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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】ボールペンレフィル及びボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/08 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
B43K7/08 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019061047
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157660
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】林 龍之介
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特許第4363641(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 5/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記ボール、及び、該筆記ボールの一部が先端より突出した状態で該筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、
前記筆記ボールへ送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、
前記インク収容管から前記筆記ボールへ延びるインク流路に設けられ、先端に向かうに従い、前記ボールペンチップの軸方向と直交する方向の開口断面積が漸次増加する弁座部と、
前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を前記軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンレフィルであって、
前記弁体が、前記移動可能な範囲内での最も後端側に位置する状態において、前記弁体の外面が、前記弁座部の内面との間に1つ以上の隙間を有し、前記隙間の面積を最小とする平面上での該最小面積sminを、前記隙間ごとに求め、
前記ボールペンレフィル全体での前記最小面積sminの合計を弁座弁体最小隙間合計面積S1とし、
前記チップ本体の最先端での、前記筆記ボールと前記チップ本体との間の先端隙間の、前記軸方向と直交する平面上の面積を先端隙間面積S2としたときに、
前記弁座弁体最小隙間合計面積S1と前記先端隙間面積S2とが、0.70≦S1/S2の関係を満たし、
前記隙間が、前記弁体の外面と前記弁座部の内面との非連続な複数の接触部で接触し形成され、
前記弁座部は、多角錐形状に形成され、
前記最小面積s min は、隣り合う2つの前記接触部を通る平面のうちの、前記弁体と前記弁座部との隙間の面積を最小とする平面上での面積として求められる、
ボールペンレフィル。
【請求項2】
前記弁座弁体最小隙間合計面積S1がS1≦0.05mmである、
請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記インクの、20℃、5sec-1での粘度μが、465≦μ≦4140mPa・sである、
請求項1または2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のボールペンレフィルを備えるボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの逆流を防止する逆流防止機能を有するボールペンレフィル及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクの逆流防止機構を備えたボールペンレフィル及びボールペンが提供されている(特許文献1、2参照)。
インクの逆流とは、ペン先を上向きに放置、あるいは上向き状態で筆記をすると筆記先端から空気が流入し、この流入した空気がインク収容管に流入し、インクがインク収容管後端から漏れ出す現象である。逆流防止機構とは、ボールペンチップとインク収容管とを接続する継手において、継手内部に円錐形状の弁座部を設け、ボールペンチップと継手内の弁座部との間に球状の弁体を遊嵌することで、ペン先を上向きにした際はボールが弁座部に嵌ってふたの役割をし、空気流入によるインクの逆流を防止する機構である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平4-52067
【文献】特許第4363641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によると、ペン先を上向きにした状態では、継手内部に設けた弁座部に弁体が嵌ることで弁が閉じた状態となる。しかし、この状態で温度上昇等によりチップや継手の内圧が上昇すると、膨張したインクがボールペンチップの先端部から噴き出す場合がある。
また、特許文献2によると、弁体と接触する弁座部に一様な凹凸を設けることで、ペン先を上向きに放置した際に弁座に弁体が張り付くことが防止されるとある。しかし、これだけでは効果的にインクの噴き出しを抑えることができない。
特に、インクが油性インクの場合、温度上昇等によるインクの膨張が大きく、このようなインクの噴き出しが問題となりやすい。粘度の低い油性インクを用いたボールペンでは、チップ内部にスプリングが挿入されることがあるが、スプリングがボールペンチップの先端にある筆記ボールを後ろから押しているため、ボールペンチップの先端側は筆記ボールで塞がれた状態となる。これにより、インクの噴き出しは軽減されるものの、完全に防止することはできていなかった。
【0005】
従って、本発明は、ペン先を上向きにした際のボールペンチップの先端からのインクの噴き出しをより効果的に防止可能なボールペンレフィル及びボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のものを提供する。
筆記ボール、及び、該筆記ボールの一部が先端より突出した状態で該筆記ボールを回転自在に保持するチップ本体を有するボールペンチップと、前記筆記ボールへ送られるインクを収容するとともに、前記ボールペンチップよりも後端側に設けられたインク収容管と、前記インク収容管から前記筆記ボールへ延びるインク流路に設けられ、先端に向かうに従い、前記ボールペンチップの軸方向と直交する方向の開口断面積が漸次増加する弁座部と、前記弁座部の後端の開口を挿通不能な径を有し、前記弁座部における前記開口よりも先端側の所定範囲を前記軸方向に移動可能な弁体と、を備えるボールペンレフィルであって、前記弁体が、前記移動可能な範囲内での最も後端側に位置する状態において、前記弁体の外面が、前記弁座部の内面との間に1つ以上の隙間を有し、前記隙間の面積を最小とする平面上での該最小面積sminを、前記隙間ごとに求め、前記ボールペンレフィル全体での前記最小面積sminの合計を弁座弁体最小隙間合計面積S1とし、前記チップ本体の最先端での、前記筆記ボールと前記チップ本体との間の先端隙間の、前記軸方向と直交する平面上の面積を先端隙間面積S2としたときに、前記弁座弁体最小隙間合計面積S1と前記先端隙間面積S2とが、0.70≦S1/S2の関係を満たす、ボールペンレフィル。
【0007】
前記隙間が、前記弁体の外面と前記弁座部の内面との非連続な複数の接触部で接触し形成されることが好ましい。
【0008】
前記弁座部は、多角錐形状に形成され、前記最小面積sminは、隣り合う2つの前記接触部を通る平面のうちの、前記弁体と前記弁座部との隙間の面積を最小とする平面上での面積として求められることが好ましい。
【0009】
前記弁座弁体最小隙間合計面積S1がS1≦0.05mmであることが好ましい。
【0010】
前記インクの、20℃、5sec-1での粘度μが、465≦μ≦4140mPa・sであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記記載のボールペンレフィルを備えるボールペンを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ペン先を上向きにした際のボールペンチップの先端からのインクの噴き出しをより効果的に防止可能なボールペンレフィル及びボールペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ボールペンレフィル100の先端のボールペンチップ1部分のペン先を上向き状態とした断面図である。
図2】ボールペンチップ1の先端部分の拡大断面図である。
図3図2に示すX-X線に沿った、筆記ボール11とかしめ部16の先端位置での径方向の断面図である。
図4】弁体6が最も後端側に位置する状態の継手4を軸方向先端側から見た図である。
図5】(a)は図4のB-B線に沿った継手4の断面図で、(b)は(a)の部分拡大図である。
図6】(a)は図4のA-A線に沿った継手4の断面図で、(b)は(a)の部分拡大図である。
図7図5(a)のC-C線に沿った方向における継手4の断面図である。
図8】弁座部52の後端形状の好ましい一例を説明する図である
図9】第1実施例から第41実施例及び第1比較例から第5比較例の各値を示した表である。
図10図9をS1/S2の大きさで並べ替えた表である。
図11図9を弁座弁体最小隙間合計面積S1の大きさで並べ替えた表である。
図12】第3実施例から第41実施例内を、粘度μの順で並べ替えたものである。
図13】ボール径、先端隙間面積S2、インクの色が共通の実施例を弁座部52の形状ごとに並べ替えたものである。
図14】変形形態のボールペンレフィル100Aを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1はボールペンレフィル100の先端のボールペンチップ1部分のペン先を上向きにした状態の断面図である。図2はボールペンチップ1の先端部分の拡大断面図である。
ボールペンレフィル100は、筆記ボール11、及び、筆記ボール11をその一部が先端より突出した状態で回転自在に保持するチップ本体12を有するボールペンチップ1と、筆記ボール11へ送られるインクを収容するとともに、ボールペンチップ1よりも後端側に設けられたインク収容管3と、インク収容管3とボールペンチップ1を連結する継手4と、を備える。
以下、ボールペンレフィル100の軸L方向(長手方向)における、筆記ボール11が配置されている側を先端側、逆側を後端側として説明する。
【0015】
(ボールペンチップ1)
ボールペンチップ1のチップ本体12は、例えば、ステンレス製のブランク材で製造されている。筆記ボール11は、例えば、タングステンカーバイド製である。ただし、チップ本体12の材料や筆記ボール11の材料はこれらに限定されるものではない。
【0016】
(チップ本体12)
チップ本体12は、円筒形の中央部12aと、中央部12aの先端側に設けられ且つ中央部12aよりも外径が小さい円筒形の前端部12bと、前端部12bよりも先端側に設けられ、前端部12bから先端に向うに従い外径が縮小する先端部12cと、中央部12aよりも後側に設けられ、中央部12aよりも外径が小さい円筒形の接続部12dとを備える。
【0017】
チップ本体12の内部には、筆記ボール11を抱持するためのボール抱持室13と、チップ本体12の後端側より先端側に向かって延びるバック孔14と、ボール抱持室13の後端部の中央から、ボール抱持室13とバック孔14とを連通するように後方に延びるインク誘導孔15と、が設けられている。バック孔14は、先端側に向って段階的に径が小さくなっており、後端は弁体6がバック孔14側に移動しないように変形されている。
【0018】
(ボール抱持室)
ボール抱持室13の先端には内側にかしめられたかしめ部16が形成されている。筆記ボール11は、先端がボール抱持室13の先端縁より突出した状態で、ボール抱持室13内に回転自在に抱持されている。
【0019】
(先端隙間面積S2)
図3図2に示すX-X線に沿った、かしめ部16の先端位置での軸L方向と直交する方向(径方向)の断面図である。図示するように、筆記ボール11とかしめ部16との間には、先端隙間Bが空いている。この先端隙間Bの面積を先端隙間面積S2とする。
【0020】
後述するように、実施形態において先端隙間面積S2を種々変更した実施例について検討するが、先端隙間面積S2は以下のように求めた。
まず、図3に示すように、かしめ部16の内縁によって形成される円(外側円)の直径R、ボールペンチップ1の先端部を上に向けた状態でのかしめ部16の先端位置における筆記ボール11の断面によって形成される円(内側円)の直径RBとし、それぞれを以下のように測定した。
【0021】
(外側円の径R)
測定機器としてデジタルマイクロスコープ(VHX(登録商標)-1000、キーエンス社製)、ワイドレンジズームレンズ(VH-Z100R、キーエンス社製)、XY測定システム(VH-M100、キーエンス社製)を用いて、ボールペンチップ1の先端を正面から1000倍で観察し、かしめ部16内縁の円周上の4点を指定して外側円の直径Rを測定した。
【0022】
(内側円の直径RB)
真空発生器を用いてボールペンチップ1の後端を吸引して、筆記ボール11がボール抱持室13の後端側のボール当接面に接地した状態にした後、測定機器として、画像測定器(IM-6140、キーエンス社製)を用い、オートフォーカスで焦点を合わせ、高精度測定モードにてボールペンチップ1の側面を撮影して内側円の直径RBを10回測定し、その平均値を1回の測定値とした。一つのボールペンチップ1に対して45度ずつ3回回転させて測定し、計4回の測定値の平均を取った。
【0023】
測定した外側円の直径Rから外側円の面積を求め、内側円の直径RBから内側円の面積を求め、外側円の面積から内側円の面積を引いて、先端隙間Bの先端隙間面積S2を算出した。先端隙間面積S2の算出はn=3本行い、平均の値を最終的な先端隙間面積S2とした。
【0024】
(インク収容管3)
図1に戻り、インク収容管3は、粘度μの、例えば油性インクを収容する筒部材であり、例えば、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、などの樹脂材料からなるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
(継手4)
継手4は、例えば、PP(ポリプロピレン)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料からなるが、これらに限定されるものではない。継手4は、先端側から、互いに径が異なる、前部41と、フランジ部42と、後部43とを備える。後部43は前部41より小径で、フランジ部42は前部41及び後部43より大径である。
継手4の内部には、前後に貫通する貫通孔5が設けられている。貫通孔5は、先端側から順に、チップ固定孔51と、弁座部52と、小径孔53と、大径孔54とを有し、これらは互いに連通している。
ボールペンチップ1の接続部12dは、継手4のチップ固定孔51に圧入されて固定されている。そして、インク収容管3からバック孔14を経て筆記ボール11へとインクが流動するインク流路が形成されている。
【0026】
弁座部52は、先端に向かうに従い、径方向(ボールペンチップの軸方向と直交する方向)の開口断面積が漸次増加する形状を有する。弁座部52には球状の弁体6が配置され、インクの逆流を防止する逆流防止機構10を構成している。
実施形態で弁座部52の断面形状は多角形であり、すなわち、弁座部52は、多角錐の上端(実施形態では後側となる)が切り取られた多角錐台形状である。なお、図示する形状は、後述の第7実施例で、弁座部52は八角錐台形状である。また、小径孔53の断面形状は、円形形状である。
【0027】
(弁体6)
弁体6は球状で、例えば超硬合金やステンレスなどの金属材料、セラミック等の焼結材料、また樹脂材料等により製造されるが、これらに限定されるものではない。弁体6の直径は小径孔53の内径よりも大きいので、弁座部52の後端の開口(小径孔53の入口)から後端側への挿通は不能である。
小径孔53の内径の形成の容易性の観点から、弁体6の直径は、0.7mm以上であることが好ましい。
また、バック孔14の後端は変形されており、バック孔14内に弁体6は流入しないが、弁体6はバック孔14の変形された後端側を完全にふさぐことはなく、インク流路が完全にふさがれることはない。
【0028】
ここで、ボールペンレフィル100が上向きになると、弁体6は自重により弁座部52内において移動可能な範囲内での最も後端側に位置する。実施形態では弁座部52は多角錐台形状で、弁体6の断面は円形である。したがって、弁体6の外面は、弁座部52の全ての内面(図示する形状においては8つの内面)と点接触し、このとき、弁座部52と弁体6との隙間は最も小さくなり、弁座部52におけるインク流路(の断面)の大部分が弁体6によって塞がれる。これにより、インクの逆流が防止される。
なお、逆流とは、ボールペンレフィル100を上向きで放置したときに、先端から空気が流入し、この流入した空気がインク収容管3に流入し、インクがインク収容管3後端から漏れ出す現象である。
【0029】
一方、ボールペン(すなわちボールペンレフィル100)の先端が重力方向の下向きになるように保持すると、弁体6は自重でボールペンチップ1方向へ落下する。これにより、弁座部52から弁体6が離れて、弁座部52におけるインク流路が開放される。
【0030】
(弁座弁体最小隙間合計面積S1)
図4は、弁体6が最も後端側に位置する状態の継手4を軸方向先端側から見た図である。
図5(a)は図4のB-B線に沿った継手4の断面図で、多角錐台の弁座部52における少なくとも一つの側稜52a(図は八角錐であるので2つの側稜)を通る断面図で、(b)は(a)の部分拡大図である。図示するように、弁体6が最も後端側に位置する場合であっても、弁座部52の側稜52aは弁体6と接していない。
図6(a)は図4のA-A線に沿った継手4の断面図で、多角錐台の弁座部52における少なくとも一つの側面52b(図は八角錐であるので2つの側面)の中心線を通る断面で、(b)は(a)の部分拡大図である。図示するように、弁体6が最も後端側に位置する場合,弁座部52の側面52bは、弁体6と位置Pで点接触している。
【0031】
図7は、図5(a)のC-C線に沿った方向における継手4の断面図である。弁座部52の多角錐台の側稜52aのうちの一つの側稜52a1上で、その側稜52a1と弁体6とが最も近づく点Q1と、弁体6の中心Oを通り且つ側稜52a1と直交する平面h1での断面図である。平面h1は、弁座部52の多角錐台の側面のうちの2つの側面52b1及び52b2と弁体6との接点P1,P2を通る。
【0032】
換言すると、弁体6の外面は弁座部52の内面と非連続な複数の接触部(接点P1,P2,・・・)で接触し、互いに隣接する2つの接触部(接点P1,P2)を通る平面のうちの、弁体6と弁座部52との隙間xの面積sが最小となる平面が平面h1である。
【0033】
図7に示すように、平面h1における点Q1、接点P1、P2を通る、弁座部52と弁体6とで囲まれた隙間xは弁座弁体最小隙間xminであり、そのときの弁座弁体最小隙間面積(最小面積)をsminとする。
【0034】
このとき、図7で示す、四角形O,P1,Q1,P2の面積s11は、線分OQ1の長さをa、弁体6の半径をr、線分P1P2の長さをc、角P1OP2の大きさをb度とすると、a×(c/2)×(1/2)×2で、扇形面積O,P1,P2の面積s12は、r×π×(b/360)となる。
一つの弁座弁体最小隙間面積(最小面積)sminの面積を、smin=面積s11-面積s12より求め、弁座弁体最小隙間合計面積S1=Σsminを求める。
すなわち、弁体6と弁座部52との隙間の面積を最小とする平面上での最小面積sminを、隙間ごとに求め、ボールペンレフィル全体での最小面積sminの合計を弁座弁体最小隙間合計面積S1としている。
【0035】
図8は、弁座部52の後端形状の好ましい一例を説明する図である。
実施形態では、図8のように弁座部52の後端に、多角錐台形状の後端側に連なる多角柱形状部52cを設け、その多角柱形状部52cと断面円形形状の小径孔53とを連結する連結部52dを設けた構造となっている。
このような構造とすることにより、弁体6が、弁座部52の多角錐台形状の後端付近に位置する場合、確実に弁座部52の断面が多角形形状となる位置で接するようになるため、弁座弁体最小隙間面積(最小面積)sminを把握しやすく、また、面積の調整をしやすい。
【0036】
(実施形態の数値範囲)
本実施形態において、この弁座弁体最小隙間合計面積S1と、上述した先端隙間面積S2との比であるS1/S2は、0.70≦S1/S2である。
【0037】
(好ましい範囲)
弁座弁体最小隙間合計面積S1は、S1≦0.05mmであることが好ましい。
また、油性インクを搭載したボールペンレフィル及びボールペンの場合、インクの、20℃、5sec-1での粘度μは、465≦μ≦4140mPa・sであることが好ましい。
さらに、弁座部52の形状は六角錐または八角錐とすることが好ましい。
【0038】
(効果の検証)
次に、この数値範囲にある実施形態の効果について説明する。
実施形態のボールペンレフィル100として0.70≦S1/S2を満たす第1実施例から第41実施例を用意した。また比較形態として、S1/S2<0.70の第1比較例から第5比較例を用意した。なお、これらの実施例及び比較例は、全て、弁座部52と弁体6とからなる逆流防止機構10を備えており、ボールペンチップ1の内部には、筆記ボール11を後ろから押すためのスプリングは挿入されていない。また、これらの実施例及び比較例のインクは全て、油性インクを使用している。
このボールペンレフィル100を用い、以下に記載する再筆記回数及びインクの噴き出しの試験を実施した。
【0039】
図9は、第1実施例から第41実施例及び第1比較例から第5比較例における以下の値を示した表である。
・ボール径:筆記ボールの径(mm)
・S2:先端隙間面積(mm
・色:インクの色
・μ:20℃、5sec-1におけるインク粘度(mPa・s)
・弁座部形状:弁座部52の形状
・弁体径(mm)
・S1:弁座弁体最小隙間合計面積(mm
・S1/S2
・再筆記回数:ボールペンレフィル100をボールペン(図示なし)に装着し、筆記ボール11が上になるようにボールペンを保持した状態でインクが出なくなるまで筆記し、そのまま筆記ボール11が上になるようにボールペンを上に向けた状態で30分間放置した後、筆記ボール11が下になるようにして直径3cmの丸を書き、再筆記可能となるまで(インクが出てくるまで)丸を書いた回数(回)
・インクの噴き出し発生率:23℃、湿度60%の環境下で筆記ボール11が上になるようにボールペンレフィルを保持し、弁体が最も後端側に位置する状態とした後、40℃、湿度60%の環境下に変化させ所定時間放置したときにボールペンチップ1の先端からインクの噴き出しが生じた割合(%)をn=5本で測定
(なお、インクの噴き出し発生率は、放置時間を10分、1時間、1日、1週間として測定したが、放置時間による差はなかったので、一つの結果として示す)
・評価:
インクの噴き出しの発生率が50%以上のものをバツ(×)、
インクの噴き出し発生率が50%より小さく、再筆記回数が95以上と著しく多かったものを黒三角(▲)、
インクの噴き出し発生率が50%より小さく、再筆記回数が20から94のものを白三角(△)、
インクの噴き出しが発生しなくても再筆記回数が13から19のもの、及び、インクの噴き出しが発生したが再筆記回数が19以下のものを一重丸(○)、
インクの噴き出しが発生せず再筆記回数が12以下の最も好適な範囲を二重丸(◎)とした。
【0040】
(1)第1比較例、第2比較例、第3比較例は、弁座部52が円錐形状である。(1)以外の第1実施例から第41実施例と、第4比較例と第5比較例は弁座部52が多角錐形状である。
【0041】
(2)第1実施例から第13実施例と第4比較例と第5比較例は、先端チップのボール径、S2、インクの色、インク粘度を一定として、弁座部52形状、弁体径を種々変更してS1及びS1/S2を変更させた。
(3)第14実施例から第21実施例は、(2)に対してボール径を変更してインクの噴き出しを測定した。なお、粘度についても2種類とした。
(4)第22実施例から第27実施例は、粘度の低い赤色インクを用いた。
(5)第28実施例から第41実施例は、互いに粘度が異なる黒色インクを用いた。
【0042】
(効果の検証結果)
上述のように第1実施例から第41実施例及び第1比較例から第5比較例は、全て、弁座部52と弁体6とからなる逆流防止機構10を備えており、いずれにおいても、ペン先を上向きに放置、あるいは上向き状態で筆記をすると筆記先端から空気が流入し、この流入した空気がインク収容管3に流入し、インクがインク収容管後端から漏れ出す逆流の現象は生じなかった。
【0043】
図10:S1/S2)
図10図9をS1/S2の大きさで並べ替えた表である。図示するように、第1比較例から第5比較例は、S1/S2≦0.50で、この場合、インクの噴き出し発生率が60%以上であるので好ましくない。しかし、0.70≦S1/S2である第1実施例から第41実施例は、インクの噴き出し発生率が20%以下となり、すなわち、第1実施例から第41実施例は、第1比較例から第5比較例と比べてインクの噴き出し発生率を低減することができた。
この理由は、ボールペンチップ1の先端を上向きに向けて放置し、気温変化等によってボールペンチップ1と継手4の間で形成される空間の内圧が上昇しても、0.70≦S1/S2の場合、つまり、弁座弁体最小隙間合計面積S1が、先端隙間面積S2に対して所定の値以上の大きさの関係となることで、ボールペンチップ1の先端からのインクの噴き出しを防止可能な程度の圧力(インク)が弁座弁体最小隙間xminからインク収容管3側(レフィル後端側)へ逃げるためであると考えられる。
このように、本実施形態によると、ボールペンチップ1の先端からのインクの噴き出しの発生を所定の割合以下に防止することができる。
【0044】
図11:S1)
図11図9をS1の大きさで並べ替えた表である。図示するように、S1が0.057mm≦S1の場合、再筆記回数が98回以上となるが、S1≦0.049mmの場合、再筆記回数を42回以下にすることができた。
これは、ボールペンチップ1の先端を上向きに向けて放置したときに、S1が大きいと、インク収容管3後端から逆流するほどではないが、ボールペンチップ1からインク収容管3側へ若干流出してしまい、ボールペンチップ1の先端のインクが減少するため、再筆記回数が増加すると考えられる。
一方、S1が所定値以下であると、ボールペンチップ1からインク収容管3側へのインクの流出を好適に抑制できるため、ボールペンチップ1の先端にインクが残存し再筆記回数が増加しないものと考えられる。
【0045】
また、第1比較例から第5比較例は、S1≦0.008mmで、この場合、インクの噴き出し発生率が60%以上となるので好ましくない。しかし、0.011mm≦S1である第1実施例から第41実施例は、インクの噴き出し発生率が20%以下となり、第1実施例から第41実施例は、第1比較例から第5比較例と比べてインクの噴き出し発生を低減することができた。
さらに、0.019mm≦S1の場合、ボールペンチップ1のインクの噴き出し発生率を0%にすることができた。
【0046】
図12:μ)
図12は、S1が0.049mm≧S1である第3実施例から第41実施例内において、さらに粘度μの順で並べ替えたものである。20℃、5sec-1での粘度μが、465≦μ≦4140mPa・sである好ましい範囲において、再筆記回数を13回以下にすることができた。
上向き筆記をするとチップ先端から空気が流入し、チップ先端近傍のインクが不足するが、通常(下向き)筆記にするとチップ先端にインクが流入する。このとき、インクが再びチップ先端に流入するまでの時間が、インク粘度が高いと遅くなり、インク粘度が所定の値より低いと早くなるためと考えられる。
【0047】
図13は、ボール径が0.7mm、先端隙間面積S2が0.016mm、インクの色が黒と共通の場合の実施例及び比較例を選択した表である。そして、弁体6の径0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mmごとに、それぞれ弁座部52の形状を六角錐、八角錐、十角錐と変えたときの再筆記回数、インクの噴き出し発生率、及び評価を比較するように並べ替えたものである。
図示するように、弁体6の径0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mmのうちの十角錐においては、弁体6の径が0.7mm、0.8mm、0.9mmにおいて、インクの噴き出しが生じたが、六角錐と八角錐においては、弁体6の径にかかわらず、インクの噴き出しは生じなかった。したがってインクの噴き出しを低減するためには、六角錐または八角錐が好ましい。
さらに、弁体6の径0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mmのいずれの場合においても弁座部52の形状は、六角錐、八角錐、十角錐のうちの、八角錐の再筆記回数が最も低く、八角錐のインクの噴き出し発生率は0%であった。
したがって、インクの噴き出しを低減するためには六角錐または八角錐とすることが好ましく、さらに再筆記回数を低減するために、八角錐とすることがより好ましい。
【0048】
(変形形態)
上述の実施形態では、弁座部52と弁体6とからなる逆流防止機構10を継手4に設けたが、これに限定されない。図14は変形形態のボールペンチップ1Aを説明する図である。
逆流防止機構は、ボールペンチップとインク収容部との間にあればよい。例えば図14に示すように、継手を設けずにインク収容菅3Aの先端でボールペンチップ1を保持する場合は、弁座部52Aと弁体6Aとからなる逆流防止機構をインク収容菅3Aの内側に一体もしくは別体で設けてもよい。また、ボールペンチップの内側に設けてもよい。
【0049】
また、弁座部と弁体との間に隙間が設けられていればよく、弁体は真球に限定されず、楕円でもよく、また弁体の表面に凹凸を設けることにより、隙間を形成してもよい。弁座部も多角錐台形状に限定されず、楕円錐台形状でもよく、弁座部の内面に凹凸を設けること等により、隙間を形成してもよい。
すなわち、弁体と弁座部との隙間の面積を最小とする平面上での最小面積sminを、隙間ごとに求め、ボールペンレフィル全体での最小面積sminの合計を弁座弁体最小隙間合計面積S1とした場合に、弁座弁体最小隙間合計面積S1と先端隙間面積S2との比S1/S2が0.70≦S1/S2となるように弁体及び弁座部を設計すればよい。
ただし、実施形態の場合は、弁座部52を多角錐台形状とし、弁体6を球体とすることで、弁座部の加工が容易となり、また弁体と弁座部との隙間の大きさを調整しやすいというメリットを有する。
【0050】
また、実施形態では、弁座部52を、多角錐台形状の後端側に連なる多角柱形状を含んで構成したが、これに限らない。すなわち、多角柱形状を設けずに、弁座部の多角錐台形状と断面円形形状の小径孔を連結する構造であってもよい。
【0051】
本発明は、水性インクでも使用できるが、温度上昇等によるインクの膨張が大きい油性インクでも使用できる。また、粘度の低い油性インクを用いたボールペンにおいて、チップ内部にスプリングを挿入しなくても、ペン先を上向きにした際のボールペンチップの先端からのインクの噴き出しを効果的に抑えることが可能となる。チップ内部にスプリングを挿入しないことで、ボールペンチップ内部の設計の自由度が高くなり、部品点数の削減によりコストが下がる。また、金属部品が減るため、ボールペンレフィル中のインクの長期保管時の安定性が上がるというメリットがある。
【符号の説明】
【0052】
S1 弁座弁体最小隙間合計面積
S2 先端隙間面積
min 弁座弁体最小隙間面積(最小面積)
1 ボールペンチップ
3 インク収容管
4 継手
5 貫通孔
6 弁体
10 逆流防止機構
11 筆記ボール
12 チップ本体
12a 中央部
12b 前端部
12c 先端部
12d 接続部
13 ボール抱持室
14 バック孔
15 インク誘導孔
16 かしめ部
51 チップ固定孔
52 弁座部
52a 側稜
52b 側面
100 ボールペンレフィル
図1
図2
図3
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図12
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図14