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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】信号出力装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/397 20210101AFI20230524BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A61B5/397
A61B5/00 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023003734
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2023-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391029048
【氏名又は名称】トーイツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 憲男
(72)【発明者】
【氏名】藤重 隆一
(72)【発明者】
【氏名】南雲 潤也
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073645(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135789(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180169(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0150010(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0076379(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体の腹部から生体電気信号を取得する信号取得部と、
前記信号取得部により取得された前記生体電気信号に対して、MODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット変換)処理及びIMODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット逆変換)処理を行い、前記母体の子宮筋の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号と、前記第1周波数帯域よりも周波数が高く、前記母体の腹筋の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号と、を時系列的に順次抽出する信号抽出部と、
前記信号抽出部により同一の前記生体電気信号から抽出された前記第1特徴信号の絶対値を示す第1絶対値信号と前記第2特徴信号の絶対値を示す第2絶対値信号とを、時系列的に順次出力する信号出力部と、
を備えること
を特徴とする信号出力装置。
【請求項2】
前記第1特徴信号と前記第2特徴信号とを比較して評価する信号評価部をさらに備え、
前記信号評価部は、前記第1特徴信号のピークが表れる時刻を示す第1時刻と、前記第2特徴信号のピークが表れる時刻を示す第2時刻と、の時刻差を評価すること
を特徴とする請求項1に記載の信号出力装置。
【請求項3】
前記信号出力部は、前記第1絶対値信号の包絡線を示す第1信号包絡線と、前記第2絶対値信号の包絡線を示す第2信号包絡線と、を時系列的に順次出力すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の信号出力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、母体の腹部に装着して使用する、信号出力装に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分娩時に母体の子宮収縮等をモニタリングするための分娩監視装置が知られている。子宮収縮の測定のために、子宮内圧カテーテルや、母体の腹部上に固定する機械的歪ゲージ検出器(外側陣痛トランスジューサ)が用いられているが、前者は侵襲的である点、後者は母体の体動や呼吸などの影響を受け易い点で問題があった。
【0003】
そこで、母体腹部に配置された皮膚電極を使用することにより、非侵襲的に子宮収縮を測定する技術が研究されている。非特許文献1には、子宮の収縮を子宮の電気生理学的特性から説明し、母体にとって非侵襲で無拘束の子宮内圧の提供が可能であるとしている。
【0004】
また、特許文献1には、患者の皮膚の上に測定用の電極を適用して、非侵襲的に、子宮の動作等の筋肉の電気的活動を監視する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Characterization of uterine activity by electrohysterography
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-523112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術によれば、分娩時において、母体の生体電気信号を取得し、子宮内圧と、胎児の心臓活動と、をモニタリングすることができる。しかしながら、非特許文献1及び特許文献1では、分娩時の母体の重要な動作として、随意的に行う怒責(いきみ)をモニタリングすることができない。このため、子宮活動に同期しない怒責が行われ、胎盤循環を阻害し、母体及び胎児に負担がかかる懸念がある。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、同時刻の怒責と子宮活動とを容易に検出することにより、分娩時において母体と胎児の安全性向上を図ることができる信号出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明における信号出力装置は、母体の腹部から生体電気信号を取得する信号取得部と、前記信号取得部により取得された前記生体電気信号に対して、MODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット変換)処理及びIMODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット逆変換)処理を行い、前記母体の子宮筋の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号と、前記第1周波数帯域よりも周波数が高く、前記母体の腹筋の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号と、を時系列的に順次抽出する信号抽出部と、前記信号抽出部により同一の前記生体電気信号から抽出された前記第1特徴信号の絶対値を示す第1絶対値信号と前記第2特徴信号の絶対値を示す第2絶対値信号とを、時系列的に順次出力する信号出力部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第2発明における信号出力装置は、第1発明において、前記第1特徴信号と前記第2特徴信号とを比較して評価する信号評価部をさらに備え、前記信号評価部は、前記第1特徴信号のピークが表れる時刻を示す第1時刻と、前記第2特徴信号のピークが表れる時刻を示す第2時刻と、の時刻差を評価することを特徴とする。
【0012】
発明における信号出力装置は、第1発明又は第2発明において、前記第1絶対値信号の包絡線を示す第1信号包絡線と、前記第2絶対値信号の包絡線を示す第2信号包絡線と、を時系列的に順次出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明~第発明によれば、取得された生体電気信号から、子宮筋の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号と、腹筋の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号と、を時系列的に順次抽出する信号抽出部と、同一の生体電気信号から抽出された第1特徴信号の絶対値を示す第1絶対値信号と第2特徴信号の絶対値を示す第2絶対値信号とを、時系列的に順次出力する信号出力部と、を備える。このため、同時刻の怒責と子宮収縮とを容易に検出することができる。また、怒責と子宮収縮とのずれを容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体と胎児の安全性向上を図ることができる。
また、第1発明~第3発明によれば、信号出力部は、第1特徴信号の絶対値を示す第1絶対値信号と、第2特徴信号の絶対値を示す第2絶対値信号と、を時系列的に順次出力する。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、が信号の向きによらず一様に出力される。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体と胎児のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0015】
特に、第2発明によれば、第1特徴信号のピークが表れる時刻を示す第1時刻と、第2特徴信号のピークが表れる時刻を示す第2時刻と、の時刻差を評価する信号評価部をさらに備える。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体と胎児のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0017】
特に、第発明によれば、信号出力部は、第1絶対値信号の包絡線を示す第1信号包絡線と、第2絶対値信号の包絡線を示す第2信号包絡線と、を時系列的に順次出力する。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、がより明確に出力される。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体と胎児のさらなる安全性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、第1実施形態における信号出力装置1の構成の一例を示す模式図であり、図1(b)は、信号出力装置1に外部接続される電極の構成の一例を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態における信号出力装置1の動作の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、第1実施形態における信号出力装置1の装着方法の一例を示す模式断面図である。
図4図4は、第1実施形態における信号出力装置1の装着方法の一例を示す平面図である。
図5図5は、第1実施形態における信号出力装置1の詳細な動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、第1実施形態における信号出力装置1の動作に伴う情報の一例を示す模式図である。
図7図7は、第1実施形態における信号出力装置1の動作により取得する生体電気信号のパターンの一例を示す模式図である。
図8図8は、図7の生体電気信号を特定の周波数帯域ごとに分解した信号の一例を示す模式図である。
図9図9は、図8の信号のうち特定の周波数帯域の信号を合成した信号の一例を示す模式図である。
図10図10は、図9の信号からダウンサンプリングした信号の一例を示す模式図である。
図11図11は、図10の信号を特定の周波数帯域ごとに分解した信号の一例を示す模式図である。
図12図12は、図11の信号のうち特定の周波数帯域の信号を合成した信号の一例を示す模式図である。
図13図13は、図8の信号から、図9の信号とは異なる特定の周波数帯域の信号を合成した信号の一例を示す模式図である。
図14図14は、図12の信号の絶対値を示す信号の一例を示す模式図である。
図15図15は、図13の信号の絶対値を示す信号の一例を示す模式図である。
図16図16は、図14の信号の包絡線を示す信号の一例を示す模式図である。
図17図17は、図15の信号の包絡線を示す信号の一例を示す模式図である。
図18図18は、第2実施形態における信号出力装置1の構成の一例を示す模式図である。
図19図19は、第2実施形態における信号出力装置1の動作の一例を示すフローチャートである。
図20図20は、第2実施形態における信号出力装置1の詳細な動作の一例を示すフローチャートである。
図21図21は、第2実施形態における信号出力装置1の動作に伴う出力信号の評価方法の一例を示す模式図である。
図22図22は、信号出力装置1の信号処理方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態としての信号出力装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明をする。なお、各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0021】
(第1実施形態:信号出力装置1)
図1及び図22を参照して、本実施形態における信号出力装置1の構成の一例を説明する。
【0022】
信号出力装置1は、例えば分娩時において母体の腹部に装着され、生体電気信号を取得する。信号出力装置1は、取得した生体電気信号から、母体の腹筋の動作を示す信号と、子宮筋の動作を示す信号とを抽出し、出力する。これら2つの信号は、取得した同一の生体電気信号から抽出されるため、同時刻における腹筋の動作と子宮筋の動作とをそれぞれ示す。したがって、信号出力装置1を用いることで、複数の機器を用いることなく、分娩時の母体の子宮収縮による子宮筋の動作と、怒責による腹筋の動作と、のずれを容易に把握することができる。また、怒責による腹筋の動作が、子宮収縮による子宮筋の動作に対かして早いずれか、遅いずれか、どの程度ずれているか、等の情報をリアルタイムで取得できる。そのため、信号出力装置1の使用者は、子宮収縮による子宮筋の動作と怒責による腹筋の動作との同期を試みることが可能となり、分娩時における母体と胎児の安全性向上を図ることができる。
【0023】
信号出力装置1が取得する生体電気信号は、例えば図22に示すように、腹筋の動作を示す周波数帯域である腹部筋電図帯域(30Hz~100Hz)の信号と、胎児の心臓の電気的な活動を示す周波数帯域である胎児心電図帯域(20Hz~60Hz)の信号と、母体の心臓の電気的な活動を示す周波数帯域である母体心電図帯域(10Hz~30Hz)の信号と、子宮筋の動作を示す周波数帯域である子宮筋電図帯域(0.45Hz~2Hz)の信号と、その他呼吸等による環境ノイズと、を含む。信号出力装置1は、取得した生体電気信号を所定の周波数帯域ごとに分解し、腹部筋電図帯域の信号と子宮筋電図帯域の信号とをそれぞれ抽出することにより、母体の腹筋の動作を示す信号と、子宮筋の動作を示す信号とを抽出することができる。
【0024】
信号出力装置1は、例えば図1(a)に示すように、筐体10と、信号取得部11と、信号抽出部12と、信号出力部13と、を備える。
【0025】
<筐体10>
筐体10は、例えば信号取得部11と外部接続され、信号抽出部12と信号出力部13とが搭載される。筐体10は、例えばCPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)が集積された、図示しない公知のマイクロコントローラが搭載されてもよく、当該マイクロコントローラを信号抽出部12及び信号出力部13として機能させてもよい。このとき、CPUがROMに記憶されているプログラムを読み出して、RAMを作業領域として実行することにより、信号取得部11信号抽出部12、及び信号出力部13の機能を実現する。また、マイクロコントローラの代わりにデジタル信号の処理に優れるDSP(Digital Signal Processor)を用いてもよい。
【0026】
また、筐体10は例えば図示しないキーボード等の入力部と、ディスプレイ等の表示部とを備えてもよい。このとき、信号出力装置1の使用者は、入力部を介して各種制御コマンド等を入力して信号取得部11に生体電気信号を取得させ、信号出力部13の出力結果を、表示部に表示させてもよい。信号出力装置1は、例えばタッチパネル式の場合、入力部と表示部とが一体に設けられる。
【0027】
<信号取得部11>
信号取得部11は、例えば分娩時の母体の腹部から母体の生体電気信号を取得する。本実施形態において、信号取得部11は、例えば図1(b)に示すように、電気的に接続可能なリード線の一方の端部と外部接続される。当該リード線の他方の端部には、母体の腹部に装着される皮膚取り付け用の各関電極111~114及び不関電極110が設けられる。信号取得部11は、各関電極111~114、不関電極110、及びリード線を介して、各関電極111~114及び不関電極110を取り付けた位置の生体電気信号を取得することができる。各関電極111~114及び不関電極110としては、例えば銀/塩化銀のディスポーザブル電極が用いられる。また、信号取得部11は、各関電極111~114及び不関電極110の代わりに、各関電極111~114及び不関電極110と同等の機能を有する生体磁気センサーを用いて生体電気信号を取得してもよい。
【0028】
信号取得部11は、各関電極111~114と不関電極110との差動電位に関する情報を含む各差動電位信号を算出した上で、各差動電位信号の増幅処理及びフィルタ処理を行うことで各電極の単極誘導電位信号を取得する増幅・フィルタ処理部115と、増幅・フィルタ処理部115が取得した単極誘導電位信号をデジタル変換するA/D変換部116と、A/D変換部116がデジタル変換した単極誘導電位信号に基づき、各関電極111~114間の双極誘導電位信号を取得するモンタージュ処理部117と、を有する。
【0029】
信号取得部11が取得した信号は、例えば筐体10のRAMに記憶される。信号取得部11が取得した信号は、各関電極111~114及び不関電極110から、リード線を介して筐体10へ送信されるほか、Bluetooth、Wi-Fi等の公知の無線通信技術を介して、筐体10へ送信されてもよい。
【0030】
<信号抽出部12>
信号抽出部12は、信号取得部11が取得した信号から、子宮筋の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる信号と、腹筋の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる信号と、を時系列的に順次抽出する。抽出条件とする各周波数帯域については、例えば筐体10のROMに予め記憶されるプログラムに基づいて特定される。
【0031】
<信号出力部13>
信号出力部13は、信号抽出部12が抽出した信号を出力する。変換処理の方法については、例えば筐体10のROMに記憶されるプログラムに基づいて特定される。信号出力部13は、例えば筐体10に外部接続される図示しないディスプレイ等に対して、信号抽出部12が抽出した信号を外部出力してもよい。
【0032】
(第1実施形態:信号出力装置1の動作方法)
図2図17を参照して、本実施形態における信号出力装置1の動作方法の一例を説明する。信号出力装置1は、例えば信号出力装置1内にインストールされたプログラムを介して動作を実行する。
【0033】
信号出力装置1の動作は、例えば図2に示すように、信号取得ステップS11と、信号抽出ステップS12と、信号出力ステップS13と、を備える。信号取得ステップS11の前に、筐体10に外部接続された各電極110~114は、母体の腹部に予め装着される。
【0034】
<信号取得ステップS11の事前準備>
図3は、各電極110~114が装着された母体2の腹部20を示す模式断面図である。信号出力装置1は、各電極110~114を介して、子宮筋21の動作に関する特徴を示す信号と、腹筋22の動作に関する特徴を示す信号と、を含む生体電気信号を取得することができる。
【0035】
また、図4は、信号取得部11が装着された母体2の腹部20を示す平面図である。各電極110~114は、母体2の腹部20に装着される。各電極110~114を装着する場所は、例えば図4に示すように、4つの関電極111、112、113、114が、子宮筋21を上下左右の4つの区域に分割したそれぞれの区域において1カ所ずつ装着される。また、不関電極110は、例えば図3及び図4に示すように、子宮筋21の周囲のうち、恥骨側の位置に装着される。
【0036】
このように各電極110~114の装着位置を特定した理由としては、筋肉の収縮が子宮底で強く表れる一方で、子宮下部では弱く、子宮頸部では本質的に見られない傾向にあるためである。また、子宮の大きさは妊娠経過月数により増大し、妊娠9か月頃には子宮底が外腹斜筋上部の位置にまで達する。このため、子宮筋21の動作に関する特徴を示す信号を取得するためには、子宮底と子宮頸部との間の双極誘導電位、すなわち関電極111と関電極114との間の双極誘導電位、又は関電極112と関電極113との間の双極誘導電位を取得する必要がある。また、母体の怒責に伴う腹筋22の動作に関する特徴を示す信号を取得するためには、関電極112と不関電極110との差動電位である単極誘導電位を取得する必要がある。以上の理由に基づき、各電極110~114の配置位置を決定する。また、各電極110~114を、腹部20の中央を空けるように配置することにより、例えば公知の超音波ドプラ心拍計のプローブの装着や、胎児3を観察するための超音波断層法検査を行う際の産科的処置の障害とならない利点がある。
【0037】
分娩時において、胎児3の娩出力は、子宮筋21の動作による子宮内圧の増加と、腹筋22の動作による腹腔内圧の増加が要因となる。子宮筋21は、子宮収縮することで、例えば図3の実線に示す方向に胎児3を押圧する。腹筋22は、例えば筋肉の動作により腹腔23の内圧を増加させることで、例えば図3の一点鎖線に示す方向に、子宮筋を介して胎児3を押圧する。子宮筋21による押圧と、腹筋22による押圧とが協調することで、胎児3の娩出力が効果的に増加する。このため、子宮収縮による子宮内圧の動作に関する情報と、怒責による腹腔内圧の動作に関する情報とを、時系列的に取得することは、効果的な娩出力を得るために有用であり、分娩時の母体2と胎児3の出産に伴うリスクの低減につながる。
【0038】
<信号取得ステップS11>
信号取得ステップS11は、例えば図5に示すように、信号抽出ステップS12及び信号出力ステップS13の前に実施される。信号取得ステップS11において、信号取得部11は、例えば図6に示すように、生体電気信号D11を取得する。生体電気信号D11には、例えば腹壁誘導生体電気信号D111が含まれる。
【0039】
信号取得部11は、例えば各関電極111~114から取得した電位信号と、不関電極110から取得した電位信号との差分である各差動電位信号を算出した上で、増幅・フィルタ処理部115を介して増幅処理及びフィルタ処理を行い、各関電極111~114の単極誘導電位を取得する。増幅処理の条件は、心電計等で用いられる公知の設定値が採用され、例えば感度10μV/mmである。フィルタ処理の条件は、心電計等で用いられる公知の設定値が採用され、例えば時定数0.35秒、カットオフ周波数が0.45Hz~100Hzの帯域を通過させるフィルタ処理である。
【0040】
その後、信号取得部11は、取得した各関電極111~114の単極誘導電位を、A/D変換部116を介してデジタル信号に変換する。デジタル信号の変換時のサンプリング周波数は、例えば360Hzである。さらに、信号取得部11は、デジタル信号に変換された各関電極111~114の単極誘導電位について、モンタージュ処理部117を介してモンタージュ処理を行い、各関電極111~114間の双極誘導電位信号を取得する。すなわち、信号取得部11は、4系統の単極誘導電位信号と、6系統の双極誘導電位信号と、の計10系統の信号を、腹壁誘導生体電気信号D111として取得する。
【0041】
<<生体電気信号D11>>
生体電気信号D11は、母体2の生体電気信号の一つであり、子宮筋21及び腹筋22の動作に関する特徴を示す信号を含む。ここで、生体電気信号D11は、電気的な信号成分を指し、心拍、脈拍等、生体現象によって体内から発せられる他の信号成分を含まない。生体電気信号D11の例として、本実施形態においては、腹壁誘導生体電気信号D111を取得する。
【0042】
<<腹壁誘導生体電気信号D111>>
腹壁誘導生体電気信号D111とは、母体2の腹壁表面、すなわち各電極110~114が装着される皮膚表面から導出される生体電気信号を指す。腹壁誘導生体電気信号D111は、例えば図7のように示される。この信号には、子宮筋21及び腹筋22の動作に関する特徴を示す信号以外に、母体2の体動や呼吸、胎児3の体動や呼吸等の生理学的干渉、及びリード線による電力線干渉等、環境ノイズが多く含まれている。このため、後述のとおり、子宮筋21及び腹筋22の動作に関する特徴を示す周波数帯域を抽出することで、これらのノイズを除去する必要がある。
【0043】
<信号抽出ステップS12>
信号抽出ステップS12は、例えば図5に示すように、信号取得ステップS11の後、信号出力ステップS13の前に実施される。信号抽出ステップS12において、信号抽出部12は、例えば図6に示すように、生体電気信号D11から、抽出信号D12を抽出する。抽出信号D12には、例えば1次分解信号D121、1次合成信号D122、サンプリング信号D123、2次分解信号D124、第1特徴信号D125、第2特徴信号D126が含まれる。
【0044】
信号抽出ステップS12において、信号抽出部12は、例えば図5及び図6に示すように、信号取得部11が取得した腹壁誘導生体電気信号D111について、MODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット変換)を用いて周波数帯域ごとの1次分解処理を行い、1次分解信号D121を取得する(S121)。その後、IMODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット逆変換)を用いて、特定の周波数帯域の1次合成処理を行い、1次変換信号D121から、母体2の子宮筋21の動作に関する特徴を示す周波数帯域が内包される、低周波数帯域を含む1次合成信号D122を抽出する(S122)。
【0045】
信号抽出部12は、抽出した1次合成信号D122について、環境ノイズ成分を除去するために、ダウンサンプリングを行い、サンプリング信号D123を取得する(S123)。その後、サンプリング信号D123について、MODWTを用いて周波数帯域ごとの2次分解処理を行い、2次分解信号D124を取得し(S124)、IMODWTを用いて特定の周波数帯域の2次合成処理を行い、2次分解信号D124から、母体2の子宮筋21の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域を含む第1特徴信号D125を抽出する(S125)。
【0046】
また、信号抽出ステップS12において、信号抽出部12は、IMODWTを用いて、1次分解信号D121から、母体2の腹筋22の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域を含む第2特徴信号D126を抽出する(S126)。
【0047】
<<抽出信号D12>>
抽出信号D12は、生体電気信号D11に含まれる信号成分の一つであり、特定の周波数帯成分に分解した信号と、分解した信号同士を合成した信号と、を含む。合成した信号の基となる、分解した信号の組み合わせについては、子宮筋21及び腹筋22の動作に関する特徴を示す周波数帯成分が含まれるように選択される。なお、分解した信号そのものを抽出する場合は、その信号が単独で選択されてもよい。抽出信号D12の例として、本実施形態においては、生体電気信号D11を特定の周波数帯成分に分解した1次分解信号D121から、最終的に、子宮筋21の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる第1特徴信号D125と、腹筋22の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる第2特徴信号D126と、を抽出する。
【0048】
<<1次分解信号D121>>
1次分解信号D121は、信号取得部11が取得した腹壁誘導生体電気信号D111を、信号抽出部12が特定の周波数帯成分に分解した各信号を指す。1次分解信号D121は、例えば図8に示すとおり、サンプリング信号のサンプリング周波数360Hz、信号の分割階層を5Levelとする多重解像化データとして、symlet-4ウェーブレット変換により分解される。図8中の「Level1」は90Hz~180Hzの周波数帯域の成分を、「Level2」は43.4Hz~93.3Hzの周波数帯域の成分を、「Level3」は21.7Hz~46.5Hzの周波数帯域の成分を、「Level4」は10.9Hz~23.3Hzの周波数帯域の成分を、「Level5」は5.43Hz~11.6Hzの周波数帯域の成分を、それぞれ示す。なお、図中の「Approx」とは、Level5よりもさらに低い低周波数帯域成分を指し、0.016Hz~5.61Hzの周波数帯域の成分を示す。
【0049】
特定の周波数帯域成分の分解方法として例えばMODWTが、またMODWTに対する合成方法として例えばIMODWTが用いられる。MODWT及びIMODWTは、非間引き離散ウェーブレット変換であり、任意のサンプルサイズの信号を処理するために用いられる多重解像度解析方法である。離散ウェーブレット変換は、信号を高周波数帯域成分と低周波数帯域成分とに分解し、分解された低周波数帯域成分をさらに高周波数帯域成分と低周波数帯域成分とに分解するという処理を繰り返し行うことと等価である。離散ウェーブレット変換は可逆変換であるため、一度変換した情報を加工して逆変換することで、ノイズの除去などに応用することができる。抽出を図る信号の波形が想定できる場合、その波形に近いマザーウェーブレットを用いて離散ウェーブレット変換及び離散ウェーブレット逆変換を行うことで、ノイズを除去した状態の波形を復元できる。なお、上記の「symlet-4ウェーブレット」とは、マザーウェーブレットの一種であり、心電信号のQRS群(ピーク波形の一例)と相似していることから、生体電気信号の解析に用いられる。
【0050】
具体的には、サンプリングした信号を基準として、周波数成分を徐々に細かく等間隔に分割する変換パケット群を生成することにより、マザーウェーブレットの波形と相似する波形だけ抽出し、高解像度の時間周波数解析及び信号分類の実施が可能である。例えば、生成される信号は、マザーウェーブレットをスケール(伸縮)又はトランスレート(平行移動)した相似なスケールの波形として抽出されるため、時間軸情報を失うことなく抽出することができる。また、非定常な信号に対して、異なる周波数帯域に分解及び合成を行うことができる(上記記載例では2分の1の間隔で分割)。このため、高精度なバンドパスフィルターを構成することができる。MODWT及びIMODWTを用いることにより、腹壁誘導生体信号D111から、第1特徴信号D125及び第2特徴信号D126の各信号を、高い周波数分解能で、リアルタイムに、時系列的に順次抽出することが可能である。
【0051】
<<1次合成信号D122>>
1次合成信号D122は、1次分解信号D121の各信号について、信号抽出部12が組み合わせて合成した信号を指す。1次合成信号D122は、例えば図9に示す信号である。1次合成信号D122は、例えば図8に示す「Approx(0.016Hz~5.61Hz)」の低周波数帯域成分を選択して、IMODWTを用いて逆変換することにより、0.016Hz~5.61Hzの周波数帯域の成分を含む信号として取得される。
【0052】
なお、筋肉の動作に関する特徴を示す信号を抽出する際、心臓の電気的信号を除外するために、サンプリング周波数は通常1kHz以上に設定される。これに対して、本発明において例示するサンプリング周波数は、360Hzと設定している。サンプリング周波数の好適な範囲としては、一度のMODWTにより、腹筋22の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域(例えば29Hz~45Hz、及び77Hz~88Hz。後述参照。)の成分と、子宮筋21の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域(0.4Hz~4Hz。後述参照。)の抽出が可能な成分と、に分解することができる値として、第2周波数帯域の高域上限(88Hz)とフィルタ処理条件であるカットオフ周波数の高域上限(100Hz)との間の周波数帯域88Hz~100Hzを抽出する周波数帯域の上限値とし、MODWTによる周波数帯域の分割間隔を2-1倍として、当該周波数帯域の2n倍(nは自然数)が好ましく、例えば下限値として当該周波数帯域の2倍である176Hz~200Hz以上が好ましい。また、本発明は、各信号の出力にリアルタイム性が要求されることから、処理対象となるデータ量を削減するために通常のサンプリング周波数1kHzよりもできるだけ低いサンプリング周波数が好ましく、例えば上限値として当該周波数帯域の4倍である352Hz~400Hz以下が好ましい。以上の理由から、信号取得ステップS11において、デジタル信号への変換時のサンプリング周波数は、MODWTによる周波数帯域の分割間隔を2-1倍として、例えば176Hz以上400Hz以下が好ましく、176Hz以上200Hz以下、又は352Hz以上400Hz以下がより好ましい。
【0053】
<<サンプリング信号D123>>
サンプリング信号D123は、1次合成信号D122を、信号抽出部12がダウンサンプリングした信号を指す。サンプリング信号D123は、例えば図10に示す信号である。サンプリング信号D123は、おおよそ0.45Hz以下の周波数帯域と、それよりも高い周波数帯域と、を信号分類するために好適なスケールとして、例えば1次合成信号D122をサンプリング周波数30Hzでダウンサンプリングすることで取得する。この場合、サンプリング信号D123に対して、MODWTを用いた2次分解処理、及びIMODWTを用いた2次合成処理を行うことで、低周波数帯域(0.016Hz~5.61Hz)の信号から、母体2や胎児3の呼吸の特徴を示す周波数帯域(0.20Hz~0.34Hz)等の生理学的干渉等の環境ノイズが除去された信号を取得することができる。本実施形態においては、母体2や胎児3の呼吸の特徴を示す周波数帯は、後述の2次分解信号D124のうち「Approx」の低周波数帯域成分に含まれるため、「Approx」を除外して信号を合成することで、上記環境ノイズを除去できる。
【0054】
<<2次分解信号D124>>
2次分解信号D124は、サンプリング信号D123を、信号抽出部12が特定の周波数帯域成分にさらに分解した各信号を指す。2次分解信号D124は、例えば図11に示すとおり、サンプリング信号周波数30Hz、5Levelとする多重解像化データとして、symlet-4ウェーブレット変換により分解される。図11中の「Level1」は7.5Hz~15Hzの周波数帯域の成分を、「Level2」は3.62Hz~7.78Hzの周波数帯域の成分を、「Level3」は1.81Hz~3.88Hzの周波数帯域の成分を、「Level4」は0.905Hz~1.94Hzの周波数帯域の成分を、「Level5」は0.452Hz~0.969Hzの周波数帯域の成分を、それぞれ示す。なお、図中の「Approx」とは、Level5よりもさらに低い低周波数帯域成分を指し、0.016Hz~0.485Hzの周波数帯域の成分を示す。
【0055】
<<第1特徴信号D125>>
第1特徴信号D125は、2次分解信号D124の各信号について、信号抽出部12が組み合わせて合成した信号を指す。第1特徴信号D125は、例えば図12に示す信号である。第1特徴信号D125は、例えば図11に示す「Level4」と「Level5」とを選択して、IMODWTを用いて逆変換することにより、0.452Hz~1.94Hzの周波数帯域の成分を含む信号として取得される。すなわち、母体2の子宮筋21の動作を示す第1周波数帯域(0.452Hz~1.94Hz)を含む第1特徴信号D125が取得される。第1特徴信号D125は、例えば子宮筋21の動作を示すEHG(ElectroHysteroGram:子宮筋活動電位)として活用することができる。
【0056】
第1周波数帯域の信号と、子宮筋21の動作との関係については、「Characterization of uterine activity by electrohysterography」において述べられている。子宮筋の動作を示す電気信号は、低速波と高速波の2種類の波で構成され、高速波には筋活動に関する情報が含まれる。また、高速波は、低周波数帯域と高周波数帯域とに分類される。周波数帯域0.1Hz~0.6Hzの電気信号は、妊娠中と分娩中の両方の収縮中に常に存在し、子宮の過敏性としても知られるアルバレス波や、長時間低周波(LDBF波)、ブラクストン・ヒックス収縮とも呼ばれる非定常手的な収縮に関する情報を含む。一方で、周波数帯域0.4Hz~4Hzの電気信号は、分娩中の子宮収縮に関する情報を含む。すなわち、周波数帯域0.4Hz~4Hzに内包される第1周波数帯域は、子宮筋の動作の特徴を示すといえる。したがって、第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号D125を抽出することで、分娩中の子宮筋21の動作に関する情報を効率的に取得することができる。
【0057】
<<第2特徴信号D126>>
第2特徴信号D126は、1次分解信号D121の各信号について、信号抽出部12が組み合わせて合成した信号を指す。第2特徴信号D126は、例えば図13に示す信号である。第2特徴信号D126は、例えば図8に示す「Level2」と「Level3」とを選択して、IMODWTを用いて逆変換することにより、21.7Hz~93.3Hzの周波数帯域の成分を含む信号として取得される。すなわち、母体2の腹筋22の動作を示す第2周波数帯域(21.7Hz~93.3Hz)を含む第2特徴信号D126が取得される。第2特徴信号D126は、例えば腹筋22の動作を示すEMG(ElectroMyoGram:腹筋活動電位)として活用することができる。なお、本実施形態においては、第2周波数帯域に合わせて、信号1次分解(S121)においてサンプリング周波数及び周波数成分の分割間隔が選択されるため、第1特徴信号D125を含む1次合成信号D122と、第2特徴信号D126とを、一度のMODWTで得られる1次分解信号D121の各信号に基づいて抽出できる。この場合、信号抽出に伴う信号出力装置1の負荷が低減され、各信号をよりリアルタイムに出力することができる。
【0058】
第2周波数帯域の信号と、腹筋22の動作との関係については、「母体腹部体表筋電図に関する研究―その意義と臨床応用―(札幌医科大学 長澤 邦雄 著)」において述べられている。初産40例及び経産50例を対象としたMAS-EMG(母体腹部体表筋電図)の観察の結果、MAS-EMGの周波数特性として、約10Hz~110Hzが有効と報告されている。また、筋電位の高い左外腹斜筋部と右外腹斜筋部の中心周波数が29Hz~45Hz、及び77Hz~88Hzと報告されている。すなわち、周波数帯域10Hz~110Hzに内包され29Hz~45Hz、及び77Hz~88Hzを内包する第2周波数帯域は、腹筋の動作の特徴を示すといえる。したがって、第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号D126を抽出することで、分娩中の腹筋22の動作に関する情報を効率的に取得することができる。
【0059】
<信号出力ステップS13>
信号出力ステップS13は、例えば図5に示すように、信号抽出ステップS12の後に実施される。信号出力ステップS13において、信号出力部13は、例えば図5図6に示すように、抽出信号D12のうち、同一の生体電気信号D11から抽出された、第1特徴信号D125と第2特徴信号D126とを、時系列的に順次出力する(S131)。この場合、同時刻の怒責と子宮収縮とを容易に検出することができる。また、怒責と子宮収縮とのずれを容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3の安全性向上を図ることができる。
【0060】
なお、信号出力ステップS13において、信号出力部13は、加工処理された第1特徴信号D125と、加工処理された第2特徴信号D126とを、処理信号D13として、時系列的に順次出力してもよい。
【0061】
処理信号D13を出力する場合、例えば筐体10に搭載される図示しない信号処理部は、信号抽出部12が抽出した第1特徴信号D125について周波数を2乗して加工処理する。また、信号処理部は、信号抽出部12が抽出した第2特徴信号D126について周波数を2乗して加工処理する。その後、信号出力部13は、信号処理部で加工処理された第1特徴信号D125と第2特徴信号D126とを、時系列的に順次出力する。この処理により、各信号のS/N比が向上し、信号のピークの分離精度を向上させることができる。すなわち、子宮筋21の動作の特徴を示す第1特徴信号D125の信号のピークと、腹筋22の動作の特徴を示す第2特徴信号D126の信号のピークと、の時刻差の目視判定の精度を向上させることができる。このため、怒責を子宮収縮と同期しやすくすることができる。これにより、分娩時において母体と胎児のさらなる安全性向上を図ることができる。また、2乗する加工処理の場合、後述の各絶対値信号D131、D132と同様に、各信号のピークが信号の向きによらず一様に出力されるため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。
【0062】
また、信号処理部は、例えば信号抽出部12が抽出した第1特徴信号D125を、第1特徴信号D125の絶対値を示す第1絶対値信号D131として加工処理する。また、信号処理部は、信号抽出部12が抽出した第2特徴信号D126を、第2特徴信号D126の絶対値を示す第2絶対値信号D132として加工処理する。その後、信号出力部13は、同一の生体電気信号D11から抽出され、信号処理部により加工処理された第1絶対値信号D131と第2絶対値信号D132とを、時系列的に順次出力する。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、が信号の向きによらず一様に出力される。この場合、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0063】
また、信号処理部は、例えば信号抽出部12が抽出した第1特徴信号D125を、第1特徴信号D125の包絡線を示す第1信号包絡線D133として加工処理する。また、信号処理部は、例えば信号抽出部12が抽出した第2特徴信号D126を、第2特徴信号D126の包絡線を示す第2信号包絡線D134として加工処理する。その後、信号出力部13は、同一の生体電気信号D11から抽出され、信号処理部により加工処理された第1信号包絡線D133と第2絶対値信号D134とを、時系列的に順次出力する。各信号包絡線D133、D134は、各特徴信号D125、D126と比べて、信号のピーク以外の領域が平滑化され、信号のおおよその変動を検出しやすく、信号のピークの分離精度の向上を図ることができる。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、がより明確に出力される。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0064】
<<処理信号D13>>
処理信号D13は、第1特徴信号D126又は第2特徴信号D127を加工処理した信号である。処理信号D13は、第1絶対値信号D131と、第2絶対値信号D132と、第1信号包絡線D133と、第2信号包絡線D134と、を含む。
【0065】
<<第1絶対値信号D131>>
第1絶対値信号D131は、第1特徴信号D125の絶対値を示す信号を指す。第1特徴信号D125は、図12に示すとおり、信号の方向(電場の向き)によって電位差の正負が逆転するため、子宮収縮による信号のピークについて視認性や検出の容易性に改良の余地がある。そこで、例えば図14に示すとおり、第1特徴信号D125の絶対値を示すことにより、例えば第1特徴信号D125に含まれる子宮収縮による信号のピークについて、方向が異なるピークの位相を一方向に整合させることができる。
【0066】
<<第2絶対値信号D132>>
第2絶対値信号D132は、第2特徴信号D126の絶対値を示す信号を指す。第2特徴信号D126は、図13に示すとおり、信号の方向(電場の向き)によって電位差の正負が逆転するため、例えば図15に示すとおり、第2特徴信号D126の絶対値を示すことにより、例えば第2特徴信号D126に含まれる怒責(腹部筋収縮)による信号のピークについて、方向が異なるピークの位相を一方向に整合させることができる。
【0067】
<<第1信号包絡線D133>>
第1信号包絡線D133は、例えば第1特徴信号D125の包絡線、又は第1絶対値信号D131の包絡線を示す信号を指す。第1特徴信号D125及び第1絶対値信号D131は、それぞれに含まれる信号のピークの判定に不要な情報が多く、視認性及び検出の容易性に改良の余地がある。そこで、例えば図16に示すとおり、第1絶対値信号D131の包絡線を示すことにより、子宮収縮による信号のピークについて視認性及び検出の容易性を向上させることができる。信号包絡線の形成方法としては、例えばローパスフィルタ処理、移動平均値への加工処理、移動中央値への加工処理等、適宜平滑化処理方法を選択してもよい。なお、移動中央値は、移動平均値に比べて外れ値の影響を受けづらく、時系列データの本来の特徴をよく表すことができるため、好適とされる。なお、図示は省略したが、第1信号包絡線D133は、第1特徴信号D125の包絡線を示す場合においても、同様に視認性及び検出の容易性の改良を図ることができる。
【0068】
<<第2信号包絡線D134>>
第2信号包絡線D134は、例えば第2特徴信号D126の包絡線、又は第2絶対値信号D132の包絡線を示す信号を指す。第2特徴信号D126及び第2絶対値信号D132は、それぞれに含まれる信号のピークの判定に不要な情報が多く、視認性及び検出の容易性に課題がある。そこで、例えば図17に示すとおり、第2絶対値信号D132の包絡線に加工処理することで、怒責(腹部筋収縮)による信号のピーク視認性及び検出の容易性を向上させることができる。信号包絡線の形成方法としては、第1信号包絡線D133と同様である。なお、図示は省略したが、第2信号包絡線D134は、第2特徴信号D126の包絡線を示す場合においても、同様に視認性及び検出の容易性の改良を図ることができる。
【0069】
上述した各ステップを実行し、本実施形態における信号出力装置1の動作は終了する。なお、信号出力装置1は、例えば上述した各ステップを繰り返し実行してもよい。
【0070】
本実施形態によれば、取得された生体電気信号D11から、子宮筋21の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号D125と、腹筋22の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号D126と、を時系列的に順次抽出する信号抽出部12と、同一の生体電気信号D11から抽出された第1特徴信号D125と第2特徴信号D126とを、時系列的に順次出力する信号出力部13と、を備える。このため、同時刻の怒責と子宮収縮とを容易に検出することができる。また、怒責と子宮収縮とのずれを容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3の安全性向上を図ることができる。
【0071】
本実施形態によれば、信号出力部13は、第1特徴信号D125の絶対値を示す第1絶対値信号D131と、第2特徴信号D126の絶対値を示す第2絶対値信号D132と、を時系列的に順次出力する。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、が信号の向きによらず一様に出力される。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0072】
本実施形態によれば、信号出力部13は、第1特徴信号D125の包絡線を示す第1信号包絡線D133と、第2特徴信号D126の包絡線を示す第2信号包絡線D134と、を時系列的に順次出力する。すなわち、怒責による信号のピークと、子宮収縮による信号のピークと、がより明確に出力される。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0073】
本実施形態によれば、取得された生体電気信号D11から、子宮筋21の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号D125と、腹筋22の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号D126と、を時系列的に順次抽出する信号抽出ステップS12と、同一の生体電気信号D11から抽出された第1特徴信号D125と第2特徴信号D126とを、時系列的に順次出力する信号出力ステップS13と、を備える。このため、同時刻の怒責と子宮収縮とを容易に検出することができる。また、怒責と子宮収縮とのずれを容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3の安全性向上を図ることができる。
【0074】
(第2実施形態:信号出力装置1)
図18を参照して、本実施形態における信号出力装置1の構成の一例を説明する。本実施形態は、信号出力装置1が信号評価部14をさらに備える点で、第1実施形態とは異なる。なお、上述の内容と同様の構成については、説明を省略する。
【0075】
信号出力装置1は、例えば図18に示すように、筐体10において、信号評価部14をさらに備える。なお、信号評価部14は、筐体10に搭載されず、筐体10と外部接続される公知のラップトップ(ノート)PC又はデスクトップPC等の電子機器に搭載されてもよい。
【0076】
<筐体10>
筐体10は、例えば信号評価部14が搭載される。筐体10は、例えば搭載されるマイクロコントローラを信号評価部14として機能させてもよい。このとき、CPUがROMに記憶されているプログラムを読み出して、RAMを作業領域として実行することにより、信号評価部14の機能を実現する。
【0077】
<信号評価部14>
信号評価部14は、信号出力部13が出力した信号を比較して評価する。信号評価部14は、例えば信号出力部13が出力する、子宮筋21の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる信号のピークが表れる時刻と、腹筋22の動作に関する特徴を示す周波数帯域に含まれる信号のピークが表れる時刻と、の時刻差を評価する。信号評価部14は、例えば時刻差の評価結果を出力する。評価結果の出力内容としては、例えば時刻差を特定する定量的情報であるほか、時刻差の程度を数段階(良・可・不可など)の階層で特定する定性的情報でもよい。
【0078】
(第2実施形態:信号出力装置1の動作方法)
図19図21を参照して、本実施形態における信号出力装置1の動作方法の一例を説明する。
【0079】
信号出力装置1の動作は、例えば図19に示すように、信号評価ステップS14をさらに備える。
【0080】
<信号評価ステップS14>
信号評価ステップS14は、例えば図20に示すように、信号出力ステップS13の後に実施される。信号評価ステップS14において、信号評価部14は、例えば信号出力部13が出力した第1特徴信号D125と第2特徴信号D126とのそれぞれのピークを検出し、各ピークの時刻差を比較する(S141)。その後、信号評価部14は、各ピークの時刻差の評価結果を出力する(S142)。
【0081】
各信号のピーク検出方法は、例えば信号評価部14が搭載される筐体10又は信号評価部14が搭載される筐体10の外部接続機器に予めインストールされる、公知のリアルタイムQRS検出システムが用いられ、例えばPan-Tompkins(PT)アルゴリズムが用いられる。
【0082】
図21に、信号評価部14において、第1絶対値信号D131の包絡線を示す第1信号包絡線D133のピーク、及び第2絶対値信号D132の包絡線を示す第2信号包絡線D134のピークの検出及び比較の例を示す。第1信号包絡線D133のピークが表れる時刻を示す第1時刻taを、それぞれta-1、ta-2、ta-3として示した。また、第2信号包絡線D134のピークが表れる時刻を示す第2時刻tbを、それぞれtb-1、tb-2、tb-3として示した。このとき、第1時刻taと第2時刻tbとの時刻差Tは、それぞれTa、Tb、Tcとして示される。すなわち、信号評価部14は、第1特徴信号D125のピークが表れる時刻を示す第1時刻taと、第2特徴信号のピークが表れる時刻を示す第2時刻taと、の時刻差Tを評価する。この場合、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0083】
なお、第1時刻taと第2時刻tbとは、信号出力装置1が、信号取得部11により生体電気信号D11が取得される時点での現在時刻を取得し、信号出力部13が、当該現在時刻と各特徴信号D125、D126とを紐づけて出力し、信号評価部14が、ピークが表れた時点での各特徴信号D125、D126に紐づけられる現在時刻を特定する方法により、特定されてもよい。また、第1時刻taと第2時刻tbとは、信号出力装置1が、信号出力部13により連続的に出力される各特徴信号D125、D126の出力時点での現在時刻を取得し、信号出力部13が、当該現在時刻と各特徴信号D125、D126とを紐づけて出力し、信号評価部14が、ピークが表れた時点での各特徴信号D125、D126に紐づけられる現在時刻を特定する方法により、特定されてもよい。また、第1時刻taと第2時刻tbとは、上記の現在時刻の代わりに、信号出力装置1の運転開始時刻を起点として特定されてもよい。
【0084】
なお、図21では説明の都合上、EHGと同等の情報が得られる信号として、第1絶対値信号D131の包絡線を示す第1信号包絡線D133を、また、EMGと同等の情報が得られる信号して、第2信号包絡線D134を、それぞれ比較する例を記載したが、これに限定されない。信号評価部14は、例えば第1特徴信号D125と第2特徴信号D126との組み合わせ、第1絶対値信号D131と第2絶対値信号D132との組合せ、又は第1特徴信号D125の包絡線を示す第1信号包絡線D133と第2特徴信号D126の包絡線を示す第2信号包絡線D134との組み合わせを用いて、時刻差Tを評価してもよい。
【0085】
本実施形態によれば、第1特徴信号D125のピークが表れる時刻を示す第1時刻taと、第2特徴信号のピークが表れる時刻を示す第2時刻taと、の時刻差Tを評価する信号評価部14をさらに備える。このため、怒責と子宮収縮とのずれをさらに容易に把握することができる。これにより、分娩時において母体2と胎児3のさらなる安全性向上を図ることができる。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 信号出力装置
10 筐体
11 信号取得部
110 不関電極
111~114 関電極
12 信号抽出部
13 信号出力部
14 信号評価部
2 母体
20 腹部
21 子宮筋
22 腹筋
23 腹腔
3 胎児
S11 信号取得ステップ
S12 信号抽出ステップ
S13 信号出力ステップ
S14 信号評価ステップ
D11 生体電気信号
D111 腹壁誘導生体電気信号
D12 抽出信号
D121 1次分解信号
D122 1次合成信号
D123 サンプリング信号
D124 2次分解信号
D125 第1特徴信号
D126 第2特徴信号
D13 処理信号
D131 第1絶対値信号
D132 第2絶対値信号
D133 第1信号包絡線
D134 第2信号包絡線
a 第1時刻
b 第2時刻
T 時刻差
【要約】
【課題】分娩時において母体と胎児の安全性向上を図ることができる信号出力装置、及び信号出力方法を提供する。
【解決手段】信号出力装置1は、母体2の腹部20から生体電気信号を取得する信号取得部と、信号取得部により取得された生体電気信号に対して、MODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット変換)処理及びIMODWT(最大オーバラップ離散ウェーブレット逆変換)処理を行い、母体2の子宮筋21の動作に関する特徴を示す第1周波数帯域に含まれる第1特徴信号と、第1周波数帯域よりも周波数が高く、母体2の腹筋22の動作に関する特徴を示す第2周波数帯域に含まれる第2特徴信号と、を時系列的に順次抽出する信号抽出部と、信号抽出部により同一の生体電気信号から抽出された第1特徴信号と第2特徴信号とを、時系列的に順次出力する信号出力部とを備えることを特徴とする。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
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図10
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図20
図21
図22