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  • 特許-自動車用座席のリクライニング装置 図1
  • 特許-自動車用座席のリクライニング装置 図2
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  • 特許-自動車用座席のリクライニング装置 図4a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】自動車用座席のリクライニング装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/42 20060101AFI20230524BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019106925
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020199827
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】599116270
【氏名又は名称】有限会社アイゼム
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】伊原良碩
(72)【発明者】
【氏名】天野裕之
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-047712(JP,A)
【文献】実開昭62-087553(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42
B60N 2/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれ部の骨格となるバックフレームの傾動をギア構造部で防止できなくなった場合でも、乗員の生存空間を確保できるリクライニング装置であって、
座面部の骨格となるベースフレームの内側面上にストッパーを備え、そのストッパーにバックフレーム自体、またはバックフレームに固定されたプレートが当接するようにし、左右一対のベースフレームおよびバックフレームを貫通する回転軸をギア構造部が軸支しているリクライニング装置。
【請求項2】
座面部の骨格となるベースフレームと、背もたれ部の骨格となるバックフレームと、ベースフレームとバックフレームとの間に配置され、ベースフレームとバックフレームとのなす角度を調整し保持するギア構造部と、ギア構造部に軸支され、左右一対のベースフレームおよびバックフレームを貫通する回転軸とを備える自動車用座席において、
ベースフレームの内側面上には、ストッパーを備えており、当該ストッパーは、ストッパーがないと仮定した場合に、バックフレームの前後傾動によりバックフレーム自身またはバックフレームに固定されたプレートが描く軌跡面を貫いている、自動車用座席のリクライニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用座席のリクライニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用座席は、座面部と背もたれ部とで構成されており、各々の骨格フレームであるベースフレームとバックフレームとが、着座時の腰部下方で回転軸周りに回動可能に連結した構造を有している。通常、ベースフレームとバックフレームとの角度(リクライニング角)は、各々に回転軸から独立して固定された内歯とロックギアとの歯の噛み合い状態をロックスプリングの復元力で保持することよって所定角度を保っており、ロックスプリングの復元力に抗する力を加えることで噛み合いが解除され、リクライニングが可能な構造になっている(例えば、特許文献1、特許文献2)。この構造が発案されたことにより、フレームの連結部は小型化されることとなった。この構造は、今日に至るまでリクライニング装置の基本構成として踏襲され、膨大な改良提案がなされている。
【0003】
しかしながら、内歯とロックギアとを使用した構成にも、強い荷重を受けた場合の問題は残っている。すなわち、通常走行時、前方の信号が赤に変わると、ブレーキをかけるが、この際、バックフレームは慣性の法則によって前方に荷重を受ける。この荷重は、ある程度の減速率までは噛み合った歯車によって吸収できるようになっているが、不意に前方の車に追突した際などは、急激な減速によって人間のみならずバックフレームも前方方向に非常に大きな力を受け、歯車にも大きな負荷がかかることになる。
【0004】
このような大きな負荷に対応すべく、歯車の歯を大きくするため、歯車の大径化が考えられるが、シートの連結部が大きく不格好になるので、見た目上好ましくないという問題がある。
【0005】
車両衝突時などの非常時にあって、乗員の意図しないシートバックの傾動を防止できるリクライニング装置として、スプリングによってベースプレートの内方向に付勢された可動ガイドの外方端に外歯を設け、当該外歯が非常時にギアプレートの内歯に当接するようにした構成、ベースプレートと一体となって形成された固定ガイドの機械強度をギアプレートより低くすることで、非常時にギアプレートの内歯に接触した際に固定ガイドが塑性変形してギアプレートに固着する構成等が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-117711号公報
【文献】特開平2-228914号公報
【文献】国際公開第2007/094444号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3は、ギアプレートに対して、その径方向内側かつ同一面上に配置されたロックギア以外の機構部品を緊急的に作用させることによって課題を解決しようとする提案であるが、車両衝突時などの非常時にあって、自動車用座席のバックフレームが受ける荷重を確実に吸収し、安全性を満たすために、ギアの外部に機構を設けることは検討されていない。
【0008】
以上のような現状に鑑み、本発明は、急激な減速・加速によってバックフレームが前後方向に非常に大きな慣性力を受けた場合でも、荷重を受け止めることができる自動車用座席のリクライニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、座面部の骨格となるベースフレーム上にストッパーを備え、そのストッパーに背もたれ部の骨格となるバックフレーム自体、またはバックフレームに固定されたプレートが当接することにより、車両衝突時などの非常時にあって、ギア構造部に過負荷が掛かり、ギア構造部でシートバックの傾動を防止できなくなった場合でも、乗員の生存空間を確保できるリクライニング装置である。本構成によれば、ギア構造部内の構造が破綻したときにはじめてストッパーによって受け止められる2段構成になることから、バックフレームが受ける荷重を最も確実に吸収できる機構が得られる。
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、座面部の骨格となるベースフレームと、背もたれ部の骨格となるバックフレームと、ベースフレームとバックフレームとの間に配置され、ベースフレームとバックフレームとのなす角度を調整し保持するギア構造部と、ギア構造部に軸支され、ベースフレームおよびバックフレームを貫通する回転軸とを備える自動車用座席において、ベースフレーム上には、ストッパーを備えており、当該ストッパーは、ストッパーがないと仮定した場合に、バックフレームの前後傾動によりバックフレーム自身またはバックフレームに固定されたプレートが描く軌跡面を貫いている、自動車用座席のリクライニング装置である。本構成によれば、ギア構造部内の構造が破綻したときにはじめてストッパーによって受け止められる2段構成になることから、バックフレームが受ける荷重を最も確実に吸収できる機構が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベースフレーム上で、回転軸方向に突出するように設けられたストッパーピンと、バックフレームの回転に連動することにより所定の角度で上記ストッパーピンと当接するプレートとをギアの外部に補助的に設けることによって、バックフレームが受ける荷重を確実に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係るリクライニング装置を備えた自動車用座席の骨格の側面図である。
図2図1の自動車用座席において、リクライニング装置近傍を矢視A方向から見た図。
図3】バックフレームとベースフレームとの当接部分近辺をバックフレームの内側面側から見た写真。
図4a】ギア構造部のロック状態における各部材の関係性を示した図である。
図4b】ギア構造部のカムを回転させてロックギアとインナーギア間に隙間を作ったリリース状態1における各部材の関係性を示した図である。
図4c】リリース状態1でインナーギアを回転させて歯型でロックギアを押し下げたリリース状態2における各部材の関係性を示した図である。
図5】第2の実施形態に使用する自動車用座席の回転軸に沿った構造配置を拡大した平面写真である。
図6】第2の実施形態に係るリクライニング装置を備えた自動車用座席の側面図である。
図7図5の自動車用座席において、リクライニング装置近傍を矢視B方向から見た図。
図8】プレートとベースフレームとの当接部分近辺をバックフレームの内側面側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について以下に図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1および図2に示す本発明に係る典型的な自動車用座席1は、座面部の骨格となるベースフレーム3と、背もたれ部の骨格となるバックフレーム5、ベースフレーム3とバックフレーム5との間に配置され、ベースフレーム3とバックフレーム5とのなす角度(リクライニング角)を調節し保持するギア構造部7、ギア構造部7に軸支されるとともにベースフレーム3およびバックフレーム5を貫通する回転軸9、および、回転軸9に固定された操作レバー11を基本的な構造とする。
【0014】
図3に示すバックフレーム5は、リクライニング角が90°の状態で内側面17の下端形状を見たとき、座席の前後方向で後方半分以上が切り欠かれており、これがピン当接部16を構成する。バックフレーム5は、3箇所の溶接部18でギア構造部7に溶接固定されており、回転軸9を挿入する部分には、ギア構造部7の中心に設けられた正方形の孔12より大きな円形孔14が開けられている。
ベースフレーム3は、その内側面19上で、回転軸9が貫通する正方形の孔12の直下よりやや座席後方の位置からストッパーピン21が垂直に突出しており、その突出位置は、バックフレーム5の前後傾動によりバックフレーム5のピン当接部16が描く軌跡上にある。図示していないが、ベースフレーム3もまた、バックフレーム5とは反対側でギア構造部7に溶接固定されており、回転軸9を挿入する部分には、ギア構造部7の中心に設けられた正方形の孔12より大きな円形孔が開けられている。
【0015】
図4(a)に示すギア構造部7は、バックフレーム5に固定する部材と、ベースフレーム3に固定または保持する部材とをカシメリング23によって組み付けた構成からなる。
【0016】
本実施形態におけるバックフレーム5には、インナーギア25が固定される。インナーギア25は、円形のプレートであり、径方向内側に面する周壁には、歯型(内歯)が形成されている。
【0017】
本実施形態におけるベースフレーム3には、図示しない基部プレートが固定されている。基部プレートには、内歯と噛み合うように歯型(外歯)を向けたロックギア35が、インナーギア25に対して同一面上かつ径方向内側に位置づけられ、カム36の回転・逆回転に応じて径方向に移動しインナーギア25からの離脱(図4(b)および図4(c))と噛合(図4(a))を繰り返すように収容されている。
【0018】
本実施形態における自動車座席1には、平常運転時においても、加速時または減速時に、大なり小なりギア構造部7に負荷荷重が働いている。すなわち、バックフレーム5とインナーギア25とが直接固定されているので、バックフレーム5の質量および加速度または減速度にほぼ比例した慣性力がインナーギア25に直接的に働いていることになる。ある程度の慣性力までは、インナーギア25と噛み合ったロックギア35の歯型部分の剛性(機械的強度)によって吸収され、インナーギア25を制動することが可能である。ところが、前方車両への追突時等の緊急時においては、減速度が平時に比して飛躍的に大きく、ロックギア35の歯型を塑性変形させるほどの強い力が加わることがある。このような場合において、インナーギア25はロックギア35による制動を押し切って回転するが、仮に回転してしまったとしても、インナーギア25に固定されたバックフレーム5の最下端にあるピン当接部16が描く軌跡上にあるストッパーピン21が最後の砦として衝撃を受け止め、やや前方傾斜した(リクライニング角が90°よりやや小さい)あたりで、それ以上の座席の前方傾動を抑止することができ、乗員の生存空間を確保できる。
【0019】
(第2の実施形態)
図5に示す第2の実施形態に係る自動車用座席51の第1の実施形態との相違点は、ベースフレーム3の外側面側62において、回転軸9にぜんまい63の一端を固定し、他端をバックフレーム5に固定したことで、ぜんまい63の形状復元作用により、内歯とロックギアとの歯の噛み合い状態が解除されたにバックフレーム5が前方に回動するように付勢した点、図6図7および図8に示すように、ピン当接部66を有するプレート65をバックフレーム5とは別材として用意し、バックフレーム5の外側に配置されるようにバックフレーム5にねじ67で固定した点にある。なお、ここでのストッパーピン21の形成位置は、ストッパーピン21がないと仮定した場合に、バックフレーム5の前後傾動によりプレート65のピン当接部66が描く軌跡上である。
本構成によれば、ぜんまい63付きの場合、プレート65がないと、組み付け時にバックフレーム5を前方に大きく倒すことが出来ず、ぜんまい63を自由位置で組み入れることが出来ず、予めぜんまい63を縮める必要があり、非常に困難があるが、プレート65が別体であれば前方に倒すことが出来、ぜんまい63の取り付けに支障がないという利点がある。
【0020】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。例えば、上記実施形態では、ギア構造部におけるギア同士の噛合を内歯と外歯の噛合としたが、外歯と外歯の噛合であってもよい。ベースフレームをバックフレームの外側に配置したが、逆にすることも可能である。バックフレームに基部プレートを固定し、ベースフレームにインナーギアを固定してもよい。ストッパーは、ベースフレームの外側面側で突出していてもよい。操作レバーの位置も任意である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、量産車、キャンピングカー等の自動車用座席が急激な加減速により強い荷重を受けた場合の衝撃吸収機構として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0022】
1、51 自動車用座席
3 ベースフレーム
5 バックフレーム
7 ギア構造部
9 回転軸
11、61 操作レバー
12 正方形の孔
14 円形孔
16、66 ピン当接部
17 バックフレーム内側面
18 溶接部
19 ベースフレーム内側面
21 ストッパーピン
23 カシメリング
25 インナーギア
35 ロックギア
36 カム
62 外側面側
63 ぜんまい
65 プレート
67 ねじ

図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8