0055】
<UBL3ノックアウトマウスを用いたインビボにおけるUBL3修飾の確認>
インビボにおいてUBL3修飾が起こることを確認するために、まず、UBL3ノックアウト(KO)マウスを樹立した。
【0056】
(Ubl3-/-ノックアウト(KO)マウスの樹立)
標的戦略は、図3aに示した。
図3は、UBL3 KOマウスの作製を示す図である。
図3aは、開始コドンを含むUBL3遺伝子のエキソン2を除去するためのターゲッティングベクターの概略構造を示す図である。
図3a中、矢印Neoはネオマイシン耐性(Neo)遺伝子を示す。
矢印DT-Aはジフテリア毒素A(DT-A)遺伝子を示す。
その他の矢印は遺伝子型解析のためのPCRプライマーの位置を示す。
BSはpBluescriptを示す。
KpnI-HindIIIで消化されたゲノムDNAのサザンブロッティング分析によって標的クローンを確認した。標的構築物の5’位の外側のKpnI部位の下流の750bp断片を用いた5’プローブでプローブした。NcoIで消化したゲノムDNAについては、3’末端のNdeI部位及びNcoI部位との間の800bp断片を用いた3’プローブを用いてプローブした。
詳細には、標的構築物をSpeI消化により線状化した。SpeI線状化ターゲティングベクターを用いてCCE(129/Sv/Ev)(E Robertson博士からの贈与)胚性幹(ES)細胞を電気穿孔し、G418で選択した。ヘテロ接合性ES細胞を、C57BL/6J株マウスの胚盤胞に注入して、生殖系列キメラを作製した。キメラマウスをC57BL/6Jマウスで10世代戻し交配した。遺伝子型はサザンブロッティングまたは以下の3つのプライマーを用いたPCRによって決定した。
UBL3-KO-3’:5’-ACCCAGGTCCTCATGCATCGGTAGA-3’(配列番号5)
UBL3-KO-5’:5’-CCACCCACTGCCTTTCCCAGAAAC-3’(配列番号6)
UBL3-KO-Neo:5’-GCTGCAGGGTCGCTCGGTGTT-3’(配列番号7)
動物のケア及び治療に関連するすべての手順は、施設及びNational Institutes of Healthガイドラインに準拠しており、藤田保健衛生大学の動物管理及び使用委員会によって承認された。
【0057】
(結果)
図3bは、UBL3 KOマウスの遺伝子型分析結果を示す図である。
図3dは、内在性UBL3タンパク質の組織分布を、UBL3抗血清を用いたウェスタンブロッティング分析によって調査した結果を示す図である(50μg/レーン)。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。
ウェスタンブロット分析後、ゲルをSYPRO Ruby染色した。
図3d中、Ht:心臓、Lg:肺、Lv:肝臓、Sp:脾臓、Pc:膵臓、Si:小腸、Cl:結腸、Ki:腎臓、Ms:骨格筋、Te:精巣、Cx:大脳皮質、Cb:小脳、Hp:海馬を示す。
【0058】
図3dに示した結果から明らかなように、Cx(大脳皮質)、Cb(小脳)、Hp(海馬)等の脳内のUBL3の発現が比較的高いことが分かる。
図3cは、Ubl3+/+(野生型;WT)マウス及びUbl3-/-(ノックアウト;KO)マウス由来脳におけるUBL3の抗UBL3抗体を用いたウェスタンブロット結果を示す図である(20μg/レーン)。
上記結果に基づき、以下、大脳皮質溶解物中のUBL3依存性翻訳後修飾について分析した。
【0059】
図2bは、野生型(WT)及びUBL3 KOマウスの大脳皮質溶解物を抗UBL3抗体で免疫沈降(IP)した図である(20μg/レーン)。
図2bに示した結果から明らかなように、UBL3 KOマウスにおいて翻訳後修飾の程度が減少することがわかる。
【0060】
<UBL3変異体を用いたUBL3修飾その1>
次に、UBL3変異体を用いてUBL3修飾を検証した。
上述のように、UBL3修飾は非還元的条件に依存していることから、UBL3における全システイン残基に着目した。
UBL3は、そのカルボキシル末端に2つのシステイン残基しか有さない(C113及びC114)。
そこで、図2cに示した3種のUBL3変異体(C113A、C114A、及びC113/114A)を構築し、これらを野生型UBL3と共に調査した。
図2cは、図2d及びeにおけるレーン1~5におけるFlagタグ付き野生型又はUBL3変異体の概略構造を示す図である(20μg/レーン)。
【0061】
図2dは、図2cにおけるFlagタグ付き野生型又はUBL3変異体を含む細胞におけるUBL3修飾の検出を示す図である(20μg/レーン)。なお、IP産物はロード前に2-メルカプトエタノール(βME-)なしで煮沸し、試料の一部を2-メルカプトエタノール(βME+)で処理した。
図4aは、HEK293T細胞及びHeLa細胞におけるUBL3修飾の解析結果を示す図であり、IP産物は、ロード前に2-メルカプトエタノール(βME-)なしで煮沸した(10μg/レーン)。
図2dにおけるレーン5及び図4aに示した結果から明らかなように、UBL3C113/114A変異体では、UBL3修飾はMDA-MB-231細胞だけでなく、試験された各細胞株(HEK293T細胞及びHeLa細胞)においても完全に消失していることがわかる。
一方、図2dにおけるレーン3及び4及び後述する図4aに示した結果から明らかなように、いくつかの細胞においてUBL3C113A変異体及びUBL3C114A変異体において、UBL3修飾は減少しているものの、UBL3修飾は依然として存在していることがわかる。
【0062】
<UBL3変異体を用いたUBL3修飾その2>
カルボキシル末端のCAAXモチーフ(C:システイン、A:脂肪族アミノ酸、X:任意のアミノ酸)は、膜局在性タンパク質によく見られることが知られている(Zhang,F.L.&Casey,P.J. Protein prenylation: molecular mechanisms and functional consequences. Annu Rev Biochem 65,241-269(1996).)。
図2cに示したように、UBL3もまた、そのカルボキシル末端にCAAXモチーフを有し、C114を介して膜に固定するためにプレニル化されることが示されている(非特許文献7)。
図2eは、図2cに示したFlag-UBL3野生型又は変異体でトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞におけるUBL3の細胞内局在化を示す図である(20μg/レーン)。
図4bは、Flag-UBL3野生型及び変異体でトランスフェクトされたHEK293T細胞及びHeLa細胞におけるUBL3の細胞内局在化を示す図である(10μg/レーン)。
【0063】
図2e及び図4bに示した結果から明らかなように、変異体ではない野生型UBL3タンパク質の大部分は細胞質ゾル画分には存在せず、膜画分に選択的に局在化していることがわかる。
【0064】
<UBL3変異体を用いたUBL3修飾その3>
膜画分中のUBL3の存在とUBL3修飾との関係を調査するために、上述のように、翻訳後修飾活性が喪失したにもかかわらず、膜画分に依然として存在しているUBL3変異体を同定することを試みた。
図2fは、図2g及びhにおけるレーン1、2及び6~8におけるFlagタグ付き野生型又はUBL3変異体の概略構造を示す図である(20μg/レーン)。
図2gは、図2fにおけるFlagタグ付き野生型又はUBL3変異体を含む細胞におけるUBL3修飾の検出を示す図である(20μg/レーン)。IP産物は2-メルカプトエタノール(βME-)なしで煮沸し、試料の一部を2-メルカプトエタノール(βME+)で処理した。
図2hは、Flag-UBL3野生型又は変異体でトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞におけるUBL3の細胞内局在化を示す図である(20μg/レーン)。
図2f、g及び図4aに示した結果から明らかなように、興味深いことに、たった1つのカルボキシル末端アミノ酸を欠くUBL3Δ1は、UBL3修飾能を喪失していることが分かる。
しかし、図2h及び図4bに示した結果から明らかなように、UBL3Δ1は膜画分に保持される一方、UBL3Δ2及びUBL3Δ3は膜画分に保持されないことがわかる。
これらの結果は、UBL3修飾が膜画分中に存在するために必要でないことを示している。
【0065】
≪UBL3細胞内局在化の免疫細胞化学的観察≫
まず、モック(Mock)ベクター、Flag-UBL3ベクター、又はFlag-UBL3C113/114AベクターでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞を1%トリトン又はHypotonic(Hypo)緩衝液で溶解し、細胞質におけるUBL3修飾の解析を行なった。
図5aは、UBL3による翻訳後修飾産物が細胞内の細胞質において減少することを示す図である。
図5aに示した結果から明らかなように、細胞質分画においては、UBL3修飾が減少することが分かる。
【0066】
(免疫細胞化学)
次に、UBL3の細胞内局在化を免疫細胞化学的に観察した。
リポフェクトアミン2000を用いてMDA-MB-231細胞をGFP-UBL3(野生型又は変異体)及びiRFP670(形態学的マーカー)でコトランスフェクトした。24時間後、細胞を4%PFA/PBSで15分間固定した。0.1Mグリシン/PBSでクエンチし;0.2%BSA、2%ヤギ血清、及び0.05%サポニン/PBSで1時間浸透化/ブロックし;一次抗体と4℃で18時間インキュベートし、二次抗体を1時間インキュベートした。Aqua-Poly/Mount(Polysciences社製)でマウントした。リソソームを50μMのLysoTracker Red(Thermo社製)で37℃で1時間標識した。共焦点レーザー顕微鏡(LSM-780、Carl Zeiss社製)上で、63×対物レンズ(NA1.4)で共焦点画像を取得した。いくつかの0.5μm間隔の断面から投影された代表的な画像が示され、それぞれは挿入図に単一の共焦点画像を有する。蛍光強度及び細胞形態をフィジー(Image J)で測定した。
UBL3のパーセンテージは以下のように算出した。
(%)=(共焦点部分の各小器官領域におけるGFP-UBL3シグナルの合計)/(各共焦点部分の全細胞領域におけるGFP-UBL3シグナルの総和)×100
【0067】
(結果)
図6は、MVBへのUBL3の局在化がUBL3修飾に依存することを示す図であり、図6aは、改良型GFP(以下単に「EGFP」ともいう。)-UBL3でトランスフェクトされ、MVBマーカー(CD63)、初期エンドソームマーカー(EEA1)、リソソームマーカー(LysoTracker)又はリサイクルエンドソームマーカー(Rab11)で共染色されたMDA-MB-231細胞の代表的な投影画像を示す図である。図中、点線のボックス内の領域を、インセット内に単一の共焦点画像として示した。
図6bは、図6aにおけるEGFP-UBL3蛍光強度の定量解析結果を示す図である。図6b中、n数=10×4であり、*は、Kruskal-Wallis/Dunnの多重比較検定によるp<0.05であり、***はp<0.001である。
【0068】
図6a及びbに示した結果から明らかなように、EGFP-UBL3の導入後、種々のオルガネラとの共局在化を調査した。総EGFP-UBL3シグナルの40%超が、MVBマーカーである内在性CD63と共局在し、UBL3がMVBにリッチであることが分かる。
【0069】
また、図5bは、EGFP-UBL3でトランスフェクトされ、ミトコンドリアマーカー(COXIV)、小胞体マーカー(Calnexin)、ゴルジ体マーカー(GM130)、ペルオキシソームマーカー(PMP70)、又は核膜マーカー(ラミンB1)で共染色されたMDA-MB-231細胞の代表的画像を示す図である。合成(Merge)された画像の数値は、合計UBL3の%として表示している(n数=5×5)。
【0070】
図5b及び図6aに示した結果から明らかなように、UBL3はエンドソームマーカー(Rab11)、ミトコンドリアマーカー(COXIV)、小胞体マーカー(Calnexin)、ゴルジ体マーカー(GM130)、ペルオキシソームマーカー(PMP70)、及び核膜リサイクリングマーカー(LaminB1)との共局在を示していないことが分かる。
一方、初期エンドソームマーカー(EEA1)及びリソソームマーカーとの共局在が検出されたことが分かるが、図6a及びbに示した結果から明らかなように、MVBマーカーとの共局在の程度と比較して弱いことが分かる。
【0071】
次に、MVBにおけるUBL3修飾と局在化との関係を解明するために、UBL3C113A、UBL3C114A、UBL3C113/114A及びUBL3Δ1と、内在性CD63との共局在を観察した。
図6cは、EGFP-UBL3野生型又は変異体でトランスフェクトし、CD63値で共染色したMDA-MB-231細胞の代表的画像を示し、全UBL3の%として示す(n数=5×5)。
図6cに示した結果から明らかなように、野生型UBL3はCD63との共局在を示し、それとは異なり、各変異体はCD63との共局在を示していないことが分かる(中央値:UBL3,UBL3C113A,UBL3C114A,UBL3C113/114A,UBL3Δ1は、それぞれ、41.5%,3.0%,2.7%,1.9%,2.3%)。
【0072】
(免疫電子顕微鏡分析)
MVB及び原形質膜におけるUBL3の局在を明らかにするために、免疫電子顕微鏡分析を行った。
3×Flag-UBL3(野生型又はUBL3Δ1)でトランスフェクションしたMDA-MB-231細胞又は偽トランスフェクションMDA-MB-231細胞を4%PFA/PBSで4℃30分間固定し、続いて4%PFA及び0.1%グルタルアルデヒド(GA)/PBS中で4℃30分間固定した。PBSで洗浄した後、細胞を1%四酸化オスミウム/PBSで30分間固定し、一連の段階的エタノールで脱水し、n-ブチルグリシジルエーテル(QY-1)に移し、エポキシ樹脂(EPON812、TAAB社製)に埋め込んだ。超薄切片をウルトラミクロトーム(Ultracut N、Reichert-Nissei社製)上で厚さ100nmにカットし、ニッケルグリッド(VECO社製、2552)上に置き、5%メタ過ヨウ素酸ナトリウムで10分間エッチングし、PBSで洗浄した。切片を抗Flag抗体(1:100)と共に2時間インキュベートした。PBSで洗浄した後、切片を15nm金結合ヤギ抗マウスIgG抗体(1:50、Cytodiagnostics社製)とともに1時間インキュベートした。PBSで洗浄した後、切片を2.5%GA/PBS中に10分間固定し、ミリ-Q水で洗浄して抗原-抗体結合を安定化させた。免疫染色した切片を酢酸ウラニルで3分間染色し、クエン酸鉛で1分間染色した後、透過型電子顕微鏡(H-7650、Hitachi社製)で観察した。MVB、原形質膜、ミトコンドリア及び核膜における単位面積当たりの金粒子の数をカウントした。
【0073】
(結果)
図5cは、MDA-MB-231細胞のミトコンドリア及び核膜におけるFlag-UBL3の免疫電子顕微鏡画像を示す図である。
図5dは、図5cにおける単位面積(μm)当たりの金コロイド数の定量を示す図である(n数=10)。図中、n.s.は両側スチューデントt検定によるp>0.05である。
図6dは、MDA-MB-231細胞における野生型UBL3及びUBL3Δ1の免疫電子顕微鏡画像を示す図である。
図6eは、上記図6dの単位面積(μm)当たりの金コロイドの数の定量を示す図である(MVB:n数=10、細胞膜:n数=13)。図中、*は、両側スチューデント及びウェルチのt検定によるp<0.05を示し、***はp<0.001を示す。
【0074】
図6d及びeに示した結果から明らかなように、Flag-UBL3をMDA-MB-231細胞に導入したとき、UBL3シグナルはMVB及び原形質膜ではっきりと検出されることが分かる。
一方、図5c及びdに示した結果から明らかなように、ミトコンドリア又は核膜では検出されないことがわかる。
【0075】
また、図6d及びeに示した結果から明らかなように、UBL3Δ1は原形質膜に局在する一方、MVBには局在しないことがわかる。
これらの結果から、膜局在化が十分ではなく、MVB局在化にUBL3修飾が必要であることを示している。
【0076】
≪UBL3の細胞外分泌≫
MVBの一つの運命は、エキソソームとしての放出のために原形質膜と融合することである。他の運命は、リソソームと融合して、MVBの中身を分解させることであることが知られている(Katzmann,D.J.,Odorizzi,G.&Emr,S.D. Receptor downregulation and multivesicular-body sorting. Nat Rev Mol Cell Biol 3,893-905(2002).、Colombo,M.,Raposo,G.&Thery,C.Biogenesis, secretion,and intercellular interactions of exosomes and other extracellular vesicles. Annu Rev Cell Dev Biol 30,255-289(2014).)。
【0077】
図6a及びbを参照して上述したように、UBL3がリソソームよりも大きな程度でMVBと共局在化することから、UBL3の細胞外分泌に着目した。
細胞は、様々な大きさの細胞外小胞(EV)を放出する。これらの小胞の一部は原形質膜に由来し、これらの小胞は2,000×g(2K)及び10,000×g(10K)で各々精製された大型及び中型のEVを含む。
sEVは100,000×g(100K)で精製され得、一部原形質膜に由来するか(非エキソソームsEV)、又はMVBに由来し得る(エキソソームsEV)(Kowal,J.et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. Proc Natl Acad Sci USA 113,E968-977(2016).)。
【0078】
(EVの単離及びRNA分析)
sEVを、従来のプロトコールに準じて馴化培地から単離した(Thery,C.,Amigorena,S.,Raposo,G. & Clayton, A.Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids.Curr Protoc Cell Biol Chapter3,Unit 3 22(2006).)。簡潔には、馴化培地を調製するためにエキソソーム枯渇FBS(100,000×gで16時間遠心分離)を使用した。24時間のインキュベーション後、培養培地(3×10個の細胞から約90mL)を集め、4℃で300×gで10分間遠心分離した。上清を2,000×gで4℃20分間遠心分離した。上清を10,000×gで30分間4℃で再び遠心分離した。細胞破片を除去するために、上清を0.22μmフィルター(Millipore社製、Millex-GV)で濾過した。次に、100,000×g(24,000rpm、SW32Tiローター、Beckman社製)で4℃で70分間超遠心分離することによりsEVペレットを採取した。sEVペレットを1mLのPBSで洗浄し、100,000×g(42,900rpm、TLA-110ローター、Beckman社製)で4℃で60分間超遠心分離して回収した。sEVペレットを1mLのPBSで再度洗浄し、4℃60分間100,000×gの超遠心分離によって集め、次いでPBSに再懸濁した。2Kペレット、10Kペレット及び100Kペレットの精製のために、先の文献に準じて頻度別(differential)超遠心分離プロトコルを使用した13。100Kペレットの精製の前に0.22μmフィルター(Millipore社製、Millex-GV)による濾過をさらに行った。マウス血清については、回収後、全血を室温で30分間静置して凝固させた。血餅を除去するために、全血を8,000×gで10分間2回遠心分離した。マウス血漿の調製のために、収集後、全血をヘパリン溶液(Mochida Pharmaceutical社製、ヘパリンNa5000単位/5mL)に加え、ゆっくりと回転させ、9,100×gで5分間遠心分離し、上清を血漿として使用した。
【0079】
各実験において、UBL3 KOマウスからの血清の容量は、その野生型同腹仔の血清量(約350~500μL)と一致した。採取した血清を直ちに等容量のPBSで希釈し、4℃30分間2,000×gで遠心分離した。上清を12,000×gで45分間4℃で遠心分離した。上清をPBSで5倍に希釈し、0.22μmフィルターでろ過した。次いで、EVペレットを110,000×g(34,000rpm、SW55Tiローター、Beckman社製)で4℃70分間超遠心分離して回収した。sEVペレットを1mLのPBSで洗浄し、100,000×g(42,900rpm、TLA-110ローター、Beckman社製)で4℃60分間超遠心分離して回収した。sEVペレットを1mLのPBSで再度洗浄し、100,000×g(42,900rpm、TLA-110ローター、Beckman社製)で4℃で60分間超遠心分離して回収し、PBSに再懸濁した。血清sEVの全RNA量を定量するために、miRNeasy Kit(Qiagen社製)を用いて、各マウスの全血清sEVからRNAを精製した。精製したRNA溶液をBioanalyzer 2100システム(RNA 6000 Pico kit、Agilent社製)により測定した。リアルタイムqPCR分析のために、上記精製RNA溶液(40%)を相補的DNA(cDNA)に逆転写し、各miRNAについて得られたcDNA10%溶液をリアルタイムqPCR分析に使用した。
【0080】
血清、血漿及び細胞溶解物のタンパク質濃度をBCA(Thermo社製)によって測定した。2Kペレット、10Kペレット及び100Kペレットのタンパク質濃度を定量するために、各ペレットを2%SDSで希釈し、Micro-BCA(Thermo社製)で測定した。
【0081】
(sEVにおける総タンパク質量の測定)
各実験の精製した10%血清sEVをSDSサンプルバッファーを含むβ-MEで煮沸し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。得られたゲルを50%メタノール及び10%酢酸に30分間固定し、10%メタノール及び7%酢酸で30分間洗浄した。ゲルをSYPRO Ruby Gel Stain(Thermo社製)中で暗所にて3時間染色した。ゲルを10%メタノール及び8%酢酸で30分間洗浄し、次いで超純水で10分間洗浄した。次いで、ゲルを、532nmに設定した蛍光スキャナー(GE Healthcare社製、Typhoon 9400)を用いてスキャンした。全タンパク質強度を、ImageJソフトウェアを用いて分析した。
【0082】
(結果)
図7は、sEVにおける全タンパク質レベルが、UBL3ノックアウトマウスにおいて減少することを示す図であり、図7aは、3×Flag-UBL3ベクターでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地からの細胞溶解物(CL)及び2K、10K及び100Kの各遠心分離ペレットを種々の抗体でブロットした結果を示す図である。
図7aにおいて、Flag抗体、Flotillin-1抗体、GP96抗体、Actinin-4抗体、Calreticulin抗体、GAPDH抗体、及びAlix抗体はβME+条件であり、CD63抗体及びCD9抗体は、βME-条件である。
【0083】
図7aに示した結果から明らかなように、MDA-MB-231細胞からの2K、10K及び100K遠心分離ペレットからEVを精製し、UBL3が2K及び10K画分よりも100K画分により濃縮されていることがわかる。
【0084】
(sEVの電子顕微鏡分析)
超微視的分析は、従来のプロトコールに準じて行った(Thery,C.,Amigorena,S.,Raposo,G.& Clayton,A.Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids.Curr Protoc Cell Biol Chapter3,Unit 3 22(2006).)。簡潔に述べると、精製したsEVを等量の4%PFA/PBSと混合し、次いで電子顕微鏡(EM)グリッド(Nisshin EM、Excel Support Film)上に沈着させた。EMグリッド上のsEVをPBSで洗浄し、さらに1%GAで5分間固定し、超純水で2分ごとに8回洗浄した。EMグリッドを10%EM染色(Nisshin EM)でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡を用いて分析した。
【0085】
図8aは、MDA-MB-231細胞の馴化培地から頻度別(differential)超遠心分離プロトコールによって単離した100Kペレット(sEV)の電子顕微鏡分析結果を示す図である。右パネルは左パネルの白いボックスから拡大した領域である。
図8aに示した電子顕微鏡ネガティブ染色結果から明らかなように、100Kペレットから精製されたsEVが、直径50~100nmの範囲のナノメートルサイズの小胞を含むことがわかる。
【0086】
ビオチン化タグベクター(BioEase)中のUBL3でトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞を、抗CD9抗体及び抗CD63抗体を用いたプルダウン試験に供した。
図8bは、免疫分離結果を示す図である。
Kowal Jら(Kowal, J. et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. Proc Natl Acad Sci USA 113,E968-977(2016).)の免疫単離法に記載されているようにsEVを抗CD9抗体又は抗CD63抗体のいずれかで免疫沈降させると、図8bに示したように、UBL3シグナルがプルダウン(PD)画分に見出された。
一方、UBL3はコントロールIgGプルダウン試料中のフロースルー(FT)画分にのみ見出された。等量のPD画分及びFT画分をウェスタンブロット分析のためにゲルにロードした。
図8b中、*は、免疫沈降に使用される免疫グロブリンの重鎖(50kDa)からの非特異的シグナルである。
図8bに示した結果から明らかなように、大部分のUBL3がCD63を含むsEVに存在することが見出された。
【0087】
図8cは、sEV内のUBL3の検出を示す図である。等量のPD画分及びFT画分をウェスタンブロット分析のためにゲルにロードした。
図8cに示したように、PBS処理の下で、ビオチン化UBL3はFT画分で同定されたが、PD画分では同定されなかった。
一方、大部分のトランスフェクションされたビオチニル化UBL3は、SDS処理を伴うPD画分において同定され、UBL3がsEV内にパッケージングされたことを示している。
図8cに示した結果から明らかなように、UBL3がsEV内にパッケージングされていることが見出された。
【0088】
内在性UBL3がsEVで放出されたか否かを測定するために、野生型マウス及びUBL3 KOマウスから初代培養細胞を調製し、培養上清からsEVを精製し、抗UBL3抗体を用いてブロットした。サンプルをロードする前に、サンプルをβMEで沸騰した。各条件から精製されたsEVの10%をロードし、分析した。ゲルはSYPRO Rubyで染色した。
図8dは、WTマウス及びUBL3 KOマウスから単離された初代間質血管(SVF)画分及び初代筋管(Myotube)画分の細胞培養培地からのsEVのウェスタンブロッティング分析結果を示す図である。
図8dに示した結果から明らかなように、内在性UBL3が、野生型マウス由来のsEVにおいてのみ見出されたことがわかる。
【0089】
sEVをFlagタグ付きUBL3でトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞の培地から単離した。同量のsEV(タンパク質1μg)をUBL3抗血清でブロットした。細胞溶解物由来のIP産物をUBL3修飾の陽性コントロールとしてロードした。ゲルはSYPRO Rubyで染色した。
図8eは、sEVにおけるUBL3修飾を示す図である。
図8eに示した結果から明らかなように、UBL3修飾が細胞溶解物だけでなくsEVにおいても観察されたことがわかる。
【0090】
sEVへのソーティングにUBL3修飾が不可欠であることを明らかにするために、100KsEVにおけるUBL3及びその変異体の存在を調査した。
図7bは、sEVにおけるUBL3及びその変異体の存在を示す図である。
図7bにおいて、Flag抗体、Flotillin-1抗体、及びGAPDH抗体はβME+条件であり、CD9抗体はβME-条件である。
【0091】
図7bから明らかなように、これらの中で、UBL3システイン変異体はsEV画分にソーティングされなかったことがわかる。
一方、UBL3Δ1は、野生型UBL3のレベルと比較して非常に低いレベルで検出されたことがわかる。
【0092】
精製100Kペレットには、エキソソームsEV及び非エキソソームsEVの両方が含まれている。
後者は原形質膜から直接分泌される小胞を含むことが知られている(Kowal,J. et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. Proc Natl Acad Sci USA 113,E968-977(2016).、Bobrie,A.,Colombo,M.,Krumeich,S.,Raposo,G.& Thery,C.Diverse subpopulations of vesicles secreted by different intracellular mechanisms are present in exosome preparations obtained by differential ultracentrifugation.J Extracell Vesicles 1,18397(2012).)。
図7bは、原形質膜に局在するがMVBに局在しないUBL3Δ1がなぜ100Kペレット中に少量検出されたのかを説明している(図2h、図6d、e、及び図7bを参照)。
また、以上の知見は、UBL3修飾がsEVへのUBL3ソーティングに重要であることを示している。
【0093】
また、MDA-MB-231細胞を、LacZ shRNA又はRab27a shRNAのいずれかでトランスフェクトし、72時間後、UBL3修飾に対するRab27a shRNAの効果を評価した。
図8fは、UBL3修飾に対するRab27a shRNAによるsEV放出の遺伝子レベルでの阻害効果を示す図である。
図8fから明らかなように、エキソソーム放出がRab27a shRNA15によって阻害されたとき、UBL3修飾産物のレベルが増加したことが分かる。
【0094】
以上の結果は、UBL3修飾がMVBにおけるUBL3の局在化に必要であり、UBL3の大部分がエキソソームとして放出されるMVBの融合に由来するsEVにおいて分泌されることを示している。
UBL3が原形質膜に局在するので、UBL3修飾も非エキソソームsEVに影響を及ぼし得る。
【0095】
<sEVへのタンパク質のソーティングにおけるUBL3の機能解析>
sEVへのタンパク質のソーティングにおけるUBL3の機能的役割を解明するために、UBL3-KOマウス血清由来の精製sEVのタンパク質含量を定量した。
【0096】
図7cは、ネガティブ染色によるWTマウス及びUBL3 KOマウスからの血清由来精製sEVの電子顕微鏡分析結果を示す図である。
図9a及びbは、WTマウス(n=3)及びUBL3 KOマウス(n=3)の血清sEVにおけるNanoSight(商品名)を用いたsEV粒子の測定を示す図であり、図9aは粒子濃度(×10粒子/ml)を、図9bは平均小胞(粒子)径(nm)を示す。
図7c、並びに図9a及びbに示した結果から明らかなように、遺伝子型(WT又はUBL3 KO)は、sEV粒子の粒子濃度又は平均小胞径に影響を及ぼさないことがわかる。
【0097】
図7dの左上のパネルはWTマウス及びUBL3 KOマウスにおける血清由来EVのタンパク質染色を示す図である。
【0098】
(ナノ粒子追跡分析によるsEVの測定)
PBSで25倍に希釈した単離血清sEV粒子上において、青色レーザーシステム(NanoSight、Amesbury社製)を有するNanoSight LM10HSを用いて、ナノ粒子追跡分析(NTA)を行った(Yoshioka, Y. et al. Comparative marker analysis of extracellular vesicles in different human cancer types. J Extracell Vesicles 2,20424(2013).)。
【0099】
上記システムは、関心のある粒子の懸濁液にレーザビームを集束させる。それらは視野内の各粒子から散乱された光を集めるビーム軸に垂直に配列された従来の光学顕微鏡を用いて光散乱によって視覚化された。60秒間のビデオは、NTAソフトウェアによるさらなる解析のために全てのイベントを記録する。各粒子のブラウン運動をフレーム間で追跡して、ストークス-アインシュタイン方程式を用いてそのサイズを計算した。各サンプルを3回測定し、統計的解析のために平均値を使用した。
【0100】
図7dの左下のパネルは、精製血清sEVを、βMEとともに抗チューブリン抗体及びCD9抗体でブロットした結果を示す図である。
図7dの右パネルは、血清sEVにおける全タンパク質の相対強度を示す図である(n数=9ペア)。
図9cは、WTマウス(白四角;血清(n=11)、血漿(n=5))及びUBL3 KOマウス(グレー四角;血清(n=10)、血漿(n=5))からの血清及び血漿中の全タンパク質濃度を示す図である。図中、n.s.はWilcoxon signed-rank検定によるp>0.05を示す。
図7d及び図9cに示した結果から明らかなように、UBL3 KOマウスと、野生型マウスとで遺伝子型間に、血清及び血漿中の全タンパク質含量は有意差がないころが分かる一方、興味深いことに、UBL3 KOマウス由来の血清中のsEVタンパク質の全レベルは、野生型マウスよりも60%低いことがわかる(図7dの右パネル)。
【0101】
この結果は、UBL3が全エキソソームタンパク質の半数を超えるタンパク質のソーティングに関与している可能性があることを示唆している。
【0102】
図7eは、血清sEVにおける全RNAレベルを示す図である。図中、n数=5×2であり、n.s.はマンホイットニー検定によるp>0.05を示す。
図9dは、血清sEV中の全RNAに関するエレクトロフェログラムデータを示す図である。
図9eは、Bioanalyzer 2100を用いて、血漿sEV中の全RNA量を測定した結果を示す図である。図中、各菱形のスポットは、WTマウス(白四角、n=3)及びUBL3 KOマウス(グレー四角、n=4)から精製した血漿sEVにおける全RNA量を示す。図中、n.s.はマンホイットニー検定によるp>0.05を示す。
図7e、並びに図9d及びeに示した結果から明らかなように、RNAプロファイル及びRNAレベルに遺伝子型間に有意差がないことがわかる。
【0103】
図9fはWTマウス及びUBL3 KOマウスから精製した血清sEV中のmiRNAのリアルタイムqPCR分析結果を示す図である。n=5であり、n.s.はマンホイットニー検定によるp>0.05を示す。
図9fに示した結果から明らかなように、特異的sEV富化miRNAレベルは統計学的に有意差はないことがわかる。
上記結果は、UBL3 KOマウスが、血清中に減少した各タンパク質及び正常レベルのmiRNAとともにsEVを産生することを示す。言い換えると、血清sEV中のタンパク質のソーティングは、UBL3の関与を受ける。
【0104】
以上の結果から、UBL3修飾がMVB及びsEVへのUBL3のソーティングに不可欠であることがわかった。
【0105】
≪C末端システイン残基2つに依存してUBL3と相互作用するタンパク質の同定≫
UBL3修飾の生理学的機能をよりよく理解するために、C末端システイン残基2つに依存してUBL3と相互作用するタンパク質を同定するために包括的プロテオミクス解析を行った。
【0106】
(プロテオミクス解析)
MDA-MB-231細胞をリポフェクトアミン2000を用いてプラスミドでトランスフェクションした。24時間後、細胞を洗浄し、氷冷PBS中にこすり落とし、4℃で1分間400×gで遠心分離してペレット化し、1%トリトン緩衝液中4℃20分間溶解した。粗核及び未破砕細胞を、4℃で5分間20,000×g遠心分離によって除外した。プレクリーニングのために、上清を40μLプロテインG-セファロースビーズ(GEヘルスケア社製、溶解緩衝液中50%スラリー)で4℃1時間2回インキュベートした。次に上清を50μlの抗Flag M2親和性ゲル(Sigma社製、溶解バッファー中50%スラリー)と共に4℃で16時間インキュベートした。ビーズを1%トリトン緩衝液で洗浄し、洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl[pH7.5])で3回洗浄して界面活性剤を除去し、200μL消化緩衝液(2M尿素、50mM Tris-HCl[pH7.4]、1mM DTT、5mMヨードアセトアミド、1μgのトリプシン[Promega社製、V5280])に再懸濁し、1,200rpmで37℃16時間振とうしてインキュベートした。サンプルを22μLの10%トリフルオロ酢酸(TFA)で酸性化した。次いで、上清中に含まれるペプチドを、4,400×gで30秒間の遠心分離によって採取した。ペプチドをC18Tip(Thermo社製、StageTips)で脱塩し、スピードバックで乾燥させた後、質量分析バッファー(2%アセトニトリル、0.2%TFA)に再懸濁した。ペプチドを50cmの逆相カラム(内径75μm、ReproSil-Pur C18-AQ1.9μm樹脂[Dr.Maisch GmbH社製])上で緩衝液A(0.1%ギ酸(FA))及び緩衝液B(80%アセトニトリル+0.1%FA)のバイナリー緩衝液系で100分勾配(それぞれ5%~30%緩衝液Bを95分間及び30%~65%緩衝液Bを5分間)にてEASY-nLC 1000システム(Thermo社製)を用いて300nL/分の流量にて分離した。カラム温度を50℃に維持した。上記nLCシステムをQ Exactive HF質量分析計(Thermofisher Scientific社製)に接続し、3e6イオンのターゲットでフルスキャン(300-1,650m/z、最大注入時間20m秒、200m/zで解像度60,000)を取得した。最も強い15のイオンは、高エネルギー衝突解離(HCD)(ターゲット1e5イオン、最大注入時間25ミリ秒、分離ウィンドウ1.4m/z、NCE27%、アンダーフィル率0.1%)で単離され、フラグメント化され、オービトラップ(200m/zで解像度15,000)で検出した。
【0107】
未加工のMSファイルは、ラベルフリーの定量化のためにMaxLFQアルゴリズムを使用し、タンパク質及びペプチドレベルでFDR<0.01の統合アンドロメダ検索エンジンを使用して、MaxQuant環境(バージョン1.5.9.3)内で処理した(Cox,J.& Mann, M. MaxQuant enables high peptide identification rates, individualized p.p.b.-range mass accuracies and proteome-wide protein quantification. Nat Biotechnol 26,1367-1372(2008).、Cox,J. et al. Accurate proteome-wide label-free quantification by delayed normalization and maximal peptide ratio extraction, termed MaxLFQ. Mol Cell Proteomics 13,2513-2526(2014).)。
【0108】
検索には、酸化メチオニン(M)、アセチル化(タンパク質N末端)、及びカルバミドメチル(C)の固定修飾に対する可変修飾が含まれていた。プロテアーゼ消化には2までのミスクリーベージ(missed cleavage)が許容された。少なくとも7個のアミノ酸を有するペプチドを同定のために考慮し、0.7分の一致時間ウインドウで「ラン間の一致」を可能にし、各単一測定で同定されなかったMS1特徴の定量を可能にした。ペプチド及びタンパク質は、21,051項目を含むヒト(2015)のUniProt FASTAデータベースを用いて同定した。
【0109】
フリーソフトウェアPERSEUS(バージョン1.5.4.1)を用いてすべての統計分析及びバイオインフォマティクス分析を行った(http://www.perseus-framework.org)。部位改変によってのみ同定されたタンパク質又はデコイリバースデータベースにて見出したタンパク質、及び夾雑物は、データ解析前に除外した。定量化のためにMaxLFQ強度を取得し、log2スケールに変換した。各プルダウンの3つの生物学的反復をグループ化し、少なくとも1つのグループにおいて少なくとも3つの有効値が必要であった。欠損値は、正規分布(幅=0.3、ダウンシフト=1.8)に基づいて帰属された。MaxLFQ強度を最初にzスコアリングし、サンプルを、列及び行クラスタリングの距離尺度としてユークリッド距離に従って5つのクラスターにクラスター化した(距離閾値=2.8)。アノテーションは、遺伝子オントロジー(Gene Ontology;GO)から、Benjamini-Hochberg法のFDR閾値が0.02であるエンリッチメント解析のために加えられた。有意性は、順列に基づくFDR5%及びS0値1を含むANOVA分析を用いて評価した。有意性の方向は、5%FDRでの事後テストによっても評価した。グループのペアワイズ比較のために、順列に基づくFDR5%及びS0値1を含む2標本スチューデントのt検定(両側)を使用した。フィッシャーの正確検定は、閾値0.02の切り捨てのためにp値を用いて適用した。生データセットはjPOST(JPST000315)に寄託されている。
【0110】
(結果)
MDA-MB-231細胞中で発現する3×Flag-UBL3から調製した溶解物をFlag抗体-ビーズで精製し、ビーズ上で消化し、Q Exactive HF質量分析計上でナノフロー液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)勾配によって分析した。結果を図10a及びbに示す。
図10a及びbは、3つの生物学的複製を有する3つの条件(3×Flag-UBL3、又は3×Flag空ベクター、又は3×Flag-UBL3C113/114A)全てにおいて相互作用して有意に調節されたタンパク質のzスコアリングされたラベルフリー定量(LFQ)強度のヒートマップが、UBL3相互作用タンパク質(Cluster_1)を明らかにすることを示す図である。データセットは合計3,882個のタンパク質を含み、偽陽性率(FDR)が1%であった。ピアソン相関係数の平均は、3回のプルダウン内で0.988であった。
図10aに示したように、相互作用して有意に調節されたタンパク質のラベルフリー定量(LFQ)に基づく教師なし階層的クラスター分析(ANOVA、FDR=0.05及びS0=1)により、Flag-UBL3C113/114Aベクター又はFlag空ベクターと比較してFlag-UBL3ベクターでアップレギュレートされた1,447種のUBL3相互作用タンパク質候補が明らかにされた。
【0111】
次に、GOターム「細胞成分」(GOCC)によって定義されるように、UBL3相互作用タンパク質の細胞下局在に基づいてUBL3相互作用タンパク質をグループ分けした。
図10bに示したように、31%のタンパク質(1,447種のタンパク質のうち454種、p値0.00405)がGOCCターム「細胞外小胞エキソソーム」に分類されることを見出した。
【0112】
図10cは、Flag-UBL3C113/114A又はFlag空ベクターのいずれかと比較した、Flag-UBL3におけるlog2タンパク質存在量の差に対するp値を示す火山プロットを示す図である。有意性カットオフは、FDR=0.05及びS0=1に基づいた。
UBL3とUBL3C113/114Aとのペアワイズ比較により、1,241種のタンパク質がUBL3と有意に相互作用することが明らかにされ(2標本スチューデントのt検定、FDR=0.05及びS0=1)、UBL3修飾におけるシステイン残基の重要性が確認された。
これらのUBL3相互作用タンパク質のうち、29%(369種)が「細胞外小胞エキソソーム」としてアノテーションされた。さらに、統計的に有意なタンパク質についてのフィッシャーの正確検定は、「細胞外小胞エキソソーム」のアノテーションのエンリッチメントを示した(p値0.00828)。
【0113】
図11aは、プロテオミクス解析で3つの生物学的複製を有する3つの条件(3×Flag-UBL3、又は3×Flag空ベクター、又は3×Flag-UBL3C113/114A)における各種チューブリンタンパク質のプロファイルを示す図である。
図10c及び図11aに示した結果から明らかなように、これらのUBL3相互作用タンパク質のうち、3×Flag-UBL3サンプルにおいて、チューブリン(TUBA1A、1B、1C及び4A;及びTUBB、B2A、B3、B4A、B4B、B6及びB8)を見出した。
【0114】
≪UBL3修飾を介する内在性タンパク質(チューブリン)のsEVへのソーティング≫
チューブリンは、sEV及び他の細胞外小胞に存在することが報告されている(Kowal,J.et al. Proteomic comparison defines novel markers to characterize heterogeneous populations of extracellular vesicle subtypes. Proc Natl Acad Sci U S A 113,E968-977(2016).、Gonzales,P.A.et al. Large-scale proteomics and phosphoproteomics of urinary exosomes. J Am Soc Nephrol 20,363-379(2009).)。
【0115】
内在性チューブリンαは、一般的に使用される特異的抗体(DM1A)を用いてsEVにおいて検出することができることから、UBL3修飾を介する内在性タンパク質のsEVへのソーティングのモデルケースとしてチューブリンαを用いて調査した。
MDA-MB-231細胞を、GFPタグ付きUBL3又はGFPタグ付きUBL3C113/114Aでトランスフェクトした。細胞溶解物をGFP-トラップにより免疫沈降(IP)に供し、得られた免疫沈降物を抗α-チューブリン抗体又は抗GFP抗体を用いたウェスタンブロットに供した。2×試料緩衝液(βMEなし)をビーズに加え、ビーズを3分間煮沸した(βME-)。試料の一部を2-メルカプトエタノール(βME+)で処理した。結果を図11bに示す。
図11bは、GFPトラップ分析によるUBL3依存性翻訳後修飾を示す図である(1μg/レーン)。
図11bに示した結果から明らかなように、MDA-MB-231細胞に導入したEGFP-UBL3を抗GFP-ビーズから免疫精製したとき、チューブリンはUBL3によって修飾され、非還元条件下でのみシフトバンドとして観察された。
【0116】
次に、分画遠心分離によって調製した分泌小胞中のUBL3によるチューブリンのソーティングを試験した。
図11cは、モック(Mock)ベクター又は3×Flag-UBL3ベクターでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地からの細胞溶解物(CL)及びペレット(2K=2,000×g;10K=10,000×g;100K×100,000×g)を抗チューブリン抗体でブロットした結果を示す図である。
図11cに示した結果から明らかなように、興味深いことに、チューブリンシグナルは、100K画分ではUBL3発現によって特異的に増強されたが、2K画分又は10K画分では増強されなかった。非還元条件下では、100KのsEVペレット中のチューブリンの大部分は還元条件下よりも高い分子量を有することが分かった。
【0117】
次に、UBL3変異体を用いて、チューブリンのUBL3修飾とsEVへのソーティングとの関係を試験した。
図11dは、モックベクター、3×Flag-UBL3 UBL3C113/114Aベクター又はUBL3Δ1ベクターでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地からのsEVを抗チューブリン抗体でブロットした結果を示す図である。
図11dに示した結果から明らかなように、sEVにおけるチューブリンの増加は、野生型UBL3に特異的であり、UBL3C113/114A及びUBL3Δ1変異体はそのような効果を示さなかったことがわかる。
また、図7dに示したように、血清sEVにおけるチューブリンのタンパク質レベルがUBL3 KOマウスにおいて減少したことを観察している。
以上の結果から、UBL3が翻訳後の内在性チューブリンを修飾し、sEVへのソーティングを制御すると結論づけることができる。
【0118】
図12aは、プロテオミクス解析による3つの生物学的複製を有する3つの条件(3×Flag-UBL3、3×Flag空ベクター、又は3×Flag-UBL3C113/114A)でUBL3相互作用タンパク質として同定された疾患関連タンパク質のプロファイルを示す図である。
図10c及び図12aに示したように、少なくとも22種の疾患関連分子がUBL3相互作用タンパク質として含まれることも見出された。
興味深いことに、これらの分子のいくつかは腫瘍形成及び腫瘍進行/転移、すなわちHRAS、KRAS、TGFBR1、TGFBR2、RB1、ITGA6、ITGB4、mTOR、TSC2及びAPLP2に関連している。
さらに、免疫応答分子(IRF3及びIKBKG)、mTORシグナル伝達分子(mTOR、RPTOR及びTSC2)、Notchシグナル伝達分子(NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3)、BMPシグナル伝達分子(BMPR1A及びBMPR2)、並びに神経変性/ニューロン疾患に関与する分子(PSEN1、ATXN10、HIP1R、APLP2及びNPC1)が、UBL相互作用タンパク質として同定された。
これらの中でも、Rasファミリーメンバーは癌原遺伝子(Weinberg,R.A. The Biology of Cancer. Garland Science (2007).)であり、sEVにおいて豊富であると報告されている(Demory Beckler,M. et al. Proteomic analysis of exosomes from mutant KRAS colon cancer cells identifies intercellular transfer of mutant KRAS. Mol Cell Proteomics 12,343-355(2013).)。
【0119】
≪UBL3修飾を介するH-RasのsEVへのソーティング≫
そこで、モデルタンパク質としてH-Rasを用いて、UBL3修飾を介するsEVへのソーティングを調査した。
図12bは、MDA-MB-231細胞を外因性野生型Ras又は発癌性RasG12Vでトランスフェクトし、かつ3×Flagタグ付きUBL3又はUBL3C113/114Aのいずれかでトランスフェクトした結果を示す図である。図中、矢印はUBL3修飾Ras又はRasG12Vを示す。
細胞溶解物を抗Flag抗体により免疫沈降(IP)に供し、得られた免疫沈降物を抗Ras抗体を用いたウェスタンブロット分析に供した。2×試料緩衝液(βMEなし)をビーズに加え、ビーズを3分間煮沸した(βME-)。試料の一部を2-メルカプトエタノール(βME+)で処理した。
図12bに示した結果から明らかなように、外因性野生型Ras及び構成的に活性な発癌性RasG12V変異体(Weinberg,R.A. The Biology of Cancer. Garland Science(2007).)がUBL3と相互作用し、非還元条件下でのみシフトしたバンドとして観察された。
【0120】
図12cは、モックベクター又は野生型Rasベクターでトランスフェクトし、かつモックベクター又は3×Flag-UBL3ベクターのいずれかでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地からの細胞溶解物及びsEVを抗Ras抗体でブロットした結果を示す図である。
図12cに示した結果から明らかなように、外因性野生型Rasタンパク質は、UBL3により、より多くsEVへソーティングされたことが分かる。
【0121】
図10dは、sEVペレットを抗Ras抗体でブロットした結果を示す図である。
図10dに示した結果から明らかなように、UBL3C113/114Aではなく野生型UBL3が、sEVへのRasG12Vのソーティングを増強することがわかる。
【0122】
≪レシピエント細胞(sEVを受け取る側の細胞)におけるRasシグナル伝達の活性化試験≫
UBL3及び発癌性RasG12Vをカプセル化したsEVがレシピエント細胞におけるRasシグナル伝達の活性化を引き起こすか否かを調べるために、モック、3×Flag-UBL3又は3×Flag-UBL3C113/114Aのいずれかと、RasG12VでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞から精製したPKH67標識sEVとをレシピエントMDA-MB-231細胞に導入した。
レシピエント細胞におけるRas活性化の指標として、下流のシグナル伝達分子であるERKのリン酸化レベルを測定した(Weinberg,R.A. The Biology of Cancer. Garland Science(2007).)。
PKH67標識sEV取り込み細胞におけるリン酸化ERK(pERK)活性を抗体染色により試験した。
モック、3×Flag-UBL3又は3×Flag-UBL3C113/114AのいずれかとRasG12VとでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地から精製したsEV、又はモック及び3×Flag-UBL3でトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞の馴化培地から精製したsEVをPKH67色素(図10eにおける白色)で標識し、MDA-MB-231細胞に添加した。
【0123】
(PKH67標識sEVの移送)
MDA-MB-231細胞から精製したsEVをPKH67緑色蛍光キット(Sigma社製、PKH64GL-1KT)で標識した。sEVを2μMPKH67と共に5分間インキュベートし、100kDaフィルター(Sartorius社製、VN01H42)を用いて5回洗浄して過剰の色素を除去した。MDA-MB-231細胞を、24ウェルプレート中のポリ-L-リシン被覆カバーガラス上に120,000細胞/ウェルの密度で播種し、一晩付着させ、次いでPKH67標識sEVとインキュベートした。12時間後、MDA-MB-231細胞を4%PFA/PBSで15分間固定し、5%ヤギ血清及び0.3%TritonX-100/PBSで20分間浸透/ブロックし、抗pERK抗体と4℃18時間、二次抗体と1時間インキュベートし、Aqua-Poly/Mount(Polysciences社製)を用いてマウントした。データをフィジー(Image J)を用いて分析し、PKH67標識sEVが取り込まれた細胞におけるpERKシグナルの値は、核に隣接する細胞質の領域において2.5~5μmの領域にわたって測定された平均シグナル強度として提示され、次いで、各画像において、PKH67標識sEVが取り込まれていない2つの隣接する細胞のpERKの平均値に対して正規化した。
【0124】
(結果)
図10eは、PKH67標識sEV組み込みMDA-MB-231細胞におけるリン酸化ERK(pERK)を示す図である。
図10fは、各プロットは、図10e中の各画像からの2つの隣接するPKH67標識sEV非取り込み細胞におけるpERKの平均値に対して正規化したPKH67標識sEVs組み込み細胞におけるpERK蛍光を示す図である。n数は18~21であり、**は、Kruskal-Wallis/Dunnの多重比較検定によるp<0.01を示し、***はp<0.001を示す。
【0125】
図10e及びfに示した結果から明らかなように、野生型UBL3及びRasG12VでトランスフェクトしたMDA-MB-231細胞から精製したsEVが、UBL3C113/114A及びRasG12Vでトランスフェクトした細胞からのsEVと比較してレシピエント細胞におけるpERKのレベルを有意に増強することがわかる。
これらの結果から、UBL3修飾によるsEVへのRasG12Vのソーティングの増加は、レシピエント細胞におけるRasシグナル伝達の活性化を増強することがわかる。
【0126】
図10c~fの結果、すなわち、少なくとも22種の疾患関連分子を含む2つのC末端システイン残基に依存する1,241種のUBL3相互作用タンパク質を同定し、発癌性RasG12Vタンパク質はUBL3修飾により、より多くsEVにソーティングされ、ソーティングされたsEVによりレシピエント細胞の状態が変化した結果から、UBL3修飾の阻害は、sEV関連障害の新規治療標的になり得ることが示唆される。
【0127】
≪比較例≫
UBL3以外の他のUBLを用いて比較試験を行った。
図13aは、EGFP-ユビキチン、EGFP-SUMO1、EGFP-SUMO2又はEGFP-UBL3のいずれかでトランスフェクトし、MVBマーカー(CD63)で共染色されたMDA-MB-231細胞の代表的な画像を示す図である。
図13bは、図13aにおけるEGFP-ユビキチン、EGFP-SUMO1、EGFP-SUMO2及びEGFP-UBL3の蛍光強度の定量分析結果を示す図である(n=10×5)。図13b中、*はKruskal-Wallis/Dunnの多重比較検定によるp<0.05を示し、***はp<0.0001を示す。
図13cは、EGFP、EGFP-ユビキチン、EGFP-SUMO1又はEGFP-SUMO2ではなく、EGFP-UBL3だけが、細胞培養培地のsEVにおいて選択的にエンリッチされたことを示す図(サンプルをロードする前に、サンプルをβMEで煮沸した。)である。
図13a~cに示した結果から明らかなように、UBL3とは異なり、ユビキチン、SUMO1、及びSUMO2等の他のUBLは、MVB又はsEVのいずれにおいても豊富ではないことがわかる。
【0128】
≪UBL3のsEVへのタンパク質送達のためのタグとして機能試験≫
UBL3がsEVへのタンパク質送達のための有用なタグとして機能するか否かを試験した。結果を図14に示す。ロードする前に、試料をβMEで煮沸した。同量のタンパク質をゲル上にロードした(細胞溶解液:20μg/レーン;sEV:1μg/レーン)。
図中下パネルは、ウェスタンブロット分析後、ゲルをSYPRO Rubyで染色したことを示す。
図14に示した結果から明らかなように、EGFP-UBL3C113/114A又はUBL3C113/114Aによってタグ付けされたビオチン化タンパク質ではなく、UBL3によってタグ付けされたEGFP-UBL3タンパク質(左パネル)及びUBL3によってタグ付けされたビオチン化タンパク質(右パネル)は、細胞培養培地のsEVに選択的に蓄積したことが分かる。
上記結果から、UBL3がsEVへのタンパク質の送達のためのタグとして役立つことを確認された。
すなわち、無関係のタンパク質であっても、UBL3タグ付けによってsEVにソーティングされることが分かった。
したがって、他のどのようなタイプのsEV関連疾患に対しても、UBL3は、薬剤の新規な媒体として作用するように改変されたsEVの生成のための有用なツールとして役立ち得るといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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