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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】可変磁力モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20230524BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20230524BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
H02K1/22 A
H02K1/276
H02K21/14 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019143971
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021027700
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100154656
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 英彦
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真紹
(72)【発明者】
【氏名】綱田 錬
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-004672(JP,A)
【文献】特開2009-201300(JP,A)
【文献】特開2019-068577(JP,A)
【文献】特開2013-051763(JP,A)
【文献】特開2015-186415(JP,A)
【文献】特開2008-067474(JP,A)
【文献】特許第5085071(JP,B2)
【文献】特許第5100169(JP,B2)
【文献】特許第5134846(JP,B2)
【文献】特許第5502571(JP,B2)
【文献】特許第5361260(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 1/276
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に支持された回転子であって、回転子コアと、前記回転軸の周方向に沿って交互に極性が変化する複数の磁極部を形成する、前記回転子コア内に設けられた複数の永久磁石と、前記回転子コアの隣接する2つの磁極部間に設けられた、磁化方向の保磁力が前記複数の永久磁石よりも小さい可変磁力磁石と、を有する回転子と、
前記回転軸に対する径方向に空隙を介して前記回転子と対向する固定子であって、前記回転子を前記回転軸を中心に回転させる回転磁界を発生させるための固定子と、
を備え、
前記複数の永久磁石は、各磁極部に設けられた第1永久磁石と第2永久磁石を含み、
前記第1永久磁石は、前記可変磁力磁石に対して前記回転子コアを介して磁気的に直列の位置に設けられ、前記第2永久磁石は、前記可変磁力磁石に対して前記回転子コアを介して磁気的に並列の位置に設けられている、可変磁力モータ。
【請求項2】
回転軸を中心に回転可能に支持された回転子であって、回転子コアと、前記回転軸の周方向に沿って交互に極性が変化する複数の磁極部を形成する、前記回転子コア内に設けられた複数の永久磁石と、前記回転子コアの隣接する2つの磁極部間に設けられた、磁化方向の保磁力が前記複数の永久磁石よりも小さい可変磁力磁石と、前記可変磁力磁石よりも前記回転軸に対する径方向の内側に設けられたフラックスバリアと、を有する回転子と、
前記径方向に空隙を介して前記回転子と対向する固定子であって、前記回転子を前記回転軸を中心に回転させる回転磁界を発生させるための固定子と、
を備え、
前記複数の永久磁石は、各磁極部において前記可変磁力磁石に対して前記回転子コアを介して磁気的に並列の位置に設けられた永久磁石を含み、
前記磁気的に並列の位置に設けられた永久磁石は、当該永久磁石の磁化方向に又は磁化方向とは反対方向に、前記フラックスバリアの少なくとも一部と対向する、可変磁力モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変磁力モータに関する。
【背景技術】
【0002】
埋込型永久磁石同期モータは、高い出力密度と高効率特性を有することから、ハイブリッド自動車や電気自動車等の駆動用モータとして幅広く使用されており、更なる高性能化に向けた研究が進められている。
【0003】
電気自動車等の駆動用モータに主に求められる性能として、(1)低速回転域での高トルク密度、(2)高速回転域での高効率、及び、(3)広範囲の回転域での定出力運転がある。埋込型永久磁石同期モータでは、磁極部を形成するために保磁力の大きな永久磁石である固定磁力磁石が用いられている。このようなモータにおいて上記(1)の性能を高めるためには、回転子の各磁極部において、残留磁束密度の高い永久磁石を用いたり、永久磁石の使用量を増加させたりといった手法によって、磁極部から発生する磁束量を増加させることが有効である。しかし、そのような手法によって磁束量が増加すると、高速回転域での鉄損及び誘導電圧が増加するため、上記(2)と(3)の性能が低下する。そのため、上記(1)の性能と、上記(2)及び(3)の性能は、互いにトレードオフの関係にある。
【0004】
上述のようなトレードオフを解消して上記(1)~(3)の性能を同時に向上させ得る可能性のある埋込型永久磁石同期モータとして、例えば下記の特許文献1~5に記載されているような可変磁力モータが知られている。これらの可変磁力モータの回転子には、固定磁力磁石と比較して相対的に保磁力が小さく、磁束印加、例えば固定子の巻線に電流を流して発生させた磁束の印加によって磁化を増減及び反転させることが可能な永久磁石である、可変磁力磁石がさらに設けられている。
【0005】
この可変磁力磁石は、一方の方向に磁化している際には磁極部から発生する磁束量を増加させて高磁束状態を達成し、他方の方向に磁化している場合には磁極部から発生する磁束量を減少させて低磁束状態を達成するように、磁極部の固定磁力磁石に対して配置されている。モータの回転数等に応じて可変磁力磁石の磁化の大きさ及び極性を変化させて磁極部から発生する磁束量を適切に制御することによって、低速回転域での高トルク密度と、高速回転域での高効率並びに広範囲の回転域での定出力運転とを、同時に向上させることが可能となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5085071号公報
【文献】特許第5100169号公報
【文献】特許第5134846号公報
【文献】特許第5502571号公報
【文献】特許第5361260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の可変磁力モータでは、以下のような理由により、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることが困難であるという問題があった。
【0008】
例えば、上記特許文献1~4に記載の可変磁力モータでは、可変磁力磁石は、回転子のコアを介して固定磁力磁石と磁気的に並列に配置されている。そのため、固定磁力磁石から発生して可変磁力磁石に到達する磁束は、高磁束状態では可変磁力磁石の磁化を弱める磁界として働き、低磁束状態では、可変磁力磁石の磁化を強める磁界として働く。そのため、高磁束状態から低磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさは、低磁束状態から高磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさよりも小さくなる。
【0009】
ゆえに、例えば固定子の巻線に電流を流して発生させた磁束の印加によって可変磁力磁石の磁化を変化させる構成を採用した場合、高磁束状態から低磁束状態に変化させるように磁化を反転させる場合の電流(低磁束化反転電流)と、低磁束状態から高磁束状態に変化させるように磁化を反転させる場合の電流(高磁束化反転電流)が、非対称(極性が逆で大きさが異なる)となる。その結果、可変磁力磁石の磁化の制御が不十分となったり、当該制御を十分に行おうとすると固定子の巻線に流す電流を制御するインバータの容量の増加や電圧利用率の低下に繋がったりする。そのため、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることが困難であるという問題があった。
【0010】
また、上記特許文献5に記載の可変磁力モータでは、可変磁力磁石を、回転子のコアを介して固定磁力磁石と磁気的に直列に配置されているが、このような構成においても同様の問題が生じる。即ち、この場合、固定磁力磁石から発生して可変磁力磁石に到達する磁束は、高磁束状態では可変磁力磁石の磁化を強める磁界として働き、低磁束状態では、可変磁力磁石の磁化を弱める磁界として働く。そのため、高磁束状態から低磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさは、低磁束状態から高磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさよりも大きくなる。その結果、上記と同様の問題があった。
【0011】
また、上記特許文献1~5に記載されているような従来の可変磁力モータでは、可変磁力磁石の磁化を変化させるために発生させた磁束は、可変磁力磁石だけでなく、固定磁力磁石にも印加されてしまう。そのため、発生させた磁束が、可変磁力磁石に十分には印加されなくなり易い。その結果、十分な磁束が印加されずに可変磁力磁石の磁化の制御が不十分となったり、当該制御を十分に行おうとすると大きな磁束を発生させる必要があるため、固定子の巻線に流す電流を制御するインバータの容量の増加や電圧利用率の低下に繋がったりする。そのため、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることが困難であるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることが可能な可変磁力モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するため、本発明の一態様に係る可変磁力モータは、回転軸を中心に回転可能に支持された回転子であって、回転子コアと、上記回転軸の周方向に沿って交互に極性が変化する複数の磁極部を形成する、上記回転子コア内に設けられた複数の永久磁石と、上記回転子コアの隣接する2つの磁極部間に設けられた、磁化方向の保磁力が上記複数の永久磁石よりも小さい可変磁力磁石と、を有する回転子と、上記回転軸に対する径方向に空隙を介して上記回転子と対向する固定子であって、上記回転子を上記回転軸を中心に回転させる回転磁界を発生させるための固定子と、を備え、上記複数の永久磁石は、各磁極部に設けられた第1永久磁石と第2永久磁石を含み、第1永久磁石は、上記可変磁力磁石に対して上記回転子コアを介して磁気的に直列の位置に設けられ、第2永久磁石は、上記可変磁力磁石に対して上記回転子コアを介して磁気的に並列の位置に設けられている。
【0014】
本発明の一態様に係る可変磁力モータでは、第1永久磁石は、上記可変磁力磁石に対して上記回転子コアを介して磁気的に直列の位置に設けられ、第2永久磁石は、上記可変磁力磁石に対して上記回転子コアを介して磁気的に並列の位置に設けられているため、第1永久磁石によって生じ、第1永久磁石と可変磁力磁石との間の磁路を通る磁束と、第2永久磁石によって生じ、第2永久磁石と可変磁力磁石との間の磁路を通る磁束は、可変磁力磁石の近傍において少なくとも部分的に相殺される。
【0015】
ゆえに、高磁束状態から低磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさと、低磁束状態から高磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石に印加する磁束の大きさとを、同一にする又は近づけることができる。そのため、例えば固定子の巻線に電流を流して発生させた磁束の印加によって可変磁力磁石の磁化を変化させる構成を採用した場合、低磁束化反転電流と高磁束化反転電流の非対称性を低減させることができる。その結果、可変磁力磁石の磁化の制御が不十分となったり、当該制御を十分に行おうとする際に固定子の巻線に流す電流を制御するインバータの容量が増加したり電圧利用率が低下したりすることを抑制することができるため、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0016】
また、上述の課題を解決するため、本発明の他の態様に係る可変磁力モータは、回転軸を中心に回転可能に支持された回転子であって、回転子コアと、上記回転軸の周方向に沿って交互に極性が変化する複数の磁極部を形成する、上記回転子コア内に設けられた複数の永久磁石と、上記回転子コアの隣接する2つの磁極部間に設けられた、磁化方向の保磁力が上記複数の永久磁石よりも小さい可変磁力磁石と、上記可変磁力磁石よりも上記回転軸に対する径方向の内側に設けられたフラックスバリアと、を有する回転子と、上記径方向に空隙を介して上記回転子と対向する固定子であって、上記回転子を上記回転軸を中心に回転させる回転磁界を発生させるための固定子と、を備え、上記複数の永久磁石は、各磁極部において上記可変磁力磁石に対して上記回転子コアを介して磁気的に並列の位置に設けられた永久磁石を含み、上記磁気的に並列の位置に設けられた永久磁石は、当該永久磁石の磁化方向に又は磁化方向とは反対方向に、上記フラックスバリアの少なくとも一部と対向する。
【0017】
本発明の他の態様に係る可変磁力モータでは、上記磁気的に並列の位置に設けられた永久磁石は、当該永久磁石の磁化方向に又は磁化方向とは反対方向に、上記フラックスバリアの少なくとも一部と対向するため、可変磁力磁石の磁化を変化させるために発生させた磁束が固定磁力磁石に印加されることを上記フラックスバリアによって抑制することができる。その結果、発生させた磁束を十分に可変磁力磁石に印加することができるため、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る可変磁力モータによれば、磁極の磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る可変磁力モータの断面を示す図である。
図2】回転子の部分的に分解した斜視図である。
図3】回転子の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図4】回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図5】回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図6】回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図7】回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図8】第2実施形態の回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
図9】第3実施形態の回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0021】
図1は、第1実施形態に係る可変磁力モータの断面を示す図であり、回転子の回転軸に垂直な断面を示している。本実施形態の可変磁力モータ1は、回転子10と、固定子20と、シャフト30とを備えている。
【0022】
回転子10は、回転軸10Xに沿って延びる実質的に円筒状の部材であり、シャフト30は、回転軸10Xに略一致した中心軸を有する実質的に円柱状の部材である。回転子10の内周面10Iは、シャフト30の外周面に固定されている。シャフト30は、ハウジング(図示せず)に対して回転軸10Xを中心に回転可能に支持されている。これにより、固定子20は、当該ハウジングに対して回転軸10Xを中心に回転可能に支持されている。
【0023】
回転子10には、回転軸10Xの周方向(以下、単に「周方向」とする)に沿って交互に極性が変化する複数(本実施形態では8極)の磁極部(N磁極部10N及びS磁極部10S)が形成されている。N磁極部10Nは、回転子10の外周面10EにおいてN極の磁極面を有する領域であり、S磁極部10Sは、回転子10の外周面10EにおいてS極の磁極面を有する領域である。
【0024】
固定子20は、回転子10と同軸状に配置された実質的に円筒状の部材であり、上記ハウジングに対して固定されている。固定子20の内周面は、回転軸10Xに対する径方向(以下、単に「径方向」とする)に空隙Gを介して回転子10の外周面10Eと対向する。固定子20は、磁性材料で構成される固定子コア21と、導電材料で構成されるコイル22とを有する。固定子コア21は、例えばケイ素鋼などの電磁鋼等の軟磁性材料で構成される。固定子コア21は、実質的に円筒状のヨーク部と、ヨーク部の内周面から径方向内側に突出する複数の(本実施形態では48個の)ティース部23を有する。コイル22は、ティース部23の周りに、分布巻き方式又は集中巻き方式で巻き付けられている。
【0025】
外部の電源(図示せず)からインバータ(図示せず)を介してコイル22に界磁電流が供給されると、コイル22は、回転子10を回転軸10Xの周りに回転させる回転磁界を発生する。可変磁力モータ1は同期モータであり、上記インバータは、上記外部の電源からの電流を、目的とする回転子10の回転数に応じた周波数の三相交流に変換する。上記インバータによってコイル22に供給される三相交流の周波数を変更することにより、回転子10の回転数を変更することができる。
【0026】
次に、回転子10の構成の詳細について説明する。図2は、回転子の部分的に分解した斜視図であり、図3は、回転子の回転軸に垂直な断面を示す図である。
【0027】
回転子10は、磁性材料で構成される回転子コア2と、第1永久磁石としての固定磁力磁石3と、第2永久磁石としての固定磁力磁石5、6と、可変磁力磁石8と、フラックスバリア11とを有する。固定磁力磁石3、5、6は、複数の磁極部10N、10Sのそれぞれにおいて、1個ずつ設けられている。図2では、1つの磁極における固定磁力磁石3、5、6、及び当該磁極に隣接する2つの可変磁力磁石8を、本来の位置から回転軸10X方向に沿って上方に移動させて、回転子コア2とは分離して示している。
【0028】
回転子コア2は、例えばケイ素鋼などの電磁鋼等の軟磁性材料で構成される。
【0029】
固定磁力磁石3、5、6は、ネオジム焼結磁石、又は、ネオジム磁石等の永久磁石である。固定磁力磁石3、5、6は、N磁極部10N及びS磁極部10Sを形成するように、それぞれ所定の方向に着磁されて磁化されている。固定磁力磁石3、5、6の磁化方向の保磁力はそれぞれ、これらの磁石の磁化が、可変磁力モータ1の動作時に印加され得る磁界によっては実質的に不可逆減磁されない程度に十分に大きい。そのため、固定磁力磁石3、5、6の磁力は、可変磁力モータ1の動作時において実質的に不変である。
【0030】
可変磁力モータ1は、埋込型永久磁石モータであり、固定磁力磁石3、5、6は、回転子コア2内に埋め込まれるように設けられている。具体的には、固定磁力磁石3、5、6は、それぞれ回転軸10Xに沿って延びる板状の形状を有している。回転子コア2には、回転軸10Xに沿って延びる形状のスリット3S、5S、6Sが、1つの磁極部ごとにそれぞれ1個ずつ形成されている。そして、固定磁力磁石3、5、6は、スリット3S、5S、6S内にそれぞれ埋め込まれている。そのため、固定磁力磁石3、5、6は、回転子10の外周面10Eに露出していない。
【0031】
スリット3S、5S、6Sは、それぞれ、一部分(本実施形態では、スリット3S、5S、6Sの回転軸10Xと垂直な断面における幅方向の端部)が固定磁力磁石3、5、6によって占められておらず、当該一部分は空洞となり、フラックスバリアとして機能する。スリット3S、5S、6Sは、それぞれ、固定磁力磁石3、5、6によって完全に占められていてもよい。
【0032】
図3に示されるように、各磁極部では、回転軸10Xから径方向に延びて固定磁力磁石3と交差する方向において、固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6は、固定磁力磁石3よりも回転軸10X側に設けられている。また、回転軸10Xに沿った方向から見て、固定磁力磁石3の重心点は、固定磁力磁石5の重心点及び固定磁力磁石6の重心点と比較して、回転軸10Xから径方向に、より大きく離間している。固定磁力磁石3の全体が、固定磁力磁石5の全体及び固定磁力磁石6の全体と比較して、回転軸10Xから径方向に、より大きく離間していてもよい。
【0033】
回転軸10Xと垂直な断面において、固定磁力磁石3は、その厚さ方向が径方向に沿い、その幅方向が周方向の接線方向に沿うように設けられている。回転軸10Xと垂直な断面において、固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6は、共同して径方向の外側に向かって広がるV字状を成すように、それらの厚さ方向が径方向と鋭角を成して、径方向に対して略対称に設けられている。これにより、固定磁力磁石3、5、6は、共同してデルタ状を成している。
【0034】
可変磁力磁石8は、アルニコ磁石、サマリウムコバルト(Sm-Co)磁石、ネオジム(Nd-Fe-B)磁石等の永久磁石である。可変磁力磁石8の磁化方向の保磁力は、固定磁力磁石3、5、6の磁化方向の保磁力よりも小さい。可変磁力磁石8の当該保磁力は、後述の磁化の増減磁及び反転のための磁束印加部による磁束の印加によって、可変磁力磁石8の磁化方向が不可逆的に増減磁及び反転することが可能な程度の大きさである。そのため、可変磁力磁石8の磁力は、当該磁束印加部によって可変である。
【0035】
可変磁力磁石8は、隣接する磁極部間において回転子コア2内に設けられている。具体的には、可変磁力磁石8は、それぞれ回転軸10Xに沿って延びる板状の形状を有しており、可変磁力磁石8の厚さ方向が、周方向の接線方向に沿うように、可変磁力磁石8の幅方向が径方向に沿うように配置されている。回転子コア2には、回転軸10Xに沿って延びる形状のスリット8Sが、隣接する磁極部間に1個ずつ形成されている。そして、そして、可変磁力磁石8は、スリット8S内に設けられている。スリット8Sは、外周面10Eに露出しているため、可変磁力磁石8も外周面10Eに露出しているが、外周面10Eに露出しないように回転子コア2内に埋め込まれていてもよい。
【0036】
フラックスバリア11は、回転子コア2に設けられた、回転子コア2よりも透磁率の低い材料で構成される回転軸10Xに沿って延びる領域である。本実施形態では、フラックスバリア11は、回転子コア2に形成された空洞、即ち、空気で構成されている。フラックスバリア11は、各可変磁力磁石8よりも径方向の内側に設けられており、より具体的には、可変磁力磁石8の径方向の内側の端面から、径方向内側に延びている。図3に示されるように、回転軸10Xに沿った方向から見て、回転軸10Xからフラックスバリア11までの径方向の長さは、回転軸10Xから固定磁力磁石5までの径方向の長さ及び回転軸10Xから固定磁力磁石6までの径方向の長さよりも短くなっている。
【0037】
次に、各磁石の磁化状態について、より詳細に説明する。図4は、回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図であり、回転子10のうち、1つのN磁極部10Nと、それに隣接する2つのS磁極部10Sの近傍の領域を示している。
【0038】
図4に示すように、各磁石は、その厚さ方向に沿って各磁極部の極性に応じた方向に磁化されている。具体的には、N磁極部10Nにおいては、固定磁力磁石3の磁化3Mは、外周面10EにN磁極面を形成するように、下面3Lから上面3Hに向かう方向に向いている。なお、固定磁力磁石3の下面とは、固定磁力磁石3の径方向と交差する2つの面のうち、回転軸10Xに近い方の面と意味し、固定磁力磁石3の上面とは、固定磁力磁石3の厚さ方向と交差する2つの面のうち、回転軸10Xから遠い方の面を意味する。以下の固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6の上面及び下面についても同様である。固定磁力磁石5の磁化5Mは、外周面10EにN磁極面を形成するように、下面5Lから上面5Hに向かう方向に向いており、固定磁力磁石6の磁化6Mは、外周面10EにN磁極面を形成するように、下面6Lから上面6Hに向かう方向に向いている。
【0039】
また、S磁極部10Sにおいては、固定磁力磁石3の磁化3Mは、外周面10EにS磁極面を形成するように、上面3Hから下面3Lに向かう方向に向いており、固定磁力磁石5の磁化5Mは、外周面10EにS磁極面を形成するように、上面5Hから下面5Lに向かう方向に向いており、固定磁力磁石6の磁化6Mは、外周面10EにS磁極面を形成するように、上面6Hから下面6Lに向かう方向に向いている。
【0040】
可変磁力磁石8は、周方向の接線方向に沿って、即ち、厚さ方向に沿って磁化可能である。図4に示す状態では、可変磁力磁石8は、実質的に最大残留磁化量まで磁化されており、可変磁力磁石8の磁化8Mは、S磁極部10S側の表面8PSからN磁極部10N側の表面8PNに向かう方向を向いている。表面8PN及び表面8PSは、可変磁力磁石8の厚さ方向に直交又は交差する面であり、表面8PNはN磁極部10Nと周方向に対向し、表面8PSはS磁極部10Sと周方向に対向する。そのため、可変磁力磁石8の磁化8Mは、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁力を強めるため、可変磁力磁石8は、N磁極部10Nから発生する磁束量及びS磁極部10Sから発生する磁束量を増加させる状態(高磁束状態)を達成するように機能している。
【0041】
固定磁力磁石3は、可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に直列の位置に設けられている。即ち、回転子コア2において固定磁力磁石3と可変磁力磁石8とを磁気的に並列に繋ぐ磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2において固定磁力磁石3と可変磁力磁石8とを磁気的に直列に繋ぐ磁路の磁気抵抗の方が小さい。
【0042】
より具体的には、N磁極部10Nの固定磁力磁石3については、回転子コア2における固定磁力磁石3の上面3Hから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石3の下面3Lから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。また、S磁極部10Sの固定磁力磁石3については、回転子コア2における固定磁力磁石3の上面3Hから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石3の下面3Lから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。
【0043】
固定磁力磁石5、6は、それぞれ可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に並列の位置に設けられている。即ち、回転子コア2において固定磁力磁石5と可変磁力磁石8とを磁気的に直列に繋ぐ磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2において固定磁力磁石5と可変磁力磁石8とを磁気的に並列に繋ぐ磁路の磁気抵抗の方が小さい。同様に、回転子コア2において固定磁力磁石6と可変磁力磁石8とを磁気的に直列に繋ぐ磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2において固定磁力磁石6と可変磁力磁石8とを磁気的に並列に繋ぐ磁路の磁気抵抗の方が小さい。
【0044】
より具体的には、N磁極部10Nの固定磁力磁石5については、回転子コア2における固定磁力磁石5の下面5Lから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石5の上面5Hから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。S磁極部10Sの固定磁力磁石5については、回転子コア2における固定磁力磁石5の下面5Lから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石5の上面5Hから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。
【0045】
同様に、N磁極部10Nの固定磁力磁石6については、回転子コア2における固定磁力磁石6の下面6Lから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石6の上面6Hから可変磁力磁石8の表面8PNまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。S磁極部10Sの固定磁力磁石6については、回転子コア2における固定磁力磁石6の下面6Lから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗よりも、回転子コア2における固定磁力磁石6の上面6Hから可変磁力磁石8の表面8PSまでの磁路の磁気抵抗の方が小さい。
【0046】
固定磁力磁石3は可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に直列の位置に設けられているため、N磁極部10Nの固定磁力磁石3で生じる磁束は、可変磁力磁石8から固定磁力磁石3の下面3Lに向かうように可変磁力磁石8と固定磁力磁石3の下面3Lとの間の磁気的に直列の磁路を通る磁束3Fを含み、S磁極部10Sの固定磁力磁石3で生じる磁束は、固定磁力磁石3の下面3Lから可変磁力磁石8に向かうように、固定磁力磁石3の下面3Lと可変磁力磁石8との間の磁気的に直列の磁路を通る磁束3Fを含む。
【0047】
固定磁力磁石5、6は、それぞれ可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に並列の位置に設けられているため、N磁極部10Nの固定磁力磁石5で生じる磁束は、固定磁力磁石5の上面5Hから可変磁力磁石8に向かうように固定磁力磁石5の上面5Hと可変磁力磁石8との間の磁気的に並列の磁路を通る磁束5Fを含み、S磁極部10Sの固定磁力磁石5で生じる磁束は、可変磁力磁石8から固定磁力磁石5の上面5Hに向かうように可変磁力磁石8と固定磁力磁石5の上面5Hとの間の磁気的に並列の磁路を通る磁束5Fを含む。
【0048】
同様に、N磁極部10Nの固定磁力磁石6で生じる磁束は、固定磁力磁石6の上面6Hから可変磁力磁石8に向かうように固定磁力磁石6の上面6Hと可変磁力磁石8との間の磁気的に並列の磁路を通る磁束6Fを含み、S磁極部10Sの固定磁力磁石6で生じる磁束は、可変磁力磁石8から固定磁力磁石6の上面6Hに向かうように可変磁力磁石8と固定磁力磁石6の上面6Hとの間の磁気的に並列の磁路を通る磁束6Fを含む。
【0049】
そして、磁束3Fと磁束5Fは、可変磁力磁石8の近傍において、同一又は近接した磁路内を互いに反対方向に向かうため、可変磁力磁石8の近傍において少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に相殺される。同様に、磁束3Fと磁束6Fは、可変磁力磁石8の近傍において、同一又は近接した磁路内を互いに反対方向に向かうため、可変磁力磁石8の近傍において部分的に、好ましくは実質的に完全に相殺される。
【0050】
また、N磁極部10Nの固定磁力磁石5は、その磁化5Mの方向とは反対方向に、フラックスバリア11の一部と対向し、N磁極部10Nの固定磁力磁石6は、その磁化6Mの方向とは反対方向に、フラックスバリア11の一部と対向し、S磁極部10Sの固定磁力磁石5は、その磁化5Mの方向に、フラックスバリア11の一部と対向し、S磁極部10Sの固定磁力磁石6は、その磁化6Mの方向に、フラックスバリア11の一部と対向する。
【0051】
次に、各磁極部から発生する磁束量を減少させる方法について説明する。図5図6は、回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図であり、図4と同じ領域を示している。各磁極部から発生する磁束量を減少させるために、本実施形態では固定子20のコイル22(図1参照)を磁束印加部として使用して、可変磁力磁石8の磁化8Mの向きを反転させる。
【0052】
具体的には、図5に示すように、可変磁力磁石8に対して、高磁束状態(図4参照)の磁化8Mの向きとは反対向きに、可変磁力磁石8の磁化8Mを実質的に飽和させる大きさの磁束FDが印加されるように、固定子20のコイル22(図1参照)に、上記インバータで制御した電流(低磁束化反転電流)を流す。この低磁束化反転電流は、例えばパルス状である。この低磁束化反転電流は、回転子10を回転させるための界磁電流がコイル22に供給されている際に、この界磁電流に重畳してコイル22に供給されてもよいし、界磁電流がコイル22に供給されていないときに、コイル22に供給されてもよい。
【0053】
磁束FDを発生させる際、磁束印加部(本実施形態では固定子20のコイル22)からは、可変磁力磁石8には印加されずに第2永久磁石(本実施形態では固定磁力磁石5、6)に印加される磁束FDXも生じ得る。しかしながら、上述のような本実施形態の可変磁力モータ1の回転子10はフラックスバリア11を有し、固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6は、それらの磁化5M及び磁化6Mの方向に又は磁化5M及び磁化6Mの方向とは反対方向に、フラックスバリア11の一部と対向するため、磁束FDXが固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6に印加されることを抑制することができる。その分、磁束印加部から生じる磁束は可変磁力磁石8近傍に集中するため、磁束FDを大きくすることができる。
【0054】
その結果、発生させた磁束を十分に可変磁力磁石8に印加することができるため、十分な磁束が印加されないことに起因して可変磁力磁石8の磁化8Mの制御が不十分となったり、当該制御を十分に行うために大きな磁束を発生させることに起因して、固定子20のコイル22に流す電流を制御するインバータの容量の増加や電圧利用率の低下に繋がったりすることを抑制することができる。ゆえに、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0055】
磁束FDの印加が終了すると、図6に示すように、可変磁力磁石8は、実質的に最大飽和磁化量まで磁化され、可変磁力磁石8の磁化8Mは、N磁極部10NからS磁極部10Sに向かう方向を向いている。この状態では、可変磁力磁石8の磁化8Mは、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁力を弱めるため、可変磁力磁石8は、N磁極部10Nから発生する磁束量及びS磁極部10Sから発生する磁束量を減少させる状態(低磁束状態)を達成するように機能している。
【0056】
低磁束状態においても、高磁束状態における場合と同様に、磁束3Fと磁束5Fは、可変磁力磁石8の近傍において、同一又は近接した磁路内を互いに反対方向に向かうため、可変磁力磁石8の近傍において少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に相殺される。同様に、磁束3Fと磁束6Fは、可変磁力磁石8の近傍において、同一又は近接した磁路内を互いに反対方向に向かうため、可変磁力磁石8の近傍において少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に相殺される。
【0057】
低磁束状態から高磁束状態への変更は、以下のように行う。図7は、回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図であり、図4と同じ領域を示している。各磁極部から発生する磁束量を増加させるために、本実施形態では固定子20のコイル22(図1参照)を磁束印加部として使用して、可変磁力磁石8の磁化8Mの向きを反転させる。
【0058】
具体的には、図7に示すように、可変磁力磁石8に対して、低磁束状態(図6参照)の磁化8Mの向きとは反対向きに、可変磁力磁石8の磁化8Mを実質的に飽和させる大きさの磁束FMが印加されるように、固定子20のコイル22(図1参照)に、上記インバータで制御した電流(高磁束化反転電流)を流す。この高磁束化反転電流は、例えばパルス状である。この高磁束化反転電流は、回転子10を回転させるための界磁電流がコイル22に供給されている際に、この界磁電流に重畳してコイル22に供給されてもよいし、界磁電流がコイル22に供給されていないときに、コイル22に供給されてもよい。磁束FMの印加が終了すると、図4に示した高磁束状態となる。
【0059】
図7で示すように磁束FMを発生させる際、磁束印加部(本実施形態では固定子20のコイル22)からは、可変磁力磁石8には印加されずに第2永久磁石(本実施形態では固定磁力磁石5、6)に印加される磁束FMXも生じ得る。しかしながら、上述のような本実施形態の可変磁力モータ1の回転子10はフラックスバリア11を有し、固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6は、それらの磁化5M及び磁化6Mの方向に又は磁化5M及び磁化6Mの方向とは反対方向に、フラックスバリア11の一部と対向するため、磁束FMXが固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6に印加されることを抑制することができる。その分、磁束印加部から生じる磁束は可変磁力磁石8近傍に集中するため、磁束FDを大きくすることができる。
【0060】
その結果、発生させた磁束を十分に可変磁力磁石8に印加することができるため、十分な磁束が印加されないことに起因して可変磁力磁石8の磁化の制御が不十分となったり、当該制御を十分に行うために大きな磁束を発生させることに起因して、固定子20のコイル22に流す電流を制御するインバータの容量の増加や電圧利用率の低下に繋がったりすることを抑制することができる。ゆえに、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0061】
可変磁力モータ1では、磁束印加部としての固定子20のコイル22(図1参照)から可変磁力磁石8に印加する磁束FD(図5参照)又は磁束FM(図7参照)の大きさを適宜調節することによって、高磁束状態(図4参照)と低磁束状態(図6参照)との間の中間状態を実現することもできる。上述のような本実施形態に係る可変磁力モータ1によれば、例えば低速回転域では高磁束状態で回転動作させ、高速回転域では低磁束状態で回転動作させるなど、モータの回転数等に応じて可変磁力磁石8の磁化8Mの大きさ及び極性を変化させて各磁極部から発生する磁束量を適切に制御することによって、低速回転域での高トルク密度と、高速回転域での高効率並びに広範囲の回転域での定出力運転とを、同時に向上させることが可能となる。
【0062】
その上、上述のような本実施形態に係る可変磁力モータ1では、第1永久磁石としての固定磁力磁石3は、可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に直列の位置に設けられ、第2永久磁石としての固定磁力磁石5、6は、可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に並列の位置に設けられているため、上述のように固定磁力磁石3から生じる磁束の一部である磁束3Fと固定磁力磁石5から生じる磁束の一部である磁束5Fは、可変磁力磁石8の近傍において、少なくとも部分的に相殺される(図4参照)。ゆえに、高磁束状態(図4参照)から低磁束状態(図6参照)に変化させる場合に必要な可変磁力磁石8に印加する磁束の大きさと、低磁束状態から高磁束状態に変化させる場合に必要な可変磁力磁石8に印加する磁束の大きさとを、同一にする又は近づけることができる。
【0063】
そのため、回転子コア2が第1永久磁石及び第2永久磁石の一方のみを有する場合と比較して、高磁束状態から低磁束状態に変化させる場合の低磁束化反転電流と、低磁束状態から高磁束状態に変化させる場合の高磁束化反転電流の非対称性を低減させることができる。その結果、可変磁力磁石8の磁化8Mの制御が不十分となったり、当該制御を十分に行おうとする際に固定子20のコイル22に流す電流を制御するインバータの容量が増加したり電圧利用率が低下したりすることを抑制することができるため、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0064】
次に、第2実施形態に係る可変磁力モータについて説明する。第2実施形態の可変磁力モータは、第1実施形態の可変磁力モータ1と回転子の構造が異なる。
【0065】
図8は、第2実施形態の回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図であり、第1実施形態の図4と同じ領域を示す図である。
【0066】
第2実施形態の回転子10Aは、フラックスバリア11を有しておらず、フラックスバリア11に対応する領域も回転子コア2で構成されている点において、第1実施形態の回転子10と異なる(図4参照)。
【0067】
第2実施形態の回転子10Aを備える可変磁力モータにおいても、第1実施形態の可変磁力モータ1と同様の理由に基づき、固定磁力磁石3から生じる磁束の一部である磁束3Fと固定磁力磁石5から生じる磁束の一部である磁束5Fは、可変磁力磁石8の近傍において、少なくとも部分的に相殺されるため、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0068】
次に、第3実施形態に係る可変磁力モータについて説明する。第3実施形態の可変磁力モータは、第1実施形態の可変磁力モータ1と回転子の構造が異なる。
【0069】
図9は、第3実施形態の回転子の一部の回転軸に垂直な断面を示す図であり、第1実施形態の図4と同じ領域を示す図である。
【0070】
第3実施形態の回転子10Bは、第1永久磁石としての固定磁力磁石3を有しておらず、固定磁力磁石3に対応する領域も回転子コア2で構成されている点において、第1実施形態の回転子10と異なる(図4参照)。第3実施形態の回転子10Bを備える可変磁力モータにおいても、第1実施形態の可変磁力モータ1と同様の理由に基づき、回転子10がフラックスバリア11を有するため、磁束FD又は磁束FMを発生させる際に磁束FDX又は磁束FMXが固定磁力磁石5及び固定磁力磁石6に印加されることを抑制することができるため(図5及び図7参照)、N磁極部10N及びS磁極部10Sの磁束量の制御性を高めつつ、モータ性能を高めることができる。
【0071】
本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。
【0072】
例えば、上記第1~第3実施形態の可変磁力モータの回転子10、10A、10Bは、各磁極部に第2永久磁石として一対の固定磁力磁石5、6を有していたが(図4図8及び図9参照)、各磁極部に第2永久磁石としての1個の固定磁力磁石を有していてもよい。この場合、当該第2永久磁石としての1個の固定磁力磁石は、例えば固定磁力磁石3と同様に回転軸10Xに沿って延びる板状の形状を有し、その厚さ方向が径方向に沿い、その幅方向が周方向の接線方向に沿うように、固定磁力磁石3よりも回転軸10X側に設けることができる。また、当該第2永久磁石としての1個の固定磁力磁石は、可変磁力磁石8に対して回転子コア2を介して磁気的に並列の位置に設けられている。
【符号の説明】
【0073】
1…可変磁力モータ、2…回転子コア、3…固定磁力磁石、5…固定磁力磁石、6…固定磁力磁石、8…可変磁力磁石、10…回転子、10X…回転軸、10N…N磁極部、10S…S磁極部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9