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特許7284556T細胞療法によるエプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】T細胞療法によるエプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20230524BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230524BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20230524BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P35/02
C12N5/0783
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017559029
(86)(22)【出願日】2016-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 US2016031784
(87)【国際公開番号】W WO2016183153
(87)【国際公開日】2016-11-17
【審査請求日】2019-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】62/160,549
(32)【優先日】2015-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジョン オレイリ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン エリザベス プロコプ
(72)【発明者】
【氏名】アイシャ ナスリーン ハサン
(72)【発明者】
【氏名】エカテリーナ ドウブロビナ
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】岡崎 美穂
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】HAQUE T,THE LANCET,英国,THE LANCET PUBLISHING GROUP,2002年8月10日,VOL:360, NR:9331,PAGE(S):436 - 442,URL,http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(02)09672-1
【文献】GANDHI M K,AMERICAN JOURNAL OF TRANSPLANTATION,2007年 5月,VOL:7,NR:5,PAGE(S):1293 - 1299,URL,http://dx.doi.org/10.1111/j.1600-6143.2007.01796.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35
A61P35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を含む、ヒト患者におけるEBV-LPD(エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害)を治療するための医薬組成物であって、該EBV-LPDが、B細胞系譜の細胞の障害であり、該EBV-LPDが、(a)該EBV-LPDを治療するための併用化学療法、(b)該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体を用いる療法、及び(c)該EBV-LPDを治療するための放射線療法に抵抗性であり、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子によって拘束されている、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記EBV-LPDが、EBV陽性リンパ腫である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記EBV-LPDが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗CD20モノクローナル抗体が、リツキシマブである、請求項1~3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に抵抗性である、請求項1~4のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記EBV-LPDが、前記ヒト患者の中枢神経系に存在する、請求項1~5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記EBV-LPDが、前記ヒト患者の脳内に存在する、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ヒト患者が、移植ドナーからの固形臓器移植のレシピエントである、請求項1~7のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ヒト患者が、移植ドナーからの造血幹細胞移植のレシピエントである、請求項1~7のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記同種異系T細胞の集団が、前記移植ドナー以外のドナーに由来する、請求項8又は9記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒト患者が、HIVに感染している、請求項1~7のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記治療が、前記ヒト患者に前記同種異系T細胞の集団を投与した後に、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む第2の同種異系T細胞の集団を投与することを含み、ここで該第2の同種異系T細胞の集団は、前記EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束されている、請求項1~11のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2015年5月12日に出願された、その全体が引用により本明細書に組み込まれている仮出願第62/160,549号の恩典を主張する。
(政府の権利の申告)
本発明は、国立保健研究所提供のRO1 CA 55349を受けて、政府の援助のもとになされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(1. 分野)
本明細書では、EBV-LPD(エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害)の治療のための併用化学療法及び/又は該EBV-LPDの治療のための放射線療法に失敗したヒト患者における該EBV-LPDの治療方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含む、前記方法を開示する。
【背景技術】
【0003】
(2. 背景)
エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害(EBV-LPD)は、固形臓器移植のレシピエント、造血幹細胞移植のレシピエント、及び他の免疫不全患者にとって病的状態及び死の重大な原因となる。EBV-LPDを治療するために、様々な治療、例えば化学療法、併用化学療法、放射線療法、リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)を用いる治療、及び細胞性免疫療法が、開発されてきた(例えば、Elstromらの文献、2006, Am J Transplant 6:569-576; Haqueらの文献、2001, Transplantation 72:1399-1402; Haqueらの文献、2002, Lancet 360:435-442; Gandhiらの文献、2007, American Journal of Transplantation 7:1293-1299;及びDoubrovina, E. らの文献、Blood, 2012. 119: 2644-2656を参照されたい。)。第一選択治療に失敗した局面にあっては、第二選択以後の(later lines)治療が試みられることが多い。例えば、多くのSOTレシピエント、特に、低悪性度の疾患を有する者にとって、第一選択治療は、漸減投薬量の免疫抑制剤を患者に与えることである。何人かの著者らは、免疫抑制剤の投薬量を低下させることに対する反応が十分でない患者において、単剤のリツキシマブが有効であることを報告している(例えば、Webberらの文献、2004, Blood 104: 要旨 746;及びMessahelらの文献、2006, Leuk Lymphoma 47:2584-2589を参照されたい。)。患者がリツキシマブに対する反応の後に再発したり、又はリツキシマブに対する反応が不十分である場合、単剤リツキシマブを用いる再治療に労を割く価値があるかどうかの観点からの統一見解は得られておらず、多くの施設では併用療法に着手することとなる。米国小児癌研究グループ(The Children’s Oncology Group)は最近、低用量シクロホスファミド、ステロイド、及びリツキシマブの治験を完了し、2年間のEFS(無イベント生存率)は71%、かつOS(全生存率)は83%であった(Grossらの文献、2012, Am J Transplant 12:3069-3075)。成人患者においては治療はより多様であり、R-CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、及びリツキシマブを用いる治療レジメン)又はDA-EPOCH(用量調整EPOCH、すなわちエトポシド、プレドニゾン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、及びドキソルビシンを用いる治療レジメン)が挙げられる。EBV-LPDのCNS(中枢神経系)病変を有する患者において、レジメンにはCNS疾患のみに対してはくも膜下腔内のリツキシマブ、放射線、又は高用量のメトトレキサートを単独で行うもの、又は全身及びCNSの疾患に対しては組合わせで行うものがある。
【0004】
臨床上有効であることが示されてきた先行治療(例えば、併用化学療法、放射線療法、又はリツキシマブを用いる治療)に対し抵抗性のEBV-LPDを治療することは、困難である。先行治療により臨床上実証されることが示されてきた有効性の度合いが高いほど、かつ患者が失敗した治療が多いほど、第二選択以後の治療により治療の成功を達成することが困難となる可能性が高くなる。先行治療に抵抗性であるEBV-LPDは通常、より悪性度が高い。このことは、先行治療が化学療法又は放射線療法である場合に特に当てはまる。というのは、これらの治療によりしばしば突然変異した腫瘍細胞が出現し、又はそのような細胞が選択され、その結果ずっと悪性度の高い疾患になるからである。第一選択治療は通常それらの安全性及び有効性の望ましい組合わせに基づいて選択されるが、第二選択以後の治療は、通常それらの安全性及び/又は有効性のプロファイルの観点でより望ましくないと考えられている。従って、望ましい安全性及び有効性のプロファイルを有する併用化学療法及び/又は放射線療法に失敗した患者においてEBV-LPDを治療する方法に対するニーズが存在する。
【0005】
本明細書における参考文献の引用は、それらを本件開示に対する先行技術であると承認するものと解釈してはならない。
【発明の概要】
【0006】
(3. 発明の概要)
本発明は、EBV-LPD(エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害)の治療のための併用化学療法及び/又は該EBV-LPDの治療のための放射線療法に失敗したヒト患者における該EBV-LPDの治療方法に関する。
【0007】
一態様において、本明細書ではヒト患者におけるEBV-LPDを治療する方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための併用化学療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子によって拘束されている、前記方法を提供する。(該同種異系T細胞の集団は、ヒトである。)特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための該併用化学療法に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は該併用化学療法への不耐性のために該併用化学療法を中止している。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド及びプレドニゾンを用いる治療を含む。さらなる具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、低用量シクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンを含む。別の具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンを用いる治療を含む。別のさらなる具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、低用量シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによるレジメンを含む。
【0008】
また、具体的な実施態様において、該ヒト患者は該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に抵抗性である。別の特定の実施態様において、該ヒト患者は該複数の異なる併用化学療法への不耐性のために該複数の異なる併用化学療法を中止している。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した少なくとも1つの該複数の異なる併用化学療法は、シクロホスファミド及びプレドニゾンを用いる治療を含む。さらなる具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した少なくとも1つの該複数の異なる併用化学療法は、低用量のシクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンを含む。別の具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した少なくとも1つの該複数の異なる併用化学療法は、シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンを用いる治療を含む。別のさらなる具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した少なくとも1つの該複数の異なる併用化学療法は、低用量のシクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによるレジメンを含む。
【0009】
具体的な実施態様において、該EBV-LPDを治療するための併用化学療法(又は複数の異なる併用化学療法)に失敗した該ヒト患者は、該EBV-LPDを治療するための放射線療法にも失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは、該EBV-LPDを治療するための該放射線療法に抵抗性である。別の特定の実施態様において、該ヒト患者は、該放射線療法への不耐性のために該放射線療法を中止している。
【0010】
別の態様において、本明細書では、ヒト患者におけるEBV-LPDの治療方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための放射線療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のHLA対立遺伝子によって拘束されている、前記方法を提供する。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための該放射線療法に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は、該放射線療法への不耐性のために該放射線療法を中止している。
【0011】
様々な実施態様において、該EBV-LPDはB細胞系譜の細胞の障害であり、上記併用化学療法(又は複数の異なる併用化学療法)及び/又は放射線療法に失敗したことに加え、該ヒト患者はまた、該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療への不耐性のために該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療を中止している。具体的な実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体は、リツキシマブである。
【0012】
具体的な実施態様において、該EBV-LPDと共通のHLA対立遺伝子によって拘束されていることに加え、EBV特異的T細胞を含む該同種異系T細胞の集団は、該EBV-LPDの細胞と8つのHLA対立遺伝子のうちの少なくとも2つが共通する。具体的な実施態様において、該8つのHLA対立遺伝子は、2つのHLA-A対立遺伝子、2つのHLA-B対立遺伝子、2つのHLA-C対立遺伝子、及び2つのHLA-DR対立遺伝子である。
【0013】
具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPの治療方法は、該投与する工程に先立って、高分解能型判定による該EBV-LPDの細胞の少なくとも1つのHLA対立遺伝子を確定する工程をさらに含む。
【0014】
様々な実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、該投与する工程に先立って、インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程をさらに含む。
【0015】
具体的な実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、1以上のEBV抗原に同種異系T細胞を感作させることを含む。
【0016】
特定の実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、EBV-形質転換B細胞を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む。具体的な実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、EBV株B95.8-形質転換B細胞を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む。
【0017】
特定の実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程が、樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む。具体的な実施態様において、該樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該樹状細胞、該サイトカインで活性化された単球、又は該末梢血単核球に1以上のEBV抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷することを含む。具体的な実施態様において、該樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該樹状細胞、該サイトカインで活性化された単球、又は該末梢血単核球に1以上のEBV抗原に由来する重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。
【0018】
特定の実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、人工抗原提示細胞(AAPC)を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む。具体的な実施態様において、該AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCに1以上のEBV抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷することを含む。具体的な実施態様において、該AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCに1以上のEBV抗原に由来する重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。具体的な実施態様において、該AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCを少なくとも1つの免疫原性EBVペプチド又はタンパク質を該AAPCにおいて発現するように操作することを含む。
【0019】
具体的な実施態様において、該インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、感作させた後、該同種異系T細胞を凍結保存することをさらに含む。
【0020】
具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、凍結保存された、EBV抗原で感作された同種異系T細胞を解凍し、かつインビトロで該同種異系T細胞を増殖させて、該同種異系T細胞の集団を生産する工程をさらに含む。
【0021】
特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、凍結保存された形態の該同種異系T細胞の集団を解凍する工程をさらに含む。
【0022】
様々な実施態様において、該同種異系T細胞の集団は、T細胞株に由来する。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、複数の凍結保存されたT細胞株のバンクから、該T細胞株を選択する工程をさらに含む。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、凍結保存された形態の該T細胞株を解凍する工程をさらに含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、インビトロで該T細胞株を増殖させる工程をさらに含む。
【0023】
具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って投与されるEBV特異的T細胞は、EBNA1、EBNA2、EBNA3A、EBNA3B、EBNA3C、LMP1、又はLMP2であるEBV抗原を認識する。
【0024】
特定の実施態様において、該投与は、該同種異系T細胞の集団の輸液によるものである。いくつかの実施態様において、該輸液はボーラス静脈内輸液である。特定の実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり少なくとも約1×105個投与することを含む。いくつかの実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約1×106~約2×106個投与することを含む。具体的な実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約1×106個投与することを含む。別の具体的な実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約2×106個投与することを含む。
【0025】
特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該ヒト患者に、少なくとも2回、該同種異系T細胞の集団を投与することを含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該ヒト患者に、2、3、4、5、又は6回、該同種異系T細胞の集団を投与することを含む。
【0026】
特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を1週間に1回投与を3週間連続させる第1のサイクルで投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、続いて該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させる第2のサイクルで投与することを含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させるサイクルを2、3、4、5、又は6回行うサイクルで投与することを含み、各サイクルは該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間により隔てられている。具体的な実施態様において、該休薬期間は約3週間である。
【0027】
特定の実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、該ヒト患者に該同種異系T細胞の集団を投与した後に、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む第2の同種異系T細胞の集団を投与することをさらに含み;ここで該第2の同種異系T細胞の集団は、該EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束されている。具体的な実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、1週間に1回分の用量を3週間連続させる第1のサイクルで該同種異系T細胞の集団を投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、それに続いて1週間に1回分の用量を3週間連続させる第2のサイクルで該第2の同種異系T細胞の集団を投与することを含む。さらなる具体的な実施態様において、該休薬期間は約3週間である。
【0028】
特定の実施態様において、該ヒト患者が、該同種異系T細胞の集団を投与した後、該第2の同種異系T細胞の集団の投与の前に、奏効を有さず、不完全奏効を有し、又は最適を下回る奏効を有する。
【0029】
該ヒト患者は、EBV-LPDを有し、かつ該EBV-LPDを治療するための併用化学療法に失敗した(及びいくつかの実施態様では、抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗した)、及び/又は放射線療法に失敗した(及びいくつかの実施態様では、抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗した)任意の者とすることができる。
【0030】
具体的な実施態様において、該EBV-LPDは、EBV陽性リンパ腫である。具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って治療される該EBV-LPDは、該ヒト患者の中枢神経系に存在する。具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って治療される該EBV-LPDは、該ヒト患者の脳内に存在する。
【0031】
いくつかの実施態様において、該ヒト患者は移植ドナーからの固形臓器移植のレシピエントである。いくつかの実施態様において、該ヒト患者は、多臓器移植(例えば、心臓及び肺移植、又は腎臓及び膵臓移植)のレシピエントである。該固形臓器移植は、これらに限定はされないが、腎臓移植、肝臓移植、心臓移植、腸移植、膵臓移植、肺移植、又はこれらの組合わせとすることができる。具体的な実施態様において、該固形臓器移植は、腎臓移植である。別の具体的な実施態様において、該固形臓器移植は、肝臓移植である。いくつかの実施態様において、該ヒト患者は移植ドナーからの造血幹細胞移植(HSCT)のレシピエントである。該HSCTは、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、又は臍帯血移植とすることができる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団は、移植ドナー以外のドナーに由来する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(4. 詳細な説明)
本発明は、EBV-LPD(エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害)の治療のための併用化学療法及び/又は該EBV-LPDを治療するための放射線療法に失敗したヒト患者における該EBV-LPDの治療方法に関する。本発明は併用化学療法又は放射線療法に抵抗性であるEBV-LPDの治療に有効なT細胞療法を提供し、これにより低毒性の、第二選択以後の治療としての使用を見出すものである。
【0033】
一態様において、本明細書ではヒト患者におけるEBV-LPDの治療方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための併用化学療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子によって拘束されている、前記方法を提供する。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための該併用化学療法に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は該併用化学療法への不耐性のために該併用化学療法を中止している。また、具体的な実施態様において、該ヒト患者は、該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための該複数の異なる併用化学療法に抵抗性である。別の特定の実施態様において、該ヒト患者は該複数の異なる併用化学療法への不耐性のために、該複数の異なる併用化学療法を中止している。また、具体的な実施態様において、該ヒト患者は該EBV-LPDを治療するための放射線療法に失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは、該EBV-LPDを治療するための該放射線療法に抵抗性である。別の特定の実施態様において、該ヒト患者は該放射線療法への不耐性のために該放射線療法を中止している。
【0034】
別の態様において、本明細書では、ヒト患者におけるEBV-LPDの治療方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための放射線療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のHLA対立遺伝子によって拘束されている、前記方法を提供する。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための該放射線療法に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は、該放射線療法への不耐性のために該放射線療法を中止している。
【0035】
様々な実施態様において、該EBV-LPDはB細胞系譜の細胞の障害であり、上記併用化学療法(又は複数の異なる併用化学療法)及び/又は放射線療法に失敗したことに加え、該ヒト患者はまた、該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体(例えば、リツキシマブ)を用いる治療にも失敗している。特定の実施態様において、該EBV-LPDは該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療に抵抗性である。特定の実施態様において、該ヒト患者は該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療への不耐性のために該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療を中止している。
【0036】
EBV-LPDが治療に抵抗性である場合、及び/又はヒト患者が該治療への不耐性のために(例えば、患者の年齢又は状態に照らして該治療が毒性を有するために)該治療を中止した場合、該ヒト患者は該EBV-LPDの治療(例えば、併用化学療法、放射線療法、及び/又は抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療)に失敗したとみなされる。EBV-LPDが治療の後に奏効を有さず、又は不完全奏効(完全寛解には至らない奏効)を有し、又は増悪し、又は再発する場合、該EBV-LPDは該治療(例えば、併用化学療法、放射線療法、又は抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療)に抵抗性であるとみなされる。完全寛解は任意に罹患組織の生検により確認される、疾患の全ての臨床的及び放射線学的徴候が完全に消散し、これが該治療の終了から少なくとも3週間にわたって持続することである。
【0037】
(4.1. 併用化学療法、放射線療法、及び抗CD20抗体)
併用化学療法には、癌の治療のために2以上の異なる化学療法剤を同じ治療期間にわたって治療上使用することが伴う。化学療法剤は、抗癌性の細胞傷害化学薬物、一般的には低分子の合成有機化合物であり、生体高分子及び細胞のような他の種類の抗癌剤とは全く別物である。従って、化学療法剤は核酸、タンパク質(例えば、抗体)、又は免疫細胞(例えば、T細胞)ではない。併用化学療法は、治療に対する癌(例えば、EBV-LPD)の潜在的な抵抗性を最小化するためにしばしば試みられる。これは、癌細胞は突然変異により単一の化学療法剤に対して抵抗性となることができるが、異なる化学療法剤を用いることにより、癌が突然変異を起こし、その結果その併用に対する抵抗性を発生させることがより難しくなるためである。従って、併用化学療法抵抗性EBV-LPDは通常、単剤抵抗性EBV-LPDよりも治療が難しいと考えられている。
【0038】
本発明は、EBV-LPDの治療のための併用化学療法に失敗した、該EBV-LPDを有するヒト患者の治療を提供する。該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、LPD(リンパ増殖性障害)の治療のための当技術分野で公知である任意の治療でよい。併用化学療法の例としては、これらに限定はされないが(化学療法剤の組合わせは、括弧内に示している):7+3(7日間のシタラビン+3日間のアントラサイクリン抗生物質、ダウノルビシン又はイダルビシンのいずれか)、ABVD(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)、BACOD(ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾン)、BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)、用量上昇BEACOPP、CBV(シクロホスファミド、カルムスチン、エトポシド)、COP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、及びプレドニゾン、又はプレドニゾロン)、CHOEP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、ビンクリスチン、プレドニゾン)、CEOP(シクロホスファミド、エトポシド、ビンクリスチン、プレドニゾン)、CEPP(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾン)、ChlVPP(クロラムブシル、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン、エトポシド、ビンブラスチン、ドキソルビシン)、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)、DCEP(デキサメタゾン、シクロホスファミド、エトポシド、白金製剤)、DHAP(デキサメタゾン、シタラビン、白金製剤)、DICE(デキサメタゾン、イホスファミド、シスプラチン、エトポシド)、DT-PACE(デキサメタゾン、サリドマイド、白金製剤、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド)、EPOCH(エトポシド、プレドニゾン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン)、DA-EPOCH (用量調整EPOCH)、ESHAP(エトポシド、メチルプレドニゾロン、シタラビン、シスプラチン)、FCM(フルダラビン、シクロホスファミド、ミトキサントロン)、FM(フルダラビン、ミトキサントロン)、FLAG(フルダラビン、シタラビン、G-CSF)、FLAG-IDA(フルダラビン、シタラビン、イダルビシン、G-CSF)、FLAG-MITO(ミトキサントロン、フルダラビン、シタラビン、G-CSF)、FLAMSA(フルダラビン、シタラビン、アムサクリン)、FLAMSA-BU(フルダラビン、シタラビン、アムサクリン、ブスルファン)、FLAMSA-MEL(フルダラビン、シタラビン、アムサクリン、メルファラン)、GVD(ゲムシタビン、ビノレルビン、ペグ化リポソームドキソルビシン)、GEMOX(ゲムシタビン、オキサリプラチン)、IAC(イダルビシン×3日間+シタラビン×7日間)、ICE(イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド)、IVAC(エトプシド(etopside)、シタラビン、イホスファミド)、m-BACOD(メトトレキサート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾン)、MACOP-B(メトトレキサート、ロイコボリン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン、ブレオマイシン)、MINE(メスナ、イホスファミド、ノバントロン、エトポシド)、MOPP(メクロレタミン、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)、MVP(マイトマイシン、ビンデシン、シスプラチン)、PACE(白金製剤、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド)、PEB(シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシン)、POMP(6-メルカプトプリン、ビンクリスチン、メトトレキサート、プレドニゾン)、ProMACE-MOPP(メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、メクロレタミン、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)、ProMACE-CytaBOM(プレドニゾン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、シタラビン、ブレオマイシン、ビンクリスチン、メトトレキサート、ロイコボリン)、RVD(レナリドミド、ボルテゾミブ、デキサメタゾン)、Stanford V(ドキソルビシン、メクロレタミン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、プレドニゾン)、Thal/Dex(サリドマイド、デキサメタゾン)、VAD(ビンクリスチン、ドキソルビシン、 デキサメタゾン)、VAMP(ビンクリスチン、アメトプテリン、6-メルカプトプリン及びプレドニゾン、又はビンクリスチン、ドキソルビシン、メトトレキサート及びプレドニゾン、又はビンクリスチン、ドキソルビシン及びメチルプレドニゾロン)、VAPEC-B(ビンクリスチン、ドキソルビシン、プレドニゾン、エトポシド、シクロホスファミド、ブレオマイシン)、VD-PACE(ボルテゾミブ、デキサメタゾン、白金製剤、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド)、及びVTD-PACE(ボルテゾミブ、サリドマイド、デキサメタゾン、白金製剤、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド)がある。
【0039】
具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド及びプレドニゾンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、低用量シクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンである。低用量シクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンは、1日に1回当たり約900 mg/m2未満のシクロホスファミドを8回未満、静脈内投与し、かつ1回当たり2 mg/kg未満のプレドニゾンを1日2回、経口投与するレジメンである。具体的な実施態様において、該併用化学療法は、Grossらの文献、2012, Am J Transplant 12:3069-3075に記載されている低用量シクロホスファミド及びプレドニゾンによる以下のレジメンである:全部で6回の治療サイクルを施し、サイクルを3週間ごとに施す;各サイクルの第1日に600 mg/m2のシクロホスファミドを静脈内投与し、各サイクルの第1日~第5日に1日2回、1 mg/kgのプレドニゾンを経口投与する。
【0040】
具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、低用量シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによるレジメンである。具体的な実施態様において、該併用化学療法は、Grossらの文献、2012, Am J Transplant 12:3069-3075に記載されている低用量シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによる以下のレジメンである:全部で6回の治療サイクルを施し、サイクルを3週間ごとに施す;各サイクルの第1日に600 mg/m2のシクロホスファミドを静脈内投与し、各サイクルの第1日~第5日に12時間ごとに、0.8 mg/kgのメチルプレドニゾロンを静脈内投与する。
【0041】
具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド、プレドニゾン、及びメチルプレドニゾロンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ゲムシタビン及びビノレルビンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、メトトレキサート及びテモゾロミドを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、メトトレキサート、テモゾロミド、及びシタラビンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、プレドニゾン及びシクロホスファミドを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ビンクリスチン及びシクロホスファミドを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、及びメトトレキサートを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ビンブラスチン、ロムスチン、及びシタラビンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、COPである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、BEACOPPである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、CHOPである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、シタラビン、メトトレキサート、及びデキサメタゾンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、IVACである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ESHAPである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、メルファラン及びデキサメタゾンを用いる治療である。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、ProMACE-CytaBOMである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、CHOPである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、DA-EPOCHである。
【0042】
具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、上記化学療法剤又は化学療法レジメンの任意の組合わせを含む。具体的な実施態様において、該ヒト患者が失敗した該併用化学療法は、本質的に上記化学療法剤又は化学療法レジメンの任意の組合わせからなる。
【0043】
具体的な実施態様において、該ヒト患者がEBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗した場合、該複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つは上記化学療法剤又は化学療法レジメンの任意の組合わせである。具体的な実施態様において、該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗した場合、該複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つは上記化学療法剤又は化学療法レジメンの任意の組合わせを含む。具体的な実施態様において、該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗した場合、該複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つは本質的に上記化学療法剤又は化学療法レジメンの任意の組合わせからなる。
【0044】
放射線療法では、高エネルギー放射線を使用して、癌細胞のDNAに損傷を与えることにより癌細胞を殺傷する。該ヒト患者が失敗した本発明による放射線療法は、LPDの治療のための当技術分野で公知である任意の治療でよい。放射線療法の例には、これらに限定はされないが:従来の外部照射療法、定位放射線療法、強度変調放射線療法、強度変調回転放射線治療、粒子線治療、オージェ治療、密封小線源治療、及び放射線同位体療法がある。
【0045】
様々な実施態様において、該EBV-LPDはB細胞系譜の細胞の障害であり、上記併用化学療法及び/又は放射線療法のいずれかによる治療に失敗したことに加え、該ヒト患者はまた、抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療(単独で又は該EBV-LPDのための他の治療と組合わせて)にも失敗している。該抗CD20モノクローナル抗体は、当技術分野で公知の任意のものとすることができる。具体的な実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体は、キメラ抗体又はヒト化抗体である。具体的な実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体は、一価抗体又は多価(例えば、二価)抗体である。特定の実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体は、単一特異性抗体又は多重特異性(例えば二重特異性)抗体である。具体的な実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体を、細胞傷害剤とコンジュゲートさせ;あるいは、該抗CD20モノクローナル抗体はコンジュゲートされていなくてもよい。抗CD20モノクローナル抗体の例には、これらに限定はされないが:リツキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブチウキセタン、トシツモマブ、及びベルツズマブがある。具体的な実施態様において、該抗CD20モノクローナル抗体は、リツキシマブである。具体的な実施態様において、該ヒト患者はR-CEOP (シクロホスファミド、エトポシド、ビンクリスチン、プレドニゾン、及びリツキシマブを用いる治療レジメン)に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はR-GEMOX(ゲムシタビン、オキサリプラチン、及びリツキシマブを用いる治療レジメン)に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はR-COP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン/プレドニゾロン、及びリツキシマブを用いる治療レジメン)に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はR-CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、及びリツキシマブを用いる治療レジメン)に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はリツキシマブ、シクロホスファミド、及びプレドニゾンを用いる治療に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はリツキシマブ、シクロホスファミド、及びメチルプレドニゾロンを用いる治療に失敗している。具体的な実施態様において、該ヒト患者はGrossらの文献、2012, Am J Transplant 12:3069-3075に記載の以下の治療レジメンに失敗している:全部で6回の治療サイクルを施し、該サイクルを3週間ごとに施す;6サイクルの各サイクルの第1日に600 mg/m2のシクロホスファミドを静脈内投与し、6サイクルの各サイクルの第1日~第5日に1日2回、1 mg/kgのプレドニゾンを経口投与し(又は12時間ごとに0.8 mg/kgのメチルプレドニゾロンを静脈内投与する)、かつ初めの2サイクルの各サイクルの第1日、第8日、及び第15日に375 mg/m2のリツキシマブを静脈内投与する。
【0046】
先の記載から明らかであるように、ヒト患者が該EBV-LPDの治療のための併用化学療法及び該EBV-LPDの治療のための抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療の両方に失敗した場合、該併用化学療法及び該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療を、単一の治療レジメンで組み合わせてもよいし、又は別々の治療レジメンで異なる期間に該ヒト患者に施してもよい。
【0047】
(4.2. EBV-LPDと共通のHLA対立遺伝子によって拘束された同種異系T細胞の集団)
本発明に従って、EBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を、ヒト患者に投与する。該ヒト患者に投与された該同種異系T細胞の集団は、EBV-LPDの細胞と共通のHLA対立遺伝子によって拘束されている。いくつかの実施態様において、このHLA対立遺伝子拘束は、該EBV-LPDの細胞へのHLAの割り当てを確定し、そのような細胞のHLA対立遺伝子によって拘束されるEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。他の実施態様において、該EBV-LPDの細胞への該HLAの割り当てを確定することができず、かつ該ヒト患者が移植のレシピエントではない場合、このHLA対立遺伝子拘束は、該ヒト患者への該HLAの割り当てを確定し(例えば、該ヒト患者由来の非LPD細胞又は組織を使用することにより)、該ヒト患者のHLA対立遺伝子によって拘束されるEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。他の実施態様において、該EBV-LPDの細胞への該HLAの割り当てを確定することができず、該ヒト患者が移植のレシピエントである場合、このHLA対立遺伝子拘束は、該EBV-LPDの起源を決定し(移植ドナーであろうと、レシピエント(ヒト患者)であろうと)、該EBV-LPDの起源(場合に応じ、移植ドナー又は該ヒト患者)への該HLAの割り当てを確定し、かつ該EBV-LPDの起源のHLA対立遺伝子によって拘束されるEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。そのような実施態様において該EBV-LPDの起源を決定することができない場合、このHLA対立遺伝子拘束は、該ヒト患者及び該移植ドナーの両方への該HLAの割り当てを確定し、該ヒト患者及び該移植ドナーの両方に共通するHLA対立遺伝子によって拘束されるEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。
【0048】
該EBV-LPDの起源は、当技術分野で公知の任意の方法により、例えば反復配列多型(variable tandem repeats)(VTR)の分析、すなわち、異なるヒトの短いDNA配列の独自のDNA特徴を使用して移植のレシピエント及びドナーを識別する方法により;又は移植のドナーとレシピエントの性が異なる場合、細胞遺伝学実験又はFISH(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法)によって実施されるY染色体の存在の有無を探究することにより、決定することができる。
【0049】
HLAの割り当てを確定するいくつかの実施態様において、少なくとも4つのHLA遺伝子座(好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びHLA-DR)の型判定を行う。HLAの割り当てを確定するいくつかの実施態様において、4つのHLA遺伝子座(好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びHLA-DR)の型判定を行う。HLAの割り当てを確定するいくつかの実施態様において、6つのHLA遺伝子座の型判定を行う。HLAの割り当てを確定するいくつかの実施態様において、8つのHLA遺伝子座の型判定を行う。
【0050】
具体的な実施態様において、該EBV-LPDと共通のHLA対立遺伝子によって拘束されることに加え、EBV特異的T細胞を含む該同種異系T細胞の集団は、8つのHLA対立遺伝子(例えば、2つのHLA-A対立遺伝子、2つのHLA-B対立遺伝子、2つのHLA-C対立遺伝子、及び2つのHLA-DR対立遺伝子)のうち少なくとも2つが該EBV-LPDの細胞と共通している。いくつかの実施態様において、この共通性は、該EBV-LPDの細胞への該HLAの割り当てを確定し、そのような細胞と8つのHLA対立遺伝子のうちの少なくとも2つが共通するEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって、保証される。他の実施態様において、該EBV-LPDの細胞への該HLAの割り当てを確定することができず、該ヒト患者が移植のレシピエントではない場合、この共通性は、該ヒト患者への該HLAの割り当てを確定し(例えば、該ヒト患者由来の非LPD細胞又は組織を使用することにより)、かつ該ヒト患者と8つのHLA対立遺伝子のうち少なくとも2つが共通するEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することにより保証される。他の実施態様において、該EBV-LPDの細胞への該HLAの割り当てを確定することができず、該ヒト患者が移植のレシピエントである場合、この共通性は、該EBV-LPDの起源を決定し(移植ドナーであろうとレシピエント(該ヒト患者)であろうと)、該EBV-LPDの起源(場合に応じ、移植ドナー又は該ヒト患者)への該HLAの割り当てを確定し、かつ該EBV-LPDの起源と8つのHLA対立遺伝子のうち少なくとも2つが共通するEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。そのような実施態様において該EBV-LPDの起源を決定することができない場合、これは、該ヒト患者及び該移植ドナーの両方への該HLAの割り当てを確定し、該ヒト患者及び該移植ドナーの両方で8つのHLA対立遺伝子のうち少なくとも2つが共通するEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団(又は該同種異系T細胞の集団の起源となるT細胞株)を選択することによって保証される。
【0051】
該HLAの割り当て(すなわち、HLAの遺伝子座型)は、当技術分野で公知の任意の方法によって確定する(すなわち、型判定する)ことができる。該HLAの割り当てを確定する方法の非限定的な例は、「ASHI実験室マニュアル(ASHI Laboratory Manual)」, 第4.2版 (2003), 米国組織適合性免疫遺伝学会(American Society for Histocompatibility and Immunogenetics); 「ASHI実験室マニュアル」, 補遺1 (2006)及び2 (2007), 米国組織適合性免疫遺伝学会; Leffellら編, 1997, 「ヒト免疫学のハンドブック(Handbook of Human Immunology)」, Boca Raton: CRC Press中のHurleyの文献、「移植のためのDNAベースのHLA型判定(DNA-based typing of HLA for transplantation)」; Dunnの文献、2011, Int J Immunogenet 38:463-473; Erlichの文献、2012, Tissue Antigens, 80:1-11; Bontadiniの文献、2012, Methods, 56:471-476;及びLangeらの文献、2014, BMC Genomics 15: 63に見出すことができる。
【0052】
一般に、HLA型判定には、高分解能型判定が好ましい。高分解能型判定は、例えば、「ASHI実験室マニュアル」第4.2版(2003), 米国組織適合性免疫遺伝学会; 「ASHI実験室マニュアル」補遺1 (2006) 及び2 (2007), 米国組織適合性免疫遺伝学会; Flomenbergらの文献、Blood, 104:1923-1930; Koglerらの文献、2005, Bone Marrow Transplant, 36:1033-1041; Leeらの文献、2007, Blood 110:4576-4583; Erlichの文献、2012, Tissue Antigens, 80:1-11; Lankらの文献、2012, BMC Genomics 13:378;又はGabrielらの文献、2014, Tissue Antigens, 83:65-75に記載された当技術分野で公知の任意の方法によって実施できる。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、投与する工程に先立って、高分解能型判定による該EBV-LPDの細胞の少なくとも1つのHLA対立遺伝子を確定する工程をさらに含む。
【0053】
該同種異系T細胞の集団を拘束する該HLA対立遺伝子は、例えば、Trivediらの文献、2005, Blood 105:2793-2801; Barkerらの文献、2010, Blood 116:5045-5049; Hasanらの文献、2009, J Immunol, 183:2837-2850;又はDoubrovinaらの文献、2012, Blood 120:1633-1646に記載された当技術分野で公知の任意の方法によって決定できる。
【0054】
該同種異系T細胞の集団を拘束し、該EBV-LPDの細胞と共通である該HLA対立遺伝子は、高分解能型判定によって定義することが好ましい。該同種異系T細胞の集団及び該EBV-LPDの細胞の間で共通の該HLA対立遺伝子は、高分解能型判定によって定義することが好ましい。該同種異系T細胞の集団を拘束し、該EBV-LPDの細胞と共通である該HLA対立遺伝子、並びに該同種異系T細胞の集団及び該EBV-LPDの細胞の間で共通である該HLA対立遺伝子は両方とも、高分解能型判定によって定義することが最も好ましい。
【0055】
(4.3. EBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団の取得又は作製)
ヒト患者に投与されるEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団は、当技術分野で公知の方法により作製することができ、又は当技術分野で公知の方法により作製された凍結保存T細胞株(各T細胞株はEBV特異的T細胞を含む)の既存のバンク(保存機関(collection))から選択して解凍し、好ましくは投与に先立って増殖させることができる。該バンクにおけるそれぞれのT細胞株に対する独自の識別名は、それぞれのT細胞株がどのHLA対立遺伝子(複数可)によって拘束されているかに関する情報と、及びまた任意に、それぞれのT細胞株への該HLAの割り当てに関する情報と関連付けることが好ましい。該同種異系T細胞の集団及び該バンク中のT細胞株は、以下に記載の方法によって取得し、又は作製することが好ましい。
【0056】
様々な実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、該投与する工程に先立って、該同種異系T細胞の集団を取得する工程をさらに含む。
【0057】
具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団を取得する工程は、血液細胞集団からのEBV陽性T細胞の蛍光活性化細胞選別を含む。具体的な実施態様において、該血液細胞集団は、ヒトドナーから取得した血液試料(複数可)から単離した、末梢血単核球(PBMC)である。蛍光活性化細胞選別は当技術分野で公知の任意の方法により実施することができ、この方法は、通常選別工程の前に、少なくとも1つのEBV抗原を認識する抗体を用いて該血液細胞集団を染色することを伴う。
【0058】
具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団を取得する工程は、インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製することを含む。該同種異系T細胞の集団は、当技術分野で公知の任意の方法により、インビトロで作製することができる。該同種異系T細胞の集団を作製する方法の非限定的な例は、Koehneらの文献、2000, Blood 96:109-117; Koehneらの文献、2002, Blood 99:1730-1740; O’Reillyらの文献、2007, Immunol Res 38:237-250; Barkerらの文献、2010, Blood 116:5045-5049; O’ Reillyらの文献、2011, Best Practice & Research Clinical Haematology 24:381-391;及びDoubrovinaらの文献、2012, Blood 119:2644-2656に見出すことができる。
【0059】
特定の実施態様において、インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、同種異系T細胞を1以上のEBV抗原に感作させ(すなわち、刺激する)、その結果EBV特異的T細胞を生産することを含む。インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製するのに用いられる該同種異系T細胞は、例えば、Koehneらの文献、2002, Blood 99:1730-1740; O’Reillyらの文献、2007, Immunol Res. 38:237-250;又はBarkerらの文献、2010, Blood 116:5045-5049に記載された当技術分野で公知の任意の方法によって該同種異系T細胞のドナーから単離することができる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞は、該同種異系T細胞のドナーのPBMCから分離した末梢血リンパ球から富化させる。さらに具体的な実施態様において、T細胞を、該同種異系T細胞のドナーのPBMCから、接着性単球を除去し、続いてナチュラルキラー細胞を除去することによって分離した、末梢血リンパ球から富化させる。様々な実施態様において、該同種異系T細胞を保存のために凍結保存する。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を凍結保存し、この凍結保存された同種異系T細胞を解凍し、インビトロで増殖させてから、感作させる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を凍結保存し、この凍結保存された同種異系T細胞を解凍するが、感作の前にインビトロで増殖させるのではなく、そのまま感作させ、続いて任意に増殖させる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を感作の後に凍結保存する(感作により該EBV特異的T細胞が生産される)。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を感作の後に凍結保存し、この凍結保存された同種異系T細胞を解凍し、インビトロで増殖させてEBV特異的T細胞を含む該同種異系T細胞の集団を生産する。別の具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を感作の後に凍結保存し、この凍結保存された同種異系T細胞を解凍するが、インビトロで増殖はさせずにEBV特異的T細胞を含む該同種異系T細胞の集団を生産する。他の様々な実施態様において、該同種異系T細胞は凍結保存しない。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を凍結保存せず、該同種異系T細胞をインビトロで増殖させてから、感作させる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞を凍結保存せず、該同種異系T細胞を感作の前にインビトロで増殖させない。具体的な実施態様において、インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、感作の後に、該同種異系T細胞を凍結保存することをさらに含む。
【0060】
具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、凍結保存された、EBV抗原で感作された、同種異系T細胞を解凍し、インビトロで該同種異系T細胞を増殖させて、該同種異系T細胞の集団を生産する工程群をさらに含む。
【0061】
特定の実施態様において、インビトロで該同種異系T細胞の集団を作製する工程は、EBV-形質転換B細胞を用いて同種異系T細胞を感作させること(すなわち、同種異系T細胞をEBV-形質転換B細胞と接触させること)を含む。例えば、EBV株B95.8-形質転換B細胞をこの目的で使用することができる。
【0062】
特定の実施態様において、該同種異系T細胞の集団をインビトロで作製する工程は、樹状細胞を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む(該樹状細胞は、同種異系T細胞のドナーに由来することが好ましい)。具体的な実施態様において、樹状細胞を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該樹状細胞に1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷することを含む。具体的な実施態様において、樹状細胞を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該樹状細胞に1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。
【0063】
特定の実施態様において、該同種異系T細胞の集団をインビトロで作製する工程は、サイトカインで活性化された単球を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む(該サイトカインで活性化された単球は、同種異系T細胞のドナーに由来することが好ましい)。具体的な実施態様において、サイトカインで活性化された単球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該サイトカインで活性化された単球に1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷することを含む。具体的な実施態様において、サイトカインで活性化された単球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該サイトカインで活性化された単球に1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。
【0064】
特定の実施態様において、該同種異系T細胞の集団をインビトロで作製する工程は、末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む(該末梢血単核球は、同種異系T細胞のドナーに由来することが好ましい)。具体的な実施態様において、末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該末梢血単核球に1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷する工程を含む。具体的な実施態様において、末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該末梢血単核球に1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。
【0065】
特定の実施態様において、該同種異系T細胞の集団をインビトロで作製する工程は、人工抗原提示細胞(AAPC)を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む。具体的な実施態様において、AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCに1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドを負荷することを含む。具体的な実施態様において、AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCに1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールを負荷することを含む。具体的な実施態様において、AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程は、該AAPCを、少なくとも1つの免疫原性EBVペプチド又はタンパク質を該AAPCにおいて発現するように操作することを含む。
【0066】
様々な実施態様において、該ペプチドのプールは、EBVの抗原上に広がる重なりのあるペプチドのプールである。様々な実施態様において、該ペプチドのプールは、2以上のEBV抗原上に広がる重なりのあるペプチドのプールである。具体的な実施態様において、該重なりのあるペプチドのプールは、重なりのあるペンタデカペプチドのプールである。
【0067】
具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団を、投与の前に保存のために凍結保存した。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団を、投与の前に保存のために凍結保存しなかった。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、投与工程の前に、凍結保存された形態の該同種異系T細胞の集団を解凍する工程をさらに含む。
【0068】
様々な実施態様において、該同種異系T細胞の集団は、T細胞株に由来する。具体的な実施態様において、該T細胞株を投与の前に保存のために凍結保存した。具体的な実施態様において、該T細胞株を投与の前に保存のために凍結保存しなかった。いくつかの実施態様において、該T細胞株をインビトロで増殖させて、該同種異系T細胞の集団を得た。他の実施態様において、該T細胞株を該同種異系T細胞の集団を得るためにインビトロで増殖させなかった。該T細胞株を凍結保存の前又は後(該T細胞を凍結保存していた場合)に、及びインビトロで増殖させる前又は後(該T細胞株をインビトロで増殖させた場合)に、1以上のEBV抗原に感作させることができる(例えば、上記感作させる工程によってEBV特異的T細胞を生産するように)。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、複数の凍結保存されたT細胞株のバンク(それぞれがEBV特異的T細胞を含むことが好ましい)からT細胞株を選択する工程をさらに含む。該バンク中のそれぞれのT細胞株に対する独自の識別名は、それぞれのT細胞株がどのHLA対立遺伝子(複数可)によって拘束されているかに関する情報と、及びまた任意に、それぞれのT細胞株への該HLAの割り当てに関する情報と関連付けることが好ましい。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、凍結保存された形態の該T細胞株を解凍する工程をさらに含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該投与する工程の前に、該T細胞株をインビトロで増殖させる工程(例えば、凍結保存形態の該T細胞株を解凍した後に)をさらに含む。該T細胞株及び該複数の凍結保存されたT細胞株は、例えば、Koehneらの文献、2002, Blood 99:1730-1740; O’Reillyらの文献、2007, Immunol Res. 38:237-250; Barkerらの文献、2010, Blood 116:5045-5049に記載された当技術分野で公知の任意の方法により、又は該同種異系T細胞の集団のインビトロでの作製について上記された通りに作製することができる。
【0069】
該ヒト患者に投与されるEBV特異的T細胞を含む該同種異系T細胞の集団は、CD8+ T細胞を含み、及びまた具体的な実施態様において、CD4+ T細胞を含む。
【0070】
本明細書に記載された方法に従って投与される該EBV特異的T細胞は、少なくとも1つのEBV抗原を認識する。具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って投与される該EBV特異的T細胞は、EBNA1、EBNA2、EBNA3A、EBNA3B、EBNA3C、LMP1、又はLMP2であるEBV抗原を認識する。
【0071】
(4.4. 投与及び投薬量)
ヒト患者に投与すべき同種異系T細胞の集団の投与経路及び量は、該ヒト患者の状態及び医師の知識に基づいて決定することができる。一般的に、該投与は静脈内である。
【0072】
特定の実施態様において、該投与は、該同種異系T細胞の集団の輸液による。いくつかの実施態様において、該輸液はボーラス静脈内輸液である。特定の実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり少なくとも約1×105個投与することを含む。いくつかの実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約1×106~約2×106個投与することを含む。具体的な実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約1×106個投与することを含む。別の具体的な実施態様において、該投与は、該ヒト患者に、該同種異系T細胞の集団のT細胞を、1週間に、1回投与当たり、1 kg当たり約2×106個投与することを含む。
【0073】
特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該ヒト患者に、少なくとも2回、該同種異系T細胞の集団を投与することを含む。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該ヒト患者に、2、3、4、5、又は6回、該同種異系T細胞の集団を投与することを含む。
【0074】
特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させる第1のサイクルで投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、続いて該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させる第2のサイクルで投与することを含む。特定の実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させるサイクルを少なくとも2回行うサイクルで投与することを含み、各サイクルは該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間により隔てられている。具体的な実施態様において、本明細書に記載されたEBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させるサイクルを2、3、4、5、又は6回行うサイクルで投与することを含み、各サイクルは該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間により隔てられている。具体的な実施態様において、該休薬期間は約3週間である。追加のサイクルは、先行するサイクルにおいて毒性が示されなかった場合(例えば、NCI CTCAE 4.0に従って等級づけたとき、悪性度3~5の重度の有害事象がない場合)にのみ施されることが好ましい。
【0075】
特定の実施態様において、本明細書に記載された第一の投薬レジメンを第一の期間実施し、第二の期間実施される本明細書に記載された第二の別の投薬レジメンがこれに続く。ここで、該第一の期間及び該第二の期間は任意に休薬期間(例えば、約3週間)によって隔てられている。該第二の投薬レジメンは、該第一の投薬レジメンにおいて毒性が示されなかった場合(例えば、NCI CTCAE 4.0に従って等級づけたとき、悪性度3~5の重度の有害事象がない場合)にのみ実施されることが好ましい。
【0076】
用語「約」は、正規変動を容認するように解釈するものとする。
【0077】
(4.5. 異なるT細胞集団による連続治療)
特定の実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、ヒト患者への同種異系T細胞の集団の投与の後、ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む第2の同種異系T細胞の集団を投与することをさらに含む;ここで、該第2の同種異系T細胞の集団は、該EBV-LPDの細胞と共通する異なるHLA対立遺伝子によって拘束される。該第2の同種異系T細胞の集団は、第4.4.節に記載された任意の経路及び任意の投薬/投与レジメンによって投与することができる。具体的な実施態様において、EBV-LPDの治療方法は、該同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させる第1のサイクルで投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、続いて該第2の同種異系T細胞の集団を、1週間に1回投与を3週間連続させる第2のサイクルで投与することを含む。さらに具体的な実施態様において、該休薬期間は、約3週間である。
【0078】
特定の実施態様において、該ヒト患者は、該同種異系T細胞の集団の投与後、該第2の同種異系T細胞の集団の投与の前に、奏効を有さず、不完全奏効を有し、又は最適を下回る奏効(すなわち、該ヒト患者はやはり継続的治療から相当な利益を得ることができるが、最適な長期的転帰の見込みは低下している)を有する。
【0079】
具体的な実施態様において、それぞれ該EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束された2つの同種異系EBV特異的T細胞の集団を順次投与する。具体的な実施態様において、それぞれ該EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束された3つの同種異系EBV特異的T細胞の集団を順次投与する。具体的な実施態様において、それぞれ該EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束された4つの同種異系EBV特異的T細胞の集団を順次投与する。具体的な実施態様において、それぞれ該EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束された5以上の同種異系EBV特異的T細胞の集団を順次投与する。
【0080】
(4.6. 患者)
ヒト患者は、EBV-LPDを有し、該EBV-LPDを治療するための併用化学療法に失敗した(また、いくつかの実施態様において抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗した)及び/又は放射線療法に失敗した(また、いくつかの実施態様において、抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗した)任意の者とすることができる。
【0081】
LPDはリンパ球が過剰に増殖する状態であり、免疫不全の患者に起こり得る。本明細書に記載された方法によって治療できるEBV-LPDには、これらに限定はされないが、B細胞過形成、B細胞リンパ腫(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)、T細胞リンパ腫、多形性又は単形性EBV-LPD、EBV陽性ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、自己免疫性リンパ増殖症候群、及び混合性PTLD(移植後リンパ増殖性障害)がある。具体的な実施態様において、該EBV-LPDは、EBV陽性リンパ腫(例えば、EBV陽性B細胞リンパ腫)である。具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って治療される該EBV-LPDは、該ヒト患者の中枢神経系に存在する。具体的な実施態様において、本明細書に記載された方法に従って治療される該EBV-LPDは、該ヒト患者の脳に存在する。
【0082】
様々な実施態様において、該ヒト患者は免疫不全である。様々な実施態様において、該ヒト患者は、移植のレシピエントである。いくつかの実施態様において、該ヒト患者は、移植ドナーからの固形臓器移植のレシピエントである。いくつかの実施態様において、該ヒト患者は、多臓器移植のレシピエントである(例えば、心臓及び肺移植、又は腎臓及び膵臓移植)。該固形臓器移植は、これらに限定はされないが、腎臓移植、肝臓移植、心臓移植、腸移植、膵臓移植、肺移植、又はこれらの組合わせとすることができる。具体的な実施態様において、該固形臓器移植は腎臓移植である。別の具体的な実施態様において、該固形臓器移植は肝臓移植である。いくつかの実施態様において、該ヒト患者は、移植ドナーからの造血幹細胞移植(HSCT)のレシピエントである。該HSCTは、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、又は臍帯血移植とすることができる。具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団は、該移植ドナー以外のドナーに由来する。他の具体的な実施態様において、該同種異系T細胞の集団は、該移植ドナーに由来する。様々な実施態様において、該ヒト患者は移植のレシピエントではない。
【0083】
具体的な実施態様において、該ヒト患者はHIVに感染した患者である。
【0084】
具体的な実施態様において、該ヒト患者は免疫抑制療法(例えば、固形臓器移植後に)を受けている。そのような具体的な実施態様の特定の態様において、該ヒト患者に投与される免疫抑制剤の投薬量は減少され、該ヒト患者は免疫抑制剤の漸減投薬という該EBV-LPDのための治療に失敗している。
【0085】
具体的な実施態様において、該ヒト患者は、基礎的な免疫不全(例えば、免疫不全の原因となった遺伝的障害)を有する。
【0086】
他の実施態様において、該ヒト患者は、免疫不全ではない。
【実施例
【0087】
(5. 実施例)
本明細書で提供される特定の実施態様は、以下の非限定的な実施例により例示される。本実施例では、本発明に従うEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を用いる治療が、併用化学療法又は放射線療法に抵抗性であり、かつ低毒性の第二選択以後の治療であるリツキシマブを用いる治療にも抵抗性であるEBV-LPDの治療に有効であることを実証する。
【0088】
(5.1. 実施例)
先行する全身化学療法の後の、リンパ腫の形態のEBV-LPDを治療するために、11名の固形臓器移植(SOT)レシピエントが、メモリアル・スローン・ケタリング癌センター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)に委託された。全員が過去にリツキシマブ及び少なくとも2つの先行する併用化学療法レジメンを受けていた。9名が併用化学療法レジメンを受けている間、不完全奏効(3名)又は疾患増悪(6名)に該当し、2名が先行する併用化学療法後の再発期間に該当した。このように、11名の患者の全てが該EBV-LPDの併用化学療法に失敗していた。
【0089】
可能である場合、リンパ腫を、起源について評価した(SOTドナー対宿主)。それが可能でない場合、宿主及び固形臓器ドナーの両方に対しHLA対立遺伝子によって拘束されている系統を知るために、SOTドナー組織の高分解能HLA検査を、少なくとも1つの対立遺伝子について実施した。
【0090】
T細胞株を、高分解能で8つのHLA対立遺伝子(A、B、C、及びDR)のうち少なくとも2つが患者と共通している、同種異系T細胞株(それぞれがEBV特異的T細胞を含む)のバンクから、選択した。該T細胞株は、EBVの認識について、リンパ腫に発現することが知られる対立遺伝子を通じて、又は宿主及び固形臓器ドナーの組織の両方によって発現される対立遺伝子によって、HLA拘束されていた。
【0091】
患者に2×106 T細胞/kg/投与を週に3回与えた。患者がこのT細胞療法に関連する毒性を有さない(NCI CTCAE 4.0に従って等級づけたとき、悪性度3~5の重度の有害事象がない)場合、治療の開始から5週間後、患者に追加のサイクルの細胞を与えることができる。後続のサイクルとして、患者に異なる同種異系T細胞株に由来する細胞を与えることができる。これらのT細胞株は、異なるHLA対立遺伝子によって拘束されていることが好ましい。
【0092】
一部の患者には追加のサイクルのT細胞を与え、かつ一部の患者には追加のサイクルとして、異なるHLA対立遺伝子によって拘束された、少なくとも1つの異なる同種異系T細胞株由来のT細胞を与えた。
【0093】
11名中7名の患者が治療に反応した。反応した1名には、低悪性度疾患の再発のために、引き続き全身化学療法を施した。この全身化学療法は、彼女がそれに完全ではないが反応し、続くT細胞療法の後に再度部分寛解となったものとした。反応した7名のうち2名には、続いてリツキシマブ治療及びEBV特異的T細胞による再治療を施した。完全奏効を有した1名の患者は、細胞療法の前から起こっていた移植臓器の不具合のために死亡した。3名の患者は治療の開始時に急速に増悪し、T細胞療法の第1サイクルの間も増悪した高い疾患負荷を示した。これらの患者には続くサイクルのT細胞療法は施さなかった。
【0094】
さらに、EBV-LPDのCNS(中枢神経系)病変を有し、リツキシマブ及び放射線療法単独に対し不完全奏効を有した1名の患者を治療した。この患者はリツキシマブを継続し、EBV特異的T細胞による治療の第1サイクルと同時に放射線を開始した。脳内に存在するEBV-LPD(すなわち、脳病変を有する)は化学療法及び放射線療法による治療が特に困難であるが、それは、多くの化学療法剤が血液脳関門を横断することができず、かつ放射線療法は通常脳への損傷をもたらすためである;にもかかわらず、脳病変を有する患者について部分寛解が達成された。その第1サイクルのT細胞療法はNE(評価不能)と等級づけられ、最終的に彼はわずかな反応を有した。EBV-LPDについての唯一の治療としてEBV特異的T細胞を受けながら、続くサイクルの後、彼はほぼ消散を有するところまでになった。
【0095】
このT細胞治療は、低い毒性を示した。
【0096】
患者の比較的インタクトな免疫系(造血幹細胞移植(HSCT)のレシピエントである患者と比較して)が、投与された同種異系T細胞を拒絶するために、投与された該同種異系T細胞の集団は通常短期間(一般に、HSCTのレシピエントにおけるよりも短い)しか存続することができないことを考慮すれば、本明細書に記載された方法が、固形臓器移植のレシピエントとなった患者におけるEBV-LPDを効果的に治療できるという事実は、特に注目に値する。
【0097】
患者に施した治療レジメンのいくつかを以下の表1に列記する。
【0098】
表1. 治療レジメン
【表1】
【0099】
(6. 引用による組み込み)
様々な刊行物が本明細書に引用されており、それらの開示はここでその全体を引用により本明細書中に組み込むものとする。
本件出願は、以下の構成の発明を提供する。
(構成1)
ヒト患者におけるEBV-LPD(エプスタイン-バーウイルス関連リンパ増殖性障害)を治療する方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDの治療のための併用化学療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子によって拘束されている、前記方法。
(構成2)
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための前記併用化学療法に抵抗性である、構成1記載の方法。
(構成3)
前記ヒト患者が、前記併用化学療法の不耐性のために該併用化学療法を中止している、構成1記載の方法。
(構成4)
前記併用化学療法が、シクロホスファミド及びプレドニゾンを用いる治療を含む、構成1~3のいずれか1項記載の方法。
(構成5)
前記併用化学療法が、低用量のシクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンを含む、構成4記載の方法。
(構成6)
前記併用化学療法が、シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンを用いる治療を含む、構成1~3のいずれか1項記載の方法。
(構成7)
前記併用化学療法が、低用量のシクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによるレジメンを含む、構成6記載の方法。
(構成8)
前記ヒト患者が、前記EBV-LPDを治療するための複数の異なる併用化学療法に失敗している、構成1~3のいずれか1項記載の方法。
(構成9)
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための前記複数の異なる併用化学療法に抵抗性である、構成8記載の方法。
(構成10)
前記ヒト患者が、前記複数の異なる併用化学療法の不耐性のために該複数の異なる併用化学療法を中止している、構成8記載の方法。
(構成11)
前記複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つが、シクロホスファミド及びプレドニゾンを用いる治療を含む、構成8~10のいずれか1項記載の方法。
(構成12)
前記複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つが、低用量のシクロホスファミド及びプレドニゾンによるレジメンを含む、構成11記載の方法。
(構成13)
前記複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つが、シクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンを用いる治療を含む、構成8~10のいずれか1項記載の方法。
(構成14)
前記複数の異なる併用化学療法の少なくとも1つが、低用量のシクロホスファミド及びメチルプレドニゾロンによるレジメンを含む、構成13記載の方法。
(構成15)
前記ヒト患者が、前記EBV-LPDを治療するための放射線療法にも失敗している、構成1~14のいずれか1項記載の方法。
(構成16)
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための前記放射線療法に抵抗性である、構成15記載の方法。
(構成17)
前記ヒト患者が、前記放射線療法の不耐性のために該放射線療法を中止している、構成15記載の方法。
(構成18)
ヒト患者におけるEBV-LPDを治療する方法であって、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む同種異系T細胞の集団を投与することを含み;該ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための放射線療法に失敗しており、かつ該同種異系T細胞の集団が、該EBV-LPDの細胞と共通のHLA対立遺伝子によって拘束されている、前記方法。
(構成19)
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための前記放射線療法に抵抗性である、構成18記載の方法。
(構成20)
前記ヒト患者が、前記放射線療法の不耐性のために該放射線療法を中止している、構成18記載の方法。
(構成21)
前記EBV-LPDがB細胞系譜の細胞の障害であり、前記ヒト患者が該EBV-LPDを治療するための抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療にも失敗している、構成1~20のいずれか1項記載の方法。
(構成22)
前記EBV-LPDが、該EBV-LPDを治療するための前記抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療に抵抗性である、構成21記載の方法。
(構成23)
前記ヒト患者が、前記抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療の不耐性のために該抗CD20モノクローナル抗体を用いる治療を中止している、構成21記載の方法。
(構成24)
前記抗CD20モノクローナル抗体が、リツキシマブである、構成21~23のいずれか1項記載の方法。
(構成25)
前記EBV-LPDが、EBV陽性リンパ腫である、構成1~24のいずれか1項記載の方法。
(構成26)
前記EBV-LPDが、前記ヒト患者の中枢神経系に存在する、構成1~25のいずれか1項記載の方法。
(構成27)
前記EBV-LPDが、前記ヒト患者の脳内に存在する、構成26記載の方法。
(構成28)
前記投与する工程に先立って、高分解能型判定による前記EBV-LPDの細胞の少なくとも1つのHLA対立遺伝子を確定する工程をさらに含む、構成1~27のいずれか1項記載の方法。
(構成29)
前記同種異系T細胞の集団が、8つのHLA対立遺伝子のうちの少なくとも2つが前記EBV-LPDの細胞と共通する、構成1~28のいずれか1項記載の方法。
(構成30)
前記8つのHLA対立遺伝子が、2つのHLA-A対立遺伝子、2つのHLA-B対立遺伝子、2つのHLA-C対立遺伝子、及び2つのHLA-DR対立遺伝子である、構成29記載の方法。
(構成31)
前記EBV特異的T細胞が、EBNA1、EBNA2、EBNA3A、EBNA3B、EBNA3C、LMP1、又はLMP2であるEBV抗原を認識する、構成1~30のいずれか1項記載の方法。
(構成32)
前記ヒト患者が、移植ドナーからの固形臓器移植のレシピエントである、構成1~31のいずれか1項記載の方法。
(構成33)
前記固形臓器移植が腎臓移植、肝臓移植、心臓移植、腸移植、膵臓移植、肺移植、又はこれらの組合わせである、構成32記載の方法。
(構成34)
前記固形臓器移植が腎臓移植である、構成32記載の方法。
(構成35)
前記固形臓器移植が肝臓移植である、構成32記載の方法。
(構成36)
前記ヒト患者が、移植ドナーからの造血幹細胞移植のレシピエントである、構成1~31のいずれか1項記載の方法。
(構成37)
前記造血幹細胞移植が、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、又は臍帯血移植である、構成36記載の方法。
(構成38)
前記同種異系T細胞の集団が前記移植ドナー以外のドナーに由来する、構成32~37のいずれか1項記載の方法。
(構成39)
前記投与する工程に先立って、インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程をさらに含む、構成1~38のいずれか1項記載の方法。
(構成40)
前記インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程が、1以上のEBV抗原に同種異系T細胞を感作させることを含む、構成39記載の方法。
(構成41)
前記インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程が、EBV-形質転換B細胞を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む、構成40記載の方法。
(構成42)
前記インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程が、EBV株B95.8-形質転換B細胞を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む、構成40記載の方法。
(構成43)
前記インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程が、樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む、構成40記載の方法。
(構成44)
前記樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程が、該樹状細胞、該サイトカインで活性化された単球、又は該末梢血単核球を1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドで負荷することを含む、構成43記載の方法。
(構成45)
前記樹状細胞、サイトカインで活性化された単球、又は末梢血単核球を用いて同種異系T細胞を感作させる工程が、該樹状細胞、該サイトカインで活性化された単球、又は該末梢血単核球を1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールで負荷することを含む、構成43記載の方法。
(構成46)
前記インビトロで前記同種異系T細胞の集団を作製する工程が、人工抗原提示細胞(AAPC)を用いて同種異系T細胞を感作させることを含む、構成40記載の方法。
(構成47)
前記AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程が、該AAPCを1以上のEBV抗原由来の少なくとも1つの免疫原性ペプチドで負荷することを含む、構成46記載の方法。
(構成48)
前記AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程が、該AAPCを1以上のEBV抗原由来の重なりのあるペプチドのプールで負荷することを含む、構成46記載の方法。
(構成49)
前記AAPCを用いて同種異系T細胞を感作させる工程が、該AAPCを、少なくとも1つの免疫原性EBVペプチド又はタンパク質を該AAPCにおいて発現するように操作することを含む、構成46記載の方法。
(構成50)
感作させた後、前記同種異系T細胞を凍結保存することをさらに含む、構成40~49のいずれか1項記載の方法。
(構成51)
前記投与する工程の前に、凍結保存された、EBV抗原で感作された同種異系T細胞を解凍する工程、及びインビトロで該同種異系T細胞を増殖させて、前記同種異系T細胞の集団を生産する工程をさらに含む、構成1~50のいずれか1項記載の方法。
(構成52)
前記投与する工程の前に、凍結保存された形態の前記同種異系T細胞の集団を解凍する工程をさらに含む、構成1~51のいずれか1項記載の方法。
(構成53)
前記同種異系T細胞の集団が、T細胞株に由来する、構成1~49のいずれか1項記載の方法。
(構成54)
前記投与する工程の前に、複数の凍結保存されたT細胞株のバンクから、前記T細胞株を選択する工程をさらに含む、構成53記載の方法。
(構成55)
前記投与する工程の前に、凍結保存された形態の前記T細胞株を解凍する工程をさらに含む、構成53又は54記載の方法。
(構成56)
前記投与する工程の前に、インビトロで前記T細胞株を増殖させる工程をさらに含む、構成53~55のいずれか1項記載の方法。
(構成57)
前記投与が、前記同種異系T細胞の集団の輸液によるものである、構成1~56のいずれか1項記載の方法。
(構成58)
前記輸液がボーラス静脈内輸液である、構成57記載の方法。
(構成59)
前記投与が、前記ヒト患者に、前記同種異系T細胞の集団のT細胞を、週1回分の用量当たり、1 kg当たり少なくとも約1×10 5 個投与することを含む、構成1~58のいずれか1項記載の方法。
(構成60)
前記投与が、前記ヒト患者に、前記同種異系T細胞の集団のT細胞を、週1回分の用量当たり、1 kg当たり約1×10 6 ~約2×10 6 個投与することを含む、構成1~58のいずれか1項記載の方法。
(構成61)
前記投与が、前記ヒト患者に、前記同種異系T細胞の集団のT細胞を、週1回分の用量当たり、1 kg当たり約1×10 6 個投与することを含む、構成1~58のいずれか1項記載の方法。
(構成62)
前記投与が、前記ヒト患者に、前記同種異系T細胞の集団のT細胞を、週1回分の用量当たり、1 kg当たり約2×10 6 個投与することを含む、構成1~58のいずれか1項記載の方法。
(構成63)
前記投与が、前記ヒト患者に、少なくとも2回分の用量の前記同種異系T細胞の集団を投与することを含む、構成1~62のいずれか1項記載の方法。
(構成64)
前記投与が、前記ヒト患者に、2、3、4、5、又は6回分の前記同種異系T細胞の集団を投与することを含む、構成63記載の方法。
(構成65)
前記投与が、週1回分の用量を3週間連続させる第1のサイクルで前記同種異系T細胞の集団を投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、続いて週1回分の用量を3週間連続させる第2のサイクルで該同種異系T細胞の集団を投与することを含む、構成1~62のいずれか1項記載の方法。
(構成66)
前記投与が、週1回分の用量を3週間連続させる2、3、4、5、又は6回のサイクルで前記同種異系T細胞の集団を投与することを含み、各サイクルは該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間により隔てられている、構成1~62のいずれか1項記載の方法。
(構成67)
前記休薬期間が約3週間である、構成65又は66記載の方法。
(構成68)
前記ヒト患者に前記同種異系T細胞の集団を投与した後に、該ヒト患者にEBV特異的T細胞を含む第2の同種異系T細胞の集団を投与することをさらに含み、ここで該第2の同種異系T細胞の集団は、前記EBV-LPDの細胞と共通の異なるHLA対立遺伝子によって拘束されている、構成1~67のいずれか1項記載の方法。
(構成69)
前記投与が、週1回分の用量を3週間連続させる第1のサイクルで前記同種異系T細胞の集団を投与し、続いて該同種異系T細胞の集団の投与を行わない休薬期間を設け、続いて週1回分の用量を3週間連続させる第2のサイクルで前記第2の同種異系T細胞の集団を投与することを含む、構成68記載の方法。
(構成70)
前記休薬期間が約3週間である、構成69記載の方法。
(構成71)
前記ヒト患者が、前記同種異系T細胞の集団を投与した後、前記第2の同種異系T細胞の集団の投与の前に、奏効を有さず、不完全奏効を有し、又は最適を下回る奏効を有する、構成68~70のいずれか1項記載の方法。